ゲスト
(ka0000)
【聖呪】ワルサー総帥、悩む
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/14 19:00
- 完成日
- 2015/08/20 17:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンターたちの活躍もあり、ルサスール領北部の街オーレフェルトの防衛には成功した。
しかし、ゴブリンの脅威が取り除かれたわけではない。
いくつかの情報から、オーレフェルト侵攻に失敗した敵部隊が、より北にある村の方角へ向かったと判断されたのだ。近隣の村の被害も報告されており、予断は許される状態ではない。
もちろん、領主カフェ・W・ルサスールも手をつくしていた。
自身がもつ部隊やハンターたちの手を借りて、村々の救出にあたっていたのである。課題はそれだけではない。他領との軋轢を調整、支援を要請もしくは軍事的協力を求める等の外交。そして、領内で発生している村を捨てた人々の受け入れ先も必要である。
オーレフェルトよりやや南、されど危険地帯にほど近い、微妙な位置にその村はあった。
名はとくにない。村長の名前が村名代わりになるような、小さな村である。この法則でいうならば、今はガレット村であろうか。
「そんなこと言っている場合ではありませんわ!」
近隣の村長数人が横並びなる前でサチコは声を荒らげていた。
ガレット以外の村長はやや申し訳無さそうにサチコをみる。だが積極的に発言をするわけではない。
「先祖代々の土地に、領をおっ立てたのはそっちだ。命令を聞く義務はない。俺らは村から離れない、以上だ」
「ですから、その土地に危機が迫ってますのよ!?」
「この土地が蛮族の手に沈むなら、俺達も死ぬときなんだ」
「絶対、そんなこと私は許しませんわ!」
「お前に許してもらう必要なんてねぇよ! これは、俺達の意志だ!」
話し合いは、もはや怒号の掛け合いになってしまっていた。
二人の間を取り持ちつつ、柔和そうな男が間に立つ。
「まぁ、俺達も自殺しようってわけじゃないんだ。女子供は避難させてやってくれ」
「……」
この意見にはガレットも反対を示さない。
「加えて避難を申し出る村民がいれば、受け入れてもらって欲しい」
「……もちろんですわ」
「ただ、俺達は避難できないといってるだけなんだ」
「だから、どうしてですの!」
「俺達には村がどうなったのかを見守る義務がある。じゃねぇと、精霊様に顔向け出来ねぇ」
村長たちは各々の表情で頷く。
何を言っても無駄だという意志の強さが見て取れた。
「……また、来ますわ」
荒ぶる呼吸を整えて、サチコは告げる。
こうした話し合いをするというのも初めての経験だった。できれば、経験することなく平穏であるのが一番なのだが、そうもいっていられない。
ゴブリンが周辺で目撃されたという情報もある。
サチコ一人の力では、たとえ覚醒したとしても迎撃は難しい。村でも数匹の通常のゴブリンであれば、対応できるかもしれない。けれど、今は状況が違う。
今回の一件、ゴブリンの危険性をサチコは嫌というほど知らされていた。
「とりあえず、警戒に当たりませんと……」
●
「カフェ様。サチコ様をなぜガレット村長の説得に向かわせたのですか」
サチコの従者、タロの呼びかけにカフェは答えない。
他領との手紙に目を通しながら、意見を聞き入る。
「あの方の偏屈っぷりはご存知でしょう。カフェ様が直々に出向いて、精霊へ感謝を捧げてやっと話が通るような人ですよ」
「精霊信仰にあつい、昔気質の男たちが多いからな」
カフェが視線を上げた。
タロは重ねて、ご存知ならなぜ、と問いかける。
「サチコは今、自身の力で活動をしようとしている。ルサスールの家名はついてまわるだろうが、それはこの領内でも通用するものではない」
ましてや、領主ではなく娘。ワルサー総帥と名乗っても相手にしてくれるかはわからない。
だからこそ、とカフェは続ける。
「サチコのやり方というものを、自分で見つけていかなければならないのだ。この先、何があったとしても、私やルサスール家という看板に頼らなくてよいようにな」
「花嫁修業は、もういいのですか?」
「事情が変わった。情勢も変わった。花嫁として頼りない貴族に嫁ぐよりは、どのような状況であっても生きていける胆力をつけてもらいたい……私としては心配ばかりが増えるがな」
複雑な心境を察してタロは無言で頷く。
「では、私もサチコ様の下へ向かいます」
「あぁ、頼む。テコでも動かないようなら、私が時間の隙を見て説得に行くとしよう」
「そうならないよう、サチコ様には力を尽くしてもらいますよ」
カフェの顔には疲労の色がありありと残されていた。
襲撃の後始末をはじめ、やらねばならぬことが多いのだろう。
「サチコ様に多くを学んでいただかなければ……」
タロは改めて決意を固めるのだった。
●
「おじいちゃんは来ないの?」
避難が近づいたある日、サチコはそう親人尋ねる子どもを見た。
「……おじいちゃんはね、大切な役目があるんだ。だから来ないんだよ」
諭すような口調でいう男には見覚えがあった。ガレットの息子だ。
だとすれば、あの娘さんは孫か。
「後からくる?」
息子は困ったような笑みを浮かばえた後、きっと来るさと答えていた。
サチコはその二人に会釈すると、泊まらせてもらっている民家へと還っていった。
「なんとかしませんと」
ぐっと息を呑んでそう呟くのだった。
ハンターたちの活躍もあり、ルサスール領北部の街オーレフェルトの防衛には成功した。
しかし、ゴブリンの脅威が取り除かれたわけではない。
いくつかの情報から、オーレフェルト侵攻に失敗した敵部隊が、より北にある村の方角へ向かったと判断されたのだ。近隣の村の被害も報告されており、予断は許される状態ではない。
もちろん、領主カフェ・W・ルサスールも手をつくしていた。
自身がもつ部隊やハンターたちの手を借りて、村々の救出にあたっていたのである。課題はそれだけではない。他領との軋轢を調整、支援を要請もしくは軍事的協力を求める等の外交。そして、領内で発生している村を捨てた人々の受け入れ先も必要である。
オーレフェルトよりやや南、されど危険地帯にほど近い、微妙な位置にその村はあった。
名はとくにない。村長の名前が村名代わりになるような、小さな村である。この法則でいうならば、今はガレット村であろうか。
「そんなこと言っている場合ではありませんわ!」
近隣の村長数人が横並びなる前でサチコは声を荒らげていた。
ガレット以外の村長はやや申し訳無さそうにサチコをみる。だが積極的に発言をするわけではない。
「先祖代々の土地に、領をおっ立てたのはそっちだ。命令を聞く義務はない。俺らは村から離れない、以上だ」
「ですから、その土地に危機が迫ってますのよ!?」
「この土地が蛮族の手に沈むなら、俺達も死ぬときなんだ」
「絶対、そんなこと私は許しませんわ!」
「お前に許してもらう必要なんてねぇよ! これは、俺達の意志だ!」
話し合いは、もはや怒号の掛け合いになってしまっていた。
二人の間を取り持ちつつ、柔和そうな男が間に立つ。
「まぁ、俺達も自殺しようってわけじゃないんだ。女子供は避難させてやってくれ」
「……」
この意見にはガレットも反対を示さない。
「加えて避難を申し出る村民がいれば、受け入れてもらって欲しい」
「……もちろんですわ」
「ただ、俺達は避難できないといってるだけなんだ」
「だから、どうしてですの!」
「俺達には村がどうなったのかを見守る義務がある。じゃねぇと、精霊様に顔向け出来ねぇ」
村長たちは各々の表情で頷く。
何を言っても無駄だという意志の強さが見て取れた。
「……また、来ますわ」
荒ぶる呼吸を整えて、サチコは告げる。
こうした話し合いをするというのも初めての経験だった。できれば、経験することなく平穏であるのが一番なのだが、そうもいっていられない。
ゴブリンが周辺で目撃されたという情報もある。
サチコ一人の力では、たとえ覚醒したとしても迎撃は難しい。村でも数匹の通常のゴブリンであれば、対応できるかもしれない。けれど、今は状況が違う。
今回の一件、ゴブリンの危険性をサチコは嫌というほど知らされていた。
「とりあえず、警戒に当たりませんと……」
●
「カフェ様。サチコ様をなぜガレット村長の説得に向かわせたのですか」
サチコの従者、タロの呼びかけにカフェは答えない。
他領との手紙に目を通しながら、意見を聞き入る。
「あの方の偏屈っぷりはご存知でしょう。カフェ様が直々に出向いて、精霊へ感謝を捧げてやっと話が通るような人ですよ」
「精霊信仰にあつい、昔気質の男たちが多いからな」
カフェが視線を上げた。
タロは重ねて、ご存知ならなぜ、と問いかける。
「サチコは今、自身の力で活動をしようとしている。ルサスールの家名はついてまわるだろうが、それはこの領内でも通用するものではない」
ましてや、領主ではなく娘。ワルサー総帥と名乗っても相手にしてくれるかはわからない。
だからこそ、とカフェは続ける。
「サチコのやり方というものを、自分で見つけていかなければならないのだ。この先、何があったとしても、私やルサスール家という看板に頼らなくてよいようにな」
「花嫁修業は、もういいのですか?」
「事情が変わった。情勢も変わった。花嫁として頼りない貴族に嫁ぐよりは、どのような状況であっても生きていける胆力をつけてもらいたい……私としては心配ばかりが増えるがな」
複雑な心境を察してタロは無言で頷く。
「では、私もサチコ様の下へ向かいます」
「あぁ、頼む。テコでも動かないようなら、私が時間の隙を見て説得に行くとしよう」
「そうならないよう、サチコ様には力を尽くしてもらいますよ」
カフェの顔には疲労の色がありありと残されていた。
襲撃の後始末をはじめ、やらねばならぬことが多いのだろう。
「サチコ様に多くを学んでいただかなければ……」
タロは改めて決意を固めるのだった。
●
「おじいちゃんは来ないの?」
避難が近づいたある日、サチコはそう親人尋ねる子どもを見た。
「……おじいちゃんはね、大切な役目があるんだ。だから来ないんだよ」
諭すような口調でいう男には見覚えがあった。ガレットの息子だ。
だとすれば、あの娘さんは孫か。
「後からくる?」
息子は困ったような笑みを浮かばえた後、きっと来るさと答えていた。
サチコはその二人に会釈すると、泊まらせてもらっている民家へと還っていった。
「なんとかしませんと」
ぐっと息を呑んでそう呟くのだった。
リプレイ本文
●
王国北部ルサスール領、その中でも北部に位置する村をサチコたちは目指していた。
時刻は夕暮れ、暁の空の下に素朴な軒が見えてきた。
村の姿を前に、先頭を歩くサチコの表情は硬い。
「ワルサーさん」
不意に呼びかけたのは、シルフェ・アルタイル(ka0143)。サチコの眉間を指で撫でて、ゆっくりと告げる。
「シワができてるよ。ワルサーさんが優しいのはシルもみんな知ってる。だから落ち着いて、大丈夫だから」
交渉が始まる前から、不安を抱えていてはいい結果は生まれない。
今度はサチコだけではない、ハンターたちも協力してくれる。
「いざとなったら、村長を倒して、強制的に運び出しましょう!」
「それは、さすがにダメだろ」
唐突な最上 風(ka0891)の提案に、ヴァイス(ka0364)が苦笑する。
サチコは穏便に、穏便にお願いしますわ、と繰り返す。
「まぁ、覚醒者っていっても、一人で出来ることは限りがあるし、今回のように全く役に立たないこともある。だから、得た力に過信して周りを悲しませるなよ……ってこんなこともう皆に言われてるか」
「えぇ、ですから、よろしくおねがいしますわね」
緊張のほぐれた顔でサチコはヴァイスに返していた。
「穏便に、か」
やや後方で呟くのは、カイン・マッコール(ka5336)だ。
目撃情報のあるゴブリンには、そうもいかないだろうな。と、グレートソードの柄をじっと見る。
ここにきてのゴブリンの動きは、東征がらみで北方が手薄になっているのも要因にあるのだろうか。そんなことを思いながら周囲を見渡す。地形はなだらかな丘、威力偵察がてらの襲撃はしやすいだろう。
カインの同列では、エルバッハ・リオン(ka2434)が静かにサチコの様子を眺めていた。
「サチコさんも覚醒しましたか。さて、そのことが彼女にとって幸いになるかは分かりませんが。頑張っている彼女は応援したくなりますね」
ふとつぶやくが、誰にも聞こえていない程度の声量につき静かなのだ。
先に、
「お会いするのも一月ぶりくらいになりますね、ワルサー総帥。今回もよろしくお願いします」
と挨拶を済ませたエルは会話を後ろから眺めるにとどめていた。
彼女もゴブリンを警戒して完全武装のため、威圧感があるのだ。しかも、戦馬に乗っている。
今のところ、周囲に敵影はない。
「いやー、サチコさま、大苦戦だな」
サチコから少し離れ、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が様子を眺めていた。
「これはサチコにとって人の心を掴めるかの試金石だね」
「覚醒したからって男でもできるわけでもないし、立場があっても全幅の信頼を得られるわけじゃない」
天竜寺 舞(ka0377)と龍崎・カズマ(ka0178)も、歩調を合わせて言葉をかわす。
「信頼に足る行動を積み重ねないと……ってことを理解させたいんだろうな」
「うん。でも、それ以上にガレットさんのお孫さんを悲しませたくない。なんとか成功させたいね」
「誰が欠けても、それは後悔になると思うしな」
「サチコさまと村長たち、双方納得の行く交渉にしたいぜ」
そう話している間に、ガレットの村へ到着した。
●
村人たちは暖かく迎えてくれたが、当然のようにガレットは仏頂面だった。
「今からじゃ遅くなる。話し合いは、明日の昼過ぎにする」
事務的な連絡だけを告げていこうとした。それを風が呼び止めた。
「村長さん、村長さん。精霊様の廟へ案内してもらえますか」
「それは……かまわないが」
風が述べたのは、ガレットがこだわっていた精霊を祀る場所だ。
サチコもお願いします、と頭を下げる。
連れて来られたのは、村の中心部にある小さな小屋だった。
扉を開ければ簡易な祠になっている。
「例のもの、持って来てるな?」
カズマの問いかけにサチコは頷く。薄紫色の布の包みを開き、木彫の花を取り出す。
精霊が愛したという、ルサスール領に咲く花がモチーフだ。
風とカズマが調べ、ここに来るまでの間にサチコに伝えていた。
「失礼しますわ」
サチコは前に出ると祠に花を捧げる。そして、静かに祈った。
「風たちも続きましょう」
「おう」
簡易な儀式だが、ガレットは神妙な面持ちでサチコたちを見据える。
「明日はよろしくお願いしますわ」とサチコはしっかり告げるのだった。
宿に戻ってきたサチコたちは、明日に備えて話し合いを始める。
まずはカズマが収集した精霊に纏わる話を、全員に伝える。
「……以上だ。大元はルサスール家にも伝わる銀狐。あとは祖霊だ」
話してもらえたのは、よくある昔話だった。
村の成り立ちとしては、加護を得たものが村を開拓したというもの。
「……」
祖霊、それに村長夫人や近親者も土地に多く眠っていることだろう。
離れたくはねぇだろうなあ、とカズマは窓の外を見る。
「精霊の話なんだけど」
続いて手を上げたのは、舞だった。
サチコがお祈りに出ている間、村人に精霊をどう思っているのか聞きまわっていた。
「守護神というか守護霊というか」
「見守ってくれる存在、だな」
カズマの言葉に、舞は頷く。
「あたしは精霊様が、ガレットさん達が村を見守って死ぬことを喜ぶような存在とは思えない。ガレットさんたちがしていることは、傍から見たら信念を貫く行為かもしれない。だけど、それは、自分の身内を悲しませてまでするようなこととも思えない」
一呼吸を置いて、舞は続ける。
「それを喜ぶような精霊様なら、そんなのクソくらえだよ。でも、そうじゃないはずだよ。精霊様は、みんなの幸せを願う存在のはずだよ。だから、ガレットさん達のしていることは、精霊様の意に反することだと私は思う」
「私もそう思いますわ」
力強くサチコも頷く。自分に力を授けた精霊が、同じかはわからない。
だが、同じく精霊であれば民を思う気持ちは一緒のはずだ。
「村長も八割がた、理屈はわかってるだろうぜ」
パックで入れた紅茶を並べ、ヴォーイがいう。
議論が切り替わるタイミングで、一服。サチコも一口すする。
「家族は避難させるつもりだし、村が破壊されたら精霊との絆が途絶えると思っているのが問題っぽい」
「そうみたいですねー。意地になっているといってる人もいました―」
しれっと聞きまわっていたらしい、風も意見を出す。
「村長らがいなくなったらどうなるよ。『再建しよう!』って励ませるの、村長たちしかいないじゃん」
「私もそう思います」
同調したのはエルだ。
「生きていればこそ、村の復興もこれからの維持・発展もできるはずですから」
「えぇ、私も……そう思いますわ」
「ワルサーさんは、どうして避難して欲しいかガレットさんにきちんと伝えた?」
シルフェがサチコを真っ直ぐに見つめて、問う。
サチコは押し黙る。前回の交渉で、自分はちゃんと伝えられただろうか。
「それなら、今度はきちんと伝えないとね」
シルフェの言葉に、サチコは力強く頷く。
「それと、さ」
再度、舞がサチコに語りかける。
「一番大事なのは総帥としてでも、ルサスール家の令嬢としてでもない。サチコとしての意見を素直に届けることだと思うよ」
「私の、意見」
視線を紅茶に落とし、噛みしめるようにつぶやく。
少しの沈黙、そして、
「エルさん、ヴァイスさん。僕たちはそろそろ」
カインが告げ、エルとヴァイスが立ち上がった。
「俺たちは哨戒の準備があるから、あとは頼んだぜ」
ヴァイスたちが出て行ったあとも、少しだけ話を詰める。
深夜になる前に、明日に備えて部屋の明かりは消えるのだった。
●
朝露が滴り落ちる、涼やかな朝。
村長宅へ行く準備中に魔導短伝話から声が聞こえた。
「サチコさん、サチコさん。事件です、ゴブリンですよ」
伝話を受けたのは、風だ。
ヴァイスからの通信で、哨戒任務中にゴブリンを発見したという。
「サチコさま、出番です」
ヴォーイに促されるがまま、サチコは外にでる。
「無理はしないでよ?」
怪我をしている舞にいわれ、サチコは小さく頷いた。
場所は村から少し外れた場所にある、丘である。
「予測通りだったな」
村の北側に位置する丘は、なだらかだが、岩が露出している部分が多い。
隠れるには十分だと、ヴァイスは予め調べてた。
合図を送り、エルとカインの動きを待つ。
「誰かの入れ知恵か、それとも学習したかは知らないけど威力偵察を覚えたか、どちらにしろゴブリンは殺す」
大剣を握りしめ、カインは低く呟く。
一分後、タイミングを合わせて奇襲をかける。睨めつけるようにゴブリンの様子を伺う。
襲撃の準備か、起床して武装を整えているのか。
油断しているようにも思えた。
「……ゴブリンソルジャーがいるな」
斧を持ち、どっしりと構える者が一匹いた。
時が来る。と、同時にカインはまっすぐゴブリンソルジャーへ向けてかけ出した。
双眼鏡でヴァイスの合図を確認したエルも迎撃体勢を整えていた。
ちらりと見かけた怪しい影はやはりゴブリンだった。
「さて、いきましょうか」
タイミングよく軍馬を駆る。
群れの中央が射程に入った所で、スタッフをかざした。
先手必勝。火球が一つ、宙を行く。
「さて、どれぐらい倒せるのか。いささか気になりますね」
飛び込もうとしたヴァイスの目の前で、炎弾が弾ける。
一匹のゴブリンが倒れる中、ヴァイスは再び動き出す。
「まったく、派手にやるぜ」
そういうヴァイスも豪快に美しい意匠の槍で敵を狙う。
移動した力量をそのままに、目の前に屯するゴブリンの群れへと刺突を入れる。
「一気に片を付ける!」
今度は大きく振るって、迎撃体勢のゴブリンを薙ぐ。
単なるゴブリンが蹴散らされる横を、カインが行く。
切っ先が向けられたのは、ゴブリンソルジャーだ。混乱する部隊になおも指示を出しつつ、斧を振るいあげていた。
「邪魔だ」
ゴブリンをAを描くように切り払い、袈裟斬りに伏す。
エルによる火傷とヴァイスに削られた体力では耐えられようもない。
「……っ」
ゴブリンソルジャーを前にカインはあえて大剣の刃を掴んだ。
痛みに耐え、柄の部分で大鎚のごとくゴブリンソルジャーを打ち据える。
「……ア?」
ゴブリンソルジャーはその柄を軽く斧でいなすと、カインに一撃を見舞った。
ぐらりと揺れる視線の先で、風刃がゴブリンソルジャーを襲った。
「これで、最後……だっ!」
ゴブリンソルジャーは二撃目を放つことなく、踏み込んだヴァイスに屠られた。
力が抜け、その肢体がだらしなく地面に転がる。
「サチコも来たみたいだ」
ヴォーイに連れられ丘の下に、サチコが立っていた。
カインが偵察部隊について、報告する。
ソルジャーが威力偵察に使われていたことから、上は相当の実力者であること。
続く偵察部隊に警戒心を抱かせるため、現状をそのままにしたい旨を述べる。
「わかりましたわ」とサチコは静かに了承した。
●
戻った頃。慌ただしくサチコが出て行ったことを知り、ガレットが何事かと訪ねていた。
サチコは滞り無くゴブリンの偵察について、カインの予測を混じえて語る。
「……そうか。だが」
気持ちは変わらない、と続けようとしたガレットを遮るようにヴァイスが割って入った。
「……危機から逃れ生き残った奴は、もう村にも精霊にも顔向けはできないのか?」
「む」
「気を悪くしたなら、申し訳ない。俺はまた哨戒に戻る」
ヴァイスの奥底にある経験が、不意に問を呼び起こしていた。
我に返り、一礼するとヴァイスは去っていく。
「誰にも犠牲にはなってほしくない。僕も同じ気持だ」
カインも静かに告げて去っていく。
誰も同じ道を辿らせたくなどない。この復讐という無限地獄を。
二人に続き、エルも哨戒へと戻っていった。
「いただきます、しましょう」
昼過ぎにもたれた話し合いでは、第一声をシルフェが飾った。
気持ちが落ち着くように用意したハーブティやお菓子を振る舞う。
気の落ち着きと、ともに沈黙も降りてきた。
「……えと」
沈黙に耐えかね、シルフェが続けた。
「ガレットさんはここが大好きなんだね。だから、ここにいたいのかなってシルは思うの。でも、ガレットさんが大好きな人はガレットさんがいなくなったら悲しくないのかな? ガレットさんはここにいて大好きな人ともう会えないのと、新しい所でガレットさんが大好きな人と大変かもしれないけど笑顔で暮らすのどっちがいい?」
「私は皆さんに笑顔でいてもらいたいです」
シルフェの言葉を受けて、サチコがいう。
「舞さんやカズマさんが村人たちに聞いた精霊様は、この地を愛する精霊様です。そして、民を愛し守ろうとしてくれる、聖霊様です。私はそんな精霊様にも笑顔でいて欲しい。そのためには」
誰にも犠牲になってほしくない、とサチコはまっすぐに告げた。
ガレットが言葉に詰まる。
シルフェも重ねるようにガレットに問う。
「ガレットさんはどうしてここにいたいのかワルサ―さんに説明した? お互いの考えが分かんないと何にもかわらないよ」
「わしは……」
おずおずとガレットは語る。それは、紛うことなく正直な気持ちだった。
「精霊様との絆、そして、村が途絶えるのが怖いのだ。できることなら、わしの目の前で終わらせたい」
「それは勝手な考え……逃げですわ」
「んなこたぁ、わかっとる」
押し問答になりそうなタイミングで、扉がノックされた。
風が扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
「なっ」とガレットが目を見開く。
「いやー、お孫さんが是非、村長さんと話したいとの事なので、お連れしましたよ?」
無論、事情は通告済みである。
孫娘から「おじいちゃんがいなくなったら、誰が村を復興するの?」と直球な言葉が投げられる。
これにはガレットも押し黙るしかない。
「ガレット村長、逃げないでください」
これは私個人の考えですが、と前置きしてサチコは続ける。
「私は精霊様とともに戦います。皆さんの土地を護るために」
そうして覚醒状態に至る。舞やヴォーイに見せるのも手だといわれていた。
サチコは利用することに迷っていたが、素直な気持ちを見せるために覚醒したのだ。
「あなたは村の復興に必要な方です。まずは護るためにルサスール家が全力を尽くします。何かあったならば、私が復興のため、全力を尽くします。約束は、私が必ず果たします」
ガレットを真摯に見つめて告げる。
シルフェの淹れたハーブティーを一口飲み、ガレットはため息をついた。
「そこまで言われちゃ、仕方がない。一度、撤退するとしよう」
「ありがとうございますわ!」
サチコの表情が華やぐ。
その後ろで、舞やカズマたちがほっと息をついた。
ひとまずの安全は確保できた。
だが、戦いはこれからだ。領を護るため、するべきことはまだ多くある。
帰り際に、精霊の祠に約束を告げる。
絶対に、ゴブリンの手から領民を護ってみせる、と。
王国北部ルサスール領、その中でも北部に位置する村をサチコたちは目指していた。
時刻は夕暮れ、暁の空の下に素朴な軒が見えてきた。
村の姿を前に、先頭を歩くサチコの表情は硬い。
「ワルサーさん」
不意に呼びかけたのは、シルフェ・アルタイル(ka0143)。サチコの眉間を指で撫でて、ゆっくりと告げる。
「シワができてるよ。ワルサーさんが優しいのはシルもみんな知ってる。だから落ち着いて、大丈夫だから」
交渉が始まる前から、不安を抱えていてはいい結果は生まれない。
今度はサチコだけではない、ハンターたちも協力してくれる。
「いざとなったら、村長を倒して、強制的に運び出しましょう!」
「それは、さすがにダメだろ」
唐突な最上 風(ka0891)の提案に、ヴァイス(ka0364)が苦笑する。
サチコは穏便に、穏便にお願いしますわ、と繰り返す。
「まぁ、覚醒者っていっても、一人で出来ることは限りがあるし、今回のように全く役に立たないこともある。だから、得た力に過信して周りを悲しませるなよ……ってこんなこともう皆に言われてるか」
「えぇ、ですから、よろしくおねがいしますわね」
緊張のほぐれた顔でサチコはヴァイスに返していた。
「穏便に、か」
やや後方で呟くのは、カイン・マッコール(ka5336)だ。
目撃情報のあるゴブリンには、そうもいかないだろうな。と、グレートソードの柄をじっと見る。
ここにきてのゴブリンの動きは、東征がらみで北方が手薄になっているのも要因にあるのだろうか。そんなことを思いながら周囲を見渡す。地形はなだらかな丘、威力偵察がてらの襲撃はしやすいだろう。
カインの同列では、エルバッハ・リオン(ka2434)が静かにサチコの様子を眺めていた。
「サチコさんも覚醒しましたか。さて、そのことが彼女にとって幸いになるかは分かりませんが。頑張っている彼女は応援したくなりますね」
ふとつぶやくが、誰にも聞こえていない程度の声量につき静かなのだ。
先に、
「お会いするのも一月ぶりくらいになりますね、ワルサー総帥。今回もよろしくお願いします」
と挨拶を済ませたエルは会話を後ろから眺めるにとどめていた。
彼女もゴブリンを警戒して完全武装のため、威圧感があるのだ。しかも、戦馬に乗っている。
今のところ、周囲に敵影はない。
「いやー、サチコさま、大苦戦だな」
サチコから少し離れ、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が様子を眺めていた。
「これはサチコにとって人の心を掴めるかの試金石だね」
「覚醒したからって男でもできるわけでもないし、立場があっても全幅の信頼を得られるわけじゃない」
天竜寺 舞(ka0377)と龍崎・カズマ(ka0178)も、歩調を合わせて言葉をかわす。
「信頼に足る行動を積み重ねないと……ってことを理解させたいんだろうな」
「うん。でも、それ以上にガレットさんのお孫さんを悲しませたくない。なんとか成功させたいね」
「誰が欠けても、それは後悔になると思うしな」
「サチコさまと村長たち、双方納得の行く交渉にしたいぜ」
そう話している間に、ガレットの村へ到着した。
●
村人たちは暖かく迎えてくれたが、当然のようにガレットは仏頂面だった。
「今からじゃ遅くなる。話し合いは、明日の昼過ぎにする」
事務的な連絡だけを告げていこうとした。それを風が呼び止めた。
「村長さん、村長さん。精霊様の廟へ案内してもらえますか」
「それは……かまわないが」
風が述べたのは、ガレットがこだわっていた精霊を祀る場所だ。
サチコもお願いします、と頭を下げる。
連れて来られたのは、村の中心部にある小さな小屋だった。
扉を開ければ簡易な祠になっている。
「例のもの、持って来てるな?」
カズマの問いかけにサチコは頷く。薄紫色の布の包みを開き、木彫の花を取り出す。
精霊が愛したという、ルサスール領に咲く花がモチーフだ。
風とカズマが調べ、ここに来るまでの間にサチコに伝えていた。
「失礼しますわ」
サチコは前に出ると祠に花を捧げる。そして、静かに祈った。
「風たちも続きましょう」
「おう」
簡易な儀式だが、ガレットは神妙な面持ちでサチコたちを見据える。
「明日はよろしくお願いしますわ」とサチコはしっかり告げるのだった。
宿に戻ってきたサチコたちは、明日に備えて話し合いを始める。
まずはカズマが収集した精霊に纏わる話を、全員に伝える。
「……以上だ。大元はルサスール家にも伝わる銀狐。あとは祖霊だ」
話してもらえたのは、よくある昔話だった。
村の成り立ちとしては、加護を得たものが村を開拓したというもの。
「……」
祖霊、それに村長夫人や近親者も土地に多く眠っていることだろう。
離れたくはねぇだろうなあ、とカズマは窓の外を見る。
「精霊の話なんだけど」
続いて手を上げたのは、舞だった。
サチコがお祈りに出ている間、村人に精霊をどう思っているのか聞きまわっていた。
「守護神というか守護霊というか」
「見守ってくれる存在、だな」
カズマの言葉に、舞は頷く。
「あたしは精霊様が、ガレットさん達が村を見守って死ぬことを喜ぶような存在とは思えない。ガレットさんたちがしていることは、傍から見たら信念を貫く行為かもしれない。だけど、それは、自分の身内を悲しませてまでするようなこととも思えない」
一呼吸を置いて、舞は続ける。
「それを喜ぶような精霊様なら、そんなのクソくらえだよ。でも、そうじゃないはずだよ。精霊様は、みんなの幸せを願う存在のはずだよ。だから、ガレットさん達のしていることは、精霊様の意に反することだと私は思う」
「私もそう思いますわ」
力強くサチコも頷く。自分に力を授けた精霊が、同じかはわからない。
だが、同じく精霊であれば民を思う気持ちは一緒のはずだ。
「村長も八割がた、理屈はわかってるだろうぜ」
パックで入れた紅茶を並べ、ヴォーイがいう。
議論が切り替わるタイミングで、一服。サチコも一口すする。
「家族は避難させるつもりだし、村が破壊されたら精霊との絆が途絶えると思っているのが問題っぽい」
「そうみたいですねー。意地になっているといってる人もいました―」
しれっと聞きまわっていたらしい、風も意見を出す。
「村長らがいなくなったらどうなるよ。『再建しよう!』って励ませるの、村長たちしかいないじゃん」
「私もそう思います」
同調したのはエルだ。
「生きていればこそ、村の復興もこれからの維持・発展もできるはずですから」
「えぇ、私も……そう思いますわ」
「ワルサーさんは、どうして避難して欲しいかガレットさんにきちんと伝えた?」
シルフェがサチコを真っ直ぐに見つめて、問う。
サチコは押し黙る。前回の交渉で、自分はちゃんと伝えられただろうか。
「それなら、今度はきちんと伝えないとね」
シルフェの言葉に、サチコは力強く頷く。
「それと、さ」
再度、舞がサチコに語りかける。
「一番大事なのは総帥としてでも、ルサスール家の令嬢としてでもない。サチコとしての意見を素直に届けることだと思うよ」
「私の、意見」
視線を紅茶に落とし、噛みしめるようにつぶやく。
少しの沈黙、そして、
「エルさん、ヴァイスさん。僕たちはそろそろ」
カインが告げ、エルとヴァイスが立ち上がった。
「俺たちは哨戒の準備があるから、あとは頼んだぜ」
ヴァイスたちが出て行ったあとも、少しだけ話を詰める。
深夜になる前に、明日に備えて部屋の明かりは消えるのだった。
●
朝露が滴り落ちる、涼やかな朝。
村長宅へ行く準備中に魔導短伝話から声が聞こえた。
「サチコさん、サチコさん。事件です、ゴブリンですよ」
伝話を受けたのは、風だ。
ヴァイスからの通信で、哨戒任務中にゴブリンを発見したという。
「サチコさま、出番です」
ヴォーイに促されるがまま、サチコは外にでる。
「無理はしないでよ?」
怪我をしている舞にいわれ、サチコは小さく頷いた。
場所は村から少し外れた場所にある、丘である。
「予測通りだったな」
村の北側に位置する丘は、なだらかだが、岩が露出している部分が多い。
隠れるには十分だと、ヴァイスは予め調べてた。
合図を送り、エルとカインの動きを待つ。
「誰かの入れ知恵か、それとも学習したかは知らないけど威力偵察を覚えたか、どちらにしろゴブリンは殺す」
大剣を握りしめ、カインは低く呟く。
一分後、タイミングを合わせて奇襲をかける。睨めつけるようにゴブリンの様子を伺う。
襲撃の準備か、起床して武装を整えているのか。
油断しているようにも思えた。
「……ゴブリンソルジャーがいるな」
斧を持ち、どっしりと構える者が一匹いた。
時が来る。と、同時にカインはまっすぐゴブリンソルジャーへ向けてかけ出した。
双眼鏡でヴァイスの合図を確認したエルも迎撃体勢を整えていた。
ちらりと見かけた怪しい影はやはりゴブリンだった。
「さて、いきましょうか」
タイミングよく軍馬を駆る。
群れの中央が射程に入った所で、スタッフをかざした。
先手必勝。火球が一つ、宙を行く。
「さて、どれぐらい倒せるのか。いささか気になりますね」
飛び込もうとしたヴァイスの目の前で、炎弾が弾ける。
一匹のゴブリンが倒れる中、ヴァイスは再び動き出す。
「まったく、派手にやるぜ」
そういうヴァイスも豪快に美しい意匠の槍で敵を狙う。
移動した力量をそのままに、目の前に屯するゴブリンの群れへと刺突を入れる。
「一気に片を付ける!」
今度は大きく振るって、迎撃体勢のゴブリンを薙ぐ。
単なるゴブリンが蹴散らされる横を、カインが行く。
切っ先が向けられたのは、ゴブリンソルジャーだ。混乱する部隊になおも指示を出しつつ、斧を振るいあげていた。
「邪魔だ」
ゴブリンをAを描くように切り払い、袈裟斬りに伏す。
エルによる火傷とヴァイスに削られた体力では耐えられようもない。
「……っ」
ゴブリンソルジャーを前にカインはあえて大剣の刃を掴んだ。
痛みに耐え、柄の部分で大鎚のごとくゴブリンソルジャーを打ち据える。
「……ア?」
ゴブリンソルジャーはその柄を軽く斧でいなすと、カインに一撃を見舞った。
ぐらりと揺れる視線の先で、風刃がゴブリンソルジャーを襲った。
「これで、最後……だっ!」
ゴブリンソルジャーは二撃目を放つことなく、踏み込んだヴァイスに屠られた。
力が抜け、その肢体がだらしなく地面に転がる。
「サチコも来たみたいだ」
ヴォーイに連れられ丘の下に、サチコが立っていた。
カインが偵察部隊について、報告する。
ソルジャーが威力偵察に使われていたことから、上は相当の実力者であること。
続く偵察部隊に警戒心を抱かせるため、現状をそのままにしたい旨を述べる。
「わかりましたわ」とサチコは静かに了承した。
●
戻った頃。慌ただしくサチコが出て行ったことを知り、ガレットが何事かと訪ねていた。
サチコは滞り無くゴブリンの偵察について、カインの予測を混じえて語る。
「……そうか。だが」
気持ちは変わらない、と続けようとしたガレットを遮るようにヴァイスが割って入った。
「……危機から逃れ生き残った奴は、もう村にも精霊にも顔向けはできないのか?」
「む」
「気を悪くしたなら、申し訳ない。俺はまた哨戒に戻る」
ヴァイスの奥底にある経験が、不意に問を呼び起こしていた。
我に返り、一礼するとヴァイスは去っていく。
「誰にも犠牲にはなってほしくない。僕も同じ気持だ」
カインも静かに告げて去っていく。
誰も同じ道を辿らせたくなどない。この復讐という無限地獄を。
二人に続き、エルも哨戒へと戻っていった。
「いただきます、しましょう」
昼過ぎにもたれた話し合いでは、第一声をシルフェが飾った。
気持ちが落ち着くように用意したハーブティやお菓子を振る舞う。
気の落ち着きと、ともに沈黙も降りてきた。
「……えと」
沈黙に耐えかね、シルフェが続けた。
「ガレットさんはここが大好きなんだね。だから、ここにいたいのかなってシルは思うの。でも、ガレットさんが大好きな人はガレットさんがいなくなったら悲しくないのかな? ガレットさんはここにいて大好きな人ともう会えないのと、新しい所でガレットさんが大好きな人と大変かもしれないけど笑顔で暮らすのどっちがいい?」
「私は皆さんに笑顔でいてもらいたいです」
シルフェの言葉を受けて、サチコがいう。
「舞さんやカズマさんが村人たちに聞いた精霊様は、この地を愛する精霊様です。そして、民を愛し守ろうとしてくれる、聖霊様です。私はそんな精霊様にも笑顔でいて欲しい。そのためには」
誰にも犠牲になってほしくない、とサチコはまっすぐに告げた。
ガレットが言葉に詰まる。
シルフェも重ねるようにガレットに問う。
「ガレットさんはどうしてここにいたいのかワルサ―さんに説明した? お互いの考えが分かんないと何にもかわらないよ」
「わしは……」
おずおずとガレットは語る。それは、紛うことなく正直な気持ちだった。
「精霊様との絆、そして、村が途絶えるのが怖いのだ。できることなら、わしの目の前で終わらせたい」
「それは勝手な考え……逃げですわ」
「んなこたぁ、わかっとる」
押し問答になりそうなタイミングで、扉がノックされた。
風が扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
「なっ」とガレットが目を見開く。
「いやー、お孫さんが是非、村長さんと話したいとの事なので、お連れしましたよ?」
無論、事情は通告済みである。
孫娘から「おじいちゃんがいなくなったら、誰が村を復興するの?」と直球な言葉が投げられる。
これにはガレットも押し黙るしかない。
「ガレット村長、逃げないでください」
これは私個人の考えですが、と前置きしてサチコは続ける。
「私は精霊様とともに戦います。皆さんの土地を護るために」
そうして覚醒状態に至る。舞やヴォーイに見せるのも手だといわれていた。
サチコは利用することに迷っていたが、素直な気持ちを見せるために覚醒したのだ。
「あなたは村の復興に必要な方です。まずは護るためにルサスール家が全力を尽くします。何かあったならば、私が復興のため、全力を尽くします。約束は、私が必ず果たします」
ガレットを真摯に見つめて告げる。
シルフェの淹れたハーブティーを一口飲み、ガレットはため息をついた。
「そこまで言われちゃ、仕方がない。一度、撤退するとしよう」
「ありがとうございますわ!」
サチコの表情が華やぐ。
その後ろで、舞やカズマたちがほっと息をついた。
ひとまずの安全は確保できた。
だが、戦いはこれからだ。領を護るため、するべきことはまだ多くある。
帰り際に、精霊の祠に約束を告げる。
絶対に、ゴブリンの手から領民を護ってみせる、と。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/10 19:46:54 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/08/14 18:39:29 |