ゲスト
(ka0000)
【東征】最前線へ繋がる『道』
マスター:香月丈流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/13 07:30
- 完成日
- 2015/08/21 21:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
街道を駆ける、1台の幌馬車。その速度は『異常』と言えるほどに早く、運転は荒々しい。もし歩行者が居たら、事故が起きても不思議はないだろう。
「おい、もっとスピード上げろ!」
恐怖と焦りの入り混じった声で、荷車に乗った兵士が叫ぶ。彼が馬車を急かす理由は、後方から追い駆けて来る『黒い影』。1m程度の四足動物だが、腐臭を撒き散らしている。
つまりは、動く死骸。命を失っても動き続ける存在と言えば、雑魔や歪虚しか居ない。
「もうやってるよ! これ以上は無理だ!」
怒りの叫びを上げながら、御者の兵士が手綱を引っ張る。荒れ走る馬車に、それを追い駆ける雑魔……追い付かれたらどうなるか、彼らは知っていた。
『東方解放』の開始と同時期から、帝国内では『黒い体毛のゾンビ狐』が出現。奴らは東方に送る補給物資を狙い、次々に喰い散らして救援を妨げている。
最初は、単なる偶然かと思った。物資を乗せた馬車が襲われ、御者は死亡し荷物は全滅。雑魔が暴れる事は珍しくないし、この時は『運が悪かった』程度の認識しかなかった。
それが甘かったと、身を持って知る事になる。
今度は襲撃を警戒して輸送部隊を3つに分けたが……ゾンビ狐は再び現れた。他の町や人を襲わず、補給物資の輸送車を狙って。
「どうする? このままじゃ追い付かれ……!?」
不意に、兵士の言葉が途切れる。『追い付かれる』のを心配していたのだが、その進路上に数匹のゾンビ狐が『先回り』していた。気付いた時には、もう遅い。
雑魔達がフサフサの尻尾を高く上げると、尾の先に炎の球が出現。それが、馬車の荷台に向けて一斉に放たれた。命中と同時に、炎が瞬く間に燃え広がって荷台を飲み込む。炎の影響で連結器具が壊れ、馬車の馬達は逃げるように走り去った。
残った兵士達は物資を少しでも守るため、水筒の水をかぶって炎の中に飛び込む。数秒後、2人は木箱を持って荷台から脱出した。
と同時に、ゾンビ狐が兵士の首筋に喰らい付く。鮮血が噴水のように噴き出し、そのまま2人は炎の中に消えていった。命懸けで運び出した、救援物資と一緒に。
●
「第1、第2小隊……作戦失敗です」
「第3小隊、全滅しました」
「おのれ……雑魔共!」
兵士達の報告を聞き、上官らしき男性が声を荒げる。彼らは、臨時編成された補給部隊。その名が示す通り、前衛に物資を送る部隊である。
数多の人員が投入された、大規模な合戦……最前線で戦う戦力は必要だが、物資が無ければ戦線は維持できない。どこの国でも、定期的に武器や食料の補給を行っているが……帝国からの救援は、ゾンビ狐の出現で停滞している。
「東方の同志達が……物資を待っているというのに!」
悔しそうに叫びながら、上官男性が机を叩く。雑魔の『格』次第では帝国兵士でも倒せるが、今回の狐ゾンビは少々手強い。数人で戦えば勝てない事もないが、その間に荷物を荒らされてしまう。
雑魔の撃破と、荷物の死守……その2つを同時に行うのは、一般兵士では荷が重い。同志達の為にも、補給部隊の隊長はハンター達に救援を要請した。
街道を駆ける、1台の幌馬車。その速度は『異常』と言えるほどに早く、運転は荒々しい。もし歩行者が居たら、事故が起きても不思議はないだろう。
「おい、もっとスピード上げろ!」
恐怖と焦りの入り混じった声で、荷車に乗った兵士が叫ぶ。彼が馬車を急かす理由は、後方から追い駆けて来る『黒い影』。1m程度の四足動物だが、腐臭を撒き散らしている。
つまりは、動く死骸。命を失っても動き続ける存在と言えば、雑魔や歪虚しか居ない。
「もうやってるよ! これ以上は無理だ!」
怒りの叫びを上げながら、御者の兵士が手綱を引っ張る。荒れ走る馬車に、それを追い駆ける雑魔……追い付かれたらどうなるか、彼らは知っていた。
『東方解放』の開始と同時期から、帝国内では『黒い体毛のゾンビ狐』が出現。奴らは東方に送る補給物資を狙い、次々に喰い散らして救援を妨げている。
最初は、単なる偶然かと思った。物資を乗せた馬車が襲われ、御者は死亡し荷物は全滅。雑魔が暴れる事は珍しくないし、この時は『運が悪かった』程度の認識しかなかった。
それが甘かったと、身を持って知る事になる。
今度は襲撃を警戒して輸送部隊を3つに分けたが……ゾンビ狐は再び現れた。他の町や人を襲わず、補給物資の輸送車を狙って。
「どうする? このままじゃ追い付かれ……!?」
不意に、兵士の言葉が途切れる。『追い付かれる』のを心配していたのだが、その進路上に数匹のゾンビ狐が『先回り』していた。気付いた時には、もう遅い。
雑魔達がフサフサの尻尾を高く上げると、尾の先に炎の球が出現。それが、馬車の荷台に向けて一斉に放たれた。命中と同時に、炎が瞬く間に燃え広がって荷台を飲み込む。炎の影響で連結器具が壊れ、馬車の馬達は逃げるように走り去った。
残った兵士達は物資を少しでも守るため、水筒の水をかぶって炎の中に飛び込む。数秒後、2人は木箱を持って荷台から脱出した。
と同時に、ゾンビ狐が兵士の首筋に喰らい付く。鮮血が噴水のように噴き出し、そのまま2人は炎の中に消えていった。命懸けで運び出した、救援物資と一緒に。
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「第1、第2小隊……作戦失敗です」
「第3小隊、全滅しました」
「おのれ……雑魔共!」
兵士達の報告を聞き、上官らしき男性が声を荒げる。彼らは、臨時編成された補給部隊。その名が示す通り、前衛に物資を送る部隊である。
数多の人員が投入された、大規模な合戦……最前線で戦う戦力は必要だが、物資が無ければ戦線は維持できない。どこの国でも、定期的に武器や食料の補給を行っているが……帝国からの救援は、ゾンビ狐の出現で停滞している。
「東方の同志達が……物資を待っているというのに!」
悔しそうに叫びながら、上官男性が机を叩く。雑魔の『格』次第では帝国兵士でも倒せるが、今回の狐ゾンビは少々手強い。数人で戦えば勝てない事もないが、その間に荷物を荒らされてしまう。
雑魔の撃破と、荷物の死守……その2つを同時に行うのは、一般兵士では荷が重い。同志達の為にも、補給部隊の隊長はハンター達に救援を要請した。
リプレイ本文
●
走る。
奔る。
疾る。
大地を踏み鳴らし、1台の幌馬車が平原を駆ける。
それと併走する戦馬が4騎。更に、数十メートル離れた位置を、2騎の戦馬と1台の魔導バイクが駆けている。
馬車の積荷は、帝国から東方に送る、補給物資の数々。それを帝都バルトアンデルスまで運ぶため、一行は先を急いでいた。
単なる輸送なら特に問題は無いが、今回の任務は『護送』。つまり、荷物を狙う輩が居るという事である。それが野盗や盗賊の類だったらマシなのだが……。
「また敵さんかいな。なんとか辿り着けるとエエんやけどな……」
荷台の後部から周囲を眺めながら、冬樹 文太(ka0124)は苦笑いを浮かべた。桃色の瞳が見詰めているのは、遥か後方。『黒い群れ』が、徐々に馬車との距離を詰めてきている。
その正体は、黒毛の狐。しかも普通の狐ではなく……死体型の雑魔なのだ。町を出発してから2時間近く走っているが、既に何度か襲われている。
「弱音を吐いている暇があるなら銃を取れ。馬車は任せたぞ」
短く言い放ち、ライナス・ブラッドリー(ka0360)は吸っていたタバコを投げ捨てた。それが地面に付くより早く、銃を構えて後方を振り向く。狐達射程に収め、連続で引き金を引いた。
矢継ぎ早の射撃が弾幕となり、敵集団の接近を阻止する。相手の数は、恐らく10匹前後。これだけのゾンビ狐が荷台を襲ったら、被害は免れない。
足止めを喰らいながらも、雑魔の数匹が尻尾を高く上げた。その先端に高熱が発生し、尾の先から炎の球が出現。射撃するライナスを無視し、荷台を狙って炎が放たれた。
ほぼ同時に、文太は荷台から弾丸を奔らせる。銃撃に込めた冷気が水蒸気を急激に冷やし、氷の弾道を描く。それが炎球を次々に貫通し、火の粉が花のように舞い散った。
「ライナスさん、北側に移動して下さい……!」
女性の声に反応し、ライナスが北側……馬車の進行方向に動く。彼に声を掛けたのは、セシル・ディフィール(ka4073)。ライナスが移動したのを確認し、彼女は馬上で杖を振った。
直後、空中に燃え盛る火球が出現。それを、雑魔の群れに目掛けて投げ放った。火球が狐に触れた瞬間、炸裂して爆風と火炎が敵集団を飲み込む。その風圧で、セシルの茶色いセミロングが大きく揺れた。
火炎自体は数秒もしないうちに消え去ったが、雑魔達は半数近く残っている。ライナスはカラになった弾倉を交換し、素早く装填。文太も銃を構え、引金を引いた。
2人の銃弾が入り乱れ、ゾンビ狐を撃ち抜いていく。数は圧倒的に敵の方が有利だが、質は覚醒者達の方が上回っている。セシルが2度目の火球を放つと、後方から接近していた雑魔は全て死骸に戻った。
一息つく余裕も無く、今度は進行方向に雑魔が出現。一気に距離を詰めてきている。
迎撃するように、榊 兵庫(ka0010)は手綱を操って急加速。巨大な槍を構え、すれ違いざまに素早く薙いだ。鉄色の軌跡が狐の首を捉え、一撃で斬り落とす。崩れ落ちる敵を気にする事なく、兵庫は次の標的に視線を向けた。
「輸送部隊を襲うとは……こちらの急所を確実に攻めてきているな」
「どうせ、ろくでもない奴が関わってるんだろ。今は、そんな事気にしてる場合じゃないけどな」
溜め息混じりに、クルス(ka3922)が言葉を漏らす。大鎌を握ってマテリアルを込めると、七色に輝く刃から輝く光が出現。それが球状に収束し、弾丸の如く放たれた。光弾が雑魔に命中し、衝撃が全身を駆け抜ける。
「お馬さんは臆病なんです。怖がらせたら駄目ですよ!」
馬車の御者台から発せられた、幼い怒声。次いで、鎮魂歌に似た歌声が周囲に響き渡った。
声の主は、来未 結(ka4610)。彼女の歌声にはマテリアルが込められ、『不死に属する者』の動きを鈍らせる。当然、死体型雑魔も例外ではない。
狐達の動きが鈍っている隙を狙い、兵庫とクルスが敵陣に飛び込む。
「迷える子羊……じゃなくって、子狐よ。エクラの名の下に、然るべき所へ還りな!」
叫びながら、大鎌を振り回すクルス。神職のような言葉とは裏腹に、鎌で雑魔の首を刎ねる姿は死神のように見える。
兵庫も槍を振り回し、雑魔を蹴散らしていく。2人の活躍で前方の安全が確保されると、結は御者に直進を要請。速度を上げる馬車と併走しながら、兵庫は魔導短伝話を操作した。
●
幌馬車の護衛が順調なのは、いくつかの理由がある。1つは、参加者の実力が高い事。もう1つは、互いに連携を意識して動いている事。
そして……すぐ近くで護衛する者の他に、偵察隊が居る事。
「悪いけど、ここは通さないよ? あの馬車は『色んな意味で』大切だからね」
馬車の左側、約20m離れた位置で、2匹の狐を足止めするミューレ(ka4567)。金髪碧眼で、幼い顔立ちは少女のように見えるが、実際には50歳を超えるエルフの男性である。
彼が馬車を『大切』と表現したのは、補給物資が積まれているから……という理由だけではない。ミューレにとって、命より大切な存在……愛する彼女、結が同乗している。その事実が、彼の力となっていた。
魔導バイクを操りながら、ミューレはワンドにマテリアルを込める。発生した魔力が周囲に干渉し、水分が球状に収束。ワンドを振ると、それが敵に向かって飛んで行った。
高速の水球が直撃し、水飛沫が散って虹が輝く。弾けた水分と共に、雑魔達の命も消えていった。
「ったく、次から次へと湧いてきやがって!」
馬車の前方では、岩井崎 旭(ka0234)が苛立ちを隠せずにいた。馬車の進行方向という事もあり、敵の増援が他の場所よりも多い。最初は2、3匹でも、増援が何度も現れる事もあった。
今も、そのパターンである。可能なら敵を全て倒したいが、隙を突いて馬車に向かう狐が数匹。更に、旭の注意を引くため囮役になる雑魔も居た。
敵の動きは、既に魔導短伝話で連絡済み。仲間達の負担を減らすため、旭は戦槍を強く握って大きく回転した。視界に捉えた敵の数は、6匹。遠心力を上乗せした刃先が、ゾンビ狐の首を次々に斬り飛ばしていく。
腐血が舞い散り、頭部が5つ転がる中、視界の隅で1匹の狐が馬車に向かって突撃して行った。
(敵は強くないが……この数は厄介だな。さっさとケリをつけるか)
周囲と馬車の状況を確認しながら、大鎌を薙ぐロニ・カルディス(ka0551)。接近してくる敵を1体ずつ確実に仕留めていたが、唐突にその手を止めた。
彼が居るのは、馬車の右側面。荷台から20m程度離れた位置で、敵の接近を阻止している。見える範囲内に残っている雑魔は、あと3体。その全てを一気に叩くため、ロニは馬を走らせながら鎌にマテリアルを込めた。
狐達を射程に収めた瞬間、それを一気に解放。彼の全身から光の波動が広がり、周囲の敵を飲み込んでいく。光が衝撃と化して全身を駆け抜け、内側から雑魔を破壊。閃光が消えた時、周囲の雑魔は全て力尽きていた。
残党や増援が無い事を確認し、ロニは魔導短伝話を操作。地図を取り出して地形を確認しながら、仲間と連絡を取った。
●
数時間後。ハンター達と馬車は、森の中に身を隠していた。先を急ぎたいが、無計画に走ったら馬の体力が持たないし、負傷や事故に繋がる。確実に荷物を運ぶため、休憩する事を選んだ。
「現在位置は……全行程の中間くらいか。予想以上に敵襲が多いな」
兵庫は地図と周囲の地形を照らし合わせ、現在位置を予測。前半の道中を思い出し、少しだけ溜息を吐いた。
「それだけ、相手も必死なんだろう。最後まで守り抜かないとな」
覚悟を口にし、気合を入れ直すロニ。その茶色い瞳に、迷いは一片も無い。口調も雰囲気も冷静だが、その内面は熱い想いで溢れていた。
「馬車も御者さんも、被害はありません。いつでも選定ルートに戻れますよ」
地図を眺める2人に、セシルが声を掛ける。彼女の言葉通り、こちらの損害は皆無。御者と馬に若干の疲れが見えているが、それ以外の問題は無い。
今回、ハンター達は事前に帝都までの道程を調べ、進むべきルートを決めていた。見通しが良い事を第一に、整備されて走り易い道を選定。そうやって決めたルートに従い、ずっと走ってきた。
今は休憩のために若干ルートから外れているが、予定の道に復帰するのも時間の問題だろう。
誰もが乗り物から降りて体を休める中、ライナスだけは周囲を警戒して目を光らせていた。
「ダンナ、休憩せんの? 休める時に休まんと、バテるで?」
棒付きのアメを舐めながら、文太が心配そうに声を掛ける。彼の声を背中で受けながら、ライナスは視線を向けずに言葉を返した。
「いつ敵が襲って来るか分からん。1人くらい、見張り役が必要だからな」
言葉と共に、煙草の煙を吐き出す。彼はハンターになる前、傭兵として幾多の戦乱を乗り越えてきた。その時の経験や技術は、今でも活かされている。誰にも言わずに見張りをしているのは、最年長者として気を遣ったのかもしれない。
「いや……どうやら、もう見張りは必要無いぜ?」
近くに居た旭が、溜息混じりに口を開く。森に入った時から、彼は定期的に動物霊の力を借りて聴覚を強化していた。その耳に届いたのは……独特かつ大量の足音。今日になって何度も聞いた、ゾンビ狐が走る音である。
敵の接近を知らされ、出発の準備を急ぐ一同。慌ただしい空気の中、ミューレは結の耳元で静かに呟いた。
「馬車も結も、傷一つ付けさせない。だから……無理しないでね?」
「えへへ、こっちは大丈夫ですっ!」
大切な彼氏の言葉に照れながらも、グッと拳を握る結。ミューレは一瞬だけ心配そうな表情を浮べたが、彼女を信じて笑顔を返した。
●
森から選定ルートに戻り、先を急ぐ覚醒者達。休憩後も狐達の襲撃はあったが、敵の数も回数も大幅に減少していた。5匹前後の集団が、3回出ただけである。
穏やかな旅路が続き、全行程の8割が過ぎた頃、目を疑うような光景が飛び込んで来た。
視界の先に広がる、黒の大群……それがゾンビ狐の群れだと気付くまで、数秒の時間を要した。散発的な襲撃では勝てないと感じたのか、戦力を集中させたようだ。数えるのも面倒だが、少なくても50匹は超えているだろう。
(敵の動き……まるで補給物資を届けさせまいとしているようだ。黒幕が裏で指示を出している……と考えるべきか)
雑魔達の動きを観察し、思案を巡らせるミューレ。知能の低い雑魔達が、本能的に補給部隊を襲っているとは考え難い。だからと言って、黒幕が居るという確証は無いのだが。
『文字通り『腐っても妖狐』といったところか……悪いが、通して貰うぞ』
『だな。敵が何だろうと押し通る! 邪魔するなら叩き潰してやるぜ!』
魔導短伝話から聞こえる、ロニと旭の決意。敵の数が圧倒的に多い状況で撤退しても、逃げ切れる可能性は低い。むしろ、敵を倒しながら進んだ方が損害が少ないと考えたのだろう。
その想いは、他のハンター達も同じである。逃げる事を考えている者は1人も居ない。
先陣を切るように、旭、ロニ、ミューレの偵察部隊が急加速。雑魔を殲滅して血路を拓くため、敵陣に突っ込んでいく。
彼らを迎え撃つように、狐達も一斉に突進。数秒だけ間を置いて、馬車と護衛の覚醒者達も速度を上げた。
馬の速度を活かし、遊撃のように動き回る旭。炎球を撃つために『尻尾を上げている狐』を優先的に狙い、戦槍で貫いていく。
ロニが鎮魂の歌声で敵の動きを鈍らせると、追撃するようにミューレが火の球を放つ。火炎と爆風が敵を纏めて飲み込み、敵を纏めて死骸に還した。
炎球で倒れなかった敵には、ロニが聖なる光で更に攻撃。眩しい光に包まれながら、数匹の狐が力無く崩れ落ちた。
「今回の任務、失敗は出来ない。俺も全力で当たる事としよう……!」
兵庫は静かに闘志を燃やし、槍を薙いで雑魔を斬り散らす。更に武器を大きく振り回し、遠心力を加えた一撃で敵の体勢を崩した。バランスを失った雑魔は仲間を巻き込みながら倒れ、足並みが乱れる。
倒れた敵を狙って、ライナスの銃撃が降り注いだ。正確無比の銃撃が狐の頭部を貫通し、永遠の眠りへと誘う。
「俺達の目的は『荷物を届ける事』だ。戦闘は最小限でも良い、馬車を進ませるんだ……!」
叫びながら、ライナスは短剣を構えた。銃を扱う者の大半は、接近戦が苦手な傾向にある。ライナスは剣を使う事でそれを補い、急所狙いの一撃必殺を考えていた。
もう1人の銃使い、文太は、間断の無い射撃で敵の動きを牽制している。
「来未の嬢ちゃん! 御者のフォロー頼むで!」
狐達を攻撃しながらも、文太は結に向かって叫んだ。敵の数が多いという事は、御者が巻き込まれる可能性も高くなる。文太の容姿はヤンキー風だが、本当は気さくな青年のようだ。
「了解です! 必ず守ってみせますよ!」
元気に言葉を返し、結はマテリアルを光に変えて全身から放つ。先に攻撃して倒してしまえば、敵の攻撃を受ける事は無い。つまりは、先手必勝。光の波動に晒され、狐達は戦う力を失って地面に伏した。
その波動から輝く光弾が溢れ出し、近くに居た敵を貫く。
「癒しばっかがクルセイダーじゃねえ! って……これも広義じゃ『癒し』なのか?」
光弾で敵を射抜いたクルスが、自問自答するように言葉を漏らした。死体型雑魔を倒すと、歪虚から普通の死骸に戻って力尽きる。歪虚の力から解放され、生物と同じ『死』を迎えるのは、拡大解釈すれば『癒し』と表現できるかもしれない。
とは言え、物騒極まりない癒しではあるが。
全員が一丸となった進撃で雑魔の数が徐々に減り、馬車は確実に前進している。狐が荷台に接近する事はあるが、攻撃される前に殲滅しているため、被害は無い。『このまま押し切れる』と、誰もが思い始めていた。
その淡い希望を打ち砕くように、馬車の遥か後方から複数の炎球が放たれた。
50匹近いゾンビ狐は、全て囮。本命は、手薄になった後方から荷台を狙う事だったのだ。気付いた時には、もう遅い。迎撃も回避も難しい距離まで炎球は迫っていた。
次の瞬間、荷台を守るように土の壁が出現。それが炎球の着弾を防ぎ、全ての攻撃を受け止めると、砕けて火の粉と共に舞い散った。
「もう、私達の邪魔をしないで下さい」
崩れた土壁の奥に立っていたのは、セシル。本来、この壁は敵の進行を邪魔するために使うつもりだったが、予定変更である。彼女の機転で、馬車と積荷は最大の危機を乗り越えた。
攻撃が防がれた事を知り、再び炎球を放とうとする雑魔達。敵が尻尾を振り上げるのと同時に、2つの疾風が戦場を駆け抜けた。
「そいつはやらせねぇぜ! 吹っ飛べッ!!」
裂帛の気合を込め、旭が武器を叩きつける。重々しい一撃が狐に直撃し、衝撃で弾き飛ばされて仲間諸共バランスを崩した。
「死骸は大人しく、ちっとは安らかに寝てろってんだよ!」
荒々しく叫び、クルスは鎮魂の旋律を歌い上げる。歌声が敵の動きを鈍らせると、ミューレやライナスが援護攻撃して雑魔を永遠に眠らせた。クルス自身も大鎌を掬い上げるように振り、ゾンビ狐の首を斬り落とす。
仲間をどれだけ倒されても、雑魔達は進行を諦めない。ハンター達の攻撃を掻い潜って接近してくる狐達に向かって、文太は殺気の籠った視線を向けた。
(それ以上近づくんじゃねぇ……!)
無言の圧力。睨んだ瞳が、彼の心情を雄弁に物語っている。そのまま引金を引くと、殺気の宿った弾丸が狐の眉間を貫通。ゆっくりと、雑魔の体が崩れ落ちた。
敵の策略を正面から打ち破り、殲滅の続けるハンター達。周囲が『黒』で埋め尽くされ、全ての敵が動かなくなったのは、それから数分後の事だった。
●
太陽が西に傾き始めた頃、馬車は無事に帝都へ到着。ハンターズソサエティと連絡を取り、早速荷物の受け渡しが行われた。
「では、以降の作業はよろしくお願いします」
担当職員に馬車を任せ、深々と頭を下げるセシル。職員と御者は一礼を返し、馬車と共に帝都の奥へと進んでいった。
これで、護衛任務は完全に終了である。
「お疲れ様。良く頑張ったね、結」
ミューレは柔らかく微笑みながら、結の頭を撫でる。内心では彼女が怪我をする事を心配していたが、幸いにも外傷はナシ。ようやく胸を撫で下ろした。
「ミューレさんこそ♪ 何事も無くて、本っ当に良かったです……」
心配していたのは、結も同じである。何かあったら……と不安になった時もあるが、無事に依頼は終わった。嬉しくて涙が零れそうになるのを我慢し、結は満面の笑顔を彼に返した。
「補給物資の輸送は今回限りではない以上、以降の補給計画を立てておくべきなんだろうな……」
兵庫の言う通り、補給物資は今回で終わりではない。東方が戦場になっている限り、何らかの救援は必要だろう。
だが……。
「それはハンターズソサエティや各国の代表が考える事だ。俺達の『仕事』は別にある……そうだろ?」
ロニが言う仕事……それは、歪虚と戦う事。これは、覚醒者にしかできない事である。
そして、彼らの活躍は平和に繋がる『道』となっていく。今回の依頼も、東方の前線で戦う者達へと繋がった。そういった繋がりや絆が、いつか全ての歪虚を倒す力になるのかもしれない。
走る。
奔る。
疾る。
大地を踏み鳴らし、1台の幌馬車が平原を駆ける。
それと併走する戦馬が4騎。更に、数十メートル離れた位置を、2騎の戦馬と1台の魔導バイクが駆けている。
馬車の積荷は、帝国から東方に送る、補給物資の数々。それを帝都バルトアンデルスまで運ぶため、一行は先を急いでいた。
単なる輸送なら特に問題は無いが、今回の任務は『護送』。つまり、荷物を狙う輩が居るという事である。それが野盗や盗賊の類だったらマシなのだが……。
「また敵さんかいな。なんとか辿り着けるとエエんやけどな……」
荷台の後部から周囲を眺めながら、冬樹 文太(ka0124)は苦笑いを浮かべた。桃色の瞳が見詰めているのは、遥か後方。『黒い群れ』が、徐々に馬車との距離を詰めてきている。
その正体は、黒毛の狐。しかも普通の狐ではなく……死体型の雑魔なのだ。町を出発してから2時間近く走っているが、既に何度か襲われている。
「弱音を吐いている暇があるなら銃を取れ。馬車は任せたぞ」
短く言い放ち、ライナス・ブラッドリー(ka0360)は吸っていたタバコを投げ捨てた。それが地面に付くより早く、銃を構えて後方を振り向く。狐達射程に収め、連続で引き金を引いた。
矢継ぎ早の射撃が弾幕となり、敵集団の接近を阻止する。相手の数は、恐らく10匹前後。これだけのゾンビ狐が荷台を襲ったら、被害は免れない。
足止めを喰らいながらも、雑魔の数匹が尻尾を高く上げた。その先端に高熱が発生し、尾の先から炎の球が出現。射撃するライナスを無視し、荷台を狙って炎が放たれた。
ほぼ同時に、文太は荷台から弾丸を奔らせる。銃撃に込めた冷気が水蒸気を急激に冷やし、氷の弾道を描く。それが炎球を次々に貫通し、火の粉が花のように舞い散った。
「ライナスさん、北側に移動して下さい……!」
女性の声に反応し、ライナスが北側……馬車の進行方向に動く。彼に声を掛けたのは、セシル・ディフィール(ka4073)。ライナスが移動したのを確認し、彼女は馬上で杖を振った。
直後、空中に燃え盛る火球が出現。それを、雑魔の群れに目掛けて投げ放った。火球が狐に触れた瞬間、炸裂して爆風と火炎が敵集団を飲み込む。その風圧で、セシルの茶色いセミロングが大きく揺れた。
火炎自体は数秒もしないうちに消え去ったが、雑魔達は半数近く残っている。ライナスはカラになった弾倉を交換し、素早く装填。文太も銃を構え、引金を引いた。
2人の銃弾が入り乱れ、ゾンビ狐を撃ち抜いていく。数は圧倒的に敵の方が有利だが、質は覚醒者達の方が上回っている。セシルが2度目の火球を放つと、後方から接近していた雑魔は全て死骸に戻った。
一息つく余裕も無く、今度は進行方向に雑魔が出現。一気に距離を詰めてきている。
迎撃するように、榊 兵庫(ka0010)は手綱を操って急加速。巨大な槍を構え、すれ違いざまに素早く薙いだ。鉄色の軌跡が狐の首を捉え、一撃で斬り落とす。崩れ落ちる敵を気にする事なく、兵庫は次の標的に視線を向けた。
「輸送部隊を襲うとは……こちらの急所を確実に攻めてきているな」
「どうせ、ろくでもない奴が関わってるんだろ。今は、そんな事気にしてる場合じゃないけどな」
溜め息混じりに、クルス(ka3922)が言葉を漏らす。大鎌を握ってマテリアルを込めると、七色に輝く刃から輝く光が出現。それが球状に収束し、弾丸の如く放たれた。光弾が雑魔に命中し、衝撃が全身を駆け抜ける。
「お馬さんは臆病なんです。怖がらせたら駄目ですよ!」
馬車の御者台から発せられた、幼い怒声。次いで、鎮魂歌に似た歌声が周囲に響き渡った。
声の主は、来未 結(ka4610)。彼女の歌声にはマテリアルが込められ、『不死に属する者』の動きを鈍らせる。当然、死体型雑魔も例外ではない。
狐達の動きが鈍っている隙を狙い、兵庫とクルスが敵陣に飛び込む。
「迷える子羊……じゃなくって、子狐よ。エクラの名の下に、然るべき所へ還りな!」
叫びながら、大鎌を振り回すクルス。神職のような言葉とは裏腹に、鎌で雑魔の首を刎ねる姿は死神のように見える。
兵庫も槍を振り回し、雑魔を蹴散らしていく。2人の活躍で前方の安全が確保されると、結は御者に直進を要請。速度を上げる馬車と併走しながら、兵庫は魔導短伝話を操作した。
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幌馬車の護衛が順調なのは、いくつかの理由がある。1つは、参加者の実力が高い事。もう1つは、互いに連携を意識して動いている事。
そして……すぐ近くで護衛する者の他に、偵察隊が居る事。
「悪いけど、ここは通さないよ? あの馬車は『色んな意味で』大切だからね」
馬車の左側、約20m離れた位置で、2匹の狐を足止めするミューレ(ka4567)。金髪碧眼で、幼い顔立ちは少女のように見えるが、実際には50歳を超えるエルフの男性である。
彼が馬車を『大切』と表現したのは、補給物資が積まれているから……という理由だけではない。ミューレにとって、命より大切な存在……愛する彼女、結が同乗している。その事実が、彼の力となっていた。
魔導バイクを操りながら、ミューレはワンドにマテリアルを込める。発生した魔力が周囲に干渉し、水分が球状に収束。ワンドを振ると、それが敵に向かって飛んで行った。
高速の水球が直撃し、水飛沫が散って虹が輝く。弾けた水分と共に、雑魔達の命も消えていった。
「ったく、次から次へと湧いてきやがって!」
馬車の前方では、岩井崎 旭(ka0234)が苛立ちを隠せずにいた。馬車の進行方向という事もあり、敵の増援が他の場所よりも多い。最初は2、3匹でも、増援が何度も現れる事もあった。
今も、そのパターンである。可能なら敵を全て倒したいが、隙を突いて馬車に向かう狐が数匹。更に、旭の注意を引くため囮役になる雑魔も居た。
敵の動きは、既に魔導短伝話で連絡済み。仲間達の負担を減らすため、旭は戦槍を強く握って大きく回転した。視界に捉えた敵の数は、6匹。遠心力を上乗せした刃先が、ゾンビ狐の首を次々に斬り飛ばしていく。
腐血が舞い散り、頭部が5つ転がる中、視界の隅で1匹の狐が馬車に向かって突撃して行った。
(敵は強くないが……この数は厄介だな。さっさとケリをつけるか)
周囲と馬車の状況を確認しながら、大鎌を薙ぐロニ・カルディス(ka0551)。接近してくる敵を1体ずつ確実に仕留めていたが、唐突にその手を止めた。
彼が居るのは、馬車の右側面。荷台から20m程度離れた位置で、敵の接近を阻止している。見える範囲内に残っている雑魔は、あと3体。その全てを一気に叩くため、ロニは馬を走らせながら鎌にマテリアルを込めた。
狐達を射程に収めた瞬間、それを一気に解放。彼の全身から光の波動が広がり、周囲の敵を飲み込んでいく。光が衝撃と化して全身を駆け抜け、内側から雑魔を破壊。閃光が消えた時、周囲の雑魔は全て力尽きていた。
残党や増援が無い事を確認し、ロニは魔導短伝話を操作。地図を取り出して地形を確認しながら、仲間と連絡を取った。
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数時間後。ハンター達と馬車は、森の中に身を隠していた。先を急ぎたいが、無計画に走ったら馬の体力が持たないし、負傷や事故に繋がる。確実に荷物を運ぶため、休憩する事を選んだ。
「現在位置は……全行程の中間くらいか。予想以上に敵襲が多いな」
兵庫は地図と周囲の地形を照らし合わせ、現在位置を予測。前半の道中を思い出し、少しだけ溜息を吐いた。
「それだけ、相手も必死なんだろう。最後まで守り抜かないとな」
覚悟を口にし、気合を入れ直すロニ。その茶色い瞳に、迷いは一片も無い。口調も雰囲気も冷静だが、その内面は熱い想いで溢れていた。
「馬車も御者さんも、被害はありません。いつでも選定ルートに戻れますよ」
地図を眺める2人に、セシルが声を掛ける。彼女の言葉通り、こちらの損害は皆無。御者と馬に若干の疲れが見えているが、それ以外の問題は無い。
今回、ハンター達は事前に帝都までの道程を調べ、進むべきルートを決めていた。見通しが良い事を第一に、整備されて走り易い道を選定。そうやって決めたルートに従い、ずっと走ってきた。
今は休憩のために若干ルートから外れているが、予定の道に復帰するのも時間の問題だろう。
誰もが乗り物から降りて体を休める中、ライナスだけは周囲を警戒して目を光らせていた。
「ダンナ、休憩せんの? 休める時に休まんと、バテるで?」
棒付きのアメを舐めながら、文太が心配そうに声を掛ける。彼の声を背中で受けながら、ライナスは視線を向けずに言葉を返した。
「いつ敵が襲って来るか分からん。1人くらい、見張り役が必要だからな」
言葉と共に、煙草の煙を吐き出す。彼はハンターになる前、傭兵として幾多の戦乱を乗り越えてきた。その時の経験や技術は、今でも活かされている。誰にも言わずに見張りをしているのは、最年長者として気を遣ったのかもしれない。
「いや……どうやら、もう見張りは必要無いぜ?」
近くに居た旭が、溜息混じりに口を開く。森に入った時から、彼は定期的に動物霊の力を借りて聴覚を強化していた。その耳に届いたのは……独特かつ大量の足音。今日になって何度も聞いた、ゾンビ狐が走る音である。
敵の接近を知らされ、出発の準備を急ぐ一同。慌ただしい空気の中、ミューレは結の耳元で静かに呟いた。
「馬車も結も、傷一つ付けさせない。だから……無理しないでね?」
「えへへ、こっちは大丈夫ですっ!」
大切な彼氏の言葉に照れながらも、グッと拳を握る結。ミューレは一瞬だけ心配そうな表情を浮べたが、彼女を信じて笑顔を返した。
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森から選定ルートに戻り、先を急ぐ覚醒者達。休憩後も狐達の襲撃はあったが、敵の数も回数も大幅に減少していた。5匹前後の集団が、3回出ただけである。
穏やかな旅路が続き、全行程の8割が過ぎた頃、目を疑うような光景が飛び込んで来た。
視界の先に広がる、黒の大群……それがゾンビ狐の群れだと気付くまで、数秒の時間を要した。散発的な襲撃では勝てないと感じたのか、戦力を集中させたようだ。数えるのも面倒だが、少なくても50匹は超えているだろう。
(敵の動き……まるで補給物資を届けさせまいとしているようだ。黒幕が裏で指示を出している……と考えるべきか)
雑魔達の動きを観察し、思案を巡らせるミューレ。知能の低い雑魔達が、本能的に補給部隊を襲っているとは考え難い。だからと言って、黒幕が居るという確証は無いのだが。
『文字通り『腐っても妖狐』といったところか……悪いが、通して貰うぞ』
『だな。敵が何だろうと押し通る! 邪魔するなら叩き潰してやるぜ!』
魔導短伝話から聞こえる、ロニと旭の決意。敵の数が圧倒的に多い状況で撤退しても、逃げ切れる可能性は低い。むしろ、敵を倒しながら進んだ方が損害が少ないと考えたのだろう。
その想いは、他のハンター達も同じである。逃げる事を考えている者は1人も居ない。
先陣を切るように、旭、ロニ、ミューレの偵察部隊が急加速。雑魔を殲滅して血路を拓くため、敵陣に突っ込んでいく。
彼らを迎え撃つように、狐達も一斉に突進。数秒だけ間を置いて、馬車と護衛の覚醒者達も速度を上げた。
馬の速度を活かし、遊撃のように動き回る旭。炎球を撃つために『尻尾を上げている狐』を優先的に狙い、戦槍で貫いていく。
ロニが鎮魂の歌声で敵の動きを鈍らせると、追撃するようにミューレが火の球を放つ。火炎と爆風が敵を纏めて飲み込み、敵を纏めて死骸に還した。
炎球で倒れなかった敵には、ロニが聖なる光で更に攻撃。眩しい光に包まれながら、数匹の狐が力無く崩れ落ちた。
「今回の任務、失敗は出来ない。俺も全力で当たる事としよう……!」
兵庫は静かに闘志を燃やし、槍を薙いで雑魔を斬り散らす。更に武器を大きく振り回し、遠心力を加えた一撃で敵の体勢を崩した。バランスを失った雑魔は仲間を巻き込みながら倒れ、足並みが乱れる。
倒れた敵を狙って、ライナスの銃撃が降り注いだ。正確無比の銃撃が狐の頭部を貫通し、永遠の眠りへと誘う。
「俺達の目的は『荷物を届ける事』だ。戦闘は最小限でも良い、馬車を進ませるんだ……!」
叫びながら、ライナスは短剣を構えた。銃を扱う者の大半は、接近戦が苦手な傾向にある。ライナスは剣を使う事でそれを補い、急所狙いの一撃必殺を考えていた。
もう1人の銃使い、文太は、間断の無い射撃で敵の動きを牽制している。
「来未の嬢ちゃん! 御者のフォロー頼むで!」
狐達を攻撃しながらも、文太は結に向かって叫んだ。敵の数が多いという事は、御者が巻き込まれる可能性も高くなる。文太の容姿はヤンキー風だが、本当は気さくな青年のようだ。
「了解です! 必ず守ってみせますよ!」
元気に言葉を返し、結はマテリアルを光に変えて全身から放つ。先に攻撃して倒してしまえば、敵の攻撃を受ける事は無い。つまりは、先手必勝。光の波動に晒され、狐達は戦う力を失って地面に伏した。
その波動から輝く光弾が溢れ出し、近くに居た敵を貫く。
「癒しばっかがクルセイダーじゃねえ! って……これも広義じゃ『癒し』なのか?」
光弾で敵を射抜いたクルスが、自問自答するように言葉を漏らした。死体型雑魔を倒すと、歪虚から普通の死骸に戻って力尽きる。歪虚の力から解放され、生物と同じ『死』を迎えるのは、拡大解釈すれば『癒し』と表現できるかもしれない。
とは言え、物騒極まりない癒しではあるが。
全員が一丸となった進撃で雑魔の数が徐々に減り、馬車は確実に前進している。狐が荷台に接近する事はあるが、攻撃される前に殲滅しているため、被害は無い。『このまま押し切れる』と、誰もが思い始めていた。
その淡い希望を打ち砕くように、馬車の遥か後方から複数の炎球が放たれた。
50匹近いゾンビ狐は、全て囮。本命は、手薄になった後方から荷台を狙う事だったのだ。気付いた時には、もう遅い。迎撃も回避も難しい距離まで炎球は迫っていた。
次の瞬間、荷台を守るように土の壁が出現。それが炎球の着弾を防ぎ、全ての攻撃を受け止めると、砕けて火の粉と共に舞い散った。
「もう、私達の邪魔をしないで下さい」
崩れた土壁の奥に立っていたのは、セシル。本来、この壁は敵の進行を邪魔するために使うつもりだったが、予定変更である。彼女の機転で、馬車と積荷は最大の危機を乗り越えた。
攻撃が防がれた事を知り、再び炎球を放とうとする雑魔達。敵が尻尾を振り上げるのと同時に、2つの疾風が戦場を駆け抜けた。
「そいつはやらせねぇぜ! 吹っ飛べッ!!」
裂帛の気合を込め、旭が武器を叩きつける。重々しい一撃が狐に直撃し、衝撃で弾き飛ばされて仲間諸共バランスを崩した。
「死骸は大人しく、ちっとは安らかに寝てろってんだよ!」
荒々しく叫び、クルスは鎮魂の旋律を歌い上げる。歌声が敵の動きを鈍らせると、ミューレやライナスが援護攻撃して雑魔を永遠に眠らせた。クルス自身も大鎌を掬い上げるように振り、ゾンビ狐の首を斬り落とす。
仲間をどれだけ倒されても、雑魔達は進行を諦めない。ハンター達の攻撃を掻い潜って接近してくる狐達に向かって、文太は殺気の籠った視線を向けた。
(それ以上近づくんじゃねぇ……!)
無言の圧力。睨んだ瞳が、彼の心情を雄弁に物語っている。そのまま引金を引くと、殺気の宿った弾丸が狐の眉間を貫通。ゆっくりと、雑魔の体が崩れ落ちた。
敵の策略を正面から打ち破り、殲滅の続けるハンター達。周囲が『黒』で埋め尽くされ、全ての敵が動かなくなったのは、それから数分後の事だった。
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太陽が西に傾き始めた頃、馬車は無事に帝都へ到着。ハンターズソサエティと連絡を取り、早速荷物の受け渡しが行われた。
「では、以降の作業はよろしくお願いします」
担当職員に馬車を任せ、深々と頭を下げるセシル。職員と御者は一礼を返し、馬車と共に帝都の奥へと進んでいった。
これで、護衛任務は完全に終了である。
「お疲れ様。良く頑張ったね、結」
ミューレは柔らかく微笑みながら、結の頭を撫でる。内心では彼女が怪我をする事を心配していたが、幸いにも外傷はナシ。ようやく胸を撫で下ろした。
「ミューレさんこそ♪ 何事も無くて、本っ当に良かったです……」
心配していたのは、結も同じである。何かあったら……と不安になった時もあるが、無事に依頼は終わった。嬉しくて涙が零れそうになるのを我慢し、結は満面の笑顔を彼に返した。
「補給物資の輸送は今回限りではない以上、以降の補給計画を立てておくべきなんだろうな……」
兵庫の言う通り、補給物資は今回で終わりではない。東方が戦場になっている限り、何らかの救援は必要だろう。
だが……。
「それはハンターズソサエティや各国の代表が考える事だ。俺達の『仕事』は別にある……そうだろ?」
ロニが言う仕事……それは、歪虚と戦う事。これは、覚醒者にしかできない事である。
そして、彼らの活躍は平和に繋がる『道』となっていく。今回の依頼も、東方の前線で戦う者達へと繋がった。そういった繋がりや絆が、いつか全ての歪虚を倒す力になるのかもしれない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 榊 兵庫(ka0010) 人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/08/13 07:12:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/12 21:45:53 |