森の王者とその代償

マスター:明乃茂人

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/24 19:00
完成日
2014/08/02 02:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 思い出されるのは濃く深い緑の匂いと、足元で鳴る小枝の音。
 加えて歩むごとに見つかる、様々ないきものの姿。
 むっとした草いきれの中を歩いて、森の中へと進んでゆく。

 色鮮やかな花を見て、顔を綻ばせることもあった。
 木に止まる虫の姿を見つけては、
「なんでこんな形なんだろう?」
「どうして、この場所にいるんだろう?」
 なんてことをいつまでも考えながら、じいっと眺めたこともあった。

 今となっては他愛のない疑問だったと思う。
 幼い頃から好きだった、なんて言ってみると少々照れくさいのだけれど、わたしにとっては身近で、大切な場所。それが――

「クレアせんせーいっ!」

 夏の日差しが降り注ぎ、木々の影を濃く落とす。そんな季節のことだった。
 まだ声変りも迎えぬ声が、窓際の椅子に腰掛けていたクレアの耳朶を打つ。
 ゆっくりと目を開けてから、手元の本に栞を挟み、一度大きく伸びをする。
 ふぅ、と一息をついて窓から外を見ると、走り寄ってくる少年の姿が見えた。

 もう一度、手元に視線を落とす。
 少々擦り切れてしまった表紙に踊る、「もりのいきもの」の文字。
 子供の頃好きだった図鑑を読み返していたら、
 少しうたた寝してしまったようだった。
 日頃いねむりはしないように、と言っている側なのにこの体たらく。
 気をつけないといけない。

 少し待つと、どたどたと足音を立てて少年も部屋に入ってきた。
 改めて近くで見てみると、身体も顔もずいぶんと汚れている。
 年の頃は七つかそこら。
 同年代がいないせいか、休みに入ってもよく顔を出しに来るのだ、学校まで。
 つまりは見慣れた顔であり、馴染みの状況である。

「……今日は、どうしたの?」
 こちらから水を向けてみると、
「えへへ、また凄いの見つけたからさ。ちょっと一緒に来てみてよ!」
 ――そう、顔をほころばせながらこの子は言うのだ。いつものように。


「えっと……次は、こっち……うん、そう」
 前を歩く少年は、前もって付けておいた目印を頼りに目的地へ向かっていく。
 下生えへ分け入りながら進む少年は、後ろから見ていても少々危なっかしい。

 一方あとへ続くクレアの方からしてみれば、幼少の頃から馴染んだ森である。
 踏み入る際になるべく草花を潰さぬようにしよう。とか、
 足元に虫はいないだろうか、などと気にすることはあれど、
 奥へ進むだけならさしたる苦労もない。
 驚かせようとしていると聞いたところで、そう緊張することもないのだ。実際は。

 しかし、しかしだ。
 かつての自分と同じように森を好いた少年が、
 「コレなら先生は驚く!」と考えて見つけてきた状況、生き物。
 これにはやはり、わくわくする。
 むろん驚きもあるが、それ以上に懐かしくなるのだ。
 探し出すにあたり、一体どれほどこの森を歩いたのか。
 どんなものを見つけ、実際に触れてみたのか。
 そんな話を聞いていると、かつての自分と重ねてしまったりもする。
 加えて色々と、思い出してしまうのだ。

「あっ……もう少しだよ先生!」
 気づけば、随分と森の深くまで来ていた。
 少年も慣れているとはいえ、少し注意しなければ、などと考えたところで、妙なことに気づく。
 夏の森ともなれば、通常は様々な生き物が息づいている。
 多少周囲に目を凝らせば何かしら見つかるはずだし、聞こえるはずだった。
 だが、それ等がないのだ。
 見回しても姿は見えず、耳を澄ましてみても鳥や蝉の声すら聞こえない。
 何かが、おかしい。そう結論づけた時、前方の草むらがざわめいた。

「――!」
 ――咄嗟に身構えるも出てきたのは兎で、
 そっと息を吐いたところ突然視界が開けた。
「先生っ、ほら――!」

 突然の明るさの変化に目が慣れて、景色が薄ぼんやりと見えてきて、
「ぅ、あぁ……」

 焦げ茶と黒の体表が、夏の日差しを照り返す。
 節ごとに刺が生えた両足が、地面をがっしと掴んでいた。
 感情を映さない無機質な目が、お互いの様子を油断なく伺って動かない。
 大木をも両断できるであろう顎がギチギチと動き、
 向かうそそり立つ角を挟み込んで対峙する。


 ――見えたのは、巨大なカブトムシとクワガタが戦っている姿だった。


「ほらっ、凄いでしょ! あんなの見たことないもん、ぼく!」
 傍らで少年が騒ぐ。だけど、今見ているクレアとしてはそれどころではない。
 確かに一瞬目を奪われはした。
 それに少年心として、カブトとクワガタ、
 おまけにでっかい奴が戦っていたらそれは盛り上がることだろう。

 だけど、自分は違う。あれが何か、わかるのだ。
 かつて街で学んだ時に見知った、『魔法生物』。
 あの巨体、あの威容。そうとしか、考えられなかった。
 
 じっと観察を続ける。見てみれば足元には根こそぎにされた木が転がり、土をまだつけた根が露わになっている。ちょくちょく見慣れた動物の脚が見えていて、周囲への被害は確定的だった。もう、疑う余地もない。
 唇を噛みしめる。己のせいではないとはいえ、既に被害は出ていた。
 それも自分の好きな場所で、だ。
 となれば、対処方がそうあるわけでもない。
 この場からたたき出すか、それとも――

 対峙する両者が、ゆっくりと身動ぎをする。
 響く振動が、確かに自分たちとは違う膂力を感じさせ、
「――ッ!」

 クレアは少年の手を掴んで走り出す。
「ねっ、ねぇっ! どうしたのっ、先生!」
 問う声も、今は耳に入らない。その余裕が、ない。

 先ほど見た光景が思い出される。
 向かい合う両者、身の丈は優に五メートルは超えていた。

 今はまだ向い合って沈黙しているが、動き出したら、どうなるか。
 少しだけ身動ぎしただけで、自分たちまで届いたあの地響き。
 踏み荒らされ、荒れ果ててしまった草木。
 よく見れば薙ぎ倒されて、木々がぽっかりと空いてしまった広場。
 自分の好きな森が、生き物たちが、どうなってしまうのか。
 先を想像した所で、そのままあの二体にまで想像が及ぶ。

 だけど、あの二体もまた生きているはずで、
 ――巨大化してしまったのも、彼らのせいではなかったはずなのだ。
「――ッ」
 しかし、現実に被害は出ている。
 加えて、もしあの二体が村まで来たら、自分たちに対処する術は、ない。
 走りながらも鋭く息をつき、村の教師クレアは決断する。


「お願いしたいことが、あります」
 夏の日差しも弱まらぬ中、ある一人の女性がハンターズオフィスを訪れた。
 華奢な体つきに、どことなく不安げな様子が伺える。
 恐らく、こういった場所に慣れていないのだろう。
 それとも、今から言おうとすることに、慣れていなかったのだろうか。
「退治して――いや、倒していただきたい生き物が二体……います
 どうか、……あの二体を、倒していただけないでしょうか」
 そう言った彼女の瞳には、強い決意の色が宿っていた……

リプレイ本文

●怪獣大決戦(仮)
 荒れ果てた森の中央、のことである。
 ぽっかりと空いた広場の中をところ狭しと駆け巡る、二匹の巨大生物が居た。
 一方は赤銅色の甲を鎧った、角そそり立つカブトムシ。
 対峙するは大顎門(あぎと)、黒鉄色に身を輝かしたクワガタである。
 双方が秘めた膂力は、確かに森の王者と言うに相応しいものだった。
 しかし、森の王者は二つと要らない。
 
 故にぶつかり合う両者。いやはや全く譲らない。
 踏み込みの衝撃で大地は揺れ、噛みあわせた大顎と角からは、火花が飛び散らんばかり。
 周囲の地形を瞬く間に変えてゆく。

「カブトとクワガタの大喧嘩! なんと楽……いや、大変な事件じゃ……!」
 成る程。夏の怪獣大決戦、男子の夢を具現化。
 背後で様子を伺っていたオイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)の言も、常ならば納得できたかもしれない。
 見る者の胸が高鳴る場面として、説明できたかもしれない。

 ――が、今眼前に広がる光景を改めて見てみる。
 照りつける太陽に、ゆっくりと流れゆく雲。
 丸太は踏み込みの余波で圧し折れ、掘り返された大岩が宙を舞っている。
 浪漫を感じぬはずがない。と断じるには、
「いやいやニィナ、程度ってもんがあるでしょ、流石に」
 エルネ(ka2303)が顔を引きつらせて言う通り、限度を超えた光景だった。

 なにせ、怪獣大決戦(仮)である。地は砕け、木々は根こそぎになるなど序の口、
「まぁ、浪漫は感じっけど……うっわ見てみろアレ、今の岩、すげぇ高さまでっ!
 ……こりゃ、確実に仕留めなきゃなぁ」
 リュー・グランフェスト(ka2419)が指さすように、周囲にもなにやら影響を及ぼしていたりもする。
 具体的に言うなら、瓦礫と土砂が飛んでいる。がっつりと。
「彼らに恨みは無いですが……確かに、捨て置くわけにはいきませんね……」
 傷ついてゆく森を見て、ぎゅっと胸の前で手を握りしめたメトロノーム・ソングライト(ka1267)が呟くと、
「仕留めるなら、まずは具体的な手段。素人じゃないんだ、そうだろう?」
 尊大な態度でくつくつと笑う、バイオレット(ka0277)が応じる。
「なら……合図は俺が出す。目標が組み合ったら突撃だ。いいか――」
 すっ、と柊 恭也(ka0711)が手を挙げた。
 一行がそれぞれ、奇襲へ向け備える。
 斧を構えたニィナ(オイゲーニエ・N・マラボワ)、覚醒した瞳は紅に輝き、対峙するカブトを鋭く見据えた。
 隣に立つエルネも同じく覚醒、全身に赤い粒子を纏う。
 『集中』してカブトへ狙いを定め、恭也の合図を待つ。

●兜虫
 木陰から広場を窺う恭也の頬に、汗が伝う。
 眼前では巨大カブトとクワガタが対峙している。
 依然として、油断はならない状況であり、己の背後では、仲間が自分の合図を待っているのだ。
 汗を拭い、必死に目を凝らす。
 眩く光を照り返す目標、撓めた脚が引き絞られ、今まさにぶつかり合――

「――今だッ、攻撃開始!」
 叫ぶと同時、恭也は『攻性強化』を使用したP5の引き金を絞る。
 マテリアルで強化されたアサルトライフルP5は、怒涛の勢いで陸上用の弾丸を撃ち出した。
 
「先ずは……これっ!」
 吐き出される銃弾を追うが如く、背後から光の矢が飛び出した。
 エルネが放つは『マジックアロー』。
 『集中』のお陰か、確かにカブトの胸へ着弾。
 連続して直撃する光の矢は正に必殺のそれ、徐々に――着実に、カブトの姿勢を崩す。

「行きなさい――」
 次いでメトロノームが詠唱、数多の礫(つぶて)を撃ち放った。
 
「――!?」
 突然の背後からの奇襲を受けて、カブトの姿勢が大きく傾ぐ。
 間を開けず、カブトの下へ疾走する影があった。
「喰らいなァ!」
 突き出された角を弾いて、リューは側面へと『踏み込んだ』。
 得た加速を活かして『強打』、カブトの横腹からバランスを崩すべく一撃。
 硬い甲皮を両断、とまではいかないものの、確かにその斬撃はカブトの翅へと食い込んだ。
 
 大きく姿勢を崩したカブトを見て、すかさず狙いを切り替える者もいた。
「――貰うぞッ、片脚ィ!」
 すり抜けざまの鋏一閃。
 バイオレットは鮮やかに、カブトの脚一本を捩じ切った。
 そのまま背後、追ってきたメトロノームと共にクワガタの方へ突っ込んでいく。
 

 遅れて突入してきたニィナも負けてはいない。
「妾(わらわ)の戦斧――軽くはないぞッ!」
 カブトの首元、強く『踏み込んで』下からの『強打』。
 首元の節を狙い、全力でカチ上げる。
 体制を崩していたカブトは、踏ん張りが利かず頭を持ち上げられる形となった。

「へっ……負けちゃあいられねぇなぁ!」
 側面に立つリューが、仲間の姿を見て自分も踏み込もう、とした時だった。
 ぞくり、とした冷めた違和感。
 思わず踏み込みを止め、頭上を見上げる。
 すると、頭をカチ上げられていたはずのカブトが、こちらを見下ろしていた。
 感情を映さない複眼と、鈍い輝きを放つ角が目に入る。
 そして、その角がまっすぐにこちらへ振り下ろされ――
「――!」
 咄嗟に跳躍、剣で受け流すようにカブトの角をすり抜ける。
 背後からの破砕音、次いで背中で感じる衝撃。
 着地してから振り向けば、カブトの一撃で地面がめくれ上がっていた。
 もし直撃を受けていれば、ひとたまりもなかったに相違なく、リューの背に、冷たい汗が流れる。

「――まだだッ!」
 響く恭也の声で我に返ってみれば、眼前のカブトはどうやら「飛ぶ」つもりなようだった。
 翅を広げて、周囲の大気を震わせている。
「くぅ……ッ!」
 共に戦っていたはずのニィナは、どうやら先程の打ち下ろしをマトモに喰らったらしい。
 土煙にまぎれてか、姿が確認できなかった。
「位置が悪いか……!」
 叫ぶ恭也の声には焦りが滲み、銃弾を撃ちこむものの、甲皮の陰となった翅は狙えない。
 カブトはかすかに怯んだが、依然飛び立とうとしたままだった。

 一度、大きく深呼吸。乱れた呼吸と精神を、徐々に落ち着かせていく。
 狙うのは一瞬だ。機会も一度。やり直しは利かない。
 握る剣の柄が軋む。眼前のカブトを睨みつけ、ただその一瞬を待った。
 ――目の前で、カブトの身体が、浮いて、
「――ッ!」
 踏み込んだ。
 一息に跳躍、カブトの翅の付け根を狙い、剣を全力で振り下ろす。
 そう、カブトが宙に浮きかけたその一瞬。
 身体の自由が利かず、勢いもない刹那。
 この瞬間を、待っていたのだ――!

「狙いっ、どおりだね……ッ!」
 時を同じくして、もう一方の翅も光の矢にて撃ち抜かれる。
 カブトが無防備になる一瞬を待っていたのが、リューだけであったはずもなく。
 エルネも同じく、『集中』を重ねて機をうかがっていたのである。
 放たれた『マジックアロー』は甲皮ごと翅を吹き飛ばし、そのまま虚空へと散り、消えていく。
 
 斬り裂かれ、或いは撃ち落とされたカブト諸共に墜ちる。
 その中で、リューは最後の一閃を放つべく、静かに剣を握り直した。
 狙うは節目。急所を、確実に斬る必要がある。
 『ヒッティング』――柔らかな肉を、刃先が正確に通り抜けていった。

●鍬形
 つまる所この戦い、勝敗が決まっていた、とも言える。

 対峙する両者の様子を窺って、突入の機を計ったこと。
 片方へ全力の攻勢をかけ、仕留め切れぬと見るやすぐさま分かれたこと。
 そして、抑えに回った二人が、着実に時間を稼ぐことに終始したこと。

 これ等は、着実に一行へ勝利をもたらしつつあった。
 歌い続けるメトロノームは受けを意識し身を鎧い、後衛としての役目を着実に果たしていた。
 前衛として動いた、バイオレットの方はと言えば、周囲の地形をよく踏まえ、的確に次の手段を打てていた。

 結果、クワガタの翅を一枚奪えたのも、金星とはいえ、当然――と、言えたかもしれない。
 
 ――が、彼女らは知らなかった。
 
 クワガタの翅を引きちぎり、さて、一度下がるかと、バイオレットが考えた時だった。

 突如飛来した礫が、彼女の頭を打ったのは。

 ――彼女らは知らない。知る由もない。

 背後でカブトが、起死回生すべく角の一撃を放ったことを。
 結果地面はめくれ、辺りには土石が飛び散ったことを。
 
 結果としてバイオレットの姿勢は乱れ、迫るクワガタへの対処が一手遅れる。

「……ッ!」

 しかし、目の光は消えていない。眼光は炯々として、確かな戦意を湛えていた。
 姿勢を崩しながらも、彼女は確かに狙っていたのだ。
 ――この状況から抜け出す為の一手を。淡々と、着実に。


「仲間は……やらせぬのじゃ!!」
 滑りこんで来たのは、銀色の影だった。
 戦斧から火花が散り、仄かに焦げ臭い匂いが漂う。
 頭から血を流しつつも、ニィナがクワガタを受け止めていた。
 踏み込んだ勢いを活かして、そのまま大顎を抑え続ける。
 
 そう、ニィナには見えていた。
 目の前で爆ぜた地面と、その先で戦うバイオレットたちの姿が。
「ぐぅ……っ」
 が、カブトの一撃を喰らい、更にはクワガタをもニィナは受け止めていた。
 余力は、最早残っていない。徐々に力負けして、クワガタの顎が閉じてゆく。

「悪ィ、待たせたな!」
 頭へ浴びせられる銃撃で、クワガタが大きく怯んだ。
 恭也のお陰で生まれた、この刹那。
 ニィナとバイオレットは機を逃さず、後方へ大きく距離を取った。
 ――カブトを倒した仲間たちが、援護へやってきたのだ。

 その姿を見て、メトロノームは大きく息を吐いた。
「出し惜しみはなし……ですね」
 言うと同時、先ほどまでに倍する歌声が、周囲へ響き渡った。
 澄んだ声が大気に流れ、共鳴する旋律は、鋭い風を何条も生み出しては宙を走る。
 精霊に捧ぐ歌声は大地へと染み渡っていき、メトロノームの足元から、青く輝く礫を放たせた。
 それらは体勢を立て直しつつあったクワガタの身体を切り裂き、めり込み、確実に動きを封じていく。
 
 飛び交う旋風と銃弾、飛礫の狭間でのことだった。
 少し下がったバイオレットは、静かに『マテリアルヒーリング』を発動。
 ――機を、待っていたのだ。
 確実に仕留められる、その一瞬を。

 刹那が引き伸ばされ、時が圧縮されていく。
 そして――その時は、来た。

「遅れたけど……これでっ、終いだ……ッ!」
 『集中』を終えたエルネが、こちらへ合流したのだ。
 飛礫、旋風、銃弾に光の矢。四種交じり合う弾幕がクワガタの甲皮を穿ち、動きを止める。
 
「――」
 踏み出す。
 クワガタとの間に飛び交う、銃弾と旋風を潜り抜ける。
 寸前の回避が続いて、身を掠める攻撃がいつしか頬を切り裂いていた。
 しかし、舞う血の雫は直ぐに吹き散らされる。

 ――今になって、漸くクワガタはこちらへ気づいたようだった。

 遅い。今さら何をするつもりなのか。
 跳躍。
 一瞬で、クワガタの背へ飛び乗った。
 そのまま鍬をもたげた頭へ向かい、胸との隙間に鋏を抉り込む。
 そして、一息にその首を捩じ切った――

●夏草
 静かな、ある朝方のことである。
「随分と、静かになってしまったものね……」

 荒れ果てた森の中央、ぽっかりと空いた空間に、クレアは佇んでいた。
 呟きが、不思議に静けさを保つ辺りの中で、なにやら浮かび上がっているようだ、とクレアは思う。

 以前のように、自分たち以外の息吹を感じられるようになるまで、はたしてどれ位かかるのだろうか。

「せんせー! ほらっ、ここ見てみてよ!」
「えぇ、と……?」
 広場の端まで行って、少年の指差す先を見てみる。

 すると、
「……あら……!」
 地面から這い上がってきた、蝉の幼虫を見つけたのだ。
 脱皮したばかりなのだろう、まだ色の薄い身体のままに、木の幹へしがみついていた。

 ぼんやりと、考えていたことがあった。
 自分はこうして、何度も悲しい思いをしても、また森へ来るのだろうなぁ、とか。
 平和な森を取り戻してくれたハンターの皆さんに、こんど、また改めてお礼を言いに行こうだとか――

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • バイオレット(ka0277
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • Commander
    柊 恭也(ka0711
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師

  • エルネ(ka2303
    人間(紅)|15才|男性|魔術師
  • スパイス・ボンバー
    オイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304
    ドワーフ|10才|女性|闘狩人
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
柊 恭也(ka0711
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/07/23 17:37:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/21 00:09:44