ゲスト
(ka0000)
森の王者とその代償
マスター:明乃茂人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/24 19:00
- 完成日
- 2014/08/02 02:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
思い出されるのは濃く深い緑の匂いと、足元で鳴る小枝の音。
加えて歩むごとに見つかる、様々ないきものの姿。
むっとした草いきれの中を歩いて、森の中へと進んでゆく。
色鮮やかな花を見て、顔を綻ばせることもあった。
木に止まる虫の姿を見つけては、
「なんでこんな形なんだろう?」
「どうして、この場所にいるんだろう?」
なんてことをいつまでも考えながら、じいっと眺めたこともあった。
今となっては他愛のない疑問だったと思う。
幼い頃から好きだった、なんて言ってみると少々照れくさいのだけれど、わたしにとっては身近で、大切な場所。それが――
「クレアせんせーいっ!」
夏の日差しが降り注ぎ、木々の影を濃く落とす。そんな季節のことだった。
まだ声変りも迎えぬ声が、窓際の椅子に腰掛けていたクレアの耳朶を打つ。
ゆっくりと目を開けてから、手元の本に栞を挟み、一度大きく伸びをする。
ふぅ、と一息をついて窓から外を見ると、走り寄ってくる少年の姿が見えた。
もう一度、手元に視線を落とす。
少々擦り切れてしまった表紙に踊る、「もりのいきもの」の文字。
子供の頃好きだった図鑑を読み返していたら、
少しうたた寝してしまったようだった。
日頃いねむりはしないように、と言っている側なのにこの体たらく。
気をつけないといけない。
少し待つと、どたどたと足音を立てて少年も部屋に入ってきた。
改めて近くで見てみると、身体も顔もずいぶんと汚れている。
年の頃は七つかそこら。
同年代がいないせいか、休みに入ってもよく顔を出しに来るのだ、学校まで。
つまりは見慣れた顔であり、馴染みの状況である。
「……今日は、どうしたの?」
こちらから水を向けてみると、
「えへへ、また凄いの見つけたからさ。ちょっと一緒に来てみてよ!」
――そう、顔をほころばせながらこの子は言うのだ。いつものように。
●
「えっと……次は、こっち……うん、そう」
前を歩く少年は、前もって付けておいた目印を頼りに目的地へ向かっていく。
下生えへ分け入りながら進む少年は、後ろから見ていても少々危なっかしい。
一方あとへ続くクレアの方からしてみれば、幼少の頃から馴染んだ森である。
踏み入る際になるべく草花を潰さぬようにしよう。とか、
足元に虫はいないだろうか、などと気にすることはあれど、
奥へ進むだけならさしたる苦労もない。
驚かせようとしていると聞いたところで、そう緊張することもないのだ。実際は。
しかし、しかしだ。
かつての自分と同じように森を好いた少年が、
「コレなら先生は驚く!」と考えて見つけてきた状況、生き物。
これにはやはり、わくわくする。
むろん驚きもあるが、それ以上に懐かしくなるのだ。
探し出すにあたり、一体どれほどこの森を歩いたのか。
どんなものを見つけ、実際に触れてみたのか。
そんな話を聞いていると、かつての自分と重ねてしまったりもする。
加えて色々と、思い出してしまうのだ。
「あっ……もう少しだよ先生!」
気づけば、随分と森の深くまで来ていた。
少年も慣れているとはいえ、少し注意しなければ、などと考えたところで、妙なことに気づく。
夏の森ともなれば、通常は様々な生き物が息づいている。
多少周囲に目を凝らせば何かしら見つかるはずだし、聞こえるはずだった。
だが、それ等がないのだ。
見回しても姿は見えず、耳を澄ましてみても鳥や蝉の声すら聞こえない。
何かが、おかしい。そう結論づけた時、前方の草むらがざわめいた。
「――!」
――咄嗟に身構えるも出てきたのは兎で、
そっと息を吐いたところ突然視界が開けた。
「先生っ、ほら――!」
突然の明るさの変化に目が慣れて、景色が薄ぼんやりと見えてきて、
「ぅ、あぁ……」
焦げ茶と黒の体表が、夏の日差しを照り返す。
節ごとに刺が生えた両足が、地面をがっしと掴んでいた。
感情を映さない無機質な目が、お互いの様子を油断なく伺って動かない。
大木をも両断できるであろう顎がギチギチと動き、
向かうそそり立つ角を挟み込んで対峙する。
――見えたのは、巨大なカブトムシとクワガタが戦っている姿だった。
「ほらっ、凄いでしょ! あんなの見たことないもん、ぼく!」
傍らで少年が騒ぐ。だけど、今見ているクレアとしてはそれどころではない。
確かに一瞬目を奪われはした。
それに少年心として、カブトとクワガタ、
おまけにでっかい奴が戦っていたらそれは盛り上がることだろう。
だけど、自分は違う。あれが何か、わかるのだ。
かつて街で学んだ時に見知った、『魔法生物』。
あの巨体、あの威容。そうとしか、考えられなかった。
じっと観察を続ける。見てみれば足元には根こそぎにされた木が転がり、土をまだつけた根が露わになっている。ちょくちょく見慣れた動物の脚が見えていて、周囲への被害は確定的だった。もう、疑う余地もない。
唇を噛みしめる。己のせいではないとはいえ、既に被害は出ていた。
それも自分の好きな場所で、だ。
となれば、対処方がそうあるわけでもない。
この場からたたき出すか、それとも――
対峙する両者が、ゆっくりと身動ぎをする。
響く振動が、確かに自分たちとは違う膂力を感じさせ、
「――ッ!」
クレアは少年の手を掴んで走り出す。
「ねっ、ねぇっ! どうしたのっ、先生!」
問う声も、今は耳に入らない。その余裕が、ない。
先ほど見た光景が思い出される。
向かい合う両者、身の丈は優に五メートルは超えていた。
今はまだ向い合って沈黙しているが、動き出したら、どうなるか。
少しだけ身動ぎしただけで、自分たちまで届いたあの地響き。
踏み荒らされ、荒れ果ててしまった草木。
よく見れば薙ぎ倒されて、木々がぽっかりと空いてしまった広場。
自分の好きな森が、生き物たちが、どうなってしまうのか。
先を想像した所で、そのままあの二体にまで想像が及ぶ。
だけど、あの二体もまた生きているはずで、
――巨大化してしまったのも、彼らのせいではなかったはずなのだ。
「――ッ」
しかし、現実に被害は出ている。
加えて、もしあの二体が村まで来たら、自分たちに対処する術は、ない。
走りながらも鋭く息をつき、村の教師クレアは決断する。
●
「お願いしたいことが、あります」
夏の日差しも弱まらぬ中、ある一人の女性がハンターズオフィスを訪れた。
華奢な体つきに、どことなく不安げな様子が伺える。
恐らく、こういった場所に慣れていないのだろう。
それとも、今から言おうとすることに、慣れていなかったのだろうか。
「退治して――いや、倒していただきたい生き物が二体……います
どうか、……あの二体を、倒していただけないでしょうか」
そう言った彼女の瞳には、強い決意の色が宿っていた……
思い出されるのは濃く深い緑の匂いと、足元で鳴る小枝の音。
加えて歩むごとに見つかる、様々ないきものの姿。
むっとした草いきれの中を歩いて、森の中へと進んでゆく。
色鮮やかな花を見て、顔を綻ばせることもあった。
木に止まる虫の姿を見つけては、
「なんでこんな形なんだろう?」
「どうして、この場所にいるんだろう?」
なんてことをいつまでも考えながら、じいっと眺めたこともあった。
今となっては他愛のない疑問だったと思う。
幼い頃から好きだった、なんて言ってみると少々照れくさいのだけれど、わたしにとっては身近で、大切な場所。それが――
「クレアせんせーいっ!」
夏の日差しが降り注ぎ、木々の影を濃く落とす。そんな季節のことだった。
まだ声変りも迎えぬ声が、窓際の椅子に腰掛けていたクレアの耳朶を打つ。
ゆっくりと目を開けてから、手元の本に栞を挟み、一度大きく伸びをする。
ふぅ、と一息をついて窓から外を見ると、走り寄ってくる少年の姿が見えた。
もう一度、手元に視線を落とす。
少々擦り切れてしまった表紙に踊る、「もりのいきもの」の文字。
子供の頃好きだった図鑑を読み返していたら、
少しうたた寝してしまったようだった。
日頃いねむりはしないように、と言っている側なのにこの体たらく。
気をつけないといけない。
少し待つと、どたどたと足音を立てて少年も部屋に入ってきた。
改めて近くで見てみると、身体も顔もずいぶんと汚れている。
年の頃は七つかそこら。
同年代がいないせいか、休みに入ってもよく顔を出しに来るのだ、学校まで。
つまりは見慣れた顔であり、馴染みの状況である。
「……今日は、どうしたの?」
こちらから水を向けてみると、
「えへへ、また凄いの見つけたからさ。ちょっと一緒に来てみてよ!」
――そう、顔をほころばせながらこの子は言うのだ。いつものように。
●
「えっと……次は、こっち……うん、そう」
前を歩く少年は、前もって付けておいた目印を頼りに目的地へ向かっていく。
下生えへ分け入りながら進む少年は、後ろから見ていても少々危なっかしい。
一方あとへ続くクレアの方からしてみれば、幼少の頃から馴染んだ森である。
踏み入る際になるべく草花を潰さぬようにしよう。とか、
足元に虫はいないだろうか、などと気にすることはあれど、
奥へ進むだけならさしたる苦労もない。
驚かせようとしていると聞いたところで、そう緊張することもないのだ。実際は。
しかし、しかしだ。
かつての自分と同じように森を好いた少年が、
「コレなら先生は驚く!」と考えて見つけてきた状況、生き物。
これにはやはり、わくわくする。
むろん驚きもあるが、それ以上に懐かしくなるのだ。
探し出すにあたり、一体どれほどこの森を歩いたのか。
どんなものを見つけ、実際に触れてみたのか。
そんな話を聞いていると、かつての自分と重ねてしまったりもする。
加えて色々と、思い出してしまうのだ。
「あっ……もう少しだよ先生!」
気づけば、随分と森の深くまで来ていた。
少年も慣れているとはいえ、少し注意しなければ、などと考えたところで、妙なことに気づく。
夏の森ともなれば、通常は様々な生き物が息づいている。
多少周囲に目を凝らせば何かしら見つかるはずだし、聞こえるはずだった。
だが、それ等がないのだ。
見回しても姿は見えず、耳を澄ましてみても鳥や蝉の声すら聞こえない。
何かが、おかしい。そう結論づけた時、前方の草むらがざわめいた。
「――!」
――咄嗟に身構えるも出てきたのは兎で、
そっと息を吐いたところ突然視界が開けた。
「先生っ、ほら――!」
突然の明るさの変化に目が慣れて、景色が薄ぼんやりと見えてきて、
「ぅ、あぁ……」
焦げ茶と黒の体表が、夏の日差しを照り返す。
節ごとに刺が生えた両足が、地面をがっしと掴んでいた。
感情を映さない無機質な目が、お互いの様子を油断なく伺って動かない。
大木をも両断できるであろう顎がギチギチと動き、
向かうそそり立つ角を挟み込んで対峙する。
――見えたのは、巨大なカブトムシとクワガタが戦っている姿だった。
「ほらっ、凄いでしょ! あんなの見たことないもん、ぼく!」
傍らで少年が騒ぐ。だけど、今見ているクレアとしてはそれどころではない。
確かに一瞬目を奪われはした。
それに少年心として、カブトとクワガタ、
おまけにでっかい奴が戦っていたらそれは盛り上がることだろう。
だけど、自分は違う。あれが何か、わかるのだ。
かつて街で学んだ時に見知った、『魔法生物』。
あの巨体、あの威容。そうとしか、考えられなかった。
じっと観察を続ける。見てみれば足元には根こそぎにされた木が転がり、土をまだつけた根が露わになっている。ちょくちょく見慣れた動物の脚が見えていて、周囲への被害は確定的だった。もう、疑う余地もない。
唇を噛みしめる。己のせいではないとはいえ、既に被害は出ていた。
それも自分の好きな場所で、だ。
となれば、対処方がそうあるわけでもない。
この場からたたき出すか、それとも――
対峙する両者が、ゆっくりと身動ぎをする。
響く振動が、確かに自分たちとは違う膂力を感じさせ、
「――ッ!」
クレアは少年の手を掴んで走り出す。
「ねっ、ねぇっ! どうしたのっ、先生!」
問う声も、今は耳に入らない。その余裕が、ない。
先ほど見た光景が思い出される。
向かい合う両者、身の丈は優に五メートルは超えていた。
今はまだ向い合って沈黙しているが、動き出したら、どうなるか。
少しだけ身動ぎしただけで、自分たちまで届いたあの地響き。
踏み荒らされ、荒れ果ててしまった草木。
よく見れば薙ぎ倒されて、木々がぽっかりと空いてしまった広場。
自分の好きな森が、生き物たちが、どうなってしまうのか。
先を想像した所で、そのままあの二体にまで想像が及ぶ。
だけど、あの二体もまた生きているはずで、
――巨大化してしまったのも、彼らのせいではなかったはずなのだ。
「――ッ」
しかし、現実に被害は出ている。
加えて、もしあの二体が村まで来たら、自分たちに対処する術は、ない。
走りながらも鋭く息をつき、村の教師クレアは決断する。
●
「お願いしたいことが、あります」
夏の日差しも弱まらぬ中、ある一人の女性がハンターズオフィスを訪れた。
華奢な体つきに、どことなく不安げな様子が伺える。
恐らく、こういった場所に慣れていないのだろう。
それとも、今から言おうとすることに、慣れていなかったのだろうか。
「退治して――いや、倒していただきたい生き物が二体……います
どうか、……あの二体を、倒していただけないでしょうか」
そう言った彼女の瞳には、強い決意の色が宿っていた……
リプレイ本文
●怪獣大決戦(仮)
荒れ果てた森の中央、のことである。
ぽっかりと空いた広場の中をところ狭しと駆け巡る、二匹の巨大生物が居た。
一方は赤銅色の甲を鎧った、角そそり立つカブトムシ。
対峙するは大顎門(あぎと)、黒鉄色に身を輝かしたクワガタである。
双方が秘めた膂力は、確かに森の王者と言うに相応しいものだった。
しかし、森の王者は二つと要らない。
故にぶつかり合う両者。いやはや全く譲らない。
踏み込みの衝撃で大地は揺れ、噛みあわせた大顎と角からは、火花が飛び散らんばかり。
周囲の地形を瞬く間に変えてゆく。
「カブトとクワガタの大喧嘩! なんと楽……いや、大変な事件じゃ……!」
成る程。夏の怪獣大決戦、男子の夢を具現化。
背後で様子を伺っていたオイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)の言も、常ならば納得できたかもしれない。
見る者の胸が高鳴る場面として、説明できたかもしれない。
――が、今眼前に広がる光景を改めて見てみる。
照りつける太陽に、ゆっくりと流れゆく雲。
丸太は踏み込みの余波で圧し折れ、掘り返された大岩が宙を舞っている。
浪漫を感じぬはずがない。と断じるには、
「いやいやニィナ、程度ってもんがあるでしょ、流石に」
エルネ(ka2303)が顔を引きつらせて言う通り、限度を超えた光景だった。
なにせ、怪獣大決戦(仮)である。地は砕け、木々は根こそぎになるなど序の口、
「まぁ、浪漫は感じっけど……うっわ見てみろアレ、今の岩、すげぇ高さまでっ!
……こりゃ、確実に仕留めなきゃなぁ」
リュー・グランフェスト(ka2419)が指さすように、周囲にもなにやら影響を及ぼしていたりもする。
具体的に言うなら、瓦礫と土砂が飛んでいる。がっつりと。
「彼らに恨みは無いですが……確かに、捨て置くわけにはいきませんね……」
傷ついてゆく森を見て、ぎゅっと胸の前で手を握りしめたメトロノーム・ソングライト(ka1267)が呟くと、
「仕留めるなら、まずは具体的な手段。素人じゃないんだ、そうだろう?」
尊大な態度でくつくつと笑う、バイオレット(ka0277)が応じる。
「なら……合図は俺が出す。目標が組み合ったら突撃だ。いいか――」
すっ、と柊 恭也(ka0711)が手を挙げた。
一行がそれぞれ、奇襲へ向け備える。
斧を構えたニィナ(オイゲーニエ・N・マラボワ)、覚醒した瞳は紅に輝き、対峙するカブトを鋭く見据えた。
隣に立つエルネも同じく覚醒、全身に赤い粒子を纏う。
『集中』してカブトへ狙いを定め、恭也の合図を待つ。
●兜虫
木陰から広場を窺う恭也の頬に、汗が伝う。
眼前では巨大カブトとクワガタが対峙している。
依然として、油断はならない状況であり、己の背後では、仲間が自分の合図を待っているのだ。
汗を拭い、必死に目を凝らす。
眩く光を照り返す目標、撓めた脚が引き絞られ、今まさにぶつかり合――
「――今だッ、攻撃開始!」
叫ぶと同時、恭也は『攻性強化』を使用したP5の引き金を絞る。
マテリアルで強化されたアサルトライフルP5は、怒涛の勢いで陸上用の弾丸を撃ち出した。
「先ずは……これっ!」
吐き出される銃弾を追うが如く、背後から光の矢が飛び出した。
エルネが放つは『マジックアロー』。
『集中』のお陰か、確かにカブトの胸へ着弾。
連続して直撃する光の矢は正に必殺のそれ、徐々に――着実に、カブトの姿勢を崩す。
「行きなさい――」
次いでメトロノームが詠唱、数多の礫(つぶて)を撃ち放った。
「――!?」
突然の背後からの奇襲を受けて、カブトの姿勢が大きく傾ぐ。
間を開けず、カブトの下へ疾走する影があった。
「喰らいなァ!」
突き出された角を弾いて、リューは側面へと『踏み込んだ』。
得た加速を活かして『強打』、カブトの横腹からバランスを崩すべく一撃。
硬い甲皮を両断、とまではいかないものの、確かにその斬撃はカブトの翅へと食い込んだ。
大きく姿勢を崩したカブトを見て、すかさず狙いを切り替える者もいた。
「――貰うぞッ、片脚ィ!」
すり抜けざまの鋏一閃。
バイオレットは鮮やかに、カブトの脚一本を捩じ切った。
そのまま背後、追ってきたメトロノームと共にクワガタの方へ突っ込んでいく。
遅れて突入してきたニィナも負けてはいない。
「妾(わらわ)の戦斧――軽くはないぞッ!」
カブトの首元、強く『踏み込んで』下からの『強打』。
首元の節を狙い、全力でカチ上げる。
体制を崩していたカブトは、踏ん張りが利かず頭を持ち上げられる形となった。
「へっ……負けちゃあいられねぇなぁ!」
側面に立つリューが、仲間の姿を見て自分も踏み込もう、とした時だった。
ぞくり、とした冷めた違和感。
思わず踏み込みを止め、頭上を見上げる。
すると、頭をカチ上げられていたはずのカブトが、こちらを見下ろしていた。
感情を映さない複眼と、鈍い輝きを放つ角が目に入る。
そして、その角がまっすぐにこちらへ振り下ろされ――
「――!」
咄嗟に跳躍、剣で受け流すようにカブトの角をすり抜ける。
背後からの破砕音、次いで背中で感じる衝撃。
着地してから振り向けば、カブトの一撃で地面がめくれ上がっていた。
もし直撃を受けていれば、ひとたまりもなかったに相違なく、リューの背に、冷たい汗が流れる。
「――まだだッ!」
響く恭也の声で我に返ってみれば、眼前のカブトはどうやら「飛ぶ」つもりなようだった。
翅を広げて、周囲の大気を震わせている。
「くぅ……ッ!」
共に戦っていたはずのニィナは、どうやら先程の打ち下ろしをマトモに喰らったらしい。
土煙にまぎれてか、姿が確認できなかった。
「位置が悪いか……!」
叫ぶ恭也の声には焦りが滲み、銃弾を撃ちこむものの、甲皮の陰となった翅は狙えない。
カブトはかすかに怯んだが、依然飛び立とうとしたままだった。
一度、大きく深呼吸。乱れた呼吸と精神を、徐々に落ち着かせていく。
狙うのは一瞬だ。機会も一度。やり直しは利かない。
握る剣の柄が軋む。眼前のカブトを睨みつけ、ただその一瞬を待った。
――目の前で、カブトの身体が、浮いて、
「――ッ!」
踏み込んだ。
一息に跳躍、カブトの翅の付け根を狙い、剣を全力で振り下ろす。
そう、カブトが宙に浮きかけたその一瞬。
身体の自由が利かず、勢いもない刹那。
この瞬間を、待っていたのだ――!
「狙いっ、どおりだね……ッ!」
時を同じくして、もう一方の翅も光の矢にて撃ち抜かれる。
カブトが無防備になる一瞬を待っていたのが、リューだけであったはずもなく。
エルネも同じく、『集中』を重ねて機をうかがっていたのである。
放たれた『マジックアロー』は甲皮ごと翅を吹き飛ばし、そのまま虚空へと散り、消えていく。
斬り裂かれ、或いは撃ち落とされたカブト諸共に墜ちる。
その中で、リューは最後の一閃を放つべく、静かに剣を握り直した。
狙うは節目。急所を、確実に斬る必要がある。
『ヒッティング』――柔らかな肉を、刃先が正確に通り抜けていった。
●鍬形
つまる所この戦い、勝敗が決まっていた、とも言える。
対峙する両者の様子を窺って、突入の機を計ったこと。
片方へ全力の攻勢をかけ、仕留め切れぬと見るやすぐさま分かれたこと。
そして、抑えに回った二人が、着実に時間を稼ぐことに終始したこと。
これ等は、着実に一行へ勝利をもたらしつつあった。
歌い続けるメトロノームは受けを意識し身を鎧い、後衛としての役目を着実に果たしていた。
前衛として動いた、バイオレットの方はと言えば、周囲の地形をよく踏まえ、的確に次の手段を打てていた。
結果、クワガタの翅を一枚奪えたのも、金星とはいえ、当然――と、言えたかもしれない。
――が、彼女らは知らなかった。
クワガタの翅を引きちぎり、さて、一度下がるかと、バイオレットが考えた時だった。
突如飛来した礫が、彼女の頭を打ったのは。
――彼女らは知らない。知る由もない。
背後でカブトが、起死回生すべく角の一撃を放ったことを。
結果地面はめくれ、辺りには土石が飛び散ったことを。
結果としてバイオレットの姿勢は乱れ、迫るクワガタへの対処が一手遅れる。
「……ッ!」
しかし、目の光は消えていない。眼光は炯々として、確かな戦意を湛えていた。
姿勢を崩しながらも、彼女は確かに狙っていたのだ。
――この状況から抜け出す為の一手を。淡々と、着実に。
「仲間は……やらせぬのじゃ!!」
滑りこんで来たのは、銀色の影だった。
戦斧から火花が散り、仄かに焦げ臭い匂いが漂う。
頭から血を流しつつも、ニィナがクワガタを受け止めていた。
踏み込んだ勢いを活かして、そのまま大顎を抑え続ける。
そう、ニィナには見えていた。
目の前で爆ぜた地面と、その先で戦うバイオレットたちの姿が。
「ぐぅ……っ」
が、カブトの一撃を喰らい、更にはクワガタをもニィナは受け止めていた。
余力は、最早残っていない。徐々に力負けして、クワガタの顎が閉じてゆく。
「悪ィ、待たせたな!」
頭へ浴びせられる銃撃で、クワガタが大きく怯んだ。
恭也のお陰で生まれた、この刹那。
ニィナとバイオレットは機を逃さず、後方へ大きく距離を取った。
――カブトを倒した仲間たちが、援護へやってきたのだ。
その姿を見て、メトロノームは大きく息を吐いた。
「出し惜しみはなし……ですね」
言うと同時、先ほどまでに倍する歌声が、周囲へ響き渡った。
澄んだ声が大気に流れ、共鳴する旋律は、鋭い風を何条も生み出しては宙を走る。
精霊に捧ぐ歌声は大地へと染み渡っていき、メトロノームの足元から、青く輝く礫を放たせた。
それらは体勢を立て直しつつあったクワガタの身体を切り裂き、めり込み、確実に動きを封じていく。
飛び交う旋風と銃弾、飛礫の狭間でのことだった。
少し下がったバイオレットは、静かに『マテリアルヒーリング』を発動。
――機を、待っていたのだ。
確実に仕留められる、その一瞬を。
刹那が引き伸ばされ、時が圧縮されていく。
そして――その時は、来た。
「遅れたけど……これでっ、終いだ……ッ!」
『集中』を終えたエルネが、こちらへ合流したのだ。
飛礫、旋風、銃弾に光の矢。四種交じり合う弾幕がクワガタの甲皮を穿ち、動きを止める。
「――」
踏み出す。
クワガタとの間に飛び交う、銃弾と旋風を潜り抜ける。
寸前の回避が続いて、身を掠める攻撃がいつしか頬を切り裂いていた。
しかし、舞う血の雫は直ぐに吹き散らされる。
――今になって、漸くクワガタはこちらへ気づいたようだった。
遅い。今さら何をするつもりなのか。
跳躍。
一瞬で、クワガタの背へ飛び乗った。
そのまま鍬をもたげた頭へ向かい、胸との隙間に鋏を抉り込む。
そして、一息にその首を捩じ切った――
●夏草
静かな、ある朝方のことである。
「随分と、静かになってしまったものね……」
荒れ果てた森の中央、ぽっかりと空いた空間に、クレアは佇んでいた。
呟きが、不思議に静けさを保つ辺りの中で、なにやら浮かび上がっているようだ、とクレアは思う。
以前のように、自分たち以外の息吹を感じられるようになるまで、はたしてどれ位かかるのだろうか。
「せんせー! ほらっ、ここ見てみてよ!」
「えぇ、と……?」
広場の端まで行って、少年の指差す先を見てみる。
すると、
「……あら……!」
地面から這い上がってきた、蝉の幼虫を見つけたのだ。
脱皮したばかりなのだろう、まだ色の薄い身体のままに、木の幹へしがみついていた。
ぼんやりと、考えていたことがあった。
自分はこうして、何度も悲しい思いをしても、また森へ来るのだろうなぁ、とか。
平和な森を取り戻してくれたハンターの皆さんに、こんど、また改めてお礼を言いに行こうだとか――
荒れ果てた森の中央、のことである。
ぽっかりと空いた広場の中をところ狭しと駆け巡る、二匹の巨大生物が居た。
一方は赤銅色の甲を鎧った、角そそり立つカブトムシ。
対峙するは大顎門(あぎと)、黒鉄色に身を輝かしたクワガタである。
双方が秘めた膂力は、確かに森の王者と言うに相応しいものだった。
しかし、森の王者は二つと要らない。
故にぶつかり合う両者。いやはや全く譲らない。
踏み込みの衝撃で大地は揺れ、噛みあわせた大顎と角からは、火花が飛び散らんばかり。
周囲の地形を瞬く間に変えてゆく。
「カブトとクワガタの大喧嘩! なんと楽……いや、大変な事件じゃ……!」
成る程。夏の怪獣大決戦、男子の夢を具現化。
背後で様子を伺っていたオイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)の言も、常ならば納得できたかもしれない。
見る者の胸が高鳴る場面として、説明できたかもしれない。
――が、今眼前に広がる光景を改めて見てみる。
照りつける太陽に、ゆっくりと流れゆく雲。
丸太は踏み込みの余波で圧し折れ、掘り返された大岩が宙を舞っている。
浪漫を感じぬはずがない。と断じるには、
「いやいやニィナ、程度ってもんがあるでしょ、流石に」
エルネ(ka2303)が顔を引きつらせて言う通り、限度を超えた光景だった。
なにせ、怪獣大決戦(仮)である。地は砕け、木々は根こそぎになるなど序の口、
「まぁ、浪漫は感じっけど……うっわ見てみろアレ、今の岩、すげぇ高さまでっ!
……こりゃ、確実に仕留めなきゃなぁ」
リュー・グランフェスト(ka2419)が指さすように、周囲にもなにやら影響を及ぼしていたりもする。
具体的に言うなら、瓦礫と土砂が飛んでいる。がっつりと。
「彼らに恨みは無いですが……確かに、捨て置くわけにはいきませんね……」
傷ついてゆく森を見て、ぎゅっと胸の前で手を握りしめたメトロノーム・ソングライト(ka1267)が呟くと、
「仕留めるなら、まずは具体的な手段。素人じゃないんだ、そうだろう?」
尊大な態度でくつくつと笑う、バイオレット(ka0277)が応じる。
「なら……合図は俺が出す。目標が組み合ったら突撃だ。いいか――」
すっ、と柊 恭也(ka0711)が手を挙げた。
一行がそれぞれ、奇襲へ向け備える。
斧を構えたニィナ(オイゲーニエ・N・マラボワ)、覚醒した瞳は紅に輝き、対峙するカブトを鋭く見据えた。
隣に立つエルネも同じく覚醒、全身に赤い粒子を纏う。
『集中』してカブトへ狙いを定め、恭也の合図を待つ。
●兜虫
木陰から広場を窺う恭也の頬に、汗が伝う。
眼前では巨大カブトとクワガタが対峙している。
依然として、油断はならない状況であり、己の背後では、仲間が自分の合図を待っているのだ。
汗を拭い、必死に目を凝らす。
眩く光を照り返す目標、撓めた脚が引き絞られ、今まさにぶつかり合――
「――今だッ、攻撃開始!」
叫ぶと同時、恭也は『攻性強化』を使用したP5の引き金を絞る。
マテリアルで強化されたアサルトライフルP5は、怒涛の勢いで陸上用の弾丸を撃ち出した。
「先ずは……これっ!」
吐き出される銃弾を追うが如く、背後から光の矢が飛び出した。
エルネが放つは『マジックアロー』。
『集中』のお陰か、確かにカブトの胸へ着弾。
連続して直撃する光の矢は正に必殺のそれ、徐々に――着実に、カブトの姿勢を崩す。
「行きなさい――」
次いでメトロノームが詠唱、数多の礫(つぶて)を撃ち放った。
「――!?」
突然の背後からの奇襲を受けて、カブトの姿勢が大きく傾ぐ。
間を開けず、カブトの下へ疾走する影があった。
「喰らいなァ!」
突き出された角を弾いて、リューは側面へと『踏み込んだ』。
得た加速を活かして『強打』、カブトの横腹からバランスを崩すべく一撃。
硬い甲皮を両断、とまではいかないものの、確かにその斬撃はカブトの翅へと食い込んだ。
大きく姿勢を崩したカブトを見て、すかさず狙いを切り替える者もいた。
「――貰うぞッ、片脚ィ!」
すり抜けざまの鋏一閃。
バイオレットは鮮やかに、カブトの脚一本を捩じ切った。
そのまま背後、追ってきたメトロノームと共にクワガタの方へ突っ込んでいく。
遅れて突入してきたニィナも負けてはいない。
「妾(わらわ)の戦斧――軽くはないぞッ!」
カブトの首元、強く『踏み込んで』下からの『強打』。
首元の節を狙い、全力でカチ上げる。
体制を崩していたカブトは、踏ん張りが利かず頭を持ち上げられる形となった。
「へっ……負けちゃあいられねぇなぁ!」
側面に立つリューが、仲間の姿を見て自分も踏み込もう、とした時だった。
ぞくり、とした冷めた違和感。
思わず踏み込みを止め、頭上を見上げる。
すると、頭をカチ上げられていたはずのカブトが、こちらを見下ろしていた。
感情を映さない複眼と、鈍い輝きを放つ角が目に入る。
そして、その角がまっすぐにこちらへ振り下ろされ――
「――!」
咄嗟に跳躍、剣で受け流すようにカブトの角をすり抜ける。
背後からの破砕音、次いで背中で感じる衝撃。
着地してから振り向けば、カブトの一撃で地面がめくれ上がっていた。
もし直撃を受けていれば、ひとたまりもなかったに相違なく、リューの背に、冷たい汗が流れる。
「――まだだッ!」
響く恭也の声で我に返ってみれば、眼前のカブトはどうやら「飛ぶ」つもりなようだった。
翅を広げて、周囲の大気を震わせている。
「くぅ……ッ!」
共に戦っていたはずのニィナは、どうやら先程の打ち下ろしをマトモに喰らったらしい。
土煙にまぎれてか、姿が確認できなかった。
「位置が悪いか……!」
叫ぶ恭也の声には焦りが滲み、銃弾を撃ちこむものの、甲皮の陰となった翅は狙えない。
カブトはかすかに怯んだが、依然飛び立とうとしたままだった。
一度、大きく深呼吸。乱れた呼吸と精神を、徐々に落ち着かせていく。
狙うのは一瞬だ。機会も一度。やり直しは利かない。
握る剣の柄が軋む。眼前のカブトを睨みつけ、ただその一瞬を待った。
――目の前で、カブトの身体が、浮いて、
「――ッ!」
踏み込んだ。
一息に跳躍、カブトの翅の付け根を狙い、剣を全力で振り下ろす。
そう、カブトが宙に浮きかけたその一瞬。
身体の自由が利かず、勢いもない刹那。
この瞬間を、待っていたのだ――!
「狙いっ、どおりだね……ッ!」
時を同じくして、もう一方の翅も光の矢にて撃ち抜かれる。
カブトが無防備になる一瞬を待っていたのが、リューだけであったはずもなく。
エルネも同じく、『集中』を重ねて機をうかがっていたのである。
放たれた『マジックアロー』は甲皮ごと翅を吹き飛ばし、そのまま虚空へと散り、消えていく。
斬り裂かれ、或いは撃ち落とされたカブト諸共に墜ちる。
その中で、リューは最後の一閃を放つべく、静かに剣を握り直した。
狙うは節目。急所を、確実に斬る必要がある。
『ヒッティング』――柔らかな肉を、刃先が正確に通り抜けていった。
●鍬形
つまる所この戦い、勝敗が決まっていた、とも言える。
対峙する両者の様子を窺って、突入の機を計ったこと。
片方へ全力の攻勢をかけ、仕留め切れぬと見るやすぐさま分かれたこと。
そして、抑えに回った二人が、着実に時間を稼ぐことに終始したこと。
これ等は、着実に一行へ勝利をもたらしつつあった。
歌い続けるメトロノームは受けを意識し身を鎧い、後衛としての役目を着実に果たしていた。
前衛として動いた、バイオレットの方はと言えば、周囲の地形をよく踏まえ、的確に次の手段を打てていた。
結果、クワガタの翅を一枚奪えたのも、金星とはいえ、当然――と、言えたかもしれない。
――が、彼女らは知らなかった。
クワガタの翅を引きちぎり、さて、一度下がるかと、バイオレットが考えた時だった。
突如飛来した礫が、彼女の頭を打ったのは。
――彼女らは知らない。知る由もない。
背後でカブトが、起死回生すべく角の一撃を放ったことを。
結果地面はめくれ、辺りには土石が飛び散ったことを。
結果としてバイオレットの姿勢は乱れ、迫るクワガタへの対処が一手遅れる。
「……ッ!」
しかし、目の光は消えていない。眼光は炯々として、確かな戦意を湛えていた。
姿勢を崩しながらも、彼女は確かに狙っていたのだ。
――この状況から抜け出す為の一手を。淡々と、着実に。
「仲間は……やらせぬのじゃ!!」
滑りこんで来たのは、銀色の影だった。
戦斧から火花が散り、仄かに焦げ臭い匂いが漂う。
頭から血を流しつつも、ニィナがクワガタを受け止めていた。
踏み込んだ勢いを活かして、そのまま大顎を抑え続ける。
そう、ニィナには見えていた。
目の前で爆ぜた地面と、その先で戦うバイオレットたちの姿が。
「ぐぅ……っ」
が、カブトの一撃を喰らい、更にはクワガタをもニィナは受け止めていた。
余力は、最早残っていない。徐々に力負けして、クワガタの顎が閉じてゆく。
「悪ィ、待たせたな!」
頭へ浴びせられる銃撃で、クワガタが大きく怯んだ。
恭也のお陰で生まれた、この刹那。
ニィナとバイオレットは機を逃さず、後方へ大きく距離を取った。
――カブトを倒した仲間たちが、援護へやってきたのだ。
その姿を見て、メトロノームは大きく息を吐いた。
「出し惜しみはなし……ですね」
言うと同時、先ほどまでに倍する歌声が、周囲へ響き渡った。
澄んだ声が大気に流れ、共鳴する旋律は、鋭い風を何条も生み出しては宙を走る。
精霊に捧ぐ歌声は大地へと染み渡っていき、メトロノームの足元から、青く輝く礫を放たせた。
それらは体勢を立て直しつつあったクワガタの身体を切り裂き、めり込み、確実に動きを封じていく。
飛び交う旋風と銃弾、飛礫の狭間でのことだった。
少し下がったバイオレットは、静かに『マテリアルヒーリング』を発動。
――機を、待っていたのだ。
確実に仕留められる、その一瞬を。
刹那が引き伸ばされ、時が圧縮されていく。
そして――その時は、来た。
「遅れたけど……これでっ、終いだ……ッ!」
『集中』を終えたエルネが、こちらへ合流したのだ。
飛礫、旋風、銃弾に光の矢。四種交じり合う弾幕がクワガタの甲皮を穿ち、動きを止める。
「――」
踏み出す。
クワガタとの間に飛び交う、銃弾と旋風を潜り抜ける。
寸前の回避が続いて、身を掠める攻撃がいつしか頬を切り裂いていた。
しかし、舞う血の雫は直ぐに吹き散らされる。
――今になって、漸くクワガタはこちらへ気づいたようだった。
遅い。今さら何をするつもりなのか。
跳躍。
一瞬で、クワガタの背へ飛び乗った。
そのまま鍬をもたげた頭へ向かい、胸との隙間に鋏を抉り込む。
そして、一息にその首を捩じ切った――
●夏草
静かな、ある朝方のことである。
「随分と、静かになってしまったものね……」
荒れ果てた森の中央、ぽっかりと空いた空間に、クレアは佇んでいた。
呟きが、不思議に静けさを保つ辺りの中で、なにやら浮かび上がっているようだ、とクレアは思う。
以前のように、自分たち以外の息吹を感じられるようになるまで、はたしてどれ位かかるのだろうか。
「せんせー! ほらっ、ここ見てみてよ!」
「えぇ、と……?」
広場の端まで行って、少年の指差す先を見てみる。
すると、
「……あら……!」
地面から這い上がってきた、蝉の幼虫を見つけたのだ。
脱皮したばかりなのだろう、まだ色の薄い身体のままに、木の幹へしがみついていた。
ぼんやりと、考えていたことがあった。
自分はこうして、何度も悲しい思いをしても、また森へ来るのだろうなぁ、とか。
平和な森を取り戻してくれたハンターの皆さんに、こんど、また改めてお礼を言いに行こうだとか――
依頼結果
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/23 17:37:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/21 00:09:44 |