• 聖呪

【聖呪】簒奪王の暴虐

マスター:鳴海惣流

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/14 19:00
完成日
2015/08/18 04:53

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「――攻略に失敗、だと……!?」

 驚愕に目を見開いたのは自らを簒奪者と称する偉丈夫だ。その体躯からは他を圧倒する威圧感が溢れており、周囲の茨小鬼は身を竦ませて己の主の声を聞いている。

「ぬううぅぅぅぅ……ッ!」

 血が出そうなほど拳を握り締め、歯軋りをする。

「ゥおぉのれぇい!! 傲慢なるニンゲンどもめ……!!」

 耐え難い屈辱に、簒奪者は近くの巨木を力任せに殴りつけた。幹が砕け散り、中途から折れた巨木は軽々と吹っ飛んでいく。それが地に落ちると、重々しい音と振動が辺りに響いた。
 それでも、苛立ちは止まらない。
 原因は侵攻を命じたオーレフェルトからやってきた、早馬の報告だ。
 計画通りに攻略するどころか、ハンターたちの妨害により侵攻が失敗に終わったのである。

「ニンゲンめ、ニンゲンめ、ニンゲンどもめえぇッ! そこまでして……そこまでして我らを阻むか……!! ……ゲゲ、ゲゲェ……よかろう……ならばこの俺も最大の怒りを以て戦おう――全面戦争だ」

 怒りに燃える簒奪者が、その場に立ち上がる。
 部下に掲げさせていた地図を見ると、勢いよく指を突き出した。
 示された先にあったのは、ルサスール領よりもさらに北に存在する小さな村だった。

「この村だ。ここを我らが後方拠点とし、ニンゲンどもを攻め落とす。俺の中に眠るあらゆる怨嗟、あらゆる激情、あらゆる悔恨を以て、オウコクを攻め抜いてみせよう!」

 怒り狂った主に、八つ当たりをされてはかなわない。
 指示を受けた伝令が、大急ぎで拠点を飛び出していく。

「ゲッゲ……ゲゲェ……此度はこの俺もゆく。続け、同志達よ!!」

 ――これ以上、奴らに舐められてたまるものか。今、俺には力がある。得られるはずのなかった、最高の力が!
 偉丈夫は胸を張って呵呵大笑するや、南への一歩を踏み出した。


 オーレフェルトのずっと北に、グルノアという小さな村がある。人口はさほど多くない。
 名産品と呼べるものもないが、村人は揃って穏やかな性格をしていた。争いごとを好まず、どこかのんびりとした感じである。
 この村だけで、時間がゆっくり過ぎているようにも感じられる。
 普段は客人もあまり訪れない村に、ハンターの一行がいた。
 ここ最近、北部では頻繁に亜人による被害が出ている。
 憂いた王国は、フットワークの軽いハンターに依頼を出した。
 王国の北部全域における巡回と視察だ。
 あくまで偵察が主な依頼であり、引き受けたハンターが現在立ち寄り中なのがグルノアだった。
 村の被害を調査しにきてくれたハンターをもてなすため、村長のノルドは自宅へ一行を招いていた。

「あまり見る場所もありませんが、いい村でしょう」

 にこにこ顔のノルドが言った。五十代前半の男性だが、精悍さはまるでない。代わりに、どこまでも優しそうな雰囲気を纏っている。
 しかし、ゴブリンら亜人の話になると神妙な顔つきに変わる。

「王国の依頼で、北部全域を軽く見回ってるということでしたな。実はうちの村も幾度かゴブリンの襲撃を受けたのです」

 当時の状況を思い出しているのか、溜息をつきながらもノルドは言葉を続ける。

「これまではハンターの方々の力も借りて、なんとか撃退してこれました。ですが……私は不安なのです」

 ノルドとハンターがテーブルを囲んでいる居間に、重苦しい空気が流れる。

「まだこの村では遭遇していませんが、風の噂で妙なゴブリンがいると聞きました。確か……茨小鬼といったでしょうか。従来のゴブリンよりも、特殊な能力を持ち、ずっと強いというではありませんか。もし、そういった連中に襲われたらと思うと、不安で仕方がないのです。そこで、ハンターの皆様にお願いがあります。せっかくの縁でこの村に来てくださったのですから――」
「――ギャアアっ!!」

 会話の途中で村全体に響き渡った大きな悲鳴。

「い、今のは、まさか……自警団を任せている男衆の……!」

 座っていた椅子からノルドが立ち上がる間にも、次々と悲鳴が聞こえてくる。
 ただならぬ事態になってると察し、ノルドはハンターにお願いして、一緒に家の外へ出た。
 そこで目にしたのは、村を囲む膨大なゴブリンの大群だった。ざっと見ただけでも、三桁を軽く超えている。

「ま、まさか……ゴ、ゴブ――ひぎゃ!」

 ハンターたちが村の様子を見に行こうと走りだしたところ、背後で悲鳴が上がった。
 いつの間にか、村長宅を囲むように数匹のゴブリンが立っていたのである。
 手にしたショートソードが、村長の脇腹へ深々と突き刺さる。

「ご、ごふっ……こ、こんな……ぐ、うう……! ハ、ハンターの方々……!」

 ゴブリンに命を奪われかけてるにもかかわらず、ノルドは気丈な目をハンターに向けた。

「ざ、残念ながら、この村は……もう駄目なようです……」

 ノルドの発言を否定できなかった。気軽に勇気づけることもだ。
 日中だったのに、周囲が暗く感じられるほど大勢のゴブリンが村を囲んでいる。
 次々に村内を侵攻し始めており、かろうじて無事なのは現在地の村の中央部分くらいのものだ。
 他のところにある家はすでに壊され、住民も捕らえられてしまった。
 救い出そうにも、敵の数はあまりに膨大。しかも、中にはノルドが恐れていた茨小鬼までいる。
 奇跡が起きても、この状況を覆すのは不可能だろう。ハンターの誰もが、村の運命は変えられないと本能で理解していた。
 絶望するしかない状況だが、その中でノルドは唯一の光となるハンターたちをしっかりと見据える。

「は、早く……お逃げ、くだ……さい。そ、そして……せ、せめて……生き残ってる、村人……を、い、一緒……に……」

 うるさいとでも言いたいのか。村長を捕らえているゴブリンの一匹が、脇腹に刺さっているショートソードをさらに奥まで押し込んだ。
 それが致命傷となり、村長のノルドはまだ何かを言いたそうに口を開いたまま事切れた。
 襲撃を受けたグルノアにおいて、かろうじて無事なのは前方にある村長宅と後方にある四軒の家くらいだ。
 ゴブリンの襲撃を知ったからなのか、どの家も扉がキツく閉められている。恐らくは中に篭城しているのだろう。

「ひいいっ! だ、誰かっ! 助けてェ!」
「怖い……! 怖いよ、ママ――っ!」

 四方八方から悲鳴が聞こえる。
 ゴブリンの侵略から村を救うのはもはや不可能。ハンターたちにできるのは、ひとりでも多くの住民を救出することだった。
 前方、そして左右からゴブリンが迫りくる中、ハンターたちが行動を開始する。
 阿鼻叫喚となった悲劇のグルノアを脱出するために。

リプレイ本文

●脱出と救出

 村全体を覆うように黒い影が迫ってくる。
 連なる無限のごときゴブリンの群れが放つ咆哮で、大気が震える。
 足音は震動に代わり、村人たちを恐怖のどん底へ叩き落とそうとする。
 一刻の猶予もない。

「あはっ……なんですかこの量。見たことないですよ……♪」

 周囲を飲み込む波のようなゴブリンを見た葛音 水月(ka1895)が、笑みを浮かべて興奮気味に言った。
 その隣ではテオバルト・グリム(ka1824)が、犠牲になった村長の躯を見つめていた。

「災難ってのはいつ降りかかるか分からないから厄介なものだけどさ……流石にこれは酷いんじゃねぇかなって思うんだよ」

 拳をキツく握り締める。血が出そうなほどの痛みを覚えても、テオバルトの中の無念さは消えない。報いる方法があるとすれば、ひとつだけだ。

「村長さん……連れていけなくてごめんな。その代わり、最後の願いはきっと叶えてみせるぜ……!」
「悔しいのは私も同じだ」

 テオバルトに続いて口を開いたのは、オルドレイル(ka0621)だった。

「丸腰の、ましてや村人を手にかけるような者達を今この場で切り捨てられないとは……!」

 唇を強く噛む。憎しみの視線を向けても、状況は変わらない。
 立ち向かうのすら困難なゴブリンの群れの前では、個人がどれだけ頑張っても、どうにもできそうになかった。

「我等のみ逃げるは容易かろう……なれど命の炎を見捨てる事はできぬ。とはいえ、斯様に負傷しておっては何方が救出者かわからぬのう」

 怪我の影響で本来の実力を発揮しきれそうもない蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が苦笑する。
 ゴブリンを退治しきれないのなら、せめて一人でも多くの村人を救出したい。想いは全員同じだ。
 その中でアル・シェ(ka0135)がわずかに一歩、進み出る。

「全ての家を開放できればいいが……最善を尽くそう」

 チマキマル(ka4372)も、同意するように頷いた。
 まずは素早く担当を決める。
 戦闘は困難でも、移動ならなんとかなる蜜鈴がすぐ近くの家に向かう。
 魔導バイクに乗るオルドレイルは、右端の家だ。急がなければ、外からやってくるゴブリンに家ごと住民が飲み込まれてしまう。
 相当な窮地にもかかわらず、ハンターたちは亡き村長の家族をも助けることに決めた。
 村長宅を取り囲むゴブリンのうち、正面に居座る連中を最初の標的にする。
 村長宅への道ができたら、すかさずテオバルトが魔導バイクで突っ込む。
 水月とアルは正面も含めたゴブリンたちを相手する。より効率的にするためにも、チマキマルへファイアーボールの発動をお願いする。

「チマキマル。村長宅や他の家、自分達を巻き込まず、且つ村長宅正面及び右手側若しくは左手側の群れを巻き込むように放てないか」

 チマキマルが返答する前に、水月がアルの言葉を引き継ぐ。

「あの辺に一発、派手にお願いしますねー。僕はその攻撃を想定して、正面ゴブリンを処理し、村長宅への道を拓きましょー」

 各人の要求を、チマキマルが了承する。

「さてさて、では始めるか」

 チマキマルの言葉を合図に、ハンターたちが一斉に行動を開始する。
 少しでも早くと急ぐ蜜鈴が、目的の家に到着するなり、扉を強く叩いた。

「扉を開けよ。今なればまだ間に合う故、疾く駆けよ。繋いだ手、決して離すで無いぞ?」

 住民が家から出てくるのを待ち、姿を現した幼い少女の手を蜜鈴は握った。


 一方で、オルドレイルは魔導バイクを全速で走らせる。右端の家までもう少しだ。

「我々は一体、何をしにこの村に来たというのだ……しかし、今は人命が最優先だ」

 自分の気持ちを整理する。ゴブリンどもに、これ以上の暴挙は許さない。
 強い決意とともに、オルドレイルは救出対象の民家へ到着する。


 村長宅の近くでは、チマキマルがファイアーボールを炸裂させたところだった。狙ったのは正面と右側にいるゴブリンたちだ。
 炎に包まれるゴブリンたちが、悲鳴を上げる。
 一撃で絶命した者がいれば、かろうじて回避した者もいる。
 確実に数は減った。しかし、正面にはまだ二匹のゴブリンが残っている。

「よし。まずは正面のゴブリンを片づける」

 その場からスローイングを遣い、アルがチャクラムで生き残ったゴブリンを攻撃する。
 ファイアーボールでダメージを負っていた一匹に、致命傷を与える。
 なんとか回避していた残り一匹は元気だが、アルが攻撃している間に水月がそのゴブリンの横にランアウトで急速接近していた。
 直後に連撃を命中させる。
 攻撃をまともに食らったゴブリンは、一瞬にしてこの世から旅立った。
 これで、村長宅正面にいた三匹のゴブリンは全滅した。

「中の人はお願いしますね。いっちゃえーです!」

 水月が残っていた正面のゴブリンを倒したおかげで、村長宅の扉が見えた。
 他のゴブリンに邪魔されないうちに、この時を待っていたテオバルトが魔導バイクを発進させる。

「これ以上村の皆はやらせねぇし、俺も絶対に生きて帰ってやるからなー!」

 いまだ村長宅の左右にいるゴブリンに狙われるのを覚悟で、テオバルトは家に残っている亡き村長の家族を助け出しにかかる。
 隙ができたテオバルトを狙い、右側にいたゴブリンが動き出す。
 チマキマルのファイアーボールが命中したものの、三匹が揃って生き残っていた。
 すぐにでも家の中へ突入しようとするが、右側のゴブリンは敵の動きを半ば見抜いていた水月が引きつける。
 早く逃げるんだ――。
 テオバルトの声に応じ、村長の家族が外へ出る。
 悲しみの涙を流しながらも、唯一脱出できそうな地点を目指してひたすら走る。
 弱い人間を狙うのは鉄則とばかりに、村長宅左側のゴブリンがショートソードで斬りかかろうとする。
 被害を出させてなるものかと、テオバルトがわざと相手の視界に姿を晒す。
 三匹の攻撃を引き受け、マルチステップで回避を優先する。二匹の攻撃は無事にかわせたが、最後の一匹の攻撃を肩に受けてしまう。
 舌打ちしながらも、テオバルトは故人となった村長の家族を逃がすために身体を張る。
 そこへ村の外から一斉にゴブリンたちが押し寄せてきた。村の中でかろうじて無事だったここら一帯にも、ついに魔の手を伸ばしてきたのである。


 ファイアーボールを放ったあと、チマキマルは出入口近くの民家へ向かっていた。四方八方から聞こえてくるゴブリンの怒声や咆哮が、村全体に轟く。
 蜜鈴同様に出入口へ移動しながら、退路を確保していたチマキマルは一瞬だけ背後を振り返る。
 村長宅を救っている最中の仲間を助けに戻ってもいいが、効率が悪くなる可能性もある。
 ここは仲間を信じ、村人の避難を最優先にする。

「蜜鈴に無理をさせられん。戦闘をせねばならん場合は、私がなんとかするしかないな」

 視線を前に戻したチマキマルは、可能な限り全力で目的の民家へ向かった。


 テオバルトが村長宅に入ったのを確認した水月は、一匹でも多く射程に収められるよう移動して広角投射を行う。
 村長宅を襲わないよう、嫌でもこちらに目を向けさせるつもりだった。

「よそ見したら、首刎ねますよ?」

 命中確率は下がるものの、生き残っているゴブリンをまとめて攻撃できるのが強みだった。
 近接戦闘をしたがるゴブリンに対しては、有効的な攻撃となった。
 そこへ援護射撃とばかりに、アルのチャクラムが一匹のゴブリンへ命中する。
 仰向けに地面へ倒れるゴブリンを見届けたあと、アルは家から逃げてきた故村長の家族を出入口へ向かって誘導する。
 水月と一緒になって確保した退路を移動させれば、先には蜜鈴とチマキマルがいるはずだ。
 あとはゴブリンが逃げる住民を追いかけられないようにしながら、アルたちも脱出するだけだ。


 その頃――。
 民家の中にいた村人へ逃げるように告げたあと、オルドレイルは外の様子を窺うために先に家から出た。
 ゾクリとする奇妙な迫力を感じる。慌ててそちらへ視線を向けると、すぐ目の前まで膨大な数のゴブリンが迫っていた。
 ようやく外へ出てきた村人のひとりが、悲鳴を上げて地面に尻もちをつく。
 助け起こしてる余裕はない。
 早く逃げるように改めて促してから、オルドレイルはたったひとりで右方から村へ入り込んだゴブリンを迎え撃つ。
 まともに戦っては勝ち目などない。
 けれどここでオルドレイルが盾にならなければ、外へ連れ出した住民が犠牲になる。
 逃がすまでは一歩も退けない。強く大地を踏みしめたオルドレイルは衝撃波を放ち、ゴブリンの群れを押し返そうとする。
 焼け石に水であろうとも、諦めるわけにはいかなかった。
 地面に尻もちをついていた村人が、家族に支えられてこの場を離れる。
 背中で住民のお礼を受け取ったオルドレイルは、とりあえず安堵の息を吐く。
 逃げた住民の背中が小さくなったのを確認後、ゴブリンの相手を切り上げる。
 次は自分の番だ。オルドレイルはゴブリンから距離を取ると、魔導バイクに飛び乗って脱出ポイントへ向かう。


 一方で住民の救出に成功した蜜鈴は、押し寄せてくるゴブリン目がけてスリープクラウドを放つ。

「気休めでも無いよりマシであろ? 夢見の真綿、彼の者を包み微睡みの彼方へと溶け込まん」

 ゴブリンの勢いは衰えないが、逃げる住民にかすかな勇気は与えたようだ。
 同行させたイヌワシとともに、救出したばかりの家族が出入口へ走っていく。
 次はもう一軒の救出だ。足を引きずるようにしながらも、体内に残る力を振り絞って蜜鈴は次の家へ向かう。


 膨大な数のゴブリンによって、村長宅は見る影もなく破壊された。幸いにして住人は先に逃がしていたので、被害はなかった。
 テオバルトも魔導バイクに乗り、村長宅があった場所から離れる。

「俺の逃げ足をとくと見やがれゴブリン共ー!」

 テオバルトも脱出に成功した。この場に留まる理由は、もうない。
 スローイングで攻撃を繰り返しつつ、アルも移動を開始する。
 周囲の様子を確認しながら、住民の位置に合わせて守るように動く。
 遅れすぎも早すぎも、道を塞ぎもしないように。

「行動不能になっている住民はいないようだな。仲間内でも、特別な問題はなさそうだ」

 オルドレイルが救出したと思われる住民たちが、全速力でこちらへ向かってくるのも確認できた。
 故村長の家族と、蜜鈴が最初に助けた村人も出口へ向かっている最中だ。残りは二軒の民家になる。


 チマキマルが目指していた民家へ到着。早く逃げるように促すと、家の中で震えていた村人たちが涙目で頷いた。
 足をもつれさせながら逃げようとする村人を先に行かせ、チマキマルは周囲の動向を確認する。
 遠目で、蜜鈴が最後の一軒へ向かっているのが見えた。


 村長宅を取り囲んでいたゴブリンの大半が、村人の逃げる時間を稼ごうとするアルと水月によって撃破された。

「逃げた住民を、ゴブリンに攻撃させないよう殿を務めますね。そーいえば、助け忘れてる家とかないです?」
「俺が確認した限りでは大丈夫だ。つい先ほど、最後の一軒にも蜜鈴が到着した」

 アルが、水月の問いかけに応じた。
 執拗に追い縋ろうとするゴブリンに遠距離攻撃を見舞いながら、二人は着実に脱出ポイントへ向けて移動する。


 敵の包囲網が狭まりつつある中、最後になった民家で蜜鈴が住民を外へ逃がした。

「此度、妾に出来るは斯様な程度……早う、お逃げ」

 お礼を言う村人の背中を守るように、蜜鈴もまだ無事な村の出入口へ向かう。
 途中でチマキマルと合流する。右端からは、ゴブリンたちの攻撃でダメージを追ったオルドレイルが魔導バイクに乗ってやってきた。
 同じくバイクで移動中のテオバルトが現場に到着し、全員無事かと尋ねる。
 チマキマルと蜜鈴が頷く中、アルと殿を務めていた水月もこの場に到達する。
 まだゴブリンに制圧されていない唯一の脱出ポイントまであと少し。
 決して余裕はないが、急ぎすぎて救出できた住民を見逃してしまったなんて事態を引き起こしては意味がない。
 救出した人数と村の外で待機している住民の数が一致しているか、アルがしっかりと確認を行う。
 取り残された者がいないと確信できたところで、全員で村をあとにする。
 その際、途中で一度だけオルドレイルが振り返った。

「後日でもいい。出来れば村長の遺体の回収と埋葬を行いたい。彼は最後まで村の事を想っていた。この度の亜人による被害、無実のの命が一つでも救われるよう尽力すると彼に誓う」

●簒奪王

 ハンターが生き残った村人を連れて救出後。ほどなくして、自らを簒奪者と呼称するゴブリンが巨体を揺らしながら村へ入った。
 畏怖や尊敬、様々な感情の混じった視線を集める巨大なゴブリンが、村の中央に座る。そこは故村長の家があったところであった。
 村からの脱出に失敗した住民のひとりが、ゴブリンたちの手で、ひと際強烈な威圧感を放つ巨躯のゴブリンの前へ連れ出される。

「ゲッゲ……親方、このニンゲンどもはどうする?」
「……決まっている。見せしめじゃあ!!」

 振り上げた手が、大地へ落下する。丸太という形容ですら生易しい巨大な腕が、絶望と恐怖に引きつっていたひとりを押し潰した。
 まるで村が飛び跳ねたかのような衝撃が、周囲を襲った。近くにいたゴブリンでさえ立っていらないほどだった。
 そんな攻撃を受けた住民はひとたまりもない。悲鳴を上げる暇もなく、ただの肉塊に変えられてしまった。残った住民が狂ったように泣き喚く。

「こうなりたくなければ……分かるな、ニンゲン。お前たちは俺の下僕よ……ゲゲ、ゲゲェ!!」

 周りを囲んだゴブリンたちが手を叩いて囃し立てる。簒奪者ーーもとい簒奪者たちの王は、不退転の覚悟を示すべく、大気を震わす大音声で宣言した。

「ゲェ、ゲゲッ! 同志たちよ! 今日からここが我らの後方拠点だ。もはや我らがこれより北へ戻ることはない……中原の恵みを奪い尽くすのだ!!」

 拳を振り上げた巨大なゴブリンの声に、他のゴブリンたちが呼応する。
 平和な村だったはずのグルノアは、こうしてゴブリンどもに制圧された。

●脱出後

 なんとか脱出を果たしたハンターたちは、救出できた村人を連れて着実にグルノアから離れていた。
 双眼鏡で村を見た水月が、確認できるだけの敵の数や種類、戦力を記録する。
 安全な場所まで村人を避難させたあとで、ハンターズソサエティに報告するつもりだった。

「あーあー、村がもうゴブリンで真っ黒ですねぇー。あの大軍と戦う日が楽しみです……♪」

 ややのんびりとした口調の水月の言葉に、蜜鈴が頷く。

「失うたモノは多い……なればこそ、必ずや取り戻そうて……」

 煙管を片手に持つ蜜鈴が呟くように言った。
 遠ざかるグルノア村からは、いつまでもうるさいくらいにゴブリンたちの咆哮が届いてきていた。

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  • オルドレイルka0621
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリムka1824

重体一覧

参加者一覧

  • 探求者
    アル・シェ(ka0135
    エルフ|28才|男性|疾影士

  • オルドレイル(ka0621
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 迷いの先の決意
    チマキマル(ka4372
    人間(紅)|35才|男性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/11 16:10:54
アイコン 相談卓
葛音 水月(ka1895
人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/14 18:31:49