ゲスト
(ka0000)
帳の裏には
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/18 19:00
- 完成日
- 2015/08/27 05:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
「あれ、リベルトどうしたの? ちじょーのもつれってやつ?」
帝国歓楽街にして第九師団の拠点都市、ラオネンの師団長執務室。
服こそ乱れていないものの、頬に血を拭った跡をつけた副師団長、リベルトに声をかけるのは、
書類で紙飛行機を作っていた師団長のユウだ。
「それぐらい困ってみたかったがな……あいにく、いつものテだ」
「あぁ、そのテのおみせの子は、気の強い子も多いからね」
「痴情の縺れから離れろ」
自分の机には向かわず、窓の縁に座って煙草を取り出すリベルト。
このラオネンという街はカジノや夜の店による経済効果こそ高いものの、
その分治安も師団の取締りを強化しているとはいえ、余所と比べればいいものではない。
そして副師団長ともあれば、恨みを買ったりすることも多々あるようだ。
「今回のはしつこかったぜ……おかげで馴染んでたナイフおいてきちまった」
「うーん、でも最近、ちょっとそのテの話が多いよね?」
「今度のテはマジメな方のテだろうな……まぁ、確かに、最近またどうも物騒になってきやがった。新しい奴らが流れ込んで来てるのか?」
というのも、『知っている者』は、迂闊にリベルトには手を出さない。
例え隙だらけで裏路地の立ち飲み屋で飲んだくれていようとも、敵うとは到底想像しないからだ。
「ちょっと、現状の再調査を行わないとだね。ラオネンに興味を持ってきてくれるひとが多いのはいいことだけど、いろんな意味でも、期待をうらぎるワケにもいかないから」
「地下も開発進めて来てるし……少しずつ良くなってきてると思うんだがなぁ。何かしらんが、開けたとこの壁一面に絵が描かれてから、その辺の治安も良くなったらしいぞ」
「あぁ、それはちょっと前から出来たんだよ。報告には上がってるけど、僕だけまだ見てないと悔しいからリベルトにも言ってなかった」
「言えよ」
煙を吹きかけてやろうかと思ったが、距離があるので仕方なく窓の外を向くリベルトにユウが続ける。
「こんな街を抱えてる以上、メリットとデメリットっていうのはそれぞれあると思ってて、最大限のメリットと、最小限のデメリットで均衡をとれるようにしておくのが、僕達の役目なのかなともおもうんだよね」
「まぁな。結局いたちごっこになりそうだけどよ、完全にクリーンにしちまったら意味がない。不幸で泣く奴を敢えて残しとくって意味じゃなくてよ、せめて理不尽は取り除いていきてぇ」
窓から下品な街の光の向こうに、スラム街を見るリベルト。
師団の公権力で一斉に整備をすればよいのか―――いや、簡単な問題では済まないものがあそこには、根付いている。
「とりあえず、どのあたりを調査すればいいんだ?」
「そうだねぇ……まずスラム街、スラム街自体はそこまで大きくないし、併せて地下とかも見れるかな?」
「了解だ。あとは『事務所』絡みか。外と中の流れを把握するには『事務所』押さえとくのが一番だ」
「事務所については、それだけじゃなくて『洗って』おかないとね。野良事務所も増えてそうだけど、元々あった事務所が、人が増えた混乱に乗じてこっそりわるいことを……っていうのも、ありそうな気がする」
「ちげーねぇ。じゃあ『事務所』とスラム且つ地下エリア、ってとこだな。『うち』で動くのか?」
「んーん、師団で動くとどうしても目立って、取り締まれるものもとりこぼすと思う。だからハンターに依頼しようか」
「いいけどよ、なんか最近そういうのばっかだな」
吸い殻を空き缶に放り、自身のコートの裏地になんとなし目を向けるリベルト。
「いいんだよ、僕らはあくまで畏怖の象徴で、表に立って恐れられるのが役目だし」
「救援部隊が恐れられるってのも、言い得て妙だな」
「所詮救急しかできない、なんて舐められても成立しないしね。その為に『リベルト達』がいるんだよ」
綺麗になった机の上で手を組み、口を隠して見つめるユウ。恐らく、あの手の裏はいつものようにいけ好かない微笑みをしているハズだ。
「了解だ。じゃあ、とりあえず仕事出してくるぜ。それとよ……」
「なーに?」
「……俺は片づけねぇからな」
そそくさと仕事仕事、と呟きながら部屋を出るリベルト。
執務室の床の上には、何枚もの紙飛行機が散乱していた。
「あれ、リベルトどうしたの? ちじょーのもつれってやつ?」
帝国歓楽街にして第九師団の拠点都市、ラオネンの師団長執務室。
服こそ乱れていないものの、頬に血を拭った跡をつけた副師団長、リベルトに声をかけるのは、
書類で紙飛行機を作っていた師団長のユウだ。
「それぐらい困ってみたかったがな……あいにく、いつものテだ」
「あぁ、そのテのおみせの子は、気の強い子も多いからね」
「痴情の縺れから離れろ」
自分の机には向かわず、窓の縁に座って煙草を取り出すリベルト。
このラオネンという街はカジノや夜の店による経済効果こそ高いものの、
その分治安も師団の取締りを強化しているとはいえ、余所と比べればいいものではない。
そして副師団長ともあれば、恨みを買ったりすることも多々あるようだ。
「今回のはしつこかったぜ……おかげで馴染んでたナイフおいてきちまった」
「うーん、でも最近、ちょっとそのテの話が多いよね?」
「今度のテはマジメな方のテだろうな……まぁ、確かに、最近またどうも物騒になってきやがった。新しい奴らが流れ込んで来てるのか?」
というのも、『知っている者』は、迂闊にリベルトには手を出さない。
例え隙だらけで裏路地の立ち飲み屋で飲んだくれていようとも、敵うとは到底想像しないからだ。
「ちょっと、現状の再調査を行わないとだね。ラオネンに興味を持ってきてくれるひとが多いのはいいことだけど、いろんな意味でも、期待をうらぎるワケにもいかないから」
「地下も開発進めて来てるし……少しずつ良くなってきてると思うんだがなぁ。何かしらんが、開けたとこの壁一面に絵が描かれてから、その辺の治安も良くなったらしいぞ」
「あぁ、それはちょっと前から出来たんだよ。報告には上がってるけど、僕だけまだ見てないと悔しいからリベルトにも言ってなかった」
「言えよ」
煙を吹きかけてやろうかと思ったが、距離があるので仕方なく窓の外を向くリベルトにユウが続ける。
「こんな街を抱えてる以上、メリットとデメリットっていうのはそれぞれあると思ってて、最大限のメリットと、最小限のデメリットで均衡をとれるようにしておくのが、僕達の役目なのかなともおもうんだよね」
「まぁな。結局いたちごっこになりそうだけどよ、完全にクリーンにしちまったら意味がない。不幸で泣く奴を敢えて残しとくって意味じゃなくてよ、せめて理不尽は取り除いていきてぇ」
窓から下品な街の光の向こうに、スラム街を見るリベルト。
師団の公権力で一斉に整備をすればよいのか―――いや、簡単な問題では済まないものがあそこには、根付いている。
「とりあえず、どのあたりを調査すればいいんだ?」
「そうだねぇ……まずスラム街、スラム街自体はそこまで大きくないし、併せて地下とかも見れるかな?」
「了解だ。あとは『事務所』絡みか。外と中の流れを把握するには『事務所』押さえとくのが一番だ」
「事務所については、それだけじゃなくて『洗って』おかないとね。野良事務所も増えてそうだけど、元々あった事務所が、人が増えた混乱に乗じてこっそりわるいことを……っていうのも、ありそうな気がする」
「ちげーねぇ。じゃあ『事務所』とスラム且つ地下エリア、ってとこだな。『うち』で動くのか?」
「んーん、師団で動くとどうしても目立って、取り締まれるものもとりこぼすと思う。だからハンターに依頼しようか」
「いいけどよ、なんか最近そういうのばっかだな」
吸い殻を空き缶に放り、自身のコートの裏地になんとなし目を向けるリベルト。
「いいんだよ、僕らはあくまで畏怖の象徴で、表に立って恐れられるのが役目だし」
「救援部隊が恐れられるってのも、言い得て妙だな」
「所詮救急しかできない、なんて舐められても成立しないしね。その為に『リベルト達』がいるんだよ」
綺麗になった机の上で手を組み、口を隠して見つめるユウ。恐らく、あの手の裏はいつものようにいけ好かない微笑みをしているハズだ。
「了解だ。じゃあ、とりあえず仕事出してくるぜ。それとよ……」
「なーに?」
「……俺は片づけねぇからな」
そそくさと仕事仕事、と呟きながら部屋を出るリベルト。
執務室の床の上には、何枚もの紙飛行機が散乱していた。
リプレイ本文
◆
「やーだー、もうお姉さんおもしろーい」
「ふふ、ぷろのかたに、ほめていただけると、こうえいですわ」
夜の街、ラオネンはキャバレーの一角。男性客を相手取る夜の蝶達の中で、
マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)は女性としてお店の女性と会話を盛り上げていた。
「ぶっちゃけ話は女性の方がやっぱりしやすいよねっ」
「ぶっちゃけ、ですか? でしたらわたくし、おーなーのかたともおはなししてみたいですわ」
取材かな? と言いながら女性が手を上げてボーイを呼ぶ、脇腹から肩まで肌を見せるドレスは、刺激的だが決して下品ではないラインを見せた。
「所要というのは……うちの者が粗相でも?」
縁の無い細いメガネと切れ長の目、対応こそ丁寧だが決して弱気ではない物腰の男がマレーネに声をかける、
「いえ、おはなし、とてもたのしかったですわ。それで、らおねんについて、もっとふかいことをおききしたいと、おもいましたの」
一瞬訝しむ様子を見せるが、顎に指を当て、吟味するようにマレーネを見るオーナーと呼ばれる男。
「ふむ……良いでしょう。その代わり、交換条件です」
「じょうけん、ですか?」
路地裏で、師団から渡された事務所のリストに線を入れていくのはエリー・ローウェル(ka2576)
「先日はすっかり遊んじまったし、多少なりとも貢献させて頂こうかね」
じと、と視線を送るエリーに、ただ話していただけじゃないさ、と乾いた笑いでリストに『事務所』の名前を追加するエアルドフリス(ka1856)
「この街にも光を持っている人は居た。じゃあ、違法な事務所を運営する彼らは……一体なんなのだろう」
ぽつ、と独り言のように言葉を零すエリー。
「……こういう場所で、そういうものをあまり真っ直ぐ見すぎると、疲れてしまわないかね?」
「わかりません。ただ、私が識るために、彼らに自分を見直す機会を持ってもらうために。問います」
石壁に寄りかかりパイプを取り出すエアルドフリス。煙越しでも、エリーの目は濁っていなかった。
善悪や、是非を問う訳でもない。ただ、問い、識りたい。その為に、エリーはまたこの街に足を運んだのだ。
少し緊張をほどくように一息つき、大剣で峰打ちの練習をするエリー。
エアルドフリスが何度目かに吐いた紫煙に、特別強い甘い香りが混ざる。
路地裏からふらりと現れた、 トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)の吐いた煙草の煙だ。
「もう随分楽しんでいるようだが……羨ましいものだね」
「いや、お楽しみはこれからさ」
パイプの葉の詰まった袋を放り投げてから、表通りの店を親指で示すトライフ。
煙草の香りに隠れて、少し酒の匂いが残っているようだった。
トライフの後ろから遅れてついて行こうとするエアルドフリスの足が止まる。
ぐい、とエリーがそのローブの裾を掴んでいたからだ。
「お生憎ですが、トライフさんの情報でノルマが増えました」
「……手厳しいね」
名残惜しそうに表の明かりを見続けるエアルドフリスを余所に、エリーがずるずると彼を引っ張って裏の闇へと消えていった。
「チェンジだ」
「まぁ、いきなりだなんて、もうそんなにごまんぞくいただけましたの?」
トライフの入った店、その隣についたのは、淡い色のドレスに身を包んで酒の瓶を持つマレーネだった。
「悪いが俺の好みはブルネットで豊満な女性なんだ、ブロンド好きなら知り合いにツテがあるからそっちにいけ」
お互い知り合いだと周りに悟られないように言葉と態度を選ぶトライフ。
「あら、ざんねんですわ。でしたら、めいしだけでも、おうけとりくださいな」
即席なのだろうか、名刺を取り出し、トライフの手を包むように渡すマレーネ。
「また、おあいしましょう?」
柔かい笑みで席を立つマレーネ。トライフは、指の感触だけで名刺の下の別の紙を確認すると、無造作にポケットへ突っ込んだ。
◆
「次の宿はこれでOK……っと」
久々のラオネン、楽しみと言っていたケイ(ka4032)は、お酒の一滴も飲む間もなく奔走していた。
彼女は、ハンターたちの情報交換先の宿の確保と、情報収集を行っていた。
部屋を確保し、宿から出てきた時には既に使い古したようなぼろぼろの恰好でいた。そして向かう足はスラムの方へ。
「仕事、そうこれは仕事だからね」
心なしか足取りが軽いには気のせいか、道中隠しておいた袋を回収すると、彼女はある橋の下へと辿りつく。
そこには、数人の中年~高齢の男達が屋根を求めるようにアーチの下でうずくまっていた。
「いいものかっぱらってきたわよ。ここの男性諸君は女性に一人酒をさせたりはしないわよね?」
がしゃ、と酒瓶の入った袋を掲げれば、ボロを纏った男たちは元気のない歓喜の声を上げてケイに群がってきた。
「どうしたお嬢ちゃん達、迷子か? 客取りか?」
「あ、あの……っ、パパとママとはぐれちゃったの……わたしとユリちゃんね、旅行に来てて……っ」
地下は暗い通路、ぐすっ、と涙声で対峙する男に離すのは猫被りまっしぐらのブラウ(ka4809)、彼女は隣の鬼百合(ka3667)に視線を移す。
「えと、あの、両親を探していて……危険な場所にはいないと思うのだけど……」
「だったらここにゃいねーよ。地下に来るのは本当にこの街に住んでるヤツらだけだ」
「で、でもでも、もしかしたら知らないで入り込んだかも……」
自分の『目』で今の自分が見えるとしたら……どう映っているだろうか。
最後まで『妹のユリちゃん』に扮したまま、鬼百合はブラウの袖を掴みつつ男の前を後にした。
「えぇ、幾つか裏どりが必要ね……そう、じゃあ『時化』で」
どこの目か耳かに悟られないよう、隠語を使い会話を行うブラウ。通路の奥から別の隔靴の音が聞こえると、二人はまた迷子の姉妹に扮したのだった。
「おねぇちゃん、まだ早いよぅ……」
「もうお日様あんなに高く昇ってるよ? 他の子も起こしてあげて」
雨戸代わりの積み上げた木箱を降ろし、飛び込んでくる日の光に片手で思わず目を覆うのはイスフェリア(ka2088)
彼女は宿での連絡を申し送りで済ませ、よりスラムの住民に密着する為に一日の生活を共にしていた。
以前、物の読み書き等を教えたりもしたが、一方通行の教示だけではなく、会話の端々からスラムの現状や危険な場所等も把握出来たりした。
以外にも荒事は起きず、梁の上に待機させていたパルムと妖精はすっかり暇そうだった。
「そういえば、みんなは地下には行かないの?」
一日の家事(と言っても綺麗な水もまともな食事も限られているが)を共に済ませ、午後の読み書きの時間中、ふとイスフェリアが子供達に降る。
「地下はまたスラムとは別なんだよ。生活事態はまだマトモにととのった方さ」
机の上で胡坐を組む、リーダー格の少年がぶっきらぼうに返す。
「歓楽街に住んでいるのに、喧騒を嫌ってわざわざ地下で暮らすのは、普通の街に住めない理由があるのかな?」
指についた石灰の粉をふき取りながらイスフェリアが問う。チョークといった上等なものは無いので、黒板に文字を書くときは苦戦していた。
「まぁ……地上に出さえすれば何でも揃ってる、不便はねーからとかじゃねーの?」
イスフェリアをよそに、授業の終わった黒板を片づける少年。
「な、なんだよっ。気になるならいってくりゃいいだろ?」
随分と丸くなるもので、最近はイスフェリアの講義のおかげで簡単な文字が読めるようになり、少年は運び屋の仕事が取れるようになっていた。
彼なりに恩を感じているのか、それとも別の理由があるのか、顔を赤くしてそっぽを向く少年に、イスフェリアは首を傾げてから地下へと出かけて行った。
◆
どん、と抜き身の大剣が扉を突き破り、大よその形を残したまま室内へと弾き飛んでいく。
とある『事務所』の一室、中には5人の男達がひとつの机と囲んでいた。
マレーネが店を手伝った事による報酬、トライフの夜の渡り歩き、
そして煙草に隠したメモのやりとり、その他エリーとエアルドフリスの地道な情報収集により、
幾つかの野良事務所と違法事務所を絞る事が出来ていた。
「証拠は挙がっています。なぜ、このようなことを?」
「なんのことだ? てめぇら好き勝手しやがって覚悟は出来てるんだろうな?」
「我々は第九師団から委託されています。抵抗はお勧めしませんな」
大剣を構えたまま『なぜ』を問いかけるエリーと、杖を威嚇するように構えるエアルドフリス。
ふと、中央にいた一番偉そうな男の視線がクローゼットに泳いだのを、エリーは見逃さなかった。
目は口ほどに―――追い詰められ、動揺した時にこそ、人はその時大事なものを確認し、守ろうとする。
蹴破った軽い扉の奥では、
一目見ると小さなカジノだが、表のものと違って、裸の女性が歩き、男に座り、
香りだけで意識を持って行かれそうな不思議な煙が漂っていた。
「どうやら、この街にも法がある事をお忘れのようで」
色々な意味で目を奪われる光景から様々な理由で目を逸らし、2人は4人の男達に向き直る。
4人―――1人の男は既にエリーの後ろで両の手にナイフを構えていた。
首の動脈を確実に捉える大蛇の牙のように振り下ろされる刃に、エリーは自身と男の間へ大剣を突きたてて遮る。
鎬を滑る男のナイフ、前のめりで無防備になった頸椎へ大剣の鎬をそのまま叩き付けた。
恐らく相手は疾影士……力加減には苦戦したが、なんとか男は無力化出来たようだ。
対峙する男達に魔術師が投げかける言葉は、投降でも、挑発でもない。
「……円環の裡に万物は巡る。開け夢の通い路……」
紡がれた魔力は杖の先から部屋に霧散し、男達の意識をすっ、と奪っていった。
違法カジノの中では、店員と客がクローゼットとは別のドアの前で右往左往していた。
なお、そのドアの向こうでは、トライフが裏口を掌握し、マレーネが扉の鍵を壊していたので、ドアが開くはずはなかった。
エリーが吹き飛んだ机と、そこに散らばる札束を一瞥する。
恐らく、理由など単純、金と力、なのかもしれない。だが、それを今回当事者の口から聞きだすことは出来なかった。
◆
静かで暗い地下に、空も緑も無いのに青空と大地の広がる場所がある。
以前、流れてきたハンターが描いていったと噂されるその場所にユリちゃんもとい、いつもの鬼百合の姿があった。
『この街に対するご意見をお入れください』
と書かれた札のある小さく簡易なポストを設置し、満足そうな顔をした。
「金でも集めてくれた方がありがたいんだがね」
鬼百合が声の方へ振り向くと、そこには絵の描かれたエリアと伸びる細く暗い通路の境目に、
薄汚れた高齢の男が座り込んでいた。
「どうにも治安の良悪の境目みたいってのと、絵のおかげで勝手に壊されずに済むかもしれねぇと思ったんでさ!」
「何日で壊されるか、仲間と賭けるとするさ」
ぱたぱたと飲み屋のある方へ駆けていく鬼百合。その背中を見て老人は小さく溜息を吐いた。
「あの……」
寝息でも立てようかとした時に、声が老人の上から降り注ぐ。
地下に来たイスフェリアが、たまたま往訪したのだった。
「地下エリアでの現状の要望や調査をしています。何か、ご不満な点や思う所はありますか?」
顎に手をやりひと思案、そしてしわがれた唇を動かす。
「市井的な情報が欲しいなら、あっちの方の店にいけ。それと要望だが……」
「なんでしょう……?」
ポストを見やり、自分を嘲るように口角を上げる老人と、小首を傾げるイスフェリア。
「――紙とペンを、くれないかね」
一方、ブラウは今度はケイと共に姉妹を装い、鬼百合やイスフェリアが向かう場所とは違うエリアを歩いていた。
『事務所』のようなプロの汚れ仕事をするような者ではなく、チンピラやゴロツキ、浮浪者という類の者が多いようだった。
「お姉ちゃん、ここ危ない所だよ……? 帰ろう?」
ブラウが弱々しくケイの手を引っ張れば、物珍しそうに浮浪者が集まる。
そして、ケイは巧みに話をして情報を引っ張り出していくのだ。
「スラムみたいに生き抜こうと足掻いたり状況に馴染んだ奴らが来るとこじゃない……いわば、吹き溜まりなんだよ、ここは」
話が弾み、よほど浮浪者の1人が取っておいたという秘蔵のワインを開けるかという間際、
ひょい、とその酒を取り上げる巨漢の男が間に入った。
「女に酒、いいじゃねぇか」
ぐい、とケイの肩を引き寄せて酒と共に去ろうとする男。
ケイが懐の銃に手を伸ばすよりも、ブラウの目がほんの少し明るくなる方が早かった。
「……お姉ちゃんは下がってて? ここはわたしに任せて」
「あぁ? なんだ、姉ちゃんより妹の方が『上手い』のか?」
下品な笑みを浮かべて手を伸ばす男。だが、その手は既にブラウの胸元から明後日の方向を向いていた。
「な゛……っ?!」
「……ふふ、貴方はどんな香りがするのかしら?」
雰囲気を変えたブラウは既に刀の柄に手を添えている。そして、既に峰打ちの居合を一刀、男の手首に喰らわせていた。
慌てて逆の手でナイフを握るが、ブラウの高揚を煽るだけだった。
鞘に収めたまま刀を反転、今度は刃の軌道が男のナイフを、手を、膨れた腹を、太い血管の通る太腿を斜めに斬り削いでいった。
「もっと、もっと抵抗していいのよ? ……そうすればわたしがもっと傷付けて……嗅ぎ殺せるの」
腹から、太腿から水鉄砲のように噴射する血を顔に浴びてなお、ブラウは欣快な表情をしていた。
そして、文字通り転がって逃げる男をよそに、うっとりとしたままのブラウをケイは人が集まる前に引っ張りだしていった。
◆
「違法のフルコースなカジノを摘発、さらに街娼と元締め『事務所』の取締完了、他にも色々だ」
「色を求めて流入してきた客の需要に応える、って感じなのかな……カジノの薬については、分析に回しておいて」
師団の執務室、リベルトがハンター達から上がってきた報告書やマップ、押収品を並べてユウに報告をしていた。
「気になんのは、地下の奴らが『ここは吹き溜まり』って言って、スラムの奴らは『地下はマトモ』って言ってる事か」
一筋縄じゃいかねーな、とリベルトが煙草を取り出してぽつりと呟いた。
「ちなみに、今回彼らが報告書にも載せてる隠語……癖はUP、文字はNEPHEW、匙はLOVE、じゃあ『時化』……シケはなんだと思う?」
「……お前、いつのまにブルーの言葉に詳しくなったんだ?」
「今時、文字表ぐらいなら手に入るしね、隠語を作る過程で誰かが思いついたんじゃないかな? 隠語と暗号のいいとこ取りだよねー」
「答え教えろよ」
「ないしょっ」
意地悪く笑うユウ、もちろん隠語の意味も報告されていたが、
それが書かれた紙は、ちょうど今、リベルトの頭上で羽を設けてすーっと飛行しているとこだった。
「やーだー、もうお姉さんおもしろーい」
「ふふ、ぷろのかたに、ほめていただけると、こうえいですわ」
夜の街、ラオネンはキャバレーの一角。男性客を相手取る夜の蝶達の中で、
マレーネ・シェーンベルグ(ka4094)は女性としてお店の女性と会話を盛り上げていた。
「ぶっちゃけ話は女性の方がやっぱりしやすいよねっ」
「ぶっちゃけ、ですか? でしたらわたくし、おーなーのかたともおはなししてみたいですわ」
取材かな? と言いながら女性が手を上げてボーイを呼ぶ、脇腹から肩まで肌を見せるドレスは、刺激的だが決して下品ではないラインを見せた。
「所要というのは……うちの者が粗相でも?」
縁の無い細いメガネと切れ長の目、対応こそ丁寧だが決して弱気ではない物腰の男がマレーネに声をかける、
「いえ、おはなし、とてもたのしかったですわ。それで、らおねんについて、もっとふかいことをおききしたいと、おもいましたの」
一瞬訝しむ様子を見せるが、顎に指を当て、吟味するようにマレーネを見るオーナーと呼ばれる男。
「ふむ……良いでしょう。その代わり、交換条件です」
「じょうけん、ですか?」
路地裏で、師団から渡された事務所のリストに線を入れていくのはエリー・ローウェル(ka2576)
「先日はすっかり遊んじまったし、多少なりとも貢献させて頂こうかね」
じと、と視線を送るエリーに、ただ話していただけじゃないさ、と乾いた笑いでリストに『事務所』の名前を追加するエアルドフリス(ka1856)
「この街にも光を持っている人は居た。じゃあ、違法な事務所を運営する彼らは……一体なんなのだろう」
ぽつ、と独り言のように言葉を零すエリー。
「……こういう場所で、そういうものをあまり真っ直ぐ見すぎると、疲れてしまわないかね?」
「わかりません。ただ、私が識るために、彼らに自分を見直す機会を持ってもらうために。問います」
石壁に寄りかかりパイプを取り出すエアルドフリス。煙越しでも、エリーの目は濁っていなかった。
善悪や、是非を問う訳でもない。ただ、問い、識りたい。その為に、エリーはまたこの街に足を運んだのだ。
少し緊張をほどくように一息つき、大剣で峰打ちの練習をするエリー。
エアルドフリスが何度目かに吐いた紫煙に、特別強い甘い香りが混ざる。
路地裏からふらりと現れた、 トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)の吐いた煙草の煙だ。
「もう随分楽しんでいるようだが……羨ましいものだね」
「いや、お楽しみはこれからさ」
パイプの葉の詰まった袋を放り投げてから、表通りの店を親指で示すトライフ。
煙草の香りに隠れて、少し酒の匂いが残っているようだった。
トライフの後ろから遅れてついて行こうとするエアルドフリスの足が止まる。
ぐい、とエリーがそのローブの裾を掴んでいたからだ。
「お生憎ですが、トライフさんの情報でノルマが増えました」
「……手厳しいね」
名残惜しそうに表の明かりを見続けるエアルドフリスを余所に、エリーがずるずると彼を引っ張って裏の闇へと消えていった。
「チェンジだ」
「まぁ、いきなりだなんて、もうそんなにごまんぞくいただけましたの?」
トライフの入った店、その隣についたのは、淡い色のドレスに身を包んで酒の瓶を持つマレーネだった。
「悪いが俺の好みはブルネットで豊満な女性なんだ、ブロンド好きなら知り合いにツテがあるからそっちにいけ」
お互い知り合いだと周りに悟られないように言葉と態度を選ぶトライフ。
「あら、ざんねんですわ。でしたら、めいしだけでも、おうけとりくださいな」
即席なのだろうか、名刺を取り出し、トライフの手を包むように渡すマレーネ。
「また、おあいしましょう?」
柔かい笑みで席を立つマレーネ。トライフは、指の感触だけで名刺の下の別の紙を確認すると、無造作にポケットへ突っ込んだ。
◆
「次の宿はこれでOK……っと」
久々のラオネン、楽しみと言っていたケイ(ka4032)は、お酒の一滴も飲む間もなく奔走していた。
彼女は、ハンターたちの情報交換先の宿の確保と、情報収集を行っていた。
部屋を確保し、宿から出てきた時には既に使い古したようなぼろぼろの恰好でいた。そして向かう足はスラムの方へ。
「仕事、そうこれは仕事だからね」
心なしか足取りが軽いには気のせいか、道中隠しておいた袋を回収すると、彼女はある橋の下へと辿りつく。
そこには、数人の中年~高齢の男達が屋根を求めるようにアーチの下でうずくまっていた。
「いいものかっぱらってきたわよ。ここの男性諸君は女性に一人酒をさせたりはしないわよね?」
がしゃ、と酒瓶の入った袋を掲げれば、ボロを纏った男たちは元気のない歓喜の声を上げてケイに群がってきた。
「どうしたお嬢ちゃん達、迷子か? 客取りか?」
「あ、あの……っ、パパとママとはぐれちゃったの……わたしとユリちゃんね、旅行に来てて……っ」
地下は暗い通路、ぐすっ、と涙声で対峙する男に離すのは猫被りまっしぐらのブラウ(ka4809)、彼女は隣の鬼百合(ka3667)に視線を移す。
「えと、あの、両親を探していて……危険な場所にはいないと思うのだけど……」
「だったらここにゃいねーよ。地下に来るのは本当にこの街に住んでるヤツらだけだ」
「で、でもでも、もしかしたら知らないで入り込んだかも……」
自分の『目』で今の自分が見えるとしたら……どう映っているだろうか。
最後まで『妹のユリちゃん』に扮したまま、鬼百合はブラウの袖を掴みつつ男の前を後にした。
「えぇ、幾つか裏どりが必要ね……そう、じゃあ『時化』で」
どこの目か耳かに悟られないよう、隠語を使い会話を行うブラウ。通路の奥から別の隔靴の音が聞こえると、二人はまた迷子の姉妹に扮したのだった。
「おねぇちゃん、まだ早いよぅ……」
「もうお日様あんなに高く昇ってるよ? 他の子も起こしてあげて」
雨戸代わりの積み上げた木箱を降ろし、飛び込んでくる日の光に片手で思わず目を覆うのはイスフェリア(ka2088)
彼女は宿での連絡を申し送りで済ませ、よりスラムの住民に密着する為に一日の生活を共にしていた。
以前、物の読み書き等を教えたりもしたが、一方通行の教示だけではなく、会話の端々からスラムの現状や危険な場所等も把握出来たりした。
以外にも荒事は起きず、梁の上に待機させていたパルムと妖精はすっかり暇そうだった。
「そういえば、みんなは地下には行かないの?」
一日の家事(と言っても綺麗な水もまともな食事も限られているが)を共に済ませ、午後の読み書きの時間中、ふとイスフェリアが子供達に降る。
「地下はまたスラムとは別なんだよ。生活事態はまだマトモにととのった方さ」
机の上で胡坐を組む、リーダー格の少年がぶっきらぼうに返す。
「歓楽街に住んでいるのに、喧騒を嫌ってわざわざ地下で暮らすのは、普通の街に住めない理由があるのかな?」
指についた石灰の粉をふき取りながらイスフェリアが問う。チョークといった上等なものは無いので、黒板に文字を書くときは苦戦していた。
「まぁ……地上に出さえすれば何でも揃ってる、不便はねーからとかじゃねーの?」
イスフェリアをよそに、授業の終わった黒板を片づける少年。
「な、なんだよっ。気になるならいってくりゃいいだろ?」
随分と丸くなるもので、最近はイスフェリアの講義のおかげで簡単な文字が読めるようになり、少年は運び屋の仕事が取れるようになっていた。
彼なりに恩を感じているのか、それとも別の理由があるのか、顔を赤くしてそっぽを向く少年に、イスフェリアは首を傾げてから地下へと出かけて行った。
◆
どん、と抜き身の大剣が扉を突き破り、大よその形を残したまま室内へと弾き飛んでいく。
とある『事務所』の一室、中には5人の男達がひとつの机と囲んでいた。
マレーネが店を手伝った事による報酬、トライフの夜の渡り歩き、
そして煙草に隠したメモのやりとり、その他エリーとエアルドフリスの地道な情報収集により、
幾つかの野良事務所と違法事務所を絞る事が出来ていた。
「証拠は挙がっています。なぜ、このようなことを?」
「なんのことだ? てめぇら好き勝手しやがって覚悟は出来てるんだろうな?」
「我々は第九師団から委託されています。抵抗はお勧めしませんな」
大剣を構えたまま『なぜ』を問いかけるエリーと、杖を威嚇するように構えるエアルドフリス。
ふと、中央にいた一番偉そうな男の視線がクローゼットに泳いだのを、エリーは見逃さなかった。
目は口ほどに―――追い詰められ、動揺した時にこそ、人はその時大事なものを確認し、守ろうとする。
蹴破った軽い扉の奥では、
一目見ると小さなカジノだが、表のものと違って、裸の女性が歩き、男に座り、
香りだけで意識を持って行かれそうな不思議な煙が漂っていた。
「どうやら、この街にも法がある事をお忘れのようで」
色々な意味で目を奪われる光景から様々な理由で目を逸らし、2人は4人の男達に向き直る。
4人―――1人の男は既にエリーの後ろで両の手にナイフを構えていた。
首の動脈を確実に捉える大蛇の牙のように振り下ろされる刃に、エリーは自身と男の間へ大剣を突きたてて遮る。
鎬を滑る男のナイフ、前のめりで無防備になった頸椎へ大剣の鎬をそのまま叩き付けた。
恐らく相手は疾影士……力加減には苦戦したが、なんとか男は無力化出来たようだ。
対峙する男達に魔術師が投げかける言葉は、投降でも、挑発でもない。
「……円環の裡に万物は巡る。開け夢の通い路……」
紡がれた魔力は杖の先から部屋に霧散し、男達の意識をすっ、と奪っていった。
違法カジノの中では、店員と客がクローゼットとは別のドアの前で右往左往していた。
なお、そのドアの向こうでは、トライフが裏口を掌握し、マレーネが扉の鍵を壊していたので、ドアが開くはずはなかった。
エリーが吹き飛んだ机と、そこに散らばる札束を一瞥する。
恐らく、理由など単純、金と力、なのかもしれない。だが、それを今回当事者の口から聞きだすことは出来なかった。
◆
静かで暗い地下に、空も緑も無いのに青空と大地の広がる場所がある。
以前、流れてきたハンターが描いていったと噂されるその場所にユリちゃんもとい、いつもの鬼百合の姿があった。
『この街に対するご意見をお入れください』
と書かれた札のある小さく簡易なポストを設置し、満足そうな顔をした。
「金でも集めてくれた方がありがたいんだがね」
鬼百合が声の方へ振り向くと、そこには絵の描かれたエリアと伸びる細く暗い通路の境目に、
薄汚れた高齢の男が座り込んでいた。
「どうにも治安の良悪の境目みたいってのと、絵のおかげで勝手に壊されずに済むかもしれねぇと思ったんでさ!」
「何日で壊されるか、仲間と賭けるとするさ」
ぱたぱたと飲み屋のある方へ駆けていく鬼百合。その背中を見て老人は小さく溜息を吐いた。
「あの……」
寝息でも立てようかとした時に、声が老人の上から降り注ぐ。
地下に来たイスフェリアが、たまたま往訪したのだった。
「地下エリアでの現状の要望や調査をしています。何か、ご不満な点や思う所はありますか?」
顎に手をやりひと思案、そしてしわがれた唇を動かす。
「市井的な情報が欲しいなら、あっちの方の店にいけ。それと要望だが……」
「なんでしょう……?」
ポストを見やり、自分を嘲るように口角を上げる老人と、小首を傾げるイスフェリア。
「――紙とペンを、くれないかね」
一方、ブラウは今度はケイと共に姉妹を装い、鬼百合やイスフェリアが向かう場所とは違うエリアを歩いていた。
『事務所』のようなプロの汚れ仕事をするような者ではなく、チンピラやゴロツキ、浮浪者という類の者が多いようだった。
「お姉ちゃん、ここ危ない所だよ……? 帰ろう?」
ブラウが弱々しくケイの手を引っ張れば、物珍しそうに浮浪者が集まる。
そして、ケイは巧みに話をして情報を引っ張り出していくのだ。
「スラムみたいに生き抜こうと足掻いたり状況に馴染んだ奴らが来るとこじゃない……いわば、吹き溜まりなんだよ、ここは」
話が弾み、よほど浮浪者の1人が取っておいたという秘蔵のワインを開けるかという間際、
ひょい、とその酒を取り上げる巨漢の男が間に入った。
「女に酒、いいじゃねぇか」
ぐい、とケイの肩を引き寄せて酒と共に去ろうとする男。
ケイが懐の銃に手を伸ばすよりも、ブラウの目がほんの少し明るくなる方が早かった。
「……お姉ちゃんは下がってて? ここはわたしに任せて」
「あぁ? なんだ、姉ちゃんより妹の方が『上手い』のか?」
下品な笑みを浮かべて手を伸ばす男。だが、その手は既にブラウの胸元から明後日の方向を向いていた。
「な゛……っ?!」
「……ふふ、貴方はどんな香りがするのかしら?」
雰囲気を変えたブラウは既に刀の柄に手を添えている。そして、既に峰打ちの居合を一刀、男の手首に喰らわせていた。
慌てて逆の手でナイフを握るが、ブラウの高揚を煽るだけだった。
鞘に収めたまま刀を反転、今度は刃の軌道が男のナイフを、手を、膨れた腹を、太い血管の通る太腿を斜めに斬り削いでいった。
「もっと、もっと抵抗していいのよ? ……そうすればわたしがもっと傷付けて……嗅ぎ殺せるの」
腹から、太腿から水鉄砲のように噴射する血を顔に浴びてなお、ブラウは欣快な表情をしていた。
そして、文字通り転がって逃げる男をよそに、うっとりとしたままのブラウをケイは人が集まる前に引っ張りだしていった。
◆
「違法のフルコースなカジノを摘発、さらに街娼と元締め『事務所』の取締完了、他にも色々だ」
「色を求めて流入してきた客の需要に応える、って感じなのかな……カジノの薬については、分析に回しておいて」
師団の執務室、リベルトがハンター達から上がってきた報告書やマップ、押収品を並べてユウに報告をしていた。
「気になんのは、地下の奴らが『ここは吹き溜まり』って言って、スラムの奴らは『地下はマトモ』って言ってる事か」
一筋縄じゃいかねーな、とリベルトが煙草を取り出してぽつりと呟いた。
「ちなみに、今回彼らが報告書にも載せてる隠語……癖はUP、文字はNEPHEW、匙はLOVE、じゃあ『時化』……シケはなんだと思う?」
「……お前、いつのまにブルーの言葉に詳しくなったんだ?」
「今時、文字表ぐらいなら手に入るしね、隠語を作る過程で誰かが思いついたんじゃないかな? 隠語と暗号のいいとこ取りだよねー」
「答え教えろよ」
「ないしょっ」
意地悪く笑うユウ、もちろん隠語の意味も報告されていたが、
それが書かれた紙は、ちょうど今、リベルトの頭上で羽を設けてすーっと飛行しているとこだった。
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師団長殿に質問 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/08/16 00:42:51 |
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「叶える街」調査計画【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/08/18 17:23:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/15 19:11:33 |