鉄壁の騎士、ルミちゃんと出逢う

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/18 07:30
完成日
2015/08/29 14:18

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●港町ガンナ・エントラータのある商会にて
「アルテミス小隊での活動におけるハンターの登録制ですか?」
 交易の商会を営み、母方の祖父でもある、最大の後援者の説明にソルラ・クートは聞き返した。
「さすがに専属のハンターを雇う程の余力はないがな、積極的に協力してくれるハンターには、それに応じるべきだと思わんか?」
「彼らは既に、ハンターオフィスより登録されていますし、中立の立場にありますが……」
「分かっておる。あくまでも、こちらの善意に過ぎない事であるし、小隊活動が円滑に進む為の方策の一つじゃ」
 後援者にここまで言われると、ソルラとしても断るわけにはいかない。
 なにしろ、後援者の一方的な好意である。小隊自体に損害がでる訳でもなく、ハンターにとっても良い話しのはずだ。
「それに、利用するかどうかは、ハンターにもよるしの」
「分かりました。一先ず、預かります。上司に確認致しますので」
 手渡された資料を預かるソルラ。
「して、活動の方はどうじゃ?」
 その言葉に、ソルラは四角形の箱をテーブルの上に置いた。
 それは、ソルラがピースホライズンで帝国皇帝から紆余曲折の末、借り受けたものだ。
「歪虚を探知できるという箱です。範囲や精度はまだ不安定ですが」
「素晴らしい! さっそく、起動してみてくれないかの?」
 起動しても、音が鳴るわけでも箱の形が変わったりする事はない。
 それでも起動して欲しいというのでソルラは箱を起動させた。
「えっ……」
 起動させるなり、ソルラは驚きの声を上げた。
「おぉ。ランプが点灯しておるの! これは、歪虚がいるのか?」
 確かに、箱の上部に取り付けられているランプが点灯している。
「ランプが点灯していると、歪虚や雑魔がいるらしい……のですが、精度や範囲が不安定ですので」
「……ふむ。まぁ、気休めみたいなもんじゃな」
 そうこうしている内にランプの明かりが消えた。
「今後の活動に期待しておるぞ」
「はい」
「ところでじゃ、例の船は観たかの?」
 祖父が言う船とは、刻令術と呼ばれる技術を用いたある実験船であった。
 先程、リゼリオに向かって処女航海に旅立ったはずである。
「少しだけ見させていただきました」
 中型の帆船だが、特徴的なのは、両側舷に取り付けられた大きな車輪だ。
 所謂、外輪船である。リアルブルーの外輪船と大きく違うのは、機関が化石燃料を用いた蒸気機関や内燃機関と違う事である。この機関に刻令術を用いているのだ。
 とは言っても、実験段階であり、この度の航海は、一先ず、刻令術を使用し、外輪を回して航行できるのかという程度の目的であった。
「実験が上手くいけば、王国海軍へのアプローチも考えているのでな」
「イスルダ島の事もありますしね……」
 王国の北西に浮かぶその島は、数年前に歪虚に奪われたまま根拠地化されている。
 この島を取り戻すのは王国の悲願でもあるのだ。
「船は数日後にはリゼリオに到着する。現地で実験も行う予定だ。ぜひ、立ちあってくれ」
 祖父から渡されたゲストチケット。
 数人の同行も許された特別な券だ。ソルラはそれを受け取った。

●数日後――リゼリオ沖
 処女航海は順調であった。
 昨年、同盟領を襲った狂気の歪虚の影響もあり、航海は危険と隣り合わせではあるのだが、この航海については今の所、問題がなかった。
「船長! リゼリオが見えましたぜ!」
 船員からの報告に船長は頷いた。
 甲板の上で船長も望遠鏡を覗きこむ。確かに、リゼリオの街並みが写る。
「ここまでこれば、一安心だな」
「雑魔や怪物の襲撃はありませんでしたからね」
 副長が安堵した表情で頷いていた。
 腕の立つ船員はいるが、覚醒者ではない。もっとも、強力なバリスタはあるので、ある程度の自衛は可能ではある。倒す事はできなくとも撃退したり、最悪、時間が稼げればいい。
 万が一の際は、刻令術を用いて外輪を動かせば……理論上は高速を出せるはずだからだ。
「しかし、あの状態はダメでしたね」
「まったくだ。数少ない刻令術の技術者とやらが、いざ、海に出ると船酔いで役に立たないとはな」
 その技術者は今でも自室で苦しんでいるはずである。
「まぁ、リゼリオに上がって数日もすれば、回復するだろう」
 実験はそれからでも遅くはない。
 そう思った時だった。別の船員が慌てた様子で下甲板から上がって来た。
「た、大変です! 備蓄庫内に雑魔が!」
「なんだとぉ!?」
「備蓄庫の入口は堅く閉じましたが……」
 中型の帆船ではあるが、刻令術の実験や戦場での運用も想定されており、船体の耐久性は高い。
 別の隔壁に向かって破られるのはまだしも、海に向かって穴を空けられてしまえば、沈没の可能性もある。
「……今は、この船を信じよう。万が一に備え、退去の用意を。それと、緊急の信号旗を掲げろ!」
 船長が命じると船員達は慌ただしく走りだした。

●ハンターオフィス本部
「こちらこそ、よろしくおねがいしま~す☆ 気楽に、ルミちゃんって呼んでください♪」
 自己紹介をしたソルラに対し、元気な言葉で返したのは、ハンターオフィスの受付嬢ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)だった。
 ソルラは近々リゼリオで行われる実験船の試験航海にハンターの同行を考え、その為、ハンターオフィス本部へと足を運んだのだが、たまたま、本部へと用事があったというルミが、ちょうど人手不足でちょっとやっかいっぽいし、お前やれよ的な命令でソルラの依頼対応にまわされたのだ。
「え、えと、ルミちゃん……料金の支払いなのですが、小隊ではなく、私の実家の商会に」
「はい! 分かりました。戦闘もなさそうですし、ハンターに支払う額はっと、ちょっと待って下さいね。計算しますからー」
 近くのメモ用紙に数字を書いている。きっと、数学者でもびっくりするような複雑な計算式なのだろう――とソルラは思う事にした。
 それにしてもだ……。
「ルミちゃんって、凄く可愛いんですね」
「ソルラさん、上手だなー。そうなんです! ルミちゃんは可愛いんです☆」
 キラっと目元でなにかが光った気がした。
 自分で言う事なのかと思ったが、口にするのは止めた。そういえば、誰かに似てるなと思い返すと、その人もハンターオフィスの受付嬢だったと思う。
 その時、バーンと扉が強く開いた。慌てた様子の商人だった。ソルラには見覚えがあった。祖父の商会の従業員の1人だ。
「ソルラ様、大変です! 入港する実験船から緊急の連絡がありまして!」
「どうかしたのですか?」
「実験船内部に雑魔が出現! 急ぎ、討伐隊を送って頂きたいとの事!」
 船は港の沖合に停泊中との事。
 血相を変えたソルラが依頼内容の変更を伝える。
「依頼内容の変更をお願いします。実験船内部に出現した雑魔の討伐を追加して下さい」
「はい! お任せください。活きの良いハンターさんをご紹介しますね☆」
 とびきりの営業スマイルを向けたルミであった。

リプレイ本文

●依頼開始
「これが、刻令術の実験船かー」
 小鳥遊 時雨(ka4921)が沖合に浮かぶ実験船に乗り込むや開口一番、そんな事を言う。
 最初の依頼ではクルージングを楽しむだけであったのだが、急遽の雑魔討伐。しかし、装備を新調したばかりの時雨は気合い十分だった。
「実験船の試験航海に立ち会うだけの、のんびりとした依頼と思っていましたのに」
 ハンター稼業とは本当に忙しいものですねと続けたのはメトロノーム・ソングライト(ka1267)だ。
 雑魔さえ無事に倒せれば試験航海を行えるのは変わらない。また、依頼主であるソルラと小隊は彼女にとっても縁深き事であった。
 小隊名のアルテミスは……他ならぬメトロノームの提案なのだから。
「食料備蓄庫に、マシュマロの様な白い雑魔ですか……何が、負のマテリアルの影響を受けて雑魔化したら、こういうモノに成るのでしょうね?」
 首を傾げながら天央 観智(ka0896)が疑問を口にした。
 雑魔は原則的には自然発生しない。なんらかの原因があるからだ。
「誰かが故意に実験船へ雑魔を忍ばせた……なんてことはないですよね?」
 Uisca Amhran(ka0754) が観智の疑問に応える。もっとも、雑魔の取り扱いは、常識的には普通の人間ができる事ではない。故意であるとすれば歪虚の仕業になるのだが……。
 その雑魔は一つの隔壁内部いっぱいに広がっているという報告だ。なんでも、マシュマロのような弾力……らしい。
「それだけの容積をもっているが、最初からおったのではあるまい。餌は何じゃったのじゃろうの? ソルラや、あの部屋に主にあった品はなんじゃ?」
 細い顔先に手を当てながら星輝 Amhran(ka0724)がソルラに質問する。
 雑魔が成長する何かが他の隔壁にもある事により、雑魔が成長する事を警戒しての事だ。
「食糧備蓄庫と聞いていますので、保存が効く食材だと思います」
 特別な品はないという事は確かなようだ。商会を通じて、船に運び込んだ食糧の出所を確認しているが、今の所、怪しい報告はない。
「実験船に雑魔が出没とはタイミングが良い……いや、悪いと言うべきですか? 何れにしろ厄介ではありますな」
 米本 剛(ka0320)の言う通り、このタイミングは図ったようにも思えるが、実験中でなくてよかったのも事実だ。
 もし、なにかの存在が実験の妨害を図っているのであれば、それは実験中を選択するのが妥当なはず。そう思えると『偶然』なのかもしれない。
「ともわれ、今回は知り合いが多いと言いますか……何か心強い気がしますね。」
「私、てっきり、新人ハンターの方ばかりと思っていましたら、皆さん、経験者ばかりで」
 剛の言葉に、ソルラが全員を見渡して微笑を浮かべた。
 彼女としても安心なのだろう。帯剣はしているが両手に金属製の箱を持っていた。戦闘はハンター達に任せるつもりの様だ。
 そして、その箱の正体を剛は知っていた。

 歪虚や雑魔の存在を知らせる特殊な機械である事を……。
 箱のランプは確かに、点灯していた。

●開戦
「うわっ! 白くて、ふかふかしたのが隔壁内に、みっちり! ぷにぷにしてそ!」
 時雨が視界に入った雑魔を見て驚きの声をあげた。
 思わず、つんつんしたい衝動に襲われるが、それをグッと抑える。
「鋼糸より、前に出るでないぞ。油断は禁物じゃ」
 特殊な強化鋼製ワイヤーウィップを時雨の前面に張った星輝が忠告した。
 ぶら下げたトランシーバーから仲間の声が響くが、今は返事をせず、ただ雑魔の出方を注意深く見ている。なぜなら、時雨と星輝は仲間の攻撃から押し出された分を迎撃しようと思っていたからだ。反対側は海へと繋がっている壁なので、雑魔を攻撃し、勢い余って海側に雑魔が逃げ出されてはたまった物ではない。
「狭くて弓が使えないから、星輝、よろしくっ」
「任せておくのじゃ。ネルネルしてやるからの」
 投擲用のカードを構えた時雨は星輝の言葉に首を傾げる。
「……ネルネル?」
「……なんでもないのじゃ」
 その時、雑魔が身体の一部であろうか、白い触手を星輝に向かって伸ばした。
 星輝は居合抜きの一撃で、それを斬り落とす。
「つまらぬ物を斬ってしまった」
「その台詞、知ってる! えと……誰だったかな……どざえもんだっけ?」
「それは、水死体の事じゃ……」
 海の上で縁起でもない話しに、星輝は苦笑を浮かべた。

 白衣に身を包んだ観智が別隔壁にいる仲間と連携を取りながら魔法を唱える。
「やはり、地面ではない船の中では、土壁を出現する事はできませんか」
 アースウォールを出現させ、遮蔽物として使おうとしたが、無理であったようだ。
 だからと言って、戦えないというわけではない。遮蔽物が無ければ、避けるか武器で受け止めれば良いだけだ。観智は魔術具でもある長剣を構えた。
「米本さん、僕は気にせず、攻撃に集中して下さい」
「わかりました。では、自分は行かしていただきます」
 巨大な偃月刀に光の精霊力を付与する剛。
 広くはない隔壁内で敢えて大獲物を持ってきたのは、雑魔を別の隔壁へと押し出す事を考慮しての事だ。
 雑魔がマシュマロの様ななにかを高速で射出する。それを剛は避けなかった。後ろにいる観智に気を使ったわけではない。その程度であれば、鎧で止められると判断したからだ。
「これなら、無理矢理でも押し出す事は可能のようですね」
 偃月刀を構えた剛が身体ごと雑魔にぶつかっていく。
「米本さんが猛攻を仕掛けます。援護をお願いします」
 自身は魔法の矢を放ちつつ、観智はトランシーバーで仲間に連絡した。

 トランシーバーから連絡を受け、メトロノームも魔法を放つ。
 観智と同様に土壁を出現させ、それを防護壁として使うつもりだったのだが、出来ない為、グローブを構えながらの魔法だ。
(マシュマロ……焼き、ましゅまろ?)
 雑魔のふわふわもこもこからそんな連想をしていた為か、炎の矢を唱えていた。
 遠慮なく立て続けに炎の矢を放って行く。
「Uiscaさんに当てないように気をつけていますので」
 盾を構えて前面に立つUiscaの背に向けて声をかけた。
 そのUiscaは戦闘中というのに、振り返って可愛らしい笑顔を見せる。
「メトロノームさんへ攻撃が向かない様に、きっちりガードするよ」
 余所見をした所を狙って雑魔が触手の鋭い突きを放つが、攻撃を予想していたUiscaが長方形の盾で受け止めた。
「剛さんの攻勢に合わせ、Uiscaさんもどうぞ」
「わかりました。雑魔の動きのだいたい掴めたので、私も、攻撃しますね」
 どことなく嬉しそうな抑揚でUiscaは答えると、短杖を構える。

●撃破
「米本さん、反対側でも攻勢に出ています。注意を」
 状況を逐次、トランシーバーで連絡を受けながら、観智が注意を促した。
「承知しました」
 雑魔のいる隔壁から剛の返事が聞こえた。
 マシュマロのような、ふわもこの雑魔に飲み込まれたわけではない。
 気合いを入れる大声が響き、剛が、その逞しいレスラー体型を活かし、雑魔を押しのけているのだ。雑魔からの攻撃は頑丈な鎧を抜ける事が無かったし、抜けても、魔法ですぐに回復している。
「雑魔が……動かされていますね」
 観智の目にも、剛の頑張り具合の成果が写る。
「海側の隔壁に辿り着きました」
 剛は隔壁を庇いつつ、雑魔を星輝達のいる方へ押し出すつもりなのだ。
「ぬぅぁぁぁ!!」
 腹の底から響く様な声と共にあらん限りの力で雑魔を押した。

 雑魔がわずかずつでも押されて動いている様子は、メトロノームも確認できた。
「Uiscaさん、もう一押しです」
 ここで強い攻撃に出れば、雑魔を完全に海側の隔壁から離す事が可能なはずだ。
 もし、雑魔によって海側の隔壁が破れれば、浸水の危険が高まる。最悪、沈没という事態にもなり得るかもしれない。
「それでは、今持てる、最大の攻撃をします。援護をお願いします」
「はい」
 メトロノームは炎の矢の魔法から、風の魔法へと切り替える。
 攻撃方法を変える事で雑魔の気を引こうという意図だが、雑魔は剛の方に集中しているようだった。
 Uiscaが魔力を集中させる。攻撃の瞬間に武器に魔力を集めて、強力な一撃を放つ、聖導士の技だ。
「この一撃で光になりなさい! 一撃必殺のフォースラクラッシュ!」
 短杖を高々を掲げてから振り下ろした一撃は雑魔のふわもこの体躯を直撃した。

 Uiscaの無慈悲で超強力な攻撃が決まろうとしていた頃、時雨と星輝の隔壁内に雑魔が押し出されて来ていた。
「少しずつ切り離して体積を小さくするのもよし、雑魔の脳天に突き刺してネルネルするのもよしじゃな」
「援護するよ」
 手首を捻りカードを裏表をクルッと回して、首元で構える時雨。雑魔の動きを観察しながら狙いを定める。
 どこに投げても当たるだろうが、触手が出てきそうな所とか、射出口も狙い目だ。だが、時雨が狙っているのは、そのいずれでもなかった。
「行くよ!」
 今まさに、触手が飛び出る所に向かってカードを飛ばした時雨。
 同時に星輝が居合の構えをしつつ駆けだした。雑魔が射出したなにかを身体を捩って避けつつ、時雨が投げたカードが突き刺さった部位を足場に雑魔の身体を駆けあがった。
「流派禍断 舞空形【天踏】」
 駆けあがった勢いのまま、天井に迫ると、クルリと態勢を変えて足でターンをした。
「居合形 いちの……な、なんじゃとぉ!」
 今まさに必殺の一撃を叩きこもうとした瞬間――雑魔の身体が光り出すと、粉々に崩れ去ったのであった。


 星輝の悔しそうな声が船内に響いたのは、言うまでもない……。


●疾走する実験船の甲板にて
 観智が潮風を浴びながら舷側に取り付けられている巨大な水車を注意深く観察していた。
 無事に雑魔の討伐が終わり、片付けや調査も一段落したので、本来の目的であった刻令術の実験を行っている最中なのだ。
(刻令術を用いた外輪船ですか……)
 甲板上には煙突はなく、マストが並んでいた。
 リアルブルーと違い、化石燃料に乏しいこの世界では内燃機関の技術は大きく発達しなかったらしい。刻令術は魔導エンジンとも異なる体系のようだ。
(煙突がないという事は巨大なボイラーもないという事ですね)
 詳細は教えてくれないという事であるが……色々と想像を膨らませる事はできた。
(大掛かりな機関が必要ないという事で、重さや部品の少なさ、スペースの確保というメリットがありますか。あとは……)
 実験船はかなりの速度が出ているようだ。もっとも、その速さはリアルブルーの高速船と比べれば見劣りするわけだが。
 それに、実験時間も短いとの事だった。その理由は単に莫大なマテリアルの確保が難しいという事らしい。
「わぁ、帆での移動より、かなり早いですっ。この技術が、この先あるかもしれないイスルダ島での戦いでのキーになるかもしれないのですね」
 甲板から身を乗り出してUiscaが感動していた。
 輝かしい金髪が風を受けて流れる。
「刻令術は機導術の亜型かの? これが蒼の機械と合わされば……」
 妹とは違って冷静に外輪の動きを見つめながら星輝が色々な事を想像していた。
「私も刻令術に詳しくはありませんが……このご時世ですから、使えそうな技術を確認する事は良い事だと思います」
 ソルラがUiscaと星輝の言葉に頷きながら応じる。
 この実験船の持ち主が王国ではなく、ソルラの祖父が経営する商会というが……。
「私は、大ゴーレムっぽいものに変形するかと期待したのですが……ちょっと残念です」
 本気で変形すると思っていたのか、メトロノームは残念そうに、顔を落とす。
 嘘か真か、刻令術を使ってゴーレムを動かしていたという噂もある位なので、もしかして、船に変形できるゴーレムが古代には、存在していたかもしれない。
 その台詞にソルラがクスリと笑った。
「あ。ごめんなさい。ヘクス様も、きっと、そんな事言いだしそうと思ったので」
「刻令術って、アダムって人がやってるよね?」
 時雨が急に会話の中に飛び出してきた。
 戦いに疲れているのか、顔が少し青ざめている……気がしないでもない。
「前に港町で会った事があるよ」
 甲板と大差がないかもしれない胸を自慢げに張る。
「港町に滞在しているという噂を聞いた事がありますね」
 ソルラが港町の方角を見つめながらそんな言葉を発した。
 実験船の造船は港町で行われたという……もしかしてと思い浮かんだ事をソルラは心の奥底に飲み込む。
 そんなソルラに剛が件の箱をソルラに返しながら声をかけてきた。先程、装置を見せてもらっていたからだ。
「『歪虚判る君』いや『ヴぉいドン』……いやいや、『キョム・シラセール』でしたっけ? どうですか、装置の調子は?」
「まだ、なんとも言えませんね」
 苦笑を浮かべるソルラ。
「ランプちゃんと消えてたー?」
 時雨の質問にソルラは頷いて、装置のランプを見せた。
 ランプは消えていた。雑魔を退治した直後に消えたという事で一応は機能しているようだ。
「反応があるなら……何かしらの歪虚が忍び寄っているという事に……さすがに、飛躍しすぎですかな」
 剛が不安を呼びそうな言葉を口にする。
 しかし、ソルラは微笑を浮かべていた。
「それを調査するのも、アルテミス小隊の役目ですから。皆さんも、今後とも、よろしくお願いします」
 アルテミス小隊登録ハンターとしてという意味でだ。
「自分に『アルテミス』は語源的に似合わない気はしますがね」
 苦笑を浮かべたのは剛だ。
 一方、Uiscaは瞳を輝かせながら宣言する。
「私もぜひ協力させてくださいっ!」
 その隣で星輝がソルラの制服をジト目で眺めていた。
「その服をワシも着るんかや……?」
 ソルラの着ている服は、小隊独自の制服らしい。俗に言う軍服ワンピースの様なデザインのワンピースだ。
 両肩の肩章と胸元の大きなリボン。長袖に、丈が短いスカート裾。
 星輝は自分がそんな服を着ている想像をしてみる……が、圧倒的にある部分が足りないと思った。思ったが口にするのは止めた。なぜか、時雨と目が合う。
「男性の制服もあるのでしょうか?」
 観智が真面目そうな表情で訊ねる。きっと、男性用の制服があるに違いない。
「小隊登録になったからと言って、必ず着なきゃいけないわけじゃありませんから」
 その時、一際強い突風が吹いてソルラの制服のワンピースが捲れた。
 顔を真っ赤にして慌てて裾を押さえるソルラであった。




 実験も無事に終了し、ハンター達の依頼も達成された。
 刻令術を用いた外輪船の課題もいくつか浮き彫りとなった。今後も技術開発されていくとの事であるが、それは、また、別の話しである。




「そういえば、海走る船は初めてだった……あ、ごめ……も、む……」
 時雨が船酔いで大惨事になるのは、実験が終了し、港へと戻る途中の事だった。

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MVP一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓っ
小鳥遊 時雨(ka4921
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/08/14 20:15:27
アイコン 相談の卓、です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/08/17 18:10:15
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/14 07:54:29