ゲスト
(ka0000)
海原と骸骨と謎の幽霊船
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/18 22:00
- 完成日
- 2015/08/21 19:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●10年前
物の輸送には幾つかの道がある。その中でも陸路、海路が主な輸送経路となっている。
その2つのうちの海路についてだが、大量搬送や時間短縮の面で非情に優秀だ。船の大きさだけ積荷を載せ、障害物のない海を渡るのだから当然と言えば当然である。
しかし、海路とはいえ危険がないわけじゃない。歪虚や水棲生物による襲撃もあるため、対抗手段としてハンターが同乗することもよくあることだ。
だが、そのハンターでもどうしようもない事態と言うものがある。
そう、天災だ。
「急いで帆を畳め! マストがもたねぇぞ!?」
吹きすさぶ強風に真っ直ぐ立っているべきはずのマストが曲線を描き、大きく軋む音が船中に響いている。
視界すら奪ってしまうほどの大粒の雨が甲板を叩きつけ、ドラムでも鳴らすかのような大きな音を立てる。
「横波に気をつけろ! 取り舵30度、急げ!」
船の乗組員達は船長の指示の下、的確に船を操っていく。
しかし、嵐はそれ以上に容赦なく、圧倒的な力を持って絶海で揺れる木の葉のように一つの帆船を弄ぶ。
「おい、船長! 大丈夫なのかっ。あの積荷は非常に高価な――」
水夫には見えない、日焼けもしていない小奇麗な顔の男が船室から出てきて、船長に詰め寄ろうとした。
だが、次の瞬間大きく横に傾く甲板、そして流れ込んでくる大量の海水に飲まれ、気づいた時にはその男の姿は消えていた。
「ちっ! だから船室で大人しくしておけと言ったんだ!」
波に浚われた男を捜している暇などない。今はこの嵐を乗り切らなければ、どっちにしろ海の藻屑になるのだから。
その時、マストに登っていた水夫が大声で悲鳴のような声を上げた。
「船長! 正面に何か影が!! な、なんだありゃぁ!?」
「くそっ! 全員、何かに掴まれぇ!!」
何か大きな物体が船体にぶつかる。その衝撃で船体に罅が入り、マストの一本がへし折れてしまった。
ソレはそのまま船にしがみ付き、一本の腕を甲板へと滑り込ませる。
「化け物が出た。早く、ハンターを呼べぇ!」
「駄目だっ。高波が、でかいっ。でかすぎるぞぉ!?」
船長が叫ぶ。だが、さらに追い討ちをかけるように大きな波が船を襲った。船体に大きな損傷を受けていた船はそれに耐え切れず、そのまま波に飲まれてしまう。
そして、船はそのまま深く暗い海底へと引きずりこまれていく。海流とは違う、別の何かの力によって。
●10年の時を経て
辺境南東部、マギア砦の西に流れるナナミ河の河口の近く。
そこには同盟などから辺境に物資を送る為の、ちょっとした規模の港町がある。
常に船が行き交い。沢山の荷物を積んだり降ろしたりと世話しないが、それは日中の話。
日の沈んだ頃には町の酒場は一杯になり、深夜過ぎまでその騒ぎが止むことはない。
そんな酒場の扉が開き、1人の男が酒瓶を片手にふらふらと出てきた。
用をたす為なのか、おぼつかない足取りで海辺のほうまで歩いていく。
店から少し離れれば夜の町は真っ暗で、空の星が照らす薄明かりだけが便りだった。
男は丁度良い場所を見つけたのか立ち止まる。と、その時視界を上げて海を見た。
「んっ、ありゃなんだ?」
海の向こうで何かが海の上を進んでいる。丁度雲で月が隠れたせいで海の向こうは薄暗くよく見えないが、それはどうも船のように見えた。
こんな時間に船を出している奴なんていないはずだが……そう思いながら男は目を凝らす。
するとその船の船首の辺りに人影が見えた。それはどうやらこちらに向かって手を振っているように見える。
その時、月を隠していた雲がすっと流れていった。明るい光が海全体を照らして行く。
そこで男はその船の姿をはっきりと見た。その船の船体はぼろぼろで、マストも折れ曲がっていてとても航行出来るような状態ではない。
さらに、こちらに向かって手を振っていた影は人間ではなかった。白い硬質な頭蓋骨を晒す、襤褸切れを纏う骸骨の水夫。
――グルロロロォォォッ!
そして、そのボロ船のほうから突然。低くまるで生物が鳴くような不気味な音が響き渡る。
「んっ、なあぁぁぁっ!?」
男が悲鳴を上げたところでまた空の雲が流れ、船を照らし出していた月が隠されていく。
暗くなって行く海原の景色に溶けるようにして、動く骸骨を乗せたボロボロの船は海の向こうへと消えて行った。
――ニィ
腰を抜かして地面に倒れこんだ男を見下ろすような高い建物の屋上で、一匹の白猫が鳴いた。
「うん。もしかしたら、あの船にあるかもしれない」
その隣に立つ小さな影が、小さな相棒にそう言葉を返した。
●ハンターオフィス
「今回のお仕事は幽霊船の調査です」
ハンターオフィスの一室に集められたハンター達に、オフィス職員が今回の依頼について説明を始める。
場所は辺境の南東部にある港町の近海。そこに出没するようになった幽霊船について調べることである。
目撃情報によると船はかなり傷んでおり、海面に浮いているのが不思議なくらいだという。もしかすると、船自体が歪虚化している可能性がある。
また船の上には動きまわる骸骨が多数目撃されており、こちらも元船員達の遺体が歪虚化した可能性がある。
「今のところこれといった被害は出ていませんが、港町の住人達も気味悪がっています」
故に調査依頼。しかし、相手が歪虚だと判明したらそれを討伐する必要が出てくるだろう。そこも含めての今回の依頼だ。
「信心深い人は何かの不吉な予兆だと言って、海に出たがらないという人も出ています。ですから、出来るだけ早い解決が望まれます」
一連の説明が終わり、最終的にハンター達に1隻の船が貸し出されることも告げられる。
「皆様の健闘を祈ります」
物の輸送には幾つかの道がある。その中でも陸路、海路が主な輸送経路となっている。
その2つのうちの海路についてだが、大量搬送や時間短縮の面で非情に優秀だ。船の大きさだけ積荷を載せ、障害物のない海を渡るのだから当然と言えば当然である。
しかし、海路とはいえ危険がないわけじゃない。歪虚や水棲生物による襲撃もあるため、対抗手段としてハンターが同乗することもよくあることだ。
だが、そのハンターでもどうしようもない事態と言うものがある。
そう、天災だ。
「急いで帆を畳め! マストがもたねぇぞ!?」
吹きすさぶ強風に真っ直ぐ立っているべきはずのマストが曲線を描き、大きく軋む音が船中に響いている。
視界すら奪ってしまうほどの大粒の雨が甲板を叩きつけ、ドラムでも鳴らすかのような大きな音を立てる。
「横波に気をつけろ! 取り舵30度、急げ!」
船の乗組員達は船長の指示の下、的確に船を操っていく。
しかし、嵐はそれ以上に容赦なく、圧倒的な力を持って絶海で揺れる木の葉のように一つの帆船を弄ぶ。
「おい、船長! 大丈夫なのかっ。あの積荷は非常に高価な――」
水夫には見えない、日焼けもしていない小奇麗な顔の男が船室から出てきて、船長に詰め寄ろうとした。
だが、次の瞬間大きく横に傾く甲板、そして流れ込んでくる大量の海水に飲まれ、気づいた時にはその男の姿は消えていた。
「ちっ! だから船室で大人しくしておけと言ったんだ!」
波に浚われた男を捜している暇などない。今はこの嵐を乗り切らなければ、どっちにしろ海の藻屑になるのだから。
その時、マストに登っていた水夫が大声で悲鳴のような声を上げた。
「船長! 正面に何か影が!! な、なんだありゃぁ!?」
「くそっ! 全員、何かに掴まれぇ!!」
何か大きな物体が船体にぶつかる。その衝撃で船体に罅が入り、マストの一本がへし折れてしまった。
ソレはそのまま船にしがみ付き、一本の腕を甲板へと滑り込ませる。
「化け物が出た。早く、ハンターを呼べぇ!」
「駄目だっ。高波が、でかいっ。でかすぎるぞぉ!?」
船長が叫ぶ。だが、さらに追い討ちをかけるように大きな波が船を襲った。船体に大きな損傷を受けていた船はそれに耐え切れず、そのまま波に飲まれてしまう。
そして、船はそのまま深く暗い海底へと引きずりこまれていく。海流とは違う、別の何かの力によって。
●10年の時を経て
辺境南東部、マギア砦の西に流れるナナミ河の河口の近く。
そこには同盟などから辺境に物資を送る為の、ちょっとした規模の港町がある。
常に船が行き交い。沢山の荷物を積んだり降ろしたりと世話しないが、それは日中の話。
日の沈んだ頃には町の酒場は一杯になり、深夜過ぎまでその騒ぎが止むことはない。
そんな酒場の扉が開き、1人の男が酒瓶を片手にふらふらと出てきた。
用をたす為なのか、おぼつかない足取りで海辺のほうまで歩いていく。
店から少し離れれば夜の町は真っ暗で、空の星が照らす薄明かりだけが便りだった。
男は丁度良い場所を見つけたのか立ち止まる。と、その時視界を上げて海を見た。
「んっ、ありゃなんだ?」
海の向こうで何かが海の上を進んでいる。丁度雲で月が隠れたせいで海の向こうは薄暗くよく見えないが、それはどうも船のように見えた。
こんな時間に船を出している奴なんていないはずだが……そう思いながら男は目を凝らす。
するとその船の船首の辺りに人影が見えた。それはどうやらこちらに向かって手を振っているように見える。
その時、月を隠していた雲がすっと流れていった。明るい光が海全体を照らして行く。
そこで男はその船の姿をはっきりと見た。その船の船体はぼろぼろで、マストも折れ曲がっていてとても航行出来るような状態ではない。
さらに、こちらに向かって手を振っていた影は人間ではなかった。白い硬質な頭蓋骨を晒す、襤褸切れを纏う骸骨の水夫。
――グルロロロォォォッ!
そして、そのボロ船のほうから突然。低くまるで生物が鳴くような不気味な音が響き渡る。
「んっ、なあぁぁぁっ!?」
男が悲鳴を上げたところでまた空の雲が流れ、船を照らし出していた月が隠されていく。
暗くなって行く海原の景色に溶けるようにして、動く骸骨を乗せたボロボロの船は海の向こうへと消えて行った。
――ニィ
腰を抜かして地面に倒れこんだ男を見下ろすような高い建物の屋上で、一匹の白猫が鳴いた。
「うん。もしかしたら、あの船にあるかもしれない」
その隣に立つ小さな影が、小さな相棒にそう言葉を返した。
●ハンターオフィス
「今回のお仕事は幽霊船の調査です」
ハンターオフィスの一室に集められたハンター達に、オフィス職員が今回の依頼について説明を始める。
場所は辺境の南東部にある港町の近海。そこに出没するようになった幽霊船について調べることである。
目撃情報によると船はかなり傷んでおり、海面に浮いているのが不思議なくらいだという。もしかすると、船自体が歪虚化している可能性がある。
また船の上には動きまわる骸骨が多数目撃されており、こちらも元船員達の遺体が歪虚化した可能性がある。
「今のところこれといった被害は出ていませんが、港町の住人達も気味悪がっています」
故に調査依頼。しかし、相手が歪虚だと判明したらそれを討伐する必要が出てくるだろう。そこも含めての今回の依頼だ。
「信心深い人は何かの不吉な予兆だと言って、海に出たがらないという人も出ています。ですから、出来るだけ早い解決が望まれます」
一連の説明が終わり、最終的にハンター達に1隻の船が貸し出されることも告げられる。
「皆様の健闘を祈ります」
リプレイ本文
●いざ、幽霊船へ
草木も眠る丑三つ時、海の上に霧が出始めたと思ったら、その中から幽霊船は突然その姿を現した。
甲板の上には先の情報通り、数体の襤褸切れを纏う骸骨姿のナニかが歩き回っている。
「うわっ、本当にでたッスね。マジで幽霊船ッスよ!」
高円寺 義経(ka4362)は現れたそのボロボロな船を目を見開いてしっかり確認する。疑っていたわけではないが、こうして実際に目にしてみればそのテンションは一気に急上昇した。
「船の名前は……『Caroline』だから、キャロラインでしょうか?」
船首近くの船体に記されている文字見て、青山 りりか(ka4415)はそう言った。
彼女が港町で調べていたこのあたりの海で行方不明になった船に、確かにそのような名前の船があった。
それは10年ほど前、辺境から同盟へと帰る航海の途中に行方が分からなくなり、その時海に嵐がやってきたことから沈没したのではないかと噂されていた。
「フライング・ダッチマン、マリーセレスト、そしてキャロル・デイアリング……リアルブルーにも数々の幽霊船伝説があったが、こちらの世界で本物を目にすることになるとは、僥倖と言えるかな」
如何にもといった逸話と外観を持つ幽霊船に、久延毘 大二郎(ka1771)は好奇心をその瞳に宿してその様子をじっくりと眺めている。
マストは3本中真ん中のメインマスト以外はへし折れ、その残ったマストの帆も破れてぼろぼろになっており、風を受ける機能を果たしているようには見えない。
では、何故動いているのか? 全く予想がつかない。分からないことが分かった事に、大二郎は本人でも気づかぬうちに口の端を上げる。
「幽霊船……夏にピッタリだけど、怖い感じ。シャルもそう思わない?」
皆と同じように幽霊船を眺めていたネムリア・ガウラ(ka4615)は後ろに振り返る。そこでは今回の仕事の協力者であるシャルという少女が、足元にいる白猫とじっと見つめ合っているところだった。
シャルは声を掛けられたことで視線をネムリアに向けると、小さく首を傾げる。
「怖いって、何が?」
「えっ? だってほら、幽霊だよ?」
ネムリアの言いたいことが理解できないらしく、シャルはもう一度首を傾げる。だが、その後荷すぐ首を左右に振ってネムリアに向けて言葉をかけた。
「大丈夫、怖くない。私が一緒」
「あっ、うん。ありがとう、シャル」
突然の励ましの言葉だったが、その勘違いも含めてネムリアは小さく笑って頷いてみせた。
「皆、小舟の準備が出来たよ。あの幽霊船が消えちゃう前に行かなくちゃね」
幽霊船を眺めている一同に、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)がそう声を掛ける。
ハンター達は2艘を小舟に乗り、暗い海の上でゆっくりと幽霊船に向けて漕いでいく。
垂れ下がっていたロープを登って甲板にでたところで、そこには10体近い骸骨達が待ち受けていた。
骸骨達はハンターの姿を見るやいなや、そのまま飛び掛ってきたり、周囲に落ちてる木の棒などを拾って振り回し始める。
「サア、マズは甲板の制圧ダネ!」
「一番手、ジュード・エアハート! 行っくよー!」
それを見たアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は盾を構え、その前に躍り出たジュード・エアハート(ka0410)は両手で拳銃を持つと骸骨に向けてその引き金を引く。
放たれた弾丸は脆い骨を容易く砕くが、腕が無くなろうが頭蓋骨に穴が空こうが、構わずに骸骨達は動いてハンター達に迫る。
「あらやだっ。見かけによらずタフねぇ」
小ぶりな杖を手にした沢城 葵(ka3114)は正面に小さな魔法陣を描くと、そこから水球を生み出して骸骨の胸元に向けて叩きつける。
その一撃で骸骨はばらばらに砕けて甲板の上に転がるのだが、それでも頭蓋骨はかちかち歯を噛み鳴らし続けている。
「ワオ! マダ動ケルのかい。幽霊ッてヤッパリしつこいネ!」
その動く頭蓋骨にアルヴィンがワイヤー製の鞭を振るえば、今度こそ粉々になって骸骨は動かなくなった。
ハンター達はそのまま戦闘を続行する。骸骨はそこらの歪虚よりよほどタフであったが、強さとしては大したことなく10分もしないうちに甲板の上に居た骸骨達は一掃された。
「ふむ、どうやら船内への入り口は前と後ろで計2つあるようだね」
「あっ、それなら作戦通りに二手に分かれて探索だね」
班を分けて船内を探すことにしたハンター達。合流は一番下の船倉で、そう言って2つの扉へと向かう。
●朽ち行く船の中
船の前方の扉から入った班が最初に辿り着いたのは、少し広めの部屋だった。
「ここは、食堂とかかな?」
「ソウミタイダネ。尤モ、食事はモウ出テコナイヨウダケド」
床に固定されたテーブルと椅子、そして床にはあちこちに元食器であったらしい陶器の破片が散乱している。
足元に注意しながら部屋の中を見渡しているところで、ネムリアは何か光るものを見つけてそれを拾い上げた。
「あら、何か見つけたのかしらぁ?」
「うん。多分、乗ってた人の物だと思う」
そう言ってネムリアが差し出したものはロケットペンダントだった。中を開けば、少し色褪せているが綺麗な女性の写真が収まっていた。
「綺麗な人ね。奥さんかしら?」
「うん。きっとそうだね」
そんなしんみりとした思いをしているところで、突然がたりと倒れている棚が動いた。驚いた2人がそちらに目をやれば、その棚の下から下半身のない骸骨が這い出てきた。
這う骸骨はずりずりとネムリアに近づいて、その手を思いっきり伸ばしてくる。
「この骸骨さん、もしかして……」
「どうかしらね。けど、どっちにしろこのままにしてちゃ可哀想よ」
葵がそう言って指先に赤い火を灯すと、ネムリアの手にある棘の付いた鞭に向けて人差し指を曲げて投げつけた。
するとネムリアの鞭は赤い火を纏い、その火の光が揺れて這いずる骸骨の姿を照らし出す。
「……ごめんね」
ネムリアはそう一言謝り、その骸骨へと鞭を振るう。
一行はその後食堂を出た。そこで船が突然揺れだす。そして――
――グルロォォォ……
低く唸るような声が船内に響き渡った。
「聞こえた?」
「うん。もっと下の……一番下の船倉からじゃないかな?」
ぴくんと尖った耳を動かしたネムリアがそう告げる。
「まさか本当に船倉に化け物が巣食ってるワケ~?」
葵がそう口にする。それは冗談のつもりであったが、もしかするともしかするかもしれない。
「船の底カラ響ク声。船ガコウなった理由もソコカナ?」
アルヴィンが床の板をトントンと足で踏んでみるが、幽霊船と言う割には丈夫なようで抜けてしまうような様子はない。
壊して降りていくというのも手だが、その所為で船が沈んでしまうリスクを考えると無理はできない。
「兎に角行ってみよう。そうすれば答えは分かるさ」
ニッと笑ったジュードを先頭に、一行は船倉へ向けて船内を降りて行く。
一方で、もう1つの班は船の後部にて船長室を発見していた。
「この船、本当に立派なものだったんだね。ほら、航海日誌もこんなに沢山あるよ」
ルーエルは空っぽの本棚の前でしゃがみこみ、床に散らばった沢山の本に目を通している。
それはどれも船長の書いていた航海日誌らしく、少なくとも10年分ほどはあるようだ。
「ふむ、興味深い」
骸骨……ではなく、骸骨型のランタンの明かりを頼りに大二郎は日付の新しい日誌に読む。
最後の数ページにさっと目を通したところで、大二郎は日誌を閉じて顔を上げた。
「どうやら最後の航海は予定にはなかったようだね」
「予定にないって、つまりどういうことなのかな?」
大二郎の少し勿体ぶった言い方に、ルーエルは素直にそれに聞き返した。
「簡単に言うと金を積まれたそうだ。そのお客さんは随分と急いでいたらしいね」
読み取れたのはそこまでのようで、詳しい内容については日誌には書かれていない。
その時、船長室の扉の外が一瞬パッと明るくなり、何かを床にばら撒いたような音が響いた。そして数秒後に船長室の扉が音をたてて開く。
「何か収穫はありましたか?」
扉から入って来たりりかは船室内を見渡した後、部屋の奥にいた2人に声をかける。
「うん、一応は。そちらはどうだったのかな?」
「こちらはこの船の積荷が何だったのか分かりました」
りりかはそう行ってスカートのポケットから古びた手帳を取り出す。
「ほう。それで、お宝の中身は何かな?」
「お宝と言えばお宝なんでしょうね、中身は……」
大二郎に促されてりりかがそれを答えようとした所で、再び船長室の扉が今度は五月蝿い音を立てて開いた。
「いやー、遅れて申し訳ないッス。さてさて、マテリアルの結晶って一体どれくらいの値打ちがあるんッスかね?」
廊下の骸骨にトドメを刺していた義経は、額を拭いながら入ってくると同時にさらっと宝の内容を口にする。
その所為で会話はぴたりと止まり、3人の視線が義経へと注がれる。それに義経は思わず一歩後退るのだが、すると何かが背中にぶつかった。
「……邪魔」
「はい、なんか、申し訳ないッス」
「……?」
義経の背後にいたシャルは単に部屋に入れなくてその言葉を口にしたのだが、思ったより落ち込んだ様子を見せる義経にシャルは不思議そうに首を傾げた。
●船底の化け物
「あっ、シャルー!」
船底にある船倉を前にして、2手に分かれていたハンター達はそれぞれ別の階段を下りてきたところで、互いの姿を確認した。
笑顔でひらひらと手を振るネムリアに、シャルは表情を変えず真似するように手を振り返す。
が、一先ず合流しようと歩み寄ろうとした瞬間、2班の間の床板が真上に弾け飛び、赤黒いごつごつした岩のような何かが突き出してきた。
「何事カナ?」
激しく揺れだす船内で帽子を手で押さえながらアルヴィンはその赤黒い何かを見つめる。するとさらに床板がさらに割れてゆき、最下層の船倉から這い上がってくるようにしてソレが姿を現した。
最初に現れた赤黒い何かは鋏だ。それより一回り小さなもう一本の鋏と幾本かの脚を持ったソレは、黒い目をギョロリと動かしてハンター達の姿を捉える。
それは体長3メートルはあろうかという、異形の化け物だった。
「なに、こいつ? 蟹?」
そう口にしたジュードに大きな鋏が振るわれる。ジュードが咄嗟に伏せて避けると、鋏は船体を強く叩いた。
「いや、どうやらコイツはヤドカリのようだね」
船倉のほうに隠れているであろう体の部分を想像して、大二郎はその歪虚の元となったであろう生物の正体を言い当てる。
「そんなことはいいから、応戦ッスよ、応戦! こんなのに暴れられたらこの船も長く持たないッスよ!」
義経の言う通り、ヤドカリが大鋏を振るう毎に床や壁に穴や罅が増え、徐々に海水が船内へと流れ込んできている。
突然の事態だったがすぐに戦闘体制に入ったハンター一同はヤドカリ歪虚の制圧にかかる。
「このっ、やっぱり硬いですねっ」
りりかのサーベルが一本の脚を切りつけるが、外殻を傷つけるのみで切り落とすことは叶わなかった。
「ならばこれならどうかな?」
そう言って大二郎は指し棒型の杖を振るう。作り出されたのは炎で出来た勾玉。それが杖を振るうと同時に高速回転をしながら飛び、ヤドカリの脚に着弾すると同時に爆発する。
1本の脚が千切れ飛ぶが、ヤドカリはそれに堪えた様子をみせない。
「どうやらコイツ、やっぱ海の生き物だし火には耐性があるようねぇ」
「ならば、切り替えていこう」
「ご一緒するわぁ」
葵と大二郎が同時に杖を振るう。2つの風の刃が生成され、それがヤドカリの外殻を深々と切り裂いた。
――グロオォォッ!!
ヤドカリが大きく鳴く。その体を痛みのままに暴れさせ、それによって振り回される鋏と脚がハンターを襲い、船体を傷つけていく。
「皆、大丈夫!?」
ルーエルは弾き飛ばされた皆に駆け寄り、回復魔法をかけていく。
「しかし、コノママダト船が沈ムノガ早ソウデス」
同じく仲間に回復魔法をかけながらアルヴィンがそう口にする。彼の言う通り、確かにこのままでは歪虚を倒すまで船が持ちそうにない。
と、そこで1人ヤドカリに飛び出す影があった。シャルである。
「弱点を探す」
彼女はその一言と同時に、身の丈ほどある大剣をまるでナイフでも振るうかのように扱い、ヤドカリの体のあちこちを切りつけていく。
それをうっとおしく思ったのか、ヤドカリは纏わりつくシャルを狙い鋏を振るう。
「シャル! スズメ、お願いっ!」
その鋏がシャルに届く前に、ネムリアのペットの柴犬がマテリアルを纏ってその鋏に体当たりする。軌道の逸れた鋏はシャルを掠めることすらなく、天井の板を砕く。
「ここっ!」
そしてシャルはヤドカリの懐にもぐりこむと、その下半身にあたる部位に雷撃を纏った大剣を叩きつける。
ヤドカリの口から苦悶のものらしい鳴き声が響き、口元からぶくぶくと泡が出始める。
「オッケー! そこッスね。弱点が分かればこっちのものッス!」
不気味な音をたてる振動刀を手に、義経もヤドカリの懐へと走る。それを邪魔するように大鋏を振り上げるが、光弾が顔に直撃してヤドカリは思わずそちらに目を向ける。
「これが今、私に出来ることです」
りりかはサーベルを手にそのヤドカリの目をキッと睨む。
「会長、ナイスフォロー!」
その隙に懐に潜り込んだ義経が振動刀を構える。柔らかいその横腹に刃を深々と突き刺すと、力の限りに床に向かって振り抜く。
弱点が分かればこっちのもの。ハンター達は振るわれる鋏と脚を掻い潜り、その下半身部分を執拗に攻め立てる。
「さあ、これでお終い!」
ジュードの拳銃から放たれた弾丸が風を切り、化け物の声を掻き消すような怪しげな音を響かせながら、その体の奥まで深々と貫いていった。
その一撃でヤドカリは力を失ったのか、床を掴む脚も外れそのまま下の船倉へと落下していく。それと同時に船底から木々の折れる嫌な音が響き渡り、同時にハンター達の立つ床がゆっくりと傾きだす。
「ちょ、船が沈みそうじゃないこれ!?」
「さて、皆。甲板まで走ろうじゃないか!」
大二郎の言葉に、ハンター達は一斉に階段を駆け上がっていった。
●幽霊船は海の底
沈み行く幽霊船をハンター達は戻った小舟の上で眺める。
聖導士であるアルヴィン、ルーエル、りりかはそれぞれあの船で亡くなった人々の冥福を祈るように瞳を閉じた。
「そういやシャルちゃん、何か探し物があったんじゃないんッスか?」
「……仕方ない」
義経の言葉にシャルは首を横に振り、沈む船を眺める。その瞳には悲しみの色はなく、その瞳もすぐに船から足元に擦り寄る白猫へと向けられた。
「次はきっと、手に入れるね」
誰かに向けたその言葉を最後に、シャルは港町に戻り姿を消すまでずっと無言のままであった。
草木も眠る丑三つ時、海の上に霧が出始めたと思ったら、その中から幽霊船は突然その姿を現した。
甲板の上には先の情報通り、数体の襤褸切れを纏う骸骨姿のナニかが歩き回っている。
「うわっ、本当にでたッスね。マジで幽霊船ッスよ!」
高円寺 義経(ka4362)は現れたそのボロボロな船を目を見開いてしっかり確認する。疑っていたわけではないが、こうして実際に目にしてみればそのテンションは一気に急上昇した。
「船の名前は……『Caroline』だから、キャロラインでしょうか?」
船首近くの船体に記されている文字見て、青山 りりか(ka4415)はそう言った。
彼女が港町で調べていたこのあたりの海で行方不明になった船に、確かにそのような名前の船があった。
それは10年ほど前、辺境から同盟へと帰る航海の途中に行方が分からなくなり、その時海に嵐がやってきたことから沈没したのではないかと噂されていた。
「フライング・ダッチマン、マリーセレスト、そしてキャロル・デイアリング……リアルブルーにも数々の幽霊船伝説があったが、こちらの世界で本物を目にすることになるとは、僥倖と言えるかな」
如何にもといった逸話と外観を持つ幽霊船に、久延毘 大二郎(ka1771)は好奇心をその瞳に宿してその様子をじっくりと眺めている。
マストは3本中真ん中のメインマスト以外はへし折れ、その残ったマストの帆も破れてぼろぼろになっており、風を受ける機能を果たしているようには見えない。
では、何故動いているのか? 全く予想がつかない。分からないことが分かった事に、大二郎は本人でも気づかぬうちに口の端を上げる。
「幽霊船……夏にピッタリだけど、怖い感じ。シャルもそう思わない?」
皆と同じように幽霊船を眺めていたネムリア・ガウラ(ka4615)は後ろに振り返る。そこでは今回の仕事の協力者であるシャルという少女が、足元にいる白猫とじっと見つめ合っているところだった。
シャルは声を掛けられたことで視線をネムリアに向けると、小さく首を傾げる。
「怖いって、何が?」
「えっ? だってほら、幽霊だよ?」
ネムリアの言いたいことが理解できないらしく、シャルはもう一度首を傾げる。だが、その後荷すぐ首を左右に振ってネムリアに向けて言葉をかけた。
「大丈夫、怖くない。私が一緒」
「あっ、うん。ありがとう、シャル」
突然の励ましの言葉だったが、その勘違いも含めてネムリアは小さく笑って頷いてみせた。
「皆、小舟の準備が出来たよ。あの幽霊船が消えちゃう前に行かなくちゃね」
幽霊船を眺めている一同に、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)がそう声を掛ける。
ハンター達は2艘を小舟に乗り、暗い海の上でゆっくりと幽霊船に向けて漕いでいく。
垂れ下がっていたロープを登って甲板にでたところで、そこには10体近い骸骨達が待ち受けていた。
骸骨達はハンターの姿を見るやいなや、そのまま飛び掛ってきたり、周囲に落ちてる木の棒などを拾って振り回し始める。
「サア、マズは甲板の制圧ダネ!」
「一番手、ジュード・エアハート! 行っくよー!」
それを見たアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は盾を構え、その前に躍り出たジュード・エアハート(ka0410)は両手で拳銃を持つと骸骨に向けてその引き金を引く。
放たれた弾丸は脆い骨を容易く砕くが、腕が無くなろうが頭蓋骨に穴が空こうが、構わずに骸骨達は動いてハンター達に迫る。
「あらやだっ。見かけによらずタフねぇ」
小ぶりな杖を手にした沢城 葵(ka3114)は正面に小さな魔法陣を描くと、そこから水球を生み出して骸骨の胸元に向けて叩きつける。
その一撃で骸骨はばらばらに砕けて甲板の上に転がるのだが、それでも頭蓋骨はかちかち歯を噛み鳴らし続けている。
「ワオ! マダ動ケルのかい。幽霊ッてヤッパリしつこいネ!」
その動く頭蓋骨にアルヴィンがワイヤー製の鞭を振るえば、今度こそ粉々になって骸骨は動かなくなった。
ハンター達はそのまま戦闘を続行する。骸骨はそこらの歪虚よりよほどタフであったが、強さとしては大したことなく10分もしないうちに甲板の上に居た骸骨達は一掃された。
「ふむ、どうやら船内への入り口は前と後ろで計2つあるようだね」
「あっ、それなら作戦通りに二手に分かれて探索だね」
班を分けて船内を探すことにしたハンター達。合流は一番下の船倉で、そう言って2つの扉へと向かう。
●朽ち行く船の中
船の前方の扉から入った班が最初に辿り着いたのは、少し広めの部屋だった。
「ここは、食堂とかかな?」
「ソウミタイダネ。尤モ、食事はモウ出テコナイヨウダケド」
床に固定されたテーブルと椅子、そして床にはあちこちに元食器であったらしい陶器の破片が散乱している。
足元に注意しながら部屋の中を見渡しているところで、ネムリアは何か光るものを見つけてそれを拾い上げた。
「あら、何か見つけたのかしらぁ?」
「うん。多分、乗ってた人の物だと思う」
そう言ってネムリアが差し出したものはロケットペンダントだった。中を開けば、少し色褪せているが綺麗な女性の写真が収まっていた。
「綺麗な人ね。奥さんかしら?」
「うん。きっとそうだね」
そんなしんみりとした思いをしているところで、突然がたりと倒れている棚が動いた。驚いた2人がそちらに目をやれば、その棚の下から下半身のない骸骨が這い出てきた。
這う骸骨はずりずりとネムリアに近づいて、その手を思いっきり伸ばしてくる。
「この骸骨さん、もしかして……」
「どうかしらね。けど、どっちにしろこのままにしてちゃ可哀想よ」
葵がそう言って指先に赤い火を灯すと、ネムリアの手にある棘の付いた鞭に向けて人差し指を曲げて投げつけた。
するとネムリアの鞭は赤い火を纏い、その火の光が揺れて這いずる骸骨の姿を照らし出す。
「……ごめんね」
ネムリアはそう一言謝り、その骸骨へと鞭を振るう。
一行はその後食堂を出た。そこで船が突然揺れだす。そして――
――グルロォォォ……
低く唸るような声が船内に響き渡った。
「聞こえた?」
「うん。もっと下の……一番下の船倉からじゃないかな?」
ぴくんと尖った耳を動かしたネムリアがそう告げる。
「まさか本当に船倉に化け物が巣食ってるワケ~?」
葵がそう口にする。それは冗談のつもりであったが、もしかするともしかするかもしれない。
「船の底カラ響ク声。船ガコウなった理由もソコカナ?」
アルヴィンが床の板をトントンと足で踏んでみるが、幽霊船と言う割には丈夫なようで抜けてしまうような様子はない。
壊して降りていくというのも手だが、その所為で船が沈んでしまうリスクを考えると無理はできない。
「兎に角行ってみよう。そうすれば答えは分かるさ」
ニッと笑ったジュードを先頭に、一行は船倉へ向けて船内を降りて行く。
一方で、もう1つの班は船の後部にて船長室を発見していた。
「この船、本当に立派なものだったんだね。ほら、航海日誌もこんなに沢山あるよ」
ルーエルは空っぽの本棚の前でしゃがみこみ、床に散らばった沢山の本に目を通している。
それはどれも船長の書いていた航海日誌らしく、少なくとも10年分ほどはあるようだ。
「ふむ、興味深い」
骸骨……ではなく、骸骨型のランタンの明かりを頼りに大二郎は日付の新しい日誌に読む。
最後の数ページにさっと目を通したところで、大二郎は日誌を閉じて顔を上げた。
「どうやら最後の航海は予定にはなかったようだね」
「予定にないって、つまりどういうことなのかな?」
大二郎の少し勿体ぶった言い方に、ルーエルは素直にそれに聞き返した。
「簡単に言うと金を積まれたそうだ。そのお客さんは随分と急いでいたらしいね」
読み取れたのはそこまでのようで、詳しい内容については日誌には書かれていない。
その時、船長室の扉の外が一瞬パッと明るくなり、何かを床にばら撒いたような音が響いた。そして数秒後に船長室の扉が音をたてて開く。
「何か収穫はありましたか?」
扉から入って来たりりかは船室内を見渡した後、部屋の奥にいた2人に声をかける。
「うん、一応は。そちらはどうだったのかな?」
「こちらはこの船の積荷が何だったのか分かりました」
りりかはそう行ってスカートのポケットから古びた手帳を取り出す。
「ほう。それで、お宝の中身は何かな?」
「お宝と言えばお宝なんでしょうね、中身は……」
大二郎に促されてりりかがそれを答えようとした所で、再び船長室の扉が今度は五月蝿い音を立てて開いた。
「いやー、遅れて申し訳ないッス。さてさて、マテリアルの結晶って一体どれくらいの値打ちがあるんッスかね?」
廊下の骸骨にトドメを刺していた義経は、額を拭いながら入ってくると同時にさらっと宝の内容を口にする。
その所為で会話はぴたりと止まり、3人の視線が義経へと注がれる。それに義経は思わず一歩後退るのだが、すると何かが背中にぶつかった。
「……邪魔」
「はい、なんか、申し訳ないッス」
「……?」
義経の背後にいたシャルは単に部屋に入れなくてその言葉を口にしたのだが、思ったより落ち込んだ様子を見せる義経にシャルは不思議そうに首を傾げた。
●船底の化け物
「あっ、シャルー!」
船底にある船倉を前にして、2手に分かれていたハンター達はそれぞれ別の階段を下りてきたところで、互いの姿を確認した。
笑顔でひらひらと手を振るネムリアに、シャルは表情を変えず真似するように手を振り返す。
が、一先ず合流しようと歩み寄ろうとした瞬間、2班の間の床板が真上に弾け飛び、赤黒いごつごつした岩のような何かが突き出してきた。
「何事カナ?」
激しく揺れだす船内で帽子を手で押さえながらアルヴィンはその赤黒い何かを見つめる。するとさらに床板がさらに割れてゆき、最下層の船倉から這い上がってくるようにしてソレが姿を現した。
最初に現れた赤黒い何かは鋏だ。それより一回り小さなもう一本の鋏と幾本かの脚を持ったソレは、黒い目をギョロリと動かしてハンター達の姿を捉える。
それは体長3メートルはあろうかという、異形の化け物だった。
「なに、こいつ? 蟹?」
そう口にしたジュードに大きな鋏が振るわれる。ジュードが咄嗟に伏せて避けると、鋏は船体を強く叩いた。
「いや、どうやらコイツはヤドカリのようだね」
船倉のほうに隠れているであろう体の部分を想像して、大二郎はその歪虚の元となったであろう生物の正体を言い当てる。
「そんなことはいいから、応戦ッスよ、応戦! こんなのに暴れられたらこの船も長く持たないッスよ!」
義経の言う通り、ヤドカリが大鋏を振るう毎に床や壁に穴や罅が増え、徐々に海水が船内へと流れ込んできている。
突然の事態だったがすぐに戦闘体制に入ったハンター一同はヤドカリ歪虚の制圧にかかる。
「このっ、やっぱり硬いですねっ」
りりかのサーベルが一本の脚を切りつけるが、外殻を傷つけるのみで切り落とすことは叶わなかった。
「ならばこれならどうかな?」
そう言って大二郎は指し棒型の杖を振るう。作り出されたのは炎で出来た勾玉。それが杖を振るうと同時に高速回転をしながら飛び、ヤドカリの脚に着弾すると同時に爆発する。
1本の脚が千切れ飛ぶが、ヤドカリはそれに堪えた様子をみせない。
「どうやらコイツ、やっぱ海の生き物だし火には耐性があるようねぇ」
「ならば、切り替えていこう」
「ご一緒するわぁ」
葵と大二郎が同時に杖を振るう。2つの風の刃が生成され、それがヤドカリの外殻を深々と切り裂いた。
――グロオォォッ!!
ヤドカリが大きく鳴く。その体を痛みのままに暴れさせ、それによって振り回される鋏と脚がハンターを襲い、船体を傷つけていく。
「皆、大丈夫!?」
ルーエルは弾き飛ばされた皆に駆け寄り、回復魔法をかけていく。
「しかし、コノママダト船が沈ムノガ早ソウデス」
同じく仲間に回復魔法をかけながらアルヴィンがそう口にする。彼の言う通り、確かにこのままでは歪虚を倒すまで船が持ちそうにない。
と、そこで1人ヤドカリに飛び出す影があった。シャルである。
「弱点を探す」
彼女はその一言と同時に、身の丈ほどある大剣をまるでナイフでも振るうかのように扱い、ヤドカリの体のあちこちを切りつけていく。
それをうっとおしく思ったのか、ヤドカリは纏わりつくシャルを狙い鋏を振るう。
「シャル! スズメ、お願いっ!」
その鋏がシャルに届く前に、ネムリアのペットの柴犬がマテリアルを纏ってその鋏に体当たりする。軌道の逸れた鋏はシャルを掠めることすらなく、天井の板を砕く。
「ここっ!」
そしてシャルはヤドカリの懐にもぐりこむと、その下半身にあたる部位に雷撃を纏った大剣を叩きつける。
ヤドカリの口から苦悶のものらしい鳴き声が響き、口元からぶくぶくと泡が出始める。
「オッケー! そこッスね。弱点が分かればこっちのものッス!」
不気味な音をたてる振動刀を手に、義経もヤドカリの懐へと走る。それを邪魔するように大鋏を振り上げるが、光弾が顔に直撃してヤドカリは思わずそちらに目を向ける。
「これが今、私に出来ることです」
りりかはサーベルを手にそのヤドカリの目をキッと睨む。
「会長、ナイスフォロー!」
その隙に懐に潜り込んだ義経が振動刀を構える。柔らかいその横腹に刃を深々と突き刺すと、力の限りに床に向かって振り抜く。
弱点が分かればこっちのもの。ハンター達は振るわれる鋏と脚を掻い潜り、その下半身部分を執拗に攻め立てる。
「さあ、これでお終い!」
ジュードの拳銃から放たれた弾丸が風を切り、化け物の声を掻き消すような怪しげな音を響かせながら、その体の奥まで深々と貫いていった。
その一撃でヤドカリは力を失ったのか、床を掴む脚も外れそのまま下の船倉へと落下していく。それと同時に船底から木々の折れる嫌な音が響き渡り、同時にハンター達の立つ床がゆっくりと傾きだす。
「ちょ、船が沈みそうじゃないこれ!?」
「さて、皆。甲板まで走ろうじゃないか!」
大二郎の言葉に、ハンター達は一斉に階段を駆け上がっていった。
●幽霊船は海の底
沈み行く幽霊船をハンター達は戻った小舟の上で眺める。
聖導士であるアルヴィン、ルーエル、りりかはそれぞれあの船で亡くなった人々の冥福を祈るように瞳を閉じた。
「そういやシャルちゃん、何か探し物があったんじゃないんッスか?」
「……仕方ない」
義経の言葉にシャルは首を横に振り、沈む船を眺める。その瞳には悲しみの色はなく、その瞳もすぐに船から足元に擦り寄る白猫へと向けられた。
「次はきっと、手に入れるね」
誰かに向けたその言葉を最後に、シャルは港町に戻り姿を消すまでずっと無言のままであった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/15 08:35:42 |
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相談卓 高円寺 義経(ka4362) 人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/08/18 21:32:29 |