真夏の捜索行

マスター:風華弓弦

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/18 07:30
完成日
2015/10/20 03:59

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●小さな心配
 陸地といくつかの島で構成される、冒険都市リゼリオ。
 クリムゾンレッドの各地で活動するハンター達をまとめるハンターズソサエティは、陸側の平地にその本部を構えている。
 多くのハンターが出入りする、ハンターオフィスの一角。西方世界から最近は遥か東方まで、連日持ち込まれている様々な依頼群を小柄なドワーフの女性がじっと眺めていた。
「多忙のよう、ですか……いえ、良い事ですね。助けが必要な人を、助けようとする人がいるのは」
 迷っているのか困っているのかと、見かねたハンターの一人が声をかければ、顎を上げたままポツリとそんな言葉をこぼし。
 それから気付いたように、改まって軽く頭を下げた。
「一応……依頼に来たのですが、こちらは些細な事。どうぞ存分に、東方や王国の大事へ当たって下さい」
 では皆さん、お気をつけて――と。
 頼み事をしにハンターオフィスまで来て、自分の件は気にするなというのも変な話ではあるが。
 淡々と気遣った彼女は邪魔にならぬよう、人を避けて受付へ向かった。

 しばらくして、掲示された依頼群に新たな案件が加わる。
 依頼人は、プレシウという名の宝飾細工師。
 内容は『到着予定の日を過ぎても戻らない荷物の運び手を見つけ、その者から「荷物がどうなったか」を確認して欲しい』というものだった。

●真夏の災難
 木漏れ日が降り注ぐ間道を、車輪を軋ませながら一台の荷馬車がのろのろと進んでいた。
 道はデコボコして石ころが多く、全体的に平坦でもない。
 荒れた道を踏みしめるように痩せ馬は小刻みで歩き、荷馬車を二人の男女が後押ししていた。
 周囲には木々が立ち並び、道の上まで張り出した枝が夏の日差しを遮ってくれる。
 それでも、日陰を歩く人馬は汗まみれで。
「どぉれ、少し休むかぁ」
 御者台で手綱を握る老人の言葉に、荷馬車を押す二人は大きな息を吐いた。
 どっかりと中年の農夫は道端へ腰を降ろし、首にかけたタオルで汗を拭きながら、水袋の水をあおる。それでようやく人心地がついたのか、水で濡らしたハンカチを額に当てる女性のハンターを見やった。
「手伝いをさせてすまんな、メアさん。本当なら、もうリゼリオに着いている頃だろうに」
「いいや、これも関わった縁だ。それより、車輪の様子は?」
 荷馬車の下を覗き込む老人へ訊ねると、うめき声が返ってきた。
「う~む……すっかり、後ろの車軸が傷んでおるな。こりゃあ、取り替えるか修理せねばどうにもならん」
「やれやれ。『足外しの峠』だの『腰砕きの林道』だの、よく言ったもんだ」
 痛む腰を叩きながら、農夫が溜め息をつく。
「足外し? 確かに街道と比べれば足場は悪いが、足を挫く程でもないだろう」
「歩く分にはなぁ。このガタガタ道、リゼリオまで抜けるには早くて便利だが、運が悪いと車輪や車軸が振動でヤラレっちまう」
 腰を叩く老人の説明に、「なるほど」とメアも納得し。
「お前も、お疲れ様」
 首筋を叩いて痩せ馬をねぎらい、老人から受け取った水桶を飲める位置に運んでやった。
 荷馬車には飲み水の樽が1つ、空になった樽が2つ、そして小麦の袋が10ほど積んである。
 それとは別に置いた厚手の鎧袋は、メアの私物だ。
 中には暑さと重労働に耐えかねて脱いでしまった金属鎧と、友人プレシウに頼まれた『荷物』が入っている。
「夕暮れまでに、もう少し進みたいもんだな」
 中年の農夫が眺める道の先は、まだまだ林が続いていた。

 ことの発端は、二日ほど前。
 頼まれた荷物を預かり、リゼリオへ戻る途中に立ち寄った小さな農村。
 そこでメアは、ちょうど同じようにリゼリオまで麦袋を運ぶ荷馬車の護衛を頼まれた。
 守るべき荷馬車は一台、それを引くのは痩せた馬。
 手綱を取るのは、道を良く知る老齢の農夫。
 それから力仕事の為に、中年の農夫が一人、同行するという。
 元々、メアも通る予定だった間道。
 道行きは予定よりも遅れていたが、目的地は同じ。歪虚の噂はなくても、賊や野の獣が出る不安はあるだろうと、護衛役を承諾したのだった。
 結果、『ガタガタ道』の真ん中あたりで荷馬車の車軸が壊れ。
 来た道を戻るよりはリゼリオで修理した方が良かろうと、夏の日差しの下で荷馬車を押すハメになり。
 予定よりも日数を食い潰して、今に到っていた。

「そろそろ、行くかぁ」
 小休止を切り上げるように、座り込んでいた老人が腰を上げた。
 不安げに耳を動かし、盛んに尾を左右に振り立てる痩せ馬の鼻面を撫で、御者台に上がると手綱を握る。
「もう少し行けば下り道、少しは楽になる」
 励ますように農夫が声を張り、タオルを首にかけて荷馬車の後ろへ回った。
「この調子なら、あと2日ほどでリゼリオへ着けるだろう」
 それも、何事もなく進めば……の話だが。

 再び荷馬車を押すメアの視界の片隅、木々の間で不意に何かの影が過ぎった。
 動きは素早く、数は少ないが、昼前あたりからチラチラとソレが気になり始めていた。
 ただ暑さや光陰の加減、あるいは重労働による気のせい、かもしれない。
 それに確かめるには、時間や精神的な面から余裕がなかった。
 もし平行して移動しているのが狼の群れなら、リゼリオのような大きな街まで近寄らないだろう。
 しかし山犬や野に返った犬なら、諦めるかどうか。
 あるいは、相手が人間という可能性だってあるのだ。
 自分が雇われるくらいだから、賊が出る危険だって――。
 そんな思考を巡らせる間も、吹き出す汗は次々と流れ落ちる。
 暑さとガタガタ道にウンザリしながら、メアはひたすら車輪の軋む荷馬車を押し続けた。
 何も起きない事と、早くリゼリオに着く事を祈りつつ。

リプレイ本文

●捜索隊、発つ
「今回の要件は遅れた人と荷物の捜索っすね。了解っす!」
「しかし……二、三日ならともかく一週間も予定に遅れるとは、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いな」
 明るく承諾する無限 馨(ka0544)に榊 兵庫(ka0010)も依頼書を改め、テーブルを挟んで座った依頼人のプレシウが真摯な表情で頷く。
 ハンター達の要請で、出発前に両者は顔を合わせていた。
「まずは街道と水場の位置関係の分かるものがあれば、見せて頂けますか?」
「これで、よいです? 受付さんに借りたのですが」
 切り出す静架(ka0387)に、プレシウは抱えていた巻紙――リゼリオ周辺の地理を記した手書きの地図を広げる。
「時間を短縮しようとして、近道のつもりが周り道になる事が多いんですよね……」
 予定のルートを静架は指で辿り、近くにある川筋との距離を確かめた。
「遭難した時は川を探し、下流に向かって歩くと大概人里まで出られますよ」
「下流……もし途中で、川が滝になっていたら?」
 顔を上げれば、訊ねたプレシウはじっと彼を凝視している。
「滝の音を確かめながら迂回するか、支流を探すか。あるいは……」
「続きは、帰ってからだな」
 ポンポンと軽く手を打ち、生真面目な脱線を紫炎(ka5268)が止めた。
「今回のルートなら山も低く、谷もまた深くはないだろう?」
「けど、予定から遅れている訳だもんね。兵庫の言う通り、どんな場所で何が起きたとか、分からないかぁ。あ、地図は借りてもいい?」
 相手が頷くのを待って、天王寺茜(ka4080)は大事そうに地図を巻く。
「もしアクシデントに巻き込まれたなら……体力とか、消耗しているかも」
 俯く瀬崎 琴音(ka2560)の表情は、伸ばした前髪でほぼ隠れてしまう。
「そういえば瀬崎ちゃんは徒歩って言ってたすけど、ギルドが馬を貸してくれるそうなんで借りていけばどうっすか?」
 ふと思い出し、馨が琴音に提案した。
「もし乗馬や運転が苦手なら俺の後ろに乗ってもいいすけど。ただ、一人乗りなんで狭いっすけど」
 言葉の最後の方は、申し訳なさそうに。
 ぽりぽりと頬を指で掻く馨へ、ふるりと琴音は長い黒髪を揺らす
「気遣ってくれて、ありがとう……でも馬を借りられたから、迷惑をかけないよう、ついていくよ」
「そうすか。よかったっすね」
 気にせず馨は笑顔を返し、再び琴音は頭を下げた。
「しかし、よろしかったのでしょうか」
 依頼板とハンターを見比べるプレシウに、ひらひらと茜が手を振る。
「気にしないで。その、東方や王国の方が大事だっていうのは分かるんだけど、何だか話が大き過ぎて……私には『頼んだ荷物が届かない』っていう話の方が、身近な分、引き受けやすくって」
「感謝致します」
「う~ん、出来れば砕けた方向でねっ」
 四角張った反応に茜がにっこりと笑み、自分の頬をプレシウは控え目に揉んだ。
「ただ。すまないが、俺達も最善を尽くすが最悪な状況も覚悟しておいてくれ」
 万が一もあると断りを入れる兵庫に手を止め、首を縦に振る。
「後は『探し人』の人相や風体、名前を確かめておきたい」
「うん、人に聞く時の手がかりにもなるしね」
 紫炎の要望に馨も賛同し、依頼人は荷の運び手であるメアの名や特徴を手短に伝えた。
 準備を終わらせた者達は荷物を手に、オフィスを出る。
「……まだぎこちなくて、かなり無理をさせてしまうだろうけど、よろしく頼むね」
 大人しく待つ馬の首筋を琴音はそっと撫で、たどたどしくアブミに足を掛ける。
「じゃあ、吉報を待っていて」
「必ず連れて戻るから、安心してくれ」
「左様。それまで、明日の茶会の準備でもしている事だ。いや、明後日か?」
 見送るプレシウへ声をかけ、依頼を受けたハンター達は捜索へと出発した。

●緑野疾走
「えっと、道がこうだから……」
 茜は小柄な彼女に合わせた魔導バイクを路肩に止め、地図を広げていた。
 タンクの上で地図をぐるぐる回し、双眼鏡で確かめた末。
「あっちに村があるみたいね」
 ビシッと、自信ありげに丘の一点を指差した。
「遠くないなら、足を伸ばして立ち寄るか?」
 丘の先を窺うように紫炎は手をかざし、馨がトランシーバーを取り出す。
「馬の皆には、俺が連絡しておくっすよ」
「当初の到着予定からは、ずいぶん時間が立っている。迷子になっているかも知れないし、トラブルに巻き込まれた可能性もある。少しでも速く、確認しないとな」
 騎馬は3人、バイク乗りも3人……奇しくも半々となった6人は、基本的に固まって行動している。
 急ぐ道中ながら暑さによる体力の消耗を考え、馬や乗り手の疲労に合わせて休息を取り。
 余裕がある者達はその間にルートの先を確認したり、情報収集に努めていた。
「あ、人がいたっ。すみませーん!」
 途中、畑の傍らに人影を見つけた茜が呼びかける。
「ちょっと、人を探してるんですけど……」
「手を止めて悪いな。この辺りを、エルフ女性の闘狩人が通らなかったか?」
 目を丸くする農夫達へ、颯爽と魔導二輪「龍雲」から降りた紫炎も歩み寄り、依頼人から聞いた特徴を伝えた。

「了解、こちらも移動するところだ。あまり先行し過ぎないようにな。オーバー」
 馨との話を終えた兵庫は、見守る二人へ手短に内容を明かした。
「こちらが追いつく頃には、情報収集も終わっているだろう」
「……合流したら、話が聞けるね」
 馬上に落ち着いた琴音は緊張を解き、その間、黙って手綱を預かっていた静架が自分の戦馬へ跨る。
 商人や旅人が行き交う街道から予定した間道に入ると、往来する人の数は目に見えて減っていた。
 いくらか見通しが良くなった風景に、ひとまず琴音は安堵する。
「……これなら、向こうから来る相手を見落とす事はなさそう、かな」
 誰よりも先にオフィスへ出向き、時間の許す限り乗馬の練習をしたとはいえ、まだまだ遅れずについていくだけで手一杯。周囲に細かい注意を払う余裕も、あまりない。
「だが捜索ルートを絞るのは、現状では難しいか」
「街道の水場と水場を抜ける道を辿れば、見つけ出す確率も上がるでしょう。旅や遠出の基本は、水の確保ですから」
 先頭に立って戦馬を進める兵庫の背に静架が付け加え、やがて彼らの耳は接近する仲間の存在を捉えた。

「残念ながら、彼女はこの付近を通っていないようだ」
 仲間と合流した紫炎は、開口一番、簡略に結果を伝える。
「一体、どこで遅れているのか」
「怪我とか病気でないと、いいけど……」
 身を案じる琴音に、にっこりと馨は笑顔を返した。
「それならそれで、旅の人が倒れたって噂や騒ぎになるだろうから」
「つまり『便りがないのは元気な証拠』って、アレだね!」
「その用途は、違うと思いますが」
 ぽむと手を打つ茜へ、道に残された車輪を調べる静架がぽつりと呟く。
「ともあれ、今は予定のルートを辿るしかないようです」
 そして合流の為に足を止めた一行は、再び道を急いだ。

 不審があれば足を止め、時に指笛を鳴らしたり、相手の名を呼んだりしながら、一行は探し人の痕跡を探す。
 しかし給油不要の魔導バイクと違い、人や馬は否応なく腹が減るものだ。
「剣と魔法の世界にはビックリしたけど……同じ世界でバイクに乗るようになるとは、思わなかったなあ」
 プレシウからもらった『お弁当』を茜はぱくつきながら、白い雲が浮かぶ夏空を仰ぐ。
「でも未舗装なだけあって、さすがに酷い路面っすね……速度重視のバイクじゃなく、俺も馬を借りてた方がよかったすかねえ」
 クッションがある分マシとはいえ、振動で微妙に疲弊した尻の感覚に馨がため息をついた。
「馬も、慣れなければ大変だがな。幸い彼女は小柄なせいか、平気なようだ」
 なにやら感心しきりな兵庫の視線の先には、早々に昼食を兼ねた休憩を終え、鞍の後ろに結わえた荷物を確かめる琴音の姿。
 馬の歩くリズムに馴染むのが早いのか、進むスピードを速めても乗馬初心者の彼女は問題なくついてきていた。
「ならば、更にペースを上げても問題はないか」
 燻製肉のサンドイッチを紫炎は綺麗に平らげ、ハンカチで口元を拭う。
「暗くなる前に、探し人の痕跡を見つけたいからな」
「異論ありません」
 同意した静架も最後に水を口に含み、立ち上がった。
 間もなく、田園を白く貫く乾いた道を六騎の影が駆けていく。
「本当に……ここは、空も緑も綺麗だよね……」
 束の間、地平の先へ疾走する感覚にこぼした茜の呟きを、風がさらっていった。

 陽が西へ傾き始める頃、周囲の風景は畑から自然に出来た林へと変わり、琴音は手綱をぎゅっと握り締めた。
「……これが、村のおばさんの言っていた峠の入り口かな」
「確かに、その様だ」
 蛇の様に木立の間を縫う登り坂に、兵庫も最後に立ち寄った村を思い返す。
 そこでも探し人の手掛かりは得られず、村を出る一行を壮年の女が呼び止めた。
 彼女曰く、この先には長い峠があるという。
 森と言うほど深くなく、山というほど険しくもない峠を抜けるには、歩きで丸一日、馬でも半日。人里遠い峠には山犬などの獣が住み、運が悪ければ野盗やゴブリンに出くわす危険もある。
 安全に旅をしたいなら今夜は村へ泊まり、翌朝早く出発するのがいい……そう助言をされるも、一行に足を止める選択はなかった。
「ここまで何の情報もありません。逆に考えれば、トラブルで峠を越えていない可能性が高い」
「私も静架に賛成。ここ数日、峠を抜けてきた人はいないって話だったし、何かあったのかもね。もしトラブルで立ち往生しても、誰も通らなければ分からないから」
 馬と並ぶようにバイクの速度を落とした茜が緊張気味に頷き、一瞬だけ紫炎は帯びた日本刀の感触を確かめた。
「野盗やゴブリンとの遭遇も、考えられるな」
「ええ。いずれにせよ、注意しながら急ぐってのに変わりはないすけど」
 言いつつ馨も今一度気を引き締め、遅い夕暮れが一行に迫る。

●灯火
 その遠く小さな光に彼らが気付いた時、既に峠は濃い闇に包まれていた。
 ヘッドライトに浮かぶ登り道は今までの道より狭く、状態も悪い。
 馬にとって難はないが、バイクでは手を焼く悪路の先、木の枝に遮られそうな高い位置で、微かな光がゆらゆらと揺れていた。
「どうするっすか!?」
 流線形のカウルを持つ魔導バイクで先導する馨は、短い問いを投げ。
「構わない、先行してくれ!」
 兵庫の返事で、三台の魔導機械式エンジンが一斉に咆えた。
 地を噛むタイヤが砂利や小石を跳ね飛ばし、加速したバイクは捻じ伏せる様に荒れた坂道を先行する。
 排気音を残し、あっという間に赤いテールランプが離れていった。
「こちらも急ぎましょう。気をつけて」
 手持ちのLEDライトを点ける静架に琴音もこくこくと頷き、三頭の馬も駆け出す。

 竜の唸り声を思わせる低音が、木々を揺るがした。
 聞き慣れぬ不穏は瞬く間に迫り、ソレが何かを知らぬ獣らは低い体勢で鼻に皺を寄せる。
 突如、目も眩む光が闇を裂き。
 晒された群れは判断を失い、凍りついた。
 その一瞬を逃さず、白刃が舞う。
 ギャンッと悲鳴があがり、血と微かな花の香が闇に混じった。
 狩りを遮った襲撃者へ、別の山犬が跳躍し。
「えぇーいッ!」
 横合いから、リボルビングナックルが獣の胴を抉る。
 刃よりワンテンポ遅れて繰り出された拳は、インパクトと同時に雷撃を放った。
 吹っ飛んだ獣は身体を痙攣させ、立つ事も出来ず。
「どう、『エレクトリックショック』を乗せた『電撃パンチ』の味は!」
 脇を絞って身構えた茜が拳を突き出し、残る群れを威嚇する――その数は10匹前後か。
 機導師の傍らでは、牙を剥いて喰らおうとする山犬の先を紫炎が取り。
 薄い刃を持つ日本刀で、脅威を文字通り斬り払っていた。
「怪我はないすか!?」
 背にした木の上へ馨が聞けば、ランプを掲げた中年の農夫は青ざめた顔で。
「あ、ああ。爺さん、生きてるかぁ!?」
 呼びかけに、低い位置から「お~ぅ」と応じるしゃがれ声。
 声を頼りに探せば、ひっくり返った荷馬車の下から皺だらけの手が自己主張した。
 しかし噛み付こうとする山犬に、慌てて引っ込む。
「山犬を片付ける。少し我慢してくれ」
「あと、メアさん……ハンターさんが、馬を守ろうとしてっ」
 白霞の刀を構える紫炎へ、枝にしがみついた農夫は森の奥を指差し。
 木々の間から、銃声が響いた。

 雷撃を帯びた銃弾を喰らい、弓を引くゴブリンが樹上から転がり落ちる。
 その拍子に放たれた矢は、突進する馬まで届かず。
 奇声と共に棍棒を振り回すゴブリンを、スピードを乗せて繰り出す鋭い槍が黙らせた。
 幹の陰では別の一匹が木槍を掲げ、馬上の兵庫へ狙いをつけるも。
 投じるより先に、飛来した矢が正確に急所を貫く。
「助太刀致します」
 仲間の死角をカバーする位置で、二の矢を番えた和弓を静架が引き絞る。昼ならば、その蒼い弓身も美しく映えただろうが。
 苦痛でのた打ち回る間もなく、翻る片鎌槍のひと薙ぎが止めを刺した。
 突然に現れ、瞬く間に亜人達を排除する三人の手際に、暴れる痩せ馬のくつわを掴んだエルフは呆気に取られていた。
 静けさを取り戻した闇に琴音は肩の力を抜き、黒色のリボルバーの銃口を下ろす。
「……あの、怪我は? その子も……」
「ありがとう、馬も無事だ。そちらはハンターか?」
「メアだな、捜す様に頼まれた。詳しい話は安全を確保してからだ」
 訝しむ相手に馬首を巡らせた兵庫が槍を納め、トランシーバーを取る。
 二言三言、馨と言葉を交わし。
「連れの二人も無事だそうだ」
 安否を告げられ、メアだけでなく琴音もほっと安堵の息を吐いた。

「しかし、昨今のハンターってのは器用だなぁ。馬車の修理まで、やっちまうとは」
 相変わらず揺れる御者台では、感嘆しきりで農夫が手綱を取る。
 山犬連れのゴブリン達に襲われて横転した荷車は、車軸が完全に壊れていた。
「……さすがに、放置しておく訳にはいかないからな。押していくにしても、少しでもマシな状態にしておかないとな」
 休む暇もなく、その知識と腕で応急修理に取り掛かる兵庫を馨が手伝い。
 走れる程度まで直した頃には、夜明けを迎えていた。
 穀物の袋はバイクや馬に振り分けて荷馬車への負担を減らし、農夫は荷台で琴音が持ってきたトマトを齧る。
「こりゃあ、うめぇな」
「……水分補充も必要だけど、疲労回復と体温を下げるのに、夏にトマトを食べるのはいいんだよ。メアさんやお爺さんも、どうぞ」
「何から何まで、すまない。本当に助かった」
「……俺達への礼より、着いたらまず依頼人へ報告に行って貰うと助かるんだが。荷物を届けるのも兼ねてな」
「そうだな。助言、感謝する」
 兵庫にメアは苦笑を返し、荷台の鎧袋をちらと見やる。
 夕暮れが迫る頃には大気に潮の匂いが混ざり、リゼリオの灯かりが帰ってきた者達を迎えた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • スピードスター
    無限 馨ka0544
  • 漆黒深紅の刃
    瀬崎 琴音ka2560
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜ka4080

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 夢を魅せる歌姫
    ケイ・R・シュトルツェ(ka0242
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 漆黒深紅の刃
    瀬崎 琴音(ka2560
    人間(蒼)|13才|女性|機導師
  • 歌姫の大ファン
    岩波レイナ(ka3178
    人間(蒼)|16才|女性|機導師
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 聖盾の騎士
    紫炎(ka5268
    人間(紅)|23才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談スレッド
天王寺茜(ka4080
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/17 21:47:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/17 12:07:16