ゲスト
(ka0000)
墓荒らし
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/21 05:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
たかが山奥の墓守とはいえ、これでもなかなか忙しいのだ。
賑やかな王都からはずれ、河も遠ければまともな道もなく、不便この上ない。けれど、奇跡的に開けた平らな場所があり、しかし農地にできるほど肥えた土でもないとなると、しぜん、行き倒れた旅人などが眠る場所となった、らしい。
らしい、というのは、あまりにも昔からありすぎて、現在の墓守であるトムも伝聞でしか知らないからだ。この場所は、血族が代々引き継いでいるわけではない。トムのように信仰心が篤く、名も知らぬ他人のために涙を流すことを厭わず、この墓を守ることが使命であると思える人間に託され続けてきたのだ。
この時代、行き倒れは珍しくない。旅の途中で力尽きた者、厄災から身を守りきれなかった者、世界を蝕む魔と戦い破れた者、さまざまだ。偶然訪れたこの地で、後継者を捜す先代の墓守の話を聞き、感銘を受けて若いながらも引き受けた、とこういうわけだ。
墓守というと、陰気くさい場所で死者と暮らしているという暗いイメージがあるかもしれないが、存外慌ただしく毎日を過ごしている。どの墓にどんな人が眠り、どんなものを身につけていたか、細かく管理するのがもっぱらの仕事だ。
不便な山奥であっても精霊には関係ないようで、頻繁にパルムも現れる。この場所を知らない街の人間もいるだろうから、トムはパルムにその管理した一覧を積極的に見せてやる。すると満足するのか、またどこかへいく。山奥で一人で暮らすトムにとって貴重な話し相手なのだが、あのキノコたちはトムそのものにあまり関心がないようで、彼が一方的に喋ってばかりだ。なんとも寂しい限りである。
しかし、そうやってパルムが行き来してくれるからか、時々、「あの行き倒れは自分の身内かもしれない」という客がやってくる。となると、墓守はその行き倒れが遺した品を客に見せてやる。客が来るなら茶も出さねばならぬ。茶を出すなら器も用意しなくてはならない。これでもなかなか忙しいのだ。
この日も、姉妹だという2人の女性が来た。2人とも20歳そこそこだろうか。こんな場所まで来るには大変だったろうに。
「行商に行った兄が、何日も戻ってこないのです」
特徴を聞けば、トムもまだ覚えていた、比較的最近に運ばれた男性のことを。可哀想に野盗にでも遭ったのか、身ぐるみ剥がされていた。残っていたのは、なんの特徴もない衣類だけであったが、それを見せると姉妹ははらはらと涙をこぼした。
「間違いありません、家を出た日に、兄が着ていたものです」
「そうですか……ご愁傷様です。この方のお墓は、こちらです」
そう言って表の墓地へ案内しようとしたときだ。墓地向こうの繁みで、何か大きく動くものがあった。
「なに……熊かしら?」
繁みのざわめきが大きくなったかと思うと、突然、黒い塊が飛び出してきた。
「出るな!!」
トムは慌てて姉妹を家に押し戻し、戸を閉めた。戸に何かぶつかった音がして、小さな家が大きく揺れた。またぶつかる音。振動。
「ひいっ!」
震える膝を引きずるように窓まで行き、そこからそっと外を覗く。熊ほどの大きさの狼、いや、厳密には『狼のような四つ足の姿をしたモノ』が、1……2、いや、3匹だ。
「あれは……」
トムには分かった、あれは『世界を蝕む闇』、ヴォイドだと。
見慣れた獣とは似ても似つかない。毛のない、丸くのっぺりした顔に、異様な大きさの鼻。その下にあるのは口か、尖った歯が乱雑に並び、涎を垂らしている。胴体は毛むくじゃらで、背中はくの字に曲がり、蚤のように時々飛び跳ねていた。
2匹が、地面に鼻を擦りつけ、匂いをかぐような動作をしながら這い回っていた。するとしつこく戸に体当たりをしていた1匹もそちらに興味を移し、家からようやく離れた。魔物たちは匂いをかぎながら墓の前で止まり、足下を掘り始めたのだ。
「いやあッ…………!!!!」
姉妹が、泣き叫びそうになるのを必死で堪える。化け物は、掘り当てた棺を易々と壊し、中に納められていた、まだ形の残っている人の体にかぶりついた。
それはいわゆる食欲を満たすためか、面白い玩具を見つけたから遊ぶためか、不愉快な腐臭の元を断ち切りたかったからか、……理由はともかく、ヴォイドは死者を蹂躙しはじめたのだ。
「私たちも殺されるの!?」
「まさか! すぐにハンターを呼ぼう。あんな化け物、すぐに退治してくれるさ!!」
賑やかな王都からはずれ、河も遠ければまともな道もなく、不便この上ない。けれど、奇跡的に開けた平らな場所があり、しかし農地にできるほど肥えた土でもないとなると、しぜん、行き倒れた旅人などが眠る場所となった、らしい。
らしい、というのは、あまりにも昔からありすぎて、現在の墓守であるトムも伝聞でしか知らないからだ。この場所は、血族が代々引き継いでいるわけではない。トムのように信仰心が篤く、名も知らぬ他人のために涙を流すことを厭わず、この墓を守ることが使命であると思える人間に託され続けてきたのだ。
この時代、行き倒れは珍しくない。旅の途中で力尽きた者、厄災から身を守りきれなかった者、世界を蝕む魔と戦い破れた者、さまざまだ。偶然訪れたこの地で、後継者を捜す先代の墓守の話を聞き、感銘を受けて若いながらも引き受けた、とこういうわけだ。
墓守というと、陰気くさい場所で死者と暮らしているという暗いイメージがあるかもしれないが、存外慌ただしく毎日を過ごしている。どの墓にどんな人が眠り、どんなものを身につけていたか、細かく管理するのがもっぱらの仕事だ。
不便な山奥であっても精霊には関係ないようで、頻繁にパルムも現れる。この場所を知らない街の人間もいるだろうから、トムはパルムにその管理した一覧を積極的に見せてやる。すると満足するのか、またどこかへいく。山奥で一人で暮らすトムにとって貴重な話し相手なのだが、あのキノコたちはトムそのものにあまり関心がないようで、彼が一方的に喋ってばかりだ。なんとも寂しい限りである。
しかし、そうやってパルムが行き来してくれるからか、時々、「あの行き倒れは自分の身内かもしれない」という客がやってくる。となると、墓守はその行き倒れが遺した品を客に見せてやる。客が来るなら茶も出さねばならぬ。茶を出すなら器も用意しなくてはならない。これでもなかなか忙しいのだ。
この日も、姉妹だという2人の女性が来た。2人とも20歳そこそこだろうか。こんな場所まで来るには大変だったろうに。
「行商に行った兄が、何日も戻ってこないのです」
特徴を聞けば、トムもまだ覚えていた、比較的最近に運ばれた男性のことを。可哀想に野盗にでも遭ったのか、身ぐるみ剥がされていた。残っていたのは、なんの特徴もない衣類だけであったが、それを見せると姉妹ははらはらと涙をこぼした。
「間違いありません、家を出た日に、兄が着ていたものです」
「そうですか……ご愁傷様です。この方のお墓は、こちらです」
そう言って表の墓地へ案内しようとしたときだ。墓地向こうの繁みで、何か大きく動くものがあった。
「なに……熊かしら?」
繁みのざわめきが大きくなったかと思うと、突然、黒い塊が飛び出してきた。
「出るな!!」
トムは慌てて姉妹を家に押し戻し、戸を閉めた。戸に何かぶつかった音がして、小さな家が大きく揺れた。またぶつかる音。振動。
「ひいっ!」
震える膝を引きずるように窓まで行き、そこからそっと外を覗く。熊ほどの大きさの狼、いや、厳密には『狼のような四つ足の姿をしたモノ』が、1……2、いや、3匹だ。
「あれは……」
トムには分かった、あれは『世界を蝕む闇』、ヴォイドだと。
見慣れた獣とは似ても似つかない。毛のない、丸くのっぺりした顔に、異様な大きさの鼻。その下にあるのは口か、尖った歯が乱雑に並び、涎を垂らしている。胴体は毛むくじゃらで、背中はくの字に曲がり、蚤のように時々飛び跳ねていた。
2匹が、地面に鼻を擦りつけ、匂いをかぐような動作をしながら這い回っていた。するとしつこく戸に体当たりをしていた1匹もそちらに興味を移し、家からようやく離れた。魔物たちは匂いをかぎながら墓の前で止まり、足下を掘り始めたのだ。
「いやあッ…………!!!!」
姉妹が、泣き叫びそうになるのを必死で堪える。化け物は、掘り当てた棺を易々と壊し、中に納められていた、まだ形の残っている人の体にかぶりついた。
それはいわゆる食欲を満たすためか、面白い玩具を見つけたから遊ぶためか、不愉快な腐臭の元を断ち切りたかったからか、……理由はともかく、ヴォイドは死者を蹂躙しはじめたのだ。
「私たちも殺されるの!?」
「まさか! すぐにハンターを呼ぼう。あんな化け物、すぐに退治してくれるさ!!」
リプレイ本文
●ハンター集結
依頼を受けたハンター達は、現在の状況を聞いて吐きそうになった。ヴォイドが、墓を掘り起こし、遺体を食い漁っているというではないか。
(……ちょっとこわい……おはかだし、たべられてるし……)
『世界を蝕む闇』との戦いを控えている他の仲間達の前で、まさか墓地が怖いとは言えず、ノノトト(ka0553)は皆の顔を見回した。彼のような理由で震えている者などいない。隣にいるリアルブルーから来た大きな男などは、見るからに死線をくぐり抜けてきた感じであり、今のノノトトの心情を知れば鼻で笑うかもしれない。
「ククッ……」
(笑われた!?)
オウカ・レンヴォルト(ka0301)がまさにその通りの行動をしたので、ノノトトは気を引き締めなおし、背筋を伸ばす。
(ククッ……、墓地か。怖いな……笑って誤魔化すしかないか……)
まさかオウカが、そんなことを考えているとは知らずに。
「地下の死人は寝かせとけ、掘り起こすモンじゃねェ……って、ケダモノごときが分かるはずもねェか」
ひとり涼しい顔をしているのは龍崎・カズマ(ka0178)。過去に死体などいくつも見てきたし、墓地よりも悲惨な場所にいたこともある。それに比べれば、たかがヴォイドの3体ぐらい、可愛いものだ。今日がハンターとして初めての仕事だというシェリル・マイヤーズ(ka0509)の尻を叩く余裕すらある。
「緊張してンのか、嬢ちゃん?」
「……別に」
「わたしはダメね、さっきから緊張しちゃって」
そう言ってシェリルにウインクをし、胸に手を遣るメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「やれる……わたしは、やれる……」
メリエが自己暗示をかけるように深呼吸しながら呟くのを真似て、シェリルも目を閉じてみる。
(思い出して……「自信を持て」って、言われたことを……)
胸に手をやり、静かに呼吸を整えると、少しは緊張がほぐれたような気もする。
「初めてなのはお互い様! 大丈夫、この偉大なる『Bee一族』の守護神であるジュウベエちゃんがいるからには、今日の仕事は成功したも同然よ!」
「はーい、じゃあその守護神さんも、ちょっと確認してねー」
あっさりと榊 兵庫(ka0010)に流されてしまったJyu=Bee(ka1681)。
「つれないわね」
「時間が惜しい」
リアルブルーの文化をこよなく愛しているという彼女のために、アニメや漫画談義につきあうのも吝かではないが、今は残念ながらおあずけだ。
「おおまかな作戦は、対象を囲んで、挟み撃ちにすること。これでいいな?」
そのてきぱきとした説明のしかたは、さすが元軍人といったところか。
「それから?」
ノワール(ka1697)が続きを促す。もう一つ、大事なことがあるはずだ。あの場所には、まだ3人もの人間が取り残されている。しかし兵庫は黙って頷き、ノワールに言った。
「頼んだぞ」
敵に気付かれにくくなる『隠密』を備え持っているのは、この中で彼だけだ。適地のど真ん中にあるトムの家に近づき守るのはノワールが適任だと誰もが認め、彼もまた、それを受けて頷いた。
●墓地
ハンター達が到着した時、ヴォイドどもはまだ同じように遊んでいた。依頼を聞いたときと違うのは、掘られている穴が4、5つほどに増えていることか。棺の中の遺体を、食べているわけでは無さそうだ。しかし、もともと土に還りかけていたからか、ヴォイドが噛みちぎったからか、およそ人の形はとどめていなかった。
「行くわよ」
すっかり落ち着きを取り戻したメリエが、墓地を取り囲むようにある繁みに隠れながら進む。ジャンクガンを構えたカズマも、彼女と反対の方向へ動き出した。
「嬢ちゃん達も、用意しておけよ? 俺は位置についたら、即、ヤるぜ」
「……分かってる」
「愛想ないな、嬢ちゃん。そんなんじゃモテねーぞ。ただでさえ臭いんだし」
「くさッ……!?」
カズマにとんでもないことを言われて、目を白黒させるシェリル。
「えっ……臭い、私……?」
「くさくなんか、ないですよ!」
慌てて否定するノノトト。しかしシェリルは、自分の体をくんくん嗅ぐのを止めない。
「おいおい、からかってんじゃない」
兵庫に注意されても、そしらぬ顔のカズマ。「へいへい」と、適当に返事をして、自分の持ち場へ移動した。
「ククッ……」
「おまえまで笑うことないだろう、オウカ」
「いや、あれは下準備がちゃんとできてる、って言いたいのだろう……」
そう、シェリルが匂うのは事実だ。なぜなら、匂いに敏感そうなヴォイドを誘うために、チーズを削って腕に塗りたくっているのである。
「それにしたって、言い方があるわよ」
ぷりぷり怒っているのはJyu=Bee。キッとシェリルに向き直ると、指を立てて言った。
「決まりね、あいつも敵よ。シェリル、ヴォイドと一緒に殴っていいわ。私が許す!」
墓標の陰に隠れながら、慎重にノワールがトムの家を目指す。ヴォイドは地面ばかり見て、後ろを走るノワールに気付いていない。家の陰まで辿り着くと、フッと息を吐き、仲間達へ合図を送る。
「こっちだ、化け物!」
旨そうな干し肉をちらつかせて、オウカが飛び出した。その気配を感知した3体のヴォイドが一斉に、同じ方向に顔を上げた。
「無辜の民を脅かし、闇に蠢く悪党共よ。侍ソウルの導くままに、この天下の美少女ジュウベエちゃんが、疾風怒濤に蹴散らしてあげるわ!!」
「そこに立つなーーーー!!」
オウカが投げつけようとしたウィスキーが、ヒーローアニメさながらに格好良く決めポーズをとったJyu=Beeに全部ぶっかけられてしまった。
「臭ッ! お酒臭い!!」
「ヴォイド……来る!」
シェリルは身構えた。明らかにヴォイドは自分たちに狙いを定め直し、じりじりとこちらに近寄ってくるではないか。
●ヴォイド
決して頑丈とはいえない簡素な家に取り残されていた3人が、窓をノックする音を聞いたとき、またもヴォイドが襲いに来たのかと震え上がった。しかし窓の外にいたのは、小さなドワーフの男の子だった。
「もうだいじょうぶ。ちょっとだけ待っててね!」
3人の緊張がみるみる解けた。ただの少年がこんな場所にいるはずがない。ついにハンターが到着したのだ!
「逃がすなよ!」
完全にハンターが墓地を取り囲んだことを確認して、兵庫が檄をとばす。これで逃げられたりすればいい笑いものだ。
「的がでかいのは、ありがたいぜ!」
カズマは、1体のヴォイドの鼻先をめがけ、ジャンクガンの引き金をひいた。弾はヴォイドをかすめ、地面に辺り、小さい土埃が上がった。
『グルルルル………グオオオオオ!』
並のケモノなら、これに驚いて逃げるだろうが、やはりヴォイドは違っていた。前脚を下げ、くの字型の腰を高く上げた歪な姿勢でしばらく唸ったかと思うと、錆び付いた扉をこじ開けるような耳障りな声で吠えた。
「っつ……!!」
巨大な化け物の巨大な咆哮、それに一瞬、ひるみそうになるが、メリエは歯を食いしばる。
「心で負けたら、誰にも勝てない!」
大胆に、臆するな、逆に畏怖を与えるつもりで!! メリエは『踏込』を纏った両足で立ち、ロングソードを高々と掲げた。
「この図体でかい悪食モンスター! 今から掻っ捌いてやるから覚悟しろ!」
剣が、ヴォイドの後ろ脚を狙って振り下ろされる。確かな手応えがあり、ヴォイドは悲鳴を上げた。
「まだ動くぞ!」
カズマが言い終わる間もなく、ヴォイドは残った側の脚を縮めると、バネのように飛び上がり、メリエの頭より高く飛ぶ。
「……無防備な」
この好機を待っていた。翼が生えているでもあるまい、宙に浮いた隙だらけのヴォイドにオウカは、ダガーを投げつける。除けることもできずヴォイドは体勢を崩し、ぐしゃりと地面に落ちた。元は狼か野犬だったか、辛うじて四つ足の獣だと分かる死骸をわずかに残し、ヴォイドは消えた。
「ククッ、まずは1体……」
ダガーを拾い上げ、ヴォイドだったものを見下ろし、オウカが笑う。
「ククッ……クハハッ……アーッハッハッハッハッハッハッ!」
それが戦いの怖さを紛らわせるためとは誰も思うまい。
ヴォイドに感情はないのか。同類がそばにいても、それを『仲間』と感じないのだろう。1体が消されても、激高するでも怯むでもなく、それまでと体勢を変えることなく牙を剥いた。
「……人の最後の眠りまで穢そうとするとは、やはりヴォイドとは許し難い存在だな」
全力で排除する。
兵庫は目の前にいる、残る2体を交互に見た。逃げる気配はない、絶好の機会だ。しかし周りにあるのは、粗末ながらも丁寧に作られた墓標。あまりにも昔からあるこの墓地には、あまりにもたくさんの墓標が並ぶ、兵庫の持つ長い薙刀でヴォイドと戦えば、いくつかを傷つけてしまうかもしれない。
けれどヴォイドは、彼のそんな逡巡など待ってはくれない。不揃いな歯の並ぶ口を大きく広げ、涎を垂らしながら飛びかかってくる。兵庫は舌打ちした。
「何を難しい顔をしてるの?」
Jyu=Beeの一言で我に返った。そして改めて考える。冷静になれ、今、優先すべき事は何だ?
「エルフ新陰流、一の太刀!!」
Jyu=Beeが踏み込むと、遅れず兵庫も薙刀を振るう。『全力で排除する』ために。
『強打』で力強く薙ぎ払うと、ヴォイドの鼻と同時に脇の墓標が欠けた。
「足を狙え!」
カズマが動きを止めようと、すばしこいヴォイドの足めがけて滑り込んでくる。しかし、鼻が切られただけのヴォイドは上空に逃げることで易々とそれをかわした。
「……愚か、ね」
この巨大なヴォイドにもう少し知恵があったら、先に消えた同類と同じ行動は取らなかっただろう。シェリルの投げたナイフが、無防備な腹に突き刺さる。こうなれば地上に戻ってきたときに、すぐに次の反撃ができる姿勢にはなれなかった。
「とどめを!」
残るは1体だ。
だが、いよいよヴォイドも目の前の『敵』の数に危機を察知したか、後ずさりを始め、パッと向きを変えた。トムたちのいる方向だ。……だがその前には、ヴォイドの退路を塞ぐべく、ノノトトが待ちかまえていた。
「わわっ、こっちにくる~~」
自分の3倍はあろうかという大きさのヴォイドが、ものすごい勢いで駆けてくるのに、ノノトトは困惑する。腰を落として足を踏ん張り、バックラーを構えるが、このまま真正面から受けとめて大丈夫なのか……。
「耐えてろ」
「ふえっ?」
後ろからかけられた声が誰のものか確かめる間もなく、ヴォイドがぶつかってきた。腕に目一杯の力を込め、盾と自分がはじき飛ばされないよう、耐える。
と、次の瞬間、抵抗が軽くなった。かと思うと、自分を押していたはずのヴォイドは横に吹っ飛び、代わりに『スラッシュエッジ』を伴った一撃を放ったばかりのノワールが立っていた。
「……いい足止めだ」
家の中から、喝采があがった。
窓からこっそり覗いていた3人は、いつの間にか身を乗り出すようにして、そしてハンター達の見事な戦いぶりに、喜びを露わにせずにはいられなかった。
●後始末
誰ともなく、荒らされた墓を直し始めた。ヴォイドに玩具にされた遺体をもう一度きれいな棺に納め、土に埋めていく。日没前には全ての作業が終わり、皆で黙祷を捧げることができた。
助け出された姉妹の兄の墓は無事だった。やっと花を供えられた姉妹は、ヴォイドの恐怖から解放された安堵感も手伝って、また涙を流していた。
(両親のお墓……無いな)
シェリルは小さく落胆する。ヴォイドのせいで帰らぬ人となった父母には、墓標すらない。この姉妹は、まだ幸福だ。化け物が跋扈するこの世界では、自分と同じような人間はまだまだいるだろう。トムの守るこの墓地が、そんな人たちの希望として有り続けて欲しい、そう願った。
「……腹、減ったな」
オウカは催促したわけではなかったのだが、その独り言を聞かれてトムがささやかな慰労会を開いてくれた。とは言え、場所が場所だけに、干し肉やチーズぐらいしか出せるものはないのだけれど。
「じゃ、また何かあったら呼んでね。すぐに駆けつけて解決してみせるから」
ハンター達は笑顔で手を振り、帰路についた。
依頼を受けたハンター達は、現在の状況を聞いて吐きそうになった。ヴォイドが、墓を掘り起こし、遺体を食い漁っているというではないか。
(……ちょっとこわい……おはかだし、たべられてるし……)
『世界を蝕む闇』との戦いを控えている他の仲間達の前で、まさか墓地が怖いとは言えず、ノノトト(ka0553)は皆の顔を見回した。彼のような理由で震えている者などいない。隣にいるリアルブルーから来た大きな男などは、見るからに死線をくぐり抜けてきた感じであり、今のノノトトの心情を知れば鼻で笑うかもしれない。
「ククッ……」
(笑われた!?)
オウカ・レンヴォルト(ka0301)がまさにその通りの行動をしたので、ノノトトは気を引き締めなおし、背筋を伸ばす。
(ククッ……、墓地か。怖いな……笑って誤魔化すしかないか……)
まさかオウカが、そんなことを考えているとは知らずに。
「地下の死人は寝かせとけ、掘り起こすモンじゃねェ……って、ケダモノごときが分かるはずもねェか」
ひとり涼しい顔をしているのは龍崎・カズマ(ka0178)。過去に死体などいくつも見てきたし、墓地よりも悲惨な場所にいたこともある。それに比べれば、たかがヴォイドの3体ぐらい、可愛いものだ。今日がハンターとして初めての仕事だというシェリル・マイヤーズ(ka0509)の尻を叩く余裕すらある。
「緊張してンのか、嬢ちゃん?」
「……別に」
「わたしはダメね、さっきから緊張しちゃって」
そう言ってシェリルにウインクをし、胸に手を遣るメリエ・フリョーシカ(ka1991)。
「やれる……わたしは、やれる……」
メリエが自己暗示をかけるように深呼吸しながら呟くのを真似て、シェリルも目を閉じてみる。
(思い出して……「自信を持て」って、言われたことを……)
胸に手をやり、静かに呼吸を整えると、少しは緊張がほぐれたような気もする。
「初めてなのはお互い様! 大丈夫、この偉大なる『Bee一族』の守護神であるジュウベエちゃんがいるからには、今日の仕事は成功したも同然よ!」
「はーい、じゃあその守護神さんも、ちょっと確認してねー」
あっさりと榊 兵庫(ka0010)に流されてしまったJyu=Bee(ka1681)。
「つれないわね」
「時間が惜しい」
リアルブルーの文化をこよなく愛しているという彼女のために、アニメや漫画談義につきあうのも吝かではないが、今は残念ながらおあずけだ。
「おおまかな作戦は、対象を囲んで、挟み撃ちにすること。これでいいな?」
そのてきぱきとした説明のしかたは、さすが元軍人といったところか。
「それから?」
ノワール(ka1697)が続きを促す。もう一つ、大事なことがあるはずだ。あの場所には、まだ3人もの人間が取り残されている。しかし兵庫は黙って頷き、ノワールに言った。
「頼んだぞ」
敵に気付かれにくくなる『隠密』を備え持っているのは、この中で彼だけだ。適地のど真ん中にあるトムの家に近づき守るのはノワールが適任だと誰もが認め、彼もまた、それを受けて頷いた。
●墓地
ハンター達が到着した時、ヴォイドどもはまだ同じように遊んでいた。依頼を聞いたときと違うのは、掘られている穴が4、5つほどに増えていることか。棺の中の遺体を、食べているわけでは無さそうだ。しかし、もともと土に還りかけていたからか、ヴォイドが噛みちぎったからか、およそ人の形はとどめていなかった。
「行くわよ」
すっかり落ち着きを取り戻したメリエが、墓地を取り囲むようにある繁みに隠れながら進む。ジャンクガンを構えたカズマも、彼女と反対の方向へ動き出した。
「嬢ちゃん達も、用意しておけよ? 俺は位置についたら、即、ヤるぜ」
「……分かってる」
「愛想ないな、嬢ちゃん。そんなんじゃモテねーぞ。ただでさえ臭いんだし」
「くさッ……!?」
カズマにとんでもないことを言われて、目を白黒させるシェリル。
「えっ……臭い、私……?」
「くさくなんか、ないですよ!」
慌てて否定するノノトト。しかしシェリルは、自分の体をくんくん嗅ぐのを止めない。
「おいおい、からかってんじゃない」
兵庫に注意されても、そしらぬ顔のカズマ。「へいへい」と、適当に返事をして、自分の持ち場へ移動した。
「ククッ……」
「おまえまで笑うことないだろう、オウカ」
「いや、あれは下準備がちゃんとできてる、って言いたいのだろう……」
そう、シェリルが匂うのは事実だ。なぜなら、匂いに敏感そうなヴォイドを誘うために、チーズを削って腕に塗りたくっているのである。
「それにしたって、言い方があるわよ」
ぷりぷり怒っているのはJyu=Bee。キッとシェリルに向き直ると、指を立てて言った。
「決まりね、あいつも敵よ。シェリル、ヴォイドと一緒に殴っていいわ。私が許す!」
墓標の陰に隠れながら、慎重にノワールがトムの家を目指す。ヴォイドは地面ばかり見て、後ろを走るノワールに気付いていない。家の陰まで辿り着くと、フッと息を吐き、仲間達へ合図を送る。
「こっちだ、化け物!」
旨そうな干し肉をちらつかせて、オウカが飛び出した。その気配を感知した3体のヴォイドが一斉に、同じ方向に顔を上げた。
「無辜の民を脅かし、闇に蠢く悪党共よ。侍ソウルの導くままに、この天下の美少女ジュウベエちゃんが、疾風怒濤に蹴散らしてあげるわ!!」
「そこに立つなーーーー!!」
オウカが投げつけようとしたウィスキーが、ヒーローアニメさながらに格好良く決めポーズをとったJyu=Beeに全部ぶっかけられてしまった。
「臭ッ! お酒臭い!!」
「ヴォイド……来る!」
シェリルは身構えた。明らかにヴォイドは自分たちに狙いを定め直し、じりじりとこちらに近寄ってくるではないか。
●ヴォイド
決して頑丈とはいえない簡素な家に取り残されていた3人が、窓をノックする音を聞いたとき、またもヴォイドが襲いに来たのかと震え上がった。しかし窓の外にいたのは、小さなドワーフの男の子だった。
「もうだいじょうぶ。ちょっとだけ待っててね!」
3人の緊張がみるみる解けた。ただの少年がこんな場所にいるはずがない。ついにハンターが到着したのだ!
「逃がすなよ!」
完全にハンターが墓地を取り囲んだことを確認して、兵庫が檄をとばす。これで逃げられたりすればいい笑いものだ。
「的がでかいのは、ありがたいぜ!」
カズマは、1体のヴォイドの鼻先をめがけ、ジャンクガンの引き金をひいた。弾はヴォイドをかすめ、地面に辺り、小さい土埃が上がった。
『グルルルル………グオオオオオ!』
並のケモノなら、これに驚いて逃げるだろうが、やはりヴォイドは違っていた。前脚を下げ、くの字型の腰を高く上げた歪な姿勢でしばらく唸ったかと思うと、錆び付いた扉をこじ開けるような耳障りな声で吠えた。
「っつ……!!」
巨大な化け物の巨大な咆哮、それに一瞬、ひるみそうになるが、メリエは歯を食いしばる。
「心で負けたら、誰にも勝てない!」
大胆に、臆するな、逆に畏怖を与えるつもりで!! メリエは『踏込』を纏った両足で立ち、ロングソードを高々と掲げた。
「この図体でかい悪食モンスター! 今から掻っ捌いてやるから覚悟しろ!」
剣が、ヴォイドの後ろ脚を狙って振り下ろされる。確かな手応えがあり、ヴォイドは悲鳴を上げた。
「まだ動くぞ!」
カズマが言い終わる間もなく、ヴォイドは残った側の脚を縮めると、バネのように飛び上がり、メリエの頭より高く飛ぶ。
「……無防備な」
この好機を待っていた。翼が生えているでもあるまい、宙に浮いた隙だらけのヴォイドにオウカは、ダガーを投げつける。除けることもできずヴォイドは体勢を崩し、ぐしゃりと地面に落ちた。元は狼か野犬だったか、辛うじて四つ足の獣だと分かる死骸をわずかに残し、ヴォイドは消えた。
「ククッ、まずは1体……」
ダガーを拾い上げ、ヴォイドだったものを見下ろし、オウカが笑う。
「ククッ……クハハッ……アーッハッハッハッハッハッハッ!」
それが戦いの怖さを紛らわせるためとは誰も思うまい。
ヴォイドに感情はないのか。同類がそばにいても、それを『仲間』と感じないのだろう。1体が消されても、激高するでも怯むでもなく、それまでと体勢を変えることなく牙を剥いた。
「……人の最後の眠りまで穢そうとするとは、やはりヴォイドとは許し難い存在だな」
全力で排除する。
兵庫は目の前にいる、残る2体を交互に見た。逃げる気配はない、絶好の機会だ。しかし周りにあるのは、粗末ながらも丁寧に作られた墓標。あまりにも昔からあるこの墓地には、あまりにもたくさんの墓標が並ぶ、兵庫の持つ長い薙刀でヴォイドと戦えば、いくつかを傷つけてしまうかもしれない。
けれどヴォイドは、彼のそんな逡巡など待ってはくれない。不揃いな歯の並ぶ口を大きく広げ、涎を垂らしながら飛びかかってくる。兵庫は舌打ちした。
「何を難しい顔をしてるの?」
Jyu=Beeの一言で我に返った。そして改めて考える。冷静になれ、今、優先すべき事は何だ?
「エルフ新陰流、一の太刀!!」
Jyu=Beeが踏み込むと、遅れず兵庫も薙刀を振るう。『全力で排除する』ために。
『強打』で力強く薙ぎ払うと、ヴォイドの鼻と同時に脇の墓標が欠けた。
「足を狙え!」
カズマが動きを止めようと、すばしこいヴォイドの足めがけて滑り込んでくる。しかし、鼻が切られただけのヴォイドは上空に逃げることで易々とそれをかわした。
「……愚か、ね」
この巨大なヴォイドにもう少し知恵があったら、先に消えた同類と同じ行動は取らなかっただろう。シェリルの投げたナイフが、無防備な腹に突き刺さる。こうなれば地上に戻ってきたときに、すぐに次の反撃ができる姿勢にはなれなかった。
「とどめを!」
残るは1体だ。
だが、いよいよヴォイドも目の前の『敵』の数に危機を察知したか、後ずさりを始め、パッと向きを変えた。トムたちのいる方向だ。……だがその前には、ヴォイドの退路を塞ぐべく、ノノトトが待ちかまえていた。
「わわっ、こっちにくる~~」
自分の3倍はあろうかという大きさのヴォイドが、ものすごい勢いで駆けてくるのに、ノノトトは困惑する。腰を落として足を踏ん張り、バックラーを構えるが、このまま真正面から受けとめて大丈夫なのか……。
「耐えてろ」
「ふえっ?」
後ろからかけられた声が誰のものか確かめる間もなく、ヴォイドがぶつかってきた。腕に目一杯の力を込め、盾と自分がはじき飛ばされないよう、耐える。
と、次の瞬間、抵抗が軽くなった。かと思うと、自分を押していたはずのヴォイドは横に吹っ飛び、代わりに『スラッシュエッジ』を伴った一撃を放ったばかりのノワールが立っていた。
「……いい足止めだ」
家の中から、喝采があがった。
窓からこっそり覗いていた3人は、いつの間にか身を乗り出すようにして、そしてハンター達の見事な戦いぶりに、喜びを露わにせずにはいられなかった。
●後始末
誰ともなく、荒らされた墓を直し始めた。ヴォイドに玩具にされた遺体をもう一度きれいな棺に納め、土に埋めていく。日没前には全ての作業が終わり、皆で黙祷を捧げることができた。
助け出された姉妹の兄の墓は無事だった。やっと花を供えられた姉妹は、ヴォイドの恐怖から解放された安堵感も手伝って、また涙を流していた。
(両親のお墓……無いな)
シェリルは小さく落胆する。ヴォイドのせいで帰らぬ人となった父母には、墓標すらない。この姉妹は、まだ幸福だ。化け物が跋扈するこの世界では、自分と同じような人間はまだまだいるだろう。トムの守るこの墓地が、そんな人たちの希望として有り続けて欲しい、そう願った。
「……腹、減ったな」
オウカは催促したわけではなかったのだが、その独り言を聞かれてトムがささやかな慰労会を開いてくれた。とは言え、場所が場所だけに、干し肉やチーズぐらいしか出せるものはないのだけれど。
「じゃ、また何かあったら呼んでね。すぐに駆けつけて解決してみせるから」
ハンター達は笑顔で手を振り、帰路についた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/13 00:11:41 |
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相談卓 シェリル・マイヤーズ(ka0509) 人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/06/15 22:04:31 |