ゲスト
(ka0000)
スライムをスイーツする
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/20 22:00
- 完成日
- 2015/08/28 09:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
新作スイーツコンペティション!!
条件は3つ!
1)夏をイメージしたものであること
2)販売が可能であること(貴重な材料は使用できない
そして、最後の条件。
これが最も重要である。もっとも、重要である。
3)ぷるぷるとしたスライムを思わせる食感であること!!
以上、「グランスライ亭」はみなさんのこだわりをお待ちしています。
●
王都イルダーナにグランスライ亭は本拠を構えていた。
ここのオーナーの名前は、スライ・クライム。普段はスライム博士を自称し、王国内を駆けまわる変人である。本人曰く博士が本業らしい。
そんな彼は今、痛々しい包帯を体に巻き付け、厨房の椅子に腰掛けていた。
とあるスライムとの接触により、身体を痛めてしまったのだ。こんな状態ではスライム探索にも出かけられない。
軍資金も心もとなくなってきたこともあり、本人曰く副業にまい進することとなった……のだが。
「ふむ。ここのところ、売上が落ちておるぞい」
「最近、いろいろあって奥様方の財布の紐がかたくなってますから」
店舗責任者クリムはため息混じりにそう語る。
王国内外での戦いは、奥様方の消費意欲にも影響を及ぼしているようだ。
「ここいらで新作が必要だのう」
物憂げにスライが告げる。
従業員の表情を硬くして、スライの発言をじっと待つ。
「……さて、諸君」
「はい」
「新作は、公募しようと考えてるぞい」
「はい?」
スライの発言に従業員がざわつく。
自然と静まり返るのを待って、スライは立ち上がった。スライの従者、ムームーくんがそっと身体を支える。
「今、人々の財布の紐を緩めるには話題性が必要だぞい。昨今の状況……各地を旅するわしも見ておる。こういうときに必要なのは娯楽じゃ」
娯楽、と小さくムームーがつぶやく。
「わしらが新作スイーツを発表しても、見向きもされなければ意味は無いぞい。そこで、公募した上で新作スイーツを発表し、話題を取る」
「それは、しかし……」
「もちろん、君たちも参加してくれてかまわんぞい。あ、クリムくんだけは審査員に回ってほしいが……いかがか」
「……いいでしょう。みんなにとっても、いい機会です。今までの枠にとらわれない発想に、期待します」
こうして、始まったぷるぷるスイーツ創作コンペティション。
栄えある栄光を手にするのは、果たして誰なのであろうか。
「ムームーくん。君はわしと一緒に旅をしてきた、そこで見たものをぶつけてみるといいぞい」
「あ、はい……」
スライム研究に付き添わされていたムームーもまた、お菓子作りのプロを目指す少年であった。
だが、彼には自信がない。
スライムの研究がお菓子作りにどう活かせばいいのか、わからないのだった。
「わからないときは、人にアドバイスを求めればいいぞい」
「……わかりました」
そして、ムームーがアドバイスを求めるためにやってきたのは……別の意味でスライムのプロフェッショナルであるハンターオフィスだった。
条件は3つ!
1)夏をイメージしたものであること
2)販売が可能であること(貴重な材料は使用できない
そして、最後の条件。
これが最も重要である。もっとも、重要である。
3)ぷるぷるとしたスライムを思わせる食感であること!!
以上、「グランスライ亭」はみなさんのこだわりをお待ちしています。
●
王都イルダーナにグランスライ亭は本拠を構えていた。
ここのオーナーの名前は、スライ・クライム。普段はスライム博士を自称し、王国内を駆けまわる変人である。本人曰く博士が本業らしい。
そんな彼は今、痛々しい包帯を体に巻き付け、厨房の椅子に腰掛けていた。
とあるスライムとの接触により、身体を痛めてしまったのだ。こんな状態ではスライム探索にも出かけられない。
軍資金も心もとなくなってきたこともあり、本人曰く副業にまい進することとなった……のだが。
「ふむ。ここのところ、売上が落ちておるぞい」
「最近、いろいろあって奥様方の財布の紐がかたくなってますから」
店舗責任者クリムはため息混じりにそう語る。
王国内外での戦いは、奥様方の消費意欲にも影響を及ぼしているようだ。
「ここいらで新作が必要だのう」
物憂げにスライが告げる。
従業員の表情を硬くして、スライの発言をじっと待つ。
「……さて、諸君」
「はい」
「新作は、公募しようと考えてるぞい」
「はい?」
スライの発言に従業員がざわつく。
自然と静まり返るのを待って、スライは立ち上がった。スライの従者、ムームーくんがそっと身体を支える。
「今、人々の財布の紐を緩めるには話題性が必要だぞい。昨今の状況……各地を旅するわしも見ておる。こういうときに必要なのは娯楽じゃ」
娯楽、と小さくムームーがつぶやく。
「わしらが新作スイーツを発表しても、見向きもされなければ意味は無いぞい。そこで、公募した上で新作スイーツを発表し、話題を取る」
「それは、しかし……」
「もちろん、君たちも参加してくれてかまわんぞい。あ、クリムくんだけは審査員に回ってほしいが……いかがか」
「……いいでしょう。みんなにとっても、いい機会です。今までの枠にとらわれない発想に、期待します」
こうして、始まったぷるぷるスイーツ創作コンペティション。
栄えある栄光を手にするのは、果たして誰なのであろうか。
「ムームーくん。君はわしと一緒に旅をしてきた、そこで見たものをぶつけてみるといいぞい」
「あ、はい……」
スライム研究に付き添わされていたムームーもまた、お菓子作りのプロを目指す少年であった。
だが、彼には自信がない。
スライムの研究がお菓子作りにどう活かせばいいのか、わからないのだった。
「わからないときは、人にアドバイスを求めればいいぞい」
「……わかりました」
そして、ムームーがアドバイスを求めるためにやってきたのは……別の意味でスライムのプロフェッショナルであるハンターオフィスだった。
リプレイ本文
●
王都イルダーナ。
夏の風が、建物の隙間を通って行く。
この気温では、客の表情も芳しくない。
ムームーは、売り場から離れた厨房の一つを借りていた。
そこには、依頼に応じてくれたハンターたちが集う。
「はじめまして、僕が依頼をした……ムームーです」
ぺこりと頭を下げ、自己紹介をする。
「と、とりあえず、ご意見を一人づつ聞いていきたいと思います」
顔を上げるとたどたどしく、そう告げた。
すっと手を上げたのは、ロジー・ビィ(ka0296)だった。
「確認ですがコンセプトは、夏らしく、さらにスライムを思わせるスイーツ……ですわね?」
「そ、そうです」
「なかなか作りがいがありそうですわ。これは本気で挑まなければ」
力強いロジーの言葉に、ムームーは感心していた。実際の腕がどうかは、作ってみるまでわからないが出で立ちだけで作れそうに見えるから不思議だ。
「然し、スライムが好みとは随分変わってるね」
その隣でロラン・ラコート(ka0363)は苦笑する。
「魅力を教えてもらいたいような、そうでもないような感じだね」
「そうでありますか?」
疑問を呈したのは、クラヴィ・グレイディ(ka4687)。
うんと唸ってから、ロランたちに告げる。
「スライムを一目見たときから、美味しそうだなという考えを捨てきれなかったでありますが」
「んー」とロランはクラヴィの意見に考え込む。
「まさか、同じことを考える人がいるとは思っていなかったでありますよ……!」
「スライム自体を食べたいと思っているかは、わからないが」
グラヴィの後ろから、ザレム・アズール(ka0878)がそっと突っ込む。
そうでありますか、と小首を傾げるグラヴィにザレムは「しかし」と続ける。
「本物のスライムを食べるわけにはいかないが、あれは確かに涼やかな見た目だ」
「そういうものなのか」
ロランが呟く。実はスライムとはまだ、戦ったこともなければ出会ったこともない。どこに、そんなに興味を惹かれる魅力があるのか。ピンときていなかった。
伝え聞く限り、一般的に見た目もよくないと思うのだが……。
「えーと」
黒蜜(ka5411)がぐるりと考えをめぐらし、
「ぷるぷるしたお菓子を作れば良いのであるな!」
とシンプルな結論を見出した。
えぇ、とロジーが黒蜜の結論を受けて大いに頷く。
「……こういうときこそ、あたしの腕の見せどころでしてよっ!」
ぐっと拳を握り自信たっぷりの笑みを湛えるロジーを見ていると、やってくれそうな気がしてムームーは安心を覚えた。
「頼りに、してます」と念を押すムームーに任せてくださいましとロジーは応じる。
「ま、せっかくだし。いいモノを提供できるよう、善処するよ」
「精一杯頑張って、おいしくて素敵なスライム系スイーツを作るでありますよー!」
ロランやクラヴィもロジーに追随する。
ザレムは小さく、「俺もいろいろ食べたいな」と呟く。
どこかそわそわしていた黒蜜は、
「帰ったら、我輩のあるじ様にも作って召し上がっていただこう」と嬉しそうにいう。
それぞれの気合いと想いを胸に創作スイーツ作りが始まるのだった。
●
「……とはいったものの」
他の面子が作り始めたものを見ながら、クラヴィは思う。
「やはりあの外見から思いつくのは、ゼリー一択でありますよね」
「そうだな。俺はベーシックに、寒天を使って、スライムらしいぷるぷる感を出すことにしよう」
ロランもクラヴィの意見に同意する。全員、方向性は近しいらしく用意されたのはゼラチンもしくは天草である。
ちなみに、この材料の違いによって食感に少し違いが出る。だが、見た目ぷるぷるなのは変わらない。実にスライムらしいといえよう。
「やはり! ここは、インパクトでありますね!」
元気よく宣言するクラヴィの声に、ほんのり嫌な予感のするムームーであった。
クラヴィの声が聞こえた時、ムームーは黒蜜の発案を確認していた。
「我輩が徹夜して考えたスイーツ!」
誇らしげに掲げるスケッチブックには、巧みに描かれた図案が色鮮やかに躍る。
「一欠片に小さく切った果物を、透明な丸いゼリーにひとつひとつ閉じ込めるのだ」
「なるほど」
「その、ひとつひとつ閉じ込めたものを、深いワインレッド色のグレープジュースに浮かべる」
聞いている限りでは、夏らしい涼やかなデザートになりそうだ。
少しグレープが季節的にひっかかるが、近い色合いなら別の果物でも表現できそうでもある。
「えと、紅い色じゃないとダメなんでしょうか?」
ムームーの質問に、「当然なのだ」と黒蜜はぐっと力を入れる。
「このスイーツ。その名も『冷たき血の沼に沈む虹色の塊』、であるからな!」
一瞬、ムームーの目が点になった。
「え?」と思わず聞き返すが、
「『冷たき血の沼に沈む虹色の塊』である。名前も含めて、料理はインパクトも大事であるからな!」
ちょうど、このタイミングで先のクラヴィの発言が聞こえた。ムームーの心情は計り知れない。
ネーミングに難色を示すムームーに、黒蜜はぷんっと怒りを見せる。
「……ネームングが物騒であると? 失敬な。我輩のごしっくほらぁな美的センスを前に」
「怖いのは、ちょっと……。女性のお客様も、多いですし……」
好きな人も多そうだが、一般受けは難しそうだ。
「どうしてもというなら、『ブラッディ・サマー。ジュエル』とでも呼び習わしたまえ」
それなら、お洒落かなと思うムームーは、続いてクラヴィに呼ばれるのだった。
●
クラヴィのいっていた、インパクトを前にムームーは戦慄していた。
話を聞く限り、クラヴィの故郷で有名なゼリー系料理だという……が。
「えと、もう一度お願いします」
「まずはうなぎを茹でたものを、冷やして固めてー……え? なんでありますか」
「えーと、ダメです」
「だ、ダメでありますか!?」
言葉に詰まるムームーに、クラヴィは畳み掛けるようにいう。
「い、いえ! あれだってソースや胡椒をかければ、まだ食べられるでありますよ!?」
「う、うなぎが問題なのではなく」
そうクラヴィの述べていたのは、リアルブルーでいうところの「鰻のゼリー寄せ」である。
つまるところ、それは……。
「……あぁ……確かに、スイーツではないでありますね」
しょぼんと肩を落とすクラヴィのいうとおり、料理であってもスイーツではない。
いや、世の中にはスイーツだという方もいるかもしれないが。少なくとも、ムームーたちにとってはスイーツではないのだ。
少しの沈黙の後、「でも」とクラヴィは顔を上げる。
「何かを入れるというのは問題ないでありますよね?」
「え、はい。もちろん」
黒蜜の案でも果物を閉じ込める、という部分があった。
他の者達も似た発想はしていることだろう。
「後は、ソースを色々かけられるようにしてみる……という発想はどうでありますか?」
おずおずと聞いてくるクラヴィに、
「いいと想います」とムームーは返す。
一度失いかけた自信を取り戻し、クラヴィは想像を巡らせる。
「魚の形や星の形に切ったフルーツをゼリーの中に沈めて、何かを食べてるスライムにするとか」
「ふむふむ」
「無色透明のプルプルとした本体に、いろんなソースを選んでかけられるとか!」
「それは、面白そう」
「はい! 日本のスイーツで見た気がするであります!」
元気よく告げるクラヴィが見たというのは、「水信玄餅」のことである。
ただし、それ自体を作るのではない。イメージを借りるのだ。
「これなら見た目で楽しめるスライム系スイーツになるであります!」
「なるほど。じゃあ、もう少し具体的に詰めていきたいですね」
ムームーにいわれ、考えるであります、とクラヴィは再び試作に入る。
その場を離れ、ムームーは続いてザレムのところへ行く。
●
クラヴィが発案した、中に様々なものを閉じ込めたスイーツ。
その完成形に近いものを、ザレムが形造っていた。
「ほへ」
ムームーも思わず声を漏らしたのは、いくつかのゼリースイーツだった。
いいところにきた、とザレムはムームーを出迎えて説明する。
「スライドーム。見た目がスノードームに似ているから、そう名づけたんだ」
作り方は、まず透明なブランデーグラスを用意する。底にわずかに甘く白い、淡雪寒天の液を流し込んで土台を作る。
それからゼリーや小さい砂糖菓子、そしてフルーツを配置しながらゼリー液を流しこむのだ。
「どうかな?」
「工夫が目に見えていいですね」
ムームーも思わず感心する。
試作品として作られたのは、砂糖菓子の貝、金平糖の星を並べ、ブルーハワイで色付けしたゼリーを用いて海に見立てたもの。
金魚や緑葉を散らして渓流に見せたもの。そして、濃い目のブルーハワイ液を混ぜたゼリーに金箔を混ぜ、キラキラした夜空を表現。さらに、惑星代わりのフルーツや寒天菓子を浮かす。
「全て寒天でなく、液を変えるんですか」
「ゼリーの方がやわらかな食感に作れるからね」
本当は葛のぷる、ぷるちっとした食感を求めていた。だが、
「葛はすぐに白濁してしまうんだ」
「それだと、透明感は出ませんね」
「代わりに片栗粉を隠し素材に入れてる。スライムみたいにひっつく感触を口の中で楽しんで欲しいと思ってさ」
材料の特性を活かし、スライムらしさを追求する。
本物のスライムを学んできたムームーも思わず感嘆するほどだった。
「僕も協力しますっ!」
思わずムームーが身を乗り出した時、
「ちょっと来てくれます?」
ロジーの自信に満ちた声が聞こえてきた。
●
やはり見た目は涼しげ、食べても爽やか。
「そして、一番大切なのは食感ですわね」
やってきたムームーに、微小を浮かべながらロジーは語る。
「今まで色々な場所を旅してきましたわ。その中でも選りすぐりのスイーツを組み合わせて……」
組み合わせて、といわれたところでムームーは悪寒が走った。
何だろう、と首をひねっている間にロジーは作り上げたものを取り出す。
「こんなのは如何でしょう?」
「こ、これは……えと、何」
ムームーの素な反応に、わかりませんの、とロジーは唇をとがらせる。
「説明してあげますわ」とすぐに気を取り直して告げる。
炭酸飲料で作ったフルーツポンチのゼリーの中に、様々なものをいれたスイーツである。
丸く刳りぬいた果物、ここまではわかる。
水信玄餅、見た目も鮮やかで可愛い九龍球、ここまではまぁ、わかる。
いや、水信玄餅を入れる、という発想は若干ムームーは首をひねる。いや、和スイーツの分野を知っていればわかる範囲だろうか。
ちなみに九龍球とは、球状にフルーツを寒天で固めたものだ。
見目鮮やかのは、ロジーのいう通りで、フルーツポンチにも合う。
「あの、これは?」とムームーが指さしたのは極彩色の何かだった。
「あぁ、それはですね」
少しタメを作って、カッと目を見開いてロジーが宣言する。
「白玉ですわ!」
極彩色の白玉。もはや色の定義がわからない。
ちなみにここまでが、土台、である。
「は、はは」
これには柔和で温和で心優しいムームーも苦笑い。
直感があかん方向に、クリティカルヒットした結果、その上に緑茶で作った水まんじゅうがうず高く積み上げられ……いや、そびえ立っていた。
「そう! クロカンブッシュのようにしてみましたの」
すごい迫力である、まさに力技で迫ってくる感がある。
声をなくしているムームーにロジーは畳み掛けるようにいう。
「ほら……彩りも派手さも完璧でしてよ!」
「味は?」
「……でも、なにか物足りないですわね」
「あ、味は!?」
わざとなのか、集中して聞こえていないのか。
ロジーは深く思案する。そして、直感が走る。
「そうですわっ!」
「まだ、何か!?」
「さらに夏の花をフルーツポンチゼリーぶっさしてもう一声、彩りよく」
ムームーは乾いた笑いで答える。
「ついでに、点火済み花火で夏のアバンギャルドな感じ……は如何でしょう?」
「店内での火遊びは禁止です!」
さすがに最後の提案にはムームーも力強く、ノーを突きつける。
成長した姿が、そこにあった。
「……本番も、頑張って、クダサイ」
まだ何か言いたりなさそうなロジーに、静かに告げてムームーは後ずさる。
ちょうどよく、最後のロランのスイーツもできたところだった。
●
ロランが作り上げたのは、ベーシックにスライムらしいスイーツだった。
「これは、いいですね」
ロジーのスイーツを目撃した後だと、どんなものでもよく見えるらしい。
いや食べてみたら、評価も変わるかもしれないが。
「状態的にはクラッシュさせたゼリー、飲んでも食べてもいい一品に仕上げてみた」
基調色はブルーハワイ等で色付けした、青。その中に食紅や黄色の着色料を用いて作った星形ゼリーが隠れ見える作りだ。
見た目もシンプル、イズ、ベストを体現していた。
「味は……」と恐れることなく、ムームーはさじを伸ばす。
「サイダーで作ってるから、爽やかさをプラスってところかね」
「悪く無いと思います」
「そういってくれると、嬉しいね」
ムームーの言葉を素直に、受け止める。
「氷室があるから、冷やして提供できるしね」
「はい、冷たさがいいですね」
「ま、万人受け、というところがポイントになればいい、か」
どちらに捉えられるか、が問題だとムームーもいう。
新作スイーツというからには、インパクトも重要だからだ。ただし、ロジーのそれを見た後ではこういった万人受けする、普通のスイーツも悪く無いと思える。むしろ、いい。
「結果がたのしみだ」
ロランの声にムームーも頷くのだった。
そして、ムームーの心は決まる。
●
ムームーが共作を希望し、優勝を勝ち取ったのはザレムのスイーツだった。
スライ博士からの講評は以下のものだった。
「スライムらしさを追求した、最上の食感。選ぶことが出来るという楽しさは、なによりのものだぞい。スライムの可能性も無限、スイーツの選択も無限!」
ちなみにもう一人の審査員、クリムはロジーのインパクトあるスイーツの前に……倒れた。
実作での果物を剣で捌くパフォーマンスは、拍手を受けたが、作品に関してはお察しである。
「あれだけはご主人様と食べに来れないであるな」
黒蜜は警戒心を露わにし、ロランはそっと目を伏せていた。
「いっそ全部の菓子を……」と提案しかけたザレムも、「気に入ったものは全部、店に置くのはどうでしょう」と変えていた。
「どうすれば、そんなスイーツが作れるでありますか?」
おそるおそるロジーとザレムに、クラヴィが問う。
帰ってきた答えは、
「楽しむ心ですわ」とロジー。
「経験と、自分の食欲の賜物かもな」
ザレムは笑みを浮かべ、答えるのだった。
●
グランスライ亭新作スイーツコンペティション優勝作品。
『スライドーム』が皆様をお待ちしております
王都に来訪の際は、是非お立ち寄りください♪
王都イルダーナ。
夏の風が、建物の隙間を通って行く。
この気温では、客の表情も芳しくない。
ムームーは、売り場から離れた厨房の一つを借りていた。
そこには、依頼に応じてくれたハンターたちが集う。
「はじめまして、僕が依頼をした……ムームーです」
ぺこりと頭を下げ、自己紹介をする。
「と、とりあえず、ご意見を一人づつ聞いていきたいと思います」
顔を上げるとたどたどしく、そう告げた。
すっと手を上げたのは、ロジー・ビィ(ka0296)だった。
「確認ですがコンセプトは、夏らしく、さらにスライムを思わせるスイーツ……ですわね?」
「そ、そうです」
「なかなか作りがいがありそうですわ。これは本気で挑まなければ」
力強いロジーの言葉に、ムームーは感心していた。実際の腕がどうかは、作ってみるまでわからないが出で立ちだけで作れそうに見えるから不思議だ。
「然し、スライムが好みとは随分変わってるね」
その隣でロラン・ラコート(ka0363)は苦笑する。
「魅力を教えてもらいたいような、そうでもないような感じだね」
「そうでありますか?」
疑問を呈したのは、クラヴィ・グレイディ(ka4687)。
うんと唸ってから、ロランたちに告げる。
「スライムを一目見たときから、美味しそうだなという考えを捨てきれなかったでありますが」
「んー」とロランはクラヴィの意見に考え込む。
「まさか、同じことを考える人がいるとは思っていなかったでありますよ……!」
「スライム自体を食べたいと思っているかは、わからないが」
グラヴィの後ろから、ザレム・アズール(ka0878)がそっと突っ込む。
そうでありますか、と小首を傾げるグラヴィにザレムは「しかし」と続ける。
「本物のスライムを食べるわけにはいかないが、あれは確かに涼やかな見た目だ」
「そういうものなのか」
ロランが呟く。実はスライムとはまだ、戦ったこともなければ出会ったこともない。どこに、そんなに興味を惹かれる魅力があるのか。ピンときていなかった。
伝え聞く限り、一般的に見た目もよくないと思うのだが……。
「えーと」
黒蜜(ka5411)がぐるりと考えをめぐらし、
「ぷるぷるしたお菓子を作れば良いのであるな!」
とシンプルな結論を見出した。
えぇ、とロジーが黒蜜の結論を受けて大いに頷く。
「……こういうときこそ、あたしの腕の見せどころでしてよっ!」
ぐっと拳を握り自信たっぷりの笑みを湛えるロジーを見ていると、やってくれそうな気がしてムームーは安心を覚えた。
「頼りに、してます」と念を押すムームーに任せてくださいましとロジーは応じる。
「ま、せっかくだし。いいモノを提供できるよう、善処するよ」
「精一杯頑張って、おいしくて素敵なスライム系スイーツを作るでありますよー!」
ロランやクラヴィもロジーに追随する。
ザレムは小さく、「俺もいろいろ食べたいな」と呟く。
どこかそわそわしていた黒蜜は、
「帰ったら、我輩のあるじ様にも作って召し上がっていただこう」と嬉しそうにいう。
それぞれの気合いと想いを胸に創作スイーツ作りが始まるのだった。
●
「……とはいったものの」
他の面子が作り始めたものを見ながら、クラヴィは思う。
「やはりあの外見から思いつくのは、ゼリー一択でありますよね」
「そうだな。俺はベーシックに、寒天を使って、スライムらしいぷるぷる感を出すことにしよう」
ロランもクラヴィの意見に同意する。全員、方向性は近しいらしく用意されたのはゼラチンもしくは天草である。
ちなみに、この材料の違いによって食感に少し違いが出る。だが、見た目ぷるぷるなのは変わらない。実にスライムらしいといえよう。
「やはり! ここは、インパクトでありますね!」
元気よく宣言するクラヴィの声に、ほんのり嫌な予感のするムームーであった。
クラヴィの声が聞こえた時、ムームーは黒蜜の発案を確認していた。
「我輩が徹夜して考えたスイーツ!」
誇らしげに掲げるスケッチブックには、巧みに描かれた図案が色鮮やかに躍る。
「一欠片に小さく切った果物を、透明な丸いゼリーにひとつひとつ閉じ込めるのだ」
「なるほど」
「その、ひとつひとつ閉じ込めたものを、深いワインレッド色のグレープジュースに浮かべる」
聞いている限りでは、夏らしい涼やかなデザートになりそうだ。
少しグレープが季節的にひっかかるが、近い色合いなら別の果物でも表現できそうでもある。
「えと、紅い色じゃないとダメなんでしょうか?」
ムームーの質問に、「当然なのだ」と黒蜜はぐっと力を入れる。
「このスイーツ。その名も『冷たき血の沼に沈む虹色の塊』、であるからな!」
一瞬、ムームーの目が点になった。
「え?」と思わず聞き返すが、
「『冷たき血の沼に沈む虹色の塊』である。名前も含めて、料理はインパクトも大事であるからな!」
ちょうど、このタイミングで先のクラヴィの発言が聞こえた。ムームーの心情は計り知れない。
ネーミングに難色を示すムームーに、黒蜜はぷんっと怒りを見せる。
「……ネームングが物騒であると? 失敬な。我輩のごしっくほらぁな美的センスを前に」
「怖いのは、ちょっと……。女性のお客様も、多いですし……」
好きな人も多そうだが、一般受けは難しそうだ。
「どうしてもというなら、『ブラッディ・サマー。ジュエル』とでも呼び習わしたまえ」
それなら、お洒落かなと思うムームーは、続いてクラヴィに呼ばれるのだった。
●
クラヴィのいっていた、インパクトを前にムームーは戦慄していた。
話を聞く限り、クラヴィの故郷で有名なゼリー系料理だという……が。
「えと、もう一度お願いします」
「まずはうなぎを茹でたものを、冷やして固めてー……え? なんでありますか」
「えーと、ダメです」
「だ、ダメでありますか!?」
言葉に詰まるムームーに、クラヴィは畳み掛けるようにいう。
「い、いえ! あれだってソースや胡椒をかければ、まだ食べられるでありますよ!?」
「う、うなぎが問題なのではなく」
そうクラヴィの述べていたのは、リアルブルーでいうところの「鰻のゼリー寄せ」である。
つまるところ、それは……。
「……あぁ……確かに、スイーツではないでありますね」
しょぼんと肩を落とすクラヴィのいうとおり、料理であってもスイーツではない。
いや、世の中にはスイーツだという方もいるかもしれないが。少なくとも、ムームーたちにとってはスイーツではないのだ。
少しの沈黙の後、「でも」とクラヴィは顔を上げる。
「何かを入れるというのは問題ないでありますよね?」
「え、はい。もちろん」
黒蜜の案でも果物を閉じ込める、という部分があった。
他の者達も似た発想はしていることだろう。
「後は、ソースを色々かけられるようにしてみる……という発想はどうでありますか?」
おずおずと聞いてくるクラヴィに、
「いいと想います」とムームーは返す。
一度失いかけた自信を取り戻し、クラヴィは想像を巡らせる。
「魚の形や星の形に切ったフルーツをゼリーの中に沈めて、何かを食べてるスライムにするとか」
「ふむふむ」
「無色透明のプルプルとした本体に、いろんなソースを選んでかけられるとか!」
「それは、面白そう」
「はい! 日本のスイーツで見た気がするであります!」
元気よく告げるクラヴィが見たというのは、「水信玄餅」のことである。
ただし、それ自体を作るのではない。イメージを借りるのだ。
「これなら見た目で楽しめるスライム系スイーツになるであります!」
「なるほど。じゃあ、もう少し具体的に詰めていきたいですね」
ムームーにいわれ、考えるであります、とクラヴィは再び試作に入る。
その場を離れ、ムームーは続いてザレムのところへ行く。
●
クラヴィが発案した、中に様々なものを閉じ込めたスイーツ。
その完成形に近いものを、ザレムが形造っていた。
「ほへ」
ムームーも思わず声を漏らしたのは、いくつかのゼリースイーツだった。
いいところにきた、とザレムはムームーを出迎えて説明する。
「スライドーム。見た目がスノードームに似ているから、そう名づけたんだ」
作り方は、まず透明なブランデーグラスを用意する。底にわずかに甘く白い、淡雪寒天の液を流し込んで土台を作る。
それからゼリーや小さい砂糖菓子、そしてフルーツを配置しながらゼリー液を流しこむのだ。
「どうかな?」
「工夫が目に見えていいですね」
ムームーも思わず感心する。
試作品として作られたのは、砂糖菓子の貝、金平糖の星を並べ、ブルーハワイで色付けしたゼリーを用いて海に見立てたもの。
金魚や緑葉を散らして渓流に見せたもの。そして、濃い目のブルーハワイ液を混ぜたゼリーに金箔を混ぜ、キラキラした夜空を表現。さらに、惑星代わりのフルーツや寒天菓子を浮かす。
「全て寒天でなく、液を変えるんですか」
「ゼリーの方がやわらかな食感に作れるからね」
本当は葛のぷる、ぷるちっとした食感を求めていた。だが、
「葛はすぐに白濁してしまうんだ」
「それだと、透明感は出ませんね」
「代わりに片栗粉を隠し素材に入れてる。スライムみたいにひっつく感触を口の中で楽しんで欲しいと思ってさ」
材料の特性を活かし、スライムらしさを追求する。
本物のスライムを学んできたムームーも思わず感嘆するほどだった。
「僕も協力しますっ!」
思わずムームーが身を乗り出した時、
「ちょっと来てくれます?」
ロジーの自信に満ちた声が聞こえてきた。
●
やはり見た目は涼しげ、食べても爽やか。
「そして、一番大切なのは食感ですわね」
やってきたムームーに、微小を浮かべながらロジーは語る。
「今まで色々な場所を旅してきましたわ。その中でも選りすぐりのスイーツを組み合わせて……」
組み合わせて、といわれたところでムームーは悪寒が走った。
何だろう、と首をひねっている間にロジーは作り上げたものを取り出す。
「こんなのは如何でしょう?」
「こ、これは……えと、何」
ムームーの素な反応に、わかりませんの、とロジーは唇をとがらせる。
「説明してあげますわ」とすぐに気を取り直して告げる。
炭酸飲料で作ったフルーツポンチのゼリーの中に、様々なものをいれたスイーツである。
丸く刳りぬいた果物、ここまではわかる。
水信玄餅、見た目も鮮やかで可愛い九龍球、ここまではまぁ、わかる。
いや、水信玄餅を入れる、という発想は若干ムームーは首をひねる。いや、和スイーツの分野を知っていればわかる範囲だろうか。
ちなみに九龍球とは、球状にフルーツを寒天で固めたものだ。
見目鮮やかのは、ロジーのいう通りで、フルーツポンチにも合う。
「あの、これは?」とムームーが指さしたのは極彩色の何かだった。
「あぁ、それはですね」
少しタメを作って、カッと目を見開いてロジーが宣言する。
「白玉ですわ!」
極彩色の白玉。もはや色の定義がわからない。
ちなみにここまでが、土台、である。
「は、はは」
これには柔和で温和で心優しいムームーも苦笑い。
直感があかん方向に、クリティカルヒットした結果、その上に緑茶で作った水まんじゅうがうず高く積み上げられ……いや、そびえ立っていた。
「そう! クロカンブッシュのようにしてみましたの」
すごい迫力である、まさに力技で迫ってくる感がある。
声をなくしているムームーにロジーは畳み掛けるようにいう。
「ほら……彩りも派手さも完璧でしてよ!」
「味は?」
「……でも、なにか物足りないですわね」
「あ、味は!?」
わざとなのか、集中して聞こえていないのか。
ロジーは深く思案する。そして、直感が走る。
「そうですわっ!」
「まだ、何か!?」
「さらに夏の花をフルーツポンチゼリーぶっさしてもう一声、彩りよく」
ムームーは乾いた笑いで答える。
「ついでに、点火済み花火で夏のアバンギャルドな感じ……は如何でしょう?」
「店内での火遊びは禁止です!」
さすがに最後の提案にはムームーも力強く、ノーを突きつける。
成長した姿が、そこにあった。
「……本番も、頑張って、クダサイ」
まだ何か言いたりなさそうなロジーに、静かに告げてムームーは後ずさる。
ちょうどよく、最後のロランのスイーツもできたところだった。
●
ロランが作り上げたのは、ベーシックにスライムらしいスイーツだった。
「これは、いいですね」
ロジーのスイーツを目撃した後だと、どんなものでもよく見えるらしい。
いや食べてみたら、評価も変わるかもしれないが。
「状態的にはクラッシュさせたゼリー、飲んでも食べてもいい一品に仕上げてみた」
基調色はブルーハワイ等で色付けした、青。その中に食紅や黄色の着色料を用いて作った星形ゼリーが隠れ見える作りだ。
見た目もシンプル、イズ、ベストを体現していた。
「味は……」と恐れることなく、ムームーはさじを伸ばす。
「サイダーで作ってるから、爽やかさをプラスってところかね」
「悪く無いと思います」
「そういってくれると、嬉しいね」
ムームーの言葉を素直に、受け止める。
「氷室があるから、冷やして提供できるしね」
「はい、冷たさがいいですね」
「ま、万人受け、というところがポイントになればいい、か」
どちらに捉えられるか、が問題だとムームーもいう。
新作スイーツというからには、インパクトも重要だからだ。ただし、ロジーのそれを見た後ではこういった万人受けする、普通のスイーツも悪く無いと思える。むしろ、いい。
「結果がたのしみだ」
ロランの声にムームーも頷くのだった。
そして、ムームーの心は決まる。
●
ムームーが共作を希望し、優勝を勝ち取ったのはザレムのスイーツだった。
スライ博士からの講評は以下のものだった。
「スライムらしさを追求した、最上の食感。選ぶことが出来るという楽しさは、なによりのものだぞい。スライムの可能性も無限、スイーツの選択も無限!」
ちなみにもう一人の審査員、クリムはロジーのインパクトあるスイーツの前に……倒れた。
実作での果物を剣で捌くパフォーマンスは、拍手を受けたが、作品に関してはお察しである。
「あれだけはご主人様と食べに来れないであるな」
黒蜜は警戒心を露わにし、ロランはそっと目を伏せていた。
「いっそ全部の菓子を……」と提案しかけたザレムも、「気に入ったものは全部、店に置くのはどうでしょう」と変えていた。
「どうすれば、そんなスイーツが作れるでありますか?」
おそるおそるロジーとザレムに、クラヴィが問う。
帰ってきた答えは、
「楽しむ心ですわ」とロジー。
「経験と、自分の食欲の賜物かもな」
ザレムは笑みを浮かべ、答えるのだった。
●
グランスライ亭新作スイーツコンペティション優勝作品。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/20 01:52:48 |