ゲスト
(ka0000)
リリムのどきどきサマーキャンプ!
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/22 22:00
- 完成日
- 2015/08/31 02:41
このシナリオは1日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
リリム・マリエッタは14歳。恋するお年頃。
今日もリリムはお下げの髪の毛と、ふわふわのスカートを風になびかせてヴァリオスの町を行く。首には、魔術学院の生徒であることを示すシンボルが縫いつけられたスカーフ。そう、リリムは学院に通う、魔法使い見習いなのだ。
リリムの恋のお相手は、同じく魔術学院に通う2歳年上の優等生ニコラ。春にはハンターたちの助けを借りて、ニコラとのお茶会を実現させ、ようやく「まずはお友達から」の関係になったリリム。
この夏にはニコラとの距離をもう一歩縮めようと、張り切っていた。
「ねぇ、ニコラ、せっかくの夏なんだし、一緒にどこかお出かけに行かない?」
思い切って切り出してみると、ニコラは爽やかな笑顔を浮かべてうなずいた。
「なるほど、いいアイディアだね! 僕は、山に行きたいな!」
思いがけない好反応に、リリムの表情が輝く。
「……山? えっと、ピクニックかな」
リリムが尋ねると、ニコラは笑顔のまま首を横に振る。
「ううん、昆虫採集だよ」
「……昆虫採集?」
「ほら、この間薬草学の授業で習った、滋養強壮の薬の調合、あれを試してみたくてね。ヒカリガの鱗粉を採取しようと思うんだ」
「ヒカリガ……えっと確か、夜に光る蛾のなかま、だったっけ?」
「うん! 成虫が出るのは夏だけだし、夜に山に行けるのなんて今だけじゃないか。だから、山でキャンプをして採集しようと思ってたんだ」
無邪気な笑顔のニコラに、リリムは複雑な表情を浮かべる。
(昆虫採集、って全然ロマンチックじゃないわ……でも)
「一人じゃ心細かったんだ。一緒に行けたらうれしいなぁ」
「そ、そんな……」
ニコラの何気ないひと言が、リリムのハートを射貫いた。
(考えてみたら、昆虫採集はともかく、夜の山でニコラと一緒だなんてロマンチックじゃない! きっときれいな星空も見えるし。それに……一緒にテントで、一夜を明かすだなんて……きゃー!)
なんだかんだと想像して、一人で興奮するリリム。
「だけど、夜の森には野獣も出るかもしれないから、さすがに僕らだけで行くのは危険だね。ハンターの人たちにお願いして、護衛をしてもらおうか」
「そそそ、そうね、それがいいわ」
ニコラの言葉に、リリムが顔を真っ赤にしてうなずく。
(そうよね、さすがにニコラと二人っきりってわけじゃないわよね。ちょっとほっとしたような、残念なような……。でも、これってもしかしたらチャンスだわ。またハンターたちに協力して貰って、今度こそニコラに、告白をするのよ!)
心の中でひそかに決意を固め、リリムはニコラに向き直った。
「ハンターへの依頼は、あたしからしておくね! ニコラとのキャンプ、楽しみにしてる!」
今日もリリムはお下げの髪の毛と、ふわふわのスカートを風になびかせてヴァリオスの町を行く。首には、魔術学院の生徒であることを示すシンボルが縫いつけられたスカーフ。そう、リリムは学院に通う、魔法使い見習いなのだ。
リリムの恋のお相手は、同じく魔術学院に通う2歳年上の優等生ニコラ。春にはハンターたちの助けを借りて、ニコラとのお茶会を実現させ、ようやく「まずはお友達から」の関係になったリリム。
この夏にはニコラとの距離をもう一歩縮めようと、張り切っていた。
「ねぇ、ニコラ、せっかくの夏なんだし、一緒にどこかお出かけに行かない?」
思い切って切り出してみると、ニコラは爽やかな笑顔を浮かべてうなずいた。
「なるほど、いいアイディアだね! 僕は、山に行きたいな!」
思いがけない好反応に、リリムの表情が輝く。
「……山? えっと、ピクニックかな」
リリムが尋ねると、ニコラは笑顔のまま首を横に振る。
「ううん、昆虫採集だよ」
「……昆虫採集?」
「ほら、この間薬草学の授業で習った、滋養強壮の薬の調合、あれを試してみたくてね。ヒカリガの鱗粉を採取しようと思うんだ」
「ヒカリガ……えっと確か、夜に光る蛾のなかま、だったっけ?」
「うん! 成虫が出るのは夏だけだし、夜に山に行けるのなんて今だけじゃないか。だから、山でキャンプをして採集しようと思ってたんだ」
無邪気な笑顔のニコラに、リリムは複雑な表情を浮かべる。
(昆虫採集、って全然ロマンチックじゃないわ……でも)
「一人じゃ心細かったんだ。一緒に行けたらうれしいなぁ」
「そ、そんな……」
ニコラの何気ないひと言が、リリムのハートを射貫いた。
(考えてみたら、昆虫採集はともかく、夜の山でニコラと一緒だなんてロマンチックじゃない! きっときれいな星空も見えるし。それに……一緒にテントで、一夜を明かすだなんて……きゃー!)
なんだかんだと想像して、一人で興奮するリリム。
「だけど、夜の森には野獣も出るかもしれないから、さすがに僕らだけで行くのは危険だね。ハンターの人たちにお願いして、護衛をしてもらおうか」
「そそそ、そうね、それがいいわ」
ニコラの言葉に、リリムが顔を真っ赤にしてうなずく。
(そうよね、さすがにニコラと二人っきりってわけじゃないわよね。ちょっとほっとしたような、残念なような……。でも、これってもしかしたらチャンスだわ。またハンターたちに協力して貰って、今度こそニコラに、告白をするのよ!)
心の中でひそかに決意を固め、リリムはニコラに向き直った。
「ハンターへの依頼は、あたしからしておくね! ニコラとのキャンプ、楽しみにしてる!」
リプレイ本文
●
まだまだ暑いこの時期。けれど早朝の、深い木々におおわれた山は意外と涼しい。
魔術学院の生徒、リリムとニコラ、それに5人のハンターたちは、山道を歩いていた。山と言ってもヴァリオスの町にほど近い、小さな里山だ。それぞれが大きな荷物を背負いながらも、その足取りは軽い。
「リリムちゃん、はるなのこと、覚えてるぅ?」
木々の間を歩きながら、親しげにリリムに話しかけたのは、はるな(ka3307)だ。以前の依頼で、リリムとニコラがお友達になるのを助けた、リリムの恩人の一人でもある。
「もちろんですよ! 今回もありがとうございます。」
リリムが答えると、はるなはリリムの耳元に口を寄せて、
「ニコラちゃんとはアレ以来、進展はどーなの?」
と、先頭を歩くニコラをちらちらとながめながら、耳打ちする。
「し、進展って……」
リリムは瞬間的に顔を真っ赤にして口ごもる。口ごもりつつも、口元のゆるみを隠せないその様子を見ると、ニコラとの関係はそう悪くはないらしい。
「おぉ~なかなかいいんじゃないのぉ?」
はるながにやにや笑いながらリリムの顔をのぞき込むと、リリムの顔がさらに赤くなる。
「……微笑ましくて、応援したくなるな」
少し離れたところからリリムたちをながめながら、唇の端を歪めてつぶやいたのはザレム・アズール(ka0878)だ。いつも殺伐とした日々を送る彼にとって、若者たちのほのぼのとした恋愛にはとても安らぎを覚える。
「かわいらしいお嬢さんですね」
くすり、と笑いながら同意したのは、ユーリカ・エウレーナ(ka2611)。
「こういったことには殿方のほうが疎いと言いますけれど……どんな結果になるとしても、応援をしてあげたいですね」
そう言いながら、列の先頭に目をやって上品な笑みを浮かべる。
そのユーリカの視線の先にいたニコラは、隣を歩く沖本 権三郎(ka2483)と昆虫採集談義に花を咲かせている。
「かっはっは! 虫取りたぁ、よい趣味してんじゃねぇか! おし、おっさんが手伝ってやろう。こう見えてもおっさん、自分の畑をもってたんだぜ? ま、もうねえがな!」
「畑ですか? すごいですね! いったいどんな虫が……」
「それはだなぁ……」
楽しそうに話に乗ってくるニコラに気をよくして、権三郎の語りにも熱がこもる。
そしてハンターの最後の一人、みんなから一歩遅れつつ、後ろから今回のメンバーをながめて独り言をつぶやいているのは、エルバッハ・リオン(ka2434)。会って早々、リリムとニコラの二人に「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」と丁寧に挨拶して以来、少し離れて彼らを見守っている。
「さて、今回の依頼は二人の護衛と昆虫採集の手伝い、そして、リリムさんの告白の手伝いですか……」
ふむ、とそこで言葉を切り、ちょっと首をかしげたあと、
「告白の手伝いは私には無理ですね。男性側の悪事を暴いて結婚を妨害するとか、二人の仲を邪魔する人たちを阻止するといった依頼の経験はありますが、告白の手伝いをした経験はありませんし」
腕を組み、ひとりでうんうん、とうなずく。
「というわけで、ふたりの護衛と昆虫採集の手伝いに専念しましょう」
●
しばらくして。
一行は山の中の野営ポイントにたどり着いていた。
ザレムとエルを中心に、あっという間に男女別のテントが設置され、野営の準備が整っていく。
「それは、何をしているの?」
リリムが、テントの周囲でなにやら作業をしているはるなに声をかけた。
「あーこれはぁ……えっとぉ……鳴子、とかいうやつ~」
はるなは、はなはだ頼りない言葉づかいとはうらはらに、てきぱきした動作で鳴子――ロープに鈴をつけたしかけ――を木の下部にくくりつけている。
「野獣が近づいてきたら、これに引っかかって音が鳴るからぁ、先に気がつくことができるってわけ~」
「なるほど!」
ゆるいしゃべり方に似合わず、実はわりとしっかりしているはるなに、リリムが感心した声を上げた。
「私は、テントの周囲に危険な場所やもの、生きものがいないか、見てきますね」
エルがそう言って見回りを開始する。
「ニコラの坊ちゃんよ、ヒカリガの詳しい情報をくれ。相手を知り、己を知れば、百戦危うからず、ってやつだ」
「ああ、そうだな色形や生態を聞いて、採取のための作戦を立てよう」
権三郎とザレムが、ニコラとともに作戦会議をはじめ、あっという間に「ヒカリガ採集セット」をくみ上げる。光に集まるというヒカリガのために、白い布とLEDライトを組みあわせたセットを木の下にくくりつけた代物だ。
「あとは、夜を待つばかりですね!」
ニコラがうれしそうに言う。
「では今のうちにお二人には、薪拾いなどをお願いしてもよいかしら? 夜は交代制で火を絶やさないようにしないといけませんから」
そう提案したのはユーリカだ。二人で一緒に作業をすることによって絆が深まるのでは、という彼女なりの計らいだ。
「わ、わかりました!」
手持ちぶさただったところにやるべきことを伝えられ、リリムがうれしそうにうなずく。ニコラもはりきって歩き出す。
歩きづらい山道を進むため、ニコラがリリムにそっと手を差し出して、リリムがうれしそうにその手を取る、という微笑ましい一幕があったり。
実は、二人に危険がいかないよう、ユーリカが拳銃とナイフを忍ばせて、周囲を警戒しながらあとを追いかけているのだが、もちろん二人は気づいていない。
「はっ! てやーっ!」
「はっ、まだまだぁっ!」
二本の竹刀がぶつかり合う高い音が響き渡る。
薪拾いから無事にもどってきたニコラは、リリムが見守る中、権三郎と剣を合わせていた。昆虫採集の準備が整い、日が暮れるのを待つばかりのニコラを、権三郎が誘ったのだ。ハンターに憧れ、ゆくゆくはハンターになりたいと思っているニコラは、本物のハンターと手合わせができる機会に目を輝かせた。
実は、少しだけ剣の心得があるニコラだったが、歴戦のハンターに勝てるわけもない。とにかくがむしゃらに打ち込んでいっては権三郎にいなされることがつづく。それでもニコラは、あきらめない。
「たあああっ!」
「……お前さんは何を望み、力を手にしたい?」
権三郎が、ニコラの太刀を受け止めながら、彼に問いかける。
「やあーっ!」
「……お前さんは、何を守り、道を行く?」
「はっ!」
「……答えはなくても、忘れちゃならねぇ。それが、力を手にするものの、責任だぁ!」
言葉とともに権三郎が放った一撃が、受け止めた竹刀もろとも、ニコラの体をはじき飛ばした。
「ニコラ!」
リリムが駆け寄り、ニコラの肩を抱いて助け起こす。
「あちゃー、やり過ぎたかね」
そう言いながらも悪びれることなく、権三郎がニコラを見下ろす。
「……ありがとうございました!」
ニコラの意志に満ちた言葉。権三郎の思いは、伝わったようだ。
●
夜。
すっかりあたりは暗くなり、煌々と燃え上がる焚火と、LEDライトに照らされた布が、闇の中に明るく浮き上がっていた。
「お夜食が焼き上がりましたよ」
ユーリカが堅焼きパンにツナ缶やナッツを乗せて、焚火で焼いた香ばしい料理をふるまう。ニコラとリリム、それに権三郎がそれを食べながらヒカリガのしかけをじっと見張っている。
焚火は獣よけになるが、食べものの香りが獣をおびき寄せてしまうこともある。ザレムとエル、それにはるなの三人は、獣を警戒して周囲を見張っていた。
「うーん、さすがにこんなにいい香りがしていると、野獣が集まるのは避けられないな」
「それほど凶暴な生きものがいないのが、せめてもの幸いですね。眠らせたり追い払ったりするだけでなんとかなっていますから」
「フツーの動物は、なるべく怪我させたくないしぃ」
のんきにそんなことを話しながら、三人で着実にシカやらイノシシやらを追い払っている。はるなが設置した鳴子の効果もあって、一頭たりともリリムたちに近づかせはしない。
そして、こうしたハンターたちの影の努力の成果もあって、ニコラとリリムが見守るしかけには、ついに目当ての虫が、集まりはじめていた。
「おお! 野郎共! 昆虫採取の時間だぜ! 近づくのはそっと、意を決してからは大胆に取れ! たまにゃ、おっさんの良いところも見せてやんよぉ!」
興奮気味に叫ぶ権三郎が、布に飛び込んできたヒカリガを片っ端から網に入れていく。それに習って、ニコラも確実に採集をしていく。リリムは一歩下がりながら、二人の様子を見守っている。
あっという間に、必要な数の二倍以上のヒカリガが、持参した網の中におさまった。
「よーし、大量大量!」
「ええ、これで十分ですね。ありがとうございました!」
満足げに権三郎がつぶやき、ニコラもうれしそうにうなずいた。
「俺たちじゃなくて、自然に対して礼を言うのを忘れんじゃねぇぞ? 自然がなけりゃ、お望みのもんは手に入らなかったんだからな」
権三郎が真剣な表情で言う。ニコラとリリムはそれにうなずき、ヒカリガを提供してくれた森にむけて、感謝の言葉を捧げた。
「さて、これからなんだけど~。まだ、テントで寝ちゃうのはもったいないよねぇ」
はるなが、リリムのほうをちらっと見て目配せをする。
「今日はたいそう星が美しいようですね。星座などは、わたくしにはまだわかりませんけれども。美しいものは、ただ見つめるだけでも心が洗われますわね……」
ユーリカがそう言いながら、ニコラとリリムに視線をやる。
「お二人で、散歩でもしてきてはいかがですか?」
「えっ、でも……」
戸惑うニコラに、にっこりと笑いかけたのはザレムだ。
そういえば向こうの小川のほうに、ヒカリガのさなぎを見つけたんだ。もしかしたら、羽化が見られるかもしれないよ?」
「行きます!」
闇の中にひびく、せせらぎの音。空を見上げれば一面の星空で、ニコラとリリムは思わず息をのんで空に見入っていた。
実はここは、はるなが昼のうちに下見をして、リリムにこっそりと教えていた「ロマンチックスポット」だ。木が少なくて星がよく見え、そして軽やかなせせらぎの音。はるなが灯代わりに飛ばしてくれたリトルファイアの火球にかこまれて、幻想的なムードを醸し出している。
「あのね、ニコラ……あたし……わわっ!」
星空を見上げながら、興奮気味にニコラに話しかけようとしたリリムが、川辺の石につまづいて転びそうになる。
「リリム!」
ニコラが、とっさにリリムを受け止め――ようとして、一緒になって地面に転がる。長い草が生えたところに転がったのと、うまく受け身を取ったのとで、二人に怪我はない。――まるであのときの。二人が、初めて会ったときのような光景。
「に、ニコラ……」
リリムが荒い息を吐く。地面に転がって、おたがいにぎゅっと抱き合ったような格好。リリムの鼓動が、どくん、と高鳴る。
「……あ、これ!」
不意にニコラが声を上げた。リリムから身を離して起き上がり、リリムの足下を指さしていた。
「……さなぎ?」
そこに、ヒカリガのさなぎがあった。月明かりに照らされて、黄緑色に光る親指ほどの大きさのさなぎ。背中の部分に亀裂が入り、今まさに羽化するところだった。
「きれい……」
ニコラが離れてしまったことを残念に思いつつ身を起こしたリリムだったが、さなぎを見て思わず声を漏らした。
二人の目の前で、ほのかに光る羽をもった美しい蛾が、さなぎから外へ、生まれ出る。それは、生命の神秘だった。
「すごい、僕、はじめて見たよ!」
興奮気味にさなぎに見入るニコラ。その横顔を見つめるリリム。
(ニコラは、あたしじゃなくて、さなぎに夢中だわ。だけど……なにかに夢中なニコラの姿は、すごく素敵)
目を輝かせたニコラの横顔を見つめながら、リリムは満足そうに笑った。
(今は――このままでもいいかな。この横顔を、見つめられるなら)
「ほら見て、飛んだ!」
ニコラが無邪気な叫び声を上げた。
「あ、リリム、そういえば何かを言いかけてた?」
ニコラの言葉に、リリムは笑って首を横にふった。
「ううん、いいの。ねぇニコラ、来年もまたいっしょに、ここに来られるかしら」
「うん、そうできたらいいな」
ニコラの素直な答えに、リリムは満足して空を見上げた。
羽化したばかりのヒカリガが、まだぎこちない飛び方で、ニコラとリリムの目の前をひらり、ひらりと舞う。
それは頼りなくも美しい。まるで若い二人の現在を、象徴しているかのようだった。
まだまだ暑いこの時期。けれど早朝の、深い木々におおわれた山は意外と涼しい。
魔術学院の生徒、リリムとニコラ、それに5人のハンターたちは、山道を歩いていた。山と言ってもヴァリオスの町にほど近い、小さな里山だ。それぞれが大きな荷物を背負いながらも、その足取りは軽い。
「リリムちゃん、はるなのこと、覚えてるぅ?」
木々の間を歩きながら、親しげにリリムに話しかけたのは、はるな(ka3307)だ。以前の依頼で、リリムとニコラがお友達になるのを助けた、リリムの恩人の一人でもある。
「もちろんですよ! 今回もありがとうございます。」
リリムが答えると、はるなはリリムの耳元に口を寄せて、
「ニコラちゃんとはアレ以来、進展はどーなの?」
と、先頭を歩くニコラをちらちらとながめながら、耳打ちする。
「し、進展って……」
リリムは瞬間的に顔を真っ赤にして口ごもる。口ごもりつつも、口元のゆるみを隠せないその様子を見ると、ニコラとの関係はそう悪くはないらしい。
「おぉ~なかなかいいんじゃないのぉ?」
はるながにやにや笑いながらリリムの顔をのぞき込むと、リリムの顔がさらに赤くなる。
「……微笑ましくて、応援したくなるな」
少し離れたところからリリムたちをながめながら、唇の端を歪めてつぶやいたのはザレム・アズール(ka0878)だ。いつも殺伐とした日々を送る彼にとって、若者たちのほのぼのとした恋愛にはとても安らぎを覚える。
「かわいらしいお嬢さんですね」
くすり、と笑いながら同意したのは、ユーリカ・エウレーナ(ka2611)。
「こういったことには殿方のほうが疎いと言いますけれど……どんな結果になるとしても、応援をしてあげたいですね」
そう言いながら、列の先頭に目をやって上品な笑みを浮かべる。
そのユーリカの視線の先にいたニコラは、隣を歩く沖本 権三郎(ka2483)と昆虫採集談義に花を咲かせている。
「かっはっは! 虫取りたぁ、よい趣味してんじゃねぇか! おし、おっさんが手伝ってやろう。こう見えてもおっさん、自分の畑をもってたんだぜ? ま、もうねえがな!」
「畑ですか? すごいですね! いったいどんな虫が……」
「それはだなぁ……」
楽しそうに話に乗ってくるニコラに気をよくして、権三郎の語りにも熱がこもる。
そしてハンターの最後の一人、みんなから一歩遅れつつ、後ろから今回のメンバーをながめて独り言をつぶやいているのは、エルバッハ・リオン(ka2434)。会って早々、リリムとニコラの二人に「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」と丁寧に挨拶して以来、少し離れて彼らを見守っている。
「さて、今回の依頼は二人の護衛と昆虫採集の手伝い、そして、リリムさんの告白の手伝いですか……」
ふむ、とそこで言葉を切り、ちょっと首をかしげたあと、
「告白の手伝いは私には無理ですね。男性側の悪事を暴いて結婚を妨害するとか、二人の仲を邪魔する人たちを阻止するといった依頼の経験はありますが、告白の手伝いをした経験はありませんし」
腕を組み、ひとりでうんうん、とうなずく。
「というわけで、ふたりの護衛と昆虫採集の手伝いに専念しましょう」
●
しばらくして。
一行は山の中の野営ポイントにたどり着いていた。
ザレムとエルを中心に、あっという間に男女別のテントが設置され、野営の準備が整っていく。
「それは、何をしているの?」
リリムが、テントの周囲でなにやら作業をしているはるなに声をかけた。
「あーこれはぁ……えっとぉ……鳴子、とかいうやつ~」
はるなは、はなはだ頼りない言葉づかいとはうらはらに、てきぱきした動作で鳴子――ロープに鈴をつけたしかけ――を木の下部にくくりつけている。
「野獣が近づいてきたら、これに引っかかって音が鳴るからぁ、先に気がつくことができるってわけ~」
「なるほど!」
ゆるいしゃべり方に似合わず、実はわりとしっかりしているはるなに、リリムが感心した声を上げた。
「私は、テントの周囲に危険な場所やもの、生きものがいないか、見てきますね」
エルがそう言って見回りを開始する。
「ニコラの坊ちゃんよ、ヒカリガの詳しい情報をくれ。相手を知り、己を知れば、百戦危うからず、ってやつだ」
「ああ、そうだな色形や生態を聞いて、採取のための作戦を立てよう」
権三郎とザレムが、ニコラとともに作戦会議をはじめ、あっという間に「ヒカリガ採集セット」をくみ上げる。光に集まるというヒカリガのために、白い布とLEDライトを組みあわせたセットを木の下にくくりつけた代物だ。
「あとは、夜を待つばかりですね!」
ニコラがうれしそうに言う。
「では今のうちにお二人には、薪拾いなどをお願いしてもよいかしら? 夜は交代制で火を絶やさないようにしないといけませんから」
そう提案したのはユーリカだ。二人で一緒に作業をすることによって絆が深まるのでは、という彼女なりの計らいだ。
「わ、わかりました!」
手持ちぶさただったところにやるべきことを伝えられ、リリムがうれしそうにうなずく。ニコラもはりきって歩き出す。
歩きづらい山道を進むため、ニコラがリリムにそっと手を差し出して、リリムがうれしそうにその手を取る、という微笑ましい一幕があったり。
実は、二人に危険がいかないよう、ユーリカが拳銃とナイフを忍ばせて、周囲を警戒しながらあとを追いかけているのだが、もちろん二人は気づいていない。
「はっ! てやーっ!」
「はっ、まだまだぁっ!」
二本の竹刀がぶつかり合う高い音が響き渡る。
薪拾いから無事にもどってきたニコラは、リリムが見守る中、権三郎と剣を合わせていた。昆虫採集の準備が整い、日が暮れるのを待つばかりのニコラを、権三郎が誘ったのだ。ハンターに憧れ、ゆくゆくはハンターになりたいと思っているニコラは、本物のハンターと手合わせができる機会に目を輝かせた。
実は、少しだけ剣の心得があるニコラだったが、歴戦のハンターに勝てるわけもない。とにかくがむしゃらに打ち込んでいっては権三郎にいなされることがつづく。それでもニコラは、あきらめない。
「たあああっ!」
「……お前さんは何を望み、力を手にしたい?」
権三郎が、ニコラの太刀を受け止めながら、彼に問いかける。
「やあーっ!」
「……お前さんは、何を守り、道を行く?」
「はっ!」
「……答えはなくても、忘れちゃならねぇ。それが、力を手にするものの、責任だぁ!」
言葉とともに権三郎が放った一撃が、受け止めた竹刀もろとも、ニコラの体をはじき飛ばした。
「ニコラ!」
リリムが駆け寄り、ニコラの肩を抱いて助け起こす。
「あちゃー、やり過ぎたかね」
そう言いながらも悪びれることなく、権三郎がニコラを見下ろす。
「……ありがとうございました!」
ニコラの意志に満ちた言葉。権三郎の思いは、伝わったようだ。
●
夜。
すっかりあたりは暗くなり、煌々と燃え上がる焚火と、LEDライトに照らされた布が、闇の中に明るく浮き上がっていた。
「お夜食が焼き上がりましたよ」
ユーリカが堅焼きパンにツナ缶やナッツを乗せて、焚火で焼いた香ばしい料理をふるまう。ニコラとリリム、それに権三郎がそれを食べながらヒカリガのしかけをじっと見張っている。
焚火は獣よけになるが、食べものの香りが獣をおびき寄せてしまうこともある。ザレムとエル、それにはるなの三人は、獣を警戒して周囲を見張っていた。
「うーん、さすがにこんなにいい香りがしていると、野獣が集まるのは避けられないな」
「それほど凶暴な生きものがいないのが、せめてもの幸いですね。眠らせたり追い払ったりするだけでなんとかなっていますから」
「フツーの動物は、なるべく怪我させたくないしぃ」
のんきにそんなことを話しながら、三人で着実にシカやらイノシシやらを追い払っている。はるなが設置した鳴子の効果もあって、一頭たりともリリムたちに近づかせはしない。
そして、こうしたハンターたちの影の努力の成果もあって、ニコラとリリムが見守るしかけには、ついに目当ての虫が、集まりはじめていた。
「おお! 野郎共! 昆虫採取の時間だぜ! 近づくのはそっと、意を決してからは大胆に取れ! たまにゃ、おっさんの良いところも見せてやんよぉ!」
興奮気味に叫ぶ権三郎が、布に飛び込んできたヒカリガを片っ端から網に入れていく。それに習って、ニコラも確実に採集をしていく。リリムは一歩下がりながら、二人の様子を見守っている。
あっという間に、必要な数の二倍以上のヒカリガが、持参した網の中におさまった。
「よーし、大量大量!」
「ええ、これで十分ですね。ありがとうございました!」
満足げに権三郎がつぶやき、ニコラもうれしそうにうなずいた。
「俺たちじゃなくて、自然に対して礼を言うのを忘れんじゃねぇぞ? 自然がなけりゃ、お望みのもんは手に入らなかったんだからな」
権三郎が真剣な表情で言う。ニコラとリリムはそれにうなずき、ヒカリガを提供してくれた森にむけて、感謝の言葉を捧げた。
「さて、これからなんだけど~。まだ、テントで寝ちゃうのはもったいないよねぇ」
はるなが、リリムのほうをちらっと見て目配せをする。
「今日はたいそう星が美しいようですね。星座などは、わたくしにはまだわかりませんけれども。美しいものは、ただ見つめるだけでも心が洗われますわね……」
ユーリカがそう言いながら、ニコラとリリムに視線をやる。
「お二人で、散歩でもしてきてはいかがですか?」
「えっ、でも……」
戸惑うニコラに、にっこりと笑いかけたのはザレムだ。
そういえば向こうの小川のほうに、ヒカリガのさなぎを見つけたんだ。もしかしたら、羽化が見られるかもしれないよ?」
「行きます!」
闇の中にひびく、せせらぎの音。空を見上げれば一面の星空で、ニコラとリリムは思わず息をのんで空に見入っていた。
実はここは、はるなが昼のうちに下見をして、リリムにこっそりと教えていた「ロマンチックスポット」だ。木が少なくて星がよく見え、そして軽やかなせせらぎの音。はるなが灯代わりに飛ばしてくれたリトルファイアの火球にかこまれて、幻想的なムードを醸し出している。
「あのね、ニコラ……あたし……わわっ!」
星空を見上げながら、興奮気味にニコラに話しかけようとしたリリムが、川辺の石につまづいて転びそうになる。
「リリム!」
ニコラが、とっさにリリムを受け止め――ようとして、一緒になって地面に転がる。長い草が生えたところに転がったのと、うまく受け身を取ったのとで、二人に怪我はない。――まるであのときの。二人が、初めて会ったときのような光景。
「に、ニコラ……」
リリムが荒い息を吐く。地面に転がって、おたがいにぎゅっと抱き合ったような格好。リリムの鼓動が、どくん、と高鳴る。
「……あ、これ!」
不意にニコラが声を上げた。リリムから身を離して起き上がり、リリムの足下を指さしていた。
「……さなぎ?」
そこに、ヒカリガのさなぎがあった。月明かりに照らされて、黄緑色に光る親指ほどの大きさのさなぎ。背中の部分に亀裂が入り、今まさに羽化するところだった。
「きれい……」
ニコラが離れてしまったことを残念に思いつつ身を起こしたリリムだったが、さなぎを見て思わず声を漏らした。
二人の目の前で、ほのかに光る羽をもった美しい蛾が、さなぎから外へ、生まれ出る。それは、生命の神秘だった。
「すごい、僕、はじめて見たよ!」
興奮気味にさなぎに見入るニコラ。その横顔を見つめるリリム。
(ニコラは、あたしじゃなくて、さなぎに夢中だわ。だけど……なにかに夢中なニコラの姿は、すごく素敵)
目を輝かせたニコラの横顔を見つめながら、リリムは満足そうに笑った。
(今は――このままでもいいかな。この横顔を、見つめられるなら)
「ほら見て、飛んだ!」
ニコラが無邪気な叫び声を上げた。
「あ、リリム、そういえば何かを言いかけてた?」
ニコラの言葉に、リリムは笑って首を横にふった。
「ううん、いいの。ねぇニコラ、来年もまたいっしょに、ここに来られるかしら」
「うん、そうできたらいいな」
ニコラの素直な答えに、リリムは満足して空を見上げた。
羽化したばかりのヒカリガが、まだぎこちない飛び方で、ニコラとリリムの目の前をひらり、ひらりと舞う。
それは頼りなくも美しい。まるで若い二人の現在を、象徴しているかのようだった。
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恋の手伝いをしよう(キャンプ編 ザレム・アズール(ka0878) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/08/20 23:26:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/22 16:13:21 |