ゲスト
(ka0000)
飛行機コンテスト
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/23 19:00
- 完成日
- 2015/08/29 03:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「飛行機?」
それはなんですのと、セレーネ・リコお嬢様が小首をかしげました。
なんでも、鳥のように空を飛べる機械だそうです。
リアルブルーでは一般的な物のようですが、クリムゾンウェストでは、ほとんど知られていなかった物です。
「ええ。その乗り物を飛ばすコンテストを開催したいのです」
目をキラキラさせて、モード氏が詳しい説明をしました。なんでも、サルヴァトーレ・ロッソにいる友人から飛行機という物の話を聞いたそうです。新し物・珍し物好きの芸術家としては、とても興味をそそられて、自分も手に入れたいと思ったようです。
とはいえ、現在のクリムゾンウェストでは、一般人が飛行機と呼べる物を手に入れる方法はありません。なら作ってしまえばいいという安直な発想になったようです。
リアルブルー出身のハンターの協力を得れば簡単だと企画者のモード氏は言っていますが、設計から材料から実際の制作まで、何から何まで、そんなに簡単に揃うとは思えません。当然制作キットや部品の製造ラインなどもありませんから、すべてハンドメイドになります。だいたいにして、そんなに簡単に作れるものであれば、すでにそこら中を飛んでいるはずです。
「技術者を集めるにも、資金を集めるにも、まずは知ってもらわなければ。それには、宣伝が大事ですよ。そのための大会です。最終的に運用できるようになれば、商業的な恩恵は計り知れないでしょう。どうです、スポンサーとして御協力願えませんか?」
さすがは同盟です。まずは、商業的な価値があるかどうかで話が進みます。
「もちろん、乗りますわ!」
商機は逃しません。さっそく、お嬢様の商店が、スポンサーとなりました。他にも、幾人かの商人の協賛を得られたようです。
さて、とはいえ、さあ飛行機を飛ばしましょうと言って、簡単にジェット戦闘機が出てくるわけでも、巨大輸送機が登場するわけでもありません。
クリムゾンウェストのハンターにはノウハウがありませんし、リアルブルーのハンターには最新鋭機に使える資材がありません。これでは、まだ、飛ぶ以前の話です。
そのため、まずは、飛行機というテーマで、人間が飛んでみるところから始めることとなりました。
会場となるヴァリオスの浜辺には、沖に巨大な櫓が組まれていました。ここから飛行機で発進すると言えば聞こえはいいですが、実際には馬鹿でかい飛び込み台です。
特に、今回は話題作りがメインとなるので、実際に飛ぶ飛行機が出る必要はありません。むしろ、完成された飛行機が飛んでしまったら、それで目的達成と言うことになって、第一回が最終回となってしまいそうです。
そのため、今回はお祭りとして、クリムゾンウェストの人々を中心に、「僕の考えた飛行機とはこれだ!」的な大会となっています。いわゆる、パフォーマンス大会です。当然、エンジンなどという物はまだありません。盛りあがれば、滑空や人力の飛行機へと発展させていく計画のようです。
大会当日。
よい天気で気温もやや高め、絶好の墜落日和……いえ、飛行日和となりました。
海岸には、たくさんの見物客も集まっています。
「では、これより、第1回飛行機になろうコンテストを開催いたします!」
司会のセンサーレ氏が高らかに開催を宣言しました。
それはなんですのと、セレーネ・リコお嬢様が小首をかしげました。
なんでも、鳥のように空を飛べる機械だそうです。
リアルブルーでは一般的な物のようですが、クリムゾンウェストでは、ほとんど知られていなかった物です。
「ええ。その乗り物を飛ばすコンテストを開催したいのです」
目をキラキラさせて、モード氏が詳しい説明をしました。なんでも、サルヴァトーレ・ロッソにいる友人から飛行機という物の話を聞いたそうです。新し物・珍し物好きの芸術家としては、とても興味をそそられて、自分も手に入れたいと思ったようです。
とはいえ、現在のクリムゾンウェストでは、一般人が飛行機と呼べる物を手に入れる方法はありません。なら作ってしまえばいいという安直な発想になったようです。
リアルブルー出身のハンターの協力を得れば簡単だと企画者のモード氏は言っていますが、設計から材料から実際の制作まで、何から何まで、そんなに簡単に揃うとは思えません。当然制作キットや部品の製造ラインなどもありませんから、すべてハンドメイドになります。だいたいにして、そんなに簡単に作れるものであれば、すでにそこら中を飛んでいるはずです。
「技術者を集めるにも、資金を集めるにも、まずは知ってもらわなければ。それには、宣伝が大事ですよ。そのための大会です。最終的に運用できるようになれば、商業的な恩恵は計り知れないでしょう。どうです、スポンサーとして御協力願えませんか?」
さすがは同盟です。まずは、商業的な価値があるかどうかで話が進みます。
「もちろん、乗りますわ!」
商機は逃しません。さっそく、お嬢様の商店が、スポンサーとなりました。他にも、幾人かの商人の協賛を得られたようです。
さて、とはいえ、さあ飛行機を飛ばしましょうと言って、簡単にジェット戦闘機が出てくるわけでも、巨大輸送機が登場するわけでもありません。
クリムゾンウェストのハンターにはノウハウがありませんし、リアルブルーのハンターには最新鋭機に使える資材がありません。これでは、まだ、飛ぶ以前の話です。
そのため、まずは、飛行機というテーマで、人間が飛んでみるところから始めることとなりました。
会場となるヴァリオスの浜辺には、沖に巨大な櫓が組まれていました。ここから飛行機で発進すると言えば聞こえはいいですが、実際には馬鹿でかい飛び込み台です。
特に、今回は話題作りがメインとなるので、実際に飛ぶ飛行機が出る必要はありません。むしろ、完成された飛行機が飛んでしまったら、それで目的達成と言うことになって、第一回が最終回となってしまいそうです。
そのため、今回はお祭りとして、クリムゾンウェストの人々を中心に、「僕の考えた飛行機とはこれだ!」的な大会となっています。いわゆる、パフォーマンス大会です。当然、エンジンなどという物はまだありません。盛りあがれば、滑空や人力の飛行機へと発展させていく計画のようです。
大会当日。
よい天気で気温もやや高め、絶好の墜落日和……いえ、飛行日和となりました。
海岸には、たくさんの見物客も集まっています。
「では、これより、第1回飛行機になろうコンテストを開催いたします!」
司会のセンサーレ氏が高らかに開催を宣言しました。
リプレイ本文
●開会
『いよいよ第1回飛行機コンテストの開催です。実況席には、解説に魔法学院資料館からセリオ・テカリオ館員にお越しいただきました。さて、飛行機とは、どのような物なのでしょうか』
『資料館に集められた書籍に依りますと、鳥に似た飛行機械のことです』
司会に聞かれて、セリオが説明しました。
『設計図などは様々な書物に残っていますが、それですべてOKというわけではありません。非常に繊細な物ですから、一つ一つ実績を積み重ねていくしかないでしょう。この大会は、飛行機への人々の関心を呼び覚ましてくれるものと考えています』
『各選手の頑張りに期待しましょう。さて、ここヴァリオス近郊の海岸には、発進用の櫓が組まれております。この櫓から、参加者はここから空にむかって羽ばたきます』
海中に作られた櫓は高さ15m、縦横10m四方ほどで、海岸から長い渡り板の坂を登って到達する形になっています。
『それでは、さっそく始めましょう!』
●『エントリーNo1。岩井崎 旭(ka0234)選手』
『岩井崎選手、念入りに準備体操した後、一気にスロープを駆けあがっていきます。今、櫓の上で両手を挙げて歓声に応えます。おおっと、これは、なんだ!? 岩井崎選手、変身しました。覚醒です、半人半鳥のミミズク人間の姿となりました』
「ふはははは! 来たぜ、俺の出番! 見ていてくれ、先生、師匠!」
背中に現れたミミズクの翼の幻影を広げ、旭がテンションマックスで叫びました。その見た目は、いかにも鳥人間そのもので、絶対に飛べそうです。飛行能力を持つ覚醒者がいるならば、飛行機なんか必要なくなるかもしれません。
「頑張れー」
観客席から恋人であるメル・アイザックス(ka0520)の応援が飛びます。
「任せとけー。君のために俺は鳥になる。もう半分鳥だ!」
『さあテイクオフです!』
「行くぜ!」
『岩井崎選手、全力疾走! 櫓の端からジャンプ! 飛んだあ!?』
「ははははは、今日こそは、飛ぶ……!?」
『おおっと、岩井崎選手、重力には逆らえずに、真っ逆さまに落ちていく……。いや、また何か翼を広げました。鉄扇です。両手に持った鉄扇を翼のように広げて、滑空……できませんでした』
ぼっちゃん!
「水鳥じゃないからうまく泳げな……ぶくぶくぶく」
『岩井崎選手、あえなく沈んでいきます。今、レスキュー隊が船から投網で岩井崎選手を確保しました。どうやら無事のようです。いかがですか、今のフライト……と言っていいか分かりませんが』
『はい、飛行できる生物から学ぶという基本中の基本は押さえています。でも、まだ鳥になりきっていません。半身だけでは不十分です』
『痛い指摘です。それでは、記録の方を見てみましょう』
『ただいまの記録、6m』
●『エントリーNo2。藤林みほ(ka2804)選手』
『続いては、これは巨大な凧でしょうか?』
『選手曰く、東方の大凧だそうです』
『でも、引っぱってもいいんですか?』
『ダメです。外部動力は違反となります』
『大丈夫なんでしょうか。それでは、レポーターのアットリーチェさんにインタビューしてもらいましょう』
「こちら、発進台です。それにしても大きいですね」
「忍者の秘伝、和凧の術でござる」
自信満々にみほが答えました。
骨組みには、商店街の七夕で使われた竹を組み合わせていますが、元が七夕飾りの竹なので、かなり太いものです。そこへ和紙を貼ったのですが、知り合いからかき集めても量がたりません。けれども、和紙という素晴らしい素材を皆に知ってもらいたいためにこだわりました。
「忍法ですか。なんだか、魔法のように飛びそうですね。頑張ってください」
『それではテイクオフです!』
「参、弐、壱、忍でござる!」
『藤林選手、飛んだ! 落ちた! いや、滑空しています。ああっ、どうした、突然横に回転した。錐揉み状態で海面に突き刺さります!』
やはり、重量過多であっという間にバランスが崩れました。激しい水飛沫を上げつつも、竹なので海に浮きます。
『平面の物体というのは、うまくいけば、飛んで落ちます。ただ、安定性は皆無です。糸の切れた凧としては、奮戦したと言ってもいいでしょう』
『ただいまの記録、7m』
●『エントリーNo3。エルバッハ・リオン(ka2434)選手』
『パラグライダーという物だそうですが、これはどういった物なのでしょうか?』
『落下傘に風を受けて飛ぶタイプの物です。ただ、これも基本は凧と同じなので、上昇気流のある山の斜面か、引っぱってもらわないと上昇できません。櫓から飛ぶという今回の規定では不利ですね。作りは帆布と丈夫なロープを使ったしっかりした物のようですが』
『おおっと、リオン選手、布地の少ない水着で登場です!』
青いハイレグビキニを着たリオンを見て、観客が一斉にどよめきました。もちろん、海に落下したときのための物なのですが、インパクトは絶大だったようです。
『さあ、テイクオフです!』
「えいっ!」
風を待つこともできないので、意を決してリオンが櫓からジャンプしました。
海風でなんとかパラシュートは開いたものの、そのままほぼ真下へとリオンが降下していきます。
「だめ、落ちちゃうよー!」
迫ってくる海面に、リオンが覚醒しました。顕わになっている胸元に紅薔薇の文様が浮かびあがり、そこから全身に赤い蔓の文様が広がっていきます。
ウインドスラッシュでパラグライダーを切り離すと、リオンはウォーターウォークで海面に降り立ちました。ダイブを期待していた観客から、ちょっとブーイングが上がります。それを無視して、リオンは海面を走って戻ってきました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo4。金刀比良 十六那(ka1841)選手』
『さて、パイロットの十六那さんの様子はいかがでしょうか』
「はい、こちら発進台です。可愛い水着ですね、意気込みのほどをお聞かせください」
ワンピース型のデニムパッションの水着を着た十六那に、アットリーチェがインタビューしました。けれども、なんだか十六那はインタビューに気づいていません。
「集中……、集中……」
「集中だそうです、放送席、お返しします」
十六那の機体は、上から見るとちゃんとした飛行機の平面図に見えます。実際は、竹を井桁に組んだ上に布を貼ったハングライダーで、真ん中の穴から頭を出して機体を手でかかえ持ちます。
どうやら、十六那自身のリアルブルー知識のスキルではなく、他人の又聞きから形状を想像したらしく、色々と変なことになってしまったようです。
でも、かなり試行錯誤した跡があちこちにあり、その苦労が忍ばれます。
『いよいよテイクオフです』
「えーいっ!」
『ああっと、十六那選手、真っ逆さまだあ!』
『やはり、具体的なデザインの絞り込み不足だったようですね。曖昧な部分が、結果に反映されたようです』
沈んでいく機体から脱出してきた十六那が、全身を淡い橙色の光でつつみながらウォーターウォークで水の上に浮かびました。
「ふう、参ったなあ。次の人はどうなんだろ」
回収の船の上に上げてもらいながら、十六那が櫓を見あげました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo5。ミオレスカ(ka3496)選手』
「ふむふむ」
櫓の上のスペースの広さや角度などを綿密に調べて、ミオレスカがうなずきました。
機体は、木製の支柱を組み合わせたデルタカイト型のグライダーです。中央下部に取っ手があり、それでパイロットがぶら下がるかたちになります。
『さあ、ミオレスカ選手、準備よろしいでしょうか』
「あっ、は、はい!」
スケートボードの上に片足を乗せてミオレスカが答えました。
「ゴー!」
片足で床を蹴って、スケボーでミオレスカが加速をつけます。
『スムーズにテイクオフ……、ああっと、ミオレスカ選手、海面にむかって急降下だ。いや、根性で持ち直した! 少しだけ距離を稼いで、今、着水!』
バシャバシャと海面を少し走りかけてから、ミオレスカがあっけなく海中に没しました。
『初速が不足していますね。スケボーを使うというのはよかったのですが、片足での加速になってしまい、速度が足りず、踏切に失敗しています』
『ただいまの記録、8m』
●『エントリーNo6。榊 刑部(ka4727)選手』
複葉型のハングライダーをかかえ持った、榊が櫓に現れました。極力軽量化した機体は、補強は最低限になっています。翼は、下は布張り、上は紙張りです。
「意気込みをお願いしまーす」
「空に対するあこがれはどこの世界でも変わらないものですね。まずはグライダーからと言うことで。ここで空を飛ぶ事への可能性を示せれば、研究が進むかもしれません。出来るだけよいところを見せたいものです」
『そろそろテイクオフのようです』
「行きます。とおー」
『おおっと、飛んだ!?』
ばきばきばき……。
「えっ!?」
『なんと言うことだ、空中分解です。翼がすべてV字に折れ、墜落しました!』
『やはり、強度不足でしたね。翼間をワイヤーで補強しなければならなかったのと、抵抗が大きいせいでの失速が原因ですね』
『ただいまの記録、4m』
●『エントリーNo7。スーズリー・アイアンアックス(ka1687)選手』
『資料に依りますと、最初の滑空機のレプリカを目指したそうです』
いわゆるグライダー型ですが、二本の棒を交差させた物を翼の軸として、そこから鳥の羽根状に骨を展開して布地を貼っています。先端がやや尖った形で、パイロットは交差した棒をかかえる形です。
『それでは、テイクオフです』
通常の角材を削った、やや重い機体をスーズリーがかかえ持ちました。
「うおおおおお!」
ジャンプ一番、風に乗ったと思ったとたん、機体の動きに翻弄されます。けれども、そこは力業で耐えて見せましょう。
「ふんごおおおお!」
するっ。
ぼっちゃーん!
『おおっと、スーズリー選手、うまく風を捉えたかに見えましたが、身体を支えきれなかった。パイロットだけが海に吸い込まれていきます。残った機体は一瞬上をむいてから失速してパイロットの後を追った!』
「失敗か。だが、後に続く者が……。うわわあ、お前は後に続かなくてもいい!」
頭の上から落ちてきた機体を、スーズリーが必死に泳いで避けました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo8。佐藤 絢音(ka0552)選手』
『風船とありますが、これ、飛行機大会的にいいんですか?』
『さあ、それ以前に、サルヴァトーレ・ロッソの風船を使用する予定が、ヘリウムが入手できなかったようですね』
『ヘリウムってなんですか?』
『軽い気体ですが、天然ガスという物から精製するらしく、クリムゾンウェストでは非常に入手困難です。そのため、サルヴァトーレ・ロッソからも断られたようですね』
『そろそろテイクオフのようです。結局、なんとか代用品でまかなおうとしたようですが……』
クリムゾンウェストでは、まだ天然ゴムも稀少品です。そのため、布を利用した熱気球となっています。けれども、専用のバーナーがないため、木炭でなんとか気球を膨らませていますが、海風にあおられて形が一定しないという状態です。
「いきますの」
ゴンドラに乗って櫓から押し出してもらった綾音でしたが、まったく浮力がたりません。そのまま一直線に海へと落ちていきました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo9。ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)選手』
『ついに、エンジンつきの物が登場しました。木製バイクである精霊馬をベースとして、複葉機にした物のようです』
『軽量化はある程度はかられていますね。機体は深紅の布張りです。二枚の翼はやはり強度が足りないように思えますが。ただ、最大の問題は推進器ですね。木製プロペラはピッチが固定ですので、調整がちゃんと成されているかにかかっています』
構造的には、機体底部があいており、ベースとなったバイクのタイヤが露出しています。ただし、動力はプロペラに回したため、タイヤに推進力はありません。その分、ジェットブーツを利用して初速を得る作戦のようです。
『それでは、テイクオフです』
「発進!」
叫ぶルナリリルの背後に黒い翼のようなオーラが浮かび、赤く発光しました。同時に、足の風火輪がマテリアルにつつまれながら勢いよくルナリリルの身体を押し出しました。機体と身体をしっかりと縛りつけてあるため、力強く機体も押し出されます。ただ、思い切りロープがルナリリルの身体に食い込みましたが。
テイクオフ!
櫓から勢いよく飛び出したかに見えたルナリリルでしたが、空中に出たとたん機首を下にして真っ逆さまに墜落しました。どうやら推力不足だったようです。おそらくは、チェーン伝達による出力減衰とプロペラピッチの調整不足と考えられます。複葉機ゆえに抵抗も大きく、必要とされるスピードまで達しなかったようです。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo10。狭霧 雷(ka5296)選手。パイロットはキャリコ・ビューイ(ka5044)選手です』
『これは、なんとも飛行機っぽい機体が出て参りました』
櫓の上に現れたのは、木板で作られた可変型戦闘機のモックでした。可変後退翼を持ったジェット戦闘機です。もちろん、そんな物を個人で作れるわけもないのでみかけだけですが、結構頑張ってディティールを作り込んでいます。サルヴァトーレ・ロッソで放映されている特撮番組か何かに出てくる機体のようですが、大きさはベースである自転車に合わせて縮小されているようです。
『ちょっと、作者にインタビューしてください』
「なんだか可愛い飛行機ですが、なんだか本当に飛びそうですね」
「いや、飛びませんよ」
きっぱりと雷がアットリーチェに答えます。
「正直な話、設計図があって、正確にその通り作れるのであれば作れますよ。ただ、それだけじゃダメなんですよね」
技術的な問題よりも、パイロットやルールの問題だと雷が主張しました。実際、1機だけがその時だけ飛べばいいのと、定期的に運航するのとではまったく話が違ってくるわけですから。
そこへ、雷に借りたパイロットキャップとフライトジャケットでパイロットになりきったキャリコが、何やらBGMを背負ってゆっくりとスロープを上ってきました。
何やら雷と打ち合わせの仕種をすると、機体のキャノピーを開きました。もちろん、木製です。短いタラップに足をかけると、コックピットに滑り込みます。もっとも、中にあるのは自転車のサドルなのですが、そんな物は観客席からは見えません。
なんだか、メカ心をくすぐられたのか、観客席からは歓声があがります。
キャリコが乗り込んだのを確認すると、雷が誘導灯を振って櫓の上を誘導していきました。キコキコとゆっくり自転車を漕いで、キャリコが櫓の一番後方につけます。戦闘機の発進シークエンスとしては格好いいのですが、機体のサイズはミニミニサイズです。
「ゴー!」
しゃがんで進路を確認すると、雷が誘導灯でキリッと海を指し示しました。
キャリコが全力で自転車を漕ぎます。立ちあがった雷が、そのテールを思いっきり手で押しました。
「テイクオフ!」
ドボン!
大きな水柱をあげて、機体が真っ逆さまに海に消えました。墜落と言うよりは、ほとんど飛び込みです。
「それでは全力で逝って参ります」
敬礼をした雷が、伸身のまま後を追って海に飛び込みました。
『ただいまの記録、0m』
●『最終エントリーです。No11。Aグループ。パイロットは、冬樹 文太(ka0124)選手です』
「頑張れー」
『今度は、観客席から岩井崎選手が派手な応援を送っています。さて、ここまで見て、飛行機の可能性はどうなんでしょうか』
『飛ぶだけであれば、リアルブルーからの資料がたくさんありますので簡単に思ってしまいます。が、現実は、気象条件やら、機体の実際の精度などから、非常に不安定なため、まだ現実の依頼などで使用することは不可能でしょう。都合よく、飛べる飛行機を持っていたというのはありえません』
『なかなか厳しいですねえ』
『だからこそ、こういうコンテストで磨きをかけるわけです。いつかちゃんと飛べるかもしれません。ただし、かなり長い道のりではありますが』
『それで、この機体はどうでしょうか』
櫓の上に運ばれた機体は、文太らが手分けして作成した物でした。
資材の調達は、メルとクレール(ka0586)が担当しています。
機体は鳥をイメージしたデザインで、アーシュラ・クリオール(ka0226)が担当しています。
鉄パイプのノーズでV字に接合した木製のスパーをキールにボルトで接合したフレームで、バテンによって整えられた翼のシルエットはデルタ型です。帆布は上にのみ貼られています。テールには、水平尾翼と垂直尾翼が取りつけられています。
コックピットは翼の前部に接続されたゴンドラにあり、魔導バイクから外したエンジンが先端にあり、その後ろに人力用の自転車があります。動力をデュアルにして、それぞれがチェーンとギアでプロペラに接続されています。
木材によるプロペラは、文太が加工しています。丁寧な作りですが、固定ピッチですので、機体の出力に合っているかが問題となります。
滑走用に木製レールを用意してきたようですが、規定により櫓の上の部分しか使えません。櫓への坂を滑走に使用するのはルール違反ですそのため、櫓の上の部分にだけ、油を塗布したレールを使用することになりました。
準備が整い、文太が乗り込んだ機体がセットされました。
「準備OK?」
「おう、いけるで」
クレールがトランシーバーで、パイロットの文太に確認を取りました。
翼の両端にメルとクレール、後尾にアーシュラがつきます。
『さあ、それでは、最終フライトです!』
「いっけえーっ!」
アーシュラの号令で、全員がジェットブーツを使って一気に機体を押し出しました。
「私たちの想いを乗せて! 飛べぇー!!」
『テイクオフ……ああっと、落ちます。やはりエンジンなどの分、機体が重すぎたか』
「くっそ、こんなとこで終わるわけには、いかへんのや!」
覚醒した文太が、魔道エンジンを起動させました。
『おおっと、冬樹選手、根性で機体を持ち直したか、いや、機体は逆立ちだ。そのまま失速して、お尻から海へと落ちる!』
力強くプロペラが回ったかと思ったのも束の間、機首が上をむいて完全にバランスを失った機体は、翼が折れて墜落しました。
「ええっ!?」
アーシュラたちが唖然と海面を見つめます。
『これは、いったいどうしたことでしょう?』
『建物用の重い木材と厚みのある帆布を使ったため、エンジンも加味してかなりの重量となってしまっています。そのため、徹底した軽量化をしたのですが、張線などを利用しなかったので強度が不足したようです。また、翼面積も不足していますね。最後は、エンジンを使用したため、プロペラの推力が強すぎたようですね。もともと、異なる動力を用いた場合、推力もばらつき、機構も複雑になります。調整はかなり困難です』
『シンプルな方がよかったと言うことですか。さあ、最後の記録が出たようです』
『ただいまの記録、1m』
●表彰式
『非常に楽しく、また激しい戦いでありました。今回の記録が、後の開発の力になると思います。なお、今回は記録よりも記憶に残った選手に、奨励という形で賞が送られます。まずは、ユーモア賞。華々しいパフォーマンスで鳥を表現した岩井崎選手です。おめでとうございます。続いて、優秀賞。飛行機は格好いいと言うことを印象づけられて海に消えた、キャリコ選手と狭霧選手です。おめでとうございます。では、次回、またお会いしましょう』
『いよいよ第1回飛行機コンテストの開催です。実況席には、解説に魔法学院資料館からセリオ・テカリオ館員にお越しいただきました。さて、飛行機とは、どのような物なのでしょうか』
『資料館に集められた書籍に依りますと、鳥に似た飛行機械のことです』
司会に聞かれて、セリオが説明しました。
『設計図などは様々な書物に残っていますが、それですべてOKというわけではありません。非常に繊細な物ですから、一つ一つ実績を積み重ねていくしかないでしょう。この大会は、飛行機への人々の関心を呼び覚ましてくれるものと考えています』
『各選手の頑張りに期待しましょう。さて、ここヴァリオス近郊の海岸には、発進用の櫓が組まれております。この櫓から、参加者はここから空にむかって羽ばたきます』
海中に作られた櫓は高さ15m、縦横10m四方ほどで、海岸から長い渡り板の坂を登って到達する形になっています。
『それでは、さっそく始めましょう!』
●『エントリーNo1。岩井崎 旭(ka0234)選手』
『岩井崎選手、念入りに準備体操した後、一気にスロープを駆けあがっていきます。今、櫓の上で両手を挙げて歓声に応えます。おおっと、これは、なんだ!? 岩井崎選手、変身しました。覚醒です、半人半鳥のミミズク人間の姿となりました』
「ふはははは! 来たぜ、俺の出番! 見ていてくれ、先生、師匠!」
背中に現れたミミズクの翼の幻影を広げ、旭がテンションマックスで叫びました。その見た目は、いかにも鳥人間そのもので、絶対に飛べそうです。飛行能力を持つ覚醒者がいるならば、飛行機なんか必要なくなるかもしれません。
「頑張れー」
観客席から恋人であるメル・アイザックス(ka0520)の応援が飛びます。
「任せとけー。君のために俺は鳥になる。もう半分鳥だ!」
『さあテイクオフです!』
「行くぜ!」
『岩井崎選手、全力疾走! 櫓の端からジャンプ! 飛んだあ!?』
「ははははは、今日こそは、飛ぶ……!?」
『おおっと、岩井崎選手、重力には逆らえずに、真っ逆さまに落ちていく……。いや、また何か翼を広げました。鉄扇です。両手に持った鉄扇を翼のように広げて、滑空……できませんでした』
ぼっちゃん!
「水鳥じゃないからうまく泳げな……ぶくぶくぶく」
『岩井崎選手、あえなく沈んでいきます。今、レスキュー隊が船から投網で岩井崎選手を確保しました。どうやら無事のようです。いかがですか、今のフライト……と言っていいか分かりませんが』
『はい、飛行できる生物から学ぶという基本中の基本は押さえています。でも、まだ鳥になりきっていません。半身だけでは不十分です』
『痛い指摘です。それでは、記録の方を見てみましょう』
『ただいまの記録、6m』
●『エントリーNo2。藤林みほ(ka2804)選手』
『続いては、これは巨大な凧でしょうか?』
『選手曰く、東方の大凧だそうです』
『でも、引っぱってもいいんですか?』
『ダメです。外部動力は違反となります』
『大丈夫なんでしょうか。それでは、レポーターのアットリーチェさんにインタビューしてもらいましょう』
「こちら、発進台です。それにしても大きいですね」
「忍者の秘伝、和凧の術でござる」
自信満々にみほが答えました。
骨組みには、商店街の七夕で使われた竹を組み合わせていますが、元が七夕飾りの竹なので、かなり太いものです。そこへ和紙を貼ったのですが、知り合いからかき集めても量がたりません。けれども、和紙という素晴らしい素材を皆に知ってもらいたいためにこだわりました。
「忍法ですか。なんだか、魔法のように飛びそうですね。頑張ってください」
『それではテイクオフです!』
「参、弐、壱、忍でござる!」
『藤林選手、飛んだ! 落ちた! いや、滑空しています。ああっ、どうした、突然横に回転した。錐揉み状態で海面に突き刺さります!』
やはり、重量過多であっという間にバランスが崩れました。激しい水飛沫を上げつつも、竹なので海に浮きます。
『平面の物体というのは、うまくいけば、飛んで落ちます。ただ、安定性は皆無です。糸の切れた凧としては、奮戦したと言ってもいいでしょう』
『ただいまの記録、7m』
●『エントリーNo3。エルバッハ・リオン(ka2434)選手』
『パラグライダーという物だそうですが、これはどういった物なのでしょうか?』
『落下傘に風を受けて飛ぶタイプの物です。ただ、これも基本は凧と同じなので、上昇気流のある山の斜面か、引っぱってもらわないと上昇できません。櫓から飛ぶという今回の規定では不利ですね。作りは帆布と丈夫なロープを使ったしっかりした物のようですが』
『おおっと、リオン選手、布地の少ない水着で登場です!』
青いハイレグビキニを着たリオンを見て、観客が一斉にどよめきました。もちろん、海に落下したときのための物なのですが、インパクトは絶大だったようです。
『さあ、テイクオフです!』
「えいっ!」
風を待つこともできないので、意を決してリオンが櫓からジャンプしました。
海風でなんとかパラシュートは開いたものの、そのままほぼ真下へとリオンが降下していきます。
「だめ、落ちちゃうよー!」
迫ってくる海面に、リオンが覚醒しました。顕わになっている胸元に紅薔薇の文様が浮かびあがり、そこから全身に赤い蔓の文様が広がっていきます。
ウインドスラッシュでパラグライダーを切り離すと、リオンはウォーターウォークで海面に降り立ちました。ダイブを期待していた観客から、ちょっとブーイングが上がります。それを無視して、リオンは海面を走って戻ってきました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo4。金刀比良 十六那(ka1841)選手』
『さて、パイロットの十六那さんの様子はいかがでしょうか』
「はい、こちら発進台です。可愛い水着ですね、意気込みのほどをお聞かせください」
ワンピース型のデニムパッションの水着を着た十六那に、アットリーチェがインタビューしました。けれども、なんだか十六那はインタビューに気づいていません。
「集中……、集中……」
「集中だそうです、放送席、お返しします」
十六那の機体は、上から見るとちゃんとした飛行機の平面図に見えます。実際は、竹を井桁に組んだ上に布を貼ったハングライダーで、真ん中の穴から頭を出して機体を手でかかえ持ちます。
どうやら、十六那自身のリアルブルー知識のスキルではなく、他人の又聞きから形状を想像したらしく、色々と変なことになってしまったようです。
でも、かなり試行錯誤した跡があちこちにあり、その苦労が忍ばれます。
『いよいよテイクオフです』
「えーいっ!」
『ああっと、十六那選手、真っ逆さまだあ!』
『やはり、具体的なデザインの絞り込み不足だったようですね。曖昧な部分が、結果に反映されたようです』
沈んでいく機体から脱出してきた十六那が、全身を淡い橙色の光でつつみながらウォーターウォークで水の上に浮かびました。
「ふう、参ったなあ。次の人はどうなんだろ」
回収の船の上に上げてもらいながら、十六那が櫓を見あげました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo5。ミオレスカ(ka3496)選手』
「ふむふむ」
櫓の上のスペースの広さや角度などを綿密に調べて、ミオレスカがうなずきました。
機体は、木製の支柱を組み合わせたデルタカイト型のグライダーです。中央下部に取っ手があり、それでパイロットがぶら下がるかたちになります。
『さあ、ミオレスカ選手、準備よろしいでしょうか』
「あっ、は、はい!」
スケートボードの上に片足を乗せてミオレスカが答えました。
「ゴー!」
片足で床を蹴って、スケボーでミオレスカが加速をつけます。
『スムーズにテイクオフ……、ああっと、ミオレスカ選手、海面にむかって急降下だ。いや、根性で持ち直した! 少しだけ距離を稼いで、今、着水!』
バシャバシャと海面を少し走りかけてから、ミオレスカがあっけなく海中に没しました。
『初速が不足していますね。スケボーを使うというのはよかったのですが、片足での加速になってしまい、速度が足りず、踏切に失敗しています』
『ただいまの記録、8m』
●『エントリーNo6。榊 刑部(ka4727)選手』
複葉型のハングライダーをかかえ持った、榊が櫓に現れました。極力軽量化した機体は、補強は最低限になっています。翼は、下は布張り、上は紙張りです。
「意気込みをお願いしまーす」
「空に対するあこがれはどこの世界でも変わらないものですね。まずはグライダーからと言うことで。ここで空を飛ぶ事への可能性を示せれば、研究が進むかもしれません。出来るだけよいところを見せたいものです」
『そろそろテイクオフのようです』
「行きます。とおー」
『おおっと、飛んだ!?』
ばきばきばき……。
「えっ!?」
『なんと言うことだ、空中分解です。翼がすべてV字に折れ、墜落しました!』
『やはり、強度不足でしたね。翼間をワイヤーで補強しなければならなかったのと、抵抗が大きいせいでの失速が原因ですね』
『ただいまの記録、4m』
●『エントリーNo7。スーズリー・アイアンアックス(ka1687)選手』
『資料に依りますと、最初の滑空機のレプリカを目指したそうです』
いわゆるグライダー型ですが、二本の棒を交差させた物を翼の軸として、そこから鳥の羽根状に骨を展開して布地を貼っています。先端がやや尖った形で、パイロットは交差した棒をかかえる形です。
『それでは、テイクオフです』
通常の角材を削った、やや重い機体をスーズリーがかかえ持ちました。
「うおおおおお!」
ジャンプ一番、風に乗ったと思ったとたん、機体の動きに翻弄されます。けれども、そこは力業で耐えて見せましょう。
「ふんごおおおお!」
するっ。
ぼっちゃーん!
『おおっと、スーズリー選手、うまく風を捉えたかに見えましたが、身体を支えきれなかった。パイロットだけが海に吸い込まれていきます。残った機体は一瞬上をむいてから失速してパイロットの後を追った!』
「失敗か。だが、後に続く者が……。うわわあ、お前は後に続かなくてもいい!」
頭の上から落ちてきた機体を、スーズリーが必死に泳いで避けました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo8。佐藤 絢音(ka0552)選手』
『風船とありますが、これ、飛行機大会的にいいんですか?』
『さあ、それ以前に、サルヴァトーレ・ロッソの風船を使用する予定が、ヘリウムが入手できなかったようですね』
『ヘリウムってなんですか?』
『軽い気体ですが、天然ガスという物から精製するらしく、クリムゾンウェストでは非常に入手困難です。そのため、サルヴァトーレ・ロッソからも断られたようですね』
『そろそろテイクオフのようです。結局、なんとか代用品でまかなおうとしたようですが……』
クリムゾンウェストでは、まだ天然ゴムも稀少品です。そのため、布を利用した熱気球となっています。けれども、専用のバーナーがないため、木炭でなんとか気球を膨らませていますが、海風にあおられて形が一定しないという状態です。
「いきますの」
ゴンドラに乗って櫓から押し出してもらった綾音でしたが、まったく浮力がたりません。そのまま一直線に海へと落ちていきました。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo9。ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)選手』
『ついに、エンジンつきの物が登場しました。木製バイクである精霊馬をベースとして、複葉機にした物のようです』
『軽量化はある程度はかられていますね。機体は深紅の布張りです。二枚の翼はやはり強度が足りないように思えますが。ただ、最大の問題は推進器ですね。木製プロペラはピッチが固定ですので、調整がちゃんと成されているかにかかっています』
構造的には、機体底部があいており、ベースとなったバイクのタイヤが露出しています。ただし、動力はプロペラに回したため、タイヤに推進力はありません。その分、ジェットブーツを利用して初速を得る作戦のようです。
『それでは、テイクオフです』
「発進!」
叫ぶルナリリルの背後に黒い翼のようなオーラが浮かび、赤く発光しました。同時に、足の風火輪がマテリアルにつつまれながら勢いよくルナリリルの身体を押し出しました。機体と身体をしっかりと縛りつけてあるため、力強く機体も押し出されます。ただ、思い切りロープがルナリリルの身体に食い込みましたが。
テイクオフ!
櫓から勢いよく飛び出したかに見えたルナリリルでしたが、空中に出たとたん機首を下にして真っ逆さまに墜落しました。どうやら推力不足だったようです。おそらくは、チェーン伝達による出力減衰とプロペラピッチの調整不足と考えられます。複葉機ゆえに抵抗も大きく、必要とされるスピードまで達しなかったようです。
『ただいまの記録、0m』
●『エントリーNo10。狭霧 雷(ka5296)選手。パイロットはキャリコ・ビューイ(ka5044)選手です』
『これは、なんとも飛行機っぽい機体が出て参りました』
櫓の上に現れたのは、木板で作られた可変型戦闘機のモックでした。可変後退翼を持ったジェット戦闘機です。もちろん、そんな物を個人で作れるわけもないのでみかけだけですが、結構頑張ってディティールを作り込んでいます。サルヴァトーレ・ロッソで放映されている特撮番組か何かに出てくる機体のようですが、大きさはベースである自転車に合わせて縮小されているようです。
『ちょっと、作者にインタビューしてください』
「なんだか可愛い飛行機ですが、なんだか本当に飛びそうですね」
「いや、飛びませんよ」
きっぱりと雷がアットリーチェに答えます。
「正直な話、設計図があって、正確にその通り作れるのであれば作れますよ。ただ、それだけじゃダメなんですよね」
技術的な問題よりも、パイロットやルールの問題だと雷が主張しました。実際、1機だけがその時だけ飛べばいいのと、定期的に運航するのとではまったく話が違ってくるわけですから。
そこへ、雷に借りたパイロットキャップとフライトジャケットでパイロットになりきったキャリコが、何やらBGMを背負ってゆっくりとスロープを上ってきました。
何やら雷と打ち合わせの仕種をすると、機体のキャノピーを開きました。もちろん、木製です。短いタラップに足をかけると、コックピットに滑り込みます。もっとも、中にあるのは自転車のサドルなのですが、そんな物は観客席からは見えません。
なんだか、メカ心をくすぐられたのか、観客席からは歓声があがります。
キャリコが乗り込んだのを確認すると、雷が誘導灯を振って櫓の上を誘導していきました。キコキコとゆっくり自転車を漕いで、キャリコが櫓の一番後方につけます。戦闘機の発進シークエンスとしては格好いいのですが、機体のサイズはミニミニサイズです。
「ゴー!」
しゃがんで進路を確認すると、雷が誘導灯でキリッと海を指し示しました。
キャリコが全力で自転車を漕ぎます。立ちあがった雷が、そのテールを思いっきり手で押しました。
「テイクオフ!」
ドボン!
大きな水柱をあげて、機体が真っ逆さまに海に消えました。墜落と言うよりは、ほとんど飛び込みです。
「それでは全力で逝って参ります」
敬礼をした雷が、伸身のまま後を追って海に飛び込みました。
『ただいまの記録、0m』
●『最終エントリーです。No11。Aグループ。パイロットは、冬樹 文太(ka0124)選手です』
「頑張れー」
『今度は、観客席から岩井崎選手が派手な応援を送っています。さて、ここまで見て、飛行機の可能性はどうなんでしょうか』
『飛ぶだけであれば、リアルブルーからの資料がたくさんありますので簡単に思ってしまいます。が、現実は、気象条件やら、機体の実際の精度などから、非常に不安定なため、まだ現実の依頼などで使用することは不可能でしょう。都合よく、飛べる飛行機を持っていたというのはありえません』
『なかなか厳しいですねえ』
『だからこそ、こういうコンテストで磨きをかけるわけです。いつかちゃんと飛べるかもしれません。ただし、かなり長い道のりではありますが』
『それで、この機体はどうでしょうか』
櫓の上に運ばれた機体は、文太らが手分けして作成した物でした。
資材の調達は、メルとクレール(ka0586)が担当しています。
機体は鳥をイメージしたデザインで、アーシュラ・クリオール(ka0226)が担当しています。
鉄パイプのノーズでV字に接合した木製のスパーをキールにボルトで接合したフレームで、バテンによって整えられた翼のシルエットはデルタ型です。帆布は上にのみ貼られています。テールには、水平尾翼と垂直尾翼が取りつけられています。
コックピットは翼の前部に接続されたゴンドラにあり、魔導バイクから外したエンジンが先端にあり、その後ろに人力用の自転車があります。動力をデュアルにして、それぞれがチェーンとギアでプロペラに接続されています。
木材によるプロペラは、文太が加工しています。丁寧な作りですが、固定ピッチですので、機体の出力に合っているかが問題となります。
滑走用に木製レールを用意してきたようですが、規定により櫓の上の部分しか使えません。櫓への坂を滑走に使用するのはルール違反ですそのため、櫓の上の部分にだけ、油を塗布したレールを使用することになりました。
準備が整い、文太が乗り込んだ機体がセットされました。
「準備OK?」
「おう、いけるで」
クレールがトランシーバーで、パイロットの文太に確認を取りました。
翼の両端にメルとクレール、後尾にアーシュラがつきます。
『さあ、それでは、最終フライトです!』
「いっけえーっ!」
アーシュラの号令で、全員がジェットブーツを使って一気に機体を押し出しました。
「私たちの想いを乗せて! 飛べぇー!!」
『テイクオフ……ああっと、落ちます。やはりエンジンなどの分、機体が重すぎたか』
「くっそ、こんなとこで終わるわけには、いかへんのや!」
覚醒した文太が、魔道エンジンを起動させました。
『おおっと、冬樹選手、根性で機体を持ち直したか、いや、機体は逆立ちだ。そのまま失速して、お尻から海へと落ちる!』
力強くプロペラが回ったかと思ったのも束の間、機首が上をむいて完全にバランスを失った機体は、翼が折れて墜落しました。
「ええっ!?」
アーシュラたちが唖然と海面を見つめます。
『これは、いったいどうしたことでしょう?』
『建物用の重い木材と厚みのある帆布を使ったため、エンジンも加味してかなりの重量となってしまっています。そのため、徹底した軽量化をしたのですが、張線などを利用しなかったので強度が不足したようです。また、翼面積も不足していますね。最後は、エンジンを使用したため、プロペラの推力が強すぎたようですね。もともと、異なる動力を用いた場合、推力もばらつき、機構も複雑になります。調整はかなり困難です』
『シンプルな方がよかったと言うことですか。さあ、最後の記録が出たようです』
『ただいまの記録、1m』
●表彰式
『非常に楽しく、また激しい戦いでありました。今回の記録が、後の開発の力になると思います。なお、今回は記録よりも記憶に残った選手に、奨励という形で賞が送られます。まずは、ユーモア賞。華々しいパフォーマンスで鳥を表現した岩井崎選手です。おめでとうございます。続いて、優秀賞。飛行機は格好いいと言うことを印象づけられて海に消えた、キャリコ選手と狭霧選手です。おめでとうございます。では、次回、またお会いしましょう』
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓なの 佐藤 絢音(ka0552) 人間(リアルブルー)|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/08/21 13:39:24 |
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グループA 冬樹 文太(ka0124) 人間(リアルブルー)|29才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/08/23 16:55:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/23 07:01:28 |
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相談卓 榊 刑部(ka4727) 人間(リアルブルー)|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/08/23 07:02:51 |