ゲスト
(ka0000)
遺跡探険のお約束?
マスター:楠々蛙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/25 19:00
- 完成日
- 2015/09/10 13:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「時の流れを直に感じるこの瞬間、これだけは止められないねぇ、まったく」
とある古代遺跡の深奥で、昂揚を隠せず、平素は凛々しい顔立ちを緩ませる妙齢の女が一人。名は、ヴィオラ=アッシュベリー。
「リアルブルーの遺跡からこちらに飛ばされた時はどうしたものかと考えたが、今考えてみれば結果オーライだったかもしれないよ。魔法やら何やらと、歴史を調べるならこちらの方が断然面白おかしいさね」
この遺跡に踏み入ったのは、彼女一人だけではない。他にもヴィオラが護衛として雇ったハンターが居た。
こういった遺跡には、罠が付き物だ。落とし穴や、釣り天井といった基本的な物だけなら何も護衛は必要なかったろう。ヴィオラの探検家としての経験値も浅くはなく、彼女自身もハンター──覚醒者なのだ。
だが、強力な番人──ゴーレムでも現れようものなら、彼女だけでは心許なく、一溜りもない。そうした場合の戦力として、ハンターを雇ったのだが、
「何も起きやしなかったねぇ。まあ、良いさね。平和に越したこたぁない。そ・れ・よ・り・も、だ。早速、歴史のヴェールを剥ぎ取るとしようじゃないか。ほらほら、素っ裸にひん剥いてやるから、覚悟しな」
恍惚とした笑みを浮かべながら、ヴィオラは知識欲の食指を蠢かせて調査を開始する。
「内装から判断するに、昔々のお偉いさんの墓らしいねぇ、どうも」
ここ最近になって発見されたこの遺跡は、どうやら盗掘の被害も受けてはいない様である。古式の魔法技術による照明に照らされた遺跡内に、荒らされた様子はない。これならば、何かしらの成果も得られるのではないだろうか。
「おや? 何だいこれは……」
ヴィオラが目を向けたのは、古めかしくも、風雨にも良からぬ輩の目にも晒される事なく、状態の良いままに長い年月を過ごして来た台座、だろうか。
「確か遺跡に入ってすぐの所にも似た様なものがあったかねぇ。……ふむ」
その台座に記されている文字列を、ヴィオラは朗読する。
「賢者は宝を鍵として捧げ命を永らえ、強者は剣を取り栄誉を得るだろう。しかし汝が、愚者かつ弱者であったなら、我が墓の埋葬品として陳列してやる、この脳足りんの無能共。……随分と挑発的じゃないか」
感想を漏らしつつ、ヴィオラは台座の中央に突き刺さっている短剣を手に取る。
「宝飾剣かな、こいつは。ふむ、見た事のない様式だ。……中々の掘り出し物じゃないか、胸が躍るよ。帰ったら、早速文献を漁るとしようかねぇ」
宝飾短剣を矯めつ眇めつ眺めながら歩くヴィオラと、それに付き従って行くハンター一行。
後は出口へと真っ直ぐ続く長い通路を残すのみとなった所で、不吉な地響きが辺りに木霊した。
「……何事だい?」
一行が身構えると同時に、彼らが今しがた通ったばかりの扉が閉まり、その閉まった扉の上──壁に埋め込まれた水晶玉に光が灯る。
「……嫌な予感がするよ。いや、嫌な予感しかしないねぇ」
ヴィオラが宝飾剣を腰のベルトに差して、代わりに魔導拳銃を手に取る。
その時だ、閉じた扉の左右に巨腕が生えたのは。壁の一部が盛り上がり、人の腕を模して形成したのだ。
「……何てこったい」
苦々しく呟くヴィオラ。そんな彼女を嘲笑うかの様に水晶玉に宿る光が明滅した。すると、更に状況は悪化の一途を辿る。
「冗談じゃないよ。……壁が動いてやがる」
ヴィオラが漏らした呟きの通りに、異形の壁は彼女達の方へと、目に見える速度で進行して来ている。
「こいつは、出口に向かっても素直に開いちゃくれないだろうねぇ。このまんまじゃ、出来の悪いパンケーキ、いやさ、潰れたトマトサンドってところだろうさ」
過去に似た様な経験があるのか、出口を振り返る事もせずに、ヴィオラは肩を竦めて頭を振る。
「まあ、こういうのは敵を倒せば一発解決と相場が決まってる。あたしは死ぬ気はないんでねぇ。だからお前が倒れろ、木偶の壁」
彼女は魔導拳銃を構えると、水晶玉に照準を合わせて引鉄を引いた。
マテリアルによって放たれた弾丸は、ヴィオラの照準通りに飛翔するが、しかし、掲げられた石腕の甲によって阻まれる。
「チィッ……」
銃弾を弾いた石腕が下がり、その向こうに見えたのは、閃光を湛える水晶玉。
まばゆい程に発せられる光が凝縮したかと思うと、閃光は一筋の光線と化して、ヴィオラを襲う。
「ぐっ!?」
咄嗟に障壁を展開するが、耐え切れず障壁が破砕し、殺し切れなかった衝撃がヴィオラの総身を叩き飛ばす。
「ちくしょう、め。骨身に染みたよ、こいつ、は?」
二転三転と転がりながらも、膝を立てて立ち上がろうとしたヴィオラの頭上に差す影。
「──っ!」
直感のままに彼女は横転。その直後に、両拳を組み合わせて鎚と化した石腕の強力な一撃が、床を砕いた。
「間一髪ってやつかねぇ。ゾッとするよ、まったく」
石鎚の強撃を躱しながらも光線によるダメージの為に、ややふらつきながらヴィオラが立ち上がる。
「さて、あの反応からすると、あの水晶玉が核である事は間違いないらしい。だが、あの腕を先に片付けない事には手出しできないときた。なら先に腕の方を片付けるが得策かもしれないねぇ」
石腕を良く観察すれば、拳とそれ以外の部分とでは構成する材質が異なる事が見て取れる。おそらく、拳部分に強度を回してあるのだろう。だとすれば、比較的脆い部位を狙って攻撃を加えれば、効率的にダメージが通るのではなかろうか。
「しかし、台座に書かれていた文言が正しければ、こいつをどうこうせずとも、問題をクリアする方法がある様だ。……あたしとしては、折角の掘り出し物を手放したくはないがねぇ」
ヴィオラが漏らした呟きを耳にして、ハンター達が各々苦さを含んだ表情を浮かべる。
「ああ、いやいや、そう露骨に嫌な顔をしなさんな。あたしも、命あっての物種って事くらいは弁えているよ。いざとなれば、手前の命を優先させるさ」
ヴィオラの言葉に安堵の表情を浮かべるハンター達を見て、彼女は肩を竦める。
「流石のあたしも、他人の墓に骨を埋めたいとは思わないよ。人間、どうしたって自分の揺り籠を選べる自由は得られやしないが、せめて、手前の墓場は手前の都合で決めたいものさね。……とにかく、賢い選択を取るタイミングは、そちらにお任せするとしようかねぇ」
再び銃を構えて、雇われのハンター達に雇用主は命じる。
「そいじゃまあ、ちっとばかし付き合って貰うとするかな。銭は払ったんだ、精々稼ぎの分は働いておくれよ?」
とある古代遺跡の深奥で、昂揚を隠せず、平素は凛々しい顔立ちを緩ませる妙齢の女が一人。名は、ヴィオラ=アッシュベリー。
「リアルブルーの遺跡からこちらに飛ばされた時はどうしたものかと考えたが、今考えてみれば結果オーライだったかもしれないよ。魔法やら何やらと、歴史を調べるならこちらの方が断然面白おかしいさね」
この遺跡に踏み入ったのは、彼女一人だけではない。他にもヴィオラが護衛として雇ったハンターが居た。
こういった遺跡には、罠が付き物だ。落とし穴や、釣り天井といった基本的な物だけなら何も護衛は必要なかったろう。ヴィオラの探検家としての経験値も浅くはなく、彼女自身もハンター──覚醒者なのだ。
だが、強力な番人──ゴーレムでも現れようものなら、彼女だけでは心許なく、一溜りもない。そうした場合の戦力として、ハンターを雇ったのだが、
「何も起きやしなかったねぇ。まあ、良いさね。平和に越したこたぁない。そ・れ・よ・り・も、だ。早速、歴史のヴェールを剥ぎ取るとしようじゃないか。ほらほら、素っ裸にひん剥いてやるから、覚悟しな」
恍惚とした笑みを浮かべながら、ヴィオラは知識欲の食指を蠢かせて調査を開始する。
「内装から判断するに、昔々のお偉いさんの墓らしいねぇ、どうも」
ここ最近になって発見されたこの遺跡は、どうやら盗掘の被害も受けてはいない様である。古式の魔法技術による照明に照らされた遺跡内に、荒らされた様子はない。これならば、何かしらの成果も得られるのではないだろうか。
「おや? 何だいこれは……」
ヴィオラが目を向けたのは、古めかしくも、風雨にも良からぬ輩の目にも晒される事なく、状態の良いままに長い年月を過ごして来た台座、だろうか。
「確か遺跡に入ってすぐの所にも似た様なものがあったかねぇ。……ふむ」
その台座に記されている文字列を、ヴィオラは朗読する。
「賢者は宝を鍵として捧げ命を永らえ、強者は剣を取り栄誉を得るだろう。しかし汝が、愚者かつ弱者であったなら、我が墓の埋葬品として陳列してやる、この脳足りんの無能共。……随分と挑発的じゃないか」
感想を漏らしつつ、ヴィオラは台座の中央に突き刺さっている短剣を手に取る。
「宝飾剣かな、こいつは。ふむ、見た事のない様式だ。……中々の掘り出し物じゃないか、胸が躍るよ。帰ったら、早速文献を漁るとしようかねぇ」
宝飾短剣を矯めつ眇めつ眺めながら歩くヴィオラと、それに付き従って行くハンター一行。
後は出口へと真っ直ぐ続く長い通路を残すのみとなった所で、不吉な地響きが辺りに木霊した。
「……何事だい?」
一行が身構えると同時に、彼らが今しがた通ったばかりの扉が閉まり、その閉まった扉の上──壁に埋め込まれた水晶玉に光が灯る。
「……嫌な予感がするよ。いや、嫌な予感しかしないねぇ」
ヴィオラが宝飾剣を腰のベルトに差して、代わりに魔導拳銃を手に取る。
その時だ、閉じた扉の左右に巨腕が生えたのは。壁の一部が盛り上がり、人の腕を模して形成したのだ。
「……何てこったい」
苦々しく呟くヴィオラ。そんな彼女を嘲笑うかの様に水晶玉に宿る光が明滅した。すると、更に状況は悪化の一途を辿る。
「冗談じゃないよ。……壁が動いてやがる」
ヴィオラが漏らした呟きの通りに、異形の壁は彼女達の方へと、目に見える速度で進行して来ている。
「こいつは、出口に向かっても素直に開いちゃくれないだろうねぇ。このまんまじゃ、出来の悪いパンケーキ、いやさ、潰れたトマトサンドってところだろうさ」
過去に似た様な経験があるのか、出口を振り返る事もせずに、ヴィオラは肩を竦めて頭を振る。
「まあ、こういうのは敵を倒せば一発解決と相場が決まってる。あたしは死ぬ気はないんでねぇ。だからお前が倒れろ、木偶の壁」
彼女は魔導拳銃を構えると、水晶玉に照準を合わせて引鉄を引いた。
マテリアルによって放たれた弾丸は、ヴィオラの照準通りに飛翔するが、しかし、掲げられた石腕の甲によって阻まれる。
「チィッ……」
銃弾を弾いた石腕が下がり、その向こうに見えたのは、閃光を湛える水晶玉。
まばゆい程に発せられる光が凝縮したかと思うと、閃光は一筋の光線と化して、ヴィオラを襲う。
「ぐっ!?」
咄嗟に障壁を展開するが、耐え切れず障壁が破砕し、殺し切れなかった衝撃がヴィオラの総身を叩き飛ばす。
「ちくしょう、め。骨身に染みたよ、こいつ、は?」
二転三転と転がりながらも、膝を立てて立ち上がろうとしたヴィオラの頭上に差す影。
「──っ!」
直感のままに彼女は横転。その直後に、両拳を組み合わせて鎚と化した石腕の強力な一撃が、床を砕いた。
「間一髪ってやつかねぇ。ゾッとするよ、まったく」
石鎚の強撃を躱しながらも光線によるダメージの為に、ややふらつきながらヴィオラが立ち上がる。
「さて、あの反応からすると、あの水晶玉が核である事は間違いないらしい。だが、あの腕を先に片付けない事には手出しできないときた。なら先に腕の方を片付けるが得策かもしれないねぇ」
石腕を良く観察すれば、拳とそれ以外の部分とでは構成する材質が異なる事が見て取れる。おそらく、拳部分に強度を回してあるのだろう。だとすれば、比較的脆い部位を狙って攻撃を加えれば、効率的にダメージが通るのではなかろうか。
「しかし、台座に書かれていた文言が正しければ、こいつをどうこうせずとも、問題をクリアする方法がある様だ。……あたしとしては、折角の掘り出し物を手放したくはないがねぇ」
ヴィオラが漏らした呟きを耳にして、ハンター達が各々苦さを含んだ表情を浮かべる。
「ああ、いやいや、そう露骨に嫌な顔をしなさんな。あたしも、命あっての物種って事くらいは弁えているよ。いざとなれば、手前の命を優先させるさ」
ヴィオラの言葉に安堵の表情を浮かべるハンター達を見て、彼女は肩を竦める。
「流石のあたしも、他人の墓に骨を埋めたいとは思わないよ。人間、どうしたって自分の揺り籠を選べる自由は得られやしないが、せめて、手前の墓場は手前の都合で決めたいものさね。……とにかく、賢い選択を取るタイミングは、そちらにお任せするとしようかねぇ」
再び銃を構えて、雇われのハンター達に雇用主は命じる。
「そいじゃまあ、ちっとばかし付き合って貰うとするかな。銭は払ったんだ、精々稼ぎの分は働いておくれよ?」
リプレイ本文
「……想定内の展開ではありますが、どうしてこんなあからさまな罠に引っ掛かってしまいますかね!?」
迫って来る壁を前にして、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)がヴィオラに苦言を呈する。受けた当人は何処吹く風、といった態度で応じた。
「何を言っても、後の祭りさね。どうせなら、楽しまなきゃ損だろう。何にしても愚痴を零したって現状は変わらないよ」
もっともな言い分ではあるが、事の元凶である人間に言われると、釈然としないものがある。
「俺にも言いたい事はあるが、確かにその通りか。まずは、生き延びる事に全力を尽くす事にしよう」
榊 兵庫(ka0010)もまた同じ思いを呑み込んで、十文字槍を構えた。
「楽しまなきゃ損、ね。まあ、その通りだわな。お宝だけじゃ物足りねえよ。やっぱ門番ってのは欠かせねえ。……贅沢を言うなら、美女も欲しかったところだが」
巨剣を構えるエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が小さく付け加えた語尾を、ヴィオラが耳聡く拾う。
「ん? 何か言ったかい、そこの節穴傭兵」
「いいや、何も言ってねえでございますよ、雇い主殿」
向けられた雇い主の視線から、そっぽを向いて傭兵は逃れる。
「遺跡の番人かぁ、昔見た映画を思い出すねぇ」
大口径の小銃を構えながら、エルネスタ・バックハウス(ka0899)が呟いた。
「ああ、あの矢鱈と帽子の似合う中年のやつかい? あたしは、チャイニーズの少年が好きだったんだが、と悠長にお喋りしている暇はなかったねぇ」
「そうだね。僕も冒険活劇は好きだけれど、そんな暇はなさそうだ」
鞘から愛刀を抜いて、霧雨 悠月(ka4130)が獣染みた前傾の構えを取る。
「せっかくの冒険活劇の王道だ。僕はアクセル全開で行かせて貰うよ」
「良いねぇ。ノリが良い奴が多くて、嬉しいよ」
「わかったから、雇い主なら雇い主らしく、後ろに下がってろ」
師から継いだ煌めく剣を構えて、文月 弥勒(ka0300)がヴィオラに指で後方を指し示す。
「……少々厄介な癖のある雇い主、いえ依頼を受けてしまった感もありますが、貰ったお金の分は働きましょう」
気を取り直して、ラシュディアが杖を構えた。
ハンター達は、前進して来る壁に合わせて後退しながら戦闘を開始する。
ヴィオラは攻勢強化を榊、エヴァンス、文月に、運動強化を榊、霧雨、文月に付与。
「一番槍、務めさせて貰おう」
先陣を切ったのは、榊。
応じる木偶の壁は、槍兵の頭上を目掛けて右拳を降らせる。迎撃を掻い潜り、榊は敵の懐中へと飛び込んだ。
「狙い目は、関節だよぉ」
「僕も賛成。関節が一番ダメージを通し易いと思う」
エルネスタと霧雨、二人の意見は正鵠を射ていた。適度な柔軟性を持つ様に設計された関節部位は、逆に敵の攻勢に対する弱点と成り得る。
「承知した」
榊は助言に従い、伸び切った腕の関節に上段から十文字槍を振り落す。
その槍の銘は、人間無骨。人体を、骨抜きにした肉塊の様に貫き通す。その鋭さこそ、穂先の表裏に刻まれた銘が意味するところ。対象の材質が人肉より堅かろうが、この槍の前には無意味。
しかし、穂先が石の肉を抉り断ち切ろうとした刹那、
「っ!」
榊の視界の隅を、閃光が掠める。反射的に、石腕の半ばまで裂いた槍を引き、機導術の恩得を最大限に生かして、水晶より放たれた光線を回避。
「木偶風情が、味な真似をしてくれる」
「攻めの邪魔までしやがるとは、洒落臭え。いっそ纏めて貫けるかどうか試してやるぜ」
文月が水晶を見据えて、前へ出る。
攻めの構え、チャージング、刺突一線。三つのスキルを連ねて放つは、穿石の一刺。しかし、水晶を庇った拳と煌剣とが合わさり奏でたのは、さながら鋼と鋼とがかち合ったかの様な冷たい音色。
その音に慌てて引いた剣を見遣るが、幸い刃毀れ等は起きていない様だ。しかし、先の金属音から察するに、拳部分にどれだけ苛烈な攻撃を叩き込んでも、こちらの得物が傷むリスクを負うだけの様である。
「まあ良い。誰にでもすぐ開くのを相手に突っ込むよりかは、固く閉じているのを解していく方が、そそられるってもんだ」
「一体何の話をしてるんだか」
「男の浪漫に決まってるだろう」
呆れた風のヴィオラのツッコミに、文月は毅然と答える。その表情は狐面に隠れて窺えないが。
「だよなあ。恥じらいを持ってくれねえと、脱がせる方も興が乗らねえってもんだぜ!」
エヴァンスが、水晶を庇う姿勢を保つ左腕の肘を目掛けて、大振りの剣撃を叩き落とす。上段から落とした瀑布の一撃は、石腕を一刀の下に両断する。
「これで半裸だ。それはそれで風情があるけどな」
断っておくが、相手は石細工である。彼らの発言には何も疚しいところはないと、ここで明言しておこう。
「残るは一本だね。水晶を直接叩く為にも、まずは丸裸に──って、何か僕の発言まで変な意味に聞こえちゃうじゃない」
変態のとばっちりを受けた霧雨は、狼牙の波紋が浮かぶ愛刀を提げ、右の石腕へと疾駆。
傷付いた右腕は、接近して来る霧雨に対し薙ぐ様な軌道で拳を振るう。
「おっと、そっちじゃなくて私と遊びなよ。それとも女の子相手じゃ不満かな?」
迎撃を阻害しようとエルネスタとヴィオラが銃撃を浴びせるが、
「どうやら、男の方が好みらしい」
右腕の動きは止まらない。まさか、性別で標的を選んでいるわけでもなかろうが。
「言っている場合ですか!」
ラシュディアが叫び、霧雨を守る様に土壁を生成。更に土壁を防護障壁が覆う。しかし、右腕の拳勢は魔術と機導術による二重の障壁を粉砕して、尚も突き進む。
「く……うっ」
刃を立て、襲い来る拳を鎬で凌ぐ霧雨。銃撃、二重の障壁、そして刀の防御で殺し切れなかった衝撃が彼の総身を貫く。とはいえ、仮に何の緩衝もなくまともに受けていた場合のダメージと比べれば、至って軽微の筈だ。
「立派な拳だね。でも、僕の牙は簡単には折れないよ?」
昂揚した闘志で痛みを無視し、霧雨は榊の槍によって入った石腕の亀裂に牙を突き立てた。
「打たれれば打たれる程に、鋭くなるんだから!」
「さてさて、御開帳みたいだが、こっからどうするよ」
エヴァンスが、傍らに立つ文月に楽し気な調子で問う。
「てめぇのやりたい様にやれよ。俺は紳士な方だからな。何処をどう責めれば、どう反応するのか探りながら、気持ち良くさせてやるさ」
「紳士? まあ良い。じゃあ俺は少々荒々しくやらせて貰うとするか」
もう一度言おう。相手は色も華もない木偶の壁。疚しいところは何もない。
何はともあれ一行は、石腕の防御を失い無防備となった水晶の攻略に取り掛かる。
ヴィオラ、エルネスタ、ラシュディアの後衛組は、銃弾や雷撃を浴びせ、直接ダメージを与える事よりも、その注意を自分達に惹き付け前衛の立ち回りを補助する事に念頭を置いて行動。水晶が、さながら苛立ちでも表す様に明滅したかと思えば、閃光を拡散して放った。
三条の光線が掠め、後衛に回った三人の身を焦がす。
しかしそれでも、榊、文月、エヴァンス、霧雨の前衛組に水晶の迎撃が集中してしまう事は避けられない。
彼らは、ラシュディアが生成する土壁を守りの要、兼水晶へ接近攻撃を仕掛ける為の足掛かりとして用いながら立ち回る。
初手を阻害された榊が、十文字槍を振るって渾身の一撃を水晶に食らわせる。
霧雨が自慢の牙に獣の咆哮を籠めて振り抜き、水晶に裂傷を刻み付ける。
文月が三条の光線による迎撃に見出した隙を掻い潜って、助走の勢いを威力に転化し、更に煌剣の質量を乗せた斬撃を水晶に見舞う。
エヴァンスも文月と同様、突進から上段大振りの一撃へと派生させる。しかし、己が全てを「斬る」という一念に籠めた彼の剣勢はこの場の誰よりも苛烈。遺跡の滞った空気を両断しながら、水晶へと剣身を叩き込む。
四筋の連なった斬線は、水晶を確かに削るが、
「盾がなくとも、十分に堅いじゃないさね」
表面に生じた亀裂は、ようやく全体の三割といったところか。しかし、出口までの残り距離はまだ八十メートル。猶予は十分に残されている。
「だがまあ、勝ち運はこちらにある様だ。気張りな行くとしようじゃないさ」
ヴィオラが気勢を上げて、ハンター達を鼓舞する。
「……だと良いんだけど」
その傍らで、エルネスタが小さく呟いた。
更に戦闘が続き、残距離は四十メートル。折り返しに入ったところだが、既に水晶の表面で無事な箇所は一割にも満たない。こちらの陣営も決して無傷ではなかったが。
木偶の壁に設定された攻撃パターンの凡そを把握し、加えてにわかの編成とはいえ互いの呼吸も理解し出した一行。おそらく誰もが半ば勝利を確信していたであろう土壇場で、事態は急変する。
「……そいつはちょいと、意地が悪過ぎるんじゃないかい?」
苦々し気に呟いたヴィオラの視線の先──木偶の壁の両脇が盛り上がり、一対の腕を形成する。
この罠の発案者の愉し気に歪んだ笑みが、明滅する水晶の奥に透けて見える様な錯覚に、一行は陥った。
人間の歪んだ悪意は、歪虚の純粋なそれよりも、遥かに悪趣味極まる。それを思い知らされる様な、罠。
先程まで勝利を確信していた一行の意識に、後方の台座が嫌でも入り込んで来る。しかしそんな中で、冷静に事へ対処する者が一人。
「嫌な予感はしてたんだよねぇ」
呟きを零しつつ、エルネスタが小銃を構える。
「ほらほら、何やってんの? 尻尾巻いて逃げるには、まだ早いでしょ。諦めたら、そこで試合終了ですよぉ?」
味方を鼓舞しながら、彼女は銃火を放つ。
銃口を向けた先は、石腕でも水晶でもなく、遺跡の内壁。反射に次ぐ反射を繰り返し複雑な弾道を描いた弾丸は、水晶を終着点に定めて飛ぶ。弾丸の行く先の測定が間に合わないと判断したのか、木偶の壁は両の拳を交差させて、水晶の前に隙のない万全の防護を張って弾丸を弾いた。
「試……合? 良くわかりませんが、確かに諦めて背を向けるのは御免ですね」
交差した手首を狙って、ラシュディアが紫電の矢を放つ。
「だなあ! 俺もせっかく手に入れたお宝を返してやる気なんざ、さらさらねえよ!」
エヴァンスが、雷撃による焦げ跡を薙ぐ軌道で巨剣を振るい、石腕の手首から先を斬り落とした。
木偶の壁は、拳を落された左右の腕を、榊と霧雨の頭上を目掛けて落とす。二人は跳躍して回避。床に落ちた前腕に着地した彼らは、直後に腕の上を駆け上がる。
「僕だって最初から最後までフルスロットルだよ」
壁際まで到達した霧雨が、横に跳び様に刀を振るって斬り付ける。
「俺も敵に背を向ける気はない。俺の得手は槍だからな。後退よりも前進の方が性に合っている!」
榊は天井高く舞い上がり、十文字槍の穂先へ落下の勢いを乗せて水晶に叩き落とす。
「お待ちかねだぜ。最後の一発は、奥の深いところを突いてやるからよ。盛大に逝きやがれ!」
水晶の正面に立つ文月が、再び三つのスキルを連ねた刺突を放つ。煌剣が、ひびで覆われた水晶へと根本深くまで突き刺さった。
木偶の壁の動きが完全停止すると同時に、水晶に灯る輝きが失われた。かと思えば直後に、目が眩む様な閃光が迸る。
「うおっ!? 吹きやがったか?」
慌てて文月が壁から離れると閃光が落ち着き、やがて細い光線になると、光が踊り空中に文字列を紡ぎ出した。
「……持ってけ、泥棒?」
ヴィオラがそれを読み上げると、光が薄れ文字列が消えて水晶が粉々に破裂する。水晶に続いて、木偶の壁もまた音を立てて崩れ、瓦礫となって積み上がる。
その瓦礫の中に現れたのは、
「こいつはまた、豪勢な」
金銀財宝、そう形容する以外に言葉がない、宝の山。
「な、何でまた、罠の中にこんな?」
宝の眩さに圧倒されながら、ラシュディアが疑問を口にする。
「さてねぇ。まあ、最高の隠し場所とは言えるかもしれないがね。もしくは、あたしらへの迷惑料のつもりなのか」
「迷惑料って……」
「案外、この罠は墓荒しで遊んでやろうと作ったものかもしれないって事さ。この墓に眠る偏屈者が、末期に未来の墓荒しが滑稽に踊る様を思い浮かべて慰めにする為の玩具だったとかさ。だとすると、あの趣味の悪過ぎる仕様も納得がいくんだが」
「だとすれば、本当に最悪の趣味ですが」
実際に被害を受けた彼らからすれば、それが切実な感想だろう。
思案に耽るヴィオラに、エヴァンスが声を掛ける。
「なあなあ、ちと物は相談なんだがよ」
「この宝の山の分け前の話かい?」
「話が早くて、助かるぜ」
「そうだねぇ。本来なら、こういう場合依頼主の総取りなんだろうが」
「い、いや、まあ確かにそうかもしれないけどよ」
「しかしまあ、あたし一人で運べる量ではないし、自分の物になるわけでもないお宝を運ばされるのも酷だろうからねぇ。あたしも研究費用は欲しいから、山分けってわけにもいかないが、少しばかり報酬に色を付けてやらんでもないさ。今回限りの特別ボーナスだ」
「おっしゃあ! 浪漫のお零れさえ貰えりゃ十分だ。愛してるぜ、ヴィオラ」
「あっはっは、……一昨日来やがれってんだ」
榊や霧雨が負傷の回復を済ませ、手に入れた財宝を各々で担ぎながら、一行は遺跡の外へと出る。
「いやあ、何はともあれ。またお天道さんを眺める事ができて良かったよ」
伸びをするヴィオラに、榊が苦笑を浮かべつつ窘める言葉を掛ける。
「今回は思わぬ利益も出て上手く切り抜けられたが、次もそうとは限らない。次からは慎重に行動して貰いたいものだな」
「そうだねぇ。今回ばかりは、あたしも肝が冷えた。忠言、肝に銘じておくよ」
「でも、僕は楽しくて堪らなかったけどね。遺跡探険には、夢とスリルが詰まってるんだね」
霧雨が笑顔を浮かべて、感想を述べる。
「ああ、そう言えば。おい、狐面の兄さん」
「あん? 俺の事か」
ヴィオラに呼び掛けられた文月が振り向く。
「あんた以外に誰が居るんだい。あんたの懐に入っている、その宝玉は偽物だよ」
「ば、ばれて、いや、偽物だと? っていうか、わかっていたなら、がめている時に」
「コソコソしてる方が悪いのさ。どうするね。金に換えたいなら、あたしが買ってやっても良いが。三千ってところか。まあ、残念賞みたいなもんだよ」
「もう一声」
「嫌ならそこらの古物商にでも持って行って、失笑でも買って来な」
「ちっ、ほらよ」
文月は舌打ち一つ打つと、偽宝玉をヴィオラに投げて寄越す。
「まいど。まあこれに懲りずに、また遺跡探険に行ってみると良い」
「ああ、それなら私もまた行きたいよ。ヴィオラ先生と、もっと話したい事だってあるしねぇ」
「僕も御一緒させて頂きたいものですね。この遺跡を作った文明には興味が湧いて来ましたし」
エルネスタとラシュディアの言葉に、ヴィオラは肩を竦めると、
「まあ縁があったら、また会えるだろうさ」
凛々しい笑みを浮かべた。
迫って来る壁を前にして、ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)がヴィオラに苦言を呈する。受けた当人は何処吹く風、といった態度で応じた。
「何を言っても、後の祭りさね。どうせなら、楽しまなきゃ損だろう。何にしても愚痴を零したって現状は変わらないよ」
もっともな言い分ではあるが、事の元凶である人間に言われると、釈然としないものがある。
「俺にも言いたい事はあるが、確かにその通りか。まずは、生き延びる事に全力を尽くす事にしよう」
榊 兵庫(ka0010)もまた同じ思いを呑み込んで、十文字槍を構えた。
「楽しまなきゃ損、ね。まあ、その通りだわな。お宝だけじゃ物足りねえよ。やっぱ門番ってのは欠かせねえ。……贅沢を言うなら、美女も欲しかったところだが」
巨剣を構えるエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が小さく付け加えた語尾を、ヴィオラが耳聡く拾う。
「ん? 何か言ったかい、そこの節穴傭兵」
「いいや、何も言ってねえでございますよ、雇い主殿」
向けられた雇い主の視線から、そっぽを向いて傭兵は逃れる。
「遺跡の番人かぁ、昔見た映画を思い出すねぇ」
大口径の小銃を構えながら、エルネスタ・バックハウス(ka0899)が呟いた。
「ああ、あの矢鱈と帽子の似合う中年のやつかい? あたしは、チャイニーズの少年が好きだったんだが、と悠長にお喋りしている暇はなかったねぇ」
「そうだね。僕も冒険活劇は好きだけれど、そんな暇はなさそうだ」
鞘から愛刀を抜いて、霧雨 悠月(ka4130)が獣染みた前傾の構えを取る。
「せっかくの冒険活劇の王道だ。僕はアクセル全開で行かせて貰うよ」
「良いねぇ。ノリが良い奴が多くて、嬉しいよ」
「わかったから、雇い主なら雇い主らしく、後ろに下がってろ」
師から継いだ煌めく剣を構えて、文月 弥勒(ka0300)がヴィオラに指で後方を指し示す。
「……少々厄介な癖のある雇い主、いえ依頼を受けてしまった感もありますが、貰ったお金の分は働きましょう」
気を取り直して、ラシュディアが杖を構えた。
ハンター達は、前進して来る壁に合わせて後退しながら戦闘を開始する。
ヴィオラは攻勢強化を榊、エヴァンス、文月に、運動強化を榊、霧雨、文月に付与。
「一番槍、務めさせて貰おう」
先陣を切ったのは、榊。
応じる木偶の壁は、槍兵の頭上を目掛けて右拳を降らせる。迎撃を掻い潜り、榊は敵の懐中へと飛び込んだ。
「狙い目は、関節だよぉ」
「僕も賛成。関節が一番ダメージを通し易いと思う」
エルネスタと霧雨、二人の意見は正鵠を射ていた。適度な柔軟性を持つ様に設計された関節部位は、逆に敵の攻勢に対する弱点と成り得る。
「承知した」
榊は助言に従い、伸び切った腕の関節に上段から十文字槍を振り落す。
その槍の銘は、人間無骨。人体を、骨抜きにした肉塊の様に貫き通す。その鋭さこそ、穂先の表裏に刻まれた銘が意味するところ。対象の材質が人肉より堅かろうが、この槍の前には無意味。
しかし、穂先が石の肉を抉り断ち切ろうとした刹那、
「っ!」
榊の視界の隅を、閃光が掠める。反射的に、石腕の半ばまで裂いた槍を引き、機導術の恩得を最大限に生かして、水晶より放たれた光線を回避。
「木偶風情が、味な真似をしてくれる」
「攻めの邪魔までしやがるとは、洒落臭え。いっそ纏めて貫けるかどうか試してやるぜ」
文月が水晶を見据えて、前へ出る。
攻めの構え、チャージング、刺突一線。三つのスキルを連ねて放つは、穿石の一刺。しかし、水晶を庇った拳と煌剣とが合わさり奏でたのは、さながら鋼と鋼とがかち合ったかの様な冷たい音色。
その音に慌てて引いた剣を見遣るが、幸い刃毀れ等は起きていない様だ。しかし、先の金属音から察するに、拳部分にどれだけ苛烈な攻撃を叩き込んでも、こちらの得物が傷むリスクを負うだけの様である。
「まあ良い。誰にでもすぐ開くのを相手に突っ込むよりかは、固く閉じているのを解していく方が、そそられるってもんだ」
「一体何の話をしてるんだか」
「男の浪漫に決まってるだろう」
呆れた風のヴィオラのツッコミに、文月は毅然と答える。その表情は狐面に隠れて窺えないが。
「だよなあ。恥じらいを持ってくれねえと、脱がせる方も興が乗らねえってもんだぜ!」
エヴァンスが、水晶を庇う姿勢を保つ左腕の肘を目掛けて、大振りの剣撃を叩き落とす。上段から落とした瀑布の一撃は、石腕を一刀の下に両断する。
「これで半裸だ。それはそれで風情があるけどな」
断っておくが、相手は石細工である。彼らの発言には何も疚しいところはないと、ここで明言しておこう。
「残るは一本だね。水晶を直接叩く為にも、まずは丸裸に──って、何か僕の発言まで変な意味に聞こえちゃうじゃない」
変態のとばっちりを受けた霧雨は、狼牙の波紋が浮かぶ愛刀を提げ、右の石腕へと疾駆。
傷付いた右腕は、接近して来る霧雨に対し薙ぐ様な軌道で拳を振るう。
「おっと、そっちじゃなくて私と遊びなよ。それとも女の子相手じゃ不満かな?」
迎撃を阻害しようとエルネスタとヴィオラが銃撃を浴びせるが、
「どうやら、男の方が好みらしい」
右腕の動きは止まらない。まさか、性別で標的を選んでいるわけでもなかろうが。
「言っている場合ですか!」
ラシュディアが叫び、霧雨を守る様に土壁を生成。更に土壁を防護障壁が覆う。しかし、右腕の拳勢は魔術と機導術による二重の障壁を粉砕して、尚も突き進む。
「く……うっ」
刃を立て、襲い来る拳を鎬で凌ぐ霧雨。銃撃、二重の障壁、そして刀の防御で殺し切れなかった衝撃が彼の総身を貫く。とはいえ、仮に何の緩衝もなくまともに受けていた場合のダメージと比べれば、至って軽微の筈だ。
「立派な拳だね。でも、僕の牙は簡単には折れないよ?」
昂揚した闘志で痛みを無視し、霧雨は榊の槍によって入った石腕の亀裂に牙を突き立てた。
「打たれれば打たれる程に、鋭くなるんだから!」
「さてさて、御開帳みたいだが、こっからどうするよ」
エヴァンスが、傍らに立つ文月に楽し気な調子で問う。
「てめぇのやりたい様にやれよ。俺は紳士な方だからな。何処をどう責めれば、どう反応するのか探りながら、気持ち良くさせてやるさ」
「紳士? まあ良い。じゃあ俺は少々荒々しくやらせて貰うとするか」
もう一度言おう。相手は色も華もない木偶の壁。疚しいところは何もない。
何はともあれ一行は、石腕の防御を失い無防備となった水晶の攻略に取り掛かる。
ヴィオラ、エルネスタ、ラシュディアの後衛組は、銃弾や雷撃を浴びせ、直接ダメージを与える事よりも、その注意を自分達に惹き付け前衛の立ち回りを補助する事に念頭を置いて行動。水晶が、さながら苛立ちでも表す様に明滅したかと思えば、閃光を拡散して放った。
三条の光線が掠め、後衛に回った三人の身を焦がす。
しかしそれでも、榊、文月、エヴァンス、霧雨の前衛組に水晶の迎撃が集中してしまう事は避けられない。
彼らは、ラシュディアが生成する土壁を守りの要、兼水晶へ接近攻撃を仕掛ける為の足掛かりとして用いながら立ち回る。
初手を阻害された榊が、十文字槍を振るって渾身の一撃を水晶に食らわせる。
霧雨が自慢の牙に獣の咆哮を籠めて振り抜き、水晶に裂傷を刻み付ける。
文月が三条の光線による迎撃に見出した隙を掻い潜って、助走の勢いを威力に転化し、更に煌剣の質量を乗せた斬撃を水晶に見舞う。
エヴァンスも文月と同様、突進から上段大振りの一撃へと派生させる。しかし、己が全てを「斬る」という一念に籠めた彼の剣勢はこの場の誰よりも苛烈。遺跡の滞った空気を両断しながら、水晶へと剣身を叩き込む。
四筋の連なった斬線は、水晶を確かに削るが、
「盾がなくとも、十分に堅いじゃないさね」
表面に生じた亀裂は、ようやく全体の三割といったところか。しかし、出口までの残り距離はまだ八十メートル。猶予は十分に残されている。
「だがまあ、勝ち運はこちらにある様だ。気張りな行くとしようじゃないさ」
ヴィオラが気勢を上げて、ハンター達を鼓舞する。
「……だと良いんだけど」
その傍らで、エルネスタが小さく呟いた。
更に戦闘が続き、残距離は四十メートル。折り返しに入ったところだが、既に水晶の表面で無事な箇所は一割にも満たない。こちらの陣営も決して無傷ではなかったが。
木偶の壁に設定された攻撃パターンの凡そを把握し、加えてにわかの編成とはいえ互いの呼吸も理解し出した一行。おそらく誰もが半ば勝利を確信していたであろう土壇場で、事態は急変する。
「……そいつはちょいと、意地が悪過ぎるんじゃないかい?」
苦々し気に呟いたヴィオラの視線の先──木偶の壁の両脇が盛り上がり、一対の腕を形成する。
この罠の発案者の愉し気に歪んだ笑みが、明滅する水晶の奥に透けて見える様な錯覚に、一行は陥った。
人間の歪んだ悪意は、歪虚の純粋なそれよりも、遥かに悪趣味極まる。それを思い知らされる様な、罠。
先程まで勝利を確信していた一行の意識に、後方の台座が嫌でも入り込んで来る。しかしそんな中で、冷静に事へ対処する者が一人。
「嫌な予感はしてたんだよねぇ」
呟きを零しつつ、エルネスタが小銃を構える。
「ほらほら、何やってんの? 尻尾巻いて逃げるには、まだ早いでしょ。諦めたら、そこで試合終了ですよぉ?」
味方を鼓舞しながら、彼女は銃火を放つ。
銃口を向けた先は、石腕でも水晶でもなく、遺跡の内壁。反射に次ぐ反射を繰り返し複雑な弾道を描いた弾丸は、水晶を終着点に定めて飛ぶ。弾丸の行く先の測定が間に合わないと判断したのか、木偶の壁は両の拳を交差させて、水晶の前に隙のない万全の防護を張って弾丸を弾いた。
「試……合? 良くわかりませんが、確かに諦めて背を向けるのは御免ですね」
交差した手首を狙って、ラシュディアが紫電の矢を放つ。
「だなあ! 俺もせっかく手に入れたお宝を返してやる気なんざ、さらさらねえよ!」
エヴァンスが、雷撃による焦げ跡を薙ぐ軌道で巨剣を振るい、石腕の手首から先を斬り落とした。
木偶の壁は、拳を落された左右の腕を、榊と霧雨の頭上を目掛けて落とす。二人は跳躍して回避。床に落ちた前腕に着地した彼らは、直後に腕の上を駆け上がる。
「僕だって最初から最後までフルスロットルだよ」
壁際まで到達した霧雨が、横に跳び様に刀を振るって斬り付ける。
「俺も敵に背を向ける気はない。俺の得手は槍だからな。後退よりも前進の方が性に合っている!」
榊は天井高く舞い上がり、十文字槍の穂先へ落下の勢いを乗せて水晶に叩き落とす。
「お待ちかねだぜ。最後の一発は、奥の深いところを突いてやるからよ。盛大に逝きやがれ!」
水晶の正面に立つ文月が、再び三つのスキルを連ねた刺突を放つ。煌剣が、ひびで覆われた水晶へと根本深くまで突き刺さった。
木偶の壁の動きが完全停止すると同時に、水晶に灯る輝きが失われた。かと思えば直後に、目が眩む様な閃光が迸る。
「うおっ!? 吹きやがったか?」
慌てて文月が壁から離れると閃光が落ち着き、やがて細い光線になると、光が踊り空中に文字列を紡ぎ出した。
「……持ってけ、泥棒?」
ヴィオラがそれを読み上げると、光が薄れ文字列が消えて水晶が粉々に破裂する。水晶に続いて、木偶の壁もまた音を立てて崩れ、瓦礫となって積み上がる。
その瓦礫の中に現れたのは、
「こいつはまた、豪勢な」
金銀財宝、そう形容する以外に言葉がない、宝の山。
「な、何でまた、罠の中にこんな?」
宝の眩さに圧倒されながら、ラシュディアが疑問を口にする。
「さてねぇ。まあ、最高の隠し場所とは言えるかもしれないがね。もしくは、あたしらへの迷惑料のつもりなのか」
「迷惑料って……」
「案外、この罠は墓荒しで遊んでやろうと作ったものかもしれないって事さ。この墓に眠る偏屈者が、末期に未来の墓荒しが滑稽に踊る様を思い浮かべて慰めにする為の玩具だったとかさ。だとすると、あの趣味の悪過ぎる仕様も納得がいくんだが」
「だとすれば、本当に最悪の趣味ですが」
実際に被害を受けた彼らからすれば、それが切実な感想だろう。
思案に耽るヴィオラに、エヴァンスが声を掛ける。
「なあなあ、ちと物は相談なんだがよ」
「この宝の山の分け前の話かい?」
「話が早くて、助かるぜ」
「そうだねぇ。本来なら、こういう場合依頼主の総取りなんだろうが」
「い、いや、まあ確かにそうかもしれないけどよ」
「しかしまあ、あたし一人で運べる量ではないし、自分の物になるわけでもないお宝を運ばされるのも酷だろうからねぇ。あたしも研究費用は欲しいから、山分けってわけにもいかないが、少しばかり報酬に色を付けてやらんでもないさ。今回限りの特別ボーナスだ」
「おっしゃあ! 浪漫のお零れさえ貰えりゃ十分だ。愛してるぜ、ヴィオラ」
「あっはっは、……一昨日来やがれってんだ」
榊や霧雨が負傷の回復を済ませ、手に入れた財宝を各々で担ぎながら、一行は遺跡の外へと出る。
「いやあ、何はともあれ。またお天道さんを眺める事ができて良かったよ」
伸びをするヴィオラに、榊が苦笑を浮かべつつ窘める言葉を掛ける。
「今回は思わぬ利益も出て上手く切り抜けられたが、次もそうとは限らない。次からは慎重に行動して貰いたいものだな」
「そうだねぇ。今回ばかりは、あたしも肝が冷えた。忠言、肝に銘じておくよ」
「でも、僕は楽しくて堪らなかったけどね。遺跡探険には、夢とスリルが詰まってるんだね」
霧雨が笑顔を浮かべて、感想を述べる。
「ああ、そう言えば。おい、狐面の兄さん」
「あん? 俺の事か」
ヴィオラに呼び掛けられた文月が振り向く。
「あんた以外に誰が居るんだい。あんたの懐に入っている、その宝玉は偽物だよ」
「ば、ばれて、いや、偽物だと? っていうか、わかっていたなら、がめている時に」
「コソコソしてる方が悪いのさ。どうするね。金に換えたいなら、あたしが買ってやっても良いが。三千ってところか。まあ、残念賞みたいなもんだよ」
「もう一声」
「嫌ならそこらの古物商にでも持って行って、失笑でも買って来な」
「ちっ、ほらよ」
文月は舌打ち一つ打つと、偽宝玉をヴィオラに投げて寄越す。
「まいど。まあこれに懲りずに、また遺跡探険に行ってみると良い」
「ああ、それなら私もまた行きたいよ。ヴィオラ先生と、もっと話したい事だってあるしねぇ」
「僕も御一緒させて頂きたいものですね。この遺跡を作った文明には興味が湧いて来ましたし」
エルネスタとラシュディアの言葉に、ヴィオラは肩を竦めると、
「まあ縁があったら、また会えるだろうさ」
凛々しい笑みを浮かべた。
依頼結果
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エルネスタ・バックハウス(ka0899)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エルネスタ・バックハウス(ka0899) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/08/25 01:06:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/23 09:10:54 |