ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌6頁目
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 2日
- 締切
- 2015/09/10 15:00
- 完成日
- 2015/09/15 17:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「あーつーいー……っ。こう暑いと冷えたハーブティーが染みますね!」
ジェオルジ北部の山の麓、そろそろ秋蒔きの種や苗の支度が進められているが、まだまだ暑い日は続いている。日時計を臨む木陰のベンチに腰掛けて、ハンターオフィス受付嬢、ハンターの案内人を自称する彼女はグラスのハーブティーを一息に煽った。
ここは農業魔術研究機関、通称、「実験畑」。
――魔術をもっともーっと、農業に役立てよう――
というモットーで多くの畑で日夜研究が行われている。
先日、ポルトワールで耐水試験の依頼を受けた布も、元をただせばここの産物だ。
案内人の傍らには手作りのポスターが丸めてある。
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を借りましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
ポップな書体でカラフルに綴ったポスターは、既に数カ所に掲載済みだ。
実験畑を手伝って、皆がハンターさんをもっと身近に感じて、ハンターさんって凄くて強くて格好いいって、知って貰えたら良いなぁ……
茹だる暑さに溶けそうな意識で、案内人はぽつりと零した。
「ハーブティーは染みますけど……暑いですねぇ……」
●
案内人が次のポスターを広げ、その出来映えを眺めていると、背後から誰かがその肩をつついた。
「ども、ポスター見ましたよ。手を貸して欲しいことと言うか……知恵と舌と、胃袋をお借りしたいんですが、いかがでしょう?」
「はい! もちろん! お引き受けします!」
額の汗を拭いながら、満面の笑みを。
依頼を持ってきたのは繋ぎを半分脱いで袖を括りTシャツに「トマト」とペイントした青年だった。
彼に続いていくと、同じような装いの「キュウリ」と「ナス」が迎えに来た。畑には、「ピーマン」「ゴーヤ」「コーン」が作業の手を止めてこちらに向いている。
畑は他の研究員がいる畑よりも大分広い。
「夏に向けて色々作っていたんですが、採れすぎて、食べきれなくて……」
「そろそろ生で食べるのも限界で」
「はいはーい、私、肉詰めも美味いよ! 細切れで炒めてもイケル! 焼くのもオススメ!」
「俺もー焼いても美味いし、揚げても美味い……けどさぁ」
トマトが声を掛けると、キュウリが頷き、ピーマンとナスもTシャツを示しながら笑った。
「つ、つまり……」
「僕たちを収穫して……美味しく食べて欲しいなぁ……」
アク抜きは確りと、はにかんでゴーヤがTシャツを摘まむ。
「あたしは、生でも別にいいけどねー」
採れたてのキュウリを囓りながら、キュウリがTシャツの衿をぱたぱたと揺らして扇ぐ。
ちらほら、他の野菜Tシャツ達も、近付いてくる。その筆頭でコーンが笑う。
「こんな格好で育ててるから、愛着沸いちゃって、見捨てられないんだよね」
広い畑いっぱいの夏野菜達。
美味しい内に収穫して、お腹いっぱい召し上がれ。
『野菜を収穫して、料理して、食べて下さい!』
至急、と札を貼り付けて依頼が1つ掲げられた。
「あーつーいー……っ。こう暑いと冷えたハーブティーが染みますね!」
ジェオルジ北部の山の麓、そろそろ秋蒔きの種や苗の支度が進められているが、まだまだ暑い日は続いている。日時計を臨む木陰のベンチに腰掛けて、ハンターオフィス受付嬢、ハンターの案内人を自称する彼女はグラスのハーブティーを一息に煽った。
ここは農業魔術研究機関、通称、「実験畑」。
――魔術をもっともーっと、農業に役立てよう――
というモットーで多くの畑で日夜研究が行われている。
先日、ポルトワールで耐水試験の依頼を受けた布も、元をただせばここの産物だ。
案内人の傍らには手作りのポスターが丸めてある。
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を借りましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
ポップな書体でカラフルに綴ったポスターは、既に数カ所に掲載済みだ。
実験畑を手伝って、皆がハンターさんをもっと身近に感じて、ハンターさんって凄くて強くて格好いいって、知って貰えたら良いなぁ……
茹だる暑さに溶けそうな意識で、案内人はぽつりと零した。
「ハーブティーは染みますけど……暑いですねぇ……」
●
案内人が次のポスターを広げ、その出来映えを眺めていると、背後から誰かがその肩をつついた。
「ども、ポスター見ましたよ。手を貸して欲しいことと言うか……知恵と舌と、胃袋をお借りしたいんですが、いかがでしょう?」
「はい! もちろん! お引き受けします!」
額の汗を拭いながら、満面の笑みを。
依頼を持ってきたのは繋ぎを半分脱いで袖を括りTシャツに「トマト」とペイントした青年だった。
彼に続いていくと、同じような装いの「キュウリ」と「ナス」が迎えに来た。畑には、「ピーマン」「ゴーヤ」「コーン」が作業の手を止めてこちらに向いている。
畑は他の研究員がいる畑よりも大分広い。
「夏に向けて色々作っていたんですが、採れすぎて、食べきれなくて……」
「そろそろ生で食べるのも限界で」
「はいはーい、私、肉詰めも美味いよ! 細切れで炒めてもイケル! 焼くのもオススメ!」
「俺もー焼いても美味いし、揚げても美味い……けどさぁ」
トマトが声を掛けると、キュウリが頷き、ピーマンとナスもTシャツを示しながら笑った。
「つ、つまり……」
「僕たちを収穫して……美味しく食べて欲しいなぁ……」
アク抜きは確りと、はにかんでゴーヤがTシャツを摘まむ。
「あたしは、生でも別にいいけどねー」
採れたてのキュウリを囓りながら、キュウリがTシャツの衿をぱたぱたと揺らして扇ぐ。
ちらほら、他の野菜Tシャツ達も、近付いてくる。その筆頭でコーンが笑う。
「こんな格好で育ててるから、愛着沸いちゃって、見捨てられないんだよね」
広い畑いっぱいの夏野菜達。
美味しい内に収穫して、お腹いっぱい召し上がれ。
『野菜を収穫して、料理して、食べて下さい!』
至急、と札を貼り付けて依頼が1つ掲げられた。
リプレイ本文
●
夏の盛りを過ぎれば、早朝は涼しげな風が渡る。白み始めた空から名残の様に蝉の啼く声が近く遠く、まだ仄暗い夜の薄い月の傍らから虫の声が聞こえる。
夜露を払って実験畑の夏野菜区画へ現れた岩井崎 旭(ka0234)は東の空を地平線から昇る朝日に目を細め、両腕を天へと背を伸ばす。
「やっぱ、いーよなー……畑ってさー」
見渡す実りはどれも熟れて、収穫の手を待ち望んでいる。
畑の中、ちらほらとTシャツを着た夏野菜畑の研究メンバーも現れ始める。その中で、ピーマンと記されたTシャツを着た1人が紙袋を掲げて手を振った。中身は揃いのTシャツだという。
「サンキュ! トマトに対抗するならピーマンだよな!」
文字をひらりと掲げて爽やかに笑う。はしゃぐピーマンの隣で悄気たトマトの青年が口を尖らせた。
「何で対抗するんだよー」
「へへー! ピーマン、1人増員だね!」
眠そうに目を擦っていたメンバー達にも楽しげな声が広がり始め、朝日の眩しさに照らされた野菜が地面に淡い影を伸ばす。
「さあ、行くぞ!」
ナイフを構えて畑へ前進、痛みそうなナスやトマトは朝の内に済ませてしまおう。
ルビーの色に熟れた大粒の実りを空に掲げる、実りへの感謝を祈ると、耳許で祖霊の羽ばたきを聞いた気がした。
「テキパキ刈ってくぞ、野郎ども!」
リアルブルーの農業に明るい沖本 権三郎(ka2483)は、一面の畑を前に顎を引いて瞼を伏せた。多様な実りへの感謝を捧げ、振り返ると集まったメンバーを畑へと煽動する。
畑のあちこちで収穫が進んでいく。
「……あたしは、野郎じゃ無いんだけどね……1本どう?」
沖本の傍で籠にキュウリを刈り取っていたメンバーの一人がちらりと視線を上げて細く笑った。籠には溢れそうな程折り重なっている。新たに1つ刈り取ると小刀で蔕と刺を払って差し出す。
沖本は差し出されたキュウリを囓りながら籠を眺めた。
「この量は中々骨が折れるな。リゼリオあたりに出荷しちまえばいいんじゃねぇか?」
「そしたら、僕も色んな人に食べて貰えるかな」
キュウリと同じように籠を満たしたゴーヤが、重たげにそれを置きながら呟いた。
来年も豊作だったらね、とキュウリとゴーヤが互いの籠を眺めながら喋っている。
籠の1番上、鮮やかな緑を取り上げて眺める。
「良い出来具合だ」
沖本の声にゴーヤが嬉しげに、でしょう、と笑った。
緑の畑、収穫を終えるにはまだ大分掛かりそうだ。畑のメンバー達の間に、リゼリオへの出荷を囁く声が広がり始めた。
「わあ、美味しそうなお野菜がこんなに!」
「えへへ…なんだかLH044を思い出します」
ミューレ(ka4567)と来未 結(ka4610)が畑を見詰めて目を輝かせる。
畝を順にミニトマト、キュウリ、ナス、と辿りながら、コーンの影の中に走って行った来未を見詰めてミューレは目を細めた。
「あんまり離れると、見えなくなるよ」
「ふふ、ミューレさんも来て下さい、こっちです!」
コーンを抱えて手を振ると、愛しげに見詰めるミューレの優しい笑顔と目が合った。
穏やかな青い瞳が眦を垂れて、結と呼んだ。
鮮やかに色付いた夏野菜の実り、生命感溢れる畑の中で、彼女の姿が眩しく輝いて見える。
今行くよ。畑に一歩踏み込んで、眩しい日差しの中を駆け寄った。
はしゃいでコーンの間を右に左にと走る来未を追って、ミューレもコーンを1本折り取る。
これはスープにでもしようか、と、来未を探すと、葉の間から現れた来未の手がミューレの手を取りトウモロコシの並ぶ畝の間へ引き込んだ。
2人からは見上げる程高いコーンの丈、その先には青い空に雲が走る。ざっと葉の擦れる音が鳴った。
「二人っきりみたいですね」
「そうだね」
コーンを抱えて2人顔を寄せ合って内緒話。向こうに大きなトマトを見付けたと言う来未が、ミューレの手を引いて走り出した。
Tシャツのメンバーが、これで良いかと荷車を運ぶ。2人掛かりでそれをレドと名付けた重装馬に、今日はよろしくと括り付ける。いつもは鎧を着けるこの馬も、今日は妖精と梟を傍らに収穫の手伝いに駆り出されていた。
抱えてきた腕一杯のコーンを積み、次の野菜へと手を伸ばす。
「キュウリやトマトは生でも美味しそうだよね、サラダにしようか?」
ミューレが両手で丁寧に包むように捧げ持ったトマトを来未に差し出す。
「ドレッシング、色んな味を用意します!」
実りへの感謝を囁きながらトマトを撫でて、来未がぐっと握った手を思い切り空に伸ばした。
●
収穫した野菜を管理棟の給湯室へ、あまり広くは無いその部屋は、作業を始めれば2人でも少し狭く感じる。少し時間の掛かるラタトゥイユに先に手を着けることにした。
蔕を取って一口大に切ったナスに、ズッキーニ。ピーマンと吊してあったタマネギも食べやすい幅に切って鍋へ。甘い完熟トマトを加え、煮立たせるように炒めると部屋の外までトマトの甘酸っぱい香りが広がっていく。
「ふぅ……作り甲斐があります」
大きな鍋を覗き込むように、蓋を開けて掻き混ぜて。柔らかくなった野菜をトマトの水分で煮詰めながら、来未はにっこりと頷いてぐっと手を握った。
「……こっちも、どうかな? 結、ちょっと味見してもらえる?……あー、ん」
蒸して潰した橙色の鮮やかなカボチャと大粒のトウモロコシ、ミルクで伸ばして柔らかく、調味料で味を調えて。美味しく出来た香りに、ミューレは1番に食べさせたい人へと、レードルを置いてスプーンを差し出す。
ぱく、とスプーンを咥えた来未が、こくんと喉を鳴らして満面の笑顔を見せた。
「……っ、ミューレさん、ばっちりです!――ミューレさん、私の料理も。はい、あーん、です」
1番に食べて欲しいと思うのは同じ、隠し味は秘密です。そう微笑んで、菜箸に摘まんだ柔らかく煮えたナスとタマネギを差し出す。
口いっぱいに広がるトマトの酸味と甘味、野菜の柔らかな歯ごたえと新鮮な瑞々しさを、それから来未の隠し味を感じ、美味しいよとミューレは嬉しそうに答えた。
ミューレが野菜を刻んでサラダを盛りつける傍らで、来未はスパイスを探してドレッシングを作り始める。3種類用意したそれは、甘いのも辛いのも、どれもサラダによく合う食欲をそそる味に仕上がった。
籠一杯の収穫を終え、沖本は立ち上がって額の汗を拭った。高い日が眩しく目に刺さってくる。
冷蔵庫にミキサーに、諸諸の調理器具の有無を尋ねると、キッチンの魔導機械が揃うのは研究棟の調理室だと、キュウリのTシャツのメンバーが何本目かのキュウリで喉を潤しながら答えた。
「ま、運ぶか」
「ん。手伝う。ゴーヤとコーンも行くよー」
数人のメンバーが籠を抱えて何往復か、必要な野菜を運び終えると、興味深げに沖本の手元を眺めに留まった。
ミキサーで潰して混ぜる野菜は冷やしてジュースに、摺り下ろした野菜にゼラチンを和えてゼリーに、これは食事の後までよく冷やして。
「最後にゃデザートってのも乙なもんだろ? かっはっは!」
「――それ、まだ作ったこと無いから、みんなよく聞いて来年に備えてくれよ!」
沖本が快活に笑うと、通りすがりのトマトが、調理室に集まったメンバーを見回して言い残していった。
「料理、上手なんですね……僕、不器用だから羨ましい……」
苦みを抜いて微塵切りにされたゴーヤを見詰め、それをTシャツにペイントしたメンバーが呟いた。
「まあ、男の料理ってな。バターとオリーブオイルはあるかい?」
ゴーヤが手伝いに走り、キュウリがそれを眺め、コーンはトマトの指示に慌ててメモを取り始めた。
微塵切りの野菜にバターの香り、寸胴に沸かした湯にパスタを放り込んで、調理室の料理の仕上がりも間近なようだ。
●
トマトが調理室から肉や魚、それの刺さる金串を抱えて畑に戻ると、焚き火が金網を赤く熱していた。
網の上には既にコーンが寝かされて、薄く焼き色を付けている。
「お、おかえりー。早速焼くか!」
簡単な台の上に粗く切った野菜と肉と魚、料理は苦手だと言いながら、岩井崎は手際よくそれらを串に刺して金網に並べていく。大粒のミニトマトを口に放り込むと染みる甘酸っぱさに目を瞑って空を仰いだ。
「トマト、気に入ってくれた?」
「あー、ほら、ピーマン焼けたよー!」
岩井崎を挟んで座る2人が、焼き立てのトマトとピーマンを差し出して笑う。
芳ばしく焼ける野菜の匂いは、朝から働き通しの胃を刺激する。
余り大食漢ではない方だが、今日は何だか沢山食べられそうな気分だ。
岩井崎は串を手に取ると、トマトとピーマンを交互に刺していく。どっちも美味い、と笑いながら焼けた串を火から離し、畑の作業に一段落付けたメンバー達を招いた。
「おーい、あんた達も飯にしよう、美味そうに焼けたぜ!」
集まってくるメンバーは、あれもこれもと野菜を更に運んでくる。ピーマンやトマトも岩井崎を手伝っているが、追い付かないくらいの籠が置かれた。
ナスと肉を刺した串を火に掛けていると管理棟から鍋を乗せた台車と、大皿を慎重に運ぶ2人が戻ってきた。
座れる場所を、とミューレが来未を気遣う声、メンバーも殆どが畑から戻りそれぞれ火の傍らで寛いでいる。
何本目かの串が焼ける頃、研究棟の方から呼ぶ声が聞こえた。グラスとデカンタを抱えたメンバーと、野菜のソースを絡めたパスタの皿を抱えた沖本が向かってくる。
木箱をテーブル代わりにパスタを取り分け、ジュースを注ぎ分けて。それでも余ると喋っている間に、白衣や繋ぎを着込んだ隣の畑の研究員が顔を出した。
「収穫お疲れ! みんなの料理も美味そうだ……いただきます!」
ジュースのグラスを掲げてメンバーを見回して、トマトが岩井崎に乾杯を、と囁いて笑う。岩井崎の声で緑や赤のグラスを翳し、メンバーとハンター達、そしてふらりと集まった実験畑の研究員達が食事を始める。
ピーマンとトマトも、それぞれの野菜を食べてまあまあだと、悪くないと言いながら楽しげに喋っている。
生で囓ってばかりのキュウリも、ジュースやサラダ、ソースに紛れて軽く火の通ったものも美味しそう緒に食べている。
焼けたコーンを囓りながら、案内人はコーンのTシャツのメンバーに話し掛けた。
「今日は、如何でした?」
コーンは、一周食べきって頬を膨らませながら、楽しかったと言う様にこくこくと何度も頷いた。
「……ん、凄く楽しかったですよ。収穫も、料理も。沖本さんの微塵切り野菜ソースのパスタ、来年も作ります」
殆ど空になったパスタの皿を眺めると、それから、とその目を大きな鍋へ移す。
鍋一杯に作られたラタトゥイユはまだ残ってはいるようだが、よそいに来るメンバーが途切れることは無い。
「あのラタトゥイユも。何か幸せになる味がしました……」
作った人が幸せだからかな、と、コーンと案内人の視線の先、寄り添ってスープを飲むミューレと来未が互いを見詰めて楽しそうに笑っていた。
「さて、そろそろか……」
その場で差しては焼く串焼きの野菜の他は皿も鍋も空いて、美味しかったと野菜のジュースや、別の研究室が持ち込んだハーブティーを飲みながら談笑の広がる頃。沖本はメンバーに声を掛けて調理室へ向かった。
冷やしているゼリーがそろそろ食べ頃だろうと、台車を1つ転がして。
「喜んで貰えて良かったですよー。今後とも、困った時はぜひ、ハンターオフィスを頼って下さいね!」
デザート、デザートとはしゃぎながら、案内人が楽しげに言う。
「ゼリーか……お腹いっぱいになっちゃったな、結、半分こしようか」
「……っ、は、はいっ!」
ミューレが尋ねると、来未が頬を赤らめながら頷いた。頬が熱いと両手で隠した顔を伏せている。
「野菜は好きだ。好きだ……俺は、満腹の、限界を、超えるッ!!」
野菜炒めを掻き込んで、岩井崎は親指を立てた。
まだ食べられそうだと思うのは、傍の広い畑のせいだろうか。
沖本が戻ると、空いた皿と鍋は片付いて、食べ足りなさそうな数人が今か今かと待っていた。
改めて頂きますと言いながら一口、岩井崎はその野菜の味と食感に破顔し、変わらぬペースで食べ進めていく。
一口掬っては食べさせ合うように、一皿のゼリーを分け合って、ミューレと来未も美味しいねと囁き合う。
メンバー達の概ね好評な様子に沖本もにっと口角を上げ、空になった器を集めて回った。
「残った野菜は保存がきくようなものは孤児院にでも寄付すればいいさ」
これだけ作って、食べてもまだ全部では無いだろうから。そうですね、とトマトが朝に比べれば様変わりした畑を眺めて頷いた。
岩井崎も流石に食べ過ぎたと言うように、焚き火の石組みを崩すと、芝生の上に転がって居る。
「ごちそうさま……ここの農業魔法に興味があるな……お話を伺っても良いかな?」
ミューレは来未とレドの荷車を解きながら、それを手伝っていたメンバーに尋ねたが、メンバーは大分長く考え込んでから、ぽんと手を叩いた。
「俺たちは、見習いだし、今日は教授もいないから難しいな。でも、この畑の観察日記で良ければ好きに見て行ってよ」
メンバーの案内で繙かれた畑の観察日記、絵日記のようなその綴りの最後のページ。
今日の日付を添えて、美味しい料理の絵がメンバーそれぞれの個性的な筆致で描かれることになった。
夏の盛りを過ぎれば、早朝は涼しげな風が渡る。白み始めた空から名残の様に蝉の啼く声が近く遠く、まだ仄暗い夜の薄い月の傍らから虫の声が聞こえる。
夜露を払って実験畑の夏野菜区画へ現れた岩井崎 旭(ka0234)は東の空を地平線から昇る朝日に目を細め、両腕を天へと背を伸ばす。
「やっぱ、いーよなー……畑ってさー」
見渡す実りはどれも熟れて、収穫の手を待ち望んでいる。
畑の中、ちらほらとTシャツを着た夏野菜畑の研究メンバーも現れ始める。その中で、ピーマンと記されたTシャツを着た1人が紙袋を掲げて手を振った。中身は揃いのTシャツだという。
「サンキュ! トマトに対抗するならピーマンだよな!」
文字をひらりと掲げて爽やかに笑う。はしゃぐピーマンの隣で悄気たトマトの青年が口を尖らせた。
「何で対抗するんだよー」
「へへー! ピーマン、1人増員だね!」
眠そうに目を擦っていたメンバー達にも楽しげな声が広がり始め、朝日の眩しさに照らされた野菜が地面に淡い影を伸ばす。
「さあ、行くぞ!」
ナイフを構えて畑へ前進、痛みそうなナスやトマトは朝の内に済ませてしまおう。
ルビーの色に熟れた大粒の実りを空に掲げる、実りへの感謝を祈ると、耳許で祖霊の羽ばたきを聞いた気がした。
「テキパキ刈ってくぞ、野郎ども!」
リアルブルーの農業に明るい沖本 権三郎(ka2483)は、一面の畑を前に顎を引いて瞼を伏せた。多様な実りへの感謝を捧げ、振り返ると集まったメンバーを畑へと煽動する。
畑のあちこちで収穫が進んでいく。
「……あたしは、野郎じゃ無いんだけどね……1本どう?」
沖本の傍で籠にキュウリを刈り取っていたメンバーの一人がちらりと視線を上げて細く笑った。籠には溢れそうな程折り重なっている。新たに1つ刈り取ると小刀で蔕と刺を払って差し出す。
沖本は差し出されたキュウリを囓りながら籠を眺めた。
「この量は中々骨が折れるな。リゼリオあたりに出荷しちまえばいいんじゃねぇか?」
「そしたら、僕も色んな人に食べて貰えるかな」
キュウリと同じように籠を満たしたゴーヤが、重たげにそれを置きながら呟いた。
来年も豊作だったらね、とキュウリとゴーヤが互いの籠を眺めながら喋っている。
籠の1番上、鮮やかな緑を取り上げて眺める。
「良い出来具合だ」
沖本の声にゴーヤが嬉しげに、でしょう、と笑った。
緑の畑、収穫を終えるにはまだ大分掛かりそうだ。畑のメンバー達の間に、リゼリオへの出荷を囁く声が広がり始めた。
「わあ、美味しそうなお野菜がこんなに!」
「えへへ…なんだかLH044を思い出します」
ミューレ(ka4567)と来未 結(ka4610)が畑を見詰めて目を輝かせる。
畝を順にミニトマト、キュウリ、ナス、と辿りながら、コーンの影の中に走って行った来未を見詰めてミューレは目を細めた。
「あんまり離れると、見えなくなるよ」
「ふふ、ミューレさんも来て下さい、こっちです!」
コーンを抱えて手を振ると、愛しげに見詰めるミューレの優しい笑顔と目が合った。
穏やかな青い瞳が眦を垂れて、結と呼んだ。
鮮やかに色付いた夏野菜の実り、生命感溢れる畑の中で、彼女の姿が眩しく輝いて見える。
今行くよ。畑に一歩踏み込んで、眩しい日差しの中を駆け寄った。
はしゃいでコーンの間を右に左にと走る来未を追って、ミューレもコーンを1本折り取る。
これはスープにでもしようか、と、来未を探すと、葉の間から現れた来未の手がミューレの手を取りトウモロコシの並ぶ畝の間へ引き込んだ。
2人からは見上げる程高いコーンの丈、その先には青い空に雲が走る。ざっと葉の擦れる音が鳴った。
「二人っきりみたいですね」
「そうだね」
コーンを抱えて2人顔を寄せ合って内緒話。向こうに大きなトマトを見付けたと言う来未が、ミューレの手を引いて走り出した。
Tシャツのメンバーが、これで良いかと荷車を運ぶ。2人掛かりでそれをレドと名付けた重装馬に、今日はよろしくと括り付ける。いつもは鎧を着けるこの馬も、今日は妖精と梟を傍らに収穫の手伝いに駆り出されていた。
抱えてきた腕一杯のコーンを積み、次の野菜へと手を伸ばす。
「キュウリやトマトは生でも美味しそうだよね、サラダにしようか?」
ミューレが両手で丁寧に包むように捧げ持ったトマトを来未に差し出す。
「ドレッシング、色んな味を用意します!」
実りへの感謝を囁きながらトマトを撫でて、来未がぐっと握った手を思い切り空に伸ばした。
●
収穫した野菜を管理棟の給湯室へ、あまり広くは無いその部屋は、作業を始めれば2人でも少し狭く感じる。少し時間の掛かるラタトゥイユに先に手を着けることにした。
蔕を取って一口大に切ったナスに、ズッキーニ。ピーマンと吊してあったタマネギも食べやすい幅に切って鍋へ。甘い完熟トマトを加え、煮立たせるように炒めると部屋の外までトマトの甘酸っぱい香りが広がっていく。
「ふぅ……作り甲斐があります」
大きな鍋を覗き込むように、蓋を開けて掻き混ぜて。柔らかくなった野菜をトマトの水分で煮詰めながら、来未はにっこりと頷いてぐっと手を握った。
「……こっちも、どうかな? 結、ちょっと味見してもらえる?……あー、ん」
蒸して潰した橙色の鮮やかなカボチャと大粒のトウモロコシ、ミルクで伸ばして柔らかく、調味料で味を調えて。美味しく出来た香りに、ミューレは1番に食べさせたい人へと、レードルを置いてスプーンを差し出す。
ぱく、とスプーンを咥えた来未が、こくんと喉を鳴らして満面の笑顔を見せた。
「……っ、ミューレさん、ばっちりです!――ミューレさん、私の料理も。はい、あーん、です」
1番に食べて欲しいと思うのは同じ、隠し味は秘密です。そう微笑んで、菜箸に摘まんだ柔らかく煮えたナスとタマネギを差し出す。
口いっぱいに広がるトマトの酸味と甘味、野菜の柔らかな歯ごたえと新鮮な瑞々しさを、それから来未の隠し味を感じ、美味しいよとミューレは嬉しそうに答えた。
ミューレが野菜を刻んでサラダを盛りつける傍らで、来未はスパイスを探してドレッシングを作り始める。3種類用意したそれは、甘いのも辛いのも、どれもサラダによく合う食欲をそそる味に仕上がった。
籠一杯の収穫を終え、沖本は立ち上がって額の汗を拭った。高い日が眩しく目に刺さってくる。
冷蔵庫にミキサーに、諸諸の調理器具の有無を尋ねると、キッチンの魔導機械が揃うのは研究棟の調理室だと、キュウリのTシャツのメンバーが何本目かのキュウリで喉を潤しながら答えた。
「ま、運ぶか」
「ん。手伝う。ゴーヤとコーンも行くよー」
数人のメンバーが籠を抱えて何往復か、必要な野菜を運び終えると、興味深げに沖本の手元を眺めに留まった。
ミキサーで潰して混ぜる野菜は冷やしてジュースに、摺り下ろした野菜にゼラチンを和えてゼリーに、これは食事の後までよく冷やして。
「最後にゃデザートってのも乙なもんだろ? かっはっは!」
「――それ、まだ作ったこと無いから、みんなよく聞いて来年に備えてくれよ!」
沖本が快活に笑うと、通りすがりのトマトが、調理室に集まったメンバーを見回して言い残していった。
「料理、上手なんですね……僕、不器用だから羨ましい……」
苦みを抜いて微塵切りにされたゴーヤを見詰め、それをTシャツにペイントしたメンバーが呟いた。
「まあ、男の料理ってな。バターとオリーブオイルはあるかい?」
ゴーヤが手伝いに走り、キュウリがそれを眺め、コーンはトマトの指示に慌ててメモを取り始めた。
微塵切りの野菜にバターの香り、寸胴に沸かした湯にパスタを放り込んで、調理室の料理の仕上がりも間近なようだ。
●
トマトが調理室から肉や魚、それの刺さる金串を抱えて畑に戻ると、焚き火が金網を赤く熱していた。
網の上には既にコーンが寝かされて、薄く焼き色を付けている。
「お、おかえりー。早速焼くか!」
簡単な台の上に粗く切った野菜と肉と魚、料理は苦手だと言いながら、岩井崎は手際よくそれらを串に刺して金網に並べていく。大粒のミニトマトを口に放り込むと染みる甘酸っぱさに目を瞑って空を仰いだ。
「トマト、気に入ってくれた?」
「あー、ほら、ピーマン焼けたよー!」
岩井崎を挟んで座る2人が、焼き立てのトマトとピーマンを差し出して笑う。
芳ばしく焼ける野菜の匂いは、朝から働き通しの胃を刺激する。
余り大食漢ではない方だが、今日は何だか沢山食べられそうな気分だ。
岩井崎は串を手に取ると、トマトとピーマンを交互に刺していく。どっちも美味い、と笑いながら焼けた串を火から離し、畑の作業に一段落付けたメンバー達を招いた。
「おーい、あんた達も飯にしよう、美味そうに焼けたぜ!」
集まってくるメンバーは、あれもこれもと野菜を更に運んでくる。ピーマンやトマトも岩井崎を手伝っているが、追い付かないくらいの籠が置かれた。
ナスと肉を刺した串を火に掛けていると管理棟から鍋を乗せた台車と、大皿を慎重に運ぶ2人が戻ってきた。
座れる場所を、とミューレが来未を気遣う声、メンバーも殆どが畑から戻りそれぞれ火の傍らで寛いでいる。
何本目かの串が焼ける頃、研究棟の方から呼ぶ声が聞こえた。グラスとデカンタを抱えたメンバーと、野菜のソースを絡めたパスタの皿を抱えた沖本が向かってくる。
木箱をテーブル代わりにパスタを取り分け、ジュースを注ぎ分けて。それでも余ると喋っている間に、白衣や繋ぎを着込んだ隣の畑の研究員が顔を出した。
「収穫お疲れ! みんなの料理も美味そうだ……いただきます!」
ジュースのグラスを掲げてメンバーを見回して、トマトが岩井崎に乾杯を、と囁いて笑う。岩井崎の声で緑や赤のグラスを翳し、メンバーとハンター達、そしてふらりと集まった実験畑の研究員達が食事を始める。
ピーマンとトマトも、それぞれの野菜を食べてまあまあだと、悪くないと言いながら楽しげに喋っている。
生で囓ってばかりのキュウリも、ジュースやサラダ、ソースに紛れて軽く火の通ったものも美味しそう緒に食べている。
焼けたコーンを囓りながら、案内人はコーンのTシャツのメンバーに話し掛けた。
「今日は、如何でした?」
コーンは、一周食べきって頬を膨らませながら、楽しかったと言う様にこくこくと何度も頷いた。
「……ん、凄く楽しかったですよ。収穫も、料理も。沖本さんの微塵切り野菜ソースのパスタ、来年も作ります」
殆ど空になったパスタの皿を眺めると、それから、とその目を大きな鍋へ移す。
鍋一杯に作られたラタトゥイユはまだ残ってはいるようだが、よそいに来るメンバーが途切れることは無い。
「あのラタトゥイユも。何か幸せになる味がしました……」
作った人が幸せだからかな、と、コーンと案内人の視線の先、寄り添ってスープを飲むミューレと来未が互いを見詰めて楽しそうに笑っていた。
「さて、そろそろか……」
その場で差しては焼く串焼きの野菜の他は皿も鍋も空いて、美味しかったと野菜のジュースや、別の研究室が持ち込んだハーブティーを飲みながら談笑の広がる頃。沖本はメンバーに声を掛けて調理室へ向かった。
冷やしているゼリーがそろそろ食べ頃だろうと、台車を1つ転がして。
「喜んで貰えて良かったですよー。今後とも、困った時はぜひ、ハンターオフィスを頼って下さいね!」
デザート、デザートとはしゃぎながら、案内人が楽しげに言う。
「ゼリーか……お腹いっぱいになっちゃったな、結、半分こしようか」
「……っ、は、はいっ!」
ミューレが尋ねると、来未が頬を赤らめながら頷いた。頬が熱いと両手で隠した顔を伏せている。
「野菜は好きだ。好きだ……俺は、満腹の、限界を、超えるッ!!」
野菜炒めを掻き込んで、岩井崎は親指を立てた。
まだ食べられそうだと思うのは、傍の広い畑のせいだろうか。
沖本が戻ると、空いた皿と鍋は片付いて、食べ足りなさそうな数人が今か今かと待っていた。
改めて頂きますと言いながら一口、岩井崎はその野菜の味と食感に破顔し、変わらぬペースで食べ進めていく。
一口掬っては食べさせ合うように、一皿のゼリーを分け合って、ミューレと来未も美味しいねと囁き合う。
メンバー達の概ね好評な様子に沖本もにっと口角を上げ、空になった器を集めて回った。
「残った野菜は保存がきくようなものは孤児院にでも寄付すればいいさ」
これだけ作って、食べてもまだ全部では無いだろうから。そうですね、とトマトが朝に比べれば様変わりした畑を眺めて頷いた。
岩井崎も流石に食べ過ぎたと言うように、焚き火の石組みを崩すと、芝生の上に転がって居る。
「ごちそうさま……ここの農業魔法に興味があるな……お話を伺っても良いかな?」
ミューレは来未とレドの荷車を解きながら、それを手伝っていたメンバーに尋ねたが、メンバーは大分長く考え込んでから、ぽんと手を叩いた。
「俺たちは、見習いだし、今日は教授もいないから難しいな。でも、この畑の観察日記で良ければ好きに見て行ってよ」
メンバーの案内で繙かれた畑の観察日記、絵日記のようなその綴りの最後のページ。
今日の日付を添えて、美味しい料理の絵がメンバーそれぞれの個性的な筆致で描かれることになった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/10 00:40:33 |
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本日の献立(相談卓) 来未 結(ka4610) 人間(リアルブルー)|14才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/09/10 02:31:01 |