ゲスト
(ka0000)
あおひかげ【2.5】
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/29 09:00
- 完成日
- 2015/09/06 07:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
イチヨ族の族長、サ・ナダはハンター達を集め、インデュー族の近況を報告した。
祭はハンター達の立案したものを元に、着々と進んでいると言う。宣伝に関しても、船で積み荷を運ぶ際にその都度実行しているそうだ。
「ただ幾つか問題も残っていて、前回のプレゼンからの問題の解決をご依頼したいのです」
今回は、形がそれなりに出来てきているので、それを実際に手伝う方式になるそうだ。
「先ずは一つ目、山車の装飾です」
そう言って、山車全体像を書き記した紙をハンター達に渡す。既に原型は組上がっており、真ん中に車輪。先頭には馬にも龍にも似た歪虚の面が飾ってあった。
側面に藍染め提灯、と言う案があったのだが。行進は昼に行われるため明かりが目立たず、別案が欲しい、と言うところだ。
「二つ目、屋台に出す甘味」
屋台には、トルティーヤに似た、蒸し鳥や豆を巻いた食べ物を出店する。だが、これの味付けはどうも大人向きなのだ。
昼間の行進に、子供の楽器演奏体験もあるので、子供向けの食事は必要だろう。
「それから、三つ目。此方は、インデュー族の族長アキエヴェ様直々のご依頼です」
先二つの内容は、何となくハンター達も勘づいてはいた。しかし、最後の内容は殆どのハンターが初耳であった。申し訳なさげに、ナダは小声で喋った。
「族長兼、巫女代理アキエヴェに戦舞を教えてください」
●灯火
族長アキエヴェは早朝ある場所を訪ねた。
灯りも無いためか、日があるのにまだ薄暗く、ただ薄汚れた絹の染め物が中央に鎮座するだけの部屋。
インデュー族集落にある小さな社。その社の管理者でもある祭司に、彼女は話を聞きに来た。
それはあるハンターより提案された、前族長であり母、トゥューハの英霊に出来ないかと言うものだ。
「現段階では、ほぼ不可能です」
確かに、彼女は英霊に値する物は持ち得ているだろう。だが、全体的に信仰が足りていないのだ。そう祭司は言い切る、なんとも残念そうに。
「アキエヴェ様の言う『集落の一部』が望む、では英霊化には全く足りていないでしょう」
幾らかの時を隔て、信仰が根付けば、英霊化も可能になるかも知れない、そう冷静に彼は付け加えてもくれた。
「……話は終わりましたね。では、ここからは父として問いましょう……出来るのか?」
核心につくような、私事用の低い声が娘、アキエヴェは言葉が詰まる。血縁だからこそ理解できる、相手の弱いところ。
「トハ、キミには基本的に藍染の技術や商いしか教えてなかったはずだ。戦舞なんて、見たことも無いだろう」
「……ハンターの方々に、依頼しご教示を願います」
段々とか細くなる声色。穏やかである早朝の空気に剣呑な祭司の言葉が走る。
「半月期間があるとは言え、『アレ』が出来るか?」
「それは……」
『アレ』とはハンター達が戦舞にて、見せ場として部族に披露した演出である。拍手喝采、民達に好評だった演出だ。今更、これをなしには出来ないだろう。皮肉なのかなんなのか、草案はハンターの一人と祭司であったりする。アキエヴェは自ら能力を実感し、言葉がしどろもどろにならざるを得ない。
「甘く考えているなら、袱紗でも顔に着けて。誰かに身代わりにでもして貰った方が有益だよ?」
「っ……そのお言葉。しっかり覚えておいて下さいませ、クソ親父殿」
祭司は社の戸を潜り、柔和な笑みを浮かべるアキエヴェと、それに似つかない大袈裟な戸が閉じまる音を聴いた。わざとらしく徐々に消えていく足音に彼はこう呟く。
「……信じているよ『キミ』の力」
と。
アキエヴェは朝焼けの日に、目を伏せながら歩を進めると一つのハンターの言葉が頭を過ぎった。
――巫女の本質は犠牲だと、俺は教えられました――
同時に否定するように、頭を横に振った。
(そんなはずは無い。母が犠牲なんて、そんなの認められない!)
●
「ああ、皆さん」
ハンター達が各自の依頼内容を確認するな中、ナダは思い出したように彼らに告げた。余程大事なことらしく、珍しく真剣に語る。
「祭事の中身も大切ですが、外身……祭事の名前も考えておいてくださいね?」
祭はハンター達の立案したものを元に、着々と進んでいると言う。宣伝に関しても、船で積み荷を運ぶ際にその都度実行しているそうだ。
「ただ幾つか問題も残っていて、前回のプレゼンからの問題の解決をご依頼したいのです」
今回は、形がそれなりに出来てきているので、それを実際に手伝う方式になるそうだ。
「先ずは一つ目、山車の装飾です」
そう言って、山車全体像を書き記した紙をハンター達に渡す。既に原型は組上がっており、真ん中に車輪。先頭には馬にも龍にも似た歪虚の面が飾ってあった。
側面に藍染め提灯、と言う案があったのだが。行進は昼に行われるため明かりが目立たず、別案が欲しい、と言うところだ。
「二つ目、屋台に出す甘味」
屋台には、トルティーヤに似た、蒸し鳥や豆を巻いた食べ物を出店する。だが、これの味付けはどうも大人向きなのだ。
昼間の行進に、子供の楽器演奏体験もあるので、子供向けの食事は必要だろう。
「それから、三つ目。此方は、インデュー族の族長アキエヴェ様直々のご依頼です」
先二つの内容は、何となくハンター達も勘づいてはいた。しかし、最後の内容は殆どのハンターが初耳であった。申し訳なさげに、ナダは小声で喋った。
「族長兼、巫女代理アキエヴェに戦舞を教えてください」
●灯火
族長アキエヴェは早朝ある場所を訪ねた。
灯りも無いためか、日があるのにまだ薄暗く、ただ薄汚れた絹の染め物が中央に鎮座するだけの部屋。
インデュー族集落にある小さな社。その社の管理者でもある祭司に、彼女は話を聞きに来た。
それはあるハンターより提案された、前族長であり母、トゥューハの英霊に出来ないかと言うものだ。
「現段階では、ほぼ不可能です」
確かに、彼女は英霊に値する物は持ち得ているだろう。だが、全体的に信仰が足りていないのだ。そう祭司は言い切る、なんとも残念そうに。
「アキエヴェ様の言う『集落の一部』が望む、では英霊化には全く足りていないでしょう」
幾らかの時を隔て、信仰が根付けば、英霊化も可能になるかも知れない、そう冷静に彼は付け加えてもくれた。
「……話は終わりましたね。では、ここからは父として問いましょう……出来るのか?」
核心につくような、私事用の低い声が娘、アキエヴェは言葉が詰まる。血縁だからこそ理解できる、相手の弱いところ。
「トハ、キミには基本的に藍染の技術や商いしか教えてなかったはずだ。戦舞なんて、見たことも無いだろう」
「……ハンターの方々に、依頼しご教示を願います」
段々とか細くなる声色。穏やかである早朝の空気に剣呑な祭司の言葉が走る。
「半月期間があるとは言え、『アレ』が出来るか?」
「それは……」
『アレ』とはハンター達が戦舞にて、見せ場として部族に披露した演出である。拍手喝采、民達に好評だった演出だ。今更、これをなしには出来ないだろう。皮肉なのかなんなのか、草案はハンターの一人と祭司であったりする。アキエヴェは自ら能力を実感し、言葉がしどろもどろにならざるを得ない。
「甘く考えているなら、袱紗でも顔に着けて。誰かに身代わりにでもして貰った方が有益だよ?」
「っ……そのお言葉。しっかり覚えておいて下さいませ、クソ親父殿」
祭司は社の戸を潜り、柔和な笑みを浮かべるアキエヴェと、それに似つかない大袈裟な戸が閉じまる音を聴いた。わざとらしく徐々に消えていく足音に彼はこう呟く。
「……信じているよ『キミ』の力」
と。
アキエヴェは朝焼けの日に、目を伏せながら歩を進めると一つのハンターの言葉が頭を過ぎった。
――巫女の本質は犠牲だと、俺は教えられました――
同時に否定するように、頭を横に振った。
(そんなはずは無い。母が犠牲なんて、そんなの認められない!)
●
「ああ、皆さん」
ハンター達が各自の依頼内容を確認するな中、ナダは思い出したように彼らに告げた。余程大事なことらしく、珍しく真剣に語る。
「祭事の中身も大切ですが、外身……祭事の名前も考えておいてくださいね?」
リプレイ本文
水流崎トミヲ(ka4852)はインデュー族の集落にて一人心地る。他のハンター達から、今までの依頼内容のみは聞いていた。
「血のつながりだけじゃあ、無いんだね」
各々が真剣に、それでいて愉しげに話し合う。願い、絆その文化遺伝子――ミームが自分の目の前で脈々と引き継がれているのだ。
(……クリムゾンウェストのことが、少しだけ好きになったよ)
「おーい、確かにあったぜ」
そこには、山の粘土層から取り出した2m以上の粘土をマ・エダに運んで貰っていた。
トミヲの眼鏡が文字どおり光る。
「FMT30↑★TheRisingゥゥゥ」
説明しよう。『FMT30↑★TheRising』とは、トミヲ特有(と本人は思っている)童貞魔法の一つだ。粘土を力任せに捏ねてるようにみえるが、その実、乳飲み子の様に炎を抱える女性像に形成されていく。
二つのミームの共存。それを彼は一つのオブジェで表したいと考えたのだ。
「見事じゃねぇの」
「フフフ、わざと精巧に作らないことで、巫女や族長誰とでも見えるんだ」
あのプルプルした腕の無駄肉から、この様な作品が作られたと誰が思うだろうか。
「尤もこれを型に、像を造るんだけどね」
それは祭に、とふくふくとした顔をにんまりさせるトミヲであった。
●山車
組み立て終わった山車には専用の小屋が用意され、流線型の山車の縁に引っ掛けるフックがある。
ハンター他、二人の人間が山車の演出を確認する。それは前回プレゼンにて意見を申した男と祭司であった。
装飾の方法は大きく分けて二つ。一つは久延毘 大二郎(ka1771)の提案だ。
彼は山車によじ登れば、赤い紙風船をいくつか用意した。それを縁に引っ掛け……
「よっ、と」
紙風船を取り外すと、その下から藍染めの吹き流しが顔を覗かせた。これを先頭歪虚の頭を落とすと同時に行うのだ。
「紙風船を割るのも、また一つの手かも知れないのである」
もう一つはエアルドフリス(ka1856)案。此方は、先程の吹き流しより長い布。しかも藍染めの布と紅い……紅花染めの布を縫い合わせたものだ。これを二つ折にし、最初は紅い布を時がくれば元に戻して藍染めの吹き流しを見せる。
「前集落の歴史も利用した、と言うわけですか」
それとは別に藍色に変わった山車より献火台を降ろして、その火に祭事の参加者が硫黄を眩した松明を投げ入れ続けると言う演出だ。
勿論、捧げるのはトミヲが型どった女性像にだ。
「危ないから、実際は代わりの人にくべてもらうが」
「それから、硫黄扱うんで風下は必須だね」
他意見として木製のオブジェでも、とエアルドフリスは答えた。両者とも『受け継ぐ』と言うコンセプトはクリアしている。相槌を打ち、説明を聞いていた男が口を開く。
「どっちも捨てがたいな……」
「どっちにするか、若しくは両方か、それはそっちに委ねるね」
「わかった。他の奴等にも訪ねる…まぁ、火はオブジェだろうな」
「吹き流しを綺麗に見せるなら、向かい風になるだろう?」
「ああ……山車の正面に置くなら、火が風上か……」
なるほど、と大二郎はその危険性を理解した。
それからもう一つ、山車に刺繍によるインデュー族の歴史を描いたタペストリーを飾らないか、と言う大二郎の考えだ。これには祭司が苦い顔。
「刺繍ですか」
「駄目か?」
「残り半月で、間に合う気がしません」
少なくとも人目につかなければならないほど、一枚一枚が大きな物だ。しかもそれが幾枚も刺繍ではとてもだが、間に合わない。だが、案自体は実に良いものだ。
「代案で、布に藍で描くのは如何でしょうか?」
必要なのは、部族の描かれた歴史だ。それならば、無理に刺繍にする必要はない。が……
「誰か、絵描きの心当たりはいるんで?」
「成り立ちの生き証人、僕が描きます。誰より、彼女を見ていたのですから」
惚気つつ悪戯な笑みを浮かべる祭司に、ひたすら呆れながらも大二郎は少し羨ましさを覚えた。
「……リア充め」
そして、トミヲは僻んだ。
●メニュー開発
出店のレシピは、族長の家の厨房を借りて来る。ハンター達以外にイチヨのヤ・マダと女性が一人参加。作り方や、材料の出費を確認しているようだ。
正直な所リアルブルーにいた柊 真司(ka0705)には、辺境に於いての信仰のなんたるかはよく理解出来ない。が、それでも美味しく楽しく、が祭りだとは知っている。そんな彼が作るのはピザ。
オリーブオイルを練り込んだピザ生地は、二時間寝かされフカフカだ。平たい小麦粉焼きしか知らない女性は、その形に驚いていると真司へ告げた。
(そっから!? すげぇ、ピザ自体が新鮮なんだな)
子供向きと言うので、直感でツナにスライスしたオニオン。ジャガイモを乗せ、数種類のチーズを蒔く。それから蜂蜜を塗ったピザも作った。甘いお菓子に子供が目がないワケがない。
「蜂蜜はこの山でも、手に入ります。ツナか……」
川魚と綿実油で応用を、とマダは真司の持ち込んだ缶詰眺めて、一人呟いている。
「そういやここ、山だったな」
外で皆の注目を集めていたのは鵤(ka3319)だ。彼の目標は『砂糖低コストの甘味系』である。と言いながら、造っているのは菓子ではない。
持ち込んだ自転車に歯車やら、鎖、いくつか穴を空けた空き缶、鍋を繋げて不思議な機械を作るあげていた。
「おし、後は砂糖と中央に火を灯して……」
無論、こんなことやってれば何事か、と子供や大人は集まってくる。暫くすると、沸々と小さい泡をあげ始める砂糖。
そこで鵤は颯爽と自転車のペダルをこぎ始めた。回る空き缶、溶けた砂糖は飛び散り、鍋周りに糸を吐き出す。それを前以て鵤に渡された棒で、子供が糸を絡めとり始め、なくなった頃にはわたがしが完成した。
(集客は絶大か……)
不思議な物体、体験に目を輝かせる子供。同時に、これは火を信仰するインデュー族特有なのか、火の新たな力に尊敬すら感じているようだ。しかし鵤は、精製された砂糖の値段をまだ知らない。
「次、次、ぼく!」
「私もやる!」
「おう、順番にだぞぉ?」
「あ、なら次俺!」
「大人は自重しろ」
ちなみに、鵤は空き缶用意に缶ビールを一本空けている。昼間からだ。
話は再び厨房内。前回のリベンジにHolmes(ka3813)は燃えていた。頭が回らなかった自ら失態と言う事実。何としても挽回したい。
彼女が目指すのは量産出来て『お祭りだから食べられる甘味』だ。美味しさと利便性、そして甘味として適するのはクレープだろう。
部族の主食にも形も似ているため、子供でも馴染み深いだろう。生クリームや、鵤が提案したドライフルーツや、無花果やラズベリーのジャムソースを用意。
「フルーツやクリーム、ソースの組み合わせが沢山あるというのも、子供の好奇心をくすぐる要素と言えるだろうね」
「自分で選べるのも良いわね」
「乳製品なら同盟商人から手に入れられます」
他にもHolmesはパフェを提案する。こっちは腰をすえて食すため、場所を取るだろう。子供と言うより、若者向けの商品だろう。
「祭りで出せば、思春期の男女には丁度良い一品に成り得るんじゃないかな?」
「そうね、お酒もちょっぴり混ぜても良いかもね」
そう女性はHolmesに笑いかけた。
●戦舞
族長アキエヴェ、彼女に打ちかかるのは八雲 奏(ka4074)だ。
「せぇい!」
「駄目です。木刀は振りきって下さい!」
素人の一撃を軽くいなしながら、奏でもまた打ちかかる。舞の形を手合わせから教えるためだ。いくら労働は怠らないアキエヴェでも、戦士のそれについて行くのは並大抵のものではない。
『ですが、最も大切なのはトーテムへの信仰心。自分とそれを取り巻く部族を俯瞰で見下ろし、その知覚を更に広げ広大な世界を見下ろして、大きな流れの中で何を道標とするのかトーテムとはそういうものではないでしょうか』
木刀を打ち合う間にも、手合わせ前に奏が告げた、心得を何度とアキエヴェは回想する。
『何を訴えたいのかそのビジョンが無ければ自然と1つになる事は難しいでしょう神(自然)を降ろして舞うには、神の姿をトーテムを通して捉えなければ』
『人の心を揺さぶるのは込められたメッセージ。炎とは暗闇を払う光であり、夜の寒さから守る温もりを与え悪しきモノを焼き清める浄化の力でもあります』
『青い火が意味するものを推し量れるのはアキエヴェ様のみ、お母様が守りたかったもの部族に対する愛情や自分の未来に対する想いを炎と重ねあわせてみて下さいませ』
奏は足運び、得物の振り抜きを何度も繰り返し教えてくれた。
体力、筋力なぞ一日でどうにかなるものではない。それでも気力に関しては、アキエヴェの眼光見る光は費えない。
息をつく間もなく、ブリジット(ka4843)が舞の流れと心得を教える。
「舞は楽しむものです」
最初の一言がそれだ。笑みを浮かべて、お手本の戦舞をゆっくりと見せてくれた。
「まずは楽しむ事です。自分が楽しくなくては見てる人も楽しくないですよ」
くるり、くるり、ブリジットの木刀が描くのは曲線。舞も、そして歌も、相手に何かを伝える手段だ。その形は人の数だけあっていい、そう彼女は思っている。
奏が剛ならば、ブリジットはまさに柔と言ったところか。
だが、やはりメキメキなんてワケには行かない。アキエヴェの戦舞には色々なものが犇めきあっている。
焦りが、雑多感を見るもに生み出してしまっているのだ。それは集中力を散らし、いつしか失敗を生み出すだろう。
「固くならずに。別に間違えてもいいですから」
そしてそれは、例の隠し球練習中に起きた。アキエヴェが操るそれ、言うことをきかないそれが、ブリジットの足に巻き付いた。
「……あ、ブリジット様!」
そのまま引っ張ったため、彼女は転倒軽く打ち身をしてしまったのだ。駆け寄る奏にブリジットは変わらぬ笑顔を向けた。
「大丈夫。問題ありませんよ」
だが、当の本人アキエヴェは、硬直していた。
(もし、これが本番であったなら)
幻聴のように、漆黒の舞台を囲むざわめきが、彼女の耳にはりつく。
「すみません…本当に……」
「……少し休憩しましょう」
●
飲み物を取りに、奏とブリジットは厨房に向かった。アキエヴェは少し一人にさせて、と申し入れてきたのだ。
厨房では早速試食会が始まっていた。トミヲは子供達を集め、スイートポテトを作っていた。薩摩芋が手に入らなかったので、ジャガイモで応用したらしい。
「このレシピの良い所はツマミ食いしても美味しいところ!」
丁度その時、大二郎が適度に冷やしたジャム入り香草茶を盆に乗せてきた。
「おう? 今そっちに持って行くつもりだったんだが……」
浮かない顔をする奏に気付く大二郎、がそれを振り切る様に彼女は話題を変えてきた。
「わぁ、いっぱい出来ましたね」
ひょい、とピザの一つにかじりついて舌鼓。
「あ、これ美味しい。毘古ちゃんも一口…はい、あーん♪」
と、ピザをワンピース大二郎の口元に運ぶ。
「え、ちょ、ちょっと奏、流石に人前でそれをやるのは…!」
そう人前、当たり前の如く真司や鵤、はたはエダまで口笛鳴らしながら囃し立ててくる始末。
「じっくり味わえよ? 俺のピザをな」
居た堪れなさに負け、漸くあーんとピザの先っぽにかじりついた。そして……
「辛っ!!」
「相変わらずお子さま舌なんですね」
青唐辛子ピザの餌食になったのであった……
●
「今、よろしいでしょうか」
ブリジットと奏と入れ替わりに、エアルドフリスがアキエヴェを訪ねた。先程の出来事にぎこちなく笑むアキエヴェ。
「あの件、お考え頂けましたか」
トゥューハを英霊に、と彼に相談を受けたのだ。アキエヴェは祭司に言われたことを、そのままエアルドフリスに告げた。
「蒼い火と両方、という手もあるかもしれませんな」
トゥューハを蒼い火の第一信徒して共に祀る。そんな例を持つ部族は珍しくはない。トミヲが造る女性像も、それを見込んでと言ったところか。
恐らくアキエヴェも同意なのだろう、がその顔色は優れない。エアルドフリスには心当たりがあった『巫女の本質は犠牲』そんな言葉を自分は前に告げたのだ。
「あの、この前の話気分を害されたならば、謝罪します」
「あ……いいえ、そう言うワケでは」
「犠牲とは部族に生を捧げるという意味です」
巫女は部族の為に生きて死ぬ。個人の願いは殺さざるを得ない事もある。
孤独に耐える等、だがそれは族長……いや先導するものには同一にやってくる。
「貴女は正しく母御の後継者に見えます」
そこでアキエヴェは、トゥューハ様に何があったかは知りません、と前おいてからこう一言。
「ただ最期の朗らかな笑顔を思うと、とても充実していた、とワタシには想像出来ました」
穏やかに同時に、寂しげな表情をした。まるで「私には真似出来ない」と告げているよう。
「俺はトゥューハ様や貴女が羨ましいのかもしれません」
部族が滅んだのに、のうのうと生き延びて……と。
「では、貴方も」
「…失礼、此方の話でした」
エアルドフリスの退室と入れ替わりに、ブリジットがお茶とおやつのクレープを手に戻ってきた。
奏は……大二郎がいた時点でお察しください。
「貴女は前族長…お母さんをどう思ってますか?」
クレープを切って味見をするアキエヴェに、ブリジットが問う。
「母、と言うより、師でした。それも素晴らしい」
確かに戦闘や、舞踊は教わるどころか目にしたことは無かった。しかし、貿易や藍染めの技術などを教わってきたのだ。
「回りの年上の方々との認識の違いに、今でも戸惑います」
苦笑いを浮かべるも、それは確かにトゥューハとの思い出に違いない。
「私は母と母の友人から歌と踊りを教わりました」
ブリジットにとって宝であり誇り、歌う時、踊る時、傍にいるのを感じる、と言う。お茶を一口、口元に当ててから、優しく再び問う。
「貴女の傍にお母さんはいますか?」
「それは、まだワタシには……」
拙くとも良い。共にトゥューハと舞ってほしい、彼女は、白の舞手は瞳を閉じながら語るのであった。
●最後の仕上げ
ブリジットのハープが鳴り終わると、同じく神楽鈴も鳴り止み、戦舞の終了をアキエヴェが頭を垂れることで告げた。
審査は勿論、今も常と変わらぬ微笑を浮かべる奏だ。
「一つ一つは出来ています」
最初と比べると良くなった、と言う意味と、それでは足りないと言う意味が台詞には含まれていた。
心・技・体、そのどれかが一つ常に欠けている。
やはり、突貫であったからであろう、流れが目に見えてぎこちないのだ。
奏の評価に顔を曇らせるブリジット。
「もう一度、もう一度頭からお願い出来ますでしょうか?」
自ら置いた木刀をアキエヴェは手に、二人へと向き直る。
「はい、戦舞も手合わせもいくらでもお相手致します!」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 久延毘 大二郎(ka1771) 人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/08/29 01:31:18 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/26 20:46:06 |