ゲスト
(ka0000)
朱と青の百物語?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/28 19:00
- 完成日
- 2015/09/29 16:17
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「暑い……」
夏もう終わろうかという時期のことである。
その年は暑かった。いや、夏というのは暑いのは当然なのだが、それでも口に出さずにいられないのが人というもの。
そんなとき、人はしぜんと涼を求めてしまうのだが――
●
「お客さんもみんな、涼みに来ている感じねぇ」
ブックカフェ「シエル」の若き店長・エリスはそんなことを言ってみる。
エリス自身、暑いのは苦手だ。リアルブルーのような冷房技術はまだそれほど進んでいないこのリゼリオで、既にはんぶん溶けかけている。
それでも、客は当然ながら来る。
そんな客にひとときの安らぎを――「シエル」のコンセプトだ。
でも、この暑いさなかに、この店に来る人はどんな目的があるのだろう。
ふと気になって本棚をチェックする。
最近の一番人気は――古今東西のこわい話が書かれた、いわゆる怪談集だった。
●
「じゃあ、百物語でもやりますか?」
久々に遊びに来ていたトワ・トモエがそんなことを言う。
「百物語? ああ、トモエの故郷ではそんなイベントがあるのかしら」
「イベントって言うか……こわい話をみんなでし合うんです。そして、一つ話し終わったらろうそくを消す。ろうそくは人数分で、さいごのろうそくが消えたときに何かが起きると言われているんですよ」
まあ、どこまで本当かは分かりませんが、と少女は苦笑。
「……面白そうね。ねえトモエちゃん、手伝ってくれる?」
悪戯っぽい光を目に宿し、エリスが笑った。
――数日後、オフィスに届いた申請書にはこう書かれていた。
『こわい話で心をひんやり!
百物語を開催します
――ブックカフェ シエル』
さあ、どうなることやら。
「暑い……」
夏もう終わろうかという時期のことである。
その年は暑かった。いや、夏というのは暑いのは当然なのだが、それでも口に出さずにいられないのが人というもの。
そんなとき、人はしぜんと涼を求めてしまうのだが――
●
「お客さんもみんな、涼みに来ている感じねぇ」
ブックカフェ「シエル」の若き店長・エリスはそんなことを言ってみる。
エリス自身、暑いのは苦手だ。リアルブルーのような冷房技術はまだそれほど進んでいないこのリゼリオで、既にはんぶん溶けかけている。
それでも、客は当然ながら来る。
そんな客にひとときの安らぎを――「シエル」のコンセプトだ。
でも、この暑いさなかに、この店に来る人はどんな目的があるのだろう。
ふと気になって本棚をチェックする。
最近の一番人気は――古今東西のこわい話が書かれた、いわゆる怪談集だった。
●
「じゃあ、百物語でもやりますか?」
久々に遊びに来ていたトワ・トモエがそんなことを言う。
「百物語? ああ、トモエの故郷ではそんなイベントがあるのかしら」
「イベントって言うか……こわい話をみんなでし合うんです。そして、一つ話し終わったらろうそくを消す。ろうそくは人数分で、さいごのろうそくが消えたときに何かが起きると言われているんですよ」
まあ、どこまで本当かは分かりませんが、と少女は苦笑。
「……面白そうね。ねえトモエちゃん、手伝ってくれる?」
悪戯っぽい光を目に宿し、エリスが笑った。
――数日後、オフィスに届いた申請書にはこう書かれていた。
『こわい話で心をひんやり!
百物語を開催します
――ブックカフェ シエル』
さあ、どうなることやら。
リプレイ本文
●
怪談――つまりこわい話。
夏にこわい話をして精神的な涼をとろうとするのは人の性なのだろうか。
そんなこんなで今、ブックカフェ『シエル』の店内には店主のエリスと八人のハンターが集っていた。
ちなみにリアルブルー出身のハンターはこのうち三人。百物語のルールも心得ているらしく、にやりと笑っている。
「それじゃあ、始めますか」
エリスの言葉とほぼ同時に照明をあえて落とし、八本の蝋燭に灯がともる。折しも時刻は黄昏時。黄昏は『誰そ彼』――人とヒトでないモノの世界が重なると言われる時間だ。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか――、それは神のみぞ知る世界。
●
そんなわけで始まった、百物語。
「ま、気に入るかは知らないが……」
そんな前置きをして語り出したのは龍崎・カズマ(ka0178)。スラム上がりの傭兵軍人だ。
「こんな仕事をして身も凍るような体験なんて山ほどだが……【夢】ってやつは、心底怖い」
そこで一息区切る。
「明晰夢って知ってるか? 夢と自覚している夢のことで、夢だからだいたい好き勝手できる……それこそ空を飛ぶのも暴れたりするのも。訓練次第で自由に見られるらしいな。――知り合いがその訓練とやらにはまって、ストレス解消なりに利用してたんだ」
視線が、チンピラ風のカズマに集まる。
「そいつが奇妙なことを言ったんだ。――夢の中で自分の家を見回すと黒い影がいると。所詮夢なんだから気にすることはないと言ったんだが、その頻度がだんだん上がってな……まあそれで、寝ている間の影がこわいから泊まりに来てくれって言われて行ったんだわ。俺が夜の番をするってことで」
薄ぼんやりした中で、誰かが小さく頷く。
「で、そいつが寝てからしばらく、寝息が続いてると思ったらいきなり起き出した。よく見りゃ目も閉じてるし呼吸も寝息。だが当たり前に歩き回るんだ。何事かと思って近づいたら――」
わざとタメを作り、そして言う。
「そいつ、包丁を取り出して……そのまま俺に振り下ろした。驚いて蹴っ飛ばして起こしたが、そいつは何も覚えちゃいなかった。……ただ、それからはその明晰夢を見られなくなったらしい」
そこでカズマは不敵に笑う。
「もし明晰夢が夢の身体を自由に扱えるのなら――その間、現実の身体ってぇのは誰が扱ってたんだろうな?」
ぞっとするような言い口で締めくくり、そして蝋燭が一本消えた。
●
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は頷いて、ではと言葉を紡ぐ。
「こんなのはどうじゃろか。……ある女学生が、良い学校へ進学するべく必死に勉強していた。クリムゾンウェストでも珍しいことではないからな、進学試験は。本には山ほどマークがついており、その少女も自信は十分。翌日の試験に備えて、その日は一日勉強を休もうと思い、彼女は息抜きに街を出歩いた……」
ごくり、と喉の鳴る音が聞こえる。
「――数時間後。玄関から大きな物音がするので親が駆けつけると、彼女が泣きながら倒れていた。理由を問うと、『試験は今日だった』と。親もどうしていいか分からない顔をしたらしい……その試験というのが、じつは二日にわたるものだったんじゃ」
カズマの話とは打って変わった、別の意味での怖い話。学生経験のある仲間たちも、複雑な表情を浮かべている。
「無論試験は不合格じゃ。ご愁傷様じゃ」
レーヴェは言いながら茶をすする。怖い話し好きという彼女の話は現実的な怖い話だった、が、一部のひとには精神的ダメージを与えたようである。
ふっと、二つ目の蝋燭が消えた。
●
続いてはリアルブルー出身のエンジニア、滝川雅華(ka0416)。いわゆる研究馬鹿系の女性だ。
「怖い物なしの男性がうっかりまんじゅうが怖いと……」
リアルブルーでは有名なエピソードの一節を述べたあと、ともだちの友達から聞いた話だけど、と話し始めた。
「ヒトの動きを再現する機会作りに取り憑かれたような技術者がいてね。そのこだわりは以上とも言えるもので、自分で作った物は、些細な欠点があればすぐに気に入らずに打ち壊し、他人の作った物に期待と嫉妬をこめて見に行けば勝手に失望し、制作者に罵詈雑言を投げかけ……まあ、孤立していったの」
彼女はここで言葉を切る。
「そのうち彼は気づいたの。機械をヒトと化すことができないなら、ヒトを機械にすれば目指す場所に自ずと到達するって」
それはきっと悪魔の囁き。
「で、彼はとある女性を浚い、その女性に生きたまま……口にするのもためらわれるような実験を施し……全てが完了したとき、そこにはヒトとは似ても似つかぬ動きをする物体がいたそうよ。だから彼はまた、いつものように壊しにかかった……でも彼女は意識を持たぬ機械とは違う。人間よ。危険を感じた彼女は、その腕を思わず振り下ろしたわ……重量の増えた腕を、男の頭上に。……彼女は今も、どこかでヒトをうらんで彷徨っているそうよ」
しん、と世界が凍り付いた。
「もちろんでっち上げだけどね」
と小さく呟くも、想像してしまった何人かがぶるぶる震えている。
「少し冷えたかしら? ラテでも振る舞いましょう」
くすりと笑って、エリスがドリンクを用意し始めた。
●
超級まりお(ka0824)はあほの子である。
そんな彼女の話す話題は一体どんなものか、興味津々という仲間が多い。
「そうねぇ。夏祭りに遅くまで遊んで、いい加減飽きた小学生の少年たちが、肝試しに例が出るって噂の近所の公衆トイレに行くことになったの。深夜、懐中電灯を手にして少年たちだけで。問題のトイレは、とある医療施設を中心に、原生林の残った地域に隣接された広い公園にあって、昼間でも薄暗いその公園は深夜ともなれば当然無人。そんな原生林に入り込むような位置に設置されているのね」
かつん、とコップの音がする。
「そこへ少年たちも到着したんだけど、そのトイレっていうのはいわゆる簡易式のボックストイレで、元からある公園のトイレだけでは不便とされて片付けられたもの。その周囲を見て回り、結局幽霊どころか何も不自然じゃないと確認して、拍子抜け。まあ雰囲気だけは満喫できたってことで、最後にそのトイレを使って解散ってことになったんだ」
と、まりおはここで声のトーンを下げた。
「少年の数は三人。順に用を足し終わって、戸を閉めて二三歩歩いたそのとき――突然トイレががたがた揺れて、誰もいないはずの内側から叩く音が――無論三人は驚いて、全力で逃げたわ」
真相は古いトイレで水が流れたときによくあること、なのだそうだが、知らなければ誰もが驚くだろう。種明かしをされれば非常に簡単なことだが、知らなければ驚くのも無理はない。
幽霊の正体見たり、と言う奴だ。
●
蝋燭の火は既に半分が消えている。
さあ、ここから後半戦だ。
内気で臆病な少年、サクラ・ユイ(ka1606)。あほ毛ををゆらしながら犬を胸元に抱き、おそるおそる口を開いた。
「み、皆さんの話よりも怖くも面白くもないと思うんですけど……こ、これは僕が故郷の村にいた頃の話です。海の傍で、漁業が盛んなんです」
少年はちょっとだけ微笑む。
「でも、その村に突然、謎の生物を見たって噂がおきて……身体はひょろっと長くて尾ひれがすごく大きい、そして人間の手がにょきっと生えている……新手の魚
か、いや歪虚か、って話になって」
たしかにあやしい。誰もがそう思う。
「家族や友達も見たって、言うんです。村全体でふあんになって、何より漁業に深刻な被害が出たとき、じゃあ男衆で様子見に行こう、って村長が決定しました……ぼ、ぼくも参加しました。でも、それは春先で、藻のせいもあって海中の視界は良くなくて……もりを持って素潜りしてたんですけど、気づいたら友人とはぐれていました。どこにいるかと、まず海面に向かわないとと思ったそのとき、海底からぬっと影が出て……謎の生物によく似ていました」
エリスは名状しがたきもの、と言う言葉を思い出す。リアルブルーの代表的ホラー小説に、そんな怪物が出てきていたのを彼女は知っていた。
「それも、ぼくのほうに向かってきて、怖くてつい銛を影に向かって突きました」
まじか。
エリスは脳内で「SAN値直葬」という言葉を思い出した。サクラのほうはそんなこと知るよしもなく、語り続ける。
「でもじつはそれ、僕を驚かせようとした友人でした。友人に怪我はなかったし、許してくれましたけど、怖かったとは言え殺し書けた……それが僕の一番怖かったことです」
精神的に痛い。たしかに。友人を傷つけたという心の傷はなかなか消えるものではないのだ。
ちなみにその怪物はやはり歪虚で、ハンターに解決してもらったのだと、少年はしっかり落ちをつけてから、ため息をつくように蝋燭の火を消した。
●
「ぼぼ、僕の番だね……」
残る蝋燭は三本。わずかに声が震えているのは仁川 リア(ka3483)だ。お化けが大の苦手で、友人に勧められての参加だ。既にこの時点で涙目になっている。
幽霊の正体なんて案外たいした物でないことが多いのだが。
ちなみにお化け嫌いの理由は攻撃が当たらないから、と言う非常に現実的なものだったりする。
「僕の話は、旅の途中で立ち寄った街で聞いたんだ。その近くの村の住人が、一人また一人と消えていく事件があったんだって。この話をしてくれた人は原因を突き止めにいったみたいなんだけど、村人は何かに引き寄せられるかのように近くの沼まで歩いて、どんどん沼に入っていって、腰が浸かるまで進んだそのときに、……沼の中からどろどろの、全身泥でで来たような人型の何かに、身体を捕まれて沈められてしまったんだって」
しん、と空気が冷たくなった気がした。
「しかもその光景を見てて気づかなかったらしいんだけど、いつの間にか沼はどんどん広がってて、自分の目の前まで迫っていて……そしてさっきの泥人形が何人も飛び出して、その人をも沈めようとして……!」
リアはいいながら思いだしたのだろう、ぶるぶると震える肩を己の手でがっしとおさえる。
「その人は必死で逃げた。後でハンターに依頼しようと考えてた。雑魔か何かと思って……でもそんなやつはどこにもいなかった。それどころか……沼なんて、どこにもなかったんだ……!」
最後はは機叫ぶような声で締めくくり、つられてサクラも思わず犬をぎゅっと抱きしめる。
――蝋燭の火が、また消えた。
●
自称経歴不詳のエルフ・ケイ(ka4032)はうっそりと微笑んでいる。
「もうあと二本。全て語るとなにが出てくるのか、ふふ、楽しみじゃない?」
笑みが浮かべられるこの余裕。彼女はこの状況をなかなかに楽しんでいるようだ。
「さてお話しね……それじゃあ、こんなのはどうかしら。――ある商人が一人の旅人を助けるところから始まる、なんてことの無い昔話」
そう前置きをすると、ケイは語り出す。
「旅人は助けてくれた礼にと首飾りを差し出したの。とても美しい、金細工の首飾りだったそうよ。そして言うの。――この首飾りはどんな願いも叶えてくれるが、引き替えに同等の不幸をもたらすとも言われる。売ればかなりの額になるだろう、手元に持っていてもいいがくれぐれも願い事はするな――と。旅人はそう言って去って行った。そこで売ればいいものを、この商人も欲をかいたのか願ってしまったのよね……も資本等に願いが叶うなら、商売敵を消してくれないかと。そしたら次の日、相手は行方知れずになった」
サスペンス要素が随分混じった感じである。
「調子づいた彼は次々に願い事をしたわ。そしてことごとく叶った。どんな願いでもね。けれどそんな夢のような日々を過ごしていたある日、家に警邏隊がやってきた。曰く、数々の窃盗容疑があるので調べさせて欲しいのだと。詳しく聞いてみると、どれもこれも己の願い事に関わっているの。まさかと顔を青くした男を余所に、警邏隊は家の中を調べて回った。そして――倉庫の中からはお金や品物、そして人間の死体一つが見つかった。その死体は、男が最初に消して欲しいと願った、商売敵だったそうよ」
無論彼は捕縛されて一巻の終わり、因果応報よねと彼女はあっさりと言い放った。そして蝋燭の火が――消える。
●
(怖い話……ねぇ)
龍華 狼(ka4940)はそう独りごちながらさいごの蝋燭を眺める。これを消したときどうなるか、まあ幽霊は信じていないしビビりでもないのでたいしたことでは驚きもしないタイプだ。
「怖いかどうかは分かりませんが……昔、深夜に峠越えをしたときの話です。その日は雨が降っていて、視界が悪かったんです。峠と言っても道はちゃんとしてましたし、外灯も……まあちらほらとあって大丈夫だろうと思っていたんです。ちょうど山腹にさしかかる頃、外灯の下に傘も差さずに立っている男の人がいて……怪しいなと思って無視していたら突然声をかけられまして。――火を持っていないかと。所持していましたが、渡したらなにするか分かりませんし、持ってないと応えたんです。すると相手は突然目を見開き、こう言ったんです」
狼は真に迫った演技力で言った。真似たのだろう。
「嘘! 嘘! 嘘! うひひひひひひひひひ!!」
その声音にぎょっとする一同。狼はしかしすぐに平静の口調で、
「――と言って、猛スピードで崖を下りていったんです。幽霊とかは信じませんが、変人には流石に驚きましたね。後日聞いた話では崖下から白骨化した男性の遺体が見つかったとか。火をもらってどうするつもりだったんですかね」
淡々と語るわりに、内容は本格的な怪談だった。
思わず息をのむ声や、小さな悲鳴も聞こえる。
「これで僕の話はおしまいです」
蝋燭が――さいごの一本が、消えた。
●
――と。
厨房のほうから、なにやら白い布を纏った黒髪の女が出てきた。髪は濡れそぼっており、如何にも怪しさを与える。
――まあこれ、トワ・トモエの思いついた「趣向」なのだけど。
そして、ばっちりメイク済みの顔で、ぽんっとリアの肩を叩く。リアは振りかえり――情けないくらいの悲鳴を上げて、失神した。
他のメンバーもだいたいが驚きで声を失っている。そんななか、狼は冷静に、呆れた声で、声をかけた。
「トワさん……なにやってるんですか」
その声で一気に現実に引き戻されるハンターたち。クスクス笑いながら、エリスが灯りをつけた。
「トモエには今回の盛り上げ役をお願いしたの。効果は十分だったみたいね」
トモエもメイクをぬぐい、けろりと笑う。
「でも、いい感じに背筋の凍る体験になったんじゃない?」
たしかにそうかも知れない。
「楽しかったよ、こういう機会があればまた参加したいな」
怖い物の苦手なメンツ以外にはおおむね好評。窓を開け放つと、涼しい風が吹き込んできた。
――暑い夏ももう終わり。
もうすぐ秋が、やってくる。
怪談――つまりこわい話。
夏にこわい話をして精神的な涼をとろうとするのは人の性なのだろうか。
そんなこんなで今、ブックカフェ『シエル』の店内には店主のエリスと八人のハンターが集っていた。
ちなみにリアルブルー出身のハンターはこのうち三人。百物語のルールも心得ているらしく、にやりと笑っている。
「それじゃあ、始めますか」
エリスの言葉とほぼ同時に照明をあえて落とし、八本の蝋燭に灯がともる。折しも時刻は黄昏時。黄昏は『誰そ彼』――人とヒトでないモノの世界が重なると言われる時間だ。
さてさて、鬼が出るか蛇が出るか――、それは神のみぞ知る世界。
●
そんなわけで始まった、百物語。
「ま、気に入るかは知らないが……」
そんな前置きをして語り出したのは龍崎・カズマ(ka0178)。スラム上がりの傭兵軍人だ。
「こんな仕事をして身も凍るような体験なんて山ほどだが……【夢】ってやつは、心底怖い」
そこで一息区切る。
「明晰夢って知ってるか? 夢と自覚している夢のことで、夢だからだいたい好き勝手できる……それこそ空を飛ぶのも暴れたりするのも。訓練次第で自由に見られるらしいな。――知り合いがその訓練とやらにはまって、ストレス解消なりに利用してたんだ」
視線が、チンピラ風のカズマに集まる。
「そいつが奇妙なことを言ったんだ。――夢の中で自分の家を見回すと黒い影がいると。所詮夢なんだから気にすることはないと言ったんだが、その頻度がだんだん上がってな……まあそれで、寝ている間の影がこわいから泊まりに来てくれって言われて行ったんだわ。俺が夜の番をするってことで」
薄ぼんやりした中で、誰かが小さく頷く。
「で、そいつが寝てからしばらく、寝息が続いてると思ったらいきなり起き出した。よく見りゃ目も閉じてるし呼吸も寝息。だが当たり前に歩き回るんだ。何事かと思って近づいたら――」
わざとタメを作り、そして言う。
「そいつ、包丁を取り出して……そのまま俺に振り下ろした。驚いて蹴っ飛ばして起こしたが、そいつは何も覚えちゃいなかった。……ただ、それからはその明晰夢を見られなくなったらしい」
そこでカズマは不敵に笑う。
「もし明晰夢が夢の身体を自由に扱えるのなら――その間、現実の身体ってぇのは誰が扱ってたんだろうな?」
ぞっとするような言い口で締めくくり、そして蝋燭が一本消えた。
●
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は頷いて、ではと言葉を紡ぐ。
「こんなのはどうじゃろか。……ある女学生が、良い学校へ進学するべく必死に勉強していた。クリムゾンウェストでも珍しいことではないからな、進学試験は。本には山ほどマークがついており、その少女も自信は十分。翌日の試験に備えて、その日は一日勉強を休もうと思い、彼女は息抜きに街を出歩いた……」
ごくり、と喉の鳴る音が聞こえる。
「――数時間後。玄関から大きな物音がするので親が駆けつけると、彼女が泣きながら倒れていた。理由を問うと、『試験は今日だった』と。親もどうしていいか分からない顔をしたらしい……その試験というのが、じつは二日にわたるものだったんじゃ」
カズマの話とは打って変わった、別の意味での怖い話。学生経験のある仲間たちも、複雑な表情を浮かべている。
「無論試験は不合格じゃ。ご愁傷様じゃ」
レーヴェは言いながら茶をすする。怖い話し好きという彼女の話は現実的な怖い話だった、が、一部のひとには精神的ダメージを与えたようである。
ふっと、二つ目の蝋燭が消えた。
●
続いてはリアルブルー出身のエンジニア、滝川雅華(ka0416)。いわゆる研究馬鹿系の女性だ。
「怖い物なしの男性がうっかりまんじゅうが怖いと……」
リアルブルーでは有名なエピソードの一節を述べたあと、ともだちの友達から聞いた話だけど、と話し始めた。
「ヒトの動きを再現する機会作りに取り憑かれたような技術者がいてね。そのこだわりは以上とも言えるもので、自分で作った物は、些細な欠点があればすぐに気に入らずに打ち壊し、他人の作った物に期待と嫉妬をこめて見に行けば勝手に失望し、制作者に罵詈雑言を投げかけ……まあ、孤立していったの」
彼女はここで言葉を切る。
「そのうち彼は気づいたの。機械をヒトと化すことができないなら、ヒトを機械にすれば目指す場所に自ずと到達するって」
それはきっと悪魔の囁き。
「で、彼はとある女性を浚い、その女性に生きたまま……口にするのもためらわれるような実験を施し……全てが完了したとき、そこにはヒトとは似ても似つかぬ動きをする物体がいたそうよ。だから彼はまた、いつものように壊しにかかった……でも彼女は意識を持たぬ機械とは違う。人間よ。危険を感じた彼女は、その腕を思わず振り下ろしたわ……重量の増えた腕を、男の頭上に。……彼女は今も、どこかでヒトをうらんで彷徨っているそうよ」
しん、と世界が凍り付いた。
「もちろんでっち上げだけどね」
と小さく呟くも、想像してしまった何人かがぶるぶる震えている。
「少し冷えたかしら? ラテでも振る舞いましょう」
くすりと笑って、エリスがドリンクを用意し始めた。
●
超級まりお(ka0824)はあほの子である。
そんな彼女の話す話題は一体どんなものか、興味津々という仲間が多い。
「そうねぇ。夏祭りに遅くまで遊んで、いい加減飽きた小学生の少年たちが、肝試しに例が出るって噂の近所の公衆トイレに行くことになったの。深夜、懐中電灯を手にして少年たちだけで。問題のトイレは、とある医療施設を中心に、原生林の残った地域に隣接された広い公園にあって、昼間でも薄暗いその公園は深夜ともなれば当然無人。そんな原生林に入り込むような位置に設置されているのね」
かつん、とコップの音がする。
「そこへ少年たちも到着したんだけど、そのトイレっていうのはいわゆる簡易式のボックストイレで、元からある公園のトイレだけでは不便とされて片付けられたもの。その周囲を見て回り、結局幽霊どころか何も不自然じゃないと確認して、拍子抜け。まあ雰囲気だけは満喫できたってことで、最後にそのトイレを使って解散ってことになったんだ」
と、まりおはここで声のトーンを下げた。
「少年の数は三人。順に用を足し終わって、戸を閉めて二三歩歩いたそのとき――突然トイレががたがた揺れて、誰もいないはずの内側から叩く音が――無論三人は驚いて、全力で逃げたわ」
真相は古いトイレで水が流れたときによくあること、なのだそうだが、知らなければ誰もが驚くだろう。種明かしをされれば非常に簡単なことだが、知らなければ驚くのも無理はない。
幽霊の正体見たり、と言う奴だ。
●
蝋燭の火は既に半分が消えている。
さあ、ここから後半戦だ。
内気で臆病な少年、サクラ・ユイ(ka1606)。あほ毛ををゆらしながら犬を胸元に抱き、おそるおそる口を開いた。
「み、皆さんの話よりも怖くも面白くもないと思うんですけど……こ、これは僕が故郷の村にいた頃の話です。海の傍で、漁業が盛んなんです」
少年はちょっとだけ微笑む。
「でも、その村に突然、謎の生物を見たって噂がおきて……身体はひょろっと長くて尾ひれがすごく大きい、そして人間の手がにょきっと生えている……新手の魚
か、いや歪虚か、って話になって」
たしかにあやしい。誰もがそう思う。
「家族や友達も見たって、言うんです。村全体でふあんになって、何より漁業に深刻な被害が出たとき、じゃあ男衆で様子見に行こう、って村長が決定しました……ぼ、ぼくも参加しました。でも、それは春先で、藻のせいもあって海中の視界は良くなくて……もりを持って素潜りしてたんですけど、気づいたら友人とはぐれていました。どこにいるかと、まず海面に向かわないとと思ったそのとき、海底からぬっと影が出て……謎の生物によく似ていました」
エリスは名状しがたきもの、と言う言葉を思い出す。リアルブルーの代表的ホラー小説に、そんな怪物が出てきていたのを彼女は知っていた。
「それも、ぼくのほうに向かってきて、怖くてつい銛を影に向かって突きました」
まじか。
エリスは脳内で「SAN値直葬」という言葉を思い出した。サクラのほうはそんなこと知るよしもなく、語り続ける。
「でもじつはそれ、僕を驚かせようとした友人でした。友人に怪我はなかったし、許してくれましたけど、怖かったとは言え殺し書けた……それが僕の一番怖かったことです」
精神的に痛い。たしかに。友人を傷つけたという心の傷はなかなか消えるものではないのだ。
ちなみにその怪物はやはり歪虚で、ハンターに解決してもらったのだと、少年はしっかり落ちをつけてから、ため息をつくように蝋燭の火を消した。
●
「ぼぼ、僕の番だね……」
残る蝋燭は三本。わずかに声が震えているのは仁川 リア(ka3483)だ。お化けが大の苦手で、友人に勧められての参加だ。既にこの時点で涙目になっている。
幽霊の正体なんて案外たいした物でないことが多いのだが。
ちなみにお化け嫌いの理由は攻撃が当たらないから、と言う非常に現実的なものだったりする。
「僕の話は、旅の途中で立ち寄った街で聞いたんだ。その近くの村の住人が、一人また一人と消えていく事件があったんだって。この話をしてくれた人は原因を突き止めにいったみたいなんだけど、村人は何かに引き寄せられるかのように近くの沼まで歩いて、どんどん沼に入っていって、腰が浸かるまで進んだそのときに、……沼の中からどろどろの、全身泥でで来たような人型の何かに、身体を捕まれて沈められてしまったんだって」
しん、と空気が冷たくなった気がした。
「しかもその光景を見てて気づかなかったらしいんだけど、いつの間にか沼はどんどん広がってて、自分の目の前まで迫っていて……そしてさっきの泥人形が何人も飛び出して、その人をも沈めようとして……!」
リアはいいながら思いだしたのだろう、ぶるぶると震える肩を己の手でがっしとおさえる。
「その人は必死で逃げた。後でハンターに依頼しようと考えてた。雑魔か何かと思って……でもそんなやつはどこにもいなかった。それどころか……沼なんて、どこにもなかったんだ……!」
最後はは機叫ぶような声で締めくくり、つられてサクラも思わず犬をぎゅっと抱きしめる。
――蝋燭の火が、また消えた。
●
自称経歴不詳のエルフ・ケイ(ka4032)はうっそりと微笑んでいる。
「もうあと二本。全て語るとなにが出てくるのか、ふふ、楽しみじゃない?」
笑みが浮かべられるこの余裕。彼女はこの状況をなかなかに楽しんでいるようだ。
「さてお話しね……それじゃあ、こんなのはどうかしら。――ある商人が一人の旅人を助けるところから始まる、なんてことの無い昔話」
そう前置きをすると、ケイは語り出す。
「旅人は助けてくれた礼にと首飾りを差し出したの。とても美しい、金細工の首飾りだったそうよ。そして言うの。――この首飾りはどんな願いも叶えてくれるが、引き替えに同等の不幸をもたらすとも言われる。売ればかなりの額になるだろう、手元に持っていてもいいがくれぐれも願い事はするな――と。旅人はそう言って去って行った。そこで売ればいいものを、この商人も欲をかいたのか願ってしまったのよね……も資本等に願いが叶うなら、商売敵を消してくれないかと。そしたら次の日、相手は行方知れずになった」
サスペンス要素が随分混じった感じである。
「調子づいた彼は次々に願い事をしたわ。そしてことごとく叶った。どんな願いでもね。けれどそんな夢のような日々を過ごしていたある日、家に警邏隊がやってきた。曰く、数々の窃盗容疑があるので調べさせて欲しいのだと。詳しく聞いてみると、どれもこれも己の願い事に関わっているの。まさかと顔を青くした男を余所に、警邏隊は家の中を調べて回った。そして――倉庫の中からはお金や品物、そして人間の死体一つが見つかった。その死体は、男が最初に消して欲しいと願った、商売敵だったそうよ」
無論彼は捕縛されて一巻の終わり、因果応報よねと彼女はあっさりと言い放った。そして蝋燭の火が――消える。
●
(怖い話……ねぇ)
龍華 狼(ka4940)はそう独りごちながらさいごの蝋燭を眺める。これを消したときどうなるか、まあ幽霊は信じていないしビビりでもないのでたいしたことでは驚きもしないタイプだ。
「怖いかどうかは分かりませんが……昔、深夜に峠越えをしたときの話です。その日は雨が降っていて、視界が悪かったんです。峠と言っても道はちゃんとしてましたし、外灯も……まあちらほらとあって大丈夫だろうと思っていたんです。ちょうど山腹にさしかかる頃、外灯の下に傘も差さずに立っている男の人がいて……怪しいなと思って無視していたら突然声をかけられまして。――火を持っていないかと。所持していましたが、渡したらなにするか分かりませんし、持ってないと応えたんです。すると相手は突然目を見開き、こう言ったんです」
狼は真に迫った演技力で言った。真似たのだろう。
「嘘! 嘘! 嘘! うひひひひひひひひひ!!」
その声音にぎょっとする一同。狼はしかしすぐに平静の口調で、
「――と言って、猛スピードで崖を下りていったんです。幽霊とかは信じませんが、変人には流石に驚きましたね。後日聞いた話では崖下から白骨化した男性の遺体が見つかったとか。火をもらってどうするつもりだったんですかね」
淡々と語るわりに、内容は本格的な怪談だった。
思わず息をのむ声や、小さな悲鳴も聞こえる。
「これで僕の話はおしまいです」
蝋燭が――さいごの一本が、消えた。
●
――と。
厨房のほうから、なにやら白い布を纏った黒髪の女が出てきた。髪は濡れそぼっており、如何にも怪しさを与える。
――まあこれ、トワ・トモエの思いついた「趣向」なのだけど。
そして、ばっちりメイク済みの顔で、ぽんっとリアの肩を叩く。リアは振りかえり――情けないくらいの悲鳴を上げて、失神した。
他のメンバーもだいたいが驚きで声を失っている。そんななか、狼は冷静に、呆れた声で、声をかけた。
「トワさん……なにやってるんですか」
その声で一気に現実に引き戻されるハンターたち。クスクス笑いながら、エリスが灯りをつけた。
「トモエには今回の盛り上げ役をお願いしたの。効果は十分だったみたいね」
トモエもメイクをぬぐい、けろりと笑う。
「でも、いい感じに背筋の凍る体験になったんじゃない?」
たしかにそうかも知れない。
「楽しかったよ、こういう機会があればまた参加したいな」
怖い物の苦手なメンツ以外にはおおむね好評。窓を開け放つと、涼しい風が吹き込んできた。
――暑い夏ももう終わり。
もうすぐ秋が、やってくる。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/28 00:38:45 |