【アルカナ】 王手をかけるは魔術師の計

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2015/09/10 15:00
完成日
2015/09/14 11:31

みんなの思い出

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オープニング

 辺境の南部の海沿いにある、打ち捨てられた小さな町の廃墟。
 かつて辺境部族との交流が盛んだった町だが、歪虚の大侵攻により町の放棄を余儀なくされた。
 これといった資源的価値もなく、町の規模もさほど大きくなかった為に全住民が居なくなった段階で歪虚も侵攻する価値がなくなり、無視されて打ち棄てられた町。言う慣ればゴーストタウンだ。

 かつての住民の住居がそのままの状態で残っているこの場所に、ハンター達は訪れていた。
「静かだな……生活の痕跡はあるのに、人の気配はまるでない」
「噂通りのゴーストタウンって訳ね。……既に死んでしまった町」
 6人1組のパーティを組んだハンター達は、此度この町の探索を依頼されていた。資源的価値もなく人間からも歪虚からも見向きもされていなかった町だが、だからこそ見過ごした情報がないかを確認しておきたい。そう思った王国のとある研究員が依頼を出し、こうして訪れていた訳だが……。
「町の隅から隅まで15分もかからないな。本当に小さな町だ」
「そうね。あとは屋内を調べきれば依頼は完了かな」
 町の探索はもうすぐ終わり、そう思っていたハンター達の背後から、ふと声がかけられる。

「御機嫌よう、ハンター諸君」

 静かだった町に、突如として背後からの聞きなれない声に身構えるハンター達。振り向き目に留まるのは、白黒のチェック柄のコートを身に纏った、やや老齢の紳士だった。チェス盤のようにも見える柄のコートにシルクハット、モノクルといった出で立ちだ。トランプの束をシャッフルしながら、ハンター達に声をかけてくる。
「こんな辺境まで遥々ようこそ。近頃目が覚めたは良いが、退屈していてね。良ければ『遊び』に付き合ってはくれないだろうか」
 遊び? とハンター達が問いなおす前に、老紳士は周囲にシャッフルしていたトランプをばらまく。無造作に撒かれたトランプは規則性のある動きで周囲に均等に展開されると巨大化し、手足が生え、剣や槍といった武器を構えてハンター達に対峙する。
「歪虚か!」
 明らかな敵意を感じ取ったハンター達は同じく武器を構え、臨戦態勢を取る。
 
「結構。用意は整った……さぁ、『ゲームを始めよう』」

 不思議な重みのあるその言葉と同時に、ハンター達の背に何やら悪寒めいた感覚が走る。その感覚の正体を知る前に、トランプの兵隊達が襲いかかってきた。
「此度のキングはそこのお嬢さんだ。精々気張って守りたまえよ」
「何を言って、っ……!?」
 トランプの兵を迎撃しようとしたハンターの動きが突然鈍り、肩に槍の一撃を受けて倒されてしまう。
「な、今のは一体……!」
「おざなりな一手だな、児戯にも等しく思うぞ」
 老紳士は指揮棒のようなものを振るい、トランプの兵を采配する。同じように動こうとした他のハンター達も、一人は踏み込みに予想外のスピードがついてしまって身体を制御できず壁に激突し、一人は盾をもって防ごうとしても、盾がまるで紙のように斬り裂かれてしまう。思った通りの動きが出来ずに狼狽するハンター達をつまらなそうに老紳士は眺める。
「そら、どうした。お嬢さん、チェックだ」
「な、っ……」
 一人の女性ハンターに指揮棒が向けられる。マテリアルの動きを感じ取った女性ハンターはすぐさま逃げようとするが、同じく思った通りに動けない。
「チェックメイトだよ」
 老紳士から放たれる強力な魔法弾が女性ハンターを直撃する。その瞬間、女性ハンターの受けたダメージと同じダメージがハンター全員が受けたかのように、纏めて吹き飛ばされる。
「おっと……失敬失敬。『この時代の戦士達には改めてルールを説明せねばならなかった』ようだね」
 息も絶え絶えな満身創痍のハンター達を一瞥し、老紳士は踵を返して去っていく。
「まぁ解説は、其方に居るタロッキがしてくれる事だろう。伝えるが良い。『Magicianが現れた』とね」
 その声とジョーカー柄のトランプをその場に残し、老紳士はふっと消え去った。



「……『Magicianが現れた』。そう言ったんですね?」
「ええ、間違いなく。全滅したハンター一行は誰もが重体でしたが、ただ一人ダメージがましだった人が救援を要請したことで一命を取り留めたようです」
 ハンターオフィスにて、エフィーリア・タロッキが受付嬢から現状の解説を受けていた。
「……『アルカナ』ですか?」
「ええ、間違いないでしょう。……『The Magician』。戦いを『ゲーム』に見立てることで、その戦いにおいて独自のルールを創りだして相手を翻弄して仕留める術師。『神々を欺く采配の魔手』と伝えられるアルカナです」
 『アルカナ』はエフィーリアの属する部族、タロッキ族が長年に渡って封印してきた歪虚群であり、そのうちの一体が今回ハンター達を撃破したのだという。
「『ゲーム』ですか? …報告にあった、キングと、チェックメイトの台詞から推測すると……」
「ええ。リアルブルーの盤上遊戯である『チェス』のルールを戦いにおいて強制的に適用してくる相手です。彼の戦う戦場においては、彼の定めたルールに法則が強引に書き換わる。ルールは彼の自由自在、という訳ではないでしょうが……チェスの駒の動きを強制的に適用されれば、当然いつも通りの動きは出来なくなるでしょう」
 エフィーリアがいつものようにアルカナの特徴を解説する。ルールを強引に適用してくる相手の厄介さに、受付嬢は神妙に相槌を打つ。
「……打開策は、あるのですか?」
「この能力自体を回避する手段はありません。……が、彼は戦いを『ゲーム』だと思っています。『ゲームに応じる』という形で彼奴と対峙すれば、今回のように不意打ちではなく、対等の状態で戦ってくれる筈です。……最低限、駒の割り振りはこちらで決める事が出来る筈です」
「成程、予め何の駒に割り振られるかが分かっていれば、ある程度予測して動きを制御出来るという事ですね」
「そういう事です。……今回も厄介な敵ですが、ハンターさん達を募って頂けますか?」

 こうして、The Magicianに対抗すべく、また新たにハンター達が募られるのだった。

リプレイ本文

●静寂の町にて采配を

 辺境にて打ち捨てられたとあるゴーストタウン。そこに一人の人影が佇んでいた。白と黒の、マス目のような柄を持つ服に身を包んだ老紳士。彼の名は『魔術師(Magician)』。タロッキ族の宿敵たる『アルカナ』の一体だ。彼は手近な廃屋の屋根に座り、カードをシャッフルして退屈を慰めている。彼が待っているのは此度の対局の相手。つまりハンター達だった。
 ほどなくして、6人のハンター達が彼の前に姿を現す。老獪な顔がにやりと歪み、訪れし愉しみを両手を広げて歓迎する。
「やぁ、ようこそ。此度の対局相手は君たちかな?」
 降り立った『魔術師』はカードを切る手を止めながら、目の前のハンター達を仰ぐのだった。

「『魔術師』、といったな。貴様の『ゲーム』とやら、受けて立とう」
 パーティより一歩踏み出したアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が『魔術師』に提唱する。それを聞いた魔術師はにこりと口元を歪めながら応える。
「エクセレント。そうでなくては。ならば駒割りは貴殿らの思うがままに」
 距離を取り、ばっと周囲にトランプをばらまく『魔術師』。一見無作為に舞うカード達は申し合わせたように綺麗に並び落ちると、やがて手足が生えて巨大化し、兵隊と化した。その様子を見てアルトは『魔術師』に言葉を投げかける。
「ゲームと聞いていたからには条件を同じとして、指し手の技量を競い合うものだと思っていたが……随分と駒数が違うじゃないか。ハンデ戦で圧勝したい性質なのか、お前は?」
 ハンターの数が6人に対して、『魔術師』の使役するトランプ兵の数は15。倍以上の数量差に対してアルトは挑発するように提唱する。それに対して『魔術師』は
「おや、ハンターともあろう者が雑兵すら満足に捌けんと言うのか? いやはやこれはがっかりだ。そう思うのなら『ハンデをつけて』数を減らしてお相手した方がよろしいかな?」
 意地の悪い笑みを浮かべてアルトに問い返す。要するに彼にとっては『これで対等』のつもりのようだ。意趣返しをされたアルトが言葉に詰まる。
「よいよい。そのままでのう。折角虚勢を張っておるのに化けの皮を剥がしては可哀想じゃ」
 そんな二人のやり取りを見ていた星輝 Amhran(ka0724)が同じく『魔術師』に声をかける。『魔術師』は発された言葉に対し片眉をあげる。
「ワシが王役を賜わろうかの。さて……『魔術師』とやら、お主はまだ本調子ではないのじゃろう? 故にワシらと同等の手下を作り出せずに数で補った。主は挑発に乗らないのではなく乗れぬ。違うかや?」
 不敵に微笑み挑発する星輝。対する『魔術師』は涼しげな顔で返答する。
「さて、それを答える義理はないな。言いたいことはそれだけかね? 指す前から随分と喚くようだが、私の心は少しも興じぬ。ねだるだけならば赤子にも出来よう」
「いやなに、ワシも少し趣向を凝らそうとのう。……さて」
 言うや否や踵を返すと、星輝はトランプ兵の布陣の近くで仁王立ちする。
「ワシはしばらくここを動かんでおこう。その間にワシを仕留められるか……どうじゃ、シンプルで面白いじゃろう?」
 星輝は不遜に『魔術師』を挑発する。巧みな話術を用いて彼の感情を煽ろうと試みているようだ。だが、それに対して魔術師の反応は冷えきったものだった。
「趣向か。それ自体はなかなか面白い。だが、『それまでに仕留められなければこちらの負け』とでも言いたげな提案だが――」
 『魔術師』を一度言葉を切り、ハンター達を見回す。
「――ならば聞こう。『暫く』とは具体的にどの位の長さかね? 動くか動かないかが貴殿の気分や状況判断によって前後するならば、私はその勝負に乗りようがない。ただの口約束では駆け引きも何もなかろう」 
 『魔術師』は一切動じた素振りを見せない。揺さぶりをかけようと思っていた星輝も当てが外れた様子に顔を顰める。相手は相当駆け引きに対する精神が据わっているようだった。『魔術師』は「もういいかね?」と会話を切ると、自陣へと戻っていった。
「我々がこれから始めるのはゲームだ。ゲームという名の『戦い』だ。親は私で、子は貴殿らなのだ。ならば口ではなく剣を取るがいい。私が求めているのは『百の言葉』よりも『戦局を揺るがす確かな一手』に他ならぬ」
 臨戦態勢に入るトランプ兵。それに応じるようにハンター達も武器を構える。

「さぁ、『ゲームを始めよう』。口だけ達者でないことを祈るのみだ」
 ぞわり、と嫌な感覚が走る。『ルール』が適用され、戦闘が開始された。



●盤上の戦争

「ゲームという名の戦い、か。中々に面白い能力だ。楽しいゲームにしようじゃないか」
 その言葉と同時に爆炎が放たれ、敵陣が衝撃波に蹂躙される。フワ ハヤテ(ka0004)の放った火の弾丸だ。
「お互いに、ね」
「成程、貴殿がビショップか青年。駒の特性を差し引いても大した威力だ」
 なぎ倒された兵たちを一瞥しながら『魔術師』は言う。一撃で多くの兵隊の体力を奪っていったハヤテに素直に賞賛の声を送る。その言葉に反して『魔術師』に大きなダメージが入った様子はない。魔法に対する耐性があるのだとハヤテは分析する。
(まぁ仔細無い。ボクの役割は数を減らすことだ)
 ハヤテが詠唱を始め、入れ替わるように次の魔法弾が敵陣に放たれる。ナイトに分担されているチョココ(ka2449)の放ったものだ。
「う~まうまひひ~ん、でいざ出陣ですのー。でも乗れるお馬さんが居ませんの」
 かくり、ととぼけた感じに首を傾げてはいるものの、敵陣に炸裂した魔法効果は確かだ。ハヤテの攻撃で大きく削られたトランプ兵の体力が更に削られる。
「やれやれ、開幕から無茶をする娘さん達だ。あくまで象っているだけとはいえ、チェスのルールは知っているんだろうね」
「チェスは初めて聞きますわ。だけどしりとりは『ん』がついたら負けですの。『Magician』……はい、負けですわ」
「……」
 マイペースな調子のチョココに困惑しつつ、指揮棒を振るう『魔術師』。狙うは敵陣近くで仁王立ちし、意図が読めない星輝……ではなく、開幕で広範囲を焼き払ったハヤテとチョココ。ポーン兵が進軍を開始する。
「口だけ達者なのはお前の方じゃねーのか、『魔術師』!?」
 轟くエンジン音と共に魔導バイクで敵陣に突撃を仕掛けたのはエヴァンス・カルヴィ(ka0639)だ。爆音と共に立ち上る炎煙をその剣で、その身で引き裂いて切り込む。
「おら、どきやがれ!」
 薙ぎ払われた剣が煙を逆巻き轟かせる。勢いのままに叩き込んだ一撃は衝撃波となって敵のポーン兵達を打倒していく。
「はんっ! 口程にもねぇ、『戦車』の装甲とは比べるまでもねーな!」
「ほう、あやつを下した者か。その豪気ならばこの突撃力にも頷けよう」
 魔法攻撃に続いてエヴァンスの剣撃を叩きこまれてなお、ポーンのトランプ兵達は健在だった。転倒から起き上がりつつ、エヴァンスに群がっていく。
「は、面白ぇ。Let's Party! 戦車を相手にしたい奴はかかってきな!」
 エンジン音を轟かせ、煙を吹き飛ばしながら爆走するエヴァンス。追いかけようとするトランプ兵達だったが、突如としてその一体が切り倒されていた。
「ふむ、今の動きは見えなかったぞ。成程……貴殿がクイーンか」
 エヴァンスのわざとらしい派手なパフォーマンスを隠れ蓑に静かに背後から忍び寄ったのはアルトだ。速度を多少持て余してはいるものの、疾影士として比較的そういったスキルの扱いに慣れているアルトは脚力によって上手く動きをコントロールしていく。
「確かにこれは骨が折れるじゃじゃ馬だ。いつかは自力でこの領域まで登りつめたいものだ……」
 持て余した速度によるブレーキ痕を地面に残しながらも、アルトは一撃離脱を心がけて敵の影へ潜り込み、攻撃を加えていく。エヴァンスとアルトが敵陣を引っ掻き回し、敵の一翼はほぼ瓦解していく。
「ならばこの一手だ。脇が空いているぞ」
 『魔術師』が指揮棒を振るうと、開いた敵陣を恐るべき速度でトランプ兵が突っ切ってハヤテの方へと向かっていく。ルークの駒だ。だが、その突撃は横合いから割り込んだ人影に遮られ、せき止められる。
「わたしを差し置いて何してるのかしら……嗅ぎ殺すわよ」
 ポーンの役割を与えられたブラウ(ka4809)がルークの突撃を盾によって受け止めたブラウは、そのまま身体ごと回転させ、納刀した刀を抜き放ち鋭い一閃を繰り出す。首部分にクリーンヒットした刀はルーク兵を弾き飛ばした。
「血が出ないのは残念で仕方ないけれど、剣戟もまた戦の匂いかしら?」
 弾いたルーク兵を一瞥しながら呟くブラウ。流石にルーク兵は物理防御は高いようで大したダメージは見込めないが……。
「というわけなんだ、此処から先は通行止めだ。すまないね?」
 その後背から放たれた石つぶてが直撃し、衝撃に砕け散るルーク兵。ハヤテの放った魔法だ。
「雑魚さん多々で厄介ですわー。お掃除お掃除、ですの」
 チョココも続いて再び火球を放ち、爆撃によって敵陣をなぎ払う。ばたばたと倒されてゆくポーン兵を尻目に、『魔術師』は冷静に指揮棒を振るう。
「ふむ、口だけ達者などと言って悪かった。想像以上の手練揃いで良い戦局だぞ。だが、チェスはポーンが展開し、後陣の駒の通り道が開いてからが本番だ」
 指揮棒の動きに合わせ、続けざまにルークやナイトが飛び出してくる。狙うはキング……敵陣で立ち止まっている星輝だ。だが星輝とて死ぬまでそこに居続けるとは言っていない。
「ふん、効かぬハッタリをいつまでも続ける程つまらぬものは無いわ!」
「だろうな。賢明だ」
 駆け抜けてくるナイトの攻撃を携えた刀でいなしつつ後退する星輝は、敵陣に視線を滑らせて状況を素早く判断する。
「ナイトは捌いた、ルークとビショップが来るぞ!」
「任せな!」
「了解だ」
 星輝の飛ばした指示にエヴァンスとアルトが動く。エヴァンスがビショップへと突っ込み、アルトがルークを横合いから連撃によって吹き飛ばす。的確な助言によって効果的なダメージを与えていった星輝は、マテリアルを込めた移動方法で自陣へと後退してゆく。
「クク、マテリアルによる移動法にまで干渉して敏捷性を削らんかったのがヌシの詰めの甘さじゃったのぅ、悔しければ捉えてみせい!」
 キングの役割を与えられ、移動力が落ちているのは織り込み済みだ。その上で星輝はスキルを駆使して普段と変わらぬ移動力を再現し、効果的に後退してゆく。それを見た『魔術師』は小さく笑みを零す。
「ほう、詰めが甘いときたか。ならば聞こうお嬢さん。

――いつ私が技法による移動力の補助を想定していないと言ったかね?」

 その言葉に振り返ると、突如として巨大な火球が飛来してきた。
「なっ、ファイアボール……!?」
 言い終わる前に火球が炸裂し、爆炎と衝撃波が吹き荒れる。今の攻撃はビショップではなく、『魔術師』本体が放ったものだった。ビショップのものとは比べ物にならない強烈な一撃に、体勢を崩してしまう。
「範囲攻撃ならば多少の誤差など関係ないのだよ。私が一体何百回とこの戦いを戦士達と繰り広げたと思っている? 敵を侮り、軽んじたのが貴殿の詰めの甘さと知りたまえ、お嬢さん」
 魔法による攻撃は星輝と近くに居たアルトの体力を大きく削る。そして星輝の役割はキングだ。彼女の受けたダメージは味方全体へとフィードバックし、全員が衝撃によろめく。
「瓦解したぞ。攻め込め」
 指揮棒を振るい、開いた敵後衛への道を指し示す。彼の傍らに居たクイーンが遂に動き始め、凄い速度で敵の元へと突っ切っていく。だが――
「そういうテメーだって昔の戦士しか知らねーんだろ?」
 横合いから聞こえてきた声に『魔術師』が視線を移した瞬間、視覚外から火球が飛来、炸裂する。ハヤテの放ったファイアボールだ。燃え盛る火炎の向こう側、揺らめく陽炎の隙間、そこには大剣を構えたエヴァンスの姿があった。

「残火――衝 天!」
 
 薙ぎ払われた一閃は琥珀色のマテリアルを巻き上げ、未だ燃え盛る爆炎を切り裂いて『魔術師』に飛来する。横合いから放たれた剣撃をまともに受け、『魔術師』は大きくバランスを崩す。
「ぐ、っ……!」
「そうだ。人は皆進歩し続けるものだ」
 突如背後から聞こえた声に驚きつつも必死に回避行動をとる『魔術師』。振動刀の連撃を辛うじて回避する。そこにはボロボロになったアルトの姿があった。
「これはゲームであると同時に、戦なのだろう。過去の盤上を見てるから足元を掬われる」
 絶大なダメージを受けたにも関わらず健在しているアルトの冷静な言葉に、『魔術師』の表情は驚きから不敵へと変わっていく。
「面白い、そうでなくては……! それでこそ、私が指し示す価値のある」
 そこで魔術師の言葉は打ち切られるその胸が、背後から刀によって貫かれていたのだった。刀から、つぅっと紅い血が滴り落ちる。
「あぁ……っ、いい臭い……たまらないわ……」
 ゆっくりと後ろを見ると、そこには恍惚に歪んだブラウの表情が。『魔術師』はその姿を見て、全てを理解した。
「なる、ほど……ビショップとルーク道を作りつつ、ナイトがクイーンを捌いた……全員がポーンの進撃の為に陣形を変えたということか……」
 ブラウが剣を引き抜くと、『魔術師』は血を吐いて崩れ落ちる。
「相手が悪かったな、『魔術師』チェックメイトだ」
「そう、こういう時はそう言うのね。ちぇっくめいと……よ」
 二人がそう宣告すると同時に、トランプ兵達は消滅した。ポーンの攻撃はキングに対して致命的だ。『魔術師』の身体が少しずつ消えていく。
「ふ、ふ……即座に作戦を変える機転は、駒の力以前の地力がなければ成し得ぬな。……認めよう、貴殿らは……優秀な戦士であった、とな……」
 そう呟いた『魔術師』は、再度ハンター達に視線を移す。そのうちのアルトに視線を止めると、消えかかる口を動かして語りかける。
「……戦子よ、貴殿は人は進歩し続ける、と言ったな。確かにその通りだ。だからこそ戦は面白い。……だが、進歩するのが人ならば、それは貴殿らだけの話ではない……」
 その言葉に僅かに片眉をあげるアルト。どういう事だ、と問い返すも、既に『魔術師』の身体は光の粒となって消えた。最後に、小さく言葉を残して。
「何、すぐに解るさ……『人』の強さを信じる者よ……」
 


 こうしてゴーストタウンに居たアルカナ、『魔術師』は討伐された。チョココは持参した花の種を町のそこかしこに撒いている。いつか、誰かがここへと帰ってくる事を願って。
 『魔術師』の遺した言葉は一体何を意味するのか。ハンター達は疑惑を胸に抱きながら、帰路へとついた。
 彼は『始まり』のアルカナ。彼の投げた賽は、既に転がり始めているのかもしれない……

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MVP一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテka0004
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/27 07:47:45
アイコン 補足説明及び質問板
エフィーリア・タロッキ(kz0077
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/08/30 03:17:24
アイコン 【相談卓】checkmate!
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/10 09:48:14