ゲスト
(ka0000)
栄光の残影
マスター:瀬川綱彦

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/25 19:00
- 完成日
- 2014/07/31 22:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●奪われるくらいなら、この手で
――黄金。
光を反射し金色に輝く姿は魔性だ。金の持つ価値は、これまで多くの人間を狂気に堕としたのは疑うまでもない。権力者が身につける財宝としては、実にわかりやすいものであろう。
そしてここにも心を惑わされた者がひとり。
「ヒューーー……」
ぼろ切れ同然のマントを羽織った男の口笛が、薄暗い石造りの壁に溶け込んでいく。
男の手にしたランタンの光を反射して、眼下の棺が金色に輝いていた。学のない男であったが、それでもこの棺が自分では想像もつかぬほど古い時代のものであることはわかったし――価値があるものだということもわかった。
男は遺跡荒らしだった。遺跡に侵入し、価値のあるものをほかの誰よりもはやく強奪する。学術的価値など彼の興味にはない。金になるか、ならないか。それだけが判断基準だった。
その点これは、満点だった。
警備の隙を縫って入ってきてみたはいいものの、この最深部に来るまで金目のものらしいものはなく落胆していた。が、この装飾を見れば期待はふくれあがるというものだ。
どこに財宝があるかは判らないが、まずはこの棺を開けてみれば手がかりも見つかろうというものである。男は目先の欲に目がくらんで棺の蓋を持ち上げた。
ランタンの灯りが棺の中を照らし出す。
横たわった死体と――ところ狭しと詰め込まれた、財宝。
「おおっ!」
男は思わず、指輪やネックレスといった金銀財宝を両手でわしづかみにする。腕にかかる重さに笑い出しそうだった。自分のような人間ならば、この手の中の宝石で何ヶ月、何年生活できるだろうか? 人生を数度はやり直せそうな財宝の数々に、男は感動のあまり腰を抜かしそうだった。
がくり、と。それはあまりの重さ故か、手から財宝を取りこぼしてしまう。石畳の上に貴金属が音を立てて転がっていって男は舌を打った。
「いっけねえ、もっと大事にしねえと」
浮かれていた気分が冷め、落とした物を拾うために腰を下ろそうとした。
片腕が動かなかった。
宝石を取りこぼした方の腕だ。それが妙に重くて動かない。いや、腕は下にも動かない。重いのではなかった。
棺の中のミイラが、男の腕を掴んでいた。
ミイラの双眸が男を見た。ぞっとした。目だ。ミイラには目があった。それは黄金の目だった。
ダン、ダン、ダンといくつもの音が暗闇を切り裂く。
ほかにもいくつか並んでいた棺の蓋がはじけ飛び、中からミイラが姿を覗かせていた。
ミイラの一体が、床に散乱した金を拾い上げると――歯でかみ砕いた。
バリバリバリと砕け散る音は金かそれとも歯か顎か。ミイラたちは物言わずに朽ちて干からびた喉で嚥下する。
彼らは遺跡荒らしには目もくれず、黙々と宝石を、金を、銀を、鉄を食む。それが自分の役目だとばかりに。
異様な光景に、遺跡荒らしの男は震えた。
そして、自分の腕を掴むミイラを今一度直視した。
黄金の目だ。金色の目ではない。落ちくぼんだ眼窩には瞳の代わりに黄金が流し込まれて、固まっていたのだ。
金に惑わされた者の狂気の目だった。
その目はこう告げていた。
――財宝は、渡さぬ。
●トレジャーハント
「……皆様、今日はある遺跡に現れたミイラを倒していただきたいのです」
男の話が終わるのを待っていたのか。ハンターオフィスの一画にて、眼鏡をかけた受付嬢が依頼を切り出した。それにしても、なにか歯切れの悪い言い回しだった。殲滅でも全滅でもなく、倒す、とは。
「数が多すぎるのさ」
ハンターの疑問に答えたのは、先程まで語っていたみすぼらしいマントの男だった。
「棺は全部で十六だ。それだけの奴らがあんな狭い遺跡でうじゃうじゃしてやがる。しかもだ、財宝を少しでも持って逃げようとしたら追ってくるときてる! お陰で財宝は全部遺跡に捨ててきちまったよ」
最悪だぜ、と吐き捨てた男の表情が途端に喜びに変わる。うさんくさい儲け話を持ちかけてくる者特有の、妙に人当たりの良い笑顔だ。
「だからおまえらには頭数を減らしてもらうだけでいい。そうしたら財宝を持ち出すのも可能になるって寸法さ。で、俺とおまえらでそれを山分け。どうだ、いい話だろ?」
「こちら、今回の依頼人の方なのですが」
受付嬢が手をたたくと、ぞろぞろと厳つい男たちがやってきてマントの男を拘束する。
「遺跡荒らしのたぐいですので、通報させてもらいました」
「ここまで話させてそりゃないだろ! 黙認ってことじゃねーのかよ! 待てコラおーーーい! 許してくれーーー!」
遠のいていく男を黙殺しつつ、受付嬢が話を続けた。
「……ですので、今回の報酬は公共の団体から出ることになります。比較的近代の遺跡のようですが、貴重なことに変わりはありませんから。財宝を持ち帰っても皆様の手には渡りませんが、相応の謝礼ははずんでくれるそうです。今回のミイラは財宝を食べるとのこと。おそらくは埋葬された人々が恩讐により雑魔化したものでしょう、財宝を食い尽くした後の行動が未知数ですので早急に退治をお願いします」
と、言い終わって、最後にふとつぶやいた。
「いつの時代も人は金喰い蟲ですね」
――黄金。
光を反射し金色に輝く姿は魔性だ。金の持つ価値は、これまで多くの人間を狂気に堕としたのは疑うまでもない。権力者が身につける財宝としては、実にわかりやすいものであろう。
そしてここにも心を惑わされた者がひとり。
「ヒューーー……」
ぼろ切れ同然のマントを羽織った男の口笛が、薄暗い石造りの壁に溶け込んでいく。
男の手にしたランタンの光を反射して、眼下の棺が金色に輝いていた。学のない男であったが、それでもこの棺が自分では想像もつかぬほど古い時代のものであることはわかったし――価値があるものだということもわかった。
男は遺跡荒らしだった。遺跡に侵入し、価値のあるものをほかの誰よりもはやく強奪する。学術的価値など彼の興味にはない。金になるか、ならないか。それだけが判断基準だった。
その点これは、満点だった。
警備の隙を縫って入ってきてみたはいいものの、この最深部に来るまで金目のものらしいものはなく落胆していた。が、この装飾を見れば期待はふくれあがるというものだ。
どこに財宝があるかは判らないが、まずはこの棺を開けてみれば手がかりも見つかろうというものである。男は目先の欲に目がくらんで棺の蓋を持ち上げた。
ランタンの灯りが棺の中を照らし出す。
横たわった死体と――ところ狭しと詰め込まれた、財宝。
「おおっ!」
男は思わず、指輪やネックレスといった金銀財宝を両手でわしづかみにする。腕にかかる重さに笑い出しそうだった。自分のような人間ならば、この手の中の宝石で何ヶ月、何年生活できるだろうか? 人生を数度はやり直せそうな財宝の数々に、男は感動のあまり腰を抜かしそうだった。
がくり、と。それはあまりの重さ故か、手から財宝を取りこぼしてしまう。石畳の上に貴金属が音を立てて転がっていって男は舌を打った。
「いっけねえ、もっと大事にしねえと」
浮かれていた気分が冷め、落とした物を拾うために腰を下ろそうとした。
片腕が動かなかった。
宝石を取りこぼした方の腕だ。それが妙に重くて動かない。いや、腕は下にも動かない。重いのではなかった。
棺の中のミイラが、男の腕を掴んでいた。
ミイラの双眸が男を見た。ぞっとした。目だ。ミイラには目があった。それは黄金の目だった。
ダン、ダン、ダンといくつもの音が暗闇を切り裂く。
ほかにもいくつか並んでいた棺の蓋がはじけ飛び、中からミイラが姿を覗かせていた。
ミイラの一体が、床に散乱した金を拾い上げると――歯でかみ砕いた。
バリバリバリと砕け散る音は金かそれとも歯か顎か。ミイラたちは物言わずに朽ちて干からびた喉で嚥下する。
彼らは遺跡荒らしには目もくれず、黙々と宝石を、金を、銀を、鉄を食む。それが自分の役目だとばかりに。
異様な光景に、遺跡荒らしの男は震えた。
そして、自分の腕を掴むミイラを今一度直視した。
黄金の目だ。金色の目ではない。落ちくぼんだ眼窩には瞳の代わりに黄金が流し込まれて、固まっていたのだ。
金に惑わされた者の狂気の目だった。
その目はこう告げていた。
――財宝は、渡さぬ。
●トレジャーハント
「……皆様、今日はある遺跡に現れたミイラを倒していただきたいのです」
男の話が終わるのを待っていたのか。ハンターオフィスの一画にて、眼鏡をかけた受付嬢が依頼を切り出した。それにしても、なにか歯切れの悪い言い回しだった。殲滅でも全滅でもなく、倒す、とは。
「数が多すぎるのさ」
ハンターの疑問に答えたのは、先程まで語っていたみすぼらしいマントの男だった。
「棺は全部で十六だ。それだけの奴らがあんな狭い遺跡でうじゃうじゃしてやがる。しかもだ、財宝を少しでも持って逃げようとしたら追ってくるときてる! お陰で財宝は全部遺跡に捨ててきちまったよ」
最悪だぜ、と吐き捨てた男の表情が途端に喜びに変わる。うさんくさい儲け話を持ちかけてくる者特有の、妙に人当たりの良い笑顔だ。
「だからおまえらには頭数を減らしてもらうだけでいい。そうしたら財宝を持ち出すのも可能になるって寸法さ。で、俺とおまえらでそれを山分け。どうだ、いい話だろ?」
「こちら、今回の依頼人の方なのですが」
受付嬢が手をたたくと、ぞろぞろと厳つい男たちがやってきてマントの男を拘束する。
「遺跡荒らしのたぐいですので、通報させてもらいました」
「ここまで話させてそりゃないだろ! 黙認ってことじゃねーのかよ! 待てコラおーーーい! 許してくれーーー!」
遠のいていく男を黙殺しつつ、受付嬢が話を続けた。
「……ですので、今回の報酬は公共の団体から出ることになります。比較的近代の遺跡のようですが、貴重なことに変わりはありませんから。財宝を持ち帰っても皆様の手には渡りませんが、相応の謝礼ははずんでくれるそうです。今回のミイラは財宝を食べるとのこと。おそらくは埋葬された人々が恩讐により雑魔化したものでしょう、財宝を食い尽くした後の行動が未知数ですので早急に退治をお願いします」
と、言い終わって、最後にふとつぶやいた。
「いつの時代も人は金喰い蟲ですね」
リプレイ本文
遺跡の中に足を踏み入れれば情報通り内部に光源はなく、一歩先の様子さえ伺えなかった。
ハンターたちは持参したLEDライトやランタンに火を灯す。
「……ちょっと熱いな」
腰にランタンを下げたルーガ・バルハザード(ka1013)が肌へと伝わる温度で眉間にしわを寄せた。
「にしても金の亡者ねえ、まあ人の業ってやつか」
龍崎・カズマ(ka0178)が地図を片手につぶやく。
その地図は遺跡荒らしの男から情報を聞き出して手にいれたものだ。既に捕らえられた身の上の男、話を聞き出すのはたやすい。
「いやはや、墓荒らしとはねぇ。考古学者として悲しくなってくるよ。こういうのは、お上にバレちゃあダメだろうに」
聞き出すときのことを思いだし、ケイト・グラス(ka0431)が口を開く。考古学者は自称ではあったが、言外に自分ならもっと上手くやれたという自信を滲ませていた。
「遺跡に興味もあるが、ミイラを始末しないことにはな」
口にしながらエアルドフリス(ka1856)が口元をさする。彼も遺跡に興味はあったが、今はそれよりも荷物過多で置いてきたパイプが恋しかった。
フワ ハヤテ(ka0004)もその言葉に同意する。
「彼らの欲深さもどうでもいいことさ。さっさと終わらせて帰るとしようか」
全員の準備が終わるとジュード・エアハート(ka0410)とリンランディア(ka0488)のふたりがハンターたちの前に進み出た。
「エアさんからのお願いだし、お手伝い頑張るよ!」
「やぁ、ハヤテ。緑の風の盟約により、馳せ参じたよ」
サポートとして協力にかけつけたふたりはLEDライトを潤沢に持ち込んでおり、光源の不足に悩まされることはなさそうである。
全員が歩き始める。数人が並んで立つのが精一杯な狭い通路、自然と列は縦長になり進んでいく。
しばらくするとバリバリと何かを砕く音が聞こえてきた。
地図を見ながら、カズマがうなずく。
「話にあった最深部の広間からだな」
「とても興味深い相手……気を引き締めて参りましょう」
ガルヴァート=キキ(ka2082)は老年のハンターらしく落ち着き払った様子で言うと、周りのハンターも続々と戦闘態勢に移っていく。
「ああ、報酬のある労働とはなんと甘美な響きでしょう。俄然やる気が出てきました!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)の両目がうれしそうに輝いていた。楽な仕事ではないだろうが、労働に対価がある。家庭では働いても冷遇される彼にとっては感動的な出来事だった。
ハンターたちが進んでいくと、やがて通路と最深部の境までやってきた。
音はもう騒音とさえ思えるほどはっきりと聞こえていた。
ケイトとエアルドフリスは無言で視線を交わすとしゃがんでロープを取り出した。足元にロープを張ろうというのだ。ルーガも続いて膝をつくと、作業するふたりの手元を灯りで照らす。
遺跡の壁は石材が組み合わせられたものだ。石が欠けて隙間になっている箇所など、設置に役立ちそうな場所も散見された。
そうして設置を見届けたサポートのふたりはLEDライトを手に広間の方へと足を踏み出す。広間の壁にライトを設置し、光源とするためだ。
「遠距離からの攻撃は任せてもらおう」
イレーヌ(ka1372)が杖と盾を手に前へ出ると、ハヤテが広間をのぞき込む。ちょうど広間の壁にライトの明かりが灯った。
ミイラの姿が茫洋に、やがてはっきり見受けられるようになる。そしてわかったのは、彼らは光に反応していないことだ。
「予想通りだな」
カズマはミイラの目は見えないのでは、と考えていたが、それは見事に正しかった。もとより、この暗闇。単純な視覚に頼っての行動は厳しいのだろう。
「……アレが例のミイラか」
戦場の状態を確認していたハヤテが、広間の中に一体の特異なミイラを発見した。
本来両目がある場所には輝く――黄金。
「ずいぶんと金目の物に目がないらしい」
強欲さしか感じない金品のまとい方に、ハヤテは皮肉に笑った。
「どこの世界でも人ってのは変わらんもんだな」
あきれるカズマの後ろで、ケイトがデバイスを操作する。機導術による攻性強化と運動強化の力がカズマ、キキ、レイの躯を駆け巡った。
「これでやりやすくなると良いんだけどね」
「とんでもない、十二分に頼もしいお力添えでございます」
「働いてお金がもらえてそれに支援までしていただけるなんて、感激です!」
「よし、それじゃあ……行くぞ!」
カズマが声をかけると、キキ、レイをいれた三人は広間の中へと飛び込んだ。
●亡者饗宴
三人が広間に突入すれば財宝むさぼるミイラたちが棺から一斉に顔を上げた。
首飾りをよだれのように下顎にぶら下げたミイラの頭が紅蓮の矢に撃ち貫かれた。
下顎だけが首の皮にぶら下がり、財宝の重さに耐えかねるように棺に倒れ込む。その一撃は通路に立つハヤテによるものだった。
「ふむ、こんなものか。見た目を裏切らず火に弱いとはね、単純で助かるよ」
直後、前衛の三人に飛びかかろうとしたゾンビの一体が炎に躯を射貫かれた。
同じくミイラを打ち落としたエアルドフリスも火が弱点を突いていることを確認した。
「ミイラは乾燥させたうえ加工に油を使っているからな、燃やすにはうってつけというわけだ」
さらにカズマへと襲いかかろうとしていたミイラの足が光の弾丸によって吹き飛ばされた。両足を失い転倒するミイラを見据えるのはイレーヌだ。
「光にも弱いようだな」
イレーヌはローブをひるがえし、頭を振って覚醒の際に腰まで伸びた銀の長髪を背中へと流す。小柄だった姿はいまでは妙齢の女性のそれに変わっていた。
「死んでからも財宝に執着するとは浅ましい奴らめ、蹴散らしてくれるわ!」
ルーガもホーリーライトを広間へと乱れ撃つ。ミイラの一体は胴を貫かれ、傷口からどろりと消化液を溢れさせた。
後衛の援護はミイラ側に混乱をもたらしていた。だが、まだ十数体が健在。
それでも物怖じせず、エアルドフリスが不機嫌に告げた。
「生前のあんた方に恨みは無いが、俺は今いささか苛ついてるんだ。……燃え尽きて頂こう」
カズマは正面から向かってきていたミイラが足をやられて転倒したのを見た。
「あっぶねえだろうが、よっと!」
拳による一撃で胸を砕きとどめを刺せば、その背後をレイが駆け抜ける。
レイは棺のひとつに膝をつく。先程の撃破されたミイラのものなのだろう、主のいなくなった棺をのぞき込めば、財宝の数々が眠っていた。
ミイラは財宝に反応するという。彼は専門家ほどではないが得意な目利きを生かし、ならばと価値のありそうな財宝を掴み上げた。
「獲ったどオォォォ!」
おおおん、と遺跡の中に声が反響していく。
そこへミイラを牽制しながらカズマがやってきた。
「なにやってんだ?」
「……これが伝統的なトレジャーハンティングの作法だと聞いたのですが」
相手の反応に自分はまた勘違いしていたのだろうか、そう思ってレイは照れて頬を赤くした。
彼らの物音に反応して寄ってくるミイラを投げ飛ばしながら老齢の戦士キキがふたりに声をかける。
「早く後退いたしましょう。妾たちだけが囲まれると危険でございますからね」
「はい! うおーっ、獲ったどー! 獲ったどー!」
宝石があしらわれた冠を振り回しながらレイ、カズマ、キキの三人は入り口の方へと走り出す。彼らの頭上や脇を炎や光が擦過し、背後で何度も爆発が起きた。
魔法の雨を受けて次々と吹き飛ばされていくミイラたちの中で、唯一平然と振る舞っている個体がいた。いや、平然ではない。包帯にまみれた躯は怒りで震えている。
たとえ言葉を発せぬ身であろうとも、財宝を奪われて怒っていると想像するのは容易かった。
――財宝は渡さぬ!
「ロオオオ……ロオオオオオ!」
枯れ果てた喉を震わせる怒声は嵐の夜に窓をたたく風音のようで、つまり不気味な音だ。
手足に重りのように財宝を身につけた強欲の主はミイラを率いてハンターたちの方へと駆けだした。
「よし、予定通りだ。急いで!」
ケイトが走る三人をせかす。ミイラたちが両腕を突き出し一斉に駆けてくる姿は想像以上にプレッシャーだった。
カズマが背後に迫るミイラに向けて銃弾を撃ち込む。
「わかってるよ!」
三人が通路に飛び込んだ。
並び立つのは三人が精々の通路、その入り口にミイラが殺到すれば当然――足が止まる。
脳髄を掻き出されているミイラである。ただ闇雲に財宝を求めて進むだけだ。上手く通路を通り抜けようなどという統率のとれた行動はできようはずもなかった。
それでも三体のミイラが通路の方へ押し出されるが、彼らは足元のロープに気づかなかった。
「焼き尽くすには絶好の好機だな!」
ルーガが喜々として叫び、転んだミイラにむけて光弾で追い打ちをしかける。
攻撃の余波を受けないように片手で帽子を押さえたケイトが身を低くした。
「やれやれ、過激だ」
鞭を振るって倒れたミイラを始末する。
だが、まだミイラの片手は財宝を握りしめ続けていた。
「こいつのお仲間にはなりたくないね」
しみじみとケイトはつぶやいた。
「このまま押し込まれると面倒だな、攻撃の手を強めるぞ」
通路はここまで来る間に仕掛けてきた篝火のお陰で明るかったが、かといってあの数のミイラに奥へと押し込まれても面倒だ。
イレーヌは人の合間から杖を構えてミイラへと魔法を唱えた。いくつもの光の弾丸はカズマの髪を一房ちぎりながらミイラの腕を吹き飛ばす。
「うしろの奴はよく狙えって!」
「うう、大丈夫……折檻は慣れっこですからね……普段どおりに耐えればいいと姉上にも言われましたし!」
当たってこそいないがレイも後ろを気にしながらミイラを盾で押し返していた。
「こう狭いと狙いづらくてかなわん、太陽とパイプが恋しいよ」
的確に射線を確保してミイラを炎で撃ち抜きながらエアルドフリスが切実な願いを漏らした。
敵の数を数えたハヤテが全員に声をかけた。
「八体は倒したようだね。どうする、引くかい?」
「戦闘はまだまだ可能だな」
自分の余力を確認しながらイレーヌが答えた。続いて何人かのハンターも頷く。
「妾の方も問題はございません、まだ十二分に戦う体力は残っております」
キキもミイラの足を払って地に倒しながら答える。武器を胃液で痛めまいと素手での戦闘を己に課していたが、彼女も戦うのに支障はなさそうである。
ハンターたちは戦いの続行を選んだ。
ミイラは依然として通路の中に入り込もうと味方の死体を踏み砕きながら進んでくる。
前衛の三人を挟んだ状態でミイラをにらんでいたルーガが忌々しげに吐き捨てた。
「まったく汚らわしい奴らめ!」
魔法でミイラを押し返して得意げに笑う。
「私がまるで財宝みたいに見えるのか? この正直者どもめ!」
数が減って勢いの衰えたミイラたちの向こう側に、黄金の瞳のミイラの姿が見えるようになった。ここまで数が減れば勝利は目前だ。
「仕上げだ、一気にいくぞ!」
ミイラを殴り倒したカズマが全員を鼓舞する。こちらが数に勝れば通路の外であのミイラを包囲することも可能だ。
ミイラたちを押し返し――その時、黄金の瞳のミイラがガクガクと上顎と下顎の骨を打ち鳴らし、吠えた。
「ロオオオオオ――!」
その声は圧力を伴った暴風となり広間に吹き荒れ通路を突き抜けていく。並の人間なら聞いただけで腰を抜かしかねない呪いじみた声に、腕や足を欠いて身動きがとれなくなっていただけのミイラたちが躯を震わせた。主の怒声に死してなお躯が恐怖したのか、壁にしがみついてでも起き上がり始める。
ケイトは辺りを見回してミイラが身を起こす様子を見た。
「やられても起き上がるミイラとは、いやはや、いかにもといった風情で感動するね」
「こんなときに軽口をたたけるのも感心するよ」
そういうハヤテも焦った様子はなかったが、かといって状況を楽観視しているわけではなかった。
「次から次へと……ぐっ!」
床に倒れていたミイラがカズマの足に両腕でしがみつき、ぼろぼろの歯で太股に噛みついていた。ミイラの歯などほとんど抜け落ちていたが、財宝を砕いていた頑丈な骨格は深く肉をえぐっている。
拳でその頭を砕くと、今度こそミイラは活動を止めた
さすがに手負い、倒すだけなら容易だが、痛覚なき死者に数で押されるとハンターたちの持久力が削られかねない。
「……ふむ、温存していた甲斐があったな」
イレーヌが使用していなかったたいまつを取り出す。彼女は道中の光源が必要充分ならたいまつを別の用途に使えればと温存していたのだ。
そしてミイラが火に弱いとなれば、どう使うかは決まっていた。
イレーヌがたいまつに火をつけて復活したミイラたちに投げ込む。
途端、火の手がミイラたちを包んだ。
「今の内に黄金の奴を潰すとしようじゃないか」
「ロオオオオオ!!!」
怒り狂ったミイラは黄金の目を鈍くきらめかして腕を伸ばす。
「故人はもうお眠りの時間だよ」
その腕に通路から身を乗り出したケイトの鞭が絡みついた。
「今度は念入りに火葬といこうか」
ハヤテとエアルドフリスの炎がミイラを貫く。業火が瞬く間にその躯を包み込み、姿を紅蓮の赤で埋め尽くしていく。
それでも、
「ロオオオ!」
「ぐっ!?」
腕に絡みついた鞭を掴んで力任せに振るうとケイトの躯が壁に打ち付けられる。
炎に巻かれてもなお、ミイラはハンターの持つ財宝へと手を伸ばした。
その足を光弾が撃ち抜いていく。歩みが止まっても手を伸ばすミイラの眉間にカズマがピストルの銃口を向けていた。
「冥途の土産だ」
もう片方の手で、拾っていた金貨を宙にはじく。
キィン、とした高い音につられて上を見たミイラの眼前に金貨が落ち――
銃弾が金貨ごとミイラの眉間を貫いた。
「金の亡者にゃ、お似合いだぜ」
炎の中に横臥する死体の眼窩から、どろりと金の欲望が流れ出した。
●恋しい物は誰にでも
「強欲な金持ちの寝所、ね」
遺跡での後始末を終えたあと、現地の資料を基に得た遺跡の生い立ちを読み上げたのはケイトだった。
「結局、あの遺跡はすごいものだったりするんですか?」
遺跡の近隣の村。
野ざらしにされているベンチに座って、躯の傷をさすっていたレイが首をかしげる。
「財宝の資産価値以外は全然。近代の遺跡だし、資料的価値はないね。当時の金持ちが財産を死後も独占したくて墓所に埋めさせたんだとか。雑魔になっての財宝破壊も独占欲の一種かな」
「確かにあの財宝は惜しかったがなー」
それぞれ別の理由で残念な様子のケイトとルーガだった。
ケイトと同じく遺跡に関心があったエアルドフリスも愉快な表情はしていなかった。
「エアさんもがっかりした?」
ジュードが尋ねると、エアルドフリスは深くため息をつくだけだ。
「……煙草が吸いたい。今すぐに」
ハンターたちは持参したLEDライトやランタンに火を灯す。
「……ちょっと熱いな」
腰にランタンを下げたルーガ・バルハザード(ka1013)が肌へと伝わる温度で眉間にしわを寄せた。
「にしても金の亡者ねえ、まあ人の業ってやつか」
龍崎・カズマ(ka0178)が地図を片手につぶやく。
その地図は遺跡荒らしの男から情報を聞き出して手にいれたものだ。既に捕らえられた身の上の男、話を聞き出すのはたやすい。
「いやはや、墓荒らしとはねぇ。考古学者として悲しくなってくるよ。こういうのは、お上にバレちゃあダメだろうに」
聞き出すときのことを思いだし、ケイト・グラス(ka0431)が口を開く。考古学者は自称ではあったが、言外に自分ならもっと上手くやれたという自信を滲ませていた。
「遺跡に興味もあるが、ミイラを始末しないことにはな」
口にしながらエアルドフリス(ka1856)が口元をさする。彼も遺跡に興味はあったが、今はそれよりも荷物過多で置いてきたパイプが恋しかった。
フワ ハヤテ(ka0004)もその言葉に同意する。
「彼らの欲深さもどうでもいいことさ。さっさと終わらせて帰るとしようか」
全員の準備が終わるとジュード・エアハート(ka0410)とリンランディア(ka0488)のふたりがハンターたちの前に進み出た。
「エアさんからのお願いだし、お手伝い頑張るよ!」
「やぁ、ハヤテ。緑の風の盟約により、馳せ参じたよ」
サポートとして協力にかけつけたふたりはLEDライトを潤沢に持ち込んでおり、光源の不足に悩まされることはなさそうである。
全員が歩き始める。数人が並んで立つのが精一杯な狭い通路、自然と列は縦長になり進んでいく。
しばらくするとバリバリと何かを砕く音が聞こえてきた。
地図を見ながら、カズマがうなずく。
「話にあった最深部の広間からだな」
「とても興味深い相手……気を引き締めて参りましょう」
ガルヴァート=キキ(ka2082)は老年のハンターらしく落ち着き払った様子で言うと、周りのハンターも続々と戦闘態勢に移っていく。
「ああ、報酬のある労働とはなんと甘美な響きでしょう。俄然やる気が出てきました!」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)の両目がうれしそうに輝いていた。楽な仕事ではないだろうが、労働に対価がある。家庭では働いても冷遇される彼にとっては感動的な出来事だった。
ハンターたちが進んでいくと、やがて通路と最深部の境までやってきた。
音はもう騒音とさえ思えるほどはっきりと聞こえていた。
ケイトとエアルドフリスは無言で視線を交わすとしゃがんでロープを取り出した。足元にロープを張ろうというのだ。ルーガも続いて膝をつくと、作業するふたりの手元を灯りで照らす。
遺跡の壁は石材が組み合わせられたものだ。石が欠けて隙間になっている箇所など、設置に役立ちそうな場所も散見された。
そうして設置を見届けたサポートのふたりはLEDライトを手に広間の方へと足を踏み出す。広間の壁にライトを設置し、光源とするためだ。
「遠距離からの攻撃は任せてもらおう」
イレーヌ(ka1372)が杖と盾を手に前へ出ると、ハヤテが広間をのぞき込む。ちょうど広間の壁にライトの明かりが灯った。
ミイラの姿が茫洋に、やがてはっきり見受けられるようになる。そしてわかったのは、彼らは光に反応していないことだ。
「予想通りだな」
カズマはミイラの目は見えないのでは、と考えていたが、それは見事に正しかった。もとより、この暗闇。単純な視覚に頼っての行動は厳しいのだろう。
「……アレが例のミイラか」
戦場の状態を確認していたハヤテが、広間の中に一体の特異なミイラを発見した。
本来両目がある場所には輝く――黄金。
「ずいぶんと金目の物に目がないらしい」
強欲さしか感じない金品のまとい方に、ハヤテは皮肉に笑った。
「どこの世界でも人ってのは変わらんもんだな」
あきれるカズマの後ろで、ケイトがデバイスを操作する。機導術による攻性強化と運動強化の力がカズマ、キキ、レイの躯を駆け巡った。
「これでやりやすくなると良いんだけどね」
「とんでもない、十二分に頼もしいお力添えでございます」
「働いてお金がもらえてそれに支援までしていただけるなんて、感激です!」
「よし、それじゃあ……行くぞ!」
カズマが声をかけると、キキ、レイをいれた三人は広間の中へと飛び込んだ。
●亡者饗宴
三人が広間に突入すれば財宝むさぼるミイラたちが棺から一斉に顔を上げた。
首飾りをよだれのように下顎にぶら下げたミイラの頭が紅蓮の矢に撃ち貫かれた。
下顎だけが首の皮にぶら下がり、財宝の重さに耐えかねるように棺に倒れ込む。その一撃は通路に立つハヤテによるものだった。
「ふむ、こんなものか。見た目を裏切らず火に弱いとはね、単純で助かるよ」
直後、前衛の三人に飛びかかろうとしたゾンビの一体が炎に躯を射貫かれた。
同じくミイラを打ち落としたエアルドフリスも火が弱点を突いていることを確認した。
「ミイラは乾燥させたうえ加工に油を使っているからな、燃やすにはうってつけというわけだ」
さらにカズマへと襲いかかろうとしていたミイラの足が光の弾丸によって吹き飛ばされた。両足を失い転倒するミイラを見据えるのはイレーヌだ。
「光にも弱いようだな」
イレーヌはローブをひるがえし、頭を振って覚醒の際に腰まで伸びた銀の長髪を背中へと流す。小柄だった姿はいまでは妙齢の女性のそれに変わっていた。
「死んでからも財宝に執着するとは浅ましい奴らめ、蹴散らしてくれるわ!」
ルーガもホーリーライトを広間へと乱れ撃つ。ミイラの一体は胴を貫かれ、傷口からどろりと消化液を溢れさせた。
後衛の援護はミイラ側に混乱をもたらしていた。だが、まだ十数体が健在。
それでも物怖じせず、エアルドフリスが不機嫌に告げた。
「生前のあんた方に恨みは無いが、俺は今いささか苛ついてるんだ。……燃え尽きて頂こう」
カズマは正面から向かってきていたミイラが足をやられて転倒したのを見た。
「あっぶねえだろうが、よっと!」
拳による一撃で胸を砕きとどめを刺せば、その背後をレイが駆け抜ける。
レイは棺のひとつに膝をつく。先程の撃破されたミイラのものなのだろう、主のいなくなった棺をのぞき込めば、財宝の数々が眠っていた。
ミイラは財宝に反応するという。彼は専門家ほどではないが得意な目利きを生かし、ならばと価値のありそうな財宝を掴み上げた。
「獲ったどオォォォ!」
おおおん、と遺跡の中に声が反響していく。
そこへミイラを牽制しながらカズマがやってきた。
「なにやってんだ?」
「……これが伝統的なトレジャーハンティングの作法だと聞いたのですが」
相手の反応に自分はまた勘違いしていたのだろうか、そう思ってレイは照れて頬を赤くした。
彼らの物音に反応して寄ってくるミイラを投げ飛ばしながら老齢の戦士キキがふたりに声をかける。
「早く後退いたしましょう。妾たちだけが囲まれると危険でございますからね」
「はい! うおーっ、獲ったどー! 獲ったどー!」
宝石があしらわれた冠を振り回しながらレイ、カズマ、キキの三人は入り口の方へと走り出す。彼らの頭上や脇を炎や光が擦過し、背後で何度も爆発が起きた。
魔法の雨を受けて次々と吹き飛ばされていくミイラたちの中で、唯一平然と振る舞っている個体がいた。いや、平然ではない。包帯にまみれた躯は怒りで震えている。
たとえ言葉を発せぬ身であろうとも、財宝を奪われて怒っていると想像するのは容易かった。
――財宝は渡さぬ!
「ロオオオ……ロオオオオオ!」
枯れ果てた喉を震わせる怒声は嵐の夜に窓をたたく風音のようで、つまり不気味な音だ。
手足に重りのように財宝を身につけた強欲の主はミイラを率いてハンターたちの方へと駆けだした。
「よし、予定通りだ。急いで!」
ケイトが走る三人をせかす。ミイラたちが両腕を突き出し一斉に駆けてくる姿は想像以上にプレッシャーだった。
カズマが背後に迫るミイラに向けて銃弾を撃ち込む。
「わかってるよ!」
三人が通路に飛び込んだ。
並び立つのは三人が精々の通路、その入り口にミイラが殺到すれば当然――足が止まる。
脳髄を掻き出されているミイラである。ただ闇雲に財宝を求めて進むだけだ。上手く通路を通り抜けようなどという統率のとれた行動はできようはずもなかった。
それでも三体のミイラが通路の方へ押し出されるが、彼らは足元のロープに気づかなかった。
「焼き尽くすには絶好の好機だな!」
ルーガが喜々として叫び、転んだミイラにむけて光弾で追い打ちをしかける。
攻撃の余波を受けないように片手で帽子を押さえたケイトが身を低くした。
「やれやれ、過激だ」
鞭を振るって倒れたミイラを始末する。
だが、まだミイラの片手は財宝を握りしめ続けていた。
「こいつのお仲間にはなりたくないね」
しみじみとケイトはつぶやいた。
「このまま押し込まれると面倒だな、攻撃の手を強めるぞ」
通路はここまで来る間に仕掛けてきた篝火のお陰で明るかったが、かといってあの数のミイラに奥へと押し込まれても面倒だ。
イレーヌは人の合間から杖を構えてミイラへと魔法を唱えた。いくつもの光の弾丸はカズマの髪を一房ちぎりながらミイラの腕を吹き飛ばす。
「うしろの奴はよく狙えって!」
「うう、大丈夫……折檻は慣れっこですからね……普段どおりに耐えればいいと姉上にも言われましたし!」
当たってこそいないがレイも後ろを気にしながらミイラを盾で押し返していた。
「こう狭いと狙いづらくてかなわん、太陽とパイプが恋しいよ」
的確に射線を確保してミイラを炎で撃ち抜きながらエアルドフリスが切実な願いを漏らした。
敵の数を数えたハヤテが全員に声をかけた。
「八体は倒したようだね。どうする、引くかい?」
「戦闘はまだまだ可能だな」
自分の余力を確認しながらイレーヌが答えた。続いて何人かのハンターも頷く。
「妾の方も問題はございません、まだ十二分に戦う体力は残っております」
キキもミイラの足を払って地に倒しながら答える。武器を胃液で痛めまいと素手での戦闘を己に課していたが、彼女も戦うのに支障はなさそうである。
ハンターたちは戦いの続行を選んだ。
ミイラは依然として通路の中に入り込もうと味方の死体を踏み砕きながら進んでくる。
前衛の三人を挟んだ状態でミイラをにらんでいたルーガが忌々しげに吐き捨てた。
「まったく汚らわしい奴らめ!」
魔法でミイラを押し返して得意げに笑う。
「私がまるで財宝みたいに見えるのか? この正直者どもめ!」
数が減って勢いの衰えたミイラたちの向こう側に、黄金の瞳のミイラの姿が見えるようになった。ここまで数が減れば勝利は目前だ。
「仕上げだ、一気にいくぞ!」
ミイラを殴り倒したカズマが全員を鼓舞する。こちらが数に勝れば通路の外であのミイラを包囲することも可能だ。
ミイラたちを押し返し――その時、黄金の瞳のミイラがガクガクと上顎と下顎の骨を打ち鳴らし、吠えた。
「ロオオオオオ――!」
その声は圧力を伴った暴風となり広間に吹き荒れ通路を突き抜けていく。並の人間なら聞いただけで腰を抜かしかねない呪いじみた声に、腕や足を欠いて身動きがとれなくなっていただけのミイラたちが躯を震わせた。主の怒声に死してなお躯が恐怖したのか、壁にしがみついてでも起き上がり始める。
ケイトは辺りを見回してミイラが身を起こす様子を見た。
「やられても起き上がるミイラとは、いやはや、いかにもといった風情で感動するね」
「こんなときに軽口をたたけるのも感心するよ」
そういうハヤテも焦った様子はなかったが、かといって状況を楽観視しているわけではなかった。
「次から次へと……ぐっ!」
床に倒れていたミイラがカズマの足に両腕でしがみつき、ぼろぼろの歯で太股に噛みついていた。ミイラの歯などほとんど抜け落ちていたが、財宝を砕いていた頑丈な骨格は深く肉をえぐっている。
拳でその頭を砕くと、今度こそミイラは活動を止めた
さすがに手負い、倒すだけなら容易だが、痛覚なき死者に数で押されるとハンターたちの持久力が削られかねない。
「……ふむ、温存していた甲斐があったな」
イレーヌが使用していなかったたいまつを取り出す。彼女は道中の光源が必要充分ならたいまつを別の用途に使えればと温存していたのだ。
そしてミイラが火に弱いとなれば、どう使うかは決まっていた。
イレーヌがたいまつに火をつけて復活したミイラたちに投げ込む。
途端、火の手がミイラたちを包んだ。
「今の内に黄金の奴を潰すとしようじゃないか」
「ロオオオオオ!!!」
怒り狂ったミイラは黄金の目を鈍くきらめかして腕を伸ばす。
「故人はもうお眠りの時間だよ」
その腕に通路から身を乗り出したケイトの鞭が絡みついた。
「今度は念入りに火葬といこうか」
ハヤテとエアルドフリスの炎がミイラを貫く。業火が瞬く間にその躯を包み込み、姿を紅蓮の赤で埋め尽くしていく。
それでも、
「ロオオオ!」
「ぐっ!?」
腕に絡みついた鞭を掴んで力任せに振るうとケイトの躯が壁に打ち付けられる。
炎に巻かれてもなお、ミイラはハンターの持つ財宝へと手を伸ばした。
その足を光弾が撃ち抜いていく。歩みが止まっても手を伸ばすミイラの眉間にカズマがピストルの銃口を向けていた。
「冥途の土産だ」
もう片方の手で、拾っていた金貨を宙にはじく。
キィン、とした高い音につられて上を見たミイラの眼前に金貨が落ち――
銃弾が金貨ごとミイラの眉間を貫いた。
「金の亡者にゃ、お似合いだぜ」
炎の中に横臥する死体の眼窩から、どろりと金の欲望が流れ出した。
●恋しい物は誰にでも
「強欲な金持ちの寝所、ね」
遺跡での後始末を終えたあと、現地の資料を基に得た遺跡の生い立ちを読み上げたのはケイトだった。
「結局、あの遺跡はすごいものだったりするんですか?」
遺跡の近隣の村。
野ざらしにされているベンチに座って、躯の傷をさすっていたレイが首をかしげる。
「財宝の資産価値以外は全然。近代の遺跡だし、資料的価値はないね。当時の金持ちが財産を死後も独占したくて墓所に埋めさせたんだとか。雑魔になっての財宝破壊も独占欲の一種かな」
「確かにあの財宝は惜しかったがなー」
それぞれ別の理由で残念な様子のケイトとルーガだった。
ケイトと同じく遺跡に関心があったエアルドフリスも愉快な表情はしていなかった。
「エアさんもがっかりした?」
ジュードが尋ねると、エアルドフリスは深くため息をつくだけだ。
「……煙草が吸いたい。今すぐに」
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/21 22:11:44 |
|
![]() |
ミイラの駆除(相談) 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/07/25 18:48:51 |