ゲスト
(ka0000)
下水道のケモノ
マスター:草之佑人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/26 01:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「本当にここにいるのか?」
都市の地下、その下に整備された下水道が走っている。
街を守る軍の警備隊は、武装し下水道の中を探索していた。
「ああ、街の人間が下水道へ逃げ込む影を見たって話だ」
「魔獣って話だよな?」
「おそらくは、な。大きさから言えば、もしかしたら野生の熊かもしれんが」
「……下水に逃げ込む熊がいるのかよ」
男はやや呆れた口調で肩を竦める。
目撃者の話によれば、その獣は体長2mほどのでかぶつで四つ足で走って逃げたらしかった。
このあたりの動物で体長2mに及ぶ生き物はいない。それこそ、熊などの大きな動物や幻獣もこの辺りで見かけられたことはなかった。
そのことから、軍は、この生物を魔獣と推定。警備隊をその生物が逃げ込んだ下水道へと探索に送り込んだ。
「しかし……魔獣ならハンターにでも頼めば良かったんじゃないか?」
服の袖の辺りを嗅ぎ、溜め息を吐く。
下水道に入り込んで半時間ほど。鼻は下水の臭いに慣れたが、体に染み着いたであろう臭いが気になる。
家に帰って嫁に何を言われるかと思えば、気分も沈もうというものだ。
「仕方ないだろう。食料庫が再度襲われる可能性があるんだ。これ以上の被害を増やさないためにも、早急に退治しなけりゃならない」
それに、と男の相方が続けようとしたとき――突如、下水道の通路中央を流れる水路の水が膨れる。
「な、なんだ!?」
大きく膨れ上がったかと思われた水路の水は、屹立した水柱となる。
汚水の混じった水が流れ落ちると共に、周囲に鼻を曲げるような臭いが充満する。
そいつは姿を現した。
ちうう?
「で、出たぞ!」
「うお!?」
慌てた相方の男がランタンを取り落とし、後ずさる。
通路に落ちたランタンの灯りが化け物の姿を下から照らしあげる。
「なっ……」
照らし出されたその姿に、男は息を呑んだ。
「あああ!? ハ、ハムスターだ! でっかいハムスターだ!!」
ゾンネンシュトラール帝国、そのとある地方都市で、一つの問題が起こっていた。
街の食料庫のジャガイモが軒並み巨大ハムスターに食べられる事件が発生したのだった。
●
「……魔獣の仕業、ですか?」
「えっと、はい、どうもそのようなんです」
問い返した少女とそれに歯切れ悪く答えた青年。
二人は共に帝国軍の軍人であったが、青年よりも少女の方が立場が上のように、青年は下手に出ていた。
「それで、うちの部隊にその魔獣を退治してほしい、と」
「ええ、私達だけでは追い込むところまでしかできず、ハンターにでも依頼を掛けようかと思っていたところ、あなた達が来られていると伺ったものでして。出来れば、次の被害が出る前に退治したいのです」
少女は思案顔になった。助けてはあげたい……だが、
「んんん、といってもうちの部隊も戦闘力がない後方部隊なんですよね。残念なことに錬金術師組合にでも助っ人を頼む方がよっぽど心強いと思います」
「……第八師団の方なのに?」
青年の問いに、少女は苦笑で返した。
「とりあえず、任務がありますので、ここで食料を調達できないようなら、あたし達は早急に東へ向かい別の都市で調達しないといけません。駐屯地に戻ったら報告は上げておきます。ですが、動くまでに時間はかかるのであまり期待しないでください」
申し訳なさそうに少女は頭を下げると、後ろに控えていた隊員達に出発の準備を伝えていく。
到着したばかりなので移動の準備は整っており、今日中には街を出ていけるようだ。
慌ただしく出て行く準備に取りかかった少女の部隊を、青年は頭を掻いて見送る。
「弱ったな。今からハンターに依頼を掛けても、到着は明日以降だろうけど……しょうがないか」
青年はため息を一つ。
説得に失敗したことを上官に伝える憂鬱さに苛まれながら、街の軍駐在所まで足取り重く戻っていった。
都市の地下、その下に整備された下水道が走っている。
街を守る軍の警備隊は、武装し下水道の中を探索していた。
「ああ、街の人間が下水道へ逃げ込む影を見たって話だ」
「魔獣って話だよな?」
「おそらくは、な。大きさから言えば、もしかしたら野生の熊かもしれんが」
「……下水に逃げ込む熊がいるのかよ」
男はやや呆れた口調で肩を竦める。
目撃者の話によれば、その獣は体長2mほどのでかぶつで四つ足で走って逃げたらしかった。
このあたりの動物で体長2mに及ぶ生き物はいない。それこそ、熊などの大きな動物や幻獣もこの辺りで見かけられたことはなかった。
そのことから、軍は、この生物を魔獣と推定。警備隊をその生物が逃げ込んだ下水道へと探索に送り込んだ。
「しかし……魔獣ならハンターにでも頼めば良かったんじゃないか?」
服の袖の辺りを嗅ぎ、溜め息を吐く。
下水道に入り込んで半時間ほど。鼻は下水の臭いに慣れたが、体に染み着いたであろう臭いが気になる。
家に帰って嫁に何を言われるかと思えば、気分も沈もうというものだ。
「仕方ないだろう。食料庫が再度襲われる可能性があるんだ。これ以上の被害を増やさないためにも、早急に退治しなけりゃならない」
それに、と男の相方が続けようとしたとき――突如、下水道の通路中央を流れる水路の水が膨れる。
「な、なんだ!?」
大きく膨れ上がったかと思われた水路の水は、屹立した水柱となる。
汚水の混じった水が流れ落ちると共に、周囲に鼻を曲げるような臭いが充満する。
そいつは姿を現した。
ちうう?
「で、出たぞ!」
「うお!?」
慌てた相方の男がランタンを取り落とし、後ずさる。
通路に落ちたランタンの灯りが化け物の姿を下から照らしあげる。
「なっ……」
照らし出されたその姿に、男は息を呑んだ。
「あああ!? ハ、ハムスターだ! でっかいハムスターだ!!」
ゾンネンシュトラール帝国、そのとある地方都市で、一つの問題が起こっていた。
街の食料庫のジャガイモが軒並み巨大ハムスターに食べられる事件が発生したのだった。
●
「……魔獣の仕業、ですか?」
「えっと、はい、どうもそのようなんです」
問い返した少女とそれに歯切れ悪く答えた青年。
二人は共に帝国軍の軍人であったが、青年よりも少女の方が立場が上のように、青年は下手に出ていた。
「それで、うちの部隊にその魔獣を退治してほしい、と」
「ええ、私達だけでは追い込むところまでしかできず、ハンターにでも依頼を掛けようかと思っていたところ、あなた達が来られていると伺ったものでして。出来れば、次の被害が出る前に退治したいのです」
少女は思案顔になった。助けてはあげたい……だが、
「んんん、といってもうちの部隊も戦闘力がない後方部隊なんですよね。残念なことに錬金術師組合にでも助っ人を頼む方がよっぽど心強いと思います」
「……第八師団の方なのに?」
青年の問いに、少女は苦笑で返した。
「とりあえず、任務がありますので、ここで食料を調達できないようなら、あたし達は早急に東へ向かい別の都市で調達しないといけません。駐屯地に戻ったら報告は上げておきます。ですが、動くまでに時間はかかるのであまり期待しないでください」
申し訳なさそうに少女は頭を下げると、後ろに控えていた隊員達に出発の準備を伝えていく。
到着したばかりなので移動の準備は整っており、今日中には街を出ていけるようだ。
慌ただしく出て行く準備に取りかかった少女の部隊を、青年は頭を掻いて見送る。
「弱ったな。今からハンターに依頼を掛けても、到着は明日以降だろうけど……しょうがないか」
青年はため息を一つ。
説得に失敗したことを上官に伝える憂鬱さに苛まれながら、街の軍駐在所まで足取り重く戻っていった。
リプレイ本文
●下水道にて
都市の下水道に入り込んだハムスターを退治するため、今、街の軍警備隊と軍警備隊から助力の依頼を受けたハンター達が地下へと降り立っていた。
街を十字に走る地下下水道を軍の警備隊は東西南から、ハンター達は北から包囲を縮めて中央にて仕留める作戦である。
「やっぱりジメジメしてるわね~」
「そうですね……もふもふさんどこだろ……?」
満月美華(ka0515)は自分の持ってきた松明をミリアム・ラング(ka1805)に預けつつ、解けた長髪を纏めてアップにしなおしている。
後ろ手に髪をいじることによって、大きな胸を殊更強調するような格好になっている。
……これは、どうしたもんかな?
グループで唯一の男性である真田 八代(ka1751)は、無防備なその振る舞いに男性の目を考えるようにとお節介を焼いた方がいいかどうか苦笑を浮かべる。
「気をつけよ。どこにハムスターのやつが隠れておるかもしれんでのぅ」
シルヴェーヌ=プラン(ka1583)が松明を掲げて、周囲を照らしながら皆に注意を呼びかける。
松明を掲げる手と逆の手は、口元を服の袖にて覆っている。
「視界が悪いし……不意に来られても対処できるようにしないとな」
八代がライトで通路の先に光を送る。
下水道の中は光源がなく、彼らが持ち込んだ松明やライトだけが視界を確保する手段である。
シルヴェーヌや美華の持ち込んだ松明が周囲を球状に照らすのに対し、ライトの光は、直線にて先の視界を確保する。
「足場にも注意しなさいよ」
ライトで通路の足場を照らしながら、幸地 優子(ka0922)は忠告するように言う。
下水道の通路となる足場は、人が二人ほど並べる幅があるが、間違えれば下水の水路に足を突っ込むことになる。
流れる下水は、非常にきつい悪臭を放っていた。
「仕方が無いとはいえ、やはり居て気持ちのいい場所ではありませんね、下水道は」
水葉さくら(ka1173)が臭いに鼻を曲げる。
臭いのせいか、空気が濁って淀んでいるような気さえする。
眼にさえも刺激が来るのではないかと思いながらもなんとか見開き、松明で照らされた薄暗い足下に注意を払い進む。
「ハムスターかぁ」
前衛として先頭を歩きながら、超級まりお(ka0824)は微妙な顔を浮かべる。
……ハムスターってさあ。本当は共食いも行う凶暴な生物……結局中身はドブネズミと全くの同類だよね。
「ううーん」
あまり口に出すつもりも無いけれど、と悶々とした表情で思考する。
……犠牲になったのが街の食糧でよかったよね。2メートルを越すようなハムスターなら、人間が食い散らされててもおかしく無かっただろうし……。
口には出さない。口には出さない。シリアスは封印するのだ、と口を噤む。
「人間よりでかいハムスターとかすげぇよなあ。こっちの世界は」
……そんな動物がいるなんてなんでもありだよなあ。他にもいるのかねえ……?
八代が好奇心を隠しきれずに笑う。
「ハムスターさんを追い込むのでしたら、猫さんとかがいいのですかね?」
「それ、ハムスターの方がでかいから逆に猫が食べられてしまうんじゃないか?」
「んー、やっぱり普通の猫さんだと小さくて意味がないですよね。ハムスターさんよりおっきな猫さん散歩していないでしょうか」
「下水道に……ってかその前にそのサイズの猫がいるのかよ……」
「私はまだ見たことがないですけど、どこかに居るかもしれませんよ?」
八代がクリムゾンウェストの非常識さに呆れたように口をへの字に曲げる。
「おとなしく、ヒマワリの種でもかじっていればいいものを」
優子が、ツンツンとしながら口を尖らす。
下水の水路に飛び込む可能性も考えて、いつもはツインテールの銀髪をお団子に纏めている。
その姿は、偉そうな態度が似合っていて育ちの良いの幼いお嬢様のような雰囲気を作り出している。
「食糧庫を襲って、挙句に下水の臭いを漂わせてるなんて、救いようがないネズミだわ」
ただし、喋らなければと言う条件が付くが。
優子は、警備隊の証言によれば、下水の中に潜んでいたというずぶ濡れのネズミを想定して嫌そうに眉をしかめる。
「もふもふしたかったのですが……」
隊列の中程を進むメトロノーム・ソングライト(ka1267)は表情には何も出ていないものの言葉少なで残念そうだった。
ライトを地下下水路の中央に向けて、光の中にハムスターが現れないかを見張る視線
にもやや覇気がないように見える。
普段よりも飾り気の少ない汚れてもいいような服装に、もし、下水に入ることになったとしても膝下まで伸ばした青い長髪が水に浸からないようにと髪を纏め上げると、仕事に臨む格好は気合いの入ったもの。
しかし、気持ちの方はまだ少し切り替え終わっていなかった。
初仕事の緊張もあったが、もしかしたら巨大なハムスターをもふもふするチャンスがあるのかもという期待が打ち砕かれたショックは大きかった。
下水でべたべたに濡れ汚れたハムスターではもふもふなどできはしない。
「洗ってもふもふすればいいんです……もふもふ、もふもふ」
ミリアムは神の天啓を受けたかのように目を輝かせながら、呟き笑っている。
目の前のもふもふにやられて、熱病に浮かされたかのようであった。
「よし、まとまったわ。ありがとね。はい、これ。餌用のチーズよ」
ようやく髪の毛を纏め終えて、美華がミリアムから松明を受け取り、代わりにハムスターをおびき寄せるように持ってきていたチーズを手渡す。
「ありがとうございます! このご馳走でハムスターさんを釣り上げましょう!」
「ええ、そうね」
嬉々としてワンドの先にチーズを括り付けていくミリアムを美華は微笑ましそうに見守る。
……ハムスターからしてみれば、僕らの方が大きくて食べがいのあるご馳走かもね。
後ろから聞こえるやりとりにまりおは苦笑する。
……下水に濡れてなければ、肌触りとか良いのかしら?
優子もまた二人のやりとりを聞いて、それならば、捨てハムスターとして拾って帰るのもやぶさかでは――いやいや、何を考えているのかしら私は。
今月の家族――拾った犬猫達――の食費などでもう既にいっぱいいっぱいだというのに、巨大ハムスターを養う余裕などはない。けれど……。
家計簿を脳裏に浮かべて、なにやらぶつぶつと計算を始めた。
「さてさて、こんなところに居るハムスターとやらに興味は尽きんが、早めに終えたいものじゃの」
シルヴェーヌは袖の裏で口の端を笑みを浮かべる。
作戦に従い、徐々にハンター達は下水道を進んでいた。
「――水の流れが変です」
眉をしかめるメトロノームの眼に、中央を流れる下水にライトの光を反射する波が生まれ、こちらへと押し寄せて来るのが見えた。
「ハムスターめ、こちらに来よるのか?」
「ふふふ、じっとしきれず餌におびき出されたようですね」
シルヴェーヌは波の動きからハムスターの動向を推測し、ミリアムがにやりと笑った。
ハンター達が身構え、ライトを水面に集める。波が一気に大きくなってくる。
「見えた! 来るぜ!」
「こちら側には食料庫があります! 絶対に突破させてはいけません!」
大きく膨れ上がった波の隙間に八代がハムスターの姿を見、杖を構えてさくらが叫んだ。
「マジックアロー!」
迎撃のマジックアローが光の嵐のようになって水を叩く。
魔法の矢が降り注ぐ中、彼らの横の水路を駆け抜けようとする。
「ハムスターさん入れ食い待ったな、し? ……あれ、え、餌はこっちですよぉ!?」
ミリアムがチーズを吊した棒を振るがハムスターは無視した。
「……ッ! 抜けられてしまいます」
メトロノームが立ちはだかろうと
「Bダッシュゥ!」
同時に、スキルランアウトでまりおが駆け出していた。
通路の足場となる縁から、走り幅跳びの様に蹴り出し、
「イィィヤッフゥゥ!」
水路の中を走るハムスターめがけて跳ぶ。
跳びだした力はそのまま両手に持ったウォーハンマーへと。
「見た目がハムスターでも、2メートルもあれば充分バケモノだ!」
ハムスターがかき分ける下水の波間に、僅かにその背を見いだす。
相手も気づいたのか、その顔がまりおを捉える。
「すばしっこい……だが、ここから先は抜かせねえよ!!」
走るハムスターを追った八代がジャンクガンで牽制する。
僅かに足を止めたところへ、まりおが巨大な鎚を一気に振り下ろした。
エネルギーは一点に集中。叩かれたハムスターとともに、水路が爆発したかのように飛沫をあげる。
ちうう!?
ハムスターはいきなりの衝撃に転がって痛がりながらも、慌てて来た道へと反転する。
水の中に隠れたハムスターは、もの凄い早さで逃げていった。
「あれ? 逃げてった?」
下水を被りながら水路の中に着地したまりおが、追いかけようと一歩歩きだそうとして思わず靴が脱げそうになる。
前につんのめりながら、なんとか下水に顔から突っ込むのは持ちこたえた。
どうやら、水路の中には街の排水が汚泥として底に溜まっていたらしい。
「マンマミーア……」
全身に被ることになった下水の臭いに思わず呻いた。
ハンター達は追いかけるが、その姿が見えては来ない。
そのうちに通路の奥から人の叫び声が反響してくる。
おそらくは、警備隊の誰かの声。
「思った以上に足が速いのぉ。別の方面にまで走っていきおったか」
下水道の中央に、ハンター達は一番乗りを果たした。
奥の通路から再度中央に戻ってきたらしきハムスターと正面からはち合わせる。
「追い詰めたわね」
優子が目前にまでハムスターへと迫ったとき、左右と奥の通路からも帝国軍の警備隊が包囲を縮めてきたのが分かった。
中央に追い詰められたハムスターは、周囲をきょろきょろと逃げ道を探す。
だが、四方の通路全てが人によって封鎖されている。
「先制、撃たせてもらうぜ!」
「全弾持ってきなさい!」
ハンター達から一斉に機導砲とマジックアローが飛ぶ。
「撃てぇー!」
タイミングを合わせて、警備隊からも一斉に銃弾が飛んだ。
鉄と光の交差する嵐に、ハムスターは咄嗟に身を伏せるようにして水の中へと潜る。
いくつかの銃弾と光の矢が水に威力を殺されながらもハムスターに突き刺さる。
「ヒアウィィゴォー!」
掛け声とともに飛び出したまりおがハンマーを一振り。ハムスターの横の水面を叩く。
「全力でいきますよ、ハムスターさん!」
メイスファイティングを発動させて、飛沫となった水の隙間から全力のウィップを叩き込む。
「これ以上どこにも行かせないわよ」
続いた優子の薙刀が水に隠れたハムスターの横わき腹を突き刺した。
刺さった薙刀を振り払うようにしてハムスターが優子へと噛みにかかるが、優子は動物のような身のこなしで素早くその歯を避けた。
「撃てー!」
再度の発砲。
今度は無防備な姿を十字砲火の前に晒すことになった。
ちうう……。
ハムスターは息も絶え絶えになって、下水の中に倒れ込む。
警備隊がとどめを刺そうとしたとき、
「ちょっと待ってください! あの、できれば、そのハムスターを殺さないでいただけませんか」
ミリアムがそれに待ったをかける。
「それはできない相談だ。この魔獣は、殺処分が決まっている」
「どうしてですか。こんなにかわいいもふもふをどうして殺すんですか?」
「……ハンターに依頼したのは、我々の手伝いのみだ。それ以上、説明する必要はない。誰か、彼女たちを外へご案内しろ」
一人の兵士が挙手し、ハンター達の前に出る。
釈然としないまま兵士に促され、ハンター達はその場を後にすることになった。
●
「すみません、この街にお風呂はありますか?」
落ち込んだ空気を切り替えるようにして、メトロノームが先導する軍の警備隊の人に尋ねた。
「シャワーとサウナになりますが、ありますよ。……そちらに案内しましょうか?」
「是非お願いいたします」
答える青年に、声に僅かな喜色を滲ませて返事を返す。
皆の空気もやや和らいだように思う。
「……隊長がすみませんでした」
「あなたが気にすることでもないわよ~」
美華が慰めるように抱きついたミリアムの後ろから苦笑を返す。
青年は苦笑いとともに、美華の腕の中に収まっている少女を見やる。
「その……これはできれば内密にお願いしたいのですが……」
そう言って青年は事情をいくつか話し始めた。
ハムスターが造られた魔法生物であること、それに関して上に何らかの圧力がかかり魔獣として処理する決定が下されたこと、だからこそ過剰ともいえる戦力で退治に臨んだこと。
「なんでそんな話を俺達に?」
八代がきょとんとした顔で問い返す。
「……ハンターの方には真実を知っておいてほしいから、ですね」
曖昧な答えにもう一度聞き返そうとしたとき、青年は問いを遮るように一つの建物を指した。
「あそこが公衆浴場ですね。それでは、私はこれで失礼します」
ハンター達が呼び止める間もなく、兵士は雑踏に紛れて消えた。
後に残されたハンター達は帝国に対する疑問を胸に抱えたまま立ち尽くす。
日は西に暮れかけていた。
都市の下水道に入り込んだハムスターを退治するため、今、街の軍警備隊と軍警備隊から助力の依頼を受けたハンター達が地下へと降り立っていた。
街を十字に走る地下下水道を軍の警備隊は東西南から、ハンター達は北から包囲を縮めて中央にて仕留める作戦である。
「やっぱりジメジメしてるわね~」
「そうですね……もふもふさんどこだろ……?」
満月美華(ka0515)は自分の持ってきた松明をミリアム・ラング(ka1805)に預けつつ、解けた長髪を纏めてアップにしなおしている。
後ろ手に髪をいじることによって、大きな胸を殊更強調するような格好になっている。
……これは、どうしたもんかな?
グループで唯一の男性である真田 八代(ka1751)は、無防備なその振る舞いに男性の目を考えるようにとお節介を焼いた方がいいかどうか苦笑を浮かべる。
「気をつけよ。どこにハムスターのやつが隠れておるかもしれんでのぅ」
シルヴェーヌ=プラン(ka1583)が松明を掲げて、周囲を照らしながら皆に注意を呼びかける。
松明を掲げる手と逆の手は、口元を服の袖にて覆っている。
「視界が悪いし……不意に来られても対処できるようにしないとな」
八代がライトで通路の先に光を送る。
下水道の中は光源がなく、彼らが持ち込んだ松明やライトだけが視界を確保する手段である。
シルヴェーヌや美華の持ち込んだ松明が周囲を球状に照らすのに対し、ライトの光は、直線にて先の視界を確保する。
「足場にも注意しなさいよ」
ライトで通路の足場を照らしながら、幸地 優子(ka0922)は忠告するように言う。
下水道の通路となる足場は、人が二人ほど並べる幅があるが、間違えれば下水の水路に足を突っ込むことになる。
流れる下水は、非常にきつい悪臭を放っていた。
「仕方が無いとはいえ、やはり居て気持ちのいい場所ではありませんね、下水道は」
水葉さくら(ka1173)が臭いに鼻を曲げる。
臭いのせいか、空気が濁って淀んでいるような気さえする。
眼にさえも刺激が来るのではないかと思いながらもなんとか見開き、松明で照らされた薄暗い足下に注意を払い進む。
「ハムスターかぁ」
前衛として先頭を歩きながら、超級まりお(ka0824)は微妙な顔を浮かべる。
……ハムスターってさあ。本当は共食いも行う凶暴な生物……結局中身はドブネズミと全くの同類だよね。
「ううーん」
あまり口に出すつもりも無いけれど、と悶々とした表情で思考する。
……犠牲になったのが街の食糧でよかったよね。2メートルを越すようなハムスターなら、人間が食い散らされててもおかしく無かっただろうし……。
口には出さない。口には出さない。シリアスは封印するのだ、と口を噤む。
「人間よりでかいハムスターとかすげぇよなあ。こっちの世界は」
……そんな動物がいるなんてなんでもありだよなあ。他にもいるのかねえ……?
八代が好奇心を隠しきれずに笑う。
「ハムスターさんを追い込むのでしたら、猫さんとかがいいのですかね?」
「それ、ハムスターの方がでかいから逆に猫が食べられてしまうんじゃないか?」
「んー、やっぱり普通の猫さんだと小さくて意味がないですよね。ハムスターさんよりおっきな猫さん散歩していないでしょうか」
「下水道に……ってかその前にそのサイズの猫がいるのかよ……」
「私はまだ見たことがないですけど、どこかに居るかもしれませんよ?」
八代がクリムゾンウェストの非常識さに呆れたように口をへの字に曲げる。
「おとなしく、ヒマワリの種でもかじっていればいいものを」
優子が、ツンツンとしながら口を尖らす。
下水の水路に飛び込む可能性も考えて、いつもはツインテールの銀髪をお団子に纏めている。
その姿は、偉そうな態度が似合っていて育ちの良いの幼いお嬢様のような雰囲気を作り出している。
「食糧庫を襲って、挙句に下水の臭いを漂わせてるなんて、救いようがないネズミだわ」
ただし、喋らなければと言う条件が付くが。
優子は、警備隊の証言によれば、下水の中に潜んでいたというずぶ濡れのネズミを想定して嫌そうに眉をしかめる。
「もふもふしたかったのですが……」
隊列の中程を進むメトロノーム・ソングライト(ka1267)は表情には何も出ていないものの言葉少なで残念そうだった。
ライトを地下下水路の中央に向けて、光の中にハムスターが現れないかを見張る視線
にもやや覇気がないように見える。
普段よりも飾り気の少ない汚れてもいいような服装に、もし、下水に入ることになったとしても膝下まで伸ばした青い長髪が水に浸からないようにと髪を纏め上げると、仕事に臨む格好は気合いの入ったもの。
しかし、気持ちの方はまだ少し切り替え終わっていなかった。
初仕事の緊張もあったが、もしかしたら巨大なハムスターをもふもふするチャンスがあるのかもという期待が打ち砕かれたショックは大きかった。
下水でべたべたに濡れ汚れたハムスターではもふもふなどできはしない。
「洗ってもふもふすればいいんです……もふもふ、もふもふ」
ミリアムは神の天啓を受けたかのように目を輝かせながら、呟き笑っている。
目の前のもふもふにやられて、熱病に浮かされたかのようであった。
「よし、まとまったわ。ありがとね。はい、これ。餌用のチーズよ」
ようやく髪の毛を纏め終えて、美華がミリアムから松明を受け取り、代わりにハムスターをおびき寄せるように持ってきていたチーズを手渡す。
「ありがとうございます! このご馳走でハムスターさんを釣り上げましょう!」
「ええ、そうね」
嬉々としてワンドの先にチーズを括り付けていくミリアムを美華は微笑ましそうに見守る。
……ハムスターからしてみれば、僕らの方が大きくて食べがいのあるご馳走かもね。
後ろから聞こえるやりとりにまりおは苦笑する。
……下水に濡れてなければ、肌触りとか良いのかしら?
優子もまた二人のやりとりを聞いて、それならば、捨てハムスターとして拾って帰るのもやぶさかでは――いやいや、何を考えているのかしら私は。
今月の家族――拾った犬猫達――の食費などでもう既にいっぱいいっぱいだというのに、巨大ハムスターを養う余裕などはない。けれど……。
家計簿を脳裏に浮かべて、なにやらぶつぶつと計算を始めた。
「さてさて、こんなところに居るハムスターとやらに興味は尽きんが、早めに終えたいものじゃの」
シルヴェーヌは袖の裏で口の端を笑みを浮かべる。
作戦に従い、徐々にハンター達は下水道を進んでいた。
「――水の流れが変です」
眉をしかめるメトロノームの眼に、中央を流れる下水にライトの光を反射する波が生まれ、こちらへと押し寄せて来るのが見えた。
「ハムスターめ、こちらに来よるのか?」
「ふふふ、じっとしきれず餌におびき出されたようですね」
シルヴェーヌは波の動きからハムスターの動向を推測し、ミリアムがにやりと笑った。
ハンター達が身構え、ライトを水面に集める。波が一気に大きくなってくる。
「見えた! 来るぜ!」
「こちら側には食料庫があります! 絶対に突破させてはいけません!」
大きく膨れ上がった波の隙間に八代がハムスターの姿を見、杖を構えてさくらが叫んだ。
「マジックアロー!」
迎撃のマジックアローが光の嵐のようになって水を叩く。
魔法の矢が降り注ぐ中、彼らの横の水路を駆け抜けようとする。
「ハムスターさん入れ食い待ったな、し? ……あれ、え、餌はこっちですよぉ!?」
ミリアムがチーズを吊した棒を振るがハムスターは無視した。
「……ッ! 抜けられてしまいます」
メトロノームが立ちはだかろうと
「Bダッシュゥ!」
同時に、スキルランアウトでまりおが駆け出していた。
通路の足場となる縁から、走り幅跳びの様に蹴り出し、
「イィィヤッフゥゥ!」
水路の中を走るハムスターめがけて跳ぶ。
跳びだした力はそのまま両手に持ったウォーハンマーへと。
「見た目がハムスターでも、2メートルもあれば充分バケモノだ!」
ハムスターがかき分ける下水の波間に、僅かにその背を見いだす。
相手も気づいたのか、その顔がまりおを捉える。
「すばしっこい……だが、ここから先は抜かせねえよ!!」
走るハムスターを追った八代がジャンクガンで牽制する。
僅かに足を止めたところへ、まりおが巨大な鎚を一気に振り下ろした。
エネルギーは一点に集中。叩かれたハムスターとともに、水路が爆発したかのように飛沫をあげる。
ちうう!?
ハムスターはいきなりの衝撃に転がって痛がりながらも、慌てて来た道へと反転する。
水の中に隠れたハムスターは、もの凄い早さで逃げていった。
「あれ? 逃げてった?」
下水を被りながら水路の中に着地したまりおが、追いかけようと一歩歩きだそうとして思わず靴が脱げそうになる。
前につんのめりながら、なんとか下水に顔から突っ込むのは持ちこたえた。
どうやら、水路の中には街の排水が汚泥として底に溜まっていたらしい。
「マンマミーア……」
全身に被ることになった下水の臭いに思わず呻いた。
ハンター達は追いかけるが、その姿が見えては来ない。
そのうちに通路の奥から人の叫び声が反響してくる。
おそらくは、警備隊の誰かの声。
「思った以上に足が速いのぉ。別の方面にまで走っていきおったか」
下水道の中央に、ハンター達は一番乗りを果たした。
奥の通路から再度中央に戻ってきたらしきハムスターと正面からはち合わせる。
「追い詰めたわね」
優子が目前にまでハムスターへと迫ったとき、左右と奥の通路からも帝国軍の警備隊が包囲を縮めてきたのが分かった。
中央に追い詰められたハムスターは、周囲をきょろきょろと逃げ道を探す。
だが、四方の通路全てが人によって封鎖されている。
「先制、撃たせてもらうぜ!」
「全弾持ってきなさい!」
ハンター達から一斉に機導砲とマジックアローが飛ぶ。
「撃てぇー!」
タイミングを合わせて、警備隊からも一斉に銃弾が飛んだ。
鉄と光の交差する嵐に、ハムスターは咄嗟に身を伏せるようにして水の中へと潜る。
いくつかの銃弾と光の矢が水に威力を殺されながらもハムスターに突き刺さる。
「ヒアウィィゴォー!」
掛け声とともに飛び出したまりおがハンマーを一振り。ハムスターの横の水面を叩く。
「全力でいきますよ、ハムスターさん!」
メイスファイティングを発動させて、飛沫となった水の隙間から全力のウィップを叩き込む。
「これ以上どこにも行かせないわよ」
続いた優子の薙刀が水に隠れたハムスターの横わき腹を突き刺した。
刺さった薙刀を振り払うようにしてハムスターが優子へと噛みにかかるが、優子は動物のような身のこなしで素早くその歯を避けた。
「撃てー!」
再度の発砲。
今度は無防備な姿を十字砲火の前に晒すことになった。
ちうう……。
ハムスターは息も絶え絶えになって、下水の中に倒れ込む。
警備隊がとどめを刺そうとしたとき、
「ちょっと待ってください! あの、できれば、そのハムスターを殺さないでいただけませんか」
ミリアムがそれに待ったをかける。
「それはできない相談だ。この魔獣は、殺処分が決まっている」
「どうしてですか。こんなにかわいいもふもふをどうして殺すんですか?」
「……ハンターに依頼したのは、我々の手伝いのみだ。それ以上、説明する必要はない。誰か、彼女たちを外へご案内しろ」
一人の兵士が挙手し、ハンター達の前に出る。
釈然としないまま兵士に促され、ハンター達はその場を後にすることになった。
●
「すみません、この街にお風呂はありますか?」
落ち込んだ空気を切り替えるようにして、メトロノームが先導する軍の警備隊の人に尋ねた。
「シャワーとサウナになりますが、ありますよ。……そちらに案内しましょうか?」
「是非お願いいたします」
答える青年に、声に僅かな喜色を滲ませて返事を返す。
皆の空気もやや和らいだように思う。
「……隊長がすみませんでした」
「あなたが気にすることでもないわよ~」
美華が慰めるように抱きついたミリアムの後ろから苦笑を返す。
青年は苦笑いとともに、美華の腕の中に収まっている少女を見やる。
「その……これはできれば内密にお願いしたいのですが……」
そう言って青年は事情をいくつか話し始めた。
ハムスターが造られた魔法生物であること、それに関して上に何らかの圧力がかかり魔獣として処理する決定が下されたこと、だからこそ過剰ともいえる戦力で退治に臨んだこと。
「なんでそんな話を俺達に?」
八代がきょとんとした顔で問い返す。
「……ハンターの方には真実を知っておいてほしいから、ですね」
曖昧な答えにもう一度聞き返そうとしたとき、青年は問いを遮るように一つの建物を指した。
「あそこが公衆浴場ですね。それでは、私はこれで失礼します」
ハンター達が呼び止める間もなく、兵士は雑踏に紛れて消えた。
後に残されたハンター達は帝国に対する疑問を胸に抱えたまま立ち尽くす。
日は西に暮れかけていた。
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相談卓 シルヴェーヌ=プラン(ka1583) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/06/15 23:45:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 09:14:52 |