光り輝く宝石が

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/26 09:00
完成日
2014/07/30 21:34

みんなの思い出

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オープニング


 日も落ちた頃、仄暗い洞窟の中、カンテラを揺らして進む小さな影が3つ。
 雑魔が出たため禁足地とされた山の中腹に、その洞窟は崩れかけた入り口を開けている。
 3人の少年はその洞窟の中を、入り口を振り返りながら慎重に歩いていた。

 ――洞窟の奥には光輝く宝石がある――

 そんな噂話に乗せられて、大人の目を盗み忍び込んだ。
 カンテラの光が何かの影を照らした。
 先頭を歩いていた少年、トリィは足を止める。
「今、何か……」
 何かが見えた。
 それは彼の脚ほどの太さで、身の丈の数倍の長さを持ち、骨を感じさせないしなやかな動きで空間を薙いだ。
「何もいないみたいだぜ」
 二番目を歩く少年、サンクが覗き込んだが、暗がりの為か、それとも既に引っ込んでしまったのか、そこには何も見えなかった。
「もう帰ろう……あまり奥に行くと……戻れなくなっても、大変だし……さ」
 三番目に着いてきた少年、スエミは、何度も後ろを振り返り、入り口を確認しながら、先へ先へと進んでしまいそうな2人を呼び止める。
「平気平気」
 サンクは言う。トリィは何も答えずにカンテラを持つ腕を伸ばして奥を覗き込んだ。
「なっ。大丈夫だろ」
 トリィの肩をサンクが叩いた。
「……うん、見間違いだったのかな?……何も、見えな――――っ」
 トリィの体が太い触手に弾かれて、柔らかい体が尖った石の壁に打ち付けられる鈍く生々しい音と、彼が放り出したカンテラの転がるカランカランと乾いた音が響いた。
 地面に広がった油を燃やし、照らし出されたのは巨大な蛾、腹から二本の触手を鞭のように撓らせた異形の生き物だった。
 サンクとスエミは、長く伸びた自分の影を追いながら、入り口へ走った。

 触手が背中を掠める感触に追われながら、洞窟から逃げ出した2人は暗い入り口を振り返った。
 トリィは、どうなってしまっただろうか。
 サンクが足下に落ちていた石を拾う。
「助けに、行かねーと……」
「ま、待ってよ。危ないよ……お、おとな、の、人……呼んでこよう、ね……」
「ばか、そんなコトしたら、バレちまうだろ」
 スエミの制止を振り切って、サンクはポケットに入るだけの石を詰めて、トリィの投げ出したカンテラを頼りに戻った。
 スエミはぐずと鼻を啜り、涙を擦って山を下りた。
 助けを呼ばなければと走る小さな体が、ぽふ、と、とある案内人にぶつかった。


 それは、昼下がりのこと。
 村長はすっかり冷めたお茶を前に案内人に向かって重い口を開いた。
 この村外れを少し行った山の中腹に洞窟がある。そこには雑魔が住み着いている。
 元々それは雑魔か何かも分からないただの光るだけの大ぶりの蛾で、村人は無害だと決め込んで放って置こうとする者もいた。
 少し経って覗いたら、それは大きく育っていた。人の子どもの大きさくらいだったという。
 村人が数人で駆除に出向いたところ、暴れるでもなく倒れて土塊になって消えたらしい。
「それがまた出てきたんで、昨日若いのが、銃を持って向かったんだが……」
 そこにいたのは以前より、一、二回り大きくなった光る蛾だけではなく、その蛾の側に控えて鞭のような触手を揺らす大きな蛾、これも人の大人ほどの大きさはあったという。
「つまり、その2匹を駆除したら良いんですね? 虫退治ですか?」
 虫退治、人間ほどの大きさの蛾を、それも光ったり、腹から鞭を生やしたものを、ただの虫と呼べるものかと村長は首を捻る。
「おやっさん! ウチのかみさんが、どっかの子供らが3人、禁足の洞窟に行くの見たってよぉ」
 村長の家に飛び込んできた男がいた。黄昏に霞む後ろ姿でそれが誰かは分からなかったが、子供が3人連れだって、話に出ていた洞窟へ向かったという。
 更に別の男も尋ねてきた。彼の息子が友人からこんな話を聞いたという。

 ――洞窟の奥には光輝く宝石がある――

 「それ、宝石じゃなくって、虫ですからーっ」
 案内人は、至急招集したハンターを先導し、手元で小さなカンテラを揺らしながら洞窟へ走った。

 暗い夜道、案内人の腹に小さな体がぶつかった。


 案内人を先頭にスエミとハンター達は洞窟へ向かって山道に入る。暗がりの中を進み、数歩の先に更に暗い口を開ける洞窟が見える。
「どうして駆除するまで待てなかったんですか……」
 今更行っても詮無いことだが、2人の少年は、恐らく。
「とにかく、君は見たこと全部、洗いざらいに話して下さいよ」
 カンテラの火が揺れる。その光を見て、少年はぽつりと、明るかった、と呟いた。
「逃げる時に、後ろから、光が当たっていました。眩しかった……あと、長い何かで、吹き飛ばされたみたいになって……それで、壁に……」
 要領を得ない言葉が、しかし、洞窟を覗けば見て取れた。
 中を覗ったその先。
 トリィを助けに戻ったサンクの小さな体が、村長の話通り巨大な蛾の、腹から伸びた太い触手に弾かれた。

リプレイ本文


 洞窟の中を小さなカンテラのか細い明かりが照らす。
「庶民のお子様というのは厄介なところで遊ばれますのね」
 覗うように先を見据えるベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)の言葉にスエミはびくりと肩を震わせた。倒れた友人の元へ今にも走り出しそうに足が焦れている。
 佐藤 絢音(ka0552)がその前に立ち塞がってたいまつに火を灯した。
「パパとママに叱られるの」
 ふっと、微笑む。綾音も、この子と同じ子供。でも、ちょっとだけ修羅場の経験はあるのよ。
「叱られるの、――虫より怖いと思うけど、諦めるの」
 佐藤の体が光に変わる。そして、光の揺らぎが四肢を伸ばし、新しい輪郭を象って現れるのは、幾らか大人びた少女。パフスリーブの丸い袖にパニエに膨らませた裾、その装いは可憐で、甘やかなシルエットが揺れる。リボンとレースを纏い、プリーツをたっぷりとあしらって。背負われるように背負った銃は可愛くたって、大火力なの。口角を上げて洞窟の奥を睨む。
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がスエミの肩に手を置いて下がらせる。靴をぱたりと鳴らしてスエミは彼女の相貌を見上げた。
「不安は、分かります。でも、私たちに任せて、ここで待っていて下さいね」
「この子をよろしく頼みましてよ」
 アデリシアとベアトリスに圧されて後退ったスエミは、お任せ下さいと頷いた案内人に捕まった。
 ベアトリスは覚醒させたマテリアルの熱を宿す魔導機械をダーヴィド・ラウティオ(ka1393)に向け、彼の動きの補強を図り、続いてそれをアデリシアに向ける。
 伏せていた瞼を上げ、アデリシアが青い瞳を見せる。黒い髪が煌めきを放つ銀色への階調に変化し、沸き立つ熱を制御して深く息を吐いた。ベアトリスに重ねてダーヴィドに光の装甲を纏わせる。
「参りましょう、ダーヴィド殿」
 自身にも同じ装甲を持って洞窟の中を見詰める。
「ああ――行こうか」
 ダーヴィドは盾を構え、銃を携える女性たちを振り返り、
「背中から当てないように……頼むよ」
 柔和な目で告げて先行した。触手の揺れる先へ。銃弾の導線を確保するように姿勢を下げて走り出した。
 スエミを引き摺って案内人が離れると、揺れていたカンテラの明かりが途絶えた。ベアトリスは持っていたライトを腰にくくりつけ、空いた両手で陸上用に装填し直した水中銃を構える。走る二人の上、銃弾は届きそうだ。
「私たちも、行くよ」
 マファルダ・ベルルーティ(ka2311)が剣とライトを構えてクロ・トゥインクル(ka1468)を見る。
「……彼、同い年くらいですよね――きっと助けます」
 スエミを振り返ってそう告げると、クロはサングラスを掛けた。同じくサングラスを取り出したマファルダとその顔を見合って、ボクには似合わないかな、と首を傾げる。
「ボクはサンクを助けます。これもありますから、マファルダさんはトリィの方を照らしてください」
 点火したたいまつを示し、洞窟内を照らす。少し先に倒れている少年がぼんやりと見えた。
「ああ、だが攻撃は私が引き受けよう。子供を頼む」
 二人が洞窟の中へ走り出した。
 ハンターたちの接近に気付いた蛾は腹の触手を揺らめかせ、その先までを撓らせる。
 びし、と牽制するように壁を打つと、ぱらぱらと石片が降ってきた。


 ダーヴィドは盾を翳して自身とアデリシアを庇いながら触手の向こうへ走り込む隙を探す。そこへ空気を薙いだ一本の太い触手が叩き込まれる。
「……っく――っはあ」
 触手へ向かって盾ごと飛び込むように受け止めると、アデリシアに向かって叫ぶ。
「先へ!」
「はい――」
 アデリシアの走る先へ光が飛び込んできた。
 マファルダが触手を誘い、躱しながら照らすその光は不規則に揺れるが、血溜まりの中に倒れる小さな少年が、助けを求めるように手を伸ばしている姿が見えた。
 その手に向かってアデリシアは一心に走った。
「っ」
 ダーヴィドの向ける盾を回避した触手が、地面を擦りながら彼の片足を打つ。姿勢を崩しながらその衝撃と響く痛みを耐えて盾を構え続けた。
 呻き声にマファルダはその触手へ向かって飛び込んだ。
 ライトを片手で洞窟の奥へと向けながら、両刃の切っ先を触手へ向ける。足に効かせるマテリアルを剣へ向けて、誘いに乗った触手の先1尺程を刈り取る。
「そうだ、こちらを狙え」
 アデリシアが少年を助ける姿を目の端に捉えて安堵するが、ライトを向けながらの立ち回りは厳しく、それ以上は避けきることすら危うい。
 そこへ、炎が投げ込まれた。
「そこにいるのね、見えたの!」
 蛾の近く投げ込まれたたいまつは消えかかりながらも、熾火のように燻った炎を少しずつ燃え上がらせていく。
 それを見届けた佐藤が銃口を蛾に向けた。
「両手が空いたの……これが使えるの」
 投げ込んだ光の上を狙い、背負われるほどに大きな銃から放つ銃弾が、羽の一枚に穴を開けた。
 その瞬間、洞窟内を真っ白に塗りつぶすほどの光が溢れた。
 光に染まる中、サンクの元に辿り着いたクロに向かって触手が伸ばされた。音を立てて空気を薙ぐほどの勢いを持って小さな体に迫っていた。
 ベアトリスはサングラスのブリッジを押し上げて光から顔を背ける。
「この光……これを掛けていても正面からの直視はやはり厳しいですわね。ですが……その程度で私が外すと思っていて?」
 溢れる光の中で一際眩しい蛾の本体を狙って引鉄を引く。マテリアルのエネルギーが光を引き裂くように新しい軌跡を描いて放たれた。
 クロへ迫っていた触手は翻りその銃弾を叩く。
「うわっ……危なかったです――ありがとうございます」
「ええ、早くその子供を」
「はいっ」
 光が和らいでいけば、サングラス1つで十分サンクの姿を捉えることが出来る。
 壁にぶつかったのだろう傷が幾つも見つかったが、幸い息はしているようだ。
 祈りながらロッドを向ける。
 眩むほどの強い光の中でも、彼女の灯す温かな光は優しく傷付いたサンクの体を包んだ。
 傷に光を纏いながらサンクはゆっくりと瞬いて、クロの顔を見上げた。
「……助けに来ました。立てますか?」
 クロが差し伸べた手を掴みながら頷いて体を起こした。
 
 この場での手当は危ない。2匹の蛾に挟まれて、アデリシアはトリィを抱えて脱出を試みる。背後から灼くような光が放たれたのは、その時だった。
「…………っう」
 腕の中で目を覚まし、その光をまともに見詰めてしまったトリィが呻いた。
 アデリシアは光に目を眇めながらトリィの手を握った。蛾に背を向けて被さるようにトリィを庇う。ダーヴィドがアデリシアを守るように盾を構えるが、光の中で捉えきれない触手が迫ってくる。
 咄嗟に盾を向けるが、その衝撃は盾を圧して鎧の内まで至る。けれど、背には子供を守っている。退くわけにも、崩れるわけにもいかない。
 一歩、前に踏み込むと、次第に光は薄れていった。
 トリィはアデリシアの手を掴んで浅い呼吸を保っている。
「動けそうか」
「ええ……抱えていきます」
「後ろは私が守る。振り返らずに身を低くして……走りなさい」
 力の入っていない小さな体を腕に抱いて、アデリシアが洞窟の入り口へと走る。ダーヴィドがその後に続いた。
 頭上を2つの軌跡が貫いていった。佐藤とベアトリスの放った銃弾の軌跡。マテリアルの輝きを纏った閃光。
 蛾はその攻撃を受けて尚、泰然と触手を揺らしている。
 クロはサンクの回復を促し、手を引いて脱出を目指し、マファルダが剣を翳して背後を庇う。
 怪我が残ったらしい足を庇うサンクに合わせ、入り口は少し遠い。伸ばされる触手を、マファルダがより派手に動いて誘う。
「……これくらいで、倒れない」
 打たれても、2人が逃げ切るまでは避けずに剣を向ける。鋭いエッジが触手を裂いて、濁った雫を吹き上げた。
「――サンクをお願いします……走って」
 触手から逃げ切ると、入り口に向かって呼び掛ける。
 サンクは1度クロを振り返って外に向かった。スエミと共に小さなカンテラの脇で座り込んだ。
「サンク。ハンターさんが、助けに来てくれたんだよ……よかった」
「……ってて――足、まだ痛ぇや」
 子供2人が喋っていると、アデリシアが飛び出してきた。
 虫の息の少年を寝かせ、ロザリオを翳す。零れる淡い光に包まれて、細く苦しげな息が安らいでいく。すぅっと寝息のように穏やかになれば、アデリシアもほっと安堵の息を吐いた。トリィを案内人に預け、洞窟を振り返りハンマーを取る。
「あとは、片付けるだけだな」
 光の装甲を纏い直すと青い目できっと睨んで再びその中へ走って行った。
 少年たちの無事を見届けると、クロは洞窟の中に留まり、ロッドをマファルダに向ける。
「子ども達は無事です――援護します、任せて下さい」
「そうか。良かった――ああ、頼んだ」

 ダーヴィドが深呼吸を一つ打ち据えられた傷を抑え、盾を置いて銃を取る。化け物と戦うのに盾では分が悪い。
 がらんと高い音が鳴った。佐藤の足下に空の弾倉が落ちる。新しい弾倉に付け替えて銃床を叩く。
「これでいけるの……大きな虫、気持ち悪いの」
「こちらもそろそろ、ですわね――光る兆候が分かればよろしいのですけれど」
 先ずはあの触手から、3人が銃口を触手を揺らす蛾に向けた。
 銃弾が一斉に放たれる中、マファルダとアデリシアは蛾に向かって武器を向ける。
 マファルダは踊るように触手を躱し、剣がそれを刈り取っていく、アデリシアの鎚が膨れた胴に叩き込まれ、抉れる傷からどす黒い粘液を滴らせた。
 羽を穴だらけに触手を一本刈られ腹を割かれた蛾の後ろ、もう1匹が羽を揺らした。
 攻撃を見てましたのね、とベアトリスが声を上げる。
「光りますわ、お気をつけ下さい」
 その言葉の最中、光が洞窟に広がった。
 光から目を庇ったアデリシアに触手が迫る、マファルダが間に飛び込むようにその触手を刈り、黒く滴りながら翻るそれに弾かれる。
「マファルダさん!……っ」
 ロッドをマファルダに向けたクロの顔の横を1匹の小さな蛾がひらひらと飛び込んできた。光に引き寄せられるように、それは倒れかかった蛾の頭に張り付いて羽を静めた。
「――あの光る蛾は……」
 触手を揺らす蛾もこうして呼ばれたのかも知れない。それなら放置は危険だ。
 光の中再装填を終えたベアトリスが、銃を向ける。
「攻撃を集中して、もう一度叩きますわよ!」
 続けて叩き込まれた3発の銃弾に触手を揺らす蛾は崩れ、蠢いていた辺りには土塊のようなものと、どろりとした血のような黒い滴りが残された。
 クロが向けた光を受けて立ち上がったマファルダが、光の静まっていく蛾に目を向けた。アデリシアもそれに鎚を向けた。
 不規則で毒々しい模様の羽と枯れ枝のような脚、羽を揺らす度に鱗粉が薄く舞い散る。
「あまり、見ていたい物では無いな」
 マファルダが切っ先を向けてマテリアルを込める。
「そうですね……でも、躊躇などしていられません」
「ああ、確かに」
 アデリシアの光の鎧は薄れてきている。手中で持ち直す柄を滑らせて鎚を引き寄せて振り上げると、飛び込むように薙いで叩く。
 その傷に合わせるようにマファルダの剣が突き立てられた。
「もうちょっとなの。こっちも穴だらけにしてやるのね」
 綾音の放った銃弾が彼女のマテリアルに乗って蛾の頭を弾き飛ばした。反動にリボンをふわりと揺らし、からん、と弾倉を落とす。
「質のよろしくない宝石ですわね」
 ベアトリスが続けて放つ銃弾が胸を貫いた。
 尚も生きていたのか羽が暫く蠢いたが、胴体が崩れて土塊に変わると、ぱりん、と音を立てて砕け散った。


 マファルダが向けたライトの先には蛾の形をしていた何かが堪っているだけで何も無い。照らされながら、それはすぐに地面の土と見分けが付かなくなっていった。
 ダーヴィドが銃を下ろし、終わったのかと洞窟内を進む。
「奥は」
「いや、ここまでのようだな」
「そうか。だがここは……」
 ライトの光が照らしたのは洞窟の壁。蛾の朽ちたところから、数歩も行かずに行き止まった。石の壁に気になるところは無い。
 子供の様子を確かめてから、残りのたいまつを灯して、クロも洞窟の中に歩いてきた。光る蛾の朽ちた場所の土を削り取っている。
「また出てくるかもしれませんから、持ち帰ってハンターオフィスで調べてもらったほうがいいかと思って」
「確かに、土に擬態していたという可能性もあるからな」
 採取を手伝ったダーヴィドは指に付いた土を払い落とした。それはただの土のように見える。蛾が土に擬態し逃げた様子も、土の中に卵がある様子も無い。
「戻ろう」
 マファルダが他に襲ってくるものがいないことを確かめると3人は洞窟の外へ向かった。
 カンテラを置き、アデリシアがもう一度ロザリオを翳す。トリィがその光の中で身動いで目を覚ました。
 そこに幾つもの明かりが近付いてきた。子供を心配した家族と数人の村人たちだ。
「サンク、サンク……このお馬鹿、何やってんのよ」
 母親に拳骨を頭に落とされて、痛ぇとサンクが声を上げる。トリィが小さな声で、助けに来てくれたんですよ、と言うと、鼻の頭を赤く染めた彼女は叩いた上からぽんと撫でた。
「アンタもだよ、本当に無事で良かった……」
 両親に抱き締められて、スエミが堰を切ったように声を上げて泣き出した。
「あなたも、心配されているでしょう」
「そうなの。でも、これでちょっと、大人になったのよ」
 アデリシアがトリィをおぶり、佐藤がくすっと笑った。
「念のために早くお医者さんにも診せたほうがいいですよね」
 山を下りながらクロが言う。ダーヴィドが少し離れ洞窟を気にする村人に混じった。
「虫の他には、何も無いようだった。調べられるような場所も無い。また湧いても困るだろうから、埋めてしまった方が良いのかも知れないね」
「そうだなぁ……まあ、近いうちに人を集めよう」
 明かりを手に洞窟を覗いていた男が肩を竦め、困ったものだと溜息を吐く。
 山を下りた辺り、道に若い女性が佇んでいた。ハンターたちに気付くと深々と頭を下げた。
「この子の……」
「はい……ありがとうございました」
 トリィがアデリシアの背から降りて、ふらつきながらその女性の手を握った。

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MVP一覧


  • マファルダ・ベルルーティka2311

重体一覧

参加者一覧

  • 薔薇色の演奏者
    ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458
    人間(蒼)|19才|女性|機導師

  • 佐藤 絢音(ka0552
    人間(蒼)|10才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 秘めし忠誠
    ダーヴィド・ラウティオ(ka1393
    人間(紅)|35才|男性|闘狩人

  • クロ・トゥインクル(ka1468
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士

  • マファルダ・ベルルーティ(ka2311
    人間(紅)|20才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/22 01:03:26
アイコン 相談卓
クロ・トゥインクル(ka1468
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/07/24 20:11:29