• 東征

【東征】墜ちた星への餞に

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2015/09/13 15:00
完成日
2015/09/26 07:17

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●上に立つもの
「……もう身体は良いのか?」
「ああ、勿論だ。大体、俺様があの程度で倒れるかっちゅーの。稀代のスメラギ様をナメんなよ?」
 いつもの仏頂面で言うバタルトゥ・オイマト(kz0023)に、にんまりと笑みを返すスメラギ。
 彼が座す謁見の間。天ノ都城下町に歪虚を引き入れるという苦肉の策で、龍尾城も被害を受け……瓦礫を片付け、被害を受けた場所に天幕で適当な補修をしただけの状態であったがそれでも執務は出来る。
 九尾を撃破出来たが、この国の問題が解決した訳ではない。
 休む訳にはいかない……と、スメラギは精力的に執務をこなしていた。
「……そうか。そこまで元気なら、大丈夫そうだな」
「何がだよ」
「……そろそろ、辺境の地に戻らねばならぬ。その前に、少し話をしに来た」
「あぁ、そっか。そうだよな」
 淡々と言うバタルトゥに、軽く頷くスメラギ。
 バタルトゥも、オイマト族の族長で、辺境会議の大首長という、人の上に立つ立場にある。
 いつまでも他国に残っている訳にはいかないのだ。
「……その前に一つ、やり残したことがあってな」
「あ? 何だよ」
「……先々代のスメラギに、直接詫びと此度の報告をしたい。……墓参りの許可を貰いたいのだが……」
「あぁ、それは別に構わないけどよ。ってか、まだ気にしてたのかよ!」
「……約束を違え、待たせた事実は変わらぬからな」
 どこまでも生真面目なバタルトゥに、スメラギはため息をついて肩を竦める。
 ――元々この男は、遠い約束に縛られて、この地にやって来た。
 先祖がした口約束など、果たす義理もなかっただろうに。
 それでも……西方の力がなければ、この国は未曾有の危機を乗り越えることは出来なかったはずで……。
「……こうして、父祖の誓いを果たすことが出来て、安堵している。……またこの国に何かあれば、すぐに駆けつけよう」
「まーたそんな約束しちまって大丈夫かぁ? てーか、国建て直したら、今度は俺様がそっちを助けに行ってやるから待ってろよコノヤロウ!」
「……そうか。こちらも問題が山積していてな……。いずれ力を借りる時も来よう。期待している」
「おうよ、任せとけ!」
 ばーん! と胸を叩くスメラギにくつりと喉を鳴らして笑うバタルトゥ。
 赤毛の少年は、あ、と思い出したように長身の男を見る。
「……そーだった。これからよ。盛大な宴を開こうって思ってんだ。それくらいは付き合ってから帰れよ」
「……宴? こんな時にか……?」
「あぁ。こんな時だからだよ。盛大に勝利を祝ってさ、都に人を呼び戻すんだ」
 きっぱりと断じるスメラギ。彼はふう、とため息をついて、崩れかけた床を見つめる。
「……大勢の人が死んだ。それこそ数えきれないくらいにな。けどよ、俺様が泣いたらさ……。民だってどうしたらいいかわかんねーじゃんか。こんな国がボロボロで、問題は山積みで、先が見えねーってのに。だから、俺様が率先して笑ってないとさ」
 顔を上げて、ニンマリと笑顔を作るスメラギ。
 強がりで笑うのは慣れている。痛い時も辛い時も、ずっとこうして生きてきた。
 だから――。
「これからの俺達がしなきゃならねぇ事は涙を流すことじゃない。笑って笑って、死んでいった連中の戦いが無駄じゃなかったって証明してやる。それが俺達、エトファリカの死生観であり流儀だ」
「……お前の考えは概ね理解した。……では、俺はこちらの流儀で鎮魂を手伝わせてもらうとしようか」
「あ? 何だって?」
「……お前の民は、確かに不幸を笑い飛ばす力を持っているのだろう。だが、強い人間ばかりではないからな……。正直に、悲しみを吐き出す場も必要だ」
「……てめぇ、本当賢くてムカつくな」
「褒め言葉と受け取っておこう……」
「褒めてねぇよバーカ!」
 全く動じないバタルトゥにがるるると吼えるスメラギ。
 再び何かを思い出したのか、己の懐を探る。
「そういや、これ返しといた方がいいか?」
 そういって彼が差し出したのはオイマト族に伝わる守りの文様が刺繍されている守り袋。
 なんだかんだ言いつつもこの戦いの間、ずっと持っていたらしい。
 バタルトゥは目を細めると、静かに首を振る。
「……これはお前の為に作ったものだ。このまま持っているといい。この先も、きっと変わらずにお前を守るだろう……」
「ふーん。そんなもんかね」
「……破れているな。激しい戦いから主を守ったのだから、詮無きことか……。繕おう……」
「あ? いーっていーってこのままで」
「……繕いついでにお前の名前も刺繍してやろう」
「はあぁ!? いらねーよ! だからそういうのやめろっちゅーの!」
 いそいそと裁縫道具を取り出すバタルトゥにズビシっとツッコミを入れるスメラギ。
 ――エトファリカ連邦国の帝と辺境部族大首長は、どうやら友好な関係を築けそうである。


●墜ちた星への餞に
「……星灯祭を執り行う。お前達も参加してはくれまいか」
 突然現れてそんなことを言い出したバタルトゥに、ハンター達は目を瞬かせる。
「せいとうさい……って何だ?」
「こんな時にお祭りするの?」
「……星灯祭は、死んでいった者達の魂を慰めるオイマト族の祭りだ」
 首を傾げるハンター達に、淡々と説明を続けるバタルトゥ。

 ――星灯祭。
 オイマト族では、故人を偲ぶ者達が、色とりどりの蝋燭に花や手紙を添え、火を灯して大地を飾り、餞に酒を酌み交わす風習がある。
 蝋燭の火が、亡くなった人の魂を星に住まう精霊の元に導くと言われ、また、蝋燭に手紙を結ぶと故人に想いを届けてくれるのだそうだ。
 闇夜の中、沢山の蝋燭が立てられた大地は、まるで天の星を映したようで……追悼という内容に反し、とても美しく……。

「……東方の戦で、沢山の兵や民が犠牲になった。同じ地で戦ったものとして、皆が迷わず精霊の元に辿り着けるよう、手伝いたいと思っている……」
「そっか。そうだよなー……」
 呟くバタルトゥに、頷くハンター達。
 戦いには確かに勝った。けれど、払った犠牲はあまりにも大きくて……。
 再び立ち上がる為に、泣くことだって必要だ。
 彼らの無念を弔うのは、生きている自分達がすべきことだと、そう思う。
「……個人的に、故人を偲んで貰っても構わん。蝋燭を眺めたり、酒を飲むだけでもいい。出来れば、協力を願いたい」
「もちろん、そういうことなら手伝うわ」
 死者の魂を鎮めることは生者を奮い立たせることにも繋がる。
 この国が新たな一歩を踏み出す為に……。

 ――大地に星を降ろそう。
 そして、亡くなった人の魂を、天の星の元に送り届けよう――。

リプレイ本文

「星灯祭か……。俺は帝国の人間なんだが、参加してもいいのか?」
「……勿論だ。死を悼む行為に国は関係ない」
「そうか。ありがとう」
 頷くバタルトゥ・オイマト(kz0023)に、頭を下げるザレム・アズール(ka0878)。
 静かな所で眺めさせて貰うよ、と歩き出す彼。その背を見送るオイマト族長の肩を、白藤(ka3768)がとんとん、と叩く。
「あんときの兄さんやん? 元気にしてはった?」
「……あぁ。お前は……ナナミ川防衛戦の時の……」
「そうそう。あの時名乗ってへんかった思てな。うちは白藤。気ぃ向いたら覚えたってや」
 この祭にいるということは、彼も誰かを喪したのだろうか……。
 あまり深く聞くのもどうかと思った彼女は、ひらりと手を振ると蝋燭の川へ向かい……そこにトコトコとチョココ(ka2449)が歩いてくる。
「バター様、先々代のスメラギ様のお墓参りに行くですの? わたくしもいきますのー!」
「……先々代のスメラギとの件は、オイマトの不始末だ。何もお前が付き合わずとも……」
「いーから行くですのよ! はいっ! 歩くですの!!」
 ぐいぐいとバタルトゥの背中を押し、歩き出すチョココ。
 こうしている間も、星灯祭に人が訪れ――大地に蝋燭がどんどん増えて行く。


「わ。ロウソクいっぱい立ってるのん。綺麗なのんー!」
「本当に。どうして蝋燭の炎が人の命に例えられるか分かるような気がしますよね……」
 星の数ほどある蝋燭に目を丸くするミィナ・アレグトーリア(ka0317)。
 エステル・クレティエ(ka3783)もこくりと頷く。
 ――誰かを喪った人の痛みも、その人を残して逝かなくてはいけない人の無念も、まだ若い彼女には計り知れないけれど……その人達の為に出来ることがあるのなら。
 そんな事を考えながら蝋燭に火を灯すエステル。その横で、ミィナは頭からぷすぷすと黒い煙を吐きそうになっていた。
「ミィナさん、どうされました?」
「何書くといいかなーって悩んでしまったのん」
「何でもいいのですよ。絵でも字でも」
 くすりと笑う音羽 美沙樹(ka4757)。じゃあ……と小鳥の絵を描き始めるミィナ。
 美沙樹の手にした紙で作られた灯篭を見て、エステルが小首を傾げる。
「美沙樹さん、それは……?」
「ただの蝋燭、というのは味気ないと思ったんですのよ」
「あっ。お星様描いてあるのねん。かわいい!」
「宜しかったらお二人も灯篭に火を灯すの手伝って戴けません? 沢山作って来たんですの」
「わたくしもお手伝いします!」
 そこに必死の表情で歩み寄ってきたエステル・ソル(ka3983)。
 見慣れた青い髪の少女に、黒髪のエステルが微笑む。
「あら。エステルさん、こんにちは。良くお会いしますね」
「あっ! 黒い髪のエステルさんです♪ 会えて嬉しいです!」
 ぴょこぴょこと飛び跳ねる青い髪のエステル。本題を忘れかけて、慌てて美沙樹に向き直る。
「あの、美沙樹さんは東方の人です?」
「はい。そうですわよ」
「よかったです! えと、郷土の曲を教えて貰いたいです。お母様が『郷土の曲は亡くなった人との懐かしい記憶を思い出せる』と言っていました。だから……」
 母の言葉は、幼いエステルには良く分からなかったけれど。
 でも、ずっと悲しいままなのは嫌だから……少しでも、悲しみを和らげるお手伝いをしたい。
 一生懸命な少女が愛らしくて、美沙樹は彼女の髪を優しく撫でる。
「分かりました。お教えしますわね」
「ありがとうございます! お礼にわたくし、いっぱいお手伝いします!」
「1本じゃ足りないかもーって思ってたから、丁度良かったのん。私も沢山小鳥描いて火灯すのん!」
 きゃあきゃあと元気に火を灯すミィナと青い髪のエステルを優しく見守りながら、黒髪のエステルもそれに続く。
 ――種族も世界も越えて、亡くなった人が迷わず往けるよう。
 今は悲しみに満ちた心も、この光のように淡く温かく照らされますように。
 川の流れのように緩やかに癒されますように……。
 安寧を願いながら作った美沙樹の灯篭の灯はひときわ大きく、地上の星の中で輝く。
 ……犠牲を決して無にはしない。自分にとっても大切な故郷だから――。
 美沙樹の祈り。そして彼女の灯篭は、周囲の星を導く道標のように故郷を明るく照らし……。
 一仕事終えたミィナは寝転がって、空の星を見上げていた。
 ……命は星から来て、星へ還ると言うけれど。人はどこから来て、どこに還って行くのだろう。
「うちはどうなるんかなぁ? 新芽に宿るんかな? それともお星様になるんかな? ……おとーちゃんおかーちゃんが知ったら叱られそうなのん」
 くすくすと笑う彼女。その問いに、答えるものはないけれど……。
 願わくば、蝋燭に灯る命全てが、空の星になれますように。


 立ち並ぶ蝋燭。どこまでも続く灯りを肴に、ミルティア・ミルティエラ(ka0155)はグラスを傾けてため息をつく。
「ホント、人は見かけによらないよね」
「あら。何のことかしら」
「フランのことよ。全く、最初に会った時はのんびりしたお姉さんだと思ったのに……」
 隣でワインを注ぐフランソワーズ・ガロッテ(ka4590)に苦笑を向ける彼女。
 しなやかな銀髪に、大きな緑色の瞳……見た目も愛らしくてふわふわした印象だったのに。
 蓋を開けてみれば驚くくらいの戦闘好きで、出会った敵は片っ端からぶん殴るし……。
 もうね! 正直騙された!!
「いいじゃない。そういうギャップも女の子の武器らしいし」
「そういうものなの?」
「そういうものらしいわよ?」
「ホントかなー……」
 疑いの目を向けてくるミルティアにくすくすと笑うフランソワーズ。
 別に自分は、彼女の言うように戦闘が好きという訳ではない。
 勿論、募るストレスの発散という部分はあったけれど。何より一番は、何も考えずに戦わないと……恐怖で潰れてしまいそうなのだ。
 でも、これは秘密。強がりかもしれないけれど……彼女の前では『強くて素敵なお姉さん』でいたい。
「いや、別にそういうのも悪いとは言わないけどさ……返り血くらいは気をつけなよ? 美人が台無しだし、男だってよりつかなくなっちゃうよ?」
「そうねぇ。それは困るわねえ」
 誰かを思い出したのか、遠い目をするフランソワーズ。
 その横顔を見て、ミルティアは考える。
 ――自分が戦いに狂わずに居られたのは、少なからず彼女のお陰なような気がする。
 でも、秘密するんだ。……この人に、弱いと思われたくないから。
「それにしてもあの化け狐、大きかったよね」
「本当にね。何食べたらあんなになるのかしら」
「ん? 歪虚って食べて大きくなる訳じゃないでしょ」
「そうなの? 良く分からないけど、とにかく歪虚は殴ればいいのよね!」
「まーたそういうこと言う……。ま、なんにせよ、お互い生きて帰ってこれて良かったね?」
「ええ。生きて帰ってこれた。今はそれが一番……ね」
 微笑みあって、お互いのグラスを近づける二人。
 ――乾杯しよう。
 今回の勝利に。消えて行った勇士達のために。
 そして、輝かしい未来のために……。
 この人と飲むワインの味は、格別に感じた。


「へえ。蝋燭に文ね。別に相手がこっちの世界じゃなくても良いんだろう?」
「勿論ですよ」
 頷くオイマト族の者に、笑顔を返す時雨 凪枯(ka3786)。
 用意された紙に書き込みをして、蝋燭に結びつける。
「これでよし、と」
 満足気に頷く凪枯。少し開けた所に蝋燭を置いて火を灯す。
 それに向かい合うように座ると、徐に盃を2つ置き、それになみなみと酒を注ぐ。
「呑みたい気分なんだ。付き合いなよ」
 盃を一つ手に取り、乾杯するかのように天に掲げる凪枯。
 そのままぐいっと飲み干して、小さくため息をつく。
「まったく、こんなに急いで逝っちまうとはね……。人の良い奴から消えていくのはどこの世界でも変わらないのかね」
 彼女の呟きに答えるものはなく、蝋燭の火は静かに揺れている。
「まあ、そっから見ててくれればいいやね」
 くつくつと笑う凪枯。ああ、と思い出したように蝋燭を見る。
「そうそう。そっちに行ったらこの文に何て書いてあったか聞くから覚悟しときなよ?」
 リアルブルー人のあの人が、この地の文字が読めるとは思えないけれど。
 ちょっとした意地悪くらいさせて貰わないとねぇ……。
 彼女は手酌で酒を注ぐと、再び美味しそうに飲み干した。


「ヤァ、パッティー。お出かけカイ?」
 宴を抜けようとしているダリオ・パステリ(ka2363)に、陽気に声をかけるアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)。
 黙したまま頷き歩き出した彼の背を、アルヴィンは当然のようについていく。
 東方での戦いも集結し、復興に向かうだろう……と言う話を、同居人であるダリオに話した。その時から、何か考えているようではあったけれど――。
 不意に足を止めるダリオ。そこに広がる廃墟。焼け落ちた壁や柱が朽ち果て、風に晒されるままになっている。
 ――ここはかつて、彼の主の城だった場所だ。
 孤児だったダリオを拾って育ててくれた優しいあの人。
 恩に酬いる為に仕官してからも何かと目を掛けてくれて、返せない程の恩があるのに……。
 ――数年前の歪虚に襲撃。抵抗したが敵は強く、自分だけが落ち延びた。
「……生き抜きなさい。お前なら、きっと大丈夫だ」
 耳に残る主の声。それが、あの人を見た最後になってしまった……。
 慟哭もせず廃墟を見つめるダリオ。その隣に、アルヴィンも何も語らずに立っていた。
 彼の出自について少しだけ聞いたことがある。だから、気持ちは何となく分かる気がする。
 だけど……彼の想いは、彼だけのものだから。
 分かったような言葉や態度は必要ない。
 でも、かつてここにいた人に、友人が世話になったと言うのなら……。
「ネェ、パッティー。僕もキミの大事な人に挨拶してもいいカナ?」
 ただ頷くダリオに、笑顔を返すアルヴィン。
 とっておきの酒を手向けに撒いて――鎮魂の祈りを、声に乗せる。
 アルヴィンの静かな優しい歌声が響く中、ダリオは焼け落ちた城を真っ直ぐ見据えて、悟った。
 ここに戻っても、もう誰もいないことは分かっていた。
 自分は……この場所を、この目で見て、区切りをつけたかったのだ。
 ここを忘れる訳でも、縁者を探すのを諦める訳でもないが……囚われてはいられない。
 それはきっと、主も望まないから――。
「……リッチーよ、戻ると致そう」
「モウいいの? パッティー」
「うむ。ここに我らの敵はおらぬゆえ」
「ウン、ジャア、帰ろっか」
 ようやく口を開いた友人の背をぽんぽんと叩き、笑うアルヴィン。
 帰ったら褒美の鎧を久々に着てみよう――。
 そんなことを考えるダリオを、夜空の月が優しく照らしていた。


「命を偲ぶ燈火、か」
 地上を埋め尽くす蝋燭の火を見つめるライナス・ブラッドリー(ka0360)。
 寄り添い風に揺れるそれは儚くて、本当に命の燈火のように見える。
 ――昔、彼のいた場所は戦場だった。
 繰り返される戦いに、幾つもの燈火が失われた。
 ……そして、あろうことか歪虚に。
 家族までも連れ去られ……その燈火を、無残にも消されてしまった。
 忘れることの出来ない光景。このやるせなさとも、この追悼の儀式で別れられるのだろうか……。
 ――過去を忘れたい訳ではない。ケジメを付けたいだけだ。
 生きている限り、人はどんなに辛くても前に進まなくてはならないから――。
 ――偲ぶ想い。とても強く、そして孤独な……去り行きた大切な人々への想い。
 ここに来ている者は、誰かへの想いを抱えて、皆それぞれに区切りをつけに来たのだろう。
 そんな思考の中、ふとライナスの脳裏に過ぎる娘の顔。
 そうだ。共に歩きたいと思えた、あの子と生きていく為に、上を向かなくては……。
「……なあ、お前達。それでいいか?」
 彼の口から出る問い。それに頷くように、蝋燭の火が揺れた。


 蝋燭の優しい灯り。それを並んで見つめるラディスラウス・ライツ(ka3084)とアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)。
 失われた多くの者達、そして遺された者達……全てに祈りを捧げ、花を手向ける。
 そんな中、ラディスラウスが思い出すのは、幼い姪……アリオーシュの妹のこと。
 あの時、呆然とする甥の手を引いて逃げるのが精一杯で……目の前にいながら、救うことが出来なかった。
 自分にもっと力があったなら、あの子を死なせることもなかっただろうに……。
「……俺は、誰かの力になれていたでしょうか。もっと出来ることはなかったでしょうか」
「アリオーシュ……」
「強く、なりたいです」
 妹に恥ずかしくない俺でいたい。誰にも悲しい想いをさせないように……。
 呟くアリオーシュに、ラディスラウスは唇を噛む。
 甥は、未だに……目の前で無残に殺された妹に対する罪の意識に苛まれている。責を負うべきは無力な自分で、幼かったこの子に罪はないというのに……。
 そんな彼にどう声をかけていいのか。自分にそんな資格はあるのか――。
 ラディスラウスは戸惑いながら、甥の背をそっと撫でる。
「……大丈夫だ。お前は強くなっているさ。だからそう気負うな。あまり無理をすると妹が心配するぞ」
 叔父の指が己の頬を拭ったことで、アリオーシュは自分が泣いていたことに気付く。
 涙が止まる気配はないが、それでも。嗚咽は漏らさない。昔の、弱い自分に戻りたくないから……。
「すみません。変なところをお見せして」
「気にするな。人は弱い部分を知ってこそ強くなれるものだ」
 俺も偉そうなことは言えんがな……と苦笑するラディスラウス。
 彼の不器用だけれど深い優しさが、あの時も今も行く先を照らす道標のように――自分を支えてくれている。
 父のような大切な人。貴方がいてくれて本当に良かった……。
「……と。そうだ。アリオーシュ、これはお前が手向けてやってくれ」
 叔父から差し出された花束は、妹が好きだった花ばかりで……アリオーシュは目を丸くする。
「……覚えていて下さったんですね」
「まあな……。俺も、あの子に祈りを捧げさせて貰っていいか?」
「勿論です!」
 妹が好きだった花を叔父が覚えていてくれたのが嬉しくて、勢い良く頷くアリオーシュ。
 ラディスラウスの花束と共に、野の花で作った冠と蝋燭を捧げ、頭を垂れる。
 ――この仄かな灯りと共に、安寧への祈りがあの子へ届きますように。


 眼下に灯る火。果てしなく並ぶ蝋燭は、とめどなく流れる川のようで……。
「本当に……天の川、のようですね……」
 呟く神代 誠一(ka2086)。小さく苦笑した彼の脳裏に浮かぶのは、先の戦の光景……。
 幾度とない共闘。その中で斃れた百を越える兵や憤怒に身を焼いたお庭番衆――。
 目前で起きる悲劇を、防ぎきることは出来なかった。
 全ての命を救う術などない。それを望むのは傲慢だ。分かっている。
 それでも、零れ落ちていく命を……一つでも多く繋ぎとめたかったのに――。
 目を伏せる誠一。先の戦で負った胸の傷痕を掴むように、シャツを握る。
 ――これは枷なのでしょうね。俺がこの先、ずっと忘れない為の……。
 ふう、とため息をつく彼。そのまま顔を上げ、地上に広がる天の川を見つめる。
 ――生きている俺が立ち止まっていたら、彼らに怒られてしまいますね。
 跪き、足元にそっと蝋燭を供え、星々に盃を掲げる。
 ――忘れません。たとえ短い間でも、あなた達は色んな事を教えてくれたから……。
「どうか、安らかに」
 短く呟き、盃の酒を飲み干して……誠一は振り返らずに、前に進む。


「……精霊のお導きがありますように」
 蝋燭を捧げ、地上に流れる天の川を眺めていた桐壱(ka1503)は、暗がりの中、チョココとバタルトゥが戻って来たことに気がついた。
「おかえりなさい」
「ああ、今戻った」
「今日はお招き戴いてありがとうございます」
「……礼には及ばぬ」
「いえ、なかなかない機会ですから……ボクなりに、弔いをさせて戴くつもりです」
「……そうか。良い時を過ごしてくれ」
 バタルトゥに頭を下げる桐壱。その横をチョココが走って行く。
「ただいまですの! 良い匂いですのー!」
「はいはーい。色々ありますよー。何にしましょう?」
 彼女にお品書きを渡す守原 有希弥(ka0562)。
 豚の角煮、モツ鍋、鳥の水炊き、筑前煮、カスレ……ご飯つけます! と書かれたそれに、チョココは目を輝かせる。
「随分賑やかですね……。これはこれでなかなか良いですが」
「でしょ? 静かなだけが鎮魂じゃないですよ。食いましょう! そこの2人もそんなに端っこにいないで、こちらへどうぞ」
「……え? いえ、ボクは……」
「あ、ありがとう」
 天央 観智(ka0896)にもお品書きを渡して笑う有希弥。彼に背中を押され、桐壱とエルバッハ・リオン(ka2434)も輪の中に入る。
 自腹で食材を仕入れ、料理を振舞う有希弥。彼の料理は、星灯祭の参加者に好評なようであった。
「餞の灯り、か。……美しいな」
 有希弥の料理を肴に、盃を傾ける華彩 惺樹(ka5124)。
 地上で輝く数多の星がとても綺麗で……妹と、未だに再会果たせぬ姉にも見せてやりたいと思う。
 美しい光景に瞳を輝かせる二人は、きっと世界一愛らしいに違いない……。
「何です? 惺樹さん。思い出し笑いですか?」
「ああ、いや。何でもない。有希弥とバタルトゥも一献どうだ?」
 有希弥の声ではたと我に返る惺樹。どうやら気付かぬうちに頬が緩んでいたらしい。
 涼しい笑顔で誤魔化して、仲間達にも酒を勧める。
「あ。すみません。じゃあ一口だけ」
「……うむ。有難く戴こう」
「有希弥の料理は美味いな」
「そうですか? ありがとうございます」
「ああ。良い味だ……」
「俺、実は野菜を作るのが趣味なんだ。機会があったら食べてみてくれ」
「へー! 惺樹さん、良い趣味お持ちですね。食べてみたいな。ね、バタルトゥさん」
「……うむ。是非に。今度持ち寄って料理でもするか……」
 女子力が高い男子達の会話。
 いつの間にか混じって愛犬と共にお弁当を食べているザレムの横でお茶を飲んでいる桐壱。
 エルバッハがふと顔を上げて口を開く。
「東方の戦いも、ひとまずの決着がつきましたね」
「そう、ですね……。そこに至るまではもう、大変だったとしか良いようがありませんが」
 ため息をつく観智。彼らの脳裏に、東方での戦いが蘇る。
 東方の使者との会談を経て、東方への先行部隊が派遣され――。
「正直なところ、あの死地からの突破は、今まで経験した戦いの中でも上位に来る危機でしたね」
「そうだな。俺は幸いにして無事だったが……一般の兵士や、民間人にもかなりの被害が出たんだよな」
 エルバッハの呟きに頷くザレム。
 覚醒し、強力な力を駆使できるハンター達ですらかなりの重傷者が出たのだ。それより力のない一般兵では耐えられないのは無理のない話だ。
「……皆さん素晴らしい戦士であり、英雄です。彼らがいたから、護りきれたのではないでしょうか」
 桐壱の真摯な声。
 ヨモツヘグリ攻略戦、九尾御庭番衆との戦い、そして、獄炎との決戦――。
 本当にギリギリの戦いだった。きっと何かが一つ欠けても成し得なかったに違いない。
「思えば、色々と無茶をしたからこそ……勝ち取れた勝利、という側面もありますけれど……無茶をしたからこそ、出た犠牲……というのも、あるんですよね。緩慢な滅びに向かうよりは、良かったのでしょうけれど……」
「そうですね。もう、これ以上……犠牲は出したくないものですね……」
「ええ。亡くなった方達が、ずっと心安らかに……見守っていられる世界になってくれる事を、願うばかりです」
 桐壱と観智のしんみりとした呟き。それに頷きながら、エルバッハは拳に力を入れる。
「その為にも……私たちは闘わなくては。憤怒だけでなく、歪虚の勢力はまだ強大です。これからもがんばりましょう」
「そうだな。まだまだこれからだもんな」
 呟くザレム。この先も続く戦い。犠牲を無くしたいからこそ続けているが、それでも。
 自分達がどんなに手を伸ばしても、零れ落ちて行く命もある――。
「くぅん……」
「何だ? シバ。心配してくれてるのか? 俺は大丈夫だよ。ほら見ろ。星が綺麗だぞ」
 手に鼻先をくっつけてきた愛犬の頭をわしわしと撫でる彼。そのまま抱え込んで、共に星を見上げる。
 ――世界は命を顧みない。だけど、それでも良い。俺達は生きてる……。
 感じる愛犬の温もり。命の暖かさが嬉しく、有難くて……ザレムはそっと目を閉じる。
「……戦う力を持つのと同時に、未来の為の礎になる覚悟をせねばならないのかもしれんな」
 仲間達のやり取りを聞き、ぽつりと呟く惺樹。
 自分にとって大切な者を遺していく痛みも同じく、か……。
 ふと、脳裏に浮かぶ姉と妹の泣き顔。それを考えるだけでも胸が痛む。
 この力は愛しき者の為に。悲しませない為にも強くならねばと心に誓う。
「あの、バタルトゥさま。少し宜しいですか?」
「どうした……?」
「あの、以前慰安に行かせて戴いた避難所なのですが、その後どうしているかと思いまして……。ご存知でしたら、教えて戴けませんでしょうか」
 蝋燭を捧げ終えて、その足でバタルトゥのところにやってきた藤峰 雪凪(ka4737)。
 あの状態からよくなっていると思いたいが、先の戦いのこともある。
 現状が分かるなら、聞いておきたい……真剣な顔で言う彼女に、観智と黒髪、青髪のエステル達も頷く。
「ああ、それは僕も気になってたんですよね」
「私も……」
「わたくしも気になってました! 知りたいで……す」
 バタルトゥと目が合って、うぐ、と言葉に詰まる青い髪のエステル。
 やっぱり顔が怖くて黒髪のエステルの後ろに隠れそうになったが、足を踏ん張って頑張る。
「あっ。そうです。バタルトゥさんお裁縫上手です! すごいです!」
 ぽふぽふ、と仏頂面の男の頭を撫でる少女。
 何だかその光景はとてもシュールで、その場に居合わせた者は思わず笑いをかみ殺すが、当の本人は気付かずに話を続ける。
「あの……お顔が怖くても、悲しいことはありますか?」
「……うむ。こう見えても色々とな」
「そうですか……!」
 怖い顔でも人間味はあると思ったのか、ぱあっと笑顔になる少女。
 バタルトゥはため息をつくと、雪凪に向き直る。
「それで……慰安に向かった先のことだったな。白藍からの伝聞ゆえ、現状はまた変わっているかもしれんが……」
 獄炎との戦いでまた天の都が戦場になり、あの避難所の周辺も少なからず被害を受けたらしい。
 あの場にいた者達は避難して難を逃れたそうだが、建物などの被害は避けようがなく……。
 戦いが終わったばかりで、詳しい被害状況までは分からないようだが……と続けた彼に、雪凪は深くため息をつく。
 あの時、少しだけれど希望を取り戻してくれたと思ったのに。また酷い目に遭うなんて――。
 でも、避難できて――生きていると分かっただけでも良かった。
「……すまんな」
「ああ、いえ。教えてくれと言ったのは私ですし、謝らないでください。バタルトゥさまなら優しい嘘なく教えて戴けると思ったんです。それを聞いてすぐどうにか出来るわけではありませんが、機会があれば動けますから」
 強い決意を秘めてにっこりと笑う雪凪。それに有希弥も強く頷く。
「そうですよ。寄る辺は何度だって作り直せる。だから西の国々も、東方も……何度も戦ってこれたんでしょうね」
 色々な思いを抱えてこの祭にやって来た人達。
 意外と賑やかな情景を見ていたら……己の同胞達を思い出した。
 彼らは歪虚に星の海への寄る辺と同胞の命を沈められた上に、異世界へ飛ばされた。
 寄る辺を何度も喪失したけれど……でも、生きていれば。命さえあれば、新しい一歩を歩み出せる。そう思う。


「……そうか。君には偲びたい人がいるんだね。ああ、マドレーヌのように泣く人よ。胸の内に秘めたる想いを零しておくれ」
「マドレーヌが泣くですの??」
「ああ、ボクの故郷でね。さめざめと泣くことをそのように表現するんだよ」
「へえ~。面白いですのね」
 芝居がかった調子のイルム=ローレ・エーレ(ka5113)に、にこにこと笑みを返すチョココ。
 小さいパルムを膝に乗せたまま、俯いて話し始める。
「……先日、わたくしの故郷が見つかったのですけど……皆故人でしたわ。父様も母様も……」
「……それは残念だったね。悲しかっただろう?」
「はい。でも……パルパルが一緒ですわ。これまでも、これからも。ずーっと、わたくし達は仲良しですの♪」
「そうか……。それなら安心だね」
「はいですの! わたくしは元気ですわ!」
 パルムと一緒にぴっ! と手を挙げたチョココの頭をよしよしと撫でるイルム。
 彼女はそのまま、天を仰ぐ。
「……死者の魂が天に届いた時、彼らは地上にあるボク達に何を想うのだろうね。せめて君が想う人が、君を想ってくれることを願おうか」
 死者の心に安らぎを、生者の心に慰めを……。
 そう呟いて、蝋燭に火を灯すイルムとチョココ。
 揺れる炎を見て、黒髪のエステルはふと家族を思い出す。
 ――私はまだ誰も身近な人を喪っていないから。忙しくしている家族は心配だけれど……心のどこかで、大丈夫だと思っている。
 私もいつか、誰かを悲しませることがあるのだろうか。
 せめて、それだけは無いように強くならないと――そう言う形でしか守れないから。
 そこに聞こえて来る音色。死者を弔う慰めの笛。
 桐壱が奏でる横笛は厳かで、それでいて優しく、切なくて――。
 そして、曲が進むに連れて動き出す桐壱の身体。
 早く、緩く。無駄のない動きは、まるで天女が舞っているようで――。
「わたくしもご一緒します」
 龍笛を構える青い髪のエステル。美沙樹が教えてくれた曲は、優しくて、どこか寂しげな曲だった。
 桐壱の奏でる音色とは違うけれど、願うものは同じ――ならば、きっと合うはずだ。
 意を決して笛を奏でる少女。彼女の幼い祈りは、音色に乗って……桐壱の音と溶け合い、和音となって、地上に流れる天の川と、祭に参加する人々を包んで行く。


 迫る宵闇。灯る火に照らされる見慣れた背中。
 冬樹 文太(ka0124)が遠くを見ているような気がして、声をかけるのを少し迷ったシャトン(ka3198)だったが、首を振って歩み寄る。
「珍しい顔、見ぃ付けた~っと」
「うお? シャトン? お前来てたんか」
「まあね~」
 軽い調子で言いつつ、文太の横に座るシャトン。
 そのまま、二人並んで沢山の蝋燭を見つめて……彼女は気になっていたことを口にする。
「……文太はさぁ。もし死んだら……あっちで悲しんでくれる奴とか、いる?」
「何や? 急に」
「ちょっと気になってさ」
「あー……。一応、居る。泣き虫なダチとか…心配性な奴ばっかやでほんま。……お前は?」
「オレ? オレはいない」
 ……悲しんで欲しい人は、いるけど。
 最後の言葉を飲み込むシャトン。
 ずっと蝋燭の火を見つめていた文太は、チラリと隣の人に目線を向ける。
「……それも、こっちで付いたんか?」
 文太の指差す先……それが、己の左目を覆う眼帯であることに気付いて、シャトンは肩を竦める。
「ん。こっちだ。……此処には、所有印があんだよ。自分の物っていうシルシ」
「……所有印?」
「そ。見て気分がいいもんじゃねぇし……こっちは、もう見えねぇからさ」
 誰の……と口にしかけて、首を振る文太。
 知りたい気持ちは、ないと言えば嘘になる。
 聞くことは簡単だし、聞けば答えてくれるとも思うけれど。
 ――でも、それを知ってどうする?
 灯火に目線を戻した彼は、代わりの言葉を吐き出す。
「……俺はお前が死んでも悲しいよ、シャトン」
 ――目の前で誰かが簡単に死ぬ。
 そんな中でも守りたい。
 そう思うのはエゴなのだろうか――。
「……文太。どした? 何か変なもん食った?」
「あぁ!? 俺にも真面目になる時があんの!」
「大丈夫だって、オレはそう簡単に死なねぇよ」
「聞いたで! 思いっきり長生きせぇよ!」
「何ムキになってんだよ」
「うっせ!」
 髪をくしゃくしゃと撫でてくる文太にくすりと笑うシャトン。
 そのまま彼の腕に頭を預けて……。
「……ありがとな」
 彼女の囁くような声。
 芽生え始めた感情に蓋をして――代わりに宿る小さな決意と小さな願い。
 それを、お互いに話す日は来るのだろうか。
「……綺麗やな」
「そーだね」
 並んで見る蝋燭の火は、いつもより輝いている気がした。


 一体どれだけの間、地上に増え続ける蝋燭の光を見ていたのだろうか。
 すっかり人が引いたそこを見て、白藤は胸元の十字架を握り締める。
 ――行方不明になった2人の親友。彼らの死はどうしても認めることができないが……この十字架の主であるあの子の死は……。
 どんなに目を反らしたところで変わらない。揺るがぬ事実なのだ。
 ……だってあの子は、自分の目の前で死んでいったのだから。
 悲痛に顔を歪ませる彼女。胸が痛くて息が苦しい。
 ――でも、うちは。うちはどうしても……!
 連なる蝋燭に、己の分も備える白藤。気付かぬうちに溢れ出た涙を乱暴に拭う。
「……見とってや、うちは諦めへん。あの子も、兄さんも」
 灯火に宿る決断。風に揺れるそれは消えることなく、彼女の胸の内にも火を灯した。


 天の星と、蝋燭の仄かな灯火と――優しい夜の帳がハンター達を包む。
 それぞれの大切な人への想いを乗せて、星灯祭の夜は更けていった。

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参加者一覧

  • 弾雨のイェーガー
    冬樹 文太(ka0124
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士
  • 明日への祝杯
    ミルティア・ミルティエラ(ka0155
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • いつか、本当の親子に。
    ライナス・ブラッドリー(ka0360
    人間(蒼)|37才|男性|猟撃士
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 酒は命の水
    桐壱(ka1503
    エルフ|13才|男性|魔術師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 安穏を願う道標
    ラディスラウス・ライツ(ka3084
    人間(紅)|40才|男性|聖導士
  • 誓いの守護者
    アリオーシュ・アルセイデス(ka3164
    人間(紅)|20才|男性|聖導士
  • 小さな望み
    シャトン(ka3198
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 強がりな祝杯
    フランソワーズ・ガロッテ(ka4590
    人間(紅)|21才|女性|魔術師

  • 藤峰 雪凪(ka4737
    人間(紅)|13才|女性|舞刀士
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • この力は愛しき者の為に
    華彩 惺樹(ka5124
    人間(紅)|21才|男性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/13 10:11:55