小さな森、秘められた過去

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/12 07:30
完成日
2015/09/16 00:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ギムレット、見て!」
 懸命に大工仕事をしていたドワーフのギムレットにかかった声はいつになく力と喜びに満ち溢れていた。
 アガスティアの声はいつだって抑揚がなかった。細く、小さく。緑に縁の深いエルフという種族とその痩せこけた身体からして、本当に枯れ枝のようと思わせるに至るほどだった。だが、今日の声は違う。
 それが何を意味しているかすぐに気づいて、ギムレットは飛び上がるように立ち上がり、小さな森、歪虚に襲われ焼け失せた森に唯一生えたシラカシの元へと急いだ。
「お、おおお!」
 その大地に緑が見えた。まだそれは小さく産毛のようで、頼りない。
 だが、草一本生えなかったこの荒涼とした大地に緑が生まれたのだ。
 野草や薬草、ハンター達が持って来て一緒に撒いた種が芽吹いたのだ。ハンターと共に負のマテリアルを祓うための音楽を祭をし、種を撒いたことが結実した。
「やった、やったな! 緑だ!!」
 ギムレットは空に向かって拳を突き上げ吼えるようにして喜んだ。
 アガスティアの祈りが、ギムレットの力が、関わってくれたハンターの願いが結実した瞬間だった。
「あ……」
 突如、陽光がギムレットの視界を縦に切り裂いた。
 揺れる世界。
 世界に大変化が襲ったのかと思ったが、すぐに自分の意識が疲労で途切れはじめていたことが原因だと気が付いた。
「ギムレット? ……ギムレット!!」
 遠くでアガスティアの声が響いた。


 微睡みの中でギムレットは機杖を持って立っていた。目の前には鬱蒼とした森が広がる。
「さっさと終わりにしようぜ!」
 ああ、過去だ。ハンターとして活動していた3年前だ。
 ギムレットは森の中へ飛び込むと、突如、落ち葉が巻き上がる音がした。
 歪虚だ。カビが集合して山になったような不定形の緑の塊。大地のマテリアルを吸い上げて膨れ上がる生命力だけがウリのバケモノだった。エルフ達は明確に倒す方法を見つけられなかったこのバケモノ退治に、ギムレットをはじめとするハンターを雇用した。
「はっ、見たまま炎に弱そうだよな」
 ギムレットは杖を歪虚に向け、そしてファイアスローワーを放った。
 やめろ。それはダメなんだ。
 若かりし自分に向かって、ギムレットは叫んだ。
 ギムレットの目論見通り、カビの歪虚は一瞬で燃え上がり、火柱の塊となった。苦しみもがく歪虚はそのまま身体を何度も激しくよじった。飛び散るカビの塊。炎の粉。
「燃え尽きちまいな!」
 冬の乾いた空気が熱せられた空気に反応して舞い上がる。
 マテリアルで作り出した炎は引火したりはしない。歪虚だけを叩き、後には何にも被害をまき散らさない。はずだった。
 だが、歪虚の身体に取り込まれた落ち葉の類が類焼したのか。カビの腐食反応で可燃性のガスが発生していたのか。

 後は、地獄絵図だった。

「助けて、助けて……熱い、熱いよ」
「誰か、誰か! あああっ」
「待ってろ、今、いま助けるから」
「馬鹿野郎、死ににいくつもりか!!」
 ギムレットにはそんな引き留める仲間を突き飛ばす程度の力はあったが、森全体を渦巻く炎に飛び込んでどうにかできるような力はなかった。
 負の空気が焦熱に紛れて臭う。
 正のマテリアルがどんどん焼き尽くされる中、負のマテリアルだけが残っていく。
 他に潜んでいた歪虚のほとんども一緒に焼け死んだが、生命力の塊であるそれは何体かは生き残り、森だけが消えた。
 歪虚は炭になった森の残骸をすすり続け、討伐し終えたころには最初に見た森の姿などどこにもなかった。
「すまん……」
 消え去った森を歩き、エルフの小柄な骸を見るたびにギムレットは心が焼ききれそうになる。
 せめて安らかに眠るように。いつしかギムレットは骸を回収し、墓を建てることだけに専念するようになった。


 水で冷やされた布の感触が顔に当てられ、ギムレットは目を覚ました。
「……大丈夫ですか」
 ギムレットを覗き込んだ顔を見て、彼はぼやけた頭を一気に目覚めさせた。
 つる草のような緑の巻き髪。重たるそうな目蓋の奥に見える翡翠の瞳。病的な白い肌に尖った耳。エルフだ。
 あ、いや。森を再生しようと共に戦い続けるアガスティアだ。
「ギムレット。あなたのそれは過労です。最初に出会った時もそうでしたね……この森にどうしてそこまでされるのですか?」
 アガスティアの言葉にギムレットはしばし逡巡してから笑った。
「もうすぐ水車が完成するんだよ。そしたら川から水を引き上げられる。もっと緑も増えて、すぐ森らしくなる。そう思ったら寝られやしなくてさ」
 ギムレットはそう言ったが、元は巫女であるアガスティアは黙ってギムレットを見つめるばかりだった。
「ドワーフってのはな、エルフほど長生きできるもんじゃねぇんだ。だから、命ってのは……物に託すのさ。一瞬のきらめきを物に込める、ってのかな。口より手で語れ。なんて言われたものさ」
 自分の力で壊したんだから、自分で尻拭いをするのは当然だ、ともね。
 背を向け外に出ようとするギムレットに、アガスティアの言葉が鋭く突き刺さった。
「ギムレット。貴方は何か隠していますね? 多少の事ならお伺いはしません。ですが、このままでは貴方の命に関わります」
 ギムレットは動けなくなった。アガスティアの声がほんの僅かに揺れている。
「エルフは一度信じた人はずっと家族のように思います。ドワーフは、違うのですか?」
 真実を知ったら、絶対今まで通りにはいかなくなる。八つ裂きにされても仕方ないとは思うが、ようやく輝きだした彼女の心をまた壊してしまうことは何より忍びなかった。
 だから口でなく、手で語れって言われるんだよな。
 ギムレットはそんな言葉も呑みこんで、黙って外へと出て行った。

 にしてもこのままでは森の復興作業にも影響はでることは間違いない。
 今度来たハンターに相談してみようか。
 太陽を隠すこの霧を晴らしてくれる方法を。

リプレイ本文

「ヴァニーユ、もうちょっとよ。頑張って」
 エステル・クレティエ(ka3783)はそう声をかけ、水路となる木枠を運ぶ愛馬を応援した。
「汲み上げ管がちょっと足りないぜ。買い足してこようか?」
「そんな大きく丸めなくていい。管は捻じるようにして軽く螺旋になってりゃいいから、クリューガーにそのまま引っ張らせてくれ」
 ラティナ・スランザール(ka3839)の問いかけに、岩を背にしてギムレットがそれを指示した。その横ではリトルファイアで軽く温めるルナ・レンフィールド(ka1565)が片手鍋からワインを下ろし、それをギムレットに差し出した。
「もうすぐ完成、ですね」
 ルナの顔は神妙だ。この水車と水路が完成するということは、アガスティアがやってくるということの示唆でもある。
 この完成を機に、ちゃんとお話しましょう。それが悩むギムレットに対するハンター達の答えだったからだ。今はアガスティアの元には黒の夢(ka0187)とチョココ(ka2449)が向かっている。
 ギムレットの顔はまるで彫像のようだった。
「おい、いつまでそんな顔してるんだ。何度も言ったが、原因は歪虚であってギムレットじゃない。それに隠し事ってのはバレるものなんだからよ。俺の両親もドワーフとエルフだったが……父さんの隠し事はたいていバレてたぜ。誕生日プレゼントの中身までバレてた時はさすがに知らん顔して驚いてくれたけどな」
 ラティナが笑ってそう言うと、ギムレットもつられたように笑いだした。
「違いない。エルフってのは俺達と違う目を持ってるようだな」
「私からすれば逆だと思ったけれど」
 エステルが設置した水路に水を流して流れるか確認していたリュカ(ka3828)が微笑んでそう言って、ドワーフの二人は気まずい顔をした。
 見てる物が違うのに、同じ方向を向けるのだ。種族を超えて手を取り合えるなんてこの世界において喜ばしいことだよ。リュカはその言葉を心の中で小さく続けた。
「ダメだ。少し漏れるようだ」
「板で補強するか……よっ」
「ダメですよ。ギムレットさん。今は休んでください!」
 よろけるギムレットを見かねてルナが引き止めた。確かに馬の力やハンターが数人がかりで手伝っているが、これを一人で休まずずっと続けてきたその力はこの後に使わなくてはならないのだ。今はちょっとでも体と心を休めてもらわねば。
「私がやろう」
「すまねぇな」
 リュカの手に使い込まれた金槌と釘が渡された瞬間、リュカは黙り込んだ。
「リュカさんも、お疲れ?」
「あ、いいや。なんでもない。すぐ終わらせる。もうアガスティアも来るのだろう?」
 リュカは金槌を握り締めて、微笑むと作業に取り掛かった。
「罪と罰はさて……誰のものか」
 リュカがぼんやりとそんなことを考えているとチョココの跳ねるような元気な声が聞こえてきた。
「アガスティアお姉さま~。こちらですの」
 お菓子の袋をくるくる回転させ、自らも前を向いたり後ろを振り返ったり。パルパルも動きに合わせて頭の上でポンポン踊る。
 元気な彼女とは違って黒の夢は後ろから静かについてくるだけで、チョココと負けないくらいの普段の無邪気さは影を潜めている。そしてアガスティアは今日も物静か。
「ギムレットさん……。私達がついていますから!」
「おう、ありがとう」
 ギムレットも3年間ずっと過去を引きずってきた。アガスティアももちろん。
 エステルの脳裏には、幼い日がフラッシュバックしていた。子供時代には喧嘩することも少なからずあった。だけど、兄妹がたくさんいたから、家族に守られていたから。周りの人全部に助けてもらったから。そんな喧嘩があったことも今は大切ないい思い出。
 アガスティアもギムレットもずっと一人だったから、どうすればいいのかわからないだけ。エステルにはそう思わずにはいられない。
 彼に、彼女に、一人じゃないんだよ。それがどうか伝わりますように。エステルはタリスマンを握り締めた。
「水車のストッパーを外してくれ」
 ギムレットの言葉にあわせて、ラティナが杭を抜き取った。
 同時に水車はゆっくり回り、川のせせらぎに合わせて、軽妙なリズムを作り出した。
「心地いい音……」
 和音だ。ルナは目を閉じてその音を吸い込んだ。自然の音を破かない穏やかな。楽器は人によって音色が違う。ギムレットの心の音なんだとルナは思う。
 水車は回りながら、水をくみ上げ、管へと水を運んでいく。管も水車に合わせて回転し、中に入った水は管の中の螺旋を重力に従い、下へ下へ。しかし全体としては坂をゆるゆると登っていく。坂を上り切った水は水路に溢れだし、シラカシの待つ地へと下っていく。
「水で苦労することは減ると思う。火に……悩むことも」
「そうね。ありがとう。普通なら半年はかかる作業ですね」
 ギムレットは照れくさそうに笑ってそう言ったが、アガスティアの感情はやや薄かった。水車よりも大切なものが他にある。そう言いたげだった。
「この森が燃える前に、な。カビの歪虚がいたこと、覚えているか? あいつを燃やしたのは、俺だ」
「……」
 重たく口にしたその言葉をアガスティアは黙って聞いていた。そこから続く懺悔も。
「大丈夫、勇気を出して」
 言葉に詰まりそうになると、ルナは小さく小さく弦を弾いた。どもる彼の声にあわせて、短音を響かせ曲ともいえぬメロディーで喉のつかえに油をさすと、彼は思ったいじょに雄弁に心の裡を残らず吐露した。
 涙をこぼすだろうか。狂乱するだろうか。
 ルナはリュートを持つ手が震えて仕方なかった。黒の夢も胸が潰れそうな不安を持ちながらも黙ってゆく末を見守っていた。
「黙ってて、すまなかった。チョココ。あんたにも本当に……」
 膝をつき、頭を垂れるギムレットは最後にそう締めくくった僅かの沈黙の間、アガスティアはチョココを見た。
 森が焼失し、記憶の一部をなくしたのは相当のショックによるものだろう。
「わたくしは大丈夫ですわ。パルパルがいましたもの」
 チョココはにっこり笑った。それがアガスティアの判断にもつながった。
「よく話してくれましたね。たしかに森は焼けました。同胞も同じ道を辿りました。ですが、それはもう過去です。忘れられない、忘れてはならない出来事を貴方は糧にして私を助けてくれました。それをどうして責めることができましょう」
 アガスティアは杖を伝い、片膝をついてギムレットの肩を優しく撫でてそう言った。
「こうしてたくさんの仲間を連れてきてくれて。森は再生を始めました。私は感謝こそすれ、恨んだりはしません」
「ほ、本当か!」
「良かった!!」
 感極まってラティナはギムレットとアガスティアに飛び込むようにして抱き付き、エステルもその場で手のひらで顔を覆う。
 ルナも静かな静かな曲で祝った。
「さすがアガスティアお姉さまですの! お祝いですわ~」
 チョココも嬉しくなって、愛用のじょうろをくるりと回転させてシャワーをふりまくと陽光に反射して、一同を虹に包んだ。
 しかし、黒の夢とリュカの二人は、微笑みながらもその瞳の奥ではアガスティアの瞳の奥に漂う黒い霧を見逃してはいなかった。


 禁忌とされる物を触れた後は、飲食を断ち水の流れの中で身を清めるのがリュカの習わしであった。
 重たい金槌の先端と釘。リュカの部族では鉄は禁忌とされるものだ。ギムレットの代わりを買って出たとはいえ穢れが変わるわけでもない。
 鉄の臭いと感覚が抜けない。
「低きに流れ 低きにしみとおれ せせらぎをもて浄め……」
 ふと、リュカの頭に巫女であるアガスティアの穏やかな顔が浮かんだ。彼女もこの森を他人に触れられることは同じ禁忌を冒している気分であろう。しかし、それでも彼女はそれを受け入れた。
「水の心を心とせよ 共に流れ 共に行き」
 自分とは違う声がして、リュカは目を開いて立ち上がった。同じように水行を経て身を清めようとしているのはアガスティアだった。
「彼女もまた身の汚れと戦っているの」
「黒の夢(アンノウン)」
 川辺からそう声をかけるのは黒い肌に星のようにまたたく金の瞳。黒の夢だった。夜に紛れるが故に、それはまるで夜空が語り掛けてくるかのようにリュカは錯覚した。
「ギムレットが命を懸けて森に尽くしてくれているのは良くわかっていました。どんな理由であれ否定するつもりは、ありませんでした。否定したら彼の心が死んでしまうことも知っていましたから」
「だから自分の感情を押し殺して……」
 リュカはその瞬間に気付いていた。彼女は森のマテリアルに変調をきたさぬため、自分の心を凪にして慈愛で包み隠したことを。そして人間はそんなに簡単に割り切れる存在ではないことも。
「チョココちゃん、一生懸命水上げてたの。だけど今日の若木は水をほとんど吸わなくて、チョココちゃんは首を傾げていた。その変化に、みんな気付いていた」
「60年の太陽と月を見て、100の生、200の死を目の前にしても、成長できないものね。大地は私の負の感情を理解していたみたい」
 黒の夢は心の変化に気付いていた。彼女の小さな変化は森のことごとく影響し、泣き悲しんでいたことを。この森とアガスティアは不二一体となっていることも。
「怒ったりしても何にもなりません。悲しんでも解決しません。だけど……どうしようもない感情が奥底にとぐろを巻いていて、私はそれをどうにもできません」
 そうぽつりと漏らすアガスティアにかける言葉は見つからない。黒の夢はそっとアガスティアを抱きしめその耳元に囁くように歌詞の無い歌を聞かせるのが精いっぱいだった。子守唄のように。亡くしたあの日を伝える詩人のように。
「Calamitas virtutis occasio est(意訳:災いは貴方を強くしてくれる)」
 せせらぎだけが響く川に、それを見つめていたルナがゆっくりとリュートを弾いた。川の中にいる彼女たちには僅かに聞こえる程度だろう。
 漣の音も、水車のリズムも。リュカの吐息も、黒の夢の鼓動も。今は一つの音色の束にして。
 届いてほしい。その鉄のように固まった心の奥底まで。
「ふるへ心よ 音を観たならば……」
 震えて砕けて。音を肌で感じて。私の想いも。
 ルナの唇から前に歌ったあの歌詞が自然と漏れた。


「見てくださいのっ」
 次の朝、チョココがえへんと胸をはって、一同にシラカシを指し示した。
「朝露……すごい、昨日は元気がなかったみたいだったのに」
「わたくしの努力の甲斐ですわ♪ ぞうさんじょうろと手袋は、わたくしの家にある全部の草花を育てたものですのよ」
 今までは枯れた空気ではつくことのなかった朝露をつけて、シラカシは凛として立っていた。暗い曙光を受けながらもぼやりとその姿が見えるのはその生命力の賜物か。
「見ろよ。草も!!」
 ラティナはシラカシの後ろに生える草を見て驚きの声を上げた。秋にかかったとはいえ、草花成長は一日でも随分変わる。昨日は産毛のように弱弱しかったその様子も今はしっかりして、大地を緑に隠していた。そして何より緑の香りが一同の鼻をくすぐる。
「これも二人が仲直りしたせいだな。緑たちもきっと祝福してくれてるんだよ。俺の父さんが母さんにむけて歌を送った時もこんなだって言ってた。ギムレット、やっぱ言葉も大切だな」
「ラティナは芸術家だなぁ」
 ドワーフ二人は屈託なく笑ってその様子を喜んで見つめていたが、アガスティアの心境を知っていた大人のエルフ達はこの景色を信じられないように見つめるばかりだった。アガスティアですら、この変化は突然すぎて理解できず呆然とするばかりであった。
「そうだ、俺の両親が駆け落ちした故郷のこと、聞いてないんだけどさ。この辺りでそんな話なかったかな?」
「エルフとドワーフが恋に落ちるなんておとぎ話は。……私の若い頃に一度ありました」
「そうか! じゃあもしかしたら……」
 喜びを全身で表すラティナの横で、まだ不思議にとらわれるアガスティアにエステルは少し気遣うようにしながら声をかけた。
「ここはアガスティアさんが甦らせた森です。でも、もう皆の想いや祈りがこの地に染みている。水車が運んだ水には私たちの想いもこもっています。二度と焼け苦しむことが無い様にって、ギムレットさんの願いもあるんじゃないかって」
 なによりチョココは水を吸わないからと水をやる以外にも一生懸命に歌ったり踊ったりしていたのだ。疲れて眠ってしまうまで。
「ここはもう一つのお家ですもの。森の家族として悲しむままではやらせませんわ。ね、お姉さま」
 アガスティアにそう笑ってチョココは語り掛けた。
 人がいると疲れる時もある。だけど、みんなが互いに支え合ってくれる。
「一人きりだった森で、彼に会って私達が呼ばれて、森は良いよって言ってるんじゃないかって思うんですよ」
 エステルも最初にハンターになる時は恐ろしかった。特に兄には危険だからと何度言われたか。だけど、自然と仲間ができ。
「おう、ルナの嬢ちゃん。今日は底抜けに明るい歌にしようぜ!」
「エステルもほら」
 ラティナに差し出された手を見て、エステルは微笑んだ。
 この世界にいていいよって言われている気がする。それは自分だけではない。この森も。アガスティアさんも。ギムレットさんも同じだと思う。
「今日は向こう側に種を撒きませんか?」
「ふっふふ。でもお姉さまには宿題を用意してきましたのよ。森の観察日記。あ、ギムレットさまにもですわ。森の一員として森の気持ちをこまかーく。見ていてほしいですのっ」
 チョココは紙束を押し付けた。二人の見える物はきっと違う。だから日記もきっと違ってくる。その違いを認めるきっかけになれば。
 紙束を渡された二人はどちらも少しだけ困った顔をしたが、すぐにそれを受け入れてくれた。
「宿題ができたらお菓子を食べていいのですわー。手作りのほっぺが落ちるお味ですの!」
「それ、チョココちゃんがいつも言われていること?」
 笑い声が響く。
 そんな中、黒の夢はそっとシラカシの前で膝まづき、いきいきとしたその葉を優しく撫でて語り掛けた。
「汝はこれからずーっと色んなものを見る事になる……だから汝がこの森に来ることになった事、汝を大切にしている二人の事、憶えていて?」
 アガスティアの心の闇がぬぐわれたわけではない。年を経たエルフはそんな簡単な生き物ではない。
 それを『森』も知っていて、みんなで包み込もうとしてくれていることを黒の夢は良く知っていた。
 光も闇も全てを包み込む大いなる存在となりますように。
 彼女の願いに答えるようにして、シラカシの若葉から朝露の雫が垂れ落ち、こくこくと上下に揺れたのであった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 不撓の森人
    リュカ(ka3828
    エルフ|27才|女性|霊闘士
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザール(ka3839
    ドワーフ|19才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】向き合うか、否か。
ラティナ・スランザール(ka3839
ドワーフ|19才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/09/11 23:19:59
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/08 21:06:50