ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずと恋人
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/22 09:00
- 完成日
- 2015/09/30 21:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ティータイムを終えてカウンター席に座る常連の青年の他は引けた店内、まだ暑いけれど、なんて笑いながら、店長代理のユリアは、最近仕事が板に付いてきたウェイトレスのモニカに手伝わせながらテーブルクロスを秋色の物に換えていく。
カウンターの中で店員のローレンツがいつもと変わらない白磁のティーカップを磨いていた。
常連の青年のカップにはコーヒーが半分冷め切っていて、その水面を眺めて項垂れている。
いつも熱い内に飲み干して仕事へ戻っていく彼だけに、そんな姿は珍しい。
「元気ないですねー」
日毎週毎に合うような顔ぶれは覚えたらしいモニカが、隣に座ってひらひらと手を揺らしながら話し掛けた。
「コーヒー、冷めちゃってますよ?」
「ああ……悪いね。ついでに、なんだけどさ。ここ新聞って置いてた?」
「はぁい。 持ってきますねー」
モニカがカウンター横のラックへ向かい、今日の新聞を1冊手にして戻る。テーブルクロスを抱えたユリアが青年の傍で足を止めた。
「あの子が来てからなんです。お祖父ちゃん……店長が、読みたい客は自分で持ってくるさって……ねえ、ロロさん?」
カウンターの中ローレンツが仏頂面で頷いた。
「モニカちゃんが来てもう二ヶ月か……ユリアさんが戻ってからはかれこれ、一年になるんだよね……」
青年がしみじみと呟き、ユリアはクロスを抱えてカウンターの奥へ、モニカが新聞を差し出して、ローレンツは入れ立てのコーヒーを天板に置いた。
有り難うございますと熱いコーヒーで口を湿しながら、青年は新聞を数枚捲った。
そして、深々と溜息を吐いた。
●
遠方に住む恋人が病に罹ったらしい。
報せの手紙によると今は小康を保っているが、次に症状が出てしまえば保たないだろうとのことだ。
慌てて旅の支度を整え、馬車を手配し仕事の休みを取った。
彼女を知るものから見舞いの品も託され、それを抱えて街道へ向かったところゴブリンが出たらしいと引き留められた。
引き返して当てもなく行き着いたいつもの店でコーヒーを啜り、
「ああ、これだな」
捲った新聞に、此度のゴブリンの群の出没を纏めた記事が載っていた。
その記事を横から覗き込んでいたモニカが声を掛けた。
モニカ自身も、ヴァリオスからここフマーレへの移動の最中に、ゴブリンの群に行き合っている。
「私は、ハンターさんに守って貰いながらここに来たんですよ。私とちっちゃい弟も一緒に……私は弟を抱えているしか出来なかったので、全部倒してくれて……それで、なんとか。危ないこともあったみたいなんですけど、私は、怖くなかったです」
夏の頃を思い出すようにゆっくりと喋る。
青年が、頷いた。
「頼んでみようかな」
ハンターさん、と尋ねながらモニカは奥の広いテーブルを見る。その天板には地図が貼られて、これまでこの店に持ち込まれた悩みごとの数だけピンが立てられている。
その中にはここへ来るモニカの護衛を頼んだユリアが立てた物も有った。
「きっと、引き受けてくれます。だから恋人さんが元気になるまで、あなたも頑張って下さいね」
●※※※
モニカが依頼をオフィスへ届け、ローレンツがコーヒー豆を買い出しに。空いた店内の床にモップを掛けていると、一人の来客があった。
華やかな和装、底の厚い下駄は刳り抜いて鈴を仕込み、歩く度にしゃん、しゃんと小さな音を鳴らす。
引き摺りそうな袂を引き上げながらカウンターに掛けたその女性は、ユリアを見詰めてうっそりと微笑んだ。
「ねえ、貴女の名前。まだ聞いていなかったわね」
ここにはよく来るのにね。青い双眸がユリアを見ている。
ユリアは掃除の手を止めて、向き直ると首を傾げながら、
「私の名前? ユリアよ」
そう言って黒いドレスの裾を整えた。
ティータイムを終えてカウンター席に座る常連の青年の他は引けた店内、まだ暑いけれど、なんて笑いながら、店長代理のユリアは、最近仕事が板に付いてきたウェイトレスのモニカに手伝わせながらテーブルクロスを秋色の物に換えていく。
カウンターの中で店員のローレンツがいつもと変わらない白磁のティーカップを磨いていた。
常連の青年のカップにはコーヒーが半分冷め切っていて、その水面を眺めて項垂れている。
いつも熱い内に飲み干して仕事へ戻っていく彼だけに、そんな姿は珍しい。
「元気ないですねー」
日毎週毎に合うような顔ぶれは覚えたらしいモニカが、隣に座ってひらひらと手を揺らしながら話し掛けた。
「コーヒー、冷めちゃってますよ?」
「ああ……悪いね。ついでに、なんだけどさ。ここ新聞って置いてた?」
「はぁい。 持ってきますねー」
モニカがカウンター横のラックへ向かい、今日の新聞を1冊手にして戻る。テーブルクロスを抱えたユリアが青年の傍で足を止めた。
「あの子が来てからなんです。お祖父ちゃん……店長が、読みたい客は自分で持ってくるさって……ねえ、ロロさん?」
カウンターの中ローレンツが仏頂面で頷いた。
「モニカちゃんが来てもう二ヶ月か……ユリアさんが戻ってからはかれこれ、一年になるんだよね……」
青年がしみじみと呟き、ユリアはクロスを抱えてカウンターの奥へ、モニカが新聞を差し出して、ローレンツは入れ立てのコーヒーを天板に置いた。
有り難うございますと熱いコーヒーで口を湿しながら、青年は新聞を数枚捲った。
そして、深々と溜息を吐いた。
●
遠方に住む恋人が病に罹ったらしい。
報せの手紙によると今は小康を保っているが、次に症状が出てしまえば保たないだろうとのことだ。
慌てて旅の支度を整え、馬車を手配し仕事の休みを取った。
彼女を知るものから見舞いの品も託され、それを抱えて街道へ向かったところゴブリンが出たらしいと引き留められた。
引き返して当てもなく行き着いたいつもの店でコーヒーを啜り、
「ああ、これだな」
捲った新聞に、此度のゴブリンの群の出没を纏めた記事が載っていた。
その記事を横から覗き込んでいたモニカが声を掛けた。
モニカ自身も、ヴァリオスからここフマーレへの移動の最中に、ゴブリンの群に行き合っている。
「私は、ハンターさんに守って貰いながらここに来たんですよ。私とちっちゃい弟も一緒に……私は弟を抱えているしか出来なかったので、全部倒してくれて……それで、なんとか。危ないこともあったみたいなんですけど、私は、怖くなかったです」
夏の頃を思い出すようにゆっくりと喋る。
青年が、頷いた。
「頼んでみようかな」
ハンターさん、と尋ねながらモニカは奥の広いテーブルを見る。その天板には地図が貼られて、これまでこの店に持ち込まれた悩みごとの数だけピンが立てられている。
その中にはここへ来るモニカの護衛を頼んだユリアが立てた物も有った。
「きっと、引き受けてくれます。だから恋人さんが元気になるまで、あなたも頑張って下さいね」
●※※※
モニカが依頼をオフィスへ届け、ローレンツがコーヒー豆を買い出しに。空いた店内の床にモップを掛けていると、一人の来客があった。
華やかな和装、底の厚い下駄は刳り抜いて鈴を仕込み、歩く度にしゃん、しゃんと小さな音を鳴らす。
引き摺りそうな袂を引き上げながらカウンターに掛けたその女性は、ユリアを見詰めてうっそりと微笑んだ。
「ねえ、貴女の名前。まだ聞いていなかったわね」
ここにはよく来るのにね。青い双眸がユリアを見ている。
ユリアは掃除の手を止めて、向き直ると首を傾げながら、
「私の名前? ユリアよ」
そう言って黒いドレスの裾を整えた。
リプレイ本文
●
秋風が吹き抜けてかさかさと紙を揺らす。必要な記事の載った紙面を表に畳まれた新聞を手に一川 海子(ka2129)は紫煙を吐いた。煙の流れていく先、街道はまだ、とても静かだ。
その新聞をZack Eisenhut(ka2068)が横から覗き込む。
「ふむん、成る程ねー。あ、ほーしゅーは山盛りクッキーでイイヨ」
記事に目を走らせて、あらましを把握すると、立てた人差し指を揺らして依頼人へ星を飛ばすような明るい声を向けた。
「それじゃあ、先、行きますね」
「……ん。お願いします。俺たちも、注意するけど」
トランシーバーの動作確認を終えたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が馬に跨がって白水 燈夜(ka0236)を振り返る。
「ええ、巡り合いやら何やらでそちらに行くこともありますし、警戒は怠らないでくださいね」
馬上のメリエを見上げ、茂みとか、森とか、と、注意するポイントを並べて、白水が溜息を吐いた。休みという概念がゴブリン達には無いのだろうか。
「さ、行くよジール」
ジール、そう呼ばれた青毛の大型の軍馬は頷くように鬣を揺らした。
メリエの姿がまだ見える内に、5人のハンター達と依頼人も出発の支度を調え、馬車を進めた。
畳み直した新聞を返し、一川が依頼人の背を叩いて励ます。
「戦闘に巻き込まれてしまった場合、近くの茂みに身を潜めておいてくれ」
新聞を置いて依頼人が不安そうな顔を向けた。
「出来るだけ敵と目を合わせないように頼むよ」
怯えた顔を見せて、狙われるのはコトだから。
「……恋人さん心配? 大丈夫よ。おにーさんの顔をみるまでは元気よ! うん! きっと元気!」
カリアナ・ノート(ka3733)は馬車の助手席へ、座面に立って視線を遠く保つように眺める。
くるりと見回した視界に、依頼人の沈痛な表情を見付けて、その不安を除こうと声を掛けた。
カリアナにも、恋人を持つ姉がいる。恋はまだよく分からないけれど、きっと、お姉ちゃんだって。
「元気で待っていると思うわ!」
盾と剣を確かめてゲルト・フォン・B(ka3222)が馬に跨がった。気性の穏やかな馬は力強く地面を踏んで、大人しく場所の横に並ぶ。
「出発か。安心してくれ、貴殿は必ず送り届ける」
繊細な意匠を鎧う指が盾を握り、清廉な双眸を静かに伏せた。
少し先を進むメリエの後ろ姿、依頼人の周囲を囲むように進むハンター達もまだ敵と遭遇する気配は無い。
穏やかな道中、不安を拭いきれない様子の依頼人へカリアナが積極的に話し掛け、ツァックも行き先の街の話しを弾ませた。
「向こうってナニか名物あったりするのかい?」
美味しいお菓子の為に、西へ東へ走り回るオレだから。
「――うん、わかった……出たよ、止まって」
「後で教えてネ!」
目的の為に頑張る人を手伝うことは、吝かじゃ無い。
トランシーバーへメリエからの連絡を受けた白水が腕を翳して進行を止めると、ハンター達が警戒しながら広がった。
ゲルトが依頼人の傍で盾を構え、カリアナは不安定な椅子から跳ね下りてヤドリギの杖を振り翳す。
彼女達よりも前へ出てツァックは小型の銃を手の中に弄ぶ。
もしもの時は、言った通りに。一川は依頼人を一瞥して前へ、魔術の間合いを量って下がる白水と擦れ違って前衛へ出る。
●
「――こちらメリエ! 奴さんのお出ましですよ! お早い支援を願いますね!」
やや前方に見付けた気配は茂みを揺らす。馬車までは十分な距離が有り、敵も姿を見せていない。
トランシーバーを切って先を見据える。
――それは……一刻も早く向かいたいですよね。お任せ下さい! その為の私達ですからね!――
出発前に切った啖呵を思い出す。
「……出るならさっさと出てくれりゃいいのに」
わたしたちは、急いでいるんだから。
メリエがマテリアルを解放する。
陽炎を背負い、赤い瞳が青に変わる。景色が揺らぎ、青い燐光が散って、太刀を抜き放つと青い光りを纏う陽炎は空を目指して昇っていく。
熱の無い揺らめきの中心で、メリエはじっと茂みを見据えた。
支度を調えたハンター達が追い付いたのはすぐのことだった。
メリエと共に前に出る一川が、ナイフを握って髪を風に戦がせる。
茂みが割れてゴブリンが数匹その姿を覗かせた。
緑色の光りの粒を纏い姿勢を低く保つ。光りの軌跡を残して駆け抜け一川がナイフの切っ先を、小さな群れの剣を携えたリーダーらしき1匹へ向けた。
「先ずは……っ」
一川の刃を阻んだ棍棒を握るゴブリンを薙ぎ払った刀の軌跡に青い光が舞う。
「さぁ亜人共、オイタが過ぎたな! 全力で行く!」
狙われていると知ったゴブリンが剣を掲げ、先行した数匹を呼び戻す。
1匹の屍を退けて、守るように固まった。
「一掃出来れば、楽だし……」
白水が短杖を構えた。
集まらずに走ってくる2匹をそれぞれツァックとカリアナが狙った。
集まったゴブリンの中心に放たれた火球が爆ぜ、炎は一川とメリエの寸前に迫り中心から消えていく。
杖を握る白水の周囲にふわりと黄色い羽が舞って、その幻影は炎と共に消えていった。
黒い瞳が海色の青に染まり、鼓動に重ねて巡るマテリアルを感じる。
斃れたゴブリン達は藻掻きながら、それでも馬車へ向かおうとした。
「イタイのはキライなんだよねぇ……ホラ。オレ、壁向きじゃないし? でも、通さないヨ」
ぱちん、と星を飛ばすウィンクを。ツァックが銃にマテリアルを込めて放った一撃が走り迫るゴブリンの腕を弾きその棍棒を彼方へ飛ばす。
「おにーさん、大丈夫よ。心配しないで」
杖にマテリアルを込め、依頼人へ笑顔を向けて。カリアナの青い瞳が、敵を睨んだ。
杖の先から放たれた礫が腹を貫くと、その1匹が地面に這った。藻掻きながらもそれ以上迫る様子が無い姿にほっと息を吐くと依頼人へ、ね、と首を傾げて見せた。
依頼人、護衛対象へ接近した敵が倒れると、ゲルトは左右を確かめてから前へ出た。
この群の中、飛び道具で狙う敵も既に倒されている。自身も戦線へ出た方が早く決着するだろう。
「ここなら安全だろう。すぐに出発出来るから、もう少し堪えてもらえるか?」
護る為に剣を抜く。
ゲルトの背後、精霊の姿が浮かび上がった。
旗を掲げて翼を広げる天使がその身で描くクロスが白く輝いている。
炎の幻が引いた辺り、既に斃れたものもいるが、中心で剣を握る1匹を始め、数匹がまだ手に棍棒を持ち向かってくる。
振り下ろされた棍棒を漆の艶やかな鎧で弾くとメリエは炎を纏う太刀の刃を真っ直ぐに突き出し、そのゴブリンを貫いた。
中心へ進みたいが、庇われているなら仕方ない。マテリアルを巡らせて機を覗う。
他のゴブリン達もハンター達へ得物を向け、飛び掛かっていく。
振り下ろされた棍棒が触れる寸前で地面を蹴って躱した一川が、横から振り抜かれた別の1匹の攻撃を腹に受ける。
鎧越しにも思い一撃に咳き込みながらふらつく身体を支えて構えを保つ。
「っは……っ、く」
そのゴブリン2匹はそれぞれ石の礫に砕かれ、水の鳥に引き裂かれた。
後方で杖を掲げたカリアナが敵陣を見据え、白水もふぅと息を吐いた。
ゲルトが盾の内へ一川を庇い、更に向かってくるゴブリンを、たん、と一発の光り纏う銃弾が貫いた。
ツァックが銃を収めると、残る1匹はメリエと剣を交えている。
「――烈火ァ」
至近から放たれた炎の斬撃に切り裂かれた骸が地面に転がる。
辺りに敵がいないことを確かめて、メリエは刀を下ろす。ほんの一時の静寂に秋風が葉掠れを伴って吹き抜けていった。
「進もう」
剣に施した十字の装飾、それを法具としてゲルトが一川へ手を伸ばした。
片膝を突いて静かに祈ると、温かなマテリアルが一川を包み傷を癒やす。
剣を握り直して前を向いたゲルトと、前方を警戒していたメリエが瞠目し、馬車の周囲を囲っていた3人も現れた気配に前を向く。
もう1つの群は、進む間も無く迫ってきていた。
●
ゴブリンの気配は前方、右の茂みから現れては道に散らばっていった。
ハンター達から大きく距離を取ったところに弓を持ったゴブリンはいたが、その傍らに従うものが2匹、ハンター達を睨んで、手中の石を弄んでいる。
道に広がっているゴブリンは 3匹だが茂みがざわつき、まだ何匹かがそこに潜んでいるらしい様子が覗えた。
「ばらけてる……巻き込むのは、難しそうだな。各個撃破狙い、か」
杖の先で魔術の範囲を計りながら、白水が呟いた。虎の爪を持つ水の鳥を放つには、弓を持つゴブリンまではまだ少し遠い。
カリアナも頷いてマテリアルを杖に込める。
「1匹ずつでも、確実にね」
風の刃ならば届くだろうか。しかしと迷う目が自身へ向かう石を見詰めた。
「周辺を掃討し終えたら前へ、私が護ろう」
カリアナの傍へ迫った石を盾に弾いてゲルトが頷く。敵を残して依頼人の側を離れる心配は無いと静かに告げる。
3人を振り返ったツァックがにこりと笑って銃声を鳴らす。
「鬼サン、コチラってネ――っとと、仕返しだよ?」
その声に向かって投げつけられた石が腕を掠めていく。
腕の痛みを堪えながら、投げつけたカードに、更に1匹が狙いをツァックに向けた。
石を構えるゴブリンへ馬を奔らせて距離を詰め、茂みから集まってきた数匹を巻き込むように薙ぎ払う。
「何匹来ようと……」
一撃で斃れたものと茂みへ逃げ帰ろうとするもの、惑うように他のゴブリンへ追従するものがいる。
投げつけられる石を鎧で弾きながら、メリエは大振りの太刀をすらりと伸べる。
「並ぶのか、バカめと言ってやる!」
貫く軌道からその先まで放たれた炎は並んだ2匹のゴブリンを纏めて貫いた。
一川の周りで緑の光りが瞬く。光りの粒が彼女の動きに沿って揺れ、一振りの得物を手にマテリアルを巡らせる身体で敵陣へ飛び込めば、残像のようにその軌跡を描いた。
逆手に構えるナイフで一撃、鎧が避けて返り血が散る。反撃に転じた石が迫る前に後退し狙いを定めてそのナイフを投げる。
腑に刺さったそれを引き抜いて、ゴブリンが濁った声で呻く。
その方向が這うように響いて、茂みを騒がせた。
「こっち、こっち、あはは、当たらないヨ」
「……落ち付いて1匹ずつ、うん」
ツァックが大袈裟な身振りで馬車へ迫りそうなゴブリンを惹き付け、それを狙って白水が水の鳥を放った。
研いだカードを扇に広げて投げひらりと投げる。それはゴブリンの頬を裂いて枝を張り出す木に刺さった。
ツァックへ石が投じられる直前に、水の鳥は虎の様な大きく鋭い爪でその身体を引き裂いた。水塊に戻った鳥が霧散すると、2人に狙われた1匹のゴブリンとその膝下に斃れた骸が残った。
「ここは私に任せていい。前を」
「は、はい……っ、これなら、届くはずよ!」
茂みから迂回したのだろう1匹が馬車に近付いた。杖を握って身構えたカリアナを背後に、ゲルトが盾を構えて投げつけられる石を弾く。
一瞬竦んだカリアナだが杖を構え直すとその切っ先から風の刃を放って矢番え、弦を引き絞るゴブリンを狙う。
「その弦、切ってやるわ」
風に揺らされた弓は狙いを空へ、どこへともなく放たれた矢が緩やかな弧を描いて茂みの向こうへ落ちていった。弦を外れた風の刃に腕を掠められたゴブリンが喚き、その声に呼応するように残っていたゴブリン達が石を構えた。
飛んでくる石を構わずメリエは馬を奔らせる。
腕に傷を負い、次の攻撃への間隔が出来た隙にそのゴブリンを従える2匹ごと炎の刃で貫いた。
「並ぶのはバカだと言っただろう――猛火ァ!」
ツァックはカードを投げ尽くした手を銃に添え、両手で支えて狙いを定める。エネルギーに変えたマテリアルを武器に込めて、向かってくる石に脇腹を掠らせながら鉛玉を放つ。
合わせるように白水が放ち羽ばたいた水の鳥は、捕らえた獲物をその爪に握りつぶした。
「護りに徹するつもりだったが……退かないのだな」
ゲルトに正対するゴブリンが石を構えると、その石を軽く盾に弾いて剣を伸べ、数撃の後に胸を貫いた。
周囲に敵がいないことを確かめて、一川がナイフを、ツァックがカードを回収し、それぞれに一息吐いて、負った傷や疲れを癒やす。
「ジール」
メリエが馬の首を撫でてハンター達と依頼人を振り返る。先行に戻ると先を指して示す。
「……うん」
白水がトランシーバーを掲げて頷いた。
圧倒されていたらしい依頼人も、移動を再開すれば幾らかの落ち着きを戻し、カリアナやツァックとの会話にも笑い声が混ざり始めた。
●
ヴァリオスにいたる頃には日は落ちていたが、依頼人を迎えに来たらしい老いた女性、恋人の母親らしい彼女が容態を伝えた。
その言葉に依頼人は安堵しながらも肩を落とした。今のところ恋人の病状に変化は無いようだ。
「今日は有り難う、助かった」
深々と頭を下げて依頼人が告げ、老女に護衛のハンター達だと紹介した。
「いいのよ、だって、恋人さん、おにーさんに会いたいはずよ!」
手を握ってカリアナが明るい声で励ます。
「んー、山盛りクッキーの為だしネ」
ツァックもにいと笑って肩を叩き、邪魔して馬に蹴られる前に帰ろうかと来たばかりの道を振り返った。
下りた馬の手綱を握り、メリエがその道を眺めてから依頼人へ視線を戻した。
「帰りも護衛しますか?」
依頼人は、快くなるまではいるつもりだから、また改めてと首を横に振った。
「はい。恋人さんと、しっかり話してくださいね」
「そう言えば名前を聞いていなかったね。私は一川海子」
帰りもよろしくと依頼人が一川の手を取って確りと握った。手を解くと、引き留めてしまったなと肩を竦め、またいつでもハンターを頼ってくれと喉で笑いながら背を向けた。
「帰りの護衛も必要なら、何時でも呼んでもらえると」
白水もそう言って歩き出す。
極彩色の街ヴァリオス、エーレンフリートに保護されたモニカと出会ったのもこの街だ。彼はまだ街にいるだろうか。
フマーレに帰ったらモニカのカフェオレも飲んでみたい。
疲れた身体をぐっと伸ばして空を仰ぐ。
秋の星座を浮かべた夜空は澄んで…………
後日、珈琲サロンとぱぁずに一通の手紙が届いた。
依頼人の青年の手による物で、ハンター達への礼と恋人が快方に向かっていることが認められ、近い内に2人で店に行きたいとも書かれていた。
モニカはその手紙を奥の広いテーブル席の近くの壁に貼り付けた。
秋風が吹き抜けてかさかさと紙を揺らす。必要な記事の載った紙面を表に畳まれた新聞を手に一川 海子(ka2129)は紫煙を吐いた。煙の流れていく先、街道はまだ、とても静かだ。
その新聞をZack Eisenhut(ka2068)が横から覗き込む。
「ふむん、成る程ねー。あ、ほーしゅーは山盛りクッキーでイイヨ」
記事に目を走らせて、あらましを把握すると、立てた人差し指を揺らして依頼人へ星を飛ばすような明るい声を向けた。
「それじゃあ、先、行きますね」
「……ん。お願いします。俺たちも、注意するけど」
トランシーバーの動作確認を終えたメリエ・フリョーシカ(ka1991)が馬に跨がって白水 燈夜(ka0236)を振り返る。
「ええ、巡り合いやら何やらでそちらに行くこともありますし、警戒は怠らないでくださいね」
馬上のメリエを見上げ、茂みとか、森とか、と、注意するポイントを並べて、白水が溜息を吐いた。休みという概念がゴブリン達には無いのだろうか。
「さ、行くよジール」
ジール、そう呼ばれた青毛の大型の軍馬は頷くように鬣を揺らした。
メリエの姿がまだ見える内に、5人のハンター達と依頼人も出発の支度を調え、馬車を進めた。
畳み直した新聞を返し、一川が依頼人の背を叩いて励ます。
「戦闘に巻き込まれてしまった場合、近くの茂みに身を潜めておいてくれ」
新聞を置いて依頼人が不安そうな顔を向けた。
「出来るだけ敵と目を合わせないように頼むよ」
怯えた顔を見せて、狙われるのはコトだから。
「……恋人さん心配? 大丈夫よ。おにーさんの顔をみるまでは元気よ! うん! きっと元気!」
カリアナ・ノート(ka3733)は馬車の助手席へ、座面に立って視線を遠く保つように眺める。
くるりと見回した視界に、依頼人の沈痛な表情を見付けて、その不安を除こうと声を掛けた。
カリアナにも、恋人を持つ姉がいる。恋はまだよく分からないけれど、きっと、お姉ちゃんだって。
「元気で待っていると思うわ!」
盾と剣を確かめてゲルト・フォン・B(ka3222)が馬に跨がった。気性の穏やかな馬は力強く地面を踏んで、大人しく場所の横に並ぶ。
「出発か。安心してくれ、貴殿は必ず送り届ける」
繊細な意匠を鎧う指が盾を握り、清廉な双眸を静かに伏せた。
少し先を進むメリエの後ろ姿、依頼人の周囲を囲むように進むハンター達もまだ敵と遭遇する気配は無い。
穏やかな道中、不安を拭いきれない様子の依頼人へカリアナが積極的に話し掛け、ツァックも行き先の街の話しを弾ませた。
「向こうってナニか名物あったりするのかい?」
美味しいお菓子の為に、西へ東へ走り回るオレだから。
「――うん、わかった……出たよ、止まって」
「後で教えてネ!」
目的の為に頑張る人を手伝うことは、吝かじゃ無い。
トランシーバーへメリエからの連絡を受けた白水が腕を翳して進行を止めると、ハンター達が警戒しながら広がった。
ゲルトが依頼人の傍で盾を構え、カリアナは不安定な椅子から跳ね下りてヤドリギの杖を振り翳す。
彼女達よりも前へ出てツァックは小型の銃を手の中に弄ぶ。
もしもの時は、言った通りに。一川は依頼人を一瞥して前へ、魔術の間合いを量って下がる白水と擦れ違って前衛へ出る。
●
「――こちらメリエ! 奴さんのお出ましですよ! お早い支援を願いますね!」
やや前方に見付けた気配は茂みを揺らす。馬車までは十分な距離が有り、敵も姿を見せていない。
トランシーバーを切って先を見据える。
――それは……一刻も早く向かいたいですよね。お任せ下さい! その為の私達ですからね!――
出発前に切った啖呵を思い出す。
「……出るならさっさと出てくれりゃいいのに」
わたしたちは、急いでいるんだから。
メリエがマテリアルを解放する。
陽炎を背負い、赤い瞳が青に変わる。景色が揺らぎ、青い燐光が散って、太刀を抜き放つと青い光りを纏う陽炎は空を目指して昇っていく。
熱の無い揺らめきの中心で、メリエはじっと茂みを見据えた。
支度を調えたハンター達が追い付いたのはすぐのことだった。
メリエと共に前に出る一川が、ナイフを握って髪を風に戦がせる。
茂みが割れてゴブリンが数匹その姿を覗かせた。
緑色の光りの粒を纏い姿勢を低く保つ。光りの軌跡を残して駆け抜け一川がナイフの切っ先を、小さな群れの剣を携えたリーダーらしき1匹へ向けた。
「先ずは……っ」
一川の刃を阻んだ棍棒を握るゴブリンを薙ぎ払った刀の軌跡に青い光が舞う。
「さぁ亜人共、オイタが過ぎたな! 全力で行く!」
狙われていると知ったゴブリンが剣を掲げ、先行した数匹を呼び戻す。
1匹の屍を退けて、守るように固まった。
「一掃出来れば、楽だし……」
白水が短杖を構えた。
集まらずに走ってくる2匹をそれぞれツァックとカリアナが狙った。
集まったゴブリンの中心に放たれた火球が爆ぜ、炎は一川とメリエの寸前に迫り中心から消えていく。
杖を握る白水の周囲にふわりと黄色い羽が舞って、その幻影は炎と共に消えていった。
黒い瞳が海色の青に染まり、鼓動に重ねて巡るマテリアルを感じる。
斃れたゴブリン達は藻掻きながら、それでも馬車へ向かおうとした。
「イタイのはキライなんだよねぇ……ホラ。オレ、壁向きじゃないし? でも、通さないヨ」
ぱちん、と星を飛ばすウィンクを。ツァックが銃にマテリアルを込めて放った一撃が走り迫るゴブリンの腕を弾きその棍棒を彼方へ飛ばす。
「おにーさん、大丈夫よ。心配しないで」
杖にマテリアルを込め、依頼人へ笑顔を向けて。カリアナの青い瞳が、敵を睨んだ。
杖の先から放たれた礫が腹を貫くと、その1匹が地面に這った。藻掻きながらもそれ以上迫る様子が無い姿にほっと息を吐くと依頼人へ、ね、と首を傾げて見せた。
依頼人、護衛対象へ接近した敵が倒れると、ゲルトは左右を確かめてから前へ出た。
この群の中、飛び道具で狙う敵も既に倒されている。自身も戦線へ出た方が早く決着するだろう。
「ここなら安全だろう。すぐに出発出来るから、もう少し堪えてもらえるか?」
護る為に剣を抜く。
ゲルトの背後、精霊の姿が浮かび上がった。
旗を掲げて翼を広げる天使がその身で描くクロスが白く輝いている。
炎の幻が引いた辺り、既に斃れたものもいるが、中心で剣を握る1匹を始め、数匹がまだ手に棍棒を持ち向かってくる。
振り下ろされた棍棒を漆の艶やかな鎧で弾くとメリエは炎を纏う太刀の刃を真っ直ぐに突き出し、そのゴブリンを貫いた。
中心へ進みたいが、庇われているなら仕方ない。マテリアルを巡らせて機を覗う。
他のゴブリン達もハンター達へ得物を向け、飛び掛かっていく。
振り下ろされた棍棒が触れる寸前で地面を蹴って躱した一川が、横から振り抜かれた別の1匹の攻撃を腹に受ける。
鎧越しにも思い一撃に咳き込みながらふらつく身体を支えて構えを保つ。
「っは……っ、く」
そのゴブリン2匹はそれぞれ石の礫に砕かれ、水の鳥に引き裂かれた。
後方で杖を掲げたカリアナが敵陣を見据え、白水もふぅと息を吐いた。
ゲルトが盾の内へ一川を庇い、更に向かってくるゴブリンを、たん、と一発の光り纏う銃弾が貫いた。
ツァックが銃を収めると、残る1匹はメリエと剣を交えている。
「――烈火ァ」
至近から放たれた炎の斬撃に切り裂かれた骸が地面に転がる。
辺りに敵がいないことを確かめて、メリエは刀を下ろす。ほんの一時の静寂に秋風が葉掠れを伴って吹き抜けていった。
「進もう」
剣に施した十字の装飾、それを法具としてゲルトが一川へ手を伸ばした。
片膝を突いて静かに祈ると、温かなマテリアルが一川を包み傷を癒やす。
剣を握り直して前を向いたゲルトと、前方を警戒していたメリエが瞠目し、馬車の周囲を囲っていた3人も現れた気配に前を向く。
もう1つの群は、進む間も無く迫ってきていた。
●
ゴブリンの気配は前方、右の茂みから現れては道に散らばっていった。
ハンター達から大きく距離を取ったところに弓を持ったゴブリンはいたが、その傍らに従うものが2匹、ハンター達を睨んで、手中の石を弄んでいる。
道に広がっているゴブリンは 3匹だが茂みがざわつき、まだ何匹かがそこに潜んでいるらしい様子が覗えた。
「ばらけてる……巻き込むのは、難しそうだな。各個撃破狙い、か」
杖の先で魔術の範囲を計りながら、白水が呟いた。虎の爪を持つ水の鳥を放つには、弓を持つゴブリンまではまだ少し遠い。
カリアナも頷いてマテリアルを杖に込める。
「1匹ずつでも、確実にね」
風の刃ならば届くだろうか。しかしと迷う目が自身へ向かう石を見詰めた。
「周辺を掃討し終えたら前へ、私が護ろう」
カリアナの傍へ迫った石を盾に弾いてゲルトが頷く。敵を残して依頼人の側を離れる心配は無いと静かに告げる。
3人を振り返ったツァックがにこりと笑って銃声を鳴らす。
「鬼サン、コチラってネ――っとと、仕返しだよ?」
その声に向かって投げつけられた石が腕を掠めていく。
腕の痛みを堪えながら、投げつけたカードに、更に1匹が狙いをツァックに向けた。
石を構えるゴブリンへ馬を奔らせて距離を詰め、茂みから集まってきた数匹を巻き込むように薙ぎ払う。
「何匹来ようと……」
一撃で斃れたものと茂みへ逃げ帰ろうとするもの、惑うように他のゴブリンへ追従するものがいる。
投げつけられる石を鎧で弾きながら、メリエは大振りの太刀をすらりと伸べる。
「並ぶのか、バカめと言ってやる!」
貫く軌道からその先まで放たれた炎は並んだ2匹のゴブリンを纏めて貫いた。
一川の周りで緑の光りが瞬く。光りの粒が彼女の動きに沿って揺れ、一振りの得物を手にマテリアルを巡らせる身体で敵陣へ飛び込めば、残像のようにその軌跡を描いた。
逆手に構えるナイフで一撃、鎧が避けて返り血が散る。反撃に転じた石が迫る前に後退し狙いを定めてそのナイフを投げる。
腑に刺さったそれを引き抜いて、ゴブリンが濁った声で呻く。
その方向が這うように響いて、茂みを騒がせた。
「こっち、こっち、あはは、当たらないヨ」
「……落ち付いて1匹ずつ、うん」
ツァックが大袈裟な身振りで馬車へ迫りそうなゴブリンを惹き付け、それを狙って白水が水の鳥を放った。
研いだカードを扇に広げて投げひらりと投げる。それはゴブリンの頬を裂いて枝を張り出す木に刺さった。
ツァックへ石が投じられる直前に、水の鳥は虎の様な大きく鋭い爪でその身体を引き裂いた。水塊に戻った鳥が霧散すると、2人に狙われた1匹のゴブリンとその膝下に斃れた骸が残った。
「ここは私に任せていい。前を」
「は、はい……っ、これなら、届くはずよ!」
茂みから迂回したのだろう1匹が馬車に近付いた。杖を握って身構えたカリアナを背後に、ゲルトが盾を構えて投げつけられる石を弾く。
一瞬竦んだカリアナだが杖を構え直すとその切っ先から風の刃を放って矢番え、弦を引き絞るゴブリンを狙う。
「その弦、切ってやるわ」
風に揺らされた弓は狙いを空へ、どこへともなく放たれた矢が緩やかな弧を描いて茂みの向こうへ落ちていった。弦を外れた風の刃に腕を掠められたゴブリンが喚き、その声に呼応するように残っていたゴブリン達が石を構えた。
飛んでくる石を構わずメリエは馬を奔らせる。
腕に傷を負い、次の攻撃への間隔が出来た隙にそのゴブリンを従える2匹ごと炎の刃で貫いた。
「並ぶのはバカだと言っただろう――猛火ァ!」
ツァックはカードを投げ尽くした手を銃に添え、両手で支えて狙いを定める。エネルギーに変えたマテリアルを武器に込めて、向かってくる石に脇腹を掠らせながら鉛玉を放つ。
合わせるように白水が放ち羽ばたいた水の鳥は、捕らえた獲物をその爪に握りつぶした。
「護りに徹するつもりだったが……退かないのだな」
ゲルトに正対するゴブリンが石を構えると、その石を軽く盾に弾いて剣を伸べ、数撃の後に胸を貫いた。
周囲に敵がいないことを確かめて、一川がナイフを、ツァックがカードを回収し、それぞれに一息吐いて、負った傷や疲れを癒やす。
「ジール」
メリエが馬の首を撫でてハンター達と依頼人を振り返る。先行に戻ると先を指して示す。
「……うん」
白水がトランシーバーを掲げて頷いた。
圧倒されていたらしい依頼人も、移動を再開すれば幾らかの落ち着きを戻し、カリアナやツァックとの会話にも笑い声が混ざり始めた。
●
ヴァリオスにいたる頃には日は落ちていたが、依頼人を迎えに来たらしい老いた女性、恋人の母親らしい彼女が容態を伝えた。
その言葉に依頼人は安堵しながらも肩を落とした。今のところ恋人の病状に変化は無いようだ。
「今日は有り難う、助かった」
深々と頭を下げて依頼人が告げ、老女に護衛のハンター達だと紹介した。
「いいのよ、だって、恋人さん、おにーさんに会いたいはずよ!」
手を握ってカリアナが明るい声で励ます。
「んー、山盛りクッキーの為だしネ」
ツァックもにいと笑って肩を叩き、邪魔して馬に蹴られる前に帰ろうかと来たばかりの道を振り返った。
下りた馬の手綱を握り、メリエがその道を眺めてから依頼人へ視線を戻した。
「帰りも護衛しますか?」
依頼人は、快くなるまではいるつもりだから、また改めてと首を横に振った。
「はい。恋人さんと、しっかり話してくださいね」
「そう言えば名前を聞いていなかったね。私は一川海子」
帰りもよろしくと依頼人が一川の手を取って確りと握った。手を解くと、引き留めてしまったなと肩を竦め、またいつでもハンターを頼ってくれと喉で笑いながら背を向けた。
「帰りの護衛も必要なら、何時でも呼んでもらえると」
白水もそう言って歩き出す。
極彩色の街ヴァリオス、エーレンフリートに保護されたモニカと出会ったのもこの街だ。彼はまだ街にいるだろうか。
フマーレに帰ったらモニカのカフェオレも飲んでみたい。
疲れた身体をぐっと伸ばして空を仰ぐ。
秋の星座を浮かべた夜空は澄んで…………
後日、珈琲サロンとぱぁずに一通の手紙が届いた。
依頼人の青年の手による物で、ハンター達への礼と恋人が快方に向かっていることが認められ、近い内に2人で店に行きたいとも書かれていた。
モニカはその手紙を奥の広いテーブル席の近くの壁に貼り付けた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/20 16:58:09 |
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【相談】護衛任務 一川 海子(ka2129) 人間(リアルブルー)|23才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/09/21 23:34:48 |