• 東征

【東征】ひよことたまごと時々スメラギ

マスター:鳥間あかよし

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/15 22:00
完成日
2015/09/23 23:45

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「宴が整いました、スメラギ様」
「席は用意してあるんだろうな紫草」
「もちろんです。ごゆるりと」

***

●泉玄舎

 戦が終わったのに、先生から音沙汰がない。

 その意味するところは、日増しに子どもたちの胸へ迫っていった。
 先生というのは泉玄舎の四代目だった人だ。下町にある符術師を育成する小さな学び舎の看板を背負い、六人もの子どもを弟子の名目で養い育てていた。その先生は南の戦へ出たきりだ。
 末の妹弟子シロミツとクロミツは「先生は?」と聞いてくる。そのたびに兄貴風を吹かせている尼崎チアキ(あまがさき・ちあき)がどなりつけるものだから、年長の鴻池ユズル(こうのいけ・ゆずる)はずいぶん手を焼いている。
 アケミは以前より人の後へついて歩くことが多くなった。
 心が磨り減るような思いをしているのは、まじめ一辺倒のアオナだろう。喉がつかえたようになり、何も話せなくなっている。医師の心得のあるハンターの見立てによると、前向きになるのを待つしかないとのことだった。

 先生が大事にしていた泉玄舎も、もうない。

 避難所から天ノ都へ戻った鴻池たちを出迎えたのは、空と大地と龍尾城だった。あのふしぎな屋敷は消え去り、泉は瓦礫に埋もれていた。都には何もなく、何もないがあった。絶海の孤独と未来への可能性が、ないまぜになってはちきれそうだ。

「これから僕たちはどうしたらいいんだろう」

 子どもたちは寄り添いあい、先生を偲んで泣いた。 

●いととうとき
 祭りのお触れが出たのは、それから間もなく。
 その日、天ノ都の住人たちは龍尾城の庭園へ集まっていた。
 牛鬼に攻め入られた痕が生々しく残るそこへ、にわか作りのひのき舞台がしつらえてあり、かがり火がたかれている。その周りへは人々が、民草の名そのまま に押し寄せていた。人ごみの後ろで、男の子がふたり、示し合わせて松の木へ昇った。太い枝へ陣取り、鴻池は尼崎へ声をかける。

「どんな御方なんだろうね、スメラギ様は」
「さあな。どうであってもお使えするのみだ」

 どちらの声にも緊張が混じっていた。一度も城から出たことのない帝が、民の前へ姿を現す。エトファリカで生まれ育った者なら説明されずともその重みがわかった。
 どん、と陣太鼓が鳴った。
 三度続けて鳴らされたそれは、絶対者の到来を告げる調べであった。余韻が消え去る頃、二人はあっけにとられた。舞台に立っていたのは、緋の羽織を着た、彼らとそう変わらない年頃の少年だった。あくまで晴れやかな顔立ちは、頑なな心もとかすだろう。
「あー、なんだ」
 彼は頭をかくと、静かな調子で話し始めた。
「ひとつの危機が去った。獄炎、あのクソ狐のことだ。奴の討伐はエトファリカ連邦国の、いやクリムゾンウェスト人類史の分水嶺と称してもいい。始祖の七だの、歪虚王だの、偉そうにしてたわりにゃ、俺様たち人類の力で倒せる相手だってことが証明できたんだ」
 まあ少しばかし、でかすぎたけどよ。と、彼は声を低くした。鴻池と尼崎は息を潜めて耳を傾けた。その少年は大観衆を前に、たった一人で言葉をつむいでいたから。
「大勢の人が死んだ。それこそ数えきれないくらいにな。けどよ、それを悲しむのは少し違うんじゃねぇかって思うんだ。彼らは死んだ。誰のために? 俺たちのためにだ。悲願は成就し、歪虚王は倒れた。誰のおかげだ? 西の友と、そして我らが戦士のおかげだ。だからこそ……」
 スメラギの瞳へ強い光が宿った。

「今宵は祭りだ。戦勝を心へ刻め」

「亡き人の志を継ぎ、生きていくために今を祝おう。俺様はきっとこの国を建て直してみせる。次の世代に、俺様達の子供やその子供にまで、美しい国を残してみせる。そして語り継ぐんだ。国を守る為に散っていった、大勢の英雄の武勇を!」
 しばしの静寂の後、民の間から波のように拍手が広がり、万雷となってスメラギを包みこむ。年相応の表情に戻り、彼は拳を突き上げた。

「戦勝記念祭だ! 狐討伐、よくやったぜ皆の衆! 城から酒を振舞う、じゃんじゃんやってくれ! この国はまだ死んでねぇ、飲んで騒いで楽しんで、世界の度肝を抜いてやろうぜ!」

 喝采が天へとどろいた。それは御柱様と呼ばれた少年が、本島大結界の任を終えてなお、東方の柱であると示すものだった。

●戦勝記念祭
 松の枝で、鴻池はうるんだ瞳を袖でぬぐった。
「なあ尼崎」
「なんだ」
「先生はきっと帰ってくるよ……そうだよね」
 尼崎の右ストレートが鴻池へ決まった。
「殴ることないじゃないか!」
「先生は帰ってくる。何か事情があって帰ってこれないんだ」
 自分へ言い聞かせるように尼崎はそうくりかえした。
 彼らの足元を人波がさらっていく。

 城の中庭が開放され、青空広場になっていた。普段は立ち入り禁止の龍尾城、もの珍しさも加わって人々はぞくぞくと集まってくる。屋台が集まり市も立つ。 人気なのは植木売りだ。復興の象徴に、あるいはこの日の記念としてか、鉢植えや、盆栽はもちろん、立派な立ち木まで見物客がたかっている。

 尼崎はふんと鼻を鳴らした。
「人が集まっているな」
「うん、戦地から帰ってきた人もたくさんいるようだよ。みんなお祭りを楽しんで元気になれるといいね」
「財布に余裕がある人間も集まるな」
「なんの話だい尼崎?」
「箱を用意しろ鴻池。募金を集めるぞ」
「なんの?」
「戦災孤児」
「だれのこと?」

「俺たちだ!」

 妙に堂々と尼崎は胸をたたいた。鴻池が目をぱちくりさせる。
「つまり僕たちが僕たちのためにお金を恵んでくださいってお願いしてまわるの?」
「そうだ」
「さっき先生は帰ってくるって言ったばかりじゃないか!」
「先生が帰ってくるまではそうだ!」
「いやでもさ、符術師としてなんとか、ならないけど……」
 語尾が濁った。二人とも符術師としては駆け出しのひよっこ、見世物にもなりはしない。鴻池は頭痛を感じつつ話題を変えた。
「ハンターさんのおかげで避難所の生活が快適だったから、財布の中身は減ってないよ。先生を待つだけなら十分だよちーちゃん」
「いいや足りない。俺は泉玄舎を再建したい。この国は死んでいないとスメラギ様もおっしゃったじゃないか。それに泉玄舎がないと……」
 先生が悲しまれるだろう? 押し殺した声が漏れる。そうだねと鴻池も答えた。

「僕はアオナが心配だからいっしょに出店を見て回るよ」
「ならアケミとシロクロは俺と募金活動だな」

 などと段取りを話し合っていると。
「募金お願いしゃーす」
 信じられないものを目撃し、二人は固まった。緋の羽織を着た少年が、箱を小脇にぶらついている。おそるおそる挨拶に行ってみると。

「よお、これも何かの縁だ。慰霊碑建立に一口のっかってけよ。

 紫草に言ったら復興で財源カツカツだっつーて袖にされちまった。祭りと弔いは同じ符の表裏だってのに、あいつわかってねェー」
 などと時の帝は、たこ焼きをほおばりながらのたもうた。

リプレイ本文

●祭りの道
 戦勝記念祭の賑わいは芽吹きを待つ大地のように力強い。そんな中、肩を落として歩く乙女がいる。
 紅薔薇(ka4766)は何度目かわからないため息をこぼした。
「スメラギ様も無事で平和になったのは良いが……暇だのう。ふむん……何というか心が空っぽな気分なのじゃ」
 東方の守り手を自任し、産まれた時から鉄火場にいた。記憶を探るほどに、沸き起こるのは絶望的で壮絶な戦、戦、戦。気がつけば利き手は愛刀を撫でていた。世界から悲しみを祓い魔を断つ願いより産まれた護国の剣は、ついに生きる目的ですらあった憤怒の王の首級をあげ、『九尾切』と讃えられるまでになった。そう、倒してしまったのだ……。
 寂寥が彼女を支配していた。
(東方も完全に平和になったわけでもなく、西にもまだいくらでも戦いは転がっている)
 そう考えたところで慰めが得られるはずもなく。
「ッ!」
 団子の串が頬に刺さり、紅薔薇は立ち止まった。痛みはすぐに引いたが、乙女は歩き出せないでいる。そのとき。
 ぢりんぢりんぢりーん!
「そこのお嬢さーん!」
 人波を器用にすりぬけてやってくる銀色のママチャリ。豪奢なマントをなびかせながらクローディオ・シャール(ka0030)は紅薔薇の前で止まると、手を差し出した。
「スメラギという人を探している。ご協力願えるだろうか?」
「存じておるが、どちらへおいでかまでは知らぬぞ」
「では私の相棒、ヴィクトリアの背にどうぞ。さあ、遠慮なさらず!」
 ぢりーん。クローディオの白い歯がキラリと光る。紅薔薇はのそのそとヴィクトリアの後部へ座った。

 屋台の並ぶ一角へ腰をすえ、キヅカ・リク(ka0038)はスメラギと焼きそばを食べていた。机に置かれた募金箱は、まだまだ空きがある。これもどうぞと彼へ飲み物を渡し、リクは皮肉っぽい微笑を浮かべた。
「結界で死にかけたり、九尾の正面で死にかけたり、この世界は本当に子どもに優しくないね」
 スメラギはのどを鳴らすと、たこ焼きへ爪楊枝を刺した。木皿に乗ったものが減っていく様を眺めながら、リクはぽつりとこぼす。
「ヨモツで託された兵士の約束は果たしたつもりだよ。……がんばったんだから、褒美があってもいいんじゃないの?」
「もっともだな」
「君の名前は?」
 爪楊枝の先が皿へたまったソースをひっかき、すぐに斜線が上書きした。リクが眉を寄せる。
「……漢字がややこしくて読めなかったのだけれど」
「そりゃ残念。俺様はスメラギだぜ。それ以上にはなるがそれ以下になるつもりはない」
「ずるいなあ、もう」
 決意を悟り、リクは自分も炭酸へ口をつけた。
「また何かあったらすぐ来るよ。友達が困ってたら助けるのは当然だしね」
「あてにしてるぜ?」
 募金箱を指差され、リクは苦笑しながら寄付をした。
 ぢりんぢりん。
 乙女が自転車に揺られてやってくる。リクは彼らを呼び止めた。ヴィクトリアから降りた紅薔薇がスメラギと入れ代わりに席へ座る。
「妾が東方の民から元気をもらう側になろうとはのう」
「お互い九尾相手に無理をしたよね」
「……」
「一緒に回ろうか」
「そうじゃな」

「生憎と今は手持ちが少なくてな。あまり協力できず申し訳ない」
 颯爽と募金箱へ金貨をトスし、クローディオはスメラギをじっくり観察した。
「思っていたより小さい……」
「正直だな、おまえ!」
「かのエトファリカ連邦国の帝がお子様とは少々意外でね」
「天ノ御柱になれる奴なら、老いぼれだろうと赤ん坊だろうと帝なんだぜ?」
「だが今は形だけではないようだ」
 クローディオは少年と募金箱を見比べた。
「私でよければ協力しよう。さあ、ヴィクトリアへ乗りたまえ! 共に会場を回ろうじゃないか!」

●祭りの市
 植木市の流れを二人連れが歩いている。エルフの娘は興味津々だが、隣の青年は渋い顔だ。
(屋台でさんざん奢らされたうえに植木めぐりか。まさか盆栽がほしいと言い出したりは……)
 わからないぞ、エルフだからな。青年こと柊 真司(ka0705)は眉間のしわをさらに深くした。
「あ、見て見て真司。これよく化かしてるわ~、鉢が立派なだけで中身は三年物かな~」
 ほろ酔い加減のリーラ・ウルズアイ(ka4343)は容赦なく化けの皮をはがしていく。狭い鉢で締め上げられた木々が、リーラには、籠でひしめくカラーひよこか何かに見えているのかもしれない。
「お酒切れちゃったわ~。ねえ真司~もう一杯だけ。やっぱお祭りと言ったら食べ歩きよね~」
「まったく何で毎度毎度、俺がおごらなきゃいけないんだよ。時には自分で払えよ」
 やりあっているうちに市の終点へついた。目の前を戦馬に引かせた馬車が通り過ぎていく。モミの木の苗を積みあげた荷車から漂うのは、食欲中枢一点狙いの芳香。
「肉……!」
 はからずも真司の腹の虫が騒いだ。
 御者のハッド(ka5000)が馬車を止め、にんまりと笑う。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ三世。王である! はらへりどもよ、たんと食べるがよかろ~ぞ」
「いや減っているわけではなくて、女子が甘いものなら男子は肉とカレーが別腹というか」
「あ、王様だ。王様こんにちは!」
「おお、ユズルんとアオナんではないか。元気にしておったか? ……そうか、我輩の護符は燃えてしまったか。そう謝らんでよい、肉食え肉!」
 山盛りケバブをふるまうハッドの隣で、リーラたちは鴻池から彼らの現状を聞き取っていた。
「ふ~ん自分たちの学び舎を建て直したいっと。良い心がけね~、気に入ったから大盤振る舞いよ。がんばってね♪ もちろんこっちのお兄さんからもあるわ」
「げっ! マジかよ……」
「え~ださないの~?」
「ただでさえお前に奢った後で辛いのにこの出費……まあいいか、それより泉玄舎の再建だっけか? がんばれよ」
「ありがとうございます、リーラさん真司さん!」
 鴻池とアオナは深く礼をして謝意を示すと、預かったお金を懐へしまった。馬車はまたごとごと動き出す。モミの木の苗を、願いの叶う聖夜の伝承と共に配りながら。
 リーラが後をついて歩き出した。
「せっかくの機会だからいっぱい食べて飲んでいきましょ♪」
「そうだな」
 真司もケバブサンドをほおばりながら首肯した。

「お、中華まんだ。俺の故郷もそんな季節だなあ」
 祭りの盛況を味わい尽くしているのは榊 兵庫(ka0010)だ。荒磯を着流し飄々と進む姿は、遠き青の世界からやってきた軍人とは思えないほどなじんでいる。
「祭りを開くほど前向きになって結構なことだ。ここで落とした金が回り回って東方の復興にも繋がるんだろうし、俺も協力させて貰おう。……こうゆう庶民の味というのはなかなか食べる機会も少ないから、な」
 せいぜい堪能させてもらう事にしようと、兵庫は通りを練り歩く。屋台と言っても目玉は料理だけではない。雑貨や縁起物だって立派な商いもの。だとしてもあの男はいったい何を売ろうとしているのか。兵庫はまず、キンキラキンなその風体に面食らった。
 集まった女性客相手に、空き箱へ片足乗せて熱弁をふるっているのは、どこか金庫を思わせるプレートメイルの青年だ。
「右の奥さん、左のお姉さん、さあお立会いお立会い! これなるは西方から取り寄せた由緒正しい不思議の品、王女様も使ってるってえ噂の逸品だ! 歪虚の祟りで破れ傘みたいなかさかさの肌だって、産湯を使った赤ん坊みてぇなすっぴん美人になることうけあいだぜ!」
 声は清々朗々と明るく耳に心地よく、立て板に水のごとき語りも堂に入っているのだけれど、どうにも目が泳いでいる。
(……視線を合わせないようにしているのか)
 観察して納得した兵庫は、さては女が苦手かとうそぶいた。それでも口上だけはしっかり述べるのだからたいしたものだ。殺気立った女衆から、ひとつちょうだい、あたしはふたつと、次々に声が上がる。
「ひとり三本、ひとり三本までだぜ!」
 観客からわっと手が伸び、青年の用意していた小瓶はあっというまに売り切れた。精根尽き果てた様子の彼の隣へ、兵庫は冷えた番茶をおいてやる。
「お疲れさん。で、何を売っていたんだ?」
「シエラリオ天然化粧水、の、試用品」
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は番茶を一気に飲み干すと、にやりと笑った。
「戦場で男は結構な数亡くなっちまった。てなると残るは女。んで女がいつの世も願うは美貌だろ? 種蒔き程度と軽く考えていたら、予想を上回る客が集まっちまったぜ。女ってやっぱ怖いわ……」
 どんよりつぶやいたジャックは、頬をぱしんと叩いて立ち上がった。
「さてもう一仕事。鉄は熱いうちに、恩は高いうちに売れ!」
 首をかしげる兵庫を、ジャックはさも得意げに見下ろした。
「家を焼かれたガキ共が、貧相な募金箱を抱えて立ってたんでな、取引したんだ。アガリはくれてやる……未来への投資だ、ありがたく頂戴しとけ、そんでいつか俺様を助けやがれよってな」

●祭りの花
「カードは使い捨てなのですか?」
「札は器だ。見た目は同じでも、マテリアルが消費されていれば使い物にならない」
「なるほど……。ひよこさんもそこそこ勉強しているのですね」
「理屈と実践は違う領域だからな」
 ばつが悪そうな尼崎に、天央 観智(ka0896)は優しく笑んで見せた。世の理を知るのは楽しい。それが見知らぬ技術ならなおさらだ。
「もう少し質問を続けてもよろしいですか? 中々、そういう話を聴く……どころでは、なかったですしね」
 楽しい時間をすごした観智は、手書きの募金箱へお礼を入れた。
「これからが大変……でしょうけれど、東方は暫く……平穏に成るでしょうか」
 頭痛の種は尽きず、観智はまぶたを伏せた。
(延命しただけかもしれませんね。……歪虚のすべてが撤退したわけでもなく、汚染された土壌はいまわのきわの黒龍が振りまいたマテリアルにより命脈を保っている……)
 御柱の結界に守られた天ノ都は絶対安全圏と呼ばれていたという。だがその神話も崩れた。安全な場所など、どこにもないということなのか。それは何も、東方に限った話ではなく……。
 からんからん。
 沈みそうな思考を引き止めたのは、ミオレスカ(ka3496)のベルの音だった。
「……焼き立てパンはいります。えと、あんぱん、おいしいですよー」
 懸命に呼び込みをしているが、細い声と体躯があいまって人ごみへ埋もれがちだ。
「はいはーい注目ー! 甘くてやさしいじんわりしみる、おいしいおいしい焼き立てパンだよ! クレールのお祭り細工も見ていってねー!」
 小鳥遊 時雨(ka4921)が両手にあんぱんをもって飛び跳ねた。急に話を振られたクレール(ka0586)が、目を白黒させながら立ち上がる。
「ご、ご注文承りますっ! お祭りの明るさ、生きる喜び、大切な思い出……全力で、形に残します! 何なりとご依頼ください! 想いを継ぎ繋ぐ鍛冶師として……現在に、未来に、想いを残させていただきます!」
 ジュード・エアハート(ka0410)も声をあげる。今日は釣鐘状のスカートが目を引くドレス姿、黒髪へすっきりと挿した乱れ椿のかんざしが妖しいほどの艶やかさを醸し出していた。
「売上が寄付になります。泉玄舎再建へご協力お願いしまーす!」
「ごきょうりょくおねがいしまーす!」
 ジュードの掛け声にあわせて頭を下げる妹弟子たち。集まった人の列を強引に抜け、くすんだ金髪の男が近づいてきた。
「探したぞジュード、いったい何をやって……!」
「エアさん! もー、どこ行ってたのー? 俺? 俺は募金のお手伝いしてたんだよー」
「は、募金?」
 言われて彼、エアルドフリス(ka1856)は事の次第を飲み込んだ。微苦笑を浮かべたのは、いつか置いて往く筈なのに慌ててしまった自分を取り繕ってか。彼は上着をジュードへひっかぶらせた。
「その格好は……好かないな、売り物は別だろう」
 一行は、しばらくの間、列を捌くのに終始した。

「募金は君の案かね? 大した行動力だ。……よく、頑張ったな」
 一息ついたエアルドフリスは尼崎へそう声をかけた。会釈だけして去っていく、そっけない態度が往時の自分を思い起こさせる。
(チアキの頑なさは心配だ。一度閉ざした心は容易に開かん。ジュードと出会うまでの俺のように)
 傍らに立つジュードへ顔を向けると、素直な言葉がするりと口をついて出た。
「心配、したんだ。手を離して……すまん」
「俺のほうこそ探したんだよ。気がついたらいないんだから。もー、あれだけはぐれるなよって注意してた本人がこれだもんなー」
「それってジュードさんがはぐれたのでは……」
 ミオレスカの小声はジュードへは届かなかったようだ。ウサギの浴衣の襟を直し、クレールも腰を下ろしてあんぱんにありつく。
「あの、ありがとうございました。クレールさんが立派な石焼かまどを作ってくれたから、おかげさまで反応も上々です。蓋で密閉する鍋でまかなおうと考えていたのですけれど、量を作るには心もとなかったので、助かりました」
「えっ、いえっ、私のほうこそ、パン屋さん相手にあんなかまどで申し訳ないです……っ!」
「そんなことありません、とても丈夫なつくりで安心して使えました」
「そんなことないですよ、いえっ、もっとこだわりたかったんですけど、ほんとはっ」
「てか、なんであんぱんにしたの?」
 横からくちばしを突っ込んだギルド員へ、ギルド長は答えた。
「材料の入手を考えると自然に……。それから東西文化の融合……。栄養補給の面でも優れていますし、甘さからくる安心感もあります。究極の携帯食になる可能性もあります」
 声音こそ淡々としているが、ミオレスカの瞳には熱意がみなぎっていた。募金箱をのぞいた時雨が言う。
「にしても、本命の募金が集まり悪いなー。よーし、祝勝祭りだ大盤振る舞い無礼講ー!」
 募金箱をひょいと抱えあげると尼崎たちへウインク。
「代わりにやっとくからちょこっと皆で出店見てきなよ。スメラギも言ってたっしょ? 志も継ぎつつ今を祝おうって、とゆーわけで楽しんで祝ってこーいっ!」
「だが……」
「募金集める側も一度やってみたかったしねー。ほらいったいったー行かないと返さないぞーふしゃー!」

 そこへ、ルナ・レンフィールド(ka1565)とネムリア・ガウラ(ka4615)が訪ねてきた。クレールは彼女たちのために机を拭き席を勧めると、気になっていたことを聞いた。
「……アオナちゃんの具合はどうだった?」
「しばらく今の状態が続くと思う」
 ネムリアの言葉に、クレールの眉尻が垂れる。
「私の折鶴の細工物、受け取ってもらえたかな」
「喜んでたよ」
「本当!?」
「目元を緩めて何度もうなずいていたよ。大きな悲しみが蓋をしてアオナの心は閉じ込められている。だけど潰れたわけじゃない」
 ネムリアは募金箱を手に騒いでいる時雨と妹弟子たちをまぶしげに眺めた。
(つらいことがあったのに、もう笑ってる。偉いね、凄いね……)
 あのね、とクレールが言葉を搾り出す。
「……アオナちゃん、苦しそうだった。ユズルさんは大丈夫って言ってたけれど、しゃべろうとするたびにのどを押さえて……」
「また会おうねって、約束したよ。あなたのことも気にかけてた」
 ネムリアの一言に、クレールはぱっと顔を輝かせた。

「もー、強情なんだから。この子達、募金は自分でやるっていって聞かないの!」
 さじを投げた時雨がどっかり座る。妙に得意そうなアケミが箱を片手に胸を張っていた。シロミツとクロミツまで勝利ポーズをとっている。
 ルナがアケミへおいでおいでをした。
「舞台で即興演奏会はいかがでしょう? 募金活動を皆さんへ宣伝するんです。一生懸命演奏しているところを見てもらって、募金お願いしますってすると効果的かも」
 ネムリアが驚きと期待をにじませた。
「奇遇だね。人を呼べるか分からないけど、わたしも楽器を持って来てるの」
「まあうれしい偶然ね。アンサンブルしませんか?」
「わたしの故郷の曲を奏でても良いけど、こちらの曲を教えて貰えたら、嬉しいな。東の曲、西の音色。一緒に頑張った記念に」
「ならアケミちゃんのオカリナにあわせて、私のリュートで三重奏しましょう! シロクロちゃんもタンバリンやってみる?」
 自分の思い付きに手を叩くと、ルナはさっそくおもちゃのタンバリンを渡して使い方を教えた。アケミのオカリナが響き、タンバリンが打ち鳴らされる。

 ぱ~ぺ~ぽひゅ~バンバン! じゃかじゃかじゃか! ぽぴふ~ぷ~ぽ~。

「うん、上手! 自信を持ってね! リズムなんて適当でいいの、楽しむことが大切です!」
(……言い切った)
 ネムリアは口元を押さえて笑い、涙をハンカチで拭くと心づけを箱へ入れた。
(これもすてきな出来事に変わるよね。皆で、思い出を共有してほしいな)
 尼崎が荷物を背負ったのを皮切りに、泉玄舎の子どもたちは舞台の近くへ河岸を変えることになった。ネムリアもタンバリンに夢中なシロミツとクロミツの手を引いて歩く。見送ったクレールは決意を新たにした。
(お祭り……本当に、戦いは終わったんだ。……東方の傷は深い、けど…今は生を喜ぶ時間、だよね! 明るい元気は空気から! 陽気な出店で盛り上げる!)
「簡易竈の火、良しっ! 針金、金属粉末、型、板金……細工の素材……全部よーし! クレールお祭り細工屋台、午後の部開店っ!」

●祭りの火
 ――勇敢なる戦いの中で倒れた御霊よ、安寧の地にて今しばらくの休息を。そして、願わくば新たに生まれ来る生命の為に、ささやかな加護を与え給え――

 戦神のレクイエムを歌い終えたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が、舞台から一礼した。割れんばかりの拍手へ応え袖へ下がる。観客席から時音 ざくろ(ka1250)が飛んでいき、興奮のあまり抱きついた。改造神官服からさらけだされた、むっちりたゆんな谷間へぐりぐり頭を擦り付けた。
「すてきだったよアデリシア! 聞いてるうちに涙が出ちゃって、あ……」
 我に返ったざくろがあわてて体を離した。アデリシアが艶然と微笑を浮かべ、真っ赤になったざくろはお財布を取り出した。
「ぼ、募金してくるよ。聞きほれちゃって、すっかり忘れてたから」
 お財布をしまいながらざくろは照れくさそうに漏らす。
「募金する時って、なんだかどきどきするよね。周りからの目も気になるし」
「喜捨は額の多寡ではありません。好意なのです。誰かのために行動できる人はそれだけでヒーローです」
 彼女はざくろと腕を組み、耳へささやきかけた。
「だけど今日は私だけの、ざ・く・ろ・さ・ん」
「はうっ!」
 ざくろの頬がりんごのように染まった。舞台では次の演奏が始まっている。二人は屋台通りへ足を伸ばした。
「わぁ、やっぱりいろんなお店が出てる! ……あんず飴だ、焼きもろこしもあるよ!」
「見たことないものばかり、どれが美味しいのかしら」
「ざくろが選んであげるね」
 それとね、と彼は微笑んだ。
「ざくろの故郷のお祭りにも似た光景……アデリシアにも味わってほしいなって」
 アデリシアがうなずく。端まで歩いた二人は、戦利品を手に長椅子へ腰掛けた。
「これがたこ焼きだよ。熱いから気をつけてね。はい、あーん」
「あつっ、あっつ!」
 予想以上だったらしい。ろくに噛まずに飲み込んだアデリシアは涙目で訴えた。
「火傷してしまいました……」
「ごめんよ! ヒール、は、自分でできるっけ、でも冷たいものもいるよね。お水とってくる!」
 腰を上げたざくろは彼女に裾をつかまれ、つんのめった。
「軽いやけどですから唾でもつけておけば治ります」
 アデリシアが自分の唇を指差す。ざくろは面映そうに鼻をかいた。
「うん、わかった。でも恥ずかしいから人気のないところに行こうね」

 歌声は屋台通りからも流れていた。
「ド・ド・ドーナツ揚げたてドーナツ、さっくりプレーン、しっとりこし餡♪ ふんわり甘くて美味しいよ~♪」
 天竜寺 詩(ka0396)だ。手提げ籠には山盛りのドーナツ、愛くるしい歌声で道行く人を魅了している。
「こんにちは天竜寺さん。先日はありがとうございました」
 顔を輝かせてユズルが近づいてきた。詩は黙ったままのアオナへドーナツを差し出す。
「これ、西方のお菓子なんだけど良かったら食べてみて、奢るから」
 遠慮がちに伸ばされた手へ詩はドーナツを渡した。とたんに、横合いから声があがる。
「スメラギ様!」
 餡ドーナツを食べていた雪加(ka4924)だった。彼女の視線をたどると、そこには銀色のママチャリ。
「本当だ、スメラギ君だ。スメラギくーん!」
 雪加と詩が手を振るとママチャリの主はスメラギをおろし、アデューと挨拶して去っていった。雪加が胸の奥から安堵の息を吐く。
「スメラギ様、元気だぁ。会えてよかったぁ……いなくなっちゃうかと」
 瑠璃紺の瞳が潤んでいる。スメラギを前にした雪加は、祭りを楽しむ人々をぐるりと指差すと、精一杯胸を張って腰に手を当てた。
「いっぱい食べて、いっぱい寝て……そして、立ってくださいね。この国は死んでないんでしょ? 当たり前ですよ、こんなにい~っぱい柱がいるんですもん! 国の柱は皆、です。スメラギ様は一人じゃないんですよっ。心配させないでくださいね!」
 年上ぶって説教するその語尾がくしゃくしゃとつぶれ、雪加はくすんと鼻をすすった。
「……でも、お疲れさまでした。がんばりました。よく、できました」
 しずくがこぼれそうな目元をぬぐい、雪加は精一杯背伸びをしてスメラギの頭を撫でた。
「おまえらこそおつかれさん。結界発動も九尾の決戦もがんばってただろ?」
「どうしてそれを?」
「黒龍の目を借りたんだよ」
 スメラギも雪加の頭を撫で返す。
 なでなでなで。
 なでなでなで。
「なんだこれ」
「さあ……なんでしょう」
 雪加と笑いあうと、スメラギは詩へ顔を向け、品揃えに目をぱちくりさせた。
「今日はじゃがいものスープはやってねェの?」
「あれ、ご不満? 代わりにドーナツを食べていってよ、きっと気に入るよ」
 渡した菓子をもりもり食べる姿に、詩の胸へも喜びがあふれる。
(スメラギ君が死ななくて良かったな……)
 顔を上げた彼と目があった。真剣なまなざしと共に、詩へ手が差し出される。
「おかわり」
「……スメラギ君をドーナツ三つで宣伝部長へ任命するね」
「安っ!」
「いいの、売上はその募金箱行きになるんだから。雪加さんも手伝って!」
「わたしに出来ることなら、喜んで、です」
「さぁ、どんどん売るよ!」
 言いながら手付けの寄付をし、詩はユズルたちを振り返った。
「そうだ、泉玄舎再建にも」
 詩はまばたきをした。ユズルとアオナは三歩下がってかしこまっている。どうやらこの二人はスメラギを前にするとくつろげないようだった。

●祭りの宵
「うわー、盛り上がってるなぁ! これは隅々までのぞかないと!」
 会場を一望したシアーシャ(ka2507)。想像以上の盛況に、夢は広がる、心が浮き立つ。彼女はとろんとした瞳でよだれを拭いた。
「素敵な出会いがあるかも……人混みに押されて転んだところを助け起こされて、そのまま恋に落ちて……やだーっ、あたしったら!」
 勢いよく頭を振るシアーシャ。ギターソロまでバックについて、乙女心は天井知らず。周りからは「ママ……あの人」「しっ、見ちゃいけません」などと指差されているとは露知らず。
(ん、ギター?)
 シアーシャは我に返って辺りを見渡した。脳内BGMかと思いきや、音楽はまだ続いている。張りのある青年の声が響いた。
「チャリティコンサートへようこそ! 東も西も関係なく楽しんでいってくれ!」
 ザレム・アズール(ka0878)が舞台へ躍り出ていた。ギターをかき鳴らし、異国の音楽で人々を魅了している。シアーシャは心をわしづかみにされた。
「……イケメン!」
 当初の計画はうっちゃって、舞台へ突撃した彼女だった。

「へえー、おうちを自分たちで再建しようって? あたしも手伝うよっ! ううん、ぜひ手伝わせて、チアキくん!」
 舞台袖で募金箱を持って並んでいる子どもたちから話しを聞き、シアーシャは涙を禁じえなかった。
「ほんとはね、一人でお祭りも寂しいし……ここの人とお友達になりたいって思ってたんだ」
「そうか。では、よろしく頼む」
「うん、任せて。国は人なり、教育は人なり、えびばでぃごーくれいじー! 募金お願いしますっ!」
 うたい文句を口ずさみ、シアーシャはシロクロを引きつれて通りへ飛び込む。人の流れが切れ、向かいの休憩所が見えた。大柄な黒肌のエルフが長椅子へ少年を押し倒している。スーちゃぁん、無事でよかったのであるー! 離れろ! うもれるだろ、息できねェだろ!
 ザレムも尼崎の箱へ気持ちを寄せると、タオルで汗を拭いた。
「いやいや、サインを求められるとは思わなかった」
「いい値段で売れた」
「うん。箱が重くなってきた」
 尼崎に続けて、こっくりうなづくアケミ。
「二人とも商魂たくましいな。ただの募金ではなく『元手』にしてみないか?」
「元手?」
「色々な軽作業の請負だよ。戦後のゴタゴタで労働の需要は高いぞ。その年頃ならもう大人と同じだ。符術師として以外にもできる事はあるだろ? 聞くところによると帝も先日立派に国の方向性を決めたそうじゃないか」
 ふたりは微妙な顔でザレムの話を聞いている。
「同年代が責務を果たしているんだ、君達も自活する時期かもな」
「あちらでおもちもち肌天国を堪能していらっしゃるのがスメラギ帝だ」
「は?」
「変な言い方すんな! どう見ても力関係が逆だろうが!」
 振り返ったザレムは、もがく少年をがっちりホールドしている黒の夢(ka0187)を見つけた。花魁風の浴衣が今にも脱げ落ちそうで目のやりどころに困る。
「スメラギ帝ですって?」
 聞きつけた花厳 刹那(ka3984)がすかさず近寄ってくる。
「どちらにいらっしゃるわけ?」
「あれ」
 アケミに指差された少年へ目をやり、刹那は思わず叫んだ。
「チビじゃん! 俺様系イケメンって貴重だし、身近では初めて見るから期待してたんだけどなー」
「悪かったな!」
「なにやら楽しそうじゃのー。元気にしておったかスメラギん」
「流石に帝となればそうは会う機会もなかろうと、思っていたが……案外とスメラギ帝は気さくな人柄のよう…だな…?」
 銀 真白(ka4128)が足を止め、馬車に乗ったハッドまで現れた。道を挟んであっちとこっちで怒鳴りあうものだから、辺りが混雑してきた。黒の夢は体を起こすとスメラギを立たせた。
「んふふー、なら大人扱いしませう。我輩、舞台に出たいのなー。こういうとき大人ならどうしたらいいかわかるものである」
「しゃーねーな、離れんなよ」
 スメラギが黒の夢の手をとり、彼女を守るように人ごみを掻き分けて進む。道を横切ると、黒の夢はいそいそと包みを取り出し、スメラギへそれを押し付けた。
「それじゃ行ってくるのな、帰ってきたら我輩とデートなのなー♪ お土産のキドニーパイ食べて待つといいのなー」
 ハッドがにやにやしながらスメラギの肩を叩く。
「帝ともなるとモテるの~」
「抜かせ外野め。ライオンにじゃれつかれてる気分だぜ」
「ところでしげねんのよさがわかったか?」
「同じババアならシノビのほうがよくねェか?」
「あれ男じゃぞ」
「ネタバレすんな!」
「ちょっと進めばわかるじゃろ! アンポンタンめ、貴様んちの庭にモミの木を植えてくれる!」
「一番でかいのじゃねェと認めないからな!」

「騒がしいことだな。祭りともなれば、か……」
「あれで仲良いの? ケンカしてるようにしか見えないんだけど」
 黒の夢のクッキーをつまみながら、真白と刹那は観戦気分。二人はスメラギが小脇に抱えているものが気になった。桐の箱に白布を巻いた募金箱だ。それなりの額が入っているらしい。
「募金ね。頼まれたら喜んでするんだけどなー」
「年若いが、さすがは帝という所か。やらぬ善より、やる偽善である。と、兄上も言っていたからな」
 真白がうつむいた。
(この地は私の故郷である筈なのだが……)
 修行の為、幼い頃から兄と共に各地を放浪していた真白だ。故郷と言われても実感がなかった。今になって振り返れば、兄は故郷の話を避けていた節がある。それでも、復興に向け私にも出来る事があればと、彼女はそっと気持ちを差し入れた。
「ありがとな」
 スメラギが振り返る。真白は会釈を返し言葉を紡いだ。
「慰霊碑建立の募金活動……言うは易うございますが、なかなかその立場で街頭に立つ方はおられません。ご立派なことで」
「そうか? 俺様が死ねといったから俺様が祭る。当然だろ」
 桐の箱が骨箱に重なって見え、真白は薄く笑んだ。
「浮き草ながら御治世へ期待しております」
 きちりと腰まで折り、道をあける。刹那がずいと進み出た。
「少しは物の道理をわきまえているのね」
「言っておくがこの国じゃ俺様が道理だ。俺様がこうすると決めたらそうなる」
「威勢のいいこと。大言壮語は身を滅ぼすわよ」
「御託は良いから一口乗っていけよ」
「お菓子ならあげるわ、山吹色のやつ」
 金貨をひとつころんと落とし、刹那はこくびをかしげてみせた。

 舞台から帰ってくるなり、黒の夢はスメラギへ飛びついた。
「スーちゃん誉めて誉めて! 我輩の舞歌が好評だったのなー」
「うん、えらいえらい」
「やったー! スーちゃんにも幸運のちゅー! あ、暴れるのダメなのな、大人は暴れないのなー」
 黒の夢がスメラギのおでこへキスをした。頬杖をつき、魔女は問いかける。
「我輩は『汝』を知りたいのな」
「俺様もアンノウンのことが知りたいぜ。アンノウンって確か、わけわからんて意味だろ?」
「だいぶ違うのなー。知ったかぶりはよくないのである」

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参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

  • リーラ・ウルズアイ(ka4343
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 希望の火を灯す者
    ネムリア・ガウラ(ka4615
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

  • 雪加(ka4924
    人間(紅)|10才|女性|猟撃士
  • 夢への誓い
    ハッド(ka5000
    人間(紅)|12才|男性|霊闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
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2015/09/13 11:30:43