• 聖呪

【聖呪】業火の禍・音鐘の翼

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/09/15 22:00
完成日
2015/09/23 01:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●再会
「お久しぶりです。クラベル様」
 歪虚ネル・ベルが赤毛の少女に、仰々しく膝をつき、頭を下げて挨拶をする。
 あんたみたいな雑魚の名前なんか知らない――この私に話しかけるなんて図々しいモノねと口を開きかけたクラベルだが、一瞬の間の後、目の前の歪虚が誰なのか思い出した。
「……あぁ、お前」
 燃えるような赤い髪を揺らしたクラベルが、振り返りながら、歪虚を見下ろす。
 険しい表情をしていたクラベルの顔が懐かしむように緩んだ……が、それは一瞬の事だった。
「それで、私になにか用? それとも……」
 ツカツカと近付いて、鞭の柄でネル・ベルの顎を上に向けた。
「私の配下になりたいの?」
 自分の片割れともいうべきフラベルは、昨年、人間達の手によって倒された。その際、フラベルの配下の多くも主を守るべく倒されていった。
 生き残ったフラベル配下の歪虚は主を失っていたが、その大部分をクラベルが引き取った。人間に敗れた歪虚の部下というレッテルを張られた彼らにクラベルは新たな主として相応しい存在だったのだろう。
「……ベリアル様より、貴女様を手伝うよう指示されました」
 つまり、クラベルの配下にはならないという意思表示のようだ。
 生意気ね――とクラベルは思ったが、それ以上、なにか手を下す事はしなかった。
「手伝い? 必要ないわ。けれど、そうね……あの豚羊が煩いから言ってあげる。あるニンゲンを捕まえるの」
 そのニンゲンの名は――。

●炎の亜人
「ギャギャギャ!」
 1体のゴブリンが燃えながら崩れ落ちた。
「脆い! 脆すぎるぞ! これでは、役に立たんではないか」
 『業火の禍』 ダバデリが怒りを露わにする。
 彼の持つ特殊な能力は、諸刃の剣であった。
 それは、抵抗されなければ炎のマテリアルを対象者にも付与できるのだが、マテリアルが合わないと、付与した炎により身体が発火してしまうのだ。
 ダバデリに新しく配属されたゴブリンの多くが不適合であった。
(やはり、茨の力が必要か)
 彼と仲間がそうであったように……。
「我らが主は、茨を持ちかえるようにと命令だ。貴様らも行って取ってこい。そして、力を得るのだ」
 その言葉に従って、ゴブリン達は我先にと走りだす。
 褒美や力が欲しいからではない……炎によって死にたくないからだ。
「急げ! 急げ! 茨が他のゴブリンに全て取られてしまう前にな!」
 文字通りゴブリン達を焚き付けながら、ダバデリは不気味な笑みを浮かべていた。

●禁断の茨
 その洞窟には泉があった。
 その洞窟には茨があった。
 その洞窟には、逃げ場があった。
 とある村にほど近く、けれどあまり近寄る者はいない。遠くもなく近くもない、そんな距離。それ故にその洞窟は、もはやこの世の者ならぬ身である娘にとって最良の場所だった。
 暗く、仄かに湿り気を帯びた空間。ひっそりとした内部では、岩の天井から時折垂れる水滴だけが定期的に音を立てている。
 澱んだ大気に溶け込み、その音に聴き入っていた娘はしかし、次に静寂を打ち破る無粋な足音を聞いた。そして下卑た笑い声も。
「ゲッゲ……親方の命令、ゼッタイ。オレ、いっぱい持ち帰る……」
 異形のゴブリンだった。彼らは互いに頭をくっつけて打ち合わせると、いかにも楽しげな足取りで洞窟の壁面に向かう。そして岩の壁面が隠れるほどびっしりと張り巡らされている茨に手をかけるや、喜悦に口元を歪め――。

 ぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 突如として高い断末魔が響いてきたのは、茜色の日差しがパルシア村を照らし始めた頃だった。
 聞く者の気を狂わせる叫喚。無垢な娘の魂を削る慟哭。この世のものとは思えぬそれはしかし、村に住む人々にとって未知の恐怖ではなかった。
 既知の、悲劇。
 それは一人の村娘が命を散らしてなお晴れぬ、行き場のない嘆きだ。
「……、エリカ……」
 村の長は沈痛に顔を歪める。娘を好いていた男は悔恨に奥歯を噛み締める。村の誰もが顔を伏せ、娘のことを思う。
 だからこそ気付くのが遅れた。遠く、北の洞窟から侵食してくる緑の絨毯に。
 ――そうして。
 八月三十一日、逢魔時。パルシア村は、茨の海に沈んだ。

●パルシア村へと続く街道にて
 『北の戦乙女』リルエナ・ピチカートが、ウィーダの街の兵士達、そして、ハンター達と共にパルシア村に向かっていたのは単なる偶然だった。
 あるいは……リルエナの心情の変化をウィーダの街に滞在中の『軍師騎士』が汲み取り、気を遣わせたのかもしれない。ともかく、彼女らは、パルシア村へ続く街道の点検の任務を無事にこなしていた。
 そこへ、パルシア村から逃げて来たという行商人が血相を変えて助けを求めて来た。
「む、村が、茨やら、亜人やらに飲みこまれて!」
「なんだと! 村人は? アランは? 村長はどうした?」
 物凄い形相で色々と揺らしながら、リルエナは行商人に訊ねる。
「私も、なにが、なんだか……村長は、村人を逃す為に、まだ村の近くに!」
 茨と共にいくつか亜人が侵入してきたという。
 その中に、炎に包まれたゴブリンがいると行商人は言った。
「炎の亜人……まさか、あの時のかっ!」
 森の中で出逢った炎を纏った亜人。
 異形――茨小鬼と呼ばれる亜人は普通の亜人とは似て非なる存在だ。
「エリカお姉ちゃん……お父さん……」
 そんな小さい呟きが、リルエナから漏れた。
 俯き、グッと拳を握る。駆け出したい衝動を必死に抑え……そして、振り返ると、兵士達に命令を下す。
「兵士達はここで陣を。ウィーダの街への連絡も忘れるな」
 命令を受け、兵士達は早速慌ただしく動き出した。街道整備も兼ねてきているので、ある程度、資材があったのは幸いだ。
 リルエナは、同行していたハンター達に視線を向けた。
「パルシア村の村人達の救助に任務を変更する。お願いできるか?」

●パルシア村郊外
 多くの村人が必死に逃げている様子を、丘の上でネル・ベルはただ見つめていた。
 あの中に、探している人間がいるかどうか……一人一人を見定めている。
「……いない、か……」
 それらしき人物はいない。しかし、行方を知っている人間がいるかもしれない。
「さて、どうしたものか」
 村人を追いかけてくる炎に包まれたゴブリン共。
 対して、村人の救援に駆けつけて来たのであろうハンター共。
 ゴブリン共が勝てば人間共は全滅。情報を引き出す事は叶わない。逆にハンター共が勝てば付け入る隙がない。漁夫の利を狙うには状況が流動的だ。
「むしろ、戦いの混乱に乗じて、情報を知っている人間を連れ去った方が確実か」
 ニヤリと口元を緩め……ネル・ベルは魔導バイクに跨る。
 魔導エンジンが駆動するような爆音を辺りに響かせながら、丘を駆け降りるのであった。

リプレイ本文

●再戦の兆し
「またこの村、あの亜人か。村が茨に包まれるとはなんだ? なにが起こっている?」
 オルドレイル(ka0621)は自身の持つ刀の柄を無意識に確認しながら、視線の先の光景を見て呟いた。
 無数の茨によって村から追い立てられて避難してくるパルシア村の村人達。
 その後ろを追ってくるのは、炎に包まれた亜人達。
(それに……)
 チラリと『北の戦乙女』リルエナを盗み見た。
 炎の亜人との遭遇戦の後、思いつめた顔から一転して、清々しい程の顔つきだった。避難してくる村人達の中には、実の父でもある村長もいるはずなのだが、焦る様子はなく、戦場全体を冷静に見つめている。
(なにかあったかと思ったが……次から次へと厄介事が舞い込んでくるものだ)
 その存在は、オルドレイルも把握していた。
 禍々しい雰囲気を放つ魔導バイク。そして、それに乗る人型の歪虚は、村人達の方へ向かっている。
「あれは、ネル……なんとか?」
「間違いありませんね」
 オウカ・レンヴォルト(ka0301)と米本 剛(ka0320)は、歪虚の正体に気がついた。
 傲慢に属する歪虚、ネル・ベル。特徴的な幾何学模様の二本の角の片方の先端は折れていた。
「あの位置取りと、あの様子……わしらが亜人と戦うのを待って居るのか?」
 こんな時に、まったく迷惑な奴じゃと、心の中で思いながら、星輝 Amhran(ka0724)は、移動先を歪虚の方へと変える。
「目的は村人かの? 利害の妥協点があれば加勢してくれるやもしれぬ」
 あの歪虚は毎回なにか目的を持っている。
 無駄に現れた事はない以上、今回も、目的があるはずだ。利害が一致すれば、協力する事もあるし、敵対する事もあると、星輝は分かっていた。
 胸の傷痕が疼いたが、顔には出さない。
「厄介な時に、厄介な敵が、厄介な事を仕掛けてくる……我々の日頃の行いがよくなかったのですかね」
 剛が苦笑を浮かべている。
 炎に包まれている亜人も迫っているというのに、歪虚の登場である。
 しかも、仲間達の話によると、成長しているともいうではないか。今の見た目的には、以前、会った時と変わらない様に見えるが……。
「剣姫みたいに共同戦線……ではないだろう、な」
 ふと、別の歪虚の事を思い出しながら、オウカは、そんな言葉を口にする。
「一にも二にも村人の安全な場所への避難が最優先ですな。ネル・ベルさんも油断出来る相手ではないですからね」
「何が目的なのか、聞いてみる、か」
 剛の台詞に頷きながらオウカは、歪虚を見つめる。
 話が通じない事はない相手だ。敵対する様であれば、容赦も手加減も躊躇いも無く戦えるが、無駄に戦う必要もない。
「あの角折は、わしと、ヨネ、オウカで対応するかのう。亜人は任せたのじゃ」
 疾影士としての能力を活かし、星輝が先頭切って駆け抜けて行った。
 様子を見ている歪虚と村人達との間に割って入るつもりなのだ。もちろん、周囲の警戒も怠らない。相手は、歪虚である。なにか策を講じている可能性も否定できないからだ。
「……出来ればこのような状況で出会いたく無い相手、か。万全には及ぶまいが、致し方ない」
 ストゥール(ka3669)は歪虚の姿を一瞥しただけで、亜人の方へ注意を直した。
 ネルベルとやらは特に面識も無い為、あまり興味はない。対応できる者がいるのであれば、そちらに任せた方が良いだろう。
 そして、亜人の方に、彼女は面識はあった。
 『業火の禍』ダバデリ。
 森の中で遭遇してから2ヶ月ばかり経過しているが、見間違う事などない。
 纏っている炎により、接近する者を焼き付ける以外にも、熱風や炎の雨などを降らせるという術も使う。
 あの時は、ハンター全員で対峙したのだが、今は歪虚対応で仲間の数が二分されている。
「全力で挑まなければならないな」
 機杖を構え、マテリアルを集中した横を、イーディス・ノースハイド(ka2106)が駆け抜けて行く。
(東方の情勢が落ち着いたのに、王国は未だ動乱の時期か。王女殿下の心痛の種、消し去る事に否やはないさ)
 迫ってくる亜人達は残忍な叫び声をあげていた。
 逃げる村人達は、老人や女性、子供が多いようだった。パニックにならず、まとまって避難している様子を見ると、誰かがまとめているのだろう。
(従騎士とはいえ、かつて騎士団に属した身として、民を守る事も本道さ)
 村人を守るべく、盾を構えて全力で走る。
 避難してくる村人達は、ハンター達の方へ向かってくるので、恐らく、亜人よりも先に合流できるはずだ。
「リルエナちゃん……」
 『北の戦乙女』の名を呼んだのは、檜ケ谷 樹(ka5040)だった。
 村人達の中に、村長がいるという。きっと、村長が指揮して、避難しているはずだ。絶望的な状況の中、足が遅い人達を見捨てずに。
「樹。ありがとう。私は、大丈夫だ。……それに、今は、あの亜人を止めなくては」
 リルエナはぎこちない笑みを浮かべた。
 村長と彼女の関係について、噂で聞いた。アラン同様、わだかまりがあると。
 しかし、リルエナも、村長も、アランも、聖女の事で、もう、お互いを傷つける必要はないはずだ。聖女の願いを、あの時、多くの人が知ったのだから。あとは、それを当事者同士で受け入れられるかどうかだ。
(だから、2人は絶対に守る)
 心の中で、樹は決意した。
 もし、どちらかが致命傷になるようであれば、身を呈してでも守るつもりなのだ。

●業火再び
「間に合ったようだな」
 ストゥールが機杖の先を迫ってくる亜人達に向けながら、そんな言葉を口にした。
 すれ違いながら村人達は感謝の言葉を告げて、後方へ退避していく。
 そんな村人達の一番後ろで、一人の男性がリルエナと向き合って、なにか言葉を交わしているのが見えた。
「親子、か……」
 彼女の呟き通り、その男性こそ、パルシア村の村長であり、『北の戦乙女』と聖女の父親なのだ。
「おと……村長も退避を」
「リルエナ……すまない……」
 苦渋の顔を浮かべて村長は、その台詞を絞りだした。
 大喧嘩し、家を、村を飛び出して行った娘と、何年か振りの再会。交わす言葉を、持っていなかったのかもしれない。
 踵を返して、亜人達に向かって行くリルエナの背中を一瞬、見つめた後、ハンター達に頭を下げた。
「勝手だと分かっている。だが、それでも、言わせてくれ…………娘を、リルエナを頼む」
 その様に言い残し、村長は立ち去っていく姿を、ぼんやりと眺めながら樹は口を開いた。
「勝手じゃないですよ。僕らは、あの悲劇を繰り返しちゃいけないのだから」
 聖女が見せた幻とも夢ともしれない不思議な現象。
 そこで、知らされていなかった真相を多くのハンター達は知った。樹も、そんな一人だった。
「仲間達が歪虚をどうにかするまで、ここで、喰い止める」
 イーディスの言葉に樹は頷くと、2人は盾を構える。
「壁は頼んだ。私はリルエナと共に雑魚から殺る」
 鞘からサラリと刀を抜き、オルドレイルが真剣な眼差しを亜人に向けた。
 氷のように白い刀身からは水の精霊力を感じる。炎の精霊力に対抗するには水の精霊力だ。彼女の持つ刀ならば、炎に包まれている亜人にとって脅威であるはず。
「ハンター共か!」
 亜人の中でも、一際大きい奴が叫ぶ。
「しかも、4人のうち、3人は、あの時の、人間か!」
 ニタリと笑った――ように見えた。
 身体を覆っている炎が、ぼわっと広がった。
「嬉しいぞ。こんな所で、相まみえるとはな!」
「こちらも、探す手間が省けて都合がいい。先日の借りをここで返させてもらうぞダバデリ」
 オルドレイルの言葉に、横に並んだ樹も頷く。
 お互い、手の内は分かっている。樹は、炎の力に対抗する為、グラズヘイム王国騎士団御用達のブランド「グラズヘイム・シュバリエ」がアークエルスの魔術師達と共同開発したという属性盾を持ってきていた。
「コイツは僕が抑える。皆で、確実に数を減らしていって」
 取り巻きの亜人の数を減らす事で、戦力を集中させていけるからだ。
「樹君。援護を飛ばすが、無理はするなよ」
 ストゥールが後方から声をかけてきた。
 この作戦、ダバデリを抑える役目の樹が突破されては意味がないからだ。
 あの時の再戦が始まろうとしていた。

●歪虚ライダー
「ネル・ベル殿ぉぉぉ!」
 星輝が小さい身体を跳ねながら手をぶんぶんと豪快に振り回し、大声で歪虚の名を叫ぶ。
 亜人とハンターの戦端が開かれつつある戦場というのにだ。歪虚は罰が悪そうな表情を浮かべている。
「貴様、私の名を大声で叫ぶな!」
「わしの呼び掛けに渋るからじゃ」
 確かに、星輝の呼び掛けに対し、歪虚は当初、渋っていた。渋っていたというか、あからさま、迷惑がっていた。
「他にも呼び方というものがあるだろう。私は歪虚で、貴様らの敵だ。いつから、星輝は、私の従者になったのだ」
「ああいう、呼び方をしてはならんのか?」
 わざとらしく可愛い仕草で、はてなマークを浮かべる星輝。
 歪虚は溜め息をつくと、彼女の後ろに立つ2人に視線を向ける。
「これは、また、久々の顔ぶれだな」
「……」
 剛は歪虚の視線に対し、油断なく仁王立ちしている。
 語るに及ばず! というわけではなく、心情面で考えている通り説得や駆け引きは個人的に不得手の部類と思っているので、この場は2人に任せようという考えだ。
 立っているだけで、威圧感はあるので、あながち、その考えは正しいかもしれないが。
(自分では口八丁に踊らされてしまいそうですからな)
 心の中ではそんな事を呟いていた。
 この歪虚は、直接的な戦闘能力だけではなく、機転の効き方、考え方という所に脅威があると剛は感じている。『狂気』や『憤怒』といった歪虚とは違う、脅威性があるのが、『傲慢』なのだ。
 また、場合によっては戦闘もあり得る。そうなったら、この3人で退けないといけない。
(御二方共、依頼を共にした戦友なのが非常に心強……って、オウカさん!?)
 クワっと目を見開く剛。
 オウカは無警戒に、まるで、友人にでも話しかけるように、歪虚に近付いていたからだ。
「よう、ネル……久しぶりだ、な。此処へは何しに……っ!?」
 直球もいいところ、ストレートに、歪虚の目的を訊ねようとしたオウカの言葉が詰まった。
 視線は、歪虚が乗っていた魔導バイクに向けられている。
「…か……格好良いぃ……!」
 派手ではないが禍々しいイメージの黒いエアロパーツが装着された魔導バイク。
 そのセンスに、オウカは本心から拳を握り震える程に感動していた。
「ど、どんな、チューニングが施されている?」
 瞳を輝かせて、歪虚に迫る。
 あまりの感動っぷりに、さすがの歪虚も驚いていたが、ハッと我に返り、自信満々な表情で答える。
「聞きたいか?」
「あ、当たり前じゃないか。こんなに、素晴らしくカッコいいバイクだからな!」
 その言葉に歪虚は、この私に相応しいバイクだから、当たり前なのだがなとかなんたら言っているが、オウカの耳には入っていなかったようだ。
 歪虚はバイクから降り立つと、ポンポンと座席を叩く。
「聞いて、驚け……これはな、特別なチューニングがされている……なんと、自律しているのだ」
「なん……だと……」
 オウカは唾を飲む。
 勝手に動くというのは、リアルブルーに居た頃は、作り話の中にしかなかったというのに。
「どういう技術なのでしょうか? この紅き世界には、そんな技術があるのですか?」
 感動しているオウカの様子を眺めながら、剛が星輝に小声で訊ねる。
「……歪虚化しておるだけじゃ」
 オウカの夢を壊さないような配慮の為か、ボソっと星輝は剛の質問に答えた。
「な、なるほど。歪虚と化しているなら、確かに、『自律』しているかもしれませんな」
「まったくじゃな……」
 何気ない剛の言葉に、星輝はなにかひっかかるものを感じた。
(歪虚化したCAMは暴れ回っていたと噂で聞いたが……魔導バイクは暴れたりせんのかの?)
 バイクは、低いエンジン音みたいな声を発しているだけで、動きだす気配はなかった。
「オウカさん」
 剛が戦友を呼んだ。
 楽しんでいてもらいたいが、今は、それどころではないからだ。
 オウカは滅茶苦茶名残惜しそうな顔で歪虚に向き合う。
「……ああ、そうだ……。ゴブリンを追っ払わないといけないんだった……もっと色々聞きたかったのだが……」
「そうじゃ。何か目的がお有りなのじゃろ?」
 オウカと星輝の言葉に歪虚は、バイクに跨った。
「貴様らには関係のない事だ」
 一瞬、亜人と村人達に視線が向いた事を星輝は見逃さなかった。
「村人に用事があった。そこへ、亜人もわしらも現れた。村人に死なれては困るのでは?」
「つまり、村人を狙う亜人を止める事が共通の利益だと言いたいのか」
 歪虚の言葉に3人は頷いた。
 オウカが亜人を指差す。
「亜人を一緒にぶっ潰さないか?」
「……いいだろう。ただし、私の愛馬は凶暴だからな」

●業火の禍
「呆気ないものだな」
 ストゥールが放った機導砲は、仲間の攻撃によって瀕死の亜人の命にトドメを差した。
 取り巻きの亜人はダバデリの能力によってか、いずれも炎を纏っている。
 複数の亜人をイーディスが身体を張って囮になっている間に、オルドレイルとリルエナの連携で確実にダメージを与えているのだ。
 ストゥールは、やや後方から戦況を確認しながら、必要な機導術を使っている。
「炎によるダメージ、確かにあるようだね」
 複数の亜人に囲まれている為、亜人が発する炎の熱によるダメージがイーディスの身体を蝕んでいた。
 彼女の防御力は、亜人の攻撃を通す事はないが、マテリアルの炎によるものは別だ。
「だけど、そんなモノ、私には通じないさ」
 左胸に守護を意味する淡く輝く印章が生じ、イーディスの全身から暖かな光が発し、炎によるダメージを癒していく。
 その様子を見て、樹と戦闘中だったダバデリが叫んだ。
「ふはは。素晴らしいぞ、人間。戦え!」
「余所見をするなんて、余裕だね」
 樹が放った銃撃をダバデリは避けようともしなかった。
 ぶっとい左の二の腕に命中するが、気にもせず、腕を交差すると、気合いの掛け声と共に、腕を広げる。
 熱気が辺りに広がったと思った次の瞬間、ダバデリの『増えて』いた。
「やはり、そう来たか」
 強大な魔法が飛んでくると警戒し、防御障壁の用意をしていたストゥールが言った。
 森での戦いの折、同様の現象があったからだ。
「ふははは! さぁ、もっと、戦え!」
 増えたダバデリが両手を天に向かって突き出すと、戦場に風が吹いた。
 ただの風ではない。やけどを伴う熱風だ。
「魔法などで止められると思うなよ」
 オルドレイルが水の精霊力を宿した刀を一閃して、亜人の一体が地面に崩れ落ちる。トドメは、仲間に任せ、次の目標を定めた。
 その時だった。ハンター達の背後から悲鳴や苦痛のような叫び声が聞こえた。
 思わず振り返る一行。
「村人達まで巻き込むつもりだね」
 怒りの視線をダバデリに向けるイーディス。
「村人? そんなものは、もはや、不要だ。お前らがいるからな!」
「どういう意味だ」
 しかし、ストゥールの問いかけを無視し、ダバデリは再び、両手を組む。
「本物は……どっちだ?」
 樹は、増えたダバデリに向けて試しに銃撃を放った。
 それは、左足にある傷痕近くを掠めた。皮膚が裂け、血が流れるが……。
「分裂……でも、なければ、分身でもない?」
「その通りだ」
 樹の言葉にダバデリは応えると、先程同様、気合いの掛け声と共に、腕を広げた。
 すると、ダバデリが『増えた』。これで、3体である。
「これが俺の持つ業火の力よ!」
 突如としてして、雨が降って来た。
 普通の雨ではない――炎の雨だ。
「森と違い、ここは荒野! 特と味わえ!」
「くっ!」
 苦痛の表情を浮かべ、ハンター達は辺りを見渡した。
 効果範囲から脱出しない限り、炎の雨と風に襲われるからだ。だが――。
「なんて広さの術式だ」
 ストゥールが驚きの声をあげた。
 彼女の視界の中、全てに、炎の風雨が襲いかかっているように見えたからだ。。
 避難を続ける村人達は、お互い寄せ集まって耐えているようであった。覚醒者でもない彼らは長くは持たないだろう。
「村人達を守るには、ダバデリをすぐに倒すしかないようだね」
 防御を得意とするイーディスではあるが、ここは、攻勢に出ないといけない事に覚悟を決めた。
「そうだ! 戦え!」
 1体のダバデリが後方に下がりつつ叫ぶ。
「言われるまでもない!」
 亜人の急所に刀先を突きいれたオルドレイル。その横で、リルエナがストゥールの援護の下、別の亜人を倒した。
 残された取り巻きは1体。イーディスと共に一斉に攻撃する前に、再び炎の風雨が襲いかかる。
 炎を纏った亜人の近くにいるだけでも炎のマテリアルによるダメージを受けるのに、それに加えて、熱風が腕足を焼き、雨が頭や顔を叩く。
 それなのに、亜人の方は、炎のマテリアルによるダメージを受けつけていないようだ。
「このままでは……」
 ストゥールも前線に走る。3体に増えたダバデリに対抗する為だ。
 その横を、歪虚が乗った魔導バイクが疾走していった。
「歪虚!?」
 樹が警戒の声をあげる。
 まさか……やられてしまったというのか……心配になり、振り返ると、仲間のハンター達が駆け寄ってくる。
 その表情を見る限り、問題が発生した様子ではなかった。
 という事は――。
「私、参上だ」
 魔導バイクを横滑りさせながら、残った亜人を吹き飛ばし、ネル・ベルが到着した。

●音鐘の翼
 突然、颯爽と現れた歪虚ライダーに向かって、ダバデリが怒りの声をあげる。
「邪魔をするな!」
「それは、私の言葉だ」
 ネル・ベルは、炎の風雨を気にした様子もないようだった。魔導バイクから降りると、いつの間に、黒い剣を手にしていた。
「詳しい事は後で話すのじゃ。一先ず、こやつを退けるまでは、歪虚は仲間じゃ」
 息を切らしながら、駆け付けた星輝が説明する。
「分かった。構わんよ」
 警戒していたストゥールは、ダバデリの前に立ち塞がる。
 3体となったダバデリの内、2体は前に出て、1体は後ろに下がっている。
 近い方の炎の亜人に向かって、オルドレイルが斬りかかった。
「このタイミングで村を襲ったのは何故だ? 村が、茨に覆われたというのはお前達の仕業か?」
「結果的には、そうなるがな。だが、お前達のおかげで、俺の目的は達したぞ」
 刀を弾き、炎の亜人は両手に炎の塊を作り出すと、それを宙で合わせる。
 刹那、激しい炎が周囲を包み込んだ。集まっていたハンター達はその衝撃で数歩、吹き飛ばされる。
「この私に炎は通用せんぞ」
 ネル・ベルだけが前に立っていた。
「おのれ、歪虚めが!」
「亜人の割りには、なかなかやるようだが、相手が悪かったな」
 隙だらけのダバデリに袈裟掛けに斬りつける。噴き出す血。それは、斬りつけられていない2体も同様であった。
「ダメージは共有するようだな」
「分離……もしくは、分割といったところだね」
 その様子を見て、ストゥールとイーディスが印象を口にした。
「人間共だけではなく、歪虚もいるとは不利! ここは退く。だが、俺の目的は達した。茨の力を用いれば、俺との相性関係なしに、炎の力を身に付けられる事がな」
 どうやら、ダバデリの目的は、村人の抹殺ではなかったようだ。
 普通の亜人に茨の力を与える事で、炎の力が付与できるかどうか、実戦で耐えられるかどうかという実験だったのだ。
「逃げるのか」
 オルドレイルの言葉に、炎の亜人は残忍な口元を浮かべる。
「楽しみにしておけ。お前達の住む街が、炎の雨と風によって焼かれる事をな」
 後方にいたダバデリに吸い込まれるように、2体のダバデリは消えていった。
 炎の風雨も同時に治まる。

「村人達は、無事の、ようだな」
 遅れ気味にやってきたオウカが、避難する村人達の様子を見て言った。
 後少し、遅かったらどうなっていただろうか。
「皆さん、お疲れ様です」
 剛が回復の魔法を使って仲間達の傷を癒す。
 とりあえず、亜人の脅威は去った。
「救われる形になった。歪虚だろうが、礼だけはいっておこう」
 リルエナが感謝の言葉を告げる。
 ネル・ベルは興味なさそうにしていた。
「油断しちゃだめだ。リルエナちゃん」
「奴にも、なにか目的があるはずだ。その上、人型の歪虚とはな」
 樹とオルドレイルが警戒する。
「ふむ……星輝よ。これが普通の人間の反応というものだ」
「わしは、その上をいくからの」
 歪虚を取り囲むように、静かに移動する星輝。
「リルエナちゃんには手を出させないから」
 盾を構えて前に進み出る樹。
「その女の事か。だが、私には興味はないぞ」
「目的はなにかな?」
 イーディスも盾を構えて樹と反対側で前に出る。
「オーラン・クロスという人間の居場所だ。茨が覆ったせいで、行方が分からないからな」
「オーランだと!」
 リルエナが叫ぶ。
 聖堂教会に属する法術研究の専門家であり、かつてはその才を振るって教会関係の儀式に従事していたという。リルエナにとっても、因縁浅からない関係ではある。彼女が教会に身を置くのは、彼の行動や、15年前の真相を把握する為でもあったからだ。
「知っているのか?」
「パルシア村に来ていたという話は聞いていないが」
 樹の質問にリルエナは答える。
 そして、淡い光を発する剣を歪虚に向けた。
「どういう目的で、オーランを探す」
 歪虚は乾いた笑い声を出した。
「察しの通りだ」
「……ならば、なおさら、お前をここで倒す!」
 今にも斬りかかる勢いのリルエナ。
「話しが、分からないが、オーランという人物は何者なんだ?」
 オウカが疑問を口にする。
「……教会の儀式は、単なる祭りではないんだ」
 答えたのは樹だった。
「神事……という事じゃな」
 巫女でもある星輝の台詞に、樹は頷いた。
 東方で、歪虚王を討つ大きな役割を果たした一つに、結界の儀式があった。
 リルエナは鋭い視線を歪虚に向けたまま、ハンター達に伝える。
「オーランは、結界を含む法術の専門家だ。歪虚がその存在を追うという事はつまり……」
「歪虚にとって、オーランが生きていると、不利になると……東方での歪虚王の二の舞を恐れていると……いう事だね」
 『北の戦乙女』の言葉に、イーディスが推測を続けた。
 それならば、歪虚が目的を持って、ハンター達に協力した理由がハッキリした。
 オーランの行方を知っているパルシア村の人間を、亜人によって殺されては話しにならないからだ。
「そんな事を、ペラペラ話していいのか?」
 機杖の先端を歪虚に向け、いつでも、機導砲を撃てる準備をストゥールはしていた。
 退避中の村人達との距離は開いている上に、ハンター達は歪虚を囲んでいるのだ。おまけに、今は、魔導バイクにも乗っていない。
「なに、目的を達成する為だからな。充分、時間を稼いだ」
 余裕の表情の歪虚。
 突然、足元に光闇に輝く三角形が二つ現れると、それが歪虚を包み込む。すると、歪虚の背中に純白の翼が現れ、両腕が龍の鱗のよう変化する。
「詰めが甘いとしか言いようがないな。この勝負、私の勝ちだ」
 その言葉と共に、歪虚の魔導バイクが突然、走り出す。
 ハンター達は不意を突かれる形になった。
「行かせませんよ」
 剛が頑健な身体を活かして、魔導バイクを文字通り、身体を張って止める。
 魔導バイクの座席が独りでに展開すると、中から、黒く光る矢のようなものが多量に射出した。
「す、凄い! あんな機能までも!」
「感心している場合じゃなかろう、オウカよ」
 目を輝かせたオウカに、ツッコミを入れる星輝。
「さらばだ、人間共」
 歪虚が笑った――ように見えた次の瞬間、かき消すように消え去った。
「き、消えた!?」
 ストゥールが機導砲を撃つタイミングを逃す。
 翼を生やしたので、飛び上がるかと思っていたら、消えてしまったのだ。
「あっちだ!」
 オルドレイルが指差した方向は、村人達の方であった。
「ぬかったのじゃぁぁ!」
 悔しそうな叫び声を上げて、星輝は全力で走り出した。
 あの歪虚が瞬間移動できる事は知っていた。警戒を怠ったわけではない。そう……少なくとも、自分達やリルエナが狙われる分ぐらいは。
「お父さんっ!」
 リルエナも走り出した。
 オーランの行方を知っている人間がいるとすれば、それは、村長である父だと直感が告げていたからだ。
 樹も全力で走る。
「流石に3度も泣かせられないんでね……!」
 姉の失った悲しみから立ち直りつつあるリルエナに、今、父親を失わせるわけにはいかない。
「村人達に手を出させはしないさ」
 全身鎧が軋む音を立てながらイーディスも走る。
「そちらは任せた」
 ストゥールは機導砲の狙いを魔導バイクに向けた。
 バイクは今までの静けさとは打って変わり、暴れていた。剛が頭を押さえているおかげで疾走はしていないが、後輪を左右に激しくスライドさせている。
「歪虚化したバイクだったのか」
 刀を突き立てるオルドレイル。だが、それで止まる事はない。
 逆に、先程よりも激しく暴れた。
「ならば、これならどうですか!」
 抑え込みから脱出され、剛は咄嗟に、ガンソードの銃口を、ぽっかりと空いた座席に突き込む。
 鈍い発砲音が響くと同時に、歪虚バイクがどこからか咆哮をあげた。
「煙幕の、つもりか」
 オウカは斬りかかるタイミングを逃す。仲間との同士打ちを防ぐ為だ。
 歪虚バイクは後輪をスライドさせ、その場で高速でぐるぐると周り、土煙りをあげると、それに隠れるように潜む。
「来るぞ」
 機導砲を放つストゥール。
 その一撃を受けながらも土煙りの中から歪虚バイクは飛び出した。
「逃げたか」
 オルドレイルの言葉通り、歪虚バイクは西に向かって走り去った。

●親子
 結論から言うと、ハンター達は間に合わなかった。
 だが、村長達は無事であった。ただ、歪虚の術みたいなものにかかり、オーランの行方について話してしまったとの事であった。
「『強制』の能力かの」
 疲れ切った表情で星輝が吐き出すように言う。
 傲慢に属する歪虚が使える能力だ。こういう使い方もできるようである。そして、思い至る事があった。
「歪虚バイクを大人しくさせ、乗物として扱っていたのは、『強制』の能力を使っていたと言う事じゃな」
 村人達に『強制』を使う為、歪虚バイクにかけていた術を解除したのだろう。
「まぁ、でも、村人達は無事でしたし」
 気休めではないが、剛が声をかける。
 確かに、村人達は、村長も含め無事であった。だが、無事だったのは、歪虚の気まぐれに過ぎない。
「機嫌が、良かったのか?」
 オウカがぼそっとそんな事を呟いた。
 もし、そうなら、歪虚の機嫌を持ち上げるなにかを誰かがしたのかという事になるが……。
「村人達も無事でよかったさ」
 安堵の表情を浮かべ、イーディスが兜を外す。輝かしい銀髪が風に流れた。
 村長も村人達も犠牲者はいない。亜人や歪虚の目的は、それぞれ達成したかもしれないが、自分達も、目的は達成したのだ。
「ダバデリとの再戦はあるようかな」
 北の方角を見つめながらストゥールは言葉を発した。
 恐るべき炎の術式を持つ亜人。大きな脅威になるのは間違いない。
「いずれ、必ずな」
 オルドレイルも北の方角に視線を向けていた。
 二度も戦い決着はつかなかった。だが、今回の戦いで、ダバデリの能力は把握したはずだ。
 その情報は、次の戦いの時に、役に立つはずである。

 リルエナが村長の前に辿り着いた。
 無言で向き合う親子。付き添った樹も、なんて、声をかければいいか迷う。
「お父さん……」
 リルエナは父に抱きついた。
「お前が無事で良かった」
「違う……違うの……」
 首を振るリルエナは、泣き声だった。
「ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」
 消えるような小さい声で謝るリルエナ。なぜ、分かる事ができなかったのかと。愛する娘を亡くし、絶望の中を彷徨っていた父を。
「……リルエナ……いいんだ。あれは、どうしようもない事なのだから」
 村長もまた、沢山の葛藤の中にいた。
 一人の父親として、そして、村長として、相反する気持ちの中に。
「取り込み中、良いかな?」
 樹が気まずそうに声をかける。
 本当はリルエナと2人っきりになる事があれば伝えようと思っていたが、リルエナの父もいる今の方が良いと判断した。
 樹は自身や仲間のハンター達が体験した聖女の話を語る。
 この2人には、知る権利があるのだ。
「エリカお姉ちゃん……」
「エリカ……」
 2人は視線を落とす。
 聖女の悲劇と、そして、茨小鬼らの誕生の真相を知って。
「最後に聖女は言った。『殺して――終わらせて欲しい』ってさ」
 その樹の言葉に、リルエナは大粒の涙を流しながら崩れ落ちた。
(3度……目か……)
 そんな事を心の中で呟く。
「お父さん……もう、終わらせ、よう……よ……エリカお姉ちゃんを……助けようよ」
 茫然と立ち尽くす父に懇願するリルエナ。
 しばしの間の後、村長はグッと空を仰ぎ見た。
 リルエナは大きく、強くなった。エリカの姿を追いかけていたばかりの娘は成長した。
 父親は娘を抱きしめる。
「あぁ……助けよう。皆で、助けよう……」


 村人達は無事に避難ができた。アランや教会と対立していた村長が、この後、態度を軟化させたという。
 そして、それをパルシア村の村人達も受け入れた。聖女を救う為に、村人達も決意を新たにしたのであった。


 おしまい


 歪虚は高台で、村の様子を観察していた。
 オーランという人物が向かった先は確認した。そこは、その人物を探すように指示したクラベルが探索に赴いた行き先でもあった。
「指示された事は達成したが、加勢に行く義理はない」
 歪虚はバイクに跨ると次の目的の為に、荒野を走りだした。

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  • 和なる剣舞
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  • 【魔装】の監視者
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  • 幸せを手にした男
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  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士

  • オルドレイル(ka0621
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 毅然たる令嬢
    ストゥール(ka3669
    人間(紅)|18才|女性|機導師
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
檜ケ谷 樹(ka5040
人間(リアルブルー)|25才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/09/14 21:20:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/12 00:45:14
アイコン 村民救助作戦相談所
星輝 Amhran(ka0724
エルフ|10才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/15 20:36:59