ゲスト
(ka0000)
【聖呪】世の中は『厳しさ』に溢れている
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/15 22:00
- 完成日
- 2015/09/23 01:02
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●厳しさを知った男
「命があっただけでも、もうけもんだよ、あんた」
駆け付けた兵士が、男性にそんな言葉をかけた。
男性は恐怖で震えながら、兵士の言葉に頷く。
「あ、あ、ありがとう」
男性は行商人だった。
王都から商品を満載した馬車でウィーダの街に向かっていたのだが、向かっている途中で亜人の襲撃にあったのだ。
間一髪、巡回中だった兵士達に救われたが、商品を満載した馬車は亜人に奪われたのだ。
「ただ、奪われた馬車に関しては、どうしようもない。悪いが、諦めてくれ」
申し訳なさそうに兵士は告げると去って行った。
ウィーダの街にポツンと残された男性は茫然とするのみだ。
なんせ、全資産は、馬車にあったのだから。文字通り、無一文とはこの事。
「ど、ど、どうすりゃいいんだ……」
慌ただしい街中で、男性は空を仰いだ。
男性は元々、王国西部の小さい村で農家をやっていた。ところが、昨年、歪虚の襲来により農地も家も放棄して王都に避難した。
避難先でなんとか仕事をみつけ、コツコツ溜めたお金を元に、行商を始めたと思ったら、これだ。
「な、な、なんで、なんで、こんなにも『厳しい』世の中なんだ」
ポツポツポツと雨が降って来た。
もちろん、宿に泊まるお金もないし、傘を持っているわけでもない。
「ひでぇよ……」
男性は全身を濡らしながら、呪詛にも似た言葉を発した。
●不幸な男
移転を手伝う住み込みの仕事についた男性だったが、この男性には厳しい話しだった。
農家で鍛えた身体は、避難生活ですっかり衰えてしまったようで、肉体労働についていけなかったのだ。
「む、む、むりだぁ!」
ついに男性は仕事を放棄して逃げ出した。
だが、行き先があるわけでもない。ウィーダの街と移転先の街の間は、比較的安全なのだが、それ以外は、今や亜人騒ぎで危険な状態だ。
「なんで……なんで、世の中は、こんなに厳しいんだよぉ!」
男性は叫んだ。
周りが羨ましかった。こんなに厳しいのは自分ぐらいだ。
なのに、自分だけが酷い仕打ちを受けている。
「これもそれも、悪いのは亜人だ! あの化け物さえいなければ!」
ヤケクソになって、地面に転がっている石を思いっきり、蹴り飛ばした。
思ったより、ポーンと飛んでいく石は――路地の壁に当たると、その先を通りがかった一団の人にぶつかる。
「あ? なんだ、おめぇは!」
「ひ、ひぃぃぃ! ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
「ごめんで済めば、衛兵はいらねぇんだよ!」
男性にとって不運だったとすれば、その相手が強面の集団だったという事だろう。
●ノゾミを叶える者
「うぅ……。たかが、石が当たった……位で……」
男性はボロ雑巾の様に地面に転がっていた。
ボコボコに殴られ、蹴られ、慰謝料と称して、わずかに稼いだお金を取られる。
自分には精霊の加護は無いのか。エクラはいったい、何をしているのか。
「亜人だ! 全ては亜人が悪いんだ!」
行商の邪魔さえされなければ、こんな、惨めな事になっていなかったのに!
男性は悔し泣きしながら、ただただ、横たわっていた。
その時……誰かが近付いてきた。
少女だった。ふわゆるくるくるの緑髪を揺らしていた。
暗い青を基調としたドレス。可愛らしい顔立ちはしているのだが、人形のように無表情な雰囲気を放っている。
どこかの貴族の娘……ではないようだと男性は思った。
腕に、魔導仕掛けのガントレットを装着しているのが見えたからだ。覚醒者なのだろう。
「な、な、なんだよ!」
男性は叫んだ。
ただならぬ不安を感じたから。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
緑髪の少女が口にした言葉に、男性は驚いた。
「あ、あ、亜人を、亜人を倒したい!」
「貴方自身がどうなっても?」
「そ、そうだ! どうせ、このまま死ぬなら、亜人に一矢報いたい!」
転がったまま懇願する男性に少女は手を差し伸べる。
「それなら、とっておきの方法が在りますよ」
少女は……微笑を浮かべていた。
●ウィーダの街郊外にて
戦闘の経過は予想通り進んでいた。
ウィーダの街に深く入り込んだ亜人共は、組織的な動きを失い、我先へと慌てて山へと戻って行く。
騎馬隊を主体とするウィーダの街の兵士達は、混乱する亜人を切り捨てていくだけだ。慈悲はいらない。ここで打ち漏らした亜人は必ず、後で障害となる事をウィーダの街の兵士達はよく知っていた。
「領主様! 逃げる亜人共の一角で、雑魔が出現しました!」
兵士の報告に領主は眉間に皺を寄せる。
今は大事な追撃戦の途中だ。こんな所で雑魔の相手をしている暇はない。
「何事だ」
「一般人と思われる人物が、戦場に紛れこんだと思ったら、突然……」
兵士が言うには、その一般人は手に持っていた壺を、亜人に投げつけたと思ったら、壺の中からスライムが現れたというのだ。
亜人も一般人も共にスライムに飲み込まれ……次々と犠牲者を飲み込んで膨らんでいく雑魔に手がつけられなくなったという。
「そんなものは放置しておけ! ともかく、亜人を追撃するのだ!」
領主は力強く、兵士に命令した。
追撃が中途半端に終わっては、作戦の意味がない。領主は別の兵士を呼んだ。
「ハンター達に伝えるのだ。急ぎ、雑魔を討伐せよ、と!」
「命があっただけでも、もうけもんだよ、あんた」
駆け付けた兵士が、男性にそんな言葉をかけた。
男性は恐怖で震えながら、兵士の言葉に頷く。
「あ、あ、ありがとう」
男性は行商人だった。
王都から商品を満載した馬車でウィーダの街に向かっていたのだが、向かっている途中で亜人の襲撃にあったのだ。
間一髪、巡回中だった兵士達に救われたが、商品を満載した馬車は亜人に奪われたのだ。
「ただ、奪われた馬車に関しては、どうしようもない。悪いが、諦めてくれ」
申し訳なさそうに兵士は告げると去って行った。
ウィーダの街にポツンと残された男性は茫然とするのみだ。
なんせ、全資産は、馬車にあったのだから。文字通り、無一文とはこの事。
「ど、ど、どうすりゃいいんだ……」
慌ただしい街中で、男性は空を仰いだ。
男性は元々、王国西部の小さい村で農家をやっていた。ところが、昨年、歪虚の襲来により農地も家も放棄して王都に避難した。
避難先でなんとか仕事をみつけ、コツコツ溜めたお金を元に、行商を始めたと思ったら、これだ。
「な、な、なんで、なんで、こんなにも『厳しい』世の中なんだ」
ポツポツポツと雨が降って来た。
もちろん、宿に泊まるお金もないし、傘を持っているわけでもない。
「ひでぇよ……」
男性は全身を濡らしながら、呪詛にも似た言葉を発した。
●不幸な男
移転を手伝う住み込みの仕事についた男性だったが、この男性には厳しい話しだった。
農家で鍛えた身体は、避難生活ですっかり衰えてしまったようで、肉体労働についていけなかったのだ。
「む、む、むりだぁ!」
ついに男性は仕事を放棄して逃げ出した。
だが、行き先があるわけでもない。ウィーダの街と移転先の街の間は、比較的安全なのだが、それ以外は、今や亜人騒ぎで危険な状態だ。
「なんで……なんで、世の中は、こんなに厳しいんだよぉ!」
男性は叫んだ。
周りが羨ましかった。こんなに厳しいのは自分ぐらいだ。
なのに、自分だけが酷い仕打ちを受けている。
「これもそれも、悪いのは亜人だ! あの化け物さえいなければ!」
ヤケクソになって、地面に転がっている石を思いっきり、蹴り飛ばした。
思ったより、ポーンと飛んでいく石は――路地の壁に当たると、その先を通りがかった一団の人にぶつかる。
「あ? なんだ、おめぇは!」
「ひ、ひぃぃぃ! ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
「ごめんで済めば、衛兵はいらねぇんだよ!」
男性にとって不運だったとすれば、その相手が強面の集団だったという事だろう。
●ノゾミを叶える者
「うぅ……。たかが、石が当たった……位で……」
男性はボロ雑巾の様に地面に転がっていた。
ボコボコに殴られ、蹴られ、慰謝料と称して、わずかに稼いだお金を取られる。
自分には精霊の加護は無いのか。エクラはいったい、何をしているのか。
「亜人だ! 全ては亜人が悪いんだ!」
行商の邪魔さえされなければ、こんな、惨めな事になっていなかったのに!
男性は悔し泣きしながら、ただただ、横たわっていた。
その時……誰かが近付いてきた。
少女だった。ふわゆるくるくるの緑髪を揺らしていた。
暗い青を基調としたドレス。可愛らしい顔立ちはしているのだが、人形のように無表情な雰囲気を放っている。
どこかの貴族の娘……ではないようだと男性は思った。
腕に、魔導仕掛けのガントレットを装着しているのが見えたからだ。覚醒者なのだろう。
「な、な、なんだよ!」
男性は叫んだ。
ただならぬ不安を感じたから。
「貴方の願い、叶える事、できますよ」
緑髪の少女が口にした言葉に、男性は驚いた。
「あ、あ、亜人を、亜人を倒したい!」
「貴方自身がどうなっても?」
「そ、そうだ! どうせ、このまま死ぬなら、亜人に一矢報いたい!」
転がったまま懇願する男性に少女は手を差し伸べる。
「それなら、とっておきの方法が在りますよ」
少女は……微笑を浮かべていた。
●ウィーダの街郊外にて
戦闘の経過は予想通り進んでいた。
ウィーダの街に深く入り込んだ亜人共は、組織的な動きを失い、我先へと慌てて山へと戻って行く。
騎馬隊を主体とするウィーダの街の兵士達は、混乱する亜人を切り捨てていくだけだ。慈悲はいらない。ここで打ち漏らした亜人は必ず、後で障害となる事をウィーダの街の兵士達はよく知っていた。
「領主様! 逃げる亜人共の一角で、雑魔が出現しました!」
兵士の報告に領主は眉間に皺を寄せる。
今は大事な追撃戦の途中だ。こんな所で雑魔の相手をしている暇はない。
「何事だ」
「一般人と思われる人物が、戦場に紛れこんだと思ったら、突然……」
兵士が言うには、その一般人は手に持っていた壺を、亜人に投げつけたと思ったら、壺の中からスライムが現れたというのだ。
亜人も一般人も共にスライムに飲み込まれ……次々と犠牲者を飲み込んで膨らんでいく雑魔に手がつけられなくなったという。
「そんなものは放置しておけ! ともかく、亜人を追撃するのだ!」
領主は力強く、兵士に命令した。
追撃が中途半端に終わっては、作戦の意味がない。領主は別の兵士を呼んだ。
「ハンター達に伝えるのだ。急ぎ、雑魔を討伐せよ、と!」
リプレイ本文
●雑魔
「追撃戦……あまり気持ちがいいものではありませんね」
マヘル・ハシバス(ka0440)が複雑な心境を口にした。
背中を見せる亜人を後ろからバッサリするだけなのだが、残酷かなと思った。
「やることはやらなきゃ、ね。行くよ、マヘル……!」
小鳥遊 時雨(ka4921)がポンっとマヘルの肩を叩く。
色々な気持ちを抱えているのは、時雨も同様ではあるが、今は、依頼の最中だ。
ハンター達は追撃戦に参加していた。その最中に、突然、雑魔が現れたのだ。
「……壺とスライム!? 契約とはいえ、追撃戦に雑魔退治とは、人使い荒いよね~」
驚きながら、雑魔が引き起こした惨劇を見つめる十色 エニア(ka0370)。
だが、領主のその指揮は間違ってはいない。追撃戦を実行に移す為には、障害となる雑魔を速やかに排除しなければならないからであり、この戦場で、その役目にもっとも適しているのは、ハンター達なのだから。
一先ず、仲間達が巻き込まれないうちに、火球の魔法を使ってみたが、その程度ではビクともしていない様子だ。
「最近、ゴブリンかスライムしか相手にしてない気がするわね……」
アルラウネ(ka4841)が円を描く軌道で雑魔に接敵しながら斬りつけにいこうとして――急に、向きを変えた。
雑魔の近くに、男性が倒れていたからだ。兵士達の報告にあった、壺を投げつけた人間なのだろうか。
「負傷者ですか!?」
杖を構えてUisca Amhran(ka0754)も割って入った。先程、回復の龍奏を詠ったのだが、もう一度、詠うべきかどうか迷って――諦める。
男性の怪我の様子を見て、長くは持たないとすぐに分かったからだ。
(雑魔、壺、スライム……まさかな……)
ヴァイス(ka0364)の心の中で、ある事がよぎる。それを無理矢理、頭の隅や押しやると、バイクを駆ける勢いそのままに、上段から渾身の一撃を雑魔に叩き込んだ。
そこへ3本の光の筋がクロスしながら雑魔に突き刺さった。残りの筋は、それよりも後方、逃げる亜人達の背中に向かって行く。
「同時に狙う……それを出来ると確信している。私は……どんどん覚醒者に染まっていく。昔はそれが出来るか不安だったのに」
マヘルが放ったデルタレイであった。
雑魔の攻撃を避けて、通り抜ける。この機導術の効率良く使う為に、雑魔と亜人との間まで進むつもりなのだ。
「一気に、片をつけるべきですね」
マテリアルを集中するした杖を振るうUisca。全力で叩きつけたそれは、雑魔のスライム状の身体を十二分に凹ませた。
負傷者の治療が手遅れと分かった以上、一刻も早く、この雑魔を倒さなければと思ったからだ。せめて、安らかに逝かせてあげたい。
アルラウネも全力を出しきる勢いだ。大太刀を巧みに扱い、雑魔に取り込まれた亜人諸共に向かって斬撃を繰り出す。
「酸を? 違う。これは触手かしら? 全部、切り落としてあげるわ」
なにかを高速で射出してきた。それを避けながら、斬り落とすが、数が尋常じゃない。
何本が切り落としたしたが、無数の触手がアルラウネを取り囲もうとしたする。そこへ、火球が炸裂した。
「ありがとう、エニくん」
爆発位置を調整して、エニアが放ったファイアーボールだった。
アルラウネの周囲からボトボトと触手が落ちて行く。
「触手は……よくないんだよね」
なにか強烈なトラウマがあるのだろうか。深刻そうな表情でエニアが呟く。
そう……あれは、思い出してはいけない。ここに、あの時、一緒だったハンターはいないのだ。大丈夫、誰も――。
「エニアさん!」
Uiscaが呼ぶ声で、我に返ったエニア。
距離を取っていたはずなのに、雑魔から伸びた触手が、エニアの腕を掴もうとしていたからだ。
「とわぁー!」
近くにいた時雨が飛びかかる勢いでエニアを押し倒す。宙を抜けて行った触手の根本をアルラウネが切り落とした。
「エニア、大丈夫?」
「い、色々、大丈夫、じゃ、ない……」
結果的に、馬乗りした状態で訊いてくる時雨。
真っ赤になった顔を隠すようにエニアが両手で顔を覆っていた。
「これで、トドメだ!」
刀を振りあげたヴァイスが気合いの掛け声と共に、雑魔を切り捨てる。
刺激臭を漂わせながら、雑魔がボロボロと崩れ去って行った。
●音鐘の影
幾人かが亜人を追いかける中、マヘルは瀕死の男性に近付いた。
突然、戦場に現れ、壺を亜人に投げつけたら、中からスライム状の雑魔が出現したという。
「いったいなぜ、こんな事を……」
「……ぼ、僕の人生は……き、厳しかった。だから、全部、壊そうと……」
虫の息で応える男性。
苦痛で顔が歪んでいる。
「貴方はこの結末で満足でしたか?」
悲しげな表情を浮かべるUiscaの質問に男性は、顔を横に振った。
「満足……な、わけ……あるか……ちくしょう……ちくちょう……」
涙を流す男性の上半身をアルラウネが抱き抱える。
「なんで、スライムを……」
「少女に……緑髪の少女に、貰ったんだ。こんな世の中にした奴らを壊せる力だと」
その言葉に3人はお互いの顔を見つめ合った。
少女に、心当たりがあったからだ。
「どこで会ったのですか? その少女と」
マヘルの質問に男性は苦しみながらウィーダの街でだ、と口にした。
ウィーダの街を振り返る。煙がいくつも上がっていた。あの街は、今回の作戦で破壊される事になっている。今から、街に戻っても、少女の行方を捜すのは不可能だろう。
「やっぱり、ノゾミちゃんなのですね……」
Uiscaは違うと思うたいが、過去に、ノゾミが絡んでいると思われる事件との類似性、そして、ウィーダの街に滞在していた事を考えると、やはり、あの少女しか浮かばなかった。
遠くで亜人達の悲鳴にも似た叫び声が響く。仲間達が逃げる亜人の本隊に取りついたのだろう。
「死ね……死ね……シネェ……」
男性が苦痛と狂気に満ちた顔で呪詛の様に呟きながら、事切れる。
「私の温もりの中で、眠りなさい……」
アルラウネが優しく告げながら、男性の見開いた瞳を閉じた。
せめて、この男性が、恨みのあまり、歪虚と化さない事を思いながら。
「こんな結末が、本当に貴方のノゾミでしたか?」
マヘルは拳に力を入れながら、言葉を続けた。
「あの塔の時も思いましたが。人の誰かの力に成るとは、こういう意味ではないはずでしょう……」
見張り塔での出来事を思い出しながら、この場にいない緑髪の少女に呼び掛ける。
「私には、あのノゾミちゃんが、こんな事をするなんてと思うわ」
アルラウネも塔での事を思い出しながら言った。
あの時のノゾミの笑顔に偽りはなかった。瞳の輝きは純粋だった。
「可能性としては、あのイケメンさんの歪虚ですね」
胸元でギュッと両手を組んだUiscaの言葉に、マヘルは、その歪虚が誰なのか、すぐに見当がついた。
「ノゾミさんの想いを利用している者がいるなら絶対に、私は許したくはない」
「同感です」
マヘルの決意に、Uiscaは頷いた。
(ノゾミちゃんが、イケメンさんの負のマテリアルに飲まれているのなら……。それなら……)
頬をひっぱたいても正気に戻したいと思った。
あの歪虚の事が好きなのは分かる。だが、従属する事は恋愛でもなんでもない。ただの奴隷だ。
「行くわよ。まだ、依頼は終わっていないわ」
アルラウネが2人に呼び掛けた。彼女の言う通り、まだ、任務中なのだから。
●追撃戦
「流石に……当たるか自信ないね」
遠くを狙ってエニアが大弓を引き絞る。
その隣で、身長を遥かに超える巨大な和弓を構えているのは、時雨であった。
「わー! すごい数ー!」
数える気にもなれない亜人が我先へと山の方に向かって逃げているのだ。
ウィーダの街における作戦が大成功を収めた成果である。どの亜人も組織だって動く事を忘れ、命だけはと逃げる。中には、武器すら捨てている亜人もいた。
「タイミングと狙いを合わせるぞ」
ヴァイスも弓に矢を番えながら、仲間に呼び掛ける。
逃走方向前方に向かって放物線を描く様に撃つつもりなのだ。亜人達の必死な逃げっぷりは、それで躓くと、更なる混乱を引き起こすと踏んでいた。
「今だ!」
数本の矢は、狙い通り、先頭付近に向かって飛んでいく。
そして、不幸にも矢が刺さった亜人は転倒すると、後からと後から押してくる仲間に倒され、あるいは、踏まれる。
足並みが乱れた所に、更に降り注ぐハンター達の矢。
「思ったより大成功なのかな?」
エニアが状況を分析しながら、弓から魔術具としても使用できるナイフに武器を持ちかえる。
混乱して動きが鈍くなった所を、ファイアーボールの魔法で撃滅するつもりだ。
「これなら、俺は突撃するか」
刀に持ち替え、亜人の最後尾に向かって突撃するヴァイス。
闘狩人としての能力を活かし、近接戦闘で薙ぎ払った方が、弓で攻撃するよりも早いと思ったからだ。
もちろん、深追いするつもりはない。数だけで言うと、向こうは数百体いるのだから。
「反撃は、怖いからねー」
時雨は引き続き弓での射撃を繰り返す。
素早く矢を二本番えて放つと、その度に、亜人が二体倒れて行く。
そうして倒れていく亜人が増える程、亜人達の逃走速度が下がっているのだ。躓いたり、ぶつかったりと、もはや、軍団ではなく烏合の衆だ。
そこへ、側面からウィーダの街の騎馬隊による突撃が行われる。完全なワンサイドゲームだ。まともな反撃すらせずに亜人達はひたすら山を目指した。
「包囲しなくて良かったのか」
ヴァイスが刀を振り回す度に、複数の亜人が転がって行く。その姿を見ながら、ふと、時雨は思った。
(そーいえば、リアルブルーにあんな、無双な感じのゲームが、あった気がする……)
ここまで完璧に近い形なのは、ハンター達が亜人達の退路をわざと『開けていた』からだった。ハンター達も意識していたわけではないが、弓矢を使っての逃走防止は、想定以上の結果をもたらしていた。
更に、亜人の集団の中で、大爆発が発生する。
十数体が吹き飛んだ。辛うじて生き残っている亜人もいるが、無視しても問題ないだろう。エニアは次に打ち込む場所をすぐに決めた。
「これは……亜人よりも先に、魔法を使い切りそうだね」
エニアが苦笑を浮かべたのであった。
とにかく、数だけは無駄に多い。できるだけ多くの亜人を討ち滅ぼす事。それが、ハンター達の依頼内容でもある。追いついた仲間と合流し、更なる攻勢にでた。
●『厳しさ』を知る者
追撃戦が終了し、ハンター達は、件の男性の遺体の傍に戻って来た。
巫女であるUiscaが荼毘の準備を行っている。こういう負の感情を持ったまま死んだ存在は、雑魔化するという迷信はあながちあり得そうな話しである。
「……という事なんだよ。正直、もう、あの事件は、無くなったのかと思ってたよ……」
エニアが仲間達に、壺と雑魔を巡るいくつかの怪事件を説明していた。
少女が引き起こしたとされる港町と古都における事件を聞き、時雨は、ふーんと何度も頷いていた。
「ノゾミさん、いったいどうして……」
視線を落とすマヘル。
Uiscaの話しによると、主として仕えている歪虚の企みという。マヘルもその歪虚と遭遇した事があった。
「恋は、時として盲目よね」
「まさに、病だね」
アルラウネの言葉に、エニアがそんな感想を口にした。
果たして、その病が治る日は訪れるのだろうか。
「この男の最後を聞かせてくれないか?」
ヴァイスが亡骸の前で黙祷してから、Uiscaに頼んだ。
巫女は悲しげに頷くと、間際の事を、壺の事などを含んで話し始める。
(この人は助からなかったんだ……ま、しょーがないよね。望んで選んだ結果だしさ……うん)
話を聞きながら時雨は心の中でそう呟いていた。
生きようと思えば生きられた人生なのに、自分から死を望んだのだ。可哀想とは思う反面、贅沢だと思った。
世の中には、長生きしたくても出来ない人間は多くいるのだ。自ら死を望んで、その結果が、これなら、自業自得というものだ。
「……と最後まで世界を恨みながら、逝きました」
「ありがとう、イスカ」
話を一通り聞き終え、ヴァイスは改めて遺体に向かって黙祷すると、誰に向かってではなく、口を開いた。
「人は……弱い。俺も、あの日あの時、あんたの前に現れた『存在』に出会ったら……」
昔の事を思い出しながら彼の話しは続く。
「でも、今は違う。あんたの為にも、同じように犠牲になった人達の為にも、その『存在』を『人』として、必ず花を添えさせるよ。……今は安らかに眠ってくれ」
振り返ると、仲間達が見つめていた。
照れ隠すように、ヴァイスは頭をかく。
「誰しも、なにかしら闇を抱えているよね」
エニアが苦笑気味に言う。
そうこうしている内に、Uiscaが荼毘を起こした。
緩やかに天へと登って行く煙の中、Uiscaは澄んだ声で唄い始める。
「貴方方が旅立つ この世界は いっぱいの『厳しさ』とほんの少しの『優しさ』で 溢れている……」
その歌声は遠く響いていった。
耳を傾けていた時雨が唐突に呟く。
「緑髪の少女、か……私のノゾミも叶えてくれるのかなー?」
「時雨さん?」
「な、なんでもない、っよ」
マヘルに聞こえていたようで、心配して声をかけてきて、時雨は慌てて応えた。
「そんな事ないです。しっかりと聞こえましたよ」
迫るマヘルに、おねーさんモードを見た時雨が、逃げ出そうと駆けだした。
今は、心配性になっていそうだから、捕まると話しが長くなりそうな気がした。
「待ちなさい、時雨さん!」
マヘルが追いかけていく。
「私も聞きたいわ」
ついで、アルラウネも走りだした。
3人の賑やかな声が、Uiscaの唄の中に混じる。
「まったく、荼毘中というのに、ね」
エニアが呆れた口調にヴァイスは苦笑を浮かべてる。そして、緑髪の少女に向かって、心の中で呼び掛けながら、煙が登る空を見上げたのであった。
(ノゾミ……。『死』を前提とした救いに疑問は感じないのか? 奴の言葉の前には、考えることも何もかも放棄してしまうのか?)
ハンター達の活躍と、ウィーダの街の兵士達の働きにより、亜人の軍団は文字通り、全滅に近い損害を出し、山に逃げ帰った。
ウィーダの街を利用した作戦全体は、最終的には、想定以上の戦果を上げ、是を以て、ウィーダの街での戦闘は終結した。
おしまい
●ネオ・ウィーダの街にて
一人の少女が路地を歩いていた。
フードを深く被り、表情は読み取れない。ただ、虚ろな瞳は不気味さを湛えている。
その雰囲気に恐れて、路地でくすぶっていたチンピラが声をかける事なく、少女に道を譲った。
早く通り過ぎろ! と思っていたチンピラの前でピタリと止まると、視線を向けて、こう、言ったのである。
「貴方のノゾミ、叶える事ができますよ」
と――。
「追撃戦……あまり気持ちがいいものではありませんね」
マヘル・ハシバス(ka0440)が複雑な心境を口にした。
背中を見せる亜人を後ろからバッサリするだけなのだが、残酷かなと思った。
「やることはやらなきゃ、ね。行くよ、マヘル……!」
小鳥遊 時雨(ka4921)がポンっとマヘルの肩を叩く。
色々な気持ちを抱えているのは、時雨も同様ではあるが、今は、依頼の最中だ。
ハンター達は追撃戦に参加していた。その最中に、突然、雑魔が現れたのだ。
「……壺とスライム!? 契約とはいえ、追撃戦に雑魔退治とは、人使い荒いよね~」
驚きながら、雑魔が引き起こした惨劇を見つめる十色 エニア(ka0370)。
だが、領主のその指揮は間違ってはいない。追撃戦を実行に移す為には、障害となる雑魔を速やかに排除しなければならないからであり、この戦場で、その役目にもっとも適しているのは、ハンター達なのだから。
一先ず、仲間達が巻き込まれないうちに、火球の魔法を使ってみたが、その程度ではビクともしていない様子だ。
「最近、ゴブリンかスライムしか相手にしてない気がするわね……」
アルラウネ(ka4841)が円を描く軌道で雑魔に接敵しながら斬りつけにいこうとして――急に、向きを変えた。
雑魔の近くに、男性が倒れていたからだ。兵士達の報告にあった、壺を投げつけた人間なのだろうか。
「負傷者ですか!?」
杖を構えてUisca Amhran(ka0754)も割って入った。先程、回復の龍奏を詠ったのだが、もう一度、詠うべきかどうか迷って――諦める。
男性の怪我の様子を見て、長くは持たないとすぐに分かったからだ。
(雑魔、壺、スライム……まさかな……)
ヴァイス(ka0364)の心の中で、ある事がよぎる。それを無理矢理、頭の隅や押しやると、バイクを駆ける勢いそのままに、上段から渾身の一撃を雑魔に叩き込んだ。
そこへ3本の光の筋がクロスしながら雑魔に突き刺さった。残りの筋は、それよりも後方、逃げる亜人達の背中に向かって行く。
「同時に狙う……それを出来ると確信している。私は……どんどん覚醒者に染まっていく。昔はそれが出来るか不安だったのに」
マヘルが放ったデルタレイであった。
雑魔の攻撃を避けて、通り抜ける。この機導術の効率良く使う為に、雑魔と亜人との間まで進むつもりなのだ。
「一気に、片をつけるべきですね」
マテリアルを集中するした杖を振るうUisca。全力で叩きつけたそれは、雑魔のスライム状の身体を十二分に凹ませた。
負傷者の治療が手遅れと分かった以上、一刻も早く、この雑魔を倒さなければと思ったからだ。せめて、安らかに逝かせてあげたい。
アルラウネも全力を出しきる勢いだ。大太刀を巧みに扱い、雑魔に取り込まれた亜人諸共に向かって斬撃を繰り出す。
「酸を? 違う。これは触手かしら? 全部、切り落としてあげるわ」
なにかを高速で射出してきた。それを避けながら、斬り落とすが、数が尋常じゃない。
何本が切り落としたしたが、無数の触手がアルラウネを取り囲もうとしたする。そこへ、火球が炸裂した。
「ありがとう、エニくん」
爆発位置を調整して、エニアが放ったファイアーボールだった。
アルラウネの周囲からボトボトと触手が落ちて行く。
「触手は……よくないんだよね」
なにか強烈なトラウマがあるのだろうか。深刻そうな表情でエニアが呟く。
そう……あれは、思い出してはいけない。ここに、あの時、一緒だったハンターはいないのだ。大丈夫、誰も――。
「エニアさん!」
Uiscaが呼ぶ声で、我に返ったエニア。
距離を取っていたはずなのに、雑魔から伸びた触手が、エニアの腕を掴もうとしていたからだ。
「とわぁー!」
近くにいた時雨が飛びかかる勢いでエニアを押し倒す。宙を抜けて行った触手の根本をアルラウネが切り落とした。
「エニア、大丈夫?」
「い、色々、大丈夫、じゃ、ない……」
結果的に、馬乗りした状態で訊いてくる時雨。
真っ赤になった顔を隠すようにエニアが両手で顔を覆っていた。
「これで、トドメだ!」
刀を振りあげたヴァイスが気合いの掛け声と共に、雑魔を切り捨てる。
刺激臭を漂わせながら、雑魔がボロボロと崩れ去って行った。
●音鐘の影
幾人かが亜人を追いかける中、マヘルは瀕死の男性に近付いた。
突然、戦場に現れ、壺を亜人に投げつけたら、中からスライム状の雑魔が出現したという。
「いったいなぜ、こんな事を……」
「……ぼ、僕の人生は……き、厳しかった。だから、全部、壊そうと……」
虫の息で応える男性。
苦痛で顔が歪んでいる。
「貴方はこの結末で満足でしたか?」
悲しげな表情を浮かべるUiscaの質問に男性は、顔を横に振った。
「満足……な、わけ……あるか……ちくしょう……ちくちょう……」
涙を流す男性の上半身をアルラウネが抱き抱える。
「なんで、スライムを……」
「少女に……緑髪の少女に、貰ったんだ。こんな世の中にした奴らを壊せる力だと」
その言葉に3人はお互いの顔を見つめ合った。
少女に、心当たりがあったからだ。
「どこで会ったのですか? その少女と」
マヘルの質問に男性は苦しみながらウィーダの街でだ、と口にした。
ウィーダの街を振り返る。煙がいくつも上がっていた。あの街は、今回の作戦で破壊される事になっている。今から、街に戻っても、少女の行方を捜すのは不可能だろう。
「やっぱり、ノゾミちゃんなのですね……」
Uiscaは違うと思うたいが、過去に、ノゾミが絡んでいると思われる事件との類似性、そして、ウィーダの街に滞在していた事を考えると、やはり、あの少女しか浮かばなかった。
遠くで亜人達の悲鳴にも似た叫び声が響く。仲間達が逃げる亜人の本隊に取りついたのだろう。
「死ね……死ね……シネェ……」
男性が苦痛と狂気に満ちた顔で呪詛の様に呟きながら、事切れる。
「私の温もりの中で、眠りなさい……」
アルラウネが優しく告げながら、男性の見開いた瞳を閉じた。
せめて、この男性が、恨みのあまり、歪虚と化さない事を思いながら。
「こんな結末が、本当に貴方のノゾミでしたか?」
マヘルは拳に力を入れながら、言葉を続けた。
「あの塔の時も思いましたが。人の誰かの力に成るとは、こういう意味ではないはずでしょう……」
見張り塔での出来事を思い出しながら、この場にいない緑髪の少女に呼び掛ける。
「私には、あのノゾミちゃんが、こんな事をするなんてと思うわ」
アルラウネも塔での事を思い出しながら言った。
あの時のノゾミの笑顔に偽りはなかった。瞳の輝きは純粋だった。
「可能性としては、あのイケメンさんの歪虚ですね」
胸元でギュッと両手を組んだUiscaの言葉に、マヘルは、その歪虚が誰なのか、すぐに見当がついた。
「ノゾミさんの想いを利用している者がいるなら絶対に、私は許したくはない」
「同感です」
マヘルの決意に、Uiscaは頷いた。
(ノゾミちゃんが、イケメンさんの負のマテリアルに飲まれているのなら……。それなら……)
頬をひっぱたいても正気に戻したいと思った。
あの歪虚の事が好きなのは分かる。だが、従属する事は恋愛でもなんでもない。ただの奴隷だ。
「行くわよ。まだ、依頼は終わっていないわ」
アルラウネが2人に呼び掛けた。彼女の言う通り、まだ、任務中なのだから。
●追撃戦
「流石に……当たるか自信ないね」
遠くを狙ってエニアが大弓を引き絞る。
その隣で、身長を遥かに超える巨大な和弓を構えているのは、時雨であった。
「わー! すごい数ー!」
数える気にもなれない亜人が我先へと山の方に向かって逃げているのだ。
ウィーダの街における作戦が大成功を収めた成果である。どの亜人も組織だって動く事を忘れ、命だけはと逃げる。中には、武器すら捨てている亜人もいた。
「タイミングと狙いを合わせるぞ」
ヴァイスも弓に矢を番えながら、仲間に呼び掛ける。
逃走方向前方に向かって放物線を描く様に撃つつもりなのだ。亜人達の必死な逃げっぷりは、それで躓くと、更なる混乱を引き起こすと踏んでいた。
「今だ!」
数本の矢は、狙い通り、先頭付近に向かって飛んでいく。
そして、不幸にも矢が刺さった亜人は転倒すると、後からと後から押してくる仲間に倒され、あるいは、踏まれる。
足並みが乱れた所に、更に降り注ぐハンター達の矢。
「思ったより大成功なのかな?」
エニアが状況を分析しながら、弓から魔術具としても使用できるナイフに武器を持ちかえる。
混乱して動きが鈍くなった所を、ファイアーボールの魔法で撃滅するつもりだ。
「これなら、俺は突撃するか」
刀に持ち替え、亜人の最後尾に向かって突撃するヴァイス。
闘狩人としての能力を活かし、近接戦闘で薙ぎ払った方が、弓で攻撃するよりも早いと思ったからだ。
もちろん、深追いするつもりはない。数だけで言うと、向こうは数百体いるのだから。
「反撃は、怖いからねー」
時雨は引き続き弓での射撃を繰り返す。
素早く矢を二本番えて放つと、その度に、亜人が二体倒れて行く。
そうして倒れていく亜人が増える程、亜人達の逃走速度が下がっているのだ。躓いたり、ぶつかったりと、もはや、軍団ではなく烏合の衆だ。
そこへ、側面からウィーダの街の騎馬隊による突撃が行われる。完全なワンサイドゲームだ。まともな反撃すらせずに亜人達はひたすら山を目指した。
「包囲しなくて良かったのか」
ヴァイスが刀を振り回す度に、複数の亜人が転がって行く。その姿を見ながら、ふと、時雨は思った。
(そーいえば、リアルブルーにあんな、無双な感じのゲームが、あった気がする……)
ここまで完璧に近い形なのは、ハンター達が亜人達の退路をわざと『開けていた』からだった。ハンター達も意識していたわけではないが、弓矢を使っての逃走防止は、想定以上の結果をもたらしていた。
更に、亜人の集団の中で、大爆発が発生する。
十数体が吹き飛んだ。辛うじて生き残っている亜人もいるが、無視しても問題ないだろう。エニアは次に打ち込む場所をすぐに決めた。
「これは……亜人よりも先に、魔法を使い切りそうだね」
エニアが苦笑を浮かべたのであった。
とにかく、数だけは無駄に多い。できるだけ多くの亜人を討ち滅ぼす事。それが、ハンター達の依頼内容でもある。追いついた仲間と合流し、更なる攻勢にでた。
●『厳しさ』を知る者
追撃戦が終了し、ハンター達は、件の男性の遺体の傍に戻って来た。
巫女であるUiscaが荼毘の準備を行っている。こういう負の感情を持ったまま死んだ存在は、雑魔化するという迷信はあながちあり得そうな話しである。
「……という事なんだよ。正直、もう、あの事件は、無くなったのかと思ってたよ……」
エニアが仲間達に、壺と雑魔を巡るいくつかの怪事件を説明していた。
少女が引き起こしたとされる港町と古都における事件を聞き、時雨は、ふーんと何度も頷いていた。
「ノゾミさん、いったいどうして……」
視線を落とすマヘル。
Uiscaの話しによると、主として仕えている歪虚の企みという。マヘルもその歪虚と遭遇した事があった。
「恋は、時として盲目よね」
「まさに、病だね」
アルラウネの言葉に、エニアがそんな感想を口にした。
果たして、その病が治る日は訪れるのだろうか。
「この男の最後を聞かせてくれないか?」
ヴァイスが亡骸の前で黙祷してから、Uiscaに頼んだ。
巫女は悲しげに頷くと、間際の事を、壺の事などを含んで話し始める。
(この人は助からなかったんだ……ま、しょーがないよね。望んで選んだ結果だしさ……うん)
話を聞きながら時雨は心の中でそう呟いていた。
生きようと思えば生きられた人生なのに、自分から死を望んだのだ。可哀想とは思う反面、贅沢だと思った。
世の中には、長生きしたくても出来ない人間は多くいるのだ。自ら死を望んで、その結果が、これなら、自業自得というものだ。
「……と最後まで世界を恨みながら、逝きました」
「ありがとう、イスカ」
話を一通り聞き終え、ヴァイスは改めて遺体に向かって黙祷すると、誰に向かってではなく、口を開いた。
「人は……弱い。俺も、あの日あの時、あんたの前に現れた『存在』に出会ったら……」
昔の事を思い出しながら彼の話しは続く。
「でも、今は違う。あんたの為にも、同じように犠牲になった人達の為にも、その『存在』を『人』として、必ず花を添えさせるよ。……今は安らかに眠ってくれ」
振り返ると、仲間達が見つめていた。
照れ隠すように、ヴァイスは頭をかく。
「誰しも、なにかしら闇を抱えているよね」
エニアが苦笑気味に言う。
そうこうしている内に、Uiscaが荼毘を起こした。
緩やかに天へと登って行く煙の中、Uiscaは澄んだ声で唄い始める。
「貴方方が旅立つ この世界は いっぱいの『厳しさ』とほんの少しの『優しさ』で 溢れている……」
その歌声は遠く響いていった。
耳を傾けていた時雨が唐突に呟く。
「緑髪の少女、か……私のノゾミも叶えてくれるのかなー?」
「時雨さん?」
「な、なんでもない、っよ」
マヘルに聞こえていたようで、心配して声をかけてきて、時雨は慌てて応えた。
「そんな事ないです。しっかりと聞こえましたよ」
迫るマヘルに、おねーさんモードを見た時雨が、逃げ出そうと駆けだした。
今は、心配性になっていそうだから、捕まると話しが長くなりそうな気がした。
「待ちなさい、時雨さん!」
マヘルが追いかけていく。
「私も聞きたいわ」
ついで、アルラウネも走りだした。
3人の賑やかな声が、Uiscaの唄の中に混じる。
「まったく、荼毘中というのに、ね」
エニアが呆れた口調にヴァイスは苦笑を浮かべてる。そして、緑髪の少女に向かって、心の中で呼び掛けながら、煙が登る空を見上げたのであった。
(ノゾミ……。『死』を前提とした救いに疑問は感じないのか? 奴の言葉の前には、考えることも何もかも放棄してしまうのか?)
ハンター達の活躍と、ウィーダの街の兵士達の働きにより、亜人の軍団は文字通り、全滅に近い損害を出し、山に逃げ帰った。
ウィーダの街を利用した作戦全体は、最終的には、想定以上の戦果を上げ、是を以て、ウィーダの街での戦闘は終結した。
おしまい
●ネオ・ウィーダの街にて
一人の少女が路地を歩いていた。
フードを深く被り、表情は読み取れない。ただ、虚ろな瞳は不気味さを湛えている。
その雰囲気に恐れて、路地でくすぶっていたチンピラが声をかける事なく、少女に道を譲った。
早く通り過ぎろ! と思っていたチンピラの前でピタリと止まると、視線を向けて、こう、言ったのである。
「貴方のノゾミ、叶える事ができますよ」
と――。
依頼結果
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サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/11 19:20:43 |
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相談卓~世の中は『 』に溢れて Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/09/15 20:43:01 |