ゲスト
(ka0000)
【聖呪】戦場の暗殺者
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/15 19:00
- 完成日
- 2015/09/22 22:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
--------------------
●八月三十一日・ヨーク丘陵の戦い
「報告は正確にしろ!」
ウェルズ・クリストフ・マーロウが声を荒げて戦場を見晴かすと、薄く戦塵の広がる先に、惑う騎兵の姿が見えた。中央、左翼にある丘の麓辺りか。戦場を穿つように伸びていた土煙が、とある一点で途切れている。
「奸計により騎兵突撃は防がれたのだな?」
「は! なだらかな丘陵の影に濠のように横長い穴があるようです!」
「濠? ここには戦場の推移によって偶然布陣したのだぞ、そのような……」
不意に湧き上がる不安。その勘に従って指示を出そうとしたマーロウだが――突如、眼前が爆発した。
幕僚の悲鳴。馬の高い嘶き。大量の土砂が落ちる鈍い音。
慌てるな。マーロウは叫んだ。が、声に出ていない。いつの間にか落馬し、その身が地面に横たわっている。
土の爆発。投石器による砲撃か? 今までこの敵軍に投石器はなかった。つまり。
――読んでおったか。
敵は端からこのヨーク丘陵を戦場と設定し、準備していたのだ。
やはり昨日、強権を以て進軍を留めるべきだった。マーロウは忸怩たる思いで土に腕をつく。そして気勢を吐くように命令した。
「全軍、死力を尽くせ! ハンターを中心として確固たる戦闘単位を作り、敵に当たるのだ!」
立ち上がりかけたマーロウはしかし、力尽くように倒れ伏した。自らの意識が遠のいていく感覚。マーロウは皺だらけの拳を握り、思った。
戦闘は止まらない。時代も止まらない。故に私もまた止まる事などできぬ、と。
--------------------
●【聖呪】戦場の暗殺者
マーロウ大公麾下の諸部隊にあって、ホロウレイド戦士団は今回の茨小鬼との戦乱──その規模から言ってもう騒乱とは呼べない──の前に新設されたばかりの部隊であった。
大公の肝煎りで創設された精鋭たちである──と喧伝はされている。戦術や武芸に優れた若者たちを集め、選別が行われたのは事実である。が、その人員はあくまで、かのホロウレイドの戦いにおいて家長を失った貴族の次男や三男といった子息とその臣下たちを中心に構成されている。
新参者である。おまけに若輩者揃いである。当然のことながら、古参の将軍たちからは軽んじられる。
「ホロウレイド戦士団は後詰とする。別命あるまで後方にて待機しておれ」
一連の戦いが始まる前日。マーロウ大公軍本陣──
居並ぶ古参の将軍たちを前にして。ホロウレイド戦士団団長、ロビン・アラニス・グラインディーは、無言で頭を下げることで了承の意を示した。
帰隊後、副将役として随伴していた同戦士団所属の部隊長、幼馴染の男貴族、ハロルド・オリストは遠慮なくロビンに詰め寄った。
「なぜ主張せんのだ、お前は! 我々も前線に出させてくれ、と!」
ハロルドは言う。ホロウレイド戦士団はただの若造の部隊でない。既に実績を挙げていた。大公の先駆けとしていち早く王国北方へと入り、ゴブリンたちに襲われていたアーヴィーという村を救ったり、後から来る本隊の為に露払いや情報収集を担ってきた。
それがいけなかったのかも、とロビンはおくびにも出さずに思考した。これ以上戦果を奪われては、と、将軍たちが考えても無理はない。
「相手は経験豊かな古参の将軍たち──その判断に新参の孺子が異論を唱えたところで、更なる反感を買うだけだよ」
なに、すぐに次の機会はやってくるさ、とハロルドを宥めるロビン。
だが、それから一週間以上が経っても戦士団の待遇は変わらなかった。奮戦し武勲を挙げる味方を指をくわえて眺めるしかなかった。
「疎まれてますね」
「舐められてるのだ!」
同じく部隊長となった女貴族、セルマ・ベアトリア・マクネアーが肩を竦め。ハロルドが怒声と共に机を叩く。
そして、八月三十一日。ヨーク丘陵の戦い──
その日、戦士団は、同じく後詰として後方待機を命じられた部隊と共に、マーロウ大公の本陣の前面に展開していた。
同じ立場に置かされたその将軍は、武勲の立てられぬその立場を『貧乏くじ』とあけすけに不満を洩らし、不機嫌極まりない様子で膝を揺すった。その様子をロビンは横目で見つつ、ふと「これが本当の貧乏揺すり」とか思いつき。
「ぷっ……!」
声に出てしまっていたらしい。将軍の兵たちが思わず吹き出し、将軍がギロリと周囲を睨めつける。
慌てて正面の戦場へと視線を向けたロビンは…… そこに信じられない光景を目撃した。
正面の敵に対して行われた騎士たちの突撃が、戦場に掘られた壕によって破砕されていた。さらに、上空を飛び行く巨大な岩塊──それが大公の本陣を直撃する光景も。
「なんだ!? なにが起こっている!?」
慌てる将軍の元に、伝令から更なる報告がもたらされた。後衛に展開する各部隊に対して、敵が大鳥を用いた大規模な空挺強襲をしかけてきている、と──
「大公閣下が危ない……! ハロルド! セルマ! すぐに本陣に戻るぞ。大公閣下を守り奉るのだ!」
「待て!」
急ぎ部隊に戻ろうとするロビンを将軍が呼び止めた。
「大公閣下の元には私が行く。お前たちは降下した小鬼どもを狩れ」
反論の一切を許さず、麾下の隊に手早く命令を発する将軍。その指示はロビンから見ても素早く的確だった。……自身が大公閣下の元に駆けつける、という一点を除いて。
「あの野郎…… 大公閣下の覚えをめでたくする為、真っ先に駆けつけようという魂胆が見え見えだぜ」
必要最小限のみの編成で急ぎ大公の元へと向かう将軍たちを見やりながら、ハロルドが地面に唾を吐く。
突如、断末魔の悲鳴が響き渡り、ロビンたちは後ろを振り返った。
大公閣下の元へ向かったはずの将軍たちが、何者かに襲われていた。何者か── そう、その何者かが分からなかった。何か薄らぼんやりとした人影のようなモノが、血煙の中に見え隠れするばかり……
「団長!」
「っ! 襲撃だ! 将軍閣下をお救いしろ!」
セルマに促され、ロビンが慌てて命を発する。散り散りに逃げ出した将軍の幕僚たちとすれ違い、将軍を中心に円陣を組んで全周を警戒する。
セルマが首を振る。将軍は既に事切れていた。ロビンは奥歯を噛み締めて目の前の敵を見た。
ぼんやりとした景色の中に、鉄灰色をしたゴブリンの顔が見えた。茨小鬼の暗殺者──おそらくは周囲の景色に溶け込むような、そんな能力を持っている。空挺に紛れる形で侵入したのだろう。目的は将軍や前線指揮官の暗殺か。
一方、茨小鬼の方も戸惑ったように互いに顔を見合わせていた。
視線が一体に集中し、その個体がコクリと頷く。
「命令、煌びやか、殺す…… 煌びやか、ミナゴロシ……」
ようやく判断をつけたのか、襲撃を仕掛ける茨小鬼の暗殺者たち。
貴族の子弟で編成された戦士団の装備は、将軍たちと同じく煌びやかなものであった。
●八月三十一日・ヨーク丘陵の戦い
「報告は正確にしろ!」
ウェルズ・クリストフ・マーロウが声を荒げて戦場を見晴かすと、薄く戦塵の広がる先に、惑う騎兵の姿が見えた。中央、左翼にある丘の麓辺りか。戦場を穿つように伸びていた土煙が、とある一点で途切れている。
「奸計により騎兵突撃は防がれたのだな?」
「は! なだらかな丘陵の影に濠のように横長い穴があるようです!」
「濠? ここには戦場の推移によって偶然布陣したのだぞ、そのような……」
不意に湧き上がる不安。その勘に従って指示を出そうとしたマーロウだが――突如、眼前が爆発した。
幕僚の悲鳴。馬の高い嘶き。大量の土砂が落ちる鈍い音。
慌てるな。マーロウは叫んだ。が、声に出ていない。いつの間にか落馬し、その身が地面に横たわっている。
土の爆発。投石器による砲撃か? 今までこの敵軍に投石器はなかった。つまり。
――読んでおったか。
敵は端からこのヨーク丘陵を戦場と設定し、準備していたのだ。
やはり昨日、強権を以て進軍を留めるべきだった。マーロウは忸怩たる思いで土に腕をつく。そして気勢を吐くように命令した。
「全軍、死力を尽くせ! ハンターを中心として確固たる戦闘単位を作り、敵に当たるのだ!」
立ち上がりかけたマーロウはしかし、力尽くように倒れ伏した。自らの意識が遠のいていく感覚。マーロウは皺だらけの拳を握り、思った。
戦闘は止まらない。時代も止まらない。故に私もまた止まる事などできぬ、と。
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●【聖呪】戦場の暗殺者
マーロウ大公麾下の諸部隊にあって、ホロウレイド戦士団は今回の茨小鬼との戦乱──その規模から言ってもう騒乱とは呼べない──の前に新設されたばかりの部隊であった。
大公の肝煎りで創設された精鋭たちである──と喧伝はされている。戦術や武芸に優れた若者たちを集め、選別が行われたのは事実である。が、その人員はあくまで、かのホロウレイドの戦いにおいて家長を失った貴族の次男や三男といった子息とその臣下たちを中心に構成されている。
新参者である。おまけに若輩者揃いである。当然のことながら、古参の将軍たちからは軽んじられる。
「ホロウレイド戦士団は後詰とする。別命あるまで後方にて待機しておれ」
一連の戦いが始まる前日。マーロウ大公軍本陣──
居並ぶ古参の将軍たちを前にして。ホロウレイド戦士団団長、ロビン・アラニス・グラインディーは、無言で頭を下げることで了承の意を示した。
帰隊後、副将役として随伴していた同戦士団所属の部隊長、幼馴染の男貴族、ハロルド・オリストは遠慮なくロビンに詰め寄った。
「なぜ主張せんのだ、お前は! 我々も前線に出させてくれ、と!」
ハロルドは言う。ホロウレイド戦士団はただの若造の部隊でない。既に実績を挙げていた。大公の先駆けとしていち早く王国北方へと入り、ゴブリンたちに襲われていたアーヴィーという村を救ったり、後から来る本隊の為に露払いや情報収集を担ってきた。
それがいけなかったのかも、とロビンはおくびにも出さずに思考した。これ以上戦果を奪われては、と、将軍たちが考えても無理はない。
「相手は経験豊かな古参の将軍たち──その判断に新参の孺子が異論を唱えたところで、更なる反感を買うだけだよ」
なに、すぐに次の機会はやってくるさ、とハロルドを宥めるロビン。
だが、それから一週間以上が経っても戦士団の待遇は変わらなかった。奮戦し武勲を挙げる味方を指をくわえて眺めるしかなかった。
「疎まれてますね」
「舐められてるのだ!」
同じく部隊長となった女貴族、セルマ・ベアトリア・マクネアーが肩を竦め。ハロルドが怒声と共に机を叩く。
そして、八月三十一日。ヨーク丘陵の戦い──
その日、戦士団は、同じく後詰として後方待機を命じられた部隊と共に、マーロウ大公の本陣の前面に展開していた。
同じ立場に置かされたその将軍は、武勲の立てられぬその立場を『貧乏くじ』とあけすけに不満を洩らし、不機嫌極まりない様子で膝を揺すった。その様子をロビンは横目で見つつ、ふと「これが本当の貧乏揺すり」とか思いつき。
「ぷっ……!」
声に出てしまっていたらしい。将軍の兵たちが思わず吹き出し、将軍がギロリと周囲を睨めつける。
慌てて正面の戦場へと視線を向けたロビンは…… そこに信じられない光景を目撃した。
正面の敵に対して行われた騎士たちの突撃が、戦場に掘られた壕によって破砕されていた。さらに、上空を飛び行く巨大な岩塊──それが大公の本陣を直撃する光景も。
「なんだ!? なにが起こっている!?」
慌てる将軍の元に、伝令から更なる報告がもたらされた。後衛に展開する各部隊に対して、敵が大鳥を用いた大規模な空挺強襲をしかけてきている、と──
「大公閣下が危ない……! ハロルド! セルマ! すぐに本陣に戻るぞ。大公閣下を守り奉るのだ!」
「待て!」
急ぎ部隊に戻ろうとするロビンを将軍が呼び止めた。
「大公閣下の元には私が行く。お前たちは降下した小鬼どもを狩れ」
反論の一切を許さず、麾下の隊に手早く命令を発する将軍。その指示はロビンから見ても素早く的確だった。……自身が大公閣下の元に駆けつける、という一点を除いて。
「あの野郎…… 大公閣下の覚えをめでたくする為、真っ先に駆けつけようという魂胆が見え見えだぜ」
必要最小限のみの編成で急ぎ大公の元へと向かう将軍たちを見やりながら、ハロルドが地面に唾を吐く。
突如、断末魔の悲鳴が響き渡り、ロビンたちは後ろを振り返った。
大公閣下の元へ向かったはずの将軍たちが、何者かに襲われていた。何者か── そう、その何者かが分からなかった。何か薄らぼんやりとした人影のようなモノが、血煙の中に見え隠れするばかり……
「団長!」
「っ! 襲撃だ! 将軍閣下をお救いしろ!」
セルマに促され、ロビンが慌てて命を発する。散り散りに逃げ出した将軍の幕僚たちとすれ違い、将軍を中心に円陣を組んで全周を警戒する。
セルマが首を振る。将軍は既に事切れていた。ロビンは奥歯を噛み締めて目の前の敵を見た。
ぼんやりとした景色の中に、鉄灰色をしたゴブリンの顔が見えた。茨小鬼の暗殺者──おそらくは周囲の景色に溶け込むような、そんな能力を持っている。空挺に紛れる形で侵入したのだろう。目的は将軍や前線指揮官の暗殺か。
一方、茨小鬼の方も戸惑ったように互いに顔を見合わせていた。
視線が一体に集中し、その個体がコクリと頷く。
「命令、煌びやか、殺す…… 煌びやか、ミナゴロシ……」
ようやく判断をつけたのか、襲撃を仕掛ける茨小鬼の暗殺者たち。
貴族の子弟で編成された戦士団の装備は、将軍たちと同じく煌びやかなものであった。
リプレイ本文
「敵はまた随分と便利な能力を持ってるみたいだね!」
将軍襲撃の報を受け、急遽、救援に駆けつけながら── 霧雨 悠月(ka4130)は見えざる敵に観察の視線を向けた。
敵の姿はまったく見えない……いや、当たりをつけて集中すれば、戦う人型の輪郭が薄らぼんやりと視認できるか。距離が縮まる程に少しは分かり易くなっていく。やはり遠目ほど見難いらしい。
(近づけば『そこに居る』くらいには見えるかな? でも、死角に回られたら気づきにくそう)
滲む汗。高まる鼓動── だが、悠月の顔に微笑が浮かぶ。──ただならぬ敵。その力は? 数は? ……ああ、ドキドキするね! 是非にでも戦ってみたい相手だよ!
「まさかこんな相手を出してくるとは。予想していませんでしたね……」
「小賢しい手を使いやがって…… ちっ、めんどくせー限りです!」
同様に戦場へ駆けながら、サクラ・エルフリード(ka2598)とシレークス(ka0752)。龍崎・カズマ(ka0178)も舌を打った。せめて雲間から陽が出さえすれば、地に落ちる影で敵の位置くらいは判別ができるだろうに……!
「なんにせよ…… まずは味方を救援します!」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)はそう宣言すると、正面、団員と切り結んでいる敵影へと突っ込んだ。
気づいた敵が振り返る。ユナイテルは構わず『踏込』み、前脚を踏み下ろすと同時に無鋒剣を降り下ろした。鈍い衝撃と共に千切れ飛ぶ敵の左腕── 続く流れるような連撃を、敵が小剣で受け凌ぐ。
(得物まで透明化か。厄介な……!)
反撃に備えるユナイテル。だが、敵は後ろへ跳び退さり、距離を取ることを優先する。
(今度は見えないゴブリンか…… 連中、どんどん色々な力を手に入れているな)
円陣右方に回り込みながら、カイン・マッコール(ka5336)は心中に呟いた。
新手の登場に、一旦、ススッと後方に下がる小鬼たち。──小賢しい敵。だが、どのような力を手に入れようと、ゴブリンは殺す──それだけだ。
「でも、幾ら姿を消そうとも、存在しているなら倒せない道理はねーです。さぁさぁ、わたくしはここにいやがります。かかってきやがれ!」
シレークスは淡く黄金色に輝き覚醒すると、サクラと共に円陣の左翼側へと突撃した。首から提げた聖印を揺らしつつ、棘突き鉄球を繋げた聖鉄鎖をぶるんぶるんとぶん回す。
だが、右翼側と同様に敵は交戦を避けて後ろに下がり…… 後、複数の投げナイフが一斉にシレークスに投擲された。慌てるシレークスの前にサクラがスッと進み出で。その内の幾らかを冷静な表情のまま盾と槍とで打ち落とす。
「Touche! 距離を空けての遊撃戦か。敵は自分の能力の旨みを分かっているね! ……などと感心している場合ではないか」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)は味方が敵を『押し返して』いる間に戦士団の元へと辿り着いた。
「将軍閣下は戦死、ですか…… ここは仇を討つことで、せめてもの弔いと致しましょう」
剣を眼前へと立てて数秒、騎士の礼を取るユナイテル。気持ちの良い気質の御仁ではなかったとは言え、むざむざ殺されてしまったとあっては流石に後味はよろしくない。
(指揮官だけをピンポイントで殺害……? どうやって判別したのかしら……)
そんな疑問を感じつつ、月影 夕姫(ka0102)は円陣を組む戦士たちのリーダーに呼びかけた。
「上から指示が下りてこない…… あなたは本陣に戻って指揮の混乱を収めてきてほしい」
夕姫は言った。指揮官がいないまま混乱が続けば、部隊全体の被害が大きくなる。この場を乗り切れたとしても、それでは意味がない。
イルムも言った。敵は後方の全域に亘って空挺強襲を仕掛けてきている。勿論、空挺のみで勝てるわけはないから、一時的・局所的な優勢によってこちらを混乱させるのが目的だろう。
「本陣を放っておくわけにはいかない。ここはボクたちにお任せあれっ!」
救援はロビン君とハロルド君、以下数名がいいだろう。セルマ君にはこちらで将軍の代わりに指揮を取ってもらう必要がある。
「……ともあれ、もう幾らか敵の数を減らしてからの話ですが!」
イルムの言葉が終わらぬ内に、四方から放たれる投げナイフ── とっさに籠手で首を庇ったカインに2本が命中し。1本は兜の角に当たって甲高い音と共に弾かれたものの、1本がカソックの帷子を貫いた。
「……『毒』か!」
揺れる視界にそれを察し、傷口を絞って血を捨てる。
そのカインの前に出たカズマは、ナイフの飛んで来た方向へ手持ちのスローイングカードを全て『広角に投射』したが、命中の手応えを得られず舌を打ち。
ナイフ投擲の支援の下、風景から染み出すように肉薄攻撃を仕掛けてくる敵複数。ユナイテルは団員と敵との間にその身を割り込ませ、振るわれた敵の刃を盾表面に滑らせる。
そのユナイテルの後方にスルリと回り込む別の敵── 乱戦下、小まめに周囲へ視線を振って警戒していた悠月の『超感覚』がそれを捉え、悠月はそちらに向かってとっさにワイヤーウィップを振った。左腕でそれを受ける敵。その左腕に絡まる鞭── 瞬間、悠月は柄のスイッチを入れ、その敵左腕を籠手ごとズタズタにする……
「こういった手合いは…… とりあえずマーキングするのが常套よね!」
両手に持った『何か』を上下にシャカシャカ振って言いながら…… 夕姫は近接戦を仕掛けてきた敵影に向かってその何か──ビールと炭酸飲料の缶の蓋をブシュッと開けた。ブシャアッ! と勢い良く中身を飛び出す即席の水鉄砲。突然、酒を浴びせ掛けられた小鬼が怯んで一旦、その場を離脱する。
カインもまた吸った血を地面へ吐きつつ、荷から1リットルの牛乳瓶を引っこ抜くと、組み付きに来た小鬼の兜でかち割った。
「これならどう!?」
更に夕姫は鎌の刃をガッと地面へ突き立て、ずぶ濡れになった敵へ向かって抉った土をぶっかけ── 液体と土塊塗れになった人影は、だが、数秒後にはその土ごと見えなくなった。悠月が傷つけた小鬼も同様だ。真っ赤に染まった左腕を押さえつつ、憎悪の視線と共に消えていく。
敵の能力は物理的なものではなく、魔法的なものだった。身につけた衣服や得物ごとその身体を覆い隠す。
「円陣を維持しろ! 敵はただ見えないだけだ。背から襲われない限り恐れる必要はない!」
叫ぶカズマの内懐に入り込んだ敵影が『急所』へ突き入れる刃。痛ぇじゃねぇか! と叫びんで蹴りをくれると、小鬼は追撃を諦め、改めて距離を取る……
●
「フー……ム。なんだか妙に攻撃が偏っている気がするね。ゴブリンは確かに知恵が回る方だけど、基本、単純なはずなのだけれどなぁ……」
アウトレンジに徹する見えざる敵との神経すり減らす消耗戦── その最中、イルムは短銃に弾を込めつつ己の考えを口にした。
中折れた銃を戻して発砲するイルム。夕姫は確かに、と呟いた。その脳裏には先程の疑問──敵はどうやって指揮官を判断したのか?
「ゴブリンに人間の個体の識別が出来るとは思えねぇし…… 匂い……? 或いは見た目の何か……?」
カズマはふと『激戦区』へ視線をやった。そこは円陣の左側──シレークスとサクラの2人が戦うエリア。他の『戦区』に比べるとより多くの敵の攻撃がそちらに集まっているように思えた。
「だあぁぁぁっ! なぜにわたくしばかり狙いやがりますか!」
「……何か狙われるような事でもしたんじゃないですか? 真昼間からお酒を飲み干して、その匂いをプンプンさせているとか? ほら、蚊とかムカデは酒の匂いに集ると言いますし」
なんか会話を交わしながら。確かに、同じ場所に並んでいても、シレークスの方が多くの攻撃を引き受けているように見える。
「くっ……! だが、それならそれで好都合。サクラ、わたくしの代わりにぶっ飛ばしてやりやがれです!」
ぶんぶん振り回していた鎖を両手に掴み、『守りの構え』を取るシレークス。近づく敵を見定めて…… サクラはそちらへ魔槍を投げた。一投目は敵を捉えず、再び手元へ戻って来たそれを掴み…… シレークスが鎖で受けた敵へと目標を変え、突き立てる……
その光景を見て、カズマはふと気がついた。覚醒したシレークスの装備と身体は淡く黄金色に光っていた。
「……まさかな。鳥や鴉じゃあるまいし」
一方、円陣の反対側で見えない小鬼たちと切り結んでいた悠月は、ふと『超感覚』が捉えた『何か』に鼻を動かし…… 直後、側方から放たれた不意打ちの投げナイフを刀で叩き落した。
そして、気づいた。地面に落ちた血の跡を。つい今しがた感じたのは先の敵の血の臭いだ。
同じ頃、夕姫とカインも気づいた。戦場の地面に残された、水に塗れた足跡に──
「草地へ──!」
全員がハッとした。敵は自分の姿を消すことは出来ても、移動等によって生じる周囲の影響までは隠せない──!
「草地だ。草地へ移動しろ!」
「しかし、将軍閣下の遺体を残していくわけには……」
「えぇい、俺も手伝う。さっさと運べ!」
重い鎧と派手な装飾── これだから赤世界の軍隊は、と毒づいた瞬間。気づいたカズマが「まさか、本当に……?」と愕然とする。
「みんな! 外せる装飾品は外した方が良いかも! 防御力を著しく損なわない程度でいいから!」
悠月の呼びかけに、困惑し、顔を見合わせる団員たち。一方、ハンターたちは囮になるべく派手さを前面に押し出しにかかる。
「Hmm。それならいつも以上に華やかにレイピアを振るってみようかね」
「このローブでも派手に見えるかしら……」
ひゅんっ、とイルムが振り下ろすと同時に、細剣からひらと舞うマテリアルの華。七色に輝く大鎌の刃とローブを装備した己の姿を見下ろしながら、裾を摘んで夕姫が呟く。
「煌びやかな者を狙うなら、なぜ自分には来なかったのでしょうか……?」
不思議そうに小首を傾げたサクラは、直ぐ傍らにいる相棒を見て納得した。
「だから、なんで毎秒ごとに私ばかり狙いやがりますか!」(←金ぴか)
(ああ、誘蛾灯的な……)
「なるほど。ここならいくら見えづらくても関係ないですね」
「草の揺れ、動き、踏んだ跡、擦れる音…… 見えずとも位置を掴む方法はいくらでもあるのだよ!」
草地へと移動したハンターたちが反撃を開始した。
サクラは彼女に近づく草の動きを観察し…… 「そこですっ!」と魔槍を投擲してその胸部を打ち貫き。イルムもまた戦場にマテリアルの花弁を舞い散らせながら優雅に細剣を構えて突進。受けようとした敵の刃を揺れる刀身を振るってかわし、切っ先で喉元を捉える。
(ゴブリンは殺す。殺さなければ人が死ぬ。……だが、倒すのは別に他の人間でも構わない。俺は連中がこの世から消え失せさえすれば何でもいい)
まばらな草の原に立ち、騎兵銃を構えたカインは、だが、止めを刺すことには拘らず、牽制射撃に終始した。……彼の心の中には澱の様に亜人に対する恨みが沈殿していた。それは燃え盛る焔のような激しいものではなく…… 凍てつき、溶けることのないしこりとなって心の底に重くある……
そのカインの牽制射に追い立てられ、移動を強いられた複数の個体に向かって近接戦闘組が突っ込んだ。シレークスは草の原を分ける敵の移動の痕跡、その先頭に向けて棘突き鉄球をぶん投げる。鎖を宙に曳きつつ一直線に飛んでいった鉄球が小鬼の額に命中。敵は体液と何かをぶち撒けながら宙を仰け反り、地に倒る。
ユナイテルは周囲を走る草の音にジッと耳を傾けると…… 側方から振り下ろされた不意打ちの一撃を盾でもって受け止めた。そして今度は刃を滑らせずに力任せに押し返す。力比べに負けて体勢を崩した敵へ、ユナイテルは型通りに力強い一撃を振り下ろした。どうにか受けた小剣ごと敵を地面へ打ち倒し、その胸部を足で踏みつけ、止めの一撃を振り下ろす。
悠月もまた正面の敵へと仕掛けた。獣を模した金属鎧を纏うその身に獣の力を内に宿し、刀を風に唸らせつつ地を跳ね駆ける。……敵──左腕を負傷した小鬼が気づいた。構わず悠月はダンッ、と踏み込み、蒼白の光纏った刀身を横に薙ぐ。刃の咆哮── 敵の横を駆け抜けた悠月が姿勢も低く振り返る。……横腹を裂かれて、小鬼は倒れた。悠月を睨んで起き上がろうとして…… 血を吐き、そのまま動かなくなる。
「仕掛けるぞ!」
叫び、カズマもまた敵を牽制すべく前に出た。マテリアルの力を込めた脚で地を蹴り、爆発するような勢いで草の原から逃れ出た個体へつっかける。踏み込んだ大地から脚、腰、肩、肘、と余す事なく力を伝播し、見た目以上に重いその一撃でもって、受けた小剣を弾き飛ばすと、敵は短刀を引き抜きながら距離を取るべく後ろに下がり……
「……範囲攻撃、いきます」
「見え難くてもこれなら当たるでしょ!」
その先にサクラと夕姫がいた。サクラを中心に放たれる光の衝撃波。さらに夕姫が噴射させた火炎が大地を薙ぎ、カズマが追い込んで来た敵を打ち果たす。
カズマは親指を立てて2人に応えた。人海戦術による範囲同時攻撃── 手間はかかるが確実に数は減らせるだろう。 向こうの総数も判らない以上、確実性を取るべきだ。
「小賢しい手がいつまでも通用すると思わねーことですよ!」
「卑劣なゴブリンども! 恐れを知らぬなら掛かってくるがいい!」
得物についた血を振り落としながら、朗々とした声でシレークスとユナイテル。
草地に誘い込まれた敵は逃げることすら出来なかった。
『暗殺者』たちは全てハンターに倒され、『8体』の屍を野に晒すこととなった。
●
重傷を負って倒れたゴブリンを無感情に見下ろして…… カインはやおら膝をつくと、取り出した短剣で作業的に止めを刺した。
戦闘は終わった。誰もがそう思っていた。
風が草を渡る音に、弦のなる音が混じった。
その矢はもう選りにも選って、ロイドの『急所』を貫いた。
「っ!?」
ハンターたちが振り返る。『小弓』を手にした小鬼が『2体』、『窪地』の陰に潜んでいた。
「merde! まだ残っていましたか!」
イルムは細剣を引き抜くと、舞い散るマテリアルの花すら後置して一直線に地を駆けた。逃げようとする敵の喉を目にも留まらぬ速さで突き貫き、そのまま『電光石火』な動きで地を滑りもう1体の退路を断つ。
振り返ったその表情が恐怖に歪むより早く、文字通り『跳んで』……いや、『飛んで』来た夕姫がその小鬼に影を落とした。大鎌をクルリと回して敵の足元を薙ぎ、それが地に落ちるより早く『機導砲』で撃ち貫く。
駆け戻る。
毒矢を受けたロイドは既に意識を失っていた。
駆けつけてきた療兵が手当てを施し、一命は取り留めたものの…… その意識を回復するのは、暫し後のこととなる。
将軍襲撃の報を受け、急遽、救援に駆けつけながら── 霧雨 悠月(ka4130)は見えざる敵に観察の視線を向けた。
敵の姿はまったく見えない……いや、当たりをつけて集中すれば、戦う人型の輪郭が薄らぼんやりと視認できるか。距離が縮まる程に少しは分かり易くなっていく。やはり遠目ほど見難いらしい。
(近づけば『そこに居る』くらいには見えるかな? でも、死角に回られたら気づきにくそう)
滲む汗。高まる鼓動── だが、悠月の顔に微笑が浮かぶ。──ただならぬ敵。その力は? 数は? ……ああ、ドキドキするね! 是非にでも戦ってみたい相手だよ!
「まさかこんな相手を出してくるとは。予想していませんでしたね……」
「小賢しい手を使いやがって…… ちっ、めんどくせー限りです!」
同様に戦場へ駆けながら、サクラ・エルフリード(ka2598)とシレークス(ka0752)。龍崎・カズマ(ka0178)も舌を打った。せめて雲間から陽が出さえすれば、地に落ちる影で敵の位置くらいは判別ができるだろうに……!
「なんにせよ…… まずは味方を救援します!」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)はそう宣言すると、正面、団員と切り結んでいる敵影へと突っ込んだ。
気づいた敵が振り返る。ユナイテルは構わず『踏込』み、前脚を踏み下ろすと同時に無鋒剣を降り下ろした。鈍い衝撃と共に千切れ飛ぶ敵の左腕── 続く流れるような連撃を、敵が小剣で受け凌ぐ。
(得物まで透明化か。厄介な……!)
反撃に備えるユナイテル。だが、敵は後ろへ跳び退さり、距離を取ることを優先する。
(今度は見えないゴブリンか…… 連中、どんどん色々な力を手に入れているな)
円陣右方に回り込みながら、カイン・マッコール(ka5336)は心中に呟いた。
新手の登場に、一旦、ススッと後方に下がる小鬼たち。──小賢しい敵。だが、どのような力を手に入れようと、ゴブリンは殺す──それだけだ。
「でも、幾ら姿を消そうとも、存在しているなら倒せない道理はねーです。さぁさぁ、わたくしはここにいやがります。かかってきやがれ!」
シレークスは淡く黄金色に輝き覚醒すると、サクラと共に円陣の左翼側へと突撃した。首から提げた聖印を揺らしつつ、棘突き鉄球を繋げた聖鉄鎖をぶるんぶるんとぶん回す。
だが、右翼側と同様に敵は交戦を避けて後ろに下がり…… 後、複数の投げナイフが一斉にシレークスに投擲された。慌てるシレークスの前にサクラがスッと進み出で。その内の幾らかを冷静な表情のまま盾と槍とで打ち落とす。
「Touche! 距離を空けての遊撃戦か。敵は自分の能力の旨みを分かっているね! ……などと感心している場合ではないか」
イルム=ローレ・エーレ(ka5113)は味方が敵を『押し返して』いる間に戦士団の元へと辿り着いた。
「将軍閣下は戦死、ですか…… ここは仇を討つことで、せめてもの弔いと致しましょう」
剣を眼前へと立てて数秒、騎士の礼を取るユナイテル。気持ちの良い気質の御仁ではなかったとは言え、むざむざ殺されてしまったとあっては流石に後味はよろしくない。
(指揮官だけをピンポイントで殺害……? どうやって判別したのかしら……)
そんな疑問を感じつつ、月影 夕姫(ka0102)は円陣を組む戦士たちのリーダーに呼びかけた。
「上から指示が下りてこない…… あなたは本陣に戻って指揮の混乱を収めてきてほしい」
夕姫は言った。指揮官がいないまま混乱が続けば、部隊全体の被害が大きくなる。この場を乗り切れたとしても、それでは意味がない。
イルムも言った。敵は後方の全域に亘って空挺強襲を仕掛けてきている。勿論、空挺のみで勝てるわけはないから、一時的・局所的な優勢によってこちらを混乱させるのが目的だろう。
「本陣を放っておくわけにはいかない。ここはボクたちにお任せあれっ!」
救援はロビン君とハロルド君、以下数名がいいだろう。セルマ君にはこちらで将軍の代わりに指揮を取ってもらう必要がある。
「……ともあれ、もう幾らか敵の数を減らしてからの話ですが!」
イルムの言葉が終わらぬ内に、四方から放たれる投げナイフ── とっさに籠手で首を庇ったカインに2本が命中し。1本は兜の角に当たって甲高い音と共に弾かれたものの、1本がカソックの帷子を貫いた。
「……『毒』か!」
揺れる視界にそれを察し、傷口を絞って血を捨てる。
そのカインの前に出たカズマは、ナイフの飛んで来た方向へ手持ちのスローイングカードを全て『広角に投射』したが、命中の手応えを得られず舌を打ち。
ナイフ投擲の支援の下、風景から染み出すように肉薄攻撃を仕掛けてくる敵複数。ユナイテルは団員と敵との間にその身を割り込ませ、振るわれた敵の刃を盾表面に滑らせる。
そのユナイテルの後方にスルリと回り込む別の敵── 乱戦下、小まめに周囲へ視線を振って警戒していた悠月の『超感覚』がそれを捉え、悠月はそちらに向かってとっさにワイヤーウィップを振った。左腕でそれを受ける敵。その左腕に絡まる鞭── 瞬間、悠月は柄のスイッチを入れ、その敵左腕を籠手ごとズタズタにする……
「こういった手合いは…… とりあえずマーキングするのが常套よね!」
両手に持った『何か』を上下にシャカシャカ振って言いながら…… 夕姫は近接戦を仕掛けてきた敵影に向かってその何か──ビールと炭酸飲料の缶の蓋をブシュッと開けた。ブシャアッ! と勢い良く中身を飛び出す即席の水鉄砲。突然、酒を浴びせ掛けられた小鬼が怯んで一旦、その場を離脱する。
カインもまた吸った血を地面へ吐きつつ、荷から1リットルの牛乳瓶を引っこ抜くと、組み付きに来た小鬼の兜でかち割った。
「これならどう!?」
更に夕姫は鎌の刃をガッと地面へ突き立て、ずぶ濡れになった敵へ向かって抉った土をぶっかけ── 液体と土塊塗れになった人影は、だが、数秒後にはその土ごと見えなくなった。悠月が傷つけた小鬼も同様だ。真っ赤に染まった左腕を押さえつつ、憎悪の視線と共に消えていく。
敵の能力は物理的なものではなく、魔法的なものだった。身につけた衣服や得物ごとその身体を覆い隠す。
「円陣を維持しろ! 敵はただ見えないだけだ。背から襲われない限り恐れる必要はない!」
叫ぶカズマの内懐に入り込んだ敵影が『急所』へ突き入れる刃。痛ぇじゃねぇか! と叫びんで蹴りをくれると、小鬼は追撃を諦め、改めて距離を取る……
●
「フー……ム。なんだか妙に攻撃が偏っている気がするね。ゴブリンは確かに知恵が回る方だけど、基本、単純なはずなのだけれどなぁ……」
アウトレンジに徹する見えざる敵との神経すり減らす消耗戦── その最中、イルムは短銃に弾を込めつつ己の考えを口にした。
中折れた銃を戻して発砲するイルム。夕姫は確かに、と呟いた。その脳裏には先程の疑問──敵はどうやって指揮官を判断したのか?
「ゴブリンに人間の個体の識別が出来るとは思えねぇし…… 匂い……? 或いは見た目の何か……?」
カズマはふと『激戦区』へ視線をやった。そこは円陣の左側──シレークスとサクラの2人が戦うエリア。他の『戦区』に比べるとより多くの敵の攻撃がそちらに集まっているように思えた。
「だあぁぁぁっ! なぜにわたくしばかり狙いやがりますか!」
「……何か狙われるような事でもしたんじゃないですか? 真昼間からお酒を飲み干して、その匂いをプンプンさせているとか? ほら、蚊とかムカデは酒の匂いに集ると言いますし」
なんか会話を交わしながら。確かに、同じ場所に並んでいても、シレークスの方が多くの攻撃を引き受けているように見える。
「くっ……! だが、それならそれで好都合。サクラ、わたくしの代わりにぶっ飛ばしてやりやがれです!」
ぶんぶん振り回していた鎖を両手に掴み、『守りの構え』を取るシレークス。近づく敵を見定めて…… サクラはそちらへ魔槍を投げた。一投目は敵を捉えず、再び手元へ戻って来たそれを掴み…… シレークスが鎖で受けた敵へと目標を変え、突き立てる……
その光景を見て、カズマはふと気がついた。覚醒したシレークスの装備と身体は淡く黄金色に光っていた。
「……まさかな。鳥や鴉じゃあるまいし」
一方、円陣の反対側で見えない小鬼たちと切り結んでいた悠月は、ふと『超感覚』が捉えた『何か』に鼻を動かし…… 直後、側方から放たれた不意打ちの投げナイフを刀で叩き落した。
そして、気づいた。地面に落ちた血の跡を。つい今しがた感じたのは先の敵の血の臭いだ。
同じ頃、夕姫とカインも気づいた。戦場の地面に残された、水に塗れた足跡に──
「草地へ──!」
全員がハッとした。敵は自分の姿を消すことは出来ても、移動等によって生じる周囲の影響までは隠せない──!
「草地だ。草地へ移動しろ!」
「しかし、将軍閣下の遺体を残していくわけには……」
「えぇい、俺も手伝う。さっさと運べ!」
重い鎧と派手な装飾── これだから赤世界の軍隊は、と毒づいた瞬間。気づいたカズマが「まさか、本当に……?」と愕然とする。
「みんな! 外せる装飾品は外した方が良いかも! 防御力を著しく損なわない程度でいいから!」
悠月の呼びかけに、困惑し、顔を見合わせる団員たち。一方、ハンターたちは囮になるべく派手さを前面に押し出しにかかる。
「Hmm。それならいつも以上に華やかにレイピアを振るってみようかね」
「このローブでも派手に見えるかしら……」
ひゅんっ、とイルムが振り下ろすと同時に、細剣からひらと舞うマテリアルの華。七色に輝く大鎌の刃とローブを装備した己の姿を見下ろしながら、裾を摘んで夕姫が呟く。
「煌びやかな者を狙うなら、なぜ自分には来なかったのでしょうか……?」
不思議そうに小首を傾げたサクラは、直ぐ傍らにいる相棒を見て納得した。
「だから、なんで毎秒ごとに私ばかり狙いやがりますか!」(←金ぴか)
(ああ、誘蛾灯的な……)
「なるほど。ここならいくら見えづらくても関係ないですね」
「草の揺れ、動き、踏んだ跡、擦れる音…… 見えずとも位置を掴む方法はいくらでもあるのだよ!」
草地へと移動したハンターたちが反撃を開始した。
サクラは彼女に近づく草の動きを観察し…… 「そこですっ!」と魔槍を投擲してその胸部を打ち貫き。イルムもまた戦場にマテリアルの花弁を舞い散らせながら優雅に細剣を構えて突進。受けようとした敵の刃を揺れる刀身を振るってかわし、切っ先で喉元を捉える。
(ゴブリンは殺す。殺さなければ人が死ぬ。……だが、倒すのは別に他の人間でも構わない。俺は連中がこの世から消え失せさえすれば何でもいい)
まばらな草の原に立ち、騎兵銃を構えたカインは、だが、止めを刺すことには拘らず、牽制射撃に終始した。……彼の心の中には澱の様に亜人に対する恨みが沈殿していた。それは燃え盛る焔のような激しいものではなく…… 凍てつき、溶けることのないしこりとなって心の底に重くある……
そのカインの牽制射に追い立てられ、移動を強いられた複数の個体に向かって近接戦闘組が突っ込んだ。シレークスは草の原を分ける敵の移動の痕跡、その先頭に向けて棘突き鉄球をぶん投げる。鎖を宙に曳きつつ一直線に飛んでいった鉄球が小鬼の額に命中。敵は体液と何かをぶち撒けながら宙を仰け反り、地に倒る。
ユナイテルは周囲を走る草の音にジッと耳を傾けると…… 側方から振り下ろされた不意打ちの一撃を盾でもって受け止めた。そして今度は刃を滑らせずに力任せに押し返す。力比べに負けて体勢を崩した敵へ、ユナイテルは型通りに力強い一撃を振り下ろした。どうにか受けた小剣ごと敵を地面へ打ち倒し、その胸部を足で踏みつけ、止めの一撃を振り下ろす。
悠月もまた正面の敵へと仕掛けた。獣を模した金属鎧を纏うその身に獣の力を内に宿し、刀を風に唸らせつつ地を跳ね駆ける。……敵──左腕を負傷した小鬼が気づいた。構わず悠月はダンッ、と踏み込み、蒼白の光纏った刀身を横に薙ぐ。刃の咆哮── 敵の横を駆け抜けた悠月が姿勢も低く振り返る。……横腹を裂かれて、小鬼は倒れた。悠月を睨んで起き上がろうとして…… 血を吐き、そのまま動かなくなる。
「仕掛けるぞ!」
叫び、カズマもまた敵を牽制すべく前に出た。マテリアルの力を込めた脚で地を蹴り、爆発するような勢いで草の原から逃れ出た個体へつっかける。踏み込んだ大地から脚、腰、肩、肘、と余す事なく力を伝播し、見た目以上に重いその一撃でもって、受けた小剣を弾き飛ばすと、敵は短刀を引き抜きながら距離を取るべく後ろに下がり……
「……範囲攻撃、いきます」
「見え難くてもこれなら当たるでしょ!」
その先にサクラと夕姫がいた。サクラを中心に放たれる光の衝撃波。さらに夕姫が噴射させた火炎が大地を薙ぎ、カズマが追い込んで来た敵を打ち果たす。
カズマは親指を立てて2人に応えた。人海戦術による範囲同時攻撃── 手間はかかるが確実に数は減らせるだろう。 向こうの総数も判らない以上、確実性を取るべきだ。
「小賢しい手がいつまでも通用すると思わねーことですよ!」
「卑劣なゴブリンども! 恐れを知らぬなら掛かってくるがいい!」
得物についた血を振り落としながら、朗々とした声でシレークスとユナイテル。
草地に誘い込まれた敵は逃げることすら出来なかった。
『暗殺者』たちは全てハンターに倒され、『8体』の屍を野に晒すこととなった。
●
重傷を負って倒れたゴブリンを無感情に見下ろして…… カインはやおら膝をつくと、取り出した短剣で作業的に止めを刺した。
戦闘は終わった。誰もがそう思っていた。
風が草を渡る音に、弦のなる音が混じった。
その矢はもう選りにも選って、ロイドの『急所』を貫いた。
「っ!?」
ハンターたちが振り返る。『小弓』を手にした小鬼が『2体』、『窪地』の陰に潜んでいた。
「merde! まだ残っていましたか!」
イルムは細剣を引き抜くと、舞い散るマテリアルの花すら後置して一直線に地を駆けた。逃げようとする敵の喉を目にも留まらぬ速さで突き貫き、そのまま『電光石火』な動きで地を滑りもう1体の退路を断つ。
振り返ったその表情が恐怖に歪むより早く、文字通り『跳んで』……いや、『飛んで』来た夕姫がその小鬼に影を落とした。大鎌をクルリと回して敵の足元を薙ぎ、それが地に落ちるより早く『機導砲』で撃ち貫く。
駆け戻る。
毒矢を受けたロイドは既に意識を失っていた。
駆けつけてきた療兵が手当てを施し、一命は取り留めたものの…… その意識を回復するのは、暫し後のこととなる。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/09/15 18:57:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/12 10:13:18 |