• 東征

【東征】器ちゃん、迷子になる!2

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/09/15 19:00
完成日
2015/09/23 05:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――“何も考えるな”。それは、心をカラにしろという事だ。
 人柱に要求されるもの、それはマテリアルの伝達率。
 大いなる存在から放たれる力を正確に伝達する為には、余計な抵抗があってはならない。
 故に、何も考えてはいけない。人間らしさを得てはいけない。それは人柱には不要なのだから……しかし。

「……んっ? そうか、お前まだこの城にいたのか」
 十三魔同士の戦場にもなった龍尾城の中庭。そこで進められる宴の準備を眺める浄化の器にスメラギは足を止めた。
 スメラギ同様、大規模な儀式術の中継点、すなわち人柱になった器は体力を消耗し、肉体的にも傷を負った。
 特に急いで帰還する理由もなかった為、数日間この地で養生していたのだ。
「傷の具合はどうだ?」
「もうなんとも……そっちは?」
「俺様も問題ねぇ。西方連中のお陰で負担は軽減されていたし……黒龍が最後に力をわけてくれたからな」
 縁側に座って両足を遊ばせてた器は視線だけをスメラギに向け。
「私、あなたに興味があった」
「そうか。実は俺様もだ」
「私達はよく似てる」
「だが、決定的に違う」
 腕を組み、宴の準備を眺めるスメラギ。少女はゆっくりと立ち上がり、羽織った黒いローブのフードを手繰る。
「黒龍が命と引き換えに生かすほどの価値があなたにあるのか。私にはもう確かめる術もないけど」
「確かめにくればいいだろ、そんなもん」
「次があるかわからないし、その時まで私が生きているかも、あなたが生きているかもわからないから」
 少女が歩き出してもスメラギは振り返らず、ただ言葉だけを投げかける。
「俺様にとって黒龍は……そしてこの国は家族だった。確かに命懸けの役割だが、それは誰だって同じだ。誰かが特別に優れているわけでも、哀れなわけでもねぇ」
 ぴたりと足を止めた少女もまた振り返る事はしなかった。
「お前の力は確かに命を救ったんだぜ。俺様とお前の力は天地ほども違いはあるが、その事実だけは動かない」
「……立派だね、きみは」
 少しだけ感情の乗った優しい声に少年が振り返った時、少女の姿は消えた後だった。



「……でね、私が独自の改造を施した短剣をここぞとばかりに強化したら、クロウがばっきばきにしちゃってさぁ……」
「それ、クロウさんは悪くないんじゃない? 歪虚王との戦いだからって無理させるラキが……ん?」
 祭の準備が進められる天ノ都。その一画で少年は足を止めた。
 篠原神薙の視線の先、戦闘に巻き込まれたのか崩れてしまった茶屋の店先を片付けている少女がいた。
 それは今となっては別段珍しい光景ではないのだが、その少女が西方出身のエルフであるというのが目を引いたのだ。
「あの子、確か天龍陣作戦の……」
「ヤクザの女の子だよね?」
「ヤクザって……確かに黒ずくめの人達引き連れてたけど……」
 木製のベンチを直そうと、試行錯誤しているようだが、日曜大工の経験が全くないのか、まるでうまく行かないらしい。
「君、一人で何してるの?」
「うわっ、普通に行った!? カナギって女の子と見ると容赦なく声かけるよね……」
 唖然とするラキを無視してカナギが声をかけると、器の少女は振り返り。
「随分長い間ここにいた気がする……」
「うん?」
「こっちの話。このお店を修復しておかないと、おばちゃんが帰ってきた時にお店が開かないから……」
「え?」
「私はもうすぐ東方を去る……それまでにだんごを……だんご……っ」
 だらだらと汗を流しながら頭を抱える少女。ラキは神薙の上着をひっぱり。
「ねぇ、この子が何言ってるのかわかる?」
「うーん。だんごが食べたいんじゃないかな。だんごだったら、あっちの方に屋台が出てると思うよ」
 ガタンと音を立て、少女の手から廃材が落ちる。
「……なんで?」
「なんでと言われても……」
「だんごやさんじゃないのに?」
「お店が物理的に潰れて開けない人があっちで屋台出してるんだよ。屋台ってわかる?」
「よくわからないけどわかった」
 慌てて走りだそうとするも、自分が置いたベンチの残骸に足を引っ掛け、盛大に転び……。
「おっと、危ない!」
 そうになるも神薙がキャッチ!
「……ねぇカナギ……あたしの気のせいならいいけど、またおっぱい触ってない?」
「えっ? これは不可抗力じゃなぶろばっ!?」
 神薙の顎にラキの拳がめり込むが、少年は器を落とさなかった! 実際エライ!
「もう! あたしそろそろ西方に帰るから! ロリコン変態バーカバーカ!」
 ズンズン歩き去っていくラキをきょとんと見送る器。
「……一緒に行かなくていいの?」
「ちょっと待ってね……今脳が揺れてて……」
「座る?」
「いやこのベンチ折れてるからね……うぐっ」
 青ざめた表情で器を下ろし、遅れて神薙は白目を向いて倒れこんだ。

リプレイ本文

「……おおう、こりゃまたキレイに顎に入ったなぁ。おーい、生きてっかー?」
 ラキが走り去っていくのを見届け、ケンジ・ヴィルター(ka4938)は神薙へ歩み寄る。
 地べたに倒れている神薙を助け起こすと、少年は青ざめた表情で小さく礼を言う。
「すみません……大丈夫です、ケンカとかじゃないので」
「ケンカじゃないならフられた……ってワケでもないか? ま、少し大人しくしとけ」
 傍らに立つ器の少女を一瞥しケンジは爽やかに笑う。
「君は転びそうになったその子を助けただけに見えたけど?」
 同じく通りがかった叢雲・咲姫(ka5090)が声をかけると、神薙は正直に。
「いえ、その時彼女の胸をわしづかみにしてしまったようで……」
「そりゃあ殴られもするでしょう……ん? でもなんであっちの子に……?」
 微妙に状況を推測しつつ、咲姫は苦笑を浮かべる。
「初心な顔して結構やるタイプなのかしらね?」
 神薙も落ち着いた頃合いで咲姫は手を差し伸べる。
「叢雲・咲姫よ。よろしくね」
 握手ついでに立ち上がると、少年は少し申し訳無さそうに笑った。

「なるほど、そんな事がねぇ……」
 事情を聞きながら歩く咲姫。少なくとも神薙に悪気はないというのはわかった。
 つまり天然というやつなのか。よく見てみると器の方も結構フワフワしている。
「なんつーか、危なっかしいカンジがするなあ、お嬢って。あんま世間慣れしてねーのかな?」
「ああ、それは……」
 ケンジの疑問に神薙が応えようとした時だ。道端に立って町を眺めていた春日 啓一(ka1621)が振り返り。
「ん……? 嬢ちゃんが確か器の……ホリィだっけか」
 身体に包帯を巻いた啓一はポケットに両手を入れたまま器に歩み寄る。
「この前化け狐の時に一緒にいた春日啓一だ。よく見てなかったが思ったよりかわいらしい嬢ちゃんだな」
 視線をハンター達へ映した啓一は小さく頭を下げた。

「へェ~。じゃあお嬢はあの九尾との戦いに参加してたのか」
「天龍陣の中核をなしていた筈だからな、それなりに重要人物だぜ」
「そんな風には見えないけどね~」
 啓一から説明を受けたケンジと咲姫は驚いた様子で器を眺める。
「あのでっけえ狐との戦いの中じゃ嬢ちゃんと話も出来なかったからな。自分が守った物が元気そうで良かった。町は……この有様だけどな」
 九尾との戦いで崩壊した天ノ都の復興には時間がかかる事だろう。
 風に髪を揺らす啓一。その背後で器は小刻みに振動している。
「だんご。だんご。だんご」
「…………なんかすげー団子団子言ってるけどこの嬢ちゃん大丈夫なのか?」
「壊れたラジカセみたいになってるな」
 啓一とケンジが冷や汗を流している頃、神薙は一人集団を離れて通りがかった人物に声をかけていた。
「銀さん!」
「神薙殿? 先の任務以来か。その節は世話になった」
 銀 真白(ka4128)は振り返り笑みを浮かべる。
「良かった、無事だったんだね」
「そちらも息災のようで何よりだ。ところで……あちらは神薙殿の連れではないのか?」
 振り返ると器が既にどこかへ向かおうとしている。
「あ、置いてかれてる……」
「あの少女は……確か此度の作戦で浄化の器と呼ばれていた……?」
「そうなんだよ。実は……」

 比較的復興と整理が済んだ大通りに屋台を並べ、鎮魂祭は催されていた。
 なけなしの飾り付けが暖色で夜を照らし、行き交う人々は傷つきながらも日常を取り戻そうとしている。
 柏木 秋子(ka4394)は祭の様子を一人瓦礫に腰掛けて眺めていた。
「ちょっと待ちなさいって! どこ行くのよ!?」
 そこへ突如全力疾走で人混みを駆け抜けていく少女が一人。
 器は無表情に瞳だけ輝かせ、マテリアルを帯びた足取りで屋台へ突っ込んでいく。
「足はえェなお嬢!」
「俺の知り合いによると、あいつは結構暴走する危険人物らしい」
「えぇ~!? 早く追いつかないと! 重要人物なんでしょ、一応!」
 バタバタと走っていく一行に首を傾げる秋子。その目の前に少年が急ブレーキで停止する。
「神薙殿、どうされたか?」
「君、リアルブルー人だよね?」
 突然声をかけられ驚く秋子に神薙は笑顔で手を伸ばした。
「良かったら一緒に来ない?」

「というわけで、七夜・真夕です。よろしくね!」
 器はケンジと啓一に左右から手を繋がれ取り押さえられていた。
「なんで一瞬目を離した隙に篠原君は女子を三人増やしてるの?」
 ジト目の咲姫の視線は、一緒にやってきた秋子や七夜・真夕(ka3977)ではなく神薙へ向けられていた。
「俺、リアルブルーの出身なんだ。それで転移者の話を聞いて回ってるから」
「それで片っ端からナンパってわけ? はあ……いくら天然とは言え、これは自業自得だわ」
 溜息を零す咲姫。真白は首を傾げ。
「この間も聞いた気がするのだが、ナンパとは一体……?」
「え? ナンパっていうのはねー」
「ナンパじゃないから!」
 ナンパについて教えようとする真夕に慌てる神薙。
「まァいいじゃねぇか。みんなヒマなんだろ?」
「そうね。せっかくのお祭りなんだから、みんな一緒の方が楽しいでしょ?」
 軽快に笑うケンジに咲姫は同意するようにウィンクした。

「器ちゃん……話は聞いたことあるけど会うのは初めてね」
 とりあえず目当ての団子を買い込むと、通りに面して作られた飲食スペースに立ち寄る事になった。
「凄まじい食べっぷりだな。ふと気になったのだが、巫女には戒律や禁忌があると聞く。飲食に関して問題はないのか?」
「人間扱いが禁止されてるけど」
「急にヘビーなのが来たわね……」
 真白の質問に平然と答える器。真夕は驚いた様子で。
「私もリアルブルーでは巫女の家系だったけど、こっちの巫女さんは大変なのね」
「人間扱いしてはいけないとなると、どう接したら良いのでしょうか……」
 困った様子の秋子に器は団子を頬張り。
「別に今は監視もないし、私が私を人間と思わない限りは問題ないから、いいんじゃない?」
 タレで口の周りがとんでもない事になっていると、咲姫がぐいぐいと拭ってやる。
「なんかスゴイ会話ねぇ……」
「あの……よかったらこれもどうぞ」
 秋子がおずおずと差し出したのはずんだ餅だ。
「枝豆を潰した餡で、お餅をくるんだものです。……甘くて美味しい……あ」
 素手でむんずと掴み、そのまま口に放り込まれた。
「ぱない」
「ぱな……?」
「はんぱない」
「良くわかりませんが、喜んで頂いたようでなによりです」
 ほっとしたように微笑む秋子。
「先の戦いではありがとうございました。貴女のおかげで、たくさんの人々が救われました」
「別に、言われた事をしただけだし」
「貴女にとってはそうかもしれないけれど……でも、私からの感謝の気持ちです」
 無表情に餅を頬張っていた器だが、突然びくりと震え、顔が青ざめていく。
「おいなんか詰まってねーか。水飲め水」
「おーよしよし、ゆっくり飲みなさいねー」
 咲姫が背中を軽く叩き、啓一が水を飲ませる。
「団子も美味いが、他の屋台も中々興味深いぞ。エルフハイムは林檎が美味いと聞くが、林檎飴も美味だ」
「俺はやっぱりたこ焼きかねェ~」
「あ……かき氷もありましたよ」
 真白の提案を皮切りにケンジと秋子が続く。咲姫は立ち上がり。
「よし。それじゃあ少し見て回りましょうか!」

「故郷の金魚すくいじゃ惨敗だったが、ここならワンチャンあるぜ!」
 瓦礫で作られた生簀を泳ぐ鯉のような魚に竹で出来た竿で挑む謎の魚釣りにケンジは袖をまくる。
「よし、早速……」
「あの嬢ちゃん生簀に入ってるぞ」
「……んんっ!? お嬢それはダメだ! 手掴みは禁止!」
 啓一の指差す先、器が生簀を泳いで鯉を抱えている。
「なんかあっちはスゴイ事になってるね」
 唖然とする神薙の隣、真白は吹き矢で的を狙う。
 狐の形をした的に吹き矢がグサリと突き刺さると、屋台のおやじが鈴を鳴らし、焼きたての煎餅を景品に渡す。
「おお……吹き矢でもやれるものだな……」
「柏木さんもやってみない?」
「私は……見ているだけでも楽しいですから」
 神薙の質問に秋子はそう言って微笑む。
「なんだか少しだけ、懐かしい雰囲気ですね」
「そうだね。俺はコロニー育ちの日本人だけど、縁日は知ってる」
「私も巫女の家系だから、お祭りは向こうを思い出すなぁ」
 真夕もしみじみと呟くと、真白は煎餅を割りながら振り返り。
「そういえば、此度の一行には異世界人が多いのだな。良かったらあちらの話も聞かせて貰えないだろうか?」
 四等分した戦利品をそれぞれ齧りつつ、ハンター達は談笑に興じる。
「釣ったどー!!」
 獲物が鯉という事に若干戸惑いつつもケンジは立派な魚を釣り上げる。
 その隣で啓一と器は獲物がかからず座ったままぼんやりとしていた。
「これ結構ガチで釣れねーな。こういうのは普通釣りやすいようになってるもんだが」
「こんな事して何が楽しいの? ただじっとしているだけなんて……」
「うおお! また釣ったどー!?」
 ケンジの方から大きな水柱が上がるのを見た器は、無表情にほっぺたをふくらませる。
「なんで?」
「わからん」
「なんで!?」
「いや俺にキレられても」
「こういうのは心を穏やかにしないとね。君達殺気立ってるんじゃない?」
「俺がというか俺の隣の奴が変なオーラ出してるからかもしれねぇな」
 びしょ濡れの器の頭を拭きながら咲姫は苦笑を浮かべる。
「釣っても食えねェからリリースするしかないんだよな……ん?」
 再び生簀に飛び込もうと暴れる器を二人が抑えている背後から近づく影があった。
 小さな影が器の荷物に手を伸ばした所でケンジはその手首を掴む。
 器が大金を持っている事は様子を見ていれば誰でもわかる事だ。
 不用心に置いてある財布に手を伸ばしたのは、ボロ布を纏った小さな少女であった。
「子供か……」
「どうしたのケンジ君?」
「ああ、いや……」
 ばつの悪そうに頬を掻くケンジ。器は財布から金貨を取り出し、それを指で弾くように少女に渡した。
 ケンジが手を話すと少女はハンター達を無感情な瞳で一瞥し、逃げるように走り去っていく。
「やっぱり少し目立ちすぎたかしらね?」
「……まァ、戦争の直後なんだ。こういう事もあるとは思ったが」
 周囲を警戒する咲姫にケンジは肩を落とす。
 賑やかさで誤魔化しているものの、ここは大量の死傷者を出した劣悪な戦場の跡地なのだ。
 この国の力は極端に弱っている。生き延びた人々がこれから先どのように生きていくのかを考えると憂鬱だった。

「死を哀しむのではなく、感謝する……その考え方は解る。身命を賭しても守るべきものを守れたのなら、それは立派に役目を果たしたのだと……そう誇って武人達は散っていった筈だ」
「だけど、遺された人にとって悲しみは事実だし、これから先が大変なのも変わらない現実なのよね」
 再び休憩がてら飲食スペースに戻ってきたハンター達は先の出来事を語り合っていた。
 真白や咲姫が話す隣、ケンジはたこ焼きを頬張りながら片目をつむり。
「でも、子供が生きてくのは大変だよなァ。両親を失った子は大勢いるだろうな」
「子供を失う両親も辛いものです。私は……子供がいなくなってしまった時の父と母の顔を、知っています」
 秋子は俯きがちに呟く。神薙はそんな悲しみと喜びが入り交じる祭を眺め。
「俺達異世界人も、沢山の物を置き去りにしてるんだよな」
「……軍に入ってロッソのクルーになって、初陣飾った直後に転移して、ハンターに転身したりこの世のモノとは思えねェ歪虚王との戦いをくぐり抜けたり。んで、今こうして東方の祭でメシ食ってて……やー、思えば結構遠い所まで来たなァ」
「あんたもあの船の乗組員だったのか」
「ってことは啓一もか? 嫌な事件だったなァ、ありゃ」
 黙って腕を組み目を瞑る啓一。秋子は自らの肩を抱き。
「私のせいで、きっと両親は悲しんでいると思います。けれど、目の前に困っている方がいるのなら助けたいんです。帰る事を諦めたわけではありませんが……」
「ああ、わかるぜ。こっちに来て世話になった人もいるもんな」
 啓一の言葉に秋子は頷く。
「篠原さん。貴女は……どうしたいですか?」
「俺にも家族や友達がいるから、いつかは帰らなきゃって思うよ。でも、俺達が今ココにいることには、何か意味があると思うんだ。俺達にしかできない事があるのだとしたら、その運命から目を逸らしちゃいけないんじゃないかな」
「へぇ~。かわいい顔して結構強いのね」
 優しく笑う咲姫に真白は頷き。
「神薙殿には先日任務で私と一緒になった時、こちらの身を案じて暖かな言葉をかけてもらった。自分こそ大変な身の上である中、気遣い有り難く感謝している」
「い、いや……そんなの当たり前の事だよ」
「神薙殿もいつか故郷に帰れるよう、私も協力しよう。あの不思議な機械人形も動くようになったのだから、大きな船も動くかもしれない」
「……そうだね。ありがとう、銀さん。俺もこっちの世界でやれる事、頑張るよ!」
 にっこりと笑い、真白の手を握る神薙。二人はしっかりと握手を交わす。
「強いんですね、篠原さんは……。ごめんなさい、辛気臭いお話をしてしまって」
「自分の迷いとしっかり向き合う柏木さんだって俺は強いと思うよ。色々大変だけどさ、一緒に頑張ろう」
 秋子にも手を差し伸べる神薙。その手を握り、秋子も少し照れ臭そうに笑う。
「そうですね。同じ世界で一緒に頑張れる人がいる……それってとても頼もしい事ですよね。だから、頑張ります。頑張りましょう」

 祭はその後、特に揉め事もなく穏やかに推移していった。
 風変わりな遊戯に興じ、かき氷で頭を痛める。そうやって楽しい時間は刻一刻と過ぎていく。
「ホリィ、これを持ってけ」
 かき氷に頭を抱える器に啓一が差し出したのは大きな弁当箱だ。蓋を開けると団子がギッシリ詰まっている。
「この弁当箱ならしばらくもつだろ。後忘れやすいって聞いたからもっかいな。俺の名は春日啓一、まあケイイチとでも覚えといてくれ」
「名乗られなくてもあなたの事は知ってるわ」
 弁当箱を抱え、器は薄っすらとその瞳を輝かせる。
「人には“縁”がある。覚醒者はその人間性の繋がりで生きている。自分が存在する証。他者の観測による個の証明。あなた達は独立しているようで、実は連続的な生き物だから」
 その時、夜空に轟音と共に火花が瞬いた。
「東方の花火は本格的だとさっき聞いたが、大したもんだな」
 光を見上げる少女の横顔から感情は読み取れない。啓一はズボンのポケットに片手を入れたまま、共に空を仰ぐ。
「縁があったら、また会おうぜ」
 一つの戦いが終わり、また新たな戦いが幕を開けるだろう。
 そうやって繰り返される嘆きと絶望の中で、それでも一つ一つ人は積み重ねていく。
 例えその生命が夜空に消えていく花火のようであっても。その一瞬の輝きに、全てをかけて……。

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参加者一覧

  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

  • 柏木 秋子(ka4394
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 頼れるアニキ
    ケンジ・ヴィルター(ka4938
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 双星の決刀
    叢雲・咲姫(ka5090
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/12 00:20:58
アイコン 質問の卓
ケンジ・ヴィルター(ka4938
人間(リアルブルー)|21才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/09/13 00:13:14
アイコン 相談の卓
ケンジ・ヴィルター(ka4938
人間(リアルブルー)|21才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/09/15 02:23:52