ゲスト
(ka0000)
【深棲】小さき村の護り手
マスター:雨龍一

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/26 19:00
- 完成日
- 2014/08/05 22:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
騎士団の仕事は王都の見回りだけではなく、日頃の訓練、近隣地区への遠征や砦の遠征など意外と多岐に渡っている。また、部隊によってはそれ以外にも派生していく仕事が存在する。それは見習いだけではなく、階級が上がるに従い増えていくのはどの社会でも同じなのであろう。
普段は4・5人からなる小隊を組み動く。それを作戦によって小さな小隊を連なり、展開していったりして用いていくのだ。訓練・見回りなどはこの小隊規模で動くのが常である。
そして、それは休暇時にも適用される。
「――あぁ、お前の休暇は取り止めだ」
一日休みなどは長期遠征がない限り週1単位で取られるのだが、数日単位でも休暇は遠征後ではない限り発生はしない。
愛馬の手入れをしていたスレイドは何事でもないように告げられた言葉に息を飲んだ。
そっと周りを見ると、げんなりとした顔が帰ってくる。
それもそのはず。先日の観光使節後に向かった砦の遠征から帰ってきたばかりなのだ。
これから十数日ぶりの休暇が堪能できる。行きつけの酒場で軽く一杯してから――そんな計画を立てていたのに、である。
どうやら、スレイド率いる小隊は休暇が消えたらしい。
深いため息をつきながら体を向き直ると、ずいと一枚の紙が差し出された。
――命令書
つまり、深くは追及するなとのことらしい。
受け取り開き見ると、そこに書かれていたのは近隣地域への特別見回りだった。
「……普段の小隊数では足りないと?」
日頃の業務の一環で近隣地区への見回りは入っている。しかし、書かれていたのは普段とは違う領主が存在する地域の派遣依頼だった。
「小隊長、どうしたんですか?」
普段は温厚で何を言われても動じない小隊長と定評がある。
その彼が、息をのみ込んだことに違和感を感じ取ったのだ。
「いえ……君たちは予定通り動いていてください。私は席を少し外します」
ふんわりと微笑み、奥の方へと――騎士団本部の方へと歩いて行った。
「失礼します。スレイドです」
短い返事の後に扉を開け一礼すると二人いる騎士団副団長のうち一人が座っていた。
「どうしたんだ?」
団長はどうしたんだろうとは思いつつも、このことは報告せずには動けない。
「実は――複数の地域から守備の強化の要請が出ていまして」
軽く眉が上がる。
「――たしか、君には派遣命令が出ていたはずだが」
「ええ、普段であれば領主が運用している私兵だけで賄えると窺っていましたが、今回はそこが対象になっているようで――失礼ですが、先日の会議で何かあったのでしょうか」
数多く開かれている会議でも、普段より多くなると疑問がわいてくる。もしかして――貴族たちの動きはこれに影響されたものなのかと問いたくなる。
顔を曇らせたところを見ると、遠からず…といったところなのだろう。
切り返すように、強く目を瞑るとスレイドは改めて言葉を紡いだ。
「お願いがございます。現自分の小隊におきましては休暇を。そして、自分におきましては暫くの間特別行動の許可を」
正した背筋から、告げた言葉の覚悟の大きさが見えた。
普段は4・5人からなる小隊を組み動く。それを作戦によって小さな小隊を連なり、展開していったりして用いていくのだ。訓練・見回りなどはこの小隊規模で動くのが常である。
そして、それは休暇時にも適用される。
「――あぁ、お前の休暇は取り止めだ」
一日休みなどは長期遠征がない限り週1単位で取られるのだが、数日単位でも休暇は遠征後ではない限り発生はしない。
愛馬の手入れをしていたスレイドは何事でもないように告げられた言葉に息を飲んだ。
そっと周りを見ると、げんなりとした顔が帰ってくる。
それもそのはず。先日の観光使節後に向かった砦の遠征から帰ってきたばかりなのだ。
これから十数日ぶりの休暇が堪能できる。行きつけの酒場で軽く一杯してから――そんな計画を立てていたのに、である。
どうやら、スレイド率いる小隊は休暇が消えたらしい。
深いため息をつきながら体を向き直ると、ずいと一枚の紙が差し出された。
――命令書
つまり、深くは追及するなとのことらしい。
受け取り開き見ると、そこに書かれていたのは近隣地域への特別見回りだった。
「……普段の小隊数では足りないと?」
日頃の業務の一環で近隣地区への見回りは入っている。しかし、書かれていたのは普段とは違う領主が存在する地域の派遣依頼だった。
「小隊長、どうしたんですか?」
普段は温厚で何を言われても動じない小隊長と定評がある。
その彼が、息をのみ込んだことに違和感を感じ取ったのだ。
「いえ……君たちは予定通り動いていてください。私は席を少し外します」
ふんわりと微笑み、奥の方へと――騎士団本部の方へと歩いて行った。
「失礼します。スレイドです」
短い返事の後に扉を開け一礼すると二人いる騎士団副団長のうち一人が座っていた。
「どうしたんだ?」
団長はどうしたんだろうとは思いつつも、このことは報告せずには動けない。
「実は――複数の地域から守備の強化の要請が出ていまして」
軽く眉が上がる。
「――たしか、君には派遣命令が出ていたはずだが」
「ええ、普段であれば領主が運用している私兵だけで賄えると窺っていましたが、今回はそこが対象になっているようで――失礼ですが、先日の会議で何かあったのでしょうか」
数多く開かれている会議でも、普段より多くなると疑問がわいてくる。もしかして――貴族たちの動きはこれに影響されたものなのかと問いたくなる。
顔を曇らせたところを見ると、遠からず…といったところなのだろう。
切り返すように、強く目を瞑るとスレイドは改めて言葉を紡いだ。
「お願いがございます。現自分の小隊におきましては休暇を。そして、自分におきましては暫くの間特別行動の許可を」
正した背筋から、告げた言葉の覚悟の大きさが見えた。
リプレイ本文
「すまない、力を借りる」
集まってくれたハンターたちに頭を下げると、スレイド達は村へと向かった。
「スレイドさんみたいなのは中間管理職っていうのかな?」
柊崎 風音(ka1074)の言葉にスレイドはがくりと肩を落とす。
「うに? ボク変な事言った?」
慌てる風音に大丈夫と返すも、そっと背中は何かを語っていた、が。
「色々大変なのですねぇ」
ほんわかと漏れた水雲 エルザ(ka1831)の言葉に追撃を受けていた。
そんな村へと向かう最中、現状について教えてくれる。
いつもであれば私兵が常駐している村だという。しかし、現在王国内の雑魔目撃の情報が多くなり騎士が派遣されるほか、領地内の安全強化のため私兵を呼び戻している貴族もいるという。
今回向う村も、その一つだ。
「実際、現在同盟や海方面にて強い個体の情報が入ってきている。そのため自治領の安全確保に走っている者もいるのだろう」
実際小さな村などは持ち回りのような場合があり、元々騎士が担当の時期もあるという。
「今回はどうやら先見部隊が発見したらしい。ゴブリンらしき者たちの小隊だ。彼らはそんなに 強くはないかもしれない。だが、統率者がいるような動きだと私は判断している」
入れ知恵されたのかもという言葉に簡潔に答える。
「ん~……ゴブリンってこんなにも知恵回るような奴らだっけ?」
メルディア・クロフィール(ka0525)が首を傾げると、そうだなと返した。
だからこそ、注意してほしいと。
「ゴブリンのくせに生意気ね……お仕置きしなきゃ」
綺麗すぎる笑顔のイシャラナ・コルビュジエ(ka1846)に若干後ろに体重をかけたように見えた。
「まぁ、仕事は仕事だぁな……しっかり稼がせてもらいますかねぇ」
わしゃりと髪を掻き揚げるハスキー(ka2447)の言葉に、無言で頷きあっていた。
村は至って簡素な場所だ。
畑が多く、他の目立った要素はない。いうなれば、農村部農耕地帯――その言葉が当てはまる地域だろう。
「何もないところだな……」
三船・啓司(ka0732)は猟銃を肩に担ぎながら辺りを見回す。
行楽はおろか、視界を遮るものすらない。唯一あるものは村の境界線ともいえる柵とそれに併設している物見台のみだ。
納屋などもあるにはあるが――村より離れている場所にあるものはゴブリンが来る方向とは違った位置にあり、使用するには難しいと言えた。
「獣ではないが、村に害を及ぼすなら、狩らねばな……」
本来であれば、狩るのは猪や狼だ。しかし、これから挑むのはゴブリンであり、道具を使う。
村人によると、確かに昔からゴブリンが度々姿を見せていたという。この地方ではよく見られることで、離れた場所に彼らの集落がある可能性が高い。今までは常駐している領主の私兵が蹴散らしてくれていたとのことだった。
しかし、今回はいない。そして領主が私兵を呼び戻したタイミングを見計らっての様に姿が確認されたらしい。
にらみ合いの均衡が崩れたようだ。そのため、いつもより兵力も多いようだ。
少ない人数で守るには、作戦が必須ともいえた。
スレイドは静かに加山 斬(ka1210)たちの立てた作戦を聞いていた。
それは一種の囮作戦ともいえる。各自村人を装って誘導するというのだ。
「ほぉ……ならば援護に回ろう」
スレイドもその作戦を聞き了承の意を告げた。
「でも、ゴブリンの狙いがどこなのかがわからないわ」
村を滅ぼすことなのか、それとも食糧を奪う事なのか。
イシャラナの指摘は確かに正しい。そして村人を装っているだけでは誘導できないのも確かであろう。
スレイドが作戦に補足していく。まずは、村人たちの安全を考慮して隠れていてもらうこと。
そして、誘導班と待ち伏せ班は村の境界線で行うこと。
つまりは、柵越しでというのだ。
何も視界を遮らい場所での、唯一の障害物。そして、それはつまり相手から見えない位置ともいえる。そこを利用してはどうだろうというのだ。
また、ゴブリン達は村を目指しているのは確実だ。囮は、村を出て一か所へと誘い込むところに速度をつけさせるものへと具体化していく。
椿原 葵(ka2566)がマントや村人から借りたボロ布を汚すことによって、より貧相に見えるように仕立て上げていく。また、風音はマントに藁などを括り付けギリースーツに見立てて作り上げる。
風景と一体化をすることにより、悟られずに攻撃ができるというのだ。
周りには何もない草原での偽装は難しい。だが、相手はゴブリン……確かに杖は持っている者もいるがそんなに知恵が回るものはいないだろうとの考えだ。
騎乗しているからといっても、それは戦術という良い移動手段に近いだろう。
なにより、王国との戦いが長い彼らだ、それなりに対峙している敵の行動を見て進化していても当然だとも思える。
彼らより上位種の敵がいたなら当然だ――今回の行動の予想は何よりもそれを匂わせているものだ。
準備は整った。村人からも物見台から確認が取れ始めたと声がかかったのだった。
●
メルディアは弓を構えるスレイドと共に後方から様子を見ていた。柵の裏だ。腕に構えたワンドと、腰に鞭が備わってる。そして遠目からでもわからないように、汚したローブを身にまとっていた。
ここからであれば、柵の間から様子が見られ、また引き寄せたゴブリン達に攻撃が可能となるだろう。
「最低でも狼だけでも……」
「ひぃ、攻めて来た!」
加山の声が聞こえる。それと共に二発の銃撃が聞こえるがどうも当たった気配はしない。
素早く武器を隠した布がはためくも、怯えながら走り回る様は名演技だ。
目の前で繰り広げられる作戦に、さすが知恵が回らなかった浅はかなゴブリン達が弱々しく装った姿に格好の獲物として見ていた。
彼と同じように村の外に出ていた水雲も草臥れたマントとフードでよろめきながら村へと走っていた。
そしてわざとなのだろう、逃げ惑う仕草を見せる葵がぼろ布をかぶっていた。
騎兵が動いた。後ろで声をかける者もいるようだが、言葉はわからない。しかし、どうやら雰囲気的には言い争いのように見える。
結局動きが早い騎兵ゴブリンが持った寸胴の刃物を掲げてニタリとする。ただでさえ歪んだ顔が不気味である。
列が乱れた。
その瞬間に思わず笑みが零れてしまう。
逃げ惑うように走る二人が向かう先――村からわずかな光が漏れた。
三船の銃口だ。
続けて鈍い音が聞こえる。
どうやら射程距離に入ったらしい。
そして続けて降り落ちてくる弓矢。イシャラナだ。
イシャナラの弓の射程距離は遥かに長い。そしてそれはスレイドも同じこと。射抜かれた対象は騎兵のゴブリンの狼だ。当たったショックか、上に乗っていたゴブリンすら振り落してしまう。
その音に加山は後ろを振り返り、すかさず布の下に隠していた銃を構え撃ちつける。
「まんまと引っ掛かりやがったな、これからが本番だぜ!」
唸る弾丸はそのままゴブリンの体に熱い痛みを刻み付けた。
そこへ村の入り口で張っていた風音がゴブリンの頭を狙い撃ちする。ギリースーツとかした迷彩ジャケットでは、どこから撃ったか相手に悟られにくい。
そして彼女の放った銃弾はまっすぐへとゴブリンの額へと吸い込まれていく。受けた衝撃で乗っている狼から落ちるも、その狼へは弓矢が襲ってきていた。
ハスキーのチャクラムがトドメとばかりに狼へと食い込んだ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……ね。滅せよ!」
葵の飛燕が彼女を追ってきた逸れモノを叩きつけた。
三船たち後方の照準が変わった。狼が次々と敗れ、騎乗していたゴブリンもまた虫の息のようだ。
そんな中、他のゴブリン達が攻撃を仕掛けてきた。
弓で攻撃してくるゴブリンを除けながら、前へと突き進んでくる歩兵を相手取り加山が七節棍をふるう。
「ふむ、初めて使ってみたが……この七節棍って攻守が揃ってて良い武器だな。射程も広いしなっ!」
撓る七節棍を振り回し、加山は近づくゴブリンを薙ぎ払った。
当たると同時に繋ぎ目が折れ、それが敵へと巻きつく形となってダメージを大きくしている。方向さえ気をつければ、そのまま長い棒のように振る舞うこともできるようだ。長く撓る蛇のようなそれを、初めてながらも華麗に扱っていく。
メルディアもまたウィンドカッターを操りながら離れたゴブリンを寄せ付けないように傷つけていく。
水雲の鞭がさらに追い打ちをかけ追撃を行っていた。
魔法を使おうとしていたゴブリンに遠射でさらに飛距離を伸ばしたイシャラナが打ち抜く。そのたびに集中が途切れ中々魔術が発動しないようだ。
近づく弓兵たちを三船は的確に仲間を除けながら射撃をしていく。積み上げられた藁と一体化した風音からもまた魔導砲が唸り声を上げていた。
移動速度を上げつつ舞う様に踏んだマルチステップで回避しながら、隙をついて葵が敵を翻弄すれば、そこにフィストガードへと持ち替えたハスキーの一撃が入る。
「動きで翻弄こそ、忍者の醍醐味……、葵、参るわ……」
そして空から落ちてきた矢で息絶えてく。スレイドのようだ。
数は多い。しかし、減らしていく方法は確実であり、現在もまた一匹、一匹が倒れていく。
誘いに乗った騎兵たちがきっかけになり、最初に危機とした集団の統一性は失われていた。そしてそれが失ってしまえば――烏合の衆である。
時間はかかるし、既に乱戦状態ではある。
が、彼らにとってそれは、そこまでの敵ではないと言えたのだった。
●
「ふぃー…疲れたぁ…。こんな疲れる仕事は暫く受けたくねぇなぁ…」
紙巻煙草に火をつけながらハスキーは肩の力を抜いた。
統制の取れなくなった時点で、既にゴブリン達は蹴散らすだけだった。そして今、戦いはまさに終わった状況だ。
村人たちにも笑顔が戻り、歓迎と礼を込めての歓待が始まっている。
加山の顔にも笑みが浮かんだ。
「あなたが調べたいことって何?」
イシャラナが先程まで酷使していた弓の手入れをしながら問いかけてくる。
これこそ、忍者の醍醐味ってね! と、生き生きとした葵が調べたところによると、どうやらこの村に派遣していた私兵を持つ貴族は、自分の領地の方へと兵士を集中させているらしい。慌ててこの村から招集したのだけではないようだ。
王国内各地で、どうやらここと同じ――襲撃が多発しているようである。
「俺は――」
スレイドは考える。
今では自分以外にも休暇が取りやめになった部隊は多いだろうと予測できる。
緊急事態だ。もしかしたら、交換条件に出した部下たちの休暇も取られてはいないのかもしれない。
ハンターズソサエティへと寄った時に耳にした話を思い出す。
同盟に出た敵――歪虚。しかも今まで見たことの無い形態を持つ存在らしい。
それによって、各国に動きがみられるだろう。王国も。
先日から繰り返されていた議会の数々を思い出しそっと目を閉じた。
日が経つにつれ苦悶の表情を浮かべるようになった団長。そしていつもは関わらないはずの副団長が自分のことについても知っていた。もしかしたら、彼も出てくるのかもしれない。
そして――王国の為に、何ができるだろう。騎士として、何をすべきなのだろう。ただ、任務を果たすだけではだめだと――心のどこかが叫んでいる。
「――この王国の状況、かな」
騎士――といってもスレイドは白の隊、王都を中心とした部隊の一員だ。
他の隊から情報が仕入れられないとは言わないが、それよりも今は地方へと動いて行った貴族たちの動きも把握していたい。
「それで、何か気がついた事あった?」
ボクにも教えてくれると嬉しいな♪ と、風音がくるりと笑顔を見せて聞いてくる。
何処まで話せるだろう……と、考えつつも、少しづつスレイドは語った。
「我々が守る王国は、過去にも――いや現在でも敵を抱えている。しかし、様子を見つつ牽制しているのが現状だと言える」
が、そこへとやってきた同盟の得体の知れない化物の襲来事件だ。これよりきっと、派兵が待ち構えているだろう。
「王国内は戦力がないのかい?」
ハスキーの言葉に首を振った。
「そういうわけではない。だが、情けないかもしれないが割ける戦力も少ないのだと思う」
つまり戦力を割くと抱えている敵への対応する力が減ってしまうこととなるのは一介の騎士にもわかる事であった。そのため、不安を覚えた貴族たちの中には自分の領地への被害を減らそうと私兵を引き上げているのかもしれない。それも、この村に来て確信へと変わった。
そして、これからは王都内の護りを騎士団と兵団だけでは賄えない現状が待ち受けているかもしれないことも。
「新たな敵が現れたのなら、今は静かにしているあいつらも、きっと動き出すだろうと、貴族たちも見ているのだろうな。私は――そこを踏まえつつ、隊長の意思を組んで動きたい」
もう二度と、王国に戦火を見せたくない。それが騎士になった思いだ。そして、白の隊――騎士団長の足となると。
「――覚悟を決めに来たのか」
三船が手入れが終わった猟銃を光に当てつつ聞いてくる。
「あぁ」
騎士団の中だけではわからない貴族や王国内での動き、そして――ハンターと触れ合う事での他国の情報の入手と意思の確認。
「命令書に書かれていたんだ。この任務終了後、同盟に向かうよ」
遠征軍の一人として。――王国を憂うる、一人の男として。
王国を思うが故に、一刻も早く他国の騒動の芽を摘まねばならないのだ……。
集まってくれたハンターたちに頭を下げると、スレイド達は村へと向かった。
「スレイドさんみたいなのは中間管理職っていうのかな?」
柊崎 風音(ka1074)の言葉にスレイドはがくりと肩を落とす。
「うに? ボク変な事言った?」
慌てる風音に大丈夫と返すも、そっと背中は何かを語っていた、が。
「色々大変なのですねぇ」
ほんわかと漏れた水雲 エルザ(ka1831)の言葉に追撃を受けていた。
そんな村へと向かう最中、現状について教えてくれる。
いつもであれば私兵が常駐している村だという。しかし、現在王国内の雑魔目撃の情報が多くなり騎士が派遣されるほか、領地内の安全強化のため私兵を呼び戻している貴族もいるという。
今回向う村も、その一つだ。
「実際、現在同盟や海方面にて強い個体の情報が入ってきている。そのため自治領の安全確保に走っている者もいるのだろう」
実際小さな村などは持ち回りのような場合があり、元々騎士が担当の時期もあるという。
「今回はどうやら先見部隊が発見したらしい。ゴブリンらしき者たちの小隊だ。彼らはそんなに 強くはないかもしれない。だが、統率者がいるような動きだと私は判断している」
入れ知恵されたのかもという言葉に簡潔に答える。
「ん~……ゴブリンってこんなにも知恵回るような奴らだっけ?」
メルディア・クロフィール(ka0525)が首を傾げると、そうだなと返した。
だからこそ、注意してほしいと。
「ゴブリンのくせに生意気ね……お仕置きしなきゃ」
綺麗すぎる笑顔のイシャラナ・コルビュジエ(ka1846)に若干後ろに体重をかけたように見えた。
「まぁ、仕事は仕事だぁな……しっかり稼がせてもらいますかねぇ」
わしゃりと髪を掻き揚げるハスキー(ka2447)の言葉に、無言で頷きあっていた。
村は至って簡素な場所だ。
畑が多く、他の目立った要素はない。いうなれば、農村部農耕地帯――その言葉が当てはまる地域だろう。
「何もないところだな……」
三船・啓司(ka0732)は猟銃を肩に担ぎながら辺りを見回す。
行楽はおろか、視界を遮るものすらない。唯一あるものは村の境界線ともいえる柵とそれに併設している物見台のみだ。
納屋などもあるにはあるが――村より離れている場所にあるものはゴブリンが来る方向とは違った位置にあり、使用するには難しいと言えた。
「獣ではないが、村に害を及ぼすなら、狩らねばな……」
本来であれば、狩るのは猪や狼だ。しかし、これから挑むのはゴブリンであり、道具を使う。
村人によると、確かに昔からゴブリンが度々姿を見せていたという。この地方ではよく見られることで、離れた場所に彼らの集落がある可能性が高い。今までは常駐している領主の私兵が蹴散らしてくれていたとのことだった。
しかし、今回はいない。そして領主が私兵を呼び戻したタイミングを見計らっての様に姿が確認されたらしい。
にらみ合いの均衡が崩れたようだ。そのため、いつもより兵力も多いようだ。
少ない人数で守るには、作戦が必須ともいえた。
スレイドは静かに加山 斬(ka1210)たちの立てた作戦を聞いていた。
それは一種の囮作戦ともいえる。各自村人を装って誘導するというのだ。
「ほぉ……ならば援護に回ろう」
スレイドもその作戦を聞き了承の意を告げた。
「でも、ゴブリンの狙いがどこなのかがわからないわ」
村を滅ぼすことなのか、それとも食糧を奪う事なのか。
イシャラナの指摘は確かに正しい。そして村人を装っているだけでは誘導できないのも確かであろう。
スレイドが作戦に補足していく。まずは、村人たちの安全を考慮して隠れていてもらうこと。
そして、誘導班と待ち伏せ班は村の境界線で行うこと。
つまりは、柵越しでというのだ。
何も視界を遮らい場所での、唯一の障害物。そして、それはつまり相手から見えない位置ともいえる。そこを利用してはどうだろうというのだ。
また、ゴブリン達は村を目指しているのは確実だ。囮は、村を出て一か所へと誘い込むところに速度をつけさせるものへと具体化していく。
椿原 葵(ka2566)がマントや村人から借りたボロ布を汚すことによって、より貧相に見えるように仕立て上げていく。また、風音はマントに藁などを括り付けギリースーツに見立てて作り上げる。
風景と一体化をすることにより、悟られずに攻撃ができるというのだ。
周りには何もない草原での偽装は難しい。だが、相手はゴブリン……確かに杖は持っている者もいるがそんなに知恵が回るものはいないだろうとの考えだ。
騎乗しているからといっても、それは戦術という良い移動手段に近いだろう。
なにより、王国との戦いが長い彼らだ、それなりに対峙している敵の行動を見て進化していても当然だとも思える。
彼らより上位種の敵がいたなら当然だ――今回の行動の予想は何よりもそれを匂わせているものだ。
準備は整った。村人からも物見台から確認が取れ始めたと声がかかったのだった。
●
メルディアは弓を構えるスレイドと共に後方から様子を見ていた。柵の裏だ。腕に構えたワンドと、腰に鞭が備わってる。そして遠目からでもわからないように、汚したローブを身にまとっていた。
ここからであれば、柵の間から様子が見られ、また引き寄せたゴブリン達に攻撃が可能となるだろう。
「最低でも狼だけでも……」
「ひぃ、攻めて来た!」
加山の声が聞こえる。それと共に二発の銃撃が聞こえるがどうも当たった気配はしない。
素早く武器を隠した布がはためくも、怯えながら走り回る様は名演技だ。
目の前で繰り広げられる作戦に、さすが知恵が回らなかった浅はかなゴブリン達が弱々しく装った姿に格好の獲物として見ていた。
彼と同じように村の外に出ていた水雲も草臥れたマントとフードでよろめきながら村へと走っていた。
そしてわざとなのだろう、逃げ惑う仕草を見せる葵がぼろ布をかぶっていた。
騎兵が動いた。後ろで声をかける者もいるようだが、言葉はわからない。しかし、どうやら雰囲気的には言い争いのように見える。
結局動きが早い騎兵ゴブリンが持った寸胴の刃物を掲げてニタリとする。ただでさえ歪んだ顔が不気味である。
列が乱れた。
その瞬間に思わず笑みが零れてしまう。
逃げ惑うように走る二人が向かう先――村からわずかな光が漏れた。
三船の銃口だ。
続けて鈍い音が聞こえる。
どうやら射程距離に入ったらしい。
そして続けて降り落ちてくる弓矢。イシャラナだ。
イシャナラの弓の射程距離は遥かに長い。そしてそれはスレイドも同じこと。射抜かれた対象は騎兵のゴブリンの狼だ。当たったショックか、上に乗っていたゴブリンすら振り落してしまう。
その音に加山は後ろを振り返り、すかさず布の下に隠していた銃を構え撃ちつける。
「まんまと引っ掛かりやがったな、これからが本番だぜ!」
唸る弾丸はそのままゴブリンの体に熱い痛みを刻み付けた。
そこへ村の入り口で張っていた風音がゴブリンの頭を狙い撃ちする。ギリースーツとかした迷彩ジャケットでは、どこから撃ったか相手に悟られにくい。
そして彼女の放った銃弾はまっすぐへとゴブリンの額へと吸い込まれていく。受けた衝撃で乗っている狼から落ちるも、その狼へは弓矢が襲ってきていた。
ハスキーのチャクラムがトドメとばかりに狼へと食い込んだ。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……ね。滅せよ!」
葵の飛燕が彼女を追ってきた逸れモノを叩きつけた。
三船たち後方の照準が変わった。狼が次々と敗れ、騎乗していたゴブリンもまた虫の息のようだ。
そんな中、他のゴブリン達が攻撃を仕掛けてきた。
弓で攻撃してくるゴブリンを除けながら、前へと突き進んでくる歩兵を相手取り加山が七節棍をふるう。
「ふむ、初めて使ってみたが……この七節棍って攻守が揃ってて良い武器だな。射程も広いしなっ!」
撓る七節棍を振り回し、加山は近づくゴブリンを薙ぎ払った。
当たると同時に繋ぎ目が折れ、それが敵へと巻きつく形となってダメージを大きくしている。方向さえ気をつければ、そのまま長い棒のように振る舞うこともできるようだ。長く撓る蛇のようなそれを、初めてながらも華麗に扱っていく。
メルディアもまたウィンドカッターを操りながら離れたゴブリンを寄せ付けないように傷つけていく。
水雲の鞭がさらに追い打ちをかけ追撃を行っていた。
魔法を使おうとしていたゴブリンに遠射でさらに飛距離を伸ばしたイシャラナが打ち抜く。そのたびに集中が途切れ中々魔術が発動しないようだ。
近づく弓兵たちを三船は的確に仲間を除けながら射撃をしていく。積み上げられた藁と一体化した風音からもまた魔導砲が唸り声を上げていた。
移動速度を上げつつ舞う様に踏んだマルチステップで回避しながら、隙をついて葵が敵を翻弄すれば、そこにフィストガードへと持ち替えたハスキーの一撃が入る。
「動きで翻弄こそ、忍者の醍醐味……、葵、参るわ……」
そして空から落ちてきた矢で息絶えてく。スレイドのようだ。
数は多い。しかし、減らしていく方法は確実であり、現在もまた一匹、一匹が倒れていく。
誘いに乗った騎兵たちがきっかけになり、最初に危機とした集団の統一性は失われていた。そしてそれが失ってしまえば――烏合の衆である。
時間はかかるし、既に乱戦状態ではある。
が、彼らにとってそれは、そこまでの敵ではないと言えたのだった。
●
「ふぃー…疲れたぁ…。こんな疲れる仕事は暫く受けたくねぇなぁ…」
紙巻煙草に火をつけながらハスキーは肩の力を抜いた。
統制の取れなくなった時点で、既にゴブリン達は蹴散らすだけだった。そして今、戦いはまさに終わった状況だ。
村人たちにも笑顔が戻り、歓迎と礼を込めての歓待が始まっている。
加山の顔にも笑みが浮かんだ。
「あなたが調べたいことって何?」
イシャラナが先程まで酷使していた弓の手入れをしながら問いかけてくる。
これこそ、忍者の醍醐味ってね! と、生き生きとした葵が調べたところによると、どうやらこの村に派遣していた私兵を持つ貴族は、自分の領地の方へと兵士を集中させているらしい。慌ててこの村から招集したのだけではないようだ。
王国内各地で、どうやらここと同じ――襲撃が多発しているようである。
「俺は――」
スレイドは考える。
今では自分以外にも休暇が取りやめになった部隊は多いだろうと予測できる。
緊急事態だ。もしかしたら、交換条件に出した部下たちの休暇も取られてはいないのかもしれない。
ハンターズソサエティへと寄った時に耳にした話を思い出す。
同盟に出た敵――歪虚。しかも今まで見たことの無い形態を持つ存在らしい。
それによって、各国に動きがみられるだろう。王国も。
先日から繰り返されていた議会の数々を思い出しそっと目を閉じた。
日が経つにつれ苦悶の表情を浮かべるようになった団長。そしていつもは関わらないはずの副団長が自分のことについても知っていた。もしかしたら、彼も出てくるのかもしれない。
そして――王国の為に、何ができるだろう。騎士として、何をすべきなのだろう。ただ、任務を果たすだけではだめだと――心のどこかが叫んでいる。
「――この王国の状況、かな」
騎士――といってもスレイドは白の隊、王都を中心とした部隊の一員だ。
他の隊から情報が仕入れられないとは言わないが、それよりも今は地方へと動いて行った貴族たちの動きも把握していたい。
「それで、何か気がついた事あった?」
ボクにも教えてくれると嬉しいな♪ と、風音がくるりと笑顔を見せて聞いてくる。
何処まで話せるだろう……と、考えつつも、少しづつスレイドは語った。
「我々が守る王国は、過去にも――いや現在でも敵を抱えている。しかし、様子を見つつ牽制しているのが現状だと言える」
が、そこへとやってきた同盟の得体の知れない化物の襲来事件だ。これよりきっと、派兵が待ち構えているだろう。
「王国内は戦力がないのかい?」
ハスキーの言葉に首を振った。
「そういうわけではない。だが、情けないかもしれないが割ける戦力も少ないのだと思う」
つまり戦力を割くと抱えている敵への対応する力が減ってしまうこととなるのは一介の騎士にもわかる事であった。そのため、不安を覚えた貴族たちの中には自分の領地への被害を減らそうと私兵を引き上げているのかもしれない。それも、この村に来て確信へと変わった。
そして、これからは王都内の護りを騎士団と兵団だけでは賄えない現状が待ち受けているかもしれないことも。
「新たな敵が現れたのなら、今は静かにしているあいつらも、きっと動き出すだろうと、貴族たちも見ているのだろうな。私は――そこを踏まえつつ、隊長の意思を組んで動きたい」
もう二度と、王国に戦火を見せたくない。それが騎士になった思いだ。そして、白の隊――騎士団長の足となると。
「――覚悟を決めに来たのか」
三船が手入れが終わった猟銃を光に当てつつ聞いてくる。
「あぁ」
騎士団の中だけではわからない貴族や王国内での動き、そして――ハンターと触れ合う事での他国の情報の入手と意思の確認。
「命令書に書かれていたんだ。この任務終了後、同盟に向かうよ」
遠征軍の一人として。――王国を憂うる、一人の男として。
王国を思うが故に、一刻も早く他国の騒動の芽を摘まねばならないのだ……。
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相談用 水雲 エルザ(ka1831) 人間(リアルブルー)|18才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/07/26 12:08:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/21 13:29:12 |