ゲスト
(ka0000)
メシ屋を救え! 無謀なる少女達の挑戦
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/19 09:00
- 完成日
- 2015/09/24 02:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
爽やかな早朝。
小さなメシ屋の裏庭からはいつもの音がテンポ良く響いていた。主が薪割りをしているのだ。……が。
「ぬぅあぁっ!」
リタとエマが階段を降りてきた所にそれは聞こえてきた。
「おやっさんかしら」
「『おやっさん』って呼ぶのどうかと思うけど……どうしたのかしら?」
二人が見たのは、薪割りの途中、振り上げた斧もそのままに固まっているおやっさん。……店主のことだが。
「お、お……あああ」
「ど、どうしたんです?!」
エマは駆け寄ると、握り締めていた柄からその指を引き剥がし、半ば無理矢理その場に座らせる。
顔色は悪く、流れる汗が尋常ではない。
「さては、ギックリ腰ねっ?」
何故か自信ありげにおやっさんを指差し、腰に手を当てたポーズで言い切るリタ。
「……指さしちゃだめよ」
突っ込む所はそれでいいのか。
「せ、正解だ……全く動けん……」
青から土気色に変化していく顔色。
「薪割りならやるわよ! 大きさがバラバラでも文句言わないならね!」
やはり偉そうに言い放つと、早速斧をスタンバって、リタは手慣れた様子で薪をセット。
「うぅむ……仕方ないか……それよりも、今日は厨房に立てそうもな……うぐぅ」
「困りましたね。女将さんも今は留守ですし……今日はお休みですね」
おやっさんの腰をさすりながら、エマが諦めたように言う。
「いや……それがマズいんだよ」
「マズいって?」
リタが斧を片手に会話に混ざる。
「今日は『GLK』の予約が入っているんだ」
「『GLK』?」
「あ、私聞いたことあるよ。『ご近所で(G)ランチする(L)会(K)』のことなんだって」
「そう、そのGLKのマダム達が来るんだ。それに選ばれた食堂は、何故かその後評判が上がるというジンクスがあるんだよ」
腰の痛みと格闘しているおやっさんは、何とも苦々しい表情。
お洒落で特別なものではなく、得意の家庭料理を良心的な値段で提供し、ほっと一息つける空間を作りたい。そんな願いで店主と女将さんが始めたこの店。
常連さんや通りすがりに来店する者もいて、普段はそれなりにやっていけていたのだが、ここ数ヶ月は、客足はまばら。
店自体はいつも掃除や手入れを欠かしていないし、味が落ちたわけでもない。『年だからなぁ』なんていう理由で、そろそろこの店も閉めようか、という話をしていた頃、ハンター志望でこの町にやって来たリタとエマが転がり込んだのだ。……空腹を抱えて。
おやっさんたちの孫くらいの年頃の姉妹が、たった二人で(現役ハンターの協力もあったのだが)この町のハンターオフィスに書類登録してきたのだという。
それがキッカケで、子供のいないおやっさんたちは、店の二階を二人に住居として提供し、さらには食事の世話までしているのだ。
「そのジンクスが本当ならな、腕によりをかけて作ってやろうと思ってたんだけどなぁ……諦めるしかねぇか」
腰が痛い所為で奇妙な格好で固まってしまったおやっさん。エマの力ではどうしようもない。
「おやっさん! 諦めるなんてらしくないわっ! あたしたちを誰だと思ってるのっ? 書類登録してきたハンターなのよっ!」
「……覚醒もまだしてないけどね、お姉ちゃん」
エマの突っ込みは取り敢えず無視。
「あたしたちに任せてみない? 大丈夫よ! 店の仕事はある程度見てるから分かってるし、今日の準備だってもう初めてたんでしょ?」
リタの自信は何処から来るのか……エマと顔を見合わせて苦笑すると、おやっさんは諦めたように一つ息を吐き出す。
●
「ハンターオフィスへようこそ……って、エマ。どうしたんだい?」
「お早うございます。あの、今日は……私が依頼人です」
「ん?」
愛想の良い受付の男性に、エマは事の詳細を話した。
本日七名の予約が入っているのだが、店の主がギックリ腰で動けずにいる事。
予約以外の客もそれなりにいるだろうが、普段なら五人程度来れば良い方だ。しかし、姉と二人で対応していくには不安がある事。
材料は店の主がやたらと買い込んでいて、予想される客数は乗り切れそうなので、料理と接客、それぞれを担当してくれる人材が欲しい事。
勿論自分たちも手伝うが、殆ど店を手伝ったことがないので何につけても自信が無いことに加え、猪突猛進な姉のリタは何をしでかすか分からないから、自分は姉のフォローに回ることになりそうな事。
それに近頃、オーブンの調子が悪いらしく煙突も掃除しなければならないらしい。……薪割りが終わった後でやるつもりだったのだが、今その店主は裏庭に座り込んだままだ。
早口で一気に言い切ると、エマは大きく息をついた。そして、思い出したかのように付け加える。
「親父さん、ギックリ腰が酷いらしくて、私達じゃ運べなくて……寝てれば治るって言うんですけど」
「分かったよ、オープンは十一時で予約は十二時だったね。準備があるなら出来る限り早い方がいいね。店主さんのこともあるし」
「すいません……ハンターさんにこんな依頼を出すのは、その……気が引けるんですけど……」
「大丈夫、人の好いハンターも多いからね、さあ、君はお店に戻って」
「宜しくお願いします!」
●
「お姉ちゃん、薪は出来た?」
「ええ、この通りよ! オーブン用と、かまど用ね。お鍋もフライパンもあるし。オーブン用のお皿とか、調理用のボウルやザルに包丁、普段使ってるっぽい道具はちゃんと揃ってるわ! それから、煙突の中から奇妙な音がするのよ。アレは間違いなくネズミの声ね! 追い払わなきゃだわっ!」
意気込むリタは、煙突掃除用の金属ブラシ付きの長い棒を握っている。……足元には原型を留めていない食器の残骸。……見なかったことにする。
「そ、そうだね……オープンまでにやらなきゃ。あとは……食材の確認だね」
「あたしたち二人だけでも大丈夫なんじゃない?」
「ダメよ!」
即答。
「お姉ちゃん、お肉丸焼きにする以外にお料理なんて出来ないでしょ。私だって家庭料理なんて良く分からないもん。パンも上手く焼けたことないし。それに、お客様に出すんだから味とか盛りつけとか……もう不安しかないよぅ……」
「大丈夫よ、エマ! 依頼出して来たんでしょ? だったら、色んな地域の家庭料理を知ってる人もいるかも知れないわ!」
「うん……今はこの店の料理に限らなくてもいいのかもね」
「そうよ! この際、色んな料理を食べてみたいわね!」
「大皿料理とか沢山作って、好きなものだけ選んで……っていうのも面白いかもね」
「でしょ?! 可能性は多い方が良いわ!」
両腕を腰に当て、やはり偉そうにリタ。
彼女の言い分も一理ある。が、エマはやはり不安で頭を抱える。……そんな時だった。
カランカラン……
ドアに付けられたチャームが、控えめな音を立てる。そこには、エマの必死の懇願を聞きつけた心優しきハンター達が立っていた。
小さなメシ屋の裏庭からはいつもの音がテンポ良く響いていた。主が薪割りをしているのだ。……が。
「ぬぅあぁっ!」
リタとエマが階段を降りてきた所にそれは聞こえてきた。
「おやっさんかしら」
「『おやっさん』って呼ぶのどうかと思うけど……どうしたのかしら?」
二人が見たのは、薪割りの途中、振り上げた斧もそのままに固まっているおやっさん。……店主のことだが。
「お、お……あああ」
「ど、どうしたんです?!」
エマは駆け寄ると、握り締めていた柄からその指を引き剥がし、半ば無理矢理その場に座らせる。
顔色は悪く、流れる汗が尋常ではない。
「さては、ギックリ腰ねっ?」
何故か自信ありげにおやっさんを指差し、腰に手を当てたポーズで言い切るリタ。
「……指さしちゃだめよ」
突っ込む所はそれでいいのか。
「せ、正解だ……全く動けん……」
青から土気色に変化していく顔色。
「薪割りならやるわよ! 大きさがバラバラでも文句言わないならね!」
やはり偉そうに言い放つと、早速斧をスタンバって、リタは手慣れた様子で薪をセット。
「うぅむ……仕方ないか……それよりも、今日は厨房に立てそうもな……うぐぅ」
「困りましたね。女将さんも今は留守ですし……今日はお休みですね」
おやっさんの腰をさすりながら、エマが諦めたように言う。
「いや……それがマズいんだよ」
「マズいって?」
リタが斧を片手に会話に混ざる。
「今日は『GLK』の予約が入っているんだ」
「『GLK』?」
「あ、私聞いたことあるよ。『ご近所で(G)ランチする(L)会(K)』のことなんだって」
「そう、そのGLKのマダム達が来るんだ。それに選ばれた食堂は、何故かその後評判が上がるというジンクスがあるんだよ」
腰の痛みと格闘しているおやっさんは、何とも苦々しい表情。
お洒落で特別なものではなく、得意の家庭料理を良心的な値段で提供し、ほっと一息つける空間を作りたい。そんな願いで店主と女将さんが始めたこの店。
常連さんや通りすがりに来店する者もいて、普段はそれなりにやっていけていたのだが、ここ数ヶ月は、客足はまばら。
店自体はいつも掃除や手入れを欠かしていないし、味が落ちたわけでもない。『年だからなぁ』なんていう理由で、そろそろこの店も閉めようか、という話をしていた頃、ハンター志望でこの町にやって来たリタとエマが転がり込んだのだ。……空腹を抱えて。
おやっさんたちの孫くらいの年頃の姉妹が、たった二人で(現役ハンターの協力もあったのだが)この町のハンターオフィスに書類登録してきたのだという。
それがキッカケで、子供のいないおやっさんたちは、店の二階を二人に住居として提供し、さらには食事の世話までしているのだ。
「そのジンクスが本当ならな、腕によりをかけて作ってやろうと思ってたんだけどなぁ……諦めるしかねぇか」
腰が痛い所為で奇妙な格好で固まってしまったおやっさん。エマの力ではどうしようもない。
「おやっさん! 諦めるなんてらしくないわっ! あたしたちを誰だと思ってるのっ? 書類登録してきたハンターなのよっ!」
「……覚醒もまだしてないけどね、お姉ちゃん」
エマの突っ込みは取り敢えず無視。
「あたしたちに任せてみない? 大丈夫よ! 店の仕事はある程度見てるから分かってるし、今日の準備だってもう初めてたんでしょ?」
リタの自信は何処から来るのか……エマと顔を見合わせて苦笑すると、おやっさんは諦めたように一つ息を吐き出す。
●
「ハンターオフィスへようこそ……って、エマ。どうしたんだい?」
「お早うございます。あの、今日は……私が依頼人です」
「ん?」
愛想の良い受付の男性に、エマは事の詳細を話した。
本日七名の予約が入っているのだが、店の主がギックリ腰で動けずにいる事。
予約以外の客もそれなりにいるだろうが、普段なら五人程度来れば良い方だ。しかし、姉と二人で対応していくには不安がある事。
材料は店の主がやたらと買い込んでいて、予想される客数は乗り切れそうなので、料理と接客、それぞれを担当してくれる人材が欲しい事。
勿論自分たちも手伝うが、殆ど店を手伝ったことがないので何につけても自信が無いことに加え、猪突猛進な姉のリタは何をしでかすか分からないから、自分は姉のフォローに回ることになりそうな事。
それに近頃、オーブンの調子が悪いらしく煙突も掃除しなければならないらしい。……薪割りが終わった後でやるつもりだったのだが、今その店主は裏庭に座り込んだままだ。
早口で一気に言い切ると、エマは大きく息をついた。そして、思い出したかのように付け加える。
「親父さん、ギックリ腰が酷いらしくて、私達じゃ運べなくて……寝てれば治るって言うんですけど」
「分かったよ、オープンは十一時で予約は十二時だったね。準備があるなら出来る限り早い方がいいね。店主さんのこともあるし」
「すいません……ハンターさんにこんな依頼を出すのは、その……気が引けるんですけど……」
「大丈夫、人の好いハンターも多いからね、さあ、君はお店に戻って」
「宜しくお願いします!」
●
「お姉ちゃん、薪は出来た?」
「ええ、この通りよ! オーブン用と、かまど用ね。お鍋もフライパンもあるし。オーブン用のお皿とか、調理用のボウルやザルに包丁、普段使ってるっぽい道具はちゃんと揃ってるわ! それから、煙突の中から奇妙な音がするのよ。アレは間違いなくネズミの声ね! 追い払わなきゃだわっ!」
意気込むリタは、煙突掃除用の金属ブラシ付きの長い棒を握っている。……足元には原型を留めていない食器の残骸。……見なかったことにする。
「そ、そうだね……オープンまでにやらなきゃ。あとは……食材の確認だね」
「あたしたち二人だけでも大丈夫なんじゃない?」
「ダメよ!」
即答。
「お姉ちゃん、お肉丸焼きにする以外にお料理なんて出来ないでしょ。私だって家庭料理なんて良く分からないもん。パンも上手く焼けたことないし。それに、お客様に出すんだから味とか盛りつけとか……もう不安しかないよぅ……」
「大丈夫よ、エマ! 依頼出して来たんでしょ? だったら、色んな地域の家庭料理を知ってる人もいるかも知れないわ!」
「うん……今はこの店の料理に限らなくてもいいのかもね」
「そうよ! この際、色んな料理を食べてみたいわね!」
「大皿料理とか沢山作って、好きなものだけ選んで……っていうのも面白いかもね」
「でしょ?! 可能性は多い方が良いわ!」
両腕を腰に当て、やはり偉そうにリタ。
彼女の言い分も一理ある。が、エマはやはり不安で頭を抱える。……そんな時だった。
カランカラン……
ドアに付けられたチャームが、控えめな音を立てる。そこには、エマの必死の懇願を聞きつけた心優しきハンター達が立っていた。
リプレイ本文
●午前八時すぎ
「あっあの! 今日は宜しくお願いします!」
ハンター達の姿を目にしたエマが頭を下げる。その目線の先には散乱した食器の残骸。
「腰を痛めた店主に代わり、姉妹がお店のために頑張る。美談と言えるかもしれませんが、それも成功してのことです。なので、頑張りましょうか」
そう呟きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)はエマの足元に散乱したモノに目を留める。と、すぐに片付け始める。
「す、すみません……私もやります……」
すっかり恐縮してしまったエマも、掃除道具を引っ張り出して一緒に片付ける。が、それをやらかした張本人の姿がない。
「これはリタさんが何かトラブルを起こす前提で行動した方が良さそうですね」
……この呟きはエマに聞こえたかどうか。
「このボクが接客をするのだから、最高のランチタイムにしてみせるさ!」
優雅な仕草を気取るルルヴィス・リヒテルソン(ka5586)。その横をすり抜けるように入って来るのは藤堂 小夏(ka5489)。
(こういう小さな飯屋って応援したくなるし、まだ雰囲気を見ただけだけどいい店の筈だよ。閉店させるなんてもったいないよ)
「早速だけど、食材とか機材のチェックさせて貰うね!」
「そうですね、私もお手伝いします。パンはあるでしょうか? なければ急いで作らないと」
メル・アイザックス(ka0520)に続いて厨房に入るのはミオレスカ(ka3496)。片付けを終えたエマに案内されて、早速食材や道具の確認作業に向かう。エルと小夏、ルルヴィスはオーブンに向かう。
「ちゃちゃっと仕事を始めますかね」
仕事用に身支度を整えた小夏は、同じく動きやすい服装に着替えたエルの後ろにスタンバイ。エルは覚醒するとオーブンの中を覗き込み、煙突の様子を観察する。ネズミがいると予想される問題の煙突だ。
さらにその後ろにはルルヴィスが、ネズミの脱走に備えて待ち構える。
覚醒した状態の方がスムーズに作業ができる、そう判断したエル。煙突に向かうと耳を澄まし、その存在を確認する。どこから入り込んで来たのだろうか、煙突の隙間にはまり込んでいるようだ。
「眠らせてしまえば後は簡単です」
言うと奥に向かって魔法を発動。青白い煙が煙突に吸い込まれるように奥へと広がる。
……ぼすんぼすん。
煤を撒き散らしながら、何かが落ちる。
「完全に眠っているから脱走の心配はないようだね」
オーブンの中の様子を後ろから確認しつつ、ルルヴィス。彼の言うように、ネズミと思しき物体は、動く様子がない。
「引っ張り出すついでに掃除もしてしまいましょう」
エルは煙突掃除用の棒を受け取ると、その先端にネズミを引っ掛けるようにして引きずり出した。そして、その姿が見えるかどうかの素早いタイミングで袋に詰め込む。エルの後ろに陣取って心の中で応援しながら、袋を持って待ち構えていたのは小夏。袋はどこにあったのだろうか。
処分の為にエマと共に外に出たのだが、すぐに戻ってきた。……処分方法については深くは追求しないでおく。
ネズミを引き出したその流れで、素早く煤を取り払うエル。恐ろしく手際が良い。
どうやら奥にはまり込んでいたネズミが原因で調子が悪かったらしく、あっという間にオーブンはいつもの調子を取り戻した。それを見届けると、ルルヴィスと小夏は接客の準備に、そしてエルは厨房へと向かう。
調子を取り戻したオーブンと、厨房のかまどに火が入れられる。
「ねえエマ君、ちょっと提案があるんだけど」
「はいっ?」
メルは厨房の材料を確認すると、バイキング形式を皆に提案した。客が自分で好きな料理を選んで取り分ける、アレだ。これには皆がすぐに賛同。人手が足りないのもカバーできそうだ。
「香辛料が揃うならカレーを、と思っていたのですが……難しそうですので、ビーフシチューはどうでしょうか」
「いいね、量も作れるし! 時間かかりそうだから、早速始めよう」
ミオレスカの提案にメルとエルが応え、調理に取りかかる。お店経験が少ないことを感じさせない手際の良さで、初めて立つこの店の厨房にすでに馴染んでいるメル。提案通り、煮込みに時間がかかりそうなメイン料理にとりかかる。
「合わせて鶏のから揚げとか、サラダも作りましょう」
「いいね! ここ広いから動き回るのには不自由しなさそうだし!」
ミオレスカの言葉に元気に応えるメル。メイン料理の合間に、他のメンバーと声を掛け合い、主食主菜副菜デザートに至るまで考えて動く。
大量の材料を取り出して、ミオレスカは基本に忠実に、小麦粉やバターを混ぜ合わせてパン生地をこね始める。店のレシピがあれば良かったのだが、それらはおやっさんの頭の中。幸いにも調子を取り戻したオーブンとかまどは暖まり、発酵させるのにも問題はなさそうだ。
「あ! もう始まってるのっ? 何で呼んでくれないのよエマ!」
「お姉ちゃん……」
呆れたようなエマの視線を受けても動じることなく、両腕いっぱいに野菜を抱えたリタが裏口から入って来た。
「おやっさんは裏口に座り込んだままなのよ。その方が楽なんだって。話を聞くなら案内するわ。お店が落ち着いた頃に寝室に運べばいいし。取り敢えずはあたしたちで何とかやっていくわよ!」
野菜を置こうと一歩を踏み出す。その瞬間のお約束。
「うひゃっ!」
がしっ。
音さえ立ててエルがリタを支える。落ちそうだった野菜もキャッチ。見事なフォローだ。
「お野菜も無事だし新鮮です。これならサラダも美味しくできますね」
キャッチした野菜を吟味しつつ、エル。採れたての野菜を丁寧に洗い、肉を切る。下味をつけて提供するメニューに必要な準備を進める。
軽快でリズミカルな音楽のように、調理を進める音が厨房に響く。
メルは調理開始前に一度裏庭に出て、リタに案内された場所で店主から話を聞いて来たようだが、結局店主は裏庭に座り込んだままだったらしい。『今は店の開店準備に集中してくれ……』そう言われたのだ、と、リタが大声で報告していた。
●十時過ぎ
「エマ君、料金の相談とかしたいんだけど、いいかな?」
「私も良く分からないんですけど……ちょっとお姉ちゃん、一緒に聞いてよ!」
エマはハンター達に情報提供するのとリタのフォローで忙しそうだ。リタはというと、バケツに引っ掛かって余計な手間を増やしている。それでも一生懸命ではあるのだが。……そんなリタの行動はエルがきっちり観察していた。
ルルヴィスは前料金制を提案。一律料金で食べ放題。この方が帰り際の混乱を避けられるだろう。それに、こちらが提案するバイキング形式の説明もしやすい。エマもリタも感心しながらそれに従い、接客と会計の段取りを確認する。
この店はカウンター席を挟んで、ホールのテーブル席と厨房が互いに見えるようになっている。間にあるカウンターを利用して料理を並べられそうだ。
予約人数は七名、その他にも来客があると予想してテーブルや椅子をセッティングしていく。
ホールを隅々まで拭き掃除しているのは小夏だ。家事が得意な彼女は、本当に手際が良い。テーブルや椅子の脚、床まで丁寧に拭いている。
「飲食店は掃除はとても大切だよね」
エマとの相談を終えたルルヴィスも、小夏と共にホールのセッティングに加わる。料理を取りに行きやすいように、そして皿を下げやすいように考えて配置を決める。カウンターには取り分け用の皿数種類と、スプーンやフォーク、トレイを綺麗に並べ、準備完了。
ホールからは厨房がよく見える。上手く連携をとって調理を進めている三人の姿が止まることはない。
パン生地を発酵させている間、ミオレスカも他の食材の調理に回っていた。
冷蔵庫から材料を取り出し、飲み水を冷やす。鶏肉に塩胡椒で下味をつけて小麦粉をまぶし、油を温める。新鮮なキャベツやトマトをメインにサラダを盛りつけ……主菜、副菜がバランス良く作られていく。
メルが覗き込んでいる大鍋からは、早くも芳醇な良い香りが漂ってきている。揚げ物の香ばしさも混ざり、気分が高まる。
●開店時間
「さあ開店よっ! あたしは呼び込みに行ってくるわ!」
元気に飛び出すリタ。どうやら準備中に食器破壊や仕事妨害の威力を発揮しすぎて丁重に外へと導き出されたらしい。まあ、人懐っこいリタにはこっちの方が合っているようだが。
「えっ、もう開店っ?!」
メルが慌てた声を出すが、オーブンからはパンの焼ける香ばしい匂い。料理は間に合ったようだ。
「いらっしゃいませ!」
「二名様ですね、こちらへどうぞ」
爽やかな笑顔で接客するルルヴィスに案内され、本日初めての客が来店。珍しいバイキング形式と前料金制をルルヴィスが丁寧に説明し、最初の客が席に着く。その後も順調に客が入って来る。
いつもと雰囲気が違っていたので興味を惹かれたらしく、普段なら閉店まで五人入れば上々というこの店にしては驚くべき来店者数。食べ放題とあって、胃袋と相談の上……かどうかは分からないが、どんどん料理が減って行く。
入店時に会計を済ませ、後はカウンターに並べられた料理を自由に選ぶ。この流れを見事に定着させたのはルルヴィスで、身に付いた礼儀作法で客の受けも良いようだ。
「いらっしゃいませ」
明るい声が響くのでそちらに目を向けると、そこには極めて無表情な少女が。声は明るく動きも軽やか、だがその表情は変わらない。時々不思議そうな客の視線が刺さるが、本人は全く気にしていないようだ。コップに水を注ぎ、空いた皿を下げては洗う。
「減って来た料理からどんどん報告してっ! それが人気の品だからっ」
メルの元気な声が届くと、ホール側から応えが響く。壁がないので人気メニューはリアルタイムで客に伝わるのだ。
客席を回って空いた皿を下げながら、細かく気配りしていくルルヴィスと、皿洗いを中心に動く小夏がホールを仕切る。
「そろそろ予約の時間かな」
頃合いを見計らったルルヴィスは、予約客の為の席を再確認。他の空きテーブルは小夏がきっちりと片付けていた。
「足早くてよかったけど、忙しいね」
かなりの行動力だが、無表情を貫く小夏が呟く。
●予約客、来店
「いらっしゃいませ。ご予約のGLK様でございますね。こちらへどうぞ」
「あらぁ、可愛らしい坊やだこと!」
「カウンターにもうお料理が並んでいるの?」
「ええ、本日はバイキング形式にさせて頂いております」
次々と口を開くマダム達に丁寧に応えながら、ルルヴィスが席へ案内する。その後ろからリタがついて入って来た。マダム数人と意気投合しているようだ。
厨房のメルと目が合うと、事前の打ち合わせ通り、リタは料理の取り方やお薦め料理を軽妙な口調で説明する。メルは会話を聞き漏らさないように注意を向けつつも、調理の手を止めることはない。七人のマダム達にはとっておきの料理とデザートで満足してもらいたいのだ。VIPの到着とあって気合いが入る。
「良い感じに焼けたようです」
焼きたての丸パンを籠に盛り、カウンター越しに小夏に渡すのはミオレスカ。絶好調のオーブンで次々に焼いているので、ふっくら香ばしい焼きたてパンを提供することに成功。これにはマダム達からも歓声が上がった。
「可愛いパンね。アナタもどう?」
ルルヴィスを気に入ってしまったマダムは、呑んでもないのにやたらと彼に絡んでいるようで、それには少々慌てた様子だ。
「い、いえ仕事中ですのであの、お気持ちだけ頂いて……って! すいません、ちょっと近くないですかっ?」
「あらぁ恥ずかしがっちゃって!」
……確認するが、酔っているワケではない。
「サラダも残り少ないね、唐揚げも」
「了解です、小夏さん」
応えてすぐに追加の鶏肉を揚げ、その間にサラダを盛りつける。厨房チームの息の合った連携。
客席を回って残りの料理をチェックして厨房に伝えるルルヴィスに、テーブルの片付けや洗い物をする小夏。積極的に情報を集めて調理を進めるメル、残りの材料にも気を配るミオレスカ。丁寧な調理を心がけつつも、リタの言動に注意を向けるエル。
忙しく動くハンター達の間をGLKマダム達の賑やかな会話と笑い声が駆け抜け、次々に提供される料理の香りが店内を包む。
食器を動かす音が徐々に消えてくるタイミングで、冷たいデザートが運ばれた。空いたグラスには良く冷えた水のお代わり。
「本当に行き届いているわね」
「そうね、店内も清潔だし」
「こんな楽しいランチは久し振りだったからねぇ」
「美味しくてちょっと食べ過ぎちゃったわ。ご馳走様」
「ご馳走様」
口々に賛辞を贈るマダム達を、全員で見送る。
『ありがとうございました!』
ドアに付けられたチャームが控えめな音を響かせて閉まると同時、大きな溜め息が店中に響き渡った。
店内の忙しなさが安堵と達成感に取って代わる。
●営業終了
気付くと、準備されていた食材はほぼ底をついていた。出来上がった料理も既にない。本日の営業はここまでだ。
「こんなにお客さんが来てくれるなんて思ってなかったです。ありがとうございました!」
エマはリタと並んで、ハンター達に頭を下げる。
「さ、片付けをしてしまいましょうか」
言ってエルは厨房の片付けと掃除を始めた。皆それに倣うように、洗った皿を仕舞い、テーブルを拭いて床を掃く。
すぐに店は開店前の様相を取り戻した。
「疲れたぁ〜もう動けないよぉ〜」
子供みたいなことを言って店の床に大の字で寝そべったのはルルヴィス。皆同じように疲れ果てて、それぞれに腰を下ろす。だが何とも言えない達成感に満たされていた。
「皆さん、今日はお疲れ様でした」
エルの言葉が、今回の任務の締めくくりになったようだ。皆がほっと一息ついていると、やたらと元気のいいリタが、何かに気付いた。
「そう言えばおやっさん、裏庭に座り込んだままなのよね」
『……をう……忘れてた……』
●
GLKマダム達の評判は最高だった。
ギックリ腰から立ち直ったおやっさんは、店を続けている。時々、この時のバイキング形式を思い出して再現することがあるのだが、そのたびにハンターの手を借りたくなる程に、人気なのだという。
「あっあの! 今日は宜しくお願いします!」
ハンター達の姿を目にしたエマが頭を下げる。その目線の先には散乱した食器の残骸。
「腰を痛めた店主に代わり、姉妹がお店のために頑張る。美談と言えるかもしれませんが、それも成功してのことです。なので、頑張りましょうか」
そう呟きながら、エルバッハ・リオン(ka2434)はエマの足元に散乱したモノに目を留める。と、すぐに片付け始める。
「す、すみません……私もやります……」
すっかり恐縮してしまったエマも、掃除道具を引っ張り出して一緒に片付ける。が、それをやらかした張本人の姿がない。
「これはリタさんが何かトラブルを起こす前提で行動した方が良さそうですね」
……この呟きはエマに聞こえたかどうか。
「このボクが接客をするのだから、最高のランチタイムにしてみせるさ!」
優雅な仕草を気取るルルヴィス・リヒテルソン(ka5586)。その横をすり抜けるように入って来るのは藤堂 小夏(ka5489)。
(こういう小さな飯屋って応援したくなるし、まだ雰囲気を見ただけだけどいい店の筈だよ。閉店させるなんてもったいないよ)
「早速だけど、食材とか機材のチェックさせて貰うね!」
「そうですね、私もお手伝いします。パンはあるでしょうか? なければ急いで作らないと」
メル・アイザックス(ka0520)に続いて厨房に入るのはミオレスカ(ka3496)。片付けを終えたエマに案内されて、早速食材や道具の確認作業に向かう。エルと小夏、ルルヴィスはオーブンに向かう。
「ちゃちゃっと仕事を始めますかね」
仕事用に身支度を整えた小夏は、同じく動きやすい服装に着替えたエルの後ろにスタンバイ。エルは覚醒するとオーブンの中を覗き込み、煙突の様子を観察する。ネズミがいると予想される問題の煙突だ。
さらにその後ろにはルルヴィスが、ネズミの脱走に備えて待ち構える。
覚醒した状態の方がスムーズに作業ができる、そう判断したエル。煙突に向かうと耳を澄まし、その存在を確認する。どこから入り込んで来たのだろうか、煙突の隙間にはまり込んでいるようだ。
「眠らせてしまえば後は簡単です」
言うと奥に向かって魔法を発動。青白い煙が煙突に吸い込まれるように奥へと広がる。
……ぼすんぼすん。
煤を撒き散らしながら、何かが落ちる。
「完全に眠っているから脱走の心配はないようだね」
オーブンの中の様子を後ろから確認しつつ、ルルヴィス。彼の言うように、ネズミと思しき物体は、動く様子がない。
「引っ張り出すついでに掃除もしてしまいましょう」
エルは煙突掃除用の棒を受け取ると、その先端にネズミを引っ掛けるようにして引きずり出した。そして、その姿が見えるかどうかの素早いタイミングで袋に詰め込む。エルの後ろに陣取って心の中で応援しながら、袋を持って待ち構えていたのは小夏。袋はどこにあったのだろうか。
処分の為にエマと共に外に出たのだが、すぐに戻ってきた。……処分方法については深くは追求しないでおく。
ネズミを引き出したその流れで、素早く煤を取り払うエル。恐ろしく手際が良い。
どうやら奥にはまり込んでいたネズミが原因で調子が悪かったらしく、あっという間にオーブンはいつもの調子を取り戻した。それを見届けると、ルルヴィスと小夏は接客の準備に、そしてエルは厨房へと向かう。
調子を取り戻したオーブンと、厨房のかまどに火が入れられる。
「ねえエマ君、ちょっと提案があるんだけど」
「はいっ?」
メルは厨房の材料を確認すると、バイキング形式を皆に提案した。客が自分で好きな料理を選んで取り分ける、アレだ。これには皆がすぐに賛同。人手が足りないのもカバーできそうだ。
「香辛料が揃うならカレーを、と思っていたのですが……難しそうですので、ビーフシチューはどうでしょうか」
「いいね、量も作れるし! 時間かかりそうだから、早速始めよう」
ミオレスカの提案にメルとエルが応え、調理に取りかかる。お店経験が少ないことを感じさせない手際の良さで、初めて立つこの店の厨房にすでに馴染んでいるメル。提案通り、煮込みに時間がかかりそうなメイン料理にとりかかる。
「合わせて鶏のから揚げとか、サラダも作りましょう」
「いいね! ここ広いから動き回るのには不自由しなさそうだし!」
ミオレスカの言葉に元気に応えるメル。メイン料理の合間に、他のメンバーと声を掛け合い、主食主菜副菜デザートに至るまで考えて動く。
大量の材料を取り出して、ミオレスカは基本に忠実に、小麦粉やバターを混ぜ合わせてパン生地をこね始める。店のレシピがあれば良かったのだが、それらはおやっさんの頭の中。幸いにも調子を取り戻したオーブンとかまどは暖まり、発酵させるのにも問題はなさそうだ。
「あ! もう始まってるのっ? 何で呼んでくれないのよエマ!」
「お姉ちゃん……」
呆れたようなエマの視線を受けても動じることなく、両腕いっぱいに野菜を抱えたリタが裏口から入って来た。
「おやっさんは裏口に座り込んだままなのよ。その方が楽なんだって。話を聞くなら案内するわ。お店が落ち着いた頃に寝室に運べばいいし。取り敢えずはあたしたちで何とかやっていくわよ!」
野菜を置こうと一歩を踏み出す。その瞬間のお約束。
「うひゃっ!」
がしっ。
音さえ立ててエルがリタを支える。落ちそうだった野菜もキャッチ。見事なフォローだ。
「お野菜も無事だし新鮮です。これならサラダも美味しくできますね」
キャッチした野菜を吟味しつつ、エル。採れたての野菜を丁寧に洗い、肉を切る。下味をつけて提供するメニューに必要な準備を進める。
軽快でリズミカルな音楽のように、調理を進める音が厨房に響く。
メルは調理開始前に一度裏庭に出て、リタに案内された場所で店主から話を聞いて来たようだが、結局店主は裏庭に座り込んだままだったらしい。『今は店の開店準備に集中してくれ……』そう言われたのだ、と、リタが大声で報告していた。
●十時過ぎ
「エマ君、料金の相談とかしたいんだけど、いいかな?」
「私も良く分からないんですけど……ちょっとお姉ちゃん、一緒に聞いてよ!」
エマはハンター達に情報提供するのとリタのフォローで忙しそうだ。リタはというと、バケツに引っ掛かって余計な手間を増やしている。それでも一生懸命ではあるのだが。……そんなリタの行動はエルがきっちり観察していた。
ルルヴィスは前料金制を提案。一律料金で食べ放題。この方が帰り際の混乱を避けられるだろう。それに、こちらが提案するバイキング形式の説明もしやすい。エマもリタも感心しながらそれに従い、接客と会計の段取りを確認する。
この店はカウンター席を挟んで、ホールのテーブル席と厨房が互いに見えるようになっている。間にあるカウンターを利用して料理を並べられそうだ。
予約人数は七名、その他にも来客があると予想してテーブルや椅子をセッティングしていく。
ホールを隅々まで拭き掃除しているのは小夏だ。家事が得意な彼女は、本当に手際が良い。テーブルや椅子の脚、床まで丁寧に拭いている。
「飲食店は掃除はとても大切だよね」
エマとの相談を終えたルルヴィスも、小夏と共にホールのセッティングに加わる。料理を取りに行きやすいように、そして皿を下げやすいように考えて配置を決める。カウンターには取り分け用の皿数種類と、スプーンやフォーク、トレイを綺麗に並べ、準備完了。
ホールからは厨房がよく見える。上手く連携をとって調理を進めている三人の姿が止まることはない。
パン生地を発酵させている間、ミオレスカも他の食材の調理に回っていた。
冷蔵庫から材料を取り出し、飲み水を冷やす。鶏肉に塩胡椒で下味をつけて小麦粉をまぶし、油を温める。新鮮なキャベツやトマトをメインにサラダを盛りつけ……主菜、副菜がバランス良く作られていく。
メルが覗き込んでいる大鍋からは、早くも芳醇な良い香りが漂ってきている。揚げ物の香ばしさも混ざり、気分が高まる。
●開店時間
「さあ開店よっ! あたしは呼び込みに行ってくるわ!」
元気に飛び出すリタ。どうやら準備中に食器破壊や仕事妨害の威力を発揮しすぎて丁重に外へと導き出されたらしい。まあ、人懐っこいリタにはこっちの方が合っているようだが。
「えっ、もう開店っ?!」
メルが慌てた声を出すが、オーブンからはパンの焼ける香ばしい匂い。料理は間に合ったようだ。
「いらっしゃいませ!」
「二名様ですね、こちらへどうぞ」
爽やかな笑顔で接客するルルヴィスに案内され、本日初めての客が来店。珍しいバイキング形式と前料金制をルルヴィスが丁寧に説明し、最初の客が席に着く。その後も順調に客が入って来る。
いつもと雰囲気が違っていたので興味を惹かれたらしく、普段なら閉店まで五人入れば上々というこの店にしては驚くべき来店者数。食べ放題とあって、胃袋と相談の上……かどうかは分からないが、どんどん料理が減って行く。
入店時に会計を済ませ、後はカウンターに並べられた料理を自由に選ぶ。この流れを見事に定着させたのはルルヴィスで、身に付いた礼儀作法で客の受けも良いようだ。
「いらっしゃいませ」
明るい声が響くのでそちらに目を向けると、そこには極めて無表情な少女が。声は明るく動きも軽やか、だがその表情は変わらない。時々不思議そうな客の視線が刺さるが、本人は全く気にしていないようだ。コップに水を注ぎ、空いた皿を下げては洗う。
「減って来た料理からどんどん報告してっ! それが人気の品だからっ」
メルの元気な声が届くと、ホール側から応えが響く。壁がないので人気メニューはリアルタイムで客に伝わるのだ。
客席を回って空いた皿を下げながら、細かく気配りしていくルルヴィスと、皿洗いを中心に動く小夏がホールを仕切る。
「そろそろ予約の時間かな」
頃合いを見計らったルルヴィスは、予約客の為の席を再確認。他の空きテーブルは小夏がきっちりと片付けていた。
「足早くてよかったけど、忙しいね」
かなりの行動力だが、無表情を貫く小夏が呟く。
●予約客、来店
「いらっしゃいませ。ご予約のGLK様でございますね。こちらへどうぞ」
「あらぁ、可愛らしい坊やだこと!」
「カウンターにもうお料理が並んでいるの?」
「ええ、本日はバイキング形式にさせて頂いております」
次々と口を開くマダム達に丁寧に応えながら、ルルヴィスが席へ案内する。その後ろからリタがついて入って来た。マダム数人と意気投合しているようだ。
厨房のメルと目が合うと、事前の打ち合わせ通り、リタは料理の取り方やお薦め料理を軽妙な口調で説明する。メルは会話を聞き漏らさないように注意を向けつつも、調理の手を止めることはない。七人のマダム達にはとっておきの料理とデザートで満足してもらいたいのだ。VIPの到着とあって気合いが入る。
「良い感じに焼けたようです」
焼きたての丸パンを籠に盛り、カウンター越しに小夏に渡すのはミオレスカ。絶好調のオーブンで次々に焼いているので、ふっくら香ばしい焼きたてパンを提供することに成功。これにはマダム達からも歓声が上がった。
「可愛いパンね。アナタもどう?」
ルルヴィスを気に入ってしまったマダムは、呑んでもないのにやたらと彼に絡んでいるようで、それには少々慌てた様子だ。
「い、いえ仕事中ですのであの、お気持ちだけ頂いて……って! すいません、ちょっと近くないですかっ?」
「あらぁ恥ずかしがっちゃって!」
……確認するが、酔っているワケではない。
「サラダも残り少ないね、唐揚げも」
「了解です、小夏さん」
応えてすぐに追加の鶏肉を揚げ、その間にサラダを盛りつける。厨房チームの息の合った連携。
客席を回って残りの料理をチェックして厨房に伝えるルルヴィスに、テーブルの片付けや洗い物をする小夏。積極的に情報を集めて調理を進めるメル、残りの材料にも気を配るミオレスカ。丁寧な調理を心がけつつも、リタの言動に注意を向けるエル。
忙しく動くハンター達の間をGLKマダム達の賑やかな会話と笑い声が駆け抜け、次々に提供される料理の香りが店内を包む。
食器を動かす音が徐々に消えてくるタイミングで、冷たいデザートが運ばれた。空いたグラスには良く冷えた水のお代わり。
「本当に行き届いているわね」
「そうね、店内も清潔だし」
「こんな楽しいランチは久し振りだったからねぇ」
「美味しくてちょっと食べ過ぎちゃったわ。ご馳走様」
「ご馳走様」
口々に賛辞を贈るマダム達を、全員で見送る。
『ありがとうございました!』
ドアに付けられたチャームが控えめな音を響かせて閉まると同時、大きな溜め息が店中に響き渡った。
店内の忙しなさが安堵と達成感に取って代わる。
●営業終了
気付くと、準備されていた食材はほぼ底をついていた。出来上がった料理も既にない。本日の営業はここまでだ。
「こんなにお客さんが来てくれるなんて思ってなかったです。ありがとうございました!」
エマはリタと並んで、ハンター達に頭を下げる。
「さ、片付けをしてしまいましょうか」
言ってエルは厨房の片付けと掃除を始めた。皆それに倣うように、洗った皿を仕舞い、テーブルを拭いて床を掃く。
すぐに店は開店前の様相を取り戻した。
「疲れたぁ〜もう動けないよぉ〜」
子供みたいなことを言って店の床に大の字で寝そべったのはルルヴィス。皆同じように疲れ果てて、それぞれに腰を下ろす。だが何とも言えない達成感に満たされていた。
「皆さん、今日はお疲れ様でした」
エルの言葉が、今回の任務の締めくくりになったようだ。皆がほっと一息ついていると、やたらと元気のいいリタが、何かに気付いた。
「そう言えばおやっさん、裏庭に座り込んだままなのよね」
『……をう……忘れてた……』
●
GLKマダム達の評判は最高だった。
ギックリ腰から立ち直ったおやっさんは、店を続けている。時々、この時のバイキング形式を思い出して再現することがあるのだが、そのたびにハンターの手を借りたくなる程に、人気なのだという。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談板? 岩井崎 メル(ka0520) 人間(リアルブルー)|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/09/19 07:37:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/17 22:47:47 |