ゲスト
(ka0000)
とうもろこし畑の戦い
マスター:ミノリアキラ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/27 09:00
- 完成日
- 2015/10/04 01:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とうもろこし畑
目の前に広がっているのは広大なとうもろこし畑であった。
ただし収穫はすでに終わっており、後始末のされていないとうもろこしの茎だけがその場で立ち枯れているといった状況だ。
畑の向こうには大きな納屋がみえる。
納屋といっても二階建てでかなり大きい。
村人の話だと、この納屋はもうほとんど使われていない古いもので、一階は古い小麦粉が置かれているだけだ。
この納屋にゴブリンやコボルドが住み着くようになって、既に二週間ほどが経つ。
ハンターズソサエティから派遣された調査員は、とうもろこしの茎に紛れ、双眼鏡を構えながら納屋の裏側に近づく。
(基本的には表側と同じか。一階に窓二つ、二階部分に窓みっつ)
裏側には表の大きな搬入口よりも小さな裏口が取り付けられている。
細心の注意をはらって気配を殺し、足音を殺しながら裏口に近づく。
裏口の扉には鍵がかかっていたが、力ずくでも開きそうだ。
そのとき。
(しまった、気づかれたか)
二階の窓が開き、ゴブリンが顔を出した。
調査員は畑に飛び込むと、納屋の表側に全速力で走り逃げる。
正面側の窓から、拳大の岩が降ってくる。それから、矢も。
さらに、窓から抜け出した二体のコボルドが調査員の後ろを追いかける。
調査員はお気に入りのテンガロンハットを落とさないように押さえつつ、コボルドの足音が至近距離に迫るのを聞きながらひたすらに疾走する。
目指すは、畑の端にある大木だが、茎のせいでひどく走りにくい。
そのとき、大木の太い枝のところに、輝く光と人影が見えた。
風が巻き起こり、追っていたコボルドたちを切り裂いていった。
●樹上より愛をこめて
「やはり応援を頼んでおいて正解だった。助かったぞ、ユーリ!」
枝の上に登り、双眼鏡を構える。
木の枝は太く、幹はがっしりとしていて、大の男二人が腰かけてもびくともしない。
それに、畑の全域と納屋の正面が見渡せた。
追ってきたコボルドのうち一体はウィンドスラッシュの餌食になって倒れ、もう一体は諦めて戻っていった。
「こちらも町に戻るところだったから……何より昔の仲間の頼みですからね。まあ、貴方にはどちらかというと迷惑をかけられる方が多かったような気もしますが」
旅装の魔術師は少し疲れた顔でそう言った。
黒髪で、少年のような幼い顔立ちをした若い魔術師だ。
覚醒状態にあり、指先が青く光っている。
「しかし、いつまでここであの納屋を見張っていればいいんでしょうか」
「ソサエティから、正式にハンターが派遣されてくるまで……だな。うかつにここを離れると、やつらが収穫前の麦畑を襲うかもしれない。そうなれば、近隣一帯の村々に大打撃だ。なるべくここで引きつけたい」
「で、ハンターが派遣されてくるのは……それはいつ……?」
「さあ、近頃は、大きい戦いもあったからな……」
調査員は、黙りこんだ。
「あと、僕の報酬は誰が支払ってくれるんでしょうか……?」
調査員は、答えなかった。
沈黙が流れた。
「えっ、まさか、タダ働き!?」
「まあまあ。騒ぐなよ、あとで飯でも奢るからさ」
「そんなこと言って、また保存食とかなんでしょ~?」
魔術師は調査員のバックパックを探った。
食料を入れる袋を取り出して、彼は愕然とする。
「……これしかないの?」
取り出したのは干し肉のかけらがたったの二切れ。
「おい、敵が来たぞ。お前さん、まだ覚醒中なんだから追い払ってくれ!」
「待って、待ってくれ。これっぽっちの食料で、いつまでここに籠城すればいいんだって!?」
哀れな魔術師の悲鳴が、夜空に響き渡った。
目の前に広がっているのは広大なとうもろこし畑であった。
ただし収穫はすでに終わっており、後始末のされていないとうもろこしの茎だけがその場で立ち枯れているといった状況だ。
畑の向こうには大きな納屋がみえる。
納屋といっても二階建てでかなり大きい。
村人の話だと、この納屋はもうほとんど使われていない古いもので、一階は古い小麦粉が置かれているだけだ。
この納屋にゴブリンやコボルドが住み着くようになって、既に二週間ほどが経つ。
ハンターズソサエティから派遣された調査員は、とうもろこしの茎に紛れ、双眼鏡を構えながら納屋の裏側に近づく。
(基本的には表側と同じか。一階に窓二つ、二階部分に窓みっつ)
裏側には表の大きな搬入口よりも小さな裏口が取り付けられている。
細心の注意をはらって気配を殺し、足音を殺しながら裏口に近づく。
裏口の扉には鍵がかかっていたが、力ずくでも開きそうだ。
そのとき。
(しまった、気づかれたか)
二階の窓が開き、ゴブリンが顔を出した。
調査員は畑に飛び込むと、納屋の表側に全速力で走り逃げる。
正面側の窓から、拳大の岩が降ってくる。それから、矢も。
さらに、窓から抜け出した二体のコボルドが調査員の後ろを追いかける。
調査員はお気に入りのテンガロンハットを落とさないように押さえつつ、コボルドの足音が至近距離に迫るのを聞きながらひたすらに疾走する。
目指すは、畑の端にある大木だが、茎のせいでひどく走りにくい。
そのとき、大木の太い枝のところに、輝く光と人影が見えた。
風が巻き起こり、追っていたコボルドたちを切り裂いていった。
●樹上より愛をこめて
「やはり応援を頼んでおいて正解だった。助かったぞ、ユーリ!」
枝の上に登り、双眼鏡を構える。
木の枝は太く、幹はがっしりとしていて、大の男二人が腰かけてもびくともしない。
それに、畑の全域と納屋の正面が見渡せた。
追ってきたコボルドのうち一体はウィンドスラッシュの餌食になって倒れ、もう一体は諦めて戻っていった。
「こちらも町に戻るところだったから……何より昔の仲間の頼みですからね。まあ、貴方にはどちらかというと迷惑をかけられる方が多かったような気もしますが」
旅装の魔術師は少し疲れた顔でそう言った。
黒髪で、少年のような幼い顔立ちをした若い魔術師だ。
覚醒状態にあり、指先が青く光っている。
「しかし、いつまでここであの納屋を見張っていればいいんでしょうか」
「ソサエティから、正式にハンターが派遣されてくるまで……だな。うかつにここを離れると、やつらが収穫前の麦畑を襲うかもしれない。そうなれば、近隣一帯の村々に大打撃だ。なるべくここで引きつけたい」
「で、ハンターが派遣されてくるのは……それはいつ……?」
「さあ、近頃は、大きい戦いもあったからな……」
調査員は、黙りこんだ。
「あと、僕の報酬は誰が支払ってくれるんでしょうか……?」
調査員は、答えなかった。
沈黙が流れた。
「えっ、まさか、タダ働き!?」
「まあまあ。騒ぐなよ、あとで飯でも奢るからさ」
「そんなこと言って、また保存食とかなんでしょ~?」
魔術師は調査員のバックパックを探った。
食料を入れる袋を取り出して、彼は愕然とする。
「……これしかないの?」
取り出したのは干し肉のかけらがたったの二切れ。
「おい、敵が来たぞ。お前さん、まだ覚醒中なんだから追い払ってくれ!」
「待って、待ってくれ。これっぽっちの食料で、いつまでここに籠城すればいいんだって!?」
哀れな魔術師の悲鳴が、夜空に響き渡った。
リプレイ本文
●とうもろこし畑の戦い
極寒の、というほどではないが、遮るもののない畑には冷たい風が吹き抜けていた。
立ち枯れたとうもろこしの茎どうしが激しくぶつかりあい、寂寞とした音響をあたりに響かせている。
何かを感じ取り、一羽の鳥が、納屋の屋根から飛び立った。
その翼の下、畑は陸に現れた大海のようだった。
風が吹く向きに合わせて、とうもろこしの茎が波打つ。
納屋の二階から飛び降りた影は、茎をかき分け、波濤を乗り越える航跡のような軌跡を残しながら疾駆する。
それぞれ向かう先には……。
『準備はいいかい? 敬愛すべきハンターたち!』
それぞれのトランシーバーから、そんな声が聞こえてくる。
さっきまで、彼らの後ろにある巨木の上で、飢えた顔をしていた調査員だ。
トランシーバーと共に保存食を渡され、息を吹き返したらしかった。
敵を監視しつつ、その動きを逐一報告してくる。
『さあて、お待ちかねだ。命知らずのお客さんたちがやって来るぜ。盛大な出迎えを期待してますってな顔つきだ。まずは――アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)! あんただ!』
殺風景極まりない、生命の絶えた畑に、不意に炎のようなオーラが立ち上る。
敵に向けて、凛とした女性ハンターが片手剣を抜き打つ。
村正の名を冠された振動刀は、前方を遮るとうもろこしの茎ごと、コボルドを両断する。
そして別の方向に剣を振る。
素早い連撃が、もう一体のコボルドを捉える。彼女の刃は敵に反撃も許さず、振り下ろされた。
『素晴らしい! だがまだまだ休憩には早そうだな。次は君だ、榊 兵庫(ka0010)、三時の方角から来るぞ!』
「確認した」
二メートルを越す長い槍が敵の来る方向に狙いを定め、柄に取り付けられた管に手を置く。
彼の所持するのは、取り付けられた管を用い片手を滑らせることによって、通常の突きの速度を各段に上げる、特殊な槍だ。
枯れ枝をかき分けて、獣の鼻頭が現れた。
尖った爪の攻撃を滑るような足捌きで避け、踏みこみと同時に槍を繰り出す。
すると、コボルドの胴体が文字通り一瞬で貫かれた。
十分に速度の乗った槍は、たとえ防具を固めた相手であっても、威力を見せつけただろう。
『それから、柊 真司(ka0705)――』
「うるさい無線だな。俺の相手はこっちだ!」
ジェットブーツによって、ひとりの機導師が空中に舞い上がる。
それと、二階の窓が開き、石を構えた亜人が顔を覗かせたのはほぼ同時。
投石を軽々と避けた彼の前に三角形の光が浮かぶ。
「デルタ・レイ!」
放たれた光芒は窓辺に殺到。
二体の亜人、ゴブリンは後ろに吹き飛ぶように倒れた。
辛うじて、左端のゴブリンが室内に逃げ込む。
「ちくしょう、仕留めそこなった」
『十分、敵は肝を冷やしたと思うがね――おっと、ギルミア・C(ka5310)! 来てるぞ!』
榊が合図を送る。
ちょうど彼の後ろ姿を追いかけるように、納屋に向かっていたエルフの少女は足を止め、周囲を警戒する。
その視界に、向かってくるコボルドの姿があった。
「外しませんよ……あうっ!」
そのとき、極めて運の悪いことに、倒れかけたとうもろこしの茎が鞭のようにしなり彼女の顔面を叩いた。
迫ったコボルドは、彼女の足に打撃を加える。
アルトや柊が、同時に振り返った。
ギルミアは表情を歪めながらも、急いで起き上がる。
『無事か!?』
「うぅ……。大丈夫、です……!」
痛みをこらえつつ、ロングボウを構え、限界まで強く引き絞る。
そして放たれた矢は、コボルドの頭を正確に捉え、死の淵まで運び去った。
「作戦通りに、お願いします!」
仲間の無事に安堵しつつ、残りの一体をアルトが屠った。
『よし、納屋の表側の敵は上のゴブリン一体だ。ハンター諸君の健闘を祈る。当然、裏手にいる君の分も祈っておく』
大地と精霊の加護があらんことを。
そんな最後の言葉を残し、トランシーバーは静かになった。
●潜入任務
納屋の裏手側……。
同じように枯れ果てたとうもろこしが立ち並ぶ畑を、こっそりと移動するものがある。
慎重に、気づかれないように……。
彼の対策は完璧だった。
茎をたばねたものを頭にかぶり、ひそかに近づくザレム・アズール(ka0878)の姿は、たとえ空からでもわからなかっただろう。
納屋の表側がにわかに騒々しくなり、彼は戦闘がはじまったことを感じ取った。
(牽制役が、上手く引きつけていてくれているみたいだ)
裏側の二階の窓は閉じ切ったまま。彼の接近に気がつく者はいない。
脱走しようとする亜人もいない。
作戦が上手くいっている証拠だ。
(よし――今のうちに!)
彼は扉に走り寄り、ノブに手をかける。
古く、補修も受けていないそれは、だいぶ緩んでいるようだ。
トランシーバーに通信が入る。
『こちら、アルトだ。表側の扉に到着した。そちらの状況は? どうぞ』
「今到着した。侵入を試みる」
シーブスツールを取り出し、器用に鍵を開ける。
簡素な鍵は、なんの抵抗もなく開いた。
ツールを武器に持ち替え、あとは、表側の攻撃するタイミングを待つだけ。
だが、その瞬間は訪れない。
「――――?」
再び、通信が入る。
『納屋に入ってくれ』
銃を構え、慎重にあたりを確認しながら、納屋に踏み込んだ。
薄暗い、納屋の一階。板の隙間から、かすかに光がもれ、埃が輝きながら降りていく。
置かれているのは、古い穀物の入った麻袋だけ。
視界は開けていて、反対側からアルトと榊が入って来る姿が見えた。
敵は全くおらず、彼らが隠れられるような空間もなさそうだ。
そして、それ以上に不思議なのは……。
「階段が、無い?」
ザレムは戸惑う。
そのとき上からパラパラと埃が落ちてきた。
次の瞬間、天井が割れて、収納されていた階段が叩きつけられるかのごとくハンター達の前に落ちてきた。
舞い上がる埃の向こうに、輝くものがある。
敵の鏃だった。
●不意打ち
納屋の内部に踏み込んだアルト、ザレム、榊の三人めがけ、天井から、容赦なく矢の雨が降り注ぐ。
三人は辛うじてそれを避け、刀で打ち払い、防具で受け流す。
だがじっとしていてはいつまでも狙い打ちになるだけだ。
「私が行こう」
大きな盾を掲げ、アルトが階段に踏み込んだ。
疾影士らしい身軽さで一気に階段を駆け上がる。
ゴブリンソルジャーたちは彼女めがけて矢を放つが、そのどれもが、盾の表面で受け止められ、跳ね返された。
「遅いっ!」
敵はこん棒に持ち替え、接近戦を試みるものの、攻撃は盾で受け止められる。
その隙を突いた強力な連撃がゴブリンソルジャーの片方を斬り上げる。次いで、もう一体をも手にかける。
一陣の風となったアルトの攻撃を受け、二体は床に崩れ落ちた。
残す敵は、あと一体。
石を振りかぶったゴブリンが、アルトを狙っている。
「お前の相手は、こっちだろうが」
二階の窓から侵入した柊は、既に引き金を引いていた。
気流をまとった弾丸がゴブリンを貫いた。
亜人たちは沈黙する。
納屋の内部に、動くものはいなくなった。
「任務完了……か」
アルトは注意深くあたりをうかがいつつ、呟いた。
そのとき、トランシーバーに再び通信が入った。
『あー……非常に悪いお知らせだ。招かれざる客が納屋に向かってる。あれは……ゴブリンナイトだ!』
「数と距離は? どうぞ」
『二体! 敵はリトルラプターに騎乗状態。何するつもりだ? おいおい、そいつはまずいぞ……』
通信がやや乱れたあと、しばらくして、調査員の焦った声が聞こえた。
『納屋の一階に突撃攻撃をかますつもりだ!』
通信が終わるや否や、激しい衝撃が二度、納屋を震わせた。
「きゃあっ!」
聞き覚えがある声で、悲鳴が上がる。
まだ一階にいるはずのギルミアのものだ。
アルトは慌てて一階に戻る。
しかし、彼女は無事だった。
ゴブリンナイトの攻撃は、閉じられた扉によって完全に防がれていた。
「追撃を防ぐために、閉めておいたのが功を奏したようだな」
まるでなんでもないことのように、榊が冷静に説明した。
「あ、危なかった……!」
逃げる場所のない納屋の内部で攻撃を受ければ、ほぼ確実に巻き込まれていただろう。
間一髪、難を逃れ、ギルミアはほっと胸をなでおろした。
●最後の大仕事
奇襲に失敗したゴブリンナイトは、大きく後退し、再び納屋へと戻って来る。
その極めて短い間に、ハンターたちは迎撃態勢を整えていた。
表側には前衛のアルト、榊、念のため、強力な突撃を防ぐためにザレムも降りている。
二階の窓には、柊と、弓を構えたギルミアがそれぞれ敵を狙う。
ゴブリンナイトは好戦的な性格をしているのか、それとも、敵の強さを知りつつ最後の戦いを挑もうとしているのか……枯れた茎を踏み倒し、納屋に向かってその速度を上げていく。
アルトと榊は一体目の攻撃を難なくかわす。
続いての二体目の突撃を、ザレムが盾で止め――受け流した。
「一気に決着をつけるぞ!」
アルトの鋭い斬撃は、ゴブリンナイトが騎乗するリトルラプターを切り裂いて行く。
落下した乗り手、ゴブリンナイトも攻撃を受けて、辛うじて立っている状態を維持するのがやっとの様子だ。
「狙撃の準備はできてる。次は外さない」
柊が手にした狂乱せしアルコルが放った弾丸が、瀕死のゴブリンナイトをなぎ倒していった。
さらに、ザレムが畳みかける。
未だ元気に駆けまわるリトルラプターを狙った弾丸は、見事に命中。致命傷を与えた。
最後に残された亜人は、こん棒を手に立ち上がる。
そのそばに一条の槍が忍びよっていた。
鍛え抜かれ、武器と技によって極められた刺突が、亜人の騎手の心臓を貫いた。
それが、最後の敵であった。
しばらく周囲を警戒していたハンター達だが、やがて、彼らを呼ぶ声が畑の向こうから聞こえてくることに気がついた。
●助かった!
「任務完了だ、敵の完全排除を確認した。お疲れさん」
「助けて頂いて、ありがとうございました。あのまま皆さんが来てくれなかったら、どうなっていたことか……」
やややつれた様子の調査員と、その友人一名がハンターたちに礼を述べ、頭を下げる。
「ああ、安心したら、また腹が減ってきたな……」
「無事で何よりだった。これも何かの縁だ、飯くらい喜んでおごらせて貰おう」
危険な仕事が終わり、少しくつろいだ表情の榊が申し出ると、エルフの若者は疲労も忘れて顔を輝かせた。
「お、いいねえ! じゃ、お言葉に甘えようか。――あんたイケる口かい? 実はこの辺に地元の酒と飯を出すいい店があってさ……イテっ!」
調子のよすぎる調査員・ジーンの長い耳を、隣の魔術師がつねり上げる。
「この人を、甘やかしてはいけません! まったく、あのまま救援が来なかったら、どうなっていたことか。他人の迷惑を少しは考えてくださいよ」
「イテテテテ……! けど、ゴブリンが納屋に集まって来てたのは俺のせいじゃ――!」
「言い訳しない!」
「す、すみませんでした……」
漫才のようなやり取りを繰り広げる救助対象の二人に、ザレムはバスケットを掲げてみせた。
「実は、仕事が終わった後、みんなでランチにしようと思って、これを持ってきたんですが……」
すると、アルトも荷物から弁当箱を取り出す。
「奇遇だな。私はバイト先でサンドイッチをもらってきた」
「チーズや飲み物もありますよ」と、ギルミア。
調査員が行方不明、と聞き、それぞれが持ち寄った食料を集めると、ずいぶん豪華な昼食になりそうだった。
「いやあ、ホント、人の温かみを感じるな……」
「あんたは奢ってもいいくらいだろ!」
ユーリが調査員の後頭部に強烈な打撃を加える。
そんなこんなで、一行は帰還する前に、攻撃を受けて少し足を引きずっていたギルミアの治療をかね、ゆったりと昼食を楽しんだ。
途中、様子を見に来た村人たちもいた。
ここに巣食っていたゴブリンがいなくなったため、村人たちは早速明日からでも、枯れた茎や葉を取り除く作業に入るという。
その後、季節は巡り……。
やがてとうもろこし畑に青々とした葉が茂る頃になっても、六人のハンター達が戦った納屋は、少しくたびれながらこの風景の中に佇んでいることだろう。
極寒の、というほどではないが、遮るもののない畑には冷たい風が吹き抜けていた。
立ち枯れたとうもろこしの茎どうしが激しくぶつかりあい、寂寞とした音響をあたりに響かせている。
何かを感じ取り、一羽の鳥が、納屋の屋根から飛び立った。
その翼の下、畑は陸に現れた大海のようだった。
風が吹く向きに合わせて、とうもろこしの茎が波打つ。
納屋の二階から飛び降りた影は、茎をかき分け、波濤を乗り越える航跡のような軌跡を残しながら疾駆する。
それぞれ向かう先には……。
『準備はいいかい? 敬愛すべきハンターたち!』
それぞれのトランシーバーから、そんな声が聞こえてくる。
さっきまで、彼らの後ろにある巨木の上で、飢えた顔をしていた調査員だ。
トランシーバーと共に保存食を渡され、息を吹き返したらしかった。
敵を監視しつつ、その動きを逐一報告してくる。
『さあて、お待ちかねだ。命知らずのお客さんたちがやって来るぜ。盛大な出迎えを期待してますってな顔つきだ。まずは――アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)! あんただ!』
殺風景極まりない、生命の絶えた畑に、不意に炎のようなオーラが立ち上る。
敵に向けて、凛とした女性ハンターが片手剣を抜き打つ。
村正の名を冠された振動刀は、前方を遮るとうもろこしの茎ごと、コボルドを両断する。
そして別の方向に剣を振る。
素早い連撃が、もう一体のコボルドを捉える。彼女の刃は敵に反撃も許さず、振り下ろされた。
『素晴らしい! だがまだまだ休憩には早そうだな。次は君だ、榊 兵庫(ka0010)、三時の方角から来るぞ!』
「確認した」
二メートルを越す長い槍が敵の来る方向に狙いを定め、柄に取り付けられた管に手を置く。
彼の所持するのは、取り付けられた管を用い片手を滑らせることによって、通常の突きの速度を各段に上げる、特殊な槍だ。
枯れ枝をかき分けて、獣の鼻頭が現れた。
尖った爪の攻撃を滑るような足捌きで避け、踏みこみと同時に槍を繰り出す。
すると、コボルドの胴体が文字通り一瞬で貫かれた。
十分に速度の乗った槍は、たとえ防具を固めた相手であっても、威力を見せつけただろう。
『それから、柊 真司(ka0705)――』
「うるさい無線だな。俺の相手はこっちだ!」
ジェットブーツによって、ひとりの機導師が空中に舞い上がる。
それと、二階の窓が開き、石を構えた亜人が顔を覗かせたのはほぼ同時。
投石を軽々と避けた彼の前に三角形の光が浮かぶ。
「デルタ・レイ!」
放たれた光芒は窓辺に殺到。
二体の亜人、ゴブリンは後ろに吹き飛ぶように倒れた。
辛うじて、左端のゴブリンが室内に逃げ込む。
「ちくしょう、仕留めそこなった」
『十分、敵は肝を冷やしたと思うがね――おっと、ギルミア・C(ka5310)! 来てるぞ!』
榊が合図を送る。
ちょうど彼の後ろ姿を追いかけるように、納屋に向かっていたエルフの少女は足を止め、周囲を警戒する。
その視界に、向かってくるコボルドの姿があった。
「外しませんよ……あうっ!」
そのとき、極めて運の悪いことに、倒れかけたとうもろこしの茎が鞭のようにしなり彼女の顔面を叩いた。
迫ったコボルドは、彼女の足に打撃を加える。
アルトや柊が、同時に振り返った。
ギルミアは表情を歪めながらも、急いで起き上がる。
『無事か!?』
「うぅ……。大丈夫、です……!」
痛みをこらえつつ、ロングボウを構え、限界まで強く引き絞る。
そして放たれた矢は、コボルドの頭を正確に捉え、死の淵まで運び去った。
「作戦通りに、お願いします!」
仲間の無事に安堵しつつ、残りの一体をアルトが屠った。
『よし、納屋の表側の敵は上のゴブリン一体だ。ハンター諸君の健闘を祈る。当然、裏手にいる君の分も祈っておく』
大地と精霊の加護があらんことを。
そんな最後の言葉を残し、トランシーバーは静かになった。
●潜入任務
納屋の裏手側……。
同じように枯れ果てたとうもろこしが立ち並ぶ畑を、こっそりと移動するものがある。
慎重に、気づかれないように……。
彼の対策は完璧だった。
茎をたばねたものを頭にかぶり、ひそかに近づくザレム・アズール(ka0878)の姿は、たとえ空からでもわからなかっただろう。
納屋の表側がにわかに騒々しくなり、彼は戦闘がはじまったことを感じ取った。
(牽制役が、上手く引きつけていてくれているみたいだ)
裏側の二階の窓は閉じ切ったまま。彼の接近に気がつく者はいない。
脱走しようとする亜人もいない。
作戦が上手くいっている証拠だ。
(よし――今のうちに!)
彼は扉に走り寄り、ノブに手をかける。
古く、補修も受けていないそれは、だいぶ緩んでいるようだ。
トランシーバーに通信が入る。
『こちら、アルトだ。表側の扉に到着した。そちらの状況は? どうぞ』
「今到着した。侵入を試みる」
シーブスツールを取り出し、器用に鍵を開ける。
簡素な鍵は、なんの抵抗もなく開いた。
ツールを武器に持ち替え、あとは、表側の攻撃するタイミングを待つだけ。
だが、その瞬間は訪れない。
「――――?」
再び、通信が入る。
『納屋に入ってくれ』
銃を構え、慎重にあたりを確認しながら、納屋に踏み込んだ。
薄暗い、納屋の一階。板の隙間から、かすかに光がもれ、埃が輝きながら降りていく。
置かれているのは、古い穀物の入った麻袋だけ。
視界は開けていて、反対側からアルトと榊が入って来る姿が見えた。
敵は全くおらず、彼らが隠れられるような空間もなさそうだ。
そして、それ以上に不思議なのは……。
「階段が、無い?」
ザレムは戸惑う。
そのとき上からパラパラと埃が落ちてきた。
次の瞬間、天井が割れて、収納されていた階段が叩きつけられるかのごとくハンター達の前に落ちてきた。
舞い上がる埃の向こうに、輝くものがある。
敵の鏃だった。
●不意打ち
納屋の内部に踏み込んだアルト、ザレム、榊の三人めがけ、天井から、容赦なく矢の雨が降り注ぐ。
三人は辛うじてそれを避け、刀で打ち払い、防具で受け流す。
だがじっとしていてはいつまでも狙い打ちになるだけだ。
「私が行こう」
大きな盾を掲げ、アルトが階段に踏み込んだ。
疾影士らしい身軽さで一気に階段を駆け上がる。
ゴブリンソルジャーたちは彼女めがけて矢を放つが、そのどれもが、盾の表面で受け止められ、跳ね返された。
「遅いっ!」
敵はこん棒に持ち替え、接近戦を試みるものの、攻撃は盾で受け止められる。
その隙を突いた強力な連撃がゴブリンソルジャーの片方を斬り上げる。次いで、もう一体をも手にかける。
一陣の風となったアルトの攻撃を受け、二体は床に崩れ落ちた。
残す敵は、あと一体。
石を振りかぶったゴブリンが、アルトを狙っている。
「お前の相手は、こっちだろうが」
二階の窓から侵入した柊は、既に引き金を引いていた。
気流をまとった弾丸がゴブリンを貫いた。
亜人たちは沈黙する。
納屋の内部に、動くものはいなくなった。
「任務完了……か」
アルトは注意深くあたりをうかがいつつ、呟いた。
そのとき、トランシーバーに再び通信が入った。
『あー……非常に悪いお知らせだ。招かれざる客が納屋に向かってる。あれは……ゴブリンナイトだ!』
「数と距離は? どうぞ」
『二体! 敵はリトルラプターに騎乗状態。何するつもりだ? おいおい、そいつはまずいぞ……』
通信がやや乱れたあと、しばらくして、調査員の焦った声が聞こえた。
『納屋の一階に突撃攻撃をかますつもりだ!』
通信が終わるや否や、激しい衝撃が二度、納屋を震わせた。
「きゃあっ!」
聞き覚えがある声で、悲鳴が上がる。
まだ一階にいるはずのギルミアのものだ。
アルトは慌てて一階に戻る。
しかし、彼女は無事だった。
ゴブリンナイトの攻撃は、閉じられた扉によって完全に防がれていた。
「追撃を防ぐために、閉めておいたのが功を奏したようだな」
まるでなんでもないことのように、榊が冷静に説明した。
「あ、危なかった……!」
逃げる場所のない納屋の内部で攻撃を受ければ、ほぼ確実に巻き込まれていただろう。
間一髪、難を逃れ、ギルミアはほっと胸をなでおろした。
●最後の大仕事
奇襲に失敗したゴブリンナイトは、大きく後退し、再び納屋へと戻って来る。
その極めて短い間に、ハンターたちは迎撃態勢を整えていた。
表側には前衛のアルト、榊、念のため、強力な突撃を防ぐためにザレムも降りている。
二階の窓には、柊と、弓を構えたギルミアがそれぞれ敵を狙う。
ゴブリンナイトは好戦的な性格をしているのか、それとも、敵の強さを知りつつ最後の戦いを挑もうとしているのか……枯れた茎を踏み倒し、納屋に向かってその速度を上げていく。
アルトと榊は一体目の攻撃を難なくかわす。
続いての二体目の突撃を、ザレムが盾で止め――受け流した。
「一気に決着をつけるぞ!」
アルトの鋭い斬撃は、ゴブリンナイトが騎乗するリトルラプターを切り裂いて行く。
落下した乗り手、ゴブリンナイトも攻撃を受けて、辛うじて立っている状態を維持するのがやっとの様子だ。
「狙撃の準備はできてる。次は外さない」
柊が手にした狂乱せしアルコルが放った弾丸が、瀕死のゴブリンナイトをなぎ倒していった。
さらに、ザレムが畳みかける。
未だ元気に駆けまわるリトルラプターを狙った弾丸は、見事に命中。致命傷を与えた。
最後に残された亜人は、こん棒を手に立ち上がる。
そのそばに一条の槍が忍びよっていた。
鍛え抜かれ、武器と技によって極められた刺突が、亜人の騎手の心臓を貫いた。
それが、最後の敵であった。
しばらく周囲を警戒していたハンター達だが、やがて、彼らを呼ぶ声が畑の向こうから聞こえてくることに気がついた。
●助かった!
「任務完了だ、敵の完全排除を確認した。お疲れさん」
「助けて頂いて、ありがとうございました。あのまま皆さんが来てくれなかったら、どうなっていたことか……」
やややつれた様子の調査員と、その友人一名がハンターたちに礼を述べ、頭を下げる。
「ああ、安心したら、また腹が減ってきたな……」
「無事で何よりだった。これも何かの縁だ、飯くらい喜んでおごらせて貰おう」
危険な仕事が終わり、少しくつろいだ表情の榊が申し出ると、エルフの若者は疲労も忘れて顔を輝かせた。
「お、いいねえ! じゃ、お言葉に甘えようか。――あんたイケる口かい? 実はこの辺に地元の酒と飯を出すいい店があってさ……イテっ!」
調子のよすぎる調査員・ジーンの長い耳を、隣の魔術師がつねり上げる。
「この人を、甘やかしてはいけません! まったく、あのまま救援が来なかったら、どうなっていたことか。他人の迷惑を少しは考えてくださいよ」
「イテテテテ……! けど、ゴブリンが納屋に集まって来てたのは俺のせいじゃ――!」
「言い訳しない!」
「す、すみませんでした……」
漫才のようなやり取りを繰り広げる救助対象の二人に、ザレムはバスケットを掲げてみせた。
「実は、仕事が終わった後、みんなでランチにしようと思って、これを持ってきたんですが……」
すると、アルトも荷物から弁当箱を取り出す。
「奇遇だな。私はバイト先でサンドイッチをもらってきた」
「チーズや飲み物もありますよ」と、ギルミア。
調査員が行方不明、と聞き、それぞれが持ち寄った食料を集めると、ずいぶん豪華な昼食になりそうだった。
「いやあ、ホント、人の温かみを感じるな……」
「あんたは奢ってもいいくらいだろ!」
ユーリが調査員の後頭部に強烈な打撃を加える。
そんなこんなで、一行は帰還する前に、攻撃を受けて少し足を引きずっていたギルミアの治療をかね、ゆったりと昼食を楽しんだ。
途中、様子を見に来た村人たちもいた。
ここに巣食っていたゴブリンがいなくなったため、村人たちは早速明日からでも、枯れた茎や葉を取り除く作業に入るという。
その後、季節は巡り……。
やがてとうもろこし畑に青々とした葉が茂る頃になっても、六人のハンター達が戦った納屋は、少しくたびれながらこの風景の中に佇んでいることだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 柊 真司(ka0705) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/09/26 23:52:27 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/24 23:43:57 |