ゲスト
(ka0000)
あおひかげ【3】
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/19 19:00
- 完成日
- 2015/09/27 07:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今宵のインデュー族の集落は、仕事終わりの静寂さを欠いていた。部族皆が、明日『藍火祭』の準備に奔走するのだ。元々勤勉な彼らは、作業の飲み込みも早く、ハンター達が教えたレシピや演出はあっという間に吸収したと言う。インデュー族だけではない。今回の祭事の補助をするイチヨ族も、最終確認に精を出していた。
「皆様、ここまでの準備を本当にありがとう御座います」
広場で円形に集まる部族達に、言葉を伝える女性は、現在このインデュー族を総括する族、アキエヴェ・インデューである。
「我が母、先代の族長トゥューハ様の志。そして我々、インデュー族の想いを伝えるため頑張っていきましょう」
その声に応えるように、皆が拍手をアキエヴェに送った。なかには彼女がここまでやるとは、と驚いたと言う人までいると言う話だ。
それほどに、皆が皆初めての祭事に期待をしているのだ。明日に備えて充分な休養を、そう彼女は語り皆帰路に着いた。
アキエヴェは、最後の一人を見送ってから、後ろを振り返る。
(傍らに来て下さいますか?)
そこにはただ、火を抱く女性の青銅像があった……
●
夕方、ハンター達も祭事の最終確認を終え、イチヨ族のテントに集められていた。心配していた予算問題も砂糖や乳製品などの材料は、彼らイチヨ族のツテを使い、思っていたより安価に仕入れられたとのことだ。
「では、今回が皆様にお願いする、最後の依頼になります」
ここまで長かったような、あっという間であるような、ついこの間インデュー族の集落に入ったばかりなのに、まるで庭の様に闊歩出来たのは規模の問題ばかりではないだろう。
族長サ・ナダは、改めてハンター達へと口を開いた。神妙な面持ちで、良く聴こえるようにいつもより声量大きく、はっきりと喋ってくれる。
「自由にお祭りを楽しんで下さい」
気を張っていたハンター達の糸がバネのように伸びた気がした。ナダ曰く、祭を思うがままに楽しむこと、それが最高の礼である、と彼自身言い切る。今回は特別に、部族だけで行う予定の儀式にもハンター達も参加を許可されているともナダは言う。
手伝っていただいた感謝と、『成果』を披露したいとのことだ。
「微々たるものですが、お小遣い渡しておきます。好きに使って下さい」
他に、もし良ければパレードの一般参加者への楽器演奏を教えてほしいのと、出店の手伝いをしてほしい、とも言っていたが、こっちは本当に片手間程度で考えてくれとインデュー族に言われたそうだ。
「それでは『藍火祭(アイカサイ)』楽しんでください!」
とあるハンターが告げた祭りの名、今ここにて灯火が点る!!
「皆様、ここまでの準備を本当にありがとう御座います」
広場で円形に集まる部族達に、言葉を伝える女性は、現在このインデュー族を総括する族、アキエヴェ・インデューである。
「我が母、先代の族長トゥューハ様の志。そして我々、インデュー族の想いを伝えるため頑張っていきましょう」
その声に応えるように、皆が拍手をアキエヴェに送った。なかには彼女がここまでやるとは、と驚いたと言う人までいると言う話だ。
それほどに、皆が皆初めての祭事に期待をしているのだ。明日に備えて充分な休養を、そう彼女は語り皆帰路に着いた。
アキエヴェは、最後の一人を見送ってから、後ろを振り返る。
(傍らに来て下さいますか?)
そこにはただ、火を抱く女性の青銅像があった……
●
夕方、ハンター達も祭事の最終確認を終え、イチヨ族のテントに集められていた。心配していた予算問題も砂糖や乳製品などの材料は、彼らイチヨ族のツテを使い、思っていたより安価に仕入れられたとのことだ。
「では、今回が皆様にお願いする、最後の依頼になります」
ここまで長かったような、あっという間であるような、ついこの間インデュー族の集落に入ったばかりなのに、まるで庭の様に闊歩出来たのは規模の問題ばかりではないだろう。
族長サ・ナダは、改めてハンター達へと口を開いた。神妙な面持ちで、良く聴こえるようにいつもより声量大きく、はっきりと喋ってくれる。
「自由にお祭りを楽しんで下さい」
気を張っていたハンター達の糸がバネのように伸びた気がした。ナダ曰く、祭を思うがままに楽しむこと、それが最高の礼である、と彼自身言い切る。今回は特別に、部族だけで行う予定の儀式にもハンター達も参加を許可されているともナダは言う。
手伝っていただいた感謝と、『成果』を披露したいとのことだ。
「微々たるものですが、お小遣い渡しておきます。好きに使って下さい」
他に、もし良ければパレードの一般参加者への楽器演奏を教えてほしいのと、出店の手伝いをしてほしい、とも言っていたが、こっちは本当に片手間程度で考えてくれとインデュー族に言われたそうだ。
「それでは『藍火祭(アイカサイ)』楽しんでください!」
とあるハンターが告げた祭りの名、今ここにて灯火が点る!!
リプレイ本文
インデュー族の集落は、祭の準備を終えて帰路につくものが殆んどであった。
そんな中、一人倉庫へと久延毘 大二郎(ka1771)は足を踏み入れる。顔を上げると、そこには歪虚面の山車がいた。最終調整を邪魔しない範囲で、ぐるりと大二郎は山車を見回す。
鈴生りのそれを眺めながら、自らが創り出した祭に感慨深さを覚えた。
ここでふと思うのは、好い人八雲 奏(ka4074)のこと。
(集落にいないが、彼ら何をやっているんだ?)
日は傾き、青空は茜色へと姿を変える。それはまた、漆黒の円舞台と言われるこの場所も同じだ。
族長アキエヴェは、簡素な私服姿でここに立っていた。今は橙に燃える舞台も、明日はしめやかな蒼に包まれることだろう。
何か足音が近づく。彼女が振り返るとそこにはエアルドフリス(ka1856)、ジュード・エアハート(ka0410)、ルナ・レンフィールド(ka1565)、ブリジット(ka4843)が来ていた。
「皆様、如何いたしましたか?」
最初に声を掛けたのは、エアルドフリスであった。
「今まで差し出がましい物言い、どうか許していただきたい」
「いえ、そんな」
どこか自分には個人的な思い入れがあったのでは、それをぶつけていた。彼はそんな風思っていた。
「最後にもう一つ御節介なんですが」
付け加えてから、エアルドフリスは提案する。祭前に、アキエヴェの気持ち、祭への願いと母御への思い。
部族の方々にそれを率直に話し、改めて協力を願うのは信仰の問題を明らかにするのも手、だと。
「貴女は皆の先頭に立って導くのでなく、皆と共に歩む族長なんだと見ていて思いました」
だからこそ貴方の献身を知ってもらうべき、と彼は言う。その話に黙り混むアキエヴェに、ジュードは優しく語りかける。
「アキエヴェさん、今、不安なこととかない?」
ジュードには心残りがあった。今まで祭創生、部族を一つにすることに注力したため族長の気持ちを考えられていただろうか。
「不安がないか、ですか」
そこで再び沈黙する。そして優しくこう呟いたのだ
「行く末でしょうか」
今言っても仕方ない、そう苦笑いをしつつも表情は寂しげだ。
やがて、エアルドフリスにこう返答する。今からでは皆が疲れて話どころではないだろう。側近の部下達だけでも、と。
「後は……是非戦舞をご覧ください」
「アキエヴェさんが部族の為に凄く頑張ってくれたの、知ってるから。それに準備を通して部族の皆にもそれが少しずつ伝わってきてると思うし、明日も頑張ってね」
そう言ってからジュードは手土産のシードルとマカロンの入ったカゴが置かれた。
アキエヴェが視線をジュードに戻すと、何かまだ言いたげなエアルドフリスを引きずって行ってしまった。
すると、奏が同じく円舞台に乗ってきてアキエヴェの手を取った。
「即興の舞を踊りませんか?」
唐突な申し出に、アキエヴェは驚く。戸惑うアキエヴェに奏はこう続ける、習ったものでも私に合わせるのも構わない。ただ、ただ、頭を空っぽに出来ればなんでも良いのだ、と。
二人の足取りに合わせ、フルートの音色をルナが奏で始めた。
疲れないようにスローテンポを保ちつつも、発散させるような大降りな動き。
最初は関節ガチガチな人形ダンスも、徐々に人間の踊りになっていく。
音楽が終われば、緩み切った表情で彼女達は肩で息をする。
「どうですか?」
ブリジットの一言に、袖を汗を拭うように当てつつアキエヴェは言う。
「出来ている、と言い切れる自信はありません」
「舞は楽しむものです。やるだけの事をやってきたんです。自信を持って」
こうして、日が沈むまで練習は続いたのであった……
●藍火祭
始まりが何時頃か、少なくとも早朝でないことは確かだ。元より宣伝をしていたためか、インデュー族の集落には沢山の人が集まっていた。
そして、ルナとブリジットの前には特に子供の人だかりが出来ていた。
「ほーら、叩いてみて!」
子供達は町から来ている子もいるためか、珍しい民族楽器に目をキラキラさせる。
リズムも何もへったくれない音が、がらくたのようにごちゃ混ぜだ。
そこでブリジットは、屈みながら目線を同じ高さにしつつ、音階と言うものを教える。次いで生まれたメロディという物に、みんな興味津々。が、楽しい時間も終わりが来る。
「みんな、頑張って!」
手を振り上げながら、ルナは子供達を見送った。
パレードが始まるまでの少しの間、出店を見回ることにした。ルナが木苺パフェに座りながら舌鼓していると、視線の先には鵤(ka3319)がいた。片手にチリコンカーン擬き、又片手にはエールを手にわたあめ器に指示を出していた。
「随分使い込んだな。まだ渡してそんなに経ってないっしょ?」
やれやれと言いつつ、エールを一気飲みすれば、焼き物のカップを置いて、歯車を弄り指を黒く汚していた。
わたあめ求めて行列作るお客様達も、その様子を真剣に見つめている。
「おっさんの手元でも見て覚えておけばぁ?」
「すごいぜ、オジサン!」
「おじさん……」
鵤、御歳43歳である。
また反対側では、Holmes(ka3813)がツナピザをかじりながら、飲み物を昼間という事も気にせず喉を鳴らしながら飲み下す。
「ん~……この喉ごし。たまらぬのぅ、ふふふ」
幼げな顔を染めてご満悦。出店チェックとは名ばかりの食べ歩き漫遊そのものである。
ルナが注文を待っていれば、エアルドフリスとジュードの二人が向かいに目に入る。ルナが手を振ると、ジュードもまた振り返してくれた。
彼は藍染めの浴衣を着て、エアルドフリスと手を繋いでいた。一方その彼はと言えば、自部族の衣装を身に付けている。彼なりの礼、なのだろうか。
「おっと、それも旨そうだ。一口頂けるかね?」
「ん、なら半分こだね」
そう言ってジュードは、じゃが芋スイートポテトをちぎってエアルドフリスに渡す。
ピザ屋台の前でもめる二人組。勿論強気なのは、年頃の女性こと奏。
「はい、ピザ(激辛)をあーーん♪」
「え、あの…奏…そのピザ、色合い的に私がこの前食べてむせた奴と同じ味の物では…?」
ザ、テンドンである。勿論食べさせられるの大二郎
「~ッ!!み、水!水を!それも一杯二杯ではなく!」
改良ピザには、更に大量の蒼唐辛子が乗っている。真っ赤なピザに緑が栄える栄える。
「もう一個あーーんです♪」
「ま、待て奏、これをもう一枚は少々勘弁してくれ、舌が燃え尽きてしまう…もう肩車でも何でもしてやるから…」
こうして、奏は特等席で誰よりも高い位置からパレードを眺めた。
壮大な太鼓の音と共に、歪虚の山車がやってくる。進行先には深い蒼を思わせる巫女衣装を身に付けたアキエヴェ。
彼女が船頭に立つ。その途端軽い破裂音がいくつも響く。山車の装飾の紙風船が割れ、中から藍染めの吹き流しが現れ容貌を変える。音楽もまた楽しげな物に変わっていた。ブリジットも演奏に参加する。演奏をしながら、彼女は今までの工程を思い出す。演奏の物珍しさから人に囲まれたり等あったが、それでもよき思い出になったと心から思う。
風に流れる山車は、搭乗席もあいまってまるで水面を奔る船の様だ。
「わぁ……」
彼女のキラキラ輝く紫の瞳に、僅な微笑みを大二郎は見せる。
その後、山車は止まり側面からタペストリーが下りて、見学出来るようになっている。傍らには、蒼い炎を抱く女性像。
「すごいね、エアさん! エアさん?」
「すまん、酔いつぶれたのが出たから行ってくる」
だからジュードは楽しんでて、とエアルドフリスが言うも、直ぐ様傍らへ。
「エアさんと一緒がいい♪」
●夜の儀式
土産の手のひら大提灯片手に去っていく。タペストリーの歴史をつらつら、また来たいとも言ってくれる影もちらちら。外部からの引き込みは、成功とみて良いだろう。
一部の人を残して、インデュー族の皆は砦にて整列していた。アキエヴェは、白の目立つ衣装を着込み薄青い旗を掲げる。
「皆様、行きましょう」
蒼い火の元に集いし民よ
灯すことを忘れるな
始まりの火が燃え尽きても
火種は皆の手の中、心の中に
藍染め提灯の光が連々としながら、ブリジットとエアルドフリスも唄に参加する。特にエアルドフリスのファルセットを利かせた声には、隣にいたジュードも驚く。
(エアさんも女装似合うかもなぁ)
漆黒の舞台。歌が止んだ頃には、辺りは暗く虫の音だけが聞こえた。
中央に演奏隊を引き連れたのはアキエヴェ。手には、儀式用の剣を携える。演奏隊には、ルナとブリジットも入る。しっかりと打ち合わせもしている為か、ルナの低い対旋律が厚みを充分に与えてくれた。
「アキヴィエちゃんガンバッテェー?みたいなぁ?」
尚、この和まそうとする鵤の一言は、綺麗にスルーされる。ただ一人、肩を叩いたのは祭司だけである。
(じゃあ、アレを出来るか見守らせてもらうとしますかぁ)
気を取り直し。ニヤニヤと変わらぬ笑みで、鵤は舞台に向き直った。
始まる演奏。足取りは軽く、描く軌跡は自然体。
(大丈夫、大丈夫ですよ)
奏では心の中でそっと声援を送る。ジュードはエアルドフリスの手を強く握りしめる。剣から神楽鈴に変わる、前に実際に踊ってみせた彼だからこそ、その瞬間は覚えている。
(ここだ!)
音楽が途切れる一瞬、ソレは姿を現した。袖から引き伸ばした一反にもなる藍色の帯。アキエヴェはそれを双腕に絡めとり、戦舞を続ける。
光を反射する素材が編み込まれたそれに、青い松明の明かりが浮かび上がる。その様子はまるで……
「蒼い火の羽衣…か」
鵤がヒュウと口笛を鳴らすなか、祭司は瞳を閉じていた。まるで記憶の中のソレと現在の娘の姿を重ねているようだ。
……シャン
やがて、演奏は止み、神楽鈴の音が止まり、アキエヴェは一人前へ歩を進めた。
「ワタシは、此処にこの戦舞をインデュー族初代族長、我が母トゥューハに捧げ、彼の方を蒼き火の第一使徒とすることを宣言致します」
「そしてワタシと共に、皆さん共に歩んでください。母の志を、引き継いでゆくために!」
静寂、それはほぼ同時の拍手に包まれた。それが何を意味するか、理解出来ぬものもいないだろう。エアルドフリスも、労いを籠める様に深々と礼をしていた。
「お疲れ様です」
弦楽器を傍らに、ブリジットは彼女に近付いた。かけたい言の葉は沢山あった、筈なのに出てきた言葉は……
「楽しめましたか?」
それだけ。だが、額に汗すら浮かべるアキエヴェは、はい、とだけ小さな息を吐いた。
拍手を送り一通りを見終わった鵤は、進行方向より踵を返す。隣にいた祭司は、それに気付いた。
「まだ、終わってませんよ」
「いやーこの行事に関しちゃおっさんには似合わなすぎるっていうかぁ?ま、後はおたくらで楽しくやってちょうだいよ」
くわえ煙草でへらへらと手を振りかざし、彼は灯火から離れ自ら影を追うように去るのだ。
先に逝った者達への想いも、これからの未来を願う想いも、自分には無縁である。
そう思っていた……思っているからだ。
「貴方のいく先に、蒼き火の加護のあらんことを……」
●
「どうですか?自分で新たな歴史の始まりを作った気分は? この祭祀から部族が1つになり、新しい流れが作られる……」
幾つもの蒼の光を乗せた船が、川を流れる。そんな様子を眺め見ていた大二郎に奏が言う。
「…何とも、言葉で表しようがない気分だ。重大な事をやり遂げたと言う誇らしい思いがあると同時に、一つの部族を己の手で染めてしまったという責任感もある」
関わらなければ、こんなことは恐らく思わなかったのだろう。
「毘古ちゃんは学者として何か得られましたか?」
「得た、と言っていいのかは分からんがね…この仕事を通して、人の持つ『文化』や『感情』の強さを改めて思い知ったのは確かだな」
Holmesは、岩に座りジャムティー片手に水面を眺める。ルナの奏でるバラードに、Holmesは一人心地る。
「老い先短い人生だ。死んだらあっちで彼女に話してみるのも面白いかもしれないね」
そう言って、船の流れ着く先を眺めた。その先が見えるような気がして……
ジュードも小舟を一艘流していた。彼らインデュー族が一つになれることを願い両手を合わせる。
「我が部族の教えに曰く。世界は円環、万物はその裡を巡る。この地の人々に、佳き巡りを。恵みが雨の如く降り注がん事を」
エアルドフリスもまた船を流す。貴重な経験と隣に居る人への感謝を籠め、提灯を流す。
(信仰も儀式も思いを継ぐ人と共に変わり往くならば喪われたものも、まだ俺の中にあるんだろうか…)
「そういえばここの部族でお祝いを頼むとかできないでしょうか?」
神社には、そう言う場所がある。集落にもあるのだろうか、とふと奏は疑問に思った。
「んー…頼めばやってくれるんじゃないか?装飾や衣装に藍染めを使えば今回の様に宣伝にもなるだろうしな」
後で祭司に聞いてもみても、と大二郎はぼんやり思う。
「アキエヴェさんにお願いして……ここで――とか」
「なッ!? か、奏今なんと…!」
「いえ、何でもないですよ。どうかしたんですか?」
そこにあるのは、いつもの小気味良い笑みである。
何でもない、そう言ってから長髪を掻く大二郎。いくらなんでも『刺繍』と『祝言』を聞き間違えるなんて……
(いかんいかん…少々意識し過ぎたか…)
揺蕩えよ、さぁ
総て導く蒼き火よ
流れ、流れて希望を秘めて
そんな中、一人倉庫へと久延毘 大二郎(ka1771)は足を踏み入れる。顔を上げると、そこには歪虚面の山車がいた。最終調整を邪魔しない範囲で、ぐるりと大二郎は山車を見回す。
鈴生りのそれを眺めながら、自らが創り出した祭に感慨深さを覚えた。
ここでふと思うのは、好い人八雲 奏(ka4074)のこと。
(集落にいないが、彼ら何をやっているんだ?)
日は傾き、青空は茜色へと姿を変える。それはまた、漆黒の円舞台と言われるこの場所も同じだ。
族長アキエヴェは、簡素な私服姿でここに立っていた。今は橙に燃える舞台も、明日はしめやかな蒼に包まれることだろう。
何か足音が近づく。彼女が振り返るとそこにはエアルドフリス(ka1856)、ジュード・エアハート(ka0410)、ルナ・レンフィールド(ka1565)、ブリジット(ka4843)が来ていた。
「皆様、如何いたしましたか?」
最初に声を掛けたのは、エアルドフリスであった。
「今まで差し出がましい物言い、どうか許していただきたい」
「いえ、そんな」
どこか自分には個人的な思い入れがあったのでは、それをぶつけていた。彼はそんな風思っていた。
「最後にもう一つ御節介なんですが」
付け加えてから、エアルドフリスは提案する。祭前に、アキエヴェの気持ち、祭への願いと母御への思い。
部族の方々にそれを率直に話し、改めて協力を願うのは信仰の問題を明らかにするのも手、だと。
「貴女は皆の先頭に立って導くのでなく、皆と共に歩む族長なんだと見ていて思いました」
だからこそ貴方の献身を知ってもらうべき、と彼は言う。その話に黙り混むアキエヴェに、ジュードは優しく語りかける。
「アキエヴェさん、今、不安なこととかない?」
ジュードには心残りがあった。今まで祭創生、部族を一つにすることに注力したため族長の気持ちを考えられていただろうか。
「不安がないか、ですか」
そこで再び沈黙する。そして優しくこう呟いたのだ
「行く末でしょうか」
今言っても仕方ない、そう苦笑いをしつつも表情は寂しげだ。
やがて、エアルドフリスにこう返答する。今からでは皆が疲れて話どころではないだろう。側近の部下達だけでも、と。
「後は……是非戦舞をご覧ください」
「アキエヴェさんが部族の為に凄く頑張ってくれたの、知ってるから。それに準備を通して部族の皆にもそれが少しずつ伝わってきてると思うし、明日も頑張ってね」
そう言ってからジュードは手土産のシードルとマカロンの入ったカゴが置かれた。
アキエヴェが視線をジュードに戻すと、何かまだ言いたげなエアルドフリスを引きずって行ってしまった。
すると、奏が同じく円舞台に乗ってきてアキエヴェの手を取った。
「即興の舞を踊りませんか?」
唐突な申し出に、アキエヴェは驚く。戸惑うアキエヴェに奏はこう続ける、習ったものでも私に合わせるのも構わない。ただ、ただ、頭を空っぽに出来ればなんでも良いのだ、と。
二人の足取りに合わせ、フルートの音色をルナが奏で始めた。
疲れないようにスローテンポを保ちつつも、発散させるような大降りな動き。
最初は関節ガチガチな人形ダンスも、徐々に人間の踊りになっていく。
音楽が終われば、緩み切った表情で彼女達は肩で息をする。
「どうですか?」
ブリジットの一言に、袖を汗を拭うように当てつつアキエヴェは言う。
「出来ている、と言い切れる自信はありません」
「舞は楽しむものです。やるだけの事をやってきたんです。自信を持って」
こうして、日が沈むまで練習は続いたのであった……
●藍火祭
始まりが何時頃か、少なくとも早朝でないことは確かだ。元より宣伝をしていたためか、インデュー族の集落には沢山の人が集まっていた。
そして、ルナとブリジットの前には特に子供の人だかりが出来ていた。
「ほーら、叩いてみて!」
子供達は町から来ている子もいるためか、珍しい民族楽器に目をキラキラさせる。
リズムも何もへったくれない音が、がらくたのようにごちゃ混ぜだ。
そこでブリジットは、屈みながら目線を同じ高さにしつつ、音階と言うものを教える。次いで生まれたメロディという物に、みんな興味津々。が、楽しい時間も終わりが来る。
「みんな、頑張って!」
手を振り上げながら、ルナは子供達を見送った。
パレードが始まるまでの少しの間、出店を見回ることにした。ルナが木苺パフェに座りながら舌鼓していると、視線の先には鵤(ka3319)がいた。片手にチリコンカーン擬き、又片手にはエールを手にわたあめ器に指示を出していた。
「随分使い込んだな。まだ渡してそんなに経ってないっしょ?」
やれやれと言いつつ、エールを一気飲みすれば、焼き物のカップを置いて、歯車を弄り指を黒く汚していた。
わたあめ求めて行列作るお客様達も、その様子を真剣に見つめている。
「おっさんの手元でも見て覚えておけばぁ?」
「すごいぜ、オジサン!」
「おじさん……」
鵤、御歳43歳である。
また反対側では、Holmes(ka3813)がツナピザをかじりながら、飲み物を昼間という事も気にせず喉を鳴らしながら飲み下す。
「ん~……この喉ごし。たまらぬのぅ、ふふふ」
幼げな顔を染めてご満悦。出店チェックとは名ばかりの食べ歩き漫遊そのものである。
ルナが注文を待っていれば、エアルドフリスとジュードの二人が向かいに目に入る。ルナが手を振ると、ジュードもまた振り返してくれた。
彼は藍染めの浴衣を着て、エアルドフリスと手を繋いでいた。一方その彼はと言えば、自部族の衣装を身に付けている。彼なりの礼、なのだろうか。
「おっと、それも旨そうだ。一口頂けるかね?」
「ん、なら半分こだね」
そう言ってジュードは、じゃが芋スイートポテトをちぎってエアルドフリスに渡す。
ピザ屋台の前でもめる二人組。勿論強気なのは、年頃の女性こと奏。
「はい、ピザ(激辛)をあーーん♪」
「え、あの…奏…そのピザ、色合い的に私がこの前食べてむせた奴と同じ味の物では…?」
ザ、テンドンである。勿論食べさせられるの大二郎
「~ッ!!み、水!水を!それも一杯二杯ではなく!」
改良ピザには、更に大量の蒼唐辛子が乗っている。真っ赤なピザに緑が栄える栄える。
「もう一個あーーんです♪」
「ま、待て奏、これをもう一枚は少々勘弁してくれ、舌が燃え尽きてしまう…もう肩車でも何でもしてやるから…」
こうして、奏は特等席で誰よりも高い位置からパレードを眺めた。
壮大な太鼓の音と共に、歪虚の山車がやってくる。進行先には深い蒼を思わせる巫女衣装を身に付けたアキエヴェ。
彼女が船頭に立つ。その途端軽い破裂音がいくつも響く。山車の装飾の紙風船が割れ、中から藍染めの吹き流しが現れ容貌を変える。音楽もまた楽しげな物に変わっていた。ブリジットも演奏に参加する。演奏をしながら、彼女は今までの工程を思い出す。演奏の物珍しさから人に囲まれたり等あったが、それでもよき思い出になったと心から思う。
風に流れる山車は、搭乗席もあいまってまるで水面を奔る船の様だ。
「わぁ……」
彼女のキラキラ輝く紫の瞳に、僅な微笑みを大二郎は見せる。
その後、山車は止まり側面からタペストリーが下りて、見学出来るようになっている。傍らには、蒼い炎を抱く女性像。
「すごいね、エアさん! エアさん?」
「すまん、酔いつぶれたのが出たから行ってくる」
だからジュードは楽しんでて、とエアルドフリスが言うも、直ぐ様傍らへ。
「エアさんと一緒がいい♪」
●夜の儀式
土産の手のひら大提灯片手に去っていく。タペストリーの歴史をつらつら、また来たいとも言ってくれる影もちらちら。外部からの引き込みは、成功とみて良いだろう。
一部の人を残して、インデュー族の皆は砦にて整列していた。アキエヴェは、白の目立つ衣装を着込み薄青い旗を掲げる。
「皆様、行きましょう」
蒼い火の元に集いし民よ
灯すことを忘れるな
始まりの火が燃え尽きても
火種は皆の手の中、心の中に
藍染め提灯の光が連々としながら、ブリジットとエアルドフリスも唄に参加する。特にエアルドフリスのファルセットを利かせた声には、隣にいたジュードも驚く。
(エアさんも女装似合うかもなぁ)
漆黒の舞台。歌が止んだ頃には、辺りは暗く虫の音だけが聞こえた。
中央に演奏隊を引き連れたのはアキエヴェ。手には、儀式用の剣を携える。演奏隊には、ルナとブリジットも入る。しっかりと打ち合わせもしている為か、ルナの低い対旋律が厚みを充分に与えてくれた。
「アキヴィエちゃんガンバッテェー?みたいなぁ?」
尚、この和まそうとする鵤の一言は、綺麗にスルーされる。ただ一人、肩を叩いたのは祭司だけである。
(じゃあ、アレを出来るか見守らせてもらうとしますかぁ)
気を取り直し。ニヤニヤと変わらぬ笑みで、鵤は舞台に向き直った。
始まる演奏。足取りは軽く、描く軌跡は自然体。
(大丈夫、大丈夫ですよ)
奏では心の中でそっと声援を送る。ジュードはエアルドフリスの手を強く握りしめる。剣から神楽鈴に変わる、前に実際に踊ってみせた彼だからこそ、その瞬間は覚えている。
(ここだ!)
音楽が途切れる一瞬、ソレは姿を現した。袖から引き伸ばした一反にもなる藍色の帯。アキエヴェはそれを双腕に絡めとり、戦舞を続ける。
光を反射する素材が編み込まれたそれに、青い松明の明かりが浮かび上がる。その様子はまるで……
「蒼い火の羽衣…か」
鵤がヒュウと口笛を鳴らすなか、祭司は瞳を閉じていた。まるで記憶の中のソレと現在の娘の姿を重ねているようだ。
……シャン
やがて、演奏は止み、神楽鈴の音が止まり、アキエヴェは一人前へ歩を進めた。
「ワタシは、此処にこの戦舞をインデュー族初代族長、我が母トゥューハに捧げ、彼の方を蒼き火の第一使徒とすることを宣言致します」
「そしてワタシと共に、皆さん共に歩んでください。母の志を、引き継いでゆくために!」
静寂、それはほぼ同時の拍手に包まれた。それが何を意味するか、理解出来ぬものもいないだろう。エアルドフリスも、労いを籠める様に深々と礼をしていた。
「お疲れ様です」
弦楽器を傍らに、ブリジットは彼女に近付いた。かけたい言の葉は沢山あった、筈なのに出てきた言葉は……
「楽しめましたか?」
それだけ。だが、額に汗すら浮かべるアキエヴェは、はい、とだけ小さな息を吐いた。
拍手を送り一通りを見終わった鵤は、進行方向より踵を返す。隣にいた祭司は、それに気付いた。
「まだ、終わってませんよ」
「いやーこの行事に関しちゃおっさんには似合わなすぎるっていうかぁ?ま、後はおたくらで楽しくやってちょうだいよ」
くわえ煙草でへらへらと手を振りかざし、彼は灯火から離れ自ら影を追うように去るのだ。
先に逝った者達への想いも、これからの未来を願う想いも、自分には無縁である。
そう思っていた……思っているからだ。
「貴方のいく先に、蒼き火の加護のあらんことを……」
●
「どうですか?自分で新たな歴史の始まりを作った気分は? この祭祀から部族が1つになり、新しい流れが作られる……」
幾つもの蒼の光を乗せた船が、川を流れる。そんな様子を眺め見ていた大二郎に奏が言う。
「…何とも、言葉で表しようがない気分だ。重大な事をやり遂げたと言う誇らしい思いがあると同時に、一つの部族を己の手で染めてしまったという責任感もある」
関わらなければ、こんなことは恐らく思わなかったのだろう。
「毘古ちゃんは学者として何か得られましたか?」
「得た、と言っていいのかは分からんがね…この仕事を通して、人の持つ『文化』や『感情』の強さを改めて思い知ったのは確かだな」
Holmesは、岩に座りジャムティー片手に水面を眺める。ルナの奏でるバラードに、Holmesは一人心地る。
「老い先短い人生だ。死んだらあっちで彼女に話してみるのも面白いかもしれないね」
そう言って、船の流れ着く先を眺めた。その先が見えるような気がして……
ジュードも小舟を一艘流していた。彼らインデュー族が一つになれることを願い両手を合わせる。
「我が部族の教えに曰く。世界は円環、万物はその裡を巡る。この地の人々に、佳き巡りを。恵みが雨の如く降り注がん事を」
エアルドフリスもまた船を流す。貴重な経験と隣に居る人への感謝を籠め、提灯を流す。
(信仰も儀式も思いを継ぐ人と共に変わり往くならば喪われたものも、まだ俺の中にあるんだろうか…)
「そういえばここの部族でお祝いを頼むとかできないでしょうか?」
神社には、そう言う場所がある。集落にもあるのだろうか、とふと奏は疑問に思った。
「んー…頼めばやってくれるんじゃないか?装飾や衣装に藍染めを使えば今回の様に宣伝にもなるだろうしな」
後で祭司に聞いてもみても、と大二郎はぼんやり思う。
「アキエヴェさんにお願いして……ここで――とか」
「なッ!? か、奏今なんと…!」
「いえ、何でもないですよ。どうかしたんですか?」
そこにあるのは、いつもの小気味良い笑みである。
何でもない、そう言ってから長髪を掻く大二郎。いくらなんでも『刺繍』と『祝言』を聞き間違えるなんて……
(いかんいかん…少々意識し過ぎたか…)
揺蕩えよ、さぁ
総て導く蒼き火よ
流れ、流れて希望を秘めて
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祭りのしおり【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/09/19 14:04:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/18 19:03:57 |