【蒼祭】インタビューwithロッソ

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/20 19:00
完成日
2015/09/28 06:00

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「いい眺めだなあ……」
 ノア・ベンカーの嬉しそうな顔を見ると、連れて来てあげて正解だったのかな、とピア・ファティ(kz0142)は思う。
 ここはバルトアンデルスから2時間ほど離れた町、フェーヴス・ビーネ。
 その町の広場の真ん中に建つ大きな時計塔。
 生活用水である地下水を汲み上げる役目を担う時計塔の保守管理を、ピアはハンターの口添えもあって引き受けることになった。
 祖父は錬金術師、自身は機導師、という部分で町長もピアが専属になってくれるのは有難いと思ったようだ。
 何よりちょいと作業料がお安くなりそうだし? というのも本音の部分。
 普段は町のベル時計店に住み込みで働くことになっているピアだが、懐事情はとほほな感じなので有難い話だ。
 ただ、腐れ縁でちょくちょくピアの顔を見に来る新聞記者のノアが何度も「俺も時計塔の中に入りたい!」とせがむのには閉口した。
「だめですって。時計塔はすごく厳重な管理なんです」
 ピアが言えば
「分かってるって。絶対口外しないし、カメラも持って行かない。もちろん記事にもしない」
 ノアは懇願する。
「俺、高いとこ、好きなんだ。一度でいいからあの見晴台の景色眺めてみたい!」
 とうとう根負けして、ピアは内緒ですよときつく言い渡して連れて行くことにした。
「ねえ、ピアちゃん」
 ご満悦な表情で遠くを眺めながらノアは言う。
「俺と一泊旅行する気ない?」
「はぁ?」
 何をいきなり、と思うより先にピアは数歩飛び退っていた。
「あの……銃は収めてくれる?」
「あ、すみません……」
 いやぁ、銃まで抜いていたとは。
「というか、何ですか、旅行って藪から棒に」
 うろろと警戒オーラを立ち昇らせてピアは言う。
「ロッソ祭だよ。行くなら一泊くらいしたいじゃない」
 ノアは胸のポケットから煙草を取り出した。
「あっ、禁煙ですっ」
 ちぇ、とノアは煙草をしまってピアの顔を見る。
「サルヴァトーレ・ロッソで祭があるんだよ。あそこにいる民間人はクリムゾンウエスト人との接触が薄いからね、この機に仲良くしましょうってやつ。まあ、ロッソを連合軍戦力に組み入れるってのがそもそもの目的みたいだけど。乗ってる民間人、クリムゾンウエストでも受け入れないといけないわけだし」
 ロッソ祭……そんなのがあるんだ。
「誰でも入れるんですか?」
「そりゃ、祭だからね」
 サルヴァトーレ・ロッソ。
 大きな宇宙戦艦。リゼリオにだけ停泊する船。兵器、機械設備、居住空間、ええとええと後は何だっけ?
 うわー……見てみたーい……
「ダニエル・ラーゲンベックかジョン・スミスにインタビューしたいんだ。すごいスクープだぜぇ?」
 ノアはうっとりと夢見心地に空を仰ぎ見る。
「そんなの、できるんですか?」
 ピアでも、2人の名前くらいは知っている。帝国の一介の新聞記者であるノアのインタビューにおいそれと応じてくれるとはとても思えない。
「だからピアちゃんを誘ってんの」
 ノアはピアを指差し、にかっと笑う。
「ハンターズ・ソサエティはロッソとは同じような立場だ。ハンターの後押しがありゃアポイントもすんなり、重い口も開いてくれそうな気がす……」
「無理です」
「え……?」
 ノアは振り上げていた右手の人差し指を暫く硬直させ、そのあと空中でぐるんぐるん回す。
「……どして?」
「私、話し、うまくできないですもん」
 それ、自慢? と思えるほどピアはきっぱり言う。
「ピアちゃんがインタビューしなくてもいいんだよ? 一番最初に口利きしてくれればあとは……」
「無理です。私が得意なことって機械修理とか一杯食べることくらい。じゃ、そゆことで」
 さっさと背を向けて見晴台から降りようとするピアの腕をノアは掴んだ。
「ま、待ってよ、じゃ、ハンター集めてよ、ピアちゃんが。それならいいだろ?」
「……私、お金ないです」
「水臭いなあ。そう言うのは俺が出すってば」
「ノアさんがお金出すとろくなことない気がする」
「やだなあ、気のせいだよ」
 あっはっはと笑い、ノアはずいっと顔を寄せる。
「ロッソ祭に行けばさ、こっちじゃ食えない旨いもんあるかもしれないぜ?」
 ぴくっ……
「ロッソの中、見たくない? インタビューが成功すればさ、いろいろ見せてもらえるかもしれないぜぇ? ピアちゃんの好きな機械いーっぱい」
 ぴくぴくっ……
 気持ちは最早、鼻面に人参ぶら下げられたお馬さん。
「へ……ヘルマンさんに相談しないと。お店のお仕事お休みすることになるし」
 ピアは骨抜きになって答えたのだった。


 ところが。
「いかん、いかん!」
 ベル時計店のヘルマンは猛反対。
「父さん、ピアさんにだってお休みは必要だよ」
 息子のテオがとりなすが、ヘルマンは鬼の形相。がしっとピアの腕を両側から掴む。
「ピア、お前はまだ嫁入り前の娘だぞ? そのことがわかってるのか? あの男と一泊だと? 危険極まりない! 妙なことをされたらどうするんだ!」
 み、妙なこと……? そりゃ、まあ、ちょっとは警戒したけど……
「お前はまだ男の恐ろしさを知らん。結婚するまでは清く正しくだ!」
 鼻息を噴き出すヘルマン。
「あ、あの、2人きりじゃなくて、ハンターの皆さんと行きますから……」
「じゃあ、しっかり守ってもらえ! 貞操は護らねばならん!」
「て……貞操……」
 ……すごい言葉。
 ヘルマンはポケットをがさごそ探り、ありったけをピアに握らせた。
「いいか、買い食いする時、生ものは避けるんだぞ。夜はあの男が手を出さんよう、ちゃんと見張ってもらえ。わかったな!」
 ヘルマンにはノアが野獣としか思えないらしかった。


――― 補足事項

●ロッソ祭について

 サルヴァトーレ・ロッソ内で行われるリアルブルー人とクリムゾンウエスト人との交流のためのお祭です。
 いわゆるよくあるお祭の様相で、出店、イベント・アトラクション、街角演説、展示会、等々で盛り上がります。
 宿泊施設は居住区の決まった場所にある集合住宅の空き室などを使ってもらう形となります。

リプレイ本文

 ロッソ内に入るなり「わわわ……」と人波に押されて離れていくピア・ファティ(kz0142)を、バジル・フィルビー(ka4977)がはっしと掴む。
「ピア」
 引き寄せられたピアの手にルシオ・セレステ(ka0673)が短伝話を握らせた。
「迷子になったら使うんだよ。私に繋がるから」
「は……はい。あれ、バジルさん、何を?」
「ピアの財布、体に結びつけてるの。早速半分ポケットから出てるし。短伝話も括りつける?」
「あ……あはは……」
「それよか、まずは艦長のいるとこ探さなきゃだな? ええと、クオン君だっけ?」
 ノア・ベンカーは周囲を見回しながら、クオン・サガラ(ka0018)に声をかけるが、クオンは「ええ、そうなんですけども」と答えつつ、少し笑ってちょいちょいと先を指差した。
「はいはーい、市街地が開放中で~す♪ 楽しんでってくださいね~♪」
「ああっ、CAMだあっ!」
 きゃぴーんとウーナ(ka1439)が走り出し、そこにはわっせわっせと旗を振るCAM。
 その横でジョン・スミスが背中に旗を括り付けて立っていたのだった。


「インタビュー? いいですよ」
 スミスは「ふぅ」と背負っていた旗を降ろす。
「休憩したかったし」
 えっ、二つ返事っ? いいの?
「あの、ラーゲルベック艦長にもお願いしたく……」
 少し遠慮がちに言うクオンに
「もちろん。何かのサークル? んじゃ、行きましょうか」
 いや、インタビュアーはこいつなんですけど、とノアを紹介する暇もなくスミスはスタスタと歩き出す。
「スミスさん、CAM、最高ですーっ!」
 とととっと後を追いつつウーナは叫び、
「え、ま、待って」
 カメラを抱えてもたもたするノアにマキナ・バベッジ(ka4302)が手を差し出した。
「良かったら、お持ちします」
「あ、頼むわ」
 急がねば。スミスの姿はもう遙か向こう。
 駆け抜ける一群を不思議そうに見送る視線を感じつつ、スミスの入って行った建物の中にどどっと滑り込む。
 艦の中だから『建物』というのは少し違うのだろうが、いかにも戦艦内部らしい一直線に並ぶ照明や把手のない鈍い銀色の両引きドアの並んだ廊下に少し緊張する。
 スミスは一つの部屋に皆を案内し、クオンの顔を見た。
「君、ずいぶんと慣れた様子だったけど?」
 はい、とクオンはにこりと笑う。
「以前こちらに配属されていました。クオン・サガラです。あの、今日のメインのインタビュアーはこちらですから」
 ようやっとノアが紹介された。
「ども。帝国通信社のノア・ベンカーといいます」
 ノアはきりりと顔を引き締めて名刺を差し出す。
「新聞社だったのか。専門は何?」
 スミスの問いに、同じ疑問を持っていた男性陣がノアを見る。
「あ、いろいろっすね。経済、時事、芸能、発行部数は割と多いほうっすよ。俺はマルチな取材記者っす」
 もうちょっとましな態度がとれんのかこのおっさん、と思ってしまうほど、ノアはあっという間にタメ口になってわっはっはと笑う。
 スミスは気にするふうもなく少し笑って部屋をあとにした。
「あたし、ロッソで転移したんだよ。ここは来たことはないけど」
 ウーナがソファにぽふんと座り、部屋をぐるんと見回すと
「あ、君、たぶん艦長ウケするからこっち座ってよ。マキナ君、撮影頼むね」
 ノアは仕切り始める。
 で、あとはそれぞれ適当に座ってご登場を待つのだが……
 ……来ない。
 全然来ない。
 30分ほどたった頃、さすがにクオンが廊下に顔を覗かせた。
「あれ……?」
 いるじゃないか、ラーゲルベック艦長とスミスさん。
「艦長~……もういいじゃないですかあ」
 スミスの声、小さな手鏡を覗き込んで丁寧に髭を撫でつけるラーゲルベック。
「鼻毛出てないか」
「髭で隠れますよ」
「写真に鼻毛写ったら洒落にならねえ」
「どんだけアップで」
「あのぅ……」
 クオンが恐る恐る声をかけた時には、部屋の中から全員が顔を出していた。
 一瞬硬直した艦長とスミスはゆっくりとこちらを向き
「見なかったことに」
 声が揃った。


 仕切り直し。
 それぞれが自己紹介をしていざ、となるのだが、口火を切らないといけないノアが
「え、ええと……」
 この人どうやら本番には弱いらしい?
 鼻毛を気にするおじさんでも、ロッソの艦長は目の前にするとものすごく威圧感がある。
 まさか怖気づいたかノア・ベンカー。
「あの、スケッチさせていただいてもいいでしょうか?」
 バジルが場を和ませるようにふんわりと尋ねる。
「なに。肖像画まで描いていただけるのか」
 ちょっと違うけどまあ、いいか、とバジルは早速スケッチブックを開き、ウィルフォード・リュウェリン(ka1931)がしっかりしろよというようにノアの肘を突いて囁く。
「なんでもいいだろ。長所短所、趣味とか好きなタイプとか好物とか」
「あ、で、ではあのご趣味は」
 チョイスそこ?
「趣味。趣味はもちろん船の模型を作ることだな」
 大真面目に答えるラーゲルベック。
「船ですか?」
 バジルが興味深げに目を輝かせた。
「宇宙船ではないぞ? その昔、海を渡った帆を張る大船だ。あの美しい曲線、美しくその緻密な内部までも事細かに……」
「ボクは艦長が作ったその帆船模型を眺めるのは結構好きです♪」
 たぶんラーゲルベックの話が長くなるからだろうというのが丸わかりの状態でスミスが口を挟み、にこりと笑う。
「で、では、あの、お好みのタイプは?」
 どうかしてるぞノア・ベンカー! と皆が突っ込みたくなるがぐっと抑える。
「好みのタイプはやはりヴァイキング船なのだが、動力も備えた船も好みではある」
 ピンボケ大真面目のラーゲルベック。
 スミスは
「そうですねえ、ボクは……が大きくて、甘く緩やかな曲線を描いて流れる……がたまらなくて、きゅっと締まった……を持つ……が好きですねえ」
「はい?」
 ノアが首を傾げる。
「あの、ちょっと聞き取れなかったのでもういち……ふが」
 ノアを挟んでウィルフォードと反対側に座っていたルシオが、空気読め、という顔でノアの口を押えた。
 代わりに自身が口を開く。
「あの、こちらではCAM以外に医療の技術提供や見学解放の予定はありますか? 医薬品などは船の中で生成を?」
 ラーゲルベックが目を細めた。
「君は……医療従事者か?」
「いえ、友人に医療関係者が多いものですから」
 ふむとラーゲルベックは顎髭を撫でた。
「具体的な予定はないが、明確な必要性があれば正式に提示してもらった上での検討といったところだな。医薬品は多少の備蓄はあるが基本、艦内プラントでの生成だ。しかし、怪我はともかく、ここではまずは流行性の病原菌が蔓延せぬようすることが第一といえる」
 確かにロッソは巨大ではあるが半ば閉塞空間だ。乗せている人が多いだけに伝染性のものに対してはかなり警戒しているだろう。
 ルシオが丁重に礼を述べたあと、かしゃりとシャッターを切ったマキナが「あの」と控えめに口を開いた。
「皆さんのコロニーでの生活や、リアルブルーにはクリムゾンウェストと似た雰囲気を持つ国はあるのかお聞きしたいのですが……」
「全く同じとは言えんが、コロニーの生活は地球とはほとんど変わらんよ。見た目だけならクリムゾンウエストと似た場所も多いかもしれん。ただ積み重ねた歴史は違う。それは恐らく様々な違いを有しているだろう。それでも俺は互いに迎合不要と思っている。必要なのは理解だ。今は同じ目的を持とうとしているからな」
 そこでラーゲルベックは意外そうに皆の顔を見回した。
「CAMの質問が多いと思っていたが?」
「あ、聞きたいでーす!」
 ウーナがハイハイと手をあげた。
「CAMに乗りたいでーす! パイロットにしゅーしょくできない?」
 ラーゲルベックはふっと笑い、大きな手で彼女の頭をぽんぽんと叩いた。
「お嬢さん、ここに就職したきゃ、国か組織の正当手続きを踏んでから相応の時間を要して来てもらうことになるだろうな。その覚悟があるならやってみるといい」
 そっかぁ、とウーナは考えたあと、
「じゃあさ、艦長が総司令になったら連合軍でCAM使える?」
 ラーゲルベックはワハハと笑う。
「もちろん必要なら動くことにはなるだろうが、今の答えとしてはそこまでだ。そんなに乗りたいなら今から一緒に格納庫に行くか」
「クオン君は操縦を教えてあげられるでしょ?」
 スミスの視線を受けて、クオンは目をぱちくりさせた。
「ええ、もちろん」
 この人にCAMに乗ったことがあるって……言ったかな……?
 そんなことはお構いなしに
「きゃー! ラッキー!」
 ウーナ、万歳。
「でも、あの、もちょっとインタビューを」
 ノアが慌てて口を挟み、記事の内容を膨らませたいのか急いでいくつか当り障りのない質問をする。
 それでもラーゲルベックとスミスは丁寧に答えてくれた。
 インタビューは他にもあるだろうし、友好の意は明確に表すべきと考えたからだろう。
 暫くして、では行くか、とラーゲルベックは立ち上がり、せっかくなので皆で行くことに。
 艦長直々に案内されるなんてことはこの機を逃してもうないだろうから。
 ラーゲルベックは公開している格納庫とは別の格納庫を開いてくれた。
「うわー! デュミナス! ドミニオン! すごーい!」
 ウーナは大喜びだ。
「歩かせるだけなら動かしても構わんぞ」
 ラーゲルベックの声にクオンがデュミナスのコクピットを開いた。
 そしてウーナに声をかける。
「座ってみて? 最初にシートベルトしてください。左スティックが歩行です。右は……」
 言葉が終わる前にウーナはデュミナスを動かしてしまう。
「あれ? ウーナさんて、操縦法知ってるのかな?」
「勘がいいんじゃないでしょうかね。ところであの2人は何をしてるんです?」
 スミスの言葉に振り向いてみれば、マキナとピアがドミニオンの足元にうずくまって何やら会話している。
「あの2人は操縦よりも構造のほうに興味がありますから」
 バジルが笑った。
 ノアはといえばひたすらぱしぱしと写真を撮っている。
「君らはあの記者と知り合いなのか?」
 ラーゲルベックに問われて、ルシオは質問の意図が理解できず首を傾げる。
「私達はギルドの依頼で。もっとも、全くの初対面ではありませんが」
 そう答えるとラーゲルベックはそうかと頷いた。
「何か問題でも……?」
「いや、そうではない。帝国通信社は確かにあったし、ベンカーも在籍していた。ただ、飄々とした奴にもいろいろいるからな」
 小さく笑うラーゲルベックの視線を感じてスミスが「はい?」とこちらを向いた。
 ルシオは横にいたウィルフォードとちらと視線を交わす。
 2人が来るのが遅かったのは、身元を調べていたからだ。
 疑うというわけではないのだろうが、ロッソが戦艦なのだと改めて感じたのだった。


 その後も暫く施設内を案内してもらったが、あまり御身を拘束してもと遠慮して、丁重に礼を言って市街地に戻った。
「引き際が肝心」
 などと、一番図々しいノアがしたり顔で言う。
 テーブルと椅子が置いてある休憩所を待合せにし、それぞれが思う場所に向かう。
 ノアはクオンに頼んで艦内を案内してもらうことに。ウーナもそれに続いた。
 バジルはいろいろスケッチしてくると早速歩いて行く。
 ピアはヘルマンへのお土産探しも兼ねてあちこち散策することに。
「ピア、おいで。一緒に行こう」
 ルシオが差し伸べた手を「はいっ」と握りしめたピアは、はっとして慌てて手を放した。
「ご、ごめんなさい……」
「迷子になるといけない」
 ルシオが笑って再び手を繋ぐと、ピアは耳まで真っ赤になった。
「ファティさん、時計が。あ、こっち……玩具店……かな?」
「きゃー!」
 マキナの声にピアはぐいとルシオの手を引っ張り走り出す。
 ウィルフォードは混雑が嫌いだからと言いつつ、屋台の一角で何やら考え込みながら食べ物を買い始めた。
 バジルが時間の経過を知ったのは艦内の照明が落ちて夕刻の雰囲気になったからだった。
「すごいな。一日をちゃんとあらわすんだ」
 そう言いながら待合せ場所に戻ったバジルは、ウィルフォードがピアにあーんと何かを食べさせているのを見た。
「2人、こんなに仲が良かったっけ?」
 不思議そうに言うとマキナとルシオが顔を見合わせて苦笑した。
「いろいろ与えてみようと思っている」
 と、ウィルフォード。
 餌? と突っ込みたくなったが、既にテーブルの上が空き皿満杯。
「これでお腹半分、くらいだそうだ」
 ルシオの言葉にバジル絶句。
 暫くしてクオン達も戻って来る。
「いやー、やっぱり一日じゃ回るの無理だねえ。でも、君らがいてくれて助かった。あ、ここでの支払いは俺が払うから遠慮しなくていいぞ。今夜は目一杯飲もうや」
 ノアはご満悦だ。
「明日、CAMのミニ競技会があるんだって。あたし、本気でロッソに就職考えようかなあ」
 ウーナがミニケーキを口に放り込みながら言う。
「ハンターを辞めないとだめだと思いますよ」
 クオンの言葉にウーナは首を傾げる。
「でもさ、スミスさんもハンターでしょ? 覚醒者なんだし」
「あの御仁がロッソにいる理由は公になってないからな」
 既にグラス一杯を空けたノアが言う。
「調べてるじゃないか。いろんな奴の悪い方じゃなかったか」
 串に刺した肉をピアの前でぐるんぐるんと回していたウィルフォードが言い、ノアは「なんのこと?」と怪訝な顔をする。
 さすがに人通りもまばらになった頃、宿に行くとルシオがピアとウーナを促した。
「あ、俺も」
 立ち上がろうとするノアは既にかなりの酔っ払い。
「ノアはまだだよ」
 バジルが押さえつけ、これ、もらお、とウーナがケーキの包みをいくつか持ち上げた。
「ピア、今日は一緒に泊まろう」
「えっ、でもっ、や、ルシオさんは大好きですがっ……」
 ルシオの声にピアが慌てたが、ノアがしつこくすがってきそうなので素早く離れる。
 暫くして遠くから「ええ~~!」というピアの絶叫が聞こえた。
「ルシオを男性だと思ってた?」
 と、バジル。
「手を繋いでもらって嬉しそうでした」
 マキナが笑った。
「ピアちゃーん……ちぇ」
「何が『ピアちゃん』だ。なんでそう彼女にいろいろ絡むかね?」
 呆れ顔でウィルフォードが尋ねると、
「ウーナちゃんとルシオちゃんも好きだよぅ?」
 とろんとした目でノアはこちらを向く。
「あの子、見といたほうがいいぜー……同じハンターならさ……」
 うまく回らない呂律でノアは言う。
「どういう意味だ?」
 それにはノアはくくっと笑っただけだった。


 翌日、再び皆で祭りを堪能し、夕刻前にロッソを後にした。
 数日してインタビュー記事は帝国通信社の新聞に掲載されたが、マキナの撮った写真がノアの撮影したCAMの写真よりも大きく掲載されていた。
 もちろん、ラーゲルベックが最初に気にしていた鼻毛は写っていない。

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参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士

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マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/17 20:17:24
アイコン インタヴューとお祭りと。
ルシオ・セレステ(ka0673
エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/09/20 02:15:57