覚醒してみたら

マスター:江口梨奈

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/26 07:30
完成日
2014/08/03 12:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 篤志はリアルブルーからの転移者だ。
 転移、という現象すら信じがたいのに、辿り着いた世界……グラズヘイム王国のいち地方、小さな街で知り合いに会うとは……なんという偶然か。と感激したが、こちらの世界ではこうした転移者が増えつつあり、自分たちのようなケースは珍しくないという。
 それはともかく、篤志は中学校時代の同級生・敏明と、何気なく入った食堂のカウンターを挟んで、20年ぶりに再会した。
「トッさんじゃねーか。何してんだ、こんなところで」
「何してんだ、じゃないよ。おまえこそ何してんだよ」
 聞けば、敏明の転移は篤志の数ヶ月前だという。この世界へ来てとりあえずの衣食住の確保のため、食堂で居候をしているそうだ。
「トッさん、この世界で食っていくなら、精霊と契約してハンターになった方がいいぜ。アレ、覚えてるか? 中学のときに流行した、『スパルタン・ファイト』。あのゲームみたいにさ、バッタバッタ、化け物をなぎ倒せるんだぜ。……おまえ、柔道をやってたよな? 体を使う仕事とか、出来るんじゃないか?」
 すでに闘狩人として何件かの仕事をこなした篤志が勧めた。三十路を越えた敏明の体は肉がたるんでいるが、骨太い体格はそのままだ。ハンターという職業は、食堂の皿洗いより向いていると思えた。
「あー、いや……実は、覚醒者にはなったんだ。お前と同じ闘狩人で……」
 敏明は言葉を濁す。
「お客さん、トシアキの知り合い? だったら言ってやって下さいよ。せっかくの素質を腐らせるんじゃないってね」
 店のおかみが出来上がった料理を出し、話に加わる。
「あたしはね、こんな恵まれた体格してんだから、ハンターをやっていけばいいと思うのよ。でも何が不満だか。お客さんもハンターなら、ちょっと誘ってやって下さいよ」
 店も暇な時間だからと敏明はカウンターを追い出され、篤志と同じテーブルで遅い昼食を取ることにした。

「アツシ、お前は覚醒して、どんな格好になるんだ?」
 敏明が聞いてきた。
「俺はさ、両腕の先が光るよ。それこそ、『スパ・ファイ』のジョニーみたいにさ。思わず『烈火アタック!』とか叫んじゃうよ」
 懐かしい友人と、懐かしい話題をしているが、浮かれているのは篤志だけだ。当然のように篤志が、「おまえはどうなんだ?」と聞いたとき、敏明の顔色が変わった。
「その、『スパ・ファイ』にさー、……居ただろ、ライムって、女キャラが」
「ああ、居たな。キャッチーなデザインの服で、乳がばいんばいん揺れてたやつがな」
 子供心にも、あざといキャラクターだと思っていた。緑色の縦ロールと乳を揺らすばかりで、打撃力も無く防御力も低く、いざ友人と対戦するとなるとまったく使えないので、篤志は強力な技を出すキャラクターばっかり選んで遊んでいた。
「……実はさ、当時の俺、ライムにハマってたんだよな……」
「わぁお」
 意外な告白だ。柔道ひとすじの、堅物な男と思っていたが。
「それこそ、薄い本とか買って……たいそうお世話になった」
「そりゃまた……ゲームキャラとか、俺には分からん感覚だが」
 俺は肌色の水着アイドルの方が好きだったが、とか、その話は今はいい。
「で、そのライムが、どうした?」
 なぜ、この場で、昔のゲームの話になったのだろうか。

「……俺、覚醒したら、ライムになるんだよ」
「うわぁお」
 篤志は、口に入れてたリゾットを噴き出しそうになった。言うに事欠いて、何を言い出すんだこの男は。
「髪が緑色になって、縦ロールになって……体中の脂肪が、乳に集まる」
「なんだよそれ、魔女ッ子かよ」
 いかつい男がステッキと呪文ひとつで可愛い女の子になる! なんと漫画チックなシチュエーションではないか。だが、敏明の顔は暗い。
「……顔も体格も、このままなんだよ。正直、つむじの辺り、薄くなってるよ。顔面の毛穴も目立つし、髭跡だって黒ずんでるよ。乳はあっても、股間にもあるものはあるよ」
「それは……キツいな」
「ああ……キツい」
 敏明も、自分が美形ではなく、学生時代に鍛えた骨格の丈夫さを自覚している。それが、かつて大好きだった美少女キャラクターの格好を、完璧に模すでもなく、みっともない中途半端な形にしてしまうことに膝を落としていた。
「これがさ、同じ女の格好でも、ただ髪が伸びたり乳が出たりするのならいいよ。でも、どう見ても、ライムの出来損ないなんだ。なんつーか、俺の青春が台無しになっていくカンジがしてさぁ……」
「けどさ、こっちの世界じゃ、誰も『スパ・ファイ』なんて知らないだろ? 覚醒した格好がヘンなやつもいっぱいいるよ、気にすること、ないんじゃないか?」
 そう慰めるも、やはり自分が憧れのキャラクターとかけ離れていることは、受け入れ難いようであった。

 しかし、何と勿体ない話であろうか。かつて柔道をやっていた体躯も、ハンターになる素質もあるのに、それを生かさないとは……。
 店を出たところで、おかみに声をかけられた。
「どう、トシアキは、ハンターになりそうかい?」
「さあ、難しいですね」
 おかみは、残念そうに溜息をついた。
「そう……ヴォイドと戦うヒーローだっていうんで、うちの甥っ子姪っ子が憧れてんだよねえ……。あたしも、トシアキがこの国の平和を守るとなったら、応援したいのにねえ」

 さて、篤志はひとつの依頼を受けた。
 廃屋に住み着いた5体のコボルト退治という、そう難しくなさそうな事件だ。
 しかし篤志はふと思いついて、同じ依頼を受けた仲間に頭を下げた。
「頼む、俺の友人に、この依頼を代わりにやらせてもらえないか?」
 仲間達に事情を話す。何とか説得して敏明は連れてくるので、自分の代わりにしてほしいと。
 そして、皆の口から、敏明の覚醒姿はおかしくないと。ハンターとして戦える男だと証明して欲しい。

  

リプレイ本文

●代役
(なんか、ヘンなのがいる)
 友人の代わりに依頼を受けることになった敏明は、集合場所にいる先に来ていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)を見て後ずさりした。全身黒ずくめで、その上マントを羽織り、顔にも革のマスクをしており、その格好で腕を組み仁王立ちしていた。言うなれば、アメリカンコミックに出てくるヒーロー……もとい、悪役といった風貌だ。
 視線に気付いたか、デスドクロの方から近づいてきた。
「む、おまえがアツシの代わりの男だな」
 そう言った後、しばし沈黙が流れた。返事に困った敏明が口ごもっていると、しびれを切らしたデスドクロが、やれやれという風に頭を振った。
「俺様は、万民を導く偉大なる暗黒皇帝(シュヴァルツカイザー)、デスドクロ様だ!」
 まったく、この俺様から先に名乗らせるとは、庶民は礼儀も知らんのか、と大仰な溜息をつく。慌てて敏明も自己紹介をした。気圧されていたとはいえ、確かに自己紹介が遅れたのはマナー違反であったと反省する。
「その男の言うことは気にするな」
 東郷 猛(ka0493)が助け船を出してきた。敏明とデスドクロと猛、大男3人が並ぶとそこに壁が出来たようだ。
「代役を受けてくれて感謝する。アツシがひとり急に来られないと聞いたときはどうしたものかと思ったが。頼りにさせてもらうぞ」
「ああ、いや……、ははは……」
 敏明は、困った表情を見せた。篤志からは、頭数がいるから、立ってるだけでいいからと言われていたのだが……どうも、そんな雰囲気ではなさそうだ。
「あのアツシに、いいように言いくるめられたか?」
 霧島(ka2263)は経緯を察知したようで、くすくす笑っていた。
「アツシを知っているのか?」
「ハンターオフィスで挨拶を交わす程度には、な。依頼をこなしていくと、仲間は増えるもんだ」
 霧島は、他のハンターを見回した。元からの友人や、過去の仕事で知り合った者、等々、今回の依頼は縁者が多い。
「覚醒の件も、話を聞いているよ。それで、こんなものを用意させて貰ったんだが……」
 彼女が出してきたのは、マントとコートと、派手なマスカレードだった。
「頭からかぶれば、覚醒しても姿は隠せる。まあ、よければ使ってくれ」
 嬉しい気遣いではないか。ただ……このマスカレードは、平時に装着するにはためらわれるデザインであった。
「デザインはともかく、顔を隠す、ってのは、『正義のヒーロー』の定番で……」
 と、クロード・インベルク(ka1506)は言おうとしたが、彼の後ろにはデスドクロ。己の発言の説得力がみるみる無くなって行くような気がする。が、押し通す。
「えーと、このマスクは今日だけの間に合わせだけど、トシアキさんはどんなのが似合うかな? 体が大きいから、派手な方が迫力があっていいと思うけど」
「まったく、何を気にしてるんだか」
 心底、興味がないというふうに、セリス・アルマーズ(ka1079)は言った。
「女の格好になるそうだけど、天使の世界じゃ両性具有なんてザラよ。毛むくじゃらになる女もいるし、ね」
「わッ、わたくしのこと?」
 急に話を振られて、エステル・L・V・W(ka0548)は妙な声を上げたが、すぐさま反論した。
「毛むくじゃらとは、人聞きが悪いですわ。わたくしの姿は、先祖より受け継がれし、雄獅子ネメアーの降りた姿ですのよ」
「私は、あなたがどんな格好になろうと、気にならないわ」
「無視されたー!」
「あ、あの……」
 ノノトト(ka0553)が、おそるおそる、口を開いた。
「ぼくは覚醒しても何もかわらないから……。トシアキさんの悩みは、ごめんなさい、わからないけど……でも」
 ノノトトは、一生懸命、自分の思いを言葉に代えている。
「ぼく、トシアキさんが、どんな格好になっても、笑わないから……だから、コボルト退治、がんばろう」
 敏明は、ふう、と息を漏らした。
 事情を知った皆が慰め、励まして、対策を講じてくれている上に、こんなに小さい子にまで、心配されてしまっているとは。いつまで、うじうじしたことを言っているのだろう。
 自分を騙した篤志への報復はまた後で考えるとして、いい加減、腹をくくろう。
 マスカレードをかけ、マントを羽織った。
「案内してくれ、コボルトの巣はどこだ!?」

●コボルトの巣
 問題の場所は、街からだいぶ外れたところにある。目的の家以外、他にめぼしい建物もない。もとの住人は、質素ながら自給自足でやっていたようで、屋敷の周りはぐるりと畑に囲まれていたが、それも今や雑草で覆い尽くされている。そうっと近くへ行くと、中から物音がする。どうやら報告通り、コボルトがここを便利なねぐらにしてしまっているようだ。作戦は、四方から突入するという、至ってシンプルなものとなった。
「なんと難しい仕事だ!」
 額に手を遣り、天を仰ぐデスドクロ。
「俺様の圧倒的な暗黒オーラによって、弱小生物たるコボルトは自動的に心臓が止まって死んでしまう、皆の見せ場を奪ってしまうではないか! しかし、案ずるな。優しきデスドクロ様は5%の力で戦うことを約束しよう。巨大隕石を百億個降らせる暗黒超魔術デスメテオは今回は使わねぇでおいてやるぜ!」
「そうしてくれると助かるわー。巨大隕石なんか降らされて、この家が吹き飛んだら大変だもの」
 セリスはデスドクロへの相づちも適当に、先ほどから屋敷の品定めに夢中だ。窓の隙間から見える食器棚、柱時計、ソファ……あれらを売りさばけば、幾らになるだろうかと。
 正面の扉から、陽動を兼ねて派手に、デスドクロとエステルと霧島が。裏手から猛とクロード、それにセリスがそれぞれの進入路から入り、ノノトトは退路を断つべく庭に残る。
「そういえばトシアキさんは、ハンターとして仕事をするのは、初めてなんだよね?」
 クロードが尋ねてきた。代役の上に初めてゆえ、彼に与えられた役割は、もっともフォローする人数の多い陽動斑となった。
「ああ。柔道の試合より緊張するな」
「ジュウドウって?」
「リアルブルーの格闘技だ。こう見えても俺、強かったんだぞ」
 敏明は自虐気味に、己の脇腹をつまんで見せた。社会人になってからは、まともな運動をしていない。この世界に来て、精霊と契約をしたときに覚えた技のいくつかを試すために素振りのようなことをした、それが最後の運動かもしれない。
「使わないと錆るぞ……コレみたいにな」
 霧島は、かついでいた魔導ドリルを肩から下ろした。こんな場面でもなければ使い道が無く、長く倉庫で埃をかぶっていたものだった。
「さあて、始めさせてもらうか」
「けだものに、力の差を見せつけてやりましょうか」
 エステルの桃色の髪がざわざわ揺れだした。闘いを前に興奮しているのが分かる。
 皆がそれぞれ配置についたのを見計らって、霧島はドリルの刃を扉に当てた。

「始まったか」
 正面玄関が賑やかになった。裏手にいた猛はそれと同時に『筋力充填』を全身にたぎらせ、台所に繋がる脆そうな裏口を易々と割り壊した。むわっと、異臭が流れ出てくる。コボルトが好き勝手に使っていたのだろう。
「見張りを頼むぞ」
「はい! いってらっしゃいー」
 ノノトトに見送られ、猛は中に入った。別の窓から、クロードとセリスが入った音もする。しかしそれ以上に、玄関のほうはやかましい。
「ブッハハハ! 死にたくなけりゃ、避けろ避けろッ!」
 そんな声と共に、誰かの放った魔導砲が猛の脇を通り抜けて、後ろの壁に当たる。陽動斑は遠慮がなくなっているようだ。
「はぁん、ツマンナイわ。こっちの部屋、なんにもないの」
 頭を掻きながら、セリスが廊下に出てきた。彼女の言う『なんにもない』は、コボルトのことか、めぼしい家財道具のことか。
「こっちの部屋もからっぽだ、コボルトは皆、玄関に集まっちゃったみたいだよ」
 クロードは、喧噪が聞こえてくる方角を見た。旨い具合に、挟み撃ちが出来るようになったらしい。しかしこうなると心配なのは、4人で5匹(もしくはそれ以上)のコボルトを相手している、陽動斑だ。敏明は大丈夫だろうか? 魔導銃を構え、コボルトの背中を捜した。

「怯んでる場合じゃありませんわ、行きなさい!」
 小柄な体格でありながら、重い戦斧を振り回すエステル。壁が割れようが、床がえぐれようがお構いなしだ、動きは一時も止まらない。振り上げた金槌を叩き落とされたコボルトが悲鳴をあげようとした、その口と顎を容赦なく分断した。
「闘いとは、即ち闘うこと、それ以外ではありません!」
 自分は今、なんのためにここに居るのだ? 闘う為だ、ただそれだけだ。ならば、その信念を押し通せ、押し通せ、押し通せ!!
「奥から仲間が来る、信じて進め」
 霧島はドリルを廻し、コボルトへの威嚇を続ける。視界にセリスらの到着を捉えると、ことさら大きくドリルを鳴らした。音に興奮したのかコボルトは、更にけたたましく騒ぎ出し、牙を剥き出しにして、怒りを露わにした。
『ギャッ!』
 そのコボルトが、後ろから飛んできた幾つもの弾にはじかれ、転倒する。ここでようやく、自分たちが取り囲まれていることに気が付いたのだ。前と後ろに侵入者、足下に倒れている仲間、この状況にコボルトは、明らかに冷静さを失っていた。そしてそれは、ハンター達が予測出来ない、突飛な行動を取らせることになった。転がっている仲間の頭を掴み上げると、それを投げつけ、同時に踵を返すと部屋のひとつに逃げ込んだのだ。追いかけられるより早く窓を叩き割り、そこを脱出口にするべく、手をかけた。
「うわっ、うわわっっ!!」
 だが、そこにはノノトトがスクエアシールドを持って待ちかまえていた。しかし小さなノノトトでは踏ん張りが聞かず、コボルトに簡単に押し返されそうになる。
「……負けないもん、負けないーー!!」

「逃がすか!!」
 誰よりも早く、逃げるコボルトの襟首を掴んだ者は、緑色の髪の毛を揺らす女、いや、覚醒した敏明だった。それは咄嗟の行動だった。ここでこの化け物を外に出しては厄介なことになる、それはいくら彼でも判断出来たことだった。踏ん張って右腕を伸ばし、コボルトを掴み上げると、後ろにいる仲間を信じてその方向も見ずに、さながら柔道技のように投げ飛ばした。
「ええい、動きにくい! 視界の悪い!!」
 技を仕掛けるのに、この大きなマスクとまとわりつくマントの何と邪魔なことか。それらを全て取り払い、敏明は片っ端からコボルトを捕まえ、元の場所へと引きずり戻していく。その度に、盛り上がった胸がぶんぶんと揺れる。 
「1階はこれで全部か? 2階は!?」
 開き直った敏明は、十分な戦力となり、5匹のコボルトはあっという間に片付いた。
 そんな敏明の戦いぶりを、猛は分析しながら見守っていた。

●敏明
 さて、大活躍をしてみせた敏明であったが、覚醒が解けて我に返るとへたりこんで、皆に背中を向けて丸まってしまった。
「トシアキさん、かっこよかったよ。ぼく、一番近くで見てたよ。誰かのためにがんばる人が、かっこわるいわけないもん」
 というノノトトの慰めも届かない。
「みっともねぇのは姿形じゃなく、その生き様、魂のあり方が定まってねぇからだ!」
 慰めるなど性に合わない、デスドクロはつかつか近寄ると、うじうじしているオッサンの胸ぐらを掴んだ。
「ゲームのキャラクターに憧れる? 結構な事じゃねぇか。だがよ、勘違いしちゃいけねぇのは、ただ単純にそのキャラの見た目だけにハマってたのか?」
 一昔前にリアルブルーで流行したという格闘ゲームの、あざといキャラクター。しかし、ただ乳を揺らすだけのドットも粗く色数も少ない絵に、なぜこの男はハマッたというのか。
「ライムにもジョニーにも、あいつらには目的があるだろ。設定資料集ぐらい読んでないのか? つまりは『生き様』ってヤツだ、それがあるからあいつらは人を魅了するんだぜ。見てくれだけで騙された、お前は甘いユーザーだったのか?」
 超世界パーフェクトブラックなるところから御出になったと仰る暗黒皇帝は、なかなか地球の文化に詳しくていらっしゃる。
「わたくしからも言わせて頂くわ!」
 エステルもまた、このまどろっこしい男に一言あるようだ。
「どこかであなたは恥じているはずだわ、絵画の女性に懸想する己を! それこそ恥を知りなさい!! 愛とは、受け入れることなのですよ。あなたはまだ、『らいむ』とやらに、なりきっていないのよ……立ちなさい!!」
 勢いに押されて、飛び上がる敏明。
「模倣しなさい、想像しなさい、追随しなさい。あなたの『らいむ』はそんな風に股を広げて立つの? そんな風に大股で歩くの? 行くのよ!!! 引き返せないところまで!!!」
「いや、そんなところまで行きたくないし!」
「あー……盛り上がっているところ、申し訳ないが」
 止めてもよいものか、迷った猛だが、なんとか声をかけた。
「先ほどの戦いぶりを見ていて思ったが、不慣れなせいもあろうが、実力を出し切れていないのではないか? 覚醒した体を、扱い切れていないように見える」
 力士の猛にとって柔道は畑違いだが、それでも、敏明がかつては強い選手であっただろうことは想像に難くない……20年前なら、という但し書き付きで。姿を気にするあまりのことか、それとも、単なるブランクによる衰えか。
「おっぱいが大きくなるのは、体の脂肪が集まると聞いたが……ならば、鍛え直して脂肪を減らしてみてはどうだろう?」
「……そうか、な?」
 言われてみればそうだ、自分がこんな不似合いな乳を持つのは、それだけの脂肪があるからに他ならない。なんと、平和な世界でたるんでしまっていたことか。
「そうだよ、トシアキさんとは、また一緒に仕事がしたいよ。だから、続けてよ、ハンターを!」
 人前で覚醒して、打開策が見えて、少しは吹っ切れたかもしれない。敏明は照れくさそうに、クロードの方を見て、言った。
「なあ、クロードくん。街に戻ったついでに、マスクを買いに行きたいんだけど、付き合ってくれるかな?」
 
 さて、あちらはあちらで片がついたようである。こちらはこちらで、もう一仕事だ。
「家具ごと放置された廃屋なんだし、ならば拾って持ち帰っても問題ないわよね♪」
 あなたのモノは神様のモノ、私のモノも神様のモノ、亜人のモノも神様のモノ……という理論で以て、セリスは片っ端から家具を運び出す。斧で削られた食器棚、弾痕のついた柱時計、犬臭いソファ……これらを売りさばけば、幾らになるだろうか。
「それはいいが、どうやって持って帰るんだ?」
 霧島に聞かれて、セリスはようやっと気が付いた。一人で運ぶにはどう頑張っても重すぎる。
「……霧島くぅん、どうかしら、神様のために一働き?」
「あいにく私は、かよわいレディなのでね」
「どーこーがーーーー!?」


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重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 優しき力
    東郷 猛(ka0493
    人間(蒼)|28才|男性|霊闘士
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士

  • クロード・インベルク(ka1506
    人間(紅)|17才|男性|機導師
  • 愛憐の明断
    霧島 キララ(ka2263
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
霧島 キララ(ka2263
人間(リアルブルー)|26才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/07/25 20:22:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/21 02:21:00