ゲスト
(ka0000)
【讐刃】森の人形
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/19 22:00
- 完成日
- 2015/09/27 02:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●黒い人形
「ナハト様~。新しい殺人鬼は作らないんデシかー?」
わずかな外光だけが照らす、暗い洞窟の中。
最奥の岩に腰掛ける嫉妬の歪虚ナハトに、しきりに声をかけるものの姿があった。
「手駒はまだ不要だ。機ではない」
「えぇ~。もうずっとそうじゃないデシか。ナハト様、退屈じゃないデシ? きっと退屈デシ! ならボクも退屈デシ!」
ナハトの答えに、ぶんぶんと振り回すその腕は、ナハトと同じく漆黒の陶器で出来ている。
同様に、顔も胴体も、脚も、全身が黒い。
人形の歪虚――ただし、背丈はナハトの半分にも満たない。手足は短く珍妙な見た目でもあった。
背の低いこの人形は、ナハトに詰め寄った。
「最近のナハト様はハンターのことばっかりデシ……。人を殺す人が好きだったんじゃないんデシか……?」
「人を殺せばいいのではない。ネロリロよ。玩具には、『悲惨に壊れゆく』という愉快さが必要なのだ」
「……」
「その点で、『力を与えられて堕ちてゆく人間』と『未来に私に殺されるハンター』に、差異がないというだけのこと」
「よくわからないデシ……」
ネロリロと呼ばれた、ナハトの部下は――首をかしげるだけだった。
ネロリロはこれまで、ナハトの手駒になりそうな人間を見つけてナハトに報告するという、実質的な調達作業を行ってきた。
ナハトは自分の楽しいこと以外はしたがらない。だから、部下に面倒を押しつけていたという形なのだが、ネロリロはそれを律儀にこなしてきた。
それが最近、ナハトがハンターに執心しているせいで、暇だった。
ナハトはあれから、手駒を介さずにハンターの動向を気まぐれに観察する、ということに凝っているようだった。
ネロリロはそれで焦っていた。
「とにかく、ボクは最近何もしてないデシ。何の手柄もなくて、これじゃナハト様のそばにいる意味がないデシ! お手伝いしたいデシ!」
「不要な動きをする必要は無い」
「それじゃあボクの存在意義がないデシ!」
「お前の存在意義は、歪虚であることそのものだ」
ナハトの答えに、ううー、とネロリロはうなった。
そうは言われても、それがネロリロの生き甲斐であり、楽しみであることも否定できなかった。ナハトに尽くさねば、意味がない。
わかったデシ……と言いながらも、ネロリロは一人洞窟を出て――森へ入った。
●独断
ネロリロはそれから、森の中で……人間を探しはじめた。ナハトの手駒となりそうな、殺人鬼たり得る人間である。
「要は、ボクが手駒を用意すればいいんデシ!」
ナハトは“人形作り”に飽きたわけではない。こちらから見込みある人間を用意すればまた興味を持ってくれるだろう、という考えだった。
数日動き回った結果、一人の人間を見つけて……木陰に隠れ、観察した。『あ~ぁ、何か面白いことでも起こらねえかな』と呟いている山登り中の男性である。
ネロリロは独りごちた。
「うーん、あれじゃあナハト様の希望に添えないデシかね? ナハト様の手駒の条件は、人を殺したがる気配があって、且つ仲間がいないこと、だったデシか……」
しばらく男性を観察してからネロリロは唸る。
「いつもならここらでナハト様に確認を取るんデシが……今回はボクだけで調達しないといけないデシから、難しいデシ! 前の手駒みたいにもっとわかりやすい態度取って欲しいデシ!」
言ううちに、男性は山中に消えた。
「……見失ったデシ! これなら、紛らわしいから殺しておけばよかったデシ……」
今から追ってでもとりあえず殺そうデシ……と、ネロリロが振り返ったところで。
ネロリロは影から飛び出してきた人物の剣撃を、避けた。
●対峙
「誰デシか!」
距離を取るネロリロが見たのは……剣を持つ、若いハンターの男――フリッツだ。
フリッツはあれから、森の近辺を調査していた。
ハンターたちの言葉によって、冷静に目標を見つめることを覚えたフリッツは……先刻から見つけていたネロリロを、じっと窺っていた。漆黒の人形を目の前にして、限界まで、ネロリロ自身が口走るその情報に耳を傾けていたのだった。
改めてネロリロへ剣を向ける。
「ナハトの部下だな。人は、襲わせない」
「何故それがわかったデシか! お前……さてはボクらの敵デシね!」
ネロリロは懐から陶器の剣を取り出すと、フリッツを襲う。フリッツは剣で受けるが、その力に飛び退いた。
「さすがに配下の人形よりは遙かに強いか……」
「デシシ! ネロリロ様は人間に負けるほど弱くはないデシ!」
ネロリロが剣を振るうと、フリッツは肩から血を流して転げる。そのまま山の下まで滑落するようにして消えた。
「おや? 案外あっけなく死んだデシ! さっきの男は完全に見失ったデシけど……でもこれで、手駒探しが再開できるデシ!」
言うと、ネロリロは笑って森の中へ去っていった。
●依頼
以上の森でのことを――フリッツはハンターたちに説明した。
「あの人形を捕まえるのに力を貸して欲しい」
フリッツはわざと死んだふりをすることでネロリロから逃れていた。そして、そのナハトへの手がかりを確実に捕らえるため、ハンターに来てもらっていた。
「あのネロリロという歪虚は現在単独行動をしていて、以前のヴァレリオのような人間の手駒を見つけるために森をうろついているようだ。焦っているようでもあったし、それが完了するまでは森から離れないだろう」
だから仕掛けるならば今しかない、と言った。
「やつは人間を求めて森を動いている。こちらから森に入ればそのうちに遭遇する可能性は高いだろう」
無論、だからといって簡単に勝てる相手ではないかも知れないが、とも続けるフリッツ。
「一対一ではまず敵わない相手だった。配下の人形とは別物と考えた方がいいかも知れない」
もっとも、それでもナハトよりはかなり低級な歪虚だろう、とも言った。
「重要な情報を独りでに口走る辺り、頭は良くないと思っていいと思う。つけ込める点があるとするならば、そこだろう」
最後に、フリッツは、仮にネロリロを捕らえられたとして、その処遇はハンターに任せる、といった。
「やつが、ナハトに力を与えられる人間の選定に関わっていたのなら、俺はやつを許せない。だがやつをどうするかは、君たちに決める権利がある。俺ではやはり、冷静な判断を下せないだろうから」
だから頼む、とフリッツは頭を下げた。
「ナハト様~。新しい殺人鬼は作らないんデシかー?」
わずかな外光だけが照らす、暗い洞窟の中。
最奥の岩に腰掛ける嫉妬の歪虚ナハトに、しきりに声をかけるものの姿があった。
「手駒はまだ不要だ。機ではない」
「えぇ~。もうずっとそうじゃないデシか。ナハト様、退屈じゃないデシ? きっと退屈デシ! ならボクも退屈デシ!」
ナハトの答えに、ぶんぶんと振り回すその腕は、ナハトと同じく漆黒の陶器で出来ている。
同様に、顔も胴体も、脚も、全身が黒い。
人形の歪虚――ただし、背丈はナハトの半分にも満たない。手足は短く珍妙な見た目でもあった。
背の低いこの人形は、ナハトに詰め寄った。
「最近のナハト様はハンターのことばっかりデシ……。人を殺す人が好きだったんじゃないんデシか……?」
「人を殺せばいいのではない。ネロリロよ。玩具には、『悲惨に壊れゆく』という愉快さが必要なのだ」
「……」
「その点で、『力を与えられて堕ちてゆく人間』と『未来に私に殺されるハンター』に、差異がないというだけのこと」
「よくわからないデシ……」
ネロリロと呼ばれた、ナハトの部下は――首をかしげるだけだった。
ネロリロはこれまで、ナハトの手駒になりそうな人間を見つけてナハトに報告するという、実質的な調達作業を行ってきた。
ナハトは自分の楽しいこと以外はしたがらない。だから、部下に面倒を押しつけていたという形なのだが、ネロリロはそれを律儀にこなしてきた。
それが最近、ナハトがハンターに執心しているせいで、暇だった。
ナハトはあれから、手駒を介さずにハンターの動向を気まぐれに観察する、ということに凝っているようだった。
ネロリロはそれで焦っていた。
「とにかく、ボクは最近何もしてないデシ。何の手柄もなくて、これじゃナハト様のそばにいる意味がないデシ! お手伝いしたいデシ!」
「不要な動きをする必要は無い」
「それじゃあボクの存在意義がないデシ!」
「お前の存在意義は、歪虚であることそのものだ」
ナハトの答えに、ううー、とネロリロはうなった。
そうは言われても、それがネロリロの生き甲斐であり、楽しみであることも否定できなかった。ナハトに尽くさねば、意味がない。
わかったデシ……と言いながらも、ネロリロは一人洞窟を出て――森へ入った。
●独断
ネロリロはそれから、森の中で……人間を探しはじめた。ナハトの手駒となりそうな、殺人鬼たり得る人間である。
「要は、ボクが手駒を用意すればいいんデシ!」
ナハトは“人形作り”に飽きたわけではない。こちらから見込みある人間を用意すればまた興味を持ってくれるだろう、という考えだった。
数日動き回った結果、一人の人間を見つけて……木陰に隠れ、観察した。『あ~ぁ、何か面白いことでも起こらねえかな』と呟いている山登り中の男性である。
ネロリロは独りごちた。
「うーん、あれじゃあナハト様の希望に添えないデシかね? ナハト様の手駒の条件は、人を殺したがる気配があって、且つ仲間がいないこと、だったデシか……」
しばらく男性を観察してからネロリロは唸る。
「いつもならここらでナハト様に確認を取るんデシが……今回はボクだけで調達しないといけないデシから、難しいデシ! 前の手駒みたいにもっとわかりやすい態度取って欲しいデシ!」
言ううちに、男性は山中に消えた。
「……見失ったデシ! これなら、紛らわしいから殺しておけばよかったデシ……」
今から追ってでもとりあえず殺そうデシ……と、ネロリロが振り返ったところで。
ネロリロは影から飛び出してきた人物の剣撃を、避けた。
●対峙
「誰デシか!」
距離を取るネロリロが見たのは……剣を持つ、若いハンターの男――フリッツだ。
フリッツはあれから、森の近辺を調査していた。
ハンターたちの言葉によって、冷静に目標を見つめることを覚えたフリッツは……先刻から見つけていたネロリロを、じっと窺っていた。漆黒の人形を目の前にして、限界まで、ネロリロ自身が口走るその情報に耳を傾けていたのだった。
改めてネロリロへ剣を向ける。
「ナハトの部下だな。人は、襲わせない」
「何故それがわかったデシか! お前……さてはボクらの敵デシね!」
ネロリロは懐から陶器の剣を取り出すと、フリッツを襲う。フリッツは剣で受けるが、その力に飛び退いた。
「さすがに配下の人形よりは遙かに強いか……」
「デシシ! ネロリロ様は人間に負けるほど弱くはないデシ!」
ネロリロが剣を振るうと、フリッツは肩から血を流して転げる。そのまま山の下まで滑落するようにして消えた。
「おや? 案外あっけなく死んだデシ! さっきの男は完全に見失ったデシけど……でもこれで、手駒探しが再開できるデシ!」
言うと、ネロリロは笑って森の中へ去っていった。
●依頼
以上の森でのことを――フリッツはハンターたちに説明した。
「あの人形を捕まえるのに力を貸して欲しい」
フリッツはわざと死んだふりをすることでネロリロから逃れていた。そして、そのナハトへの手がかりを確実に捕らえるため、ハンターに来てもらっていた。
「あのネロリロという歪虚は現在単独行動をしていて、以前のヴァレリオのような人間の手駒を見つけるために森をうろついているようだ。焦っているようでもあったし、それが完了するまでは森から離れないだろう」
だから仕掛けるならば今しかない、と言った。
「やつは人間を求めて森を動いている。こちらから森に入ればそのうちに遭遇する可能性は高いだろう」
無論、だからといって簡単に勝てる相手ではないかも知れないが、とも続けるフリッツ。
「一対一ではまず敵わない相手だった。配下の人形とは別物と考えた方がいいかも知れない」
もっとも、それでもナハトよりはかなり低級な歪虚だろう、とも言った。
「重要な情報を独りでに口走る辺り、頭は良くないと思っていいと思う。つけ込める点があるとするならば、そこだろう」
最後に、フリッツは、仮にネロリロを捕らえられたとして、その処遇はハンターに任せる、といった。
「やつが、ナハトに力を与えられる人間の選定に関わっていたのなら、俺はやつを許せない。だがやつをどうするかは、君たちに決める権利がある。俺ではやはり、冷静な判断を下せないだろうから」
だから頼む、とフリッツは頭を下げた。
リプレイ本文
●捜索
森に入った六人は、散開して捜索をしている。
「さあて、今のところ気配はないが……と」
龍崎・カズマ(ka0178)は果樹を見上げる。川も近く、人の踏みならした跡も多い一帯を、重点的に歩いていた。ただ、ある程度捜索した段階で、まだ進展はない。
抜け目なく辺りを見回しながら、カズマは伝話を取る。
「こちらは今のところ変わりなし。そっちはどうだ」
「こっちも同じよ。影も形もなし」
応えるのは、少し下った山道にいる、セリス・アルマーズ(ka1079)。
「どこかにいそうな雰囲気はあるんだけど。一刻も早く滅ぼさないといけないのに、手が出せないのがもどかしいわね」
「うまく、捕まえられればいいですね……」
その横で、秋桜(ka4378)が言う。秋桜も常に周囲に気を配りつつ……人間以外のその影を、探していた。
「ナハトの尻尾を掴めるかはわかりませんが――」
それでも、被害を受ける人が少しでも減るなら、と。秋桜は少し、ぎゅっと握る手に力を込める。
ネイハム・乾風(ka2961)は気配を殺しながら木々の間を進む。仲間の不足分を補うように、地図で位置を確認しながら、捜索の幅を広げていた。
自分と仲間の位置の共有のために伝話で連絡をする。
「……まだ、どこにも異常はないみたいだね……」
「ええ」
伝話で応えるのは八代 遥(ka4481)。遥も果樹地帯を捜索していた。伝話へ、小声を使う。
「敵がいるのがわかっている分、接触は時間の問題かも知れませんが――と」
遥は言葉を止める。
ほんのわずかな、通信中のノイズに気付いたためだった。
それは、マテリアルの異常が原因の可能性がある現象の一つ。
「確かに、いるとすればこの辺りかもね……」
ネイハムも気付いたように言っていた。遥は頷き……別の仲間へと連絡をする。
「あ、八代さん。こっちは今のところ、変わりなしッスよ」
高円寺 義経(ka4362)は、周囲を警戒しながら、遥からの連絡に応答する。
義経は単独で、山中を歩き回っていた。その格好は黒頭巾に、刀を見えるように持ち……暗殺者のようでもある。敵の目を引くためだ。
遥との連絡を終えると――殺気を振りまくような態度で、森を進んでいく。
マテリアル異常発見の後、六人は警戒を強め、一帯を包囲出来るように位置取っていった。そして、それから約一時間経った頃。
「不浄な気配がするわ」
と、最初に気付いたのはセリス。その横に位置する秋桜も、見つけた。
「小さくて黒い人形歪虚……ネロリロです。間違いありません」
唯一、目立つように行動していた義経の前へ……木々の間から、その姿が現れていた。
囲むように位置する五人は皆、その一部始終を捉えている。
「まずは目論見通り、ってとこかね」
反対側の木陰から見下ろしつつ、カズマも静かに、剣の握りを確認した。
森から現れたネロリロは――義経へとまっすぐ向かっていた。
義経は何度目か、『世の中腐ってやがる……こんな世界をぶっ壊す力が欲しい!』とせりふを口走っていたところである。
「デシシ! やっとわかりやすい手駒候補を見つけたデシ!」
義経の前で、喜ばしげに足を止めるネロリロ。
あぁ? とそちらを見ながら……義経は心の中は、平静だ。
(情報は、どんなものでも値千金……ここからどれだけやれるか、ッスね)
義経を始め、ハンター達が選んだのは……限界まで、情報を引き出すこと。
「高円寺君は、ちゃんと伝話は繋げてくれているみたい」
草陰で見守る遥は、小さな言葉も聞き漏らさぬように伝話を握る。
ネイハムは――様子を窺いながらも、ライフルを手に取っていた。
「さて……どうなるだろう、ね」
●探る者
義経は直前に、素速く伝話で現在地を報告していた。これで問題はないと判断すると、あとはネロリロへ集中する。
ネロリロは義経を興味深げに見ていた。
「それにしても、いかにもなやつデシね! おいお前! 力が欲しいデシか!」
義経は、演技を続けながらも、的確にその言葉をすくい取る。
「誰かは知らねえが……力をくれるなら、欲しいに決まってる。こんな世の中、飽き飽きしてるんだ!」
「デシシ、ぴったりデシね。お前が望むなら、与えてやってもいいデシよ!」
「本当か。それなら……俺を堕落者にしてくれないか。ハンターなんて、もうやめてぇと思ってたところだ」
ネロリロは尊大な態度で答える。
「堕落者になりたいというのはいい心がけデシ。でも力を与えるのはナハト様だから、堕落者になるならナハト様の面接がいるデシ」
義経は、その名が出たところで、言葉を返した。
「ナハトってのは、アンタのボスか。そいつは、強えのか?」
「もちろんデシ! 疑うのも失礼デシ!」
「疑ってるわけじゃねえさ。だが、力をくれるというのなら、具体的にどんだけ強えのか、興味あるな。そいつは――どんな力がある?」
「ナハト様といえばあの美しい陶器の武器デシ!」
ネロリロは調子に乗ったように語り出した。
「あの針で、ばっさばっさと人間を切り伏せるのが凄いんデシ。それに、一人相手でも複数相手でも、針を投げて撃退できるデシ。針と糸で敵を行動不能にも出来るデシよ!」
「それは凄えな。それを、俺も使えるのか?」
タイミングを見て義経が言うと、ネロリロは首を振る。
「能力はどんな堕落者になるかによるデシ。前のヴァレリオという男は、歪虚になっても周りを爆破するしか能がなかったデシからね」
「っていうか、何ですかあの変なキャラ付けは……!」
木陰から監視する秋桜は、思わず言った。先ほどから、ネロリロの口調が引っかかって仕方ないのであった。
「確かに歪虚には無駄なものね」
セリスも、少々身を乗り出しつつ言う。セリスはいつ突撃してもいいように、常に構えていた。
「そもそも存在自体、本来あってはならないものだものね。そろそろ、滅殺してもいいんじゃないかしら?」
「それもそうですけど。でも、とりあえず情報を得るまでは待つことにしましょう」
待ちきれないという表情のセリスに、秋桜は言うのだった。
一方、包囲網の別の位置で、カズマも様子を注視している。こちらは、辺りを強く警戒してもいた。別の敵が潜んでいる可能性もゼロではないからだ。
(現状、気配はないがな……このままならそれでいいんだが)
銀飛輪にも手をかけて、カズマは神経を研ぎ澄ませた。
少し離れた位置で、遥も周囲に注意しながら、義経とネロリロを窺っている。こちら側でも、今のところネロリロ以外の歪虚の影はない。
ネロリロの方はというと、まだ、義経を怪しむ様子はなかった。
(うまく、会話は導いているようだけれど……)
無理はしないで、と遥は心で呟いていた。
ネイハムは、ライフルの照準を合わせつつも――ネロリロの話す情報を、分析している。
(ナハトの能力に関しては……新しい情報はなさそうかな)
それは、今までハンター達が見てきた以上のものではないようにも思えた。
ただ、逆に言えば、そのこと自体に意味がある、とも考えられた。
(少なくとも……こっちが知る以上の能力を、あの歪虚は見たことがないってことかな……)
●包囲
ネロリロに対し、納得する演技をする義経は……さらに、続けた。
「で、そのナハトとやらに、俺は顔合わせ出来るのか?」
ネロリロは空を見上げると、答えた。
「うーん、今はまだ明るいから無理デシ。暗くなるのを待つデシ」
「……どうして明るいと無理なんだ?」
「ナハト様は影がない場所……というか、光に直接触れるのが嫌いなんデシ。昼は避けた方がいいデシ」
「暗いのが好きなら、居場所も暗いんだろう? そこに行けば問題なさそうだが」
「それはそうデシけど、お前を連れて行くなら少しでもナハト様の機嫌がいいときの方がいいデシからね!」
ネロリロは、ナハトに褒めてもらいたがっているという態度を有り有りと見せていた。
義経は考えてから口を開く。
「じゃあ、俺がそのナハトの住んでいるところに今すぐ行くことは出来ないのか? せめて場所だけでも知りたいが」
「そうデシ。無理に行こうとしても駄目デシよ。ナハト様の洞窟は防備もしっかりしてるデシからね!」
「防備? 何だかすごそうだな!」
義経はすかさず、褒める。するとネロリロは再度、自慢げな態度を取った。
「もちろんデシよ! 場所は東の高山の洞窟地帯なんデシが、似た複数の洞窟の中にダミー人形があって、侵入する敵を撃退する仕掛けがあるんデシ! ダミー人形が敵を見つけると、ナハト様はそれを感知して安全な場所に避難するようにしてるから、無闇に入ると怒られるデシよ」
と、そこではっとする。
「あれ、何だか色々喋りすぎた気がするデシね。……何でただの手駒候補がそこまで聞くデシか!」
不意に、多くの話を引き出されていることに気付いたようだった。
義経はそこで、会話を続けようとも思った。だが、ネロリロの方は深く思索するつもりはないらしい。既に……陶器の剣を取りだして義経を睨んでいた。
(予想以上に短絡的ッスね……悠長にしてる暇は――)
ない、と判断した義経は……警戒したまま素速く一歩、身を引く。
「みんな、頼むッス!」
「あっ、待つデシ!」
そしてネロリロが追おうとしたその一瞬。
甲高い破裂音と共に、光の弾がネロリロを横から直撃した。
デシッ、と声を上げてよろめくネロリロ。顔を上げたその先に――ホーリーライトを発射していたセリスが立っている。
「やっと遠慮なく浄化できるわね。待ちくたびれてしまったわ」
「誰デシか!」
「説明する義理はないわ。歪虚は、コロスだけよ」
セリスの笑みに、むむ、と剣を向けようとするネロリロ。その体へ、強烈な衝撃が走る。ライフルによる攻撃――そして体を襲う冷気。
ネイハムの狙い違わぬ射撃だ。
「まずは一発命中……と……」
ネイハムは姿を隠したまま、射撃直後にさらに木陰を移動していき……ネロリロからは姿を捉えられない。
「デシィ……一体どこから」
ネロリロが言った直後、その目に、猛烈な炎が映る。そこにいるのは、八卦鏡で魔力の炎を生む、遥の姿だ。
「この一撃、立ち上がれますか?」
同時、遥は炎をネロリロの頭上に放った。熱気が一瞬で爆発、ネロリロは冷気で制御困難となっていた体を、勢いで転倒させた。
慌てて立ち上がるが、その表情は歪んでいる。
「お前ら、さては敵デシね!」
ようやく理解したというように、見回してターゲットを定めようとする。だがその間に秋桜が魔法により、周囲の土砂をネロリロに集中させていく。
ストーンアーマーによる回避低下を狙ったもの――しかしこの攻撃にはネロリロは抵抗し、土砂を振り払う。
「これは効きませんか――!」
「平気さ。要は逃がさなきゃいいだけだ」
距離を取ろうとするネロリロに、一瞬で追いすがるのはカズマ。マテリアルを脚へ集中させ、真っ先にネロリロへ肉迫していく。
眼前へ迫ると同時、的確な剣の一撃を腕に叩き込んだ。
腕にひびが走り、ネロリロは一瞬の動揺を浮かべる。その隙に、秋桜が杖から雷撃を飛ばしていた。
「今度は当てますよ!」
「デシィッ!」
雷撃に撃たれたネロリロは、衝撃に転げる。ハンター六人の包囲の中心へ、押し戻された。
●好機
改めて剣を構えるネロリロは、ハンターを腹立たしげに見回した。
「こんなに強い奴らがいるとはデシ……そこをどくデシ!」
包囲に穴を開けようと、カズマとセリスへ接近し――剣で大振りに薙ぎ払おうとした。だがカズマは一瞬のうちに剣線を読んで躱し――セリスは命中を免れないものの、その頑強な守りでダメージは浅い。
「それで終わりかしら? ならこっちから行くわよ」
驚くネロリロへと、セリスは光の波動を生んでいる。その衝撃が、至近からネロリロを打つ。
「デシッ……! 何だかさっきから嫌な光デシ……!」
「光の魔法に弱いとは、何とも悪党らしいことだな」
その背後に、カズマが回り込んでいる。
とっさに正面を向くネロリロだが……それは狙い通り。カズマが振り下ろした剣が、ひびの入ったネロリロの腕を破壊した。
ネロリロは落としかけた剣を、慌てて逆の手に持ち替えると……カズマから離れる方向へ足を向ける。
そこを、ネイハムの銃口が捉えている。
(これなら、的みたいなものだね……)
思いながら、ネイハムは加速させた銃弾でネロリロを穿った。弾丸は胴体を貫通、倒れはしないが、ネロリロは強くうめいた。
「ぐ……一体どこデシ! 隠れてないで出てくるデシ!」
「それを言ったら意味ないでしょ……」
大木の影で、小さく呟くネイハムだった。
カズマは体中に傷を負ったネロリロに、剣を向ける。
「一応、聞いておこうか。他に持ってる情報は?」
「……むむ、誰が言うデシか!」
「そう、ですか。それならば、撃破するだけです」
遥が、想定内であるというように言った。既に、魔法の水球を作り出している。
「素早くても……外さないですよ!」
「デシィッ!」
放たれたウォーターシュートは、言葉通りネロリロに直撃。蓄積したダメージに、ネロリロはふらつき始めていた。
そこへ、義経の手裏剣が飛来。さらに傷を抉られるネロリロは、それでも苦し紛れに義経に剣を振るい、反撃。
そのまま逃げだそうとするが……直後、雷撃が当たってたたらを踏んだ。秋桜の放ったライトニングボルトだ。
ネロリロはわめいた。
「いい加減に死んでしまうデシ! やめろデシ!」
「ええい、うるさいです!」
秋桜が耐えかねたように言った。
「そっちこそいい加減にしてください! デシデシ言わないと死ぬんですか! 歪虚にそんな可愛いキャラ付けは、この秋桜が許しませんよ!」
「口調は生まれつきデシ!」
腕をブンブンと振るうネロリロだが、その所作も弱々しい。息切れしたように頭を垂れる。
「ぐぅ、ほんとに死ぬデシ……逃げるが勝ちデシ!」
何をおいても逃走しようとするが、ハンターの壁は、突破できない。
カズマの剣撃で剣を飛ばされると、遥のウォーターシュートで大きく転倒。それで木々の間のネイハムと目が合った。
「見つかったね……まあ、もう遅いけど……」
ネイハムのレイターコールドショットで……ネロリロは冷気に覆われて瀕死になった。
セリスがそこにすたすたと歩いた。
「消滅させて良いのよね? じゃあ、そういうことで」
「デシーーッ!」
セリスは頭上からセイクリッドフラッシュ。光に飲み込まれるように、ネロリロは消滅していった。
戦闘後、遥は森を見回した。
「他の敵はいなかったようですね……」
「こいつは本当に一人だったわけか」
カズマも、静まった木々を見ていた。予想外と言えば予想外だが……ナハトにとっては、ネロリロなどどうでもいい存在だったのかも知れない。
それでも、ハンター達は情報を得た。
それはナハトへと迫る手段を、手に入れた瞬間でもあった。
森に入った六人は、散開して捜索をしている。
「さあて、今のところ気配はないが……と」
龍崎・カズマ(ka0178)は果樹を見上げる。川も近く、人の踏みならした跡も多い一帯を、重点的に歩いていた。ただ、ある程度捜索した段階で、まだ進展はない。
抜け目なく辺りを見回しながら、カズマは伝話を取る。
「こちらは今のところ変わりなし。そっちはどうだ」
「こっちも同じよ。影も形もなし」
応えるのは、少し下った山道にいる、セリス・アルマーズ(ka1079)。
「どこかにいそうな雰囲気はあるんだけど。一刻も早く滅ぼさないといけないのに、手が出せないのがもどかしいわね」
「うまく、捕まえられればいいですね……」
その横で、秋桜(ka4378)が言う。秋桜も常に周囲に気を配りつつ……人間以外のその影を、探していた。
「ナハトの尻尾を掴めるかはわかりませんが――」
それでも、被害を受ける人が少しでも減るなら、と。秋桜は少し、ぎゅっと握る手に力を込める。
ネイハム・乾風(ka2961)は気配を殺しながら木々の間を進む。仲間の不足分を補うように、地図で位置を確認しながら、捜索の幅を広げていた。
自分と仲間の位置の共有のために伝話で連絡をする。
「……まだ、どこにも異常はないみたいだね……」
「ええ」
伝話で応えるのは八代 遥(ka4481)。遥も果樹地帯を捜索していた。伝話へ、小声を使う。
「敵がいるのがわかっている分、接触は時間の問題かも知れませんが――と」
遥は言葉を止める。
ほんのわずかな、通信中のノイズに気付いたためだった。
それは、マテリアルの異常が原因の可能性がある現象の一つ。
「確かに、いるとすればこの辺りかもね……」
ネイハムも気付いたように言っていた。遥は頷き……別の仲間へと連絡をする。
「あ、八代さん。こっちは今のところ、変わりなしッスよ」
高円寺 義経(ka4362)は、周囲を警戒しながら、遥からの連絡に応答する。
義経は単独で、山中を歩き回っていた。その格好は黒頭巾に、刀を見えるように持ち……暗殺者のようでもある。敵の目を引くためだ。
遥との連絡を終えると――殺気を振りまくような態度で、森を進んでいく。
マテリアル異常発見の後、六人は警戒を強め、一帯を包囲出来るように位置取っていった。そして、それから約一時間経った頃。
「不浄な気配がするわ」
と、最初に気付いたのはセリス。その横に位置する秋桜も、見つけた。
「小さくて黒い人形歪虚……ネロリロです。間違いありません」
唯一、目立つように行動していた義経の前へ……木々の間から、その姿が現れていた。
囲むように位置する五人は皆、その一部始終を捉えている。
「まずは目論見通り、ってとこかね」
反対側の木陰から見下ろしつつ、カズマも静かに、剣の握りを確認した。
森から現れたネロリロは――義経へとまっすぐ向かっていた。
義経は何度目か、『世の中腐ってやがる……こんな世界をぶっ壊す力が欲しい!』とせりふを口走っていたところである。
「デシシ! やっとわかりやすい手駒候補を見つけたデシ!」
義経の前で、喜ばしげに足を止めるネロリロ。
あぁ? とそちらを見ながら……義経は心の中は、平静だ。
(情報は、どんなものでも値千金……ここからどれだけやれるか、ッスね)
義経を始め、ハンター達が選んだのは……限界まで、情報を引き出すこと。
「高円寺君は、ちゃんと伝話は繋げてくれているみたい」
草陰で見守る遥は、小さな言葉も聞き漏らさぬように伝話を握る。
ネイハムは――様子を窺いながらも、ライフルを手に取っていた。
「さて……どうなるだろう、ね」
●探る者
義経は直前に、素速く伝話で現在地を報告していた。これで問題はないと判断すると、あとはネロリロへ集中する。
ネロリロは義経を興味深げに見ていた。
「それにしても、いかにもなやつデシね! おいお前! 力が欲しいデシか!」
義経は、演技を続けながらも、的確にその言葉をすくい取る。
「誰かは知らねえが……力をくれるなら、欲しいに決まってる。こんな世の中、飽き飽きしてるんだ!」
「デシシ、ぴったりデシね。お前が望むなら、与えてやってもいいデシよ!」
「本当か。それなら……俺を堕落者にしてくれないか。ハンターなんて、もうやめてぇと思ってたところだ」
ネロリロは尊大な態度で答える。
「堕落者になりたいというのはいい心がけデシ。でも力を与えるのはナハト様だから、堕落者になるならナハト様の面接がいるデシ」
義経は、その名が出たところで、言葉を返した。
「ナハトってのは、アンタのボスか。そいつは、強えのか?」
「もちろんデシ! 疑うのも失礼デシ!」
「疑ってるわけじゃねえさ。だが、力をくれるというのなら、具体的にどんだけ強えのか、興味あるな。そいつは――どんな力がある?」
「ナハト様といえばあの美しい陶器の武器デシ!」
ネロリロは調子に乗ったように語り出した。
「あの針で、ばっさばっさと人間を切り伏せるのが凄いんデシ。それに、一人相手でも複数相手でも、針を投げて撃退できるデシ。針と糸で敵を行動不能にも出来るデシよ!」
「それは凄えな。それを、俺も使えるのか?」
タイミングを見て義経が言うと、ネロリロは首を振る。
「能力はどんな堕落者になるかによるデシ。前のヴァレリオという男は、歪虚になっても周りを爆破するしか能がなかったデシからね」
「っていうか、何ですかあの変なキャラ付けは……!」
木陰から監視する秋桜は、思わず言った。先ほどから、ネロリロの口調が引っかかって仕方ないのであった。
「確かに歪虚には無駄なものね」
セリスも、少々身を乗り出しつつ言う。セリスはいつ突撃してもいいように、常に構えていた。
「そもそも存在自体、本来あってはならないものだものね。そろそろ、滅殺してもいいんじゃないかしら?」
「それもそうですけど。でも、とりあえず情報を得るまでは待つことにしましょう」
待ちきれないという表情のセリスに、秋桜は言うのだった。
一方、包囲網の別の位置で、カズマも様子を注視している。こちらは、辺りを強く警戒してもいた。別の敵が潜んでいる可能性もゼロではないからだ。
(現状、気配はないがな……このままならそれでいいんだが)
銀飛輪にも手をかけて、カズマは神経を研ぎ澄ませた。
少し離れた位置で、遥も周囲に注意しながら、義経とネロリロを窺っている。こちら側でも、今のところネロリロ以外の歪虚の影はない。
ネロリロの方はというと、まだ、義経を怪しむ様子はなかった。
(うまく、会話は導いているようだけれど……)
無理はしないで、と遥は心で呟いていた。
ネイハムは、ライフルの照準を合わせつつも――ネロリロの話す情報を、分析している。
(ナハトの能力に関しては……新しい情報はなさそうかな)
それは、今までハンター達が見てきた以上のものではないようにも思えた。
ただ、逆に言えば、そのこと自体に意味がある、とも考えられた。
(少なくとも……こっちが知る以上の能力を、あの歪虚は見たことがないってことかな……)
●包囲
ネロリロに対し、納得する演技をする義経は……さらに、続けた。
「で、そのナハトとやらに、俺は顔合わせ出来るのか?」
ネロリロは空を見上げると、答えた。
「うーん、今はまだ明るいから無理デシ。暗くなるのを待つデシ」
「……どうして明るいと無理なんだ?」
「ナハト様は影がない場所……というか、光に直接触れるのが嫌いなんデシ。昼は避けた方がいいデシ」
「暗いのが好きなら、居場所も暗いんだろう? そこに行けば問題なさそうだが」
「それはそうデシけど、お前を連れて行くなら少しでもナハト様の機嫌がいいときの方がいいデシからね!」
ネロリロは、ナハトに褒めてもらいたがっているという態度を有り有りと見せていた。
義経は考えてから口を開く。
「じゃあ、俺がそのナハトの住んでいるところに今すぐ行くことは出来ないのか? せめて場所だけでも知りたいが」
「そうデシ。無理に行こうとしても駄目デシよ。ナハト様の洞窟は防備もしっかりしてるデシからね!」
「防備? 何だかすごそうだな!」
義経はすかさず、褒める。するとネロリロは再度、自慢げな態度を取った。
「もちろんデシよ! 場所は東の高山の洞窟地帯なんデシが、似た複数の洞窟の中にダミー人形があって、侵入する敵を撃退する仕掛けがあるんデシ! ダミー人形が敵を見つけると、ナハト様はそれを感知して安全な場所に避難するようにしてるから、無闇に入ると怒られるデシよ」
と、そこではっとする。
「あれ、何だか色々喋りすぎた気がするデシね。……何でただの手駒候補がそこまで聞くデシか!」
不意に、多くの話を引き出されていることに気付いたようだった。
義経はそこで、会話を続けようとも思った。だが、ネロリロの方は深く思索するつもりはないらしい。既に……陶器の剣を取りだして義経を睨んでいた。
(予想以上に短絡的ッスね……悠長にしてる暇は――)
ない、と判断した義経は……警戒したまま素速く一歩、身を引く。
「みんな、頼むッス!」
「あっ、待つデシ!」
そしてネロリロが追おうとしたその一瞬。
甲高い破裂音と共に、光の弾がネロリロを横から直撃した。
デシッ、と声を上げてよろめくネロリロ。顔を上げたその先に――ホーリーライトを発射していたセリスが立っている。
「やっと遠慮なく浄化できるわね。待ちくたびれてしまったわ」
「誰デシか!」
「説明する義理はないわ。歪虚は、コロスだけよ」
セリスの笑みに、むむ、と剣を向けようとするネロリロ。その体へ、強烈な衝撃が走る。ライフルによる攻撃――そして体を襲う冷気。
ネイハムの狙い違わぬ射撃だ。
「まずは一発命中……と……」
ネイハムは姿を隠したまま、射撃直後にさらに木陰を移動していき……ネロリロからは姿を捉えられない。
「デシィ……一体どこから」
ネロリロが言った直後、その目に、猛烈な炎が映る。そこにいるのは、八卦鏡で魔力の炎を生む、遥の姿だ。
「この一撃、立ち上がれますか?」
同時、遥は炎をネロリロの頭上に放った。熱気が一瞬で爆発、ネロリロは冷気で制御困難となっていた体を、勢いで転倒させた。
慌てて立ち上がるが、その表情は歪んでいる。
「お前ら、さては敵デシね!」
ようやく理解したというように、見回してターゲットを定めようとする。だがその間に秋桜が魔法により、周囲の土砂をネロリロに集中させていく。
ストーンアーマーによる回避低下を狙ったもの――しかしこの攻撃にはネロリロは抵抗し、土砂を振り払う。
「これは効きませんか――!」
「平気さ。要は逃がさなきゃいいだけだ」
距離を取ろうとするネロリロに、一瞬で追いすがるのはカズマ。マテリアルを脚へ集中させ、真っ先にネロリロへ肉迫していく。
眼前へ迫ると同時、的確な剣の一撃を腕に叩き込んだ。
腕にひびが走り、ネロリロは一瞬の動揺を浮かべる。その隙に、秋桜が杖から雷撃を飛ばしていた。
「今度は当てますよ!」
「デシィッ!」
雷撃に撃たれたネロリロは、衝撃に転げる。ハンター六人の包囲の中心へ、押し戻された。
●好機
改めて剣を構えるネロリロは、ハンターを腹立たしげに見回した。
「こんなに強い奴らがいるとはデシ……そこをどくデシ!」
包囲に穴を開けようと、カズマとセリスへ接近し――剣で大振りに薙ぎ払おうとした。だがカズマは一瞬のうちに剣線を読んで躱し――セリスは命中を免れないものの、その頑強な守りでダメージは浅い。
「それで終わりかしら? ならこっちから行くわよ」
驚くネロリロへと、セリスは光の波動を生んでいる。その衝撃が、至近からネロリロを打つ。
「デシッ……! 何だかさっきから嫌な光デシ……!」
「光の魔法に弱いとは、何とも悪党らしいことだな」
その背後に、カズマが回り込んでいる。
とっさに正面を向くネロリロだが……それは狙い通り。カズマが振り下ろした剣が、ひびの入ったネロリロの腕を破壊した。
ネロリロは落としかけた剣を、慌てて逆の手に持ち替えると……カズマから離れる方向へ足を向ける。
そこを、ネイハムの銃口が捉えている。
(これなら、的みたいなものだね……)
思いながら、ネイハムは加速させた銃弾でネロリロを穿った。弾丸は胴体を貫通、倒れはしないが、ネロリロは強くうめいた。
「ぐ……一体どこデシ! 隠れてないで出てくるデシ!」
「それを言ったら意味ないでしょ……」
大木の影で、小さく呟くネイハムだった。
カズマは体中に傷を負ったネロリロに、剣を向ける。
「一応、聞いておこうか。他に持ってる情報は?」
「……むむ、誰が言うデシか!」
「そう、ですか。それならば、撃破するだけです」
遥が、想定内であるというように言った。既に、魔法の水球を作り出している。
「素早くても……外さないですよ!」
「デシィッ!」
放たれたウォーターシュートは、言葉通りネロリロに直撃。蓄積したダメージに、ネロリロはふらつき始めていた。
そこへ、義経の手裏剣が飛来。さらに傷を抉られるネロリロは、それでも苦し紛れに義経に剣を振るい、反撃。
そのまま逃げだそうとするが……直後、雷撃が当たってたたらを踏んだ。秋桜の放ったライトニングボルトだ。
ネロリロはわめいた。
「いい加減に死んでしまうデシ! やめろデシ!」
「ええい、うるさいです!」
秋桜が耐えかねたように言った。
「そっちこそいい加減にしてください! デシデシ言わないと死ぬんですか! 歪虚にそんな可愛いキャラ付けは、この秋桜が許しませんよ!」
「口調は生まれつきデシ!」
腕をブンブンと振るうネロリロだが、その所作も弱々しい。息切れしたように頭を垂れる。
「ぐぅ、ほんとに死ぬデシ……逃げるが勝ちデシ!」
何をおいても逃走しようとするが、ハンターの壁は、突破できない。
カズマの剣撃で剣を飛ばされると、遥のウォーターシュートで大きく転倒。それで木々の間のネイハムと目が合った。
「見つかったね……まあ、もう遅いけど……」
ネイハムのレイターコールドショットで……ネロリロは冷気に覆われて瀕死になった。
セリスがそこにすたすたと歩いた。
「消滅させて良いのよね? じゃあ、そういうことで」
「デシーーッ!」
セリスは頭上からセイクリッドフラッシュ。光に飲み込まれるように、ネロリロは消滅していった。
戦闘後、遥は森を見回した。
「他の敵はいなかったようですね……」
「こいつは本当に一人だったわけか」
カズマも、静まった木々を見ていた。予想外と言えば予想外だが……ナハトにとっては、ネロリロなどどうでもいい存在だったのかも知れない。
それでも、ハンター達は情報を得た。
それはナハトへと迫る手段を、手に入れた瞬間でもあった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/16 19:39:35 |
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相談卓 高円寺 義経(ka4362) 人間(リアルブルー)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/09/19 18:50:43 |