ゲスト
(ka0000)
【蒼祭】見ぬ世の友
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/21 19:00
- 完成日
- 2015/10/04 12:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●蒼き祭
サルヴァトーレ・ロッソ。
一年前の大転移以降、リゼリオに停泊中の箱舟からは多数のリアルブルー人が異世界――クリムゾンウェストの大地に降り立った。
その多くはこの世界に馴染み、そこで自分なりの生活を営み始めているが……しかし艦内にはまだ多くのリアルブルー人の非戦闘員が滞在している。
それらの多くはLH044事件の避難民である。
LH044事件とは、リアルブルーのコロニーLH044がVOIDの襲撃を受け、これをサルヴァトーレ・ロッソが撃退した事件である。
サルヴァトーレ・ロッソは崩壊するLH044から多数の民間人を収容した状態で、何らかの切っ掛けにより異世界へと転移。
さらに、どういう訳かコロニーを襲ったVOIDもクリムゾンウェストに転移し、狂気の眷属として猛威を振るった。
その後、同盟領を巻き込み、激しい戦いを経て狂気の眷属と決着をつけ――サルヴァトーレ・ロッソはリゼリオへ停泊し、現在へ至っている。
そして、今回持ち上がったクリムゾンウェスト連合軍の結成。
艦長であるダニエル・ラーゲンベックはこれの参加に同意し、各国、特にハンターズソサエティとの結びつきを強化し、戦闘行動時の避難先と避難民の生活の補償を要求した。
――LH044事件の心理的トラウマから、異世界に怯える民間人達。
彼らの心を解きほぐすのは、簡単なことではないけれど……。
リアルブルー人とクリムゾンウェスト人が理解しあわない事には何も始まらない。
少しでも歩み寄る為に、相互理解の兆しを示す必要がある――。
この祭りは、冒険都市リゼリオとサルヴァトーレ・ロッソ艦内で互いの文化を認め合う為ののものであり、これが成功した暁には、サルヴァトーレ・ロッソという巨大戦力の連合軍参加を意味していた。
●見ぬ世の友
「……という訳でですね!! 皆さん! お祭りをやりますよ!!」
「お、おう」
勢いよくハンターズソサエティに現れた赤毛の青年、イェルズ・オイマト(kz0143) は何やら燃えていた。
その場にいたハンター達は勢いに押されて思わず頷く。
「ところで、お祭りって何の……?」
「そりゃあ、今噂の! リゼリオで行われるサルヴァトーレ・ロッソ祭ですよ!」
「あー。それは聞いた。けど祭りに遊びに行くんじゃなくて、やるっていうのは何だよ?」
「良くぞ聞いてくれましたーーー!!」
小首を傾げるハンター達に、ビシィ! っと1枚の紙を突き出すイェルズ。
それには、『人類連合軍総司令官選挙 立候補者一覧』と書いてあって……。
「ああ、そういや連合軍の司令官を決めるんだったっけ」
「あら。辺境代表は……バタルトゥなのね」
「そうです! そうなんですーー!! 我らが族長が出るからには、俺達も黙っていられないじゃないですか! 族長を応援しなくちゃ!」
「……お、おう」
イェルズの勢いに再び頷くハンター達。
どうやら彼の話によると、人類連合軍総司令官選挙にバタルトゥが出陣すると聞きつけたオイマト族の面々が、族長を応援したい! そうだ! どうせならリアルブルーの人たちに辺境の文化をアピールしよう! 祭に参加してやれ! ……ということになったらしい。
イェルズのこの異様な盛り上がりは、族長の役に立ちたい一心から来ているようで……。
「でも、祭に参加するって、具体的にどうするの?」
「オイマト族をはじめとする辺境部族に集まって貰って、一族が誇る工芸品や、食事を屋台で売ったり、辺境部族に伝わる舞踊を演じたりしてみようかなって思ってます。リアルブルーの人たちに辺境の文化を知って貰うには、それが一番近道な気がするので……」
「あー。それなら興味持って貰えるかもな」
「はい。ですので、皆さんには売り子の手伝いをして貰ったり、お客としてきて貰ったり……そんな感じでお手伝いして戴けたら嬉しいです」
真剣な表情で続けるイェルズに、ふむふむと頷く開拓者達。
そこに突然聞こえてきたオイマト族の族長、バタルトゥ・オイマト(kz0023)の低い声。
それは、リアルブルーの技術で作られた街頭モニターから流れる、各国代表者の所信表明の映像で……。
……辺境の部族は、自然の理の中で生きてきた。
だが、歪虚の出現によって、その営みが崩れようとしている。
歪虚は部族の伝統も、戦士の誇りも、想いも、命も……何もかもを飲み込み無に返す。
……このままでは、滅びは避けられないだろう。
それぞれ国も、立場もあろうが、今こそ……同じ生きるものとしてその垣根を越え、歪虚に立ち向かうべきという考えに賛同する。
先日倒した歪虚王……歴史上誰も為し得なかった事件を俺達は成し遂げた。
……全てが力を合わせればきっと……運命は変わる。
全ての歪虚、そして歪虚王を滅した先に道が拓ける。俺はそう信じている。
「ふーん。バタルトゥらしい演説だな」
「……そうか?」
「……!? お前いつからそこにいたんだよ!?」
「……ずっとここにいたが……」
突然現れた本物のバタルトゥに、ギョッとするハンター。
背中を丸めて、刺繍をしている彼をハンターが覗き込む。
「バタルトゥ、一体何を作っているの?」
「オイマト族に伝わる文様だ……。……祭の売り物にしようと思ってな……」
「へえ。あなた本当に器用よね」
「本当ビックリするほど似合わないけどな……」
黙々と作業を続けるバタルトゥを眺めて、ため息をつくハンター達。
イェルズは手伝って欲しいようだが、さてどうしようか……。
――そんな、様々な事情を乗せて、サルヴァトーレ・ロッソ祭が始まろうとしていた。
サルヴァトーレ・ロッソ。
一年前の大転移以降、リゼリオに停泊中の箱舟からは多数のリアルブルー人が異世界――クリムゾンウェストの大地に降り立った。
その多くはこの世界に馴染み、そこで自分なりの生活を営み始めているが……しかし艦内にはまだ多くのリアルブルー人の非戦闘員が滞在している。
それらの多くはLH044事件の避難民である。
LH044事件とは、リアルブルーのコロニーLH044がVOIDの襲撃を受け、これをサルヴァトーレ・ロッソが撃退した事件である。
サルヴァトーレ・ロッソは崩壊するLH044から多数の民間人を収容した状態で、何らかの切っ掛けにより異世界へと転移。
さらに、どういう訳かコロニーを襲ったVOIDもクリムゾンウェストに転移し、狂気の眷属として猛威を振るった。
その後、同盟領を巻き込み、激しい戦いを経て狂気の眷属と決着をつけ――サルヴァトーレ・ロッソはリゼリオへ停泊し、現在へ至っている。
そして、今回持ち上がったクリムゾンウェスト連合軍の結成。
艦長であるダニエル・ラーゲンベックはこれの参加に同意し、各国、特にハンターズソサエティとの結びつきを強化し、戦闘行動時の避難先と避難民の生活の補償を要求した。
――LH044事件の心理的トラウマから、異世界に怯える民間人達。
彼らの心を解きほぐすのは、簡単なことではないけれど……。
リアルブルー人とクリムゾンウェスト人が理解しあわない事には何も始まらない。
少しでも歩み寄る為に、相互理解の兆しを示す必要がある――。
この祭りは、冒険都市リゼリオとサルヴァトーレ・ロッソ艦内で互いの文化を認め合う為ののものであり、これが成功した暁には、サルヴァトーレ・ロッソという巨大戦力の連合軍参加を意味していた。
●見ぬ世の友
「……という訳でですね!! 皆さん! お祭りをやりますよ!!」
「お、おう」
勢いよくハンターズソサエティに現れた赤毛の青年、イェルズ・オイマト(kz0143) は何やら燃えていた。
その場にいたハンター達は勢いに押されて思わず頷く。
「ところで、お祭りって何の……?」
「そりゃあ、今噂の! リゼリオで行われるサルヴァトーレ・ロッソ祭ですよ!」
「あー。それは聞いた。けど祭りに遊びに行くんじゃなくて、やるっていうのは何だよ?」
「良くぞ聞いてくれましたーーー!!」
小首を傾げるハンター達に、ビシィ! っと1枚の紙を突き出すイェルズ。
それには、『人類連合軍総司令官選挙 立候補者一覧』と書いてあって……。
「ああ、そういや連合軍の司令官を決めるんだったっけ」
「あら。辺境代表は……バタルトゥなのね」
「そうです! そうなんですーー!! 我らが族長が出るからには、俺達も黙っていられないじゃないですか! 族長を応援しなくちゃ!」
「……お、おう」
イェルズの勢いに再び頷くハンター達。
どうやら彼の話によると、人類連合軍総司令官選挙にバタルトゥが出陣すると聞きつけたオイマト族の面々が、族長を応援したい! そうだ! どうせならリアルブルーの人たちに辺境の文化をアピールしよう! 祭に参加してやれ! ……ということになったらしい。
イェルズのこの異様な盛り上がりは、族長の役に立ちたい一心から来ているようで……。
「でも、祭に参加するって、具体的にどうするの?」
「オイマト族をはじめとする辺境部族に集まって貰って、一族が誇る工芸品や、食事を屋台で売ったり、辺境部族に伝わる舞踊を演じたりしてみようかなって思ってます。リアルブルーの人たちに辺境の文化を知って貰うには、それが一番近道な気がするので……」
「あー。それなら興味持って貰えるかもな」
「はい。ですので、皆さんには売り子の手伝いをして貰ったり、お客としてきて貰ったり……そんな感じでお手伝いして戴けたら嬉しいです」
真剣な表情で続けるイェルズに、ふむふむと頷く開拓者達。
そこに突然聞こえてきたオイマト族の族長、バタルトゥ・オイマト(kz0023)の低い声。
それは、リアルブルーの技術で作られた街頭モニターから流れる、各国代表者の所信表明の映像で……。
……辺境の部族は、自然の理の中で生きてきた。
だが、歪虚の出現によって、その営みが崩れようとしている。
歪虚は部族の伝統も、戦士の誇りも、想いも、命も……何もかもを飲み込み無に返す。
……このままでは、滅びは避けられないだろう。
それぞれ国も、立場もあろうが、今こそ……同じ生きるものとしてその垣根を越え、歪虚に立ち向かうべきという考えに賛同する。
先日倒した歪虚王……歴史上誰も為し得なかった事件を俺達は成し遂げた。
……全てが力を合わせればきっと……運命は変わる。
全ての歪虚、そして歪虚王を滅した先に道が拓ける。俺はそう信じている。
「ふーん。バタルトゥらしい演説だな」
「……そうか?」
「……!? お前いつからそこにいたんだよ!?」
「……ずっとここにいたが……」
突然現れた本物のバタルトゥに、ギョッとするハンター。
背中を丸めて、刺繍をしている彼をハンターが覗き込む。
「バタルトゥ、一体何を作っているの?」
「オイマト族に伝わる文様だ……。……祭の売り物にしようと思ってな……」
「へえ。あなた本当に器用よね」
「本当ビックリするほど似合わないけどな……」
黙々と作業を続けるバタルトゥを眺めて、ため息をつくハンター達。
イェルズは手伝って欲しいようだが、さてどうしようか……。
――そんな、様々な事情を乗せて、サルヴァトーレ・ロッソ祭が始まろうとしていた。
リプレイ本文
「あのね、イェルズさん。私、この通りリアルブルーの人間なんだけど……少しでもこちらの世界の文化に馴染んで貰える様にお手伝いもいいかな?」
「あたしもリアルブルー出身だけど手伝うよ!!」
「ありがとうございます! 勿論お願いします!」
アイビス・グラス(ka2477)とアーシュラ・クリオール(ka0226)の申し出に大喜びで頷くイェルズ・オイマト(kz0143)。アーシュラの格好を見て小首を傾げる。
「あれ? でもその格好、ボラ族のですよね」
「そうなの。あたしボラ族の一員なんだ。だから、ボラ族として手伝わせてもらうつもり」
「わたくしもいっぱいお手伝いします!」
「君もお手伝いしてくれるの? ありがとう! 小さいのに偉いね!」
赤毛の青年に頭をわしわしと撫でられて、エステル・ソル(ka3983)は目を丸くした。
同じオイマト族であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)は顔が怖いのに、この人物は怖くなかったからだ。
オイマト族は怖いひとばかりではないらしい。
少女のオイマト族に関する認識が少しづつ修正されて行く中、出展の準備が急ピッチで進められ、辺境部族のお祭が幕を開けた。
「おっまつりー♪ さーて、お買い物と食べ歩きー♪」
鼻歌を歌いながら、祭会場に繰り出すノイシュ・シャノーディン(ka4419)。
おでかけはいつも父様についていくだけだったし……自由に歩けるって気持ちいい!
「ぬぉぉ……。何やら、賑わってるんやなぁ」
「本当になー。どんなものがあるんだろうな」
「辺境っていったら、オイラも辺境の出やしなぁ。なんやら気になるんよ」
「そっかー。俺、お祭だし埴輪売れるかなって思ったんだが、良く考えたら辺境出身じゃなかったんだよなーと」
祭の賑わいに、キョロキョロと周囲を見渡すラプ・ラムピリカ(ka3369)にはははは……と、乾いた笑いを返すアルト・ハーニー(ka0113)。ラプは小首を傾げてアルトを見る。
「ありゃ。それは残念やったねえ」
「まあ、色々な店が出てるようだしちょいと覗いてくるかね、と。こっちにも埴輪のような物があるかもしれないしねぇ?」
「おにーさんの探し物もあるとええなぁ」
「ん。ありがとな」
少年に笑顔を返すアルト。お祭りは、こういう出会いがあるから嬉しい。
「わ。すごい人ですね……」
「あ! 刹那さんだ!」
聞き慣れた声に振り返る花厳 刹那(ka3984)。人を掻き分けるようにして、霧雨 悠月(ka4130)がこちらにやって来る。
「ゆづきゅんも来てたんですね」
「うん。僕もこっち側の文化には興味があるんだ。まだ知らないものも沢山ありそうだし」
「私もアクセサリに興味があるので見に行こうかなーって……」
「あ、僕もアクセサリ見に行こうと思ってたんだよね」
「あら。じゃあ一緒に行きましょうか」
にこにこと笑って頷きあう悠月と刹那。一人で回るより、皆で回った方がきっと楽しい。
「怪我は大丈夫か?」
「勿論です。問題ありません」
「辛かったら言えよ。肩車でも何でもしてやっからさ」
先の依頼で怪我を負い、包帯姿が痛々しいジョージ・ユニクス(ka0442)に明るい笑みを返すミリア・コーネリウス(ka1287)。
ジョージは生い立ちのせいか、年齢の割に静かであまり『遊ぶ』ことに興味がないように感じていたのだが。
今日はその彼が祭に誘ってくれて、ミリアは本当に嬉しくて――。
ここはね。お姉さんとして良いところ見せないと!!
良い香りに釣られたミリアはスープを2つ頼み、弟分に手渡す。
「ほら。ジョージも食ってみな!」
「む……。美味しい……。こういう料理もあるんですね」
「ホントだな! 肉の旨味が干すことで凝縮されて、きのこのスープに溶け出して、そしてこの絶妙な塩加減!」
「この塩って、肉から出たものなんですかね」
「うーまーいーぞー!!」
吼えるミリアに、くすりと笑うジョージ。
身体はちょっと痛いけれど、この人と一緒なら、痛みが和らぐ気がする。
「おっ。サーモンの塩焼き発見!」
ジョージの手を引き、新たな食を求めて歩き出すミリア。
彼らのお祭は、始まったばかりだ。
「あ、真夕さん、こんにちは」
「こんにちは。今日もとってもお洒落なのね。素敵よ」
ストールを羽織り、カラコロと下駄を鳴らして歩く祭り会場。
友人にばったり出会って、頭を下げるエステル・クレティエ(ka3783)。彼女のいでだちに、七夜・真夕(ka3977)が目を細める。
今日のエステルは、浴衣に簪とイヤリングという、いつもと違った格好だった。
誕生日に贈られたものを着てお出かけしたいと思っていた矢先に、今回の祭のことを知って……エステルにとってはまさに渡りに船だったのだ。
「浴衣、ちゃんと着られてます? 簪に合うように結い上げてみたんですけど……」
「大丈夫。素敵だよ! ばっちり!」
「真夕さんに戴いたイヤリングもつけて来たんですよ」
「うん。浴衣に合うんだね! ビックリした」
「そうですか? 良かったです」
友人に好評で、安堵のため息を漏らすエステル。
贈りものを早速見に付けてもらえて、真夕も何だか誇らしい気持ちになる。
「祭なだけあって賑やかだ、な」
「ん、皆祭りが好きだから、こうして集まるのだろうな」
手を繋ぎ、寄り添いながら歩くオウカ・レンヴォルト(ka0301)とイレーヌ(ka1372)。
オウカは途中で買った猪肉の腸詰をイレーヌの口に運ぶ。
「……どうだ?」
「うん。美味しい。食べなれているものではあるが……やはりこうして食べると、違う美味しさがあるな」
「それは何よりだ」
「ああ。……ほら、オウカも口開けて」
イレーヌに言われるままに、腸詰を口にするオウカ。
最近、作戦に駆り出されたりして何かと忙しくて、のんびり過ごす時間もなかった。
恋人と、たまにはこうして甘い時間を過ごすのも楽しいものだ。
それに、イレーヌは辺境部族の出身だし……愛しい人の故郷を知るというのは、悪くない、と思う。
そこに聞こえてきた甲高い歓声。振り返ると、弓を手にした子供達が目に入る。
「イレーヌ。あれは……?」
「ああ、あれは的矢だな。辺境地域に住む子供が弓の練習をするのに使うんだ」
「的に何やら得点が書いてあるようだが」
「……得点を競えるようになってるみたいだな」
「なあ、イレーヌ。どうだ。あれで勝負しないか?」
「ああ、私もそう思っていたところだ」
「罰ゲームなんかあると、面白いと思うが……どうだ?」
「へえ。それはいいな。そうしようか」
「あくまで勝負……手加減は、しないぞ?」
「望むところだ」
ニヤリと笑う二人。弓を手にして、真剣勝負が始まる。
「やあ、バタルトゥさん。お疲れ様です」
笑顔のアルファス(ka3312)に頷き返すバタルトゥ。
彼の目線が横に移ったのに気付いて、アルファスは隣の女性を呼び寄せる。
「この子はマリアです。自慢の義妹なんですよ。大規模作戦でも頑張ってくれましてね。この間も……」
「もう、お義兄さまったら。バタルトゥ様が困ってしまいますよ。……こんにちは、初めまして」
いきなり妹自慢を始めた義兄に苦笑しつつお辞儀するマリア・ベルンシュタイン(ka0482)。
彼女の言葉に、バタルトゥは目を細め……多分、笑ったつもりなのだろう。
相変わらずだなあと思いつつ、アルファスは並ぶ品々に目を落とす。
「見事な刺繍ですね。あの、冬用の肩掛けに使えるようなものはあります? マリアにプレゼントしたいんですけど」
「え、私に……?! いいんですか?」
「ふふ、遠慮しないで。この間の作戦で皆を守ってくれたご褒美だから♪」
目を丸くするマリアに、優しい瞳を向けるアルファス。
バタルトゥが出して来たいくつかの肩掛け。その中から紺地に青緑の糸で刺繍されたものを手に取る。
「これがいいですね。刺繍がマリアの瞳にぴったりだ」
「わぁ。素敵……! ありがとうございます、お義兄さま♪ えと、それじゃ、私からも何か……」
彼女の目に入る頑丈そうな黒い皮手袋。紫の刺繍が、義兄の髪のようで……迷わずそれを手にし、アルファスに渡す。
「マリア、それじゃご褒美にならないじゃないか」
「いいんですよ。お義兄さまが私を護ってくれているお陰で、私も仲間や人々の命を繋ぐために行動出来ます。私の感謝の気持ち、受け取ってください」
困惑する彼ににっこり笑うマリア。その暖かな心遣いに、二人を見ていたバタルトゥも頬を緩める。
「……アルファス。良い妹御を持ったな」
「そうでしょう!? よし、バタルトゥさん。他のデザインのものもいくつか下さい! 僕がロッソに宣伝して来ますよ」
義妹を褒められ気をよくしたのか請け負うアルファス。そんな義兄に、マリアは鈴を転がすように笑った。
「あの、簡単なアクセサリーの製作体験はどうですか?」
埴輪を求めてあちこち歩いているアルトにかけられる声。振り返ると、小さな女の子……青い髪のエステルがこちらを見上げていて……。
「アクセサリー? 何が出来るのかな?」
「木製なんですけど……色々できますよ!」
「どんな感じにできるのかな」
「これです! ほら! わたくしにもでき……上手に出来ませんでした」
見せられたお手本が、ペンダントにしてはおかしな物体になっていて……アルトはくすりと笑う。
「でも味があっていいんじゃないのかな。自分で作れば愛着湧くしね」
「そう! そうなのです!!」
「じゃあ、一つ作ってみようかな。埴輪のアクセサリーとかどうだろう」
「素敵だと思います!」
エステルの後押しに頷くアルト。
木製の素朴なペンダントヘッドに、埴輪の絵を入れていく横で、エステルの飼い猫がお手伝いとばかりに足にインクを浸して周辺に肉球スタンプを押し捲る。
「あっ。スノウさん歩きまわっちゃダメです! 足にインクがついてますよ!」
慌てて猫を抱き上げたエステル。その拍子に、彼女の頬にぺったん、と肉球型のスタンプが押されて、アルトは思わず噴き出す。
「ううう……」
「ああ。ごめんごめん。そうだ。君お腹空いてない? 俺、色々良い匂いに釣られて色々買って来たんだよね」
「え。でも……いいんですか?」
「いいよー。一緒にたべよっか」
「ありがとうございます……!」
遠慮がちな少女に笑顔を返して、買ってきた食材を並べ始めるアルト。
牛の丸焼きや、猪の腸詰、きのこのソテーなどにエステルが目を輝かせ……いただきまーす! と一口口に入れて、涙目になる。
「ううう。辛いです~」
「あー。辺境って食材を長持ちさせる為に、結構スパイス入れるらしいんだよね。お茶持ってくるよ」
アルトに礼を言うエステル。辺境のお料理は、辛いけれど美味しい。アクセサリー体験は、腹ごしらえしてからまた頑張ろう……。
「……久しいな」
「ご無沙汰しておりました。盛況で何よりですな。気苦労が絶えんようですが……」
バタルトゥに挨拶がてら、時事について話し込むエアルドフリス(ka1856)。
その横ではジュード・エアハート(ka0410)は、イェルズと何やら盛り上がっていた。
「……という訳でね。辺境を売り込みたいなら、出展に参加する部族名や信仰対象、特産品とか得意とする事とか……そういう特長を纏めた小冊子を作って配ったらどうだろう?」
「なるほど。辺境部族も色々いますもんね」
「でしょ。商人でも知らないこと多いし、お互いの今後の為にもなるかなって思うんだよ」
「そうですね。折角ですし作ってみようかな」
「だったら協力するよ。出展巡りするつもりだったし。ね? エアさん?」
「ああ、そうだな」
「ありがとうございます! 是非お願いします!」
頭を下げるイェルズに頷く二人。どうやら、話は上手く纏まったようだ。
「オイマト族の衣装、お試しになれますよー!」
「ボラ族風の牛の丸焼きいかがですかー? ボラ族の工芸品もありますよー!」
祭の会場に伸びやかに響くアイビスとアーシュラの声。
工芸品や衣装の良さを広める為にどうしたらよいかと考えたアイビス。貸衣装をすることを思いつき、イェルズに交渉して実現した企画だが、珍しい衣装が気軽に着られるとあって様々な人が集まってくる。
アーシュラが作る牛の丸焼きも、スパイシーな良い香りがして匂いに釣られてやってくる人が多く、祭の中で人気を博していた。
「ゆずきゅん、何だか良い匂いしますね」
「牛の丸焼きだって。食べてみようか」
「あ、ボラ族の装飾品ですって! 綺麗……」
「ホントだ。ちゃんと見ようよ!」
「いらっしゃーい。ゆっくり見て行ってね」
出店を覗く刹那と悠月に威勢よく声をかけるアーシュラ。二人の手には沢山の品が握られていて、既にあちこちを回ってきた様子が伺える。
「あの、この装飾品ってどういう意味があるんですか?」
「このネックレスは月と星、このイヤリングは空と太陽を表現してるんだよ」
浴衣姿のエステルに受け答える彼女。
先ほど見て来たオイマト族の刺繍も素敵だったけれど、シルバーの月に輝くトパーズの星や、ラピスラズリとルビーで表現された空と太陽もとても素敵だ。
母様達に買って行きたいな……。そうだ。真夕さんへのお礼の品も買おう……。
エステルがそんな事を考えている間に、刹那と悠月がアクセサリーをいくつか見繕う。
「すみません、これ下さい!」
「僕はこちらが欲しいな!」
「はーい! 毎度あり!!」
アーシュラに会計を頼んでいる間、悠月は素朴な疑問を口にする。
「刹那さん、随分沢山買ってたけど、そんなに買い込んでどうするの?」
「え。自分の分と……あとはお友達の分ですよ」
「さっき買ってた食材は?」
「あれは全部自分のです! だって日持ちしないじゃないですか!!」
「あはは。刹那さん、結構食いしん坊なんだね」
「……育ち盛りですから……」
そう。主に胸が。さすがにそれは、悠月には言えなかったけれど……。
乙女には、色々あるものなのだ。
「こちらがオイマト族の衣装と工芸品となります」
「へぇ。本当に色々あるのね」
「衣装、お試しになれますよ?」
「あ、ホント? 着てみたーい!」
アイビスのセールストークに食いつくノイシュ。
テキパキと着付けるアイビスのお陰で、ノイシュのファッションショーが開催される。
「……お客様、何を着てもお似合いになりますね!」
そこにやってきた赤毛の青年と目が合って、ノイシュはにっこりと微笑む。
「ありがと。ねえ、カッコいいお兄さん。良かったら私に似合いそうな服飾品を選んでくれないかしら」
「うーん。そうですね。お客様は繊細なものが似合いそうですから……これなんてどうでしょう?」
そう言ってイェルズが持ってきたのは、シルバーのパンジャ。手の甲から手首までを包む繊細な作りのそれに、ノイシュは目を輝かせる。
「綺麗……! この文様って、何か意味があるのかしら?」
「これは月と花の文様を組み合わせてあるんですよ」
「へえ~……。民族的な織物とか装飾品とか……素敵よね。手作りって同じデザインでもオンリーワンじゃない? いいよね、そういうの」
「気に入って戴けましたか?」
「勿論。これ戴くわ……って、このストールの刺繍も素敵ね!」
「ああ、それはそこにいる族長のバタルトゥさんが入れてるんですよ」
イェルズにウィンクを返したノイシュ。続いたアイビスの説明に奥を見ると、仏頂面の男が黙々と刺繍していた。
「手先器用なのねー! 族長さん自らなんて凄くない? 素敵だからお一つ戴くわ!」
「「ありがとうございまーす!」」
気前の良いノイシュに、頭を下げるアイビスとイェルズ。
パンジャとストールを纏って、くるりとその場で回る。
「ふふ。どお? 似合う?」
「とってもお似合いですよ! 本当、仕事中じゃなかったらお茶に誘いたいくらいです!」
「イェルズさん、本音漏れてますよ……」
「もー。お兄さんったら上手なんだからー☆」
真顔のイェルズに思わずツッコミを入れるアイビス。そんな彼らに、ノイシュはころころと笑った。
「あれはスコール族の屋台かな。あそこはボラ族か」
「エアさん楽しそうだね」
「そうか? まあ、確かに感慨深いとは思っているが……」
部族の屋台を巡り、メモを取りながら笑うジュードに、目を細めるエアルドフリス。
この雑多な雰囲気。過酷な状況下で生き抜こうとする力……それらに、失くした部族を思い出す。
「……俺、もっと大切な人のこと、大切な人が大事にしてるものを知りたいって思うよ」
ジュードの見透かしたような緑の瞳と懐かしい空気。エアルドフリスはふう、とため息をつく。
己の部族はもうないから、出展する意味はないと思っていた。
けれど、知って貰うことで先に繋がるのなら……。
「ジュード。久しぶりにお聴かせしよう」
恭しく頭を下げるエアルドフリス。彼の口から溢れるのは部族の教え……雨と空の巡りに感謝する歌。
離れても辺境に連なる身と自覚できたのは大切な人を得たからだ。
目の前の人への感謝と、この祭が新たな絆を生む事を祈って――。
時に高く、そして低く――祭に響く彼の歌。
知らない辺境の景色が見える気がして、ジュードは目を閉じた。
「すごいですねー。何だか、辺境を旅しているようです」
辺境の出身であるものの、集落の外の世界を知らずに生きてきたアニス・エリダヌス(ka2491)にとって、見るもの全てが新鮮で……。
天央 観智(ka0896)が、何やら深刻な顔で考え込んでいるように見えて、歩み寄って声をかける。
「カンジさん、こんにちは。どうかしましたか?」
「友というのは、本来対等な関係のはず、ですよね……」
「え? えーと……?」
「ああ、すみません。ちょっと色々考えてしまいましてね」
「……お友達と何かあったんですか? 私でよければ相談に乗ります!」
「いえ、今回のお祭のことですよ。どうしたら、リアルブルーとクリムゾンウェストがお互い分かり合えるかと思いましてね」
心配そうな顔をするアニスに、笑顔を返す観智。
サルヴァトーレ・ロッソの中に住んでいる民間人にとって、理解しがたい恐怖の対象であるこの世界。
覚醒し、歪虚と戦う人達を、夢見がちに英雄視している者も多いのではないだろうか……。
そういった誤解を生むのも――辺境部族に限らず、基本的に接点が少なすぎたように思う。
クリムゾンウェストの人達も、リアルブルーの人たちと何ら変わりない……英雄でも、怖い人でもなく、ただの人間なのだと理解して貰いたいが、その為には一体どうしたら……。
「観智さんはリアルブルーの方ですよね。最初この地に来た時、どう思いました?」
「最初に……?」
「はい。その時の話を、してあげたらいいんじゃないかなって思うんです。同じ立場の観智さんなら、皆さんも安心なさると思いますし」
「ふむ。なるほど……。ありがとうございます。アニスさんに助けられてしまいましたね。何かお礼をしたいのですが、何がいいですか?」
「お礼を戴くようなことじゃないですが……あ、じゃあ一緒にお祭回りましょう。観智さんも辺境部族について知っておかないと、皆さんに説明できないでしょう?」
「それもそうですね」
笑いあうアニスと観智。共に楽しむ友を得て、祭は楽しいものになりそうだ。
「オイラの部族は、鉱石や宝石を掘って、あとは放牧して……そんで、星を見て歌を歌うんさ」
「へえ。鉱石が採れるんですか! いいですねえ。工芸品の幅も広いんでしょうね」
「そうなんよ。アクセサリーとか、武器とか色々な。オイマトさんとこは、腕っぷし強いひと多い感じやね。族長さんといい、勇猛果敢な戦士って感じやろか」
「そうですね。俺の部族は歪虚を打ち滅ぼす為に備えてる人多いんで」
「それも族長さんの方針なんやね?」
「そうですね」
イェルズの話に、しきりと頷くラプ。辺境部族には、色々な人達がいる。近しい者のはずなのにこうして違う部族の人達と話し込むことなどなかなかなくて……またとない機会に、彼の頬が思わず緩む。
「ラプさん、何か嬉しそうですね」
「そりゃそうや。ハンターになってな、広い世界を見て……こうやって色んな人達と話せるんは、ほんとに幸せやと思うんよ」
「それもそうですね。世界を知って、更に故郷を大事に思えると言うか」
「そう。それもあるやね。同じ辺境の部族同士、困った事があったら言ってな? お互い様ってやつよぉ」
「ありがとうございます。この先、お互い色々協力して行きましょう」
がっしりと固い握手をするラプとイェルズ。
この祭は、辺境部族同士の絆を強くするという役割も果たしたようだ。
「わぁ。やっぱりロッソは大きいなぁ。すごいよね」
遠くに停泊する船を見て、ため息を漏らす時音 ざくろ(ka1250)。
ふと隣のアルラウネ(ka4841)を見ると、彼女はオイマト族が作ったアクセサリーに目が釘付けになっていて……ふしぎはその顔を覗き込む。
「アルラ、何か気に入ったのあった?」
「あ、あのね。あの葉の形をしたペンダントが素敵だなって……」
「わあ、いいね。すみませーん。これ二つください!」
店番に声をかけ、テキパキと買い物をするざくろ。一つをアルラウネの首にかけ、自分もペンダントをつけるとにっこりと笑う。
「これでお揃いだね」
「えっ。あの……二つだけ? 他の子の分は……?」
「ん? 何で? 二人の分だけだよ。だって、大事なのはアルラと過ごしたこの時間もだから」
にこにこしているざくろを、ぽかーんとした顔で見つめるアルラウネ。
――こう見えても彼はすごくモテて、『大切な人』も一人や二人ではないくらい沢山いる。
彼女も、ざくろを心憎からず思っていたし、自分もその『大切な人』に含まれているのなら……。
「そっか。そういうことなら……。私からも改めてというか、本気で……って言うのも何か変だけど……さくろんのものになってあげてもいいわよ」
「えっ。ホントに……?」
「うん。いつまでも恋人未満……っていうのも変だしね」
「嬉しい……! ざくろもアルラの事大好きだよ」
彼女の告白に頬を染めつつ、アルラウネを引き寄せようとするざくろ。
アルラウネは彼の唇に指を当てて、優しく制止する。
「そういうことは二人きりになってから、ね?」
「あ。うん」
「他の恋人達も、もっともっと大切にしないとダメよ?」
アルラウネの微笑みに首を縦に振るざくろ。
想いが通じた喜びで、何だかお祭どころではなくなりそうだったが……折角の二人きりの時間だ。思い切り楽しまなくちゃ……!
「よし! 二人きりになれるところ探そう!」
「えっ。ざくろんーー!?」
アルラウネの手を引き、走り出すざくろ。
二人のお祭は、ちょっと刺激的になりそうだ。
「……何かよ。俺すげェ場違いじゃね?」
「何言ってるんですか! 折角だから楽しみましょうよ!」
渋い顔をしている尾形 剛道(ka4612)に満面の笑みを返す佐久間 恋路(ka4607)。
こいつを一人で行かせる訳にもいかねェ、と思い誘われるままについて来てみた剛道だったが……こういう明るい雰囲気は、どうにも居心地が悪い。
まあでも、生き生きと買い物をしている恋路を見るのは悪くない。こいつが元気であればあるほど、殺してやりたくなる――。
「そんな怖い顔してたらお店の人びっくりしちゃいますよ」
「うっせェよ。これは素の顔だっつーの」
恋路が咥えている真っ赤な林檎飴。それは何だか血のようで……剛道は何も言わずにそれを掠め取って齧りつく。
「……美味しいです?」
「悪くねェな」
煙管の代わりに咥える林檎飴。本人に言ったら怒るだろうが、その様子が愛らしくて……。剛道も、楽しんでくれているのかなと思うと、何だか嬉しい。
そんな事を考えていた恋路はあぁ、そうだ……と思い出したように懐を探る。
「これ、剛道さんもお一つどうぞ」
「あァ? 何だ?」
「革の腕輪ですよ。お揃いで買ったんです。この文様は炎を表すそうですよ」
「………」
「記念ですよ。食べ物は食べたら無くなっちゃうでしょう?」
無言を返す剛道に、ハイ、と笑顔で腕輪を差し出す恋路。
贈り物、しかも揃いの物なんて……不意打ちにも程がある。
動揺を覚られるのも癪だ。剛道は一瞬の間を置いてそれを受け取り、腕に通してみせる。
「……ハ。まァ、イイんじゃねェか」
「似合ってますよ」
にこ、と笑う恋路。困った顔が見られればいいかなと思っていたけれど……予想に反して、彼は少し表情を緩めていて……。
こんな顔を見せてくれるこの人なら、自分を優しく殺してくれるだろうか――。
――殺したい。殺されたい……。
この底から湧き上がる感情は、きっと他人には理解されないだろう。
それでもいい。お互いの渇望が、どういう結果を生むか今は判らないけれど。
今のこの時、一瞬を。この人と共に……。
「蜜鈴さん! 族長がいつもお世話になってます! 宜しくお願いします! あっ。俺ちょっと呼ばれてるんで失礼します!」
イェルズに声をかけたら、突然握手を求められて、一方的にまくし立てられて……。
嵐のように去って行った彼に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は苦笑しつつ、黙々と刺繍をしているバタルトゥの隣に座る。
「おぬしの副官殿は随分と姦しい殿御じゃのう」
「……あぁ。そのお陰で助かっている」
くつりと笑う蜜鈴。彼は必要なこと以外は喋らない男だ。
そういう意味でも、均衡が取れているのかもしれない。
「して……バタルトゥは何じゃ。繕い物かの?」
「民芸品を作っている。守り袋が思いの他売れてな……」
「そういえばエステルも随分悩みながら守り袋を買っておったな。スメラギの命を守りし守り袋ともなれば求めるものも多かろうて」
青い髪のエステルの必死の形相を思い出して笑う蜜鈴。それにバタルトゥは肩を竦める。
「あれはスメラギの実力だ。守り袋は関係ないと思うのだが……」
「そう思わぬのが人と言うものよ」
蜜鈴は煙管を燻らすと、バタルトゥの前に猪の腸詰や果実酒を並べる。
「……蜜鈴。これは?」
「他部族の催しも愉快であったゆえな。食物や酒を貰うて来よった。暫し休憩してはどうじゃ?」
「しかし……」
「なーに。作る数が追いつかぬと言うなれば妾も後で手伝うてやろうて。案ずるなかれじゃ」
安心させるように笑顔を向ける蜜鈴をじっと見つめるバタルトゥ。縫いかけの守り袋を横に置き、代わりに盃を手にする。
「……お前と呑むという約束を、まだ果たしていなかったな」
「おや。覚えていたとは光栄じゃ。ではその約束を果たして貰うとしようかの」
くつくつと笑う蜜鈴。バタルトゥの盃に自分の盃をコツリと当てて、乾杯……と囁く。
「バタルトゥ、こんにちは! どう? 楽しんでる? ……って、あっ。お邪魔だったかな」
「いやいや。そんなことはないぞよ」
「お前もここに来て飲むといい」
バタルトゥに挨拶を……とぱたぱたと入って来た真夕。
蜜鈴とバタルトゥと目が合って踵を返そうとしたが、蜜鈴に座らされ、バタルトゥにコップを渡されて……ふと、彼らの周囲に沢山の守り袋があることに気がついた。
「あーっ。やっぱり! バタルトゥずっとお裁縫してたんでしょ!」
「お察しの通り、休憩もしておらなんだ。困った奴よの」
「全く。素敵な演説だと思ったのに、本人はお裁縫だなんてね」
「……仕方あるまい。辺境を理解して貰う為だ」
苦笑する蜜鈴とバタルトゥの返答にため息をつく真夕。
お祭は、もてなす方ももてなされる方も楽しむべきだと思う。
だって本来、神事であって、神様や精霊を慰め、楽しませる儀式なのだから。
「ねえ、お祭回ってないんでしょ? ちょっと外に行こうよ」
「……いや、遊びに来た訳ではないゆえ」
「だーめーよ。自分達が楽しめなきゃお客さんを楽しませるなんてできないでしょ」
「ふむ。真夕の言う通りじゃな」
「そーでしょ? ……と言う訳だから、バタルトゥ行きましょ!」
蜜鈴の援護射撃に激しく頷く真夕。
バタルトゥはそのままずるずると女子2人に引きずって行かれて……。
オイマト族族長のお祭は、これから賑やかなものになりそうだった。
「ミリアさん、これ……」
帰りしなに立ち寄った店でミリアの首に手を回すジョージ。
繊細な剣を模したペンダントが下がっているのに気がついて、彼女は目を丸くする。
「これって……」
「あ、いえ。お似合いかな、と思ったんですけど……柄でもないですね」
「何言ってんだよ綺麗じゃん! 折角の記念だし食べ物だけじゃ勿体ないと思ってたしさ! いや食べ物大事だけど!!」
喜びのあまり、だんだん何を言っているのか分からなくなってきたミリア。
そんな彼女を見ていたら、ジョージも何だか頬が熱くなってきて……。
「そうだ! これお揃いにしようぜ! 親父さんこれと同じのもう一つ!!」
「えっ。あの……」
「今日の記念だ! な? ……今日は誘ってくれてありがとな」
「こちらこそ、ありがとうございます」
にこにこと笑いあう姉弟。二振の小さな剣が、二人の胸元で輝いていた。
「……ほ、本当に、やるの、か?」
「勿論。そういう約束だっただろ?」
「それは、そうだが……」
にっこり笑うイレーヌに戸惑うオウカ。
どうやら的矢の勝負は、イレーヌに軍配が上がったらしい。
彼女が出した罰ゲームが『公衆の面前で愛の言葉を囁く』というものだったので、そりゃあ、オウカが動じるのも仕方のない話で……。
「ほら、どうした。やらないのか?」
「約束は、約束だ。勿論果たす。……では、行くぞ」
意を決してイレーヌを見つめるオウカ。
突然始まった公開告白に、道行く人達から囃し立てる声があがった。
祭の盛り上がりと共に高まる熱気。
ハンター達のそれぞれの時間が、楽しく過ぎて行った。
「あたしもリアルブルー出身だけど手伝うよ!!」
「ありがとうございます! 勿論お願いします!」
アイビス・グラス(ka2477)とアーシュラ・クリオール(ka0226)の申し出に大喜びで頷くイェルズ・オイマト(kz0143)。アーシュラの格好を見て小首を傾げる。
「あれ? でもその格好、ボラ族のですよね」
「そうなの。あたしボラ族の一員なんだ。だから、ボラ族として手伝わせてもらうつもり」
「わたくしもいっぱいお手伝いします!」
「君もお手伝いしてくれるの? ありがとう! 小さいのに偉いね!」
赤毛の青年に頭をわしわしと撫でられて、エステル・ソル(ka3983)は目を丸くした。
同じオイマト族であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)は顔が怖いのに、この人物は怖くなかったからだ。
オイマト族は怖いひとばかりではないらしい。
少女のオイマト族に関する認識が少しづつ修正されて行く中、出展の準備が急ピッチで進められ、辺境部族のお祭が幕を開けた。
「おっまつりー♪ さーて、お買い物と食べ歩きー♪」
鼻歌を歌いながら、祭会場に繰り出すノイシュ・シャノーディン(ka4419)。
おでかけはいつも父様についていくだけだったし……自由に歩けるって気持ちいい!
「ぬぉぉ……。何やら、賑わってるんやなぁ」
「本当になー。どんなものがあるんだろうな」
「辺境っていったら、オイラも辺境の出やしなぁ。なんやら気になるんよ」
「そっかー。俺、お祭だし埴輪売れるかなって思ったんだが、良く考えたら辺境出身じゃなかったんだよなーと」
祭の賑わいに、キョロキョロと周囲を見渡すラプ・ラムピリカ(ka3369)にはははは……と、乾いた笑いを返すアルト・ハーニー(ka0113)。ラプは小首を傾げてアルトを見る。
「ありゃ。それは残念やったねえ」
「まあ、色々な店が出てるようだしちょいと覗いてくるかね、と。こっちにも埴輪のような物があるかもしれないしねぇ?」
「おにーさんの探し物もあるとええなぁ」
「ん。ありがとな」
少年に笑顔を返すアルト。お祭りは、こういう出会いがあるから嬉しい。
「わ。すごい人ですね……」
「あ! 刹那さんだ!」
聞き慣れた声に振り返る花厳 刹那(ka3984)。人を掻き分けるようにして、霧雨 悠月(ka4130)がこちらにやって来る。
「ゆづきゅんも来てたんですね」
「うん。僕もこっち側の文化には興味があるんだ。まだ知らないものも沢山ありそうだし」
「私もアクセサリに興味があるので見に行こうかなーって……」
「あ、僕もアクセサリ見に行こうと思ってたんだよね」
「あら。じゃあ一緒に行きましょうか」
にこにこと笑って頷きあう悠月と刹那。一人で回るより、皆で回った方がきっと楽しい。
「怪我は大丈夫か?」
「勿論です。問題ありません」
「辛かったら言えよ。肩車でも何でもしてやっからさ」
先の依頼で怪我を負い、包帯姿が痛々しいジョージ・ユニクス(ka0442)に明るい笑みを返すミリア・コーネリウス(ka1287)。
ジョージは生い立ちのせいか、年齢の割に静かであまり『遊ぶ』ことに興味がないように感じていたのだが。
今日はその彼が祭に誘ってくれて、ミリアは本当に嬉しくて――。
ここはね。お姉さんとして良いところ見せないと!!
良い香りに釣られたミリアはスープを2つ頼み、弟分に手渡す。
「ほら。ジョージも食ってみな!」
「む……。美味しい……。こういう料理もあるんですね」
「ホントだな! 肉の旨味が干すことで凝縮されて、きのこのスープに溶け出して、そしてこの絶妙な塩加減!」
「この塩って、肉から出たものなんですかね」
「うーまーいーぞー!!」
吼えるミリアに、くすりと笑うジョージ。
身体はちょっと痛いけれど、この人と一緒なら、痛みが和らぐ気がする。
「おっ。サーモンの塩焼き発見!」
ジョージの手を引き、新たな食を求めて歩き出すミリア。
彼らのお祭は、始まったばかりだ。
「あ、真夕さん、こんにちは」
「こんにちは。今日もとってもお洒落なのね。素敵よ」
ストールを羽織り、カラコロと下駄を鳴らして歩く祭り会場。
友人にばったり出会って、頭を下げるエステル・クレティエ(ka3783)。彼女のいでだちに、七夜・真夕(ka3977)が目を細める。
今日のエステルは、浴衣に簪とイヤリングという、いつもと違った格好だった。
誕生日に贈られたものを着てお出かけしたいと思っていた矢先に、今回の祭のことを知って……エステルにとってはまさに渡りに船だったのだ。
「浴衣、ちゃんと着られてます? 簪に合うように結い上げてみたんですけど……」
「大丈夫。素敵だよ! ばっちり!」
「真夕さんに戴いたイヤリングもつけて来たんですよ」
「うん。浴衣に合うんだね! ビックリした」
「そうですか? 良かったです」
友人に好評で、安堵のため息を漏らすエステル。
贈りものを早速見に付けてもらえて、真夕も何だか誇らしい気持ちになる。
「祭なだけあって賑やかだ、な」
「ん、皆祭りが好きだから、こうして集まるのだろうな」
手を繋ぎ、寄り添いながら歩くオウカ・レンヴォルト(ka0301)とイレーヌ(ka1372)。
オウカは途中で買った猪肉の腸詰をイレーヌの口に運ぶ。
「……どうだ?」
「うん。美味しい。食べなれているものではあるが……やはりこうして食べると、違う美味しさがあるな」
「それは何よりだ」
「ああ。……ほら、オウカも口開けて」
イレーヌに言われるままに、腸詰を口にするオウカ。
最近、作戦に駆り出されたりして何かと忙しくて、のんびり過ごす時間もなかった。
恋人と、たまにはこうして甘い時間を過ごすのも楽しいものだ。
それに、イレーヌは辺境部族の出身だし……愛しい人の故郷を知るというのは、悪くない、と思う。
そこに聞こえてきた甲高い歓声。振り返ると、弓を手にした子供達が目に入る。
「イレーヌ。あれは……?」
「ああ、あれは的矢だな。辺境地域に住む子供が弓の練習をするのに使うんだ」
「的に何やら得点が書いてあるようだが」
「……得点を競えるようになってるみたいだな」
「なあ、イレーヌ。どうだ。あれで勝負しないか?」
「ああ、私もそう思っていたところだ」
「罰ゲームなんかあると、面白いと思うが……どうだ?」
「へえ。それはいいな。そうしようか」
「あくまで勝負……手加減は、しないぞ?」
「望むところだ」
ニヤリと笑う二人。弓を手にして、真剣勝負が始まる。
「やあ、バタルトゥさん。お疲れ様です」
笑顔のアルファス(ka3312)に頷き返すバタルトゥ。
彼の目線が横に移ったのに気付いて、アルファスは隣の女性を呼び寄せる。
「この子はマリアです。自慢の義妹なんですよ。大規模作戦でも頑張ってくれましてね。この間も……」
「もう、お義兄さまったら。バタルトゥ様が困ってしまいますよ。……こんにちは、初めまして」
いきなり妹自慢を始めた義兄に苦笑しつつお辞儀するマリア・ベルンシュタイン(ka0482)。
彼女の言葉に、バタルトゥは目を細め……多分、笑ったつもりなのだろう。
相変わらずだなあと思いつつ、アルファスは並ぶ品々に目を落とす。
「見事な刺繍ですね。あの、冬用の肩掛けに使えるようなものはあります? マリアにプレゼントしたいんですけど」
「え、私に……?! いいんですか?」
「ふふ、遠慮しないで。この間の作戦で皆を守ってくれたご褒美だから♪」
目を丸くするマリアに、優しい瞳を向けるアルファス。
バタルトゥが出して来たいくつかの肩掛け。その中から紺地に青緑の糸で刺繍されたものを手に取る。
「これがいいですね。刺繍がマリアの瞳にぴったりだ」
「わぁ。素敵……! ありがとうございます、お義兄さま♪ えと、それじゃ、私からも何か……」
彼女の目に入る頑丈そうな黒い皮手袋。紫の刺繍が、義兄の髪のようで……迷わずそれを手にし、アルファスに渡す。
「マリア、それじゃご褒美にならないじゃないか」
「いいんですよ。お義兄さまが私を護ってくれているお陰で、私も仲間や人々の命を繋ぐために行動出来ます。私の感謝の気持ち、受け取ってください」
困惑する彼ににっこり笑うマリア。その暖かな心遣いに、二人を見ていたバタルトゥも頬を緩める。
「……アルファス。良い妹御を持ったな」
「そうでしょう!? よし、バタルトゥさん。他のデザインのものもいくつか下さい! 僕がロッソに宣伝して来ますよ」
義妹を褒められ気をよくしたのか請け負うアルファス。そんな義兄に、マリアは鈴を転がすように笑った。
「あの、簡単なアクセサリーの製作体験はどうですか?」
埴輪を求めてあちこち歩いているアルトにかけられる声。振り返ると、小さな女の子……青い髪のエステルがこちらを見上げていて……。
「アクセサリー? 何が出来るのかな?」
「木製なんですけど……色々できますよ!」
「どんな感じにできるのかな」
「これです! ほら! わたくしにもでき……上手に出来ませんでした」
見せられたお手本が、ペンダントにしてはおかしな物体になっていて……アルトはくすりと笑う。
「でも味があっていいんじゃないのかな。自分で作れば愛着湧くしね」
「そう! そうなのです!!」
「じゃあ、一つ作ってみようかな。埴輪のアクセサリーとかどうだろう」
「素敵だと思います!」
エステルの後押しに頷くアルト。
木製の素朴なペンダントヘッドに、埴輪の絵を入れていく横で、エステルの飼い猫がお手伝いとばかりに足にインクを浸して周辺に肉球スタンプを押し捲る。
「あっ。スノウさん歩きまわっちゃダメです! 足にインクがついてますよ!」
慌てて猫を抱き上げたエステル。その拍子に、彼女の頬にぺったん、と肉球型のスタンプが押されて、アルトは思わず噴き出す。
「ううう……」
「ああ。ごめんごめん。そうだ。君お腹空いてない? 俺、色々良い匂いに釣られて色々買って来たんだよね」
「え。でも……いいんですか?」
「いいよー。一緒にたべよっか」
「ありがとうございます……!」
遠慮がちな少女に笑顔を返して、買ってきた食材を並べ始めるアルト。
牛の丸焼きや、猪の腸詰、きのこのソテーなどにエステルが目を輝かせ……いただきまーす! と一口口に入れて、涙目になる。
「ううう。辛いです~」
「あー。辺境って食材を長持ちさせる為に、結構スパイス入れるらしいんだよね。お茶持ってくるよ」
アルトに礼を言うエステル。辺境のお料理は、辛いけれど美味しい。アクセサリー体験は、腹ごしらえしてからまた頑張ろう……。
「……久しいな」
「ご無沙汰しておりました。盛況で何よりですな。気苦労が絶えんようですが……」
バタルトゥに挨拶がてら、時事について話し込むエアルドフリス(ka1856)。
その横ではジュード・エアハート(ka0410)は、イェルズと何やら盛り上がっていた。
「……という訳でね。辺境を売り込みたいなら、出展に参加する部族名や信仰対象、特産品とか得意とする事とか……そういう特長を纏めた小冊子を作って配ったらどうだろう?」
「なるほど。辺境部族も色々いますもんね」
「でしょ。商人でも知らないこと多いし、お互いの今後の為にもなるかなって思うんだよ」
「そうですね。折角ですし作ってみようかな」
「だったら協力するよ。出展巡りするつもりだったし。ね? エアさん?」
「ああ、そうだな」
「ありがとうございます! 是非お願いします!」
頭を下げるイェルズに頷く二人。どうやら、話は上手く纏まったようだ。
「オイマト族の衣装、お試しになれますよー!」
「ボラ族風の牛の丸焼きいかがですかー? ボラ族の工芸品もありますよー!」
祭の会場に伸びやかに響くアイビスとアーシュラの声。
工芸品や衣装の良さを広める為にどうしたらよいかと考えたアイビス。貸衣装をすることを思いつき、イェルズに交渉して実現した企画だが、珍しい衣装が気軽に着られるとあって様々な人が集まってくる。
アーシュラが作る牛の丸焼きも、スパイシーな良い香りがして匂いに釣られてやってくる人が多く、祭の中で人気を博していた。
「ゆずきゅん、何だか良い匂いしますね」
「牛の丸焼きだって。食べてみようか」
「あ、ボラ族の装飾品ですって! 綺麗……」
「ホントだ。ちゃんと見ようよ!」
「いらっしゃーい。ゆっくり見て行ってね」
出店を覗く刹那と悠月に威勢よく声をかけるアーシュラ。二人の手には沢山の品が握られていて、既にあちこちを回ってきた様子が伺える。
「あの、この装飾品ってどういう意味があるんですか?」
「このネックレスは月と星、このイヤリングは空と太陽を表現してるんだよ」
浴衣姿のエステルに受け答える彼女。
先ほど見て来たオイマト族の刺繍も素敵だったけれど、シルバーの月に輝くトパーズの星や、ラピスラズリとルビーで表現された空と太陽もとても素敵だ。
母様達に買って行きたいな……。そうだ。真夕さんへのお礼の品も買おう……。
エステルがそんな事を考えている間に、刹那と悠月がアクセサリーをいくつか見繕う。
「すみません、これ下さい!」
「僕はこちらが欲しいな!」
「はーい! 毎度あり!!」
アーシュラに会計を頼んでいる間、悠月は素朴な疑問を口にする。
「刹那さん、随分沢山買ってたけど、そんなに買い込んでどうするの?」
「え。自分の分と……あとはお友達の分ですよ」
「さっき買ってた食材は?」
「あれは全部自分のです! だって日持ちしないじゃないですか!!」
「あはは。刹那さん、結構食いしん坊なんだね」
「……育ち盛りですから……」
そう。主に胸が。さすがにそれは、悠月には言えなかったけれど……。
乙女には、色々あるものなのだ。
「こちらがオイマト族の衣装と工芸品となります」
「へぇ。本当に色々あるのね」
「衣装、お試しになれますよ?」
「あ、ホント? 着てみたーい!」
アイビスのセールストークに食いつくノイシュ。
テキパキと着付けるアイビスのお陰で、ノイシュのファッションショーが開催される。
「……お客様、何を着てもお似合いになりますね!」
そこにやってきた赤毛の青年と目が合って、ノイシュはにっこりと微笑む。
「ありがと。ねえ、カッコいいお兄さん。良かったら私に似合いそうな服飾品を選んでくれないかしら」
「うーん。そうですね。お客様は繊細なものが似合いそうですから……これなんてどうでしょう?」
そう言ってイェルズが持ってきたのは、シルバーのパンジャ。手の甲から手首までを包む繊細な作りのそれに、ノイシュは目を輝かせる。
「綺麗……! この文様って、何か意味があるのかしら?」
「これは月と花の文様を組み合わせてあるんですよ」
「へえ~……。民族的な織物とか装飾品とか……素敵よね。手作りって同じデザインでもオンリーワンじゃない? いいよね、そういうの」
「気に入って戴けましたか?」
「勿論。これ戴くわ……って、このストールの刺繍も素敵ね!」
「ああ、それはそこにいる族長のバタルトゥさんが入れてるんですよ」
イェルズにウィンクを返したノイシュ。続いたアイビスの説明に奥を見ると、仏頂面の男が黙々と刺繍していた。
「手先器用なのねー! 族長さん自らなんて凄くない? 素敵だからお一つ戴くわ!」
「「ありがとうございまーす!」」
気前の良いノイシュに、頭を下げるアイビスとイェルズ。
パンジャとストールを纏って、くるりとその場で回る。
「ふふ。どお? 似合う?」
「とってもお似合いですよ! 本当、仕事中じゃなかったらお茶に誘いたいくらいです!」
「イェルズさん、本音漏れてますよ……」
「もー。お兄さんったら上手なんだからー☆」
真顔のイェルズに思わずツッコミを入れるアイビス。そんな彼らに、ノイシュはころころと笑った。
「あれはスコール族の屋台かな。あそこはボラ族か」
「エアさん楽しそうだね」
「そうか? まあ、確かに感慨深いとは思っているが……」
部族の屋台を巡り、メモを取りながら笑うジュードに、目を細めるエアルドフリス。
この雑多な雰囲気。過酷な状況下で生き抜こうとする力……それらに、失くした部族を思い出す。
「……俺、もっと大切な人のこと、大切な人が大事にしてるものを知りたいって思うよ」
ジュードの見透かしたような緑の瞳と懐かしい空気。エアルドフリスはふう、とため息をつく。
己の部族はもうないから、出展する意味はないと思っていた。
けれど、知って貰うことで先に繋がるのなら……。
「ジュード。久しぶりにお聴かせしよう」
恭しく頭を下げるエアルドフリス。彼の口から溢れるのは部族の教え……雨と空の巡りに感謝する歌。
離れても辺境に連なる身と自覚できたのは大切な人を得たからだ。
目の前の人への感謝と、この祭が新たな絆を生む事を祈って――。
時に高く、そして低く――祭に響く彼の歌。
知らない辺境の景色が見える気がして、ジュードは目を閉じた。
「すごいですねー。何だか、辺境を旅しているようです」
辺境の出身であるものの、集落の外の世界を知らずに生きてきたアニス・エリダヌス(ka2491)にとって、見るもの全てが新鮮で……。
天央 観智(ka0896)が、何やら深刻な顔で考え込んでいるように見えて、歩み寄って声をかける。
「カンジさん、こんにちは。どうかしましたか?」
「友というのは、本来対等な関係のはず、ですよね……」
「え? えーと……?」
「ああ、すみません。ちょっと色々考えてしまいましてね」
「……お友達と何かあったんですか? 私でよければ相談に乗ります!」
「いえ、今回のお祭のことですよ。どうしたら、リアルブルーとクリムゾンウェストがお互い分かり合えるかと思いましてね」
心配そうな顔をするアニスに、笑顔を返す観智。
サルヴァトーレ・ロッソの中に住んでいる民間人にとって、理解しがたい恐怖の対象であるこの世界。
覚醒し、歪虚と戦う人達を、夢見がちに英雄視している者も多いのではないだろうか……。
そういった誤解を生むのも――辺境部族に限らず、基本的に接点が少なすぎたように思う。
クリムゾンウェストの人達も、リアルブルーの人たちと何ら変わりない……英雄でも、怖い人でもなく、ただの人間なのだと理解して貰いたいが、その為には一体どうしたら……。
「観智さんはリアルブルーの方ですよね。最初この地に来た時、どう思いました?」
「最初に……?」
「はい。その時の話を、してあげたらいいんじゃないかなって思うんです。同じ立場の観智さんなら、皆さんも安心なさると思いますし」
「ふむ。なるほど……。ありがとうございます。アニスさんに助けられてしまいましたね。何かお礼をしたいのですが、何がいいですか?」
「お礼を戴くようなことじゃないですが……あ、じゃあ一緒にお祭回りましょう。観智さんも辺境部族について知っておかないと、皆さんに説明できないでしょう?」
「それもそうですね」
笑いあうアニスと観智。共に楽しむ友を得て、祭は楽しいものになりそうだ。
「オイラの部族は、鉱石や宝石を掘って、あとは放牧して……そんで、星を見て歌を歌うんさ」
「へえ。鉱石が採れるんですか! いいですねえ。工芸品の幅も広いんでしょうね」
「そうなんよ。アクセサリーとか、武器とか色々な。オイマトさんとこは、腕っぷし強いひと多い感じやね。族長さんといい、勇猛果敢な戦士って感じやろか」
「そうですね。俺の部族は歪虚を打ち滅ぼす為に備えてる人多いんで」
「それも族長さんの方針なんやね?」
「そうですね」
イェルズの話に、しきりと頷くラプ。辺境部族には、色々な人達がいる。近しい者のはずなのにこうして違う部族の人達と話し込むことなどなかなかなくて……またとない機会に、彼の頬が思わず緩む。
「ラプさん、何か嬉しそうですね」
「そりゃそうや。ハンターになってな、広い世界を見て……こうやって色んな人達と話せるんは、ほんとに幸せやと思うんよ」
「それもそうですね。世界を知って、更に故郷を大事に思えると言うか」
「そう。それもあるやね。同じ辺境の部族同士、困った事があったら言ってな? お互い様ってやつよぉ」
「ありがとうございます。この先、お互い色々協力して行きましょう」
がっしりと固い握手をするラプとイェルズ。
この祭は、辺境部族同士の絆を強くするという役割も果たしたようだ。
「わぁ。やっぱりロッソは大きいなぁ。すごいよね」
遠くに停泊する船を見て、ため息を漏らす時音 ざくろ(ka1250)。
ふと隣のアルラウネ(ka4841)を見ると、彼女はオイマト族が作ったアクセサリーに目が釘付けになっていて……ふしぎはその顔を覗き込む。
「アルラ、何か気に入ったのあった?」
「あ、あのね。あの葉の形をしたペンダントが素敵だなって……」
「わあ、いいね。すみませーん。これ二つください!」
店番に声をかけ、テキパキと買い物をするざくろ。一つをアルラウネの首にかけ、自分もペンダントをつけるとにっこりと笑う。
「これでお揃いだね」
「えっ。あの……二つだけ? 他の子の分は……?」
「ん? 何で? 二人の分だけだよ。だって、大事なのはアルラと過ごしたこの時間もだから」
にこにこしているざくろを、ぽかーんとした顔で見つめるアルラウネ。
――こう見えても彼はすごくモテて、『大切な人』も一人や二人ではないくらい沢山いる。
彼女も、ざくろを心憎からず思っていたし、自分もその『大切な人』に含まれているのなら……。
「そっか。そういうことなら……。私からも改めてというか、本気で……って言うのも何か変だけど……さくろんのものになってあげてもいいわよ」
「えっ。ホントに……?」
「うん。いつまでも恋人未満……っていうのも変だしね」
「嬉しい……! ざくろもアルラの事大好きだよ」
彼女の告白に頬を染めつつ、アルラウネを引き寄せようとするざくろ。
アルラウネは彼の唇に指を当てて、優しく制止する。
「そういうことは二人きりになってから、ね?」
「あ。うん」
「他の恋人達も、もっともっと大切にしないとダメよ?」
アルラウネの微笑みに首を縦に振るざくろ。
想いが通じた喜びで、何だかお祭どころではなくなりそうだったが……折角の二人きりの時間だ。思い切り楽しまなくちゃ……!
「よし! 二人きりになれるところ探そう!」
「えっ。ざくろんーー!?」
アルラウネの手を引き、走り出すざくろ。
二人のお祭は、ちょっと刺激的になりそうだ。
「……何かよ。俺すげェ場違いじゃね?」
「何言ってるんですか! 折角だから楽しみましょうよ!」
渋い顔をしている尾形 剛道(ka4612)に満面の笑みを返す佐久間 恋路(ka4607)。
こいつを一人で行かせる訳にもいかねェ、と思い誘われるままについて来てみた剛道だったが……こういう明るい雰囲気は、どうにも居心地が悪い。
まあでも、生き生きと買い物をしている恋路を見るのは悪くない。こいつが元気であればあるほど、殺してやりたくなる――。
「そんな怖い顔してたらお店の人びっくりしちゃいますよ」
「うっせェよ。これは素の顔だっつーの」
恋路が咥えている真っ赤な林檎飴。それは何だか血のようで……剛道は何も言わずにそれを掠め取って齧りつく。
「……美味しいです?」
「悪くねェな」
煙管の代わりに咥える林檎飴。本人に言ったら怒るだろうが、その様子が愛らしくて……。剛道も、楽しんでくれているのかなと思うと、何だか嬉しい。
そんな事を考えていた恋路はあぁ、そうだ……と思い出したように懐を探る。
「これ、剛道さんもお一つどうぞ」
「あァ? 何だ?」
「革の腕輪ですよ。お揃いで買ったんです。この文様は炎を表すそうですよ」
「………」
「記念ですよ。食べ物は食べたら無くなっちゃうでしょう?」
無言を返す剛道に、ハイ、と笑顔で腕輪を差し出す恋路。
贈り物、しかも揃いの物なんて……不意打ちにも程がある。
動揺を覚られるのも癪だ。剛道は一瞬の間を置いてそれを受け取り、腕に通してみせる。
「……ハ。まァ、イイんじゃねェか」
「似合ってますよ」
にこ、と笑う恋路。困った顔が見られればいいかなと思っていたけれど……予想に反して、彼は少し表情を緩めていて……。
こんな顔を見せてくれるこの人なら、自分を優しく殺してくれるだろうか――。
――殺したい。殺されたい……。
この底から湧き上がる感情は、きっと他人には理解されないだろう。
それでもいい。お互いの渇望が、どういう結果を生むか今は判らないけれど。
今のこの時、一瞬を。この人と共に……。
「蜜鈴さん! 族長がいつもお世話になってます! 宜しくお願いします! あっ。俺ちょっと呼ばれてるんで失礼します!」
イェルズに声をかけたら、突然握手を求められて、一方的にまくし立てられて……。
嵐のように去って行った彼に、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は苦笑しつつ、黙々と刺繍をしているバタルトゥの隣に座る。
「おぬしの副官殿は随分と姦しい殿御じゃのう」
「……あぁ。そのお陰で助かっている」
くつりと笑う蜜鈴。彼は必要なこと以外は喋らない男だ。
そういう意味でも、均衡が取れているのかもしれない。
「して……バタルトゥは何じゃ。繕い物かの?」
「民芸品を作っている。守り袋が思いの他売れてな……」
「そういえばエステルも随分悩みながら守り袋を買っておったな。スメラギの命を守りし守り袋ともなれば求めるものも多かろうて」
青い髪のエステルの必死の形相を思い出して笑う蜜鈴。それにバタルトゥは肩を竦める。
「あれはスメラギの実力だ。守り袋は関係ないと思うのだが……」
「そう思わぬのが人と言うものよ」
蜜鈴は煙管を燻らすと、バタルトゥの前に猪の腸詰や果実酒を並べる。
「……蜜鈴。これは?」
「他部族の催しも愉快であったゆえな。食物や酒を貰うて来よった。暫し休憩してはどうじゃ?」
「しかし……」
「なーに。作る数が追いつかぬと言うなれば妾も後で手伝うてやろうて。案ずるなかれじゃ」
安心させるように笑顔を向ける蜜鈴をじっと見つめるバタルトゥ。縫いかけの守り袋を横に置き、代わりに盃を手にする。
「……お前と呑むという約束を、まだ果たしていなかったな」
「おや。覚えていたとは光栄じゃ。ではその約束を果たして貰うとしようかの」
くつくつと笑う蜜鈴。バタルトゥの盃に自分の盃をコツリと当てて、乾杯……と囁く。
「バタルトゥ、こんにちは! どう? 楽しんでる? ……って、あっ。お邪魔だったかな」
「いやいや。そんなことはないぞよ」
「お前もここに来て飲むといい」
バタルトゥに挨拶を……とぱたぱたと入って来た真夕。
蜜鈴とバタルトゥと目が合って踵を返そうとしたが、蜜鈴に座らされ、バタルトゥにコップを渡されて……ふと、彼らの周囲に沢山の守り袋があることに気がついた。
「あーっ。やっぱり! バタルトゥずっとお裁縫してたんでしょ!」
「お察しの通り、休憩もしておらなんだ。困った奴よの」
「全く。素敵な演説だと思ったのに、本人はお裁縫だなんてね」
「……仕方あるまい。辺境を理解して貰う為だ」
苦笑する蜜鈴とバタルトゥの返答にため息をつく真夕。
お祭は、もてなす方ももてなされる方も楽しむべきだと思う。
だって本来、神事であって、神様や精霊を慰め、楽しませる儀式なのだから。
「ねえ、お祭回ってないんでしょ? ちょっと外に行こうよ」
「……いや、遊びに来た訳ではないゆえ」
「だーめーよ。自分達が楽しめなきゃお客さんを楽しませるなんてできないでしょ」
「ふむ。真夕の言う通りじゃな」
「そーでしょ? ……と言う訳だから、バタルトゥ行きましょ!」
蜜鈴の援護射撃に激しく頷く真夕。
バタルトゥはそのままずるずると女子2人に引きずって行かれて……。
オイマト族族長のお祭は、これから賑やかなものになりそうだった。
「ミリアさん、これ……」
帰りしなに立ち寄った店でミリアの首に手を回すジョージ。
繊細な剣を模したペンダントが下がっているのに気がついて、彼女は目を丸くする。
「これって……」
「あ、いえ。お似合いかな、と思ったんですけど……柄でもないですね」
「何言ってんだよ綺麗じゃん! 折角の記念だし食べ物だけじゃ勿体ないと思ってたしさ! いや食べ物大事だけど!!」
喜びのあまり、だんだん何を言っているのか分からなくなってきたミリア。
そんな彼女を見ていたら、ジョージも何だか頬が熱くなってきて……。
「そうだ! これお揃いにしようぜ! 親父さんこれと同じのもう一つ!!」
「えっ。あの……」
「今日の記念だ! な? ……今日は誘ってくれてありがとな」
「こちらこそ、ありがとうございます」
にこにこと笑いあう姉弟。二振の小さな剣が、二人の胸元で輝いていた。
「……ほ、本当に、やるの、か?」
「勿論。そういう約束だっただろ?」
「それは、そうだが……」
にっこり笑うイレーヌに戸惑うオウカ。
どうやら的矢の勝負は、イレーヌに軍配が上がったらしい。
彼女が出した罰ゲームが『公衆の面前で愛の言葉を囁く』というものだったので、そりゃあ、オウカが動じるのも仕方のない話で……。
「ほら、どうした。やらないのか?」
「約束は、約束だ。勿論果たす。……では、行くぞ」
意を決してイレーヌを見つめるオウカ。
突然始まった公開告白に、道行く人達から囃し立てる声があがった。
祭の盛り上がりと共に高まる熱気。
ハンター達のそれぞれの時間が、楽しく過ぎて行った。
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質問卓 ジョージ・ユニクス(ka0442) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/09/20 22:53:47 |
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雑談&相談 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/09/18 21:09:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/21 15:24:06 |