『優しさ』が過ぎた人

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/23 09:00
完成日
2015/09/28 07:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●20年程前の事
 小さい子供達がなにやら集まっていた。
 大人がお菓子を配っているのだ。
 お菓子よりも子供の数の方が多い。奪い合いという言葉が似合う光景。やがて、大人が無慈悲な一言を告げる。
「あー。ごめんねー。これで最後だー」
 最後のお菓子に手を伸ばしたのは2人の子供。
 2人の視線が空中でぶつかった。
「えーちゃん、優しいから、ぼくにちょうだいよ!」
「わ、わたしも、ずっと、並んでいたんだもん!」
「わたし、食べたいよぉ~。この前も食べられなかったもんー」
 泣きだした――ように見えた――男の子。
 大人は何気なく、まだ、泣いていない方の子の頭を優しくポンポンと撫でた。
「ごめんね。えーちゃん。譲ってあげて」
「……」
 女の子は一歩後ろに下がった。
 その瞬間、泣いていた子が――ニヤリと笑った気がした――泣きやむと、お菓子を掴んで脱兎の如く走り去って行った。

●10年程前の事
 若い娘が2人、向かい合って座っている。
「お願い! 私の為に、引いて!」
「そんな! だって、私の彼に手を出したのは、貴女の方じゃない!」
 テーブルに頭を下げたままの女性と、困惑と怒りが合わせたような複雑な表情の女性。
「私は、あの人がいないなら、もう、死ぬ!」
「意味がわからないわ」
「あなたは死ねるの? 死ねる程、彼の事、愛しているの?」
 急に頭を起こして、問い詰める女。
「彼は、望んでいないわ。誰が死ぬ事も」
「……わからないの? ねぇ、わからないの? 彼の心は、もう、私だけなの!」
 ヒステリックに叫ぶ。
 狂気にも満ちた様な瞳で女性を睨む。
「ねぇ! えーちゃん、お願い!」
「彼が、それで言いといえば、良いわよ……」
「やったぁー! やっぱり、えーちゃんは、優しい人ね」
 喜んで、はしゃぐ女性とは対照的に、えーちゃんと呼ばれた女性は大きくため息をついた。

●5年程前の事
「ほ、保証人は、確かに私ですが……」
 女性は手渡された書類を振るえる手で持っていた。
 ある契約の書類だ。兄が商会を経営すると言って富豪からお金を借りた時に交わされていた契約。
「兄が夜逃げするなんて、信じられません! もう少し、待って貰っていいですか!」
「経営状態は良くないと噂だったし、まさか、お金を持ち逃げしてしまうとは、我々も困っているのですよ」
 取り立てが両肩を竦めた。
 契約書類に書かれていた金額は、とても、保証人である女性が払えるような額ではない。
「この家を差し押さえても、足りませんね」
「そ、そんな!」
「あぁ、そうだ。妹さんは、お若いし、お綺麗だ。良い店を紹介しますよ」
 女性は、ただ茫然と書類を眺める事しかできなかった。

●数か月前の事
 ウィーダの街の繁華街で働く女性がいた。
 身内の保証人になり、多額の借金を返済する為に働いていた。
「今日の……お客さん、ひどかったな……」
 全身に残る痛み。
 営業外の内容に応じなかったら、殴る蹴るで大暴れだった。相手はお得意様という事で、店もなにも言えず、働かせてもらっている身としても、なにも、言えなかった。
 大きくため息をついて、通りを歩いていたら、男性とぶつかった。
「あ。ごめんなさい……あ、あなたは!」
「お前……えーちゃんか」
 その男性は、女性の初恋の人であり、親友に譲った人だった。
 もう、数年以上、会っていない。こんな所で、再会できるなんて! と女性は胸が高鳴った。
 だが……そんな、彼女をどん底に突き落とすような台詞を男性は言い放った。
「売女が、俺に寄るんじゃねぇ!」
 肩を思いっきり突かれて、女性は地面に倒れ込んだ。
 その横を男性が何事も無かったかのように歩き去っていった。

●ネオ・ウィーダの街
「私の人生、ずっと、こんな調子なのよ。私は、『優しく』在り続けた。だけど、周囲は、私に『優しく』ないのよ。笑っちゃうわよね。今頃、こんな事に気がつくのだから」
 女性はボロボロの姿で月を見上げ、嘆いていた。
 これまでの人生を歩みを振り返って……裏切られ続けた日々を思い出し、月が歪む。
「貴女のノゾミは、復讐なのですか?」
 ふわゆるでくるくるの緑髪を揺らし、少女が訊ねた。
 路地の一角で、自分も他人も死なせる力が欲しいと願った女性に、その理由を聞いたのがきっかけで、2人は出逢ったのであった。
「復讐ではないわ。だって、人はいつか死ぬでしょ。だから、絶望や苦痛を感じる前に死んだ方が、楽なのよ」
 女性は優しく微笑んでいた。
「……分かりました。貴女の願い、叶えましょう」
「よろしくおねがいね」
 女性と少女はある場所に向かって歩みだす。

●とあるハンターオフィスにて
 受付嬢ミノリが元気なくカウンターに突っ伏していた。
「あー。私の夏休みが終わっちゃったー。もう、昨日なんか、どれだけ、五日前に戻れー! って祈ったか」
 散々、遊び呆けていた様で、目の下にクマができていた。
 なんでも、リゼリオに遊びに行ったようで、毎日、満喫していたようだ。
「そして、また、倉庫での雑魔退治の依頼かー。倉庫があるから雑魔が出るんじゃないの!」
 依頼に関連する資料をバンっと大きな音を立てて、カウンターに置いた。
 ネオ・ウィーダの街のある倉庫内に雑魔が出現したという。
 人が集まった所で、突然、スライム状の雑魔が現れ、十数人の犠牲者が出ているらしいのだ。
「おまけに……変な能力を持っているようだし……」
 雑魔を討伐しようと、街の兵士達が頑張ったようだが、倒しても倒しても復活するという。
「さぁ! 倒せない雑魔を倒す、この依頼! 誰か受けますか―!」
 ミノリの元気な声がオフィス内に響いた。

リプレイ本文

●ネオ・ウィーダの街にて
 依頼を受けたハンター達が倉庫前にやってきた。雑魔が出現した倉庫の入口で、雑魔が外に出ない様に見張っていた一人の老人が、笑顔を浮かべて出迎えた。
「ハーレムハンターかと思ったら、お前らだったのじゃな」
 そんな軽口を叩く。
 確かに……パッと見は、赤髪の青年以外は全員、女性に――。
「ざくろ、男。男だもん!」
「そりゃ、すまんすまん。つい、言ってみたかったんじゃ」
 時音 ざくろ(ka1250)の抗議に、老人がニヤニヤと笑いながら謝る。謝っているとは思えない態度だ。
 ついで、そのままの視線をNon=Bee(ka1604)にも、向けた。つまり、そういう事だ。
「オキナちゃんにも是非、協力して貰いたいわ よろしく頼むわね」
 Nonが老人――オキナ――の視線に気がつき、声をかける。
 今回の雑魔退治、事前情報だと一筋縄ではいかないようだと思ったからだ。
「あんたが、ここにいるのは偶然か、それとも必然か? ……『あの子』は、この事件に関わっているのか?」
 鋭い視線をオキナに向けながら訊ねたのはヴァイス(ka0364)だった。
 スライム状の雑魔、壺、オキナの存在……それらが頭の中で、自然とある事を連想させる。
「今日はお一人ですか? ノゾミさんはどうしました?」
 マヘル・ハシバス(ka0440)も食い入るようにオキナに言う。
「お主達が言いたい事は分かる。だが、ワシは、なにも関与しておらん」
 両肩を竦めるオキナ。
 この飄々としている態度に怪しさを感じるが、今は、問い詰めている場合ではない。
「まーた、スライムかー」
 倉庫の窓から中を覗きみる小鳥遊 時雨(ka4921)。
 もし、この、スライムをノゾミが用意したものであれば……ノゾミはこの街のどこかにいるのだろうか。
「時雨嬢ちゃんも、久々だの」
「久しぶりー、オキナ。今日はよろしく! それにしても相変わらず神出鬼没というか顔が広いというか」
「そうじゃろ。なんてって、ワシは、若い頃は、『戦慄の機導師』と呼ばれていたのじゃからな」
 自信有り気にアルケミストデバイスを掲げるオキナ。
 それに、ざくろが目を輝かせた。
「凄腕の機導師だとも、聞きました。今回は、よろしくお願いします」
「ほむ……君もなかなかやるようじゃな……まるで、ワシの、若い頃に似ておる」
 昔を懐かしむように瞳を閉じるオキナ。
「……つまり、ざくろんがお爺さんになると、ああなるの?」
 アルラウネ(ka4841)が、ざくろとオキナを交互に見つめた。
「ぎっくり腰はナシだよん?」
 時雨の言葉の横やりに、うっと固まるオキナ。
 一方、アルラウネはポンと手を叩いた。
「腰を動かし過ぎて、ぎっくり腰になるのね」
「な、ならないもん! というか、なんで、そんな話になるの!」
 顔を真っ赤にしてざくろが叫んだ。
「ふふ。ざくろん。なにを想像したのかなー」
「わーお。さすが、大人のお姉さん」
 意地悪そうな色っぽさを漂わせながらのアルラウネと、手で顔を覆っているが、まったく隠す気のない時雨の2人が、ざくろをからかう。
 ヴァイスは助け舟を出そうと思いながらも、視線を外した。とりあえず、今は雑魔討伐に集中しなくては。
「そういえば、雑魔の話しはなにかないのか?」
 オキナに訊ねる。
「そうよね。出来れば、兵士達の話しも知りたいわ」
 Nonも頷きながら口にする。視線は……なぜか、追いかけっこになったざくろと乙女2人の行動に向けられているが。
 走りながら、ざくろがなにか言っている。きっと、彼も、雑魔の話しを聞きたいという事なのだろう。
「賑やかな事じゃの。そして、抜かりがない辺り、さすがと言うべきじゃな」
 楽しそうしながらオキナが雑魔の情報を話し出した。

●雑魔討伐
「2体同時に倒さないと分裂しちゃうのか……」
 倉庫内に踏み込んだざくろが視線の先で佇む2体の雑魔を油断なくみつめる。
「この前のゴブリン追撃戦でのあれの事もあります、嫌な予感がしますね……」
「……これもノゾミのやったことなの?」
 マヘルの悪い予感の言葉にNonが疑問の声をあげる。
 事件の類似性から鑑みると、ノゾミが一番疑わしい事に変わりはない。
「スライム状の雑魔が入った壺を、渡したのじゃろ」
 険しい表情でオキナが呟く。
 その視線は、雑魔ではなく、床に散らばった壺の欠片に向けられていた。
「主犯は、ここに人を呼び寄せた女性でしょうか?」
 奇怪な雰囲気の直剣を構えながらマヘルはオキナに訊ねた。
 だが、オキナからは答えは返って来なかった。いつでも機導術を使えるように集中しているようだ。
「ざくろん、どうしたの?」
 周囲をやたらと警戒するざくろにアルラウネが心配して声をかける。
 ざくろはランタンを倉庫内の壁に吊るして振り返った。
「見落としてると後で大変になるかもって……冒険家の勘かな」
「勘、か……」
 ヴァイスがざくろの言葉を繰り返した。
 雑魔を注意深くみつめる。事前の準備・確認はしっかり行った。仲間達との作戦会議もバッチリのはずだ。
 だが、どうにも、なにか、引っ掛かるものがあったが、その正体には辿り着かない。
「もし雑魔の分裂を許しても、永久無敵の存在なんてものはない。諦めずに戦い続けよう」
 だから、自身も含め仲間達に呼び掛けた。
「作戦を再確認するよー」
 後方から時雨の元気な声が響いた。
「雑魔を攻撃する時は、皆で声出しして攻撃した回数をカウントして……」
 ハンター達の作戦はなるべくダメージを均等に与えていくというものであった。
 それでけではなく、瞬発力の高いアルラウネと時雨が待機して雑魔の動きを注視。片方の雑魔が倒された時点で、全力でもって残った方の雑魔を倒すというものだ。
「……という事だからね、オキナ聞いてたー? それじゃ、よろしく!」
「まったく、こんな爺に向かって人使いが荒い連中だわい」
 オキナもジリジリと前線に出る。
「緑色でぷるっとしたものが2つ……何故か対抗心が沸くわね」
 豊かな自身の胸を下から持ち上げるようにしながら、対抗的な目で雑魔を睨む。
 その仕草を時雨もやってみていたが、どうも、格差を感じるだけで終わった様で、やはり、雑魔を睨む。本気で睨む。
「ヴァイスさん……ヴァイスさん!」
 敢えて余所見をしているのか、あらぬ方向を見つめている彼に対して、マヘルが名前を二度呼んだ。
「な、なんだ?」
「可能であれば、ヴァイスさんから攻撃をお願いします。あと、できる限り、交互に」
「お、おう!」
 顔を真っ赤にしながらも巨大な戦斧を構える。
 攻撃力の高い彼を最初にもってくる事で、雑魔に与えるダメージを調整しようという事だ。
「さぁ、行くわよ!」
 Nonが頼もしく先頭をきって、雑魔へと近付いた。

 戦闘開始と共に、全員の声が重なる。
 雑魔への攻撃回数を数えているのだ。
「本当に見た目で、消耗度がわかんないわねぇ」
 Nonの言葉通り、スライム状の身体の為か、どの程度、傷ついたか外見上わからない。
「……今、思ったのだが、いいか?」
 ヴァイスが戦斧を振り下ろして雑魔にダメージを与えたのを確認してから仲間に呼び掛ける。
「なんでしょうか? ヴァイスさん」
「ヴァイス、なにか見つけたのかな?」
 マヘルとざくろの声が重なった。
「あぁ……なるべく、均等にダメージが与えるようにと思っていたが、もしかして、俺達は見逃していた事があったかもしれない」
「ほぉ。いよいよ、気が付いたようじゃな」
 オキナが感心したように言う。
 なら、最初から言えよ的な視線を時雨が飛ばし、オキナは舌を出して両肩を竦めた。
「部位を計算にいれてなかった……」
「そういえば、そうね」
 待機中であるアルラウネが隙を見せず、構えたまま素直に言った。
 スライム状の雑魔の為、部位がある様子ではないが、急所に入ったり、もしかしてどこか当たる面で違った可能性はあった。
「とりあえず、このまま継続でも、ざくろは大丈夫だよ」
 ざくろが大剣を振り上げる。
「そうですね。もし、今回ダメなら、次でそれを加味しながら戦いましょう」
「私もそれで良いと思うわぁ」
 光輝く三角形が、宙に二つ現れる。マヘルとNonが放つデルタレイだ。
 そこへ雑魔の反撃。狙われたのは、ざくろとヴァイスであったが、それぞれ、射出された酸を武器で受け止めた。
「よし! これでどうだ!」
 ヴァイスの繰り出した一撃が雑魔を両断すると、空気が抜けるような奇妙な音と共に雑魔が崩れて行った。
「このタイミングで、決めるわよ!」
「オキナさんも!」
 Nonの合図に、マヘルはオキナに呼び掛けた。
 すぐに雑魔を倒さないと、分裂するからだ。3人の機導術が放たれる。
 それでも、残った雑魔は倒せない。時雨が咄嗟に弓に持ち替え、二本の矢を番える。
「いくよぉー!」
 時雨が放った二本の矢が突き刺さる。
 まだウネウネと不気味に動く雑魔。
「ざくろん。連携……お願いしていい?」
「アルラ、ざくろ達の手で、絶対スライムを倒そうね!」
 アルラウネとざくろが、二手に分かれて挟み込む様に同時攻撃を行う。
 と見せかけて、大剣を振り上げて迫るざくろが機導術を放った。
「これで終わりだ……必殺デルタエンド!」
 雑魔が意表を突かれたかどうかわからない。動きが一瞬止まった所へ、アルラウネが素早い動きで斬りつける。
「二連……くらえー!」
 一気に集中攻撃を受けた雑魔の身体が大きくうねったと思った次の瞬間だった。
 分裂しそうに見えながらも、ボロボロと崩れ去って行く。
「あれ? もしかして、1回目で倒せちゃった?」
 時雨が驚いて目を丸くしている。
 長期戦になるものだと心の中で予測していただけあって意外とあっけない。
「時には、そういう偶然もあり得るって事じゃな」
 オキナが一人で納得するように何度も頷いていた。

●戦い終わって
 犠牲者達の残った遺体を集めて、倉庫内の掃除もある程度行いつつハンター達。
「この女性が、倉庫を借り、人を集めた者らしいのじゃ」
 オキナの言葉に全員の視線が集まる。
「笑顔ね」
 アルラウネが言う通り、犠牲者達の死に顔の中で、彼女だけは笑顔のまま絶命していた。
 それも、単なる笑顔ではない。残忍な雰囲気を発している。
「管理人から聞いたのじゃがな……」
 黙祷しつつ、オキナが管理人から聞いた話を語りだした。
 女性の性格やら半生についてだった。
「それは、本当に優しさだったのでしょうか……女性は良い人というより、相手にとって都合の良い人だったのでは……貴女の本心はどうだったのですか? すべてを譲った事も、周りを巻き込んで死んだ事も、全部貴女のノゾミだったのですか?」
 マヘルが真剣な眼差しで、女性の身体に触れる。女性は死んでいるので当然、返事はない。それでも、問いかけたかった。
 そこへ、Nonが手を重ねる。
「あたしもそう思うわ。この人は変えようとしなかっただけではなくて。優しさっていうのはね、常に自分が相手の目線になって何かしてあげようって気持ちを言うのよ」
「Nonさん……」
 同じ様な優しさを知る人がいる。それが心強いと思った。
「これをノゾミが叶えたというのかしら。キラキラした目で精一杯生きていたのに、なんだか全てに絶望していた時の、あの子に戻っちゃったみたいじゃない……」
 そんなNonの言葉にマヘルは胸に手を戻し、しばし、瞳を閉じた。
 そして、目を開けると、様子を見守っているオキナに視線を向ける。
「この前、スライムを呼び出した男から、壷を渡してきた女性の特徴を聞きました。それが、ノゾミさんに似ているのですけど何か知ってる事はありませんか?」
「……概ね、お前さんらの考えてあっているはずじゃ」
「やっぱり……そうなのですね……」
 オキナの言葉にマヘルが落胆しながら呟く。
 そうでなかったら、どれだけ良かった事か。
 掃除道具を整理しながらアルラウネが、そのやり取りを見ながら思った事を口にする。
「女性にとって、雑魔は復讐の道具だったって事なのね。『厳しさ』ときて、『優しさ』……ね」
 アルラウネの言葉を聞きながら、犠牲者達に弔いの祈りを捧げていたヴァイスが師匠が話していた事を思い出して、静かに呟いた。
「『優しさ』は『厳しさ』であり、『厳しさ』は『優しさ』である。そうでなければ誰かの為の優しさでも厳しさでもない……か」
 拳に力を入れる。
 自分が、あの少女に出来る事を決意する。オキナもそんな彼の呟きと決意が読み取れたようだ。視線がぶつかる。
「……次に会った時、俺はあの子を捕らえるぞ」
 これ以上、罪を、人を死へと誘うやり方を放置しておくわけにはいかない。
 ヴァイスだけではない。ハンター達は、決意の籠った視線をオキナに向けていた。
「……合格じゃ。本当にあの嬢ちゃんを助けたいと思う、お前さんらの気持ちはよくわかった。ワシもワシで動こう。ただし、ワシから手助けはせんぞ……これは、お前さんらの試練じゃ」
 オキナはニヤリと笑うと倉庫の外に向かって歩き出す。
 その途中、やや離れた所にいた時雨が、オキナとすれ違いざま、声をかけた。
「ね、オキナ。人ってさ、変わ……や、やっぱ何でもないや……こう、頑固っぽいオキナに聞くのも違う気するしー?」
 なにかを言い掛けて誤魔化し、照れ隠しする時雨の頭をオキナはポンポンと叩いた。
「わしの命はこの先短い。決着は早めにつけた方がよかろうじゃろ。時雨嬢ちゃんにとってものぉ」
「お、オキナ!?」
 どういう意味なのか聞き直そうとしたが、オキナさっと倉庫から出て行ってしまった。
「俺達も行くか」
 ヴァイスが宣言して、ハンター達は頷いた。
 新たな決意を秘め、彼らは歩み出す。優しさを知る故に。
「ねぇ、アルラ……聞いてもいい?」
「ざくろん、なぁに?」
 最後尾を行くざくろが、横に並んで歩くアルラウネに小声で話しかける。
「あのさ……ノゾミさんって誰?」
「え? 今!?」
 ここまで、皆で話しが出ていて特に質問がなかったから、既に知っているものだと思っていたアルラウネが思わず転びそうになる。
 慌てて腕を伸ばして、彼女の身体を支える。柔らかいなにかが当たっているが、気にしては負けだとざくろは思った。
「ふふ。それじゃ、今夜、いちから話してあげるわ」
 アルラウネが小悪魔的な視線を向けながら言うのであった。


 ハンター達の活躍により、倉庫に現れた雑魔は分裂を繰り返す前に討伐された。
 倉庫は綺麗に掃除と浄化されて、倉庫の所有者は安堵したという。


 おしまい


●とある部屋にて
「オキナ……私、自分がやった事が悪いって、今でも振り返ると思えないのです。でも、悪い事のような気も少しはするんです」
 緑髪の少女が首を傾げながら、オキナと呼び名を持つ爺に話しかける。
「そういうものじゃ……」
 パッとしないオキナの返事に、ノゾミは頬を膨らませたのであった。

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MVP一覧

  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバスka0440
  • Beeの一族
    Non=Beeka1604

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバス(ka0440
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • Beeの一族
    Non=Bee(ka1604
    ドワーフ|25才|男性|機導師
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
小鳥遊 時雨(ka4921
人間(リアルブルー)|16才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/09/23 02:01:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/19 15:31:14