ゲスト
(ka0000)
襲われた小さな集落
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/23 12:00
- 完成日
- 2015/09/28 06:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「一体、何を考えているのだ!」
グラズヘイム王国フェルダー地方にあるラスリド領。中心に存在する街アクスウィルの領主の館に、怒声が響いた。
声の主はレイル・ミスカ・ラスリド。現当主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵のひとり息子である。
見るからに屈強そうで強面の父親とは違い、二十歳になったばかりのレイルは優男といった感じだ。父親同様に剣を振るうだけであってそれなりの筋肉はあるが、決して隆々ではない。
父親で領主のゲオルグが遠征中で不在のため、息子のレイルが留守を任されている。そんなレイルに数日前、領地の隅にある小さな集落から助けを求める声が届いた。
集落からやってきた青年は目通りが叶うなり、レイルへ助けてほしいと懇願した。集落の近くに、これまでとは違う狼がうろつきだしたらしい。
明らかに集落を狙っていて、恐怖を覚えた住民は若い男性を中心に退治へ乗り出した。ところが相手は普通の狼と違い、簡単に追い払うどころか、住民側が大怪我を負わされた。
幸いにして死傷者はまだ出ていないが、このままでは時間の問題。様子を見ているようだった狼も、住民が脅威にならないと知って、さらに敵意を剥き出しにしてくるようになった。
自分たちだけでは手に負えない。そう判断した集落の長は、ひとりの若者へ指示を出した。領主に現状を報告し、助けを求めてきてほしいと。
話を聞き終えたレイルは、集落の若者を下がらせるなり、遠征中の父親へ伝令を向かわせた。
正義感の強いレイルだけに、すぐにでも出兵したいと許可を求めた。
魔獣が多く生息するフェルダー地方に領地があるだけに、ラスリド領の私兵団はどこに出しても恥ずかしくないと自慢できるレベルだった。
大半がラスリド伯爵であるレイルの父親のゲオルグに同行してるとはいえ、残っている兵だけでも魔獣退治などの案件であれば十分に対処可能だ。
しかし、つい先ほど伝令から戻ってきた兵士は、レイルに駄目だという言葉を告げた。現領主のゲオルグから預かってきた返答だ。
「父上は領民を見捨てるおつもりか!」
「伯爵閣下は小さな集落のために、アクスウィルの街を危険に晒すわけにはいかないそうです」
理解はできる。レイルが出兵してる間に、アクスウィルが魔獣などに襲われれば対処が難しくなるからだ。
しかし、納得はできない。血が出そうなほど、レイルは下唇を強く噛む。
現領主が許可を出さなかった以上、どんなにレイルが喚いても兵は動かない。領主の息子で、留守中を任されていてもだ。
「狼程度なら、頑張れば住民たちでも対処できるのではないでしょうか」
伝令役を務めてくれた兵士が言った。フェルダー地方では魔獣と遭遇する機会もそれなりにあるため、小さな集落であろうとも男性の若者は戦闘訓練を受けているケースが多い。
「お前はその場にいなかったから、陳情に来た者の話を聞いてないのだな。どうやら、通常の狼とは違うようだ。退治に出向いた若者たちの大半が重傷を負ったと言っていた」
「まさか、集落を狙っている狼は歪虚……」
「可能性は高いだろうな。ゆえに父上も、兵を出せないと考えたのかもしれぬが」
狼が歪虚だとすれば、少数の兵士を派遣したところで解決は難しい。当主の遠征中に、それなりの規模の隊を編成すれば、領民の大多数が暮らすアクスウィルの街が無防備になる。
「……心苦しいですが、陳情に来た集落の者には涙を呑んでもらうよりありませんな……」
「父上ならばそこで頷くのだろうが、生憎と私は違う」
「なっ――!?」
兵士が驚きの声を上げる。
「心配せずとも父上には逆らわぬ。だが、問題を捨て置きもせぬ」
確かな決意とともに、レイルは腰を下ろしていた椅子から立ち上がる。
父親より預かった領主の席で、安穏と過ごすには自分はまだ若すぎる。
黙っていられぬというのなら、若さに任せて暴走してみるのもいいだろう。
「父上はどうお考えかわからぬが、私にとっての領地とは民だ。土地を奪われようとも、民さえいればいくらでもやり直せる。したがって、ひとりの民とも見捨てはしない」
「し、しかし、レイル様! 伯爵閣下のご命令で、私兵団を派遣するのはできないのですよ!?」
「耳元で怒鳴らなくとも、承知している。兵を出すつもりはない。私がひとりで出撃するのだからな」
「しょ、正気ですか!? レイル様は留守を任されてる身なのですよ!? 小さな集落のわずかな民のために、危険な真似をするなど理解できません!」
「そうか。だが私にとっては、民のために危険な真似をできない貴族の方がよほど理解できないのだ。誰かに許可を貰う必要などない。代理とはいえ、ラスリド領を預かる身として、己の責務を全うするだけだ」
身支度を整えて領主の部屋を出ようとするレイルを、伝令役を務めてくれた兵士が慌てて制止する。
「レイル様おひとりでどうなさるおつもりですか!」
「……私とて自害をしたいわけではない。兵を動かせぬというのであれば、ハンターに助力を求めればいい」
「確かにハンターであれば下手な兵士よりも戦力になりますが、それも通常の場合の話! お忘れですか、現在は伯爵閣下も遠征している戦闘が行われている最中なのです。動けるハンターの数は限られているはず……!」
「何もしないよりはいい。アクスウィルの戦力を減らさず、集落を救うにはこれしかない。私は依頼を出しに行く。留守は任せたぞ」
●
ハンターズソサエティに出された依頼は、歪虚と思われる狼の退治。正確な数は不明だが、十匹近くはいると思われる。
狼が狙う小さな集落は今も脅威に晒されている。住民は頑丈な村長の家へ避難しており、かろうじて動ける自警団が守っている。
狼が歪虚であれば、覚醒者でもない自警団が住民の避難した村長宅を守り切れるはずがない。ラスリド領内の出来事だが、領主の私兵団の派遣は期待できない。
ラスリド領内アクスウィルの街で合流し、レイル・ミスカ・ラスリドとともに小さな集落へ急行する。
ひと息で依頼の説明を終えた担当者が息を吐く。
「狼といっても相手は恐らく歪虚です。退治に加えて住民の安全確保も依頼に入りますので、十分な準備をして向かってください」
「一体、何を考えているのだ!」
グラズヘイム王国フェルダー地方にあるラスリド領。中心に存在する街アクスウィルの領主の館に、怒声が響いた。
声の主はレイル・ミスカ・ラスリド。現当主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵のひとり息子である。
見るからに屈強そうで強面の父親とは違い、二十歳になったばかりのレイルは優男といった感じだ。父親同様に剣を振るうだけであってそれなりの筋肉はあるが、決して隆々ではない。
父親で領主のゲオルグが遠征中で不在のため、息子のレイルが留守を任されている。そんなレイルに数日前、領地の隅にある小さな集落から助けを求める声が届いた。
集落からやってきた青年は目通りが叶うなり、レイルへ助けてほしいと懇願した。集落の近くに、これまでとは違う狼がうろつきだしたらしい。
明らかに集落を狙っていて、恐怖を覚えた住民は若い男性を中心に退治へ乗り出した。ところが相手は普通の狼と違い、簡単に追い払うどころか、住民側が大怪我を負わされた。
幸いにして死傷者はまだ出ていないが、このままでは時間の問題。様子を見ているようだった狼も、住民が脅威にならないと知って、さらに敵意を剥き出しにしてくるようになった。
自分たちだけでは手に負えない。そう判断した集落の長は、ひとりの若者へ指示を出した。領主に現状を報告し、助けを求めてきてほしいと。
話を聞き終えたレイルは、集落の若者を下がらせるなり、遠征中の父親へ伝令を向かわせた。
正義感の強いレイルだけに、すぐにでも出兵したいと許可を求めた。
魔獣が多く生息するフェルダー地方に領地があるだけに、ラスリド領の私兵団はどこに出しても恥ずかしくないと自慢できるレベルだった。
大半がラスリド伯爵であるレイルの父親のゲオルグに同行してるとはいえ、残っている兵だけでも魔獣退治などの案件であれば十分に対処可能だ。
しかし、つい先ほど伝令から戻ってきた兵士は、レイルに駄目だという言葉を告げた。現領主のゲオルグから預かってきた返答だ。
「父上は領民を見捨てるおつもりか!」
「伯爵閣下は小さな集落のために、アクスウィルの街を危険に晒すわけにはいかないそうです」
理解はできる。レイルが出兵してる間に、アクスウィルが魔獣などに襲われれば対処が難しくなるからだ。
しかし、納得はできない。血が出そうなほど、レイルは下唇を強く噛む。
現領主が許可を出さなかった以上、どんなにレイルが喚いても兵は動かない。領主の息子で、留守中を任されていてもだ。
「狼程度なら、頑張れば住民たちでも対処できるのではないでしょうか」
伝令役を務めてくれた兵士が言った。フェルダー地方では魔獣と遭遇する機会もそれなりにあるため、小さな集落であろうとも男性の若者は戦闘訓練を受けているケースが多い。
「お前はその場にいなかったから、陳情に来た者の話を聞いてないのだな。どうやら、通常の狼とは違うようだ。退治に出向いた若者たちの大半が重傷を負ったと言っていた」
「まさか、集落を狙っている狼は歪虚……」
「可能性は高いだろうな。ゆえに父上も、兵を出せないと考えたのかもしれぬが」
狼が歪虚だとすれば、少数の兵士を派遣したところで解決は難しい。当主の遠征中に、それなりの規模の隊を編成すれば、領民の大多数が暮らすアクスウィルの街が無防備になる。
「……心苦しいですが、陳情に来た集落の者には涙を呑んでもらうよりありませんな……」
「父上ならばそこで頷くのだろうが、生憎と私は違う」
「なっ――!?」
兵士が驚きの声を上げる。
「心配せずとも父上には逆らわぬ。だが、問題を捨て置きもせぬ」
確かな決意とともに、レイルは腰を下ろしていた椅子から立ち上がる。
父親より預かった領主の席で、安穏と過ごすには自分はまだ若すぎる。
黙っていられぬというのなら、若さに任せて暴走してみるのもいいだろう。
「父上はどうお考えかわからぬが、私にとっての領地とは民だ。土地を奪われようとも、民さえいればいくらでもやり直せる。したがって、ひとりの民とも見捨てはしない」
「し、しかし、レイル様! 伯爵閣下のご命令で、私兵団を派遣するのはできないのですよ!?」
「耳元で怒鳴らなくとも、承知している。兵を出すつもりはない。私がひとりで出撃するのだからな」
「しょ、正気ですか!? レイル様は留守を任されてる身なのですよ!? 小さな集落のわずかな民のために、危険な真似をするなど理解できません!」
「そうか。だが私にとっては、民のために危険な真似をできない貴族の方がよほど理解できないのだ。誰かに許可を貰う必要などない。代理とはいえ、ラスリド領を預かる身として、己の責務を全うするだけだ」
身支度を整えて領主の部屋を出ようとするレイルを、伝令役を務めてくれた兵士が慌てて制止する。
「レイル様おひとりでどうなさるおつもりですか!」
「……私とて自害をしたいわけではない。兵を動かせぬというのであれば、ハンターに助力を求めればいい」
「確かにハンターであれば下手な兵士よりも戦力になりますが、それも通常の場合の話! お忘れですか、現在は伯爵閣下も遠征している戦闘が行われている最中なのです。動けるハンターの数は限られているはず……!」
「何もしないよりはいい。アクスウィルの戦力を減らさず、集落を救うにはこれしかない。私は依頼を出しに行く。留守は任せたぞ」
●
ハンターズソサエティに出された依頼は、歪虚と思われる狼の退治。正確な数は不明だが、十匹近くはいると思われる。
狼が狙う小さな集落は今も脅威に晒されている。住民は頑丈な村長の家へ避難しており、かろうじて動ける自警団が守っている。
狼が歪虚であれば、覚醒者でもない自警団が住民の避難した村長宅を守り切れるはずがない。ラスリド領内の出来事だが、領主の私兵団の派遣は期待できない。
ラスリド領内アクスウィルの街で合流し、レイル・ミスカ・ラスリドとともに小さな集落へ急行する。
ひと息で依頼の説明を終えた担当者が息を吐く。
「狼といっても相手は恐らく歪虚です。退治に加えて住民の安全確保も依頼に入りますので、十分な準備をして向かってください」
リプレイ本文
●
急な依頼にもかかわらず、応じてくれたハンターたちと、レイルが小さな集落へ急行する。
「領主様のご子息御自らが、護衛なしで歪虚討伐に赴くのですか……? いえ、少し驚いてしまいまして。わたくしの周りには危険な場に出向くより、安全な場所で損得勘定をすることを好む貴族の方々が多かったのです」
すでに自己紹介は済ませている。率直な疑問をぶつけたのは、レイルと同じ王国貴族の娘のユリシウス(ka5002)だった。
苦笑するレイルの代わりというわけではないが、次に口を開いたのは元グラズヘイム王国騎士団所属の従騎士でもあったイーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
「税を取り立てる以上、何もしなければ野党と何ら変わりはないからね。ただ、今後は戦力が足りないなら事前に雇うなりするべきだと思うよ。税は民を守る為に暮らしを向上させる為に使うものだからね。税は貴族の為の金じゃない、キミならそれくらいは分かると思うからコレ以上は蛇足かな」
耳が痛いなとレイルは再び苦笑した。実際にそのとおりだったからだ。それでもなんとかしたくて、ハンターに依頼を出した。おかげで住民の救出には向かえている。
領主の息子ではあっても、現状は何の力もない。襲われた小さな集落を救うためには、同行してくれているハンターたちの力が必要不可欠だった。
「何となく状況は聞いたが、やるじゃんか。そーゆー、頭のまわるやつが味方ってのはありがてーことだし、俺としても好きだぜ。なら、こんな状況、成功させるしかねーよなぁ」
気合を入れる岩井崎 旭(ka0234)とは対照的に、顔色が悪いのは八城雪(ka0146)だ。
「帰ったら、体調管理が出来てねえって、また怒られる、です。せめてお荷物にはならねぇ様に、気ぃ付ける、です」
「……何はともあれ、諸君らの協力には感謝する」
そう言ったレイルに、アクセル・ランパード(ka0448)が近づいてくる。
「何かあるといけないと思い、前線には出ずに、後詰めに回っていましたが正解でしたね。後詰めが居るからこそ、前線は憂いなく戦えるというものです」
レイルが頷いてる間にも、目的地の小さな集落が目前に迫った。バルバロス(ka2119)が「着いたぞ」と声を上げる。
全員で集落に入り、まずは内部の状況を確認する。
急行して日が高いうちにやってきたにもかかわらず、かなりの窮地になっているのが遠目からでもわかった。
村の一番奥の大きな家を、まだ戦える三人の若い男性が必死に守っている。恐らくは、彼らが自警団なのだろう。
家の中からは悲鳴や子供の泣き声が聞こえる。誰かが大丈夫だと励ます。一刻の猶予もないのは明らかだった。
絶望的な現状に憔悴しきっていた自警団の面々が、狼の背後に登場したレイルとハンターたちの姿を視界に捉えた。
「あ、あれは……おい、皆っ! 助けが来たぞ!」
一瞬の間のあと、家の中から歓声が上がった。遠く離れたレイルやハンターの耳に届いてくるほど、大きなものだった。
「聞こえるか、自警団の諸君! 私はレイル。領主の息子であり、現在遠征中の留守を任されている者だ。助けてほしいという願いは確かに受け取った。安心してくれていい!」
レイルの声が届いたらしく、自警団の若者が安堵するそぶりを見せた。
「ありがとうございます! 住民は我等が守っている村長の家に避難済みです。逃げ遅れてる者はおりませんっ!」
なるほど、とレイルは頷いた。逃げ遅れてる住民がいないのであれば、あとは自警団の男性や村長宅を襲おうとしている狼を何とかするだけだ。
じっくり狼を見てみるも、やはり普通のとは違う。もしかしなくとも、歪虚なのは間違いない。
「ハンターの諸君に依頼をして正解だったな。非覚醒者が多いラスリド領の私兵団では、迅速に住民を救出するのは難しかったかもしれぬ」
そう言ってレイルは、改めてハンターひとりひとりを見て、よろしく頼むと頭を下げた。
任せろとばかりに承諾したハンターたちは手短に作戦を練る。
援護班がフォローする間に、突破班が敵陣を抜けて村長宅へ到達。以降は自警団も含めて守りながら敵に対処するというものだった。
ハンターに提案された作戦を承諾したレイルは、自らの意思で援護班に入ると告げた。非覚醒者である自分が、突撃班を希望しても足を引っ張るだけだと判断した。
重体の雪は、レイルの近くで無理をしないことになった。
「ごめん、です。でも、出来るだけの事はする、です」
「よし。では一刻も早く、住民を狼歪虚たちから救おう!」
胸の位置で拳を握り締めるレイルの肩に、旭が軽く手を置いた。
「気負うのもいいけど、あんたは依頼主だ。厳しいところは任せる気でいてくれていいぜ」
「そうだな。気負いすぎて、冷静さを欠いたりしたら意味がない」
頷いたレイルに、そうだと旭が笑いかける。
落ち着きを取り戻したレイルは、改めて集落の救出をハンターにお願いした。
「……狼雑魔程度では正直物足りぬが、これも仕事よ」
バルバロスが筋肉に包まれた太い両腕で、ギガースアックスを構えた。
「俺もいずれは領地を引き継ぐ身です。次期領主として、そして1人のエクラ教徒としてその考え、共感します。村に被害が出ない内に終わらせてしまいましょう」
言ったのは、グラズヘイム王国の地方領主の息子でもあるアクセルだった。
援護班に所属するユリシウスが、レイルの近くでライフルの準備を終える。
「小さな集落でも助けに向かう、レイル様の心意気に感服いたしますわ。……わたくしも、館で安穏に過ごすより戦場で引き金を引く方が性に合っていますし。さて、狼狩りと参りましょうか」
「私は中央を一直線に駆け抜けさせてもらう。多少の抵抗はあるかもしれないが、邪魔するようなら、速度は緩めずランスで貫いてあげよう。騎兵最大の持ち味だからね。一体二体程度仕留めるのは造作も無いさ」
イーディスの発言を号令代わりに戦闘が開始される。こちらの目的は住民の救出と同時に、狼歪虚の殲滅となる。
まずはユリシウスが、天に向けてライフルを数発撃った。
「音に敏感とのことですし、これで少しでもこちらに注意が向けばいいのですが」
ユリシウスの思惑通りに、先頭の三匹を除いた狼歪虚がハンターの方へ注意を向けた。これで村長宅を守る自警団へ、一斉に突撃される危険性が低下した。
「これは個人的に思う事だが、いろんなハンター、まぁ覚醒者の戦い方を見といたら、今後何かの役に立つんじゃねーか? 間近で一緒に突撃とか、なかなかねー経験だと思うけどな」
レイルにひと言だけ残してから、旭がこちらを向いた狼歪虚の一匹目掛けて突撃する。
旭の背後では、アクセルが先頭の狼歪虚へホーリーライトを命中させる。
「此処からは、俺達が相手です!」
少なくないダメージを、狙った狼歪虚へ与えると同時に、敵の注意を自分に向けさせた。
移動力に優れる旭は、他の仲間が一直線に狼歪虚との距離を詰める中、村長宅へのルートを塞ぐようにしている一匹を早速狙った。
「お前、空は好きか? 鳥になりたいと思ったことは? ……そりゃよかったな」
人間の言葉を理解できず、敵意の視線を向けてくる狼歪虚を吼え猛る爆炎風で吹き飛ばす。
直撃させたあとはすぐに前を向く。その場を旭が通り過ぎると同時に、空を舞っていた狼歪虚が消滅する。
ここで狼歪虚が、一気に距離を詰めてきたハンターたちへ攻撃を仕掛けてくる。
一匹の狼歪虚の牙が、アクセルの急所に命中する。苦悶の表情を浮かべながらも、アクセルはすぐに狼歪虚を引き離す。
旭は向かってくる狼歪虚の攻撃を回避し、イーディスは胴に一撃を受けるも軽く笑みを浮かべた。
「リアルブルーの装甲技術を活かしたグラズヘイムシュヴァリエ謹製の鎧だよ。牙と爪程度じゃ、ちょっと削れるくらいの被害さ」
イーディスの発言は、決して大げさではなかった。実際に狼歪虚の攻撃を受けた鎧は、肉体へダメージを通す前に弾き返していた。
補修を必要としない、被害とも呼べないほどの影響しか与えられなかった。悔しげに唸る狼歪虚の睨みを、イーディスは涼しげに受け流す。
「突撃班が敵陣を貫いて、家を攻める雑魔を叩くので、自分はその突破をフォローする」
強烈な一撃で、バルバロスが狼歪虚の一匹を真っ二つにする。
他の狼歪虚がわずかに怯んだ隙に、上手く回り込んだアクセルが村を背にして敵を押し返そうとする。
「そう易々と抜かしはしませんよ! 皆さん、今です!」
アクセルの発言を受けて、まずはユリシウスが村を狙う狼歪虚を牽制すべく銃撃を仕掛ける。
「頼りにしていますわね、セレッサ。我が足となり、存分に戦場を駆けて頂戴な」
愛馬に声をかけ、住民と自警団が被害にあわないよう全力を尽くす。
突撃を試みるイーディスも同じだった。
「さあ、エクレール。稲妻のごとき突撃で敵を圧倒しよう。狼程度に遅れを取るわけがないからね」
イーディスの攻撃を受けて瀕死となった狼歪虚も含めて、旭が吹き荒れる塵旋風で周囲の敵を一掃する。
村長宅を狙う敵は片づけたが、残してきた狼歪虚が援護班として戦闘に参加中のレイルを狙おうとする。
剣を構えるレイルの前に、スッと立ち塞がったのが雪だった。
「一応、側で、護衛する、です。あんま、期待しねーで、危なくなった時の身代わりくらいに、思っといて欲しい、です」
狙いを定めて射撃を行うも、上手く命中させられない。
それでも一応の牽制にはなり、敵の隙を作り出すのに成功する。
生まれたチャンスを、バルバロスが見逃さない。
「適度に間合いをはずして、範囲攻撃を避けるような配置が悩ましいが……一匹ずつ砕いていくとしよう」
レイルに向かっていた一匹を仕留め、他の狼歪虚を殺気のこもった睨みで威嚇する。
「光よ、癒しの加護を!」
アクセルが村長宅を守りながら、ヒールで戦闘中に負った傷を回復させる。
「簡単な応急手当ならできます。怪我をしている人がいたら、手を上げてください」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます!」
自警団のひとりの返事に、アクセルは安堵したように頷いた。
同じく無事だという言葉を聞いた旭は、残っている狼歪虚を標的にする。
「村の側は片付いた! んじゃ、高笑いで突撃と行くか! 哀れな烏合の衆を食い散らかすとしようぜ!」
高らかに声を響かせて、狼歪虚たちを仕留めにかかる。
「後続の支援班と挟み撃ちといこうか。1匹でも残すと後々禍根が残るからね。全滅させる他ないさ」
旭に呼応したイーディスも、騎兵らしい突撃で狼歪虚にダメージを与えていく。
ここぞとばかりにバルバロスは暴れまくり、ユリシウスも狙い澄ました射撃を狼歪虚へ行う。
回復を終えたアクセルもホーリーライトを放ち、狼歪虚の足を止める。
「情け容赦は一切いたしません。撃ち抜いて差し上げますわ……!」
攻撃された狼歪虚たちは怒り狂い、追い詰めていた自警団のことも忘れて、ひたすらハンターへ挑みかかる。
村長宅の安全をほぼ確保できたのもあり、ハンターたちは狼歪虚の殲滅にだけ集中すればいい状況になっていた。
いかに歪虚とはいえ所詮は雑魔。連携して戦うハンターの敵ではなかった。
レイルは援護するのも忘れて、果敢なハンターたちの戦いぶりに見惚れていた。
「よもや、これほどまでとは……複数の狼歪虚が、ほとんど敵になっていないではないか」
援軍が不要な状況だけに、軽くない傷を負っている雪も決して無理はしない。
「後は隅っこで大人しくしてる、です。うー、あー、今度からは仕事梯子んなるときゃ、気を付ける、です」
強引に突っ込んでいって足手まといにはなりたくないので、レイルも雪同様に自分の身を守るのに集中する。
エイミングを使ったユリシウスの銃撃が狼歪虚を貫く。また一匹が倒れ、敵が大勢いた際の嫌な雰囲気が薄れる。
いつしか村長宅の窓から子供がハンターの戦いぶりを眺めるようになり、大きな歓声を上げ出した。
自警団の若者が家の中でじっとしてろと注意されて謝るも、好奇心旺盛な子供たちはハンターの活躍に瞳を輝かせる。
愛馬のシーザーに跨った旭は戦場となった集落を縦横無尽に駆け、着実に狼歪虚を絶命させていく。
程なくして狼歪虚は退治され、襲われた小さな集落は全滅の脅威から逃れられたのだった。
●
「ありがとうございますっ!」
戦闘終了後、家の中に招かれたレイルとハンターたちは、集落の長である老齢の男性から何度も頭を下げられた。
「皆様方が来てくださらなかったら、この集落は無残にも狼たちに蹂躙されておったところです」
「私は領主の代行としての役目を果たしたまでだ。それに、礼ならばこの者たちに言ってくれ。私ひとりではどうにもならなかった」
レイルは笑顔でハンターたちを紹介した。
英雄を出迎えるように子供たちがはしゃぎ、これまでの依頼の話などを聞きたがった。
もてなしを受けて村長宅を後にする頃には、周囲はすっかり暗くなっていた。
ずいぶんと長居してしまったのを謝罪し、レイルは見事に依頼を達成してくれたハンターたちと共に帰路へつく。
「やはり私は間違っていなかった」
道中でレイルがポツリと言った。
「父上の命に従って集落を見捨てていれば、あの者たちの笑顔は見られなかった。理想論と笑われるかもしれぬが、やはり私にとって領地とは民なのだ」
言ってからレイルは、ハンターひとりひとりの顔を見た。
「選択が間違っていなかったと実感できるのも、君たちが私の依頼に応じてくれたからだ。改めてお礼を言わせてくれ」
晴れ晴れとした顔のレイルに、各ハンターが微笑みで応じる。
小さな集落を助けると同時に、ハンターたちは次期領主となるレイルが己の道を歩む手助けをしてあげたのかもしれない。
急な依頼にもかかわらず、応じてくれたハンターたちと、レイルが小さな集落へ急行する。
「領主様のご子息御自らが、護衛なしで歪虚討伐に赴くのですか……? いえ、少し驚いてしまいまして。わたくしの周りには危険な場に出向くより、安全な場所で損得勘定をすることを好む貴族の方々が多かったのです」
すでに自己紹介は済ませている。率直な疑問をぶつけたのは、レイルと同じ王国貴族の娘のユリシウス(ka5002)だった。
苦笑するレイルの代わりというわけではないが、次に口を開いたのは元グラズヘイム王国騎士団所属の従騎士でもあったイーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
「税を取り立てる以上、何もしなければ野党と何ら変わりはないからね。ただ、今後は戦力が足りないなら事前に雇うなりするべきだと思うよ。税は民を守る為に暮らしを向上させる為に使うものだからね。税は貴族の為の金じゃない、キミならそれくらいは分かると思うからコレ以上は蛇足かな」
耳が痛いなとレイルは再び苦笑した。実際にそのとおりだったからだ。それでもなんとかしたくて、ハンターに依頼を出した。おかげで住民の救出には向かえている。
領主の息子ではあっても、現状は何の力もない。襲われた小さな集落を救うためには、同行してくれているハンターたちの力が必要不可欠だった。
「何となく状況は聞いたが、やるじゃんか。そーゆー、頭のまわるやつが味方ってのはありがてーことだし、俺としても好きだぜ。なら、こんな状況、成功させるしかねーよなぁ」
気合を入れる岩井崎 旭(ka0234)とは対照的に、顔色が悪いのは八城雪(ka0146)だ。
「帰ったら、体調管理が出来てねえって、また怒られる、です。せめてお荷物にはならねぇ様に、気ぃ付ける、です」
「……何はともあれ、諸君らの協力には感謝する」
そう言ったレイルに、アクセル・ランパード(ka0448)が近づいてくる。
「何かあるといけないと思い、前線には出ずに、後詰めに回っていましたが正解でしたね。後詰めが居るからこそ、前線は憂いなく戦えるというものです」
レイルが頷いてる間にも、目的地の小さな集落が目前に迫った。バルバロス(ka2119)が「着いたぞ」と声を上げる。
全員で集落に入り、まずは内部の状況を確認する。
急行して日が高いうちにやってきたにもかかわらず、かなりの窮地になっているのが遠目からでもわかった。
村の一番奥の大きな家を、まだ戦える三人の若い男性が必死に守っている。恐らくは、彼らが自警団なのだろう。
家の中からは悲鳴や子供の泣き声が聞こえる。誰かが大丈夫だと励ます。一刻の猶予もないのは明らかだった。
絶望的な現状に憔悴しきっていた自警団の面々が、狼の背後に登場したレイルとハンターたちの姿を視界に捉えた。
「あ、あれは……おい、皆っ! 助けが来たぞ!」
一瞬の間のあと、家の中から歓声が上がった。遠く離れたレイルやハンターの耳に届いてくるほど、大きなものだった。
「聞こえるか、自警団の諸君! 私はレイル。領主の息子であり、現在遠征中の留守を任されている者だ。助けてほしいという願いは確かに受け取った。安心してくれていい!」
レイルの声が届いたらしく、自警団の若者が安堵するそぶりを見せた。
「ありがとうございます! 住民は我等が守っている村長の家に避難済みです。逃げ遅れてる者はおりませんっ!」
なるほど、とレイルは頷いた。逃げ遅れてる住民がいないのであれば、あとは自警団の男性や村長宅を襲おうとしている狼を何とかするだけだ。
じっくり狼を見てみるも、やはり普通のとは違う。もしかしなくとも、歪虚なのは間違いない。
「ハンターの諸君に依頼をして正解だったな。非覚醒者が多いラスリド領の私兵団では、迅速に住民を救出するのは難しかったかもしれぬ」
そう言ってレイルは、改めてハンターひとりひとりを見て、よろしく頼むと頭を下げた。
任せろとばかりに承諾したハンターたちは手短に作戦を練る。
援護班がフォローする間に、突破班が敵陣を抜けて村長宅へ到達。以降は自警団も含めて守りながら敵に対処するというものだった。
ハンターに提案された作戦を承諾したレイルは、自らの意思で援護班に入ると告げた。非覚醒者である自分が、突撃班を希望しても足を引っ張るだけだと判断した。
重体の雪は、レイルの近くで無理をしないことになった。
「ごめん、です。でも、出来るだけの事はする、です」
「よし。では一刻も早く、住民を狼歪虚たちから救おう!」
胸の位置で拳を握り締めるレイルの肩に、旭が軽く手を置いた。
「気負うのもいいけど、あんたは依頼主だ。厳しいところは任せる気でいてくれていいぜ」
「そうだな。気負いすぎて、冷静さを欠いたりしたら意味がない」
頷いたレイルに、そうだと旭が笑いかける。
落ち着きを取り戻したレイルは、改めて集落の救出をハンターにお願いした。
「……狼雑魔程度では正直物足りぬが、これも仕事よ」
バルバロスが筋肉に包まれた太い両腕で、ギガースアックスを構えた。
「俺もいずれは領地を引き継ぐ身です。次期領主として、そして1人のエクラ教徒としてその考え、共感します。村に被害が出ない内に終わらせてしまいましょう」
言ったのは、グラズヘイム王国の地方領主の息子でもあるアクセルだった。
援護班に所属するユリシウスが、レイルの近くでライフルの準備を終える。
「小さな集落でも助けに向かう、レイル様の心意気に感服いたしますわ。……わたくしも、館で安穏に過ごすより戦場で引き金を引く方が性に合っていますし。さて、狼狩りと参りましょうか」
「私は中央を一直線に駆け抜けさせてもらう。多少の抵抗はあるかもしれないが、邪魔するようなら、速度は緩めずランスで貫いてあげよう。騎兵最大の持ち味だからね。一体二体程度仕留めるのは造作も無いさ」
イーディスの発言を号令代わりに戦闘が開始される。こちらの目的は住民の救出と同時に、狼歪虚の殲滅となる。
まずはユリシウスが、天に向けてライフルを数発撃った。
「音に敏感とのことですし、これで少しでもこちらに注意が向けばいいのですが」
ユリシウスの思惑通りに、先頭の三匹を除いた狼歪虚がハンターの方へ注意を向けた。これで村長宅を守る自警団へ、一斉に突撃される危険性が低下した。
「これは個人的に思う事だが、いろんなハンター、まぁ覚醒者の戦い方を見といたら、今後何かの役に立つんじゃねーか? 間近で一緒に突撃とか、なかなかねー経験だと思うけどな」
レイルにひと言だけ残してから、旭がこちらを向いた狼歪虚の一匹目掛けて突撃する。
旭の背後では、アクセルが先頭の狼歪虚へホーリーライトを命中させる。
「此処からは、俺達が相手です!」
少なくないダメージを、狙った狼歪虚へ与えると同時に、敵の注意を自分に向けさせた。
移動力に優れる旭は、他の仲間が一直線に狼歪虚との距離を詰める中、村長宅へのルートを塞ぐようにしている一匹を早速狙った。
「お前、空は好きか? 鳥になりたいと思ったことは? ……そりゃよかったな」
人間の言葉を理解できず、敵意の視線を向けてくる狼歪虚を吼え猛る爆炎風で吹き飛ばす。
直撃させたあとはすぐに前を向く。その場を旭が通り過ぎると同時に、空を舞っていた狼歪虚が消滅する。
ここで狼歪虚が、一気に距離を詰めてきたハンターたちへ攻撃を仕掛けてくる。
一匹の狼歪虚の牙が、アクセルの急所に命中する。苦悶の表情を浮かべながらも、アクセルはすぐに狼歪虚を引き離す。
旭は向かってくる狼歪虚の攻撃を回避し、イーディスは胴に一撃を受けるも軽く笑みを浮かべた。
「リアルブルーの装甲技術を活かしたグラズヘイムシュヴァリエ謹製の鎧だよ。牙と爪程度じゃ、ちょっと削れるくらいの被害さ」
イーディスの発言は、決して大げさではなかった。実際に狼歪虚の攻撃を受けた鎧は、肉体へダメージを通す前に弾き返していた。
補修を必要としない、被害とも呼べないほどの影響しか与えられなかった。悔しげに唸る狼歪虚の睨みを、イーディスは涼しげに受け流す。
「突撃班が敵陣を貫いて、家を攻める雑魔を叩くので、自分はその突破をフォローする」
強烈な一撃で、バルバロスが狼歪虚の一匹を真っ二つにする。
他の狼歪虚がわずかに怯んだ隙に、上手く回り込んだアクセルが村を背にして敵を押し返そうとする。
「そう易々と抜かしはしませんよ! 皆さん、今です!」
アクセルの発言を受けて、まずはユリシウスが村を狙う狼歪虚を牽制すべく銃撃を仕掛ける。
「頼りにしていますわね、セレッサ。我が足となり、存分に戦場を駆けて頂戴な」
愛馬に声をかけ、住民と自警団が被害にあわないよう全力を尽くす。
突撃を試みるイーディスも同じだった。
「さあ、エクレール。稲妻のごとき突撃で敵を圧倒しよう。狼程度に遅れを取るわけがないからね」
イーディスの攻撃を受けて瀕死となった狼歪虚も含めて、旭が吹き荒れる塵旋風で周囲の敵を一掃する。
村長宅を狙う敵は片づけたが、残してきた狼歪虚が援護班として戦闘に参加中のレイルを狙おうとする。
剣を構えるレイルの前に、スッと立ち塞がったのが雪だった。
「一応、側で、護衛する、です。あんま、期待しねーで、危なくなった時の身代わりくらいに、思っといて欲しい、です」
狙いを定めて射撃を行うも、上手く命中させられない。
それでも一応の牽制にはなり、敵の隙を作り出すのに成功する。
生まれたチャンスを、バルバロスが見逃さない。
「適度に間合いをはずして、範囲攻撃を避けるような配置が悩ましいが……一匹ずつ砕いていくとしよう」
レイルに向かっていた一匹を仕留め、他の狼歪虚を殺気のこもった睨みで威嚇する。
「光よ、癒しの加護を!」
アクセルが村長宅を守りながら、ヒールで戦闘中に負った傷を回復させる。
「簡単な応急手当ならできます。怪我をしている人がいたら、手を上げてください」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます!」
自警団のひとりの返事に、アクセルは安堵したように頷いた。
同じく無事だという言葉を聞いた旭は、残っている狼歪虚を標的にする。
「村の側は片付いた! んじゃ、高笑いで突撃と行くか! 哀れな烏合の衆を食い散らかすとしようぜ!」
高らかに声を響かせて、狼歪虚たちを仕留めにかかる。
「後続の支援班と挟み撃ちといこうか。1匹でも残すと後々禍根が残るからね。全滅させる他ないさ」
旭に呼応したイーディスも、騎兵らしい突撃で狼歪虚にダメージを与えていく。
ここぞとばかりにバルバロスは暴れまくり、ユリシウスも狙い澄ました射撃を狼歪虚へ行う。
回復を終えたアクセルもホーリーライトを放ち、狼歪虚の足を止める。
「情け容赦は一切いたしません。撃ち抜いて差し上げますわ……!」
攻撃された狼歪虚たちは怒り狂い、追い詰めていた自警団のことも忘れて、ひたすらハンターへ挑みかかる。
村長宅の安全をほぼ確保できたのもあり、ハンターたちは狼歪虚の殲滅にだけ集中すればいい状況になっていた。
いかに歪虚とはいえ所詮は雑魔。連携して戦うハンターの敵ではなかった。
レイルは援護するのも忘れて、果敢なハンターたちの戦いぶりに見惚れていた。
「よもや、これほどまでとは……複数の狼歪虚が、ほとんど敵になっていないではないか」
援軍が不要な状況だけに、軽くない傷を負っている雪も決して無理はしない。
「後は隅っこで大人しくしてる、です。うー、あー、今度からは仕事梯子んなるときゃ、気を付ける、です」
強引に突っ込んでいって足手まといにはなりたくないので、レイルも雪同様に自分の身を守るのに集中する。
エイミングを使ったユリシウスの銃撃が狼歪虚を貫く。また一匹が倒れ、敵が大勢いた際の嫌な雰囲気が薄れる。
いつしか村長宅の窓から子供がハンターの戦いぶりを眺めるようになり、大きな歓声を上げ出した。
自警団の若者が家の中でじっとしてろと注意されて謝るも、好奇心旺盛な子供たちはハンターの活躍に瞳を輝かせる。
愛馬のシーザーに跨った旭は戦場となった集落を縦横無尽に駆け、着実に狼歪虚を絶命させていく。
程なくして狼歪虚は退治され、襲われた小さな集落は全滅の脅威から逃れられたのだった。
●
「ありがとうございますっ!」
戦闘終了後、家の中に招かれたレイルとハンターたちは、集落の長である老齢の男性から何度も頭を下げられた。
「皆様方が来てくださらなかったら、この集落は無残にも狼たちに蹂躙されておったところです」
「私は領主の代行としての役目を果たしたまでだ。それに、礼ならばこの者たちに言ってくれ。私ひとりではどうにもならなかった」
レイルは笑顔でハンターたちを紹介した。
英雄を出迎えるように子供たちがはしゃぎ、これまでの依頼の話などを聞きたがった。
もてなしを受けて村長宅を後にする頃には、周囲はすっかり暗くなっていた。
ずいぶんと長居してしまったのを謝罪し、レイルは見事に依頼を達成してくれたハンターたちと共に帰路へつく。
「やはり私は間違っていなかった」
道中でレイルがポツリと言った。
「父上の命に従って集落を見捨てていれば、あの者たちの笑顔は見られなかった。理想論と笑われるかもしれぬが、やはり私にとって領地とは民なのだ」
言ってからレイルは、ハンターひとりひとりの顔を見た。
「選択が間違っていなかったと実感できるのも、君たちが私の依頼に応じてくれたからだ。改めてお礼を言わせてくれ」
晴れ晴れとした顔のレイルに、各ハンターが微笑みで応じる。
小さな集落を助けると同時に、ハンターたちは次期領主となるレイルが己の道を歩む手助けをしてあげたのかもしれない。
依頼結果
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作戦、です。 八城雪(ka0146) 人間(リアルブルー)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/09/23 22:27:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/21 03:24:45 |