ゲスト
(ka0000)
【深棲】海辺のハイカラ人魚姫
マスター:STANZA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/26 19:00
- 完成日
- 2014/08/06 18:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
むかしむかし……ではありません。
ついこの間、一週間くらい前のことです。
自由都市同盟の華、ヴァリオスの海辺に人魚の姿がありました。
人魚というのは童話に出て来る半人半魚、人間の上半身に魚の下半身を持った生き物の事です。
まだ若い少女の人魚は、時々こうして海の底から上がって来ては、岩の陰から人間達の様子を眺める事を楽しみにしていました。
その日。
海に突き出た岩の上に、とても綺麗な赤いドレスが落ちていました。
本当は、それは落とし物ではありません。
ヴァリオスのお金持ちのお嬢さんが、海で遊ぶ間にそこに置いていただけなのです。
けれども、人魚の少女にそんな事はわかりません。
良い拾い物をしたと考えた少女は、赤いドレスを持って海の底へ帰って行きました。
海の底、人魚達が暮らす集落。
赤いドレスを身に纏った人魚の少女は、嬉しそうに楽しそうに、ドレスの裾を翻しながら泳いでいます。
それはまるで、ひらひらの尾鰭をなびかせて泳ぐという金魚の様でした。
けれども、服というものを身に着ける習慣のない他の人魚達にとって、その姿はとても奇妙なものに映りました。
ですから、少女は皆から隠れてこっそりと、一人でファッションショーを楽しんでいました。
「でも、一枚だけじゃ足りないわ。人間の女の子はもっと色々な服を着てるもの」
少女はそれからも、毎日の様にヴァリオスの海岸に通いました。
そして、岩の上に捨ててある綺麗なドレスを拾っては海の底に持ち帰っていたのです。
でも、ある日のこと。
少女の秘密の楽しみを知ったお兄さんが言いました。
「それは落ちていた物ではないぞ」
お兄さんは少女よりも人間達の事に詳しいのです。
それに、彼等の言葉も少しは話す事が出来ました。
「俺も一緒に行ってやるから、あの人達に服を返して謝ろう」
少女はお兄さんが大好きでした。
だから、その言う事にも素直に従ったのです。
二人は一緒に、ドレスを返しに行くことにしました。
ところが。
「出やがったな、泥棒人魚ども!」
そこには怒った人間達が待ち構えていたのです。
「今日という今日は、絶対に許さん!」
『マツ、ゴメンスル。カエス』
お兄さんが言いましたが、片言のそれは興奮した人間達の耳には届きませんでした。
それどころか、お兄さんが取り出したドレスを見て、ますます怒り出したのです。
「ああっ、それは!」
「やっぱり人魚の仕業だったのか!」
「海水に浸って、しかもボロボロに破れてるじゃないか!」
きっと、ファッションショーを楽しむうちに、海底の岩やサンゴに引っかけてしまったのでしょう。
お兄さんは必死に事情を説明して謝ろうとしましたが、人間達は聞く耳を持ちません。
その時です。
「おい、沖の方から何か来るぞ!」
誰かが叫びました。
そちらに目をやると、見た事もない奇妙で恐ろしげな生き物が近付いて来ます。
それは小型のサメにピラニアの頭をくっつけた様な姿をしていました。
大きさは人魚の半分くらいですが、そのギザギザな歯が生えた口で噛み付かれれば、腕の一本くらい簡単にもぎ取られてしまいそうです。
「あれは歪虚じゃないのか!?」
「人魚どもが連れて来たんだ、そうに違いない!」
「ハンターオフィスに連絡しろ、こいつらと纏めて退治して貰うんだ!」
人間達には、迫り来る歪虚から必死に逃げようとする人魚の兄妹の姿は目に入りませんでした。
見えたとしても、自分で呼んだものに襲われるなら自業自得だと思ったことでしょう。
でも、違うのです。
歪虚はたまたま、その海岸に現れただけでした。
人魚の兄妹は何も悪い事をしていないのです——ドレスを盗んだ事の他は。
それだって今、謝ろうとしていたのでした。
————
その直後。
ハンターオフィスに連絡が入った。
「緊急事態だ、ヴァリオスの海岸で海水浴客が歪虚に襲われているらしい!」
敵はサメにピラニアの頭を付けた様な姿をしたものが10匹程度という。
今のところ陸には上がらず、波打ち際の浅瀬を泳ぎ回っているらしい。
他に何匹か、人魚を追い回しているものもいる様だが、こちらに関しての救助要請は来ていない。
それどころか、一緒に退治しても構わないという。
「それにしても、変だな。あの辺りの海に歪虚が出るなんて、聞いた事もないぞ……」
これは何かの前触れなのだろうか。
リプレイ本文
急ぎ現場に到着したハンター達は、砂浜で歪虚を迎え撃つ。
目的は歪虚の殲滅、及び人魚の討伐――ではなかった。
「丸腰で逃げまわっている相手を攻撃する趣味はないんでな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)が言う様に、人魚達はどう見ても被害者だ。
「楽しい楽しい歪虚殲滅依頼ィ……とだきゃァいかねーわけか、メンドくせェなァ」
サンカ・アルフヴァーク(ka0720)は岩場の方に向けた目を、砂浜の奥で遠巻きに見守る依頼人達に戻す。
「大体なんだ、歪虚から逃げてる輩を殺せっつーのは、つまりアレに与しろって遠回しなお誘い? ハンター舐めてンの?」
それに、依頼されたのは歪虚の殲滅だ。
ついでに、なんて軽いノリで仕事を増やされてもね。
「やンなら別件でキチンと窓口通しやがれ、金持ってンだろーが」
まあ、そんな依頼は誰も受けないだろうが。
「で、御人好しが多いらしい今回の同行者に協力するにゃァ吝かじゃァない。つまりそーいうこった」
けらけらと笑い、サンカは波打ち際に足を踏み入れた。
「メンドくせェが……まァいいや。いつも通りオレはオレのやるべきこととやりたいことをやるだけってね」
「さて……これはまた、どやされるな」
それに続いた朱殷(ka1359)の足を波が洗う。
生身ではない片足の手入れを思い苦笑いを浮かべるが、仕事の為なら致し方ない。
「どぉれ、歪虚釣りをやってやるか」
対崎 紋次郎(ka1892)はその少し後ろで水中用の弾倉をセットした銃の狙いを付けた。
「男衆、一人頭2体以上がノルマになりそうだ……やるぞ」
浅瀬に見え隠れする一体の背に狙いを付け、撃つ。
派手な水飛沫が上がり、異様な姿の大魚が水面に跳ねた。
待ち構えていたサンカが、十文字槍で銛の様にそれを貫く。
「男祭りじゃ、行くぜェ!」
一方、女性達は岩場に急いでいた。
「人魚はともかく、海辺を荒らす輩を見過ごすわけにはいかないでシュね。シュマ、やる気でシュよー」
やる気と言いつつその欠片も感じない棒読みで呟いたシュマ・グラシア(ka1907)は、岩場を身軽に渡って行く。
「武装した人間見たら怖がりそうだし、ゆっくり慎重にね」
「わかってるでシュよ」
後に続く守原 由有(ka2577)の言葉にそう答え、シュマは飛沫を受けて立つ大きな岩を指差した。
このルートなら、近付く彼等の姿は人魚達からは見えないだろう。
波打ち際まで進んだ四人は、岩陰に身を隠して人魚達の様子をそっと伺った。
「どう見ても、危険な連中とは思えないよな?」
「魅惑のお尻にどっきんずっきん、でシュ」
ルリ・エンフィールド(ka1680)の言葉に、謎の言葉を返すシュマ。
「やっぱり、あの人魚達は危険な種族じゃないわ」
確信を持った由有は、オフィスの職員から聞いた話を皆に伝えた。
人の物を盗んだというのが本当なら、相応の償いは必要だろう。
だが窃盗の報いが死というのは、どう考えても行き過ぎだ。
「人魚と紛争起こす気かしら……」
万が一、それが現実になれば、彼等を殺めた実行犯として自分達がスケープゴートにされかねない。
「まずは彼等を保護して、両方から事情を聞くのが先よね」
「もし人魚達に後ろから襲われそうになったら、援護頼むな」
そう言い置いて、ルリは海に飛び込んだ。
「おーい! 助けに来たぞー! こっちに来ーい!」
泳ぎながら叫ぶ。
人魚達は驚いてそちらを見たが、敵か味方か判断を決めかねている様子だ。
「あたし達は味方だ!」
岩の上に立って、武器を置いた由有が両手を振る。
それでどうやら通じたらしく、人魚達は岸に向かって泳ぎ始めた。
だがその注意が救助者達に向けられ、泳ぐスピードが僅かに落ちた瞬間。
一匹の歪虚が追い付き、その大きな口で人魚達に襲いかかる。
しかし、その口に呑み込まれたのは、一直線に飛んで来た輝く光の弾だった。
泳ぎながらホーリーライトを放ったルカ(ka0962)は、ルリと共にそのまま歪虚の前に留まり人魚達に避難を促す。
「早く、岸へ……」
「ここはボク達が食い止めるぜ!」
一旦海中に潜った歪虚は水中で二人の背後に回り込み、反撃を加えようとする。
が、今度は水中を追いかけて来たシュマのファイアアローが飛んだ。
スキューバ講習は受けていないが、覚醒者なら大抵の事は一発勝負で何とかなる。
怯んだ所にルリがグレートソードを叩き込み、ルカが再びのホーリーライト。
動きを止めた歪虚は波間にぷかりと浮かんだ。
歪虚と化してから時間が経てば、雑魔の身体は死と共に消滅する筈だが、これはまだ影響を受けてから日が浅い様だ。
一方、由有はその間に人魚達とは反対の方向に向かった。
「人魚達が凌げたのは地の利もありそうね」
岩に挟まれた狭い場所に行き、指を噛んで流れ出た血を海に流してみる。
波に乗って運ばれた血の匂いは、残る二匹を由有が待ち受ける場所へと誘い込んだ。
ルカとルリ、そしてシュマは、泳いでその後を追う。
罠にかかった歪虚達は、そこに血を流した獲物の姿がない事を知ると、再び向きを変えて人魚達の方へ向かおうとした。
が、沖への出口に突如立ち上がった大きな水柱が、その行く手を阻む。
「ここは通さないよ」
岩の上には水中拳銃を構えた由有の姿があった。
水面に向かって再び機導砲が放たれ、その衝撃で起きた波が歪虚達を狭い通路の奥へ押し戻す。
奥では、追い付いて来た三人がそれを待ち構えていた。
「今よ、合せて!」
由有が機導砲で海水ごと歪虚を打ち上げ、ルカのホーリーライトとシュマのファイアアローで追撃、最後に一気に踏み込んだルリが力任せにグレートソードを叩き付ける。
もう一体も同じ要領で仕留めると、岩陰に身を隠していた人魚達にここで待つ様に良い、四人は男性陣の助太刀に向かった。
「そういえば昔、歩くナマズってのを見たことがあったな」
リカルドは砂地に足を踏ん張り、右手にトンファー、左手に拳銃を構えて敵を待ち受ける。
「で、こいつは歩く鮫、ピラニアどっちだ?」
まあ、どっちでも良い。
「たまには本職らしいところも見せますか」
砂地は苦手だが、プロのヒットマンとしては場所など選んでは仕事にならない。
波間に見え隠れする歪虚に向けて、右腕を台座に拳銃を撃つ。
狙われた一体は大きく跳ね上がると、リカルドの目の前に派手な見飛沫を上げて着地、そのまま鰭で砂の上を這い進んで来た。
「後で分解整備しないとな」
機械の右腕に海水がかかるが、リカルドは構わず一気に踏み込んで接近。
砂に足を取られて思う様に力を乗せられないが、手首のスナップを効かせてトンファーを回転させる事でそれをカバーしつつ、横合いから殴り付ける。
相手がバランスを崩した所で銃口を密着させて引き金を引くと、バックステップで跳び離れた。
「仕事としちゃこんなもんか」
こんな時こそ基本に忠実に。
適当に弱らせたら、後は味方に任せれば良い。
まだ動くそれに止めを刺したのは紋次郎だった。
「人魚までも存在しているとはな……が、どんな状況だろうと、歪虚は滅ぼす」
至近距離から水中銃で確実に頭を撃ち抜くと、次にその銃口を浅瀬を泳ぐものに向ける。
波間に紛れて見えにくいのと泳ぐスピードが速いせいで、なかなか思った様には当たらないが、脇を掠めただけでも挑発にはなった様で、何体かが陸へ上がって来た。
「後は頼む」
「っしゃ任されたァッ!」
サンカは砂浜を這う歪虚の身体に十文字槍を突き立てる。
「どーするよ、焼くかい? 煮るかい? それとも刺身? この数なら全部出来そうだけどな」
「そうよな、刺身にするか、焼いて食おうか。げに、げに、楽しみよ」
それに応えて朱殷が不敵に笑い、手にした日本刀で身を削ぎ取った。
ぼとりと落ちた肉片は、余り食欲をそそる色ではなかったが。
「こいつは生で食ったら腹下すぜ?」
サンカは向かって来る歪虚に向けて一歩踏み込むと、ありったけの力を込めて十文字槍を振り下ろし、突き刺し、突き刺したまま持ち上げて後ろへ投げ飛ばす。
まるで鰹の一本釣りだ。
「ほォれ大漁ッ! まだまだ行くぜェ!」
「然れば、来やれぃ」
足元に落ちたそれを、朱殷はただひたすらに斬る。
その刃が届くものなら、真っ正面から叩き切るのみ。
喰らうのは其方か、此方か。
鬼のように笑い、龍のように振るう。
「っと、一匹イキの良いのが行ったぜ!」
ふと危険を知らせる友人の声を聞いた気がしたサンカは、その方角に注意を向けた。
朱殷も釣られる様に視線を向ければ、そこには今にも飛び掛からんとする歪虚の姿。
「食らい付くか」
死角から飛び掛かろうとする歪虚の前に、朱殷は義足を突き出す。
「ならばこれでも喰らうが良い、硬くて喰えたモノではなかろうがな」
敵が硬い足に狙いを定めたところを見極め、一気に刀で斬る。
薄く歯型は付いたが、小言は覚悟の上だ。
歪虚達はその大部分が挑発に乗ってノコノコと陸に上がって来た。
だが、中には水中から出ようとせず、岩場の方へ向かおうとするものもいる。
「向こうに行かれては困るな」
紋次郎はわざと海中に踏み込み、その腕を水に浸けた。
「さあ、喰らい付け」
朱殷の義手とは違い、噛まれれば痛いが。
「肉を食わせてブッ殺す、というやつかな」
紋次郎は食い付いて来たその身体に機導砲を撃ち込んだ。
至近距離から貫かれたそれは弾け飛び、波間に浮かぶ。
やがて人魚を救出した女性陣も加わり、海辺に押し寄せた歪虚達は全て、死骸となって砂浜に転がった。
「それで結局、其れは殺すのか殺さぬのか。何方ぞ」
朱殷の問いかけに対する仲間達の答えは決まっていた。
「ならば依頼人の説得は主らがやれ」
「勿論そのつりだぜ!」
胸を張り、ルリが答える。
事情を聞けば、人魚達にも非はあるものの、殺せというのは行き過ぎだ。
「しかも私達が殺したら彼らは汚れず、後々責められるのは私達です」
そんな依頼は受けられないと、ルカが言った。
「私は何方でも構わんのだ、どうでも良いから早う帰って酒を飲みたい」
朱殷は興味がなさそうに仲間の輪を離れると、積み重なった歪虚の死骸の前に腰を下ろす。
「こやつら、捨てるのならば私にくれ、持って帰って食えるか聞くでな」
食べられない事はない、と思うが――
だが、説得しようにも依頼人達はハンター達の言葉に耳を貸そうともしなかった。
「お前らの言ってる事、バイアスかかりまくりなんだよ」
「疑問です……争った跡も人的被害の報告も無く、歪虚から逃げていた非武装の子供の人魚さん達を殺せと言う……しかも大人が寄って集ってです」
サンカが肩を竦め、ルカが溜息を吐く。
「それに、お金持ちがドレス位で殺気立つなんて……」
「金額の問題じゃないだろう!」
「暑い中ドレスを着ている事も驚きですし、付き人が居ないのも不思議です……」
「それが我々のステータスだ。注意を怠った使用人には既に暇を出してある」
言われてみれば、彼等もこの暑いのに随分きっちりと着込んでいる。
だからこそ、こういった人目の少ない場所では開放感に浸りたくなるのだろうか――付き人の目さえ盗んで。
「この中に窃盗犯がいて、その人が先導している可能性は……」
「何だと!?」
その一言で、彼等は互いに疑心暗鬼に陥った。
誰もが隣の者に疑いの目を向け、互いの腹を探り、果ては掴み合いの喧嘩に――
パァン!
突如、大きな破裂音と共に彼等の足元で砂が弾ける。
「お? 砂が詰まって暴発しちまった」
リカルドが拳銃の台座をトントンと叩きながら首を傾げた。
「このままだとまた暴発しちまうかもな、何しろこの武器は意外に運の要素が強いから――おぉっと」
もう一発。
「次はお前らに当たるかもしれないな」
ニヤリ。
これで少しは頭も冷えただろうか。
「どっちにしろ、証拠もなく犯人扱いってどうかと思うのよね」
由有が肩を竦める。
「これで人魚達と紛争になったらどうするつもり? 事件はソサエティに報告後記録となりハンターや国防関係者等多くの人が目にするわ。この顛末が各地に広まれば――」
「証拠はあるだろう!」
人魚が手にしているボロボロのドレスが。
それを取り上げようと、一人の男が人魚達に近付いて行く。
「あれはうちの娘の物だ!」
その形相に、少女は悲鳴を上げて兄の後ろに隠れる。
「乱暴しちゃだめっ!」
その前に立ち塞がったのは、目に一杯の涙を溜めたシュマだ。
(使える武器は何でも使うのがシュマのやり方でシュよ。シュシュシュ)
その計算通り、幼気な幼女にウルウルの瞳で見つめらた男は思わずその場に立ち止まる。
そこにふらりと現れた朱殷が言った。
「のう主よ、主らはこんな、赤子の手も捻れなさそうな魚が怖いのか?」
両肩に歪虚の死骸を担ぎ、2m近い高さから見下ろす。
「ひっ!?」
「この人魚とやらが主らの言うようにほんに恐ろしい化け物ならば、今こうやって話している内に全員死んでおると思うのだが?」
「とにかく、落ち着いて話を聞けや」
立ち竦むその肩を掴んで、サンカが男を引き戻した。
話を聞いて、それでもと言うなら……後は好きにすれば良い。
「……言葉を、心を交わす。交流の無い他種族だからと安易に止めないで」
見て、聞いて、感じて、考えて。
「今の貴方は子供達に誇れる様をしていますか……?」
ルカの言葉に、彼等は気まずそうに互いに視線を交わし――
「こいつらはドレスの事を謝りに来たんだぜ?」
人魚達から聞いた話をルリが伝える。
彼等が歪虚を引き連れて来た訳ではないし、普段から仲良くしてれば、今回の異変も事前に教えて貰えたかもしれない。
金の問題ではないと言うなら、問題はきっと「得体の知れない連中が自分達の縄張りで好き勝手した」という事なのだろう。
ならば、今回の件の償いとして「人魚達のネットワークを活かして水中監視員として協力させる」というのはどうだろうか。
勝手知ったるご近所さんになってしまえば、それはもう敵ではない。
「人魚の手伝いは箔になると思うのよね」
由有が言った。
「海水浴場の再開も早まるし、人魚と触れ合える海としても有名になるだろうな」
それで納得出来ない様ならと、紋次郎が一枚のコインを取り出す。
「これで決めるか?」
大騒ぎした手前、引っ込みが付かないのもあるだろう。
誰も決められないなら、天やら運命やらに決めてもらえばいい。
表なら、こちらの提案を呑む。
(コインのどちらが表など言っていないがね……やり方借りるぞ、艦長)
かくして、運命は決まった。
「あぁ……そうだ、これをやろう」
帰り際、紋次郎は運命のコインを弾いて人魚達の手に。
「お守り代わりに持っておきな、情報料ってやつだ」
きっかけはどうあれ、これで双方の種族に縁が結ばれた。
その縁が、これからも続く事を祈って――
目的は歪虚の殲滅、及び人魚の討伐――ではなかった。
「丸腰で逃げまわっている相手を攻撃する趣味はないんでな」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)が言う様に、人魚達はどう見ても被害者だ。
「楽しい楽しい歪虚殲滅依頼ィ……とだきゃァいかねーわけか、メンドくせェなァ」
サンカ・アルフヴァーク(ka0720)は岩場の方に向けた目を、砂浜の奥で遠巻きに見守る依頼人達に戻す。
「大体なんだ、歪虚から逃げてる輩を殺せっつーのは、つまりアレに与しろって遠回しなお誘い? ハンター舐めてンの?」
それに、依頼されたのは歪虚の殲滅だ。
ついでに、なんて軽いノリで仕事を増やされてもね。
「やンなら別件でキチンと窓口通しやがれ、金持ってンだろーが」
まあ、そんな依頼は誰も受けないだろうが。
「で、御人好しが多いらしい今回の同行者に協力するにゃァ吝かじゃァない。つまりそーいうこった」
けらけらと笑い、サンカは波打ち際に足を踏み入れた。
「メンドくせェが……まァいいや。いつも通りオレはオレのやるべきこととやりたいことをやるだけってね」
「さて……これはまた、どやされるな」
それに続いた朱殷(ka1359)の足を波が洗う。
生身ではない片足の手入れを思い苦笑いを浮かべるが、仕事の為なら致し方ない。
「どぉれ、歪虚釣りをやってやるか」
対崎 紋次郎(ka1892)はその少し後ろで水中用の弾倉をセットした銃の狙いを付けた。
「男衆、一人頭2体以上がノルマになりそうだ……やるぞ」
浅瀬に見え隠れする一体の背に狙いを付け、撃つ。
派手な水飛沫が上がり、異様な姿の大魚が水面に跳ねた。
待ち構えていたサンカが、十文字槍で銛の様にそれを貫く。
「男祭りじゃ、行くぜェ!」
一方、女性達は岩場に急いでいた。
「人魚はともかく、海辺を荒らす輩を見過ごすわけにはいかないでシュね。シュマ、やる気でシュよー」
やる気と言いつつその欠片も感じない棒読みで呟いたシュマ・グラシア(ka1907)は、岩場を身軽に渡って行く。
「武装した人間見たら怖がりそうだし、ゆっくり慎重にね」
「わかってるでシュよ」
後に続く守原 由有(ka2577)の言葉にそう答え、シュマは飛沫を受けて立つ大きな岩を指差した。
このルートなら、近付く彼等の姿は人魚達からは見えないだろう。
波打ち際まで進んだ四人は、岩陰に身を隠して人魚達の様子をそっと伺った。
「どう見ても、危険な連中とは思えないよな?」
「魅惑のお尻にどっきんずっきん、でシュ」
ルリ・エンフィールド(ka1680)の言葉に、謎の言葉を返すシュマ。
「やっぱり、あの人魚達は危険な種族じゃないわ」
確信を持った由有は、オフィスの職員から聞いた話を皆に伝えた。
人の物を盗んだというのが本当なら、相応の償いは必要だろう。
だが窃盗の報いが死というのは、どう考えても行き過ぎだ。
「人魚と紛争起こす気かしら……」
万が一、それが現実になれば、彼等を殺めた実行犯として自分達がスケープゴートにされかねない。
「まずは彼等を保護して、両方から事情を聞くのが先よね」
「もし人魚達に後ろから襲われそうになったら、援護頼むな」
そう言い置いて、ルリは海に飛び込んだ。
「おーい! 助けに来たぞー! こっちに来ーい!」
泳ぎながら叫ぶ。
人魚達は驚いてそちらを見たが、敵か味方か判断を決めかねている様子だ。
「あたし達は味方だ!」
岩の上に立って、武器を置いた由有が両手を振る。
それでどうやら通じたらしく、人魚達は岸に向かって泳ぎ始めた。
だがその注意が救助者達に向けられ、泳ぐスピードが僅かに落ちた瞬間。
一匹の歪虚が追い付き、その大きな口で人魚達に襲いかかる。
しかし、その口に呑み込まれたのは、一直線に飛んで来た輝く光の弾だった。
泳ぎながらホーリーライトを放ったルカ(ka0962)は、ルリと共にそのまま歪虚の前に留まり人魚達に避難を促す。
「早く、岸へ……」
「ここはボク達が食い止めるぜ!」
一旦海中に潜った歪虚は水中で二人の背後に回り込み、反撃を加えようとする。
が、今度は水中を追いかけて来たシュマのファイアアローが飛んだ。
スキューバ講習は受けていないが、覚醒者なら大抵の事は一発勝負で何とかなる。
怯んだ所にルリがグレートソードを叩き込み、ルカが再びのホーリーライト。
動きを止めた歪虚は波間にぷかりと浮かんだ。
歪虚と化してから時間が経てば、雑魔の身体は死と共に消滅する筈だが、これはまだ影響を受けてから日が浅い様だ。
一方、由有はその間に人魚達とは反対の方向に向かった。
「人魚達が凌げたのは地の利もありそうね」
岩に挟まれた狭い場所に行き、指を噛んで流れ出た血を海に流してみる。
波に乗って運ばれた血の匂いは、残る二匹を由有が待ち受ける場所へと誘い込んだ。
ルカとルリ、そしてシュマは、泳いでその後を追う。
罠にかかった歪虚達は、そこに血を流した獲物の姿がない事を知ると、再び向きを変えて人魚達の方へ向かおうとした。
が、沖への出口に突如立ち上がった大きな水柱が、その行く手を阻む。
「ここは通さないよ」
岩の上には水中拳銃を構えた由有の姿があった。
水面に向かって再び機導砲が放たれ、その衝撃で起きた波が歪虚達を狭い通路の奥へ押し戻す。
奥では、追い付いて来た三人がそれを待ち構えていた。
「今よ、合せて!」
由有が機導砲で海水ごと歪虚を打ち上げ、ルカのホーリーライトとシュマのファイアアローで追撃、最後に一気に踏み込んだルリが力任せにグレートソードを叩き付ける。
もう一体も同じ要領で仕留めると、岩陰に身を隠していた人魚達にここで待つ様に良い、四人は男性陣の助太刀に向かった。
「そういえば昔、歩くナマズってのを見たことがあったな」
リカルドは砂地に足を踏ん張り、右手にトンファー、左手に拳銃を構えて敵を待ち受ける。
「で、こいつは歩く鮫、ピラニアどっちだ?」
まあ、どっちでも良い。
「たまには本職らしいところも見せますか」
砂地は苦手だが、プロのヒットマンとしては場所など選んでは仕事にならない。
波間に見え隠れする歪虚に向けて、右腕を台座に拳銃を撃つ。
狙われた一体は大きく跳ね上がると、リカルドの目の前に派手な見飛沫を上げて着地、そのまま鰭で砂の上を這い進んで来た。
「後で分解整備しないとな」
機械の右腕に海水がかかるが、リカルドは構わず一気に踏み込んで接近。
砂に足を取られて思う様に力を乗せられないが、手首のスナップを効かせてトンファーを回転させる事でそれをカバーしつつ、横合いから殴り付ける。
相手がバランスを崩した所で銃口を密着させて引き金を引くと、バックステップで跳び離れた。
「仕事としちゃこんなもんか」
こんな時こそ基本に忠実に。
適当に弱らせたら、後は味方に任せれば良い。
まだ動くそれに止めを刺したのは紋次郎だった。
「人魚までも存在しているとはな……が、どんな状況だろうと、歪虚は滅ぼす」
至近距離から水中銃で確実に頭を撃ち抜くと、次にその銃口を浅瀬を泳ぐものに向ける。
波間に紛れて見えにくいのと泳ぐスピードが速いせいで、なかなか思った様には当たらないが、脇を掠めただけでも挑発にはなった様で、何体かが陸へ上がって来た。
「後は頼む」
「っしゃ任されたァッ!」
サンカは砂浜を這う歪虚の身体に十文字槍を突き立てる。
「どーするよ、焼くかい? 煮るかい? それとも刺身? この数なら全部出来そうだけどな」
「そうよな、刺身にするか、焼いて食おうか。げに、げに、楽しみよ」
それに応えて朱殷が不敵に笑い、手にした日本刀で身を削ぎ取った。
ぼとりと落ちた肉片は、余り食欲をそそる色ではなかったが。
「こいつは生で食ったら腹下すぜ?」
サンカは向かって来る歪虚に向けて一歩踏み込むと、ありったけの力を込めて十文字槍を振り下ろし、突き刺し、突き刺したまま持ち上げて後ろへ投げ飛ばす。
まるで鰹の一本釣りだ。
「ほォれ大漁ッ! まだまだ行くぜェ!」
「然れば、来やれぃ」
足元に落ちたそれを、朱殷はただひたすらに斬る。
その刃が届くものなら、真っ正面から叩き切るのみ。
喰らうのは其方か、此方か。
鬼のように笑い、龍のように振るう。
「っと、一匹イキの良いのが行ったぜ!」
ふと危険を知らせる友人の声を聞いた気がしたサンカは、その方角に注意を向けた。
朱殷も釣られる様に視線を向ければ、そこには今にも飛び掛からんとする歪虚の姿。
「食らい付くか」
死角から飛び掛かろうとする歪虚の前に、朱殷は義足を突き出す。
「ならばこれでも喰らうが良い、硬くて喰えたモノではなかろうがな」
敵が硬い足に狙いを定めたところを見極め、一気に刀で斬る。
薄く歯型は付いたが、小言は覚悟の上だ。
歪虚達はその大部分が挑発に乗ってノコノコと陸に上がって来た。
だが、中には水中から出ようとせず、岩場の方へ向かおうとするものもいる。
「向こうに行かれては困るな」
紋次郎はわざと海中に踏み込み、その腕を水に浸けた。
「さあ、喰らい付け」
朱殷の義手とは違い、噛まれれば痛いが。
「肉を食わせてブッ殺す、というやつかな」
紋次郎は食い付いて来たその身体に機導砲を撃ち込んだ。
至近距離から貫かれたそれは弾け飛び、波間に浮かぶ。
やがて人魚を救出した女性陣も加わり、海辺に押し寄せた歪虚達は全て、死骸となって砂浜に転がった。
「それで結局、其れは殺すのか殺さぬのか。何方ぞ」
朱殷の問いかけに対する仲間達の答えは決まっていた。
「ならば依頼人の説得は主らがやれ」
「勿論そのつりだぜ!」
胸を張り、ルリが答える。
事情を聞けば、人魚達にも非はあるものの、殺せというのは行き過ぎだ。
「しかも私達が殺したら彼らは汚れず、後々責められるのは私達です」
そんな依頼は受けられないと、ルカが言った。
「私は何方でも構わんのだ、どうでも良いから早う帰って酒を飲みたい」
朱殷は興味がなさそうに仲間の輪を離れると、積み重なった歪虚の死骸の前に腰を下ろす。
「こやつら、捨てるのならば私にくれ、持って帰って食えるか聞くでな」
食べられない事はない、と思うが――
だが、説得しようにも依頼人達はハンター達の言葉に耳を貸そうともしなかった。
「お前らの言ってる事、バイアスかかりまくりなんだよ」
「疑問です……争った跡も人的被害の報告も無く、歪虚から逃げていた非武装の子供の人魚さん達を殺せと言う……しかも大人が寄って集ってです」
サンカが肩を竦め、ルカが溜息を吐く。
「それに、お金持ちがドレス位で殺気立つなんて……」
「金額の問題じゃないだろう!」
「暑い中ドレスを着ている事も驚きですし、付き人が居ないのも不思議です……」
「それが我々のステータスだ。注意を怠った使用人には既に暇を出してある」
言われてみれば、彼等もこの暑いのに随分きっちりと着込んでいる。
だからこそ、こういった人目の少ない場所では開放感に浸りたくなるのだろうか――付き人の目さえ盗んで。
「この中に窃盗犯がいて、その人が先導している可能性は……」
「何だと!?」
その一言で、彼等は互いに疑心暗鬼に陥った。
誰もが隣の者に疑いの目を向け、互いの腹を探り、果ては掴み合いの喧嘩に――
パァン!
突如、大きな破裂音と共に彼等の足元で砂が弾ける。
「お? 砂が詰まって暴発しちまった」
リカルドが拳銃の台座をトントンと叩きながら首を傾げた。
「このままだとまた暴発しちまうかもな、何しろこの武器は意外に運の要素が強いから――おぉっと」
もう一発。
「次はお前らに当たるかもしれないな」
ニヤリ。
これで少しは頭も冷えただろうか。
「どっちにしろ、証拠もなく犯人扱いってどうかと思うのよね」
由有が肩を竦める。
「これで人魚達と紛争になったらどうするつもり? 事件はソサエティに報告後記録となりハンターや国防関係者等多くの人が目にするわ。この顛末が各地に広まれば――」
「証拠はあるだろう!」
人魚が手にしているボロボロのドレスが。
それを取り上げようと、一人の男が人魚達に近付いて行く。
「あれはうちの娘の物だ!」
その形相に、少女は悲鳴を上げて兄の後ろに隠れる。
「乱暴しちゃだめっ!」
その前に立ち塞がったのは、目に一杯の涙を溜めたシュマだ。
(使える武器は何でも使うのがシュマのやり方でシュよ。シュシュシュ)
その計算通り、幼気な幼女にウルウルの瞳で見つめらた男は思わずその場に立ち止まる。
そこにふらりと現れた朱殷が言った。
「のう主よ、主らはこんな、赤子の手も捻れなさそうな魚が怖いのか?」
両肩に歪虚の死骸を担ぎ、2m近い高さから見下ろす。
「ひっ!?」
「この人魚とやらが主らの言うようにほんに恐ろしい化け物ならば、今こうやって話している内に全員死んでおると思うのだが?」
「とにかく、落ち着いて話を聞けや」
立ち竦むその肩を掴んで、サンカが男を引き戻した。
話を聞いて、それでもと言うなら……後は好きにすれば良い。
「……言葉を、心を交わす。交流の無い他種族だからと安易に止めないで」
見て、聞いて、感じて、考えて。
「今の貴方は子供達に誇れる様をしていますか……?」
ルカの言葉に、彼等は気まずそうに互いに視線を交わし――
「こいつらはドレスの事を謝りに来たんだぜ?」
人魚達から聞いた話をルリが伝える。
彼等が歪虚を引き連れて来た訳ではないし、普段から仲良くしてれば、今回の異変も事前に教えて貰えたかもしれない。
金の問題ではないと言うなら、問題はきっと「得体の知れない連中が自分達の縄張りで好き勝手した」という事なのだろう。
ならば、今回の件の償いとして「人魚達のネットワークを活かして水中監視員として協力させる」というのはどうだろうか。
勝手知ったるご近所さんになってしまえば、それはもう敵ではない。
「人魚の手伝いは箔になると思うのよね」
由有が言った。
「海水浴場の再開も早まるし、人魚と触れ合える海としても有名になるだろうな」
それで納得出来ない様ならと、紋次郎が一枚のコインを取り出す。
「これで決めるか?」
大騒ぎした手前、引っ込みが付かないのもあるだろう。
誰も決められないなら、天やら運命やらに決めてもらえばいい。
表なら、こちらの提案を呑む。
(コインのどちらが表など言っていないがね……やり方借りるぞ、艦長)
かくして、運命は決まった。
「あぁ……そうだ、これをやろう」
帰り際、紋次郎は運命のコインを弾いて人魚達の手に。
「お守り代わりに持っておきな、情報料ってやつだ」
きっかけはどうあれ、これで双方の種族に縁が結ばれた。
その縁が、これからも続く事を祈って――
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作戦相談卓 守原 由有(ka2577) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/26 18:40:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/22 00:11:03 |