暴走狂気のピグマリオ

マスター:天田洋介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/09/23 15:00
完成日
2015/09/30 20:02

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 歪虚のピグマリオ。これまでグラズヘイム王国の王都【イルダーナ】周辺で人々を騙しては死へと誘ってきた。
 フード付きの服を好んで纏い、陶器の様な肌を覆う。顔を隠すための木製の面も欠かせない。名前はどうでもよく、策略を立てる度に新しくつける。
 少し優しくしてやれば簡単に信じ込む脆弱で愚かな人間共。面白いように騙されてくれた。
 無垢な人間を堕落者へと誘うのは痛快で楽しい。ピグマリオに仕上げた者は下僕として扱き使えばよかった。勢力を増やしていき、いずれは王都すべてを混沌に導く。それがピグマリオの目的だった。
 しかしである。
 一年前まで順調だったピグマリオ化の策略がここにきて何度もハンターによって阻止されてしまった。破壊された身体を直すまでの間、数え切れないほどの呪詛を吐く。
「もういい。奴らさえ殺れれば、それでいい! いいだろ、それでよおぅ!」
 ピグマリオはなりふり構わない強硬手段にでた。王都から離れた避暑地の屋敷に忍び込んで一ヶ月が経過。夏の一時を過ごしていた商人の家族や侍従達十三名を人質にして完全占拠したのである。
「お前、字読めるな。これを持って王都のハンター支部へ行け。依頼しろ」
「依頼……ですか?」
 いきなりピグマリオが年老いた侍従を殴りつける。次に聞き返したらお前の娘を殺すと脅迫しながら手紙と金を持たせて屋敷から放りだした。侍従は数日掛けて王都のハンターズソサエティー支部に辿り着く。
「屋敷にハンターを派遣せよ。殺してやる……とのことです。どうか屋敷の皆様を助けてください。人質の中には侍女として働いている私の娘もいるのです。どうか、どうか――」
 人間の代理を介し、さらに他人の持ち金とはいえ、ピグマリオ自身が依頼そのものを望んでいた。とっとと自分を殺しに来いと。そして返り討ちにしてやると。
「す、少しの間、お待ち下さい」
 あまりに突飛な依頼に受付の支部職員は戸惑う。即座に上司のところへ向かい、事情を説明する。それから依頼引き受けまで半日の時間を要す。
 最初に行われたのが王国騎士団への連絡である。相談の末、ピグマリオが望むようにハンターを屋敷へ向かわせることになった。すべては人質の命を優先するためである。
 侍従の証言によって屋敷内は『ホラーハウス』と呼ばれる能力で支配されていることが判明していた。ピグマリオが施設そのものを自分の身体のように操ることができるのである。また『おもちゃの兵隊』を使えば普通の人形を兵に仕立てられるらしい。
 そしてもう一つ。王国支部が危惧していたのはピグマリオが持つ『機械融合』の能力だ。屋敷には全長三・五Mの騎士鎧を纏った人形が飾られている。ピグマリオが乗り移ったのならかなり手強い。
 集められたハンター一行は馬車に揺られて屋敷へと向かう。朝霧の中、騎士団が取り囲む屋敷の中へと乗り込んでいくのだった。

リプレイ本文

●ピグマリオが待つ屋敷の中へ
 朝霧曇る景色の中、五つの影が浮かび上がる。
 屋敷を取り囲む塀の正門では重装備の騎士団員十数名が警備を行っていた。敷地内へと足を踏み入れるハンター一行を敬礼で見送ってくれる。
「招かれざる客。ではなく招かれている点が妙に感じますね」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が石畳の歩道を歩きながら周囲を見渡す。
 もしかするとすでにここはピグマリオが支配する領域かも知れない。『ホラーハウス』と呼ばれる能力がどれほどの範囲に及ぶかは建物の構造によるからだ。足元まで地下室が続いていれば完全に敵の手中といってよい。技を施した建物全体がピグマリオの身体の一部になるようだ。
 一行は五分ほど歩いて敷地中央にある屋敷の玄関前まで辿り着く。
「入り口は邪魔だから、ぶっ壊しておかないとね。それにしても頑丈そうよね」
「怖い話では雨宿りで入った館の扉が勝手にしまって開かなくなるとかあるよね? これは『ホラーハウス』への予防だよ。じゃないとたぶん救出がうまくいかない」
 セリス・アルマーズ(ka1079)とメイム(ka2290)が玄関扉を観察する。分厚そうな木版と鉄製の枠でできていた。女子供では開くことさえままならないだろう。普段の入出は別の出入り口を使っていると思われたが、敢えてここから立ち入ることにする。
 理由はただ一つ。自分達を招いたピグマリオへの挨拶だ。挑戦状の返礼と言い換えてもよい。
 ハンター達は少しずつずらしながら覚醒した。救出が長引いた際、一斉に解けるのを嫌ったためだ。
「何とか開くが」
「力がない者では開けられないですね」
 セリスとメイムだけでなく柊 真司(ka0705)とエルバッハも手伝う。左右の門扉を少しずつ動かして半開きにした。
「人質を逃がすときに邪魔になったら目も当てられないわ。人質の解放が最優先だからね」
 白金 綾瀬(ka0774)が仲間達を自分より後方へ下がらせる。そしてアサルトライフル「ヴォロンテAC47」を構えた。
 玄関扉の蝶番部分を狙って撃つことで最後は自重で倒壊させる。遠方にも届くほどの轟音が鳴り響く。
(追い詰められたとはいえ、まさかこんな手を打ってくるとは。相当頭に来てるんだろうな。此方としても決着を着けたかったところだ。逃がさないぜ)
 柊真司は以前の事件でピグマリオに関わったことがある。侍従に教えてもらったメモを取りだしてエントランスの状況と照らし合わせた。
 建物は二階建てでロの形をしており、空いた中央部分は庭園になっている。内側の庭園部分だけで一辺が五十Mにも及ぶ巨大な建物だ。またエントランス内にある階段の他に西と東にも二階へと通じる階段があるという。
「ホラーハウスは厄介ですね」
「ああ、こちらの動きはもうバレバレだろうな」
「侍従の話ですと人質は東側の二階中央付近の部屋に集められているのでしたね」
「そうだ。道中に何度も繰り返して聞いてみたが、間違いないといっていたな」
 エルバッハと柊真司が目の前の階段を上り始める。
 二階へ辿り着いたとき、メイムが窓から中庭を眺めた。綺麗な花が植えられていた中庭の真ん中に御堂が建てられている。
「騎士鎧が飾られているって話しだよね」
 メイムはピグマリオが騎士鎧と機械融合する可能性を危惧していた。ひとまず超聴覚で物音を探る。実は一階でも使ったのだが気になる音は聞こえてこなかった。
「かなりはっきりと、すすり泣く女性の声がするんだよ」
 メイムが指さした廊下の先はこれから向かう予定の東側方面である。
「だとすると、罠のにおいがしますね。あからさま過ぎますし」
 セリスがそういいながら廊下の脇に立っていた騎士石像を蹴飛ばした。床に壊れた石像の破片が散らばる。
「私もそう思うわ。わかりやすすぎるものね」
 白金綾瀬は廊下に並んでいた数々の甲冑一式を銃撃で蜂の巣にする。
 ハンター一行の居場所はとっくに把握されているはずなので心配は無用。大きな音を立てても気にしない。ピグマリオに利用されそうな物体はすべて破壊していく。
 ピグマリオが選んだだけあって、この避暑地の屋敷にはやたら人形や像が多く飾られていた。持ち主にはすまないが人の命の方が大切である。
 そうやって廊下を進んでいき、やがて人質が集められていた広間の扉まで辿り着いた。
「開かないね。ここは任せてだよ」
 広間の扉には鍵が掛かっていた。メイムがアックス「トレイター」で叩いて鍵を壊す。銃器を使わなかったのは広間に人質が捕らえられている可能性を考慮したからだ。
 転がりながら突入した柊真司と白金綾瀬は銃器を構えつつ、背中合わせに百八十度回転する。
「誰もいないのか?」
「今のところはそうみたいね」
 広間で一番目立っていたのはソファとテーブルだ。その他には壁に取りつけられているいくつもの鏡である。
「これだけ大きな鏡はかなり高価でしょうね……?!」
 鏡を覗き込んだセリスが一歩引いて眉をしかめた。鏡に映っていた自分の姿が骸骨と入れ替わったからである。
『すぐにそうなるぞ。愚かなるハンター共よ!! 誰も彼も皆殺しだ。想像してみろよ。一人一人、仲間が死んでひとりぼっちになっていく自分って奴をよ!! なあ、愉快だろう? 笑え、笑いやがれ!!』
 広間全体に広がるその大声はピグマリオのもの。天井全体が震えて音がでているような、そんな印象をハンター達は感じていた。
(汚らわしい歪虚が、エクラの使徒に喧嘩を売るか……。いいだろう。塵も遺さず滅してやろう!)
 セリスはぐっと奥歯を噛みしめて天井を睨みつける。
 すべての鏡に妙なものが映しだされた。もしもの罠を考えてハンター達は鏡を割っていく。
 メイムも鏡を割ろうとアックスを振り上げたが踏みとどまる。鏡に映っていた椅子に縛りつけられている女性に違和感を感じたからだ。
 彼女の勘は当たる。
 その鏡は他の物とは違い、巧妙な仕掛けが施されていた。鏡に映しだされるであろう広間の様子が背景として描かれている。屋敷の持ち主が余興用に作らせたと思われた。
 メイムは仕掛けの内側に入って椅子に縛られていた女性の猿ぐつわを外す。
「もしかして、さっきすすり泣いていたのはあなたの声だったのかな?」
「は、はい。ありがとう、ありがとうごさいますっ!」
 縄を解くとメイムは女性に抱きつかれる。彼女によればピグマリオはハンターが鏡を割るのを期待していたようだ。
「さっきの挑発は俺達を興奮させるためのものか」
「ピグマリオは視野が狭くなった私たちが間違って人質を殺してしまうの期待していたのですね」
 柊真司とエルバッハが推理する。まもなく女性は屋敷で雇われていた侍女で依頼を行った侍従の孫だとわかった。
「ご主人様の家族共々全員が別の場所へ連れて行かれてしまいました。屋敷の中だとは思いますが……私にはどこなのかわかりません」
 出入り口となるエントランスに向かいながら侍従の孫から知る限りの情報を教えてもらう。二階の窓から合図を送ったので玄関前までに覚醒者の騎士二名が迎えに来てくれる。
 ハンター達は侍従の孫を騎士達に預けると再び屋敷内の探索に戻っていくのだった。

●卑怯の塊
 ハンター達は階段を使って二階へとのぼる。そして反時計回りに廊下を移動しながら順に扉の向こう側を確認した。
「甲冑のコレクションか。これも人形のように組み合わされているな」
「そちらは任せたわよ。早く壊してしまわないと」
 柊真司と白金綾瀬が部屋に飾られている数々の甲冑を蜂の巣にしていく。凄まじい銃撃音が屋敷の隅々まで響き渡った。
「魔除けでもないのに悪魔の像なんて趣味が悪いよね。こんなものは!」
 廊下に残ったセリスはサーベル「デカログス」で角を生やした悪魔像の首を一文字に斬り落とす。
 突然に大きな熊ヌイグルミが扉をぶち破りながら廊下に飛びだしてきた。
「エルバッハさん! そっちだよ!!」
 真っ先に気づいたメイムが熊ヌイグルミの一番近くにいたエルバッハに声をかける。
「そうくるとは。油断も隙もありませんね」
 エルバッハが振り向きざまに手を翳す。
 刹那、アースバレットによって宙に現れた石つぶてが一直線に飛んでいく。額に石つぶてが深くめり込むことで熊ヌイグルミの走る勢いが削がれる。
 メイムは砲丸投げの要領でぐるぐるとアックスを振り回し、熊ヌイグルミの背中へと突き立てる。すると中から砂が大量に流れだして動かなくなった。
「きっと綿の代わりに砂を詰めたんだね」
「そう考えるのが妥当ですね。先程の鏡といい、ピグマリオは漫然と私たちがやってるのを待っていただけではないようです」
 メイムとエルバッハは熊ヌイグルミから砂を完全に抜いておく。
 小賢しく、嫌らしい印象を振りまきながらピグマリオの単発的な攻撃は続いた。天井の梁に隠れていた兵隊人形が頭上から飛びおりてきたときもある。
 一つ一つを片付けながら進むうちにかなりの時間が経過してしまう。二階すべてを回りきったが残る人質十一名は発見できていなかった。
 階段をおりてエントランスホールへ戻る。そして一階を探そうとした矢先、ピグマリオが本格的な攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ! 邪魔だ!」
「相変わらず姑息なやり方ですね」
 倒れてきた石柱を避けるために柊真司とエルバッハが跳んで床へと転がる。床に叩きつけられて砕けた破片が二人を襲う。
「嫌がらせも度が過ぎるんだよ」
 メイムは倒れてきた飾り棚をアックスで吹き飛ばす。飾り棚もろとも中に収まっていた皿の数々が粉々に割れて床へと広がった。
「あの角まで走るわよ!」
「歪虚、卑怯な歪虚。隠れていないで出てこい!」
 白金綾瀬とセリスの真上にぶら下がっていたシャンデリアが落ちてくる。立ち止まっていた状態から大急ぎで逃げて、壁にぶつかる形で何とか避けきった。
 割れた硝子が凶器となって周辺のハンター達に怪我を負わす。
 それで終わりではなかった。ぐらりと建物そのものが揺れて天井に長大な亀裂が走る。それに気づいたハンター達は一斉にその場から離れようとする。まもなく轟音が鳴り響き、エントランスホールに繋がる廊下には塵が大量に流れ込んだ。
 一分強の間に建物一階のエントランスホールは瓦礫の山で埋もれる。
「大丈夫か! 名前で答えてくれ! 俺は柊だ!!」
「真司、無事なのね。私、白金よ!」
「わたしも平気。セリス、セリス・アルマーズ!」
「死ぬかと思ったんだよ。メイムは大丈夫だよ!」
「私エルバッハも生存しています」
 埃にまみれながらハンター達は声を掛け合って互いの生存を確かめた。
 射し込んだ太陽光が塵に反射してキラキラと輝く。その中に逆光の影がいくつも蠢いていた。敵だと悟ったハンター達は急いで立ち上がって武器を手に取る。
 まだ塵が舞っていて周囲が霞んでいたが、近くにいたエルバッハと白金綾瀬だけは目撃できた。
「……おもちゃの兵隊のようですね」
「マニアが欲しがりそうな精巧な出来のようね」
 エルバッハと白金綾瀬のやり取りの通り、全長五十センチ前後の人形は可動部の完成度がとても高い。まるで人間のような軽やかさで動いていた。
 兵隊人形は瓦礫を利用して身を隠しつつ、手にしていた槍でハンター達に襲いかかる。
 セリスの喉元近くを兵隊人形の槍が掠めていく。避けたとき彼女の右の横顔が瓦礫の石にぶつかった。
「生意気にも急所を狙ってくるとは……許さん……」
 セリスの口の端からたらりと血が流れる。兵隊人形を睨みつける眼光がさらに増す。しかし心は熱いが頭脳は冷静さを保っていた。
(よくできた人形とはいえ、ここで全力をだすのは歪虚の思う壺。きっとこうやって私たちの力を削いでいるに違いない。誰かがいっていたが本当に姑息だな)
 セリスはサーベルを構えて集中する。わずかな音や気配で敵を探り、技を使わないで倒していく。
「よくもこうまでしてくれましたね」
 すっと差し伸ばしたセリスのサーベルの先が兵隊人形の喉元に突き刺さった。激しく振ることで刃から抜きつつ、瓦礫に叩きつける。止めに首を落として塵に還す。
(視界の悪い今の状態で銃を使うのは危険だな)
 柊真司は武器を試作光斬刀「MURASAMEブレイド」に持ち替える。わずかな物音で足元の瓦礫から飛びだしてきた兵隊人形の存在に気がつく。
「くっ!」
 わざと姿勢を崩すことで兵隊人形の槍突きを避けた。倒れそうになりながら身体を翻して光斬刀を振るう。兵隊人形は首を吹き飛ばされながらも迫ってきた。今度は床に倒れた柊真司に跳び乗ろうと跳ねる。
「来るな!」
 柊真司は側に落ちていた瓦礫を咄嗟に掴んで投げた。兵隊人形の左側部に命中して放物線がずれる。柊真司の上に乗ることはできなかった。その間に立ち上がって振り返りざまに光斬刀を叩きつける。
 兵隊人形が破片をまき散らしながら吹き飛んでいく。床へ落ちた瞬間、バラバラに壊れた。
「エルさんの正面に一体いるからね!」
「了解です」
 メイムは超聴覚で兵隊人形の位置を把握。仲間に口頭で伝える。エルバッハはアースバレットで兵隊人形に対抗した。
「ちょうどよい的だわ」
 少しずつだが宙に舞っていた塵が薄れていく。白金綾瀬が兵隊人形を見つけてから数秒後には銃爪を絞って撃ち抜いた。
 やがて兵隊人形の襲撃は収まる。
 視界はそれなりに拓けていたが、まだ塵は落ちきっていなかった。まだどこかに兵隊人形が隠れているかも知れないと注意しながら警戒を続ける。
 しばらくしてセリスが気がついた。二階へと続く階段が天井崩落に合わせて使い物にならないぐらい完全に壊れていたことを。

●厄介な状況
 想定外の状況が起きたためにハンター達は話し合う。
「これから一階を回る予定だったがどうするか? 二階に戻るならジェットブーツで飛んでロープを引っかけてくるぜ」
 柊真司が見上げて壊れた階段の上部を指さす。
「悩むところだね。どうであれ一階は調べなくてはならないから、予定通りでいいんじゃないかな?」
 メイムが答え終えたとき、複数の悲鳴が聞こえてきた。誰の耳にもはっきりと明瞭に。
 罠かも知れないとハンター全員が想像する。しかし、だからといって助けない理由にはならない。瓦礫の山を越えて悲鳴がする方へ廊下を駆けた。
「人が沢山いるわよ。人質かしら?」
「そうに違いないはず。でもどうして悲鳴をあげているの?」
 並んで走っていた白金綾瀬とセリスが言葉を交わす。
「歪虚が動かしている人形が人質に集っているようですね」
 先頭を走っていたエルバッハが廊下の奥で行われる状況を仲間達へと伝える。
 開け放たれた部屋の扉から人質と思われる人々が廊下へ逃げだそうとしていた。その者達の身体にはビスクドールが取り憑いている。噛みついたり、髪の毛を引っ張ったり、中には刃物を手にして人質達に危害を加えようとしていた。
 それから十秒も経たないうちに現場へと辿り着く。
「こらっ! 離れるのよ!」
 白金綾瀬が人質に噛みついているビスクドールを掴んだ。自分に噛みつかせようとわざと隙を見せた瞬間に引きはがす。そして強く床へと叩きつけてから踏んづけた。
「この、歪虚のしもべが!」
 セリスは床へ転がったビスクドールにサーベルを突き立てる。
「できるだけ動かないでくれ!」
 柊真司が光斬刀で人質の髪の一部を切り取った。そうやって髪を掴んでいたビスクドールを床へ落とす。
「これ、頼んだぞ!」
「任せてだよ!」
 柊真司がビスクドールを蹴飛ばした先にはメイムが待機している。アックスを叩きつけて粉々に粉砕した。
「大して強くありませんが数が厄介ですね」
 エルバッハも人質達からビスクドールを引きはがす。一度壁に叩きつけてからセリスかメイムに止めを刺してもらう。
 凶暴なビスクドールは二十体近くいた。すべてを倒しきって人質を助ける。
「一、二、三、四、五――」
 メイムが数えてみると人質は十一人いた。先に救出した侍従の孫を除いた全員が揃っている。人質達にも確かめてみたが間違いない。
「あ、あの陶器人形みたいな歪虚は中庭の御堂に向かうといっていました。何でもみなさんを倒すのに騎士鎧を使うとか。騎士鎧はとても大きくて、人形のような構造になっているんです」
 屋敷の持ち主の娘が震えながらも窓の外を指さした。娘はピグマリオがいっていたことをいくつか覚えている。
「歪虚自身が御堂で準備する時間が必要だから、ビスクドールに人質達を襲わせたみたいね」
「歪虚にとって私たちが到着した時間は想定よりも短かったようです。屋敷の娘の話によれば人質の半分ぐらいがビスクドールによって殺されるのを狙っていたとか」
 セリスとエルバッハが仲間達に考えを伝えながら中庭の御堂へと振り返った。
 ピグマリオは放置できないが、どうであれ人質の命が最優先である。窓から外庭へでて合図をだす。まもなく敷地外で待機していた騎士達がやって来てくれた。
 ハンター達は身柄を保護した人質十一名を預けて屋敷へと戻る。建物を通過して中庭へと足を踏み入れるのだった。

●ピグマリオの策略
 侍従の説明によれば中庭は約五十メートル平方Mの広さがある。その中央に建てられた石造りの御堂には全長三・五Mの騎士鎧が飾られていた。
 ハンター達が中庭へ現れたとき、甲高い声が反響する。
「ついに来たか! ここまでは余興、余興に過ぎないよ!! この中庭の緑をお前達の血で染め上げてあげるからな!! さあ来い、哀れなるハンターどもよ!! 偉大なる歪虚の力にひれ伏せて泣きながら死ぬがいい!!」
 御堂の屋根中央にはフードとマントを被ったピグマリオが両腕を広げていた。
 ピグマリオを中心にして五体の騎士人形が槍を構える。建物内で相手した個体よりも大きく、成人男性並の体格に見えた。
「てっきり機械融合をして待ち構えていると思っていたのですが……何故?」
 セリスの呟きは全員の意見でもある。準備する時間が必要でなかったのであれば、どうして多くのビスクドールに人質達を襲わせたのだと。
 ピグマリオと騎士人形五体が御堂の屋根から大地へと飛びおりた。そして一斉に距離を縮めてくる。
「ふりぃぃず!」
 メイムが大声をあげてブロウビートを発動させた。騎士人形の一体が立ち止まり、おろおろと周囲を見回す。
「受けてやろう。歪虚とそのしもべ共よ!」
 仲間よりも一歩前にでたセリスが光り輝いた。セイクリッドフラッシュによる光の波動を敵すべてに浴びせかける。
 柊真司と白金綾瀬は遠隔攻撃で迎え撃つ。
「余りフルオート射撃は好きじゃないんだけど、四の五の言ってられないものね」
 白金綾瀬が使ったのがフォールシュート。次々と放たれた銃弾が雨のように敵へと降り注ぐ。
「これで立っていられたら大したものだ」
 柊真司がディファレンスエンジン「アンティキティラ」でデルタレイを放出する。ぬっつの光条がそれぞれに騎士人形を貫き通す。
「陶器の顔、まちがいなくピグマリオですね」
 エルバッハが放ったウィンドスラッシュの風の刃がピグマリオのフードを切り取った。
 頭部が露わになったピグマリオはいきなり臆した態度を見せる。奇声をあげながら反転して御堂へ戻ろうとした。
 すでに柊真司が追いかけている。ジェットブーツで高く舞い上がり、ピグマリオにわずかな距離まで迫った。屋根を越えて御堂の向こう側へとピグマリオが消えようとしたときに追いつく。
「これでどうだ!」
 柊真司の光斬刀がピグマリオの背中を斬り裂いたときに御堂の屋根が吹き飛んだ。
 屋根に空いた穴から巨大な斧先が垣間見える。すぐに引っ込んで次には壁が崩れだす。
 周囲に広がる埃の中から真っ先に現れたのは巨大な足先である。まもなく塵をまといながら巨大騎士鎧が御堂からでてきた。歩きからすぐに駆けだしてハンター達に迫る。
「ピグマリオはたった今、真司が倒したばかりなのにどうしてなのかしら?」
「他にもピグマリオがいて機械融合したんでしょうね。……いえ、きっと首謀者のピグマリオはきっとこいつだわ」
 白金綾瀬とセリスは混乱しながらも戦闘を続行した。先程までの敵はすべて倒している。残るは地響きをあげながら迫り来る全長三・五Mの騎士鎧だけだ。
 巨大騎士鎧はその大きさにかかわらず俊敏な動きをみせる。
「狙い撃つわ。とっておきの氷の弾丸、受けてみなさい」
 白金綾瀬が放った銃弾が巨大騎士鎧の腰部に命中した。レイターコールドショットの効果によって瞬く間に凍りつく。
 巨大騎士鎧の動きが鈍り、倒れるのを防ぐために巨大斧が地面へと突き立てられる。この機会を逃すハンター達ではなかった。
「ご武運をお祈りします」
 エルバッハが接近戦を挑もうとしているセリスにウィンドガストを付与。セリスが巨大騎士鎧の膝にサーベルを突き立てると亀裂が走る。
 柊真司もセリスと同時に仕掛けていた。
「さぁ決着をつけようぜ。ピグマリオ!」
 ジェットブーツで高く舞い上がった彼の両手には超重練成で巨大化させた光斬刀が。上段から振り下ろし、巨大騎士鎧の右横顔から刃が食い込む。
「なにしやがるんだよぉー!」
 頭の半分が吹き飛ばされた巨大騎士鎧が叫きだす。その声はピグマリオのものに相違なかった。
 足止めをしていたのは白金綾瀬だけではない。メイムもブロウビートで巨大騎士鎧の動きを阻害していた。合間にはファミリアアタックを仕掛けていく。
「行ってっキノコ」
 メイムがそう告げるとパルムが凄まじい勢いで飛んでいく。巨大騎士鎧のおでこに魔力を纏わせた強烈な体当たりを敢行する。即座にメイムの側へと戻ってきた。
「中々しぶといようですね。これでどうでしょうか?」
 エルバッハは前衛の味方にウインドガストを追加付与しつつ、ウインドスラッシュの風の刃で巨大騎士鎧を刻んだ。彼女の攻撃によって右肩に取りつけられていた鎧の一部が地面へと落下する。
「これならどう? 避けられないはずだわ」
 このとき、射撃の白金綾瀬と巨大騎士鎧の距離はかなり縮まっていた。そこで跳弾を使って隙を突く。案の定、無警戒の敵頭部に銃弾がめり込んだ。すでに半壊していたが、これによって完全に砕け散る。
「手応えあり!」
「どうだ!」
 セリスと柊真司の連続打撃で右足首部分も折れた。大きく傾いた巨大騎士鎧が地面へ膝をつける。
「ころすぅ! 殺す殺すコロス!! てめぁら、なんで邪魔するんだよぉ! 楽しいだろ、人が困るところを見るのはさぁ! 陥れるのはさぁ!」
 巨大騎士鎧に組み込まれていたピグマリオが叫び狂う。無意味に身体を動かし、手にしていた斧を振り回す。
「汚らわしい歪虚が……」
 セリスの光弾が巨大騎士鎧の右肩に命中する。これまでの攻撃蓄積に加わって右腕すべてが千切れ落ちた。
「今回は逃がさないぜ」
 柊真司の超重練成の打撃で巨大騎士鎧の左肩に亀裂が入る。本来両手で支えるべき巨体斧ごと左腕がすっぽりと落ちた。左腕だけに留まらず、胴体左側がひび割れる結果を誘発する。
(一発一発を確実に)
 白金綾瀬の丁寧な銃撃が巨大騎士鎧の腰部に多くの痕を残していた。ついにこれまでの蓄積が一気に開放される。崩壊して上半身と下半身が離ればなれになった。
「大丈夫だよ。このピグマリオ以外はもういないから」
 メイムは最後の超聴覚で周囲の音を探る。ピグマリオの味方をしそうな存在は一つも感じられなかった。
 巨大騎士鎧に融合しているピグマリオが最後の敵。また一連の事件における首謀者でもある。
「き、聞いてくれよ。実はな――」
「嘘つきの言い訳を聞くほど暇はありませんので」
 エルバッハの風の刃が巨大騎士鎧の核となっていたピグマリオの額を割る。地面を揺らして倒れる巨大騎士鎧。黒い塵の塊となり、やがて崩れて散っていくのだった。

●すべてが終わって
 ハンター達の傷はセリスのヒールによって癒やされる。戦闘後、敷地の外に避難していた人質十二名と再会した。
「避暑地の屋敷ですし、普段の生活で困ることはありません。これを機会に建て直すつもりでおります。それよりも命を助けて頂いてありがとうございました」
 屋敷の主人と娘がハンター達にお礼をいう。そして侍従が用意していたお礼入りの封筒をハンター全員に手渡す。
 こうして歪虚からの依頼といった奇妙な事件は幕を閉じる。
「これで王都周辺も少しは静かになればいいんだがな」
 柊真司が去り際にそう呟いた。
 ハンター一行は騎士団が用意してくれた馬車で帰路に就く。
「これで望み通りにしてあげたから満足よね」
 白金綾瀬は馬車の中から遠ざかっていく屋敷をしばらく眺める。
「村か町を見かけたら寄ってもらえるでしょうか? 食事をしたいなって」
 腹ぺこのセリスは御者を務める騎士に声をかけた。
「屋敷の娘がいってたんだよ。隣町のお店で食べたヤマウズラのローストが美味しかったって」
「ほ、本当です?」
 メイムからの情報にセリスが瞳を輝かす。
「歪虚の策に引っかかりつつもすべてを粉砕したといった成果でしたね。人質の安全を考えたら、罠だとわかっていてもこれしかなかったはずです」
 エルバッハは戦い終わった印象を口にした。
 ハンター一行は数日をかけて王都に辿り着く。そしてハンターズソサエティー支部に寄って事件解決のあらましを口頭で報告する。
「その依頼、侍従の方から受けたのは私なんです。どうなるかと思って気が気ではなくて。無事解決してよかったです。私からもいわせてください。ありがとうございました」
 受付の支部職員はほっと胸をなで下ろすのだった。

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  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司ka0705
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

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参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師

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エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/09/23 14:13:26
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エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/09/23 14:18:32
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/23 08:04:07