ゲスト
(ka0000)
人を騙る悪魔
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/24 09:00
- 完成日
- 2015/09/27 07:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●卑怯な男
とある世界で人間と悪魔が争っていました。
その様子を見ていた1人の男が人間に捕まってしまいました。
男は人間にこう言います。
「私は人間です。何故なら角も翼もない見ての通りの人間なのですから」
男はその場で服を全て脱いでみせました。勿論角も翼もありません。
その言葉に納得した人間は男を解放します。
また男は争いを眺めていると、今度は悪魔に捕まってしまいました。
男は悪魔にこう言います。
「私は悪魔です。何故ならこうして簡単に人を殺せるのですから」
男はその場で捕虜になっていた他の人間を殺してみせました。そして笑顔を浮べています。
その言葉に納得した悪魔は男を解放します。
そんな言葉を繰り返して男はあっちへこっちへふらふらと。
果たして男は人間なのか、悪魔なのか。それは誰にも分からない。
1つだけ分かってるのは……。
「私はただの卑怯者です」
●人か悪魔か
それは簡単なゴブリン退治のはずだった。
ハンターオフィスで発行された正規の依頼で、大抵はその場限りではあるが仲間を募り挑んだものだった。
勿論全ての事件が思ったとおり順調に進むものではない。
例えば現場に着いたらゴブリンに追われている旅人らしき男を助けることになったり。
例えばそのゴブリンの数が報告で聞いていた数より多かったり。
だがそれでも何とかしてみせるのがハンターの腕の見せ所だ。
しかし、それでも予想だにしない事が起きてしまうのがこの世界だ。
何が起こったのか分からなかった。突然の痛みと共に全身から力が抜け地面に倒れる。
「……ぐ、ほっ」
口元から血が零れ落ちた。腹部に開いた穴は明らかに致命傷だ。
視界の先で長年共にしてきた仲間が嬲り殺しにされている。
今この場に響いているだろうその悲鳴が聞こえてこない。いよいよ耳も駄目になったらしい。
意識が薄れていく中で、視界の端にこちらを見て笑う男がいた。
「――――」
男の口が動いている。何か言っているのだろうが全く聞こえない。
視界も段々と狭まってきた。もうすぐ――。
男の意識はそこで途絶えた。最後の視界には銃を握った男の姿が見えた気がした。
●調査依頼
ハンターオフィスの一つの依頼が張り出された。
内容は先日行われたゴブリン退治へ向かったハンター達の捜索である。
帰還予定日から数日経っても帰ってこず、最後に目撃されたのはゴブリンが出没する林に程近い村である。そこから出発した後戻ってきていないとのことだ。
それ以外の情報は一切ない。故に何らかの情報を掴み、可能であれば事態の解決を図って欲しいという依頼だ。
この調査依頼を受けたハンター達もその村でその情報を再確認した後、改めて出発し森へと向かった。
だが、森の入り口に差し掛かろうとしたその時、そこにほうほうの体のマントを羽織った如何にも旅人らしい男がこちらに走ってくるのが見えた。
「よ、良かった。私は、人間の旅人です。ご、ゴブリンの集落から逃げてきたんです!」
息を切らしている旅人にハンターは水を与える。旅人はそれを受け取って一口飲んだところでまた口を開く。
「じ、実は私を逃がしてくれた、は、ハンター達がいるんです。きっと、まだゴブリンに捕まっているはず、です。私が案内しますから、か、彼らを助けてください!」
言葉を詰まらせながら喋る旅人にハンター達は顔を見合わせるが、一先ず彼に案内を頼むことに決めた。
そして旅人の案内で森を歩くこと一時間と少し、彼の言葉通りゴブリン達が住む集落を見つけた。
「ほ、ほら。わ、私の言ったとおり、でしょ? さあ、彼らはあの、一番奥の洞窟に捕われています。み、皆さんの力で助け出してください」
旅人はハンター達に振り返り、どこか引きつった笑みを浮べながらそう言った。
とある世界で人間と悪魔が争っていました。
その様子を見ていた1人の男が人間に捕まってしまいました。
男は人間にこう言います。
「私は人間です。何故なら角も翼もない見ての通りの人間なのですから」
男はその場で服を全て脱いでみせました。勿論角も翼もありません。
その言葉に納得した人間は男を解放します。
また男は争いを眺めていると、今度は悪魔に捕まってしまいました。
男は悪魔にこう言います。
「私は悪魔です。何故ならこうして簡単に人を殺せるのですから」
男はその場で捕虜になっていた他の人間を殺してみせました。そして笑顔を浮べています。
その言葉に納得した悪魔は男を解放します。
そんな言葉を繰り返して男はあっちへこっちへふらふらと。
果たして男は人間なのか、悪魔なのか。それは誰にも分からない。
1つだけ分かってるのは……。
「私はただの卑怯者です」
●人か悪魔か
それは簡単なゴブリン退治のはずだった。
ハンターオフィスで発行された正規の依頼で、大抵はその場限りではあるが仲間を募り挑んだものだった。
勿論全ての事件が思ったとおり順調に進むものではない。
例えば現場に着いたらゴブリンに追われている旅人らしき男を助けることになったり。
例えばそのゴブリンの数が報告で聞いていた数より多かったり。
だがそれでも何とかしてみせるのがハンターの腕の見せ所だ。
しかし、それでも予想だにしない事が起きてしまうのがこの世界だ。
何が起こったのか分からなかった。突然の痛みと共に全身から力が抜け地面に倒れる。
「……ぐ、ほっ」
口元から血が零れ落ちた。腹部に開いた穴は明らかに致命傷だ。
視界の先で長年共にしてきた仲間が嬲り殺しにされている。
今この場に響いているだろうその悲鳴が聞こえてこない。いよいよ耳も駄目になったらしい。
意識が薄れていく中で、視界の端にこちらを見て笑う男がいた。
「――――」
男の口が動いている。何か言っているのだろうが全く聞こえない。
視界も段々と狭まってきた。もうすぐ――。
男の意識はそこで途絶えた。最後の視界には銃を握った男の姿が見えた気がした。
●調査依頼
ハンターオフィスの一つの依頼が張り出された。
内容は先日行われたゴブリン退治へ向かったハンター達の捜索である。
帰還予定日から数日経っても帰ってこず、最後に目撃されたのはゴブリンが出没する林に程近い村である。そこから出発した後戻ってきていないとのことだ。
それ以外の情報は一切ない。故に何らかの情報を掴み、可能であれば事態の解決を図って欲しいという依頼だ。
この調査依頼を受けたハンター達もその村でその情報を再確認した後、改めて出発し森へと向かった。
だが、森の入り口に差し掛かろうとしたその時、そこにほうほうの体のマントを羽織った如何にも旅人らしい男がこちらに走ってくるのが見えた。
「よ、良かった。私は、人間の旅人です。ご、ゴブリンの集落から逃げてきたんです!」
息を切らしている旅人にハンターは水を与える。旅人はそれを受け取って一口飲んだところでまた口を開く。
「じ、実は私を逃がしてくれた、は、ハンター達がいるんです。きっと、まだゴブリンに捕まっているはず、です。私が案内しますから、か、彼らを助けてください!」
言葉を詰まらせながら喋る旅人にハンター達は顔を見合わせるが、一先ず彼に案内を頼むことに決めた。
そして旅人の案内で森を歩くこと一時間と少し、彼の言葉通りゴブリン達が住む集落を見つけた。
「ほ、ほら。わ、私の言ったとおり、でしょ? さあ、彼らはあの、一番奥の洞窟に捕われています。み、皆さんの力で助け出してください」
旅人はハンター達に振り返り、どこか引きつった笑みを浮べながらそう言った。
リプレイ本文
●疑惑の旅人
「数にして10と少し。確かにそいつの言葉通り嘘はじゃなかいみたいだな」
ストゥール(ka3669)は双眼鏡を覗くのを止め、後ろに振り返ってそう言った。
「と、当然ですよ。嘘なんてつくはずないじゃないですか」
旅人の男はやはりどこか引きつったような笑みを浮べながらそう口にする。
ハンター達は誰もがこの旅人を怪しんでいるが、その意図が上手く読み取れない。
もしやゴブリン達の仲間とも考えたが、そもそもゴブリンは人語を理解できるほどの知能もない。
人間の囮を使って別の人間を誘き寄せる策など考え付くような脳味噌も持ち合わせていないだろう。
「よう、旅人さんよ。本当にハンター達が捕われてるのはあの集落の奥にある洞窟なんだな?」
「はい。そう、です。それは間違いありません!」
デルフィーノ(ka1548)の質問に旅人は首を縦に何度も振って肯定の意を示した。
「けど何でハンター達があそこに捕まってるって知ってるんです? あっ、もしかしてハンターも一緒にゴブリンに捕まってて、隙を見て逃がして来れたんすか?」
「えっ? あっ、はい。そうです。無事に逃げ出せたのは私だけだったんです」
畳み掛けるような無限 馨(ka0544)の質問にも、旅人は少し声をどもらせながらも頷いてみせた。
(クク、なにやら理由がありそうじゃが怪しいのぅ。さてさて、どんな理由かのぉ)
そんな旅人の様子を少し離れたところから眺めていたヴィルマ・ネーベル(ka2549)は、つい笑いそうになるのを堪えて口元を押さえ平静を装う。
「どちらにせよあのゴブリン達を全滅させるのは確定事項なんでしょ? それじゃあ早くやってしまいましょう」
手にした刀の鞘を指でなぞりながらブラウ(ka4809)は他の仲間達にそう告げる。彼女の言う通り、ゴブリン退治も今回の依頼内容の1つだ。見つけたからには退治しないといけない。
「まあ、仕事は仕事。あの程度の数なら正面からでも問題ないと思うが、どうする?」
バレル・ブラウリィ(ka1228)も腰に下げた剣を抜き、戦闘体勢であることを示しながら仲間達を見渡す。
「確かにゴブリン程度ならって言いたいところだが。今回は捕まってるハンター達がいるからな。救助するまでは隠密で行きたいところだ」
顎に手を当てながらデルフィーノがそう意見した。
ゴブリンに人質を取るなんて知能があるかは疑問だが、万が一ということもある。
他のハンター達もそれに同意し、森の中を移動してゴブリンの集落の側面に回り洞窟入り口に近づくことに決めた。
「そ、それじゃあ。私は離れたところで隠れてますね」
そう言って旅人はその場から離れようとするが、その肩を馨の手が掴む。
「いやいや、ここで1人で行動するのは危ないですって」
「えっ? いや、でも私は戦えないので……」
「武器も何も持ってないんだろう? それなら俺達と一緒にいるのが一番安全だ」
バレルもそう言いながら旅人の後ろに回り、その背中をトンと押した。
旅人は顔色を青くさせながらも、ハンター達に逆らったりする気はないのか一度頷いて着いてくることに同意する。
「決まりだな。では、急ごう」
ストゥールはそう言いながら肩に掛かった長い黒髪を後ろに払った。
●洞窟前の攻防
木々の間を縫い、茂る枝葉の間から覗いた先には高さ2メートルほどの洞窟の入り口が見えた。その正面に見張りらしきゴブリンが2体立っている。
「どれ、我の出番のようじゃの」
ヴィルマは黄金色の杖をそっとゴブリン達に向ける。マテリアルが高まると同時に、ふわりと風もないのにヴィルマの前髪が浮き上がり、隠されていた右目とそこにある傷も顕になる。
しかし、そのことは誰も触れることはない。今ここは既に戦場なのだから。
「グギ……?」
気付けば洞窟の入り口の周囲に青白い霧が現れ、音もなくそこにいた2匹のゴブリン達を包み込んだ。
霧は僅か数秒で霧散していくが、その霧が消える頃には既にゴブリン達は夢の中へと落ちその場でうずくまるようにして寝息を立てていた。
「よし、それじゃあここは任せるぜ?」
「問題ない。煙草でも吸って……は、マズイか」
デルフィーノの言葉にバレルが答え、ついでに肩を竦めて見せた。
その時、鞘走りの音が聞こえたかと思えばすぐに肉と骨を断ち切るような音が鳴った。
そちらに視線を向ければ、振動刀を抜いたブラウが眠りに落ちていたゴブリンの首を刎ねていた。
「ゴブリンの血の匂いってあまり好きじゃないんだけれど……まあ、仕方がないわね」
ブラウは刀の刃に付いた血を一嗅ぎして、気に入らなかったのかすぐに刃を払って血を地面に飛ばす。
ハンター達はその様子を見て、揃って肩を竦めたところで洞窟内の探索班と出入口の確保班に分かれて行動を開始した。
そして探索班が洞窟に入って数分も経たないうちに、ゴブリン達は事態に気付いて各々武器を持ち洞窟の入り口へと殺到してきていた。
「思ったよりすぐばれたのぉ」
ヴィルマは目の前に編み出した魔法陣を軽く杖で叩く。すると周囲の空気が魔法陣へと集まり、烈風となってその先へと放たれる。
巻きこまれたゴブリンは四肢をずたずたに切り裂かれ、勢いをそのままに集落の中央あたりへと吹き飛ばされた。
「小さい集落だからな。寧ろ長く持ったほうじゃないか?」
大振りな直剣を片手に1本ずつ握り、それを軽々と振るいながらバレルがそう返した。
その間にも迫ってきたゴブリンの石斧を片方の剣で防ぐと、もう片方の金色の刃でその胴体を刺し貫く。
「ふむ。しかし、おかしいのぅ」
「どうかしたのか?」
ヴィルマは違和感を覚えて集落を見渡す。そこにいるゴブリン達や、あばら家の中も全てだ。そしてその違和感が何なのかはすぐに分かった。
「やはり、雌や子供のゴブリンが見当たらないのぅ」
「……それは今大事なことか?」
命を賭けた戦闘中の最中に気にすることではないかもしれないが、しかし気になってしまうのは仕方がない。
実際に、人の村や畑を襲う時は成熟したゴブリンばかりを見るので気にすることは少ないが、ゴブリンにだって雄雌の違いや子供はちゃんといる。突然沸いて出る歪虚と違ってちゃんとした生物なのだから。
なので集落ともなればゴブリンの雌や子供がいるのは当然で、1匹も見当たらないのは何らかの理由があって然るべきだろう。
「はてさて、これは例の怪しげな旅人の件といい。キナ臭くなってきたのぅ」
「いいから、早く、戦って、くれ!」
「おお、すまんのじゃ」
バレルは迫り来るゴブリンの攻撃を防ぎ、斬り倒し、蹴り倒しながら後ろに控えるヴィルマに声を荒げる。
その言葉にヴィルマは一言謝罪を口にしてから目の前に濃い紫色をした魔法陣を編みこんでいく。
「さて、それでは派手にいくぞ?」
「何っ!? ちょっと待――」
ヴィルマはバレルが反応するよりも早く、目の前に完成した魔法陣を杖で叩いた。
そこから吐き出されるのは一筋の紫電。空気を切り裂きながらハンターの動体視力でも到底捕らえきれない速度で迸り、直線上にいたあらゆる敵を全て貫き焼け焦がす。
ただ一つ唯一の例外は、バレルの体だけは綺麗に避けるようにしていったことだろうか。
「まあ、最初から避ける必要などなかったのじゃがな」
「……それを先に言え」
バレルからの非難を籠めた視線に、ヴィルマは茶目っ気を乗せた右目のウィンクで返した。
●洞窟の奥の真実
洞窟内を進むハンター達は迷うことなく奥へと進む。というより、一本道の為に迷うことなどなかった。
「いやぁ、洞窟の中を案内して貰おうと思ってたんっすけど。その必要はなかったっすね」
馨は暗い洞窟の奥を警戒して進みながらそう口に出した。
「そ、そうでしょう? だから私はここで待ってますので……」
「いいから先に進め。こんなところに置いてけるわけないだろう」
この期に及んでそんなことを言う旅人の背中をデルフィーノが押す。旅人はつんのめりながらも渋々といった様子で歩き続けた。
「貴方、やっぱり何か知ってるんじゃないの?」
旅人の横を歩くブラウはその顔を見上げながらそう問いかけた。旅人はやはり引きつった笑みを浮べるも、すぐに首を横に振ってそんなことはないと否定する。
「そう? でも、おかしいわね。貴方からは嘘の香りがするわ。ねえ、本当のことを教えて? じゃないと、嗅ぎ殺すわ」
「ひいっ!?」
ブラウの覚醒の証であるスカートの裾から伸びる幻影の手が旅人の顔に伸びる。それに旅人は仰け反って洞窟の壁に張り付いた。
「静かに。何かが動いた」
そこで洞窟の先をライトで照らしていたストゥールが小声で話しかけながら口元に指を当てる。
ハンター達も気を引き締めてゆっくりと進むと、そこには木組みで出来た簡素な檻のようなものがあった。
「うっ……誰、だ?」
そして、その檻の中には1人の男が倒れていた。そしてハンター一同はその顔に見覚えがあった。
ハンターオフィスで行方不明になったハンター達の顔写真として見せられた中の1人だ。暴行の所為で顔も腫れ上がっているが面影はある。
「無事だったんだな。他の3人は?」
「他の3人……あいつらは、死んだ。俺の目の前で、嬲り殺しにされたんだ」
檻の中の男は顔を伏せて感情の全く乗っていないかのような声でそう呟いた。
「そうっすか……とりあえずここから出ましょう。歩けるっすか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。本当に……」
馨は簡素な檻の扉を叩き壊すと、中の男に肩を貸して外へと連れ出した。
と、その時洞窟の更に奥からこちらへと何かが走ってくる音が聞こえた。
「ゴブリンか?」
「ああ、この奥に数匹いたはずだ」
ストゥールの言葉に男がそう答える。
「追われても面倒だな。数匹程度ならここで倒しちまうか」
デルフィーノが杖を取り出して洞窟の奥へと向けた。その瞬間だった。
ざくりと、デルフィーノの肩に刃が刺さった。それも背中のほうからだ。
「なに……!?」
視線を後ろに向けたデルフィーノの目には、今まさに助けだしたハンターの男がナイフを手に馨の首筋を狙う姿が移った。
男に肩を貸していた馨は、避けられないと分かると咄嗟に男の体を突き飛ばす。その凶刃は狙いが逸れたが馨の胸元を切り裂いた。
「何のつもりっすかねぇ!」
馨は小太刀を抜いてすぐに構える。何故この男が突然攻撃してきたのか分からない。しかし、明確な殺意を持って刃を振るってきたのは確かだ。
「こ、これでいいんですよね! これで俺のことは助けてくれるんですよね? そうですよね!?」
そしてまた唐突に旅人がそんなことを叫び始めた。話しかけているのは明らかに目の前にいるハンターの男だ。
しかし、これは一体どういうことなのか? 理解が追いつかない状態でハンター達の動きが僅かに鈍る。
「あア、もう用済みダな」
ハンターの男の声が突然しわがれて反響がかった声になった。そしてその腕を振るうと同時に幾本ものナイフがばら撒かれる。
「その声、その匂い……もしかして貴方、歪虚?」
「そうカモしれないナ」
飛んできたナイフを刀で打ち払ったブラウがそう尋ねた。ハンターの男はニヤリと笑みを浮かべ更にナイフを構える。
「歪虚か。ならば倒さなければならないな」
洞窟内に銃声が響く。ストゥールの大型拳銃から放たれた鉛弾をハンターの男は地面を蹴り、壁に張り付くようにして避けた。
「ちっ、ゴブリンもきやがった。こっちは俺が抑えるからそっちを何とかしろ!」
デルフィーノがそう声を上げる。そして杖を構え直し、その杖先に3つの光球を生み出すと、そこから一斉に光の刃が放たれて迫るゴブリンの体を貫く。
洞窟内が混戦状態になっている中、ブラウが視線を横にずらすとそこには旅人が倒れていた。その首筋には真横にざっくりと切り裂かれた傷があり、そこから血が止め処なく流れている。
「そう。貴方は利用されていただけなのね」
ブラウは倒れている旅人の傍に屈むとその首筋に手を当てた。旅人は瞳から涙を流しながら、声の出せなくなった口を開け閉めする。
「大丈夫よ。安心して。目を閉じて。ゆっくりと、おやすみなさい」
最後の言葉まで聞こえただろうか。それくらいのタイミングで旅人は事切れた。ブラウはそれを確認すると、血で濡れた手をそっと自分の顔に近づけ、思いっきりその香りを吸い込んだ。
「ふふ……あぁ、ここでも素晴らしい香りに包まれるのね……?」
甘美な香りに酔いしれ、しかし周囲からの雑音にすぐにその視線を旅人から他へと向ける。
「もっと、嗅がせてくれないかしら……そう、次は貴方の血を」
ブラウは血に濡れた手で振動刀の柄を握ると、一足の元に目標へと近づき抜刀した。
●殲滅の後
「それはつまり憑依型の歪虚だったのかのぅ?」
「恐らく。今となっては確かめようもないな」
静かになったゴブリンの集落で、ヴィルマの出した結論にストゥールは曖昧な返事と共に首を横に振った。
そこで洞窟の中から馨とデルフィーノが出てくる。その手には剣や杖、鎧の一部などが握られていた。
「恐らく、死んだハンター達の物だろう。死体はどこにもなかった」
「となると、他の3人の体も歪虚に乗っ取られてどこかにいるのか?」
デルフィーノの言葉にバレルが反応する。
「どうっすかね。俺達を襲ってきたハンター……の体を使ってた歪虚は武器を使ってきたっすし」
確かに人の体を使うならその利点である武器を置いていくということもないだろう。
となると死体はどこにいったのかは、あまり考えないほうがいいのかもしれない。
「さて、今回のお仕事はこれでおしまいね」
ブラウはスカートについた埃を払うようにして叩き、集落の外へと歩き出す。
「そろそろ帰りましょう。もうここの香りには飽きたわ」
そして最後にそう口にして小さく微笑んだ。
「数にして10と少し。確かにそいつの言葉通り嘘はじゃなかいみたいだな」
ストゥール(ka3669)は双眼鏡を覗くのを止め、後ろに振り返ってそう言った。
「と、当然ですよ。嘘なんてつくはずないじゃないですか」
旅人の男はやはりどこか引きつったような笑みを浮べながらそう口にする。
ハンター達は誰もがこの旅人を怪しんでいるが、その意図が上手く読み取れない。
もしやゴブリン達の仲間とも考えたが、そもそもゴブリンは人語を理解できるほどの知能もない。
人間の囮を使って別の人間を誘き寄せる策など考え付くような脳味噌も持ち合わせていないだろう。
「よう、旅人さんよ。本当にハンター達が捕われてるのはあの集落の奥にある洞窟なんだな?」
「はい。そう、です。それは間違いありません!」
デルフィーノ(ka1548)の質問に旅人は首を縦に何度も振って肯定の意を示した。
「けど何でハンター達があそこに捕まってるって知ってるんです? あっ、もしかしてハンターも一緒にゴブリンに捕まってて、隙を見て逃がして来れたんすか?」
「えっ? あっ、はい。そうです。無事に逃げ出せたのは私だけだったんです」
畳み掛けるような無限 馨(ka0544)の質問にも、旅人は少し声をどもらせながらも頷いてみせた。
(クク、なにやら理由がありそうじゃが怪しいのぅ。さてさて、どんな理由かのぉ)
そんな旅人の様子を少し離れたところから眺めていたヴィルマ・ネーベル(ka2549)は、つい笑いそうになるのを堪えて口元を押さえ平静を装う。
「どちらにせよあのゴブリン達を全滅させるのは確定事項なんでしょ? それじゃあ早くやってしまいましょう」
手にした刀の鞘を指でなぞりながらブラウ(ka4809)は他の仲間達にそう告げる。彼女の言う通り、ゴブリン退治も今回の依頼内容の1つだ。見つけたからには退治しないといけない。
「まあ、仕事は仕事。あの程度の数なら正面からでも問題ないと思うが、どうする?」
バレル・ブラウリィ(ka1228)も腰に下げた剣を抜き、戦闘体勢であることを示しながら仲間達を見渡す。
「確かにゴブリン程度ならって言いたいところだが。今回は捕まってるハンター達がいるからな。救助するまでは隠密で行きたいところだ」
顎に手を当てながらデルフィーノがそう意見した。
ゴブリンに人質を取るなんて知能があるかは疑問だが、万が一ということもある。
他のハンター達もそれに同意し、森の中を移動してゴブリンの集落の側面に回り洞窟入り口に近づくことに決めた。
「そ、それじゃあ。私は離れたところで隠れてますね」
そう言って旅人はその場から離れようとするが、その肩を馨の手が掴む。
「いやいや、ここで1人で行動するのは危ないですって」
「えっ? いや、でも私は戦えないので……」
「武器も何も持ってないんだろう? それなら俺達と一緒にいるのが一番安全だ」
バレルもそう言いながら旅人の後ろに回り、その背中をトンと押した。
旅人は顔色を青くさせながらも、ハンター達に逆らったりする気はないのか一度頷いて着いてくることに同意する。
「決まりだな。では、急ごう」
ストゥールはそう言いながら肩に掛かった長い黒髪を後ろに払った。
●洞窟前の攻防
木々の間を縫い、茂る枝葉の間から覗いた先には高さ2メートルほどの洞窟の入り口が見えた。その正面に見張りらしきゴブリンが2体立っている。
「どれ、我の出番のようじゃの」
ヴィルマは黄金色の杖をそっとゴブリン達に向ける。マテリアルが高まると同時に、ふわりと風もないのにヴィルマの前髪が浮き上がり、隠されていた右目とそこにある傷も顕になる。
しかし、そのことは誰も触れることはない。今ここは既に戦場なのだから。
「グギ……?」
気付けば洞窟の入り口の周囲に青白い霧が現れ、音もなくそこにいた2匹のゴブリン達を包み込んだ。
霧は僅か数秒で霧散していくが、その霧が消える頃には既にゴブリン達は夢の中へと落ちその場でうずくまるようにして寝息を立てていた。
「よし、それじゃあここは任せるぜ?」
「問題ない。煙草でも吸って……は、マズイか」
デルフィーノの言葉にバレルが答え、ついでに肩を竦めて見せた。
その時、鞘走りの音が聞こえたかと思えばすぐに肉と骨を断ち切るような音が鳴った。
そちらに視線を向ければ、振動刀を抜いたブラウが眠りに落ちていたゴブリンの首を刎ねていた。
「ゴブリンの血の匂いってあまり好きじゃないんだけれど……まあ、仕方がないわね」
ブラウは刀の刃に付いた血を一嗅ぎして、気に入らなかったのかすぐに刃を払って血を地面に飛ばす。
ハンター達はその様子を見て、揃って肩を竦めたところで洞窟内の探索班と出入口の確保班に分かれて行動を開始した。
そして探索班が洞窟に入って数分も経たないうちに、ゴブリン達は事態に気付いて各々武器を持ち洞窟の入り口へと殺到してきていた。
「思ったよりすぐばれたのぉ」
ヴィルマは目の前に編み出した魔法陣を軽く杖で叩く。すると周囲の空気が魔法陣へと集まり、烈風となってその先へと放たれる。
巻きこまれたゴブリンは四肢をずたずたに切り裂かれ、勢いをそのままに集落の中央あたりへと吹き飛ばされた。
「小さい集落だからな。寧ろ長く持ったほうじゃないか?」
大振りな直剣を片手に1本ずつ握り、それを軽々と振るいながらバレルがそう返した。
その間にも迫ってきたゴブリンの石斧を片方の剣で防ぐと、もう片方の金色の刃でその胴体を刺し貫く。
「ふむ。しかし、おかしいのぅ」
「どうかしたのか?」
ヴィルマは違和感を覚えて集落を見渡す。そこにいるゴブリン達や、あばら家の中も全てだ。そしてその違和感が何なのかはすぐに分かった。
「やはり、雌や子供のゴブリンが見当たらないのぅ」
「……それは今大事なことか?」
命を賭けた戦闘中の最中に気にすることではないかもしれないが、しかし気になってしまうのは仕方がない。
実際に、人の村や畑を襲う時は成熟したゴブリンばかりを見るので気にすることは少ないが、ゴブリンにだって雄雌の違いや子供はちゃんといる。突然沸いて出る歪虚と違ってちゃんとした生物なのだから。
なので集落ともなればゴブリンの雌や子供がいるのは当然で、1匹も見当たらないのは何らかの理由があって然るべきだろう。
「はてさて、これは例の怪しげな旅人の件といい。キナ臭くなってきたのぅ」
「いいから、早く、戦って、くれ!」
「おお、すまんのじゃ」
バレルは迫り来るゴブリンの攻撃を防ぎ、斬り倒し、蹴り倒しながら後ろに控えるヴィルマに声を荒げる。
その言葉にヴィルマは一言謝罪を口にしてから目の前に濃い紫色をした魔法陣を編みこんでいく。
「さて、それでは派手にいくぞ?」
「何っ!? ちょっと待――」
ヴィルマはバレルが反応するよりも早く、目の前に完成した魔法陣を杖で叩いた。
そこから吐き出されるのは一筋の紫電。空気を切り裂きながらハンターの動体視力でも到底捕らえきれない速度で迸り、直線上にいたあらゆる敵を全て貫き焼け焦がす。
ただ一つ唯一の例外は、バレルの体だけは綺麗に避けるようにしていったことだろうか。
「まあ、最初から避ける必要などなかったのじゃがな」
「……それを先に言え」
バレルからの非難を籠めた視線に、ヴィルマは茶目っ気を乗せた右目のウィンクで返した。
●洞窟の奥の真実
洞窟内を進むハンター達は迷うことなく奥へと進む。というより、一本道の為に迷うことなどなかった。
「いやぁ、洞窟の中を案内して貰おうと思ってたんっすけど。その必要はなかったっすね」
馨は暗い洞窟の奥を警戒して進みながらそう口に出した。
「そ、そうでしょう? だから私はここで待ってますので……」
「いいから先に進め。こんなところに置いてけるわけないだろう」
この期に及んでそんなことを言う旅人の背中をデルフィーノが押す。旅人はつんのめりながらも渋々といった様子で歩き続けた。
「貴方、やっぱり何か知ってるんじゃないの?」
旅人の横を歩くブラウはその顔を見上げながらそう問いかけた。旅人はやはり引きつった笑みを浮べるも、すぐに首を横に振ってそんなことはないと否定する。
「そう? でも、おかしいわね。貴方からは嘘の香りがするわ。ねえ、本当のことを教えて? じゃないと、嗅ぎ殺すわ」
「ひいっ!?」
ブラウの覚醒の証であるスカートの裾から伸びる幻影の手が旅人の顔に伸びる。それに旅人は仰け反って洞窟の壁に張り付いた。
「静かに。何かが動いた」
そこで洞窟の先をライトで照らしていたストゥールが小声で話しかけながら口元に指を当てる。
ハンター達も気を引き締めてゆっくりと進むと、そこには木組みで出来た簡素な檻のようなものがあった。
「うっ……誰、だ?」
そして、その檻の中には1人の男が倒れていた。そしてハンター一同はその顔に見覚えがあった。
ハンターオフィスで行方不明になったハンター達の顔写真として見せられた中の1人だ。暴行の所為で顔も腫れ上がっているが面影はある。
「無事だったんだな。他の3人は?」
「他の3人……あいつらは、死んだ。俺の目の前で、嬲り殺しにされたんだ」
檻の中の男は顔を伏せて感情の全く乗っていないかのような声でそう呟いた。
「そうっすか……とりあえずここから出ましょう。歩けるっすか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。本当に……」
馨は簡素な檻の扉を叩き壊すと、中の男に肩を貸して外へと連れ出した。
と、その時洞窟の更に奥からこちらへと何かが走ってくる音が聞こえた。
「ゴブリンか?」
「ああ、この奥に数匹いたはずだ」
ストゥールの言葉に男がそう答える。
「追われても面倒だな。数匹程度ならここで倒しちまうか」
デルフィーノが杖を取り出して洞窟の奥へと向けた。その瞬間だった。
ざくりと、デルフィーノの肩に刃が刺さった。それも背中のほうからだ。
「なに……!?」
視線を後ろに向けたデルフィーノの目には、今まさに助けだしたハンターの男がナイフを手に馨の首筋を狙う姿が移った。
男に肩を貸していた馨は、避けられないと分かると咄嗟に男の体を突き飛ばす。その凶刃は狙いが逸れたが馨の胸元を切り裂いた。
「何のつもりっすかねぇ!」
馨は小太刀を抜いてすぐに構える。何故この男が突然攻撃してきたのか分からない。しかし、明確な殺意を持って刃を振るってきたのは確かだ。
「こ、これでいいんですよね! これで俺のことは助けてくれるんですよね? そうですよね!?」
そしてまた唐突に旅人がそんなことを叫び始めた。話しかけているのは明らかに目の前にいるハンターの男だ。
しかし、これは一体どういうことなのか? 理解が追いつかない状態でハンター達の動きが僅かに鈍る。
「あア、もう用済みダな」
ハンターの男の声が突然しわがれて反響がかった声になった。そしてその腕を振るうと同時に幾本ものナイフがばら撒かれる。
「その声、その匂い……もしかして貴方、歪虚?」
「そうカモしれないナ」
飛んできたナイフを刀で打ち払ったブラウがそう尋ねた。ハンターの男はニヤリと笑みを浮かべ更にナイフを構える。
「歪虚か。ならば倒さなければならないな」
洞窟内に銃声が響く。ストゥールの大型拳銃から放たれた鉛弾をハンターの男は地面を蹴り、壁に張り付くようにして避けた。
「ちっ、ゴブリンもきやがった。こっちは俺が抑えるからそっちを何とかしろ!」
デルフィーノがそう声を上げる。そして杖を構え直し、その杖先に3つの光球を生み出すと、そこから一斉に光の刃が放たれて迫るゴブリンの体を貫く。
洞窟内が混戦状態になっている中、ブラウが視線を横にずらすとそこには旅人が倒れていた。その首筋には真横にざっくりと切り裂かれた傷があり、そこから血が止め処なく流れている。
「そう。貴方は利用されていただけなのね」
ブラウは倒れている旅人の傍に屈むとその首筋に手を当てた。旅人は瞳から涙を流しながら、声の出せなくなった口を開け閉めする。
「大丈夫よ。安心して。目を閉じて。ゆっくりと、おやすみなさい」
最後の言葉まで聞こえただろうか。それくらいのタイミングで旅人は事切れた。ブラウはそれを確認すると、血で濡れた手をそっと自分の顔に近づけ、思いっきりその香りを吸い込んだ。
「ふふ……あぁ、ここでも素晴らしい香りに包まれるのね……?」
甘美な香りに酔いしれ、しかし周囲からの雑音にすぐにその視線を旅人から他へと向ける。
「もっと、嗅がせてくれないかしら……そう、次は貴方の血を」
ブラウは血に濡れた手で振動刀の柄を握ると、一足の元に目標へと近づき抜刀した。
●殲滅の後
「それはつまり憑依型の歪虚だったのかのぅ?」
「恐らく。今となっては確かめようもないな」
静かになったゴブリンの集落で、ヴィルマの出した結論にストゥールは曖昧な返事と共に首を横に振った。
そこで洞窟の中から馨とデルフィーノが出てくる。その手には剣や杖、鎧の一部などが握られていた。
「恐らく、死んだハンター達の物だろう。死体はどこにもなかった」
「となると、他の3人の体も歪虚に乗っ取られてどこかにいるのか?」
デルフィーノの言葉にバレルが反応する。
「どうっすかね。俺達を襲ってきたハンター……の体を使ってた歪虚は武器を使ってきたっすし」
確かに人の体を使うならその利点である武器を置いていくということもないだろう。
となると死体はどこにいったのかは、あまり考えないほうがいいのかもしれない。
「さて、今回のお仕事はこれでおしまいね」
ブラウはスカートについた埃を払うようにして叩き、集落の外へと歩き出す。
「そろそろ帰りましょう。もうここの香りには飽きたわ」
そして最後にそう口にして小さく微笑んだ。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/23 13:08:31 |
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ハンター捜索とゴブリン退治 無限 馨(ka0544) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/09/24 04:44:09 |