ゲスト
(ka0000)
過去からの便り。スケルトンの群
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/09/22 19:00
- 完成日
- 2015/09/30 02:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今からほんの数年前、グラムヘイズ王国は滅びの縁に立っていた。
西から迫る歪虚の軍勢の前に、国王は倒れ高位の騎士は激減。
聖堂戦士団にも大きな被害が発生し現在でも完全には立ち直れていない。
歪虚の軍勢は辛うじて退けたものの、その爪痕は至る所に残っている。
「化けて出るなよー」
言葉の割に真摯な声をかけ、愛しい赤子に触れるような手つきで白骨を回収する。
ここは王国西部の田舎道近く。正確に表現するなら人里から直線距離で20キロメートル、道から北に2キロメートルの荒れ地だ。
「頑張ったなぁ」
半ばすり潰された骨を撫でる。
撫でる老人の目が潤んでいるのは気のせいではないだろう。
夜明けから正午過ぎまでかけて20近くの遺骨を回収した後、老人はあなたに向き直って深く頭を下げた。
「ありがとう。儂1人ではここまで来れんかった」
あなたがうけたのはこの老人の護衛だ。
混乱する戦場で全滅し、戦後の混乱で忘れ去られた者達の帰還支援でもある。
首を横に振り、手伝おうかと提案すると柔らかく謝絶されてしまった。
老人、いや、良く見るとせいぜい50かそこらの男が回収作業に戻る。
深い傷を負って退役を余儀なくされたらしく、骨も筋も太いのに動きは鈍く肌も枯れている。
こっそり手伝おうかとあなたが考え始めたとき、虫の音よりずっと小さな何かが耳に届いた。
覚醒する。
数歩進んで老人を庇う位置で停止。
得物に手をかけたまま五感を研ぎ澄ませると、乾ききったもの同士が触れる軽い音が聞こえた。
「あ、あぁ……」
老人が悲痛な呻きを漏らす。
荒野のあちらこちらから、汚れきったスケルトンが何体もおきあがりこちらを見ている。
負のマテリアルに汚染された物体。
格は最下級である雑魔の中でも下の方。
精々、乏しい精力を使って腕で凪いだり、自己を崩壊させながら骨を投げる程度のことしかできない。
1対1なら無傷で勝てるかもしれない敵だ。
「10を超えて……。いかん、儂を置いて逃げ」
雇い主が何か言っているが無視をする。
敵はスケルトンの大集団、味方は小勢
それでも、数年前の戦いに比べれば酷く難易度が低い。
あなたは老人に指示を出し、かつての戦士の意思を踏みにじるものに攻撃を仕掛けた。
西から迫る歪虚の軍勢の前に、国王は倒れ高位の騎士は激減。
聖堂戦士団にも大きな被害が発生し現在でも完全には立ち直れていない。
歪虚の軍勢は辛うじて退けたものの、その爪痕は至る所に残っている。
「化けて出るなよー」
言葉の割に真摯な声をかけ、愛しい赤子に触れるような手つきで白骨を回収する。
ここは王国西部の田舎道近く。正確に表現するなら人里から直線距離で20キロメートル、道から北に2キロメートルの荒れ地だ。
「頑張ったなぁ」
半ばすり潰された骨を撫でる。
撫でる老人の目が潤んでいるのは気のせいではないだろう。
夜明けから正午過ぎまでかけて20近くの遺骨を回収した後、老人はあなたに向き直って深く頭を下げた。
「ありがとう。儂1人ではここまで来れんかった」
あなたがうけたのはこの老人の護衛だ。
混乱する戦場で全滅し、戦後の混乱で忘れ去られた者達の帰還支援でもある。
首を横に振り、手伝おうかと提案すると柔らかく謝絶されてしまった。
老人、いや、良く見るとせいぜい50かそこらの男が回収作業に戻る。
深い傷を負って退役を余儀なくされたらしく、骨も筋も太いのに動きは鈍く肌も枯れている。
こっそり手伝おうかとあなたが考え始めたとき、虫の音よりずっと小さな何かが耳に届いた。
覚醒する。
数歩進んで老人を庇う位置で停止。
得物に手をかけたまま五感を研ぎ澄ませると、乾ききったもの同士が触れる軽い音が聞こえた。
「あ、あぁ……」
老人が悲痛な呻きを漏らす。
荒野のあちらこちらから、汚れきったスケルトンが何体もおきあがりこちらを見ている。
負のマテリアルに汚染された物体。
格は最下級である雑魔の中でも下の方。
精々、乏しい精力を使って腕で凪いだり、自己を崩壊させながら骨を投げる程度のことしかできない。
1対1なら無傷で勝てるかもしれない敵だ。
「10を超えて……。いかん、儂を置いて逃げ」
雇い主が何か言っているが無視をする。
敵はスケルトンの大集団、味方は小勢
それでも、数年前の戦いに比べれば酷く難易度が低い。
あなたは老人に指示を出し、かつての戦士の意思を踏みにじるものに攻撃を仕掛けた。
リプレイ本文
「死者の最後の眠りを妨げようとは、許し難い行いです」
日下 菜摘(ka0881)が断言する。
「ことここに至っては、速やかにもう一度眠らせてあげるのが最大の慈悲です。聖導士の端くれとして尽力させて頂きます」
ハンター達もそれぞれに同意を示す。
動揺する依頼人を庇う形で、総勢8人のハンターが動き出した。
「失礼します」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)が魔導二輪を起動させて片手でハンドルを保持、歩きながら依頼人である老人に接近。
軍人時代に覚えたやり方を思いだし片手のみを使って抱え上げ、アクセルを慎重に吹かし安全な方向へ移動する。
安全運転を鼻で笑う危険運転だ。覚醒して能力が急上昇しているため老人に負担はないとはいえ、この状態で敵からの攻撃を躱すのは困難極まる。
『依頼人は任せた』
2メートルを超える長身がフィルメリアのバイクから離れて行く。
スケルトンの方がまともにすら感じられる不吉な気配をまとい、チマキマル(ka4372)が濃い緑を踏み越えスケルトンの一団の前に立ちふさがる。
生物の骨や金が、闇色の衣に似合いすぎるほど似合っている黒衣には全く汚れがない。
それは非物理的な存在であり、チマキマルのマテリアルにして本質そのものであった。
『さてさて……実験させてもらおうか』
冷たく重い声が響く。
長身と比べると短く見える魔杖にマテリアルを通し、敵意どころか戦意すら見せずに起動の言葉を口にする。
『雷』
白く波打つ大蛇が地面と水平に征く。
先頭のスケルトンに触れる。
最初に肋骨が黒ずむ。秒も持たずに芯まで焼けて、雷に耐えきれずに内側から弾け飛ぶ。
大蛇の動きは止まらない。
続くスケルトンのうち片腕が失われた1体を消し炭に変え、もう1体をこんがり焼いたところでようやく止まる。
『馬か』
チマキマルが歩みを止めずつぶやく。
ハンターの馬やパルムは大丈夫だが依頼人の馬が怯えている気がする。
彼はワンドを掲げる。
スケルトンを遮る形で爆発が起こる。
辛うじて生き残ったスケルトンが気圧され、感情がないはずなのに一歩下がった。
チマキマルは無言で魔杖を掲げ、ただ1人で東側の敵を抑えきっていた。
●
乾いた骨と骨が触れあう耳障りな音が聞こえる。
歳経た男の慟哭が伴奏をつとめ、戦場の悲惨さを否応なく盛り上げる。
「敵襲。スケルトンのみ最低10」
Uisca Amhran(ka0754)は言い終える前にスケルトンに立ちふさがる。
敵勢先頭、骸骨が身の丈ほどもある剣を鋭く振り下ろす。
「誰にも傷一つつけさせませんっ」
ゴースロン種の上からスケルトンを見下ろし、Uiscaは盾の位置を指の幅2本分移動させた。
錆びた刃が円形の盾に当たる。
破壊することも押しのけることもできず、表面を滑って明後日の方向に逸らされる。
「この聖剣の一振りで」
陽の光の下でも輝くワンドを剣の如く振るう。
光が強まる。
ワンドから膨大な光がうまれ、先端に集中してレイピアに似た形をとる。
その白さは激しいと同時に清らかだ。虚無を断つ聖剣と呼ばれても全く違和感がない。
スケルトンが全力で大剣を引き戻す。
亀裂だらけの錆剣がぎりぎりで光のレイピアを捕捉する。
それはスケルトンの技量ではなく滅多にない幸運によるものだが、Uiscaの力は不運幸運でどうにかできるほど甘くはない。
強い光が傷だらけの大剣に小さな穴を開ける。
光の切っ先は貫通の際エネルギーを使い威力が弱まっている。
その弱まった切っ先がスケルトンの背骨を貫通する。元の威力が極めて高いため、少々弱まってもスケルトン程度に抵抗出来ない。
Uiscaが鋭く息を吐いて光のレイピアを上に跳ね上げる。
スケルトンの背骨と頭蓋骨が正確に二等分され負のマテリアルが消える。
残った遺骨が軽い音を立て、乾いた地面に転がった。
●
スケルトンの動きが目に見えて乱れた。
「援護はお任せ下さいー、今なら何と通常の2割引きで継続しますよ」
しゃらりしゃらりと鈴の音を響かせながら最上 風(ka0891)が平坦な声で宣伝する。
日下 菜摘(ka0881)が上品に噴き出す。
「依頼人のお爺さまにお願いしてみる?」
冗談を言いながらマテリアル操作を継続。
メイム(ka2290)の斧に対する精霊力付与に成功し、次のスキル行使にとりかかる。
風は参ったと言いたげに両手をあげる。帽子装備についた特徴的な目玉状飾りが、冗談はこれくらいにしとくね言いたげに瞬きした、ような気がした。
ほほえましいやりとりに気づかず軍馬が爆走する。
乗り手はメイム(ka2290)。
左右の縦ロールが向かい風に煽られて後ろ向きになり、片刃の斧が剣呑な光を放っていた。
「あたれ~っ」
スケルトンの兜に当たって滑る直前で刃がめり込み、そのまま突き進んで兜を断ち割った。
残骸が転がり落ちる。
頭蓋骨の一部が駆け落ち、衝撃で後ろに飛ばされそうになるのを骨の両脚で踏ん張り耐える。
スケルトンが反撃する。
かつてはよく手入れされていただろう剣が、メイムの顔面を狙い案外鋭く突き出された。
メイムは小型盾を操り危なげなく受け止める。盾と剣が拮抗し耳障りな音を立てた。
拮抗に炊きれず罅の入った切っ先が砕ける。
小さな破片が飛び、メイムのしっとりした頬に薄く紅い傷をつけた。
「やるね」
恐れず不敵に笑う。
「行って、キノコっ」
パルムがメイムの肩から跳んだ。
メイムから借りた魔力をまとって見事に3回転半。した直後に両脚を揃えて壊れかけの頭に蹴りを見舞い、反動でメイムの後ろへ跳んで逃げた。
「なつみさん、ボルドーさんのフォローを」
これなら己1人で抑えられると判断し、メイムは素早く仲間に提案した。
「馬を使った戦いになっています。私では追いつけません」
一瞬戦場奥に目を向け、菜摘は即座に判断し返答する。
「うん、だったら」
スケルトンが突き出す切っ先を軽く横に跳んで避け。
「倒して援護に行こう!」
斧を片手で振り回す。
骨が肩を突きだし鎧の厚い部分で受け、辛うじて致命傷を避ける。
メイムの攻撃は終わらない。
スケルトンからの壁になる位置を保ちながら容赦なく斧を振り下ろし、黄ばんだ頸骨を砕いて遺骨を負のマテリアルから解放したのだった。
●
戦場を大きく迂回し走る影が1つ。
オイマト族の中年戦士、ボルドー(ka5215)である。
同じ依頼を受けたハンターから離れる行動だが、当然正統な理由あっての行動だ。
「亡者は地に帰るが定め! 安らかにお眠りなさい!」
遠くに見える菜摘の手の中、鎖が鳴った。
白色の鉄球がマテリアルを浴び淡く光る。
随分と離れた場所にいたただのスケルトンが、上半身の右半分を消し飛ばされ大きくよろめいた。
スケルトンは1度だけ菜摘を見て、反転して駆け出す。
歪虚にとっては命ある者を殺すのが本能のようなものだが、勝ち目が全くない相手からは逃げもする。逃げたて弱いものを滅ぼす方がずっと簡単なのだから。
逃げたのはそのスケルトンだけではない。戦闘開始直後に逃げたスケルトンに、今ようやく退路を完全に断った上で追いついたところだった。
「仕留めるか」
依頼人からの距離は現時点で数十メートル。普通に考えれば依頼放棄とみなされない距離だが、今回に限っては他に選択肢がない。
短弓から矢を放つ。
狙うのが骨であっても問題ない。覚醒者の力で引かれた弓は強大な力で矢を打ち出し、当たった骨を砕くだけでなくその周囲の骨まで衝撃で傷つける。
新たに現れたスケルトンは雑魔としても下限に近い力しか持たず、1矢で限界を超え骨ごとにばらばらになる。
「ふん」
一瞬に満たない間、鞘に収納されたままの剣を意識する。
残念ながら弓ほどの威力は出ない。
劣等感と呼ぶには弱い感情を鍛えた心で抑え、移動は行わず次の矢を弓につがえる。
新たにスケルトン2体が近づいてくる。
ボルドーが仕留め損なえば、スケルトンは新たな戦場を求めて荒野を彷徨うことになる。
特に何の感慨も抱かず弓を構え、放つ。
右側のスケルトンの腰部分を射貫く。
2度悶えて動かなくなるが、ボルドーは手応えのみで射殺を確信し、3の矢は用意せずに再度馬を駆けさせる。
「同じ戦士として、死後も冒涜されるというのは耐えがたい」
鞘から抜き、マテリアルを込め横に振るう。
焦げた頭蓋が地面に転がり落ち、首から下もすぐに動きが止まった。
●
「遺骨を拾いに来てスケルトン退治ですか。こうなってしまっては仕方ないですね。この場で全て斃すとしましょうか」
スケルトンを認識した時点でマテリアルの準備を開始している。
言い終えた瞬間火球が発生し、エルバッハ・リオン(ka2434)が飛ばしてスケルトン集団中央で炸裂した。
複数のスケルトンが見えなくなる。乾いた砂が舞い上がり、遺骨が残っているかどうかも分からない。
十代の少女なら動揺し思考が止まってもおかしくはない場景だ。しかしエルバッハは歴戦のハンターであり、戦場で同様するほど軟弱ではない。
「このまま殲滅……という訳にもいきませんか」
狙ったスケルトンの半分以上は戦闘能力を失っている。残った少数も再度のファイアーボールで容易に処理できる。
「スケルトンが依頼人に向け移動中。警戒してください」
エルバッハは攻撃を中止し補助的な術を発動。現れた石壁が、依頼人に向かおうとしたスケルトンを遮った。
乾いた骨が石壁を打つ。
骨が砕けはしても壁は削れず、スケルトンは貴重な攻撃の機会を無駄にしてしまう。
「死した後も、タダ働きさせられるのは、辛そうなので、さっさと安らかな眠りについて貰いましょうー」
淡々とした風の声とは対照的に、鈴の音が優しく響く。
骸骨の動きは乱れに乱れたままだ。
けれど移動速度だけは変わらない。
殴っていた1体も石壁を避けようと横移動、別の1体は最初から石壁を避け老人の元へ向かおうとする。
真横から光弾が飛来し頭蓋を貫通。スケルトンが慌てて周囲を確認する。
「頑丈ね」
菜摘がほんの少しだけ困惑している。
歪虚の中の雑魚である雑魔、その中でも最底辺近いスケルトンにしては妙に頑丈だ。
「遺骨の回収ができそうで何よりだわ」
再度の光弾。崩れ落ちるスケルトン。
歪虚に変化した直後で存在する力を消費しきっていないからだろう。地面に落ちた遺骨は消えず、静かに揺れていた。
「よかった」
エルバッハが胸をなで下ろす。ドレスと鎧の上からでも分かる胸が美しく揺れる。
雑魔とはいえ歪虚相手に手を抜くのは愚の骨頂とはいえ、遺骨が無事に回収できるなら出来ないよりずっと良い。
念には念を入れて詠唱。
風の刃をつくりだし、未だ動き続ける骨を砕いて雑魔としての存在を終了させた。
●
「すまん、申し訳無いっ」
老人の涙が止まらない。
古傷が残る馬が主に寄り添い、ハンターに支配されている戦場を注意深く見つめている。
「いけるわね」
依頼人を鞍に乗せて馬に目配せすると、馬は微かに足を引きずりながら、スケルトンを刺激しない速度で後退していった。
フィルメリアが息を吐く。
壊れ物を安全な場所に移る作業はこれで終了だ。
パルムが魔導二輪から飛び降りるのと、フィルメリアが絶妙な力加減でアクセルを踏むのはほぼ同時。
手を振るパルムに見送られ、濃く茂った茂みの脇を一瞬で駆け抜け戦場に突入する。
透き通った蒼と緑の瞳に、未だ抵抗を続けるスケルトンが映った。
『構わぬ』
チマキマルはフィルメリアの意図を察した。
悠然と構えを解き高みからスケルトンを見下ろす。
軽くうなずいて感謝を示す。転倒しない速度まで減速しバイクから飛び降り、今度はマテリアルを噴射することで加速する。
スケルトンがフィルメリアを見失う。
遅めの馬に匹敵する速度は予想も出来なかったらしく、背後から回り込んだフィルメリアに全く気づけない。
「もうこれ以上、貴方達が戦う必要はないから……」
白銀の刀が背骨を最小限切り裂く。
月桂樹という銘に相応しく、負のマテリアルを打ち払いかつての戦士をあるべき姿に引き戻す。
「間に合い」
キコキコと自転車を漕ぐ音が急速接近する。
「ましたね」
ブレーキをかけタイヤが削れる音も聞こえる。
風がまじめくさった顔で咳払い。葬儀に相応しい重厚な音でレイクエムを奏でる。
スケルトンの動きが大いに乱れた。
フィルメリアは必死に突き出された腕を易々と躱し、至近距離にまで近づく。
「後の心配はせずに、安らかに眠って」
声をかけるのは先に倒れた戦士であり、生き延びた老人と馬であり、歪虚は単なる障害物としてしか認識していない。
最後に残った雑魔を突いて止めを刺す。
風雨で汚れた骨が力を失い落下を始め、フィルメリアの手で優しく抱きとめられた。
●
老人がよろめきながら骨に近づいていく。
「申し訳ありませんが、予期せぬ戦闘が発生した以上、目的を達成してすぐに撤収するため、手伝わせてください」
エルバッハの声は冷たくもないが甘くもない。
ここが人里離れた危険な場所であるのは変えられない事実なのだ。依頼人の安全のためにも長居できない。
黙々と回収作業を続けるエルバッハ達の近くで、多数の注射器がいきなり現れ、ハンター目がけて飛んだ。
注射器が刺さり中身をハンターの中に押し込む様を、老人が大口を開け呆然と眺めている。
「かすり傷の治療でお金を取るわけにも……」
葛藤する風に、ハンター達から妙に暖かな視線が集まる。
最後の骨を遺体袋に入れた後、菜摘は額の汗を清潔なハンカチでぬぐい呼吸を整えた。
「二度と歪虚に穢されぬように、せめて祈りの言葉だけでもあげさせて頂きます」
頭を下げる。王国の戦士とは信仰の形が違うが、真摯な想いに反発を覚える遺族はいないだろう。
「遺骨を傷めることになってごめんなさい、彼らが正常な循環に還れるよう祈っているんだよ」
メイムがエクラ教式ではない礼に従い祈りを捧げる。
地球生まれの風がいいのかなぁと思って視線を向けると、エルフの聖導士が神妙な表情でうなずいた。
「エクラ教はあまり五月蠅くないですから」
口を閉じ、精神を集中し、予め依頼人に了解をとった鎮魂歌を歌い始める。
声量は非常に豊かだ。音響設備などない荒野に、戦士を讃え慰める音が広がっていく。
老人が無言のまま両手をあわせる。
馬が古傷だらけの頭を寄せる。
「多分、祈りは届きますよー、例え生まれや種族、宗教が違っても」
空は高く、白い小鳥が何羽も飛んでいる。
風が帽子をとって自身の胸元に置き、深々と頭を下げた。
ソサエティ支部に到着した後、遺骨は有志聖導士によって各地の遺族のもとへ運ばれた。
有志から報告が行われ、聖堂教会の一部も遺骨回収に動き始めたらしい。
日下 菜摘(ka0881)が断言する。
「ことここに至っては、速やかにもう一度眠らせてあげるのが最大の慈悲です。聖導士の端くれとして尽力させて頂きます」
ハンター達もそれぞれに同意を示す。
動揺する依頼人を庇う形で、総勢8人のハンターが動き出した。
「失礼します」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)が魔導二輪を起動させて片手でハンドルを保持、歩きながら依頼人である老人に接近。
軍人時代に覚えたやり方を思いだし片手のみを使って抱え上げ、アクセルを慎重に吹かし安全な方向へ移動する。
安全運転を鼻で笑う危険運転だ。覚醒して能力が急上昇しているため老人に負担はないとはいえ、この状態で敵からの攻撃を躱すのは困難極まる。
『依頼人は任せた』
2メートルを超える長身がフィルメリアのバイクから離れて行く。
スケルトンの方がまともにすら感じられる不吉な気配をまとい、チマキマル(ka4372)が濃い緑を踏み越えスケルトンの一団の前に立ちふさがる。
生物の骨や金が、闇色の衣に似合いすぎるほど似合っている黒衣には全く汚れがない。
それは非物理的な存在であり、チマキマルのマテリアルにして本質そのものであった。
『さてさて……実験させてもらおうか』
冷たく重い声が響く。
長身と比べると短く見える魔杖にマテリアルを通し、敵意どころか戦意すら見せずに起動の言葉を口にする。
『雷』
白く波打つ大蛇が地面と水平に征く。
先頭のスケルトンに触れる。
最初に肋骨が黒ずむ。秒も持たずに芯まで焼けて、雷に耐えきれずに内側から弾け飛ぶ。
大蛇の動きは止まらない。
続くスケルトンのうち片腕が失われた1体を消し炭に変え、もう1体をこんがり焼いたところでようやく止まる。
『馬か』
チマキマルが歩みを止めずつぶやく。
ハンターの馬やパルムは大丈夫だが依頼人の馬が怯えている気がする。
彼はワンドを掲げる。
スケルトンを遮る形で爆発が起こる。
辛うじて生き残ったスケルトンが気圧され、感情がないはずなのに一歩下がった。
チマキマルは無言で魔杖を掲げ、ただ1人で東側の敵を抑えきっていた。
●
乾いた骨と骨が触れあう耳障りな音が聞こえる。
歳経た男の慟哭が伴奏をつとめ、戦場の悲惨さを否応なく盛り上げる。
「敵襲。スケルトンのみ最低10」
Uisca Amhran(ka0754)は言い終える前にスケルトンに立ちふさがる。
敵勢先頭、骸骨が身の丈ほどもある剣を鋭く振り下ろす。
「誰にも傷一つつけさせませんっ」
ゴースロン種の上からスケルトンを見下ろし、Uiscaは盾の位置を指の幅2本分移動させた。
錆びた刃が円形の盾に当たる。
破壊することも押しのけることもできず、表面を滑って明後日の方向に逸らされる。
「この聖剣の一振りで」
陽の光の下でも輝くワンドを剣の如く振るう。
光が強まる。
ワンドから膨大な光がうまれ、先端に集中してレイピアに似た形をとる。
その白さは激しいと同時に清らかだ。虚無を断つ聖剣と呼ばれても全く違和感がない。
スケルトンが全力で大剣を引き戻す。
亀裂だらけの錆剣がぎりぎりで光のレイピアを捕捉する。
それはスケルトンの技量ではなく滅多にない幸運によるものだが、Uiscaの力は不運幸運でどうにかできるほど甘くはない。
強い光が傷だらけの大剣に小さな穴を開ける。
光の切っ先は貫通の際エネルギーを使い威力が弱まっている。
その弱まった切っ先がスケルトンの背骨を貫通する。元の威力が極めて高いため、少々弱まってもスケルトン程度に抵抗出来ない。
Uiscaが鋭く息を吐いて光のレイピアを上に跳ね上げる。
スケルトンの背骨と頭蓋骨が正確に二等分され負のマテリアルが消える。
残った遺骨が軽い音を立て、乾いた地面に転がった。
●
スケルトンの動きが目に見えて乱れた。
「援護はお任せ下さいー、今なら何と通常の2割引きで継続しますよ」
しゃらりしゃらりと鈴の音を響かせながら最上 風(ka0891)が平坦な声で宣伝する。
日下 菜摘(ka0881)が上品に噴き出す。
「依頼人のお爺さまにお願いしてみる?」
冗談を言いながらマテリアル操作を継続。
メイム(ka2290)の斧に対する精霊力付与に成功し、次のスキル行使にとりかかる。
風は参ったと言いたげに両手をあげる。帽子装備についた特徴的な目玉状飾りが、冗談はこれくらいにしとくね言いたげに瞬きした、ような気がした。
ほほえましいやりとりに気づかず軍馬が爆走する。
乗り手はメイム(ka2290)。
左右の縦ロールが向かい風に煽られて後ろ向きになり、片刃の斧が剣呑な光を放っていた。
「あたれ~っ」
スケルトンの兜に当たって滑る直前で刃がめり込み、そのまま突き進んで兜を断ち割った。
残骸が転がり落ちる。
頭蓋骨の一部が駆け落ち、衝撃で後ろに飛ばされそうになるのを骨の両脚で踏ん張り耐える。
スケルトンが反撃する。
かつてはよく手入れされていただろう剣が、メイムの顔面を狙い案外鋭く突き出された。
メイムは小型盾を操り危なげなく受け止める。盾と剣が拮抗し耳障りな音を立てた。
拮抗に炊きれず罅の入った切っ先が砕ける。
小さな破片が飛び、メイムのしっとりした頬に薄く紅い傷をつけた。
「やるね」
恐れず不敵に笑う。
「行って、キノコっ」
パルムがメイムの肩から跳んだ。
メイムから借りた魔力をまとって見事に3回転半。した直後に両脚を揃えて壊れかけの頭に蹴りを見舞い、反動でメイムの後ろへ跳んで逃げた。
「なつみさん、ボルドーさんのフォローを」
これなら己1人で抑えられると判断し、メイムは素早く仲間に提案した。
「馬を使った戦いになっています。私では追いつけません」
一瞬戦場奥に目を向け、菜摘は即座に判断し返答する。
「うん、だったら」
スケルトンが突き出す切っ先を軽く横に跳んで避け。
「倒して援護に行こう!」
斧を片手で振り回す。
骨が肩を突きだし鎧の厚い部分で受け、辛うじて致命傷を避ける。
メイムの攻撃は終わらない。
スケルトンからの壁になる位置を保ちながら容赦なく斧を振り下ろし、黄ばんだ頸骨を砕いて遺骨を負のマテリアルから解放したのだった。
●
戦場を大きく迂回し走る影が1つ。
オイマト族の中年戦士、ボルドー(ka5215)である。
同じ依頼を受けたハンターから離れる行動だが、当然正統な理由あっての行動だ。
「亡者は地に帰るが定め! 安らかにお眠りなさい!」
遠くに見える菜摘の手の中、鎖が鳴った。
白色の鉄球がマテリアルを浴び淡く光る。
随分と離れた場所にいたただのスケルトンが、上半身の右半分を消し飛ばされ大きくよろめいた。
スケルトンは1度だけ菜摘を見て、反転して駆け出す。
歪虚にとっては命ある者を殺すのが本能のようなものだが、勝ち目が全くない相手からは逃げもする。逃げたて弱いものを滅ぼす方がずっと簡単なのだから。
逃げたのはそのスケルトンだけではない。戦闘開始直後に逃げたスケルトンに、今ようやく退路を完全に断った上で追いついたところだった。
「仕留めるか」
依頼人からの距離は現時点で数十メートル。普通に考えれば依頼放棄とみなされない距離だが、今回に限っては他に選択肢がない。
短弓から矢を放つ。
狙うのが骨であっても問題ない。覚醒者の力で引かれた弓は強大な力で矢を打ち出し、当たった骨を砕くだけでなくその周囲の骨まで衝撃で傷つける。
新たに現れたスケルトンは雑魔としても下限に近い力しか持たず、1矢で限界を超え骨ごとにばらばらになる。
「ふん」
一瞬に満たない間、鞘に収納されたままの剣を意識する。
残念ながら弓ほどの威力は出ない。
劣等感と呼ぶには弱い感情を鍛えた心で抑え、移動は行わず次の矢を弓につがえる。
新たにスケルトン2体が近づいてくる。
ボルドーが仕留め損なえば、スケルトンは新たな戦場を求めて荒野を彷徨うことになる。
特に何の感慨も抱かず弓を構え、放つ。
右側のスケルトンの腰部分を射貫く。
2度悶えて動かなくなるが、ボルドーは手応えのみで射殺を確信し、3の矢は用意せずに再度馬を駆けさせる。
「同じ戦士として、死後も冒涜されるというのは耐えがたい」
鞘から抜き、マテリアルを込め横に振るう。
焦げた頭蓋が地面に転がり落ち、首から下もすぐに動きが止まった。
●
「遺骨を拾いに来てスケルトン退治ですか。こうなってしまっては仕方ないですね。この場で全て斃すとしましょうか」
スケルトンを認識した時点でマテリアルの準備を開始している。
言い終えた瞬間火球が発生し、エルバッハ・リオン(ka2434)が飛ばしてスケルトン集団中央で炸裂した。
複数のスケルトンが見えなくなる。乾いた砂が舞い上がり、遺骨が残っているかどうかも分からない。
十代の少女なら動揺し思考が止まってもおかしくはない場景だ。しかしエルバッハは歴戦のハンターであり、戦場で同様するほど軟弱ではない。
「このまま殲滅……という訳にもいきませんか」
狙ったスケルトンの半分以上は戦闘能力を失っている。残った少数も再度のファイアーボールで容易に処理できる。
「スケルトンが依頼人に向け移動中。警戒してください」
エルバッハは攻撃を中止し補助的な術を発動。現れた石壁が、依頼人に向かおうとしたスケルトンを遮った。
乾いた骨が石壁を打つ。
骨が砕けはしても壁は削れず、スケルトンは貴重な攻撃の機会を無駄にしてしまう。
「死した後も、タダ働きさせられるのは、辛そうなので、さっさと安らかな眠りについて貰いましょうー」
淡々とした風の声とは対照的に、鈴の音が優しく響く。
骸骨の動きは乱れに乱れたままだ。
けれど移動速度だけは変わらない。
殴っていた1体も石壁を避けようと横移動、別の1体は最初から石壁を避け老人の元へ向かおうとする。
真横から光弾が飛来し頭蓋を貫通。スケルトンが慌てて周囲を確認する。
「頑丈ね」
菜摘がほんの少しだけ困惑している。
歪虚の中の雑魚である雑魔、その中でも最底辺近いスケルトンにしては妙に頑丈だ。
「遺骨の回収ができそうで何よりだわ」
再度の光弾。崩れ落ちるスケルトン。
歪虚に変化した直後で存在する力を消費しきっていないからだろう。地面に落ちた遺骨は消えず、静かに揺れていた。
「よかった」
エルバッハが胸をなで下ろす。ドレスと鎧の上からでも分かる胸が美しく揺れる。
雑魔とはいえ歪虚相手に手を抜くのは愚の骨頂とはいえ、遺骨が無事に回収できるなら出来ないよりずっと良い。
念には念を入れて詠唱。
風の刃をつくりだし、未だ動き続ける骨を砕いて雑魔としての存在を終了させた。
●
「すまん、申し訳無いっ」
老人の涙が止まらない。
古傷が残る馬が主に寄り添い、ハンターに支配されている戦場を注意深く見つめている。
「いけるわね」
依頼人を鞍に乗せて馬に目配せすると、馬は微かに足を引きずりながら、スケルトンを刺激しない速度で後退していった。
フィルメリアが息を吐く。
壊れ物を安全な場所に移る作業はこれで終了だ。
パルムが魔導二輪から飛び降りるのと、フィルメリアが絶妙な力加減でアクセルを踏むのはほぼ同時。
手を振るパルムに見送られ、濃く茂った茂みの脇を一瞬で駆け抜け戦場に突入する。
透き通った蒼と緑の瞳に、未だ抵抗を続けるスケルトンが映った。
『構わぬ』
チマキマルはフィルメリアの意図を察した。
悠然と構えを解き高みからスケルトンを見下ろす。
軽くうなずいて感謝を示す。転倒しない速度まで減速しバイクから飛び降り、今度はマテリアルを噴射することで加速する。
スケルトンがフィルメリアを見失う。
遅めの馬に匹敵する速度は予想も出来なかったらしく、背後から回り込んだフィルメリアに全く気づけない。
「もうこれ以上、貴方達が戦う必要はないから……」
白銀の刀が背骨を最小限切り裂く。
月桂樹という銘に相応しく、負のマテリアルを打ち払いかつての戦士をあるべき姿に引き戻す。
「間に合い」
キコキコと自転車を漕ぐ音が急速接近する。
「ましたね」
ブレーキをかけタイヤが削れる音も聞こえる。
風がまじめくさった顔で咳払い。葬儀に相応しい重厚な音でレイクエムを奏でる。
スケルトンの動きが大いに乱れた。
フィルメリアは必死に突き出された腕を易々と躱し、至近距離にまで近づく。
「後の心配はせずに、安らかに眠って」
声をかけるのは先に倒れた戦士であり、生き延びた老人と馬であり、歪虚は単なる障害物としてしか認識していない。
最後に残った雑魔を突いて止めを刺す。
風雨で汚れた骨が力を失い落下を始め、フィルメリアの手で優しく抱きとめられた。
●
老人がよろめきながら骨に近づいていく。
「申し訳ありませんが、予期せぬ戦闘が発生した以上、目的を達成してすぐに撤収するため、手伝わせてください」
エルバッハの声は冷たくもないが甘くもない。
ここが人里離れた危険な場所であるのは変えられない事実なのだ。依頼人の安全のためにも長居できない。
黙々と回収作業を続けるエルバッハ達の近くで、多数の注射器がいきなり現れ、ハンター目がけて飛んだ。
注射器が刺さり中身をハンターの中に押し込む様を、老人が大口を開け呆然と眺めている。
「かすり傷の治療でお金を取るわけにも……」
葛藤する風に、ハンター達から妙に暖かな視線が集まる。
最後の骨を遺体袋に入れた後、菜摘は額の汗を清潔なハンカチでぬぐい呼吸を整えた。
「二度と歪虚に穢されぬように、せめて祈りの言葉だけでもあげさせて頂きます」
頭を下げる。王国の戦士とは信仰の形が違うが、真摯な想いに反発を覚える遺族はいないだろう。
「遺骨を傷めることになってごめんなさい、彼らが正常な循環に還れるよう祈っているんだよ」
メイムがエクラ教式ではない礼に従い祈りを捧げる。
地球生まれの風がいいのかなぁと思って視線を向けると、エルフの聖導士が神妙な表情でうなずいた。
「エクラ教はあまり五月蠅くないですから」
口を閉じ、精神を集中し、予め依頼人に了解をとった鎮魂歌を歌い始める。
声量は非常に豊かだ。音響設備などない荒野に、戦士を讃え慰める音が広がっていく。
老人が無言のまま両手をあわせる。
馬が古傷だらけの頭を寄せる。
「多分、祈りは届きますよー、例え生まれや種族、宗教が違っても」
空は高く、白い小鳥が何羽も飛んでいる。
風が帽子をとって自身の胸元に置き、深々と頭を下げた。
ソサエティ支部に到着した後、遺骨は有志聖導士によって各地の遺族のもとへ運ばれた。
有志から報告が行われ、聖堂教会の一部も遺骨回収に動き始めたらしい。
依頼結果
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相談卓 ボルドー(ka5215) 人間(クリムゾンウェスト)|52才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/09/22 16:05:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/22 12:50:03 |