ゲスト
(ka0000)
石を喰む獣
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/24 07:30
- 完成日
- 2015/10/02 00:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●運び手
渓谷の横にある線路を赤い車体のトロッコ列車が白い蒸気を吐きながら進んでいく。
ガタガタと揺れる車内ではアグナルが前方を確認し、しっかりと握ったハンドルはそのまま、ちらりとメーターを見た。
「おぉい、スノーリ! そろそろ山に入るぞー」
アグナルの背後で「わかっとるわい」というしゃがれ声で返事が返ってきた。
スノーリと呼ばれた男は、たき口の蓋を開けると、ざっくざっくと魔導鉱石を導入する。
「ホォル、メーター!」
ホォルと呼ばれた若い帝国軍服を着た男はぐんぐんと右へ右へと動く針を追いながら「赤いメモリまで来ました」と答えると、スノーリは鉱石の導入を止めて蓋を閉じた。
ホォルはこのたき口から、真っ赤に燃える鉱石を見るのが好きだった。
「おい! ホォル!! 呆けてるんじゃねぇ!」
「あだっ!」
スノーリのすすまみれの手で頭を小突かれて、ホォルは「すみません」と小さく謝った。
「あっはっは、ホォルはコイツが大好きだからなぁ。でももうそろそろ愛でて呆けるだけじゃなくて、扱えるようになってもらわなきゃなぁ!」
アグナルの大らかな笑い声が前方から響き、ホォルは「はい、頑張ります」と声を張る。
「返事だきゃ、一人前なんだがなぁ」
「ちがいねぇ」と笑うスノーリとアグナルの二人はトロッコ列車製作計画が発案されると同時に、一般技能者の中から引き抜かれ軍人になったという経歴の持ち主だった。
明るく根っからの職人気質の二人は話しも合うらしく、プライベートでも仲が良い。
他にもこういった経歴の者はいたが、新人のホォルにとってはこの二人と組む時が1番楽しく、雑談をしながらも勉強になった。
ガタガタと列車は揺れ、山の中をシュシュ、シュシュと上機嫌な歌を歌いながら進んでいく。
この山を抜ければ目的地であるアルムスターまではなだらかな道のりだった。
みっしりと鉱石を詰めたトロッコを3つ引っ張りながら、汽車は緩やかに下り坂に入っていった。
●急襲
山を抜け、なだらかな斜面をトロッコ列車は進む。
まばらに針葉樹が生えてはいるが、見通しも悪くない地形となり、アグナルはガリガリと飴を噛み砕きながら、上機嫌でハンドルを操作する。
その時、突然後ろの貨車の車輪とレールが悲鳴を上げた。
車体から飛び出そうになる衝撃に、危うく舌を噛みそうになって、ホォルの全身から冷や汗がどっと溢れた。
「何だ? どうした!?」
「わからねぇ。貨車のどれかが脱線でもしたか……?」
アグナルがブレーキを操作して列車を止めると、スノーリが運転室から飛び降りて車輪と線路の確認に行く。
「あ、僕も行きます!」
壁に括り付けていた大剣を背負うと、スノーリの後に続いた。
「……なんだ、ありゃあ」
足を止めたスノーリの視線の先では、毛むくじゃらの猿のような獣が鉱石を手に、それを頬張った。
石の擦れ潰れる咀嚼音が聞こえ、ホォルは見開いた目でその獣を見ていた。
スノーリは直ぐに踵を返すと、呆けているホォルの首筋をひっつかんだ。
「荷は捨てて行く、逃げるぞ!」
「え!? でもっ、でも!」
「お前のそのでっかい目は何を見とるんだ!? 上を見てみろ!」
スノーリの言葉に視線を地面の猿から車輪、トロッコの壁へと移し、「ひっ」とホォルは息を詰めた。
トロッコの上には、同じような黒い猿の群れが赤い瞳をホォル達へと向けていた。
「ホォル、火を炊け! オレは錬結を外してくる!」
ホォルを運転室側へと押しやると、スノーリは動力部とトロッコを繋ぐ連結部へと戻っていく。
ホォルは転がるように運転室へ行くと、既にアグナルがたき口に鉱石を放り入れていた。
「やれるか?」
無精髭だらけのアグナルの、今までに見たことも無い程の厳しい表情に、ホォルも「やります」と頷いてスコップを受け取った。
チン、と小さなベルが鳴らされたのを聞いたアグナルは、汽笛を一つ鳴らして、ブレーキを外す。
徐々に動き出す車体の横をスノーリは全力で走って運転室への握り棒を握る。
「スノーリさん!」
反対の手をホォルがしっかと握り、スノーリをギリギリの所で引き上げて、3人のドワーフはそれぞれに安堵の溜息を吐いた。
ホォルは窓から身を乗り出してトロッコを見る。
無数の猿が嬉しそうに鉱石をむさぼり食べては、地面に降りてごろごろと転がっている、その様を見えなくなるまで瞳に焼き付けた。
●出立
「どういうことです?」
第六師団ショーフェルラッドバッガー(通称SRB)の副師団長、イズン・コスロヴァ(kz0144)は左眉を跳ね上げるようにして目の前の報告書を持った内務兵を睨め付けた。
イズンの視線を受けたドワーフの兵士は、彼女の不機嫌顔など何処吹く風と言わんばかりの無表情で首を振った。
詳しく各部隊の出向先を聞けば、そこから部隊を引き上げ、整えて作戦開示、出発となると結局5日以上のロスとなることがわかり、イズンは更に苦虫を噛み潰したような顔になると、悪態を吐いた。
「トロッコ事故現場まではアルムスターから馬を使ってのおおよそ2時間の距離ですね。ここからなら4時間ほどの距離です」
地図を指し示しながら、事故現場と思われる場所をトントンと人差し指で叩いた。
幸いにして人的被害は出ていないが、それはこの雑魔の群れに顕著な特性があった為とも思われていた。
「……しかし、鉱石を食べる雑魔ですか……」
イズンは左人差し指の第2関節を咥えて黙り込んだ。
これは彼女の思案する時のクセで、こうなると殆ど人の話を聞いていないという事を知っている兵士は、彼女が再び顔を上げるまで辛抱強く静かに待った。
「ハンター達の力を借りましょう。私が出ます。隊長各位に伝達を出してください。私がいない間のことはヴァーリ殿に指示を仰ぐように、と」
ヴァーリとは第六師団長のドワーフの男性だ。覚醒者では無く、元々鍛冶職人であったため、今もアルムスターにある自分の工房に籠もって殆ど出てこないという偏屈者でもある。
それでもドワーフ達の間では伝説の存在として語り継がれ、祭り上げられており、その発言力はとてつもなく強い。
団員の6割がドワーフという構成の第六師団において、それは絶大な影響力があった。
その為、彼は殆ど表に出てこず、ほぼ9割の雑事は副師団長であるイズンが担当している。
――とは、表向きの口上である。
「……それは、ヴァーリ様が嫌がりそうですね……」
実際の所は己のライフワークである鍛冶作業に専念したいだけ、と言うのが幹部一同の認識である。
「緊急事態です。こちらに呼び戻さないだけマシだと思って頂きましょう」
出ます、と一言告げてイズンは立ち上がると、そのまま扉を開けて退室する。
それを見送った内務兵の男は、クキクキと首を左右に曲げながら小さく溜息を吐いたのだった。
渓谷の横にある線路を赤い車体のトロッコ列車が白い蒸気を吐きながら進んでいく。
ガタガタと揺れる車内ではアグナルが前方を確認し、しっかりと握ったハンドルはそのまま、ちらりとメーターを見た。
「おぉい、スノーリ! そろそろ山に入るぞー」
アグナルの背後で「わかっとるわい」というしゃがれ声で返事が返ってきた。
スノーリと呼ばれた男は、たき口の蓋を開けると、ざっくざっくと魔導鉱石を導入する。
「ホォル、メーター!」
ホォルと呼ばれた若い帝国軍服を着た男はぐんぐんと右へ右へと動く針を追いながら「赤いメモリまで来ました」と答えると、スノーリは鉱石の導入を止めて蓋を閉じた。
ホォルはこのたき口から、真っ赤に燃える鉱石を見るのが好きだった。
「おい! ホォル!! 呆けてるんじゃねぇ!」
「あだっ!」
スノーリのすすまみれの手で頭を小突かれて、ホォルは「すみません」と小さく謝った。
「あっはっは、ホォルはコイツが大好きだからなぁ。でももうそろそろ愛でて呆けるだけじゃなくて、扱えるようになってもらわなきゃなぁ!」
アグナルの大らかな笑い声が前方から響き、ホォルは「はい、頑張ります」と声を張る。
「返事だきゃ、一人前なんだがなぁ」
「ちがいねぇ」と笑うスノーリとアグナルの二人はトロッコ列車製作計画が発案されると同時に、一般技能者の中から引き抜かれ軍人になったという経歴の持ち主だった。
明るく根っからの職人気質の二人は話しも合うらしく、プライベートでも仲が良い。
他にもこういった経歴の者はいたが、新人のホォルにとってはこの二人と組む時が1番楽しく、雑談をしながらも勉強になった。
ガタガタと列車は揺れ、山の中をシュシュ、シュシュと上機嫌な歌を歌いながら進んでいく。
この山を抜ければ目的地であるアルムスターまではなだらかな道のりだった。
みっしりと鉱石を詰めたトロッコを3つ引っ張りながら、汽車は緩やかに下り坂に入っていった。
●急襲
山を抜け、なだらかな斜面をトロッコ列車は進む。
まばらに針葉樹が生えてはいるが、見通しも悪くない地形となり、アグナルはガリガリと飴を噛み砕きながら、上機嫌でハンドルを操作する。
その時、突然後ろの貨車の車輪とレールが悲鳴を上げた。
車体から飛び出そうになる衝撃に、危うく舌を噛みそうになって、ホォルの全身から冷や汗がどっと溢れた。
「何だ? どうした!?」
「わからねぇ。貨車のどれかが脱線でもしたか……?」
アグナルがブレーキを操作して列車を止めると、スノーリが運転室から飛び降りて車輪と線路の確認に行く。
「あ、僕も行きます!」
壁に括り付けていた大剣を背負うと、スノーリの後に続いた。
「……なんだ、ありゃあ」
足を止めたスノーリの視線の先では、毛むくじゃらの猿のような獣が鉱石を手に、それを頬張った。
石の擦れ潰れる咀嚼音が聞こえ、ホォルは見開いた目でその獣を見ていた。
スノーリは直ぐに踵を返すと、呆けているホォルの首筋をひっつかんだ。
「荷は捨てて行く、逃げるぞ!」
「え!? でもっ、でも!」
「お前のそのでっかい目は何を見とるんだ!? 上を見てみろ!」
スノーリの言葉に視線を地面の猿から車輪、トロッコの壁へと移し、「ひっ」とホォルは息を詰めた。
トロッコの上には、同じような黒い猿の群れが赤い瞳をホォル達へと向けていた。
「ホォル、火を炊け! オレは錬結を外してくる!」
ホォルを運転室側へと押しやると、スノーリは動力部とトロッコを繋ぐ連結部へと戻っていく。
ホォルは転がるように運転室へ行くと、既にアグナルがたき口に鉱石を放り入れていた。
「やれるか?」
無精髭だらけのアグナルの、今までに見たことも無い程の厳しい表情に、ホォルも「やります」と頷いてスコップを受け取った。
チン、と小さなベルが鳴らされたのを聞いたアグナルは、汽笛を一つ鳴らして、ブレーキを外す。
徐々に動き出す車体の横をスノーリは全力で走って運転室への握り棒を握る。
「スノーリさん!」
反対の手をホォルがしっかと握り、スノーリをギリギリの所で引き上げて、3人のドワーフはそれぞれに安堵の溜息を吐いた。
ホォルは窓から身を乗り出してトロッコを見る。
無数の猿が嬉しそうに鉱石をむさぼり食べては、地面に降りてごろごろと転がっている、その様を見えなくなるまで瞳に焼き付けた。
●出立
「どういうことです?」
第六師団ショーフェルラッドバッガー(通称SRB)の副師団長、イズン・コスロヴァ(kz0144)は左眉を跳ね上げるようにして目の前の報告書を持った内務兵を睨め付けた。
イズンの視線を受けたドワーフの兵士は、彼女の不機嫌顔など何処吹く風と言わんばかりの無表情で首を振った。
詳しく各部隊の出向先を聞けば、そこから部隊を引き上げ、整えて作戦開示、出発となると結局5日以上のロスとなることがわかり、イズンは更に苦虫を噛み潰したような顔になると、悪態を吐いた。
「トロッコ事故現場まではアルムスターから馬を使ってのおおよそ2時間の距離ですね。ここからなら4時間ほどの距離です」
地図を指し示しながら、事故現場と思われる場所をトントンと人差し指で叩いた。
幸いにして人的被害は出ていないが、それはこの雑魔の群れに顕著な特性があった為とも思われていた。
「……しかし、鉱石を食べる雑魔ですか……」
イズンは左人差し指の第2関節を咥えて黙り込んだ。
これは彼女の思案する時のクセで、こうなると殆ど人の話を聞いていないという事を知っている兵士は、彼女が再び顔を上げるまで辛抱強く静かに待った。
「ハンター達の力を借りましょう。私が出ます。隊長各位に伝達を出してください。私がいない間のことはヴァーリ殿に指示を仰ぐように、と」
ヴァーリとは第六師団長のドワーフの男性だ。覚醒者では無く、元々鍛冶職人であったため、今もアルムスターにある自分の工房に籠もって殆ど出てこないという偏屈者でもある。
それでもドワーフ達の間では伝説の存在として語り継がれ、祭り上げられており、その発言力はとてつもなく強い。
団員の6割がドワーフという構成の第六師団において、それは絶大な影響力があった。
その為、彼は殆ど表に出てこず、ほぼ9割の雑事は副師団長であるイズンが担当している。
――とは、表向きの口上である。
「……それは、ヴァーリ様が嫌がりそうですね……」
実際の所は己のライフワークである鍛冶作業に専念したいだけ、と言うのが幹部一同の認識である。
「緊急事態です。こちらに呼び戻さないだけマシだと思って頂きましょう」
出ます、と一言告げてイズンは立ち上がると、そのまま扉を開けて退室する。
それを見送った内務兵の男は、クキクキと首を左右に曲げながら小さく溜息を吐いたのだった。
リプレイ本文
●酒盛
それは異様な光景だった。
トロッコの上に登った黒い獣が我先にと銀鉱石を握り占めて頬張る。
そして、後からやってきた獣に突き落とされても、握り占めた石を食べては地面にだらしなく突っ伏したり、気持ちよさそうにごろごろと転がっていたりする。
ついには無理矢理最後部のトロッコを転がして銀鉱石を周囲にぶちまけると、地面を転がっていた獣も再び鉱石を頬張り、更にふにゃふにゃと地面に寝そべる。
トロッコの周囲には満腹になったのか、ある程度点在した状態で獣たちが思い思いに寝転がっている。
……何となく、またたびを与えた時の猫に近いものがあるような気がしなくも無い、とミオレスカ(ka3496)は思ったが、一緒にしてやりたくない程度には異様な光景だった。
魔導バイクに跨がったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は、フルスロットルのまま地ベタに貼り付いた雑魔を一刀両断、真一文字に引き裂いた。
そのまま勢いを殺すこと無くバイクで走り抜けながら数体の雑魔を攻撃し、その先に居たイズン・コスロヴァ(kz0144)の姿を見つけてその前でバイクを止めた。
「ご足労頂き、感謝します」
イズンの言葉にエヴァンスは唇の端を持ち上げた。
「偶然とはいえこの俺が参加したんだ。積荷の安全は保証されたようなもんだぜ?」
自信に溢れるその言葉は、彼の今までの戦歴から裏付けされたものだ。
今回の相手は名のある歪虚ではなく、自然に沸いて出たと思われる名も無い雑魔……エヴァンスにとってはいささか物足りない相手とすら思えた。
「それは心強い。頼りにしています」
造形は美しいが、どこか冷たさを感じさせる容貌の口元にだけ笑みを浮かべ、イズンは小さく頷いた。
魔導二輪を操りながら尾形 剛道(ka4612)はその鋭い嗅覚で尾の長い個体を見つけて攻撃を繰り出した。
しかし、獣もその一撃を姿に見合わぬ素早い身のこなしで避けると、尾を鞭のようにしなりながら襲いかかってきた。
「っとあぶねェ!」
それを頭を下げることで回避して、後輪を滑らせながら方向転換して再び対峙する。
その時、ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)が木の陰より放った強弾が獣の右肩を撃ち抜き、金属が摺り合わせた時のような不快感を伴う悲鳴が上がった。
「おー、サンキュー!」
剛道は誰かは判らないままに礼を告げると、楽しそうに目を細めて再びバイクのアクセルをふかした。
「変わった個体ですね-」
思わず両耳を押さえて悲鳴を遮りながら、ナナセは自分の頭上にちょこんと座っている「妖精さん」に向かって微笑みかけた。
「周囲の警戒はお願いしますね-。さーて、次はどれを撃ちましょうか!」
徐々に混戦となりつつある戦場を見ながら、ナナセは次の目標に照準を合わせた。
龍崎・カズマ(ka0178)とアイビス・グラス(ka2477)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は3人で1組となり連携を取りながら攻撃を仕掛けていた。
3人共が馬を巧みに操り、早駆けで同じ個体へと向かい、すれ違い様に攻撃していく。
「理屈は判らないけど、鉱石の成分が酔いの原因みたいになってるのかな……」
アルトは少し考えるように首を傾げた。
「……ふん。流石に傷が浅いか」
カードを投げて手応えを確認したカズマは、仕方が無い、と首を左右に折って骨を鳴らすと、アルトが頷いて同意する。
「『硬くて攻撃が通らない』何てことがなくて良かったけど、あの顎力と歯は気をつけた方が良さそうだ」
「では、全力で行きましょう」
アルトの言葉にアイビスが頷き、再び愛馬に敵へ向かうよう指示を出し、走り始めた。
その途中で馬から飛び降り、瞬脚で一気に対象の敵へと詰め寄ると発勁掌波で石を食べることに集中している獣の後頭部に一撃を叩き込む。
その後に続いてカズマが広範囲にカードを投射し、一帯に居る獣たちを纏めて傷付け、アルトはアイビスが攻撃した獣をオートMURAMASAで斬り付けて仕留める。
傷付けられた獣たちはギリギリと金属を摺り合わせるような音を立てながら、ふらつく足取りでゆっくりと3人の方を向いた。
カズマはカードを仕舞い、ベーレイニガンを構えると、飛び掛かって来た獣へと槍を振り上げた。
「地味に裏方で頑張るつもりだったんだけどなぁ」
カイ(ka3770)はガラにも無く舌打ちをしながら、トラバサミが発動した時のような音を立てながら噛みついてくる獣の牙を紙一重で避け、長剣状にしたユナイテッド・ドライブ・ソードで横薙いだ。
罠を作ろうと思っていたが、そもそも既に敵に占拠された場所であることからそれが叶わなかったのだ。
そしていくら移動力を上げ、命中率を上げたところでその一撃は浅く、致命傷に至らない。
「アレがボス猿かな……?」
一際大きな体躯と長い尾を持つ黒い獣が中央のトロッコの端に腰掛けて銀を貪り食っているのを見つける。
しかし、そこまでは地面に転がっているまだ20近くいる雑魔たちを倒さなくては辿り着けそうに無い。
「おぃ、あぶねぇぞ!」
前方を注視していたカイの後ろから声がかかり、嫌な予感に慌てて身を伏せると、その頭上を光線が真っ直ぐに走り、目の前にいた雑魔を貫いた。
魔導バイクに跨がりながら、シケモクを咥えた鵤(ka3319)がへらへらっとカイに笑いかける。
「いや、すまんねぇ。わざとじゃないんだよ?」
「いや、助かった」
鵤が放ったデルタレイを警戒してか、獣たちはカイから距離を取って身を低く構えている。
「んー……銀を食べて時間が経つと酔いが覚めるみたいだねえ」
鵤は冷静に雑魔達を観察しながら呟く。
「にしても、銀を食べるなんざどれだけ贅沢思考なわけよぉ。大人しくただの岩でも貪ってりゃあよかったのにねぇ?」
「はーい、寝ないようにー。注意してくださいねぇ!」
鵤の言葉をかき消すように、楽しそうなおっとりとした声が響くと、カイの周囲を青白い雲状のガスが覆った。
「!?」
カイは慌てて息を止めながらその範囲から脱出する。
「……んー……効果は半々ってところですかねぇ」
スリープクラウドを獣の群れに放った桐壱(ka1503)がぐびり、と最後の一滴を飲み干す。
「わー、酒乱だぁ、酒乱がいるぞぉ」
「えー? 人聞きが悪いなぁ、イカルガさん。ボク酔ってなんかいませんよぉ」
そうにこにこと微笑みながらも、桐壱の視線はしっかりと獣たちを追っている。
「じゃぁ、おめめぱっちり起きてるヤツからやりましょうかねぇ?」
鵤がネーベルナハトを構え、再びデルタレイを放つ準備に入る。
それを見て桐壱も火矢を放つ為に、すぅっと息を吸い込みゴールデン・バウへと意識を集中させたのだった。
「何ですかねえ、数が多いから確実な手段を取りますかねえ」
ノーマン・コモンズ(ka0251)は微笑みを浮かべたまま、二振りの小太刀を手に一番手短な所でぐったりと横たわっている雑魔に向かって疾走した。
迷い無く一気に切り付けると、再び距離を取って構え直す。
金属が擦り合わさるような歯ぎしりをしながら獣がのそりと上体を起こした所を、東側の斜面に身を伏していたヴェンツェル(ka3170)が頭部を撃ち、再び地面へと転がした。
「よ~く狙ってっと」
スコープ越しに地面を痛みにのたうち回る獣を見て、得意げに鼻の頭を掻いた。
「……あぁ、もうアレは近接の人で倒せそうかな?」
柊 真司(ka0705)の放ったファイアスローワーにより炎に包まれたのを見て、ヴェンツェルは狙いを別の個体に変えて、再び引き金に指を掛けた。
「気をつけろ、来るぞ!」
真司の言葉と同時にノーマンは笑みを崩さないまま後ろへと跳び下がる。そこへ尾が鞭のように地面を叩き付けて土埃を巻き上げた。
「あまり線路やトロッコに被害が出ないように、引き付けながら戦おう」
「了解っと」
尾の攻撃を左の剣で受け止めると、右の剣で尾を叩き斬る。文字通りの金切り声が響き、思わずノーマンも眉をひそめた。
先ほど消滅した雑魔と共に焼かれた3体の獣が、ノーマンと真司の方へじりじりと距離を縮めて来る。
その2人に向かって後ろから戦馬が駆け寄ってくると、2人を追い越し一気に3体を薙ぎ払った。
「食い過ぎで動きが鈍ってくれるならいいなって思ってたけど……これは予想外だったな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が見る限り鉱石を食べた雑魔達は確かにおぼつかない足取りだった。それでも目が回っている訳では無いらしく、攻撃してくるその狙いは正確だった。
「危ない!」
レイオスの背後に別の猿が迫っていた。その胴をヴェンツェルの鋭弾が捉え、その足をミオレスカの凍矢が貫き、自由を奪った。
「サンキュ!」
レイオスは愛馬を旋回させ、自分を襲おうとしていた猿に向かって雷撃刀を渾身の力を込めて振り下ろす。
さらにそこにノーマンが走り寄り斬り付け、真司が高威力の炎をぶつける。
「よし、この調子で森に逃がさない様に退治していこうぜ!」
真司とレイオスがそれぞれヴェンツェルとミオレスカの姿を見つけて手を振った。
2人もそれに手を上げて応えると、次の雑魔へと各々の武器を構えた。
「……兵庫、後ろは任せてくれ。お前が存分に戦えるように援護をしよう」
「……アバルト、援護は任せた。信頼しているぜ、相棒」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は榊 兵庫(ka0010)の向かう先に向かって弾幕を張った。
それにより動きが鈍くなった集団を兵庫は槍で薙ぎ払いながら突き抜ける。
その先にエヴァンスの姿を認め、兵庫は素早く道を空けると、兵庫が貫いて割れた群れへとバイク毎エヴァンスは突っ込んでいった。
「無茶するなぁ」
確かにバイクの機動力をフルに活かした戦い方ではある。
しかし、雑魔とて学習するのだろう、来ると分かっているのならその長い尾、もしくは鋭い爪で待ち構え、飛び掛かることが出来る。
ところが、エヴァンスはそれすらもテンペストで受け流し、バイク上でありながらも身を低くして躱すなどして群れから飛び出る。
「……こりゃ、負けてられねぇな」
愛馬に走るよう合図を送り、十字文槍を構えると、その様子を見たアバルトがタイミング良く再び弾幕を張る。
その弾幕の中へと兵庫は愛馬を飛び込ませ、思いっきり槍で薙ぎ払いながら突き進んで行った。
●演物
地面でゴロゴロと気持ちよさそうにしていた雑魔達も、漸く自分達が何者かに攻撃を受けていることを把握してきたらしい。
ゆらりと上体を揺らしながら、でたらめな動きで鋭い爪を振り回す。
「っつ!」
ざっくりと左腕を切り裂かれてカイは痛みに顔をしかめた。
「伏せて、下さい!」
ミオレスカの声と共に周囲に矢の雨が降り注ぐ。
前から襲いかかってきた雑魔を躱した所を、後ろから右の肩口を噛みつかれ、剛道は思わず低く呻きながら、大太刀の柄の頭でその額を殴り付け、歯が外れた瞬間に回し蹴りで距離を取った。
アイビスもまた長い尾に左頬を思いっきり叩かれ、悲鳴も上げられないまま地面へと倒れた。
「アイビスさん!」
アルトは強くアイビスを打った獣を睨み付けると、愛馬をそれへ向けて走らせた。
再び尾が今度はアルトを狙うが、アルトは巧みに愛馬を跳躍させてその一撃を躱し、すれ違い様に振動刀で斬り付けた。
カズマもまた同じ獣へ向かおうとして、ゆらりと揺れる影を目の端に捉えた時にはその爪で足を裂かれた。
でたらめな動きな分、予測が立てづらく、避けにくい。
「酔拳みたいだな」
思わず呟いた真司の言葉にそばに居たエヴァンスが首を傾げた。
「スイケン? なんだそれは」
「リアルブルーにある武術……なのかな。本物は見た事ないけど」
『酔えば酔うほど強くなる』というキャッチコピーを思い出しながら、映画のワンシーンを真似て構えてみせた。
「変な体術だな」
レイオスが見たまま率直な意見を口にする。
「まぁ、フィクションだからね。実際にあるのかは俺も知らない」
「何にせよ、油断大敵ってこったな」
エヴァンスは唇の端を持ち上げながら、グレートソードを振り上げると、再びアクセルをふかし斬り込んでいく。
その後を追ってレイオスも愛馬を駈けさせ、真司も魔導計算機を構えて走り出した。
アバルトの冷弾により動きが鈍くなった雑魔に兵庫が槍を勢いよく突き刺す。
「ぐっ!」
その傍らでノーマンが腹部を爪で抉られていた。
その猿に向かってナナセが頭部を貫通する一矢を放つ。
それでもまだ動くのを見て「しぶといですねぇ」と呟いた桐壱が火矢を放つ。
さらにそこに一発の銃弾が撃ち込まれ、漸く動かなくなったのを見届けて、鵤が大げさに溜息を吐いてみせる。
「酔っ払いは酔っ払いのまま寝ててくれたらいいのにねぇ」
「ご苦労お掛けて申し訳ありません」
金の髪を頭頂部で結んだ、軍服に身を包んだ猟撃士が鵤の後ろから声を掛け、丁寧に頭を下げた。
「あー、えーと、おたくが依頼主さん?」
「はい、イズンと申します」
「初めまして、桐壱と申します~。こちらの人数は少ないですが、ボクたちも一応ハンターなので。まぁ、出来る限りのことはしますよ~」
「来るぞ!」
のんびりとした桐壱の挨拶にイズンが言葉を返そうとするのを遮るように兵庫の鋭い声が飛んだ。
見れば同時に3体の雑魔がこちらへ向かって走ってきていた。
「へいへいっと」
鵤がひょい、と魔導槍を回して光の三角形を描くとその頂点から光線が伸び、3体を貫く。
それでもまだ走り寄る雑魔の一体をナナセとイズンが射抜き、桐壱が火矢を放った後、アバルトが冷弾で強制的に足止めをする。
鵤の攻撃と同時に飛び出していた兵庫は一番足の速い個体に槍を突き刺し、ノーマンが一気に距離を詰めると小太刀で斬り付けた。
追いついてきた一体に兵庫は足を鞭打たれたが、愛馬に傷が無い事に内心胸を撫で下ろしながら、槍を勢いよく突き下ろした。
そこに一台の魔導二輪が勢いよく飛び込んでくると、シートから跳躍してきりもみ回転しながら大太刀を構えた剛道が一体の胴を切り裂くと同時に地面へと強かに全身を打ち付けた。
「ちょ、大丈夫か!?」
「……あぁ、何てことねェよ」
元々あった傷口が開いたのでは無いかと兵庫が問うと、剛道は痛む身体に鞭打って立ち上がった。
実は騎乗したままでは踏み込めないことを失念していた為、強硬手段に出たなんて事は口が裂けても言えない剛道である。
「……来いよ。こちとら飢えて飢えて仕方ねェんだ!」
残り一体へ向けて剛道が挑発の言葉を放つと、雑魔は耳障りな金切り声を上げて一直線に走り寄ってくる。
一同はそれを倒す事に集中したのだった。
「おっと、危ない。こっちに来るんじゃねぇよ」
ヴェンツェルは音も無く近寄ってきた猿を発見すると、直ぐ様ライフルの引き金を引く。
しかし、1人では倒すのに時間が掛かることも重々承知していたので、距離を取る。
そこへミオレスカの矢が降り、地面へと猿は縫い付けられ、さらにカイが斬り込む。
手負いだったらしい猿はそれで塵へと還っていく。
「ありがとよ」
「お互い様ってね」
そう口元に弧を浮かべるカイの全身はあちこちが斬り付けられている有様だった。
「指揮を執ってるヤツがいるはずなんだけどね」
「指揮執ってるかどうかはわからないけど、多分アイツ」
カイが真ん中のトロッコの上で食べ続けている一回り大きな黒い塊を指差す。
「アイツだけがずっと喰ってて、動いてない」
「……なるほど」
2人は顔を見合わせて、頷いた。
●泥酔
ヴェンツェルと合流したミオレスカは「なるほど」と頷いた。
ミオレスカはトランシーバーを取り出すとそれに向かって声をかけ始めた。
「アイビスさん、聞こえますか? どうぞ」
暫く雑音が鳴った後、「ミオさん?」と返答があった。
「実は、ボス猿っぽい雑魔を、見つけました」
「え?」
「真ん中の、トロッコの中です。最初は、上にいましたが、鉱石が減ったので、中に入り込んでます。皆さんに、伝えましょう」
「わかった!」
そこで通信を一端切ると、ミオレスカは再びボタンを操作してトランシーバーに向かって声をかけ始めた。
「真ん中のトロッコ?」
エヴァンスが片手にトランシーバー、片手で雑魔を切り捨てながら、件のトロッコを見る。
確かにもそもそと動いて居る黒い影が見える。
しかしまだあの周囲には数体の個体が残っている為、直接攻撃をするのは骨が折れそうだった。
「おぅ、わかった。伝えながら動く」
通信を切って、エヴァンスは周囲を見回して、レイオスの姿を見つけるとそちらへとハンドルを向けた。
大方、周囲に転がっていた個体や、酔いが覚めて襲いかかってくるような個体は塵へと還し、後は線路周辺でまだ寝ていたり、横倒しにしたトロッコの周辺で石を食べている数体の大柄の個体のみとなっていた。
こちらに興味無く石を貪る様子を見て、一端全員が北側に集まり作戦会議とすることにした。
前衛に立つ者の殆どが大小の傷を負ってはいたが、戦えなくなるほどの深い傷を負った者はおらず、その闘志も燃え尽きてはいない。
「出来ればトロッコから引き剥がしたいんだが……難しいかな」
アルトがカズマへと視線を投げると、カズマは唸った。
「遠距離から攻撃をして引き付けられればいいが……無理だったらそのまま戦うしかねぇだろうな」
「えぇ。雑魔を確実に消す事の方が重要です。でも、お気遣い感謝します」
イズンの言葉にアルトはうん、と頷き返した。
「つまり、そんときゃ端から潰していきゃァイイんだろ。シンプルじゃねェか」
剛道がざっくりと結論づけて、楽しそうに唇の端を釣り上げる。
「林に逃げ込まれると厄介そうだから、オレ達は西側から攻めて、遠距離組は東側からがいいかも?」
レイオスが提案すると、兵庫がそれに同意した。
「射撃と同時に馬とバイク持ちが西側から、徒歩組は万が一敵が遠距離組に襲いかかってった時の為に東側に行って貰えるか?」
「分かったよ」
笑顔でノーマンが頷くと、続いて真司と桐壱、カイもそろって頷き、一同は散開した。
●宿酔
トランシーバー越しに「行きます」という声が聞こえ、一瞬後に銃声と矢が風を切る音が響いた。
「行くぞ!」
カズマが愛馬に『走れ』と合図を送る。時をほぼ同じくして、単車組が一斉に飛び出した。
突然の銃弾と矢の嵐に、雑魔達は慌てふためきながら、攻撃された方向を見る。
そこに更に銃弾と矢が降り、岩を砕く牙をガチャガチャと鳴らして、その姿まさしく猿のように、トロッコから飛び降り、寝ていたモノは飛び跳ねて起きると、四本の足で一斉に東側へと走り出した。
トロッコと線路から外れたのを見て、アルトは思わず口元に浮かぶ笑みを抑えられなかった。
トロッコを避けるように回り込みながら、騎乗組が一気に距離を詰める。
遠距離組は複数体巻き込めるように攻撃を繰り出しながら、単体攻撃しか出来ない者はなるべく全ての雑魔の興味を自分達へと引き付けられるよう攻撃をしていった。
アバルトの弾幕が2体の雑魔の動きを封じ、桐壱のスリープクラウドがその個体含めて5体を眠りに落とす。
それらを跳んで避けながらさらに5体が真司とノーマン、カイへと襲いかかるが、真司の炎が3体を包み、カイとノーマンはそれぞれ素早く身を躱しながら一撃を叩き込んだ。
炎に巻かれながらも真司へと襲いかかろうとした3体には、更に遠方に位置したイズンの銃弾とナナセとヴェンツェルの狙い澄ませた矢弾、ミオレスカの加速された高威力の矢がそれぞれを貫く。
雑魔達は爪や牙を摺り合わせ、思わず背筋が粟立つ生理的不快音を上げながら真司達へと肉薄するが、そこへ鵤が雑魔の背後からデルタレイを放ち、熱風を纏い、さながら暴風の塊のようになったエヴァンスが一体の首を刎ね落とした。
その後ろから剛道も凶悪な笑みを浮かべながら、力の限り大太刀を振り抜き、歪虚の腕を切り落とす。
そのさらに後方では、眠りに落ちた5体を相手取り全員で一体ずつ確実に止めを刺していった。
アルトが一体へ連撃を繰り出し、間髪入れずにカズマがノーモーションで槍を振るうと、アイビスが愛馬の鞍を蹴って跳躍、その勢いのまま猿で言うなら延髄の部分を蹴り飛ばし止めを刺した。
兵庫とレイオスが左右から挟み込むように一体の雑魔へ肉薄すると、揃って遠慮の無い一撃を脳天へと叩き込み塵へと還す。
一気に仲間を失った雑魔達も反撃に出るが、酔いの覚めていない足取りでは疾影士の速さに翻弄され、盾に防がれ、攻撃は空回るばかりだった。
最も大きな個体と対峙した兵庫は振り下ろされた長い尾を紙一重で避けると、アバルトとミオレスカの冷弾が手足から熱を奪ったのを機に、槍を突き出した。
「っ!?」
しかしその刃を歯で咥え取られると、逆に槍ごと振り払われ、足の怪我のため踏ん張りきれず兵庫は、勢いに負けて落馬した。
「そんなに食いたいならオレが一撃喰らわしてやるよッ!」
体勢を立て直せずにいる兵庫へ鋭い爪が振り下ろされようとした所を、レイオスが勢いそのままに雷撃刀を胴へと突き刺し、振り抜いた。
金切り声を上げて身悶えるその尾の不意な動きをレイオスは避けきれない。横薙ぎに尾の一撃を食らうと、勢いよく地面へと叩き付けられた。
直ぐ様顔を上げたレイオスの目に映ったのは、全身を雷に打たれたように痙攣させている雑魔だった。
「おいおい、あんまり若い子虐めないであげてよねぇ?」
飄々とした口調が雑魔から聞こえてくる。塵へと還るその向こうで、ソーペルデュのハンドルにだらしなく両肘を預けた鵤がへらへらっと笑った。
●覚醒
「この度は有り難うございました」
丁寧に頭を下げるイズンに、照れたように居心地が悪そうにレイオスは頭を掻いた。
「いや、でも結局結構な被害が出たんじゃ?」
「いえ、我が隊の到着を待っていたらもっと被害は拡大していたでしょう。皆さんのおかげです」
「ま、美人のお姉さんの為ならいくらでも体を張りますけどね」
調子よくカイが軽口を叩くと、「何にせよ」とエヴァンスが口を開いた。
「こんだけの数が一気に沸くなんざ普通じゃねぇ」
「そうだな。原因については、何か?」
カズマが問うと、イズンは目を伏せて首を横に振った。
「いえ……師団へ帰り次第、調査隊を編成する予定です」
「でも、取り逃がすこと無く退治出来て、本当に良かったです」
ミオレスカがほっとしたように表情を緩めると、アルトもそれを受けて頷いた。
「マテリアル鉱石はもちろん、銀鉱石、アレだって工房とかで加工するものだろ?」
「えぇ、大切な資源であることに代わりはありません」
イズンが同意すると、ヴェンツェルがしみじみとあの黒い獣たちを思い出しながら誰に向かうでも無く口にする。
「それにしても変な雑魔だったね」
「あぁ、強いんだか弱いんだか」
「でも、お陰で助かったとも言えるわね」
油断と隙だらけだったと剛道がぼやくと、アイビスが愛馬の首を撫でながら肩をすくませた。
石を食べることに夢中で自発的にはこちらを襲ってこなかったのは、実際、被る怪我を最小限に出来たとも言えた。
これが理性的な動きで群れが1人を集中攻撃するような事があれば、あの鋭い牙と爪の殺傷力では大怪我を負う可能性もあっただろう。
「なぁ、イズンちゃん。あのトロッコ列車には人は乗れるのかい?」
煙草を持ってくるのを忘れて口寂しく思いながら、鵤が機導士らしく興味を示した。
「いえ、ほぼ鉱石の運搬用です。人を運ぶにはまだまだ改良の余地があります」
「トロッコ列車か……動いて居るところを見てみたいな」
真司がリアルブルーで見かけたSL等を思い出しながら呟く。
「えぇ、では無事修理が終わりましたら、そんな機会を設けてみましょう」
イズンの言葉に「それは楽しみですねえ」とノーマンが応え、ナナセが妖精さんと共に「すてき」と手を叩いた。
「じゃ~、そろそろ帰りますかぁ~?」
桐壱がのんびりと促すと、再び丁寧に頭を下げるイズンに各自別れを告げながらその場を後にする。
「アバルト」
アバルトは帰る方向へと馬を向けると、声の主である兵庫を見る。
「お前が来てくれて助かった。感謝するぜ、相棒」
斜陽の影となってその表情はアバルトからは窺い知ることは出来なかったが、アバルトはふ、と頬を綻ばせた。
「なぁに。帰ったら旨い酒でも奢ってくれ」
「いや、そこは割り勘で」
間髪入れずに紡がれた兵庫の言葉に、今度こそアバルトは声を上げて笑うと、二人は帰路へと愛馬の歩みをゆるりと進めた。
それは異様な光景だった。
トロッコの上に登った黒い獣が我先にと銀鉱石を握り占めて頬張る。
そして、後からやってきた獣に突き落とされても、握り占めた石を食べては地面にだらしなく突っ伏したり、気持ちよさそうにごろごろと転がっていたりする。
ついには無理矢理最後部のトロッコを転がして銀鉱石を周囲にぶちまけると、地面を転がっていた獣も再び鉱石を頬張り、更にふにゃふにゃと地面に寝そべる。
トロッコの周囲には満腹になったのか、ある程度点在した状態で獣たちが思い思いに寝転がっている。
……何となく、またたびを与えた時の猫に近いものがあるような気がしなくも無い、とミオレスカ(ka3496)は思ったが、一緒にしてやりたくない程度には異様な光景だった。
魔導バイクに跨がったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は、フルスロットルのまま地ベタに貼り付いた雑魔を一刀両断、真一文字に引き裂いた。
そのまま勢いを殺すこと無くバイクで走り抜けながら数体の雑魔を攻撃し、その先に居たイズン・コスロヴァ(kz0144)の姿を見つけてその前でバイクを止めた。
「ご足労頂き、感謝します」
イズンの言葉にエヴァンスは唇の端を持ち上げた。
「偶然とはいえこの俺が参加したんだ。積荷の安全は保証されたようなもんだぜ?」
自信に溢れるその言葉は、彼の今までの戦歴から裏付けされたものだ。
今回の相手は名のある歪虚ではなく、自然に沸いて出たと思われる名も無い雑魔……エヴァンスにとってはいささか物足りない相手とすら思えた。
「それは心強い。頼りにしています」
造形は美しいが、どこか冷たさを感じさせる容貌の口元にだけ笑みを浮かべ、イズンは小さく頷いた。
魔導二輪を操りながら尾形 剛道(ka4612)はその鋭い嗅覚で尾の長い個体を見つけて攻撃を繰り出した。
しかし、獣もその一撃を姿に見合わぬ素早い身のこなしで避けると、尾を鞭のようにしなりながら襲いかかってきた。
「っとあぶねェ!」
それを頭を下げることで回避して、後輪を滑らせながら方向転換して再び対峙する。
その時、ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)が木の陰より放った強弾が獣の右肩を撃ち抜き、金属が摺り合わせた時のような不快感を伴う悲鳴が上がった。
「おー、サンキュー!」
剛道は誰かは判らないままに礼を告げると、楽しそうに目を細めて再びバイクのアクセルをふかした。
「変わった個体ですね-」
思わず両耳を押さえて悲鳴を遮りながら、ナナセは自分の頭上にちょこんと座っている「妖精さん」に向かって微笑みかけた。
「周囲の警戒はお願いしますね-。さーて、次はどれを撃ちましょうか!」
徐々に混戦となりつつある戦場を見ながら、ナナセは次の目標に照準を合わせた。
龍崎・カズマ(ka0178)とアイビス・グラス(ka2477)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は3人で1組となり連携を取りながら攻撃を仕掛けていた。
3人共が馬を巧みに操り、早駆けで同じ個体へと向かい、すれ違い様に攻撃していく。
「理屈は判らないけど、鉱石の成分が酔いの原因みたいになってるのかな……」
アルトは少し考えるように首を傾げた。
「……ふん。流石に傷が浅いか」
カードを投げて手応えを確認したカズマは、仕方が無い、と首を左右に折って骨を鳴らすと、アルトが頷いて同意する。
「『硬くて攻撃が通らない』何てことがなくて良かったけど、あの顎力と歯は気をつけた方が良さそうだ」
「では、全力で行きましょう」
アルトの言葉にアイビスが頷き、再び愛馬に敵へ向かうよう指示を出し、走り始めた。
その途中で馬から飛び降り、瞬脚で一気に対象の敵へと詰め寄ると発勁掌波で石を食べることに集中している獣の後頭部に一撃を叩き込む。
その後に続いてカズマが広範囲にカードを投射し、一帯に居る獣たちを纏めて傷付け、アルトはアイビスが攻撃した獣をオートMURAMASAで斬り付けて仕留める。
傷付けられた獣たちはギリギリと金属を摺り合わせるような音を立てながら、ふらつく足取りでゆっくりと3人の方を向いた。
カズマはカードを仕舞い、ベーレイニガンを構えると、飛び掛かって来た獣へと槍を振り上げた。
「地味に裏方で頑張るつもりだったんだけどなぁ」
カイ(ka3770)はガラにも無く舌打ちをしながら、トラバサミが発動した時のような音を立てながら噛みついてくる獣の牙を紙一重で避け、長剣状にしたユナイテッド・ドライブ・ソードで横薙いだ。
罠を作ろうと思っていたが、そもそも既に敵に占拠された場所であることからそれが叶わなかったのだ。
そしていくら移動力を上げ、命中率を上げたところでその一撃は浅く、致命傷に至らない。
「アレがボス猿かな……?」
一際大きな体躯と長い尾を持つ黒い獣が中央のトロッコの端に腰掛けて銀を貪り食っているのを見つける。
しかし、そこまでは地面に転がっているまだ20近くいる雑魔たちを倒さなくては辿り着けそうに無い。
「おぃ、あぶねぇぞ!」
前方を注視していたカイの後ろから声がかかり、嫌な予感に慌てて身を伏せると、その頭上を光線が真っ直ぐに走り、目の前にいた雑魔を貫いた。
魔導バイクに跨がりながら、シケモクを咥えた鵤(ka3319)がへらへらっとカイに笑いかける。
「いや、すまんねぇ。わざとじゃないんだよ?」
「いや、助かった」
鵤が放ったデルタレイを警戒してか、獣たちはカイから距離を取って身を低く構えている。
「んー……銀を食べて時間が経つと酔いが覚めるみたいだねえ」
鵤は冷静に雑魔達を観察しながら呟く。
「にしても、銀を食べるなんざどれだけ贅沢思考なわけよぉ。大人しくただの岩でも貪ってりゃあよかったのにねぇ?」
「はーい、寝ないようにー。注意してくださいねぇ!」
鵤の言葉をかき消すように、楽しそうなおっとりとした声が響くと、カイの周囲を青白い雲状のガスが覆った。
「!?」
カイは慌てて息を止めながらその範囲から脱出する。
「……んー……効果は半々ってところですかねぇ」
スリープクラウドを獣の群れに放った桐壱(ka1503)がぐびり、と最後の一滴を飲み干す。
「わー、酒乱だぁ、酒乱がいるぞぉ」
「えー? 人聞きが悪いなぁ、イカルガさん。ボク酔ってなんかいませんよぉ」
そうにこにこと微笑みながらも、桐壱の視線はしっかりと獣たちを追っている。
「じゃぁ、おめめぱっちり起きてるヤツからやりましょうかねぇ?」
鵤がネーベルナハトを構え、再びデルタレイを放つ準備に入る。
それを見て桐壱も火矢を放つ為に、すぅっと息を吸い込みゴールデン・バウへと意識を集中させたのだった。
「何ですかねえ、数が多いから確実な手段を取りますかねえ」
ノーマン・コモンズ(ka0251)は微笑みを浮かべたまま、二振りの小太刀を手に一番手短な所でぐったりと横たわっている雑魔に向かって疾走した。
迷い無く一気に切り付けると、再び距離を取って構え直す。
金属が擦り合わさるような歯ぎしりをしながら獣がのそりと上体を起こした所を、東側の斜面に身を伏していたヴェンツェル(ka3170)が頭部を撃ち、再び地面へと転がした。
「よ~く狙ってっと」
スコープ越しに地面を痛みにのたうち回る獣を見て、得意げに鼻の頭を掻いた。
「……あぁ、もうアレは近接の人で倒せそうかな?」
柊 真司(ka0705)の放ったファイアスローワーにより炎に包まれたのを見て、ヴェンツェルは狙いを別の個体に変えて、再び引き金に指を掛けた。
「気をつけろ、来るぞ!」
真司の言葉と同時にノーマンは笑みを崩さないまま後ろへと跳び下がる。そこへ尾が鞭のように地面を叩き付けて土埃を巻き上げた。
「あまり線路やトロッコに被害が出ないように、引き付けながら戦おう」
「了解っと」
尾の攻撃を左の剣で受け止めると、右の剣で尾を叩き斬る。文字通りの金切り声が響き、思わずノーマンも眉をひそめた。
先ほど消滅した雑魔と共に焼かれた3体の獣が、ノーマンと真司の方へじりじりと距離を縮めて来る。
その2人に向かって後ろから戦馬が駆け寄ってくると、2人を追い越し一気に3体を薙ぎ払った。
「食い過ぎで動きが鈍ってくれるならいいなって思ってたけど……これは予想外だったな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が見る限り鉱石を食べた雑魔達は確かにおぼつかない足取りだった。それでも目が回っている訳では無いらしく、攻撃してくるその狙いは正確だった。
「危ない!」
レイオスの背後に別の猿が迫っていた。その胴をヴェンツェルの鋭弾が捉え、その足をミオレスカの凍矢が貫き、自由を奪った。
「サンキュ!」
レイオスは愛馬を旋回させ、自分を襲おうとしていた猿に向かって雷撃刀を渾身の力を込めて振り下ろす。
さらにそこにノーマンが走り寄り斬り付け、真司が高威力の炎をぶつける。
「よし、この調子で森に逃がさない様に退治していこうぜ!」
真司とレイオスがそれぞれヴェンツェルとミオレスカの姿を見つけて手を振った。
2人もそれに手を上げて応えると、次の雑魔へと各々の武器を構えた。
「……兵庫、後ろは任せてくれ。お前が存分に戦えるように援護をしよう」
「……アバルト、援護は任せた。信頼しているぜ、相棒」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は榊 兵庫(ka0010)の向かう先に向かって弾幕を張った。
それにより動きが鈍くなった集団を兵庫は槍で薙ぎ払いながら突き抜ける。
その先にエヴァンスの姿を認め、兵庫は素早く道を空けると、兵庫が貫いて割れた群れへとバイク毎エヴァンスは突っ込んでいった。
「無茶するなぁ」
確かにバイクの機動力をフルに活かした戦い方ではある。
しかし、雑魔とて学習するのだろう、来ると分かっているのならその長い尾、もしくは鋭い爪で待ち構え、飛び掛かることが出来る。
ところが、エヴァンスはそれすらもテンペストで受け流し、バイク上でありながらも身を低くして躱すなどして群れから飛び出る。
「……こりゃ、負けてられねぇな」
愛馬に走るよう合図を送り、十字文槍を構えると、その様子を見たアバルトがタイミング良く再び弾幕を張る。
その弾幕の中へと兵庫は愛馬を飛び込ませ、思いっきり槍で薙ぎ払いながら突き進んで行った。
●演物
地面でゴロゴロと気持ちよさそうにしていた雑魔達も、漸く自分達が何者かに攻撃を受けていることを把握してきたらしい。
ゆらりと上体を揺らしながら、でたらめな動きで鋭い爪を振り回す。
「っつ!」
ざっくりと左腕を切り裂かれてカイは痛みに顔をしかめた。
「伏せて、下さい!」
ミオレスカの声と共に周囲に矢の雨が降り注ぐ。
前から襲いかかってきた雑魔を躱した所を、後ろから右の肩口を噛みつかれ、剛道は思わず低く呻きながら、大太刀の柄の頭でその額を殴り付け、歯が外れた瞬間に回し蹴りで距離を取った。
アイビスもまた長い尾に左頬を思いっきり叩かれ、悲鳴も上げられないまま地面へと倒れた。
「アイビスさん!」
アルトは強くアイビスを打った獣を睨み付けると、愛馬をそれへ向けて走らせた。
再び尾が今度はアルトを狙うが、アルトは巧みに愛馬を跳躍させてその一撃を躱し、すれ違い様に振動刀で斬り付けた。
カズマもまた同じ獣へ向かおうとして、ゆらりと揺れる影を目の端に捉えた時にはその爪で足を裂かれた。
でたらめな動きな分、予測が立てづらく、避けにくい。
「酔拳みたいだな」
思わず呟いた真司の言葉にそばに居たエヴァンスが首を傾げた。
「スイケン? なんだそれは」
「リアルブルーにある武術……なのかな。本物は見た事ないけど」
『酔えば酔うほど強くなる』というキャッチコピーを思い出しながら、映画のワンシーンを真似て構えてみせた。
「変な体術だな」
レイオスが見たまま率直な意見を口にする。
「まぁ、フィクションだからね。実際にあるのかは俺も知らない」
「何にせよ、油断大敵ってこったな」
エヴァンスは唇の端を持ち上げながら、グレートソードを振り上げると、再びアクセルをふかし斬り込んでいく。
その後を追ってレイオスも愛馬を駈けさせ、真司も魔導計算機を構えて走り出した。
アバルトの冷弾により動きが鈍くなった雑魔に兵庫が槍を勢いよく突き刺す。
「ぐっ!」
その傍らでノーマンが腹部を爪で抉られていた。
その猿に向かってナナセが頭部を貫通する一矢を放つ。
それでもまだ動くのを見て「しぶといですねぇ」と呟いた桐壱が火矢を放つ。
さらにそこに一発の銃弾が撃ち込まれ、漸く動かなくなったのを見届けて、鵤が大げさに溜息を吐いてみせる。
「酔っ払いは酔っ払いのまま寝ててくれたらいいのにねぇ」
「ご苦労お掛けて申し訳ありません」
金の髪を頭頂部で結んだ、軍服に身を包んだ猟撃士が鵤の後ろから声を掛け、丁寧に頭を下げた。
「あー、えーと、おたくが依頼主さん?」
「はい、イズンと申します」
「初めまして、桐壱と申します~。こちらの人数は少ないですが、ボクたちも一応ハンターなので。まぁ、出来る限りのことはしますよ~」
「来るぞ!」
のんびりとした桐壱の挨拶にイズンが言葉を返そうとするのを遮るように兵庫の鋭い声が飛んだ。
見れば同時に3体の雑魔がこちらへ向かって走ってきていた。
「へいへいっと」
鵤がひょい、と魔導槍を回して光の三角形を描くとその頂点から光線が伸び、3体を貫く。
それでもまだ走り寄る雑魔の一体をナナセとイズンが射抜き、桐壱が火矢を放った後、アバルトが冷弾で強制的に足止めをする。
鵤の攻撃と同時に飛び出していた兵庫は一番足の速い個体に槍を突き刺し、ノーマンが一気に距離を詰めると小太刀で斬り付けた。
追いついてきた一体に兵庫は足を鞭打たれたが、愛馬に傷が無い事に内心胸を撫で下ろしながら、槍を勢いよく突き下ろした。
そこに一台の魔導二輪が勢いよく飛び込んでくると、シートから跳躍してきりもみ回転しながら大太刀を構えた剛道が一体の胴を切り裂くと同時に地面へと強かに全身を打ち付けた。
「ちょ、大丈夫か!?」
「……あぁ、何てことねェよ」
元々あった傷口が開いたのでは無いかと兵庫が問うと、剛道は痛む身体に鞭打って立ち上がった。
実は騎乗したままでは踏み込めないことを失念していた為、強硬手段に出たなんて事は口が裂けても言えない剛道である。
「……来いよ。こちとら飢えて飢えて仕方ねェんだ!」
残り一体へ向けて剛道が挑発の言葉を放つと、雑魔は耳障りな金切り声を上げて一直線に走り寄ってくる。
一同はそれを倒す事に集中したのだった。
「おっと、危ない。こっちに来るんじゃねぇよ」
ヴェンツェルは音も無く近寄ってきた猿を発見すると、直ぐ様ライフルの引き金を引く。
しかし、1人では倒すのに時間が掛かることも重々承知していたので、距離を取る。
そこへミオレスカの矢が降り、地面へと猿は縫い付けられ、さらにカイが斬り込む。
手負いだったらしい猿はそれで塵へと還っていく。
「ありがとよ」
「お互い様ってね」
そう口元に弧を浮かべるカイの全身はあちこちが斬り付けられている有様だった。
「指揮を執ってるヤツがいるはずなんだけどね」
「指揮執ってるかどうかはわからないけど、多分アイツ」
カイが真ん中のトロッコの上で食べ続けている一回り大きな黒い塊を指差す。
「アイツだけがずっと喰ってて、動いてない」
「……なるほど」
2人は顔を見合わせて、頷いた。
●泥酔
ヴェンツェルと合流したミオレスカは「なるほど」と頷いた。
ミオレスカはトランシーバーを取り出すとそれに向かって声をかけ始めた。
「アイビスさん、聞こえますか? どうぞ」
暫く雑音が鳴った後、「ミオさん?」と返答があった。
「実は、ボス猿っぽい雑魔を、見つけました」
「え?」
「真ん中の、トロッコの中です。最初は、上にいましたが、鉱石が減ったので、中に入り込んでます。皆さんに、伝えましょう」
「わかった!」
そこで通信を一端切ると、ミオレスカは再びボタンを操作してトランシーバーに向かって声をかけ始めた。
「真ん中のトロッコ?」
エヴァンスが片手にトランシーバー、片手で雑魔を切り捨てながら、件のトロッコを見る。
確かにもそもそと動いて居る黒い影が見える。
しかしまだあの周囲には数体の個体が残っている為、直接攻撃をするのは骨が折れそうだった。
「おぅ、わかった。伝えながら動く」
通信を切って、エヴァンスは周囲を見回して、レイオスの姿を見つけるとそちらへとハンドルを向けた。
大方、周囲に転がっていた個体や、酔いが覚めて襲いかかってくるような個体は塵へと還し、後は線路周辺でまだ寝ていたり、横倒しにしたトロッコの周辺で石を食べている数体の大柄の個体のみとなっていた。
こちらに興味無く石を貪る様子を見て、一端全員が北側に集まり作戦会議とすることにした。
前衛に立つ者の殆どが大小の傷を負ってはいたが、戦えなくなるほどの深い傷を負った者はおらず、その闘志も燃え尽きてはいない。
「出来ればトロッコから引き剥がしたいんだが……難しいかな」
アルトがカズマへと視線を投げると、カズマは唸った。
「遠距離から攻撃をして引き付けられればいいが……無理だったらそのまま戦うしかねぇだろうな」
「えぇ。雑魔を確実に消す事の方が重要です。でも、お気遣い感謝します」
イズンの言葉にアルトはうん、と頷き返した。
「つまり、そんときゃ端から潰していきゃァイイんだろ。シンプルじゃねェか」
剛道がざっくりと結論づけて、楽しそうに唇の端を釣り上げる。
「林に逃げ込まれると厄介そうだから、オレ達は西側から攻めて、遠距離組は東側からがいいかも?」
レイオスが提案すると、兵庫がそれに同意した。
「射撃と同時に馬とバイク持ちが西側から、徒歩組は万が一敵が遠距離組に襲いかかってった時の為に東側に行って貰えるか?」
「分かったよ」
笑顔でノーマンが頷くと、続いて真司と桐壱、カイもそろって頷き、一同は散開した。
●宿酔
トランシーバー越しに「行きます」という声が聞こえ、一瞬後に銃声と矢が風を切る音が響いた。
「行くぞ!」
カズマが愛馬に『走れ』と合図を送る。時をほぼ同じくして、単車組が一斉に飛び出した。
突然の銃弾と矢の嵐に、雑魔達は慌てふためきながら、攻撃された方向を見る。
そこに更に銃弾と矢が降り、岩を砕く牙をガチャガチャと鳴らして、その姿まさしく猿のように、トロッコから飛び降り、寝ていたモノは飛び跳ねて起きると、四本の足で一斉に東側へと走り出した。
トロッコと線路から外れたのを見て、アルトは思わず口元に浮かぶ笑みを抑えられなかった。
トロッコを避けるように回り込みながら、騎乗組が一気に距離を詰める。
遠距離組は複数体巻き込めるように攻撃を繰り出しながら、単体攻撃しか出来ない者はなるべく全ての雑魔の興味を自分達へと引き付けられるよう攻撃をしていった。
アバルトの弾幕が2体の雑魔の動きを封じ、桐壱のスリープクラウドがその個体含めて5体を眠りに落とす。
それらを跳んで避けながらさらに5体が真司とノーマン、カイへと襲いかかるが、真司の炎が3体を包み、カイとノーマンはそれぞれ素早く身を躱しながら一撃を叩き込んだ。
炎に巻かれながらも真司へと襲いかかろうとした3体には、更に遠方に位置したイズンの銃弾とナナセとヴェンツェルの狙い澄ませた矢弾、ミオレスカの加速された高威力の矢がそれぞれを貫く。
雑魔達は爪や牙を摺り合わせ、思わず背筋が粟立つ生理的不快音を上げながら真司達へと肉薄するが、そこへ鵤が雑魔の背後からデルタレイを放ち、熱風を纏い、さながら暴風の塊のようになったエヴァンスが一体の首を刎ね落とした。
その後ろから剛道も凶悪な笑みを浮かべながら、力の限り大太刀を振り抜き、歪虚の腕を切り落とす。
そのさらに後方では、眠りに落ちた5体を相手取り全員で一体ずつ確実に止めを刺していった。
アルトが一体へ連撃を繰り出し、間髪入れずにカズマがノーモーションで槍を振るうと、アイビスが愛馬の鞍を蹴って跳躍、その勢いのまま猿で言うなら延髄の部分を蹴り飛ばし止めを刺した。
兵庫とレイオスが左右から挟み込むように一体の雑魔へ肉薄すると、揃って遠慮の無い一撃を脳天へと叩き込み塵へと還す。
一気に仲間を失った雑魔達も反撃に出るが、酔いの覚めていない足取りでは疾影士の速さに翻弄され、盾に防がれ、攻撃は空回るばかりだった。
最も大きな個体と対峙した兵庫は振り下ろされた長い尾を紙一重で避けると、アバルトとミオレスカの冷弾が手足から熱を奪ったのを機に、槍を突き出した。
「っ!?」
しかしその刃を歯で咥え取られると、逆に槍ごと振り払われ、足の怪我のため踏ん張りきれず兵庫は、勢いに負けて落馬した。
「そんなに食いたいならオレが一撃喰らわしてやるよッ!」
体勢を立て直せずにいる兵庫へ鋭い爪が振り下ろされようとした所を、レイオスが勢いそのままに雷撃刀を胴へと突き刺し、振り抜いた。
金切り声を上げて身悶えるその尾の不意な動きをレイオスは避けきれない。横薙ぎに尾の一撃を食らうと、勢いよく地面へと叩き付けられた。
直ぐ様顔を上げたレイオスの目に映ったのは、全身を雷に打たれたように痙攣させている雑魔だった。
「おいおい、あんまり若い子虐めないであげてよねぇ?」
飄々とした口調が雑魔から聞こえてくる。塵へと還るその向こうで、ソーペルデュのハンドルにだらしなく両肘を預けた鵤がへらへらっと笑った。
●覚醒
「この度は有り難うございました」
丁寧に頭を下げるイズンに、照れたように居心地が悪そうにレイオスは頭を掻いた。
「いや、でも結局結構な被害が出たんじゃ?」
「いえ、我が隊の到着を待っていたらもっと被害は拡大していたでしょう。皆さんのおかげです」
「ま、美人のお姉さんの為ならいくらでも体を張りますけどね」
調子よくカイが軽口を叩くと、「何にせよ」とエヴァンスが口を開いた。
「こんだけの数が一気に沸くなんざ普通じゃねぇ」
「そうだな。原因については、何か?」
カズマが問うと、イズンは目を伏せて首を横に振った。
「いえ……師団へ帰り次第、調査隊を編成する予定です」
「でも、取り逃がすこと無く退治出来て、本当に良かったです」
ミオレスカがほっとしたように表情を緩めると、アルトもそれを受けて頷いた。
「マテリアル鉱石はもちろん、銀鉱石、アレだって工房とかで加工するものだろ?」
「えぇ、大切な資源であることに代わりはありません」
イズンが同意すると、ヴェンツェルがしみじみとあの黒い獣たちを思い出しながら誰に向かうでも無く口にする。
「それにしても変な雑魔だったね」
「あぁ、強いんだか弱いんだか」
「でも、お陰で助かったとも言えるわね」
油断と隙だらけだったと剛道がぼやくと、アイビスが愛馬の首を撫でながら肩をすくませた。
石を食べることに夢中で自発的にはこちらを襲ってこなかったのは、実際、被る怪我を最小限に出来たとも言えた。
これが理性的な動きで群れが1人を集中攻撃するような事があれば、あの鋭い牙と爪の殺傷力では大怪我を負う可能性もあっただろう。
「なぁ、イズンちゃん。あのトロッコ列車には人は乗れるのかい?」
煙草を持ってくるのを忘れて口寂しく思いながら、鵤が機導士らしく興味を示した。
「いえ、ほぼ鉱石の運搬用です。人を運ぶにはまだまだ改良の余地があります」
「トロッコ列車か……動いて居るところを見てみたいな」
真司がリアルブルーで見かけたSL等を思い出しながら呟く。
「えぇ、では無事修理が終わりましたら、そんな機会を設けてみましょう」
イズンの言葉に「それは楽しみですねえ」とノーマンが応え、ナナセが妖精さんと共に「すてき」と手を叩いた。
「じゃ~、そろそろ帰りますかぁ~?」
桐壱がのんびりと促すと、再び丁寧に頭を下げるイズンに各自別れを告げながらその場を後にする。
「アバルト」
アバルトは帰る方向へと馬を向けると、声の主である兵庫を見る。
「お前が来てくれて助かった。感謝するぜ、相棒」
斜陽の影となってその表情はアバルトからは窺い知ることは出来なかったが、アバルトはふ、と頬を綻ばせた。
「なぁに。帰ったら旨い酒でも奢ってくれ」
「いや、そこは割り勘で」
間髪入れずに紡がれた兵庫の言葉に、今度こそアバルトは声を上げて笑うと、二人は帰路へと愛馬の歩みをゆるりと進めた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/23 21:42:52 |
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相談場所 カイ(ka3770) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/09/24 03:16:13 |