ゲスト
(ka0000)
【深棲】釣り人の受難
マスター:狭霧

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/27 12:00
- 完成日
- 2014/08/05 00:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
冒険都市リゼリオ郊外の島。
島の周囲半分ほどが岩礁地帯となっているこの島は釣りの名所とされており、釣り好きの住民が休日に訪れる定番スポットになっていた。
その日は薄い雲がかかった晴れの日で、海も穏やかに凪いでいた。
小舟で乗り付けた青年は釣竿を片手に岩場に跳び移る。
先客の姿を捉えると、足場に注意しながら岩場を迂回し、声をかけた。
「よ、おっさん。釣れてるか?」
「全然だな。全然釣れやしねえ」
おっさんと呼ばれた中年男性は力なく首を振る。
「いい日だと思ったんだがなあ……」
今日は絶好の釣り日和と意気込んで来たものの、釣りあげるどころか当たりすらない。
それが釣りだと言えばそれまでだが、妻に「今日は期待してろ」と大口を叩いて出てきて、一匹も釣れませんでしたでは面目丸潰れだ。
「おっさんが釣果0なんて珍しいな。腕鈍ったんじゃねえの?」
「やかましい、ちょっと調子が悪いだけだ。そう言うお前はこんな所で油売ってないで仕事しろ仕事」
ニヤニヤと笑う青年に男性は少し拗ねたように言う。
「いやーそれが。あのでかい船が落ちてきてからハンターが急増しただろ。おかげで仕事取るのも一苦労でさぁ……」
笑いをひっこめ溜息を吐いて男性の隣に立つと、釣り針に餌をつけ海に放った。
「そうか……ハンターも大変なんだな」
「おうよ」
それきり会話らしい会話は途切れ、静かな波の音と海鳥が鳴く声だけが周囲に響く。
無言の静寂を破ったのは、青年の当たりだった。
竿が引かれる感触に思わず「おっ」と短く漏らし、竿を引く。引くが、ピクリとも上がらない。
「おいおい、根がかりでもしたか?」
「バカ言え、こんな引っ張ってくる根がかりがあるかよ!」
岩に引っかかったのでは断じてない。まるで海の中に引きずり込もうとしているかのようだ。手を離したらその瞬間に竿は海中に消えるだろう。
しかしこのままでは竿が折れるか、糸が切れるか。
青年と謎の獲物との攻防に、男性は自身の竿を気にすることも忘れ、固唾を呑んで見守っている。
一方で、青年は疑問に思っていた。今まで釣ってきた魚の引きとは違うのだ。こんな真下に引っ張ってくる魚は知らない。
だがそんな些細な疑問よりも釣り人としての維持が勝った。
「こんの!舐めんなァあああああ!!」
このままでは埒が明かないと踏んだ青年は、裂帛の気合いとともにマテリアルを解放する!
覚醒により発揮された超人的な力は、限界までしなった釣竿を強引に引き上げ――
――チャポン。ゴチン!
「ガッ!?」
水面から飛び出した針の先には何も付いておらず。
さっきまでの激闘は何だったのかと言いたくなるほど簡単に上がった竿に、勢い余ってひっくり返り、岩場に思いっきり後頭部を強打した。
「~~~~~!!」
頭を押さえ岩場を転げ悶える青年に、男性は呆れた視線を向ける。
「やっぱり根がかりだったんじゃないか」
「だから違うって言ってんだろうがー!!」
あーだこーだと主張する青年と、はいはいわかったわかったと流す男性。
そんな二人の間に割って入る人影があった。
海の方から現れたその人に、二人の視線が向けられ。
脳がその姿を認識した瞬間。いや、青年の動きは反射によるものだったかもしれない。
覚醒状態を持続していた青年は咄嗟に人影に向かって蹴りを繰り出し、岩礁から海に蹴り落とした。
慌てたように男性に声を荒げる。
「逃げるぞおっさん!船に戻れ!早く!!」
「なななん「歪虚だよ!あんなイカレた姿した人間がいるか!さっさと船に!!」
「……す、すまん……腰が抜けた……」
「ああクソ!!」
青年はすぐに男性を抱え上げると、最短ルートで乗ってきた小舟に向かう。
何体もの歪虚が海から上がってくる音が聞こえる。
何かが背中に当たり激痛が走るが、その一切を無視した。
「つーかなにが悲しくておっさんをお姫様抱っこしなきゃなんねーんだ!!」
哀しき叫びを残し、彼らは全速力で島を後にしたのだった。
●
「このリゼリオのお膝元に現れるなんてツイてない連中ですよねー♪」
なにやら浮かれた様子の受付嬢は、資料を空中モニターに次々表示させ、大仰に頷いていた。
「それではパパッと説明しちゃいますね。
向かってもらうのはここリゼリオの沖にある島です。小舟で結構気軽に遊びに行けるくらい近い島で、徒歩でも半日くらいで一周できちゃうくらいの小島です。
その島の岩礁地帯、いわゆる釣りスポットらしいんですけど、そこを歪虚に占拠されてしまったらしく。それの殲滅が今回の依頼です」
島の地図が表示されていた画面を今回は必要ないからと切り替える。
「えー、それで皆さんに討伐してもらう歪虚なんですが……」
受付嬢はそこで一旦言葉を切り、上手い表現を探すように視線を彷徨わせた。
「えーとですね。人型っぽいですが、左半身は殻に覆われていて左腕はカニの鋏。右半身も所々に鱗がついているみたいですね。極め付けはイカ頭にゲソ髪ですよ。
このごちゃまぜな姿、いま自由都市周辺の海岸で多数目撃されている“狂気”の歪虚でしょうね」
今各地で狂気の歪虚による被害が増えている。これも無関係ではないだろうと彼女は語る。
「主な攻撃手段は鋏でしょう。それと鱗を飛ばしてくることも確認されています。髪はうねってるだけみたいですが、吸盤付きですし引っ付かれたら危ないんじゃないでしょうか」
気を付けてくださいねと念を押し、説明は以上です、とハンターたちに視線を向ける。
今のところ発見者の釣り人とハンターが襲われただけで大きな被害は出ていない。
しかし各地で増えている歪虚との関係性が疑われる以上、野放しにはできないというのがギルドの判断だった。
何より、釣り人たちの聖地を奪われたままにはしておけない。
つまり。
「まあ細かいことはいいんだよ!ってやつです。いつも通りぶっ潰しちゃってください!」
いい笑顔とサムズアップで、ハンターたちを送り出した。
島の周囲半分ほどが岩礁地帯となっているこの島は釣りの名所とされており、釣り好きの住民が休日に訪れる定番スポットになっていた。
その日は薄い雲がかかった晴れの日で、海も穏やかに凪いでいた。
小舟で乗り付けた青年は釣竿を片手に岩場に跳び移る。
先客の姿を捉えると、足場に注意しながら岩場を迂回し、声をかけた。
「よ、おっさん。釣れてるか?」
「全然だな。全然釣れやしねえ」
おっさんと呼ばれた中年男性は力なく首を振る。
「いい日だと思ったんだがなあ……」
今日は絶好の釣り日和と意気込んで来たものの、釣りあげるどころか当たりすらない。
それが釣りだと言えばそれまでだが、妻に「今日は期待してろ」と大口を叩いて出てきて、一匹も釣れませんでしたでは面目丸潰れだ。
「おっさんが釣果0なんて珍しいな。腕鈍ったんじゃねえの?」
「やかましい、ちょっと調子が悪いだけだ。そう言うお前はこんな所で油売ってないで仕事しろ仕事」
ニヤニヤと笑う青年に男性は少し拗ねたように言う。
「いやーそれが。あのでかい船が落ちてきてからハンターが急増しただろ。おかげで仕事取るのも一苦労でさぁ……」
笑いをひっこめ溜息を吐いて男性の隣に立つと、釣り針に餌をつけ海に放った。
「そうか……ハンターも大変なんだな」
「おうよ」
それきり会話らしい会話は途切れ、静かな波の音と海鳥が鳴く声だけが周囲に響く。
無言の静寂を破ったのは、青年の当たりだった。
竿が引かれる感触に思わず「おっ」と短く漏らし、竿を引く。引くが、ピクリとも上がらない。
「おいおい、根がかりでもしたか?」
「バカ言え、こんな引っ張ってくる根がかりがあるかよ!」
岩に引っかかったのでは断じてない。まるで海の中に引きずり込もうとしているかのようだ。手を離したらその瞬間に竿は海中に消えるだろう。
しかしこのままでは竿が折れるか、糸が切れるか。
青年と謎の獲物との攻防に、男性は自身の竿を気にすることも忘れ、固唾を呑んで見守っている。
一方で、青年は疑問に思っていた。今まで釣ってきた魚の引きとは違うのだ。こんな真下に引っ張ってくる魚は知らない。
だがそんな些細な疑問よりも釣り人としての維持が勝った。
「こんの!舐めんなァあああああ!!」
このままでは埒が明かないと踏んだ青年は、裂帛の気合いとともにマテリアルを解放する!
覚醒により発揮された超人的な力は、限界までしなった釣竿を強引に引き上げ――
――チャポン。ゴチン!
「ガッ!?」
水面から飛び出した針の先には何も付いておらず。
さっきまでの激闘は何だったのかと言いたくなるほど簡単に上がった竿に、勢い余ってひっくり返り、岩場に思いっきり後頭部を強打した。
「~~~~~!!」
頭を押さえ岩場を転げ悶える青年に、男性は呆れた視線を向ける。
「やっぱり根がかりだったんじゃないか」
「だから違うって言ってんだろうがー!!」
あーだこーだと主張する青年と、はいはいわかったわかったと流す男性。
そんな二人の間に割って入る人影があった。
海の方から現れたその人に、二人の視線が向けられ。
脳がその姿を認識した瞬間。いや、青年の動きは反射によるものだったかもしれない。
覚醒状態を持続していた青年は咄嗟に人影に向かって蹴りを繰り出し、岩礁から海に蹴り落とした。
慌てたように男性に声を荒げる。
「逃げるぞおっさん!船に戻れ!早く!!」
「なななん「歪虚だよ!あんなイカレた姿した人間がいるか!さっさと船に!!」
「……す、すまん……腰が抜けた……」
「ああクソ!!」
青年はすぐに男性を抱え上げると、最短ルートで乗ってきた小舟に向かう。
何体もの歪虚が海から上がってくる音が聞こえる。
何かが背中に当たり激痛が走るが、その一切を無視した。
「つーかなにが悲しくておっさんをお姫様抱っこしなきゃなんねーんだ!!」
哀しき叫びを残し、彼らは全速力で島を後にしたのだった。
●
「このリゼリオのお膝元に現れるなんてツイてない連中ですよねー♪」
なにやら浮かれた様子の受付嬢は、資料を空中モニターに次々表示させ、大仰に頷いていた。
「それではパパッと説明しちゃいますね。
向かってもらうのはここリゼリオの沖にある島です。小舟で結構気軽に遊びに行けるくらい近い島で、徒歩でも半日くらいで一周できちゃうくらいの小島です。
その島の岩礁地帯、いわゆる釣りスポットらしいんですけど、そこを歪虚に占拠されてしまったらしく。それの殲滅が今回の依頼です」
島の地図が表示されていた画面を今回は必要ないからと切り替える。
「えー、それで皆さんに討伐してもらう歪虚なんですが……」
受付嬢はそこで一旦言葉を切り、上手い表現を探すように視線を彷徨わせた。
「えーとですね。人型っぽいですが、左半身は殻に覆われていて左腕はカニの鋏。右半身も所々に鱗がついているみたいですね。極め付けはイカ頭にゲソ髪ですよ。
このごちゃまぜな姿、いま自由都市周辺の海岸で多数目撃されている“狂気”の歪虚でしょうね」
今各地で狂気の歪虚による被害が増えている。これも無関係ではないだろうと彼女は語る。
「主な攻撃手段は鋏でしょう。それと鱗を飛ばしてくることも確認されています。髪はうねってるだけみたいですが、吸盤付きですし引っ付かれたら危ないんじゃないでしょうか」
気を付けてくださいねと念を押し、説明は以上です、とハンターたちに視線を向ける。
今のところ発見者の釣り人とハンターが襲われただけで大きな被害は出ていない。
しかし各地で増えている歪虚との関係性が疑われる以上、野放しにはできないというのがギルドの判断だった。
何より、釣り人たちの聖地を奪われたままにはしておけない。
つまり。
「まあ細かいことはいいんだよ!ってやつです。いつも通りぶっ潰しちゃってください!」
いい笑顔とサムズアップで、ハンターたちを送り出した。
リプレイ本文
二隻に分かれて沖の島に向かう小舟の中。
「怪人イカ男なんて、まんま変身ヒーローの敵役っすけど……例の異変と関係があるってんならほっとけないっすね」
リアルブルー出身の虎丸 陽一(ka1971)がイカ頭の魚人と聞いて真っ先に思い浮かんだのは特撮の怪人らしい。
人に害をなし、ヒーローに倒される悪の手先……ハンターと歪虚の関係に置き換えると強ち間違ってもいないだろう。
もっとも、現実にはヒーローが斃されることも珍しくはないのだ。油断はできない。
「烏賊頭ですか……墨とか触手とかはあるんでしょうか?」
八劒 颯(ka1804)は今回のターゲットたる歪虚の姿について考えていた。
触手があったら手数が増えそうだし、墨は目晦ましに使われる可能性もある。
と、そんな颯の傍では。
「ゲソー! ゲソをゲッソリ削ってやるもん! にゃはははは!」
緊張感の欠片もない様子で猫野 小梅(ka1626)が陽気に笑っていた。
これから歪虚との戦いに赴くというのにこの余裕である。この子、遊びかなにかと勘違いしているのではなかろうか。
「下級っぽいって言っても、眷属の歪虚、です。その辺の雑魔とは、格がちげー、です」
ナメてかかると痛い目見るですよ、と八城雪(ka0146)が忠告してもどこ吹く風である。
「まあ、大丈夫でしょ。オレたちもいるんだし」
「班がちげー、ですが……まあいい、です。それよりよーいち」
わかってる、ですねと念を押す。無論、この依頼が終わった後のご飯の話である。
ちゃんとわかってるっすよ! と返す陽一に、満足そうに頷く雪であった。
賑やかな船に並走し、残る半数が乗った船では。
「リゼリオ沖の島に歪虚が現れるなんて……。釣り人さんのためにもすぐに追い払わなきゃ!」
聖導士、シェール・L・アヴァロン(ka1386)に同意するように、ガイウス=フォン=フェルニアス(ka2612)が静かに頷くと、顎に手をやり目を細めた。
「ワシがもう少し年老いて、ハンター稼業を引退したら釣りをやるのもいいものじゃのう」
とは言うが、このガイウス=フォン=フェルニアス、伊達に長老などと呼ばれてはいない。であるのにいまだ現役なのだから大したものである。
「だが、その前にこの歪虚を倒さねばならんな」
「ええ! この美しい海を汚す歪虚共など、この私が白金の名の下に討ち滅ぼして差し上げますわ!!」
決して大きな声ではなかったが、込められた確かな意志に、シェリア・プラティーン(ka1801)が力強く決意を表した。
●
島に上陸したハンターたちは、岩場からやや離れたところで様子を窺っていた。
「キメラみたいな歪虚だな。こんなのが海の底から這い出てくるなんてまるで下手なC級ホラーだよ」
実際に歪虚の姿を目にしたフラン・レンナルツ(ka0170)が苦笑とともにそう評する。
歪虚はどこか遠くを見つめている。
何を見ているのかは奴らしか知らない。いや、その目には何も映していないのかもしれないが、ハンターたちにとっては好都合。
こちらに気付く様子は――ない。
今、静かに作戦が開始された。
「よーいち、一発お見舞いしてやれ、です」
「はいはいっと。よそ見してるイカ男にきっつい一撃をくれてやるっすよー」
陽一は集中して周囲のマテリアルを集め、風の刃にして解き放った。
鋭利な鎌鼬となった風は、陽一のことなど文字通り眼中になかった魚人の一体を命中し、右半身に深々と裂傷を刻みつける。
キュキュと悲鳴を上げると、三体が一斉にハンターたちに向き直った。
白く濁った眼をギョロつかせ、ゲソを蠢かせながら『キュ、キュ、キュ』と鳴き続ける姿は、得も言われぬ嫌悪感を疼かせる。
次の瞬間、三体の歪虚は一斉に雪と陽一に殺到した。
「気味が悪いですの。あんなものはさっさと倒してしまいましょう」
歪虚との交戦経験が無かった颯は、盗賊との違いをまざまざと感じさせられた。
水中銃の銃口を向け、射撃。吐き出された弾丸は殻に阻まれるも、ギョロリと淀みが颯を捉えた。
一歩下がりながらもう一射してやると脚部に着弾。緑色の血液を噴き出させる。
思わず顔をしかめるが、敵意を逸らすことには成功したようだ。
「この距離ならボクの射程内だ」
フランも別の一体にリボルバーの照準を合わせると、引き金を引く瞬間、自身のマテリアルを弾丸へと流し込んだ。マテリアルで強化された弾丸が魚人の殻を貫き銃創を負わせる。
悲鳴とともに相手の敵意が自身に向いたのを確かに感じ、フランは薄く笑みを浮かべた。
誘い出しが成功したのを確認すると、雪は自らも距離を詰めた。
そのまま身の丈を超える大斧を振り被ると時計回りに半回転、マテリアルと共に叩き込む。
斧の重量に遠心力も加わった一撃はザクリと肉を断ち、魚人の右腕、その中程あたりまで食い込んだ。
響き渡る絶叫。
「うっせー、です!」
甲高いそれに大斧を強引に引くことで返すと、怒りに任せて叩き付けられた鋏を斧の柄で受け止める。
すぐさまステップで距離を取り、万が一にもゲソに触れないように退く。
アレにくっ付かれたら面倒なことになると予想していたのだ。
彼女の武器が大斧であったことも幸いした。これなら近づきすぎることなく得意の接近戦を仕掛けることができる。
「意外に堅実だ……!」
雪が引いたのを見計らって魔法を撃ち込みつつ、陽一は内心少し驚いていた。
『けっこー無茶苦茶やりそう』とか『オレがしっかりフォローしてやらないと』的なことを考えていたらこれである。少しばかり同僚を侮っていたかもしれないと反省する。
「よーいち、なんか言いやがった、です?」
「いや、なんでもないっす!」
いつ無茶するか冷や冷やしてましたとは言えない。そんな陽一の内心を余所に大斧を振り続ける雪。
要所要所での陽一のフォローもあり、終始優勢で戦いを進めていた。
大小さまざまな傷を付けられていく魚人だが、ついに雪の斬撃が殻に覆われていない胴体を捉え、大きな裂傷を刻む。
明らかな致命傷。それを証明するかのように、膝をついた魚人は声も絶え絶えといった様子で、あれほど煩かった鳴き声も途切れ途切れにしか聞こえない。
しかし。
「しぶてー、ですね。まだ、やるつもり、ですか」
這いずってくる。が、戦えない歪虚など雪にはもうどうでもよく。
「よーいち、トドメ、くれてやる、です」
「よし、それならオレのとっておきを食らわせてやるぜ!」
そう言うと岩場を蹴り跳躍!
彼の周囲で風が踊り、マテリアルが彼の足に集中する。
そのまま、彼の足は魚人の胸に吸い込まれるように炸裂し――
「トラマルダーキーック!!」
渾身の跳び蹴りを受けた魚人は不浄のマテリアルを飛び散らせ、跡形もなく爆散した。
見事な着地を決め満足げな陽一に対し、ぽかんとしている雪。
普通にウィンドスラッシュでトドメを刺すかと思えば、いきなり技名とともに跳び蹴りを繰り出したのだ。困惑するのも無理はない。
「……よーいち、今のなに、です?」
「え? だって正義の味方が悪の怪人を倒すつったら、必殺キック以外ありえないっしょ!」
男の浪漫というやつだろうか。イマイチ同意できなかった雪は、それよりも、と。
「他のとこに、加勢に行く、です」
理解するのを諦めた。
時は僅かに巻き戻り。
鳴きながら颯に襲い掛かってきた魚人に対し、尚も下がりながら銃撃を続けることで逸れた意識の隙を突いて、低い姿勢で隙を窺っていた小梅が飛び掛かる。
「にゃははは! ほらほらほらほらぁ!」
猛獣が獲物に襲い掛かるが如き瞬発力で挑みかかった小梅が祖霊の力を込めて振り抜いたジャマハダルは、咄嗟に振るわれた鋏とぶつかり硬質な音を響かせた。
追撃を仕掛けようとする小梅を余所に、魚人はなおも颯に襲いかかる。
繰り出された鋏の一撃を避けきれず咄嗟に銃身で受け止めるが、その勢いに弾き飛ばされてしまう。
「きゃあッ!」
「うにゃあああ! 無視するにゃあ!」
無視されたと感じた小梅が背後から襲い掛かるが、武器は殻の表面を滑り、勢いのまま崩れる体勢。さらに運の悪いことに――
「にゃあああ!?」
「猫野さん!」
魚人のゲソが小梅に触れる。吸盤が小梅の柔肌をしっかりと捕らえて離さない。
思わず攻撃の手を止めかける颯だが、小梅が捕らわれたのは敵の背後だ。脱出の手助けには背後を取る必要があるだろうし、己に敵意が向けられたこの状況でそんな余裕はない。
ならば自分は彼女が脱出するまで魚人を抑えんと長剣を抜く。
しかし一方の小梅はというと。
「もぉ! やけっぱちぃぃぃぃぃ!」
脱出など露ほども考えず、ジャマハダルを叩き付け叩き付け叩き付け――!
動けない……つまり相手が逃げられないのを幸いとばかりに、これでもかと攻撃を加えていた。
狂気の歪虚といえどこれを無視することはできず、咄嗟に背面の鱗を飛ばす。
大雑把に放たれた鱗だったが、密着していれば狙う必要などない。当然の結果として小梅の身体を蹂躙するが、血に塗れながら尚も獣爪を打ち続ける。
ある種狂気的ともいえる小梅の様子にたじろぎながらも、颯も長剣で正面から斬り付ける。
そこに奔る一条の銀閃。
「貴方の敵は此方にも居りましてよっ!」
不意を打つように放たれたエストックの刺突は見事魚人の頭を穿つ。
やや形勢不利と見たシェリアが加勢したのだ。
「精霊よ、かの者の傷を癒し給え!」
同時にシェールが施したヒールによって小梅の傷を柔らかな光が癒していく。
「助かったにゃ!!」
少しへたれていた猫耳も元気を取り戻したかのようにピンと立ち、活力を取り戻した小梅が再びジャマハダルを打ち付ける。
「ここは私が加勢しますわ。シェールさんは他をお願いします」
「ええ、ここはお願いね」
シェリアに頷くと、シェールは残る一組の下に向かう。
さて、と。尖剣の切っ先を魚人に向けた。
「この攻撃、見切れましてっ!?」
シェリアから繰り出されるのは鋭い刺突の連打。巧みにフェイントを織り交ぜ、軌道を読ませないように剣を振るう。
前門のシェリア後門の小梅。
前後を挟まれ、さらに側面からは颯が斬撃を放つ。
「いいようにやってくれたお返しですの」
彼女の反対側から落ちてくる大斧。
「ちょっとおそかった、です」
一体を片付けた雪も加わり4対1。最早魚人に反撃の手段は残されていなかった。
フランの方に向かった魚人は敵と定めた彼女に手を出せずにいた。
マテリアルを滾らせ、全身を活性化させたガイウスに阻まれていたためだ。
「このような場所で、光り輝く未来に傷をつける訳にはいかんのう」
若い者に傷を負わせたくないと自ら進んで前に出る。
「その気持ちはありがたいけど、ボクだってハンターで元兵士だ。一人に全てを負わせるわけにはいかないね」
ガイウスの決意に感謝はしつつも、フランは一人のハンターとして歪虚を滅するために動く。
盾で身体を隠しつつ、側面、そして背後に回っての攻勢射撃。
フランが使う銀色のリボルバー拳銃、シルバーマグには火薬を増量した高威力の弾丸を装填している。
その弾丸にマテリアルを込めて撃ち出すのだからその威力は推して知るべし。
彼女の放つ強弾は、殻に着弾しても一定のダメージを保ち、魚人の生命力を削っていた。
キュ、キュという鳴き声とともに煩わしい銃撃を止めるために鱗を放つ。
「予備動作は鱗を逆立てることか。よく見れば判りやすいね」
攻撃動作を察知したフランはすぐに盾を引き寄せてしゃがむと身体を盾に隠す。
散弾のように散った鱗は盾の表面に傷をつける。数枚が僅かに露出している部分を切り裂くが、事前にガイウスに付与されていた防御法術が威力を削ぎ、掠り傷程度に留まる。
ほぼ無傷。その事実に大した知能がない魚人も苛立ったか。鳴き声の間隔を短くすると、尚も前に出て阻もうとするガイウスを排除しようと鋏を大きく振り被る。
振り下ろされた鋏槌をバックラーで受け止めると、強引に払いのけ。
「フラン殿を気にする前に確とワシを見よ!」
払った左腕をモーニングスターの一撃が打ち据える。
殻を叩く硬質な音が響き、打ち込んだガイウスの手にも衝撃が伝わる。
鍛冶の叩上げにも似たその手応えを感じながら強引に第二撃。バキッと、殻に罅が入る。
「頑丈な鋏じゃのう。今ので壊せんか」
大きく罅割れているが殻は依然として健在。自分の力では破壊できないと踏んで、ならばと狙いを右半身に定める。
瞬間、側面から飛来した光弾が魚人に命中し大きく体勢を崩す。
シェールの援護射撃、ホーリーライトだ。
「大丈夫?援護するわ」
「ありがたいのう。しからば、ワシ等に任されたこの1匹を確実にしとめるとしようかの」
フランの援護射撃とシェールの回復支援を得て、ガイウスが武器を振るう。
ドワーフの膂力を殻に護られていない胴体に打撃を叩き込まれ、反射的に護ろうとするが、二方向から撃ち込まれる射撃と魔法がそれを許さない。
陽一も合流すると流れは変えようもないほどにハンターたちに傾く。
最後にはフランの強弾が脳天を捉え、狂気の魚人は塵へと還っていった。
●
「にゃぉん! にゃぉん! にゃぁおぉぉぉぉん!」
歪虚のいなくなった岩礁で小梅が雄叫びを上げていた。
血塗れな上になにやら粘液にも塗れているが、勝利を誇る姿は猫というより猛獣か。
とはいえ、かなりの無茶をしたことには変わりなく。
「無茶しすぎよ? 今回はなんとかなったから良かったものの、一歩間違えばどうなっていたか」
シェールからヒールと一緒に軽いお説教を受ける羽目になったのだが。
「早く平和な海を取り戻して、思い切り海水浴を楽しみたいですわ……」
「そうですね。このまま歪虚へ対処で夏が終わるなんて、冗談じゃありませんの」
ぼやくシェリアと颯。狂気の歪虚が現れて以来、海というと歪虚関係のことしか聞かない気すらする。
不吉な考えが一瞬頭をよぎるが、頭を振って掻き消した。本当に冗談じゃない。
「よーいち、さっさと帰って、飯行く、です。今日は、シーフードな気分、です」
「オーケイ、約束通り奢ってやるっすよ」
美味い店を探しておいたっす、と雪と陽一は既に帰った後の予定を決めている。
しかしそれを聞いて、ふむ……と唸る長老が。
「どれ、安全になったことじゃし、誰かワシに釣りを教えてくれんかのう?」
せっかく海辺に来たからには海の幸を食べるのじゃ、と意気込むガイウス。
「餌付けて糸垂らせばいいんじゃないか?」
とフラン。
それを聞き、釣り人が残していった釣竿をちょっと拝借して糸を垂らす。
一時間後――――
「釣れんのう……」
「よーいち、腹減った、です」
「うん、オレも」
「帰りましょうか」
「ですね」
帰りの船の中。
哀愁を帯びたガイウスの背中があったとか。
「怪人イカ男なんて、まんま変身ヒーローの敵役っすけど……例の異変と関係があるってんならほっとけないっすね」
リアルブルー出身の虎丸 陽一(ka1971)がイカ頭の魚人と聞いて真っ先に思い浮かんだのは特撮の怪人らしい。
人に害をなし、ヒーローに倒される悪の手先……ハンターと歪虚の関係に置き換えると強ち間違ってもいないだろう。
もっとも、現実にはヒーローが斃されることも珍しくはないのだ。油断はできない。
「烏賊頭ですか……墨とか触手とかはあるんでしょうか?」
八劒 颯(ka1804)は今回のターゲットたる歪虚の姿について考えていた。
触手があったら手数が増えそうだし、墨は目晦ましに使われる可能性もある。
と、そんな颯の傍では。
「ゲソー! ゲソをゲッソリ削ってやるもん! にゃはははは!」
緊張感の欠片もない様子で猫野 小梅(ka1626)が陽気に笑っていた。
これから歪虚との戦いに赴くというのにこの余裕である。この子、遊びかなにかと勘違いしているのではなかろうか。
「下級っぽいって言っても、眷属の歪虚、です。その辺の雑魔とは、格がちげー、です」
ナメてかかると痛い目見るですよ、と八城雪(ka0146)が忠告してもどこ吹く風である。
「まあ、大丈夫でしょ。オレたちもいるんだし」
「班がちげー、ですが……まあいい、です。それよりよーいち」
わかってる、ですねと念を押す。無論、この依頼が終わった後のご飯の話である。
ちゃんとわかってるっすよ! と返す陽一に、満足そうに頷く雪であった。
賑やかな船に並走し、残る半数が乗った船では。
「リゼリオ沖の島に歪虚が現れるなんて……。釣り人さんのためにもすぐに追い払わなきゃ!」
聖導士、シェール・L・アヴァロン(ka1386)に同意するように、ガイウス=フォン=フェルニアス(ka2612)が静かに頷くと、顎に手をやり目を細めた。
「ワシがもう少し年老いて、ハンター稼業を引退したら釣りをやるのもいいものじゃのう」
とは言うが、このガイウス=フォン=フェルニアス、伊達に長老などと呼ばれてはいない。であるのにいまだ現役なのだから大したものである。
「だが、その前にこの歪虚を倒さねばならんな」
「ええ! この美しい海を汚す歪虚共など、この私が白金の名の下に討ち滅ぼして差し上げますわ!!」
決して大きな声ではなかったが、込められた確かな意志に、シェリア・プラティーン(ka1801)が力強く決意を表した。
●
島に上陸したハンターたちは、岩場からやや離れたところで様子を窺っていた。
「キメラみたいな歪虚だな。こんなのが海の底から這い出てくるなんてまるで下手なC級ホラーだよ」
実際に歪虚の姿を目にしたフラン・レンナルツ(ka0170)が苦笑とともにそう評する。
歪虚はどこか遠くを見つめている。
何を見ているのかは奴らしか知らない。いや、その目には何も映していないのかもしれないが、ハンターたちにとっては好都合。
こちらに気付く様子は――ない。
今、静かに作戦が開始された。
「よーいち、一発お見舞いしてやれ、です」
「はいはいっと。よそ見してるイカ男にきっつい一撃をくれてやるっすよー」
陽一は集中して周囲のマテリアルを集め、風の刃にして解き放った。
鋭利な鎌鼬となった風は、陽一のことなど文字通り眼中になかった魚人の一体を命中し、右半身に深々と裂傷を刻みつける。
キュキュと悲鳴を上げると、三体が一斉にハンターたちに向き直った。
白く濁った眼をギョロつかせ、ゲソを蠢かせながら『キュ、キュ、キュ』と鳴き続ける姿は、得も言われぬ嫌悪感を疼かせる。
次の瞬間、三体の歪虚は一斉に雪と陽一に殺到した。
「気味が悪いですの。あんなものはさっさと倒してしまいましょう」
歪虚との交戦経験が無かった颯は、盗賊との違いをまざまざと感じさせられた。
水中銃の銃口を向け、射撃。吐き出された弾丸は殻に阻まれるも、ギョロリと淀みが颯を捉えた。
一歩下がりながらもう一射してやると脚部に着弾。緑色の血液を噴き出させる。
思わず顔をしかめるが、敵意を逸らすことには成功したようだ。
「この距離ならボクの射程内だ」
フランも別の一体にリボルバーの照準を合わせると、引き金を引く瞬間、自身のマテリアルを弾丸へと流し込んだ。マテリアルで強化された弾丸が魚人の殻を貫き銃創を負わせる。
悲鳴とともに相手の敵意が自身に向いたのを確かに感じ、フランは薄く笑みを浮かべた。
誘い出しが成功したのを確認すると、雪は自らも距離を詰めた。
そのまま身の丈を超える大斧を振り被ると時計回りに半回転、マテリアルと共に叩き込む。
斧の重量に遠心力も加わった一撃はザクリと肉を断ち、魚人の右腕、その中程あたりまで食い込んだ。
響き渡る絶叫。
「うっせー、です!」
甲高いそれに大斧を強引に引くことで返すと、怒りに任せて叩き付けられた鋏を斧の柄で受け止める。
すぐさまステップで距離を取り、万が一にもゲソに触れないように退く。
アレにくっ付かれたら面倒なことになると予想していたのだ。
彼女の武器が大斧であったことも幸いした。これなら近づきすぎることなく得意の接近戦を仕掛けることができる。
「意外に堅実だ……!」
雪が引いたのを見計らって魔法を撃ち込みつつ、陽一は内心少し驚いていた。
『けっこー無茶苦茶やりそう』とか『オレがしっかりフォローしてやらないと』的なことを考えていたらこれである。少しばかり同僚を侮っていたかもしれないと反省する。
「よーいち、なんか言いやがった、です?」
「いや、なんでもないっす!」
いつ無茶するか冷や冷やしてましたとは言えない。そんな陽一の内心を余所に大斧を振り続ける雪。
要所要所での陽一のフォローもあり、終始優勢で戦いを進めていた。
大小さまざまな傷を付けられていく魚人だが、ついに雪の斬撃が殻に覆われていない胴体を捉え、大きな裂傷を刻む。
明らかな致命傷。それを証明するかのように、膝をついた魚人は声も絶え絶えといった様子で、あれほど煩かった鳴き声も途切れ途切れにしか聞こえない。
しかし。
「しぶてー、ですね。まだ、やるつもり、ですか」
這いずってくる。が、戦えない歪虚など雪にはもうどうでもよく。
「よーいち、トドメ、くれてやる、です」
「よし、それならオレのとっておきを食らわせてやるぜ!」
そう言うと岩場を蹴り跳躍!
彼の周囲で風が踊り、マテリアルが彼の足に集中する。
そのまま、彼の足は魚人の胸に吸い込まれるように炸裂し――
「トラマルダーキーック!!」
渾身の跳び蹴りを受けた魚人は不浄のマテリアルを飛び散らせ、跡形もなく爆散した。
見事な着地を決め満足げな陽一に対し、ぽかんとしている雪。
普通にウィンドスラッシュでトドメを刺すかと思えば、いきなり技名とともに跳び蹴りを繰り出したのだ。困惑するのも無理はない。
「……よーいち、今のなに、です?」
「え? だって正義の味方が悪の怪人を倒すつったら、必殺キック以外ありえないっしょ!」
男の浪漫というやつだろうか。イマイチ同意できなかった雪は、それよりも、と。
「他のとこに、加勢に行く、です」
理解するのを諦めた。
時は僅かに巻き戻り。
鳴きながら颯に襲い掛かってきた魚人に対し、尚も下がりながら銃撃を続けることで逸れた意識の隙を突いて、低い姿勢で隙を窺っていた小梅が飛び掛かる。
「にゃははは! ほらほらほらほらぁ!」
猛獣が獲物に襲い掛かるが如き瞬発力で挑みかかった小梅が祖霊の力を込めて振り抜いたジャマハダルは、咄嗟に振るわれた鋏とぶつかり硬質な音を響かせた。
追撃を仕掛けようとする小梅を余所に、魚人はなおも颯に襲いかかる。
繰り出された鋏の一撃を避けきれず咄嗟に銃身で受け止めるが、その勢いに弾き飛ばされてしまう。
「きゃあッ!」
「うにゃあああ! 無視するにゃあ!」
無視されたと感じた小梅が背後から襲い掛かるが、武器は殻の表面を滑り、勢いのまま崩れる体勢。さらに運の悪いことに――
「にゃあああ!?」
「猫野さん!」
魚人のゲソが小梅に触れる。吸盤が小梅の柔肌をしっかりと捕らえて離さない。
思わず攻撃の手を止めかける颯だが、小梅が捕らわれたのは敵の背後だ。脱出の手助けには背後を取る必要があるだろうし、己に敵意が向けられたこの状況でそんな余裕はない。
ならば自分は彼女が脱出するまで魚人を抑えんと長剣を抜く。
しかし一方の小梅はというと。
「もぉ! やけっぱちぃぃぃぃぃ!」
脱出など露ほども考えず、ジャマハダルを叩き付け叩き付け叩き付け――!
動けない……つまり相手が逃げられないのを幸いとばかりに、これでもかと攻撃を加えていた。
狂気の歪虚といえどこれを無視することはできず、咄嗟に背面の鱗を飛ばす。
大雑把に放たれた鱗だったが、密着していれば狙う必要などない。当然の結果として小梅の身体を蹂躙するが、血に塗れながら尚も獣爪を打ち続ける。
ある種狂気的ともいえる小梅の様子にたじろぎながらも、颯も長剣で正面から斬り付ける。
そこに奔る一条の銀閃。
「貴方の敵は此方にも居りましてよっ!」
不意を打つように放たれたエストックの刺突は見事魚人の頭を穿つ。
やや形勢不利と見たシェリアが加勢したのだ。
「精霊よ、かの者の傷を癒し給え!」
同時にシェールが施したヒールによって小梅の傷を柔らかな光が癒していく。
「助かったにゃ!!」
少しへたれていた猫耳も元気を取り戻したかのようにピンと立ち、活力を取り戻した小梅が再びジャマハダルを打ち付ける。
「ここは私が加勢しますわ。シェールさんは他をお願いします」
「ええ、ここはお願いね」
シェリアに頷くと、シェールは残る一組の下に向かう。
さて、と。尖剣の切っ先を魚人に向けた。
「この攻撃、見切れましてっ!?」
シェリアから繰り出されるのは鋭い刺突の連打。巧みにフェイントを織り交ぜ、軌道を読ませないように剣を振るう。
前門のシェリア後門の小梅。
前後を挟まれ、さらに側面からは颯が斬撃を放つ。
「いいようにやってくれたお返しですの」
彼女の反対側から落ちてくる大斧。
「ちょっとおそかった、です」
一体を片付けた雪も加わり4対1。最早魚人に反撃の手段は残されていなかった。
フランの方に向かった魚人は敵と定めた彼女に手を出せずにいた。
マテリアルを滾らせ、全身を活性化させたガイウスに阻まれていたためだ。
「このような場所で、光り輝く未来に傷をつける訳にはいかんのう」
若い者に傷を負わせたくないと自ら進んで前に出る。
「その気持ちはありがたいけど、ボクだってハンターで元兵士だ。一人に全てを負わせるわけにはいかないね」
ガイウスの決意に感謝はしつつも、フランは一人のハンターとして歪虚を滅するために動く。
盾で身体を隠しつつ、側面、そして背後に回っての攻勢射撃。
フランが使う銀色のリボルバー拳銃、シルバーマグには火薬を増量した高威力の弾丸を装填している。
その弾丸にマテリアルを込めて撃ち出すのだからその威力は推して知るべし。
彼女の放つ強弾は、殻に着弾しても一定のダメージを保ち、魚人の生命力を削っていた。
キュ、キュという鳴き声とともに煩わしい銃撃を止めるために鱗を放つ。
「予備動作は鱗を逆立てることか。よく見れば判りやすいね」
攻撃動作を察知したフランはすぐに盾を引き寄せてしゃがむと身体を盾に隠す。
散弾のように散った鱗は盾の表面に傷をつける。数枚が僅かに露出している部分を切り裂くが、事前にガイウスに付与されていた防御法術が威力を削ぎ、掠り傷程度に留まる。
ほぼ無傷。その事実に大した知能がない魚人も苛立ったか。鳴き声の間隔を短くすると、尚も前に出て阻もうとするガイウスを排除しようと鋏を大きく振り被る。
振り下ろされた鋏槌をバックラーで受け止めると、強引に払いのけ。
「フラン殿を気にする前に確とワシを見よ!」
払った左腕をモーニングスターの一撃が打ち据える。
殻を叩く硬質な音が響き、打ち込んだガイウスの手にも衝撃が伝わる。
鍛冶の叩上げにも似たその手応えを感じながら強引に第二撃。バキッと、殻に罅が入る。
「頑丈な鋏じゃのう。今ので壊せんか」
大きく罅割れているが殻は依然として健在。自分の力では破壊できないと踏んで、ならばと狙いを右半身に定める。
瞬間、側面から飛来した光弾が魚人に命中し大きく体勢を崩す。
シェールの援護射撃、ホーリーライトだ。
「大丈夫?援護するわ」
「ありがたいのう。しからば、ワシ等に任されたこの1匹を確実にしとめるとしようかの」
フランの援護射撃とシェールの回復支援を得て、ガイウスが武器を振るう。
ドワーフの膂力を殻に護られていない胴体に打撃を叩き込まれ、反射的に護ろうとするが、二方向から撃ち込まれる射撃と魔法がそれを許さない。
陽一も合流すると流れは変えようもないほどにハンターたちに傾く。
最後にはフランの強弾が脳天を捉え、狂気の魚人は塵へと還っていった。
●
「にゃぉん! にゃぉん! にゃぁおぉぉぉぉん!」
歪虚のいなくなった岩礁で小梅が雄叫びを上げていた。
血塗れな上になにやら粘液にも塗れているが、勝利を誇る姿は猫というより猛獣か。
とはいえ、かなりの無茶をしたことには変わりなく。
「無茶しすぎよ? 今回はなんとかなったから良かったものの、一歩間違えばどうなっていたか」
シェールからヒールと一緒に軽いお説教を受ける羽目になったのだが。
「早く平和な海を取り戻して、思い切り海水浴を楽しみたいですわ……」
「そうですね。このまま歪虚へ対処で夏が終わるなんて、冗談じゃありませんの」
ぼやくシェリアと颯。狂気の歪虚が現れて以来、海というと歪虚関係のことしか聞かない気すらする。
不吉な考えが一瞬頭をよぎるが、頭を振って掻き消した。本当に冗談じゃない。
「よーいち、さっさと帰って、飯行く、です。今日は、シーフードな気分、です」
「オーケイ、約束通り奢ってやるっすよ」
美味い店を探しておいたっす、と雪と陽一は既に帰った後の予定を決めている。
しかしそれを聞いて、ふむ……と唸る長老が。
「どれ、安全になったことじゃし、誰かワシに釣りを教えてくれんかのう?」
せっかく海辺に来たからには海の幸を食べるのじゃ、と意気込むガイウス。
「餌付けて糸垂らせばいいんじゃないか?」
とフラン。
それを聞き、釣り人が残していった釣竿をちょっと拝借して糸を垂らす。
一時間後――――
「釣れんのう……」
「よーいち、腹減った、です」
「うん、オレも」
「帰りましょうか」
「ですね」
帰りの船の中。
哀愁を帯びたガイウスの背中があったとか。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/21 19:04:44 |
|
![]() |
相談卓 シェリア・プラティーン(ka1801) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/26 10:29:27 |