• 深棲

【深棲】強奪じゃない、借りるだけだ

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/29 07:30
完成日
2014/08/07 10:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「陛下は狂気の眷属に対して積極的な活動を取らないのはどうしてですかね。私ならこんな時こそ総力をあげゾンネンシュトラール帝国ここにあり! と名を轟かせるべきだと思うのですが」
 帝国沿岸部。ここから南に下れば自由都市同盟との国境へと接続されようかという場所だ。海は穏やかで遥か先では歪虚が侵攻する様子があるなどとはとても信じられない。そんな岸部に男が二人立っていた。
「そうかな? 仮に僕が同じ立場だしたら同じ行動をとったと思うよ」
 優男といった風情の方は、渡された資料に目を落としながらそう言った。その言葉にもう一人の士官風の男は全く理解できずに眉をひそめるばかりであったが、優男は構わず続けた。
「ま、残念なのは陛下が自分の眼で見聞できないことだろうね。それに比べて僕たちは幸せじゃないか。ちょうど噂に名高いハンターの実力や歪虚の軍勢がどんな行動をとってくるのか見たかったところなんだ」
「あの、お言葉ですが……シグルド様。その書類は歪虚の被害調査ではなく、海賊行為に対する対応具申に関するものですよ?」
「うん、そうだね。僕にもそう見える」
 どうも話がかみ合わず士官が言葉を添えるが、シグルドと呼ばれた優男は意に介した様子もない。
 確かに彼が手にしている帝国地方内務課発の作戦命令書に書かれているのは、狂気の眷属の発化のどさくさに紛れて海賊が帝国沿岸部まで脅威を及ぼしてきたので、取り締まってほしいという内容のものであった。
「要するに、だ。僕はハンターの実力を見てみたいし、歪虚の軍勢も見てみたい。だが第一師団の主な任務は帝都守備であり、狂気の眷属と相見えるための船もない。と悩んでいたんだけどね。やあ、幸運だなぁ。ちょうどいい船があるじゃないか」
 そこまで聞いてシグルドの言わんとしていることを理解して士官の顔が引きつった。

 要するに、シグルドは海賊船を拿捕し、それで狂気の眷属が潜んでいるだろう海域まで足を運ぶつもりなのだ。

「お言葉ですが、シグルド様。海賊を捕らえた場合、海賊船は軍の管理下におかれるのが普通です。それに……」
「ははは、私物化しようってわけじゃない、借りるだけさ。それに使い慣れない船なら『ちょっと失敗して』沖に出ることもあるだろうね」
 海賊の本拠地でもある海賊船を拿捕するだけでも、かなりの力が必要だ。その上に歪虚が大量にひそんでいるかも知れないような海域に出るなど、並大抵の話ではない。リスクが極めて高いはずの任務を彼はまるで雑作もないことのように話すのだ。
「ああ、ハンターに頼むから君はいいよ」
「そんなわけにいきませんっ。軍人たるもの戦場こそ生きる場所!」
 そこまで言って、士官はハッと気づいた。
 ノせられた。
 シグルドはニコニコと笑うと、作戦命令書を丸めて士官に渡した。
「良い返事だ。それじゃハンターソサエティへの依頼は君に任せる。君もハンターもくれぐれも死に急ぐことがないようにしてくれ。宝石の原石みたいなものだからね」
 呆然とする士官をよそに、海賊船に近づくための商船の手配をしてこよう。と言って、シグルドは立ち上がるとさっさと近くの町へと移動していった。

リプレイ本文

「海賊だっ!」
 全てはその一言から始まった。
 ヤード(帆を張るための横桁)から渡されたロープを振り子にしたり、鉤のついたを船べりに引っ掛けて海賊が次々と船に飛び移ってくる。その手早さはさすがに手慣れていると誰もが感じ事ができた。しかし、先鋒が数人乗り移りが完了して間もなくアリス・ナイトレイ(ka0202)の凛とした声が響いた。
「降伏すれば命までは取りません。早めの降伏をお勧めします」
「何を言い出すかと思えば、そりゃこっちのセリフだろう!?」
 アリスは問答無用とばかりにオートマチックピストルの引き金を引いた。命中こそしなかったものの、十分に警告とはなったようだ。
「へっ、小娘がいい度胸してるな。おい、ここにいる奴らみんな血祭りにあげるぞっ」
「警告はしましたよ?」
 海賊の耳元でフェリ・ボーランジェ(ka2079)が囁いた。そして抜き去りざまにドリルナックルを叩きこんでいった。海風になびく亜麻色の髪の毛の先端が血に染まる。
「野郎っ」
 ロープを振り子にして海賊が真上から迫ってくる海賊が迫ってくる。
 が、炸裂音が響くと、海賊は力なくロープからずり落ち、船の船の合間にある海へとそのまま落下していた。
「狙ってくれと言ってるようなだよね」
 リロードをしたアーシュラ・クリオール(ka0226)が笑って言った。リアルブルーで歩兵訓練を受けていた彼女にとって、それほど難しい作業ではなかった。
「ちくしょう、ハンター達か、しかもこんなに……!」
「はい、ご名答」
 増援が次々と落とされて、ようやく自分たちがどういった相手にケンカを吹っ掛けのか理解した海賊だが、すでにもう時勢は決していた。ユリアン(ka1664)が仕掛けていたロープをぐいっと引くと、船上に置かれていたタルが次々と横転し、海賊めがけて転がっていく。
「くそっ、こんな小手先を」
「んじゃあ、正々堂々の方がいいってかぁ!?」
 タルの合間を縫って進む加藤昱彰(ka0767)が海賊の懐に瞬脚で踏み込むと、巻き込むように体当たりを叩きこむ。強く踏み込んだ脚からの爆発的な推進力と捻じれがうみだす貫通力を伴った一撃は、海賊を軽く数メートル吹き飛ばし、そのまま海へと突き落とした。
「……そんなキャラだったか?」
「あー、いや、違うんだ、海に来たことだし普段と違う自分を試してみようかなと……」
 甲板中央で状況確認行っていたサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)がその豪放な言葉遣いをした加藤を半眼で見つめると、少々テレが入ったのか、加藤は一応否定を述べつらう。
「あまり自分を見失って、自滅しないことだけ祈っておく」
 サーシャは肯定をするでもなく、否定をするわけでもなく、矢をつがえてまだ海賊船から飛び乗ろうとする海賊を撃ち落とす。あそこまでとは言わないが自分にもふと頭をよぎるものがあるとは口が裂けても言えない話だ。
「前衛が散ったな。ではこちらから行かせてもらおう」
 蘇芳 和馬(ka0462)が海賊船とつなぐ鉤を伝って来た海賊を切り伏せてそのまま敵船へと踏み込んでいくと、これから乗り移ろうとしていた海賊たちが蘇芳をぐるりと取り囲み、銃口を向けた。
「好き勝手させねぇ!」
 くたばれ、とばかりに一斉に海賊の持つ銃に引き金に力を込めた時、突如、一陣の風が天空から吹き降りてくる。
 ヤードから垂れたロープの遠心力で勢いをつけたユリアンが戦場の真上から襲い掛かった。両足で二人を文字通り薙ぎ倒していく。
「周りはよく確認しとくもんだぜ? 大丈夫か? 蘇芳さん」
「かすり傷だ」
 蘇芳はユリアンに短く礼を言うと、そのまま残った海賊に太刀を浴びせ沈めた。その左肩には銃創であろう流血が確認できたが、蘇芳は気にした様子もなく、そのまま敵陣の中へ走って行こうとする。
「お待ちください、回復します!」
 商船の船べりまで移動したアティ(ka2729)が素早く詠唱し、蘇芳にヒールをかける。それと同時に漆黒の衣装を身にまとったアリーシュ(ka2350)が海賊船へと飛び移り、剣を抜き去った。
「前哨戦といえども油断するでない。同伴させてもらうぞ」
「……わかった。首魁を落とすぞ」
「上策だ。後が控えているからな、手っ取り早く終わらせるにはちょうどいい」
 蘇芳とアリーシュは短くそう伝え合うと、まっすぐ甲板で指揮を飛ばす海賊の船長の元へと走って行った。船長は状況不利と感じていたのか既に撤退の指揮を飛ばしていた。
「撤退? させぬわ」
 船長を守ろうと二人の海賊が蘇芳とアリーシュの行動線上に割り込んできた。アリーシュは強く踏み込むと体を沈め、そこから鳩尾に向かって鋭い突き、一撃で阻む力を失わせる。そして同時にぐるりと身を反転させ、剣を引き抜くと同時に勢いをつけてもう一人の海賊の胴を薙ぎ払った。
 蘇芳はまるで計ったかのように低空を奔るアリーシュの剣撃を飛び越え、構えた海賊の膝、崩れ落ちるもう片方の海賊の肩、と次々と足をかけて一気に跳躍した。降り立った先は船長の後方だ。
「て、てっ……」
 船長がもう一度撤退の声を上げようとしていた。が、それが言葉として結ばれることはなく、首筋から派手に吹く血潮とが奏でる虎落笛(もがりぶえ)の音によってかき消されていく。そののち蘇芳は太刀についた血糊を拭い落とし、鞘へと納めた。
「改めて宣告する。こうなりたくなければ投降しろ。そうすれば命までは取らん」
 船長の真っ赤な襟首をつかんでそう宣言した蘇芳の言葉によって、戦いは終結した。


 陸地から少し離れると見渡す限り、一面の海が広がっていた。風は止まず、波もそれなりにはあるが、外海ではこれが普通であり、これでも極めて穏やかだといえる。太陽は南中に差し掛かり、潮風と相まって焼けるような暑さを作り出していた。
「それにしても、ずいぶん大胆なことを考えますね」
 これからの戦いに備えてフィッシュアンドチップスを作り皆に振る舞うアティは、その大皿を依頼主である帝国第一師団副師団長のシグルドに差し出しながらそう言った。
「ええ、やることがすごいですよね」
 アリスもアティの発言に同意しているようであった。
「陛下は積極的に軍の展開しないと決めたからね。勝手にやってこい、とは言われたものの、予算がおりないんだから仕方ないことだよ」
 シグルドは船首像にもたれかかりながら、焼けつく太陽をサングラス越しに見ながらそう言った。衣装も鎧どころか軍服ですらなく、横に置かれた刀のような穂先の槍がなければ、見た目は単なる遊び人だ。
「君たちのおかげで船は無事手に入ったし、船を動かす労働力も損なわずに済んだ。さすがだね」
「恐悦至極にございます。副師団長殿」
 ユリアンが仰々しく片膝をついて、いたく真面目にそう言うものだからシグルドはからからと笑った。
「その肝の座ったところがいいね。陛下がハンターを推すのも良くわかる」
「ふぅん。帝国はあたし達にどんな評価をしているんだろうね?」
「その為に今から戦うんじゃないか」
 アーシュラの問いかけにシグルドが片頬だけをあげて、シニカルな笑みを浮かべた。
 それと同時に太陽が雲に遮られる。上空で鳴いていたアホウドリは風を受けて大きく上昇し、船を離れていくのを見て、ハンター達は一斉に武器を取り、警戒態勢を取った。
「意外と早い反応だな、もう自由同盟領なのか……?」
 ユリアンがあたりの様子をうかがう。陸地から離れ景色は代わり映えのしない一面の海だが、肌が泡立つような感触がするのは、ユリアン一人ではない。
 不意に船に鈍い音が響いて、不自然な横揺れが起こった。操舵士が声を上げる。
「すいやせんっ、舵が、うごかねぇ!」
「舵を壊してお出迎えか。意外と知恵が回るね。舵の方は兵長に確認させる。君たちは予定通り敵を頼むよ」
 起き上がったシグルドは控えていた兵長に声をかけて動き出した。しかし、すぐさまどうなるわけでもなく、操舵士は切羽詰まった悲鳴を上げる。
「どうするんスか、このままじゃ敵陣一直線ですよ!」
「こちらで対応するから喚かないで。帆を上げて減速」
 サーシャは早口でそう伝えると、マストにつながれたロープを一気に駆け上っていく。そして頂点に設置された見張り台にひらりと飛び乗ると周辺の海を確認した。一見では気づかないが、波間に隠れて大きな魚影があちこちに姿を現している。半魚人の頭だ。
「大丈夫だ、俺たちが食い止める。左舷側に力を入れて漕いでくれ」
「3時から4時に2体、7時に3体、9時に4体。それか……」
 ユリアンが不安に駆られる漕ぎ役に声をかける間に、敵数を数えて仲間に伝えようとしたサーシャの言葉が一瞬詰まった。海面が一瞬光ったかと思うと風切り音が次々と響き矢が甲板に降り注ぐ。届きはしないもののその軌道は明らかに敵影を報告するサーシャに向けられたものだ。
「神よ、皆をお守りくださいませ」
 アティは短く詠唱すると、プロテクションを次々と仲間にかけていく。フェリは自分に魔法がかかったのを確認すると、鉤爪を使って甲板によじ登り顔を見せた半魚人の前に駆け出す。
「消えなさい」
 フェリは甲板を蹴ると一気に跳躍し、船縁から顔を出したその頭に蹴りを叩きこんだ。水棲生命体特有の湿った皮膚が足を通して伝わってくる。それを切り離すかのように、フェリは体重を乗せて飛び上がると空中で回転し元の位置へと戻った。
「!?」
 着地を狙うかのようにして矢が降り注ぐ。船体を登る半魚人をフォローするようにまだ海面にいる半魚人が援護射撃を行っているのだ。矢の放物線を上手に利用して放たれる矢の雨は、敏捷なフェリでもさすがによけきれず骨の矢尻が肩や胸に食い込む。
「半魚人のくせしてやってくれる」
 アリーシュは黒衣を翻すと、降り注ぐ矢を剣で弾きながら突き進み、船縁につくや否やマジックアローを解き放った。新たな矢を番えていた半魚人は高速の魔法の矢の一撃を受けて断末魔を上げると、海中に没した。死んでいないかもしれないが、かなりの手傷を負わせたのは間違いない。
「弓矢持っている奴から対応しましょう、左舷から行きます」
「承知した。上ってくる奴と矢を払うのはこちらでやろう。フェリ、大丈夫か?」
 アリスの声掛けに、蘇芳が同意した。日本刀は鞘に納め受け流しするために体の前で準備する。
「もう回復しました。潰すのは得意ですが、押し留めるのはあまり得意ではありませんね……」
 アティのヒールを受けて傷を癒したフェリが苦々しげにそう言った。何かを守るのならば、最前線に立ち敵を葬ることで目的を果たすことを選んできた彼女である。
「それじゃ、背中のを相手してくれないかな。加藤さんは蘇芳さんとそっち側の防御で」
「矢を払いのけるって結構難しいんだぜ? ま、要望されたら応えないわけにはいかないな。そっちも頑張ってくれ。」
 ユリアンの言葉に加藤は応えた。まだ数刻しか経っていないが、加藤にはその意図と信頼をしっかりを感じ取ることができた。
「じゃ、いくぞ。3、2、1……」
 真っ先にアリーシュが船縁の陰に向かって姿勢を低くして走り、場所を確保する。その後に海に顔をのぞかせ機導砲を放った。その行動で半魚人たちの視線がアリーシュに集まり、矢を浴びせかけるがフェリと蘇芳がそれらをはじき落とす。その間にアリス、アリーシュも同じように船縁へと移動し、陰で詠唱をはじめる。同時に見張り台からサーシャが敵の位置について詳しい位置を伝えた。
「射ち方用意っ。……撃てっ」
 その号令と共に、船縁に隠れていた3人が一斉に立ち上がり、魔法と銃の嵐を見舞った。炎と閃光と銃声は重なり合って、取り囲む半魚人たちを一掃していく。しかしこのままでは終わらせぬと甲板へと登って来た半魚人が左右から襲い掛かる。
「貴様らは邪魔だ。落ちろ」
 蘇芳が鞘から抜きざまに半魚人を切りつけ、振り上げた刀を回転させて下に向け突き下ろした。同時に背後から鉤爪を振りかざし襲い掛かる半魚人の行動線上には加藤が入ると、その腕をつかむとグイっと引き寄せ、反対の腕で肘を叩きこんだ。半魚人の襲い掛かる勢いがそのまま加藤の攻撃力に転化される。
「内臓の位置は少し違うかな……ま、おおよそ人間の弱点と同じだな。鳩尾と……延髄」
 加藤は掴んだ腕をそのまま捻じり、強制的に膝をつかせると、半回転してそのまま延髄にむけて回し蹴りを放った。半魚人はゴボゴボと詰まった排水管のような音を漏らしてそのまま甲板に倒れ伏した。
「左舷、制圧完了。そっちは!?」
「もうちょいっ」
 ユリアンはそう叫ぶと、振り下ろされた鉤爪をステップアウトで避ける。そしてがら空きになった横からもう一度ステップインすると、そのエラにバゼラードを打ち込んだ。その背後を狙って別の半魚人が襲い掛かるが、ユリアンは軽くかがんでその攻撃を避けた。半魚人が目にしたのはユリアンの怪我した姿ではなく、ユリアンを飛び越えて襲い掛かるフェリの姿だった。次の瞬間、魚の顔がベコリと歪んで沈む。
「さすがに……数が多い」
 フェリもユリアンも致命傷はないが、傷は多い。回復で補佐をするアティにも攻撃の手が伸びることがあり、ヒールに使う魔力はかなり消費しているようだった。皆息が乱れ、動きが少し鈍くなっていく。まるで海の中に引きずり込まれるような感覚が支配する。
 けん制していた半魚人が飛びかかった。こちらの疲れを見て取ったのだろう。
「ユリアンさんっ」
 アティが悲鳴を上げる。
 ユリアンは相手の動きを見極めようと、その攻撃を見つめていた。
 膝が鉛を入れられたかのように重く感じる。一気に間をあけて避ける動作はもうできない。半歩ずらしてスレスレで避けるか……?
「しずめ しずめ まだ まだ」
 誰かの謡うような声が聞こえた。
 不意に、小さな、そして強烈な風が半魚人を上から襲った。それは鉤爪を振り上げたまま、ユリアンにもたれかかるようにして倒れこんだ。
「もう一人いることをお忘れなく」
 見張り台にいたサーシャが弓を下ろした。

「一陣は倒したが……舵が動かせないとなると、まずいな。撤退もままならない」
 加藤が海面を見ていったその時である。プツリと、と小さな振動があったかと思うと、風が吹き始め船を取り巻く風景がゆらりと動き始めた。操舵士が舵が動き始めたと報告し、自分たちを繋ぎ止めていた『何か』から解き放たれたということに気付く。
「ご苦労様。ひと段落ついたし、それじゃ帰ろうか」
「でもまだ私たちは……」
 まだ時間も戦力も十分に残っているし、船体も無事ならば続行できます、というアティの意見にシグルドは微笑んでいった。
「十分戦ってくれたじゃないか。目的は果たせたんだから、それで十分さ」


「威力偵察の感想は如何だ? 副師団長殿」
 間もなく帝国の軍港につこうかという海上で、加藤の作ったレポートに目を通しているシグルドにアリーシュが声をかけた。
 夕陽が眩しく、映るものすべてを赤く染めていく。
「いやぁ、面白いね。今、加藤君の書いてくれたレポートを読んでいると先ほどの出来事が思い出されるよ。そういう君たちはどうだったのかな? マギステルの剣士殿? ハンターとしての活動は初めてと聞いたよ」
「ああ、そこまで確認しているのか……まぁ、十分戦えた。半魚人相手でも剣で通せることはわかった。魔法の効き目も確認できてよかったと思っている」
 夕陽を受けて輝くシグルドの肌は透き通っており、まるでガラスの様だった。その透明感はアリーシュの黒き仮面ですらも透かしているようで、どことなく心地悪かった。
「魔法の濫用は慎むべきだと思いますが、魔術師が力に頼るのもどうかと思います」
 横に座っていたアリスはアリーシュの剣士然とした衣装に少々違和感を感じているようだった。魔術師として老夫婦に厳しく、そして優しく育てられた経験によってアリスには魔術師の誇りというものが根付いていた。その視点からみるとアリーシュの行動様式にはやや不思議なものだった。
「何を言うか。マテリアルを集約させ具現化する。手順や哲学は違えど、目的は同じではないか。貴殿とて懐に銃を持っていたであろうに」
「魔法は有限ですし、制約がありますので……、ですがマテリアルの流れを浄化し再構築を目指し真なる円環を目指す魔術はですね」
「魔術が起こす現実を知らぬのか。例えばだ……」
 やおら始まった魔術談義にシグルドのみならず残った一同も苦笑いをして聞いていた。
「あの。ところで本当に威力偵察はできたのでしょうか?」
「威力偵察? ああ、兵長はそう言ったのか。僕が知りたかったのは軍団としての歪虚と、君たちハンターの力だよ。どちらも見たんだから僕は十分さ」
 控え目に問いかけるアティの言葉に、シグルドはにっこりと笑った。
「ありがとう、そして、これからもよろしく。君たちの目と耳でこの世界を感じてくれ。そしていずれは世界を動かす要となることを期待しているよ」

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧


  • アリス・ナイトレイ(ka0202
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師
  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 蘇芳神影流師範代
    蘇芳 和馬(ka0462
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 抱っこさん?
    加藤博道(ka0767
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 秘めし狼の牙
    フェリ・ボーランジェ(ka2079
    エルフ|16才|女性|霊闘士

  • アリーシュ(ka2350
    人間(紅)|20才|女性|魔術師

  • サフィラ(ka2521
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/24 12:45:24
アイコン 相談卓
蘇芳 和馬(ka0462
人間(リアルブルー)|18才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/07/29 01:00:17