ゲスト
(ka0000)
シュトックハウゼン氏の憂鬱
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/03 09:00
- 完成日
- 2015/10/10 22:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
某日夜、帝都バルトアンデルスにて開かれた、某経済団体主催の懇親会――
『シュレーベンラント紡績協会』会長、シュトックハウゼン氏は、
挨拶回りを終えて早くもくたびれた身体を、壁際の席にて休めていた。
彼が座る長椅子は、東方産と思しき木の植わった大きな鉢に囲まれて、
人々が忙しく行き交うサロンの片隅の、ささやかな隠れ家となっていた。
鉢植の枝葉越しに聴こえてくる会話、
「人類連合軍とは、とんだ思いつきだったな! 革命の大義は、護国の誓いはどこに行った?
西方世界の守護たらんとする帝国軍、その長である皇帝陛下御自ら、王国や同盟に泣きを入れるとは!」
「や、私には陛下のお考えが分かりますよ。
そも、歪虚根絶は人類一致の悲願。連合軍結成は遅すぎたくらいでしょうが!」
「人類連合の旗手は、今後も陛下と帝国軍で間違いなし!
北狄征伐を先駆けに、帝国の覇権は揺るぎないものとなるでしょう」
「ヴィルヘルミナは体の良い広告塔さ、実権を握ってるのは第一師団長オズワルドだよ」
「皇子は中々の切れ者だと聞くがね? 聖地奪還作戦の指揮も、彼が……」
「東方では出遅れたからな。貿易が本格化すれば、いずれ同盟と綱引きに……」
「連合軍をダシに、どれだけロッソからの移民や技術を引き込めるかね……」
「むしろソサエティを盾にして、同盟資本が……」
「王国から亡命貴族のスパイが流れてくるんじゃ……」
「反体制派が……」
「辺境統治……」
全く、喧しいことだ。
シュトックハウゼン氏は、近くを通りかかったボーイへすかさず水を所望する。
このところ寝不足が続き、付き合いで飲む酒がひどく回った。
氏は近頃、シュレーベンラント州における協会所有地の労働問題解決と、
協会独自の警備隊発足に向けて走り回っているが、どちらも容易い仕事ではない。
特に前者、先日訪れたシャーフブルート村では、
7月の蜂起事件で夫や息子を第一師団に取られた農民たちの、冷たい視線が堪えた。
今しばらくは師団の目が光っており、荒事になる心配も少ないが、
いつまでも駐屯部隊を飼っておくことはできない。
(力で抑え続けるだけでは、いずれまた反動が来る。
地方自治の復興、企業と地域社会との融和が絶対に必要だ。
とは言うものの、警備隊なんて一体どうやって作ったものか)
水の入ったグラスを手に、ボーイが返って来た。
その後ろについて、痩せぎすの眼鏡の男、『銀行家』ヴェールマンがこちらに近づいてくる。
●
ヴェールマンは女連れだった。やけに派手な恰好の女。無論、彼の妻ではない。
「友人のアガータ・パシェク女史です。こちら、シュトックハウゼン会長だ」
「もしかしてシュトックハウゼン紡績の? ……アガータです、お目にかかれて光栄ですわ」
ヴェールマンと連れの女性に挨拶を返し、しばし歓談する。
シュレーベンラント州に協会が所有する農地の多くは、
悪徳高利貸であるヴェールマンが農民から巻き上げ、協会に売り払ったものだ。
農地で働く労働者の債権、身代についても同じ。
蜂起のことを思い返すと気まずいが、お互い無難に応対する。
会話の途中、ヴェールマンがちらちらと、別方向へ目を泳がす。
シュトックハウゼン氏が視線の先を追うと、
会場の人混みに混じって、黒服の巨漢が2名。ヴェールマンの用心棒だ。
自分も同じような男を雇っているので、すぐに見当がついた。
やがて会話を切り上げ、ヴェールマンが去っていく。あの男も心配なのだろう。
あちこちで恨みを買った挙句、
反体制派、怒り狂った農民、怒り狂った反体制派の農民が、彼の命を狙っているという噂だ。
その点は、革命成金の筆頭にして紡績協会会長のシュトックハウゼン氏も同様なのだが。
事実、1度自宅を襲撃されている。あのときはハンターが上手くやってくれたが、
(会長職を全うするまでの間、生き延びられるかな)
胸を刺すような不安が過るも、すぐに頭を切り替える。
酔い覚ましの水を飲み干したら、また挨拶回りだ。
適当に付き合って、なるべく早くに会場を脱出する。明日も仕事は山積み、酔っぱらっている暇もない。
●
およそ300年前、帝国の前身に当たるグラズヘイム王国・北部辺境領が成立した後も、
広大な原野へ逃れたコボルドやゴブリンを追跡・根絶することは難しく、
また、北部辺境領開拓のきっかけともなった歪虚侵攻の爪痕も、依然として各地に残されていた。
特に、辺境伯や諸侯の庇護も届かない開拓地辺縁では、
頻発する亜人・雑魔の襲撃からの自衛を日常の要と迫られた。
そうして生まれた農村自警団の象徴的武器が、『コボルドごろし』と呼ばれる武器だ。
長さ約2メートルの刺叉で、U字形の穂先の内側には鋭い棘が仕込まれている。
これを使って、数人がかりで荒れ狂うコボルドを取り押さえる。
後に発明される魔導銃と併せて、自警団の標準装備となった。
自警を務めるのは大抵が地元の青年たちだが、
時には外から来る盗賊崩れややくざ者が、そうした役割を引き受けることもあった。
自警団はしばしば荒くれ者の溜まり場ともなり、
革命直前の腐敗した貴族政治の下では、領主の騎士団を差し置いて地域最大の武装集団を成した例さえある。
彼らは義勇兵として革命戦争に加わり、戦後の混乱期には暴力をかさに地方経済を牛耳った。
ヴェールマンなど、正にそのお追従をして大儲けした口だった。
しかし時代は変わる。
新興ブルジョワは資本による地方支配の実力部隊として彼らを使いつつも、
より効率的かつ『清廉潔白』な代替品を探し始めていた。
シュトックハウゼン氏に委ねられた紡績協会独自の警備隊発足は、その一環だ。
ブルジョワとて大半は、無思慮に地方を食い物にしている訳ではなく、地方経済の回復はむしろ悲願だった。
それは帝国の経済的発展を望むと同時に、来たるべき『第二革命』――
帝政に代わる民主主義と新たな経済システムの導入へ、備える意味もある。
ブルジョワ層の有力者の内、そうした思想を持つ一派は、
サルバトーレ・ロッソ転移をご宣託とばかりに、昨今急激にその勢力を増していると聞く。
帝政護持による覇道か、はたまた第二革命によるブルジョワ支配の実現か、
今冬の北狄征伐の成否で、新興ブルジョワ内の勢力図は大きく動くことだろう。
(誰も彼も、急ぎ過ぎだよ)
と、一方でシュトックハウゼン氏は考える。
帝国はまだ若い国で、足下を固めるのが何より先ではないのか、と。
そして、帝国の足下とはとりもなおさず村々の農民たちであり、
敵対的亜人や雑魔に脅かされない彼らの生活こそ、国家の基礎となる筈だ。
新設の警備隊が地方の守り手となれるか、はたまた単なるブルジョワの私兵に終わってしまうのか、
全てはシュトックハウゼン氏と、彼が招くハンターたちの料簡次第という訳だった。
某日夜、帝都バルトアンデルスにて開かれた、某経済団体主催の懇親会――
『シュレーベンラント紡績協会』会長、シュトックハウゼン氏は、
挨拶回りを終えて早くもくたびれた身体を、壁際の席にて休めていた。
彼が座る長椅子は、東方産と思しき木の植わった大きな鉢に囲まれて、
人々が忙しく行き交うサロンの片隅の、ささやかな隠れ家となっていた。
鉢植の枝葉越しに聴こえてくる会話、
「人類連合軍とは、とんだ思いつきだったな! 革命の大義は、護国の誓いはどこに行った?
西方世界の守護たらんとする帝国軍、その長である皇帝陛下御自ら、王国や同盟に泣きを入れるとは!」
「や、私には陛下のお考えが分かりますよ。
そも、歪虚根絶は人類一致の悲願。連合軍結成は遅すぎたくらいでしょうが!」
「人類連合の旗手は、今後も陛下と帝国軍で間違いなし!
北狄征伐を先駆けに、帝国の覇権は揺るぎないものとなるでしょう」
「ヴィルヘルミナは体の良い広告塔さ、実権を握ってるのは第一師団長オズワルドだよ」
「皇子は中々の切れ者だと聞くがね? 聖地奪還作戦の指揮も、彼が……」
「東方では出遅れたからな。貿易が本格化すれば、いずれ同盟と綱引きに……」
「連合軍をダシに、どれだけロッソからの移民や技術を引き込めるかね……」
「むしろソサエティを盾にして、同盟資本が……」
「王国から亡命貴族のスパイが流れてくるんじゃ……」
「反体制派が……」
「辺境統治……」
全く、喧しいことだ。
シュトックハウゼン氏は、近くを通りかかったボーイへすかさず水を所望する。
このところ寝不足が続き、付き合いで飲む酒がひどく回った。
氏は近頃、シュレーベンラント州における協会所有地の労働問題解決と、
協会独自の警備隊発足に向けて走り回っているが、どちらも容易い仕事ではない。
特に前者、先日訪れたシャーフブルート村では、
7月の蜂起事件で夫や息子を第一師団に取られた農民たちの、冷たい視線が堪えた。
今しばらくは師団の目が光っており、荒事になる心配も少ないが、
いつまでも駐屯部隊を飼っておくことはできない。
(力で抑え続けるだけでは、いずれまた反動が来る。
地方自治の復興、企業と地域社会との融和が絶対に必要だ。
とは言うものの、警備隊なんて一体どうやって作ったものか)
水の入ったグラスを手に、ボーイが返って来た。
その後ろについて、痩せぎすの眼鏡の男、『銀行家』ヴェールマンがこちらに近づいてくる。
●
ヴェールマンは女連れだった。やけに派手な恰好の女。無論、彼の妻ではない。
「友人のアガータ・パシェク女史です。こちら、シュトックハウゼン会長だ」
「もしかしてシュトックハウゼン紡績の? ……アガータです、お目にかかれて光栄ですわ」
ヴェールマンと連れの女性に挨拶を返し、しばし歓談する。
シュレーベンラント州に協会が所有する農地の多くは、
悪徳高利貸であるヴェールマンが農民から巻き上げ、協会に売り払ったものだ。
農地で働く労働者の債権、身代についても同じ。
蜂起のことを思い返すと気まずいが、お互い無難に応対する。
会話の途中、ヴェールマンがちらちらと、別方向へ目を泳がす。
シュトックハウゼン氏が視線の先を追うと、
会場の人混みに混じって、黒服の巨漢が2名。ヴェールマンの用心棒だ。
自分も同じような男を雇っているので、すぐに見当がついた。
やがて会話を切り上げ、ヴェールマンが去っていく。あの男も心配なのだろう。
あちこちで恨みを買った挙句、
反体制派、怒り狂った農民、怒り狂った反体制派の農民が、彼の命を狙っているという噂だ。
その点は、革命成金の筆頭にして紡績協会会長のシュトックハウゼン氏も同様なのだが。
事実、1度自宅を襲撃されている。あのときはハンターが上手くやってくれたが、
(会長職を全うするまでの間、生き延びられるかな)
胸を刺すような不安が過るも、すぐに頭を切り替える。
酔い覚ましの水を飲み干したら、また挨拶回りだ。
適当に付き合って、なるべく早くに会場を脱出する。明日も仕事は山積み、酔っぱらっている暇もない。
●
およそ300年前、帝国の前身に当たるグラズヘイム王国・北部辺境領が成立した後も、
広大な原野へ逃れたコボルドやゴブリンを追跡・根絶することは難しく、
また、北部辺境領開拓のきっかけともなった歪虚侵攻の爪痕も、依然として各地に残されていた。
特に、辺境伯や諸侯の庇護も届かない開拓地辺縁では、
頻発する亜人・雑魔の襲撃からの自衛を日常の要と迫られた。
そうして生まれた農村自警団の象徴的武器が、『コボルドごろし』と呼ばれる武器だ。
長さ約2メートルの刺叉で、U字形の穂先の内側には鋭い棘が仕込まれている。
これを使って、数人がかりで荒れ狂うコボルドを取り押さえる。
後に発明される魔導銃と併せて、自警団の標準装備となった。
自警を務めるのは大抵が地元の青年たちだが、
時には外から来る盗賊崩れややくざ者が、そうした役割を引き受けることもあった。
自警団はしばしば荒くれ者の溜まり場ともなり、
革命直前の腐敗した貴族政治の下では、領主の騎士団を差し置いて地域最大の武装集団を成した例さえある。
彼らは義勇兵として革命戦争に加わり、戦後の混乱期には暴力をかさに地方経済を牛耳った。
ヴェールマンなど、正にそのお追従をして大儲けした口だった。
しかし時代は変わる。
新興ブルジョワは資本による地方支配の実力部隊として彼らを使いつつも、
より効率的かつ『清廉潔白』な代替品を探し始めていた。
シュトックハウゼン氏に委ねられた紡績協会独自の警備隊発足は、その一環だ。
ブルジョワとて大半は、無思慮に地方を食い物にしている訳ではなく、地方経済の回復はむしろ悲願だった。
それは帝国の経済的発展を望むと同時に、来たるべき『第二革命』――
帝政に代わる民主主義と新たな経済システムの導入へ、備える意味もある。
ブルジョワ層の有力者の内、そうした思想を持つ一派は、
サルバトーレ・ロッソ転移をご宣託とばかりに、昨今急激にその勢力を増していると聞く。
帝政護持による覇道か、はたまた第二革命によるブルジョワ支配の実現か、
今冬の北狄征伐の成否で、新興ブルジョワ内の勢力図は大きく動くことだろう。
(誰も彼も、急ぎ過ぎだよ)
と、一方でシュトックハウゼン氏は考える。
帝国はまだ若い国で、足下を固めるのが何より先ではないのか、と。
そして、帝国の足下とはとりもなおさず村々の農民たちであり、
敵対的亜人や雑魔に脅かされない彼らの生活こそ、国家の基礎となる筈だ。
新設の警備隊が地方の守り手となれるか、はたまた単なるブルジョワの私兵に終わってしまうのか、
全てはシュトックハウゼン氏と、彼が招くハンターたちの料簡次第という訳だった。
リプレイ本文
●
ここにひとりの青年がいる。名を、仮にエスとしよう。
彼は紡績協会が新たに設立した、農地警備隊の一員である。
朝まだき、エス隊員が眠る警備隊寮。門前の看板に刻まれた隊名は――
●
「『シュレーベンラントをまもり隊』です」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が爽やかに言い放つ。
今ひとつ呑み込めていない表情のシュトックハウゼン氏へ、もう1度繰り返した。
「『まもり隊』です」
ハンター6名によるプレゼンの相手は、
シュトックハウゼン会長、及び協会事務局のスタッフ数名だった。
「マァ待ってヨ。愛称はシンボルマークに入れ易いモノが良いと思うカラ……」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が嬉し気な顔で、両手をぽんと打ち合わす。
「シュレーベンラントを・こころから・まもり隊、略してSKMなんてドウカナ?」
隣に座るダリオ・パステリ(ka2363)が、腕組みをして唸った。一方、初月 賢四郎(ka1046)は、
「住民からの親しみ易さ、呼び易さ。どちらの案も、それなりに考慮されたものとは思いますが」
人差指で眼鏡を上げつつ、しれっと言った。すると火椎 帝(ka5027)も、
「……うん、まぁ、良いんじゃないかな」
思案顔の依頼主たちを前に、エアルドフリス(ka1856)が手を挙げた。
「いや……まもり隊もSKMも、何というか、余りにもアレじゃあないか。ここは正式名、
『シュレーベンラント紡績協会事務局警備本部地方駐在警備課』の頭文字を取ってだな、SSSBS」
かぶりを振って、
「略しても煩瑣に過ぎるな、忘れてくれ。他に候補がないなら、もうふたつのどっちでも俺は構わん」
と、諦めた様子で溜め息を吐く。ダリオも、
「それがし、このようなセンスはない故。最終的な判断は、ひとえに依頼主へお任せ致すが」
警備隊発足に向け、決めなければならないことは多々残っている。会長は決断した。
「SKMにしよう! 呼び易いし、エンブレムも作り易そうだ。
ベッドフォード君の案も、正式な愛称として含まれてるし」
「『心からまもり隊』。運営理念を強く打ち出した、良い名だと思います」
レイも笑顔で頷いた。
●
隊名はSKMである。その隊寮の一室で眠るエス隊員。
彼も周囲の同僚も、警備隊の第一期採用者だ。その出自は――
「隊員の採用に当たっては、まず隊の目的を定め、これを満たせる方向性で行うべきかと」
賢四郎の言葉を受け、アルヴィンが言う。
「SKMの理念。レイ君も言ってたケド、何より村を、民を『護る』ことダネ。
警備隊も貴族も、民に望まれてコソ存在可能と思うヨ。
一番大事なのは、その者が民の為に働けるかドウカじゃないカナ?」
エアルドフリスが自前の案を提示する。
「やはり、採用も地元重視で行うべきでしょう。しかし」
7月の農民蜂起事件。協会及び前警備隊と地元との対立が生んだ事件だけに、
今回は住民と生活感覚を共にする者を主力としたいところだが、
距離が近過ぎれば却って過度の同情を抱き、隊内に不穏分子が生まれる危険もある。
そこで、募集自体は帝国全土を対象に行う。
国外からの移民や転移者等、異なる出自や視点の者を取り入れる寸法だ。
採用時、最低限必要な体力の有無は確認するが、腕っ節や戦闘経験は考慮しない。
「重視すべきは素行と人格です。
が、際立って能力のある者については、特別採用枠を設けても面白いかも知れません」
エアルドフリスは、卓上で組んでいた手を開く仕草をし、
「隊に度量があれば、不良青年などの更生を担う場としても期待できますから。
また、教育や指揮等専門分野の人員に限って、直接に引き入れる必要もあるかと。
指導者は帝国軍から借りる等して、連携強化も図れれば」
エスは地元出身の隊員である。
しかし同室のケイなどは、別の州で雇われたちんぴら上がりだ。
ときに揉めごとも起こすが、根っから悪い男ではないようだし、何より頭が良くてすばしっこい。
いずれは隊を引っ張る立場になれるかも知れない。
他、辺境移民や地球出身の仲間もいる。
彼らに初期訓練を施した教官は、第一師団から招かれた士官だった。
隊寮に起床ラッパが鳴り響く。
エス隊員もいそいそと寝床を這い出し、枕元に置かれた装備一式へ着替え始めた。
彼の装備は――
●
「一目で隊員と判る基本制服。これに、木刀と拳銃での武装を基本とします」
賢四郎がダリオと共に、警備隊の制式装備案をプレゼンする。
「経験不問となれば、武器など持ったことのない者も多かろう。扱いの難しいものは避ける。
拳銃の携帯は非常時に限り、かつ銃と弾薬は隊の施設にて厳重管理を徹底させる」
「許可制にして、素行の悪い隊員には持たせナイほうが良いネ。
ソレから、盾なんかもあると便利だと思うヨ」
アルヴィンが言う。レイ、それに帝も頷いて、
「まさしく住民の『盾』って訳か。イメージ作りにも悪くないね」
SKMの制服はジャケットと作業用ズボン、それに制帽、足下は運動靴。
いずれも青く染め抜かれ、隊のエンブレムが縫い込まれている。
地球製の防弾ベストは調達が間に合わず、現在は革製の頑丈なベストで代用していた。
腰には木剣を差す。日常の任務では、これとコボルドごろしが隊員の武器となる。
拠点の門番は盾を持ち、非常の際は他の隊員にも同じものが配られる。
拳銃の使用には上役の承認が要り、かつ、通常警邏での携帯は許可されない。
しかし広大な草原地帯に囲まれた土地柄、
射程に優れた魔導小銃は必須と一部から指摘があり、後々は装備拡充も予定されているようだ。
ひとまず、住民へ威圧感を与えることは避け、普段はなるべく銃を持たない。
●
点呼の為、エスと同僚たちが庭へ集まる。
厩舎からも、早起きの飼育当番がぞろぞろとやって来る。
馬がSKMの野外活動の主な足だが、
門前には数台、ロッソ払い下げの自転車も停められており、村内の見回りに使われていた。
エスはまだ運転に不慣れだが、近頃は物珍しさに集まった住民と交流の機会もできた。
目下、課題は修理部品の調達である。
点呼、朝礼、朝食、そして仕事。
早速自転車にまたがり、見回りへ出かけていくエス隊員。
彼らは普段、どのような態勢で任務に臨んでいるのだろうか――
「風通しの良い組織にしなくちゃね」
そう言って、帝は頭の後ろで手を組んだ。
「困ったこと、不安なこと、気になること、やりにくいこと……、
現場がなんでも上に話しやすい環境と、上層がそれに耳を傾ける環境を作って欲しい。僕からは、それだけ」
会長も重々しく頷くと、他のハンタ―たちを見回し、意見を待つ様子でいた。
まずは、とアルヴィンが身を乗り出す。
「指揮系統はシンプルに、まずは現場で1番偉い人を決めちゃおうヨ。ワントップ制って奴ダネ」
「司令官を決める」
ダリオが書きつけを取り出し、
「州内に支部は4つ。4軍に分かれるとして、それを統括する司令部機能を用意。
それがしが考えるに、司令官は4軍の長が持ち回りで担当すれば良かろう」
●
平時、一般隊員は4人一組の班構成で活動する。
内1名の班長による指揮の下、割り当てられた地区を巡回するのが通常任務だ。
エス隊員が世話になる班長は、初老の元義勇兵・エム。
古傷のせいで脚が少々悪いが、気の良い男だった。
全ての班が常時出払っている訳ではなく、警備隊施設の整備と保全、
馬の世話、炊き出し等、週ごとに当番が決まっていた。
全班を統括するのは各区の支部長だが、
班長たちの中から4名、こちらもやはり持ち回りで支部長の補佐役として、
各班の仕事振りをチェック、問題がないかを確かめている。
各区の指揮は支部長が執るが、警備隊全体の定期活動報告の作成、
そして非常時の全隊指揮は、4人の支部長が交替制で司令官となり、これを務める。
「ですが、司令官もあくまで定められた運営方針と規則に従うものとし、法治団体という立場を強調します。
方針や規則に関して変更の要があれば、最終的な決定権を協会に委ねます」
賢四郎が言った。レイは、帝をちらとうかがうと、
「下からの意見や努力も、評価する仕組みが欲しいですね。
有効な提案や実績を挙げた者があれば、
班や支部を通じて積極的に情報共有し、査定にも反映するよう致しましょう」
「逆もまた然り、ダネ」
アルヴィンが、内部告発制度についても付け加えた。
SKMの任務は協会所有地と周辺村落の防衛だが、
いずれは専門部隊も新設、活動内容を拡充していく予定である。
軸重隊や、野外で敵対的亜人、野盗を監視する部隊等。
しかし現状は帝国軍、そしてハンターとの連携を重視し、
コボルドの大規模発生、ゴブリンや盗賊の襲来、歪虚発生、自然災害といった重大事態に際しては、
あくまで人命と財産の被害軽減を最優先に行動する。
●
プレゼンは進み、やがて会長の脳裏には、
いずれ実現すべき警備隊の姿が段々とイメージされ始めた。
揃いの制服に身を包んだ、朴訥だが頑健な青年たち。
自転車や馬を駆り、村々を回って地域の暮らしを守る――
警備隊の拠点は紡績協会支部に併設されつつ、
柵は低く、外からも見晴らしの良い作りになっている。
早速、その柵にひょいとよじ登って、帝が中を覗き込んだ。
「訓練の風景が、通りから見えたりね。
頑張ってる様子が伝わるし、解らない怖さは軽減するかも」
施設内では班員たちが走り込み、障害物走、木剣の素振りその他訓練に励んでいる。
中々熱心と見え、近くを通りかかった村人たちの視線も暖かい。
「隊規は誰でも閲覧可能にし、住民代表の査察受け入れや、意見交換の場も用意します」
エアルドフリスが拠点の門前を歩く。
真面目くさった顔の門番ふたりの横には、隊規を記した立て看板と投書箱。
「村落内部の番所にも、同じものが……借りるぞ」
置かれていた自転車に乗って、エアルドフリスは何処かへ走り去った。
のどかな農村の只中、小さな番小屋に数名の隊員が詰めている。
支部から距離の遠い村では、泊まり込みで警備を行う。
「住民と生活空間を近づけ、目線を合わせることです」
エアルドフリスが自転車を停めると、
「村で困りゴトがあれば、地元業者の顔を潰さナイ範囲で引き受けヨウ。
民の護り手としての気概を見せつつ、隊員の心構えも養う良い機会ダヨ」
アルヴィンが番所から顔を出し、さっと杖を振るえば、
梯子を担いだ隊員たちがどやどやと走り出ていく。
「今日は蜂の巣駆除だってサ。
普段はお年寄りの家の大工仕事、病人に代わって畑や家畜の世話ナンカも」
「こうした活動は、チラシや口コミ等で宣伝します。地元出身の隊員がいれば有用ですね」
と、レイが色鮮やかなチラシをばら撒きながら、隊員たちの後に続いた。
「我々まもり隊……ではなかった、SKMは、日頃から皆さんのお役に立ちます!
――と、このような次第で」
遠ざかっていくレイと隊員たち。
エアルドフリス、アルヴィン、そして帝が後を追った。
●
「地域の祭には積極参加します。主催したって良い。兎に角、普段から隊員の顔を見せておく」
「地元の集会に定期的に混ざらせてもらえば、広報の機会にもなるよね。
活動報告、軍や政府から得た情報の頒布、それに住民の日頃の安全意識の強化。
隊が地域の守りの起点だって、印象づけていかないとね」
エアルドフリスと帝が身振りと共に披露するは、村の中央広場。
祭の日の華やかな飾りつけがされている最中で、
特に高所の作業や力仕事は、村人たちの中に混じった、青い制服の男たちが進んで引き受けている。
「隊の主催と言えば、年に2回ほど、隊内外問わずでのSUMOU大会などは如何でしょう!」
広場の何処からか、レイが手を挙げてチラシを振った。
彼の後ろでは、ちょうど前座の試合が行われているようだ。
人垣に囲まれた中で、力自慢の隊員ふたりが、勇壮な半裸姿を晒してくんずほぐれつ――
「娯楽の中心になり、そして顔と名前も売れる……何より神秘的な意義の強い大会になります」
「地球の相撲とは少々様子が違いますが、これはこれで盛り上がっているようなので良いでしょう」
人垣から、賢四郎が眼鏡を直しつつぬっ、と現れる。
人々は盛んに声援を送り、若い娘などは、鍛えられた隊員の肉体に釘づけになっているご様子。
「FSDに代わる新組織、今度こそ民に受け入れられねばならぬ!」
大通りに賑々しく連なる祭の行列、
先導は馬に乗って、捩じり鉢巻きを額に巻いたダリオであった。
「民に受け入れられぬ組織では、民を安んずることは叶わぬ。しかと心得よ!」
ダリオの号令に応じて、行列の中からえっほ、えっほと神輿が担ぎ出される。
担いでいるのは隊員と村人たち。皆笑顔で、心底から祭を楽しんでいるようだ。
神輿の上には、制帽をかぶった羊の着ぐるみ、通称「まもる君」。
頭を取り外せば、中から現れるのはアルヴィンの顔だ。
「隊に関わるデザインや印刷物は、みんな地元業者のコンペ制ダヨ!
地元にお金を落としつつ、どんどん宣伝シヨウ!
困ったときは、SKMがきっと助けてくれるッテネ!」
「……と、こんな具合に色々考えてはみたけど。
やってみたらちょっと直した方が、ってことは一杯出てくると思う。
そのときはまた、隊員が悩んだり相談したりして調整すれば良いですよ。お勤め、ご苦労様」
帝が、行列の最後尾に続く自転車のエス隊員と敬礼を交わす。賢四郎もやって来て、
「私からも最後に。重要点は規則主義等で綺麗に見せつつも、
いざというときは規則自体を改変して、会長が思う方向に動かせる余地は残しています。
手を加えるも、そのまま行くも貴方次第です」
祭に湧く広場を振り返る、賢四郎の眼鏡が光った。
「今後とも、ご用があれば呼んで下さい。そちらにその気があれば……ですが」
彼はそう言ってこちらへ向き直ると、一瞬にやり、と笑う。
「SKMの今後の発展を、お祈り申し上げます」
●
「はっ」
慌てて飛び起きるシュトックハウゼン会長。
気づけばホテルの机に突っ伏して居眠りし、夢を見ていたようだ。
会長はハンターたちと会った後、また別の会合に出席、
夜はホテルへ戻り、SKM発足に向けた指示書を作成中だった。
書きかけの書類の傍らに置かれた懐中時計は、深夜2時を示している。
まだ、書類は終わっていない。夜が明けるまでに目途を付けておかねば。
帝が土産にくれたチョコレートをつまむ。疲れたときには甘いもの、だ――
(貴方が潰れちゃったら話はお終いなんですから、労れるときは労って下さいね)
紡績会長の長として、果たさねばならない仕事は山積している。
氏の憂鬱は相変わらずだ。が、それでも彼の手によって少しずつ、
協会とシュレーベンラントの状況は変わりつつあった。
ここにひとりの青年がいる。名を、仮にエスとしよう。
彼は紡績協会が新たに設立した、農地警備隊の一員である。
朝まだき、エス隊員が眠る警備隊寮。門前の看板に刻まれた隊名は――
●
「『シュレーベンラントをまもり隊』です」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が爽やかに言い放つ。
今ひとつ呑み込めていない表情のシュトックハウゼン氏へ、もう1度繰り返した。
「『まもり隊』です」
ハンター6名によるプレゼンの相手は、
シュトックハウゼン会長、及び協会事務局のスタッフ数名だった。
「マァ待ってヨ。愛称はシンボルマークに入れ易いモノが良いと思うカラ……」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が嬉し気な顔で、両手をぽんと打ち合わす。
「シュレーベンラントを・こころから・まもり隊、略してSKMなんてドウカナ?」
隣に座るダリオ・パステリ(ka2363)が、腕組みをして唸った。一方、初月 賢四郎(ka1046)は、
「住民からの親しみ易さ、呼び易さ。どちらの案も、それなりに考慮されたものとは思いますが」
人差指で眼鏡を上げつつ、しれっと言った。すると火椎 帝(ka5027)も、
「……うん、まぁ、良いんじゃないかな」
思案顔の依頼主たちを前に、エアルドフリス(ka1856)が手を挙げた。
「いや……まもり隊もSKMも、何というか、余りにもアレじゃあないか。ここは正式名、
『シュレーベンラント紡績協会事務局警備本部地方駐在警備課』の頭文字を取ってだな、SSSBS」
かぶりを振って、
「略しても煩瑣に過ぎるな、忘れてくれ。他に候補がないなら、もうふたつのどっちでも俺は構わん」
と、諦めた様子で溜め息を吐く。ダリオも、
「それがし、このようなセンスはない故。最終的な判断は、ひとえに依頼主へお任せ致すが」
警備隊発足に向け、決めなければならないことは多々残っている。会長は決断した。
「SKMにしよう! 呼び易いし、エンブレムも作り易そうだ。
ベッドフォード君の案も、正式な愛称として含まれてるし」
「『心からまもり隊』。運営理念を強く打ち出した、良い名だと思います」
レイも笑顔で頷いた。
●
隊名はSKMである。その隊寮の一室で眠るエス隊員。
彼も周囲の同僚も、警備隊の第一期採用者だ。その出自は――
「隊員の採用に当たっては、まず隊の目的を定め、これを満たせる方向性で行うべきかと」
賢四郎の言葉を受け、アルヴィンが言う。
「SKMの理念。レイ君も言ってたケド、何より村を、民を『護る』ことダネ。
警備隊も貴族も、民に望まれてコソ存在可能と思うヨ。
一番大事なのは、その者が民の為に働けるかドウカじゃないカナ?」
エアルドフリスが自前の案を提示する。
「やはり、採用も地元重視で行うべきでしょう。しかし」
7月の農民蜂起事件。協会及び前警備隊と地元との対立が生んだ事件だけに、
今回は住民と生活感覚を共にする者を主力としたいところだが、
距離が近過ぎれば却って過度の同情を抱き、隊内に不穏分子が生まれる危険もある。
そこで、募集自体は帝国全土を対象に行う。
国外からの移民や転移者等、異なる出自や視点の者を取り入れる寸法だ。
採用時、最低限必要な体力の有無は確認するが、腕っ節や戦闘経験は考慮しない。
「重視すべきは素行と人格です。
が、際立って能力のある者については、特別採用枠を設けても面白いかも知れません」
エアルドフリスは、卓上で組んでいた手を開く仕草をし、
「隊に度量があれば、不良青年などの更生を担う場としても期待できますから。
また、教育や指揮等専門分野の人員に限って、直接に引き入れる必要もあるかと。
指導者は帝国軍から借りる等して、連携強化も図れれば」
エスは地元出身の隊員である。
しかし同室のケイなどは、別の州で雇われたちんぴら上がりだ。
ときに揉めごとも起こすが、根っから悪い男ではないようだし、何より頭が良くてすばしっこい。
いずれは隊を引っ張る立場になれるかも知れない。
他、辺境移民や地球出身の仲間もいる。
彼らに初期訓練を施した教官は、第一師団から招かれた士官だった。
隊寮に起床ラッパが鳴り響く。
エス隊員もいそいそと寝床を這い出し、枕元に置かれた装備一式へ着替え始めた。
彼の装備は――
●
「一目で隊員と判る基本制服。これに、木刀と拳銃での武装を基本とします」
賢四郎がダリオと共に、警備隊の制式装備案をプレゼンする。
「経験不問となれば、武器など持ったことのない者も多かろう。扱いの難しいものは避ける。
拳銃の携帯は非常時に限り、かつ銃と弾薬は隊の施設にて厳重管理を徹底させる」
「許可制にして、素行の悪い隊員には持たせナイほうが良いネ。
ソレから、盾なんかもあると便利だと思うヨ」
アルヴィンが言う。レイ、それに帝も頷いて、
「まさしく住民の『盾』って訳か。イメージ作りにも悪くないね」
SKMの制服はジャケットと作業用ズボン、それに制帽、足下は運動靴。
いずれも青く染め抜かれ、隊のエンブレムが縫い込まれている。
地球製の防弾ベストは調達が間に合わず、現在は革製の頑丈なベストで代用していた。
腰には木剣を差す。日常の任務では、これとコボルドごろしが隊員の武器となる。
拠点の門番は盾を持ち、非常の際は他の隊員にも同じものが配られる。
拳銃の使用には上役の承認が要り、かつ、通常警邏での携帯は許可されない。
しかし広大な草原地帯に囲まれた土地柄、
射程に優れた魔導小銃は必須と一部から指摘があり、後々は装備拡充も予定されているようだ。
ひとまず、住民へ威圧感を与えることは避け、普段はなるべく銃を持たない。
●
点呼の為、エスと同僚たちが庭へ集まる。
厩舎からも、早起きの飼育当番がぞろぞろとやって来る。
馬がSKMの野外活動の主な足だが、
門前には数台、ロッソ払い下げの自転車も停められており、村内の見回りに使われていた。
エスはまだ運転に不慣れだが、近頃は物珍しさに集まった住民と交流の機会もできた。
目下、課題は修理部品の調達である。
点呼、朝礼、朝食、そして仕事。
早速自転車にまたがり、見回りへ出かけていくエス隊員。
彼らは普段、どのような態勢で任務に臨んでいるのだろうか――
「風通しの良い組織にしなくちゃね」
そう言って、帝は頭の後ろで手を組んだ。
「困ったこと、不安なこと、気になること、やりにくいこと……、
現場がなんでも上に話しやすい環境と、上層がそれに耳を傾ける環境を作って欲しい。僕からは、それだけ」
会長も重々しく頷くと、他のハンタ―たちを見回し、意見を待つ様子でいた。
まずは、とアルヴィンが身を乗り出す。
「指揮系統はシンプルに、まずは現場で1番偉い人を決めちゃおうヨ。ワントップ制って奴ダネ」
「司令官を決める」
ダリオが書きつけを取り出し、
「州内に支部は4つ。4軍に分かれるとして、それを統括する司令部機能を用意。
それがしが考えるに、司令官は4軍の長が持ち回りで担当すれば良かろう」
●
平時、一般隊員は4人一組の班構成で活動する。
内1名の班長による指揮の下、割り当てられた地区を巡回するのが通常任務だ。
エス隊員が世話になる班長は、初老の元義勇兵・エム。
古傷のせいで脚が少々悪いが、気の良い男だった。
全ての班が常時出払っている訳ではなく、警備隊施設の整備と保全、
馬の世話、炊き出し等、週ごとに当番が決まっていた。
全班を統括するのは各区の支部長だが、
班長たちの中から4名、こちらもやはり持ち回りで支部長の補佐役として、
各班の仕事振りをチェック、問題がないかを確かめている。
各区の指揮は支部長が執るが、警備隊全体の定期活動報告の作成、
そして非常時の全隊指揮は、4人の支部長が交替制で司令官となり、これを務める。
「ですが、司令官もあくまで定められた運営方針と規則に従うものとし、法治団体という立場を強調します。
方針や規則に関して変更の要があれば、最終的な決定権を協会に委ねます」
賢四郎が言った。レイは、帝をちらとうかがうと、
「下からの意見や努力も、評価する仕組みが欲しいですね。
有効な提案や実績を挙げた者があれば、
班や支部を通じて積極的に情報共有し、査定にも反映するよう致しましょう」
「逆もまた然り、ダネ」
アルヴィンが、内部告発制度についても付け加えた。
SKMの任務は協会所有地と周辺村落の防衛だが、
いずれは専門部隊も新設、活動内容を拡充していく予定である。
軸重隊や、野外で敵対的亜人、野盗を監視する部隊等。
しかし現状は帝国軍、そしてハンターとの連携を重視し、
コボルドの大規模発生、ゴブリンや盗賊の襲来、歪虚発生、自然災害といった重大事態に際しては、
あくまで人命と財産の被害軽減を最優先に行動する。
●
プレゼンは進み、やがて会長の脳裏には、
いずれ実現すべき警備隊の姿が段々とイメージされ始めた。
揃いの制服に身を包んだ、朴訥だが頑健な青年たち。
自転車や馬を駆り、村々を回って地域の暮らしを守る――
警備隊の拠点は紡績協会支部に併設されつつ、
柵は低く、外からも見晴らしの良い作りになっている。
早速、その柵にひょいとよじ登って、帝が中を覗き込んだ。
「訓練の風景が、通りから見えたりね。
頑張ってる様子が伝わるし、解らない怖さは軽減するかも」
施設内では班員たちが走り込み、障害物走、木剣の素振りその他訓練に励んでいる。
中々熱心と見え、近くを通りかかった村人たちの視線も暖かい。
「隊規は誰でも閲覧可能にし、住民代表の査察受け入れや、意見交換の場も用意します」
エアルドフリスが拠点の門前を歩く。
真面目くさった顔の門番ふたりの横には、隊規を記した立て看板と投書箱。
「村落内部の番所にも、同じものが……借りるぞ」
置かれていた自転車に乗って、エアルドフリスは何処かへ走り去った。
のどかな農村の只中、小さな番小屋に数名の隊員が詰めている。
支部から距離の遠い村では、泊まり込みで警備を行う。
「住民と生活空間を近づけ、目線を合わせることです」
エアルドフリスが自転車を停めると、
「村で困りゴトがあれば、地元業者の顔を潰さナイ範囲で引き受けヨウ。
民の護り手としての気概を見せつつ、隊員の心構えも養う良い機会ダヨ」
アルヴィンが番所から顔を出し、さっと杖を振るえば、
梯子を担いだ隊員たちがどやどやと走り出ていく。
「今日は蜂の巣駆除だってサ。
普段はお年寄りの家の大工仕事、病人に代わって畑や家畜の世話ナンカも」
「こうした活動は、チラシや口コミ等で宣伝します。地元出身の隊員がいれば有用ですね」
と、レイが色鮮やかなチラシをばら撒きながら、隊員たちの後に続いた。
「我々まもり隊……ではなかった、SKMは、日頃から皆さんのお役に立ちます!
――と、このような次第で」
遠ざかっていくレイと隊員たち。
エアルドフリス、アルヴィン、そして帝が後を追った。
●
「地域の祭には積極参加します。主催したって良い。兎に角、普段から隊員の顔を見せておく」
「地元の集会に定期的に混ざらせてもらえば、広報の機会にもなるよね。
活動報告、軍や政府から得た情報の頒布、それに住民の日頃の安全意識の強化。
隊が地域の守りの起点だって、印象づけていかないとね」
エアルドフリスと帝が身振りと共に披露するは、村の中央広場。
祭の日の華やかな飾りつけがされている最中で、
特に高所の作業や力仕事は、村人たちの中に混じった、青い制服の男たちが進んで引き受けている。
「隊の主催と言えば、年に2回ほど、隊内外問わずでのSUMOU大会などは如何でしょう!」
広場の何処からか、レイが手を挙げてチラシを振った。
彼の後ろでは、ちょうど前座の試合が行われているようだ。
人垣に囲まれた中で、力自慢の隊員ふたりが、勇壮な半裸姿を晒してくんずほぐれつ――
「娯楽の中心になり、そして顔と名前も売れる……何より神秘的な意義の強い大会になります」
「地球の相撲とは少々様子が違いますが、これはこれで盛り上がっているようなので良いでしょう」
人垣から、賢四郎が眼鏡を直しつつぬっ、と現れる。
人々は盛んに声援を送り、若い娘などは、鍛えられた隊員の肉体に釘づけになっているご様子。
「FSDに代わる新組織、今度こそ民に受け入れられねばならぬ!」
大通りに賑々しく連なる祭の行列、
先導は馬に乗って、捩じり鉢巻きを額に巻いたダリオであった。
「民に受け入れられぬ組織では、民を安んずることは叶わぬ。しかと心得よ!」
ダリオの号令に応じて、行列の中からえっほ、えっほと神輿が担ぎ出される。
担いでいるのは隊員と村人たち。皆笑顔で、心底から祭を楽しんでいるようだ。
神輿の上には、制帽をかぶった羊の着ぐるみ、通称「まもる君」。
頭を取り外せば、中から現れるのはアルヴィンの顔だ。
「隊に関わるデザインや印刷物は、みんな地元業者のコンペ制ダヨ!
地元にお金を落としつつ、どんどん宣伝シヨウ!
困ったときは、SKMがきっと助けてくれるッテネ!」
「……と、こんな具合に色々考えてはみたけど。
やってみたらちょっと直した方が、ってことは一杯出てくると思う。
そのときはまた、隊員が悩んだり相談したりして調整すれば良いですよ。お勤め、ご苦労様」
帝が、行列の最後尾に続く自転車のエス隊員と敬礼を交わす。賢四郎もやって来て、
「私からも最後に。重要点は規則主義等で綺麗に見せつつも、
いざというときは規則自体を改変して、会長が思う方向に動かせる余地は残しています。
手を加えるも、そのまま行くも貴方次第です」
祭に湧く広場を振り返る、賢四郎の眼鏡が光った。
「今後とも、ご用があれば呼んで下さい。そちらにその気があれば……ですが」
彼はそう言ってこちらへ向き直ると、一瞬にやり、と笑う。
「SKMの今後の発展を、お祈り申し上げます」
●
「はっ」
慌てて飛び起きるシュトックハウゼン会長。
気づけばホテルの机に突っ伏して居眠りし、夢を見ていたようだ。
会長はハンターたちと会った後、また別の会合に出席、
夜はホテルへ戻り、SKM発足に向けた指示書を作成中だった。
書きかけの書類の傍らに置かれた懐中時計は、深夜2時を示している。
まだ、書類は終わっていない。夜が明けるまでに目途を付けておかねば。
帝が土産にくれたチョコレートをつまむ。疲れたときには甘いもの、だ――
(貴方が潰れちゃったら話はお終いなんですから、労れるときは労って下さいね)
紡績会長の長として、果たさねばならない仕事は山積している。
氏の憂鬱は相変わらずだ。が、それでも彼の手によって少しずつ、
協会とシュレーベンラントの状況は変わりつつあった。
依頼結果
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新警備隊編成会議 ダリオ・パステリ(ka2363) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/10/03 08:33:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/30 02:08:43 |