ゲスト
(ka0000)
出会いと別れと新たなる旅立ちに
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/30 22:00
- 完成日
- 2015/10/02 00:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●危機は去り、偲ばれるのは犠牲となった命たち
そっと色づき始めた木の葉に触れる。まだ落葉するには早いのか、触れた位でははらはらと舞うことはない。
この山は何度も戦いの舞台となった。
自分の価値観も、その戦いを経て大きく変わったと思う。
忌避していたこの世界に、今は少しだけ親しみを覚えられるようになったのは、戦いを共にし、そしてこの山で行われた催しごとで声をかけてくれたハンターの戦友たちのお陰だろう。
ほとんどすべての木々が枯れ果て、草木も立ち枯れ、動物たちは死に絶えた山を、かつて山を守護する精霊だったと伝えられていた存在がその命が消える間際、精霊としての力を取り戻し復活させた。
ジャイアントたちによって歪虚として祀られ、山に死をもたらす存在となったブリーキンダ・ベルと呼ばれた巨大な鹿の精霊は、最後の最後に歪虚としての戒めから抜け出し、山に命を返してくれた。
あのまま木々が立ち枯れたままだったら、動物も虫も息絶えたままだったら。この山は人の住むことのできない不毛の地と化していただろう。
意思の疎通は最後まで叶わなかった。歪虚としての巨大すぎる負のマテリアルにブリーキンダ・ベルは暴走していたし、精霊としての力を取り戻した後は命を返し、自分は天へと還った。
失われた祠。失われた御神刀。それより前の戦いで失った家族と呼べる狐の精霊。
失ったものは、確かに多かった。けれどそれ以上の物をこの山を通じて、自分は確かに受け取った。
「さて……ここもしばらく見納めか。いってくる、……」
御影 小夜子(kz0018)が呟いた名は彼女に寄り添って生きていた狐の精霊の名前だろうか。誰も拾うことのない声は風に溶けて消えていった。
●新たなる旅立ちの前に
「シュバルツエンド殿、神霊樹の若木を活用できるようにネットワークに組み込む手配をして頂き、感謝している」
「これも仕事だからね。若木とはいえ神霊樹のネットワークが増えるのはハンターにとっても有益だろうから気にしなくていいよ」
その後、べアルファレスの足取りはつかめたのかい、と問うたルカ・シュバルツエンド(kz0073)に小夜子は緩く首を振る。
「奴にはいろいろと返したい借りがあるからな、今度村で行われるブリーキンダ・ベルと、争いで犠牲になったまま戻らなかった命を慰撫する祭りに顔を出したら、私は一度山を下りようと思う」
そして叶うならソサエティと協力して自らを舞台演出家と称する歪虚を討ち取るための情報収集の旅に出たい。
そう告げた狐面の女性に銀髪の青年は青い目を瞬かせた。
「けれど山には愛着があるだろう、いいのかい?」
「全てを終えたら山に帰る。今のままべアルファレスが何もせずにいるとは思えないからな。その罪を贖わせずには、私の心が真に安らぐことはないだろう」
「……そうだね。水に流すには随分色々やらかしてくれたようだし。今日ここへ来たのはその報告かい?」
「それと鎮魂祭へハンターの方々を招待しようと思ってな。秋の花を摘んで川に流すんだそうだ。水は全てに通じているから、と」
あとはささやかだが楽の音を奏で、食事を楽しみ、夜は風船状の灯篭のような物を今度は川ではなく空へと放つのだという。
「鎮魂祭、という名目上あまり派手に騒ぐのは歓迎されないだろうが、日ごろの疲れを癒し、戦いの舞台になった山が元の生活を取り戻したことを視察する分にはいいのではないかと思う」
「そうかい、それなら僕の方からも声をかけさせてもらおうかな。べアルファレスに関わった人は、結構多いからね。皆村を案じていたんじゃないかな」
「来てくれれば村の人たちも喜ぶだろう。ぜひお願いする」
多くの犠牲を払った一つの物語は終わりを告げた。
世界を憎んでいたベルセルクの女性と、再生を遂げた村に新たな息吹が吹き込まれようとしている。
旅立ちと再生に祝福を、別れには健やかたれ、と杯を互いにかわし、いつかまたこの場所へ帰ることを誓って新たな物語は紡がれていく。
そっと色づき始めた木の葉に触れる。まだ落葉するには早いのか、触れた位でははらはらと舞うことはない。
この山は何度も戦いの舞台となった。
自分の価値観も、その戦いを経て大きく変わったと思う。
忌避していたこの世界に、今は少しだけ親しみを覚えられるようになったのは、戦いを共にし、そしてこの山で行われた催しごとで声をかけてくれたハンターの戦友たちのお陰だろう。
ほとんどすべての木々が枯れ果て、草木も立ち枯れ、動物たちは死に絶えた山を、かつて山を守護する精霊だったと伝えられていた存在がその命が消える間際、精霊としての力を取り戻し復活させた。
ジャイアントたちによって歪虚として祀られ、山に死をもたらす存在となったブリーキンダ・ベルと呼ばれた巨大な鹿の精霊は、最後の最後に歪虚としての戒めから抜け出し、山に命を返してくれた。
あのまま木々が立ち枯れたままだったら、動物も虫も息絶えたままだったら。この山は人の住むことのできない不毛の地と化していただろう。
意思の疎通は最後まで叶わなかった。歪虚としての巨大すぎる負のマテリアルにブリーキンダ・ベルは暴走していたし、精霊としての力を取り戻した後は命を返し、自分は天へと還った。
失われた祠。失われた御神刀。それより前の戦いで失った家族と呼べる狐の精霊。
失ったものは、確かに多かった。けれどそれ以上の物をこの山を通じて、自分は確かに受け取った。
「さて……ここもしばらく見納めか。いってくる、……」
御影 小夜子(kz0018)が呟いた名は彼女に寄り添って生きていた狐の精霊の名前だろうか。誰も拾うことのない声は風に溶けて消えていった。
●新たなる旅立ちの前に
「シュバルツエンド殿、神霊樹の若木を活用できるようにネットワークに組み込む手配をして頂き、感謝している」
「これも仕事だからね。若木とはいえ神霊樹のネットワークが増えるのはハンターにとっても有益だろうから気にしなくていいよ」
その後、べアルファレスの足取りはつかめたのかい、と問うたルカ・シュバルツエンド(kz0073)に小夜子は緩く首を振る。
「奴にはいろいろと返したい借りがあるからな、今度村で行われるブリーキンダ・ベルと、争いで犠牲になったまま戻らなかった命を慰撫する祭りに顔を出したら、私は一度山を下りようと思う」
そして叶うならソサエティと協力して自らを舞台演出家と称する歪虚を討ち取るための情報収集の旅に出たい。
そう告げた狐面の女性に銀髪の青年は青い目を瞬かせた。
「けれど山には愛着があるだろう、いいのかい?」
「全てを終えたら山に帰る。今のままべアルファレスが何もせずにいるとは思えないからな。その罪を贖わせずには、私の心が真に安らぐことはないだろう」
「……そうだね。水に流すには随分色々やらかしてくれたようだし。今日ここへ来たのはその報告かい?」
「それと鎮魂祭へハンターの方々を招待しようと思ってな。秋の花を摘んで川に流すんだそうだ。水は全てに通じているから、と」
あとはささやかだが楽の音を奏で、食事を楽しみ、夜は風船状の灯篭のような物を今度は川ではなく空へと放つのだという。
「鎮魂祭、という名目上あまり派手に騒ぐのは歓迎されないだろうが、日ごろの疲れを癒し、戦いの舞台になった山が元の生活を取り戻したことを視察する分にはいいのではないかと思う」
「そうかい、それなら僕の方からも声をかけさせてもらおうかな。べアルファレスに関わった人は、結構多いからね。皆村を案じていたんじゃないかな」
「来てくれれば村の人たちも喜ぶだろう。ぜひお願いする」
多くの犠牲を払った一つの物語は終わりを告げた。
世界を憎んでいたベルセルクの女性と、再生を遂げた村に新たな息吹が吹き込まれようとしている。
旅立ちと再生に祝福を、別れには健やかたれ、と杯を互いにかわし、いつかまたこの場所へ帰ることを誓って新たな物語は紡がれていく。
リプレイ本文
●失われた命に哀悼を
しめやかな祭りがとり行われようとしていた。
かつて二人の歪虚と、歪虚が利用したジャイアントのゾンビや彼らが信奉していた歪虚によって踏みにじられた山。
神として歪虚に零落させられた精霊は、最期に悪しき楔から自らを解き放つと山に命を還して自分は天へと昇っていった。
壊滅状態だった山はそれによって命を吹き返したが、それ以前に失われた命はあまりに多かった。
昼、まだあまり人の集まっていない広場での準備作業を手伝いながらザレム・アズール(ka0878) が御影 小夜子(kz0118) に話しかける。
「俺は援護要請で来てたものだから詳しい話を知らないんだ。
何があったかを、よかったら教えてくれないか」
小夜子の心の傷をなるべく抉らないようにと気遣いながら問いかけると、小夜子は狐の面に隠された素顔を見せないまま長い話になるが、と前置きして語りだした。
かつて自分には家族とも呼ぶべき精霊が傍にいたこと。
ラキエルという歪虚によって精霊は雑魔にされてしまったこと。
その雑魔を討つためにやってきたハンターを、最初は逆恨みしていたこと。
やがて自身が雑魔と勘違いされ、誤解を解くために説得にやってきたハンターと言葉を交わすうち、自分が本当に憎むべきなのは歪虚なのだと気づかされたこと。
ラキエルに立ち向かい、共に戦ってくれたハンターのこと。
ラキエルによって失われた命を悼むため、ちょうど今日のように祭りがあったこと。
そしてべアルファレスとブリーキンダ・ベルによる一連の騒動について。
「……ハンターである貴殿たちには、いつも助けられてばかりだった。
だが私も覚醒者。いつまでも山にこもっていずに、今度は大切な存在を奪われることなく自分で守るためにべアルファレスを討ちたいと思っている」
この祭りが終わったら小夜子は山を下りる決意だという。
「どちらも辛い事件だったんだな。救いたかったんじゃないか? 精霊も、ベルも。
だとしたらそれは叶えられているよ。精霊とベルの魂は救われたと考えることは詭弁じゃない。そうだろ?」
「……そうだな。最後に、本来の姿に立ち返って命を還してくれた。それはブリーキンダ・ベルが私たちに残した『生きろ』という意思に感じる。
だから私たちは失われた命を祀り、これから生まれていく命を守っていく、命の営みをやめてはいけないのだろう」
「あぁ、きっとそうだ」
祭りの準備を進める手を止めないまま二人は暫し話を続ける。
やがて整った祭り会場。川に花を捧げに行くという小夜子にザレムは一度別れを告げた。
狐の姿をした彼女の家族が討たれた場所、そこがこれから向かう川なのだという。
悼まれる命の一つに精霊たちが入っているのは、村人たちと小夜子が傷つきながらも手に入れた絆の一つと言えるだろう。
川に山で咲いた秋の花を捧げにいく村人たちを、ザレムは静かに凪いだ目で見送っていた。
かつて一つの戦いの舞台となった山を流れる川。
その川に命を悼む花がそっと流されていく。
ミオレスカ(ka3496)はその様子を眺めながら、たくさん失われたものもあるが残ったものと生まれたものを大事にしたいという思いを新たにする。
「ミオレスカ殿。来てくださったのか。感謝する」
そろそろ落ち葉も目立つ秋だが、小夜子は長年の山暮らしの結果ほとんど足音を立てずに落ち葉の上を歩く習慣が出来ていたようだ。
背後からかけられた、凛としていながらも親しみを感じさせる声に振り返って挨拶を交わす。
「小夜子さんが、無事でよかったです。きっとまた、帰ってこられますよ。
私も、いつでもお手伝いします」
「頼もしい限りだ。悔しいが、私だけでは奴に力及ばないことは確実だからな……」
二人で花を摘み、できるだけたくさんの花を色とりどりになるように流す。
「川も自然も、いつまでも美しく続くようです」
ミオレスカが自分の流した花が見えなくなるまでじっと眺める傍らに、小夜子も無言でたたずんでいるのだった。
●空に還す魂
天竜寺 舞(ka0377)は妹の天竜寺 詩(ka0396) とともに夕暮れから夜の色へと変わる星空を眺め、歌や舞、音楽を奉納するために設えられた舞台へ上った。
失われた命のために詩と一緒に鎮魂歌を捧げるためだ。
舞は三味線を、詩は姉の三味線に合わせて鎮魂の歌を披露する。
静かな、けれど感嘆の響きをしっかり感じ取れる拍手の音を聞きながら一礼して舞台を降りる二人。
空に放たれ、蝋燭の光を揺らめかせながら高く高く昇っていく灯篭を眺めながら詩は姉に問いかけた。
「これって魂を天に還すってことなのかな?」
「そうだね、天から見守っててくださいってことなのかもね」
「うん、きっとそうだよ」
どうかこの村の人たちを見守ってあげてください。
祈りを込めて空に昇っていく灯篭を見つめる詩の姿を見て、舞も村の皆を見守ってあげてね、と祈りを託す。
「舞殿、詩殿。今回はお世話になった。来てくれて感謝する」
闇夜の静けさを妨げない、凛とした声に舞と詩が振り返ると小夜子の姿があった。
「元気そうだね。ゴエモンも会えてうれしいって」
「ゴエモン殿もお久しぶりだ。息災だろうか」
「ゴエモンは小夜子さんが好きなんだね」
柴犬のゴエモンが嬉しそうに小夜子に駆け寄るのをみて詩が微笑む。
「あれ、いつもと着てるのが違うね」
「……あぁ、これは以前ハンターの方に送ってもらった衣装なのだ。このあと舞を奉じようと思っていてな。
今日は汚れる心配もないから衣装を改めてみた」
「へぇ、とっても似合ってるよ!」
「うん、小夜子さんによく似あう素敵な衣装だね」
「……なんだか照れくさいな。だが感謝を」
舞と詩も小夜子から準備が整い次第べアルファレスを討つために山を下りるという小夜子の決意を聞いて顔を引き締めた。
「あの蛙頭は一体どこで何を企んでるやら。一緒についていくことはできないけど、何かあったらきっと声をかけてね。飛んでいくから!」
「お姉ちゃんたまに寝言でも蛙頭のクソ野郎!って言ってたんだよ。私も何か力になれることがあったらきっと手伝うからね」
二人からの言葉と誓うように握られた手に、小夜子は狐の面の下で微笑んだようだった。
「感謝する。奴を探す旅に出るとはいえおそらく倒すには一人では圧倒的に力不足。
ご助力頂けるのは助かる。今後とも、お二人と友誼を結んでいきたいものだ」
「大歓迎だよ! ね、詩?」
「うん、ずっと仲良くできたら嬉しいよ、小夜子さん」
他の人に挨拶してくるという小夜子に別れの挨拶をすると姉妹は静かに空を見上げたのだった。
「また会ったな。……ん、着替えたのか。その衣装も似合っているな」
ザレムと再び顔を合わせた小夜子は昼間のくたびれた衣装は自分が転移してきたころから着ている普段着で、これはハンターの一人から贈られたものなのだ、と説明をする。
「祭りが始まってから着替えたのだ。準備中は汚してしまうかもしれないからな」
「そうか、よかったら灯篭を一緒に飛ばさないか」
「私でいいなら、よろこんで」
二人で一つの灯篭をそっと天に放つ。
「綺麗だな」
「……そうだな。これが命にとって慰撫の光になってくれればいいと思う。遺していった者たちにとって、遺された者たちにとっても、光は必要だ」
「この光の玉は魂を表しているのかもな。全ての魂が高みへ昇れることを祈る。
そしてブリーキンダ・ベルの魂が安らげるように、と」
「雄大な自然が生み出した精霊だ、天で魂が負った傷を癒す揺り籠になってくれることだろう。
もう、歪虚ではないのだしな」
「そうだな、きっと全てをその腕で包み込んでくれるさ」
それからしばらく二人は黙って空を見上げていた。
亡き者たちを偲ぶ、沈黙での会話だった。
「きみが早く戻ってこれるよう、手伝わせてもらうよ」
リシャール・ヴィザージュ(ka1591)は灯篭の元での舞を小夜子に頼んだ人物だった。
彼は昼間山を探索し、命がしっかりと根付いていることを確認しながら先日ネットワーク機能に接続された神霊樹の若木の様子を見に行った。
小夜子に以前リシャールがプレゼントしたパルムは喋ることはできないようだったがきちんと司書としての役割を理解し、任務を全うするためにけなげに働いていた。
その様子を眺めながらリシャールはいつか神霊樹の本体にたどり着く決意を確認したのだった。
パルムと共に贈った水干と袴姿の小夜子が、貸した神楽鈴を共に舞を奉納する姿を目に焼き付けるリシャール。
(いつか舞えるようになりたいものだな……綺麗だ)
「たくさん稽古しなくちゃな」
これも一つの縁の結果だろう、と思いながら舞を終えて戻ってきた小夜子に賞賛の言葉を投げ、喪われたものに思いを馳せ、残ったものとこれから護りたいものへの決意を胸に秘める。
「また戻ってくる誓いに、してくれるかい? ……それに僕らハンターと歪虚どもしか見てないなんて勿体ないだろ?」
「そうだな。この山には愛着がある。ここが私のクリムゾンウェストでの帰る場所だ。
ここから始まり、ここに帰結するために必ず帰ってくる」
厳かな誓いの言葉にリシャールは静かに頷いたのだった。
舞の奉納を終え、ミオレスカとも再会を果たした小夜子はまた灯篭を見上げる。
「命と死の出会いと別れを、エルフとして、ハンターとして、いつまでも繰り返すのでしょうか」
鎮魂の演奏にも参加してきたというミオレスカがぽつりとつぶやく。
「死は、一つの約束だと聞いたことがある」
「約束、ですか?」
「自分は死んでも季節は巡り、新たな命は生まれ、死にゆくものを歴史として受け継いでいくという、命と命の約束だ、と。
自分だけが全てという考えの持ち主には受け入れがたい考えだろうが、次の世に何かを残すという生き方を望む者にとっては安らかに逝ける約束だと感じた覚えが、ある」
「命と命の、約束……」
ミオレスカが小さく呟き、頷く。
「それでも、生きている内に、やれることはやらなければ、と思います」
「私もだ。今後も、ソサエティには助力を乞うと思う。
その時はどうかよろしく頼む、ミオレスカ殿」
「はい、私で良ければ、喜んで」
夜は更けていき、灯篭が見えなくなった後、山には静けさが戻ってきた。
失われた命がある。生まれた絆がある。
だから小夜子は思う。
そうして命は続いていくのだ、と。
しめやかな祭りがとり行われようとしていた。
かつて二人の歪虚と、歪虚が利用したジャイアントのゾンビや彼らが信奉していた歪虚によって踏みにじられた山。
神として歪虚に零落させられた精霊は、最期に悪しき楔から自らを解き放つと山に命を還して自分は天へと昇っていった。
壊滅状態だった山はそれによって命を吹き返したが、それ以前に失われた命はあまりに多かった。
昼、まだあまり人の集まっていない広場での準備作業を手伝いながらザレム・アズール(ka0878) が御影 小夜子(kz0118) に話しかける。
「俺は援護要請で来てたものだから詳しい話を知らないんだ。
何があったかを、よかったら教えてくれないか」
小夜子の心の傷をなるべく抉らないようにと気遣いながら問いかけると、小夜子は狐の面に隠された素顔を見せないまま長い話になるが、と前置きして語りだした。
かつて自分には家族とも呼ぶべき精霊が傍にいたこと。
ラキエルという歪虚によって精霊は雑魔にされてしまったこと。
その雑魔を討つためにやってきたハンターを、最初は逆恨みしていたこと。
やがて自身が雑魔と勘違いされ、誤解を解くために説得にやってきたハンターと言葉を交わすうち、自分が本当に憎むべきなのは歪虚なのだと気づかされたこと。
ラキエルに立ち向かい、共に戦ってくれたハンターのこと。
ラキエルによって失われた命を悼むため、ちょうど今日のように祭りがあったこと。
そしてべアルファレスとブリーキンダ・ベルによる一連の騒動について。
「……ハンターである貴殿たちには、いつも助けられてばかりだった。
だが私も覚醒者。いつまでも山にこもっていずに、今度は大切な存在を奪われることなく自分で守るためにべアルファレスを討ちたいと思っている」
この祭りが終わったら小夜子は山を下りる決意だという。
「どちらも辛い事件だったんだな。救いたかったんじゃないか? 精霊も、ベルも。
だとしたらそれは叶えられているよ。精霊とベルの魂は救われたと考えることは詭弁じゃない。そうだろ?」
「……そうだな。最後に、本来の姿に立ち返って命を還してくれた。それはブリーキンダ・ベルが私たちに残した『生きろ』という意思に感じる。
だから私たちは失われた命を祀り、これから生まれていく命を守っていく、命の営みをやめてはいけないのだろう」
「あぁ、きっとそうだ」
祭りの準備を進める手を止めないまま二人は暫し話を続ける。
やがて整った祭り会場。川に花を捧げに行くという小夜子にザレムは一度別れを告げた。
狐の姿をした彼女の家族が討たれた場所、そこがこれから向かう川なのだという。
悼まれる命の一つに精霊たちが入っているのは、村人たちと小夜子が傷つきながらも手に入れた絆の一つと言えるだろう。
川に山で咲いた秋の花を捧げにいく村人たちを、ザレムは静かに凪いだ目で見送っていた。
かつて一つの戦いの舞台となった山を流れる川。
その川に命を悼む花がそっと流されていく。
ミオレスカ(ka3496)はその様子を眺めながら、たくさん失われたものもあるが残ったものと生まれたものを大事にしたいという思いを新たにする。
「ミオレスカ殿。来てくださったのか。感謝する」
そろそろ落ち葉も目立つ秋だが、小夜子は長年の山暮らしの結果ほとんど足音を立てずに落ち葉の上を歩く習慣が出来ていたようだ。
背後からかけられた、凛としていながらも親しみを感じさせる声に振り返って挨拶を交わす。
「小夜子さんが、無事でよかったです。きっとまた、帰ってこられますよ。
私も、いつでもお手伝いします」
「頼もしい限りだ。悔しいが、私だけでは奴に力及ばないことは確実だからな……」
二人で花を摘み、できるだけたくさんの花を色とりどりになるように流す。
「川も自然も、いつまでも美しく続くようです」
ミオレスカが自分の流した花が見えなくなるまでじっと眺める傍らに、小夜子も無言でたたずんでいるのだった。
●空に還す魂
天竜寺 舞(ka0377)は妹の天竜寺 詩(ka0396) とともに夕暮れから夜の色へと変わる星空を眺め、歌や舞、音楽を奉納するために設えられた舞台へ上った。
失われた命のために詩と一緒に鎮魂歌を捧げるためだ。
舞は三味線を、詩は姉の三味線に合わせて鎮魂の歌を披露する。
静かな、けれど感嘆の響きをしっかり感じ取れる拍手の音を聞きながら一礼して舞台を降りる二人。
空に放たれ、蝋燭の光を揺らめかせながら高く高く昇っていく灯篭を眺めながら詩は姉に問いかけた。
「これって魂を天に還すってことなのかな?」
「そうだね、天から見守っててくださいってことなのかもね」
「うん、きっとそうだよ」
どうかこの村の人たちを見守ってあげてください。
祈りを込めて空に昇っていく灯篭を見つめる詩の姿を見て、舞も村の皆を見守ってあげてね、と祈りを託す。
「舞殿、詩殿。今回はお世話になった。来てくれて感謝する」
闇夜の静けさを妨げない、凛とした声に舞と詩が振り返ると小夜子の姿があった。
「元気そうだね。ゴエモンも会えてうれしいって」
「ゴエモン殿もお久しぶりだ。息災だろうか」
「ゴエモンは小夜子さんが好きなんだね」
柴犬のゴエモンが嬉しそうに小夜子に駆け寄るのをみて詩が微笑む。
「あれ、いつもと着てるのが違うね」
「……あぁ、これは以前ハンターの方に送ってもらった衣装なのだ。このあと舞を奉じようと思っていてな。
今日は汚れる心配もないから衣装を改めてみた」
「へぇ、とっても似合ってるよ!」
「うん、小夜子さんによく似あう素敵な衣装だね」
「……なんだか照れくさいな。だが感謝を」
舞と詩も小夜子から準備が整い次第べアルファレスを討つために山を下りるという小夜子の決意を聞いて顔を引き締めた。
「あの蛙頭は一体どこで何を企んでるやら。一緒についていくことはできないけど、何かあったらきっと声をかけてね。飛んでいくから!」
「お姉ちゃんたまに寝言でも蛙頭のクソ野郎!って言ってたんだよ。私も何か力になれることがあったらきっと手伝うからね」
二人からの言葉と誓うように握られた手に、小夜子は狐の面の下で微笑んだようだった。
「感謝する。奴を探す旅に出るとはいえおそらく倒すには一人では圧倒的に力不足。
ご助力頂けるのは助かる。今後とも、お二人と友誼を結んでいきたいものだ」
「大歓迎だよ! ね、詩?」
「うん、ずっと仲良くできたら嬉しいよ、小夜子さん」
他の人に挨拶してくるという小夜子に別れの挨拶をすると姉妹は静かに空を見上げたのだった。
「また会ったな。……ん、着替えたのか。その衣装も似合っているな」
ザレムと再び顔を合わせた小夜子は昼間のくたびれた衣装は自分が転移してきたころから着ている普段着で、これはハンターの一人から贈られたものなのだ、と説明をする。
「祭りが始まってから着替えたのだ。準備中は汚してしまうかもしれないからな」
「そうか、よかったら灯篭を一緒に飛ばさないか」
「私でいいなら、よろこんで」
二人で一つの灯篭をそっと天に放つ。
「綺麗だな」
「……そうだな。これが命にとって慰撫の光になってくれればいいと思う。遺していった者たちにとって、遺された者たちにとっても、光は必要だ」
「この光の玉は魂を表しているのかもな。全ての魂が高みへ昇れることを祈る。
そしてブリーキンダ・ベルの魂が安らげるように、と」
「雄大な自然が生み出した精霊だ、天で魂が負った傷を癒す揺り籠になってくれることだろう。
もう、歪虚ではないのだしな」
「そうだな、きっと全てをその腕で包み込んでくれるさ」
それからしばらく二人は黙って空を見上げていた。
亡き者たちを偲ぶ、沈黙での会話だった。
「きみが早く戻ってこれるよう、手伝わせてもらうよ」
リシャール・ヴィザージュ(ka1591)は灯篭の元での舞を小夜子に頼んだ人物だった。
彼は昼間山を探索し、命がしっかりと根付いていることを確認しながら先日ネットワーク機能に接続された神霊樹の若木の様子を見に行った。
小夜子に以前リシャールがプレゼントしたパルムは喋ることはできないようだったがきちんと司書としての役割を理解し、任務を全うするためにけなげに働いていた。
その様子を眺めながらリシャールはいつか神霊樹の本体にたどり着く決意を確認したのだった。
パルムと共に贈った水干と袴姿の小夜子が、貸した神楽鈴を共に舞を奉納する姿を目に焼き付けるリシャール。
(いつか舞えるようになりたいものだな……綺麗だ)
「たくさん稽古しなくちゃな」
これも一つの縁の結果だろう、と思いながら舞を終えて戻ってきた小夜子に賞賛の言葉を投げ、喪われたものに思いを馳せ、残ったものとこれから護りたいものへの決意を胸に秘める。
「また戻ってくる誓いに、してくれるかい? ……それに僕らハンターと歪虚どもしか見てないなんて勿体ないだろ?」
「そうだな。この山には愛着がある。ここが私のクリムゾンウェストでの帰る場所だ。
ここから始まり、ここに帰結するために必ず帰ってくる」
厳かな誓いの言葉にリシャールは静かに頷いたのだった。
舞の奉納を終え、ミオレスカとも再会を果たした小夜子はまた灯篭を見上げる。
「命と死の出会いと別れを、エルフとして、ハンターとして、いつまでも繰り返すのでしょうか」
鎮魂の演奏にも参加してきたというミオレスカがぽつりとつぶやく。
「死は、一つの約束だと聞いたことがある」
「約束、ですか?」
「自分は死んでも季節は巡り、新たな命は生まれ、死にゆくものを歴史として受け継いでいくという、命と命の約束だ、と。
自分だけが全てという考えの持ち主には受け入れがたい考えだろうが、次の世に何かを残すという生き方を望む者にとっては安らかに逝ける約束だと感じた覚えが、ある」
「命と命の、約束……」
ミオレスカが小さく呟き、頷く。
「それでも、生きている内に、やれることはやらなければ、と思います」
「私もだ。今後も、ソサエティには助力を乞うと思う。
その時はどうかよろしく頼む、ミオレスカ殿」
「はい、私で良ければ、喜んで」
夜は更けていき、灯篭が見えなくなった後、山には静けさが戻ってきた。
失われた命がある。生まれた絆がある。
だから小夜子は思う。
そうして命は続いていくのだ、と。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/30 18:53:12 |