ゲスト
(ka0000)
触ると危険なキノコ、性別が逆転する!
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2015/10/02 07:30
- 完成日
- 2015/10/10 10:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
メイドのフェイト・アルテミス(kz0134)は、主人であるルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)の仕事部屋の扉を勢いよく開け放った。
「お嬢様! ルサリィお嬢様、大変でございます!」
普段は落ち着き払っているフェイトが慌てている姿は珍しく、万年筆を片手に書類と睨めっこをしていたルサリィはギョッとする。
「どっどうしたのよ? そんなに慌てて」
「ウィクトーリア家が所有する山で、問題が起こりまして……」
息を激しく切らしながらも、フェイトはルサリィと机越しに向かい合い、説明をはじめる。
ウィクトーリア家では、自然の山を複数所有していた。
その中でいくつかの山は秋の味覚を豊富に収穫することができる為に、人の手を加えず、あえて自然のままにしているのだ。
そして管理している山の近くには、ウィクトーリア家のような資産家達が援助をしている魔術師を育てる学校がある。将来、一般市民の生活を支える為の魔術師を育成する施設には、まだ未成年の子供達が寮で暮らしながら生活を送っていた。
ところが、だ。生徒達――しかもルサリィと同じ歳ほどの子供達が、ウィクトーリア家の私有地と知っていながらもこっそりと山に入り込んで魔法の練習をしていたらしい。
今までそのことが発覚しなかったのは、外部に魔法の影響が出なかったからだ。
ところがウィクトーリア家の使用人達が秋の味覚の状態を見に行った時、山で起きている異変に気付いてしまった。
「今回、視察対象物となったのはキノコです。ウィクトーリア家が所有する山では、美味しいキノコが大量に生えていますから。三人の男性使用人が見に行ったところ……」
キノコは例年にないほど、大量に生えていたのだ。
これは良い事だと、使用人達は喜んでキノコを採ろうとしたのだが……。
「触った途端、二名ほど突然性別が変わってしまったそうです」
「……はい?」
思わずルサリィは我が耳を疑ってしまう。
「実際にお会いしてみれば、分かると思います」
複雑な表情を浮かべるフェイトが入ってきた扉に視線を向けると、三人の使用人が入ってきた。三人とも見覚えのある使用人だが、そのうちの二人は何だか違和感がある。
「えぇっと、ウチの使用人の……」
「カルとジョセフ、ケインです。しかし男の体なのはジョセフのみでして、その……カルとケインは女の体になってしまいました」
確かにルサリィの眼に映る『男』は、ジョセフのみ。カルとケインは顔に男だった頃の面影が残っているものの、その体は女性になっていた。
「ちょっ……学校には?」
「もちろん、伝えてあります。どうやら生徒達は相手に変身の術をかける練習をしていたそうですが、随分と長い間同じ場所で練習を繰り返していたせいで、術の影響をキノコが受けてしまったようです。なので触れると性別が変わってしまう効果が出てしまった――というのが教師達の意見です」
「術を解く方法は?」
「術自体は弱いものなので、一日も持たないそうです」
「それは良かった……と言うべきかしら?」
しかし問題は残っている。ルサリィは深いため息を吐きながら、ソファ椅子に座り直した。
「で、残りのキノコはどうするべきなの?」
「そこが問題でして……。キノコにかけられた術は下手に解くと、解除の術の力によって土地自体が弱くなってしまう可能性があるそうです。今後、キノコが生えなくなるかもしれないと言われました。それにどうやら術にかかっていない無事なキノコもあるようですし、いっそのこと性別逆転するのを覚悟で全部採ってしまった方が良いのではないかと……」
「言ってくれるわねぇ。そんな仕事やってくれるのって、ハンターぐらいじゃないの?」
「まあ性別が逆転する覚悟を持って仕事をなさる人は、ハンターの方達ぐらいでしょう」
放置したままでは術がかかっているキノコはどんどん繁殖してしまい、いつかは他の山にも生えてしまうかもしれない。そうなれば、世の中がとんでもないことになるのは簡単に予想ができる。
そして結果的に、ウィクトーリア家の名が悪く広まってしまうだろう。
不本意な家名の広まり方を望まないルサリィは、重いため息を吐くしかない。
「……しょうがないわね。生き証人として三人と共に、ハンターに依頼しに行きましょう」
「はい。では準備をしますね」
「お嬢様! ルサリィお嬢様、大変でございます!」
普段は落ち着き払っているフェイトが慌てている姿は珍しく、万年筆を片手に書類と睨めっこをしていたルサリィはギョッとする。
「どっどうしたのよ? そんなに慌てて」
「ウィクトーリア家が所有する山で、問題が起こりまして……」
息を激しく切らしながらも、フェイトはルサリィと机越しに向かい合い、説明をはじめる。
ウィクトーリア家では、自然の山を複数所有していた。
その中でいくつかの山は秋の味覚を豊富に収穫することができる為に、人の手を加えず、あえて自然のままにしているのだ。
そして管理している山の近くには、ウィクトーリア家のような資産家達が援助をしている魔術師を育てる学校がある。将来、一般市民の生活を支える為の魔術師を育成する施設には、まだ未成年の子供達が寮で暮らしながら生活を送っていた。
ところが、だ。生徒達――しかもルサリィと同じ歳ほどの子供達が、ウィクトーリア家の私有地と知っていながらもこっそりと山に入り込んで魔法の練習をしていたらしい。
今までそのことが発覚しなかったのは、外部に魔法の影響が出なかったからだ。
ところがウィクトーリア家の使用人達が秋の味覚の状態を見に行った時、山で起きている異変に気付いてしまった。
「今回、視察対象物となったのはキノコです。ウィクトーリア家が所有する山では、美味しいキノコが大量に生えていますから。三人の男性使用人が見に行ったところ……」
キノコは例年にないほど、大量に生えていたのだ。
これは良い事だと、使用人達は喜んでキノコを採ろうとしたのだが……。
「触った途端、二名ほど突然性別が変わってしまったそうです」
「……はい?」
思わずルサリィは我が耳を疑ってしまう。
「実際にお会いしてみれば、分かると思います」
複雑な表情を浮かべるフェイトが入ってきた扉に視線を向けると、三人の使用人が入ってきた。三人とも見覚えのある使用人だが、そのうちの二人は何だか違和感がある。
「えぇっと、ウチの使用人の……」
「カルとジョセフ、ケインです。しかし男の体なのはジョセフのみでして、その……カルとケインは女の体になってしまいました」
確かにルサリィの眼に映る『男』は、ジョセフのみ。カルとケインは顔に男だった頃の面影が残っているものの、その体は女性になっていた。
「ちょっ……学校には?」
「もちろん、伝えてあります。どうやら生徒達は相手に変身の術をかける練習をしていたそうですが、随分と長い間同じ場所で練習を繰り返していたせいで、術の影響をキノコが受けてしまったようです。なので触れると性別が変わってしまう効果が出てしまった――というのが教師達の意見です」
「術を解く方法は?」
「術自体は弱いものなので、一日も持たないそうです」
「それは良かった……と言うべきかしら?」
しかし問題は残っている。ルサリィは深いため息を吐きながら、ソファ椅子に座り直した。
「で、残りのキノコはどうするべきなの?」
「そこが問題でして……。キノコにかけられた術は下手に解くと、解除の術の力によって土地自体が弱くなってしまう可能性があるそうです。今後、キノコが生えなくなるかもしれないと言われました。それにどうやら術にかかっていない無事なキノコもあるようですし、いっそのこと性別逆転するのを覚悟で全部採ってしまった方が良いのではないかと……」
「言ってくれるわねぇ。そんな仕事やってくれるのって、ハンターぐらいじゃないの?」
「まあ性別が逆転する覚悟を持って仕事をなさる人は、ハンターの方達ぐらいでしょう」
放置したままでは術がかかっているキノコはどんどん繁殖してしまい、いつかは他の山にも生えてしまうかもしれない。そうなれば、世の中がとんでもないことになるのは簡単に予想ができる。
そして結果的に、ウィクトーリア家の名が悪く広まってしまうだろう。
不本意な家名の広まり方を望まないルサリィは、重いため息を吐くしかない。
「……しょうがないわね。生き証人として三人と共に、ハンターに依頼しに行きましょう」
「はい。では準備をしますね」
リプレイ本文
○性別が逆転するハンター達
榊兵庫(ka0010)は大きなカゴを背負いながら、仲間達と共に問題の山へ訪れた。
「性別が逆転するキノコとは、な。魔法というのは何でもアリだな。しかしそんな危険なキノコが世の中に出たら大変なことになるから、速やかに収穫することにしよう」
そして問題のキノコが大量に生えている場所へ到着すると、兵庫は僅かに緊張した面持ちでキノコへ向かって手を伸ばす。
「さて、どうなることやら」
近くに生えているキノコに触れた途端、ボッフン! と白い煙が発生して、兵庫の身を包む。
「げほっ、ごほっ! ばっ爆発するとは、これはまた……」
むせている間に煙が引いて、女性へと変身した兵庫がそこに現れた。
兵庫の身長はやや縮んだものの、胸はかなりの大きさに膨らんでいる。腰が細くなったせいで、着物がズルッと落ちた。
「こういう時、和服だと体型に合わせやすいから楽だな。しかしこの胸の重さと大きさに慣れるまでには、時間がかかりそうだ」
少しだけうんざりした表情を浮かべながらも兵庫は腰の紐を結び直して、キノコの収穫を再開する。
「まっ、こういう経験もハンターならではだ。良い土産話になるな」
「……ケホッ。予想以上に激しい爆発だったな」
オウカ・レンヴォルト(Ka0301)は手で煙を払いのけて、顔をしかめる。そして女性化した自分の体を見回して、「ふむ」と頷く。
「声は女性らしく、高くなったな。身長は縮んだか。しかも鍛えていた手足が細くなったし、何より胸がきつい……。爆発のせいで、腰まで伸びた後ろ髪を結んでいた紐が吹き飛んだのは予想外だったな。あっ、あっちに人がいる。ちょっと頼んでみるか」
オウカは近くにいた兵庫に近付き、声をかける。
「すまないが、髪を結ぶものを持っていないか?」
「んっ? おまえ、誰だ?」
「……オウカ・レンヴォルトだ。ここまで一緒に来ただろう?」
「あっああ、オウカか。ちょっと待ってな」
兵庫は懐から紐を取り出すと、自分よりも身長が高い美女となったオウカの髪を結ぶ。
「ほい、これで良いだろう」
「ありがとう」
「それにしても、おまえ、良い女になったな」
アハハと兵庫が軽く笑いながら言うと、オウカは目の前にいる『女性』をじっくり見た後に口を開く。
「兵庫もその……可愛いな」
その一言で、兵庫はピタッと止まった。
「……それは身長か? それとも顔付きのことか? 言っておくが、おまえが規格外なんだ!」
「ん? どこからか爆発音と共に叫び声が聞こえてくるな。問題のキノコを収穫するのは、いろんな意味で危険のようだ」
クスッと笑った後、メル・アイザックス(Ka0520)は楽しそうに鼻歌をうたいながら、背負ったカゴにキノコを入れた。
「キノコ狩りは秋らしくて良いな♪ しかし山をいくつも所有しているとは、流石名門貴族と名高いウィクトーリア家だ。後でお腹いっぱいキノコ料理を食べさせてもらおうっと♪」
首にかけているタオルで汗を拭きながら収穫し続けていたメルだが、あるキノコをむんずっと掴んだ途端、ボッフン! と爆発が起きる。
「ごほごほっ! あー、とうとう当たっちゃったか。どんな風になったんだろう?」
ウィクトーリア家から借りてきた手のひらサイズの鏡で自分の顔を見た瞬間、メルは悲鳴を上げた。
「うぎゃっ!? 年相応のオジさんになってる!」
身長と体格は変わっていないものの、実年齢に合った男へと変身している。
「しかも職人顔になっているし……。これじゃあ童話に出てくる小人だな」
顔付きが渋くなったメルだが、鏡をしまうといつもの明るい表情を浮かべた。
「まっ、丸一日の辛抱だ。どうにかなるさ♪」
メルの変身を近くで見ていたボルディア・コンフラムス(Ka0796)は、唖然と立ち尽くす。
何せボルディアはここへ来るまで、依頼を聞いても半信半疑だったのだ。
「ハッ! 性別が逆転するキノコなんて、喜劇の中だけにしてほしいもんだな」
と言っていたのだが、実際にその場面を見ると何も言えなくなる。
「……魔法ってホント、何でもアリなんだな。俺は戦闘能力は高いが、こういう調査能力はイマイチだから……」
恐る恐る足元に生えているキノコに触ると、ボッフン! と爆発が起こった。
「うおおっ! コレが男の体か! 胸板が厚くなり、腹筋が六つから八つに割れて、太ももも太くなったぜ! ふっ、やはり俺は男になってもたくましいままなんだな。力が溢れてくる気がするぜ! 今ならどんな敵だって、倒せるような気がする! よっしゃ、いっちょ暴れてみるか!」
背負っていたカゴを脱ぎ捨てて走り出そうとしたボルディアの後頭部に、ドカンッ! とキノコ入りのカゴが当たる。
「おがっ!?」
振り返ったボルディアの眼に映ったのは、迫力のある笑みを浮かべて立っているメルの姿だ。
「依頼をほったらかしにしてはいけないよ?」
「わっ分かった……」
カゴを背負い直したボルディアは、ふと女性を見かけると胸の高鳴りを感じた。
「……何だかこの姿になってから、女性を見るとドキドキしやがる。一体俺はどうなっちまったんだ?」
「今のボルディア君は『男』なんだから、『女』を見てときめくのは当たり前のことだよ」
メルは冷静に答え、ボルディアは納得したように深く頷く。
「なるほど。体の形が変われば、心も変わるんだな。なかなか貴重な経験だ」
「……ヤレヤレ。性別が逆転するよりも、山歩きの方が面倒だなぁ」
現場に到着したイーリアス(Ka2173)は疲れた顔で、キノコ狩りをはじめる。
「ボクは女性になっても特に気にしないし、女性の体ではしゃぐほど若くないしね。でもまあ他の参加者が変身する姿は、なかなか面白いけど」
至る所から爆発音と煙と悲鳴が上がり、イーリアスは仲間達が変身した姿を見て思わずふき出していた。
「若いコは大変だね」
しかし気を抜いていると、例のキノコに触ってしまった。
「けほけほっ。ふぅ……。まっ、ボクなら女性になっても、見苦しい姿にはなっていないだろうね」
女性化しても冷静なイーリアスは、ふとキノコをじっと見つめる。
「例のキノコは一度触れば性別が逆転するけど……、もう一度触れたら元の性別に戻らないかな?」
しかしその後、例のキノコは触ると爆発するだけで、性別は元に戻らなかった。
「やっぱりそう上手くはいかないか。とりあえずこのままキノコ狩りを続けて、後でキノコ料理を食べさせてもらおう」
あくまでも冷静なまま、イーリアスはキノコを収穫していく。
「ううっ……。胸が鎧に潰されて、苦しいです……」
Gacrux(Ka2726)は胸元を両手で押さえながら、木の影へ移動する。
キノコに触る時は注意するつもりであったが、背負っていたカゴが木の枝に引っかかって体勢が崩れてしまい、その時にうっかり例のキノコに触れてしまったのだ。
「Gacrux君、キミも女性化したの?」
木の影で蹲ったGacrux に声をかけたのは、休憩中のイーリアスだ。
「まっまさか! 冗談キツイですよ。俺が例のキノコに当たるワケないじゃないですか!」
Gacruxは強がって胸を張るも、鎧に胸元を圧迫されて息が詰まる。
「しっ心臓がっ……!」
「男性の体型にピッタリな鎧を身につけたままじゃあ、心臓に悪いよ」
イーリアスは肩を竦めながらGacruxに近付くと、鎧に触れた。
「なっ何を……」
「鎧を脱がすんだよ。ウィクトーリア家から念の為にと、女性用の服を預けられたよね? それに着替えるんだよ」
「やっやめっ……ひやぁああ!」
――数分後、鎧を脱がされた上に、女性用の服に着替えさせられたGacruxがそこにいた。
「へぇ。Gacrux君、なかなか色っぽい美女になったね。見違えたよ」
「妖艶な美女に言われたくないですよ……」
地面にへたり込んだGacruxは、普段の姿からは想像もできないほど乙女になった。
「性別が逆転する効果があるキノコなんて、魔法とは不思議なものね。まあ私の場合は既に、外見や性格上は逆転しているようなものだけど。……まあ今回の依頼の参加者の中には、私と似たような方が何人かいらっしゃるようだけどね」
揚羽・ノワール(Ka3235)はクスクスと笑いながら、女装した姿でキノコを収穫している。
「でもいざ女性の体になったら、どんな感じなのかしら? 実は楽しみなのよね」
余裕たっぷりな揚羽は、望み通り例のキノコに当たった。
「……やっぱり胸元が苦しいわね。腰が細くなった分、胸の重さが両肩にかかるのね。女性はこういうところで苦労をしているんだわ」
女性化しても動揺せず、揚羽は自分の肩を揉む。
「やっぱり女性っぽく振る舞うのと、本当の女性になるのとでは全く違うわね。改めて女性の気持ちが分かる気がするわ。まだまだ私は勉強不足だったようね」
揚羽は女性になっても身長や容姿にあまり変化はないが、やはり肉体的に大きな変化を感じ取っていた。
「ゆったりした服を着てこれば良かったわ。まあちょっと動きづらいけど、キノコ狩りを続けましょう。お料理が楽しみだしね。さて、他の参加者達はどうなったのかしら?」
とある場所で、二回続けてキノコが爆発する。
性別が男性から女性になったのはクローディオ・シャール(Ka0030)、女性から男性になったのはヴィルマ・ネーベル(Ka2549)。
「コレはなかなか……奇妙な感覚だな。……胸はこんなに膨らまなくてもよかったのに」
クローディオは自分の腕を掴んで細さに顔をしかめて、大きく膨らんだ胸元を見て大きなため息を漏らす。身長は変わらず、隣にいるヴィルマを見下ろせた。
「おおっ! 胸がペッターンになったのじゃ! 声は低くなったのじゃが……身長は変わらず、か」
ヴィルマは細身の青年に変身したが、身長は低いままだ。それでも隣にいるクローディオを見上げると、眼をキラキラと輝かせる。
「クローディオは女性になっても煌びやかじゃのぉ! こういう体験は滅多にできぬことじゃし、楽しいのぉ♪」
心底楽しそうなヴィルマを見て、クローディオは自分の胸が高鳴るのを感じた。
「ヴィルマもその……男性になっても素敵だ。スッキリした胸元も良いと思う」
クローディオは落ち着かなげにモジモジと照れながら、ヴィルマの胸元に視線を向けたりそらしたりを繰り返している。
そんなクローディオを見ているうちに、ヴィルマの口元が微妙に引きつった。
「何やら微妙な含みを感じるのじゃが……。まあクローディオが良いのなら、良いか。ならウィクトーリア家のキノコパーティに参加した後、街でデートでもしようかえ? 丸一日という時間があることじゃし、互いに今の体に合う服に着替えて、のぉ?」
ニヤニヤと笑いながら、ヴィルマはクローディオの腕に絡み付く。
「この姿で、か? 少し考えさせてくれ」
思わず困り顔で唸ったクローディオだが、ヴィルマはニコニコと満面の笑顔になっている。
「クローディオのような美しい女性のパートナーとして街を歩けば、我は男達の羨望の眼差しを受けるであろう。くくくっ……! 考えただけでも身が震えるほどおかしいのぉ」
「……ヴィルマのそういうところ、魔女っぽくって素敵だな」
クローディオは言葉とは裏腹に声は平坦だったものの、ヴィルマは満足そうにウィンクをした。
「このキノコこそ、私がずっと求めていたモノです!」
キノコを見て眼の色を変えたのは、八雲奏(Ka4074)だ。共に来た恋人の久延毘大二郎(Ka1771)から少し離れた場所で、勢いよくキノコを狩っていく。
「毘古ちゃんは普段ヘタレで奥手な可愛い方ですが、流石に少々物足りなくなってきました! なのでこのキノコでお互いの性別を逆転させて、今日は私から毘古ちゃんに迫るのです!」
そして願望が叶い、奏は男性化する。
「いよっし! 毘古ちゃん、私、男性になりました!」
「へっ? 奏、何が……って、うわああ!」
奏は飛んで大二郎に抱き着き、その体をキノコの上に押し倒す。するとキノコによる爆発が起こり、大二郎は女性化してしまった。
「ああっ……! 毘古ちゃんったら、メガネが似合う知的美女になって……! 女性になった毘古ちゃんも素敵だよ」
「……何だか無理やり変身させられた気も、しなくもないが……。奏もその……カッコイイ青年になったな」
「おっと。毘古ちゃんを押し倒してしまうなんて、私としたことが……。さっ、つかまって」
奏は大二郎をお姫様抱っこしながら、立ち上がる。
「きゃっ!? 奏、私は大丈夫だから、離してくれ!」
「断る。だってこうした方が、毘古ちゃんの美しい顔がよく見えるからね」
「まっまあお互いに性別が変わるなんて体験、滅多にないけど……って、顔が近いっ! 奏は視力、悪くないはずだろう?」
「このまま毘古ちゃんの姿を、眼に焼き付けたいんだ」
熱く囁きながら奏は唇を重ねようとしたが、後頭部にキノコを当てられて思わず大二郎を落としてしまった。
「あいたっ!」
「イタタ……。ああ、でも助かった……と言うべきか?」
奏は後頭部を、大二郎は腰を押さえながら、キノコが飛んできた方向に視線を向ける。
「いくら甘い仲とは言え、か弱き女性になった者に無理強いするのはどうかと思うのじゃが?」
「とりあえずTPOは考えた方が良いぞ? 近くに仲間達がいるんだしな」
キノコを投げてきたのは男性になったヴィルマ、隣には女性になったクローディオがいた。二人はたまたま奏と大二郎の近くにいたのだが、甘い空気に耐え切れなくなったようだ。
奏と大二郎は周囲に仲間達がいることを改めて知り、紅葉よりも真っ赤な顔になる。
しかし大二郎はチラッと奏の横顔を見た後、こっそりため息を吐く。
「でもちょっとだけ……勿体無かったかも、な」
そんな二人を、少し離れた場所から見ていたアリオーシュ・アルセイデス(Ka3164)は微笑んだ。
「何とも初々しい二人だ。性別が逆転しても体に害はなさそうだし、運試しも含めて俺達もキノコ狩りを楽しもうか」
「いや、いろいろと危険な感じがする」
一緒に来ているアーテル・テネブラエ(Ka3693)は仲間達の性別逆転後の姿を見て、顔色を変える。そして突然アリオーシュの手を握り、体の向きを変えた。
「特に俺の理性が……あっ、いやいや。とにかくここから離れ……うわぁ!」
「わわっ!」
しかし二人は同時に体勢を崩してしまい、キノコの上に倒れる。そして、二回続けて起きる爆発。
「アハッ、どうやら当たったみたいだ」
煙の中から先に上半身を起こしたのは、アリオーシュだった。揺れる胸を感じて、服の前をくつろげて胸元を覗き込む。
「イテテ……。アリオーシュ、いきなり引っ張ってすまな……って、コラっ! 何をしているんだ!」
膨らんだ自分の胸元を熱心に見つめているアリオーシュを見ていられず、思わずアーテルは顔をそむけた。
「……ああ、でもやはりアリオーシュは女性になっても美しい。はあ……。せめてどちらかがキノコに当たらなければ、結婚を申し込むことができたのに……。運命とは残酷なものだ……って、アリオーシュ! 背後から俺の胸を揉むなぁ!」
「う~ん、やっぱりきみの方が俺より胸が大きいみたいだ。同じ魔法のキノコで変身したとはいえ、胸のサイズが同じってワケじゃないんだね。研究しがいのあるキノコだなぁ。そもそも恥ずかしがらなくても今はお互い女性なんだし、良いだろう?」
「こっちはイロイロと我慢しているんだ! だから責任をとって、俺と結婚してくれ!」
顔を真っ赤にしながら必死に叫んだアーテルを見て、ようやくアリオーシュは手を離す。
「アーテルが本当の女性になったら、考えないでもないよ? でも今はハンターとして、依頼を全うしようか。パーティでは俺がワインに合うキノコソテーを作るから、一緒に食べよう」
「へっ? あっああ、そうだな」
上手くはぐらかされてしまったアーテルだが、アリオーシュの手作り料理を楽しみに、キノコ狩りをはじめるのだった。
「キノコ狩りが楽しめて、キノコ料理をたらふく食える! こんな良い依頼、滅多にないな!」
「はい! キノコ、楽しみです♪」
キノコの群生地を見て眼をキラキラさせているのは、ミリア・コーネリウス(Ka1287)とアルマ・アニムス(Ka4901)だ。
「まあ性別が逆転するキノコに当たっても、アルマなら美女になるだろうな。僕は男性化することに特に抵抗はないし、バンバン収穫しよう! アルマ、遅れるなよ!」
「ええ、どこまでもついて行きます!」
大きなカゴを背負った二人は、キノコ目がけて一気に駆け出す。
片っ端からキノコに触ってはカゴに入れていくが、しばらく経つと爆発が二回続けて起きた。
「げほげほっ! いっ意外と強い爆発だったな……って、おおっ!? 胸から重りがなくなった! ほお、なかなか良い胸板と割れた腹筋だな。今なら何だってできるような気がする!」
「ごほごほっ。……きゃいんっ! むっ胸が苦しいです! それに腰が細くなったせいで服がっ……!」
二人とも体型が変わってしまったので、一時離れてウィクトーリア家から持たされた服に着替える。
女性用の服に着替え終えたアルマは、男性用の服に着替えたミリアを見て、嬉しそうに眼を細めた。
「何だかミリアさん、頼りがいのあるおにーちゃんになりましたねぇ」
「アルマは美人になったな。想像していた通りだ」
「はっ!? しかしこの姿では僕、お婿に行けなくないですか?」
「婿がダメなら、嫁になったら良いんじゃねぇか?」
「あっ! それは思い付かなかったです!」
表情をコロコロと変えるアルマを見ているのは飽きないが、それでもミリアはため息を吐いて真面目な顔になる。
「もっとも魔法は丸一日で切れるらしいけどな」
「おおっ! それもそうでした。なら今日はウィクトーリア家に泊まらせていただきましょう。流石にこの姿で外をうろつきたくないです」
イロイロと天然なアルマだが、ミリアはニヤッと笑うとその手を握った。
「そんじゃあキノコ狩りを再開しようぜ! 性別が変わったんなら、もう怖いもんなんてないしな!」
「はい! たっくさん採りましょうね!」
「性別が逆転するキノコ――ねぇ。ふっ、性別なんてどっちでもいいじゃない。些細な問題よ」
キノコを収穫しながら、十色エニア(Ka0370)は悟った表情を浮かべている。
「エニアはそう言うわりには、スキルのウィンドガストで回避力を上昇させているよね?」
「しかも武器のジエロダガーと鉄扇を使って、キノコを採ろうとしていたよね?」
少々呆れ顔をしているのは、時音ざくろ(Ka1250)と樹導鈴蘭(Ka2851)だ。
指摘されたエニアは、気まずい顔になる。
「二人に『周囲に危険が及ぶから止めて!』って言われたから、武器は使うのを止めたじゃない。それに鈴蘭さんだって、トングを使おうとしていたわよね?」
「うっ! だってまさか『性別が逆転するのを覚悟で、キノコには素手で触る』なんて条件、本気とは思わなかったんだよ!」
「……まっ、ざくろ達の場合、性別が変わっても見た目的には変わらないのかもしれないけど」
三人とも性別は男であったが、女に見間違われる容姿をしていることは各々自覚していた。
なのでその後は、何となく無言でキノコを採り続ける。
しばらく経過しても何も起こらないので、ついざくろは気を緩めてしまう。
「でも問題のキノコには当たり・ハズレがあるようだし、そうそう当たるとは……」
と言いつつ触ったキノコが突然、爆発したのだ。
「ぶはっ!? ……うわぁ! ざくろの胸に二つの膨らみがっ……! って、大事な所に大事なモノがなーいっ!」
女性化したざくろはパニックになり、右往左往する。しかも走った先にはまだ男性の体のエニアと鈴蘭がいたが、ざくろはそのまま突っ込んで行く。
「ちょっ……ざくろさん! 落ち着いて!」
「こっちに来ないでぇ! ひゃーっ!」
そしてざくろはエニアと鈴蘭を巻き込みながら地面へ倒れ込み、二回続けてキノコ爆発が起きた。
「……アレ? ざくろの顔に何かあたたかくて柔らかいものが……、それに左手が何か掴んでいる?」
「そりゃあわたしの胸の間に、顔を埋めているからね」
「しかも左手は、ボクの胸をわしづかみにしているんだよ……」
「へっ? はわわっ! ゴメンッ、事故だから!」
ざくろは慌てて、エニアと鈴蘭の上からどく。
どうやら暴走したざくろは二人に飛びつく形で倒れてしまい、エニアと鈴蘭は緩衝材代わりになったようだ。
二人は大きくため息を吐きながら、立ち上がる。
「はあ……。性別が逆転しても気にしないけど、敏感体質だからざくろさんに触られたことの方が衝撃が大きいわ」
エニアはざくろに触られたところを手でこすり、鈴蘭は二人の顔を見比べて首を傾げる。
「ざくろさんもエニアさんも、容姿的には変わらないんだね。ボクはどうかな?」
「鈴蘭は本物の女の子になって、可愛さがアップしたよ♪」
「体のデコボコが逆になっても、外見はそんなに変わらないわよ」
三人とも確かに肉体的には女性化したものの、見た目には変わりはない。
「ボクはとりあえず、二人から離れるね。ざくろさんは意外なことを結構やらかすし、エニアさんも何をするか分からないから」
「ええっー! 鈴蘭、ヒドイよぉ! エニアもそう思うよね?」
「鈴蘭さんの場合は、こっちのセリフよ。ざくろさんはまた触ってきたら、次は容赦なく突き放すからね。パーティが終わったら、家に真っ直ぐ帰ろうっと。その方が安全だわ」
「ううっ……! せっかく一緒に来たのに、この距離感は何なの?」
ざくろは涙目になるものの、二人はあくまでも冷静だ。
――こうして三人は一定の距離を保ちながら、キノコ狩りを再開した。
一方で三人のオカマハンターはキノコを見て、大はしゃぎしている。
「きゃあん♪ 見てぇ、キノコがこぉんなにたっくさん! ヤダもー、恥ずかしいわ!」
悶えているのは日浦・知々田・雄拝(Ka2796)。
「ちぃちゃんったら、まだ明るいうちからやぁねぇ」
言葉とは裏腹に、浮かれているのはNon=Bee(Ka1604)。
「美味しそうなキノコね♪ ……アラ、私もやーらしいかしら?」
笑みの形になる口元を手で覆っているのは、ロス・バーミリオン(Ka4718)。
ひとしきりキノコの感想を言い合った後、ふとNonは何かを思い出したかのように両手をポンッと叩く。
「そういえば、まだロゼちゃんにちぃちゃんのことを紹介していなかったわね。あのね、ロゼちゃん。このコはあたしの大親友の日浦・知々田・雄拝ちゃん、『ちぃちゃん』は愛称ね。とってもキレイなコなんだけど……、人見知りするのよ」
少しだけ苦く笑うNonの背後に、いつの間にか雄拝は移動していた。
「よっよろしく……」
恥ずかしそうに視線をそらしながら、雄拝は軽く頭を下げる。
「照れ屋なところがあるけれど、慣れると親しみやすくて良い子なのよ。仲良くしてあげてね?」
「もっちろん! 日浦ちゃん、はじめまして。私はロス・バーミリオンという名前で、愛称はロゼ。お互い、愛称で呼び合いましょうか?」
「うっうん……」
そろそろとNonの背後から出てきた雄拝を見て、二人は安堵のため息を吐く。
しかしロスは周囲を見回すと、眉間にシワを寄せた。
「でも私、病気の菌に対しては知識があるんだけど、キノコの菌に対しては詳しくないのよね。とりあえず性別が逆転するのを覚悟で、片っ端からキノコを採っていくしかないわね」
「キノコ料理は何を作ろうかしら? この季節だとお鍋も良いし、バター焼きも美味しいわよね。Nonちゃんはどんな料理が良い?」
「あたしはちぃちゃんのお料理なら、何でも好きよ。あっ、そうそう。あたし、キノコ料理に合うお酒を持ってきて、ウィクトーリア家に置いてきたのよ。後で三人で飲みましょうよ♪」
と、すでにパーティのことで話題が盛り上がっていたものの、三人はほぼ同時に魔法のキノコに触ってしまう。
「ゲホゲホッ! ったく……、とんだ爆発キノコだな。とりあえず目線は下がっていないから、身長に影響は無し……っと。でもまあ膨らんだ胸は苦しいな」
キリッとした顔付きになり、女性化した雄拝は胸を押さえてうんざりする。
「おっと、いけない。Non、それとロゼ、無事か?」
大きな胸を揺らしながら体勢を整えたNonもまた、しっかりした表情を浮かべていた。
「おう、大丈夫だぜ。ロゼはどうだ? 体は平気か?」
「ああ。ちなみに今の俺は、名前の方の『ロス』と呼んでくれ。……しかし『性別が逆転する』と言うのはこの場合、性格もそうなるのか」
ロスは改めて魔法の神秘を知り、複雑な表情になる。
「しかし丸一日『こう』とは、な。頭痛がしてくるぜ」
「まあまあ。気楽にやろうぜ、ロス。他の参加者達だって同じ目に合っているんだし、今日はこのままキノコ狩りとパーティを楽しめば良いだけの話さ。体が女になったところで、酒の美味さは変わらないだろう? なあ、ちぃ」
余裕たっぷりに雄拝の頭を撫でるNon。雄拝はロスを安心させる為に、微笑んで見せた。
「Nonの言う通りだ。せっかく知り合いになったことだし、今日はこのまま語り合おう」
「……だな。ジタバタしてもしょうがねーし、とりあえずこの状態を楽しむことにするか」
そしてイケメン女性三人組は、依頼を続けることにする。
「男の体になっても、日課の修練は欠かさずにやらないと。……でもやはり、少しは違和感はあるな」
男性化したアイビス・グラス(Ka2477)はつい数時間前は、女性であった。
「性別が逆転するキノコなんて、つくづく魔法って不思議なものね」
半分呆れ、半分感心しながらキノコ狩りをしていた途中で、魔法のキノコに当たってしまったのだ。それでも動じることなくウィクトーリア家から預かった男性用の服に着替えて、キノコ狩りを続けた。
そして一通りキノコ狩りを終えると、仲間達と共にウィクトーリア家へ移動したのだ。
全員、山でキノコ狩りをしてきたので、土だらけになっている。風呂の準備が整うまで少し時間がかかると使用人から言われた為、アイビスは庭で修練をすることにした。
そこへアイビスと同じく、今日はウィクトーリア家に泊まる予定であるエリス・カルディコット(Ka2572)が歩いて来る。
「ふう……。せっかく動きやすい服装で参加したのに、やっぱり女性化すると胸パットは苦しくなるものなんですね」
呟くエリスは普段から訳あって女装をしているので、膨らんだ胸に苦しんだ。なので木陰でパットを外して、今は服のポケットに入れている。
「しかし依頼後も修練をしている方がいらっしゃるとは、恐れ入ります。私も少しは見習わないといけませんね」
屋敷の窓からアイビスが修練をしている姿を見つけたので、差し入れにタオルとウィクトーリア家特製の疲労回復のお茶を入れたグラスを持ってきた。
「あの、お疲れさまです。よろしければ、コレをどうぞ。飲み物はフェイトさんが淹れてくださった疲労回復のお茶です」
「んっ? ああ、ご親切にありがとうございます」
振り返ったエリスは軽く頭を下げながら、差し入れを受け取る。
だがアイビスのイケメンっぷりに眼を奪われたエリスは、その場で固まってしまう。
「あの……?」
「はっ!? しっ失礼しました!」
我に返ったエリスは、クルッと振り返るとそのまま走り去った。
「……もしかして汗臭かったかな? 初対面の女性に対して、少し失礼だったかもしれない。パーティがはじまる前に、風呂を借りよう」
――お互いに初対面だった為に、二人とも相手の本当の性別に気付いていなかった。
「ったく……。触ると爆発するとは、とんでもないキノコだったな。しかしものの見事にボインッ・キュッ・ボンッのナイスバディになったぜ。……ハッ! それなら……!」
豊満な美女へと変身した紫月・海斗(Ka0788)は中身は男のまま、ろくでもないことを思い付く。
「俺は今現在、女だからもちろん女風呂に入る。つまり堂々と女風呂に入れる、人生に一度しかないかもしれない大チャーンスっ!」
眼をギラギラと輝かせながら、海斗は大人数が入れる大浴場へと向かう。
「このチャンスを逃してたまるか!」
そして女性用の脱衣所に到着すると、すでに何人かは大浴場へ入っているようで、明るく楽しげな女性達の話し声が聞こえてくる。
「よしっ! これなら大丈夫だ!」
海斗はすぐに服を脱ぎ捨てて、大浴場へ続く引き戸を大きく開いた。
「お嬢さん達、お邪魔するぜっ……って、アレ?」
しかしそこにいたのは、見知った元・男仲間達の顔ばかり。
「……あっ、そっか。今は女イコール元・男になるんだった……」
ある意味天国でもあり、地獄でもあるバスタイムがはじまる――。
ハンター達は全員性別が逆転したものの、ある者は楽しみ、ある者は悩み、その反応は様々であった。
【終わり】
榊兵庫(ka0010)は大きなカゴを背負いながら、仲間達と共に問題の山へ訪れた。
「性別が逆転するキノコとは、な。魔法というのは何でもアリだな。しかしそんな危険なキノコが世の中に出たら大変なことになるから、速やかに収穫することにしよう」
そして問題のキノコが大量に生えている場所へ到着すると、兵庫は僅かに緊張した面持ちでキノコへ向かって手を伸ばす。
「さて、どうなることやら」
近くに生えているキノコに触れた途端、ボッフン! と白い煙が発生して、兵庫の身を包む。
「げほっ、ごほっ! ばっ爆発するとは、これはまた……」
むせている間に煙が引いて、女性へと変身した兵庫がそこに現れた。
兵庫の身長はやや縮んだものの、胸はかなりの大きさに膨らんでいる。腰が細くなったせいで、着物がズルッと落ちた。
「こういう時、和服だと体型に合わせやすいから楽だな。しかしこの胸の重さと大きさに慣れるまでには、時間がかかりそうだ」
少しだけうんざりした表情を浮かべながらも兵庫は腰の紐を結び直して、キノコの収穫を再開する。
「まっ、こういう経験もハンターならではだ。良い土産話になるな」
「……ケホッ。予想以上に激しい爆発だったな」
オウカ・レンヴォルト(Ka0301)は手で煙を払いのけて、顔をしかめる。そして女性化した自分の体を見回して、「ふむ」と頷く。
「声は女性らしく、高くなったな。身長は縮んだか。しかも鍛えていた手足が細くなったし、何より胸がきつい……。爆発のせいで、腰まで伸びた後ろ髪を結んでいた紐が吹き飛んだのは予想外だったな。あっ、あっちに人がいる。ちょっと頼んでみるか」
オウカは近くにいた兵庫に近付き、声をかける。
「すまないが、髪を結ぶものを持っていないか?」
「んっ? おまえ、誰だ?」
「……オウカ・レンヴォルトだ。ここまで一緒に来ただろう?」
「あっああ、オウカか。ちょっと待ってな」
兵庫は懐から紐を取り出すと、自分よりも身長が高い美女となったオウカの髪を結ぶ。
「ほい、これで良いだろう」
「ありがとう」
「それにしても、おまえ、良い女になったな」
アハハと兵庫が軽く笑いながら言うと、オウカは目の前にいる『女性』をじっくり見た後に口を開く。
「兵庫もその……可愛いな」
その一言で、兵庫はピタッと止まった。
「……それは身長か? それとも顔付きのことか? 言っておくが、おまえが規格外なんだ!」
「ん? どこからか爆発音と共に叫び声が聞こえてくるな。問題のキノコを収穫するのは、いろんな意味で危険のようだ」
クスッと笑った後、メル・アイザックス(Ka0520)は楽しそうに鼻歌をうたいながら、背負ったカゴにキノコを入れた。
「キノコ狩りは秋らしくて良いな♪ しかし山をいくつも所有しているとは、流石名門貴族と名高いウィクトーリア家だ。後でお腹いっぱいキノコ料理を食べさせてもらおうっと♪」
首にかけているタオルで汗を拭きながら収穫し続けていたメルだが、あるキノコをむんずっと掴んだ途端、ボッフン! と爆発が起きる。
「ごほごほっ! あー、とうとう当たっちゃったか。どんな風になったんだろう?」
ウィクトーリア家から借りてきた手のひらサイズの鏡で自分の顔を見た瞬間、メルは悲鳴を上げた。
「うぎゃっ!? 年相応のオジさんになってる!」
身長と体格は変わっていないものの、実年齢に合った男へと変身している。
「しかも職人顔になっているし……。これじゃあ童話に出てくる小人だな」
顔付きが渋くなったメルだが、鏡をしまうといつもの明るい表情を浮かべた。
「まっ、丸一日の辛抱だ。どうにかなるさ♪」
メルの変身を近くで見ていたボルディア・コンフラムス(Ka0796)は、唖然と立ち尽くす。
何せボルディアはここへ来るまで、依頼を聞いても半信半疑だったのだ。
「ハッ! 性別が逆転するキノコなんて、喜劇の中だけにしてほしいもんだな」
と言っていたのだが、実際にその場面を見ると何も言えなくなる。
「……魔法ってホント、何でもアリなんだな。俺は戦闘能力は高いが、こういう調査能力はイマイチだから……」
恐る恐る足元に生えているキノコに触ると、ボッフン! と爆発が起こった。
「うおおっ! コレが男の体か! 胸板が厚くなり、腹筋が六つから八つに割れて、太ももも太くなったぜ! ふっ、やはり俺は男になってもたくましいままなんだな。力が溢れてくる気がするぜ! 今ならどんな敵だって、倒せるような気がする! よっしゃ、いっちょ暴れてみるか!」
背負っていたカゴを脱ぎ捨てて走り出そうとしたボルディアの後頭部に、ドカンッ! とキノコ入りのカゴが当たる。
「おがっ!?」
振り返ったボルディアの眼に映ったのは、迫力のある笑みを浮かべて立っているメルの姿だ。
「依頼をほったらかしにしてはいけないよ?」
「わっ分かった……」
カゴを背負い直したボルディアは、ふと女性を見かけると胸の高鳴りを感じた。
「……何だかこの姿になってから、女性を見るとドキドキしやがる。一体俺はどうなっちまったんだ?」
「今のボルディア君は『男』なんだから、『女』を見てときめくのは当たり前のことだよ」
メルは冷静に答え、ボルディアは納得したように深く頷く。
「なるほど。体の形が変われば、心も変わるんだな。なかなか貴重な経験だ」
「……ヤレヤレ。性別が逆転するよりも、山歩きの方が面倒だなぁ」
現場に到着したイーリアス(Ka2173)は疲れた顔で、キノコ狩りをはじめる。
「ボクは女性になっても特に気にしないし、女性の体ではしゃぐほど若くないしね。でもまあ他の参加者が変身する姿は、なかなか面白いけど」
至る所から爆発音と煙と悲鳴が上がり、イーリアスは仲間達が変身した姿を見て思わずふき出していた。
「若いコは大変だね」
しかし気を抜いていると、例のキノコに触ってしまった。
「けほけほっ。ふぅ……。まっ、ボクなら女性になっても、見苦しい姿にはなっていないだろうね」
女性化しても冷静なイーリアスは、ふとキノコをじっと見つめる。
「例のキノコは一度触れば性別が逆転するけど……、もう一度触れたら元の性別に戻らないかな?」
しかしその後、例のキノコは触ると爆発するだけで、性別は元に戻らなかった。
「やっぱりそう上手くはいかないか。とりあえずこのままキノコ狩りを続けて、後でキノコ料理を食べさせてもらおう」
あくまでも冷静なまま、イーリアスはキノコを収穫していく。
「ううっ……。胸が鎧に潰されて、苦しいです……」
Gacrux(Ka2726)は胸元を両手で押さえながら、木の影へ移動する。
キノコに触る時は注意するつもりであったが、背負っていたカゴが木の枝に引っかかって体勢が崩れてしまい、その時にうっかり例のキノコに触れてしまったのだ。
「Gacrux君、キミも女性化したの?」
木の影で蹲ったGacrux に声をかけたのは、休憩中のイーリアスだ。
「まっまさか! 冗談キツイですよ。俺が例のキノコに当たるワケないじゃないですか!」
Gacruxは強がって胸を張るも、鎧に胸元を圧迫されて息が詰まる。
「しっ心臓がっ……!」
「男性の体型にピッタリな鎧を身につけたままじゃあ、心臓に悪いよ」
イーリアスは肩を竦めながらGacruxに近付くと、鎧に触れた。
「なっ何を……」
「鎧を脱がすんだよ。ウィクトーリア家から念の為にと、女性用の服を預けられたよね? それに着替えるんだよ」
「やっやめっ……ひやぁああ!」
――数分後、鎧を脱がされた上に、女性用の服に着替えさせられたGacruxがそこにいた。
「へぇ。Gacrux君、なかなか色っぽい美女になったね。見違えたよ」
「妖艶な美女に言われたくないですよ……」
地面にへたり込んだGacruxは、普段の姿からは想像もできないほど乙女になった。
「性別が逆転する効果があるキノコなんて、魔法とは不思議なものね。まあ私の場合は既に、外見や性格上は逆転しているようなものだけど。……まあ今回の依頼の参加者の中には、私と似たような方が何人かいらっしゃるようだけどね」
揚羽・ノワール(Ka3235)はクスクスと笑いながら、女装した姿でキノコを収穫している。
「でもいざ女性の体になったら、どんな感じなのかしら? 実は楽しみなのよね」
余裕たっぷりな揚羽は、望み通り例のキノコに当たった。
「……やっぱり胸元が苦しいわね。腰が細くなった分、胸の重さが両肩にかかるのね。女性はこういうところで苦労をしているんだわ」
女性化しても動揺せず、揚羽は自分の肩を揉む。
「やっぱり女性っぽく振る舞うのと、本当の女性になるのとでは全く違うわね。改めて女性の気持ちが分かる気がするわ。まだまだ私は勉強不足だったようね」
揚羽は女性になっても身長や容姿にあまり変化はないが、やはり肉体的に大きな変化を感じ取っていた。
「ゆったりした服を着てこれば良かったわ。まあちょっと動きづらいけど、キノコ狩りを続けましょう。お料理が楽しみだしね。さて、他の参加者達はどうなったのかしら?」
とある場所で、二回続けてキノコが爆発する。
性別が男性から女性になったのはクローディオ・シャール(Ka0030)、女性から男性になったのはヴィルマ・ネーベル(Ka2549)。
「コレはなかなか……奇妙な感覚だな。……胸はこんなに膨らまなくてもよかったのに」
クローディオは自分の腕を掴んで細さに顔をしかめて、大きく膨らんだ胸元を見て大きなため息を漏らす。身長は変わらず、隣にいるヴィルマを見下ろせた。
「おおっ! 胸がペッターンになったのじゃ! 声は低くなったのじゃが……身長は変わらず、か」
ヴィルマは細身の青年に変身したが、身長は低いままだ。それでも隣にいるクローディオを見上げると、眼をキラキラと輝かせる。
「クローディオは女性になっても煌びやかじゃのぉ! こういう体験は滅多にできぬことじゃし、楽しいのぉ♪」
心底楽しそうなヴィルマを見て、クローディオは自分の胸が高鳴るのを感じた。
「ヴィルマもその……男性になっても素敵だ。スッキリした胸元も良いと思う」
クローディオは落ち着かなげにモジモジと照れながら、ヴィルマの胸元に視線を向けたりそらしたりを繰り返している。
そんなクローディオを見ているうちに、ヴィルマの口元が微妙に引きつった。
「何やら微妙な含みを感じるのじゃが……。まあクローディオが良いのなら、良いか。ならウィクトーリア家のキノコパーティに参加した後、街でデートでもしようかえ? 丸一日という時間があることじゃし、互いに今の体に合う服に着替えて、のぉ?」
ニヤニヤと笑いながら、ヴィルマはクローディオの腕に絡み付く。
「この姿で、か? 少し考えさせてくれ」
思わず困り顔で唸ったクローディオだが、ヴィルマはニコニコと満面の笑顔になっている。
「クローディオのような美しい女性のパートナーとして街を歩けば、我は男達の羨望の眼差しを受けるであろう。くくくっ……! 考えただけでも身が震えるほどおかしいのぉ」
「……ヴィルマのそういうところ、魔女っぽくって素敵だな」
クローディオは言葉とは裏腹に声は平坦だったものの、ヴィルマは満足そうにウィンクをした。
「このキノコこそ、私がずっと求めていたモノです!」
キノコを見て眼の色を変えたのは、八雲奏(Ka4074)だ。共に来た恋人の久延毘大二郎(Ka1771)から少し離れた場所で、勢いよくキノコを狩っていく。
「毘古ちゃんは普段ヘタレで奥手な可愛い方ですが、流石に少々物足りなくなってきました! なのでこのキノコでお互いの性別を逆転させて、今日は私から毘古ちゃんに迫るのです!」
そして願望が叶い、奏は男性化する。
「いよっし! 毘古ちゃん、私、男性になりました!」
「へっ? 奏、何が……って、うわああ!」
奏は飛んで大二郎に抱き着き、その体をキノコの上に押し倒す。するとキノコによる爆発が起こり、大二郎は女性化してしまった。
「ああっ……! 毘古ちゃんったら、メガネが似合う知的美女になって……! 女性になった毘古ちゃんも素敵だよ」
「……何だか無理やり変身させられた気も、しなくもないが……。奏もその……カッコイイ青年になったな」
「おっと。毘古ちゃんを押し倒してしまうなんて、私としたことが……。さっ、つかまって」
奏は大二郎をお姫様抱っこしながら、立ち上がる。
「きゃっ!? 奏、私は大丈夫だから、離してくれ!」
「断る。だってこうした方が、毘古ちゃんの美しい顔がよく見えるからね」
「まっまあお互いに性別が変わるなんて体験、滅多にないけど……って、顔が近いっ! 奏は視力、悪くないはずだろう?」
「このまま毘古ちゃんの姿を、眼に焼き付けたいんだ」
熱く囁きながら奏は唇を重ねようとしたが、後頭部にキノコを当てられて思わず大二郎を落としてしまった。
「あいたっ!」
「イタタ……。ああ、でも助かった……と言うべきか?」
奏は後頭部を、大二郎は腰を押さえながら、キノコが飛んできた方向に視線を向ける。
「いくら甘い仲とは言え、か弱き女性になった者に無理強いするのはどうかと思うのじゃが?」
「とりあえずTPOは考えた方が良いぞ? 近くに仲間達がいるんだしな」
キノコを投げてきたのは男性になったヴィルマ、隣には女性になったクローディオがいた。二人はたまたま奏と大二郎の近くにいたのだが、甘い空気に耐え切れなくなったようだ。
奏と大二郎は周囲に仲間達がいることを改めて知り、紅葉よりも真っ赤な顔になる。
しかし大二郎はチラッと奏の横顔を見た後、こっそりため息を吐く。
「でもちょっとだけ……勿体無かったかも、な」
そんな二人を、少し離れた場所から見ていたアリオーシュ・アルセイデス(Ka3164)は微笑んだ。
「何とも初々しい二人だ。性別が逆転しても体に害はなさそうだし、運試しも含めて俺達もキノコ狩りを楽しもうか」
「いや、いろいろと危険な感じがする」
一緒に来ているアーテル・テネブラエ(Ka3693)は仲間達の性別逆転後の姿を見て、顔色を変える。そして突然アリオーシュの手を握り、体の向きを変えた。
「特に俺の理性が……あっ、いやいや。とにかくここから離れ……うわぁ!」
「わわっ!」
しかし二人は同時に体勢を崩してしまい、キノコの上に倒れる。そして、二回続けて起きる爆発。
「アハッ、どうやら当たったみたいだ」
煙の中から先に上半身を起こしたのは、アリオーシュだった。揺れる胸を感じて、服の前をくつろげて胸元を覗き込む。
「イテテ……。アリオーシュ、いきなり引っ張ってすまな……って、コラっ! 何をしているんだ!」
膨らんだ自分の胸元を熱心に見つめているアリオーシュを見ていられず、思わずアーテルは顔をそむけた。
「……ああ、でもやはりアリオーシュは女性になっても美しい。はあ……。せめてどちらかがキノコに当たらなければ、結婚を申し込むことができたのに……。運命とは残酷なものだ……って、アリオーシュ! 背後から俺の胸を揉むなぁ!」
「う~ん、やっぱりきみの方が俺より胸が大きいみたいだ。同じ魔法のキノコで変身したとはいえ、胸のサイズが同じってワケじゃないんだね。研究しがいのあるキノコだなぁ。そもそも恥ずかしがらなくても今はお互い女性なんだし、良いだろう?」
「こっちはイロイロと我慢しているんだ! だから責任をとって、俺と結婚してくれ!」
顔を真っ赤にしながら必死に叫んだアーテルを見て、ようやくアリオーシュは手を離す。
「アーテルが本当の女性になったら、考えないでもないよ? でも今はハンターとして、依頼を全うしようか。パーティでは俺がワインに合うキノコソテーを作るから、一緒に食べよう」
「へっ? あっああ、そうだな」
上手くはぐらかされてしまったアーテルだが、アリオーシュの手作り料理を楽しみに、キノコ狩りをはじめるのだった。
「キノコ狩りが楽しめて、キノコ料理をたらふく食える! こんな良い依頼、滅多にないな!」
「はい! キノコ、楽しみです♪」
キノコの群生地を見て眼をキラキラさせているのは、ミリア・コーネリウス(Ka1287)とアルマ・アニムス(Ka4901)だ。
「まあ性別が逆転するキノコに当たっても、アルマなら美女になるだろうな。僕は男性化することに特に抵抗はないし、バンバン収穫しよう! アルマ、遅れるなよ!」
「ええ、どこまでもついて行きます!」
大きなカゴを背負った二人は、キノコ目がけて一気に駆け出す。
片っ端からキノコに触ってはカゴに入れていくが、しばらく経つと爆発が二回続けて起きた。
「げほげほっ! いっ意外と強い爆発だったな……って、おおっ!? 胸から重りがなくなった! ほお、なかなか良い胸板と割れた腹筋だな。今なら何だってできるような気がする!」
「ごほごほっ。……きゃいんっ! むっ胸が苦しいです! それに腰が細くなったせいで服がっ……!」
二人とも体型が変わってしまったので、一時離れてウィクトーリア家から持たされた服に着替える。
女性用の服に着替え終えたアルマは、男性用の服に着替えたミリアを見て、嬉しそうに眼を細めた。
「何だかミリアさん、頼りがいのあるおにーちゃんになりましたねぇ」
「アルマは美人になったな。想像していた通りだ」
「はっ!? しかしこの姿では僕、お婿に行けなくないですか?」
「婿がダメなら、嫁になったら良いんじゃねぇか?」
「あっ! それは思い付かなかったです!」
表情をコロコロと変えるアルマを見ているのは飽きないが、それでもミリアはため息を吐いて真面目な顔になる。
「もっとも魔法は丸一日で切れるらしいけどな」
「おおっ! それもそうでした。なら今日はウィクトーリア家に泊まらせていただきましょう。流石にこの姿で外をうろつきたくないです」
イロイロと天然なアルマだが、ミリアはニヤッと笑うとその手を握った。
「そんじゃあキノコ狩りを再開しようぜ! 性別が変わったんなら、もう怖いもんなんてないしな!」
「はい! たっくさん採りましょうね!」
「性別が逆転するキノコ――ねぇ。ふっ、性別なんてどっちでもいいじゃない。些細な問題よ」
キノコを収穫しながら、十色エニア(Ka0370)は悟った表情を浮かべている。
「エニアはそう言うわりには、スキルのウィンドガストで回避力を上昇させているよね?」
「しかも武器のジエロダガーと鉄扇を使って、キノコを採ろうとしていたよね?」
少々呆れ顔をしているのは、時音ざくろ(Ka1250)と樹導鈴蘭(Ka2851)だ。
指摘されたエニアは、気まずい顔になる。
「二人に『周囲に危険が及ぶから止めて!』って言われたから、武器は使うのを止めたじゃない。それに鈴蘭さんだって、トングを使おうとしていたわよね?」
「うっ! だってまさか『性別が逆転するのを覚悟で、キノコには素手で触る』なんて条件、本気とは思わなかったんだよ!」
「……まっ、ざくろ達の場合、性別が変わっても見た目的には変わらないのかもしれないけど」
三人とも性別は男であったが、女に見間違われる容姿をしていることは各々自覚していた。
なのでその後は、何となく無言でキノコを採り続ける。
しばらく経過しても何も起こらないので、ついざくろは気を緩めてしまう。
「でも問題のキノコには当たり・ハズレがあるようだし、そうそう当たるとは……」
と言いつつ触ったキノコが突然、爆発したのだ。
「ぶはっ!? ……うわぁ! ざくろの胸に二つの膨らみがっ……! って、大事な所に大事なモノがなーいっ!」
女性化したざくろはパニックになり、右往左往する。しかも走った先にはまだ男性の体のエニアと鈴蘭がいたが、ざくろはそのまま突っ込んで行く。
「ちょっ……ざくろさん! 落ち着いて!」
「こっちに来ないでぇ! ひゃーっ!」
そしてざくろはエニアと鈴蘭を巻き込みながら地面へ倒れ込み、二回続けてキノコ爆発が起きた。
「……アレ? ざくろの顔に何かあたたかくて柔らかいものが……、それに左手が何か掴んでいる?」
「そりゃあわたしの胸の間に、顔を埋めているからね」
「しかも左手は、ボクの胸をわしづかみにしているんだよ……」
「へっ? はわわっ! ゴメンッ、事故だから!」
ざくろは慌てて、エニアと鈴蘭の上からどく。
どうやら暴走したざくろは二人に飛びつく形で倒れてしまい、エニアと鈴蘭は緩衝材代わりになったようだ。
二人は大きくため息を吐きながら、立ち上がる。
「はあ……。性別が逆転しても気にしないけど、敏感体質だからざくろさんに触られたことの方が衝撃が大きいわ」
エニアはざくろに触られたところを手でこすり、鈴蘭は二人の顔を見比べて首を傾げる。
「ざくろさんもエニアさんも、容姿的には変わらないんだね。ボクはどうかな?」
「鈴蘭は本物の女の子になって、可愛さがアップしたよ♪」
「体のデコボコが逆になっても、外見はそんなに変わらないわよ」
三人とも確かに肉体的には女性化したものの、見た目には変わりはない。
「ボクはとりあえず、二人から離れるね。ざくろさんは意外なことを結構やらかすし、エニアさんも何をするか分からないから」
「ええっー! 鈴蘭、ヒドイよぉ! エニアもそう思うよね?」
「鈴蘭さんの場合は、こっちのセリフよ。ざくろさんはまた触ってきたら、次は容赦なく突き放すからね。パーティが終わったら、家に真っ直ぐ帰ろうっと。その方が安全だわ」
「ううっ……! せっかく一緒に来たのに、この距離感は何なの?」
ざくろは涙目になるものの、二人はあくまでも冷静だ。
――こうして三人は一定の距離を保ちながら、キノコ狩りを再開した。
一方で三人のオカマハンターはキノコを見て、大はしゃぎしている。
「きゃあん♪ 見てぇ、キノコがこぉんなにたっくさん! ヤダもー、恥ずかしいわ!」
悶えているのは日浦・知々田・雄拝(Ka2796)。
「ちぃちゃんったら、まだ明るいうちからやぁねぇ」
言葉とは裏腹に、浮かれているのはNon=Bee(Ka1604)。
「美味しそうなキノコね♪ ……アラ、私もやーらしいかしら?」
笑みの形になる口元を手で覆っているのは、ロス・バーミリオン(Ka4718)。
ひとしきりキノコの感想を言い合った後、ふとNonは何かを思い出したかのように両手をポンッと叩く。
「そういえば、まだロゼちゃんにちぃちゃんのことを紹介していなかったわね。あのね、ロゼちゃん。このコはあたしの大親友の日浦・知々田・雄拝ちゃん、『ちぃちゃん』は愛称ね。とってもキレイなコなんだけど……、人見知りするのよ」
少しだけ苦く笑うNonの背後に、いつの間にか雄拝は移動していた。
「よっよろしく……」
恥ずかしそうに視線をそらしながら、雄拝は軽く頭を下げる。
「照れ屋なところがあるけれど、慣れると親しみやすくて良い子なのよ。仲良くしてあげてね?」
「もっちろん! 日浦ちゃん、はじめまして。私はロス・バーミリオンという名前で、愛称はロゼ。お互い、愛称で呼び合いましょうか?」
「うっうん……」
そろそろとNonの背後から出てきた雄拝を見て、二人は安堵のため息を吐く。
しかしロスは周囲を見回すと、眉間にシワを寄せた。
「でも私、病気の菌に対しては知識があるんだけど、キノコの菌に対しては詳しくないのよね。とりあえず性別が逆転するのを覚悟で、片っ端からキノコを採っていくしかないわね」
「キノコ料理は何を作ろうかしら? この季節だとお鍋も良いし、バター焼きも美味しいわよね。Nonちゃんはどんな料理が良い?」
「あたしはちぃちゃんのお料理なら、何でも好きよ。あっ、そうそう。あたし、キノコ料理に合うお酒を持ってきて、ウィクトーリア家に置いてきたのよ。後で三人で飲みましょうよ♪」
と、すでにパーティのことで話題が盛り上がっていたものの、三人はほぼ同時に魔法のキノコに触ってしまう。
「ゲホゲホッ! ったく……、とんだ爆発キノコだな。とりあえず目線は下がっていないから、身長に影響は無し……っと。でもまあ膨らんだ胸は苦しいな」
キリッとした顔付きになり、女性化した雄拝は胸を押さえてうんざりする。
「おっと、いけない。Non、それとロゼ、無事か?」
大きな胸を揺らしながら体勢を整えたNonもまた、しっかりした表情を浮かべていた。
「おう、大丈夫だぜ。ロゼはどうだ? 体は平気か?」
「ああ。ちなみに今の俺は、名前の方の『ロス』と呼んでくれ。……しかし『性別が逆転する』と言うのはこの場合、性格もそうなるのか」
ロスは改めて魔法の神秘を知り、複雑な表情になる。
「しかし丸一日『こう』とは、な。頭痛がしてくるぜ」
「まあまあ。気楽にやろうぜ、ロス。他の参加者達だって同じ目に合っているんだし、今日はこのままキノコ狩りとパーティを楽しめば良いだけの話さ。体が女になったところで、酒の美味さは変わらないだろう? なあ、ちぃ」
余裕たっぷりに雄拝の頭を撫でるNon。雄拝はロスを安心させる為に、微笑んで見せた。
「Nonの言う通りだ。せっかく知り合いになったことだし、今日はこのまま語り合おう」
「……だな。ジタバタしてもしょうがねーし、とりあえずこの状態を楽しむことにするか」
そしてイケメン女性三人組は、依頼を続けることにする。
「男の体になっても、日課の修練は欠かさずにやらないと。……でもやはり、少しは違和感はあるな」
男性化したアイビス・グラス(Ka2477)はつい数時間前は、女性であった。
「性別が逆転するキノコなんて、つくづく魔法って不思議なものね」
半分呆れ、半分感心しながらキノコ狩りをしていた途中で、魔法のキノコに当たってしまったのだ。それでも動じることなくウィクトーリア家から預かった男性用の服に着替えて、キノコ狩りを続けた。
そして一通りキノコ狩りを終えると、仲間達と共にウィクトーリア家へ移動したのだ。
全員、山でキノコ狩りをしてきたので、土だらけになっている。風呂の準備が整うまで少し時間がかかると使用人から言われた為、アイビスは庭で修練をすることにした。
そこへアイビスと同じく、今日はウィクトーリア家に泊まる予定であるエリス・カルディコット(Ka2572)が歩いて来る。
「ふう……。せっかく動きやすい服装で参加したのに、やっぱり女性化すると胸パットは苦しくなるものなんですね」
呟くエリスは普段から訳あって女装をしているので、膨らんだ胸に苦しんだ。なので木陰でパットを外して、今は服のポケットに入れている。
「しかし依頼後も修練をしている方がいらっしゃるとは、恐れ入ります。私も少しは見習わないといけませんね」
屋敷の窓からアイビスが修練をしている姿を見つけたので、差し入れにタオルとウィクトーリア家特製の疲労回復のお茶を入れたグラスを持ってきた。
「あの、お疲れさまです。よろしければ、コレをどうぞ。飲み物はフェイトさんが淹れてくださった疲労回復のお茶です」
「んっ? ああ、ご親切にありがとうございます」
振り返ったエリスは軽く頭を下げながら、差し入れを受け取る。
だがアイビスのイケメンっぷりに眼を奪われたエリスは、その場で固まってしまう。
「あの……?」
「はっ!? しっ失礼しました!」
我に返ったエリスは、クルッと振り返るとそのまま走り去った。
「……もしかして汗臭かったかな? 初対面の女性に対して、少し失礼だったかもしれない。パーティがはじまる前に、風呂を借りよう」
――お互いに初対面だった為に、二人とも相手の本当の性別に気付いていなかった。
「ったく……。触ると爆発するとは、とんでもないキノコだったな。しかしものの見事にボインッ・キュッ・ボンッのナイスバディになったぜ。……ハッ! それなら……!」
豊満な美女へと変身した紫月・海斗(Ka0788)は中身は男のまま、ろくでもないことを思い付く。
「俺は今現在、女だからもちろん女風呂に入る。つまり堂々と女風呂に入れる、人生に一度しかないかもしれない大チャーンスっ!」
眼をギラギラと輝かせながら、海斗は大人数が入れる大浴場へと向かう。
「このチャンスを逃してたまるか!」
そして女性用の脱衣所に到着すると、すでに何人かは大浴場へ入っているようで、明るく楽しげな女性達の話し声が聞こえてくる。
「よしっ! これなら大丈夫だ!」
海斗はすぐに服を脱ぎ捨てて、大浴場へ続く引き戸を大きく開いた。
「お嬢さん達、お邪魔するぜっ……って、アレ?」
しかしそこにいたのは、見知った元・男仲間達の顔ばかり。
「……あっ、そっか。今は女イコール元・男になるんだった……」
ある意味天国でもあり、地獄でもあるバスタイムがはじまる――。
ハンター達は全員性別が逆転したものの、ある者は楽しみ、ある者は悩み、その反応は様々であった。
【終わり】
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 9人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/01 22:37:53 |