ゲスト
(ka0000)
幻獣学者VS密猟者
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/30 12:00
- 完成日
- 2015/10/09 00:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
冒険都市リゼリオにほど近い小さな森の外れ。エルフの集落からも少し離れた、背の高い木々が重なりあうやや薄暗いところに、周囲の木と一体化してしまったような、古びた小屋があった。
小屋の主はリアルブルー出身の動物行動学者、あらためクリムゾンウェストの「幻獣学者」リン・カーソン博士。分厚いめがねと、丈の長すぎるぼろぼろの白衣がトレードマークの、幼さを残した少女のような外見。
いつもは、目の前の幻獣への好奇心にきらきらと輝いているそのつぶらな瞳が、今、怒りに燃えていた。
「……間違いない。死因は銃撃によるもの。鉛の弾丸が内臓を貫通している。つまり――密猟者か」
かみしめすぎた唇は白く、その声は震えている。リン博士が、本気で怒っている証だった。彼女が慈しむようにその両手で抱えているのは、すでに冷たくなった亡骸。光の加減で無限の色を放つ、不思議な光沢の毛皮をもった小さな生きものだった。
「仮称、ニジイロウサギ。クリムゾンウェストにしか存在しない『幻獣』。毛皮が虹色に輝く理由は不詳。おそらくは『マテリアル』が何らかの影響を与えている可能性もある」
自らが熱心に書き留めたノートの記述を読み返し、リンなりに、失われた生命の冥福を祈る。
「おそらく、発情期が数年、あるいは数十年に一度しかないのだろう。繁殖能力が低く、か弱い存在であるため、数は多くない。それよりも、特筆すべきはその知能の高さだ。独自の言語をもっていると考えられ、慣れれば人の言葉さえ理解する可能性がある。争いを好まず、わずかだが傷を癒やす能力を持っていると考えられている」
リン自ら、数ヶ月の地道な研究により見出した、幻獣の特性だ。
「にもかかわらず――美しい虹色の毛皮が好事家によく売れるのであろう。密猟者による被害が、後を絶たない」
悔しそうに吐き捨てる。目の前の亡骸も、リンが駆けつけたそのときに密猟者の銃弾に倒れ、その命を散らしてしまった。あと一歩、届かなかった。武装した密猟者を前に、何もできない非力な自分が憎らしい。
「嘆いている時間はない。自分で何もできないのならば、できるものの力を借りるまでだ。密猟により命を失うニジイロウサギを、これ以上増やしてはならない」
決意に満ちた表情で、リンはそうつぶやいた。
冒険都市リゼリオにほど近い小さな森の外れ。エルフの集落からも少し離れた、背の高い木々が重なりあうやや薄暗いところに、周囲の木と一体化してしまったような、古びた小屋があった。
小屋の主はリアルブルー出身の動物行動学者、あらためクリムゾンウェストの「幻獣学者」リン・カーソン博士。分厚いめがねと、丈の長すぎるぼろぼろの白衣がトレードマークの、幼さを残した少女のような外見。
いつもは、目の前の幻獣への好奇心にきらきらと輝いているそのつぶらな瞳が、今、怒りに燃えていた。
「……間違いない。死因は銃撃によるもの。鉛の弾丸が内臓を貫通している。つまり――密猟者か」
かみしめすぎた唇は白く、その声は震えている。リン博士が、本気で怒っている証だった。彼女が慈しむようにその両手で抱えているのは、すでに冷たくなった亡骸。光の加減で無限の色を放つ、不思議な光沢の毛皮をもった小さな生きものだった。
「仮称、ニジイロウサギ。クリムゾンウェストにしか存在しない『幻獣』。毛皮が虹色に輝く理由は不詳。おそらくは『マテリアル』が何らかの影響を与えている可能性もある」
自らが熱心に書き留めたノートの記述を読み返し、リンなりに、失われた生命の冥福を祈る。
「おそらく、発情期が数年、あるいは数十年に一度しかないのだろう。繁殖能力が低く、か弱い存在であるため、数は多くない。それよりも、特筆すべきはその知能の高さだ。独自の言語をもっていると考えられ、慣れれば人の言葉さえ理解する可能性がある。争いを好まず、わずかだが傷を癒やす能力を持っていると考えられている」
リン自ら、数ヶ月の地道な研究により見出した、幻獣の特性だ。
「にもかかわらず――美しい虹色の毛皮が好事家によく売れるのであろう。密猟者による被害が、後を絶たない」
悔しそうに吐き捨てる。目の前の亡骸も、リンが駆けつけたそのときに密猟者の銃弾に倒れ、その命を散らしてしまった。あと一歩、届かなかった。武装した密猟者を前に、何もできない非力な自分が憎らしい。
「嘆いている時間はない。自分で何もできないのならば、できるものの力を借りるまでだ。密猟により命を失うニジイロウサギを、これ以上増やしてはならない」
決意に満ちた表情で、リンはそうつぶやいた。
リプレイ本文
●
「このままでは、この森に住むニジイロウサギは遠からず死に絶えてしまう! その前に手段を講じなければ!」
リンが悔しそうにつぶやき、怒りを露わにした様子でデスクを叩いた。
ここは森の中。リンの住む研究所を兼ねた小屋。そこに、依頼を受けたハンターたちが集っていた。猟師たちに標的にされ、数をへらしている幻獣、「ニジイロウサギ」を救うための作戦会議だ。
「どこの世界でも、毛皮に目がくらむ人間はいるんですね……まったく、動物をなんだと思っているんでしょうか……! なんとしてもこらしめてやります!」
リンに呼応して怒りを露わにしたのは、ソフィ・アナセン(ka0556)。先日の幻獣探しの依頼にも参加した彼女は、同じ「幻獣を愛するもの」として、リンのことを慕っている。リンの悔しさは、ソフィの悔しさでもあった。
「すぐにでも密猟者を捕らえ、八つ裂きにしてやる……!」
「そういうわけにもいかないんだよ」
物騒なことを口走るリンに対し、ザレム・アズール(ka0878)が静かに首を横にふってみせる。
「なんだと……? じゃあ、幻獣が無残に殺されるのを、指をくわえてみていろというのかっ?!」
感情的になるあまり食ってかかってきたリンに対し、ザレムはあくまでも冷静に目をそらすことなく見つめ返す。
「そんなことは言っていない。ただ……猟を拒むには、根拠がいるんだよ」
ザレムの言葉の、優しく真摯な響きに、リンが言葉を詰まらせた。いつの間にか目の端にうかんでいた涙を指でぬぐう。
「リアルブルーであれば、数の少ない動物は保護の対象になりますが、クリムゾンレッドですと、そういう対応は難しいのでしょうか……」
ソフィがもどかしそうにつぶやく。
「規制する法がない以上、現状は『密猟』ではない、ですね」
冷静な声音でそう言ったのは、犬養 菜摘(ka3996)。彼女自身も、犬と銃を使って狩りをする猟師だ。
「狩りが悪いとは、私は思いません。でも、獲物を絶滅に追いやるような猟はちがう。有用性も研究の発展もありそうな幻獣、全滅させてはもう何もそこから収集できなくなります」
他人事ではないからこそ、菜摘の表情は真剣だ。
「猟師も生きるためですから、ただやめろと言っても引くわけにはいかないでしょう。長期的に見て、全滅させてしまったら彼ら自身も大きな損をするということを、理解してもらうしかない」
「カーソン博士。生態の調査はもっともなのだが、それだけでは不十分だ。現状、ニジイロウサギの個体数と猟師による死亡数、予測されうる絶滅までの期間のデータはどれだけ取れている?」
先ほどから熱心に話を聞きつつ、何かを思案していた様子のイグレーヌ・ランスター(ka3299)が口を開いた。矢継ぎ早の質問に驚きながらも、リンは急いで研究ノートをめくりはじめる。
「この森に住む個体数は、三十は超えないはずだ……この一年間の死亡数と絶滅期間予測も、記録を照らし合わせて計算すれば、おおよそのところは出せるだろう」
唇をかみながら答えたリンに対し、イグレーヌがきっぱりと告げる。
「すまないが、そちらのデータのとりまとめを至急頼む。……貴女がまとめたデータが、最終的に、私達のジョーカーになる」
「わたしの研究が……」
「そうだ。貴女の研究が、幻獣を救うかもしれない」
イグレーヌが言うと、リンの瞳に炎が宿った。
自分にできること。自分にしか、できないこと。
「博士がデータをまとめ終わったら、この森の所有者、あるいは領主に連絡を取りたい。少なくともこの森に関しては、ニジイロウサギの乱獲を禁止するルールを定めてもらえばいい」
ザレムの言葉に、リンはその小さな胸を拳で叩いてみせた。
「すぐにデータをまとめるから、待っていてくれ!」
●
「というわけで、俺とリン博士は、この辺一帯の領主のところに、説得に行ってくる。馬を飛ばせば、夜には帰ってこられると思うが……」
ザレムが、他の三人のハンターに向かってそう告げる。
「ニジイロウサギに活動時間は夕方から夜だ。それ以外の時間は岩壁の奥に掘られた巣から出てこないから、密猟者が狙うのも、必然的に夕方以降になる」
森を離れるのが心苦しいのだろう。リンが、心配そうな表情で言う。
「では私達は、夕方には森に入って、ニジイロウサギを狙う者がいないかどうか、見回りをしていますね!」
リンを安心させるように、ソフィが明るい表情で請け負う。
「もし密猟者――もとい、狩人にに出会ってしまったら、私が同業者として接触し、なるべく説得してみます。なるべくなら強硬策は採りたくないですが……」
菜摘が言い、イグレーヌもうなずく。
「狩人にも自分の利害があるだろうからな。説得は簡単にはいかないだろう。そのためにも、カーソン博士、ザレム、貴女たちが頼りだ。頼んだぞ」
「ああ。任せてくれ!」
「よし、いくぞ!」
ザレムがリンを後ろに乗せた馬を走らせた。馬はあっという間に森を駆け抜け、すぐに見えなくなる。
「さ、こちらはこちらでできることをしよう。まずは……夕方までに、簡単な狩猟知識をたたき込んでおくから、しっかりと学んでくれ」
イグレーヌがぎらり、と目を輝かせてソフィに向き直る。
「あ、あはは、お手柔らかに~」
●
その夜は、満月だった。
月の、厳しくもおだやかな青白い光が、静かに森を照らしていた。月明かりのお陰で、日が沈んでからも森は十分に明るい。それは昼に生きる人間たちにはありがたいことだったが、夜を暮らしの場とする獣にとっては、ふだんより危険度が高いことを意味していた。
「……いました! あれが……ニジイロウサギ」
狩人に発見されないよう物陰に身を隠しながら、声を潜めた声でソフィが歓声を上げた。彼女の視線の先、満月に照らされた森の一角に、下生えの草にまぎれきれない美しい毛並みが見える。色のない夜の世界にあって、その毛並みはそこだけ切り取られたかのようにあざやかな虹色をしていた。
「……あんなに目立つのでは、密猟者の絶好の的じゃないか……」
ソフィから少し離れたところでイグレーヌが、トランシーバー越しに呆れたようにため息をついた。幻獣が、なんの理由をもってあのような目立つ色をしているのかわからないが、守る方の身にもなってほしい。
「もしかしたら、天敵の獣にとっては、あの毛皮は見えないのかもしれません」
かたわらに伏せた猟犬の反応を見ながら、菜摘がつぶやいた。犬の目は色を感じることができない、ということはよく知られているが、案外、ニジイロウサギの毛皮の色があざやかに見えるのは、人間だけなのかもしれない。
「森の中でなら平和だったのが、人間に見つかったのが運の尽き、ということか……なんだか皮肉なものだな」
「しかし……本当にかわいいですね」
イグレーヌがため息をつく一方で、ソフィはうっとりとした表情で幻獣を見つめている。
視線の先にいるニジイロウサギは二羽。大きいのが一羽に小さいのが一羽で、どうやら親子のようだ。大きい方は、ウサギにしては比較的大きめで、小型の猫くらいの大きさ。小さい方はその半分くらい。毛は長く、ふんわりとやわらかそうだ。
「ああ、あの背中をもふもふしたい……!」
ソフィは感動をおさえきれぬ様子で、ニジイロウサギの姿に釘付けになっている。その一方で、菜摘は相棒のグレイハウンドが静かに身を起こしたのに気づいていた。
イグレーヌは、手にしていた弓を握りしめて行動を開始する。
「……いますね」
「ああ」
菜摘が、事前に確認しておいた、「ニジイロウサギの居場所から射線が通る延長線上」にある物陰に目をやり、そこに人影を認める。
「まずいな」
先にひそかに物陰に近づいていたイグレーヌが小さくつぶやく。狩人の男はニジイロウサギにむけて銃を構え、今にも発砲しそうだった。こうなってはやむを得まい。イグレーヌは心を決めて弓を構えた。
「すまないが、銃を下げてくれないか」
突然声をかけられて、狩人の男は驚いて振り返った。そこでは弓に矢をつがえたイグレーヌが、射るような眼光で男を見つめていた。
「な、なんだあんたは!」
「今、ニジイロウサギは繁殖期なんだ。この時期の猟は個体数を減らし、絶滅に繋がる。今日はお引き取り願えないか」
イグレーヌがあくまでおだやかに、しかし有無を言わせぬ迫力を持って告げる。
「い、いったいなんの権限でこんなことをするんだ?」
「それを言われると痛いんですが……」
そう言いながら、菜摘がかたわらにグレイハウンドを伴って狩人のほうに歩み寄ってきた。右手には猟銃を携えている。
「獲物となる動物が絶滅してしまっては、狩人にとっても大きな痛手です。私はリアルブルーから来た来訪者ですが、あちらの世界でも多くの動物が乱獲により絶滅しています。ここはひとつ、あの獲物はあきらめる、ということで今回は手を打っていただけませんか」
「それに、あんなにかわいい幻獣を殺すなんて、ゆるせません!」
ソフィも隠れていた茂みから立ち上がり、ニジイロウサギを守るように狩人の前に立ちふさがる。
「ば、ばか言え! あのウサギの毛皮は、めっぽう高い値段で売れるんだ。こっちだって生活がかかってるんだぞ!」
狩人の男は、顔を真っ赤にして怒鳴り、手にしていた銃を構えようとした。
「……荒事にはしたくなかったが、やむを得ない、か」
イグレーヌがつぶやき、狩人の、銃を持つ右腕を狙って矢を放とうとした、そのとき。
馬の蹄の音が響いた。だんだんとこちらに近づいてくる。
「……帰ってきたようですね」
「ザレムさん、リンさん!」
菜摘とソフィが口々に言った。
馬にまたがった二人の人影が、こちらに駆けてくるのが見えた。狩人は何が何だかわからず、呆然とした様子だ。
「領主の約束をとりつけた。これが正式の『幻獣保護令』の文書だ。これに免じて、今回は引いてくれないか」
「な、なんだと……領主様の?」
ザレムが馬上から片手で広げて見せた羊皮紙は、確かにこの辺り一帯の領主、ベスティア卿の直筆のサインが書かれているようだった。
「領主が話のわかるやつで助かった。幻獣に興味があるようで、その研究成果を報告することと引き替えに、この森の中に限り、幻獣全般の殺傷・捕獲を禁止してくれた」
ザレムの後ろで馬にまたがるリンが、弾む息で説明する。
「幻獣全般の殺傷・捕獲禁止だと……」
狩人が信じられない、といった様子で呆けたように文書を見つめた。
「もしあなたにその気があるのだったら、幻獣の調査の手伝い、および山林の管理人として狩人の技術をもつ者を雇いたい、と正式にベスティア卿から要請されている。もちろん、給料はベスティア卿から支給されるが、いかがか?」
ザレムが畳みかけるように狩人にたずねる。
「それでもまだ納得いかないと言うことなら、強硬策を採るしかなくなりますが……」
菜摘が言い、イグレーヌも弓を構えたままうなずく。
「幻獣を傷つけようとする者は、許さん」
リンが険しい表情で告げ、ソフィがぶんぶんと首を縦に振る。
狩人はそれぞれの顔を見回して、それからため息をついて肩をすくめる。
「やれやれ、わかったよ。俺の負けだ。これだけの数とやり合おうってほど、俺もばかじゃない。それに……」
狩人がふっと顔を上げた。その視線の先には、人間たちのやりとりを興味深げに見つめる、二対のつぶらな瞳。ニジイロウサギの親子の姿があった。
「確かに、よく見りゃかわいいやつらだ。今さら、あいつらを撃とうって気にはなれないもんな」
狩人は呆れたような笑いを浮かべて、銃をしまった。ハンターたちもそれぞれ武器を収める。
戦闘終了の雰囲気を感じ取り、もはや危険がないと判断したのか、二匹のニジイロウサギがその短い足でぴょんぴょんと地面を蹴り、こちらに近づいてきた。
「わわ、こちらに来ました! 跳び方もかわいい!」
「彼らは、好奇心旺盛で人懐っこいんだ。それに、生きものの感情を敏感に察知して、危険がないと判断すると近寄ってくる」
みんなに説明しながら、リンも興奮気味だ。
近づいてきた二匹のうち、親の方がぴょん、としゃがんだリンのひざに飛び乗った。ふと見れば、リンのひざ小僧からはかすかに血がにじんでいた。おそらくは慣れない乗馬で、すりむいたのだろう。ウサギは、その傷に優しく口づけるように、小さな舌を出して舐めはじめた。
「……傷が、治っていく」
ソフィが感嘆の声を上げる。ニジイロウサギが舐めたところが微かに光りかがやき、そして次の瞬間にはすっかり傷が消え去っていたのだ。
「あ、あ、あ、ありがとうっ!」
感極まったリンがニジイロウサギを抱きしめ、その身体をなでる。ウサギも、気持ちよさそうにされるがままになっている。
「あっ、リン博士ずるい! 私も!」
「で、できれば、俺も……」
ソフィとザレムが口々に言う。
すっかりハンターたちに気を許し、その身体をなでさせてくれたニジイロウサギ。その毛並みは見た目通り、いや、それ以上にやわらかく、そして、あたたかかった。
「このままでは、この森に住むニジイロウサギは遠からず死に絶えてしまう! その前に手段を講じなければ!」
リンが悔しそうにつぶやき、怒りを露わにした様子でデスクを叩いた。
ここは森の中。リンの住む研究所を兼ねた小屋。そこに、依頼を受けたハンターたちが集っていた。猟師たちに標的にされ、数をへらしている幻獣、「ニジイロウサギ」を救うための作戦会議だ。
「どこの世界でも、毛皮に目がくらむ人間はいるんですね……まったく、動物をなんだと思っているんでしょうか……! なんとしてもこらしめてやります!」
リンに呼応して怒りを露わにしたのは、ソフィ・アナセン(ka0556)。先日の幻獣探しの依頼にも参加した彼女は、同じ「幻獣を愛するもの」として、リンのことを慕っている。リンの悔しさは、ソフィの悔しさでもあった。
「すぐにでも密猟者を捕らえ、八つ裂きにしてやる……!」
「そういうわけにもいかないんだよ」
物騒なことを口走るリンに対し、ザレム・アズール(ka0878)が静かに首を横にふってみせる。
「なんだと……? じゃあ、幻獣が無残に殺されるのを、指をくわえてみていろというのかっ?!」
感情的になるあまり食ってかかってきたリンに対し、ザレムはあくまでも冷静に目をそらすことなく見つめ返す。
「そんなことは言っていない。ただ……猟を拒むには、根拠がいるんだよ」
ザレムの言葉の、優しく真摯な響きに、リンが言葉を詰まらせた。いつの間にか目の端にうかんでいた涙を指でぬぐう。
「リアルブルーであれば、数の少ない動物は保護の対象になりますが、クリムゾンレッドですと、そういう対応は難しいのでしょうか……」
ソフィがもどかしそうにつぶやく。
「規制する法がない以上、現状は『密猟』ではない、ですね」
冷静な声音でそう言ったのは、犬養 菜摘(ka3996)。彼女自身も、犬と銃を使って狩りをする猟師だ。
「狩りが悪いとは、私は思いません。でも、獲物を絶滅に追いやるような猟はちがう。有用性も研究の発展もありそうな幻獣、全滅させてはもう何もそこから収集できなくなります」
他人事ではないからこそ、菜摘の表情は真剣だ。
「猟師も生きるためですから、ただやめろと言っても引くわけにはいかないでしょう。長期的に見て、全滅させてしまったら彼ら自身も大きな損をするということを、理解してもらうしかない」
「カーソン博士。生態の調査はもっともなのだが、それだけでは不十分だ。現状、ニジイロウサギの個体数と猟師による死亡数、予測されうる絶滅までの期間のデータはどれだけ取れている?」
先ほどから熱心に話を聞きつつ、何かを思案していた様子のイグレーヌ・ランスター(ka3299)が口を開いた。矢継ぎ早の質問に驚きながらも、リンは急いで研究ノートをめくりはじめる。
「この森に住む個体数は、三十は超えないはずだ……この一年間の死亡数と絶滅期間予測も、記録を照らし合わせて計算すれば、おおよそのところは出せるだろう」
唇をかみながら答えたリンに対し、イグレーヌがきっぱりと告げる。
「すまないが、そちらのデータのとりまとめを至急頼む。……貴女がまとめたデータが、最終的に、私達のジョーカーになる」
「わたしの研究が……」
「そうだ。貴女の研究が、幻獣を救うかもしれない」
イグレーヌが言うと、リンの瞳に炎が宿った。
自分にできること。自分にしか、できないこと。
「博士がデータをまとめ終わったら、この森の所有者、あるいは領主に連絡を取りたい。少なくともこの森に関しては、ニジイロウサギの乱獲を禁止するルールを定めてもらえばいい」
ザレムの言葉に、リンはその小さな胸を拳で叩いてみせた。
「すぐにデータをまとめるから、待っていてくれ!」
●
「というわけで、俺とリン博士は、この辺一帯の領主のところに、説得に行ってくる。馬を飛ばせば、夜には帰ってこられると思うが……」
ザレムが、他の三人のハンターに向かってそう告げる。
「ニジイロウサギに活動時間は夕方から夜だ。それ以外の時間は岩壁の奥に掘られた巣から出てこないから、密猟者が狙うのも、必然的に夕方以降になる」
森を離れるのが心苦しいのだろう。リンが、心配そうな表情で言う。
「では私達は、夕方には森に入って、ニジイロウサギを狙う者がいないかどうか、見回りをしていますね!」
リンを安心させるように、ソフィが明るい表情で請け負う。
「もし密猟者――もとい、狩人にに出会ってしまったら、私が同業者として接触し、なるべく説得してみます。なるべくなら強硬策は採りたくないですが……」
菜摘が言い、イグレーヌもうなずく。
「狩人にも自分の利害があるだろうからな。説得は簡単にはいかないだろう。そのためにも、カーソン博士、ザレム、貴女たちが頼りだ。頼んだぞ」
「ああ。任せてくれ!」
「よし、いくぞ!」
ザレムがリンを後ろに乗せた馬を走らせた。馬はあっという間に森を駆け抜け、すぐに見えなくなる。
「さ、こちらはこちらでできることをしよう。まずは……夕方までに、簡単な狩猟知識をたたき込んでおくから、しっかりと学んでくれ」
イグレーヌがぎらり、と目を輝かせてソフィに向き直る。
「あ、あはは、お手柔らかに~」
●
その夜は、満月だった。
月の、厳しくもおだやかな青白い光が、静かに森を照らしていた。月明かりのお陰で、日が沈んでからも森は十分に明るい。それは昼に生きる人間たちにはありがたいことだったが、夜を暮らしの場とする獣にとっては、ふだんより危険度が高いことを意味していた。
「……いました! あれが……ニジイロウサギ」
狩人に発見されないよう物陰に身を隠しながら、声を潜めた声でソフィが歓声を上げた。彼女の視線の先、満月に照らされた森の一角に、下生えの草にまぎれきれない美しい毛並みが見える。色のない夜の世界にあって、その毛並みはそこだけ切り取られたかのようにあざやかな虹色をしていた。
「……あんなに目立つのでは、密猟者の絶好の的じゃないか……」
ソフィから少し離れたところでイグレーヌが、トランシーバー越しに呆れたようにため息をついた。幻獣が、なんの理由をもってあのような目立つ色をしているのかわからないが、守る方の身にもなってほしい。
「もしかしたら、天敵の獣にとっては、あの毛皮は見えないのかもしれません」
かたわらに伏せた猟犬の反応を見ながら、菜摘がつぶやいた。犬の目は色を感じることができない、ということはよく知られているが、案外、ニジイロウサギの毛皮の色があざやかに見えるのは、人間だけなのかもしれない。
「森の中でなら平和だったのが、人間に見つかったのが運の尽き、ということか……なんだか皮肉なものだな」
「しかし……本当にかわいいですね」
イグレーヌがため息をつく一方で、ソフィはうっとりとした表情で幻獣を見つめている。
視線の先にいるニジイロウサギは二羽。大きいのが一羽に小さいのが一羽で、どうやら親子のようだ。大きい方は、ウサギにしては比較的大きめで、小型の猫くらいの大きさ。小さい方はその半分くらい。毛は長く、ふんわりとやわらかそうだ。
「ああ、あの背中をもふもふしたい……!」
ソフィは感動をおさえきれぬ様子で、ニジイロウサギの姿に釘付けになっている。その一方で、菜摘は相棒のグレイハウンドが静かに身を起こしたのに気づいていた。
イグレーヌは、手にしていた弓を握りしめて行動を開始する。
「……いますね」
「ああ」
菜摘が、事前に確認しておいた、「ニジイロウサギの居場所から射線が通る延長線上」にある物陰に目をやり、そこに人影を認める。
「まずいな」
先にひそかに物陰に近づいていたイグレーヌが小さくつぶやく。狩人の男はニジイロウサギにむけて銃を構え、今にも発砲しそうだった。こうなってはやむを得まい。イグレーヌは心を決めて弓を構えた。
「すまないが、銃を下げてくれないか」
突然声をかけられて、狩人の男は驚いて振り返った。そこでは弓に矢をつがえたイグレーヌが、射るような眼光で男を見つめていた。
「な、なんだあんたは!」
「今、ニジイロウサギは繁殖期なんだ。この時期の猟は個体数を減らし、絶滅に繋がる。今日はお引き取り願えないか」
イグレーヌがあくまでおだやかに、しかし有無を言わせぬ迫力を持って告げる。
「い、いったいなんの権限でこんなことをするんだ?」
「それを言われると痛いんですが……」
そう言いながら、菜摘がかたわらにグレイハウンドを伴って狩人のほうに歩み寄ってきた。右手には猟銃を携えている。
「獲物となる動物が絶滅してしまっては、狩人にとっても大きな痛手です。私はリアルブルーから来た来訪者ですが、あちらの世界でも多くの動物が乱獲により絶滅しています。ここはひとつ、あの獲物はあきらめる、ということで今回は手を打っていただけませんか」
「それに、あんなにかわいい幻獣を殺すなんて、ゆるせません!」
ソフィも隠れていた茂みから立ち上がり、ニジイロウサギを守るように狩人の前に立ちふさがる。
「ば、ばか言え! あのウサギの毛皮は、めっぽう高い値段で売れるんだ。こっちだって生活がかかってるんだぞ!」
狩人の男は、顔を真っ赤にして怒鳴り、手にしていた銃を構えようとした。
「……荒事にはしたくなかったが、やむを得ない、か」
イグレーヌがつぶやき、狩人の、銃を持つ右腕を狙って矢を放とうとした、そのとき。
馬の蹄の音が響いた。だんだんとこちらに近づいてくる。
「……帰ってきたようですね」
「ザレムさん、リンさん!」
菜摘とソフィが口々に言った。
馬にまたがった二人の人影が、こちらに駆けてくるのが見えた。狩人は何が何だかわからず、呆然とした様子だ。
「領主の約束をとりつけた。これが正式の『幻獣保護令』の文書だ。これに免じて、今回は引いてくれないか」
「な、なんだと……領主様の?」
ザレムが馬上から片手で広げて見せた羊皮紙は、確かにこの辺り一帯の領主、ベスティア卿の直筆のサインが書かれているようだった。
「領主が話のわかるやつで助かった。幻獣に興味があるようで、その研究成果を報告することと引き替えに、この森の中に限り、幻獣全般の殺傷・捕獲を禁止してくれた」
ザレムの後ろで馬にまたがるリンが、弾む息で説明する。
「幻獣全般の殺傷・捕獲禁止だと……」
狩人が信じられない、といった様子で呆けたように文書を見つめた。
「もしあなたにその気があるのだったら、幻獣の調査の手伝い、および山林の管理人として狩人の技術をもつ者を雇いたい、と正式にベスティア卿から要請されている。もちろん、給料はベスティア卿から支給されるが、いかがか?」
ザレムが畳みかけるように狩人にたずねる。
「それでもまだ納得いかないと言うことなら、強硬策を採るしかなくなりますが……」
菜摘が言い、イグレーヌも弓を構えたままうなずく。
「幻獣を傷つけようとする者は、許さん」
リンが険しい表情で告げ、ソフィがぶんぶんと首を縦に振る。
狩人はそれぞれの顔を見回して、それからため息をついて肩をすくめる。
「やれやれ、わかったよ。俺の負けだ。これだけの数とやり合おうってほど、俺もばかじゃない。それに……」
狩人がふっと顔を上げた。その視線の先には、人間たちのやりとりを興味深げに見つめる、二対のつぶらな瞳。ニジイロウサギの親子の姿があった。
「確かに、よく見りゃかわいいやつらだ。今さら、あいつらを撃とうって気にはなれないもんな」
狩人は呆れたような笑いを浮かべて、銃をしまった。ハンターたちもそれぞれ武器を収める。
戦闘終了の雰囲気を感じ取り、もはや危険がないと判断したのか、二匹のニジイロウサギがその短い足でぴょんぴょんと地面を蹴り、こちらに近づいてきた。
「わわ、こちらに来ました! 跳び方もかわいい!」
「彼らは、好奇心旺盛で人懐っこいんだ。それに、生きものの感情を敏感に察知して、危険がないと判断すると近寄ってくる」
みんなに説明しながら、リンも興奮気味だ。
近づいてきた二匹のうち、親の方がぴょん、としゃがんだリンのひざに飛び乗った。ふと見れば、リンのひざ小僧からはかすかに血がにじんでいた。おそらくは慣れない乗馬で、すりむいたのだろう。ウサギは、その傷に優しく口づけるように、小さな舌を出して舐めはじめた。
「……傷が、治っていく」
ソフィが感嘆の声を上げる。ニジイロウサギが舐めたところが微かに光りかがやき、そして次の瞬間にはすっかり傷が消え去っていたのだ。
「あ、あ、あ、ありがとうっ!」
感極まったリンがニジイロウサギを抱きしめ、その身体をなでる。ウサギも、気持ちよさそうにされるがままになっている。
「あっ、リン博士ずるい! 私も!」
「で、できれば、俺も……」
ソフィとザレムが口々に言う。
すっかりハンターたちに気を許し、その身体をなでさせてくれたニジイロウサギ。その毛並みは見た目通り、いや、それ以上にやわらかく、そして、あたたかかった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
- 幻獣王親衛隊
ザレム・アズール(ka0878)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 犬養 菜摘(ka3996) 人間(リアルブルー)|21才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/09/29 19:33:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/28 19:21:17 |