ゲスト
(ka0000)
【闇光】Gespenst
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/01 07:30
- 完成日
- 2015/10/06 07:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「うぅ~、さぶさぶさぶ……っ! 何が北狄ですかもう……寒いし! 汚染されてるし! 最悪ですねもう!」
北伐作戦の為、辺境領北部と北狄との緩衝地帯には複数の浄化キャンプが設置されている。
人類圏、即ち安全に正のマテリアルを活性化できるエリアから汚染領域に浄化の力を送るには、後方部隊の充実が不可欠であった。
タングラムはそんなキャンプの一つを防衛する部隊にハンターと共に組み込まれていたのだ。
「いつも南のリゼリオでのんびりしているからよ。寒さに弱いなんて滑稽ね」
「む? その声はハイデマリーですか?」
焚き火に当たりながら震えるタングラムへ厚着のハイデマリーが声をかける。
「エルフハイムに移住したと聞きましたが、そういえば今回は共同作戦でしたね」
ハイデマリーはふっと穏やかな笑みを作り、焚き火の前に腰を下ろす。
「ぎ、義手の接合部が冷たくて死にそう……」
「お前も寒いんかい!?」
「今回の作戦にはヨハネがノリノリでね。お姉さんも来てるわよ」
焚き火で作ったスープを両手で啜りながらハイデマリーは北狄方面に目を向ける。
「いい人ね、ジエルデ。エルフは人間嫌いが多いけど、彼女は私にとても親切だわ……ツンデレだけど」
「そりゃそうでしょう。あの人はどうしようもないお人好しですからね」
肩を竦めるタングラムの口調はどこか自罰的な雰囲気を孕んでいる。
姉の事を疎ましく思っているわけではないのだ。ハイデマリーはカップを置き。
「タングラムが森を追放された事件なんだけど……」
「……む? なんだ、客人か?」
声の方向に目を向けると、そこには全身甲冑の男が両手に鍋を手にして近づいてくる。
「……誰だっけ?」
「グスタフという中二病おじさんです。フリーの傭兵ですね」
グスタフと呼ばれた全身鎧の男は炎に鍋をかけ、手早く調理を始める。
具材をナイフで刻み、てきぱきと煮込むその様子は非常にシュールだ。
「フン。各地で交戦が開始されているというのに呑気なものだな」
「それ今あなたに一番言われたくないセリフなんだけど」
「食える時に食っておかねばな。寒冷地戦は過酷だぞ。まあ、かくいう俺も久々なのだが」
「先代皇帝が組織した北伐部隊に参加経験があるというので雇ったのですよ」
さほど興味なさそうにあくびをするハイデマリー。グスタフは右手でナイフを回しつつ北狄をみやる。
「ここでは先代皇帝ヒルデブラントが失踪したという。俺はどうしても奴に確認したい事があってな」
「生きているって思ってるの?」
「思ってはいない。が、誰かが確かめねば答えは得られまい。そうだろう? タングラム」
無言で乾いたパンを齧るタングラムを横目にハイデマリーは目を瞑る。
「ま、私も人探しに来たんだけどね」
「ヴォールですか?」
「エルフハイムが動く大きな作戦なら、彼が手出ししてくる可能性は高いかなって。暴食の連中も出てきてるみたいだし」
そんな話をしていた時だ。敵襲を告げる鐘の音が響き渡った。
帝国兵達が慌ただしく動き出す中三人も武器を手に走り出した。
敵は北狄方面から接近する多数のスケルトン。どうやら前方のキャンプを素通りしてここまで来たらしい。
「こっちは浄化ルート上以外を通行できないけど、あっちは迂回し放題だものね」
「後方の浄化地点を破壊されれば前線が瓦解する。給料分の仕事はするとしよう……鍋も作りかけだ、手早く済ませるぞ」
三人はそれぞれ帝国兵やハンターと協力しスケルトンを撃破していく。
幸いスケルトンの戦闘力は雑魔クラス。数はやけに多いが、帝国兵でも抑えられるレベルだ。
「それにしても今回はスケルトンばっかりね」
「悪路をものともしないという意味では適切なのですが……!」
「……女共、上だ!」
グスタフの叫びに反応し頭上を見やると、真上から何かが高速で落下してくる。
それは回転する鎌。飛びのいた二人の丁度真ん中に突き刺さると、ひとりでにふわりと浮かび上がる。
「亡霊型だな。霊体も来るはずだ、避けろよ」
「なんでそんな事がわか……るっ!?」
悪寒に振り返ったハイデマリーの目の前。先程まで何も居なかった場所に突如として大柄の亡霊が出現していた。
黒いローブに身を包み、揺れる負のマテリアルの幻影。異形は青い炎を放つが、タングラムがハイデマリーを抱いて横に飛び退き回避した。
亡霊が片手をかざすと、吸い寄せられるように鎌が飛行する。それは倒れこんだ二人を薙ぎ払うが、間にグスタフが盾で割り込んだ。
「言わんこっちゃない。武装と霊体の多重攻撃は亡霊型の基本だろうが」
「そんな事言われても私ただの錬金術師なんですけど……」
倒れたままタングラムがナイフを投擲するが、亡霊の身体を素通りする。
ハイデマリーは機導砲を放つが、その瞬間亡霊の姿は消失。一瞬でグスタフの目の前に移動し、停止していた鎌を掴むとガードの上から弾き飛ばした。
「やはり霊体か。本体は鎌か、或いは別か……。飛行、高速移動、迷彩持ち。まあそんな所か」
「このおじさんなんなの?」
「亡霊型歪虚だけソロで狩ってる変態です」
背後でボソボソ話す女二人に冷や汗を流すグスタフ。ふと、そこで首を傾げ。
「……待て。俺はこの歪虚を知っている……ような気がする」
「どっちなの?」
「まだ旧帝国軍第一師団に所属していた頃に見たような……駄目だ、思い出せん……」
「つかえねーですねー。ゴーストバスターのプロじゃないんですかー?」
だが、もしもそれが事実なら相応の“ヴィンテージ品”という事になる。
タングラムの反射神経を超えた瞬間移動や気配の消し方。グスタフのガードを容易く崩す攻撃力。
何より強力な負のマテリアルからして並の歪虚とは思えないが、どうにも“名あり”には見えないのだ。
「……嫌な予感がするな。俺の勘は当たる。兵は下がらせろ。腕の立つ者だけで相手をするぞ」
「それはいいですが、物理攻撃無効化ですよ?」
「武器破壊には物理が有効なのだ。自分の仕事は自分で探せ」
亡霊はゆらゆらとその影を揺らしながら鎌を両手に構える。その様相は死神という言葉が実に適切だ。
音もなく、地べたを滑るように迫る怪物は、炎を纏った鎌で衝撃波を放った。
北伐作戦の為、辺境領北部と北狄との緩衝地帯には複数の浄化キャンプが設置されている。
人類圏、即ち安全に正のマテリアルを活性化できるエリアから汚染領域に浄化の力を送るには、後方部隊の充実が不可欠であった。
タングラムはそんなキャンプの一つを防衛する部隊にハンターと共に組み込まれていたのだ。
「いつも南のリゼリオでのんびりしているからよ。寒さに弱いなんて滑稽ね」
「む? その声はハイデマリーですか?」
焚き火に当たりながら震えるタングラムへ厚着のハイデマリーが声をかける。
「エルフハイムに移住したと聞きましたが、そういえば今回は共同作戦でしたね」
ハイデマリーはふっと穏やかな笑みを作り、焚き火の前に腰を下ろす。
「ぎ、義手の接合部が冷たくて死にそう……」
「お前も寒いんかい!?」
「今回の作戦にはヨハネがノリノリでね。お姉さんも来てるわよ」
焚き火で作ったスープを両手で啜りながらハイデマリーは北狄方面に目を向ける。
「いい人ね、ジエルデ。エルフは人間嫌いが多いけど、彼女は私にとても親切だわ……ツンデレだけど」
「そりゃそうでしょう。あの人はどうしようもないお人好しですからね」
肩を竦めるタングラムの口調はどこか自罰的な雰囲気を孕んでいる。
姉の事を疎ましく思っているわけではないのだ。ハイデマリーはカップを置き。
「タングラムが森を追放された事件なんだけど……」
「……む? なんだ、客人か?」
声の方向に目を向けると、そこには全身甲冑の男が両手に鍋を手にして近づいてくる。
「……誰だっけ?」
「グスタフという中二病おじさんです。フリーの傭兵ですね」
グスタフと呼ばれた全身鎧の男は炎に鍋をかけ、手早く調理を始める。
具材をナイフで刻み、てきぱきと煮込むその様子は非常にシュールだ。
「フン。各地で交戦が開始されているというのに呑気なものだな」
「それ今あなたに一番言われたくないセリフなんだけど」
「食える時に食っておかねばな。寒冷地戦は過酷だぞ。まあ、かくいう俺も久々なのだが」
「先代皇帝が組織した北伐部隊に参加経験があるというので雇ったのですよ」
さほど興味なさそうにあくびをするハイデマリー。グスタフは右手でナイフを回しつつ北狄をみやる。
「ここでは先代皇帝ヒルデブラントが失踪したという。俺はどうしても奴に確認したい事があってな」
「生きているって思ってるの?」
「思ってはいない。が、誰かが確かめねば答えは得られまい。そうだろう? タングラム」
無言で乾いたパンを齧るタングラムを横目にハイデマリーは目を瞑る。
「ま、私も人探しに来たんだけどね」
「ヴォールですか?」
「エルフハイムが動く大きな作戦なら、彼が手出ししてくる可能性は高いかなって。暴食の連中も出てきてるみたいだし」
そんな話をしていた時だ。敵襲を告げる鐘の音が響き渡った。
帝国兵達が慌ただしく動き出す中三人も武器を手に走り出した。
敵は北狄方面から接近する多数のスケルトン。どうやら前方のキャンプを素通りしてここまで来たらしい。
「こっちは浄化ルート上以外を通行できないけど、あっちは迂回し放題だものね」
「後方の浄化地点を破壊されれば前線が瓦解する。給料分の仕事はするとしよう……鍋も作りかけだ、手早く済ませるぞ」
三人はそれぞれ帝国兵やハンターと協力しスケルトンを撃破していく。
幸いスケルトンの戦闘力は雑魔クラス。数はやけに多いが、帝国兵でも抑えられるレベルだ。
「それにしても今回はスケルトンばっかりね」
「悪路をものともしないという意味では適切なのですが……!」
「……女共、上だ!」
グスタフの叫びに反応し頭上を見やると、真上から何かが高速で落下してくる。
それは回転する鎌。飛びのいた二人の丁度真ん中に突き刺さると、ひとりでにふわりと浮かび上がる。
「亡霊型だな。霊体も来るはずだ、避けろよ」
「なんでそんな事がわか……るっ!?」
悪寒に振り返ったハイデマリーの目の前。先程まで何も居なかった場所に突如として大柄の亡霊が出現していた。
黒いローブに身を包み、揺れる負のマテリアルの幻影。異形は青い炎を放つが、タングラムがハイデマリーを抱いて横に飛び退き回避した。
亡霊が片手をかざすと、吸い寄せられるように鎌が飛行する。それは倒れこんだ二人を薙ぎ払うが、間にグスタフが盾で割り込んだ。
「言わんこっちゃない。武装と霊体の多重攻撃は亡霊型の基本だろうが」
「そんな事言われても私ただの錬金術師なんですけど……」
倒れたままタングラムがナイフを投擲するが、亡霊の身体を素通りする。
ハイデマリーは機導砲を放つが、その瞬間亡霊の姿は消失。一瞬でグスタフの目の前に移動し、停止していた鎌を掴むとガードの上から弾き飛ばした。
「やはり霊体か。本体は鎌か、或いは別か……。飛行、高速移動、迷彩持ち。まあそんな所か」
「このおじさんなんなの?」
「亡霊型歪虚だけソロで狩ってる変態です」
背後でボソボソ話す女二人に冷や汗を流すグスタフ。ふと、そこで首を傾げ。
「……待て。俺はこの歪虚を知っている……ような気がする」
「どっちなの?」
「まだ旧帝国軍第一師団に所属していた頃に見たような……駄目だ、思い出せん……」
「つかえねーですねー。ゴーストバスターのプロじゃないんですかー?」
だが、もしもそれが事実なら相応の“ヴィンテージ品”という事になる。
タングラムの反射神経を超えた瞬間移動や気配の消し方。グスタフのガードを容易く崩す攻撃力。
何より強力な負のマテリアルからして並の歪虚とは思えないが、どうにも“名あり”には見えないのだ。
「……嫌な予感がするな。俺の勘は当たる。兵は下がらせろ。腕の立つ者だけで相手をするぞ」
「それはいいですが、物理攻撃無効化ですよ?」
「武器破壊には物理が有効なのだ。自分の仕事は自分で探せ」
亡霊はゆらゆらとその影を揺らしながら鎌を両手に構える。その様相は死神という言葉が実に適切だ。
音もなく、地べたを滑るように迫る怪物は、炎を纏った鎌で衝撃波を放った。
リプレイ本文
亡霊の放つ小さな火種は、着弾と同時に大きな火柱を上げた。
「まあ! いきなり派手にやってますわね」
「霊体と鎌とは、わかりやすい亡霊型歪虚じゃな」
光に照らされロジー・ビィ(ka0296)が両手を合わせる。カナタ・ハテナ(ka2130)の言うように、敵は露骨な死神だ。
「グロル・リッターとは毛色が違うようだが……暗殺者らしさを感じるなァ」
「気をつけるですよ! こいつ、結構強いです!」
タングラムが叫んだ直後、再び火炎がハンター達を襲う。その炎を突き抜けるようにして距離を詰めた敵が鎌を振り下ろした。
「チッ、こいつ……フラフラしている割になんて膂力だ。グスタフ、ハイデマリーから離れるなよ!」
薙ぎ払いを盾受けしたシガレット=ウナギパイ(ka2884)の体が衝撃で背後へ滑る。足場が雪とは言え、構えて尚轍が出来る程だ。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は側面からデルタレイを放つ。
放たれた光は鎌と霊体をそれぞれ狙うが、霊体は姿を消し、鎌は回転し光を弾いた。
「ぬ? デルタレイでダブルターゲットじゃと?」
首を傾げるカナタ。一方、姿を消した霊体はソフィアの頭上に出現。炎を纏って飛びかかる。
その炎が炸裂する直前、ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)がソフィアを抱きかかえるようにして跳んだ。
カナタは攻撃を空振りさせた霊体へ駆け寄り、光を帯びた盾で殴りつける。
相手は霊体だが魔法攻撃なら効果がある。問題なく打撃としての衝撃が発生し、亡霊は僅かに後退する。
「そういえば霊体のみの敵と戦うのは初めてだな。鉱山の時のアレはまた別だし。……この先にはこんな敵が多くいると言う訳か。魔境の名は伊達じゃないな」
レイス(ka1541)は槍を逆手に構え投擲。マテリアルを帯びた一撃は霊体を貫通するが、素通りしただけでダメージは確認できない。
しかし槍は急カーブし、そのまま残っていた鎌に命中し弾くと、その隙にロジーが鎌へと斬りかかる。
霊体は片手を翳し鎌を引き寄せると、ふわりと浮かび上がりハンター達を眺めた。
「速い……重力の影響を受けていませんわね」
「ん~、なんなんだこいつァ? グロル・リッターの時よりやばそうな気配はするが……」
銃で肩を叩きながら首を傾げるシガレット。確かにこの気配は高位歪虚のものだ。
それと知る者であれば、同系である暴食の中でもかなり強力であると肌で感じられるだろう。
「……ったく! だから! わたしは! 職人として来てるんだっつーの!」
「確かに、何故こんな後方のキャンプを攻撃するのかわからんが……」
足元の雪を蹴飛ばし唇を尖らせるソフィア。グスタフは不思議そうに首を傾げる。
「何やらよくわからぬが、一つ試してみるかの」
そう言ってカナタは亡霊の持つ鎌へ魔法をかけた。
但し、それは攻撃魔法ではない。武器を対象とする強化魔法であるホーリーセイバーである。しかしその効果は発動されなかった。
「決まりじゃな。デルタレイで鎌と武器をそれぞれタゲった事といい、奴らは二体の歪虚であるというのは間違いない!」
デルタレイは同一存在に同時攻撃できない。強化魔法が発生しないということは武器自体が魔法抵抗をしているという事。
その結論を指差し突きつけると、亡霊の姿が僅かに揺れた。まるで驚いているようだ。
シガレットは銃弾で霊体を攻撃するが、弾丸は素通りするだけで霊体は防ぐ素振りもみせない。
「さっきから物理攻撃は無視だ。って事は、奴には核がないのかねェ?」
「鎌そのものは実体ですわよね?」
「ああ、間違いない。鎌へは物理干渉が可能だ。実体と霊体、それぞれが別の歪虚という事になる」
首を撚るロジーにレイスは頷く。冷静に分析を進めるハンター達にグスタフは驚いた様子だ。
「ほう……ただ力を振り回すだけの連中とは一味違うようだな」
「しかしこの場に核が見当たらないとなると、あっちの骸骨の中に紛れているとか、剣魔と同じような特殊タイプという事になるのう」
「だったらあっちは私が片付けて来るですよ。殴って倒れる相手なら任せるです」
そんなタングラムへロジーはくるりと向き合い。
「タングラム……勝負下着に気をつけて!」
「どういう事なの?」
「今日はこんな大事な任務中ですもの、わかっていますわ!」
「何にもわかってねぇぇぇ……うらぁ骨共がくたばるですよ!!」
「おー。強い強い……」
ものすごい勢いで敵集団に突っ込んでいったタングラムを見送るソフィア。
改めてハンター達が亡霊へ向き合うと、新しい動きがあった。
亡霊はローブのような外套を両手で掴み、左右へ広げる。そこにはただ異質な闇が広がり、肉も空洞も存在しなかった。
そこから突如、二本の腕が飛び出したのだ。それはずるりと這い出すと、鎌を掴んで上体を擡げる。
「……何だァ?」
「歪虚の中から別の歪虚だと……?」
身構えるシガレットとヴォルフガング。新たに出現したのはサイズ2の大柄のスケルトンで、頭部だけが山羊のような形状をしている。
そして霊体は自らの体の内側に手を突っ込み、新たに細身の剣を二つ取り出した。
「あの~、グスタフさん?」
「俺もあんな奴は初めてだ。基本能力ではない……奴の固有能力か?」
ソフィアの視線にグスタフは首を横に振る。
霊体はその場でくるりと舞うようにして二刀を構えると、一直線にカナタへ突っ込んでくる。
「ぬわっ!?」
盾を構えるカナタだが、刃を振り下ろしている途中で剣だけ残し霊体が消え、すぐに背後に出現。
掌に集めた火炎を放つ瞬間、ソフィアが防御障壁を展開。貫通した爆発がカナタを吹き飛ばした。
「……そっちの小娘を守れ!」
「野郎……明らかに考えてやがる!」
グスタフに言われるまでもなくシガレットは走り出す。
鎌と霊体、別々で現れたのは“どちらかに核がある同一体”と見せるブラフだった。
それが見破られたので不意打ちを諦め別の能力、戦闘法に切り替えたのだ。
無口な亡霊は狡猾に、次の問題を投げかける――。
大型のスケルトンはのしのしと駆け寄り、鎌を振るう。
その力はかなりの物で、雪に深く覆われた大地を一撃でめくれ上がらせる程だ。
飛散する雪を横目に、攻撃を回避したレイスは冷や汗を流す。
「ただのスケルトンではないな……だが、相手が物理存在ならば!」
空中で体を捻り、槍を投擲するレイス。攻撃は頭部に直撃。額が砕けたが怯む様子はない。
ロジーは大地を蹴り、マテリアルを爆発させるように加速。勢いを載せた剣を足に打ち込むと、骨が折れて巨体が倒れこんだ。
「攻撃の効かない霊体相手よりはこっちの方が気楽ですわね……あら?」
倒れたスケルトンの体が浮かび上がり、破損した部位を別の骨と入れ替えて再起動する。
左腕の骨を足に継ぎ、余ったパーツで右腕を肥大化させると、更にパワーの増した一撃で周囲を薙ぎ払った。
「相変わらず出鱈目だな……! とはいえ、そういうものだと分かってしまえば!」
スケルトン自体はさほど頑丈には思えない。だが、攻撃しても形が変わっていくだけで、手応えが極端に薄い。
「……おい、あっちもヤバそうだぞ」
亡霊との戦いに参加していたヴォルフガングだが、スケルトン側が劣勢と見て踵を返す。
「どうせ霊体に攻撃は効かないんだ。シガレット、俺はあっちに加勢する」
「あァ。こっちは魔法攻撃組でなんとかすらァ」
仲間に背中を押され走り出したヴォルフガングが振動刀を手に突撃する。
「さて……こいつはどうやって倒せばいいんだ?」
攻撃を防ぐ素振りも見せないとなると、狙いがわからない。
体ごと回転するような敵の一撃は大ぶりで、よく見れば避けたり防ぐのは難しくないが、当たれば即退場もあり得る。
「もう……さっきから泥が飛んで汚れてしまいますわ」
溜息を零すロジーを横目にヴォルフガングは構え直す。
一方、亡霊側では敵の圧倒的な連続攻撃を凌ぐのに必死だった。
「クソッ、いちいち死角に入りやがって……鬱陶しすぎるぜェ!」
「音も気配もない相手だ、気をつけろよ」
「グスタフさん遠くないですか!?」
グスタフのわかりきったアドバイスにげんなりするソフィア。だがグスタフが側に居ないとハイデマリーはすぐ殺されてしまうだろう。
暗殺染みた攻撃を防ぐ為に背中合わせに構えた三人だが、その真上に出現した亡霊は両手の間に巨大な火炎を生み出し、それを隕石のように落下させる。
「……上です上! 各自散開!!」
ソフィアの声で三人同時に飛ぶが、別々の方向へ逃げると……。
「やはりこっちに来るか!?」
爆発の炎に照らされ、瞬時に移動した亡霊がカナタへ腕を伸ばす。
明らかにカナタが狙われているが、狙われるとわかっていたのでセイクリッドフラッシュを先置きできた。
正直な所どこに出るかはわからなかったが、全方位攻撃故に位置特定は不要だ。
「やっぱ攻撃してくる時は必ず姿を見せる! カウンターだ!」
叫ぶシガレット。ソフィアが放ったデルタレイの光が亡霊を追尾するが、高速で飛行する姿を捉える前に消えてしまう。
シガレットはカナタの側でレクイエムを放つ。やはり側に現れた霊体が影響を受け停止すると、カナタが光を帯びた盾で殴りつけた。
「実体がなくても、亡霊型という負のマテリアルの“場”に正のマテリアルのエネルギーを叩き込めばっ!」
攻撃を受けて怯んだ所へソフィアが雷撃を放つ。動きを鈍らせる効果のある魔法攻撃。その影響を受ける事を嫌ったのだろう。
亡霊の体から新たに骨の腕が三本出現し、それらは折り重なるようにして雷撃を受け止めた。
骨はそれで砕け散ったが霊体に影響はない。ふわりとソフィアの頭上を舞い、すれ違い様に刃を首筋に滑らせる。
その攻撃を止めたのはハイデマリーの機導砲だった。僅かに逸れたが切られた首から血が吹き出す。
「馬鹿が、前に出るな!」
空中移動しながら亡霊は連続で火炎弾を発射。狙われたハイデマリーを庇ったグスタフを小規模な爆発が連続で襲う。
「また消えた!」
「セイクリッドフラッシュはまだまだあるのじゃ! 何度でも返り討ちにしてくれる!」
シガレットとカナタはソフィアに駆け寄り、出現した敵に魔法攻撃を浴びせようと身構える。
だが遠巻きに現れた霊体は魔法攻撃の射程外。そこからハンターの魔法が空振ったのを確認し、特大の火炎弾を放った。
「……それはよくないと思うのじゃ」
「やべェ、まとめて薙ぎ払われる!」
「構えろシガレット! 女どもは伏せてろ!」
味方を守ろうと盾を構えたシガレットの側へ駆けつけたグスタフが盾を地面に突き刺すようにして構える。
二人が守りを固めた所へソフィアが障壁を張った直後、巨大な火炎弾が爆発した。
「くっ、向こうの皆が……っ」
周囲を明るく照らし上げ余りある火炎の渦に大型スケルトンと交戦していた三人も目を奪われた。
こちらのスケルトンは確かに攻撃力は高いが、動きに繊細さは全く無い。故にこの少人数でも相手をできるが……。
『ほお……。テオフィルスめ、よほど気に入った人間がいると見える』
その時だ。半壊したスケルトンが突然声を上げたのは。
『あれは仕事熱心でな。戦いに遊びを入れられぬのだよ』
スケルトンは鎌を杖のように片手で突き、三人を順繰りに見つめる。
「あらあら……お喋り出来たのですわね?」
「なんなんだ、こいつもあいつも……」
ロジーとヴォルフガングの反応にスケルトンは低く笑い。
『オルクスに聞いた通り、ヒトの世も少しばかり変わったようじゃ。尤も、おぬしら光の加護を得し者が厄介である事に変わりはないがの』
楽しそうに骨は語り、そして改めて構える。
『どれ。もう一度その力を見せてはくれぬか?』
繰り出された鎌の懐へ飛び込み、ロジーは得を刃で強烈に打ち上げた。
そこへレイスとヴォルフガングが全力の一撃を打ち込むと、再び骨の足が崩れ膝を着く。
『成程、成程……。ううむ、やはり戦いは苦手だ。テオ……テオフィルス』
スケルトンの呼び声に応じ、ふっと亡霊が姿を見せる。そこへ鎌を投げ渡すと、スケルトンの体は一瞬で砕け、塵と変わった。
『わし負けちゃった。すまんの。では……いずれまた彼岸で……な』
亡霊は三人を一瞥し、空へ舞い上がる。何かを言いたげなその視線が言葉に変わる事はなく、怪物は姿を消した。
「……で、何だったのですか、アレは」
残っていたスケルトンを片付けるのにはそう手間取らなかった。タングラムと帝国兵で十分に対応できていたからだ。
こうしてキャンプに平和が戻ったが、あの大量のスケルトンの中に亡霊の核がいたかどうかはわからずじまいである。
「なんとか無事だったから良いものの、もうくたくたですよ……」
首に包帯を巻いたソフィアががっくりと肩を落とす。
ハンター達の幸いにも重傷は負っていなかった。自前の回復力とシガレットのヒールでとりあえず健康だ。
「グスタフ、奴の事は思い出せないのか?」
「おまえも元ご同業なんだろ?」
「そう言われてもな……。というか貴殿は知らんのか?」
「俺は知らん」
キッパリと答えながら煙草に火を点けるヴォルフガング。レイスは肩を竦める。
「そういえば、テオ……テオフィルスとか言ってましたけれども」
ロジーの言葉を聞き、タングラムが首を傾げる。
「んっ? それすごく昔に聞いたような……」
「……テオフィルス。いなくなった十三魔にそんな奴がいたかもしれん」
「オイオイ、マジで十三魔だったらこんな人数でやりあうんじゃワリに合わねェぞ」
冷や汗を流すシガレット。だが逆に、その言葉であの得体の知れない強さに納得できてしまう。
「なんだか色々と奇妙な奴じゃったのう」
狙いを看破された後の対応もそうだが、魔法の有効射程を知っていたとしか思えない回避行動など、キナ臭い所は多い。
グスタフが作ったボルシチを口に運びながらカナタは溜息を零す。
「ところでグスタフどんは剣魔の事は何か知らんかの?」
「剣魔は俺が軍を抜けてから話題になった個体だ。俺が軍属だった頃には聞かなかった奴だからな」
「軍を抜けたのは?」
「革命の時だ。つまり、革命戦争後に現れた歪虚だということくらいしか知らんな」
それはそれで手がかりかもしれない。
「しかし、自分で言うのもアレだけどほぼまったく割って入れなかったわ」
「……まあ、無駄撃ちをするよりはいいんじゃないか?」
肩身が狭そうなハイデマリーに微妙なフォローを入れつつ、レイスは思案する。
「オルクスから聞いた……か」
後方のキャンプ地に現れた理由も、その攻撃の目的もよくわからなかった。
ただ一つわかる事は、これから向かう北狄の地で、あの厄介な亡霊ともう一度戦う事になりそうだ、という事だけだ。
グスタフが作ったボルシチを食べながら焚き火にあたり、悪い夢のような夜はゆっくりと明けていく……。
「まあ! いきなり派手にやってますわね」
「霊体と鎌とは、わかりやすい亡霊型歪虚じゃな」
光に照らされロジー・ビィ(ka0296)が両手を合わせる。カナタ・ハテナ(ka2130)の言うように、敵は露骨な死神だ。
「グロル・リッターとは毛色が違うようだが……暗殺者らしさを感じるなァ」
「気をつけるですよ! こいつ、結構強いです!」
タングラムが叫んだ直後、再び火炎がハンター達を襲う。その炎を突き抜けるようにして距離を詰めた敵が鎌を振り下ろした。
「チッ、こいつ……フラフラしている割になんて膂力だ。グスタフ、ハイデマリーから離れるなよ!」
薙ぎ払いを盾受けしたシガレット=ウナギパイ(ka2884)の体が衝撃で背後へ滑る。足場が雪とは言え、構えて尚轍が出来る程だ。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は側面からデルタレイを放つ。
放たれた光は鎌と霊体をそれぞれ狙うが、霊体は姿を消し、鎌は回転し光を弾いた。
「ぬ? デルタレイでダブルターゲットじゃと?」
首を傾げるカナタ。一方、姿を消した霊体はソフィアの頭上に出現。炎を纏って飛びかかる。
その炎が炸裂する直前、ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)がソフィアを抱きかかえるようにして跳んだ。
カナタは攻撃を空振りさせた霊体へ駆け寄り、光を帯びた盾で殴りつける。
相手は霊体だが魔法攻撃なら効果がある。問題なく打撃としての衝撃が発生し、亡霊は僅かに後退する。
「そういえば霊体のみの敵と戦うのは初めてだな。鉱山の時のアレはまた別だし。……この先にはこんな敵が多くいると言う訳か。魔境の名は伊達じゃないな」
レイス(ka1541)は槍を逆手に構え投擲。マテリアルを帯びた一撃は霊体を貫通するが、素通りしただけでダメージは確認できない。
しかし槍は急カーブし、そのまま残っていた鎌に命中し弾くと、その隙にロジーが鎌へと斬りかかる。
霊体は片手を翳し鎌を引き寄せると、ふわりと浮かび上がりハンター達を眺めた。
「速い……重力の影響を受けていませんわね」
「ん~、なんなんだこいつァ? グロル・リッターの時よりやばそうな気配はするが……」
銃で肩を叩きながら首を傾げるシガレット。確かにこの気配は高位歪虚のものだ。
それと知る者であれば、同系である暴食の中でもかなり強力であると肌で感じられるだろう。
「……ったく! だから! わたしは! 職人として来てるんだっつーの!」
「確かに、何故こんな後方のキャンプを攻撃するのかわからんが……」
足元の雪を蹴飛ばし唇を尖らせるソフィア。グスタフは不思議そうに首を傾げる。
「何やらよくわからぬが、一つ試してみるかの」
そう言ってカナタは亡霊の持つ鎌へ魔法をかけた。
但し、それは攻撃魔法ではない。武器を対象とする強化魔法であるホーリーセイバーである。しかしその効果は発動されなかった。
「決まりじゃな。デルタレイで鎌と武器をそれぞれタゲった事といい、奴らは二体の歪虚であるというのは間違いない!」
デルタレイは同一存在に同時攻撃できない。強化魔法が発生しないということは武器自体が魔法抵抗をしているという事。
その結論を指差し突きつけると、亡霊の姿が僅かに揺れた。まるで驚いているようだ。
シガレットは銃弾で霊体を攻撃するが、弾丸は素通りするだけで霊体は防ぐ素振りもみせない。
「さっきから物理攻撃は無視だ。って事は、奴には核がないのかねェ?」
「鎌そのものは実体ですわよね?」
「ああ、間違いない。鎌へは物理干渉が可能だ。実体と霊体、それぞれが別の歪虚という事になる」
首を撚るロジーにレイスは頷く。冷静に分析を進めるハンター達にグスタフは驚いた様子だ。
「ほう……ただ力を振り回すだけの連中とは一味違うようだな」
「しかしこの場に核が見当たらないとなると、あっちの骸骨の中に紛れているとか、剣魔と同じような特殊タイプという事になるのう」
「だったらあっちは私が片付けて来るですよ。殴って倒れる相手なら任せるです」
そんなタングラムへロジーはくるりと向き合い。
「タングラム……勝負下着に気をつけて!」
「どういう事なの?」
「今日はこんな大事な任務中ですもの、わかっていますわ!」
「何にもわかってねぇぇぇ……うらぁ骨共がくたばるですよ!!」
「おー。強い強い……」
ものすごい勢いで敵集団に突っ込んでいったタングラムを見送るソフィア。
改めてハンター達が亡霊へ向き合うと、新しい動きがあった。
亡霊はローブのような外套を両手で掴み、左右へ広げる。そこにはただ異質な闇が広がり、肉も空洞も存在しなかった。
そこから突如、二本の腕が飛び出したのだ。それはずるりと這い出すと、鎌を掴んで上体を擡げる。
「……何だァ?」
「歪虚の中から別の歪虚だと……?」
身構えるシガレットとヴォルフガング。新たに出現したのはサイズ2の大柄のスケルトンで、頭部だけが山羊のような形状をしている。
そして霊体は自らの体の内側に手を突っ込み、新たに細身の剣を二つ取り出した。
「あの~、グスタフさん?」
「俺もあんな奴は初めてだ。基本能力ではない……奴の固有能力か?」
ソフィアの視線にグスタフは首を横に振る。
霊体はその場でくるりと舞うようにして二刀を構えると、一直線にカナタへ突っ込んでくる。
「ぬわっ!?」
盾を構えるカナタだが、刃を振り下ろしている途中で剣だけ残し霊体が消え、すぐに背後に出現。
掌に集めた火炎を放つ瞬間、ソフィアが防御障壁を展開。貫通した爆発がカナタを吹き飛ばした。
「……そっちの小娘を守れ!」
「野郎……明らかに考えてやがる!」
グスタフに言われるまでもなくシガレットは走り出す。
鎌と霊体、別々で現れたのは“どちらかに核がある同一体”と見せるブラフだった。
それが見破られたので不意打ちを諦め別の能力、戦闘法に切り替えたのだ。
無口な亡霊は狡猾に、次の問題を投げかける――。
大型のスケルトンはのしのしと駆け寄り、鎌を振るう。
その力はかなりの物で、雪に深く覆われた大地を一撃でめくれ上がらせる程だ。
飛散する雪を横目に、攻撃を回避したレイスは冷や汗を流す。
「ただのスケルトンではないな……だが、相手が物理存在ならば!」
空中で体を捻り、槍を投擲するレイス。攻撃は頭部に直撃。額が砕けたが怯む様子はない。
ロジーは大地を蹴り、マテリアルを爆発させるように加速。勢いを載せた剣を足に打ち込むと、骨が折れて巨体が倒れこんだ。
「攻撃の効かない霊体相手よりはこっちの方が気楽ですわね……あら?」
倒れたスケルトンの体が浮かび上がり、破損した部位を別の骨と入れ替えて再起動する。
左腕の骨を足に継ぎ、余ったパーツで右腕を肥大化させると、更にパワーの増した一撃で周囲を薙ぎ払った。
「相変わらず出鱈目だな……! とはいえ、そういうものだと分かってしまえば!」
スケルトン自体はさほど頑丈には思えない。だが、攻撃しても形が変わっていくだけで、手応えが極端に薄い。
「……おい、あっちもヤバそうだぞ」
亡霊との戦いに参加していたヴォルフガングだが、スケルトン側が劣勢と見て踵を返す。
「どうせ霊体に攻撃は効かないんだ。シガレット、俺はあっちに加勢する」
「あァ。こっちは魔法攻撃組でなんとかすらァ」
仲間に背中を押され走り出したヴォルフガングが振動刀を手に突撃する。
「さて……こいつはどうやって倒せばいいんだ?」
攻撃を防ぐ素振りも見せないとなると、狙いがわからない。
体ごと回転するような敵の一撃は大ぶりで、よく見れば避けたり防ぐのは難しくないが、当たれば即退場もあり得る。
「もう……さっきから泥が飛んで汚れてしまいますわ」
溜息を零すロジーを横目にヴォルフガングは構え直す。
一方、亡霊側では敵の圧倒的な連続攻撃を凌ぐのに必死だった。
「クソッ、いちいち死角に入りやがって……鬱陶しすぎるぜェ!」
「音も気配もない相手だ、気をつけろよ」
「グスタフさん遠くないですか!?」
グスタフのわかりきったアドバイスにげんなりするソフィア。だがグスタフが側に居ないとハイデマリーはすぐ殺されてしまうだろう。
暗殺染みた攻撃を防ぐ為に背中合わせに構えた三人だが、その真上に出現した亡霊は両手の間に巨大な火炎を生み出し、それを隕石のように落下させる。
「……上です上! 各自散開!!」
ソフィアの声で三人同時に飛ぶが、別々の方向へ逃げると……。
「やはりこっちに来るか!?」
爆発の炎に照らされ、瞬時に移動した亡霊がカナタへ腕を伸ばす。
明らかにカナタが狙われているが、狙われるとわかっていたのでセイクリッドフラッシュを先置きできた。
正直な所どこに出るかはわからなかったが、全方位攻撃故に位置特定は不要だ。
「やっぱ攻撃してくる時は必ず姿を見せる! カウンターだ!」
叫ぶシガレット。ソフィアが放ったデルタレイの光が亡霊を追尾するが、高速で飛行する姿を捉える前に消えてしまう。
シガレットはカナタの側でレクイエムを放つ。やはり側に現れた霊体が影響を受け停止すると、カナタが光を帯びた盾で殴りつけた。
「実体がなくても、亡霊型という負のマテリアルの“場”に正のマテリアルのエネルギーを叩き込めばっ!」
攻撃を受けて怯んだ所へソフィアが雷撃を放つ。動きを鈍らせる効果のある魔法攻撃。その影響を受ける事を嫌ったのだろう。
亡霊の体から新たに骨の腕が三本出現し、それらは折り重なるようにして雷撃を受け止めた。
骨はそれで砕け散ったが霊体に影響はない。ふわりとソフィアの頭上を舞い、すれ違い様に刃を首筋に滑らせる。
その攻撃を止めたのはハイデマリーの機導砲だった。僅かに逸れたが切られた首から血が吹き出す。
「馬鹿が、前に出るな!」
空中移動しながら亡霊は連続で火炎弾を発射。狙われたハイデマリーを庇ったグスタフを小規模な爆発が連続で襲う。
「また消えた!」
「セイクリッドフラッシュはまだまだあるのじゃ! 何度でも返り討ちにしてくれる!」
シガレットとカナタはソフィアに駆け寄り、出現した敵に魔法攻撃を浴びせようと身構える。
だが遠巻きに現れた霊体は魔法攻撃の射程外。そこからハンターの魔法が空振ったのを確認し、特大の火炎弾を放った。
「……それはよくないと思うのじゃ」
「やべェ、まとめて薙ぎ払われる!」
「構えろシガレット! 女どもは伏せてろ!」
味方を守ろうと盾を構えたシガレットの側へ駆けつけたグスタフが盾を地面に突き刺すようにして構える。
二人が守りを固めた所へソフィアが障壁を張った直後、巨大な火炎弾が爆発した。
「くっ、向こうの皆が……っ」
周囲を明るく照らし上げ余りある火炎の渦に大型スケルトンと交戦していた三人も目を奪われた。
こちらのスケルトンは確かに攻撃力は高いが、動きに繊細さは全く無い。故にこの少人数でも相手をできるが……。
『ほお……。テオフィルスめ、よほど気に入った人間がいると見える』
その時だ。半壊したスケルトンが突然声を上げたのは。
『あれは仕事熱心でな。戦いに遊びを入れられぬのだよ』
スケルトンは鎌を杖のように片手で突き、三人を順繰りに見つめる。
「あらあら……お喋り出来たのですわね?」
「なんなんだ、こいつもあいつも……」
ロジーとヴォルフガングの反応にスケルトンは低く笑い。
『オルクスに聞いた通り、ヒトの世も少しばかり変わったようじゃ。尤も、おぬしら光の加護を得し者が厄介である事に変わりはないがの』
楽しそうに骨は語り、そして改めて構える。
『どれ。もう一度その力を見せてはくれぬか?』
繰り出された鎌の懐へ飛び込み、ロジーは得を刃で強烈に打ち上げた。
そこへレイスとヴォルフガングが全力の一撃を打ち込むと、再び骨の足が崩れ膝を着く。
『成程、成程……。ううむ、やはり戦いは苦手だ。テオ……テオフィルス』
スケルトンの呼び声に応じ、ふっと亡霊が姿を見せる。そこへ鎌を投げ渡すと、スケルトンの体は一瞬で砕け、塵と変わった。
『わし負けちゃった。すまんの。では……いずれまた彼岸で……な』
亡霊は三人を一瞥し、空へ舞い上がる。何かを言いたげなその視線が言葉に変わる事はなく、怪物は姿を消した。
「……で、何だったのですか、アレは」
残っていたスケルトンを片付けるのにはそう手間取らなかった。タングラムと帝国兵で十分に対応できていたからだ。
こうしてキャンプに平和が戻ったが、あの大量のスケルトンの中に亡霊の核がいたかどうかはわからずじまいである。
「なんとか無事だったから良いものの、もうくたくたですよ……」
首に包帯を巻いたソフィアががっくりと肩を落とす。
ハンター達の幸いにも重傷は負っていなかった。自前の回復力とシガレットのヒールでとりあえず健康だ。
「グスタフ、奴の事は思い出せないのか?」
「おまえも元ご同業なんだろ?」
「そう言われてもな……。というか貴殿は知らんのか?」
「俺は知らん」
キッパリと答えながら煙草に火を点けるヴォルフガング。レイスは肩を竦める。
「そういえば、テオ……テオフィルスとか言ってましたけれども」
ロジーの言葉を聞き、タングラムが首を傾げる。
「んっ? それすごく昔に聞いたような……」
「……テオフィルス。いなくなった十三魔にそんな奴がいたかもしれん」
「オイオイ、マジで十三魔だったらこんな人数でやりあうんじゃワリに合わねェぞ」
冷や汗を流すシガレット。だが逆に、その言葉であの得体の知れない強さに納得できてしまう。
「なんだか色々と奇妙な奴じゃったのう」
狙いを看破された後の対応もそうだが、魔法の有効射程を知っていたとしか思えない回避行動など、キナ臭い所は多い。
グスタフが作ったボルシチを口に運びながらカナタは溜息を零す。
「ところでグスタフどんは剣魔の事は何か知らんかの?」
「剣魔は俺が軍を抜けてから話題になった個体だ。俺が軍属だった頃には聞かなかった奴だからな」
「軍を抜けたのは?」
「革命の時だ。つまり、革命戦争後に現れた歪虚だということくらいしか知らんな」
それはそれで手がかりかもしれない。
「しかし、自分で言うのもアレだけどほぼまったく割って入れなかったわ」
「……まあ、無駄撃ちをするよりはいいんじゃないか?」
肩身が狭そうなハイデマリーに微妙なフォローを入れつつ、レイスは思案する。
「オルクスから聞いた……か」
後方のキャンプ地に現れた理由も、その攻撃の目的もよくわからなかった。
ただ一つわかる事は、これから向かう北狄の地で、あの厄介な亡霊ともう一度戦う事になりそうだ、という事だけだ。
グスタフが作ったボルシチを食べながら焚き火にあたり、悪い夢のような夜はゆっくりと明けていく……。
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亡霊倒すよっ ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/09/30 22:14:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/27 01:07:23 |
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最終発言 2015/09/26 00:12:45 |